令和6(わ)455 道路交通法違反(変更後の訴因 危険運転致死)被告事件

裁判年月日・裁判所
令和8年1月16日 福岡地方裁判所
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判決文本文10,021 文字)

令和8年1月16日宣告令和6年(わ)第455号(福岡地方裁判所大牟田支部同年(わ)第4号)道路交通法違反(変更後の訴因危険運転致死)被告事件判決主文被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中480日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和6年1月29日午後9時12分頃、普通乗用自動車(軽四)を運転し、福岡県大牟田市a町b丁目c番地d付近の道路を進行するに当たり、運転開始前における飲酒の影響により、前方注視及び運転操作に支障が生じるおそれがある状態で同車を運転し、もってアルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、よって、その頃、同所付近道路をe町方面からa町方面に向かい時速約90キロメートルで直進して走行中、そのアルコールの影響により前方注視及び運転操作が困難な状態に陥り、同所先の信号機により交通整理の行われている交差点の対面信号機が赤色信号(右折青色矢印)を表示しているのを看過したまま、同交差点に進入し、折しも時速約81キロメートルで対向直進し、右折のため自車前方に進出してきたA(当時17歳)運転の原動機付自転車を前方に認め、急制動の措置を講じたが間に合わず、同交差点出口に設置された横断歩道上において、同原動機付自転車前部に自車左前部を衝突させて同原動機付自転車もろとも同人を路上に転倒させ、よって、同人に頸椎骨折等の傷害を負わせ、同月30日午前2時50分頃、同市f町g丁目h番地i所在のB病院において、同人を前記傷害に基づく頸髄損傷により死亡させた。 (証拠の標目)省略 (事実認定の補足説明)判示日時に、被告人が判示自動車(以下「本件自動車」という。)を運転して判示交差点(以下「本件交差点」という。) より死亡させた。 (証拠の標目)省略 (事実認定の補足説明)判示日時に、被告人が判示自動車(以下「本件自動車」という。)を運転して判示交差点(以下「本件交差点」という。)に進入(以下「本件進入」という。)し、急制動の措置を講じるも間に合わず、本件自動車がA運転の判示原動機付自転車(以下「本件バイク」という。)と衝突(以下「本件衝突」という。)し、Aが判示のとおり受傷して死亡したことは証拠上明らかであり、当事者間にも争いがない(以下、本件衝突に至るまでの事実経過を含めて「本件事故」といい、その間における被告人の運転を「本件運転」という。)。 その上で、弁護人は、被告人の弁解に即して、被告人が飲酒をしたのは本件当日の朝が最後であり、本件運転時には体内にアルコールは残っておらず、そのほか本件運転に交通法規から殊更に逸脱した点はなく、本件衝突の原因は、専ら本件バイクが二段階右折を怠り、高速度で、いきなり本件自動車の進路上に右折進入してきた点にある、などとして、故意過失の如何を問わず、被告人が刑事責任を負う余地はない旨、被告人の全面無罪を主張する。 そこで、当裁判所が弁護人の主張を採用せず、判示の危険運転致死罪の成立を認定した経緯について、補足して説明する(以下、時刻は本件当日のそれを指す。)。 第1 本件事故の客観的態様について 1 前提となる事実関係⑴ 本件交差点の形状等本件交差点は、本件自動車及び本件バイクが対向進行してきた、概ね直線状に延びる道路(本件自動車の制限速度は時速50キロメートル、片側2車線、右折専用レーンあり。以下「本件道路」という。)と、もう一本の道路とが、やや斜めに交差する4差路交差点であり、その4差路全てに横断歩道が設置され、信号機による交通整理がされている(甲12、13等)。 ⑵ レーンあり。以下「本件道路」という。)