主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金4059万5983円及び内金3659万5983円に対する平成13年10月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨(1) 本件は,左手親指に生じた病変の治療のために平成13年4月から同年9月までの間,地方公共団体である被告の設置,運営する都留市立病院(以下「被告病院」という。)に通院し,同年9月中旬に悪性黒色腫である旨の診断を受け,同月27日に山梨医科大学医学部附属病院(以下「山梨医大病院」という。)に転院し,同年10月9日に拡大切除術(左手親指切断)及び左腋窩リンパ節郭清手術(以下「本件手術」という。)を受けた原告が,被告病院における診療について,①被告病院の医師は,約5か月間,原告の左手親指に生じた病変が悪性黒色腫であることを見落とし,その結果,原告は,左手親指を切断せざるを得なくなった,また,②被告病院の医師が安易に組織検査を実施したため,がん細胞が体中に散らばり,原告は,今後,継続的に抗がん剤治療を受けなければならなくなったなどと主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権(民法709条,715条)に基づき,原告の被った損害の賠償を求めている事案である(附帯請求は,本件手術が行われた日(不法行為の後の日)からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求である。)。 (2) これに対し,被告は,原告の悪性黒色腫はその名称と異なり黒褐色を呈さない希な症例であり,被告病院の医師が原告の悪性黒色腫を見落とした事実はない,かえって,被告病院の医師の適切な診療により,発見困難な原告の悪性黒色腫を早期に発見,治療することができた り黒褐色を呈さない希な症例であり,被告病院の医師が原告の悪性黒色腫を見落とした事実はない,かえって,被告病院の医師の適切な診療により,発見困難な原告の悪性黒色腫を早期に発見,治療することができたと主張している。 2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)(1) 被告病院の医師等ア被告は,被告病院を設置,運営する地方公共団体である。 イ医師であるA医師は,平成13年当時,被告に雇用され,院長及び外科担当の医師として,被告病院に勤務していた(乙18,証人A医師)。 ウ医師であるB医師は,平成13年当時,非常勤医師として被告に雇用され,形成外科担当の医師として,被告病院に勤務していた(乙19)。 エ医師であるC医師は,平成13年当時,山梨医科大学医学部医員研修医の地位にあり,かつ,平成13年7月1日から平成14年3月31日までの間,非常勤医師として被告に雇用され,皮膚科担当の医師として,1か月に4回程度,被告病院に勤務していた(乙21)。 (2) 悪性黒色腫に関する医学文献ア標準皮膚科学第7版(甲9)(ア) 悪性黒色腫は,メラノサイト系の悪性腫瘍であり,転移しやすく,悪性度の高い腫瘍として知られている(347頁)。 (イ) メラノサイトは,本来,メラニン色素産生能を有する細胞であるので,悪性化してもメラニンを産生することが多く,したがって,悪性黒色腫の多くは,黒褐色調の病変としてみられる(347頁)。 (ウ) 黒褐色調を呈する病変を見たら,常に悪性黒色腫の疑いも考慮に入れて対処する必要がある(350頁)。 (エ) 時に,悪性黒色腫の腫瘍細胞のメラニン産生能が低いために,紅色調の結節としてみられ,臨床診断上注意を要することがある(無色素性悪性黒色腫)。 この場 て対処する必要がある(350頁)。 (エ) 時に,悪性黒色腫の腫瘍細胞のメラニン産生能が低いために,紅色調の結節としてみられ,臨床診断上注意を要することがある(無色素性悪性黒色腫)。 この場合,病理組織学的にもメラニン顆粒を見いだし難いことがあり,他のがんや肉腫との鑑別が問題になることがある(350頁以下)。 イ悪性黒色腫 <皮膚科 MOOK №18>(乙2)(ア) 悪性黒色腫の臨床診断では,色調の変化,表面の性状の変化などとともに,病巣部境界の不規則性,非対称性の変化が重視されている。このように,悪性黒色腫の診断は,視診が重視される。悪性黒色腫は,メラニンの産生が著明で,臨床的には黒色ないし黒褐色の色調を呈し,漸次,腫瘍化する(71頁)。 (イ) 悪性黒色腫の疑いがある場合,腫瘍の一部を生検することは黒色腫細胞の転移を早める恐れがあるので,少なくとも健常皮膚を含めた病巣切除を行い,組織診断を確定してから治療方針を行うことが望ましい(72頁)。 (ウ) 悪性黒色腫は,時々,全くの無色素性を示すものがあり,多くの例において,無色素性黒色腫は,色素性原発性悪性黒色腫の病巣内に小さなピンク色の部分として発生する。無色素性黒色腫の黒色腫細胞は,メラニン産生がほとんど見られないので,他の疾患との鑑別が困難な場合が多い(78頁)。 (3) 被告病院における診療経過等ア(ア) 原告は,平成13年4月12日,左手親指の異常を訴え,被告病院の外科において,A医師の診察を受けた(以下,この診察を「本件初診」という。)。 (イ) A医師は,本件初診において,原告から,平成12年10月に左手親指の爪囲炎という診断を受けて被告病院に通院していたこと,その後,爪は生えてきたが,1週間前に左手親指を打撲したことを聴取し,原告の左手 A医師は,本件初診において,原告から,平成12年10月に左手親指の爪囲炎という診断を受けて被告病院に通院していたこと,その後,爪は生えてきたが,1週間前に左手親指を打撲したことを聴取し,原告の左手親指の爪が相当欠損し,左側に少し残っているだけであること,爪床部に血腫があることを確認した(乙7の3頁)。 (ウ) A医師は,上記(イ)の問診及び診察の結果,原告の左手親指の病変は,打撲による爪の欠損及び感染を伴うひょう疽(指の急性化膿性炎症)であると診断し,原告に対し,塗り薬(ゲンタシン軟膏)と内服薬(抗生剤等)を処方した(乙7の3頁)。 イ原告は,本件初診の後,平成13年4月13日,14日の両日,同年5月2日,3日の両日,同年6月20日から23日及び25日から29日の各日,被告病院の外科において,被告病院の医師による診察を受けた。 ウ原告は,平成13年8月11日,被告病院の外科において診察を受け,被告病院のD医師は,この診察の結果,原告に対し,できるだけ早期に被告病院の形成外科において診察を受けるよう指示した(乙7の6頁,乙18,証人A医師)。 エ原告は,平成13年8月13日,被告病院の形成外科において,B医師の診察を受けた。 オ原告は,平成13年8月27日,被告病院の形成外科において,B医師の診察を受け,B医師は,この診察の結果,原告の左手親指の病変に対し,MRI(磁気共鳴映像法)検査を実施することとした。 カ原告は,平成13年8月31日,被告病院において,MRI検査を受けた(以下,この検査を「本件MRI検査」という。)。 キ B医師は,本件MRI検査の結果,確定診断を得るためには病理組織検査を実施する必要があると判断し,原告は,平成13年9月10日,被告病院において,左手親指の組織の採取を受け,病理組 う。)。 キ B医師は,本件MRI検査の結果,確定診断を得るためには病理組織検査を実施する必要があると判断し,原告は,平成13年9月10日,被告病院において,左手親指の組織の採取を受け,病理組織検査が実施された(以下,この検査を「本件組織検査」という。)(乙7の10頁,11頁,20頁)。 ク本件組織検査を担当した被告病院の医師は,平成13年9月14日,原告の左手親指の病変について,表皮の基底層に沿って大型の明るい核小体と褐色の色素を有する細胞が見られ,さらに,真皮内に腫瘍を形成しており,浸潤を示す悪性黒色腫である旨診断した(乙7の19頁)。 ケ被告病院の外科医師は,上記診断を受けて,平成13年9月18日,原告に対し,被告病院の皮膚科を受診するよう指示した(乙7の7頁)。 コ原告は,平成13年9月18日,被告病院の皮膚科において,C医師の診察を受け,C医師は,この診察の結果及び本件組織検査の結果等を受けて,原告に対し,山梨医大病院の皮膚科を受診するよう指示した。 (4) 山梨医大病院における診療経過等ア原告は,平成13年9月20日,山梨医大病院の皮膚科において,山梨医大病院の医師による診察を受け,左手親指に皮膚のがんがあり,直ちに手術を実施する必要がある旨の説明を受けた。 イ原告は,平成13年9月27日,山梨医大病院に入院し,同年10月9日,同病院において,拡大切除(左手親指切断)及び左腋窩リンパ節郭清手術(本件手術)を受けた。 ウ原告は,平成13年11月8日,山梨医大病院を退院した。 エ原告は,本件手術の後,現在に至るまで,定期的にがん検診を受けているが,これまでのところ,がんの再発は確認されていない。 3 争点(1) 原告の左手親指の悪性黒色腫は,黒褐色を呈する悪性黒色腫であったか。 (2 の後,現在に至るまで,定期的にがん検診を受けているが,これまでのところ,がんの再発は確認されていない。 3 争点(1) 原告の左手親指の悪性黒色腫は,黒褐色を呈する悪性黒色腫であったか。 (2) 争点(1)において原告の左手親指の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったと認められた場合,被告病院のA医師らに原告の左手親指の悪性黒色腫を見落とした過失があるといえるか。 (3) 争点(1)において原告の左手親指の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったとは認められなかった場合,被告病院のA医師らに原告の左手親指の黒褐色を呈しない悪性黒色腫を見落とした過失があるといえるか。 (4) 被告病院において行われた本件組織検査が不適切であったといえるか。 (5) 被告病院の医師の過失と原告の被った損害との間の因果関係の有無(6) 原告の被った損害額 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(原告の左手親指の悪性黒色腫は,黒褐色を呈する悪性黒色腫であったか。)についてア原告の主張(ア) 原告の左手親指の悪性黒色腫は,本件初診時,既に黒褐色を呈していた。 (イ) 下記①ないし⑦によると,原告の左手親指の悪性黒色腫が,本件初診時,既に黒褐色を呈していたことは明らかである。 ① 原告は,本件初診時,左手親指の爪が抜けた部分が黒くなっていたと記憶している(甲10)。 ② B医師が平成13年8月13日に記載した診療録には,7,8年前から爪の下に黒線あった旨の記載がある(乙7の9頁)。 ③ C医師が平成13年9月18日に記載した診療録には,7,8年前にぶつけた後から,2から3ミリメートルの線が数本出ていた旨,3年前には,ほぼなくなったが,半年後には,再び線状の黒色線が出現した旨の記載がある(乙7の 年9月18日に記載した診療録には,7,8年前にぶつけた後から,2から3ミリメートルの線が数本出ていた旨,3年前には,ほぼなくなったが,半年後には,再び線状の黒色線が出現した旨の記載がある(乙7の12頁)。 ④ 被告病院の形成外科の医師が作成した診療録(乙7の10頁)には,原告の左手親指の病変について,黒色を呈するのう胞性病変である旨の記載がある。 ⑤ C医師が,原告が山梨医大病院に入院した際に作成した入院病歴要約(1)には,原告の現在の症状として,「爪が粗造となり,褐色調,表面凹凸あり」との記載がある(乙10の1頁)。 ⑥ 山梨医大病院において行われた病理組織検査の報告書には,「(左母指)肉眼的には爪部が黒褐色です。」,「ごく一部ですがメラニンの産生を認めます。」との記載がある(乙10の69頁)。 ⑦ 平成10年5月24日に撮影された写真(甲7)及び平成10年12月30日に撮影されたビデオ(甲8)には,黒褐色調を呈している原告の左手親指の爪部分が撮影されている。 イ被告の主張(ア) 原告の左手親指の悪性黒色腫は,本件初診時から山梨医大病院へ転院するまでの間,黒褐色を呈していなかった。 (イ) 下記①ないし⑦によると,原告の左手親指の悪性黒色腫が,黒褐色を呈さない悪性黒色腫であったことことは明らかである。 ① 乙15号証の1・2は,原告の左手親指の悪性黒色腫から採取した組織を薄く切り,ヘマトキシリン・エオジン染色(以下,単に「染色」という。)した細胞の顕微鏡写真であり,乙16号証の3は,被告病院の患者から採取した黒褐色を呈する大腸の悪性黒色腫の細胞を染色した顕微鏡写真であるところ,原告の悪性黒色腫の顕微鏡写真(乙15の1・2)に認められるメラニン色素は,大腸の悪性黒色腫の顕微鏡写真 病院の患者から採取した黒褐色を呈する大腸の悪性黒色腫の細胞を染色した顕微鏡写真であるところ,原告の悪性黒色腫の顕微鏡写真(乙15の1・2)に認められるメラニン色素は,大腸の悪性黒色腫の顕微鏡写真(乙16の3)に認められるメラニン色素の数と比較して極めて微量で密度も低いことが分かる。この乙15号証の1・2から認められるメラニン色素の数と密度によると,原告の左手親指の悪性黒色腫が,黒褐色を呈さない悪性黒色腫であったことは明らかである。 ② 切断した原告の左手親指の一部を薄く切って染色した組織の顕微鏡写真(乙17の3ないし11)からは,メラニン色素又はメラノファージの顕著な存在が認められない。 ③ 山梨医大病院で本件手術前に撮影された原告の左手親指の悪性黒色腫部分の写真(乙17の1・2)によると,原告の左手親指の爪部分が,被告病院における本件組織検査のための組織採取に伴う出血によって褐色を呈していることが認められるが,当該部位に悪性黒色腫を疑うべき色素沈着は認められない。 ④ 山梨医大病院において行われた病理組織検査の報告書(乙10の69頁)には,「(左母指)肉眼的には爪部が黒褐色です。」,「ごく一部ですがメラニンの産生を認めます。」との記載があるが,この記載は,本件組織検査のために組織を採取した部分に血腫があるため肉眼的には黒褐色を呈している部分があるが左手親指の悪性黒色腫にはメラニン色素がわずかしか産生されておらず,原告の左手親指の悪性黒色腫が悪性黒色腫の特徴的な色彩を呈していなかったことを表している。 ⑤ 本件組織検査のための組織採取は,原告の左手親指に認められた淡いながらもわずかに黒褐色を呈していた組織をすべて取り除くように行われたが,結果として原告の悪性黒色腫を取りきることができなかった。このことは, 織検査のための組織採取は,原告の左手親指に認められた淡いながらもわずかに黒褐色を呈していた組織をすべて取り除くように行われたが,結果として原告の悪性黒色腫を取りきることができなかった。このことは,原告の悪性黒色腫が肉眼的には全く黒褐色を呈していなかった部位にも及んでいたことを示している。 ⑥ 被告病院の形成外科の医師が作成した診療録(乙7の10頁)には,原告の左手親指の病変について,黒色を呈するのう胞性病変である旨の記載があるが,これは,患部は黒色ではなく淡い黒褐色を呈していたものの,注意を喚起するためにあえて「黒色」と記載したものであり,この記載から原告の左手親指の病変が黒色を呈していたと推認することはできない。 ⑦ 原告は,平成13年の7,8年前,左手親指の爪の下に2,3ミリメートルの黒色線があったことや,平成10年5月24日に撮影された写真(甲7)及び平成10年12月30日に撮影されたビデオ(甲8)に映っている原告の左手親指の爪部分が黒色を呈していることを根拠に,原告の左手親指の悪性黒色腫が,平成13年4月12日の本件初診時から黒褐色を呈していた旨主張するが,前記各時期は,本件初診とは異なる時期のものであり,これらの写真及びビデオ映像から,本件初診時における原告の左手親指の悪性黒色腫部分の色調を推認することはできない。 (2) 争点(2)(争点(1)において原告の左手親指の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったと認められた場合,被告病院のA医師らに原告の左手親指の悪性黒色腫を見落とした過失があるといえるか。)についてア原告の主張(ア) 原告の左手親指は,本件初診時,①爪部分が黒褐色調を呈し,②爪は亀裂が生じて破壊され,③爪部分には腫瘤が存在した。 (イ) 爪下悪性黒色腫は,爪の色素沈着が てア原告の主張(ア) 原告の左手親指は,本件初診時,①爪部分が黒褐色調を呈し,②爪は亀裂が生じて破壊され,③爪部分には腫瘤が存在した。 (イ) 爪下悪性黒色腫は,爪の色素沈着がまず発生し,その後に爪の亀裂,破壊が起こり,腫瘤が発生するという経過をたどることが多く,医師は,患者の爪に色素沈着を認めた場合には,悪性黒色腫を疑って以後の検査及び治療方針を立てるべきである。 (ウ)a しかるに,A医師は,本件初診時,上記(ア)の各症状,特に原告の左手親指が黒褐色調を呈していたことから,原告の左手親指の病変が悪性黒色腫であることを疑い,確定診断を得るために皮膚科の診察を受けさせるべきであったのにこれを怠った。 b また,A医師を含む被告病院の外科を担当する医師は,本件初診後から平成13年6月29日までの間の各診察において,上記(ア)の各症状,特に原告の左手親指が黒褐色調を呈していたことから,原告の左手親指の病変が悪性黒色腫であることを疑い,確定診断を得るために皮膚科の診察を受けさせるべきであったのにこれを怠った。 イ被告の主張仮に,原告の左手親指の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったとしても,原告の本件初診時の主訴は,打撲による受傷であり,直ちに悪性黒色腫を疑い,皮膚科を受診させなければならなかったとはいえない。また,過去に一度黒褐色を呈していた患部が黒褐色を呈さなくなったという症状や,触診して圧痛があるという症状は,悪性黒色腫の存在を否定的に考えるべき所見である。そうすると,仮に,原告の左手親指の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったとしても,被告病院の医師が,原告の左手親指の悪性黒色腫を発見するのに約5か月間かかったことについて,過失があったとまではいえない。 (3) 争点(3 の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったとしても,被告病院の医師が,原告の左手親指の悪性黒色腫を発見するのに約5か月間かかったことについて,過失があったとまではいえない。 (3) 争点(3)(争点(1)において原告の左手親指の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったとは認められなかった場合,被告病院のA医師らに原告の左手親指の黒褐色を呈しない悪性黒色腫を見落とした過失があるといえるか。)についてア原告の主張(ア) 仮に,原告の左手親指の病変が,典型的な悪性黒色腫が示す黒褐色を呈していなかったとしても,原告の左手親指は,①爪に色素沈着が存在し,②爪が破壊され,③指突部に小型の色素沈着が存在し,④爪部分には腫瘤が存在した。 (イ) 爪下悪性黒色腫は,爪の色素沈着がまず発生し,その後に爪の亀裂,破壊が起こり,腫瘤が発生するという経過をたどることが多く,医師は,患者の爪に色素沈着を認めた場合には,悪性黒色腫を疑って以後の検査及び治療方針を立てるべきである。 (ウ)a しかるに,A医師は,本件初診時,上記(ア)の各症状から,原告の左手親指の病変が悪性黒色腫であることを疑い,確定診断を得るために皮膚科の診察を受けさせるべきであったのにこれを怠った。 b 仮に,A医師が本件初診時に上記各症状から原告の左手親指の病変を悪性黒色腫であると診断することが困難であったとしても,その後の診療において適切な視診,触診及び問診等を行っていれば,原告の左手親指の病変に悪性黒色腫の疑いがある旨診断し,皮膚科の医師に診断させるなどして,原告の悪性黒色腫を発見することができた。しかるに,A医師を始めとする被告病院の医師は,本件初診後の診察において,適切な視診,触診及び問診を怠り,原告の左手親指の病変に悪性黒色腫の疑いがあることを 原告の悪性黒色腫を発見することができた。しかるに,A医師を始めとする被告病院の医師は,本件初診後の診察において,適切な視診,触診及び問診を怠り,原告の左手親指の病変に悪性黒色腫の疑いがあることを見落とした。 イ被告の主張(ア) 原告の左手親指の悪性黒色腫は,典型的な悪性黒色腫が示す黒褐色を呈さず,加えて,触診の結果,炎症性病変を疑わせる所見である圧痛が認められ,本件MRI検査によっても腫瘍病変に特異的な所見が認められなかった。また,原告の主張する指突部の小型の色素沈着は,山梨医大病院入院時に存在したものであって,被告病院通院時には存在しなかった。 (イ) 上記(ア)のとおり,原告の左手親指には,本件初診時においても,その後の受診時においても,悪性黒色腫を疑うべき症状は存在しなかった。