- 1 - 令和6年11月26日宣告東京高等裁判所第10刑事部判決令和6年(う)第702号贈賄被告事件 主文 本件控訴を棄却する。 理由 第1 事案の概要及び本件控訴の理由について 1 本件に関する東京地裁の原判決は、被告人が、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のマーケティング業務の専任代理店である株式会社Aの販売協力店である株式会社Bの幹部社員ないし執行役員として、理事としてこの組織委員会の業務執行の決定等について議決権を行使し、マーケティン グ業務の契約締結等について意見を述べるなどの業務に従事していたCに対し、平成26年1月頃から平成27年6月24日までの間、株式会社Dが組織委員会と東京2020オフィシャルサポータープログラム契約を締結できるよう取り計らってもらいたいと依頼していたところ、Cが法令により公務に従事する職員とみなされることとなった平成27年6月25日から令和3年1月頃まで の間、引き続き、上記オフィシャルサポータープログラム契約の締結に当たり、Dが負担する協賛金額の減額、契約の迅速な締結及び契約の延長に伴う追加協賛金の減額を請託し、一連の取り計らいへの謝礼及び今後も同様の取り計らいをしてもらいたいという趣旨の下、令和2年1月31日と令和4年2月9日の2回にわたり、被告人から賄賂を収受することにつきCと共謀していたEが管 理する銀行口座に現金合計653万1250円を振込入金して賄賂を供与した、という事実を認定し、被告人を懲役2年、4年間執行猶予に処した。 2 本件控訴の理由は、事実誤認及び量刑不当である。 第2 事実誤認について以下では、第32回オリンピック競技大会(2020/東京)及び東京20 20パラリンピック競技大 猶予に処した。 2 本件控訴の理由は、事実誤認及び量刑不当である。 第2 事実誤認について以下では、第32回オリンピック競技大会(2020/東京)及び東京20 20パラリンピック競技大会を合わせて「東京2020大会」と、東京202- 2 - 0オフィシャルサポータープログラム契約を「スポンサー契約」という。 1 原判決の判断の要旨原判決が本件贈賄の事実が認められると判断した理由は、以下のようなものである。 ⑴ 信用できる関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア Cが理事に就任する前(平成26年6月5日より前)の経緯平成25年9月頃、被告人は、株式会社Fの代表取締役で東京2020大会招致委員会のスペシャルアドバイザーであったCから、Bにおいて東京2020大会のスポンサー契約のセールスを行うよう持ち掛けられた。 平成26年1月、東京2020大会の準備及び運営に関する事業を行うことを目的として組織委員会が設立され、その業務執行の決定等を行う機関として理事会が設置された。組織委員会は、東京2020大会に関して日本国内でマーケティングを行う権利を独占するものであった。組織委員会は、同年12月、スポンサー契約等に関して、株式会社Aとの 間で専任代理店契約を締結した。 被告人は、Cから組織委員会の理事に就任する見込みであると伝えられていたところ、平成26年1月、Cから、Bを販売協力代理店とし、スポンサー契約成立に協力するので、契約が締結された場合には、組織委員会からAを介してBに支払われる手数料の半額をCに渡してほしいと 提案された。被告人は、Bの役員の了承を得た上で、同月24日頃、Cに対して前記提案を承諾した。以下、この合意を「本件合意」という。 イ Cが理事に就任後、みなし公務 半額をCに渡してほしいと 提案された。被告人は、Bの役員の了承を得た上で、同月24日頃、Cに対して前記提案を承諾した。以下、この合意を「本件合意」という。 イ Cが理事に就任後、みなし公務員となる前まで(平成26年6月5日から平成27年6月24日まで)の経緯Cは、平成26年6月5日、組織委員会の理事に選任された。被告人は、 同月中旬頃、Cに対し、スポンサー契約のセールスを行う企業としてD- 3 - など複数伝えた。 