平成23(う)165 保護責任者遺棄致死被告事件

裁判年月日・裁判所
平成24年4月10日 広島高等裁判所 破棄差戻 広島地方裁判所 平成22(わ)111
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判決文本文25,782 文字)

- 1 -平成24年4月10日宣告広島高等裁判所判決平成23年(う)第165号保護責任者遺棄致死原審:広島地方裁判所(平成22年(わ)第111号) 主文 被告人両名に対する原判決を破棄する。 本件を広島地方裁判所に差し戻す。 理由 本件各控訴の趣意は,被告人Aについては,弁護人青谷智晃作成の控訴趣意書(ただし,第6を除く。)に,被告人Bについては,弁護人大本和則作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官渡邉清作成の各答弁書,「答弁書(補充)」と題する各書面及び被告人Bに関する答弁書訂正書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 第1 被告人両名の控訴趣意中,理由不備ないし理由齟齬の主張について被告人Aの論旨は,原判決において,被害者が,平成21年8月5日ころには,極度に衰弱し,歩行するなどの身動きも1人では不自由な状態にあったとする部分,統合失調症の診断を受けるほどの精神状態や,平素から被告人両名による虐待等を受けていたことにより,被告人両名に逆らえない状態になっていたことなどから,自ら進んで必要な医療措置を受けるなどの行動に出ることを期待するのが困難な状態であったとする部分,被告人両名は,遅くとも,平成21年6月下旬ころから日常的に被害者に虐待を加えていたとする部分,被害者の上記各状態を認めたのであるから,被害者の生存を確保するため,医師の診察等の医療措置を受けさせるなどの保護を加えるべき責任があったとす - 2 -る部分,被害者に対する虐待の事実の発覚を避けたいとの気持ちもあったとする部分,共謀の上,被害者の生存に必要な保護を加えなかったとする部分は,いずれも証拠上認定できないものであり,理由不備の違法がある,というのであ する虐待の事実の発覚を避けたいとの気持ちもあったとする部分,共謀の上,被害者の生存に必要な保護を加えなかったとする部分は,いずれも証拠上認定できないものであり,理由不備の違法がある,というのであり,被告人Bの論旨は,原判決において,被害者が,被告人両名に逆らえない状態になっていたとする部分,被告人両名は,被害者に対する虐待の事実の発覚を避けたいとの気持ちがあったとする部分は,いずれも全くその理由が示されておらず,理由不備の違法があり,また,原判決は,罪となるべき事実では,被告人両名が,平成21年8月5日ころかそれ以前に共謀したとしていると思われるが,「争点に対する判断」の項では,同月14日,同月15日に被害者を昼間1人で自宅に残して出掛けたことを捉え,意思を互いに通じ合ったこと,すなわち,共謀の事実を認定しており,理由に食い違いがあることが明らかであり,理由齟齬の違法がある,というのである。 しかし,刑訴法378条4号の「判決に理由を附せず」とは,同法44条1項,335条1項によって要求される判決の理由の全部又は重要な部分を欠くことをいうのであり,被告人両名の論旨のいうところは,要するに,原判決の上記各認定を論難するものであり,事実誤認の主張としての当否はともかくとして,これらが理由不備に当たるとはいえず,原判決に理由不備の違法があるとはいえない。また,刑訴法378条4号の「理由にくいちがいがある」とは,主文と理由との間又は理由相互の間に食い違いがあることをいい,かつ,その食い違いが,理由を付さない場合と同程度の重大な場合をいうと解されるところ,被告人Bの論旨のいうところは,結局,原判決における共謀の認定を論難するものに過ぎず,これが理由齟齬に当たらず,原判決に理由齟齬の違法があ - 3 -るとはいえない。 論旨は ところ,被告人Bの論旨のいうところは,結局,原判決における共謀の認定を論難するものに過ぎず,これが理由齟齬に当たらず,原判決に理由齟齬の違法があ - 3 -るとはいえない。 論旨はいずれも採用できない。 第2 被告人両名の控訴趣意中,事実誤認の主張について被告人両名の論旨は,平成21年8月5日ころから同月16日午後7時ころまでの間,被害者は,極度に衰弱した状態にはなく,保護責任者遺棄罪の客体である病者に当たらず,被告人両名に逆らえない状態になっていたなどということもなく,また,被告人両名において,被害者が衰弱しており,直ちに医療措置を受けさせなければ被害者の生命身体に危険が生じるということを認識しておらず,遺棄の故意がなく,共謀もあり得ず,被害者に対して,日常的に虐待を加えていたという事実もなく,被害者に対する虐待の事実の発覚を避けたいとの気持ちもなく,さらに,被害者の生存に必要な保護を加えなかったという事実もないのであり,被告人両名は,いずれも無罪であるにもかかわらず,これらの点をいずれも積極に認定し,原判示の事実を認定し,保護責任者遺棄致死罪の成立を認め,被告人両名をいずれも有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。 そこで,記録を調査し,検討すると,以下に認定,判断を示すとおり,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり,破棄を免れず,原裁判所において,更に審理を尽くす必要がある。 1 本件における訴因変更後の公訴事実は,被告人両名が,平成21年4月ころから,被告人両名方において,被告人Bの妹であり,医師により統合失調症の診断を受けていた当時21歳の被害者を引き取り同居し,平素から被害者に虐待を加えていたところ,同年8月上旬ころには,被害者 ころから,被告人両名方において,被告人Bの妹であり,医師により統合失調症の診断を受けていた当時21歳の被害者を引き取り同居し,平素から被害者に虐待を加えていたところ,同年8月上旬ころには,被害者が極度に衰弱し,身動 - 4 -きも不自由な状態になったのを認めたのであるから,その生存を確保するため,医師の診察等の医療措置を受けさせるなどの保護を加えるべき責任があったにもかかわらず,共謀の上,そのころから同月16日午後7時ころまでの間,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせず,わずかな飲食物を与えるのみで,その生存に必要な保護を加えず,よって,同月20日午前10時27分ころ,C病院において,被害者を外傷性ショックにより死亡させたというものであるところ,原判決は,平成21年4月ころから,被告人Bの妹であり,医師により統合失調症の診断を受けていた被害者を引き取り同居していた被告人両名において,遅くとも同年6月下旬ころから日常的に被害者に虐待を加えており,被害者は,同年8月5日ころには,統合失調症の診断を受けるほどの精神状態や,平素から上記虐待等を受けていたことにより,被告人両名に逆らえない状態になっていたことなどから,自ら進んで必要な医療措置を受けるなどの行動に出ることを期待するのが困難な状態にあり,そのころには,極度に衰弱し,歩行するなどの身動きも1人では不自由な状態にあり,被告人両名は,そのころ,これらの状態を認めたのであるから,被害者の生存を確保するため,医師の診察等の医療措置を受けさせるなどの保護を加えるべき責任があったにもかかわらず,上記虐待の事実の発覚を避けたいとの気持ちもあり,共謀の上,そのころから同月16日午後7時ころまでの間,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせず,わずかな飲食物を提供するのみで,被害者の生存 らず,上記虐待の事実の発覚を避けたいとの気持ちもあり,共謀の上,そのころから同月16日午後7時ころまでの間,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせず,わずかな飲食物を提供するのみで,被害者の生存に必要な保護を加えず,同月20日午前10時27分ころ,C病院において,被害者を外傷による出血及び低栄養に基づく虚血状態に起因するショック並びに敗血症性ショックにより死亡させたと認定し,被告人両名について,保護責任者遺棄致 - 5 -死罪の成立を認めたものである。 