原告の悪性黒色腫は,その名称とは異なり,黒褐色を呈さないものであり,悪性黒色腫の典型的所見を呈さない発見の難しい症例であったが,被告病院の医師は,これを発見し,原告を山梨医大病院に転院させている。被告病院の外科及び形成外科の医師が適正な診察を行ったからこそ原告の黒褐色を呈しない悪性黒色腫は発見されたのであって,被告病院の医師の診察に何らの過失もない。 (4) 争点(4)(被告病院において行われた本件組織検査が不適切であったといえるか。)についてア原告の主張被告病院の医師は,本件組織検査に先立ち,原告の左手親指の病変が悪性黒色腫の疑いがあり,組織検査によってがん細胞が体中に散り,がん転移の可能性が高くなることを認識し,組織検査を回避するか,悪性黒色腫に冒された部分をすべて取り除くべきであったのに,漫然と本件組織検査を実施し,健常皮膚を含めた病巣切除を行わず,悪性黒色腫の一部のみを切除した。 イ被告の主張被告 避するか,悪性黒色腫に冒された部分をすべて取り除くべきであったのに,漫然と本件組織検査を実施し,健常皮膚を含めた病巣切除を行わず,悪性黒色腫の一部のみを切除した。 イ被告の主張被告病院の医師が,平成13年9月10日に本件組織検査を実施したのは,本件MRI検査では,原告の左手親指の病変に認められた不良肉芽が,炎症によって生じたものなのか,それとも悪性の腫瘍によるものなのかを判別することができなかったため行ったものであり,本件組織検査によって原告の悪性黒色腫が発見できたのであるから,本件組織検査は,適正な医療行為である。また,被告病院の医師は,前記不良肉芽が悪性黒色腫であった場合に備えて,肉芽組織病変のすべてを切除するよう心掛けて組織採取を行っている。 (5) 争点(5)(被告病院の医師の過失と原告の被った損害との間の因果関係の有無)についてア原告の主張(ア) 被告病院の医師がより早い時期に原告の左手親指の病変が悪性黒色腫であることを発見していれば,本件手術(拡大切除術(左手親指切断)及び左腋窩リンパ節郭清手術)という大きな侵襲を伴う治療を選択しなくても治療することが可能であった。 (イ) また,被告病院の医師が,組織検査を回避するか,本件組織検査において悪性黒色腫部分をすべて取り除いていれば,原告は,抗がん剤による治療を受ける必要はなかった。 イ被告の主張(ア) 親指切断(指骨中手骨関節での関節離断)は,親指に悪性黒色腫が発見された場合の基本的な治療法である。また,がんの転移が疑われるリンパ節を切除し,抗がん剤による治療を継続するのも極めて一般的な治療方法であって,仮に,被告病院の医師がより早い時期に原告の左手親指の病変が悪性黒色腫であることを発見していたとしても,本件手術と同内容の手術 除し,抗がん剤による治療を継続するのも極めて一般的な治療方法であって,仮に,被告病院の医師がより早い時期に原告の左手親指の病変が悪性黒色腫であることを発見していたとしても,本件手術と同内容の手術は避けられなかった。 (イ) また,がん転移の危険性についても,本件手術後3年以上経過した現在においても再発の事実がないことにかんがみると,仮に,被告病院の医師がより早い時期に原告の悪性黒色腫を発見していたり,本件組織検査において悪性黒色腫部分をすべて取り除いていたとしても,再発の危険性に差異はないといえる。 (6) 争点(6)(原告の被った損害額)についてア原告の主張(ア) 逸失利益 1659万5983円a 原告は,本件手術によって,左手親指を第2関節から失い,かつ,左腋窩リンパ節を切除し,今後,毎年3回,約3週間にわたり,抗がん剤による治療を受けなければならなくなった。 b このような原告の状態は,少なくとも,後遺障害別等級表第3級の「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの」に該当するといえるところ,後遺障害別等級表第3級の労働能力喪失率は100パーセントである。 c 原告は,昭和7年2月20日生まれで,本件手術当時,69歳であったところ,69歳の就労可能年数は7年,ライプニッツ係数は5.786である。 d 平成12年賃金センサスによると,65歳以上の全女性の平均年収は286万8300円である。 e 以上によると,原告の逸失利益は,1659万5983円(1円未満切捨て)である。 (286万8300円×5.786=16,595,983.8)(イ) 慰藉料 2000万円a 原告は,被告病院の医師の過失により,左手親指を第2関節から失い,加え 切捨て)である。 (286万8300円×5.786=16,595,983.8)(イ) 慰藉料 2000万円a 原告は,被告病院の医師の過失により,左手親指を第2関節から失い,加えて,今後,体内に散らばったがん細胞が転移する不安を抱えて生活せざるを得なくなった。 b 上記精神的苦痛を慰藉するためには,2000万円をもってするのが相当である。 (ウ) 弁護士費用 400万円上記(ア),(イ)の合計は,3659万5983円であり,弁護士費用としては,400万円が相当である。 (エ) 原告の被った損害額は,上記の総合計4059万5983円となる。 イ被告の主張原告の上記主張事実は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(原告の左手親指の悪性黒色腫は,黒褐色を呈する悪性黒色腫であったか。)