令和5(行ウ)81 オンライン資格確認義務不存在確認等請求事件 ほか

裁判年月日・裁判所
令和6年11月28日 東京地方裁判所
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判決文本文22,125 文字)

- 1 - 令和6年11月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(行ウ)第81号オンライン資格確認義務不存在確認等請求事件(以下「第1事件」という。)、同第162号同請求事件(以下「第2事件」という。)、同第372号同請求事件(以下「第3事件」という。)口頭弁論終結日令和6年9月19日 判決主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 原告らは、保険医療機関として、患者から健康保険法3条13項に規定する電子資格確認により療養の給付を受けることを求められた場合に、同資格確認によって療養の給付を受ける資格があることを確認する義務及び同資格があることの確認ができるようあらかじめ必要な体制を整備する義務がないことを、 それぞれ確認する。 2 被告は、第1事件原告らに対して10万円及びこれに対する令和5年3月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を、第2事件原告らに対して10万円及びこれに対する同年5月30日から支払済みまで年3分の割合による金員を、第3事件原告らに対して10万円及びこれに対する同年9月28日から 支払済みまで年3分の割合による金員を、それぞれ支払え。 第2 事案の概要等保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号。以下「療担規則」という。)には、令和5年4月1日に施行された令和4年厚生労働省令第124号による改正の結果、健康保険法63条3項1号の厚生労働大 臣の指定を受けた病院又は診療所(同法65条の規定により病床の全部又は一- 2 - 部を除いて指定を受けたときは、その除外された病床を除く。以下「保険医療機関」という。)は、患者が同法3条13 臣の指定を受けた病院又は診療所(同法65条の規定により病床の全部又は一- 2 - 部を除いて指定を受けたときは、その除外された病床を除く。以下「保険医療機関」という。)は、患者が同法3条13項に規定する電子資格確認(以下「オンライン資格確認」という。)によって療養の給付を受ける資格があることの確認を求めた場合には、原則として、同資格があることをオンライン資格確認によって確認しなければならず(3条2項)、また、その資格があること の確認ができるよう、あらかじめ必要な体制を整備しなければならない(同条4項)旨の規定が設けられた(令和5年厚生労働省令第147号による改正前の療担規則を以下「本件改正療担規則」という。なお、令和6年4月1日以降、療担規則その他の関係規定に更なる改正がされているが、当事者がこれらには言及せず、また、各改正後の関係規定は擬律こそ異なるものの実質的な内 容に変更はないことから、以下、同日直前の法状態に従って判断することとする。)。 本件は、医師又は歯科医師である原告らが、本件改正療担規則3条2項及び4項(併せて以下「本件各規定」という。)は、健康保険法70条1項の委任の範囲を逸脱する違法なものであって無効であるなどと主張して、被告に対 し、本件各規定に基づく上記のような確認義務及び体制整備義務を原告らが負わないことの確認を求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき、精神的苦痛に対する損害賠償金10万円及び第1事件ないし第3事件に係る各訴状送達日の翌日から支払済みまで年3分の割合の遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。 1 関係法令の定め⑴ 健康保険法の関係規定の概要ア 3条13項(オンライン資格確認の定義)オンライン資格確認(電子資格確認)とは、健康保険法63条3項 ぞれ求める事案である。 1 関係法令の定め⑴ 健康保険法の関係規定の概要ア 3条13項(オンライン資格確認の定義)オンライン資格確認(電子資格確認)とは、健康保険法63条3項各号に掲げる病院若しくは診療所又は薬局(以下「保険医療機関等」とい う。)から療養を受けようとする者等が、保険者に対し、マイナンバーカ- 3 - ード(個人番号カード)に記録された利用者証明用電子証明書を送信する方法により、被保険者又は被扶養者(以下併せて「被保険者等」という。)の資格に係る情報(以下「資格情報」という。)の照会を行い、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により、保険者から回答を受けて当該資格情報を当該保険医療機関等に提供 し、当該保険医療機関等から被保険者等であることの確認を受けることをいう。 イ 63条3項(療養の給付)健康保険法63条1項の被保険者の疾病又は負傷に関する診察等の給付(診察(1号)、薬剤又は治療材料の支給(2号)、処置、手術その他の 治療(3号)、居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護(4号)、病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護(5号))を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、保険医療機関等のうち自己の選定するものから、オンライン資格確認その他厚生労働省令で定める方法により、被保険者であることの確認を 受け、療養の給付を受けるものとする。 