2 原判決は,公判前整理手続における争点整理の結果を踏まえ,本件の争点について,①平成21年8月5日ころ,被害者に医療措置を施すことが必要な状態であったか否か,②被害者に医療措置を受けさせるなどの保護を加える責任が被告人両名にあったか否か,③被告人両名が,被害者に上記の保護を加えなかったか否か,④被告人両名が,被害者が上記の保護を必要とする状態であることを分かりながら,互いに必要な保護をしない旨の意思を通じ合っていたか否か,⑤以上の争点が肯定される場合に,被告人両名による不保護と被害者の死との間に因果関係があったか否かであるとした上で,要旨,以下のとおり,認定,判断している。 (1) 争点①について被害者が死に至った経緯として,被害者は,平成21年7月29日ころ,顔に黄疸,顔,手及び腰に浮腫がそれぞれ認められ,被告人Bの手を借りて半歩ずつゆっくり歩く状態であり,この状態を目にした皮膚科の医師が,被害者の全身状態が悪く,内科的治療を要する状態であり,このままだと大変なことになる旨判断したこと,被害者は,同年8月5日ころ,外傷による出血や十分な食事をとっていなかったことなどが原因で,血中の赤血球やヘモグロビン,さらには,総たん白やアルブミン等の数値が,同月16日ほど になる旨判断したこと,被害者は,同年8月5日ころ,外傷による出血や十分な食事をとっていなかったことなどが原因で,血中の赤血球やヘモグロビン,さらには,総たん白やアルブミン等の数値が,同月16日ほど低くはないにしても,通常値より相当低いという虚血で低栄養の状態にあり,外見上は,両目の瞼や唇など顔全体を腫らし,被告人Bの手を借り,あるいは,椅子の背もたれにつかまるなどして,すり足で歩く状態であったこと,被害者は,その後,虚血の状態が更に悪化する中で,身体の末梢組織に十分 - 6 -に酸素が行き渡らないことで体内に毒性物質が生じて,全身に炎症反応を起こすなどし,その過程で同月9日ころには危険な状態に至り,他方で,敗血症を発症し,遅くとも同月14日ころには立ち上がることができなくなったこと,同月16日午後7時57分ころ,心肺停止の状態で病院に救急搬送されて治療を受けたが,同月20日に死亡したことが認定できる。 上記認定の被害者の状態に照らすと,被害者は,遅くとも平成21年8月5日ころには,極度に衰弱し,歩行するなどの身動きも1人では不自由な状態であり,医師の診察等の医療措置を内容とする保護を必要とする状態にあったものと認められ,同日ころ以降の被害者の行動に関する被告人両名の供述は,上記認定に反する限度で信用できない。 (2) 争点②及び③について被告人両名は,被告人Bの実妹である被害者が,重度の統合失調症と診断され,自傷行為等を防ぐ必要から,24時間被害者の面倒を見る必要があることなどを分かった上で,平成21年4月ころ,被害者の実母の依頼により被害者の面倒を見ることを引き受け,自宅に被害者を引き取って同居し,共に生活するようになったこと,上記(1)のとおり,被害者は,被告人両名の目の前で衰弱していったこと,被告人両名は, 母の依頼により被害者の面倒を見ることを引き受け,自宅に被害者を引き取って同居し,共に生活するようになったこと,上記(1)のとおり,被害者は,被告人両名の目の前で衰弱していったこと,被告人両名は,同年6月下旬ころ以降,日常的に,被害者を怒鳴り付けるのみならず,その頭部や顔面を殴ったり,顔や背中等に表皮剥離を生じさせるような暴行を加えたりするなどの虐待行為に及んでいたが,このような虐待行為が,被害者が上記のとおり衰弱した原因の一つであったこと,被害者が,同年2月に重度の統合失調症と診断されるほどの精神状態であったことや,少なくとも同年6月下旬ころ以降,被告人 - 7 -両名から虐待を受けていることなどを始めとする被告人両名との関係から,被害者は,遅くとも同年8月5日ころ以降,自ら進んで必要な医療措置を受けるなどの行動に出ることを期待するのが困難な状態にあり,当時,被害者の健康状態を把握していた者は,被告人両名のほかにはおらず,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせることができたのは,被害者と共に生活し,その状態を把握していた被告人両名だけであり,被告人両名が,当時,被害者に医療措置を受けさせることは容易なことであったことが認定できる。 以上のとおり,被告人両名が被害者の面倒を見ることを引き受けた経緯や,被告人両名の虐待が被害者の衰弱状態の一因となり,被告人両名のほかには被害者の衰弱状態を知る者はおらず,被害者に医療措置を受けさせることのできる者は被告人両名だけであり,それも容易なことであったことを総合すると,被告人両名には,法律上,被害者に医療措置を受けさせるなどの保護を加えるべき責任があったと認められる。そして,被告人両名は,平成21年8月5日ころ以降同月16日午後7時ころまで,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせず 被害者に医療措置を受けさせるなどの保護を加えるべき責任があったと認められる。そして,被告人両名は,平成21年8月5日ころ以降同月16日午後7時ころまで,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせず,わずかな飲食物を提供するのみで,その生存に必要な保護を加えていなかったことは明らかである。 (3) 争点④について被告人両名は,上記(2)の経緯で2人で相談した上,被害者を自宅に引き取り,いずれも自ら被害者を虐待するのみならず,互いに,相手も被害者を虐待していることを把握しており,そうすると,被告人両名は,被害者を病院に連れて行かなくなった平成21年8月初めころには,被害者を病院に連れて行くと,その外傷や衰弱の状態から,自分たちによる虐待の事実が発覚す - 8 -るおそれがあると考えていたことは容易に推認でき,現に,同年7月末ころ以降,被害者が衰弱していく姿を目にしながら,被害者を病院に連れて行くなどせず,被害者が立ち上がることができない状態にまで至った同年8月14日には,宮島の花火大会に,翌日には島根県の水族館等に,いずれもわずかの飲食物をそばに置いて,被害者を1人自宅に残して出掛けるなどしたことを認定又は指摘できる。 以上の事実関係に照らすと,被告人両名は,被害者に医療措置を受けさせるなどの保護を必要とする状態であることを分かりながら,必要な保護をしない旨の意思を互いに通じ合っていたと認められる。 (4) 争点⑤について医師D,大学教授E及び医師Fの各原審公判供述等の関係証拠によれば,被害者が,中華料理店で食事をとり,また,前記のとおり何とか歩くことができていた平成21年8月5日ころ以降同月9日ころまでの間に,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせていれば,被害者の救命はまず確実であったと認められ,さらに ,また,前記のとおり何とか歩くことができていた平成21年8月5日ころ以降同月9日ころまでの間に,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせていれば,被害者の救命はまず確実であったと認められ,さらに,同日ころ以降でも,同月16日午後7時ころの心肺停止前までの間に被害者に医療措置を受けさせていれば,救命が確実とまではいえないにしても,延命は確実であったと認められる。 