Cは、平成26年6月23日及び同年7月29日、Aのオリンピック・パラリンピック室長G及びマーケティング部長Hに対し、Bを販売協力代理店としてD等に対するスポンサー契約のセールスを行わせたいなどと伝えた。 被告人は、平成26年8月25日以降、Cから紹介されてHと面談を重ねた。G及びHは、Cの意向や指示を受け、組織委員会のマーケティング局長Iと協議し、同年10月頃、Iから、Bに販売協力代理店としてDに対するスポンサー契約のセールスを行わせることに異論はないという回答を得た。 被告人は、平成27年1月20日頃、DのJ副社長に対し、協賛金額が15億円程度の見込みであると伝えたところ、Jから協賛可能であるとの回答を得た。被告人は、Dとのスポンサー契約を早期に締結する必要があると考え、同月21日頃、Cに伝えたところ、Cは、同月22日頃、G及びHに対し、積極的に推進すべきB案件としてDとスポンサー契約 を早期に締結することなどを指示した。 Cは、平成27年2月、G及びHを通じて、組織委員会の了承を得た上、同月20日頃、被告人と共にDのK社長とJに対し、東京2020大会の協賛金を10億円とし、併せて、協賛金を5億円としてラグビー・ワールドカップ2019日本大会に協賛することを提案し、Dか を得た上、同月20日頃、被告人と共にDのK社長とJに対し、東京2020大会の協賛金を10億円とし、併せて、協賛金を5億円としてラグビー・ワールドカップ2019日本大会に協賛することを提案し、Dから前向き な回答を得た。 ウ Cがみなし公務員となった後(平成27年6月25日以降)の経緯平成27年6月25日、平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法が施行され、組織委員会の役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用について、法令により公務に従事する 職員とみなされることとなり、Cも自身がみなし公務員となったことを- 4 - 認識したが、被告人とCは、本件合意を見直すことなく、そのまま維持した。 被告人は、平成28年4月頃、Aの営業部門がBとは別にDに対してスポンサー契約のセールスを行っていることを知り、Bの交渉力をDに対して示したいなどと考え、同年6月、Cに対し、Dの協賛金額を下げる ことができないか相談した。Cは、被告人に対し、Dの協賛金額10億円のうち2億円分については語学教育等の現物出資(VIK)による方法をとることを提示し、同年9月から平成29年1月にかけて、G及びHの後任のマーケティング部長であるLに対し、Dの協賛金額のうち2億円分についてはVIKによることで調整するよう指示し、同年2月2 4日、被告人と共にDを訪れ、KとJに対し、協賛金額10億円のうち2億円分についてはVIKとすることを提案した。その結果、Dは、被告人に対し、上記提案を受け入れ、Bを窓口として契約交渉を進めることを伝えた。 ところが、組織委員会及びAは、協賛金額を全額現金とする方針とし、 Bを通じてこれを提案されたDは、スポンサー契約締結への意欲を低下させた。 そこで、被告人は、平成 進めることを伝えた。 ところが、組織委員会及びAは、協賛金額を全額現金とする方針とし、 Bを通じてこれを提案されたDは、スポンサー契約締結への意欲を低下させた。 そこで、被告人は、平成30年4月18日、Cに対し、Dの協賛金額を更に減額できないか尋ねたところ、Cから7億円とすることを提案された。Cは、組織委員会のマーケティング局長に就任していたHに対し、 Dの協賛金額を7億円に減額するよう指示し、これを受けて組織委員会はDの協賛金額を7億円とする方針を決めた。被告人は、Dに対し、協賛金額を7億円とすることを提案し、Dはこれを承諾した。 被告人は、その頃、Jから、平成30年8月にはスポンサー契約を締結したいと言われ、Cにそれを伝えたところ、Cは、同年6月までに、G とLに対し、Dとのスポンサー契約締結を急ぐよう指示した。その後、- 5 - 被告人は、AがDとのスポンサー契約を同年10月10日に予定していることを知り、同年7月18日、Cにそれを伝えたところ、同月19日、Cは、Lに対し、Dとの契約締結を前倒しするよう指示し、これを受けて組織委員会は同年9月28日にDとスポンサー契約を締結した。 