主文 1 被告は,原告GAに対し,3278万9959円,原告GBに対し,3278万9959円,及びこれらに対する平成12年7月10日から各完済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを50分し,その1を原告らの,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,第1項につき,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告GAに対し,3313万2049円,原告GBに対し,3313万2049円及びこれらに対する平成12年7月10日から各完済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告GAに対し,81万0282円及びこれに対する平成11年4月20日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被告に雇用され,競走馬育成のための調教業務に従事していた原告らの二男である亡GC(以下「亡C」という。)が,落馬して馬に腹部を踏まれるか蹴られるかして,肝臓断裂の傷害を負い,肝損傷による出血により死亡した事故(以下「本件事故」という。)について,被告には安全配慮義務違反があったと主張する原告らが,被告に対し,損害賠償を求めるとともに,被告が,H農業協同組合(以下「H農協」という。)との間で,亡Cを被共済者,原告らを受取人,受取人代表者を原告GA(以下「原告A」という。)として締結していた傷害共済契約に基づく共済金について,被告が,H農協をして共済金から一定額を控除した額を原告Aに送金させ,控除額を被告に送金させたことは,不法行為又は不当利得に該当すると主張して,原告Aが,被告に対し,損害賠償又は不当利得の返還を求めるものである。 2 争いのない事実等(1) 原告らは,亡Cの実父母であり,かつ,相続人であって,亡Cの相続人らは 当利得に該当すると主張して,原告Aが,被告に対し,損害賠償又は不当利得の返還を求めるものである。 2 争いのない事実等(1) 原告らは,亡Cの実父母であり,かつ,相続人であって,亡Cの相続人らは,原告ら以外には存在しない。 被告は,競走馬の生産,育成を事業目的とする有限会社である。 (2) 亡Cは,昭和58年3月8日に原告らの二男(甲1)として出生し,平成11年1月下旬,北海道I職業安定所の紹介により,被告との間で,競走馬の調教を担う牧夫として労働契約を締結し(亡C当時15歳),同年2月2日から,被告の本店所在地で被告が経営する牧場(以下「被告牧場」という。)において,就労を開始した。 (3) 亡Cは,早く来てほしいとの被告の希望で,同年2月1日に父である原告Aと共に,被告牧場を訪ね,翌2日から就労することになったものである。 なお,休日は月2日との契約であったが,被告の話では,毎月20日締めで従業員の中で調整して月2日の休日を決めるため,亡Cの就労時には既に他の従業員の2月の休日予定がすべて決まっており,亡Cについては,同年2月20日以降に2日の休日を予定していたとのことであった。 したがって,亡Cは,同年2月2日に勤務を開始して以来,本件事故が発生した同月17日まで,16日間連続勤務であった。 (4) 亡Cは,同年2月2日から同月13日までは,パートの女性従業員と馬房掃除(馬房内の汚れた寝藁の交換)に従事した(馬房掃除が午前中のみであったかについては争いがある。)。 亡Cは,同月14日午前は馬房掃除に従事し,同日午後から同月16日まで,被告牧場のD場長(以下「D場長」という。)の指導の下で騎乗訓練をした(騎乗訓練が,馬房掃除等の補助作業に従事しながら,D場長の仕事の手が空いたときになされたものであるかについては争いがある。) ,被告牧場のD場長(以下「D場長」という。)の指導の下で騎乗訓練をした(騎乗訓練が,馬房掃除等の補助作業に従事しながら,D場長の仕事の手が空いたときになされたものであるかについては争いがある。)。 亡Cは,馬に一人で乗ること,鐙の長さを調節すること,鞍を付けることができ,手綱の持ち方を知っていた。 亡Cは,同月17日からは,一人で騎乗し,他の経験者と同じスケジュールで3歳馬の調教業務に参加し,午前中4鞍(鞍付けから始まる調教の工程単位を鞍といい,1鞍に約30分の時間を必要とする。)終了し,午後の2鞍目の同日午後2時30分ころ,被告牧場のトレーニングセンター屋内円形馬場内で本件事故が発生した。 (5) 本件事故は,亡Cを含む6名で各1頭ずつ6頭の馬に騎乗し,2列縦隊で入口から円形馬場に入り,左回りに「並足」で1周300メートルのコースを入口の反対側まで半周分進行した後,亡C騎乗の馬が前を行くD場長ら騎乗の2頭の馬の間を抜けていった地点で発生した。なお,亡Cは,上記6頭の馬のうち,先頭から2列目,2列縦隊の内側(円形馬場の中心側)の馬に騎乗していた。 前記6頭の馬が,円形馬場の入口の反対側に達し,1列目の2頭が速度を「ダク(速足(トロット)と軽速足(ライジング・トロット)を含むが,本件の場合は軽速足)」に変えてスタートし,一定の間隔をあけて2列目の2頭(内側が亡C)が「ダク」で正にスタートしようとした際,亡Cの騎乗していた馬が,1頭だけスッと先に抜け出し,やや速めの「ダク」で,先にスタートした1列目の2頭の間を抜けて,円形馬場の反対側の方へ走って行った。この時,目撃した者によれば,亡C騎乗の馬は,走り出してから次第に速くなり「キャンター(駈足)」になった。また,亡Cは,従前教えられていたとおり,馬を止めようとする動作をしていた。 走って行った。この時,目撃した者によれば,亡C騎乗の馬は,走り出してから次第に速くなり「キャンター(駈足)」になった。また,亡Cは,従前教えられていたとおり,馬を止めようとする動作をしていた。 他の騎乗者は,亡Cの騎乗していた馬を止めるため,馬を反転させ,逆回りに移動し,4分の1周ほど進行したところで,亡Cが円形馬場入口から右へ少し入った外側の壁際で,ずり落ちるように落馬したのを目撃した(D場長が直接目撃したのか,円形馬場のフェンス越しに目撃したにすぎないのかについては争いがある。)。 他の騎乗者らが,亡Cの落馬地点に到着したところ,亡Cは,腹を押さえうずくまり,「痛い,痛い。」とうめいていたので,被告の手配により,いったん地元の医師の元に運ばれた後,苫小牧市立総合病院に搬送されたが,亡Cは,肝臓断裂の傷害を負っており,同月19日午後11時5分,肝損傷による出血により死亡した。なお,亡Cの治療に当たった医師によれば,肝臓が鋭利に断裂しており,馬に腹部を踏まれた(又は蹴られた)ものと考えられるとのことであった。 (6) 亡Cは,本件事故当時,15歳の少年であり,同月2日に就労を開始してから16日目で,他の経験者と共に3歳馬の調教作業を開始したその初日の事故であった。 競走馬の育成業務は,騎乗している調教中の馬が暴れたり,予想外の行動をとることが当然に予想され,常に落馬等の危険性を帯有する危険度の高い業務である。 (7) 原告らは,本件事故に関し,傷害共済保険から893万3202円を受領し,労災保険給付として,遺族補償一時金500万円,葬祭料一時金45万5000円,遺族特別支給金300万円の支給を受けた。 (8) 被告は,H農協との間で,平成11年2月4日,亡Cを被共済者とする死亡共済金1000万円,入院共済金日額5000円,通院共済金日 金45万5000円,遺族特別支給金300万円の支給を受けた。 (8) 被告は,H農協との間で,平成11年2月4日,亡Cを被共済者とする死亡共済金1000万円,入院共済金日額5000円,通院共済金日額3000円の傷害共済契約を締結した。 同年2月19日,本件事故により被共済者の亡Cは死亡し,死亡共済金1000万円及び入院共済金1万5000円(入院期間3日間),手術共済金10万円の合計1011万5000円(以下「本件共済金」という。)について共済金支払事由が発生したため,同年3月15日,原告らは,H農協に対し,本件共済金の支払請求をした。 被告は,本件共済金のうち118万1798円をH農協から送金を受けて受領した。 3 争点(1) 本件事故の原因と被告の責任についてア原告らの主張(ア) 亡Cの被告就職後の就業状況亡Cは,平成11年2月2日,就労を開始し,同日から同月13日午前まで馬房掃除(馬房内の汚れた寝藁の交換)に従事した。 同月14日午前も馬房掃除に従事し,同日午後から,屋内角馬場にて,騎乗訓練を開始し,放牧地から馬を引いて鞍付けをし,飛び乗りを1頭につき各30回ずつ(左右)10分間くらい行い,その後並足までの歩行訓練を行うことを,二,三頭について馬を替えて行った。 同月15日,16日は,いずれも1日六,七頭(午前中三,四頭)の馬を替えて,放牧地から馬を引いて鞍付けをし,飛び乗りを午前中三,四頭について1頭につき各30回ずつ(左右)10分間くらい行い,その後並足までの歩行訓練(1頭につき角馬場5周くらい)を行い,同月15日の午後から16日までの1日半はダクの練習(1頭角馬場5周くらい)を行い,同日の最後からD場長は引き綱を持たずに見ていた。 同月17日は,円周300メートルの円形馬場に初めて出て,6頭の部班で,ダクの から16日までの1日半はダクの練習(1頭角馬場5周くらい)を行い,同日の最後からD場長は引き綱を持たずに見ていた。 同月17日は,円周300メートルの円形馬場に初めて出て,6頭の部班で,ダクの調整作業に従事し(午前4頭,午後2頭それぞれ馬を替えて),午前4鞍消化し,午後2鞍目で本件事故が発生した。 なお,亡Cについて,同月2日の就労開始から本件事故が発生した同月17日までの16日間,休日は与えられていなかった。 (イ) 亡Cの被告就職時点における騎乗経験及び技量亡Cは,J乗馬協会で,平成10年12月まで半年ほど(週1回程度)乗馬用の馬の乗馬経験があった。 