したがって,平成21年8月5日ころから同月16日午後7時ころまでの被告人両名による不保護と被害者の死との間には因果関係があるものと認められる。 3 しかし,原判決の上記認定,判断には,以下のとおり,論理則,経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ず,あるいは,当審における事実取調べ - 9 -の結果等に照らし,是認できないところがあり,被告人両名において,被害者の生命身体に危険があり,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していたか否かについて,更に審理を尽くす必要があるものといわざるを得ない。 (1)ア Gは,自身が開業しているH皮ふ科クリニックに,被害者が,平成21年7月に被告人Bと一緒に3回来院しており,1回目が同月13日,2回目が同月15日,3回目がそれから2週間ぐらい経った同月29日ころであり,3回目については,被害者の診療録(原審弁44,撤回部分を除く。)に記載がなく,2回目と重複し一緒にして警察や検察庁で話をしたりしていたが,改めて病院のスタッフに聞き,判明した旨供述しており,この供述が不自然,不合理とはいえず,被告人Bも,原審第7回公判において,H皮ふ科クリニックに最後に行ったのがいつかということは明確に記憶していないが,Gが同月末にもう一度診たというのであれば,自身の記憶と矛盾はしないと供述し えず,被告人Bも,原審第7回公判において,H皮ふ科クリニックに最後に行ったのがいつかということは明確に記憶していないが,Gが同月末にもう一度診たというのであれば,自身の記憶と矛盾はしないと供述し,さらに,原審第8回公判においても,同月24日の後,被害者を病院に連れて行ったことがあるのかという質問に対し,Gの記憶だと同月末くらいなので,それぐらいにH皮ふ科クリニックに行ったかもしれないと供述していることからすると,Gの供述は信用できるといえる。 被告人両名の各弁護人は,事実取調べの結果に基づく弁論中で,平成21年7月29日ころ,被害者が被告人Bと共に来院したというGの供述は信用できない旨主張し,被告人Bも,当審公判廷において,被害者と共に,最後にH皮ふ科クリニックに行ったのは,同月15日であり,同月終わり - 10 -ころにH皮ふ科に行ったことはなく,Gが記憶違いをしている,同月15日が最後であるということは記憶している旨供述するが,この供述は,特段の理由を述べることもなく,原審公判廷での供述と明らかに相反する内容を述べるものであり,直ちに信用し難く,所論も採用できない。 イしかし,Gの原審公判供述に照らす限り,Gが目にしたという被害者の状態も含め,原判決のように認定することは困難であるばかりでなく,むしろ,医師であるGから見ても,被害者の外見上,ドライバーで切ったという右耳以外,全身で気になる状態がなかったと判断していたという疑いを排斥することができない。その理由は以下のとおりである。 まず,Gは,平成21年7月13日及び同月15日,被告人Bと共に来院した被害者を診察した際には,ドライバーで切ったという右耳以外,全身で気になる状態は余りなく,余り苦しそうな感じにも見えず,ぼおっとしているという感じだけであり,いず 同月15日,被告人Bと共に来院した被害者を診察した際には,ドライバーで切ったという右耳以外,全身で気になる状態は余りなく,余り苦しそうな感じにも見えず,ぼおっとしているという感じだけであり,いずれの際にも,被告人Bに,被害者を精神科に診せるよう勧めた旨供述しており,この供述は,被害者の診療録(原審弁44,撤回部分を除く。)の同月13日の欄に,「やはり精神科受診すすめた」,同月15日の欄に,「まだ精神科受診していない」との各記載があることとも整合するものであり,特に疑いを差し挟むような事情は見当たらない。 他方,Gは,平成21年7月29日ころに来院した被害者について,被告人Bに寄りかかって,一歩というより半歩ずつ,少しずつ歩くという感じであり,少し貧血っぽい顔をし,顔には黄疸が,また,顔,手及び脇腹の辺りには浮腫がそれぞれ出ており,被害者の状態を見て,全身状態が - 11 -悪化したために,低たん白血症か何かを起こして浮腫になっているというふうに思い,精神的な治療より,肝機能障害の治療等,内科的な全身の治療が必要な状態である,ここで血液検査の結果を待つ時間ももったいないと考え,被告人Bに,すぐさま,いつも通院している精神科,そして眼科を併設しているところ,どこにということは言わなかったが,内科の方に行くように勧めた,精神科と内科がある総合病院だったら間違いないから,うちなんかでのんびりしている時間を取っているよりは,そちらの方がいいということで,その足で行ってもらうように言った,もう皮膚科の治療とか,耳鼻科の治療という段階ではなくて,全身状態が悪いから,内科での治療をしないと大変なことになる,精神科も一緒に診てもらって,治療した方がいいよというふうに言った,被害者は,その日のうちに状態を診てもらって,治療をした方がいいよ て,全身状態が悪いから,内科での治療をしないと大変なことになる,精神科も一緒に診てもらって,治療した方がいいよというふうに言った,被害者は,その日のうちに状態を診てもらって,治療をした方がいいよというふうな状態だった,被害者が,このままのスピードで,このまま悪くなっていったら,大変なことになると思ったと供述している。ところが,Gは,被告人Bに,はっきりその日のうちに診察を受ければいいとは言わなかったかもしれないけれども,被害者を診察,治療させたいと思って,被告人Bが連れてきたわけであるから,今からすぐに行ってくれるものと信じていた,内科的治療について,具体的に時間的な指示はしていないとも供述し,被害者を診たくないから,ほとんど説明をすることもなく,被害者に門前払いを食わせたのではないかという尋問に対しては,そういうふうに見えるかもしれない,全身状態が悪くなることの方が問題なので,精神科的な治療をすれば,あとのことは,精神科であれ眼科であれ,皮膚の傷ぐらいは何とかなるだろうと思っ - 12 -たので,精神科が大事だと思ったと供述し,さらに,同月末,被告人Bに対して,精神状態が悪くなっているから,内科的な治療が必要だというふうに説明した,詳しくは内科の方で,血液データを診て判定すべきものだと思う,精神科を受診して,その状態を診れば,採血も当然されるであろう状態だったので,とりあえず精神科に行って,内科的な治療も一緒に,そこの院内紹介なりでしてもらえばいいというふうに思った,内科的な治療もしつつ,精神科的な治療もしつつという二本立てが必要だと思ったので,いつも行っている精神科の方に行けばいい,そういうふうなところで採血して,評価して,必要であれば内科の治療がされるものだと思ったと供述しており,また,被害者の診療録に,同月における だと思ったので,いつも行っている精神科の方に行けばいい,そういうふうなところで採血して,評価して,必要であれば内科の治療がされるものだと思ったと供述しており,また,被害者の診療録に,同月における3回目の受診に関する記載がないことについて尋問された際には,被害者が待合室に入ってきた様子が余りにもこれまでと違っており,うちで診れるものではないので,受付の手続をとってもらわなかったからである,その後そのまま午後の診察に入ったし,お姉さん(被告人B)がきっと,ちゃんと連れて行ってくれると思っていたので,祈るばかりだったからである,このときは治療費をもらっておらず,治療をしたとは思っていないからであると供述している。 