エスポンサー契約締結に関する手数料の支払 被告人は、平成30年8月6日、Cから、AからBに対する手数料の約半額の1300万円をCが経営するFに支払うよう求められた。被告人は、本件合意に基づき、Bを販売協力代理店としてDがスポンサー契約を締結できるよう種々の働き掛けをしたことの対価として、Cに対し上記の金額の支払をすることとした。その後、被告人は、Cの指示に基づ き、Eが経営する株式会社Mを支払先とすることを了承し、同年12月頃までの間に、Bが、Mの本件プログラムの販売に関する紹介、手続のサポート等の協力 ととした。その後、被告人は、Cの指示に基づ き、Eが経営する株式会社Mを支払先とすることを了承し、同年12月頃までの間に、Bが、Mの本件プログラムの販売に関する紹介、手続のサポート等の協力業務の対価として、Mに対し、分割により合計1300万円を支払う内容の覚書を作成した。その後、平成31年1月31日から令和2年1月31日までの間、3回にわたり、BからMに対して合 計1414万円が振込送金され、Eはそのうち1074万円余りをF名義の銀行口座に振り込んだ。 オ Dのスポンサー契約延長とそれに関する手数料の支払組織委員会は、令和2年3月、東京2020大会の開催を1年延期することを決定し、契約期間延長に伴い、同年8月頃、Dに対して追加協賛 金1億円の支払を求めた。 被告人は、令和2年9月頃、Dから、追加協賛金を減額してほしい、従前のスポンサー契約により東京2020大会に関して広告宣伝を行うことができる業種(カテゴリー)を加えてほしいなどと要望されたため、同月8日、Cに伝えた。Cは、同月から同年12月にかけて、HやGに 対し、Dの追加協賛金を5000万円に減額することやカテゴリーを拡- 6 - 張することを指示し、同月21日頃までに了承を得た。 Dは、令和3年2月1日、組織委員会との間で、追加協賛金5000万円、オンライン語学トレーニングカテゴリーを追加するという内容の協賛延長契約を締結した。 令和3年6月頃、AからBに対し、協賛延長契約締結に係る手数料とし て約187万5000円が支払われることになり、被告人は、組織委員会に対しDの追加協賛金を減額するよう働き掛けたことなどの対価として、Cに対し、上記手数料の半額を支払う旨申し入れ、Cの指示によりMに対し支払うことになった。被告人は、Mから見積書を 人は、組織委員会に対しDの追加協賛金を減額するよう働き掛けたことなどの対価として、Cに対し、上記手数料の半額を支払う旨申し入れ、Cの指示によりMに対し支払うことになった。被告人は、Mから見積書を受け取った上、令和4年2月9日、Mに対し、103万1250円を支払った。 ⑵ 前記⑴の認定事実によれば、被告人は、平成26年1月、理事の立場に就くCと本件合意を取り交わし、同年6月、Cが理事に就任すると、Bが販売協力代理店となってスポンサー契約のセールスを行う企業としてDを挙げ、Dの意向や契約締結の必要性を伝えるなどし、平成27年6月にCがみなし公務員となった後も、さらにDの意向を受けて協賛金額の減額や 早期の契約締結などを依頼し、Cが被告人から伝えられた要望や依頼に応じて、その都度、Aや組織委員会に対し、種々の働き掛けをした結果、平成30年9月にDのスポンサー契約が成立したことから、本件合意に基づき、契約締結によりBが受領した手数料の約半額を、Cの働き掛けに対する対価として支払い、さらに、スポンサー契約の延長に関し、Dの要望を Cに伝え、Cが被告人から伝えられた要望に応じて、Aや組織委員会に対し働き掛けを行った結果、令和3年2月に延長契約が成立したことから、本件合意に基づき、延長契約締結によりBが受領した手数料の約半額を、Cの働き掛けに対する対価として支払ったものと認められる。 