同月末の時点における亡Cの乗馬に関する技量は,乗馬用の馬で,ダクまでできるくらいであったが,いまだキャンターの練習に入る段階ではなく,キャンターの練習はしていなかった。 上記の乗馬教室主催者のEが,亡Cの育成牧場への就職希望を聞いて,平成10年12月にキャンターの歩様(動き)を体験させるため,調馬索にてキャンターの体験をさせたのが唯一のキャンターの体験であった。 (ウ) 亡Cの落馬の原因本件事故の発生状況によれば,6頭が2列縦隊で並足で円形馬場を半周し,その後,集団でダクに移ることにし,一番先頭だったD場長が声を掛け,先頭の2頭がダクを踏み始め,2列目の人たちが続いてダクを踏み始めるその瞬間に,亡Cの騎乗していた馬が走り出した。亡Cは,乗馬クラブでのレッスンにより,出ようとする馬の状況を察知することができる程度の乗馬経験は積んでいた。しかしながら,本件事故当時,騎乗馬が走り出すことを察知できず,あるいは,察知したときには騎乗馬をコントロールできない状態になっていたことから,亡Cの騎乗馬は走り出してしまった。 これは,亡Cには,就業以来16日間連続勤務で休日がなく,かつ,同 を察知できず,あるいは,察知したときには騎乗馬をコントロールできない状態になっていたことから,亡Cの騎乗馬は走り出してしまった。 これは,亡Cには,就業以来16日間連続勤務で休日がなく,かつ,同月14日から17日にかけてのベテラン牧夫と同一のメニューによる集中的な(換言すれば,過酷な)騎乗訓練によって,体力が消耗し,集中力を持続させることができない状況に陥っていたことが原因であると考えられる。 また,馬が走り出した原因は不明であるが,「馬が何かに驚いた」という理由以外に,騎乗していた亡Cが,馬がキャンターの扶助であると誤解するような刺激を与えてしまったことも,原因として考えられる。なぜなら,亡Cの騎乗馬は,キャンターまでの訓練を経ているので,キャンターの扶助を知っているのに対し,亡Cにおいては,キャンターの騎乗訓練を経験していないので,キャンターの扶助の仕方を知らず,誤解を与えるような動きを防止しようとする意識を期待することができないからである。このような,馬が誤解するような扶助をしてしまった原因は,亡Cが疲労によって,騎乗馬に対する扶助の扱いが乱暴になってしまったことが考えられる。 亡Cの騎乗馬が走り出した後,普通にキャンターを踏むような動作並びに速さで走っていった。亡Cは,馬を止めようとした動作をしていたが,騎乗馬は止まらなかった。これは,騎乗者が止めるつもりになってそのような動作をしても,現実に,馬にその操作の合図が伝わっていなかったものと考えられる。その原因は,亡Cが,疲労並びに経験不足によって,乗り手の意思がしっかりと伝わるような手綱さばきができなかったところにある。 結果的に,亡Cの騎乗馬は,普通にキャンターを踏むような動作並びに速さで走っていったにもかかわらず,亡Cは,壁際で落馬してしまった。亡Cが,仮にキャンタ な手綱さばきができなかったところにある。 結果的に,亡Cの騎乗馬は,普通にキャンターを踏むような動作並びに速さで走っていったにもかかわらず,亡Cは,壁際で落馬してしまった。亡Cが,仮にキャンターの練習をしていたら,騎乗馬が意思に反して走り出してしまっても,慌てずに落ち着いて乗っていられた。仮に馬を止めることができなくても,落ち着いて円形馬場の円に沿って乗り続けることができれば,馬も落ち着き,止める機会も出てくるのであるが,亡Cは,キャンターの経験がないため,騎乗馬が走り出したことで慌ててしまい,止めることだけしか頭になく,バランスを崩して壁際に落馬してしまったのである。 (エ) 被告の安全配慮義務違反の存在a 従業員が,就業中に馬に蹴られるか踏まれて死傷した場合に,この事故が使用者の義務違反ないしは過失によって生じたとき,使用者は,債務不履行(民法415条)又は不法行為(民法715条,709条)に基づく損害賠償責任を負う。すなわち,使用者は,労働契約上の信義則(民法1条2項)に基づき,従業員の生命及び健康を当該業務から生ずる危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている(最高裁昭和50年2月25日判決)。この安全配慮義務とは,使用者が,その業務遂行に内在する危険を予め管理者として予測し,これらの危険を排除すべく,諸条件を整備して,従業員の生命,健康等を保護すべき義務のことをいう。 b 本件において,被告は,「馬というものは一般に敏感かつ臆病な動物であり,何かの音や動きに驚いて急に暴れ出したり,騎乗者からの止まれの指示に対しても興奮などのためその指示を無視することなど日常的なことであ」ると主張しており,被告は,管理者として,競走馬の調教業務に上記のような危険が本来的に内在することを予め明白に予測しかつ予見していた。 も興奮などのためその指示を無視することなど日常的なことであ」ると主張しており,被告は,管理者として,競走馬の調教業務に上記のような危険が本来的に内在することを予め明白に予測しかつ予見していた。 本件の調教業務においても,亡Cの騎乗馬が,何かに驚くなどして,騎乗者の指示に反して走り出す等の事態が生じ得ることは,被告において容易に予見し得たものである。したがって,被告には,亡Cをかような馬の調教業務に従事させる際には,上記のような想定される危険を排除すべく,亡Cに対しては,少なくともキャンター状態の騎乗馬にバランスを崩すことなく騎乗し続け,あるいは,キャンター状態の騎乗馬をコントロールし得るだけの力量を備えさせてから従事させるべき,業務上の注意義務を負っていた(仮に,本件の調教業務が,亡Cに対しての騎乗訓練の性格を併有していたとしても同じである。)。 c 上記のとおり,亡Cは,キャンターの練習経験がなかったことから,亡Cの騎乗馬が走り出した後,普通にキャンターを踏むような動作並びに速さで走っていったにもかかわらず,バランスを崩して壁際で落馬してしまったものである。仮に,被告が,亡Cに対し,キャンターの訓練をしていたならば,壁際での落馬という事態を回避し,本件事故を回避することができたがい然性が極めて高い。被告は,亡Cに対し,訓練の方法として,調馬索を使用するなどの方法で,指導者が,地上から,亡Cの騎乗馬をコントロールし得る状態において,キャンターの状態における騎乗姿勢やバランスの取り方,手綱の持ち方,馬の制御の仕方などについて経験を積ませ,キャンター状態の騎乗馬にバランスを崩すことなく騎乗し続け,かつ,キャンター状態の騎乗馬をコントロールし得るだけの力量を備えさせてから,(亡Cに対しての騎乗訓練の性格を併有しているとされる)本件の調教 ンター状態の騎乗馬にバランスを崩すことなく騎乗し続け,かつ,キャンター状態の騎乗馬をコントロールし得るだけの力量を備えさせてから,(亡Cに対しての騎乗訓練の性格を併有しているとされる)本件の調教業務に従事させるなどの手段をとることができたのである。 現実に,その他の育成牧場においても,調馬索によるキャンター練習を採用し,キャンター練習の経験を重ねてから調教実務に段階的に従事させる取扱いをしているのである。しかるに,このような訓練を怠り,キャンター練習を経験させないまま,1周300メートルの円形馬場で部班でのダクの集団調教業務に参加させたところに,被告の根本的な過失がある。 d さらに,初心者であり,かつ,就労し始めて16日もの間,全く休日を与えられていなかった亡Cに対しては,その疲労度を考慮し,使用者として,事故防止の見地から,(当初は初心者として集中力が持続できる限度である1日1鞍から始め,状況を見て,次第に亡Cの従事する鞍数を増やしていくなど)段階的に調教業務に従事させるべきであった(このことは,仮に騎乗訓練の性格を併有するとされる調教業務の場合でも異ならない。)にもかかわらず,当初から,経験者と全く同じスケジュールで,午前中4鞍,午後2鞍という目一杯の調教業務に参加させていたことにも,本件事故の原因があるのである。けだし,疲労していなければ,亡Cにおいて,馬が動き出そうとする状況を察知し,その段階で馬を制止することができた可能性が高く,本件事故を防止し得たがい然性が極めて高いのである。ほかの育成牧場においても,新人の調教実務の従事については,体づくりができていないため,体力面や精神面を考慮し,段階的に作業量を増加させていく措置をとっている。被告は,このような配慮が可能であったにもかかわらず,これを怠り,その結果,本件事故を招 ついては,体づくりができていないため,体力面や精神面を考慮し,段階的に作業量を増加させていく措置をとっている。被告は,このような配慮が可能であったにもかかわらず,これを怠り,その結果,本件事故を招来したものである。 e また,騎乗の際には,事故防止の見地から必要とされているヘルメットのほかに防護服(中央競馬の騎手は防護服(防護ベスト)を着用すべきこととされている。)の着用をさせるべき業務上の注意義務があったにもかかわらず,被告は,本件事故の際,亡Cに対し,ヘルメットは着用させたものの,防護服を着用させなかった(被告においては,本件事故当時,防護服の用意もしていなかったのである。)結果,死亡という結果を生じさせたものである。 本件事故は,騎乗馬に踏まれたか蹴られたかして,肝臓断裂の傷害を負ったものと考えられるが,腹部にかかる防護服を着用すれば,圧力が分散され,死亡という最悪の結果を防止することができたものと考えられる。なお,他の育成牧場においても,防護服を着用して調教に当たり,かつ,いつでも着用できるよう準備しており,被告においても,本件事故発生の2か月後(平成11年4月ころのことであり,本訴提起の1年3か月も前のことである。)には防護服の着用を義務づけていることからも,防護服が事故防止や損害拡大の防止に有用であること,並びに被告が事故防止に防護服着用が有益であることを認識するに至ったことは,明らかである。 