しかし,診察した患者について,その全身状態が悪化しており,低たん白血症等にり患していることを疑い,精神科的な治療より,肝機能障害の治療等,内科的な全身の治療が必要であり,その場で血液検査の結果を待つ時間すらもったいない状況にあり,その日のうちに内科による診察,治療を行った方がよく,このまま悪くなっていったら大変なことになるとい - 13 -う認識を持った皮膚科の医師において,端的にその旨伝え,直ちに内科で受診するよう勧めるということではなく,その患者が通院している精神科を受診し,そこに併設されている内科も受診すればよいと思い,あるいは,その旨伝えたなどというのであれば,それ自体が相当に不自然,不合理なことといわざるを得ず,また,仮に,Gにおいて,上記の認識に基づき,端的に,内科の治療を受けないと大変なことになると告げて,直ちに受診することを勧めたと真実記憶しているというのであれば,その旨供述することに尽きるはずであり,具体的文言はともかく,時間の経過によって,そのこと自体が曖昧になるなどということも通常考え難いことで 受診することを勧めたと真実記憶しているというのであれば,その旨供述することに尽きるはずであり,具体的文言はともかく,時間の経過によって,そのこと自体が曖昧になるなどということも通常考え難いことである。にもかかわらず,上記の認識を持ったというはずのGにおいて,精神科を受診すれば,採血もされるであろうから,とりあえず精神科に行って,内科的な治療も一緒に,そこの院内紹介でしてもらえばいいというふうに思った,いつも行っている精神科の方に行けばよく,必要であれば内科の治療がされるものだと思ったなどという供述をし,また,内科での診察ないし治療を直ちに受けるよう勧めたのかという点についてすら,すぐさま内科の方に行くように勧めた,はっきりその日のうちに診察を受ければいいとは言わなかったかもしれないけれども,今からすぐに行ってくれるものと信じており,具体的に時間的な指示はしていない,その足で行ってもらうように言ったなどと,その都度変遷する供述をし,しかも,ほとんど説明せずに被害者を門前払いしたのではないかという尋問に対し,端的にそれを否定することもなく,精神科的な治療をすれば,皮膚の傷ぐらいは何とかなるだろうから,精神科が大事だと思ったという,上記の認識と整合し - 14 -ないばかりか,不可解ともいえる供述をし,さらには,被告人Bに対し,被害者の精神状態が悪くなっているから,内科的な治療が必要だと説明したとまで供述しており,真実体験,記憶していることを供述しているのかが疑われるといわざるを得ない。 そして,被告人Bは,原審公判廷において,被害者を最後に診てもらったとき,Gから,もう精神科のことだから診れないと追い返された,もう来ないでくださいみたいな感じだったことは覚えていると供述しており,原審弁護人も,弁論において,Gが,平成21年 最後に診てもらったとき,Gから,もう精神科のことだから診れないと追い返された,もう来ないでくださいみたいな感じだったことは覚えていると供述しており,原審弁護人も,弁論において,Gが,平成21年7月末の時点で,生命に対する危険はないと判断して被害者を追い返した旨主張しているところ,原判決は,特段この主張に対する判断を示すこともなく,また,その信用性判断の過程も何ら示すこともなく,Gの供述の一部のみを取り出し,それをそのまま信用できるものとして認定しているといわざるを得ず,その認定は,論理則,経験則等に照らしても,不合理といわざるを得ない。 (2)ア平成21年3月から8月まで中華料理屋でアルバイトをしていたIは,平成23年6月30日の原審第3回公判期日において,平成21年8月5日ころの午後7時ころ,被告人両名及び被告人両名の子と共に来店した被害者の状況について,以下のとおり,当時の心情も交えて,具体的かつ詳細に供述しており,原審で取り調べられた他の証拠関係と特段矛盾するところもなく,原判決も,この供述に基づいて,前記2(1)の平成21年8月5日ころの被害者の外見上の身体状況を認定したものと考えられる。 来店時,被告人Aと子が先に入店し,後から,被告人Bと被害者が入 - 15 -店したが,被害者は,被告人Bに脇を抱えられ,階段一段分の段差を難しそうに上がって入ってきた。被害者は,入店した後,下を向いて,すり足で,壁やいすの背もたれに手をつきながら歩いており,両目が出目金のような腫れ方をしていたと思うが,両目ともまぶたが内出血で紫色,赤黒かったと思うし,口もタラコ唇のように腫れており,ひどい怪我をしていると思った。食事が終わり,被害者がトイレの方に歩いて行ったときも,下を向いて,すり足でゆっくりと,テーブルやいすの背を持ち 赤黒かったと思うし,口もタラコ唇のように腫れており,ひどい怪我をしていると思った。食事が終わり,被害者がトイレの方に歩いて行ったときも,下を向いて,すり足でゆっくりと,テーブルやいすの背を持ちながら歩いていた。トイレは,タイル敷きもあり,段差があって和式トイレなので,床が油でちょっと滑りやすく,ちょっと不安であり,被告人Bに,「大丈夫ですか。」と尋ねると,被告人Bは,「大丈夫,大丈夫」と答えた。被害者の顔の怪我のことについて,被告人Bに,「どうされちゃったんですか。」と尋ねると,被告人Bは,被害者は,白内障で目が見えないのに,家のことをする,料理をしたり,階段から落ちたりするから,あんな怪我をするのよと答えた。被告人Aや被告人Bは,被害者の怪我を隠すようなことはなかったと思うし,普通にしていた。 被害者が使った後のトイレを確認したことはない。店を閉めるときに確認をしたときには,汚れだとか,そういうのはなかった。被害者がトイレを使っている時間が,特に遅い,あるいは早いと感じた記憶はない。 同年6月,7月に被害者が来店したとき,歩き方が不自由そうだったとか,足を引きずっていた,目が見えないようだったというような記憶はない。 イ他方,当審において取り調べたIの平成22年2月11日付け警察官 - 16 -調書謄本(当審検3(同弁13,同弁16と同一証拠))及び同月14日付け検察官調書謄本(同検2(同弁12,同弁15と同一証拠))において,Iは,以下のとおり,やはり当時の心情も交え,具体的かつ詳細に供述している。 被告人両名及び被害者らが最後に来店したのは,平成21年8月5日前後,時間は,午後8時か午後8時30分ころではないかと思う。被害者の顔は,パンパンに腫れ上がっており,口も満足に開かないような状態で,目の回りもどす黒いと 最後に来店したのは,平成21年8月5日前後,時間は,午後8時か午後8時30分ころではないかと思う。被害者の顔は,パンパンに腫れ上がっており,口も満足に開かないような状態で,目の回りもどす黒いとか,紫色に変色して腫れ上がっていて,どちらかのまぶたの上が変色してぶよぶよになって,目が満足に開けられないような感じで薄目になっていたと思う。被害者の髪の間から,どちらかの耳の状態が見えて,明らかに切れているというような傷口も見えた。何でこんな状態の人を店に連れてくるんだと思った。会計のとき,被告人Bに,被害者のことについて,「どうしちゃったんですか。」などと尋ねたところ,被告人Bは,「あの子は白内障で目が見えない,それなのにせんでもええというのに料理しようとしたり,階段から落ちてあんな怪我をする。妹なのよ。」などと言っていたのを覚えている。そのとき,ちょうど食事を終えた被害者がトイレに行こうとしており,階段があるので危ないと思い,被告人Bに,「大丈夫ですか。」