と、もう一本の道路とが、やや斜めに交差する4差路交差点であり、その4差路全てに横断歩道が設置され、信号機による交通整理がされている(甲12、13等)。 ⑵ 本件自動車と本件バイクの衝突箇所本件衝突により、直進する本件自動車から見て、本件交差点の出口側に設置され た判示横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)上の第1車線側を中心に、ガウジ痕及びタイヤ痕が形成されており、本件衝突は同横断歩道上において生じたものと認められる(甲12、16、証人C)。 ⑶ 本件バイクの進行状況等ア本件衝突によって本件自動車や本件バイクに生じた擦過痕や削損、溶融といった特異痕跡、更にこれらの符合状況から、本件事故は、本件自動車の左前部と本件バイクの左側面とが衝突する態様で生じたものと認められる(甲14、17、証人D。その内容に疑義はない。)イ本件バイクの後続車に設置されていたドライブレコーダーの映像(以下「本件映像」という。)等によれば、本件バイクが、本件自動車から見た対向車線を本件交差点に向けて時速約81キロメートルで直進し、午後9時12分46秒に対面信号機の表示が黄色から赤色・右折青色矢印に変わって約2秒後(午後9時12分48秒)、対向車線の第2車線上で右折のウインカーを3回点滅させ、斜めに切り込むように右折を開始し、その約1秒後(同分49秒)、本件バイクから見て本件交差点入口側に設けられた本件横断歩道上で、直進してきた本件自動車と衝突したことが認められる(甲24、34)。 ⑷ 本件交差点の信号機の表示状況ア本件自動車の対面信号機と本件バイクの対面信号機の信号サイクルは同一であり、歩行者用の信号機の表示が赤色に変わってから1秒後に黄色表示となり、これが3秒間継続した後、赤色・右折青色 の表示状況ア本件自動車の対面信号機と本件バイクの対面信号機の信号サイクルは同一であり、歩行者用の信号機の表示が赤色に変わってから1秒後に黄色表示となり、これが3秒間継続した後、赤色・右折青色矢印の表示が4秒間継続する(甲31)。 現に、本件バイクの対面信号機の表示は、本件衝突(午後9時12分49秒)の約6秒前(同分43秒)に青色から黄色に、本件衝突の約3秒前(同分46秒)に黄色から赤色・右折青色矢印の表示に変わっている(甲24、34)。 イよって、本件自動車の対面信号機の表示についても、アと同様に、本件衝突の約6秒前に黄色に、同約3秒前に赤色・右折青色矢印に変わっていたものと認められる(なお、実況見分調書(甲29)添付の走行位置図においては、赤色・右折 青色矢印に変わった時点につき本件衝突の約4秒前とされているが、誤りである。)。 ⑸ 本件自動車の速度ア防犯カメラに記録された動画の解析結果等によれば、①本件自動車は、本件交差点から約300メートル離れた道路上の地点(以下、「甲地点」という。)を、時速約90キロメートルから約110キロメートルの範囲内の速度で通過していたこと、②甲地点から本件交差点までの約300メートルの距離を、本件自動車が約11秒、平均時速約98キロメートルで進行したこと、が認められる(甲18、19、21、35、証人E、同F、同G。本件自動車の特定及びその走行速度の算出に関する内容に疑義はない。)。 イ甲地点から本件交差点にかけての道路は直線状であり、平均時速約98キロメートルで進行できるような交通事情であった(本件映像からも、夜間の閑散とした交通事情がうかがえる。)ことにも照らすと、特段の事情がない限り、本件自動車はおおむね一定の速度で進行したものと想定される。そして、被告人の弁解を含む関 情であった(本件映像からも、夜間の閑散とした交通事情がうかがえる。)ことにも照らすと、特段の事情がない限り、本件自動車はおおむね一定の速度で進行したものと想定される。そして、被告人の弁解を含む関係証拠上、本件衝突の直前における急制動を除き、急加速・急減速を行ったような事情は見当たらない。 ウよって、本件自動車は、時速約90キロメートルから約110キロメートルの範囲内で通過した甲地点以降、特段の加速ないし減速を経ずに進行し、そのまま本件進入に至ったものと認められる。 ⑹ 対面信号機の表示経過と本件自動車の位置との関係ア捜査段階において、①本件自動車の対面信号機と本件バイクの対面信号機のサイクルが同一であること、②本件自動車が時速約75キロメートル(被告人の当時の供述を踏まえたもの)で進行していたこと、を前提として、本件自動車の対面信号機の表示経過及びその際の本件自動車の位置(本件自動車から見た本件交差点入口側の停止線からの距離)を対象とする実況見分が実施されている(甲29)。 その結果は、当該表示が青色から黄色に変化する時点(本件衝突の約7秒前)において、本件自動車は同停止線の手前約102.3メートルの地点に位置し、赤 色・右折青色矢印の表示に変化した後、本件衝突の約2秒前の時点において、本件自動車は同停止線上に位置する、というものである(甲29、証人D。既に指摘した誤りを除き、その内容に疑義はない。)。 イアの事実関係に照らせば、本件自動車の対面信号機の表示を直接明らかにする証拠が存在しない旨の弁護人の主張を踏まえても、甲地点を通過した本件自動車が本件交差点に進入するまでの間、対面信号機の表示は青色から黄色を経て赤色・右折青色矢印に変化していたのであり、かつ、その時々における本件自動車の位置は、先のとおり時速 、甲地点を通過した本件自動車が本件交差点に進入するまでの間、対面信号機の表示は青色から黄色を経て赤色・右折青色矢印に変化していたのであり、かつ、その時々における本件自動車の位置は、先のとおり時速約75キロメートルを前提として導出された本件自動車の位置よりも、更に手前(甲地点寄り)であったものと認められる。 ⑺ 本件自動車からの視認状況ア本件交差点は見通しの良い平坦・直線状の道路上にあり、本件自動車から本件交差点ないし対面信号機に向けて視界を妨げるような物はなく(甲12、13)、前述の対面信号表示の変化につき、被告人の視認を妨げるような外部的要因はなかったものと認められる。 イ被告人は、対向進行中の本件バイクの前照灯に眩惑されたため、対面信号機の表示を視認できなかった旨弁解する。 しかし、既に認定説示したとおりの本件衝突に至るまでの本件自動車及び本件バイクの進行状況や相互の距離関係等に照らすと、3秒間にわたる黄色表示も含む青・黄・赤への対面信号表示の変化ないし本件進入時の赤色表示を一切視認できないほど、本件バイクの前照灯に眩惑される時間帯が生じていたなどとは、到底考えられない。現に実況見分において、本件バイクの前照灯が上向きであったとしても、本件交差点に向かって直進進行する被告人からの対面信号機の表示の視認は妨げられないことが確認されている(甲29、証人D)。 本件バイクの前照灯の影響をいう被告人の弁解は信用できない。 2 本件事故の客観的態様についての結論以上の認定事実を総合すると、本件事故の客観的態様について、次のとおり認め られる。すなわち、本件自動車は、本件交差点から約300メートル離れた甲地点を時速約90キロメートルないし約110キロメートルの範囲内の速度で通過し、その後特段の加速・減速を伴わずに本 られる。すなわち、本件自動車は、本件交差点から約300メートル離れた甲地点を時速約90キロメートルないし約110キロメートルの範囲内の速度で通過し、その後特段の加速・減速を伴わずに本件交差点に向けて直進し(なお、甲地点通過時を含め、本件運転時における本件自動車の速度は、被告人に有利に時速約90キロメートルの限りで認めることとする。)、その間、対面信号機の表示は青色から黄色、そして赤色・右折青色矢印へと変化していたが、そのまま本件交差点に直進進入し、対向車線から斜めに切り込むように右折進行してきた本件バイクと衝突する直前、急制動により減速したものの間に合わず、本件横断歩道上で衝突した。 第2 アルコールの保有状況について 1 本件当日午後11時10分(本件事故の発生から約2時間後)に実施された呼気検査(非分散型赤外線分析法によるもの。以下「本件呼気検査」という。)の結果、被告人の呼気1リットル当たり0.59ミリグラムのアルコールが検出されている(甲2、証人H)。 