ウ 64条(保険医)保険医療機関において健康保険の診察に従事する医師又は歯科医師は、厚生労働大臣の登録を受けた医師又は歯科医師(以下「保険医」と総称する。)でなければならない。 エ 70条1項(保険医療機関等の責務) において健康保険の診察に従事する医師又は歯科医師は、厚生労働大臣の登録を受けた医師又は歯科医師(以下「保険医」と総称する。)でなければならない。 エ 70条1項(保険医療機関等の責務)保険医療機関は、当該保険医療機関において診療に従事する保険医に、健康保険法72条1項の厚生労働省令で定めるところにより、診療に当たらせるほか、厚生労働省令で定めるところにより、療養の給付を担当しなければならない。 オ 72条1項(保険医等の責務)- 4 - 保険医療機関において診療に従事する保険医は、厚生労働省令で定めるところにより、健康保険の診療に当たらなければならない。 カ 80条(保険医療機関等の指定の取消し)厚生労働大臣は、保険医療機関が健康保険法70条1項の規定に違反したときは、当該保険医療機関に係る同法63条3項1号の指定(保険医療 機関等の指定)を取り消すことができる。 ⑵ 本件改正療担規則3条(受給資格の確認等)の規定(関係規定を含む。)の概要ア保険医療機関は、患者からオンライン資格確認により療養の給付を受ける資格があることの確認を受けることを求められた場合には、オンライン 資格確認によって療養の給付を受ける資格があることを確認しなければならない。ただし、緊急やむを得ない事由によってオンライン資格確認により当該確認を行うことができない患者であって、療養の給付を受ける資格が明らかなものについては、この限りでない。(1、2項)イ療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令(昭和5 1年厚生省令第36号。ただし、令和5年内閣府・厚生労働省令第8号による改正前のもの。以下「本件費用請求命令」という イ療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令(昭和5 1年厚生省令第36号。ただし、令和5年内閣府・厚生労働省令第8号による改正前のもの。以下「本件費用請求命令」という。)5条1項の規定により同項に規定する書面による請求(療養の給付費等について、保険医療機関にあっては診療報酬請求書に診療報酬明細書を添えて、これを当該診療報酬請求書の審査支払機関に提出することにより請求すること)を行 っている保険医療機関及び本件費用請求命令6条1項の規定により届出を行った保険医療機関については、アの規定は、適用しない(3項)。 ウ保険医療機関(イの規定の適用を受けるものを除く。)は、患者からオンライン資格確認により療養の給付を受ける資格があることの確認を受けることを求められた場合において、これに応ずることができるよう、あら かじめ必要な体制を整備しなければならない(4項)。 - 5 - ⑶ 本件費用請求命令の関係規定の概要療養の給付費等の請求については電子的な方法によって行うことが原則とされている(1条)が、書面による請求によって行うことができる保険医療機関に係る特例が、以下のとおり設けられている。 アレセプトコンピュータ(療養の給付費等の請求を行う者の使用に係る電 子計算機であって、レセプト(診療報酬請求書及び診療報酬明細書並びに調剤報酬請求書及び調剤報酬明細書)を電磁的記録をもって作成することができるもの)を使用していない保険医療機関(5条1項)イ保険医療機関である診療所のうち、診療に従事する常勤の保険医の年齢が、レセプトコンピュータを使用している診療所(歯科に係る療養の給付 費等の請求を行う場合を除く。)にあっては平成22年7月1日において、レセプトコンピュータを 療に従事する常勤の保険医の年齢が、レセプトコンピュータを使用している診療所(歯科に係る療養の給付 費等の請求を行う場合を除く。)にあっては平成22年7月1日において、レセプトコンピュータを使用している診療所(歯科に係る療養の給付費等の請求を行う場合に限る。)又はレセプトコンピュータを使用していない診療所にあっては平成23年4月1日において、いずれも65歳以上であるものであって、その旨を審査支払機関に届け出たもの(6条1項) 2 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者原告らは、いずれも保険医である(弁論の全趣旨)。 ⑵ オンライン資格確認の導入の経緯 ア厚生労働省に設置されている社会保険審議会は、平成29年11月、療養の給付を受ける際の被保険者の資格確認につき、保険医療機関に対して健康保険の被保険者証を提示する方法では、過誤請求等による負担発生や個人データが継続的に把握されない等の課題があり、マイナンバーカードの電子証明書を活用して被保険者を個人単位で管理し、受診時にオンライ ンで資格情報を確認する仕組みを整備することを対応方針とする議論をし- 6 - た(乙5)。 イ令和元年法律第9号による健康保険法の改正(以下「令和元年健康保険法改正」という。)により、療養の給付を受ける際の被保険者の資格確認につき、オンライン資格確認による方法が追加された(63条3項)。 