について(1) 下記アないしウによると,原告の左手親指の悪性黒色腫は,典型的な黒褐色を呈する悪性黒色腫ではなく,メラニンの産生が極めて少量で他の疾患との鑑別が困難な悪性黒色腫であったと認められる。 ア典型的な黒褐色を呈する悪性黒色腫から採取した組織の顕微鏡写真(乙16の1ないし3)と比較すると,原告の悪性黒色腫を薄く切った組織の顕微鏡写真(乙15の1ないし3,乙17の1ないし11)から観察できるメラニンの産生は,極めて少量であり,かつ,密度も著しく低いことが認められる。 イ証拠(甲11(原告の陳述書)の1頁16行目以下,乙7の3頁)によると,A医師が,本件初診時,原告の左手親指の病変を右手親指と比較しながら観察したことが認められるが,A医師が作成した本件初診の診療録には,爪床部に血腫がある旨の記載はあるものの,特段,悪性黒色腫を疑うべき黒褐色の色素沈着等を発見した旨の記載がない。こ 指と比較しながら観察したことが認められるが,A医師が作成した本件初診の診療録には,爪床部に血腫がある旨の記載はあるものの,特段,悪性黒色腫を疑うべき黒褐色の色素沈着等を発見した旨の記載がない。これらの事実によると,原告の左手親指の悪性黒色腫が,本件初診時,右手親指との比較においても,悪性黒色腫を疑わせる色彩を呈していなかったことがうかがわれる。 ウ原告が,本件初診の後,被告病院の外科において経過観察をしている際に作成された診療録(乙7)には,原告の左手親指に発赤がある旨の記載や(乙7の5頁,外科における平成13年6月21日の診療分),やや肥大した爪床部に発赤がある旨の記載(乙7の9頁,形成外科における平成13年8月13日診療分)は存在するものの,本件組織検査が実施された平成13年9月10日まで,原告の左手親指の病変が,悪性黒色腫を疑うべき黒褐色を呈していた旨の記載が全くない。 (2) この点,原告は,上記第2の4(1)アのとおり,①原告本人が,本件初診時,左手親指の爪部分が黒色を呈していたと記憶していること(甲10(原告の陳述書)),②被告病院の診療録に「7,8年前にぶつけた後から,2から3ミリメートルの線が数本存在しており,3年前に一度ほぼなくなったが,半年後には再び線状の黒色線が出現した。」旨の記載があること(乙7の9頁,12頁),③被告病院の診療録に,原告の左手親指の病変について,黒色を呈するのう胞性病変である旨の記載があること(乙7の10頁),④山梨医大病院の入院病歴要約(1)に,「爪が粗造となり,褐色調,表面凹凸あり」との記載があること(乙10の1頁),⑤山梨医大病院において行われた病理組織検査の報告書に,「(左母指)肉眼的には爪部が黒褐色です。」,「ごく一部ですがメラニンの産生を認めます。」との記載があること(乙1 があること(乙10の1頁),⑤山梨医大病院において行われた病理組織検査の報告書に,「(左母指)肉眼的には爪部が黒褐色です。」,「ごく一部ですがメラニンの産生を認めます。」との記載があること(乙10の69頁),⑥平成10年5月24日に撮影された写真(甲7)及び平成10年12月30日に撮影されたビデオ(甲8)には,黒褐色調を呈している原告の左手親指の爪部分が撮影されていることなどを根拠に,原告の左手親指の病変が,本件初診時から,黒褐色調を呈していたと主張する。 (3) しかしながら,上記(2)①ないし⑥の原告の主張事実に対しては,下記アないしエのとおり指摘することができる。 ア原告の平成14年3月4日付け陳述書(甲1,第1回口頭弁論提出)には,本件初診に関する記載は存在するものの,原告の左手親指の病変が本件初診時から黒色又は黒褐色を呈していた旨の記載はない。一方,原告がその根拠とする甲10号証の陳述書は,原告の左手親指の色調が争点となった後である第3回口頭弁論期日(平成16年10月4日実施)に至って提出されたものである。このような甲10号証の陳述書が提出された時機にかんがみると,甲10号証の前記記載を信用性の高いものと評価することはできないし,また,甲10号証の前記記載は,被告病院の診療録に記載のある血腫の色調を指している可能性も否定できない。 イ確かに,B医師によって平成13年9月10日になされた「原告の左手親指の病変が黒色を呈するのう胞性病変である。」旨の記載は,原告の左手親指の病変が黒色を呈していたことを推定させる一事情である。しかしながら,B医師は,この記載について,原告の左手親指の病変は周囲の皮膚よりわずかに暗いという程度の肉眼所見であったが,注意を喚起するためにあえて「黒色」と記載したと説明する(乙19)ところ, しかしながら,B医師は,この記載について,原告の左手親指の病変は周囲の皮膚よりわずかに暗いという程度の肉眼所見であったが,注意を喚起するためにあえて「黒色」と記載したと説明する(乙19)ところ,本件MRI検査によっても原告の左手親指の病変が腫瘍性病変なのか否かが不明であったというそれまでの診療経過や,原告の左手親指の病変が悪性黒色腫であった場合に備えて,組織検査のための組織採取に当たっては健常皮膚を含めて切除する必要があったという事実にかんがみると,以後の診療及び検査に先立って注意を喚起したというB医師の上記説明も一概に不合理であるとはいえない。 