Cが理事就任後に行った各働き掛けは、スポンサー契約締結の権限を有す る組織委員会の業務執行に関しその決定等を行う機関である理事会の構成員- 7 - である理事が、理事会の決議事項を議決したり報告事項に対して意見を述べたりする権限に基づいて、スポンサー契約締結の事務を所管するマーケティング局や、組織委員会の専任代理店として契約交渉 7 - である理事が、理事会の決議事項を議決したり報告事項に対して意見を述べたりする権限に基づいて、スポンサー契約締結の事務を所管するマーケティング局や、組織委員会の専任代理店として契約交渉等に従事するAに対し、Bを販売協力代理店としてスポンサー契約等を締結することができるよう働き掛けるというものであるから、当然に理事の職務に含まれる。 また、Cが行った働き掛けは、本件合意に基づき、Dのスポンサー契約を成立させ、それによりBが手数料を受領するという目的を達成するためになされた一連一体のものである上、Cがみなし公務員となった際にも本件合意やそれに基づいてすでになされていた働き掛けはそのまま維持され、みなし公務員となった後も、さらに協賛金額などスポンサー契約に重要かつ不可欠 な要素について被告人の請託とそれに応じたCの働き掛けが行われた結果、Dのスポンサー契約締結という目的が達成されたのであって、被告人がCに支払った金銭は、Cがみなし公務員となる前後を通じて行った一連一体の各働き掛けに対する不可分の対価として供与されたものと認められるから、その全額が賄賂に当たると認められる。 被告人は、Cが理事に就任した直後にその事実を知り、その後、Cが組織委員会の権限に属するスポンサー契約締結に関して各働き掛けをしたことを認識しながら、その対価としてCに金銭を供与したのであるから、金銭を供与した当時、法律上理事がみなし公務員とされたことを知らなかったとしても、贈賄の故意に欠けるところはない。そして、被告人としては、組織委員 会の理事であるCが働き掛けをしたことへの対価として金銭を供与するにあたっては、関係法令である特別措置法について関心を持ち、Cがみなし公務員となったことを知っておくべきであったといえるから、違法性の 会の理事であるCが働き掛けをしたことへの対価として金銭を供与するにあたっては、関係法令である特別措置法について関心を持ち、Cがみなし公務員となったことを知っておくべきであったといえるから、違法性の意識を欠いていたとしても、そのことに相当な理由があるとはいえない。 2 控訴の趣意 控訴の趣意は、原判決は、証人等や被告人の供述の信用性の検討を怠るなど- 8 - した結果、次のような事実を誤認したというものである。 ⑴ Cの職務権限についてア組織委員会の理事会は、平成27年1月23日開催の第5回理事会において、スポンサー等の決定を代表理事であるN会長に一任することを決議している(原審甲5号証・同意部分)から、理事会にはマーケティング業 務の執行に関する議決権はなく、実際それが付議された事実もない。理事会には、スポンサー契約に関する事項が事後的に報告されることがあり、理事にはこれらの報告事項に関して組織委員会の事務局担当者に質問し、意見を述べる権限があったほか、理事会への議題提案権や理事会招集請求権を有していたが、上記の会長一任決議の経緯から、これらの理事の権限 は個別のマーケティング業務に対して何らの影響を有しない希薄なものであった。したがって、Cが、組織委員会のマーケティング業務に関し、東京2020大会への協賛企業を募るなどの職務に従事していた事実はないから、Cの職務権限に関する原判決の事実認定には事実の誤認がある。 イまた、Cは、代表理事でも、業務執行理事でもなく、N会長からマーケ ティング担当理事としてスポンサー集めを任されていたといった事実も認められない。Cは、マーケティング業務に関する決裁ラインにも入っていなかったし、Cが就任当初に示したマーケティング構想もO事務総長に相手にしてもらえ してスポンサー集めを任されていたといった事実も認められない。Cは、マーケティング業務に関する決裁ラインにも入っていなかったし、Cが就任当初に示したマーケティング構想もO事務総長に相手にしてもらえなかった。Cは、遅くとも上記の第5回理事会以降は、理事としての立場ではなく、専らスポーツコンサルタント業を行う実業家と しての立場から尽力しようとしたものと考えられる。したがって、Cの職務権限に関する原判決の事実認定には誤認がある。 ⑵ Cに対して供与された金員の性質についてア本件においては、組織委員会のマーケティング業務がAによって取り仕切られていたことを前提とし、Aへの働き掛けを可能としたCの立場、A 関係者の意識、被告人自身の認識等を踏まえれば、被告人がCに供与した- 9 - とされる金員は、組織委員会の理事としてではなく、AOBでありスポーツマーケティングの第一人者としてのCが、民間のコンサルティング業者としてBのためにAの関係者へ働き掛け等を行ったことの対価として支払われたものであり、組織委員会の理事としての職務に関し供与されたものではないことが明らかであって、職務の公正さを侵害する収賄罪は成立 しない。 イ実際、Cは、Fの事務所でAの主要メンバーと協議を行っており、自ら手数料を得るという説明をしており、A担当者も、Bから手数料の一部を得るという認識を共有しており、Cの働き掛けをCのビジネスであると捉えていたことは明らかである。 Cは、A退職後の自身のビジネスと同様、Aに対する影響力を駆使して働き掛けを行いつつ、クライアントの要望を実現したものであるし、民間のスポーツ大会であるラグビー・ワールドカップ2019大会の協賛企業となることと連携させてDに対してセールスを行っていたのであって、 き掛けを行いつつ、クライアントの要望を実現したものであるし、民間のスポーツ大会であるラグビー・ワールドカップ2019大会の協賛企業となることと連携させてDに対してセールスを行っていたのであって、被告人がCに供与した金員は正当なコンサルティング報酬である。 ウ被告人がCの依頼に基づき金員をMの口座に入金したのは、A自体のDに対するスポンサーセールスを排除するためCの助言により相談したEに対する報酬も含めた入金であろうと考えたからであって、贈収賄を隠蔽しようとしたものではない。 ⑶ Cの自己がみなし公務員であるという認識等について Cには、組織委員会におけるコンプライアンス研修もなく、自己がみなし公務員であることの認識はなかった。 また、Cがみなし公務員となる前は、Cに対して働き掛けを請託する行為につき受託収賄罪の実行行為を観念することができず、贈賄罪の成立が認められないのに、被告人がCに対して支払った金銭は、Cがみなし公務員とな る前後を通じて行った一連一体の働き掛けに対する不可分の対価として供与- 10 - されたものと認め、その全額が賄賂に当たるとした原判決の判断は不合理である。 ⑷ 被告人の認識について被告人は、平成27年6月25日に特別措置法が施行されたことによりCがみなし公務員となったことは認識していなかった上、Cを、本件合意に基 づいてスポンサーセールスに協力する民間のコンサルティング業者とみており、組織委員会の理事が公務員であることの実質的根拠となる事実の認識もしていなかったから、贈賄罪の規範に直面し反対動機の形成が可能であったとはいえず、故意が認められない。 B内部においても、Cへ手数料を支払うことについて社内決裁が行われ、 それらの過程で何らの問題も指摘されていな 賄罪の規範に直面し反対動機の形成が可能であったとはいえず、故意が認められない。 B内部においても、Cへ手数料を支払うことについて社内決裁が行われ、 それらの過程で何らの問題も指摘されていないし、A関係者からの指摘もなかった。いわゆる「まわし取引」は広告業界において通常行われていることであり、本件の実態も異ならない。 3 当裁判所の判断当裁判所は、被告人に贈賄罪の成立を認めた原判決の判断には、論理則、経 験則等に照らして不合理なところはなく、原判決を支持することができるものと判断した。 そして、控訴の趣意における各主張を検討しても、以下のとおり原判決の判断は揺らがない。 ⑴ 原判決は、罪となるべき事実において、Cが東京2020大会への協賛企 業を募るなどの職務に従事していたという事実を認定してはいない(起訴状の公訴事実にはそのとおりの記載があったが)から、前記2⑴アの主張は失当である。 組織委員会の定款(原審甲3号証添付)上、「理事は、理事会を構成し、法令及びこの定款で定めるところにより、職務を執行する」とされ(25条 1項)、理事会は組織委員会の業務執行の決定や理事の職務の執行の監督を- 11 - その職務としており(31条1・2号)、理事会運営規程(原審甲4号証添付)においては、理事会の決議事項の一つとして組織委員会の業務執行の決定を挙げていた(10条1号)。