と言ったら,被告人Bは,「大丈夫,大丈夫」と言って,被害者に手を貸すことはなかった。被告人両名ら家族は,怪我をしている人に対して手助けというものがなく,冷たいというか,おかしい家族だと思った(以上の供述は,平成22年2月11日付け警察官調書謄本)。 - 17 -平成21年8月5日の午後8時とか午後8時半ころ,被告人両名とその子が店内に入ってきた。それから遅れて,被害者が,下を向きながら,お年寄りのようにゆっくりと足を引きずって歩いて入ってきた。被害者の歩き方は,以前の7月と同様,ゆっくりと足を引きずる感じに変わりはなかったので,特に改めて気になるようなことはなかった。注文をとったりするために,被告人両名の席に行ったところ,下を向いて髪の毛で顔を隠していた被害者の顔が見え ゆっくりと足を引きずる感じに変わりはなかったので,特に改めて気になるようなことはなかった。注文をとったりするために,被告人両名の席に行ったところ,下を向いて髪の毛で顔を隠していた被害者の顔が見えた。そのときの被害者の顔は,顔全体がパンパンに腫れ上がっていて,あごのラインがなくなっていてまん丸の状態であり,7月までも腫れた感じはあったが,もっと丸くなっており,目は腫れ過ぎていて,開いていないように見え,目の回りもどす黒くなっていて,あざに見え,腫れ上がっていた。左目も右目も,周りが黒く変色しているように見え,まぶたがぼこっと腫れていて,金魚の出目金のような感じに見えた。口も腫れていて,唇が上も下もぼっこり腫れて,下を向いているのに,唇だけが飛び出ているように見えた。7月までとは明らかに違ってひどくなっているように見えた。被害者を見て,こんな状態で食事に連れてくるのはなぜだろうと感じた。食事を終えた被告人両名ら家族は席を立ったが,その際,被害者がトイレに向かって歩き,店のトイレは,和式で段差があり,床が滑りやすいため,周りがよく見えていないような被害者がトイレを1人で使うのは,危ないと思い,被告人Bに,「トイレ大丈夫ですか。」などと声を掛けたが,被告人Bは,「大丈夫,大丈夫」などと言って,被害者に手を貸すようなことはなかった。被告人Bに,被害者のことについて,「事故か何か - 18 -ですか。」などと何気なく尋ねると,被告人Bは,「あの子は白内障があって目が見えないのよ。何もせんでええって言うのに料理をしたり,階段から落ちたりする。それであんな怪我をしている。」などと言った。 被害者が使用した後のトイレは,特にひどく汚れているような状態ではなかった(以上の供述は,平成22年2月14日付け検察官調書謄本)。 ウ Iは,被告人両名 れであんな怪我をしている。」などと言った。 被害者が使用した後のトイレは,特にひどく汚れているような状態ではなかった(以上の供述は,平成22年2月14日付け検察官調書謄本)。 ウ Iは,被告人両名や被害者と直接の関係を有しない第三者であり,殊更被告人両名に不利な供述をすることを疑わせるような事情も特に見当たらないことからすると,上記アのとおり,被害者の来店時の状況に関し,具体的かつ詳細に,当時の心情も交えてされており,原審で取り調べられた他の証拠関係と特段矛盾するところもないIの原審公判供述の信用性は高いと見ることが直ちに不合理とはいえない。 しかしながら,そのIが,上記イのとおり,同じ場面について,捜査段階において,同様に具体的かつ詳細に,当時の心情も交えてしている供述に,原審公判供述との食い違いがあり,その食い違いが,およそ勘違いや記憶違い,あるいは記憶の減退等によるものとは考え難いものであるならば,逆に,そもそも被害者の来店時の状況に関するIの供述全体の信用性について,深刻な疑問を抱かざるを得ない。 そして,Iは,原審公判廷において,上記アのとおり,平成21年8月5日ころ,来店した際,被害者は,被告人Bに脇を抱えられ,わずか階段一段分の段差を難しそうに上がって入ってきたものであり,一方,7月に被害者が来店した際には,足を引きずっていたなどの記憶がない旨供述しているのに対し,捜査段階においては,被告人両名及びその子 - 19 -が店内に入ってきてから,遅れて,被害者が入ってきた,被害者の歩き方は,7月に見たときと同様,ゆっくりと足を引きずる感じに変わりはなく,特に改めて気になるようなことはなかった,被告人両名は,怪我をしている被害者に対して手助けというものがなく,冷たいというか,おかしい家族だと思ったとまで供述して りと足を引きずる感じに変わりはなく,特に改めて気になるようなことはなかった,被告人両名は,怪我をしている被害者に対して手助けというものがなく,冷たいというか,おかしい家族だと思ったとまで供述しているのであり,被害者が来店した際の状況について,自身の心情も交え,それぞれ克明に異なる内容を述べているものであり,まさに,およそ勘違いや記憶違い,あるいは記憶の減退等によるものとはにわかに考え難い供述の食い違いがある。 そうすると,来店した被害者に関わる一見して明白なはずの事情について,このように具体的かつ詳細に,自身の心情まで交えた供述の食い違いが生じているにもかかわらず,来店当時の被害者の状態に関するIの原審公判供述,あるいは,捜査段階の供述のいずれかが信用できる,また,Iの原審公判供述及び捜査段階の供述を通じ,被害者の状態に関して符合している部分については信用できるということが,論理則,経験則等に照らし,合理的に説明できるのかを慎重に検討する必要があり,そのためには,改めてIに対する証人尋問の実施も考慮しなければならないというべきである。 なお,当裁判所は,検察官が事実取調べ請求をした立証趣旨を平成21年8月5日ころにおける被害者の身体状況とするIの証人尋問請求について,これを却下したが,これは,Iの供述の信用性という重要な問題に関する上記のような慎重な検討は,第一審である原裁判所において,裁判員を含めた合議体の審理に委ねるのが相当であると判断したことに - 20 -ある。 (3) さらに,以下に判断を示すとおり,被告人両名において,被害者の生命身体に危険があり,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していたか否かを判断するためには,被害者の状況が,被告人両名から見ても,その ,被害者の生命身体に危険があり,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していたか否かを判断するためには,被害者の状況が,被告人両名から見ても,その認識を抱かせるに足りるものであったのか否かについて,更に審理を尽くす必要があるといわざるを得ない。 ア被害者の死因については,C病院に救急車で搬送された被害者の治療に当たったC病院高度救命救急センターに勤務する医師D,被害者の遺体の解剖を行ったC大学院医歯薬学総合研究科法医学教授E,感染症を専門とし,捜査機関が収集した被害者の診療録,レントゲンのコピー等を検討したJ病院院長Fの各原審公判供述によれば,外傷による出血及び低栄養に基づく虚血状態に起因するショック並びに敗血症性ショックによるものと認められ,被害者は,平成21年8月5日ころ,外傷による出血や十分な食事をとっていなかったことなどが原因で,血中の赤血球やヘモグロビン,さらには,総たん白やアルブミン等の数値が,同月16日ほど低くはないにしても,通常値より相当低いという虚血で低栄養の状態にあり,その後,虚血の状態が更に悪化する中で,身体の末梢組織に十分に酸素が行き渡らないことで,体内に毒性物質が生じて,全身に炎症反応を起こすなどし,その過程で同月9日ころには危険な状態に至り,他方で,敗血症を発症し,被告人両名の各原審公判供述にも照らし,遅くとも同月14日ころには立ち上がることができなくなったこ - 21 -とが認められることは,原判決が認定するとおりであり,なお,関係証拠に照らせば,被害者の死に大きく寄与したと認められる敗血症発症に至る感染原因は,被害者において,重度であると診断された統合失調症に起因する自傷行為,視力が悪いこと等による自転車での転倒等の事故での負傷の存在を具 害者の死に大きく寄与したと認められる敗血症発症に至る感染原因は,被害者において,重度であると診断された統合失調症に起因する自傷行為,視力が悪いこと等による自転車での転倒等の事故での負傷の存在を具体的にうかがわせるものが複数ある一方,その存在自体を合理的な疑いを差し挟む余地なく否定できるというほどのものは存せず,さらには,後記の被告人両名からの暴行での負傷等の外傷からの菌の侵入によるものが考えられるが,それ以上の特定は困難である。 