イ被告の主張(ア) 落馬という事態は,騎乗を前提とする業務に従事する以上避け難いことであり,まして後続の馬が前方で落馬した者を避けきれずに踏んでしまったというのであれば格別,騎乗馬自体が落馬した当該騎乗者の人体,特にその腹部を踏みつけるなどということは,通常予測し得ない事態であって,本件事故は不可抗力というほかはなく,被告に法 ずに踏んでしまったというのであれば格別,騎乗馬自体が落馬した当該騎乗者の人体,特にその腹部を踏みつけるなどということは,通常予測し得ない事態であって,本件事故は不可抗力というほかはなく,被告に法的責任はないものといわざるを得ない。 (イ) 亡Cに対する就労指導の実際乗馬クラブでの騎乗体験を有していたとはいえ,亡Cが育成牧場で新馬の調教に従事することは初めてのことであったため,主として危険防止の観点から,被告牧場のD場長は,亡Cに対して,おおむね以下のとおりの就労指導を行った。 a 平成11年2月1日採用決定の日であり,この日は就労させなかった。 b 同月2日から同月13日まで午前中はパートの従業員と共に寝藁の交換作業に従事させ,午後はD場長はじめ先輩牧夫の調教振りを見学させた。時に馬の手入れや鞍付け作業を手伝わせたりした。 c 同月14日この日は日曜日でパート従業員が休みのため,午前中は牧夫全員で寝藁の交換作業に従事し,午後からは屋内角馬場にてD場長の指導の下,騎乗訓練を行った。その内容は騎乗馬への飛び乗り練習と並足による騎乗訓練であり,同騎乗訓練中,D場長は騎乗馬の脇で引き綱を持って共に歩行し,馬の暴走(騎乗者の意図に反する行動)を予め抑止するとともに,万が一「かかった(馬の興奮状態)」場合の制御に備えた。 なお,この日は日曜日で本来牧夫たちは騎乗しない日であったが,亡Cのための訓練中に同騎乗馬が1頭のみで不安がることからくる危険(の可能性)を防止するという観点から,他の牧夫たちにも同じ屋内角馬場にてダクまでの調教に従事させた。また,同騎乗馬には調教が進んでいて気性のおとなしい馬を選ぶとともに馬の首の根元にロープを巻いて落馬防止の措置を講じた。 d 同月15日この日の午前中は前日と同様に飛び乗りと並足での騎乗訓練に従 た,同騎乗馬には調教が進んでいて気性のおとなしい馬を選ぶとともに馬の首の根元にロープを巻いて落馬防止の措置を講じた。 d 同月15日この日の午前中は前日と同様に飛び乗りと並足での騎乗訓練に従事し,午後からダクまでの訓練に移行した。この際もD場長は騎乗馬の引き綱を持って,馬と共に走って,並足の時と同様に暴走の防止に努めた。もっとも,最後のころには引き綱を持たず,屋内角馬場の中央から亡Cの騎乗を見守った。 なお,他の牧夫も同じ屋内角馬場にてダクまでの調教に従事させたこと,気性のおとなしい馬を選んだこと,馬の首にロープを巻いたことは前日と同様である。 e 同月16日この日も前日と同様の条件下で,同様の訓練を行ったが,亡Cは馬を暴走させることもなく無難にダクをこなしており,この騎乗振りから,D場長は,翌日から集団によるダク調教に参加させる力量が備わっていると評価した。 f 同月17日この日から亡Cを集団によるダクまでの調教(騎乗訓練)に従事させたが,D場長は,亡Cの騎乗馬に気性のおとなしい馬を選ぶとともに,隊列上も2列目の内側に配置し,自らは前列,同列,後列とその位置を移動させて,様々な角度から亡Cの騎乗姿勢を監視し,問題点の把握に努めた。 なお,午前中に4鞍の調教(騎乗訓練)を行ったが,亡Cは馬を暴れさせることもなく,無難に騎乗をこなした。そして,休憩を挟み,午後の2鞍目に本件事故が発生した。 (ウ) D場長の理にかなった指導の一貫性D場長は,騎手学校を卒業して,現実にも騎手として競走馬の騎乗体験を有し,育成牧場での新人牧夫の教育にも相当年数従事しているところ,上記のとおり,亡Cが乗馬クラブでの騎乗経験を有していたとはいえ,D場長の亡Cに対する指導内容は,牧場生活への親和や新馬の生態学習や騎乗技術に関しても,亡Cの力量を見 にも相当年数従事しているところ,上記のとおり,亡Cが乗馬クラブでの騎乗経験を有していたとはいえ,D場長の亡Cに対する指導内容は,牧場生活への親和や新馬の生態学習や騎乗技術に関しても,亡Cの力量を見定めながら段階的に実践していったことが明らかであって,極めて理にかなったものということができる。 (エ) キャンターによる騎乗訓練を先行させるべきとの原告ら主張について原告らは,亡Cが落馬する直前の騎乗馬の速度がキャンター程度の速度であったことをとらえ,亡Cに予めキャンターの訓練を施しておけば,馬をコントロールでき,落馬を防止できた旨主張する。 しかしながら,かかる主張は,騎乗の本質(どのような経験者でも落馬はあり得ること)や訓練の有り様(訓練に当たり遵守されるべき準則)とかけ離れた立論であって,結果論的にも承服できない。 第1に,前記のとおり,D場長は,亡Cの力量を踏まえ,並足からダクへと段階的に訓練を実施したものであり,そのこと自体非難されるべき理由は全くなく,キャンターによる騎乗は,かかる訓練を積んでからその後に実施されるべき訓練というべきだからである。原告らは,馬の暴走(騎乗者の意図に反する行動)や落馬が並足の時でもダクの時でも起こり得ることの理解を欠落しているものといわざるを得ない。並足の騎乗もダクの騎乗も十分でない亡Cに,調馬索を用いるとはいえ,予めキャンターによる訓練を実施させるべきとの主張は,騎乗訓練は段階的に進められるべきとの原告らが証人として申請したEの証言にも矛盾するものとのそしりを免れない。また,調馬索を用いたキャンターは,「ダクに毛の生えた」程度のものであって,当然のことながら速度に限界があり,これによる落馬の危険をも考えると,並足やダクでの騎乗を積み重ねることの方が,より適切な訓練であるというべきだからであ は,「ダクに毛の生えた」程度のものであって,当然のことながら速度に限界があり,これによる落馬の危険をも考えると,並足やダクでの騎乗を積み重ねることの方が,より適切な訓練であるというべきだからである。 なお,原告らの見解や論法に従うと,仮にかかるキャンターの訓練中に事故が発生したとすると,並足やダクでの騎乗体験が十分でないことを理由に,かかる訓練指導者の責任を追及することになるのであろうが,もはやこれは結果論としての域を出ないものと指摘せざるを得ない。 第2に,原告らの立論は,馬の速度がキャンター程度であったことを殊更に重視し,いわば結果論的に被告の非をあげつらうものであるが,仮に亡Cに対し,原告らが想定するキャンター訓練を施していたとしても,馬の暴走や落馬自体は騎乗経験の多寡を問わず,また,並足においてもダクにおいても起こり得るとの命題を承認する限り,本件の落馬を防止できたとは到底いい得ないからである。落馬を防止できたとする特段の証拠はないし,かかる因果関係についての証明責任は原告らが負っているというべきである。 (オ) 被告が実施した集団による訓練の妥当性(エ)において,被告は,原告らの「キャンターによる訓練を実施しておくべきであった」との自己矛盾的主張に反論を加えたが,原告らの主張には「集団的調教に従事させる前にキャンターをも含んだ訓練を十分に積んでおく必要があった」とする趣旨を含むものと善解することもできるので,以下この点について反論する。 馬を集団的に行動させることの方が,馬も落ち着き,暴走防止につながることは,証人としてのE自身も認めている馬の習性である(なお,乙13の1においても「数頭の馬で連なって運動をする「部班(ぶはん)」で練習するとよい」と記されている点を参照されたい。)。加えて,騎乗訓練は並足に始まって,ダク, も認めている馬の習性である(なお,乙13の1においても「数頭の馬で連なって運動をする「部班(ぶはん)」で練習するとよい」と記されている点を参照されたい。)。加えて,騎乗訓練は並足に始まって,ダク,キャンター,ギャロップと段階的にレベルを高めていくべきこと,馬の暴走を抑止する原則的な方法は手綱を引いて馬の行動を抑止すること,馬は並足においてもダクにおいてもキャンターにおいても騎乗者の意図に反する行動を起こし得るものであること等の事情を踏まえると,被告が亡Cに対する訓練の方法として,他の牧夫と共に集団的にダクまでの騎乗をさせたこと自体に非難されるべき点は全くないものといわざるを得ない。なお,被告が再三指摘しているように,騎乗される馬にとっては調教の一環ではあっても,騎乗者から見れば騎乗訓練というべきものであって,原告らは繰り返しこれを「調教業務」と表現することにより,かかる事柄の両側面を意図的にか混同させ,誤解に導く主張を展開している。 (カ) 本件事故は亡Cの疲労によるものか確かに,亡Cが本件事故までの16日間,休日を取ることなく就労していたことは,原告ら指摘のとおりである。したがって,一般論的に「中間に休日を取っていた場合と比較して,精神的,肉体的な疲労度に差異がある」と指摘されたとしても,被告として有効な反論はなし得ない。 しかしながら,本件における問題は,そのことの労働法制上の当否ではなく,本件の落馬による亡Cの死亡とかかる疲労との間に因果関係があるかどうかという損害賠償請求権の存否にかかわる法的判断の是非にある。 ところで,原告らの主張は,慣れない生活の中で16日間就労を続けたという外形的事実のみをその根拠とするものである。もっとも,証人Eは,亡Cの体験した肥育牧場での餌やり作業との比較や,自らの寝藁交換作業経験等を念頭に, 主張は,慣れない生活の中で16日間就労を続けたという外形的事実のみをその根拠とするものである。もっとも,証人Eは,亡Cの体験した肥育牧場での餌やり作業との比較や,自らの寝藁交換作業経験等を念頭に,亡Cが相当に疲労していた旨の推測を証言しているが,肥育牧場における作業や被告における寝藁交換作業の実際を知らずに,亡Cの現実の疲労度を推測できるとは考えられないから,かかる証言をもって本件事故に結びつき得る疲労があったものと判断することは到底できないものといわざるを得ない。 