理事会の決議は、理事の過半数で行われる(定款34条1項)ところ、理事はその前提として、決議事項について意見を述べたり、質問を行ったりする権限を当然に有していたものと解される。 そして、原審関係証拠によれば、平成27年1月23日に開催された第5回理事会で、スポンサー等の決定について代表理事である会長に一任することが決議されたが、理 当然に有していたものと解される。 そして、原審関係証拠によれば、平成27年1月23日に開催された第5回理事会で、スポンサー等の決定について代表理事である会長に一任することが決議されたが、理事会が上記のとおり業務執行の決定や理事の職務の執行の監督等を職務とすることなどを考えれば、理事が意見を述べるなどの権限はこれをもって失われるとは考えられず、現に、それ以降スポンサーの決 定は理事会の報告事項とされたものの、理事会において、理事が組織委員会事務局に対してスポンサー契約に関する質問を行い事務局が回答したこと、同様に理事会の報告事項とされていたライセンス契約に関し理事から意見が述べられて事務局が検討を行ったことが認められ、理事が理事会以外の場面でも事務局に意見、要望を述べて事務局が対応したことなどもあったと認め られる。組織委員会においては理事ごとに職務や役割が定められたことはなく、したがって、上記の一任決議以降も、各理事が、スポンサー契約に関して意見を述べるなどの職務権限を保持していたものと認められる。特に、Cはそのスポーツマーケティングにおける知識、経験や人脈を買われて理事に迎えられたところ、その分野における事項について意見を述べたり、アドバ イスを行うことが期待されていたことがうかがわれる。 したがって、Cが、理事として、組織委員会の業務執行の決定等について議決権を行使するとともに、組織委員会のマーケティング業務に関し協賛企業との契約締結等について意見を述べるなどの業務に従事していたという原判決の認定は相当である上、その権限に基づいて、マーケティング業務の事 務を担う事務局や組織委員会の専任代理店に対して働き掛けを行うことがそ- 12 - の性質上理事の職務に含まれることを認めた原判決の判断に不 、その権限に基づいて、マーケティング業務の事 務を担う事務局や組織委員会の専任代理店に対して働き掛けを行うことがそ- 12 - の性質上理事の職務に含まれることを認めた原判決の判断に不合理な点はない。 ⑵ 本件における経緯についての原判決の前記1⑴の認定は、論理則、経験則に照らして合理的であるところ、その中でも特に、次のような各事情は着目に値する。 ア被告人は、Cが理事に就任した直後に、Cに対し、Dを含むBの取引先企業をスポンサー企業の候補として伝えた。この事実は、Cとの一連のやりとりが具体的に述べられており、客観的な事実経過やL提出のメモ、Cらの手帳等と整合していて信用できる被告人の供述調書(原審乙3号証)により認められる。 イ前記アを受けて、Cは、組織委員会の専任代理店であるAのGやHに対して、自身が組織委員会のマーケティング担当理事であると述べた上で、Bを販売協力代理店とすることやDをスポンサー企業とすることなどについての働き掛けを開始している。この事実は、客観的資料や、それらを裏付けとしかつ相互に整合性の高いH、G、Lらの証 言により認められる。 ウ Cが平成27年2月20日にDのK社長らに会った際、被告人は、Cがマーケティング担当理事として組織委員会の中枢にいる人物であるなどと説明し、Cが競合する他社との間も調整可能であるなどと述べている。この事実は、K社長の供述調書(原審甲86号証)、Jの 供述調書(甲87号証)が一致し、被告人の供述調書(乙11号証)ともおおむね整合するところから認められる。 エ Cは平成30年5月8日頃、すでに組織委員会のマーケティング局長に就任していたHに対して、直接に、Dの協賛金額を7億円に減額するように言い、Hから調整可能という回答を得ている。 ら認められる。 エ Cは平成30年5月8日頃、すでに組織委員会のマーケティング局長に就任していたHに対して、直接に、Dの協賛金額を7億円に減額するように言い、Hから調整可能という回答を得ている。