そして,平成21年8月5日ころ以降,被害者の体内においては,上記のとおり,虚血状態が悪化するなどし,更には敗血症を発症するなどしていたものであり,その意味において,被害者が衰弱していき,危険な状態に至ったことは明らかというべきであるが,そのような被害者の体内における衰弱状態の進行が,同月14日ころには立ち上がれなくなったということ以外に,被害者の状況として,どのような形で表れていたのか,さらには,被害者について重度の統合失調症との診断や網膜剥離,白内障との診断がされていることを了知していた一方,特段の医学知識を有するわけではない被告人両名から見て,当時の被害者がどのような状態にあると認識していたのかを,被害者の体内における衰弱状態の進行のみから即断すること,とりわけ,一般通常人にとって,その状態が重篤,重態なものと判断し,又は判断し得るかについては,それまでの具体的な経過等の認識にも関わることでもあるが,被害者は,診療録の中に書いてあるようなことを見ても,余り元気に飛び回っていたわ - 22 -けではなく,余り大きな変化があらわれたわけではないと思う,見かけ上,低栄養にしても,貧血にしても,ゆっくり来たときには,なかなかその変化に気付かないということはあるだろうと思う,はたから見て,どこまでが く,余り大きな変化があらわれたわけではないと思う,見かけ上,低栄養にしても,貧血にしても,ゆっくり来たときには,なかなかその変化に気付かないということはあるだろうと思う,はたから見て,どこまでがあらわれてくるのか,あるいは,どこまでいつもと違っているのかによって,受け止める症状としては違うのかもしれないとするFの原審公判供述中の判断を直ちに排斥できるものはなく,また,同月14日ころに被害者が立ち上がれなくなった際の具体的状況については,腰痛ないし筋肉痛であると思って心配し,あるいは,お盆休みなので救急車でないと診察してくれないのではないかと考え,救急車を呼ぼうとしたが,被害者が,大丈夫とか,救急車は呼ばなくてもいいと言ったりしたので,大丈夫だろうと思い,呼ぶのをやめたという被告人両名の原審及び当審各公判供述以外の証拠はなく,困難といわざるを得ない。 そうすると,原判決は,被害者は,被告人両名の目の前で衰弱していった,あるいは,被告人両名は,平成21年7月末ころ以降,被害者が衰弱していく姿を目にしていたと認定しており,この認定は,上記に説示した限度で是認できるものの,被害者の状況が,被告人両名から見ても,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱かせるに足りるものであったとまではにわかに断じ得ないというべきである。 イ原判決が認定するとおり,被告人両名において,平成21年6月下旬ころから,日常的に,被害者を怒鳴り付けるのみならず,その頭部や顔面を殴ったり,顔や背中等に表皮剥離を生じさせるような暴行を加えた - 23 -りするなどの虐待行為に及んでいたものであり,このような虐待行為が,上記アに認定した被害者の衰弱の原因の一つであったと認められる。 所論は 表皮剥離を生じさせるような暴行を加えた - 23 -りするなどの虐待行為に及んでいたものであり,このような虐待行為が,上記アに認定した被害者の衰弱の原因の一つであったと認められる。 所論は,被告人両名が,被害者に対し,日常的に虐待を加えていた事実はない旨主張するが,Eは,頭部,顔面,背中等にある被害者の外傷について,統合失調症にり患している者がどのような行動形態をとるかなどはよくは分からないが,自傷行為があったとしても,自傷行為では不可能な部分が非常に多くあり,被害者の外傷の多くは他害,他傷によるものと考えた方が合理的であり,死亡する二,三か月前から数日前までの間,暴行を受けていたと思われるとしていること(Eの原審公判供述),被告人両名方の向かい側に居住する住人は,平成21年6月の終わりころから同年8月に入るころまで,被告人両名の怒鳴り声や被害者の謝る声が聞こえてきており,すりガラス越しに被告人Bが被害者に暴力を振るうのを見たこともあると供述していること(Kの原審公判供述),さらには,被告人両名が,原審公判廷において,被害者に対し,複数の機会に,あるいは,相当回数にわたり暴行を加えていたこと自体は認めていることに照らせば,上記認定の限度では,被告人両名が被害者に暴行を加えていたものと認められ,これを虐待行為と評価することが誤りとはいえない。 しかし,被告人両名の被害者に対する虐待行為について,それ以上に具体的に特定することは,保護責任者遺棄致死罪が問われている本件において,そのような特定ないし認定を行うべきではないことを措くとしても,関係証拠に照らしても,困難であり,上記アのとおり,被害者の - 24 -衰弱が体内で進行していたことは明らかであるものの,それが被害者の外見上の状況にどのように表れ,被告人両名において ても,関係証拠に照らしても,困難であり,上記アのとおり,被害者の - 24 -衰弱が体内で進行していたことは明らかであるものの,それが被害者の外見上の状況にどのように表れ,被告人両名において,当時の被害者がどのような状態にあると認識していたのかを,被害者の体内における衰弱状態の進行のみによっては,直ちに認定し難いというべきであり,このことに,被告人両名が上記の虐待行為を被害者に加えていたということを併せ考慮しても,被告人両名において,被害者の生命身体に危険があり,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していたとまではにわかに断じ得ないといわざるを得ない。 ウ被害者の状況に関わる事情として,検察官は,被害者の写真(原審検甲62)を挙げて,救急搬送された被害者の顔面は,腫れのため,平成21年6月5日時点の被害者と同一人であると判別できないほどであった旨主張するところ,上記写真は,その撮影日時までは特定できないが,救急搬送後に撮影されたものであることは明らかであり,Dは,原審公判廷において,治療による薬剤投与や腎臓機能の低下等による影響で,治療の中で被害者がむくんだということがある,死亡により退院となるまでの間に被害者のむくみはひどくなっている,入院時から退院時までの間に,排出分を差し引いた上で,20リットル程度の水分が被害者の体内に入っていると思う旨供述しており,上記の写真を検討する際には,搬送直後の治療が行われていない時点のものであることが明確にならない限り,これらの点を考慮に入れる必要があり,検察官主張のような評価をすることはできない。なお,C病院耳鼻科勤務の看護師であるLは, - 25 -警察官調書(原審検甲55,同意部分のみ)において,同年7月24日に来院した被 必要があり,検察官主張のような評価をすることはできない。