この点における判断に関しては,既述のとおり,亡Cが従事した寝藁交換作業は,あくまで牧場生活への親和や理解が主目的であって,作業自体は女性パート従業員のなすべきこととされ,亡Cはその補助としてかかわったにすぎないものであること,かかる補助作業も午前中のみであり,午後はD場長らの調教振りを見学していたにすぎないこと,本件事故は亡Cが馬に騎乗し始めた4日目であること,亡Cは将来騎手になることを志望して,被告へ就職するに至ったものであるから,馬への騎乗は職務であると同時に自らの志望を実現するに欠くことのできない手段であり,また自らもこれを強く望んでいたこと,被告関係者の観察では,亡Cは明るく元気に牧場生活を楽しんでいたこと等の諸事情が考慮されるべきである。 なお,疲労が本件事故の原因となっているとの因果関係についても,原告らに立証責任があるというべきである。 (キ) 防護服の着用について原告らは,亡Cに防護服を着用させていれば,死亡という最悪の事態は防止できたとして,防護服を着用させなかった被告の不作為が安全配慮義務違反を構成すると主張している。 しかしながら,かかる防護服を着用させることにより,機敏かつ柔軟な動作が妨げられ,かえって落馬を招きかねないとの評価から,現実にはほとんど た被告の不作為が安全配慮義務違反を構成すると主張している。 しかしながら,かかる防護服を着用させることにより,機敏かつ柔軟な動作が妨げられ,かえって落馬を招きかねないとの評価から,現実にはほとんどどこの育成牧場でも,また,キャンターやギャロップでの調教を実施するために設けられた中央競馬会運営のトレーニングセンターにおいても使用されていないのが実状であって,原告らの主張は憶測に基づく単なる結果論にすぎない。 なお,原告らは,「中央競馬の騎手は防護服(防護ベスト)を着用すべきこととされ,現実に皆着用している事実に留意されたい」と指摘しているが,明らかな誤解,歪曲であり,本件事故が発生した平成11年2月17日時点においては,より危険の予測される中央競馬の騎手に対してすら,(障害飛越競走レース以外の競馬レースにおいて)防護服の着用は義務化されていなかったものである。 すなわち,日本中央競馬会競馬施行規程第76条4項は「騎手は,本会が定めた保護ベストを着用しないで,競走に騎乗してはならない。ただし,平地競走(被告代理人注:障害飛越競走に対するもので,通常の競馬レースのこと)にあっては,競馬番組で定める期間又は裁決委員がやむを得ない事由があると認めたときは,この限りではない。」と定めているが,同規程は平成12年12月15日の改正により,平地競走への適用条項として新設されたものであり,その施行日は平成13年1月1日だからである。 そして,同規程からは,①保護ベストの着用義務は,実際の「競走」(すなわち競馬レース)に限定されており,中央競馬会の運営,管理の下にあるトレーニングセンター及び育成牧場での「調教」などでは何ら義務化されていないこと,②「競走」においても,その着用は絶対的なものではなく,平地競走の場合は一定期間(6月から9月まで)又は裁決委員 あるトレーニングセンター及び育成牧場での「調教」などでは何ら義務化されていないこと,②「競走」においても,その着用は絶対的なものではなく,平地競走の場合は一定期間(6月から9月まで)又は裁決委員がやむを得ないと認めた場合には保護ベストを着用せずに競走に騎乗できるものとされていることを読みとることができる。 ところで,実際の競馬の競走中は,その頭数(最大18頭)の多さ,スピード,激しいレース駆け引きなどで,馬同士が接触したり,騎乗馬又は前方の馬の脚に突然の故障が発生したり,前方を走る馬の突然の斜行などによって,後方の馬がバランスを崩すなどして人馬共に転倒したり,コース内側の埒(馬場の周囲の柵)に衝突したりすることがあり,騎乗者の身体に及ぼす危険は極めて高いということができるが,かかる競走においてですら,例えば6月から9月までの期間中は,保護ベストの着用を免除する措置が用意されているのである。 かように,防護服の着用については,競馬騎手という極めて危険な職務に従事する者においても,本件事故当時において(障害飛越競走以外の一般競走では)義務化されておらず,着用の功罪に関する評価は一律ではなかったものと指摘せざるを得ない。 だとすれば,(年間を通して極めて薄手の「勝負服」しか着用しない競馬騎手に比して)冬季で厚手の作業衣を着ている亡Cに,更に行動の自由を制約することになる防護服を着用させなかったとしても,これをもって安全配慮義務の懈怠であると非難されるべきものとは到底考え難い。 加えて,仮に亡Cが防護服を着用していたとしても,本件事故による死亡を防止できたかは大いに疑問である。防護服は,鎧甲と異なり,ウレタン素材でできており,防護の範囲も肋骨下部までであって,腹部のすべてを覆っているわけではないからである。確かに,防護服が落馬の際の衝撃の緩衝用 きたかは大いに疑問である。防護服は,鎧甲と異なり,ウレタン素材でできており,防護の範囲も肋骨下部までであって,腹部のすべてを覆っているわけではないからである。確かに,防護服が落馬の際の衝撃の緩衝用として,外傷等を防止ないし軽減するのに相応の効果があろうことは,認めるにやぶさかでないが,馬重が400から500キログラムもある新馬の脚で腹部をまともに踏まれてしまった場合に,ウレタン素材でできている防護服がどこまで有用であったかは大いに疑問であるといわざるを得ない。 なお,かかる点についての立証責任も原告らにあることは,あえて指摘するまでもない。 被告が,本件事故後,防護服の着用を義務づけたのは,原告らから責任を追及された経緯にかんがみて,同種紛争を回避する観点から防護服の着用を義務づけたものであって,有用性に基づく判断によるものではない。 (2) 原告らの損害額についてア原告らの主張(ア) 亡Cの逸失利益 4330万4492円亡Cは,本件事故当時,中学校を卒業後11か月を経過した15歳の健康な男子であり,平成10年の学歴別(中卒)男子労働者の全年齢平均給与額は497万0900円である。亡Cは,本件事故がなかりせば,67歳まで就労し,全生涯平均して,中卒男子としての学歴別平均賃金程度の収入を得られるがい然性があった。 したがって,その逸失利益をライプニッツ方式により,法定利率による中間利息を控除し,死亡時の一時払額に換算すると,4330万4492円となる(497万0900円×0.5×17.4232)。 原告らは,上記損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した。 (イ) 交通費等 70万7901円原告らは,本件事故による入院雑費,北海道への原告らの交通費,宿泊費, ,上記損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した。 (イ) 交通費等 70万7901円原告らは,本件事故による入院雑費,北海道への原告らの交通費,宿泊費,遺体運搬費等として連帯して合計70万7901円を支出した(負担部分各2分の1)。その明細は以下のとおりである。 a 事故発生入院時航空券代(名古屋空港から千歳空港まで行き)大人3名(両親,長男),子供1名(三男)9万9800円タクシー代(千歳空港から苫小牧市民病院まで)7500円空港駐車科金(名古屋空港2月17日から2月20日まで)6300円計11万3600円b 葬儀後事後処理(牧場宿舎の後片付け)航空券代(名古星空港から千歳空港まで往復)大人3名(両親,長男)2万8350円×2×317万0100円タクシー代(千歳空港から宿泊ホテルまで) 6290円宿泊ホテル代(3月5日両親2名分) 1万2075円交通費(苫小牧からHまで JR2名分) 1800円空港駐車料金(3月5日から3月7日まで) 4200円亡Cの荷物の宅急便送料 2万3570円計21万8035円c 証明書代保険会社提出の住民票,戸籍謄本,印鑑証明等 4750円d 遺体運搬費棺桶,病院から空港までの輸送代 20万円航空貨物代 5万1167円e 帰り航空チケット ら空港までの輸送代 20万円航空貨物代 5万1167円e 帰り航空チケット 7万8000円ビジネスホテル代(2月17日,18日 2泊分入院時)1万7000円f 入院雑費 4200円g 診断書代等 2万1149円計70万7901円(ウ) 葬儀費用等 465万6705円原告らは,葬儀費用,墓地・墓石費用として連帯して合計465万6705円を支出した(負担部分各2分の1)。その明細は以下のとおりである。なお,原告らは,従前,墓地・墓石を所有していなかったため,本件事故により,亡Cの遺骨を安置すべき墓地・墓石の取得を余儀なくされたものである。 葬祭費 158万3085円火葬場使用料 4万円火葬場待合室使用料 3140円火葬場タクシー代金(自宅から火葬場まで 5台分)1万6420円上記タクシー運転者心づけ 2万円告別式出席者ホテル宿泊代 6万4680円両親の親,兄弟 7名分父の姉2名,父の義姉,母の両親,母の姉2名お坊様 ー運転者心づけ 2万円告別式出席者ホテル宿泊代 6万4680円両親の親,兄弟 7名分父の姉2名,父の義姉,母の両親,母の姉2名お坊様費用(L寺)経読料 33万円院号料 8万円葬儀手伝いへの謝礼F様謝礼向かいの人通夜準備 5000円E様謝礼乗馬の先生 1万円母の友達13名,父の会社2名 7万6180円お礼郵送料 500円葬儀雑費菓子 1万1340円酒代 1420円おりん代 6000円告別式出席者靴紛失弁償代 2万0520円墓地,墓石費用墓地永代使用料 88万8420円墓石代 150万円計465万6705円(エ) 慰謝料 2200万円亡Cは,原告らの二男で,わずか15歳の男子であり,平成10年3月に中学を卒業し,自己の将来の職種を思い定め,平成11年2月から親元の愛知県春日井市を離れ,遠く北海道沙流郡K町所在の被告牧場に住み込みで働き始めた矢先に,本件事故に遭い,死亡したものである。原告らは,亡Cが,慣 ,自己の将来の職種を思い定め,平成11年2月から親元の愛知県春日井市を離れ,遠く北海道沙流郡K町所在の被告牧場に住み込みで働き始めた矢先に,本件事故に遭い,死亡したものである。