この事実は、 前後の経緯から自然な内容であると認められ、具体的な内容でもあっ- 13 - て信用できるHの証言により認められる。 原判決の認定した経緯、特にこれらア~エの事実などからすれば、Dのスポンサー契約に関するCの一連の言動が民間のコンサルティング業者としてのものではなく、組織委員会の理事としての立場からその職務に関して行われたことは明らかである。 前記2⑵イで指摘される事情も、特段この認定の妨げとなるものとはいえないし、原判決も、前記2⑵ウで指摘される事情を隠蔽工作とみなして本件の認定の根拠としているわけではないから、この主張も採用することができない。 そして、被告人が、Cから自身が組織委員会の理事に就任する見込みであ ることを伝えられた後、本件合意を持ち掛けられたことや、B幹部の了承を得るため部下のPに指示をしながら作成させた資料(原審甲73号証資料1)にも、Bと密接な繋がりを構築した関係者が組織委員会の理事に選出させる見通しであることが記載されていること、上記のとおり、Cが理事に選出された後にD等をスポンサー契約のセールス先としてCに伝えたり、CがD社 長らと会った際にもその立場をマーケティング担当理事であるなどと紹介していることなどを踏まえれば、被告人にも、Cに対する種々の働き掛けの依頼や金銭の供与は、Cの組織委員会の理事としての職務に関して行っているという認識があったことは明らかである。 ⑶ 原判決は、罪となるべき事実において、被告人が、平成27年6月25 日から令和3年1月頃まで 、Cの組織委員会の理事としての職務に関して行っているという認識があったことは明らかである。 ⑶ 原判決は、罪となるべき事実において、被告人が、平成27年6月25 日から令和3年1月頃までの間、それ以前の依頼に引き続き、Dが負担する協賛金を減額してもらいたい、スポンサー契約の締結を迅速に行ってもらいたい、契約の延長に伴う追加協賛金の減額をしてもらいたいなど、Bに有利かつ便宜な取り計らいをしてもらいたいという趣旨の請託をしたことや、Cに対する金員の供与を令和2年1月31日及び令和4年2月9日 に行った事実を認定している。平成27年6月25日以降の請託に基づく- 14 - 働き掛けは、それまでの働き掛けに基づく組織委員会とのやり取りやDとの関係進展を踏まえつつも、Dのスポンサー契約を成立させそれによりBが手数料を受領するという本件合意の目的を達成するために不可欠であったものであり、前記2⑶のうちCがみなし公務員となった平成27年6月25日より前の実行行為が観念できないという主張は失当である。 また、上記のとおり、平成27年6月25日以降の働き掛けはそれより前の働き掛けを前提としたものとなっており、被告人がCに供与した賄賂には、Cがみなし公務員になる前になされた働き掛けに対する趣旨も含まれるとみうるが、以降の働き掛けとあいまって成果に結びついたものである以上、両者は一連一体として区分できず、全額が賄賂に当たるとした原判決の判断に も不合理な点はない。 さらに、Qの供述調書(原審甲17号証・同意部分)によれば、組織委員会の総務局総務部総務課長であったQは、特別措置法により理事がみなし公務員として取り扱われることとなることを知り、特に民間出身者向けにみなし公務員となった場合の留意点について周知する必要があると 員会の総務局総務部総務課長であったQは、特別措置法により理事がみなし公務員として取り扱われることとなることを知り、特に民間出身者向けにみなし公務員となった場合の留意点について周知する必要があると思い、特別措 置法の施行直後に、組織委員会の役職員がみなし公務員となり、公務員のみに適用される刑法等の罰則の適用対象となるという文書を作成し、組織委員会の役職員に対して周知したと述べており、この供述は、添付された文書によって裏付けられていることや総務課長としての職務上当然のことであることからして信用するに足りるものである。Qは、上記のとおり特に民間出身 者に対して周知する必要があると思ったと述べており、この周知にもかかわらず、自己がみなし公務員となったことをCが認識しなかったとは考えられない。