被告人の弁解を含む関係証拠により、本件事故から本件呼気検査までの間に被告人がアルコールを摂取する機会はなかったものと認められるから、遡って、本件運転時における被告人の身体には、少なくとも呼気1リットル当たり0.59ミリグラムのアルコールが保有されていたものと認められる。 2⑴ もっとも、本件呼気検査の結果につき、被告人は、本件事故前に最後に飲酒したのは本件当日の午前6時頃であり、身体にアルコールは残っていなかったはずである旨供述して異を唱え、弁護人はこれを敷衍して、①同検査に先立って2度行われた電気化学分析法による呼気検査では測定不能であったのに、方法を変えただけで多量のアルコールが検出されるはずがない、②本件呼気検査は、被告人がうがいをせず、入れ歯を装着し 同検査に先立って2度行われた電気化学分析法による呼気検査では測定不能であったのに、方法を変えただけで多量のアルコールが検出されるはずがない、②本件呼気検査は、被告人がうがいをせず、入れ歯を装着したまま実施されており、その方法に問題があり、入れ歯装着剤の成分が影響した疑いがある、③同検査は非分散型赤外線分析法で実施されたのに、酒酔い・酒気帯び鑑識カード(甲2)には電気化学分析法の欄にチェックがされていたり、同検査を実施した警察官が、現場に臨場した際に撮影した写真 の撮影日時について、後日、自身の認識と異なる報告書を作成していたりと、関係書類には看過できない複数の不正確な記載があり、同検査の結果にも疑義が生じる、④検査に用いられた検査機器の点検簿にも、点検用紙の取り違えや「令和5年12月」と記載すべき箇所に「令和6年12月」と記載するといった誤記があり、そもそも検査機器の点検作業が適切に実施されておらず、誤作動、誤検出を招いた疑いがある、⑤本件事故の直後に被告人と至近距離で会話をした信用の置ける第三者が、酒臭等、飲酒の徴表はなかった旨、公判で供述している、などとして、本件呼気検査の正確性を争う。 しかし、以下に述べるとおり、弁護人の主張はいずれも採用できず、本件呼気検査で用いられた検査機器の機能や同検査の実施方法の相当性に疑義を挟む余地はなく、同検査の正確性は揺るがない。また、本件当日の午後11時過ぎに、酒気帯び運転罪による処罰対象となる基準値の約4倍のアルコールが検出されていることに照らし、同日の朝6時を最後に飲酒していない旨の被告人の弁解は排斥される。 ⑵ア ①について、本件呼気検査を行った警察官は、電気化学分析法による呼気検査だと、検出に当たって1度に強い呼気を吹き込む必要がある一方、非分散型赤外線分析法であれば、 告人の弁解は排斥される。 ⑵ア ①について、本件呼気検査を行った警察官は、電気化学分析法による呼気検査だと、検出に当たって1度に強い呼気を吹き込む必要がある一方、非分散型赤外線分析法であれば、複数回に分けて吹き込まれた呼気による検出が可能である旨述べた上で、最初に実施した電気化学分析法による呼気検査の際には被告人が機器に息を吹き込まないような仕草があり、強く息を吹き込むよう指示して改めて実施してもなお吹込み量不足となったため、非分散型赤外線分析法による本件呼気検査を実施した旨述べており(証人H)、その内容に疑義はない。そのような事実経過に照らせば、電気化学分析法によって2度測定不能になっていたからといって、非分散型赤外線分析法によって実施された本件呼気検査の正確性が揺らぐことにはならない。 イ ②について、本件呼気検査の直前に警察官が被告人にうがいを求めなかったのは、それに先立つ電気化学分析法による呼気検査の際に被告人のうがいを確認しており、再度のうがいは不要であると考えたからであり(証人H)、本件呼気検査 の直前にうがいを求めていないからといって、同検査の正確性は揺るがない。 また、実験(甲53、証人[第13回実施分]I)により、被告人が入れ歯を装着する際に使用する量の入れ歯安定剤が口腔内に存在していても、アルコールを身体に保有しない状態で呼気検査を行えば、アルコールは検出されない旨裏付けられているから、本件呼気検査の際に入れ歯を装着していたからといって、同検査の正確性は揺るがない(弁護人は、同実験の実施条件も問題視するが、入れ歯安定剤が入れ歯ないしマウスピースから露出していたとしても呼気検査の結果には影響を与えない旨確認されている上、被告人が使用する入れ歯安定剤には元来アルコール成分が含まれていない(甲54)。) 