原告らは,亡Cが,慣れない調教中の新馬を相手にする仕事で,希望と共に疲労をも訴えるのに対し,「頑張るように」と励ましていた中で,急に本件事故の連絡に遭い,失望と悲嘆のどん底に突き落とされた。原告らの上記精神的苦痛に対する慰謝料としては,原告らにおいてそれぞれ1100万円が相当である。 (オ) 弁護士費用 105万円原告らは,本件を原告ら代理人に委任し,その費用として,弁護士報酬基準規程に定める範囲内で相当額の着手金,報酬金を支払う旨合意し,本訴提起時点には着手金として連帯して105万円を支払った(負担部分各2分の1)。 (カ) 損益相殺 545万5000円原告らは,本件事故に関し,労災保険給付として,遺族補償一時金500万円,葬祭料一時金45万5000円の支給を受けた。 (キ) よって,原告らは,被告に対し,本件事故の損害賠償金として,それぞれ3313万2049円{(4330万4492円+70万7901円+465万6705円+2200万円+105万円-545万5000円)÷2}及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年7月10日から各完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ被告の主張原告らが,本件事故に関し,労災保険給付として,遺族補償一時金500万円,葬祭料一時金45万5000円の支給を受けていることは認め,その余はいずれも不知ないし争う。 (3) 本件共済金に係る請求権の存否についてア原告らの主張(ア 付として,遺族補償一時金500万円,葬祭料一時金45万5000円の支給を受けていることは認め,その余はいずれも不知ないし争う。 (3) 本件共済金に係る請求権の存否についてア原告らの主張(ア) 本件共済金の受取人は原告ら(代表者原告A)である。 被告は,原告らに対し,本件共済金のうち,本件事故後に出費した被告の諸経費を控除した金額をH農協から原告らに送金し,控除した額はH農協から被告に支払うことを承諾するよう求めた。 なお,被告が,諸経費として控除を求めた費用の内訳は,次のとおりである。 香典 50万円有限会社M 20万円航空貨物代 5万1167円航空チケット4人分(G様分) 7万8000円ビジネスホテルN 1万7000円O(生花代) 2万5200円ホテル(P) 2万4832円千歳と名古屋間のチケット(3人分) 17万1600円市立売店(入院用品) 4200円食事代(G様病院分) 2万円その他(食事代ほか) 5万円タクシー代(名古屋分空港とホテルとG宅の間)1万8650円診断書代 2万1149円計118万1798円(イ) 原告らは,上記金額のうち,被告が亡Cの葬儀に際し,原告らに交付した香典 診断書代 2万1149円計118万1798円(イ) 原告らは,上記金額のうち,被告が亡Cの葬儀に際し,原告らに交付した香典50万円や生花費用2万5200円,被告代表者ら3名が亡Cの葬儀に出席した際,必要となった食事代ほか(5万円),亡C入院時の家族差入れ食事代(2万円)等については,遺族側の心情や金額の相当性等の見地から,社会通念上,会社諸経費として控除することについて相当性を欠くものであると判断し,これに異議を唱え,社会的相当性のある諸経費についてのみの控除を承諾し,上記香典等の控除について再考を求め,控除を拒絶した。 また,仮に,拒絶の意思表示と解し得ないとしても,被告は,乙1の書面の文脈からして,原告らの,上記香典等の控除について承諾しない真意について,知り得べきであった。 (ウ) ところが,被告は,あえて原告らの意思に反し,H農協に対し,上記全額を控除して原告らに支払うよう要請し,かつ,上記全額(118万1798円)をH農協をして被告に送金させたものである。 (エ) 上記のとおり,被告は,原告らとの間の約旨に反し,上記金額全額の控除についての合意なきまま,被告のH農協に対する不法な指示により,原告らの受領を妨げたものである。 (オ) よって,被告は,原告らに対し,香典等会社諸経費と認められない金額相当額(具体的には,被告が亡Cの葬儀に際し,原告らに交付した香典50万円,被告が亡Cの葬儀に際し,提供した生花費用2万5200円,被告代表者ら3名が,亡Cの葬儀に出席した際,必要となった交通費19万0250円,宿泊費2万4832円,食事代ほか5万円,亡C入院時の家族差入れ食事代2万円の合計81万0282円)について,不法行為による損害賠償責任を有する。 (カ) また ,必要となった交通費19万0250円,宿泊費2万4832円,食事代ほか5万円,亡C入院時の家族差入れ食事代2万円の合計81万0282円)について,不法行為による損害賠償責任を有する。 (カ) また,仮にそうでないとしても,被告は,上記香典等会社諸経費と認められない金額相当額81万0282円について,法律上の原因(すなわち原・被告間の合意)なきにもかかわらず(仮にかかる合意があったとしても,被告が,本来原告らの受領すべき本件共済金から,上記香典等の返還を受けようとすることは,著しく人倫に反することであって,被告の返還請求行為に基づく合意は,公序良俗に反し許されない。),利得をしたものであり,原告らは,その反面として損失したものであるから,被告は原告らに対し,上記相当額について不当利得として返還義務を負う。 (キ) よって,原告Aは,本件共済金の受取人代表者として,被告に対し,損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権に基づき,81万0282円及びこれ対する被告が本件共済金の残金を原告Aに送金した日の翌日である平成11年4月20日から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ被告の主張(ア) 本件共済金の受取人は被告であるとして契約されたものである。 すなわち,被告は,昨今の景気低迷,地方競馬の衰退,斜陽化により,厳しい経営環境下にあり,労災保険以外の福利的保障を自己資金で賄う余裕がないことから,地元のH農協の薦めもあって,事故が発生した場合の従業員の生活保障の充実を主要な眼目とし,併せてかかる場合に負担を余儀なくされる各種経費などの企業損失を回避し,もって安定的な経営を維持することを副次的な目的として,H農協との間で普通傷害共済契約を締結していた。この契約は,契約者並びに共済掛金(保険料)支払義務者を被告,被共済 経費などの企業損失を回避し,もって安定的な経営を維持することを副次的な目的として,H農協との間で普通傷害共済契約を締結していた。この契約は,契約者並びに共済掛金(保険料)支払義務者を被告,被共済者を従業員とし,共済金受取人を被告とする契約であった。 被告代表者は,亡Cが入社するに当たって,亡Cについても上記契約に加入すること,そして万が一事故が発生した場合には,労災保険では当然に給付の対象とならない各種の会社諸経費を共済金から控除して,その残金全額を被告の責任の有無を問わず,補償金,見舞金として支払うこととしている旨,原告Aに説明し,その了解を得た。 (イ) なお,H農協の手違いにより,亡Cの契約については,親権者である原告らの署名捺印がなく,受取人欄も白地となっていたため,契約書面上は,原告らがH農協に対し直接に共済金請求権を行使できる内容となってしまっていた。そのため,本件事故後,H農協は,被告に共済金全額を払い込むことができず,かかる実質と形式との齟齬を埋めるべく,原告Aと被告代表者及びH農協の担当者との間で話合いがもたれた。その結果,上記共済契約の締結目的を改めて確認し合うとともに,形式上の請求権者である原告らが,被告の支出した金員について,これを被告宛支払うことを了解し,同金員相当額の共済金請求権を放棄することで合意をみたものである。そして,H農協は,原告らの同意をまって,原告ら及び被告にそれぞれ送金手続を行ったものである。 (ウ) 被告が,原告ら主張に係る118万1798円をH農協から受領したことには争いがなく,問題はかかる金員の受領が法律上の原因に基づいているか否かにある。そして,この点に関しては,原告らもかかる金員の受領を結果的に承諾,追認しているものであって,法律上の原因に欠けるところは全くない(受領の承諾も立 員の受領が法律上の原因に基づいているか否かにある。そして,この点に関しては,原告らもかかる金員の受領を結果的に承諾,追認しているものであって,法律上の原因に欠けるところは全くない(受領の承諾も立派な法律上の原因である。)。 原告らは,乙1の文言は原告らの真意ではなく,また,被告は原告らの真意を知り,あるいはこれを知り得べきであった旨主張するが,原告ら指摘の同文言の箇所は今後の運用に当たっての希望にすぎず,原告らが被告の受領を承諾していたことは文言上も明白であるといわなければならない。 なお,法律上の原因を欠いていることの主張,立証責任が原告らにあることは,あえて指摘するまでもなく明らかである。 よって,原告らの不当利得返還請求はもとより,損害賠償請求についても理由がない。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件事故の原因と被告の責任)について(1) 前記争いのない事実等に証拠(甲12の1ないし27,13,18の1ないし3,19,20,21の1ないし19,22の1ないし4,23,25の1ないし3,26,乙2,6,7,被告代表者,証人D,同E智康)及び弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実を認めることができる。 ア亡Cは,中学校3年生であった平成9年12月ころから,中央競馬の騎手になることを希望するようになり,高校を中退して,平成10年6月から,J乗馬協会で,乗馬の練習をするようになった。練習馬場は,直径約14メートルの円形馬場であり,騎乗馬は,牡12歳のサラブレッドであった。