平成15(受)1710 地位確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年11月26日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 平成14(ネ)3338
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判決文本文6,087 文字)

主文 原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人深沢守ほかの上告受理申立て理由について 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1) 被上告人は,平成10年10月6日に岩手県知事から宅地建物取引業法(以下「法」という。)3条1項の免許を受けた宅地建物取引業者であり,同県花巻市内において宅地建物取引業を営んでいる者である。 (2) 上告人は,法64条の2第1項の指定を受けた宅地建物取引業保証協会(以下「保証協会」という。)であり,法に基づく営業保証金相当額の弁済業務,一般保証業務,手付金等保管事業及びその他の業務を行い,宅地建物取引業界の健全な発達と資質の向上及び消費者の保護を図ることを目的として設立された社団法人である。なお,上告人は,都道府県の区域ごとに設立された社団法人である宅地建物取引業協会(以下「都道府県宅建業協会」という。)に加入する宅地建物取引業者が中心となって設立した団体である。 (3) 都道府県宅建業協会及び同協会を会員とし,全国を単位として設立された社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(以下「全宅連」という。)は,いずれも,宅地建物取引業の適正な運営を確保するとともに宅地建物取引業の健全な発達を図るため,会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする組織であり(法74条3項),国土交通大臣は全宅連に対し,都道府県知事は都道府県宅建業協会に対し,宅地建物取引業の適正な運営を確保し,又は宅地建物取引業の健全な発達を図るため,必要な事項に関して報告を求め,又は必要な指導,助言及び勧告を- 1 -することができると定められている(同条4項)。 上告人 引業の適正な運営を確保し,又は宅地建物取引業の健全な発達を図るため,必要な事項に関して報告を求め,又は必要な指導,助言及び勧告を- 1 -することができると定められている(同条4項)。 上告人は,地方において独自の組織,施設を有しないことから,取引主任者その他宅地建物取引業の業務に従事し又は従事しようとする者に対する研修業務を全宅連及び都道府県宅建業協会と共同で行っており,社員の取り扱った宅地建物取引業に係る取引に関する苦情の解決業務等についても,全宅連及び都道府県宅建業協会に委託するなどしており,両者の間には密接な関係がある。 (4) 上告人の定款(以下「本件定款」という。)は,会員の種別につき,「本会の会員は,次のとおりとする。(1) 正会員宅地建物取引業者である個人又は法人で,本会の目的に賛同して入会した者 (2) 特別会員本会に功労のあった者又は学識経験者で,総会において推薦された者」と,入会等につき,「本会の会員になろうとする者は,入会申込書を会長に提出し,理事会の承認を得なければならない。ただし,特別会員については,この限りでない。」と規定している(5条,6条1項)。そして,本件定款は,実施細目として,「この定款の施行について必要な事項は,会長が理事会の議決を得て別に定める。」と規定し(42条),この規定に基づき上告人の定款施行規則(以下「本件規則」という。)が定められており,その3条1項は,入会資格要件として,「本会の会員は,全宅連会員の所属構成員(各都道府県宅地建物取引業協会の会員)でなければならない。」と規定している(以下,この規定が定める入会資格要件を「本件入会資格要件」という。)。 (5) 被上告人は,上告人に対し,平成13年5月24日付け入会申込書等の書類を提出することによって,入会の申込みをした。これ (以下,この規定が定める入会資格要件を「本件入会資格要件」という。)。 (5) 被上告人は,上告人に対し,平成13年5月24日付け入会申込書等の書類を提出することによって,入会の申込みをした。これに対し,上告人は,同年6月28日,被上告人が都道府県宅建業協会の会員でないことから,被上告人は本件入会資格要件を満たさないことを理由に上記入会の申込みを拒否する旨の決定をし,同年9月3日付けで,その旨を被上告人に通知した。 (6) 宅地建物取引業者は,営業保証金(主たる事務所につき1000万円,そ- 2 -の他の事務所につき事務所ごとに500万円の割合による金額の合計額)を供託しなければならないが(法25条,宅地建物取引業法施行令2条の4),保証協会の社員については,この供託義務が免除され(法64条の13),主たる事務所につき60万円,その他の事務所につき事務所ごとに30万円の割合による金額の合計額の弁済業務保証金分担金を保証協会に納付すれば足りるものと定められている(法64条の9第1項,宅地建物取引業法施行令7条)。 