入れ歯安定剤が入れ歯ないしマウスピースから露出していたとしても呼気検査の結果には影響を与えない旨確認されている上、被告人が使用する入れ歯安定剤には元来アルコール成分が含まれていない(甲54)。)。 ウ ③について、酒酔い・酒気帯び鑑識カード上の呼気検査の結果部分は、検査機器から自動出力される用紙を貼り付けることによって作成される(甲2、証人H)から、それ以外の手書き部分や、その後に作成された報告書の内容に不正確な点があるからといって、検査機器による検知・印字・出力の過程に誤りがあるということにはならず、本件呼気検査の正確性は揺るがない。 エ ④について、検査機器の点検を担当した警察官は、月例の点検事務の内容とその遂行について、点検簿(甲45[令和5年実施分]、46[令和6年実施分])に基づき具体的に説明しており(証人J)、弁護人の指摘する取り違えについては、2台の検査機器の点検を並行して行っているために生じたというのであり、その過誤が検査機器の性能に疑義を生じさせるとは解されないし、点検実施日の誤記についても、点検機器から自動出力される記録紙には令和5年12月の正確な日付が印字されているのであり、やはり検査機器の性能に疑義は生じない。 オ ⑤について、一般に、体内にアルコールを保有している徴表がどのように現れるかや、その徴表をどのように見て取るかは、人や状況によって左右される。本件道路に交差する道路で停車中に本件衝突に伴う音を聞いて臨場し、蘇生措置を受けるAも目撃するなど、事故直後の緊迫した状況に直面した人物において、被告人と会話した際に酒臭その他アルコール保有の徴表を認めなかったからといって、本 件検査結果の正確性が覆され、被告人の身体のアルコール保有が否定されることにはならない。 第3 本件運転時における被告 際に酒臭その他アルコール保有の徴表を認めなかったからといって、本 件検査結果の正確性が覆され、被告人の身体のアルコール保有が否定されることにはならない。 第3 本件運転時における被告人の状態及びその認識(故意)について1⑴ 本件起訴に係る、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律3条1項所定の危険運転致死罪における「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは、アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいうものと解される。 ⑵ア第1の2に認定した客観的な事故態様から推察される被告人の本件運転は、円滑で安全な道路交通を確保する上で最も初歩的かつ基本的な、制限速度を守り、前方をよく見て信号表示に留意するというルールに根本から抵触し、道路を利用する他者はもとより、本件自動車を運転中の被告人自身の生命・身体にすら重大な脅威となる、実に無謀なものであり、道路交通の状況等に応じた適時的確な運転操作からの乖離は甚だしい。被告人があえて赤色信号を無視して本件進入に及んだ疑いは生じない(検察官も主張していない)中、それにもかかわらず、被告人が上記のような無謀な運転を現にして本件進入に及んだことに鑑みれば、本件進入に先立ち、被告人が前方を注視して道路交通の状況等に応じた運転操作をすることが困難な状態にあったこと、すなわち正常な運転が困難な状態に陥っていたことは明らかというべきである。 イそして、既に認定したとおり、本件運転の際、被告人は少なくとも呼気1リットル当たり0.59ミリグラムという、酒気帯び運転罪による処罰対象となる基準値の約4倍ものアルコールを身体に保有していたのである。アルコールが認知・判断能力の低下を介して運転に与える悪影響については多言を要さず、関係証 リグラムという、酒気帯び運転罪による処罰対象となる基準値の約4倍ものアルコールを身体に保有していたのである。