最初は週1回(騎乗時間は10分間から30分間),同年7月からは週2回くらいの乗馬練習を行い,同年12月までの半年ほどの間に,平均週二,三回,1日の騎乗は30分間1鞍という乗馬経験を積んだ。亡Cの習得技術は,ダクまでであり,キャンターの練習に入る段階ではなか 週2回くらいの乗馬練習を行い,同年12月までの半年ほどの間に,平均週二,三回,1日の騎乗は30分間1鞍という乗馬経験を積んだ。亡Cの習得技術は,ダクまでであり,キャンターの練習に入る段階ではなかったが,上記の乗馬教室の主催者であるEが,亡Cの育成牧場への就職希望を聞いて,キャンターの動きを体験させるため,調馬索を用いてキャンターの体験をさせたことがあった。 イ亡Cは,平成11年2月2日から,被告牧場において,競走馬の調教を担う牧夫として就労を開始したが,その当時15歳であった。 ウ亡Cは,同月2日から同月13日までの12日間は,牧場に慣れ,馬と触れ合う機会を持つことを目的として,おおむね午前中はパートの女性従業員と共に馬房内の汚れた寝藁の交換作業に従事し,午後はD場長はじめ先輩牧夫の調教振りを見学したり,時に馬の手入れや鞍付け作業を手伝ったりした。 エ D場長は,同月13日までの亡Cの馬への接し方などを見て,同月14日から亡Cの騎乗訓練を開始することとした。 同月14日は日曜日でパート従業員が休みのため,午前中は亡Cも他の牧夫と共に寝藁の交換作業に従事した。 そして,亡Cは,同日午後から,屋内角馬場(長辺が約36メートル,短辺が約24メートル)において,D場長の指導による騎乗訓練を受けた。その内容は,放牧場から競走馬として調教中の新馬を引いてきて鞍付けをし,屋内角馬場において,馬1頭につき,左右合わせて30回,10分間くらいの飛び乗り練習をした後,並足により角馬場を5周くらいするという歩行訓練を馬を替えて行うというものであった。その騎乗訓練中,D場長は亡Cの騎乗馬の脇で引き綱を持って共に歩行し,馬の暴走(騎乗者の意図に反する行動)を予め抑止するとともに,万が一「かかった(馬の興奮状態)」場合の制御に備えた。また,D場長は,亡Cに 訓練中,D場長は亡Cの騎乗馬の脇で引き綱を持って共に歩行し,馬の暴走(騎乗者の意図に反する行動)を予め抑止するとともに,万が一「かかった(馬の興奮状態)」場合の制御に備えた。また,D場長は,亡Cに馬が暴れた時の対処方法について説明した。 日曜日は本来他の牧夫たちは騎乗しない日であったが,亡Cの訓練中にその騎乗馬が1頭のみでは落ち着きがなくなることからくる危険性を防止するため,他の牧夫たちも同じ屋内角馬場でダクまでの調教に従事した。 D場長は,Cの騎乗馬には比較的調教が進んでいて気性のおとなしい馬を選ぶとともに,馬の首の根元にロープを巻いて落馬防止の措置を講じた。 亡Cは,同日午後,2頭の馬について,上記のような騎乗訓練を行った。 オ同月15日,亡Cは,屋内角馬場において,午前中は前日と同様に飛び乗りと並足での騎乗訓練に従事し,三,四頭の馬に騎乗した。そして,午後からはダクによる騎乗訓練に移行した。このダクによる騎乗訓練の際もD場長は,最初のころの騎乗馬については,引き綱を持って,馬と共に走って,並足の時と同様に暴走の防止に努めたが,同日の練習の最後のころからは,引き綱を持たず,屋内角馬場の中央から亡Cの騎乗を見守った。 同日も,他の牧夫も同じ屋内角馬場でダクまでの調教に従事し,亡Cの騎乗馬には気性のおとなしい馬を選び,馬の首には落馬防止のためのロープを巻いた。 亡Cは,同日,合計六,七頭の馬について,上記のような騎乗訓練を行った。 カ同月16日,亡Cは,前日と同様な訓練を受けたが,亡Cは馬を暴走させることもなく無難にダクをこなしており,引き綱を持たない状態でのダクによる騎乗訓練の合計時間が二,三時間くらいに達したことから,D場長は,翌日から屋内円形馬場での集団によるダク調教に参加させる力量が備わっていると判断した。 キ同月1 引き綱を持たない状態でのダクによる騎乗訓練の合計時間が二,三時間くらいに達したことから,D場長は,翌日から屋内円形馬場での集団によるダク調教に参加させる力量が備わっていると判断した。 キ同月17日,亡Cは,1周約300メートルの屋内円形馬場において,集団によるダクまでの調教に従事したが,亡Cの関係では,騎乗訓練でもあった。 D場長は,亡Cの騎乗馬に気性のおとなしい馬を選ぶとともに,隊列上も2列縦隊の6頭の馬の2列目の内側に配置し,亡Cの騎乗馬を取り囲むようにし,自らは前列,同列,後列とその位置を移動させて,様々な角度から亡Cの騎乗姿勢を確認しながら指導した。午前中に4鞍の調教(騎乗訓練)を行ったが,亡Cは馬を暴れさせることもなく,無難に騎乗をこなした。 そして,休憩を挟み,午後の2鞍目の午後2時30分ころ,亡Cは2列縦隊の6頭の馬の2列目の内側に,D場長はその前方の1列目の内側に位置した状態で,2列縦隊の6頭が入口から円形馬場に入り,左回りに並足で1周約300メートルのコースを入口の反対側まで半周分進行したところで,集団の先頭に位置していたD場長が,ダクに移行する合図として,「行くぞ。」と声を掛け,ダクを踏み始めたところ,亡Cの隣の騎乗者から,「行った。」と声が掛かった。D場長は,亡Cの騎乗馬が暴走したと思い,自分の馬を横にして止めようと考え,後ろを向いたが,間に合わず,亡Cの騎乗馬は,キャンターなみの速度で,D場長の騎乗馬とその隣に位置していた馬との間を走り抜けていった。D場長は,亡Cに対し,大きな声で「抑えろよ。」と声を掛けたが,その時の亡Cの騎乗馬は異常に興奮しているという状態ではなく,亡Cは,自分で馬を止めようとしており,その騎乗姿勢は普通であった。 他の騎乗者は,亡Cの騎乗していた馬を止めるため,馬を反転させ,逆回りに の時の亡Cの騎乗馬は異常に興奮しているという状態ではなく,亡Cは,自分で馬を止めようとしており,その騎乗姿勢は普通であった。 他の騎乗者は,亡Cの騎乗していた馬を止めるため,馬を反転させ,逆回りに移動し,4分の1周ほど進行したところで,亡Cが円形馬場入口から右へ少し入った外側の壁際で,ずり落ちるように落馬するのを目撃した。 他の騎乗者らが,亡Cの落馬地点に到着したところ,亡Cは,腹を押さえうずくまり,「痛い,痛い。」とうめいていた。 亡Cは,搬送された苫小牧市立総合病院において,同月19日午後11時5分,肝損傷による出血により死亡した。 ク本件事故当時,被告牧場では,騎乗の際の防護服は用意しておらず,亡Cは,厚手の防寒用ジャンパーを着用していた。 本件事故後,被告牧場では,防護服を用意し,騎乗の際の防護服の着用を従業員に命ずるようになった。 ケ他の競走馬育成牧場においては,未経験の新人牧夫を実際の調教実務に従事させるまでに,新人専用の練習馬を用いた騎乗訓練を行い,実際の競走馬の調教業務に従事するまでには最低四,五週間から最長1年くらいの訓練期間をとっており,調馬策を使用したキャンター訓練も採用しているところがある(甲25の1ないし3,26)。 (2)ア以上認定の事実によれば,本件事故は,亡Cが,突然キャンターなみの速度で走り出した騎乗馬を制御することができず,これに乗り続けることができずに落馬したことによって発生したものと認めることができる。 そして,前記認定のとおり,亡Cは,被告牧場で就労する前に,J乗馬協会において,直径約14メートルの円形馬場で,12歳のサラブレッドに騎乗して,半年ほどの乗馬練習をした経験があったが,習得技術はダクまでで,キャンターの練習に入る段階ではなく,亡Cが育成牧場への就職を希望していたことから,E トルの円形馬場で,12歳のサラブレッドに騎乗して,半年ほどの乗馬練習をした経験があったが,習得技術はダクまでで,キャンターの練習に入る段階ではなく,亡Cが育成牧場への就職を希望していたことから,Eが調馬索を用いてキャンターの動きを体験させたことがあったにすぎなかった。 前記認定のとおり,亡Cは,平成11年2月2日から,被告牧場での就労を始め,同月14日午後から,騎乗練習用の馬ではなく,調教中の競走馬の新馬を用いた騎乗訓練を受けるようになったが,同月15日午前までは,飛び乗り練習と並足の歩行訓練であり,同月15日午後からはダクによる騎乗練習も受けるようになったが,本件事故発生までのダクによる騎乗練習は,同月15日午後,16日午後,17日午前及び午後の1鞍であった。 以上のとおり,本件事故発生までの亡Cの乗馬経験歴は,乗馬学校での半年ほどの乗馬練習,被告牧場での3日間の屋内角馬場でのダクまでの騎乗訓練,本件事故当日の円形馬場における午前と午後1鞍の集団によるダクまでの騎乗訓練しかなく,キャンターによる騎乗を本格的に経験したことはなかったものであって,そのような亡Cが,突然騎乗馬がキャンターなみの速度で走り出した場合,慌ててしまうのは当然というべきであり,指導を受けたとおりに何とか馬を止めようとしたものの,キャンターなみの速度で走行する馬に乗り続けることができず,バランスを崩して落馬してしまったことが本件事故の原因と認めるのが相当である。 なお,原告らは,本件事故の原因について,亡Cには,就業以来16日間連続勤務で休日がなく,かつ,同月14日から17日にかけてのベテラン牧夫と同一のメニューによる集中的な(換言すれば,過酷な)騎乗訓練による疲労が原因であるとも考えられる旨主張するが,亡Cの疲労度合いに関する証人Eの証言は,推測の域を出るも 17日にかけてのベテラン牧夫と同一のメニューによる集中的な(換言すれば,過酷な)騎乗訓練による疲労が原因であるとも考えられる旨主張するが,亡Cの疲労度合いに関する証人Eの証言は,推測の域を出るものではなく,亡Cが本件事故当時,本件事故の原因となるような疲労状態にあったものと認めるに足りる的確な証拠はない。 