ウ原告の左手親指の爪部分の色調が,黒褐色を呈していた時期もあれば,そうでない時期もあることは,当事者間に争いがない。そうすると,平成5,6年ころに爪の下に黒線があったことや,平成10年当時に原告の左手親指が黒褐色を呈していたことのみをもって,原告の左手親指の悪性黒色腫が,平成13年4月の本件初診時やその後の診察時に,黒褐色調を呈していたと推認することはできない。 エ山梨医大病院における病理組織検査の報告書の「肉眼的には爪部が黒褐色です。」との記載(乙10の1頁)や,入院病歴要約(1)の「爪が粗造となり,褐色調,表面凹凸あり」との記載(乙10の69頁)は,「ごく一部ですがメラニンの産生を認めます。」との前記病理組織検査の報告書の記載(乙10の69頁)や,当時の原告の左手親指の写真(乙17の1・2)と併せて理解すると,本件組織検査のための組織採取の結果,爪部が出血により黒褐色となっていることを表していると理解するのが合理的である。 (4) 上記(3)アないしエにかんがみると,原告の主張する上記(2)①ないし⑥の事実によって,上記(1)の認定を覆すには足りず,他に,上記(1)の認定を覆 表していると理解するのが合理的である。 (4) 上記(3)アないしエにかんがみると,原告の主張する上記(2)①ないし⑥の事実によって,上記(1)の認定を覆すには足りず,他に,上記(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。 (5) 以上のとおり,原告の左手親指の悪性黒色腫は,典型的な黒褐色を呈する悪性黒色腫ではなく,メラニンの産生が極めて少量で他の疾患との鑑別が困難な悪性黒色腫であったと認められる。そうすると,原告の左手親指の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったことを前提とする争点(2)は,検討する必要がない。したがって,次に,争点(3)について検討する。 2 争点(3)(争点(1)において原告の左手親指の悪性黒色腫が黒褐色を呈する悪性黒色腫であったとは認められなかった場合,被告病院のA医師らに原告の左手親指の黒褐色を呈しない悪性黒色腫を見落とした過失があるといえるか。)について(1) 上記前提となる事実及び認定事実並びに証拠(乙7,9,10,18,19,証人A医師)と弁論の全趣旨を総合すると,被告病院における診療経過について,次のとおり認めることができる。 ア A医師は,平成13年4月12日の本件初診において,原告の左手親指の病変を右手親指と比較しつつ観察し,原告の左手親指の爪が左側に少し残っているだけであること,爪床部に血腫があることを確認した。しかしながら,原告の左手親指の病変に,悪性黒色腫を疑うべき色調の変化は認められなかった。そこで,A医師は,原告から聴取した次の事実,すなわち,平成12年10月に左手親指の爪囲炎という診断を受けて被告病院に通院していたこと,その後,爪は生えてきたが,1週間前に左手親指を打撲したことを総合考慮し,原告の左手親指の病変を打撲による爪の欠損及び感染を伴うひょう疽(指の急性化膿性炎症)で 断を受けて被告病院に通院していたこと,その後,爪は生えてきたが,1週間前に左手親指を打撲したことを総合考慮し,原告の左手親指の病変を打撲による爪の欠損及び感染を伴うひょう疽(指の急性化膿性炎症)であると診断した。 イ原告は,本件初診の後,平成13年4月13日,14日の両日,同年5月2日,3日の両日,被告病院の外科において,被告病院の医師による診察を受けたが,この間,原告の症状に特筆すべき変化はなかった。 ウ原告は,平成13年6月20日,被告病院の外科において,被告病院の医師による診察を受け,その際,前日まで左手親指が腫れており,当該部位を押したら水が出た旨を訴えた。被告病院の医師は,原告の左手親指の病変を観察し,不良肉芽(炎症などが原因で,創傷の治癒に際して肉芽が創縁を越えて増殖し,上皮化が阻止されている状態)を認めたが,病変は黒色を呈しておらず,感染による不良肉芽の可能性が高いと判断し,患部を消毒し,軟膏を塗布して,抗生剤を処方した。 エ原告は,平成13年6月21日から23日及び25日から29日の各日,被告病院の外科において,被告病院の医師による診察を受けた。被告病院の医師は,この間,原告の左手親指の病変を観察し,発赤があること(同年6月21日),浸出液が見られること(同月23日),圧痛があること(同月23日,28日),膿はないこと(同月28日)を確認し,同月29日,原告に対し,自宅で経過観察するよう指示した。 オ原告は,平成13年8月11日(土曜日),被告病院の外科において,被告病院の医師による診察を受け,左手親指が再び腫れ,水が出てきた旨を述べた。 被告病院の医師は,原告の左手親指に爪が生えてきていないことを確認し,それまでの診療経過等から,原告の左手親指の病変は,腫瘍性病変の可能性もあり,できるだけ早期に 再び腫れ,水が出てきた旨を述べた。 被告病院の医師は,原告の左手親指に爪が生えてきていないことを確認し,それまでの診療経過等から,原告の左手親指の病変は,腫瘍性病変の可能性もあり,できるだけ早期に組織検査を実施する必要があると判断し,翌週の月曜日に外来診療が行われる被告病院の形成外科で診察を受けるよう指示した。 