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件入会資格要件を定めた本件規則3条1項は法及び本件定款に違反して無効であり,上告人が被上告人の入会申込みを拒否したことは不法行為を構成すると主張して,被上告人が上告人の会員たる資格を有する地位にあることの確認を求めるとともに,損害賠償を求める事案である。 3 原審は,被上告人の確認請求に係る訴えについては,確認の利益がなく,不適法なものであるとして却下すべきものとし,他方,損害賠償請求については,次のとおり判断し,慰謝料50万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。 (1) 民法34条によって社団法人を設立するに当たっては,その法人の目的や行おうとする事業に適合し は,次のとおり判断し,慰謝料50万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。 (1) 民法34条によって社団法人を設立するに当たっては,その法人の目的や行おうとする事業に適合した社員の資格を,公序良俗に反しない限り,自由に定めることができるのが原則である。しかしながら,その社団法人が,国又は地方公共団体から法令に基づく指定を受け,法令により定められた事業を行うことにより,その社員が,社員でない者よりも法令の適用上優遇措置を受けることとなる場合には,当該社団法人は,その目的及び法令により定められた事業の性質との関係で具体的に合理性のある社員資格を定めることができるにとどまり,上記の合理性の認められない社員資格の定めは,公序良俗に反するものとして効力がないものと解するのが相当である。 (2) 上告人は,前記1(2)記載の目的をもって,当時の建設大臣の指定を受けて- 3 -前記の業務を行っているものであり,上告人の社員は,主たる事務所についていえば,弁済業務保証金分担金60万円を上告人に納付することによって,法25条所定の営業保証金1000万円の供託を要しないという極めて大きな経済的利益を享受することができるものである。このような大きな経済的利益を,合理的理由のない社員資格を定めることにより,その社員資格を有しない者に享受させないようにすることは,法の下の平等を定める憲法の下の私法秩序に反するものというべきである。 上告人は,全宅連を母体として設立され,全宅連及び都道府県宅建業協会と密接な関係を有する団体であるが,そのような事情があるとしても,上告人が都道府県宅建業協会の会員であることを上告人の入会資格とすることに,上告人の目的や事業との関係で具体的に合理性があるとは認められないから,本件入会資格要件を定めた本件規 事情があるとしても,上告人が都道府県宅建業協会の会員であることを上告人の入会資格とすることに,上告人の目的や事業との関係で具体的に合理性があるとは認められないから,本件入会資格要件を定めた本件規則3条1項の規定は,公序良俗に反し,無効と解すべきである。 また,本件入会資格要件を定めた上記規定は,本件定款の規定の範囲内で定められた実施細目とみることはできず,本件定款所定の社員資格に関する事項と実質的に異なるものであって,無効というべきである。 したがって,上告人が,被上告人が都道府県宅建業協会の会員でないことを理由として上告人への入会申込みを拒んだことは違法であり,また,上告人には過失があるから不法行為が成立する。 4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 保証協会は,宅地建物取引業者が社員となって設立される社団法人であり,その業務として,社員の取り扱った宅地建物取引業に係る取引に関する苦情の解決,取引主任者その他宅地建物取引業の業務に従事し又は従事しようとする者に対する研修及び社員と宅地建物取引業に関し取引をした者の有するその取引により生- 4 -じた債権に関して弁済をする業務を行うものである(法64条の3第1項)。そして,この弁済業務については,次のように定められている。①保証協会の社員は,当該保証協会に弁済業務保証金分担金を納付する(法64条の9)。②保証協会は,社員から上記納付を受けた額に相当する額の弁済業務保証金を供託する(法64条の7)。③保証協会の社員と宅地建物取引業に関して取引をした者は,その取引によって生じた債権に関し,当該社員が社員でないとした場合に供託すべき営業保証金の額に相当する額の範囲内において,当該保証協会が供託した弁済業務保証金から弁 物取引業に関して取引をした者は,その取引によって生じた債権に関し,当該社員が社員でないとした場合に供託すべき営業保証金の額に相当する額の範囲内において,当該保証協会が供託した弁済業務保証金から弁済を受ける権利を有する(法64の8第1項)。