平成14年12月10日判決言渡平成11年(行ウ)第53号裁決取消等請求事件判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 1 原告の申立て(請求の趣旨)(1) 被告千葉県市町村公平委員会が平成11年5月12日した不利益処分審査請求事件((2)の処分に関するもの)の裁決を取り消す。 (2) 被告長生郡市広域市町村圏組合管理者が平成9年4月1日した原告の任命(転任)処分を取り消す。 (3) 訴訟費用は被告らの負担とする。 との判決を求めた。 2 事案の概要原告は,長生郡市広域市町村圏組合(以下「組合」という。)の技術吏員であったが,事務吏員に任命(転任)された。本件は,原告がこの任命処分及びその審査請求についての裁決(転任処分承認)の取消しを求める事案である。なお,立証は,記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。 (1) 争いのない事実等原告は,昭和51年11月1日,旧長生病院組合の栄養士として採用され,以来,昭和58年4月から昭和61年3月までの事務部医事課勤務の事務吏員の期間を除いて公立長生病院の栄養士として勤務していた。そして,昭和63年4月,旧長生病院組合が解散してその事務が組合に承継されたことに伴い,原告は,組合技術吏員(公立長生病院診療部栄養科主任)に任命された。なお,旧長生病院組合と組合は,地方自治法上の一部事務組合として,公立長生病院(以下「長生病院」という。)を設置している。 ところが,被告組合管理者(以下「被告管理者」という。)は,平成9年 た。なお,旧長生病院組合と組合は,地方自治法上の一部事務組合として,公立長生病院(以下「長生病院」という。)を設置している。 ところが,被告組合管理者(以下「被告管理者」という。)は,平成9年4月1日,原告を事務吏員(総務課主査)に命ずるとの処分(以下「本件処分」という。)をした。 そこで,原告は,同年5月27日,被告千葉県市町村公平委員会(以下「被告委員会」という。)に審査請求をしたが,同被告は,平成11年5月12日,本件処分を承認する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。原告は,同年7月21日,組合と被告委員会を相手どって本訴を提起したが,その後,被告を組合から被告管理者に変更することを許す決定がされたため,行政事件訴訟法15条3項に則り,本訴提起の当初から本件処分及び本件裁決の取消しを求める訴訟を提起したものとみなされることになる。 (当事者間に争いがない事実か,記録ないし証拠〔甲第27号証,乙ハ第1,号証〕及び弁論の全趣旨によって認める。)(2) 争点ア原告の主張(ア) 本件処分については,次のとおりの違法事由があり,取消しを免れない。 まず,原告は,病院の管理栄養士という,その栄養指導が診療報酬とされるような高度の国家資格をもつ者であり,現にその業務に従事していた者であるが,本件処分のように,この職から国家資格を要しない職に転任させるには,合理的な理由と本人の同意を要するというべきである。しかし,本件処分に際しては,原告の同意がなされてはいない。これは,専門性を否定し,将来の減収を招く不利益処分であるうえ,従来の労使慣行にも反するものであるから,本件処分は取消しを免れない。 次に,本件処分は,長生病院の給食を民間委託することを前提に,栄養士の余剰人員1人が出た の減収を招く不利益処分であるうえ,従来の労使慣行にも反するものであるから,本件処分は取消しを免れない。 次に,本件処分は,長生病院の給食を民間委託することを前提に,栄養士の余剰人員1人が出たとして,原告を転任させるというものである。しかしながら,長生病院の給食を民間委託する必要性はないうえ,民間委託そのものが職業安定法44条,同法施行規則4条2号,4号にも違反するから,これを前提とする本件処分は取消しを免れない。仮に,民間委託とした措置が有効であるとしても,長生病院ではその業務のため栄養士が3人は必要であって余剰人員は生じないので,本件処分には合理性がない。 しかも,原告は,栄養士の事実上のトップとして職務に精励し,実績を上げてきたので,原告を異動対象として選定することにも合理性がない。問題があるとすれば,原告を殊更敵視してきた病院院長の姿勢こそが問われるべきである。 なお,被告管理者は,審査請求手続において,本件処分が分限処分であると主張しているのであるから,本訴においてこれと異なる主張をすることは,信義則上許されるべきではない。 (イ) 本件裁決には,本件処分を不利益処分としたのに明らかな理由を付しないままその承認をしている点,職業安定法等違反の主張に対する判断中において誤った前提に立っている点,長生病院の給食を民間委託すべき必要性について判断を回避したに等しい点,原告を異動対象とすることの合理性について納得できるような理由を付していない点において,判断遺脱という裁決固有の瑕疵がある。 