アルコールが認知・判断能力の低下を介して運転に与える悪影響については多言を要さず、関係証拠上、多量のアルコール保有以外に、被告人をして正常な運転が困難な状態に陥らせる原因は見当たらない。 ⑶ 以上のとおり、本件進入に先立って、被告人は、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥っていたものと認められ、また、同状態に陥るのに先立 ち、被告人が、アルコールの影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、本件運転に及んでいたことも優に認定できる。 2 被告人の認識(故意)について検討するに、既に認定したとおり、被告人は本件事故の発生から約2時間が経過した時点においてですら、呼気1リットル当たり0.59ミリグラムという多量のアルコールが検出されるほどに、本件運転に先立ってアルコールを摂取(量等に照らし、その方法は飲酒と推認できる。)していたことに鑑みると、本件運転中の被告人において、自身がアルコールの影響で正常な運転に支障を生じるおそれがある状態にあることの認識(故意)に欠けるところはなかったものと認められる。 第4 結論以上のとおり、関係証拠により、被告人による判示危険運転致死罪の成立が認められる。 なお、本件バイクの走行態様を非難する弁護人の主張に鑑み付言するに、本件バイクが交通法規を遵守せずに高速度で右折を開始して本件自動車の進路上に進出したことは確かである。しかし、いかんせん本件バイクが右折を開始した時点では被告人の対面信号機は既に赤色を表示していたのであり、被告人が数秒前から青・黄・赤と変わる信号表示の一切を看過したまま、制限速度を大幅に超過する高速度で自車を本件交差点に直進進入させたか た時点では被告人の対面信号機は既に赤色を表示していたのであり、被告人が数秒前から青・黄・赤と変わる信号表示の一切を看過したまま、制限速度を大幅に超過する高速度で自車を本件交差点に直進進入させたからこそ、本件衝突ひいてはAの死が惹起されたことは動かない。本件バイクの走行態様によっても、判示危険運転致死罪の成立は妨げられない。 (累犯前科)省略(法令の適用)省略(量刑の理由)1⑴ 被告人は、基準値の約4倍のアルコールが検出されるほどに飲酒していな がら、制限速度を40キロメートル超過する高速度で自動車を運転し、対面信号機の表示の変化にすら気付かないまま、赤色信号を看過して自車を交差点内に進入させており、その運転態様は、道路交通の安全を顧みない、実に危険で無謀なものである。本件バイクの側に交通法規に反する挙動があったにせよ、飲酒・速度超過・赤色信号看過が複合した本件犯行の規範逸脱と危険性は圧倒的であり、犯情の軽減を考慮するにも限度がある。 ⑵ 加えて被告人は、交通犯罪や粗暴犯罪による前科(うち服役4度)を重ねた末、傷害致死罪による長期間の服役(懲役10年、令和5年4月21日刑執行終了)まで経ていながら、本件犯行に及んで、他者の生命・身体の安全を軽んじる行動傾向の持続を露わにしており、これは犯情を加重する事情である。 ⑶ 責任回避に終始する被告人に反省の情を見出す余地はなく、特に酌むべき情状は見出せない。 2 以上を踏まえ、同種事案の量刑傾向を参照して検討した結果、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑:懲役10年)令和8年1月16日福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官井野憲司 裁判官富張真紀 主文 (求刑:懲役10年) 理由 令和8年1月16日福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官井野憲司 裁判官富張真紀 裁判官荒木克仁

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