④上記権利の実行により弁済業務保証金の還付があったときは,当該還付に係る社員又は社員であった者は,当該還付額に相当する額の還付充当金を当該保証協会に納付しなければならない(法64条の10)。⑤保証協会は,上記権利の実行があった場合においては,その権利の実行により還付された弁済業務保証金の額に相当する額の弁済業務保証金を供託しなければならない(法64条の8第3項)。さらに,保証協会は,上記供託をする場合において上記還付充当金の納付がなかったときの弁済業務保証金の供託に充てるため,弁済業務保証金準備金を積み立てなければならない(法64条の12第1項)。上記供託をする場合において,上記準備金を弁済業務保証金に充ててなお不足するときは,その不足額に充てるため,社員は,保証協会に対し,特別弁済業務保証金分担金を納付しなければならない(法64条の12第3項,第4項)。 (2) 以上によれば,保証協会の上記弁済業務に係る制度は,宅地建物取引業者の営業上の取引による債務の支払を担保するために宅地建物取引業者がすべきものとされている営業保証金の供託を,保証協会の社員が納付した弁済業務保証金分担金を原資として保証協会が行う弁済業務保証金の供託によって代替するものであり,保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者との間の取引により生じた債権については,保証協会及びその社員の負担において,上記債権の支払が担保さ- 5 -れる仕組みとなっている。そうすると,保証協会としては,入会を申し込む個々の宅地建物取引業者の信用 により生じた債権については,保証協会及びその社員の負担において,上記債権の支払が担保さ- 5 -れる仕組みとなっている。そうすると,保証協会としては,入会を申し込む個々の宅地建物取引業者の信用性,その者が関係法令を遵守する業者であるか否か等について重大な利害関係を有するものであり,上記弁済業務に係る制度を適切に運営し,これを維持するために,保証協会が,その入会資格につき,上記の入会者の関係法令の遵守等の観点からの一定の資格要件を定めることには十分な合理性があるというべきである。 前記の事実関係及び記録によれば,上告人は,全宅連及び都道府県宅建業協会との間で,上告人の業務中,取引主任者その他宅地建物取引業の業務に従事し又は従事しようとする者に対する研修業務を共同で実施しており,社員の取り扱った宅地建物取引業に係る取引に関する苦情の解決に係る業務を委託するなど密接な関係にあること,各種の情報が都道府県宅建業協会からその会員に提供されること,上告人としては,このような関係にある都道府県宅建業協会の会員であって,その指導,監督の下にある宅地建物取引業者であれば,上記研修の実施等により,入会者の関係法令の遵守等が相当程度期待し得るものとして,本件入会資格要件を定めたことが明らかである。そうだとすると,本件入会資格要件は,入会者の関係法令の遵守等の観点から定められた合理的なものというべきであり,公序良俗に違反するものとはいえない。 また,本件定款は,入会等につき,入会しようとする者は理事会の承認を得なければならない旨を定めており(6条1項),本件定款の実施細目として,本件定款の施行について必要な事項は,会長が理事会の議決を得て別に定めるものとしている(42条)。この規定に基づき,理事会の議決を得て定められた本件規則3条1項所定の本件入会資 款の実施細目として,本件定款の施行について必要な事項は,会長が理事会の議決を得て別に定めるものとしている(42条)。この規定に基づき,理事会の議決を得て定められた本件規則3条1項所定の本件入会資格要件は,本件定款所定の上記の入会の要件である「理事会の承認」を得るために不可欠な条件を,本件定款の施行について必要な事項の一つとして定めたものと解することができ,本件定款に違反するものということはできな- 6 -い。 【要旨】以上の諸点に,宅地建物取引業者は,保証協会に入会しなくても,法25条所定の営業保証金を供託することにより宅地建物取引業を営むことができるものであることを併せ考慮すると,上告人が,被上告人に対し,被上告人が本件入会資格要件を満たさないことを理由に,その入会申込みを拒否した行為をもって,慰謝料請求権の発生を肯認し得る不法行為と評価することはできないものというべきである。 5 そうすると,以上と異なる見解に立って,被上告人の損害賠償請求の一部を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 この点に関する論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の損害賠償請求をすべて棄却した第1審判決は正当であるから,同部分に関する被上告人の控訴を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官福田博裁判官北川弘治裁判官梶谷玄裁判官滝井繁男裁判官津野修)- 7 -

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