また,本件裁決には,被告管理者側が本件処分が分限処分であるかのごとき主張立証をしているのに,これを転任処分として判断した点において,釈明義務違反ないし審理不尽という裁決固有の瑕疵もある。 イ被告委員会の主張原告は 本件処分が分限処分であるかのごとき主張立証をしているのに,これを転任処分として判断した点において,釈明義務違反ないし審理不尽という裁決固有の瑕疵もある。 イ被告委員会の主張原告は,本件裁決には裁決固有の瑕疵があると主張する。 しかしながら,原告主張のうち判断遺脱をいう部分(ア(イ)の前段)は,いずれも本件処分の基礎となった認定判断を論難するものであるが,これは,被告委員会の実体的判断そのものに対する論難に帰着するから,行政事件訴訟法10条2項に照らし,これを取消事由として主張することは許されない。また,原告主張のうち釈明義務違反ないし審理不尽をいう部分(同後段)は,被告管理者が審理手続中で本件処分を分限処分であると主張したことはないから,前提を欠く主張であって失当である。 ウ被告管理者の主張原告は,本件処分には取り消すべき違法事由があると主張する。 しかしながら,本件処分のように技術吏員(国家資格たる管理栄養士の業務に従事している者)を事務吏員に転任させ,転任後は国家資格を業務に活かせなくなる場合についても,転任に本人の同意を要するものではない。 本件処分は,長生病院の給食を民間委託したため栄養士の余剰人員が1人生ずることを前提になされたもので,合理性がある。すなわち,被告管理者ないし組合は,長生病院の人件費の節減,直営調理員の人事管理問題の解消,専門業者への委託による効率化等を考慮して,長生病院の給食を民間委託とすることとした。これが職業安定法48条等に反するような事情はない。そして,これにより診療部栄養科が廃止され,それまでの栄養士3人分の業務にも1人分の余剰が生じた。そこで,栄養士の事実上のトップであった原告の人事管理能力や資質を考慮したほか,原告が以前事務職を経験していたことなどから, 栄養科が廃止され,それまでの栄養士3人分の業務にも1人分の余剰が生じた。そこで,栄養士の事実上のトップであった原告の人事管理能力や資質を考慮したほか,原告が以前事務職を経験していたことなどから,原告を異動対象者に選定したものである。 なお,被告管理者が本件処分について分限処分にあたると主張したことはない。 3 当裁判所の判断(1) 本件裁決について原告は,本件裁決には固有の瑕疵があると主張する(2(2)ア(イ))。 そこで,証拠(甲第27号証)に照らし原告の主張するところをみると,そのうち判断遺脱をいう部分(前段)は,要するに本件処分の基礎とされる認定判断を維持した本件裁決の理由説示に不備ないし不当な点があるというものであるということができるが,これは,本件処分の実体面における適否という問題に帰着し,この点の違法を理由に本件裁決の取消しを求めることは,原処分たる本件処分の違法を理由に裁決の取消しを求める結果となるから,本件においては,行政事件訴訟法10条2項に照らし,これを取消事由として主張することはできない。のみならず,(2)で説示するとおり,本件は,本件処分についての取消しを求める請求を棄却するべき場合にあたるから,最高裁昭和36(オ)第4093号昭和37年12月26日第三小法廷判決(民集16巻12号2557頁)の判示に従い,上記については棄却を免れない。 また,原告の主張のうち釈明義務違反ないし審理不尽をいう部分(後段)については,本件全証拠によっても,被告管理者が審査請求で本件処分が分限処分そのものであると主張したと窺うことはできないから,原告の主張は,その前提を欠く。 以上によると,本訴のうち本件裁決の取消しを求める部分は理由がない。 (2) 本件処分についてア 2(1)で説示したとおり,原告 たと窺うことはできないから,原告の主張は,その前提を欠く。 以上によると,本訴のうち本件裁決の取消しを求める部分は理由がない。 (2) 本件処分についてア 2(1)で説示したとおり,原告は,本件処分前において組合の設置する長生病院に勤務する地方公務員(技術吏員・管理栄養士)であったから,その基本的な法律関係は,地方公務員法の規定によるべきところ,本件においては原告に地方公営企業法又は地方公営企業労働関係法の適用の余地を認めるべき根拠を見出だすことはできない。 ところで,地方公務員法17条1項は,任命の方法を採用,昇任,降任,転任の4種と定めているが,転任一般について職員の同意を要するなどの処分要件を定める規定はないし,本件の転任について教育公務員特例法5条1項のように任命権者の権限の制約を定めた法条もみあたらない。