なお,C病院耳鼻科勤務の看護師であるLは, - 25 -警察官調書(原審検甲55,同意部分のみ)において,同年7月24日に来院した被害者の診察時の状況について,両目のまぶたがぱんぱんにむくんで開かないような状態であり,顔全体も手や指もむくんでぱんぱんに腫れている状態であり,足取りはしっかりしているようであったが,目が開きにくくて前が見にくかったのか,右腕を被告人Bに抱えられるようにして,進路を誘導してもらいながら歩いていた,被告人Bが,医師に,自傷行為があるとか,精神科に通院しているなどと説明しているのを聞いたことなどで,それでこんなにひどい状態なんだ,お姉さんも大変だなというように思ったと供述しており,この診察の際に,右耳の傷口の悪化を防ぐために,こまめな消毒とガーゼの交換が必要であったことから,診察予約が行われたものの,病院側において,被害者の生命身体に危険があり,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識にふさわしい何らかの対応をしたものとは認められず,Lの供述を前提とする限り,いずれの時期であれ,医師や看護師から見ても,被害者について,生命身体に危険があり,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱くには至らず,まして,被害者について,重度の統合失調症との診断や網膜剥離,白内障との診断されていることを了知していたとしても,特段の医学知識を有するわけではない被告人両名において,被害者の生命身体に危険があり,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱くとはいえないのではないかという疑いも直ちには排斥できない。 - 26 -エ更に検討 体に危険があり,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱くとはいえないのではないかという疑いも直ちには排斥できない。 - 26 -エ更に検討すると,平成21年4月から同年8月までの間の毎月,被害者名義での失業認定申告書が提出され,同年8月分として,同月5日,ハローワークMに職業相談に行った旨の記載がある同月6日付けの失業認定申告書が提出されている(失業認定申告書写し5通(原審弁70))ところ,被告人両名は,原審公判廷において,同月5日及び6日,ハローワークを訪れた被害者に同行している旨それぞれ供述しており,被告人両名の供述を前提にすれば,当時の被害者に応対したであろうと考えられるハローワークの担当職員の供述を得るなどし,その際の被害者の状況についての証拠調べを行う余地がないとはいえず,また,被告人両名は,当審公判廷において,同月7日ころから同月10日又は同月11日ころまでの間に,N郵便局の近くにある「O」ないし「P」という名称の食堂で,被害者と共に食事をしたことがある旨それぞれ供述しており,被告人両名が当審に至って供述するに至った経緯に疑義もあるものの,被害者の状況を認定,判断するためには,この供述を前提とした食堂の関係者の供述を得るなどの証拠調べを行う余地がないともいえない。 オ以上に説示したとおり,被告人両名において,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していたか否かを判断するためには,平成21年7月29日ころ,医師であるGから見ても,被害者の外見上,同月15日ころと同様,ドライバーで切ったという右耳以外,全身で気になる状態はなく,余り苦しそうな感じにも見えず,ぼおっとしているという感 年7月29日ころ,医師であるGから見ても,被害者の外見上,同月15日ころと同様,ドライバーで切ったという右耳以外,全身で気になる状態はなく,余り苦しそうな感じにも見えず,ぼおっとしているという感じがするだけであったに過ぎなかったとの疑いを排斥で - 27 -きず,Gにおいて,被害者が,全身状態が悪く,内科的治療を要する状態であり,このままだと大変なことになる旨判断したと認定することができないことを前提とし,同年8月5日ころ,Iが供述するとおり,被害者において,外見上,両目のまぶたや唇など顔全体を腫らし,被告人Bの手を借り,あるいは,椅子の背もたれにつかまるなどして,すり足で歩く状態であったと認定できるのかについて,再度のIの証人尋問の実施を含む検討を行い,さらには,上記エに示したものなどの証拠調べも行い,これらを総合して,被害者について重度の統合失調症との診断や網膜剥離等との診断がされていることも了知していた一方,特段の医学知識を有するわけではない被告人両名から見ても,被害者の状況は,生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱かせるに足りるものであったと合理的な疑いなく認定できるのか否かを,慎重に審理する必要がある。 (4) そして,被害者の状況が,被告人両名から見ても,生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱かせるに足りるものであったと認定できたとしても,以下に説示するとおり,被告人両名において,そのような認識を抱いていたと合理的な疑いなく認定できるのかを更に検討しなければならない。 ア原判決は,被害者が,被告人両名の目の前で衰弱していった旨の認定,あるいは,被告人両名は,平成21年7月末ころ以 識を抱いていたと合理的な疑いなく認定できるのかを更に検討しなければならない。 ア原判決は,被害者が,被告人両名の目の前で衰弱していった旨の認定,あるいは,被告人両名は,平成21年7月末ころ以降,被害者が衰弱していく姿を目にしていたという認定から,前記2(3)のとおり,被告人両名は,被害者が,生存に必要な保護として,医療措置を受けさせるなど - 28 -の保護を必要とする状態であることを分かっていた旨認定,判断するが,これまでに説示してきたところから明らかなとおり,この原判決の認定,判断を論理則,経験則等に照らし,合理的なものとして是認することはできない。 イ原判決は,前記2(3)のとおり,互いに被害者を虐待していることを了知していた被告人両名において,被害者を病院に連れて行かなくなった平成21年8月初めころには,被害者を病院に連れて行くと,その外傷や衰弱の状態から,自身らによる虐待の事実が発覚するおそれがあると考えていたことは容易に推認でき,現に,被告人両名は,同年7月末ころ以降,被害者を病院に連れて行くなどせず,被害者が立ち上がることができない状態にまで至った同年8月14日及びその翌日には,被害者を1人自宅に残して出掛けるなどしたことを認定ないし指摘できるとしている。 しかし,前記3(3)に説示したとおり,外傷を含めた被害者の状況が,その生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱かせるに足りるものであったといえるかは,なお慎重に審理しなければならず,仮に,それが肯定されたとしても,被告人両名が,被害者に対する虐待の事実を特段隠そうとはしておらず,少なくとも,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していな 告人両名が,被害者に対する虐待の事実を特段隠そうとはしておらず,少なくとも,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していなかったのではないかとの疑いにつながる事情も存しており,これらの事情をも検討しなければ,被告人両名において,その認識を有していたの - 29 -かについての認定,判断を決し得ない。 