カ原告は,平成13年8月13日,被告病院の形成外科において,B医師による診察を受けた。B医師は,この診察において,原告から7,8年前から爪の下に黒線があったこと及び1年前から爪が剥がれていたことを聴取し,また,原告の左手親指の病変を観察し,爪床部がやや肥大し,赤みを帯びていること,圧痛があること,浸出液が見られることを確認し,原告の左手親指の病変は,肉芽組織又は腫瘍性病変の可能性があると判断した。そして,B医師は,同日,組織検査のための組織採取によって爪床部の組織を破壊する可能性があることを考慮し,まず,被侵襲的検査であるMRI検査を実施することとした。 キ原告の左手親指の病変は,平成13年8月31日に実施された本件MRI検査によっても,腫瘍性病変である旨の確定診断がつかなかった。そこで,B医師は,確定診断を得るためには病理組織検査を実施する必要があると判断し,原告は,平成13年9月10日,被告病院において,左手親指の組織の採取を受け(この組織採取は,原告の左手親指に認められた肉芽腫様病変をすべて取り除くように行われた。),本件組織検査が実施された。 ク本件組織検査を担当した被告病院の医師は,平成13年9月14日,原告の左手親指の病変について,悪性黒色腫である旨診断した。 ケ原告は,平成13年9月18日,被告病院の外科において,被告病院の医師の診察を受け,被告病院の皮膚科を受診するよう指示された。 コ原 左手親指の病変について,悪性黒色腫である旨診断した。 ケ原告は,平成13年9月18日,被告病院の外科において,被告病院の医師の診察を受け,被告病院の皮膚科を受診するよう指示された。 コ原告は,平成13年9月18日,被告病院の皮膚科において,C医師の診察を受け,C医師は,この診察の結果及び本件組織検査の結果等を受けて,原告に対し,山梨医大病院の皮膚科で診療を受けるよう指示した。 (2) 以上の診療経過を前提に,A医師を始めとする被告病院の医師の責任について検討する。 ア確かに,平成13年4月12日の本件初診から被告病院の医師が原告の左手親指の病変が腫瘍性病変の可能性があると診断した平成13年8月11日まで,約4か月間経過している。 イしかしながら,①原告の左手親指の病変は,悪性黒色腫を疑うべき黒褐色を呈しておらず,メラニンの産生が極めて少量で他の疾患との鑑別が困難な悪性黒色腫であったこと,②加えて,原告の左手親指の病変には,上記診療期間を通じて,炎症性病変をうかがわせる代表的な所見である発赤,腫脹,圧痛及び浸出液があったこと,③原告の左手親指に血腫が存在したという本件初診時の症状は,1週間前に打撲した旨の本件初診時における原告の説明と矛盾せず,この本件初診時における主訴及び症状にかんがみると,前記約4か月間という期間も,経過観察の期間として不合理に長期であるとはいえないことなどを考慮すると,上記(1)の診療経過から,被告病院の医師に原告の悪性黒色腫を見落とした過失があるとはいえない。 3 争点(4)(被告病院において行われた本件組織検査が不適切であったといえるか。)について(1) 医学文献である証拠(乙2(悪性黒色腫 <皮膚科 MOOK №18>)の72頁)によると,悪性黒色腫の疑いがある場合,腫瘍の一部を生検 た本件組織検査が不適切であったといえるか。)について(1) 医学文献である証拠(乙2(悪性黒色腫 <皮膚科 MOOK №18>)の72頁)によると,悪性黒色腫の疑いがある場合,腫瘍の一部を生検することは黒色腫細胞の転移を早める恐れがあるので,少なくとも健常皮膚を含めた病巣切除を行い,組織診断を確定してから治療方針を行うことが望ましいことが認められるところ,本件組織検査のための組織採取では,原告の悪性黒色腫のすべてを切除することができなかった。 (2) しかしながら,①原告の左手親指の悪性黒色腫は,典型的な黒褐色を呈する悪性黒色腫ではなく,病変部と健常皮膚の区別が困難であったこと,②本件組織検査は,非侵襲的検査である本件MRI検査によっても,原告の左手親指の病変が腫瘍性病変なのか否かを確定することができなかったことから実施されたものであること(上記2(1)カ,キ),③本件組織検査のための組織採取は,できる限り原告の左手親指に認められた肉芽腫様病変をすべて取り除くように行われたこと(上記2(1)キ),④実際に,本件組織検査によって原告のがん再発の危険性が高まったことをうかがわせる証拠は全くないことにかんがみると,被告病院の医師が,本件組織検査のための組織採取を実施し,その際,原告の左手親指の悪性黒色腫を切除しきれなかったことをもって,本件組織検査はそもそも実施すべきでなかったとか,本件組織検査のための組織採取に不備があったなどということはできない。 4 結論以上によると,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事部裁判長裁判官新堀亮一裁判官倉地康弘 いからこれを棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事部裁判長裁判官新堀亮一裁判官倉地康弘裁判官岩井一真
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