イ被告が主張するように,馬が一般に敏感かつ臆病な動物であり,何かの音や動きに驚いて急に暴れ出したり,騎乗者からの止まれの指示に対しても興奮などのためその指示を無視することなど日常的なことである以上,被告としては,馬がそのような状態になっても慌てることなくこれを制御できる技量を有することを見極めた上で,亡Cを競走馬の調教業務に従事させるべき使用者としての安全配慮義務を負っていたものというべきであり(このことは,亡Cが従事する調教業務が騎乗訓練を兼ねるからといって異なるものではない。),また,被告が主張するように,そのような技量を有する者であっても,騎乗を前提とする業務に従事する以上落馬が避け難いのであれば,そこまでの技量を有しない者を騎乗させる場合にはなおさらのこと,落馬したときの危険防止のために防護服を着用させるべき使用者としての安全配慮義務を負っていたものと認めるのが相当である。 本件事故は,前記認定のとおり,亡Cが,キャンターなみの速度で走り出した騎乗馬を制御できないまま,落馬したものであって,その事故態様と亡Cの乗馬経験歴に照らせば,亡Cには,競走馬の調教業務に従事中に騎乗馬がキャンターなみの速度で暴走した場合,これを落ち着いて制御できるような技量が十分には備わっていなかったものと認めるのが相当であり,そのような技量の亡Cを防護服を着用させないまま1周約300メートルの屋内円形馬場における集団によるダクまでの調教に従事さ 御できるような技量が十分には備わっていなかったものと認めるのが相当であり,そのような技量の亡Cを防護服を着用させないまま1周約300メートルの屋内円形馬場における集団によるダクまでの調教に従事させたことについて,被告には使用者としての前記安全配慮義務に違反した点があったものといわざる得ず,本件事故の発生については被告に責任があるというべきである。 なお,前記認定のとおり,D場長は,亡Cの騎乗馬に気性のおとなしい馬を選んでいるが,被告の安全配慮義務違反の態様が前記認定のとおりである以上,そのことによって,被告の安全配慮義務違反の点が左右されるものではない。 ウこれに対し,被告は,D場長の亡Cに対する指導内容は,牧場生活への親和や新馬の生態学習や騎乗技術に関しても,亡Cの力量を見定めながら段階的に実践していったことが明らかであって,極めて理にかなったものである旨主張する。 しかし,被告代表者自身が,亡Cが本件事故時に騎乗していた馬はキャンターまで訓練がなされていた馬であり,そういう馬に乗せるには亡Cがキャンターまでの訓練を終えていることが必要であった旨供述しているところ,前記認定のとおり,亡Cは本格的なキャンターの練習を受けていなかったものであって,前記認定の他の競走馬育成牧場の新人牧夫の訓練内容と比較すると,D場長が実施した亡Cに対する段階的訓練は,極めて早急なものであったということができる。また,亡Cがキャンターなみの速度の騎乗馬を制御できないまま落馬したという本件事故の態様に照らせば,D場長が行った亡Cの力量の見定めには不十分な点があったものといわざるを得ない。そうすると,D場長の亡Cに対する指導内容が極めて理にかなったものとは到底認めることができない。 また,被告は,防護服を着用させることにより,機敏かつ柔軟な動作が妨げら ものといわざるを得ない。そうすると,D場長の亡Cに対する指導内容が極めて理にかなったものとは到底認めることができない。 また,被告は,防護服を着用させることにより,機敏かつ柔軟な動作が妨げられ,かえって落馬を招きかねないとの評価から,現実にはほとんどの育成牧場等で使用されていないのが実状であり,冬季で厚手の作業衣を着ている亡Cに,更に行動の自由を制約することになる防護服を着用させなかったとしても,これをもって安全配慮義務の懈怠であると非難されるべきものとは到底考え難い旨主張する。 しかし,D場長の証言や乙8も,防護服の着用により動きがとりにくくなり,その着用によりかえって落馬を防げなかった可能性があることを否定できないというにとどまるのに対し,乙14によれば,日本中央競馬会競馬施行規程は,本件事故当時において,平地競争に比べ落馬等の危険性の高い障害飛越競走において,防護服の着用を義務づけていたことが認められる。そうすると,防護服の着用によりかえって落馬を招きかねないものと認めることはできない。そして,前記認定のとおり,乗馬学校での半年ほどの乗馬練習と被告牧場での3日間の屋内角馬場でのダクまでの騎乗訓練しか経験していない亡Cについて,1周約300メートルの屋内円形馬場における集団によるダクまでの調教に従事させようとする場合,亡Cの落馬等による事故発生のがい然性は,十分な調教業務従事経験を有する者に比べて高いことは明らかというべきであって,その事故発生の際の危険防止のため,使用者である被告としては,予め防護服を着用させるべき安全配慮義務があったものというべきである。 さらに,被告は,仮に亡Cが防護服を着用していたとしても,防護服は,ウレタン素材でできており,防護の範囲も肋骨下部までであって,腹部のすべてを覆っているわけではないから ったものというべきである。 さらに,被告は,仮に亡Cが防護服を着用していたとしても,防護服は,ウレタン素材でできており,防護の範囲も肋骨下部までであって,腹部のすべてを覆っているわけではないから,本件事故による死亡を防止できたかは大いに疑問である旨主張する。 しかし,甲15,20によれば,腹部まで防護する防護服があることが認められ,また,前記認定のとおり,日本中央競馬会競馬施行規程が騎手に対し一定の場合に防護服の着用を義務づけているが,それは落馬等の事故発生の時の被害を軽減する効果があることによるものであることは明らかというべきであって,亡Cが防護服を着用していなかったことが,亡Cが死亡するに至った原因の一つであると優に推認することができる。 2 争点(2)(原告らの損害額)について(1) 亡Cの逸失利益 4577万7018円前記争いのない事実等,1で認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,亡Cは,昭和58年3月8日に原告らの二男として出生したものであり,本件事故当時は,中学校を卒業後11か月を経過した15歳の健康な男子であったこと,平成10年の中卒男子の学歴別全年齢平均賃金は497万0900円であること,亡Cは,本件事故がなければ,15歳から67歳までの52年間就労し,全生涯平均して,中卒男子としての学歴別平均賃金程度の収入を得られるがい然性があったことが認められる。したがって,その逸失利益について,生活費の控除割合を50パーセントとし,ライプニッツ方式により,法定利率による中間利息を控除し,死亡時の一時払額に換算すると,4577万7018円となる(497万0900円×0.5×18.4180(52年間の労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数))。そして,原告らは,この逸失利益に係る損害賠償請求権を 換算すると,4577万7018円となる(497万0900円×0.5×18.4180(52年間の労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数))。そして,原告らは,この逸失利益に係る損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した。 (2) 交通費等 70万7901円甲4,27ないし40,58ないし60,66,83ないし85及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,本件事故による入院雑費,北海道への原告ら等の交通費,宿泊費,遺体運搬費等として,以下のとおり,連帯して合計70万7901円を支出したものであり(原告らの負担部分各2分の1),これは本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。 ア事故発生入院時航空券代(名古屋空港から千歳空港まで行き)大人3名(両親,長男),子供1名(三男)9万9800円タクシー代(千歳空港から苫小牧市民病院まで)7500円空港駐車科金(名古屋空港2月17日から2月20日まで)6300円計11万3600円イ葬儀後事後処理(被告牧場の宿舎の後片付け)航空券代(名古星空港から千歳空港まで往復)(甲27)大人3名(両親,長男)2万8350円×2×317万0100円タクシー代(千歳空港から宿泊ホテルまで)(甲28)6290円宿泊ホテル代(3月5日両親2名分)(甲29)1万2075円交通費(苫小牧からHまで JR2名分) 1800円空港駐車料金(3月5日から3月7日まで)(甲 泊ホテル代(3月5日両親2名分)(甲29)1万2075円交通費(苫小牧からHまで JR2名分) 1800円空港駐車料金(3月5日から3月7日まで)(甲30)4200円亡Cの荷物の宅急便送料(甲31ないし35)2万3570円計21万8035円ウ証明書代労災保険等の関係で提出した住民票,戸籍謄本,印鑑証明等(甲4,36ないし40) 4750円エ遺体運搬費棺桶,病院から空港までの輸送代(甲58)20万円航空貨物代(甲59) 5万1167円オ帰り航空チケット(甲59) 7万8000円ビジネスホテル代(2月17日,18日 2泊分入院時)(甲60)1万7000円カ入院雑費(甲66) 4200円キ診断書代等(甲83,84) 2万1149円計70万7901円(3) 葬儀費用等 150万円ア甲41ないし54,85及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,亡Cの葬儀費用,墓地・墓石費用などとして,以下のとおり,連帯して合計465万6705円を支出した(負担部分各2分の1)ことが認められる。 葬祭費(甲41) 158万3085円火葬場使用料(甲42) ,以下のとおり,連帯して合計465万6705円を支出した(負担部分各2分の1)ことが認められる。 