このことは,地方公務員法上は,職員の意思にかかわらず,任命権者の自由な判断により職員を適材適所に配置する処分ができることを可能にし,能率的な行政の確保を図っているものということができ,転任処分は,任命権者の自由裁量に属するものということができる(なお,本件においては,組合では技術吏員,事務吏員のような職種ごとに任用資格が別に定められていることを窺うべき資料もないから,これを前提として本件処分に制約があるということはできない。また,原告は,労使慣行違反の主張をするが,上記説示に照らせば,そのことが任命権者の転任処分の制限となり得る筋合いのものではないことが明らかである。)。 ちなみに,被告管理者が審査請求手続において,本件処分が分限処分の趣旨であると主張したと認めるに足りないことは,(1)で判示したとおりであるから,このことを前提として被告管理者の本訴中での主張が制限されるとする原告主張を採用することはでき ,本件処分が分限処分の趣旨であると主張したと認めるに足りないことは,(1)で判示したとおりであるから,このことを前提として被告管理者の本訴中での主張が制限されるとする原告主張を採用することはできない。 イところで,アで説示したことに照らせば,地方公務員法は,転任処分それじたいをもって当然には職員に不利益を課する処分とみていないことが明らかである。したがって,原告が本件処分の取消しを求め得るには,本件処分によって原告に具体的な不利益が生じたことを要するというべきである(最高裁昭和55年(行ツ)第78号昭和61年10月23日第一小法廷判決・裁判集民事149号59頁参照)。 そこで検討すると,前示事実に証拠(甲第1号証,第4号証,第13号証,乙ハ第2,3号証)を併せると,本件処分の前後において,① 原告が技術吏員(病院診療部栄養科主任・管理栄養士業務,本俸・技術医療職給料表(二)3級19号〔37万3600円〕)から事務吏員(病院総務課主査,本俸・一般職給料表4級18号〔37万5200円〕)となり,当初の本俸は漸増することがあるものの,その後,適用される給料表が異なることなどから,相当額の減収のある時期もあること,②原告が従来の職務上支給を期待し得た相当額の手当類の支給について,以後は期待できなくなることが認められ,弁論の全趣旨によれば本件処分が行政組織上の上下関係の異動ではないと窺える本件においても,本件処分は転任に伴って通常生ずることがあるべき不利益を越える程度の不利益を生じたものとみることができる。これによると,本訴請求のうち本件処分の取消しを求める部分については,訴えの利益があるというべきである。 なお,原告は,不利益処分を正当とすべき事由については被告管理者に主張立証責任があるとも主張しているが,本件処分が不利益 件処分の取消しを求める部分については,訴えの利益があるというべきである。 なお,原告は,不利益処分を正当とすべき事由については被告管理者に主張立証責任があるとも主張しているが,本件処分が不利益処分にあたるかどうかの点は,上記のように,その取消しを求め得る訴えの利益が原告に存するかという次元の問題であり,本件処分についての主張立証責任の所在は,これとは別個の問題,すなわち,本件処分の処分要件を法律に従ってどう解釈するかという問題である。この点は,ウにおいて説示する。 ウ本件処分の処分要件について検討すると,本件処分(転任)が任命権者の自由裁量に属するものであることは,アで説示したとおりである。したがって,これについての任命権者の判断に誤りがある場合でも,それは,単に当不当の問題が生ずるに過ぎず,違法の問題を生ずることがないのが原則ではある。もっとも,転任処分が任命権者の裁量権の行使としてされたとしても,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が全く事実の基礎を欠くと認められる場合,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであると認められる場合に限っては,その判断が裁量権の逸脱ないし濫用があるとして違法の評価を受ける余地があり,本件に即していえば,本件処分が公務上の必要性が存しないとき,他の不当な目的・動機に基づいてなされたとき,職員に対し通常甘受すべき程度を著しく越えた不利益を負わせるときなどの特段の事情が認められるときに限り,裁量権の逸脱ないし濫用があるというべきである。そして,行政事件訴訟法30条の規定にも照らせば,この特段の事情は,原告が主張立証責任を負うこととなる(最高裁昭和50年(行ツ)第120号昭和53年10月4日大法廷判決・民 があるというべきである。そして,行政事件訴訟法30条の規定にも照らせば,この特段の事情は,原告が主張立証責任を負うこととなる(最高裁昭和50年(行ツ)第120号昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。 