すなわち,被告人両名は,平成21年8月5日ころ,被害者と共に中華料理店に入店して食事をしているのであり,Iの供述を前提としても,特段,被害者の状態を隠すような挙動はうかがわれず,また,被害者名義の失業認定申告書の提出やそれに関する被告人両名の供述からすると,そのころ,ハローワークを訪れた被害者に同行していることがうかがわれるのであり,このように,被告人両名において,虐待を加えている被害者と共に,特に人目につくのを避けるということもなく外出し,中華料理店で食事をしたり,ハローワークに同行したりしているという事情は,警察官Qの原審公判供述によれば,被告人Bにおいて,同年7月3日,通報を受け,耳にただれのような傷や,一目で見て分かるくらいの両目の腫れ等がある被害者に職務質問をするなどしたQに対し,自身や被告人Aが,被害者を殴った旨述べ,被害者を注意するため,平手や握りこぶしで主に被害者の顔面を殴ったと説明していることが認められることにも照らせば,当時の被告人両名においては,被害者に対する虐待行為を,この程度であればさほど問題ないなどと考え,それを隠そうともしていなかったのではないか,ひいては,被害者について,その生命身体に危険があり,生存を確保するため,医療措置を受けさせる必要があるなどとは認識していなかったのではないかという疑いにつながるものであり,仮に, たのではないか,ひいては,被害者について,その生命身体に危険があり,生存を確保するため,医療措置を受けさせる必要があるなどとは認識していなかったのではないかという疑いにつながるものであり,仮に,この疑いが排斥できなければ,そのような考えを持っていた被告人両名において,それぞれが供述するように,同月14日ころに被害者が立ち上がれなくなったということがあっても,生命身体に - 30 -危険があるとは思わず,腰痛ないし筋肉痛の範疇にあるものと判断して,同日及びその翌日,被害者を1人残して外出したとしても,直ちに不自然,不合理とはいい難く,上記事情について,慎重に検討,評価しなければ,被告人両名の認識を認定,判断できないというべきである。 そして,これらの事情は,原審の弁論において,原審弁護人によって概ね具体的に主張されていたが,原判決は,これらの事情にまったく触れるところがなく,認定,判断に当たって検討したのかすら不明であり,原判決の認定,判断を,論理則,経験則等に照らし,合理的なものであるとして直ちに是認することはできない。 4 なお,被害者の状況が,被告人両名から見ても,生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱かせるに足りるものであるが,被告人両名において,そのような認識を抱いていたと合理的な疑いなく認定することが困難であるという場合には,重過失致死罪の成否を検討することになると考えられる。 以上のとおりであり,平成21年7月29日ころ,被害者の状態を目にした皮膚科の医師であるGにおいて,全身状態が悪く,内科的治療を要する状態であり,このままだと大変なことになる旨判断したとの原判決の認定は,論理則,経験則等に照らし,不合理といわざるを得ず,また,同年8月5日 の医師であるGにおいて,全身状態が悪く,内科的治療を要する状態であり,このままだと大変なことになる旨判断したとの原判決の認定は,論理則,経験則等に照らし,不合理といわざるを得ず,また,同年8月5日ころ,被害者において,外見上,両目のまぶたや唇など顔全体を腫らし,被告人Bの手を借り,あるいは,椅子の背もたれにつかまるなどして,すり足で歩く状態であったとの原判決の認定については,再度のIの証人尋問の実施を含めたIの供述の信用性の慎重な検討を経ずして是認できるものではなく,被害者の状況が, - 31 -被告人両名から見ても,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱かせるに足りるものであったとまではにわかに断じ得ないのであり,さらに,被告人両名が,被害者に対する虐待の事実を特段隠そうとはしておらず,少なくとも,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していなかったのではないかとの疑いにつながる事情も存しており,これらの事情をも検討しなければ,被告人両名において,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していたのかについての認定,判断を決し得ないにもかかわらず,これらの事情について触れることなく,同月初めころには,被害者を病院に連れて行くと,その外傷や衰弱の状態から,自身らによる虐待の事実が発覚するおそれがあると考えていたことは容易に推認でき,被告人両名は,被害者が,生存に必要な保護として,医療措置を受けさせるなどの保護を必要とする状態であることを分かっていたとする原判決の認定,判断も,論理則,経験則等に照らし,合理的なものとして でき,被告人両名は,被害者が,生存に必要な保護として,医療措置を受けさせるなどの保護を必要とする状態であることを分かっていたとする原判決の認定,判断も,論理則,経験則等に照らし,合理的なものとして是認することはできず,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというべきである。 そして,被告人両名において,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,被害者に医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していたか否かを判断するためには,平成21年8月5日ころ,中華料理店に来店した際の被害者の状態に関するIの供述の信用性について,再度のIの証人尋問の実施を含む検討,審理を行い,前記3(3)エに指摘したものな - 32 -どの証拠調べも行った上で,被害者について重度の統合失調症の診断及び網膜剥離等の診断がされていることも了知していた一方で,特段の医学知識を有するわけではない被告人両名から見ても,被害者の状況は,生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を抱かせるに足りるものであったと合理的な疑いなく認定できるのか否かを慎重に審理する必要があり,さらには,被告人両名が,被害者に対する虐待の事実を特段隠そうとはしておらず,少なくとも,被害者の生命身体に危険があり,生存に必要な保護として,医師の診察等の医療措置を受けさせる必要があるとの認識を有していなかったのではないかとの疑いにつながる事情をも検討し,被告人両名において,その認識を有していたのかについての認定,判断を行う必要があり,事実誤認をいう論旨は,以上に説示した限度で理由がある。 よって,その余の論旨(量刑不当の主張を含む。)に関する判断を省略し,刑訴法397条1項,382条によ いての認定,判断を行う必要があり,事実誤認をいう論旨は,以上に説示した限度で理由がある。 よって,その余の論旨(量刑不当の主張を含む。)に関する判断を省略し,刑訴法397条1項,382条により,被告人両名に対する原判決を破棄し,同法400条本文に従い,更に必要な審理を尽くさせるため,本件を原裁判所である広島地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。 平成24年4月10日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官竹田隆 裁判官野原利幸及び裁判官結城剛行はいずれも転補のため署名押印するこ - 33 -とができない。 裁判長裁判官竹田隆

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