Eは、原審公判廷において、時期は覚えていないが、Cから「何か俺、みなし公務員になったらしい」と聞かされたと述べており、この証言は、自己の反応を含めた具体的な内容であって、虚偽の事実を述べてあえてCを陥 れるような事情はE自身に全くうかがわれないことからすると信用できると- 15 - ころである。これらから、Cに、自己がみなし公務員になったという認識があったことは明らかである。 ⑷ 一方で、確かに、組織委員会の役職員を刑法その他の罰則の適用については公務に従事する職員とみなすという特別措置法の条文の内容を被告人が認識していたことを認めるに足りる証拠はない。しかし、被告人は、東 京2020大会が、国の内外から高い注目を浴びる大規模な大会であり、国、東京都、各種団体等が一丸となって取り組んでいるもので、その準備及び運営資金には税金が投入され、国の施設も利用される公益性や公共性が高い国家的プロジェクトであることや、組織委員会が、 会であり、国、東京都、各種団体等が一丸となって取り組んでいるもので、その準備及び運営資金には税金が投入され、国の施設も利用される公益性や公共性が高い国家的プロジェクトであることや、組織委員会が、民間からの出向者のみならず、国や東京都の職員で構成されていることを認識していたこ とを自認しており、請託や金銭供与に当たって、組織委員会の業務執行においては高い公正性、適正性が求められ、その役職員の職務に関し金銭を供与すれば違法の評価を受けることを当然認識できるだけの基礎事情、すなわち、組織委員会の役職員が公務員とみなされて賄賂罪の適用の対象となることの実質的な根拠となる事実の認識があったと認められる。被告人 は、Cが組織委員会の理事であったことの認識があったことは明らかであり、したがって、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできず、かつ、違法性の意識を欠いていたとしても、そのことに相当な理由があるとはいえないとした原判決の判断に不合理な点はない。 第3 量刑不当について 被告人は、広告代理店の執行役員等として、東京2020大会において、自社の取引先企業に組織委員会とスポンサー契約を締結させるため、同大会のマーケティング業務に関する権限を有していた組織委員会の理事に対し、多数回にわたり請託をして取り計らいを受け、その対価として合計650万円余りの賄賂を供与したものである。被告人が供与した賄賂は多額である上、スポンサ ーを決定する手続をゆがめ、東京2020大会の運営に対する社会の信頼を失- 16 - わせた結果も軽視できない。前記のとおり、被告人にCがみなし公務員となったという認識があったとは認められないことを踏まえても、同種事案の量刑傾向を参照すれば、前科がない被告人を懲役2年、4年間執行猶 わせた結果も軽視できない。前記のとおり、被告人にCがみなし公務員となったという認識があったとは認められないことを踏まえても、同種事案の量刑傾向を参照すれば、前科がない被告人を懲役2年、4年間執行猶予に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。 控訴の趣意は、被告人がCに報酬を支払うことが贈賄罪に該当すると認識で きなかったことに斟酌すべき事由があるから、刑法38条3項ただし書により刑を減軽すべきであるのに、減軽をしなかった原判決の量刑は重過ぎて不当であるというものである。 しかし、前記第2の3⑷で述べた事情からは、被告人に、違法性の意識を欠いたことにつき特段に斟酌すべき事由があるとはいえず、刑法38条3項ただ し書に基づく減軽をしなかった原判決の判断に何ら不当な点はない。 第4 結論及び法令の適用したがって、控訴には理由がないから、刑訴法396条により棄却することとして、主文のとおり判決する。 令和6年11月26日 東京高等裁判所第10刑事部 裁判長裁判官細田啓介 裁判官柴田誠 裁判官中桐圭一は差支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官細田啓介
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