エそこで,以下,本件において上記特段の事情が認められるかどうかを判断する。 (ア) 本件においては,被告管理者が病院の給食の方式を外部委託に改めることじたいが明らかに合理性を欠くとされることはない。 原告は,被告管理者提出の乙ハ第10号証の試算は杜撰であり,組合は職員組合との交渉過程において説得力ある資料の提出をすることもなかったなどと主張する。 しかしながら,給食の方式を決定するにあたっての予想値は,事柄の性質上,将来の不確実な予想値を前提とするほかはないものであり,上記乙ハ第10号証の数値についても,その作成時(平成9年9月)が本件処分の後のものであってみれば,これを前提に予想値の適否を検証するのは相当ではない。本件においては,被告管理者が本件処分前に病院の給食を外部委託した場合の是非について根拠ある試算をして委託を決定したことの的確な資料は提出されてはいないが,本件処分について裁量を越え又はこれを濫用した違法があるかどうかを審査すべき本件においては,上記試算の資料が不足していることが本件処分の違法に直結する筋合いのものでないことは多言を要しない。 そして,本件においては,長生病院の給食について組合が外部委託を採用した目的について被告管理者が主張するところ(長生病院の人件費の節減,直営調理員の人事管理問題の解消,業務効率化)には格別不可解な点はなく(乙ハ第6号証,第11号証,第23号証ないし第29号証は,このことを補強するものである。),原告を従来の職場から排除する目的で給食の外部委託方 事管理問題の解消,業務効率化)には格別不可解な点はなく(乙ハ第6号証,第11号証,第23号証ないし第29号証は,このことを補強するものである。),原告を従来の職場から排除する目的で給食の外部委託方式が樹立されたなどと認めるに足りる証拠もない。なお,職業安定法等違反をいう原告主張については,これを採用することができない。(イ) 次に,被告管理者主張の余剰人員についての判断とこれに該当する者として原告を選定したとする判断の過程に関する事実は,証拠(乙ハ第35号証,証人星和好の証言)及び弁論の全趣旨によって認めることができ,これを左右するに足りる的確な証拠はない。 これによると,本件処分について公務上の必要性を欠くものということはできない。なお,これに反する原告の所論のうち,経営判断の是非を本件処分の違法性判断と直結するべきであるとする部分が失当であって採用することはできないことは,上記説示のとおりである。 (ウ)また,本件において被告管理者が他の不当な目的・動機をもって本件処分に及んだと認めるに足りる証拠はない。原告本人の供述ないし原告作成の陳述書(甲第15号証,第29号証)の記載中には,病院の院長が原告を嫌悪していたとする部分があるが,この部分をもって本件処分が不当な目的・動機によってなされたとの心証を惹くこともできない。 もっとも,原告が旧長生病院組合に採用されてから本件処分までの20年余のうち3年間を除いて栄養士として長生病院に勤務しており,本件処分まで管理栄養士の資格を有しその業務に誇りをもって職務を遂行していたことは,前示のところからも明らかであり,したがって,本件処分が原告の専門性についての自覚ないし自負に及ぼした影響は少なくないと推認されるうえ,弁論の全趣旨によれば,本件処分前の内示に至る していたことは,前示のところからも明らかであり,したがって,本件処分が原告の専門性についての自覚ないし自負に及ぼした影響は少なくないと推認されるうえ,弁論の全趣旨によれば,本件処分前の内示に至る手順が従来からの労使慣行に比して早急なものであって原告側に唐突な感を与えたことが認められ,労務管理上問題なしとすることはできない。しかしながら,上記説示のとおり,本件の判断においては,これらの労務管理上の当否を論ずることが課題となるものではなく,そのことがウで示した基準に従って違法と評価するべきかという観点から検討をするべきものであり,この点,(ア),(イ)の認定判断と対比すると,上記の問題点のあることをもって,アで説示したような被告管理者の裁量権の行使を制限・凌駕する原告の不利益があると評価する事情ということはできず,社会通念に照らし著しく合理性を欠くということはできない。したがって,このことを理由として本件処分が違法であるとすることもできない。 オ以上によると,本訴のうち本件処分の取消しを求める部分も理由がない。 (3) 結論よって,原告の各請求は,理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第三部裁判長裁判官園部秀穗裁判官今泉秀和裁判官向井邦生 裁判官 向井邦生
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