葬祭費(甲41) 158万3085円火葬場使用料(甲42) 4万円火葬場待合室使用料(甲43) 3140円火葬場タクシー代金(自宅から火葬場まで 5台分)(甲44)1万6420円上記タクシー運転者心づけ 2万円告別式出席者ホテル宿泊代(甲45) 6万4680円両親の親,兄弟 7名分父の姉2名,父の義姉,母の両親,母の姉2名お坊様費用(L寺)経読料 33万円院号料(甲46) 8万円葬儀手伝いへの謝礼F様謝礼向かいの人通夜準備 5000円E様謝礼乗馬の先生 1万円母の友達13名,父の会社2名(甲47)7万6180円お礼郵送料(甲48) 500円葬儀雑費菓子(甲50) 1万1340円酒代(甲51) 1420円おりん代(甲52) 6000円告別式出席者靴紛失弁償代(甲49) 2万0520円墓地,墓石費用墓地永代使用料(甲53) 88万8420円墓石代(甲54) 150万円計465万67 墓地永代使用料(甲53) 88万8420円墓石代(甲54) 150万円計465万6705円イしかし,原告らの上記支出額の内容に照らせば,その支出額のすべてについて,本件事故と相当因果関係のある損害であると認めることは困難であり,本件事故と相当因果関係のある亡Cの葬儀に要する費用としては,墓石建立の点も考慮の上,150万円の限度でこれを認めるのが相当である。 (4) 慰謝料 2200万円原告らは,わずか15歳の二男である亡Cを本件事故により突如失ったものであって,その精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては,原告らにおいてそれぞれ1100万円と認めるのが相当である。 (5) 弁護士費用 105万円本件訴訟の経緯等にかんがみれば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害としては,原告ら主張の105万円を下回ることはないと認めるのが相当である。 (6) 損益相殺 545万5000円原告らが,本件事故に関し,労災保険給付として,遺族補償一時金500万円,葬祭料一時金45万5000円の支給を受けたことは,当事者間に争いがなく,遺族補償一時金は上記逸失利益から,葬祭料一時金は上記葬祭費用等から損益相殺するのが相当である。 (7) 小括1で認定した本件事故の態様に照らせば,亡Cについて過失相殺すべきような落ち度があったものと認めることはできず,そうすると,本件事故によって原告らがそれぞれ被った損害としては,①亡Cの逸失利益4577万7018円から遺族補償 照らせば,亡Cについて過失相殺すべきような落ち度があったものと認めることはできず,そうすると,本件事故によって原告らがそれぞれ被った損害としては,①亡Cの逸失利益4577万7018円から遺族補償一時金500万円を控除した4077万7018円,②交通費等70万7901円,③葬儀費用等150万円から葬祭料一時金45万5000円を控除した104万5000円,④慰謝料2200万円,⑤弁護士費用105万円を合計した6557万9919円の2分の1である3278万9959円(円未満切り捨て)と認められる。 3 争点(3)(本件共済金に係る請求権の存否)について(1) 調査嘱託の結果,甲11,13,乙1,被告代表者本人によれば,被告は,労災補償だけでは従業員の福利に十分でなく,万が一の場合負担を余儀なくされる各種の経費を保険で賄いたいとの希望から,平成元年11月から,被告牧場で稼働する全従業員を被共済者とし,被告を共済金の受取人とする普通傷害共済契約をH農協との間で締結し,その共済掛金は被告が負担していたこと,被共済者が未成年の場合には,法定代理人の同意を得て,共済金受取人を被告とする取扱いとなっていたが,本件共済金の受取人については,契約申込書に亡Cの法定代理人の署名捺印がなく,また,死亡受取人の記載もなかったことから,H農協としては,本件共済金の支払について,原告らの了解を求める必要があり,原告Aと被告との話合いに立ち会って契約締結の趣旨や経緯について説明したこと,その説明を受けて,原告Aと被告との間で,本件共済金から被告の経費を控除した残額を弔慰金として原告らに支払う旨の合意が成立し,原告Aは,H農協が北海道農業協同組合連合会から本件共済金に係る傷害再共済金の支払を受けるための支払通知書(甲11)の共済金受取人欄に「代表GA」と署名したこ して原告らに支払う旨の合意が成立し,原告Aは,H農協が北海道農業協同組合連合会から本件共済金に係る傷害再共済金の支払を受けるための支払通知書(甲11)の共済金受取人欄に「代表GA」と署名したこと,その後,原告Aは,被告が経費として控除を希望する額が118万1798円であり,その内容がどのようなものであるかを知らされた上で,H農協に対し,会社が会社の経費で任意に掛ける保険等の目的としては,一般的に遺族補償並びに会社の損失補填であることを理解し,今回の被告の経費の請求については基本的に同意するものとするが,遺族側と会社側の受取割合は契約時に取り決めるべきものであるから,一応全額遺族側に支払われたものから会社の経費を支払うという形は今後は避けられるよう指導願いたいとの希望を表明した上,特に香典等の領収書をとった後にその支払を請求することは遺族側の気持を考えるときいかがなものかと思われるので,今一度内容を検討して経費希望額を控除した額を振り込むとともに,形としては原告らより被告への支払となるので控除分の領収書を送付願う旨記載した書面(乙1)を送付してきたこと,これを受けて,H農協は,被告の希望した経費額を本件共済金から控除の上,残額の893万3202円を被告名義で原告らへ送金する手続をとったことが認められる。 (2) 原告らは,被告が経費として控除を希望した金額のうち,被告が亡Cの葬儀に際し,原告らに交付した香典50万円や生花費用2万5200円,被告代表者ら3名が亡Cの葬儀に出席した際,必要となった食事代ほか(5万円),亡C入院時の家族差入れ食事代(2万円)等については,遺族側の心情や金額の相当性等の見地から,社会通念上,会社諸経費として控除することについて相当性を欠くものであると判断し,これに異議を唱え,社会的相当性のある諸経費につい 事代(2万円)等については,遺族側の心情や金額の相当性等の見地から,社会通念上,会社諸経費として控除することについて相当性を欠くものであると判断し,これに異議を唱え,社会的相当性のある諸経費についてのみの控除を承諾し,上記香典等の控除について再考を求め,控除を拒絶したものであり,仮に,拒絶の意思表示と解し得ないとしても,被告は,乙1の書面の文脈からして,原告らの,上記香典等の控除について承諾しない真意について,知り得べきであった旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,原告らは,乙1において,今後の共済保険金の支払方法について改善を希望するとともに,予め知らされていた被告の経費控除希望額とその内容について,基本的には本件共済金からの控除に同意しつつ,いま一度控除する経費の内容を検討するよう要求したものであり,甲13によれば,原告らとしては,被告の経費控除については,被告の誠意,良識に期待して,最終的には被告に任せたものと認められるのであって,原告らにおいて,社会通念上,被告の経費として控除することについて相当性を欠くと判断したものについて異議を唱え,再考を求めて控除を拒絶したものと認めることはできない。そして,乙1の書面の内容は前記認定のとおりであり,また,前記のとおり,甲13によれば,原告らとしては,被告の経費控除については,被告の誠意,良識に期待して,最終的には被告に任せたものと認められるのであって,乙1の書面の文脈から,原告らが控除を承諾しない経費があるとするのが真意であり,その真意について被告において知り得べきであったものと認めることはできない。 また,原告らは,仮に,被告の主張する経費を本件共済金から控除することにつき,被告と原告らとの間で合意があったとしても,本来原告らの受領すべき本件共済金から香典等の返還を受けようと とはできない。 また,原告らは,仮に,被告の主張する経費を本件共済金から控除することにつき,被告と原告らとの間で合意があったとしても,本来原告らの受領すべき本件共済金から香典等の返還を受けようとすることは,著しく人倫に反することであって,かかる合意は公序良俗に反し許されない旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,被告は,労災補償だけでは従業員の福利に十分でなく,万が一の場合負担を余儀なくされる各種の経費を保険で賄いたいとの希望から,被告牧場で稼働する全従業員を被共済者とし,被告を共済金の受取人とする普通傷害共済契約を締結し,その共済掛金を被告が負担していたものであり,原告Aとしても,そのことについてH農協から説明を受け,被告が被告の経費で任意に掛ける保険等の目的には被告の損失補填があることを理解したものであって,本件共済金から香典等の負担部分を含む被告の経費を控除することについて合意することが公序良俗に違反するものということはできない。 (3) そうすると,原告らが,予め知らされていた本件共済金からの被告の経費控除希望額とその内容について,基本的に同意した上,再度の検討を求めたものの,最終的には被告に経費控除を任せたものである以上,予め知らされていた被告の経費控除希望額が控除されたことをもって,被告が原告らのH農協に対する本件共済金請求権を違法に侵害したものであるとか,被告が原告らの損失において法律上の原因を欠く不当な利得をしたものということはできない。 第4 結論よって,原告らの請求は,主文掲記の限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官橋本昌純 主文 することとし,主文のとおり判決する。 理由 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官橋本昌純
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