ウ令和元年6月21日、令和4年度中におおむね全ての医療機関等でのオ ンライン資格確認の導入を目指すことが明記された「経済財政運営と改革の基本方針2019」が閣議決定された(乙9)。 エ令和元年健康保険法改正は、令和2年10月1日に施行さ の医療機関等でのオ ンライン資格確認の導入を目指すことが明記された「経済財政運営と改革の基本方針2019」が閣議決定された(乙9)。 エ令和元年健康保険法改正は、令和2年10月1日に施行され、保険医療機関は、被保険者証又はオンライン資格確認のいずれか任意の方法で資格確認を行うこととなり、令和3年10月20日からはオンライン資格確認 の本格運用が開始された(乙11)。 ⑶ 本件改正療担規則3条の制定経緯ア令和4年4月3日時点では、保険医療機関等のうち、顔認証付きカードリーダーの準備が完了し、オンライン資格確認の運用を開始している施設は全体の約15.5%にとどまっていた(乙12)。 他方で、同時期(同月1日時点)のマイナンバーカードの交付枚数は約5487万枚に上り、人口の約4割以上がマイナンバーカードを保有している状況であった(乙13)。 イ令和4年6月7日、「オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が 進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す。」ことが明記された「経済財政運営と改革の基本方針2022」が閣議決定された(乙17)。 ウ厚生労働大臣は、令和4年8月3日、諮問機関である中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)に対し、オンライン資格確認の導入の 原則義務付けについての意見を求めた(乙18)。 - 7 - 中医協は、同月10日、厚生労働大臣に対し、「オンライン資格確認は、患者の医療情報を有効に活用して、安心・安全でより良い医療を提供していくための医療DⅩの基盤となるものであることを踏まえ、保険医療機関・保険薬局に、令和5年4月か 臣に対し、「オンライン資格確認は、患者の医療情報を有効に活用して、安心・安全でより良い医療を提供していくための医療DⅩの基盤となるものであることを踏まえ、保険医療機関・保険薬局に、令和5年4月からその導入を原則として義務付ける。」ことを基本的な考え方として、療担規則等の一部を改正する省令案 についての答申をした(乙19)。同答申には、「関係者それぞれが令和5年4月からのオンライン資格確認の導入の原則義務化に向けて取組を加速させること。その上で、令和4年末頃の導入の状況について点検を行い、地域医療に支障を生じる等、やむを得ない場合の必要な対応について、その期限も含め、検討を行うこと。」との附帯意見が付された(乙2 0)。 エ令和4年9月5日、本件改正療担規則が制定された。 オ厚生労働大臣は、令和4年12月21日、中医協に対し、オンライン資格確認の導入の原則義務付けに係る経過措置等についての意見を求めた(乙22)。 中医協は、同月23日、厚生労働大臣に対し、「令和4年度末時点で、やむを得ない事情がある保険医療機関・保険薬局については、期限付きの経過措置等を設けることとする。」ことを基本的な考え方とする答申をした(乙24)。 カ令和5年4月1日、本件改正療担規則が施行され、保険医療機関等に対 してオンライン資格確認が原則として義務付けられることとなった。 令和4年厚生労働省令第124号附則(本件改正療担規則の改正附則)2条1項は、令和5年4月1日の時点でオンライン資格確認の体制を整備することが困難なやむを得ない事情がある保険医療機関等については、届出により、本件各規定を一定期間適用しない旨の経過措置を設けている。 ⑷ オンライン資格確認の仕組み等- 8 - することが困難なやむを得ない事情がある保険医療機関等については、届出により、本件各規定を一定期間適用しない旨の経過措置を設けている。 ⑷ オンライン資格確認の仕組み等- 8 - ア ①医療保険者等は、個人単位の被保険者番号及びこれにひも付けられている資格情報をオンライン資格確認のためのシステムに登録する。②患者からオンライン資格確認を求められた保険医療機関等は、顔認証付きカードリーダー等を使用して本人確認を行う(具体的な本人確認を行う流れとしては、患者本人が同カードリーダーにマイナンバーカードを置くなどし て本人確認を行うことが想定されている。)。③保険医療機関等は、本人確認ができた場合、マイナンバーカードのICチップに格納されている利用者証明用電子証明書を用いて、医療保険者等に対し被保険者等の資格情報の照会を行い、社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険中央会が運営するオンライン資格確認のためのシステムに登録されている直近の被保 険者等の資格情報を確認する。(甲2、3、乙26)イオンライン資格確認においては、患者と複数の保険医療機関等との間で、当該患者の①薬剤情報(保険医療機関等を受診し、保険医療機関等から毎月請求される医科・歯科・調剤・DPCレセプトから抽出した薬剤の情報であり、保険医療機関等名、調剤年月日、処方医療機関識別、処方区 分、使用区分、医薬品名、成分名、用法、用量、調剤数量から成る。)、②診療情報(保険医療機関等を受診し、保険医療機関等から毎月請求される医科・歯科・調剤・DPCレセプトから抽出した過去診療の情報であり、保険医療機関等名、受診歴、診療年月日、入外等区分、診療識別、診療行為名から成る。)及び③特定健診情報(医療保険者が40歳以上の加 入者に対 ・DPCレセプトから抽出した過去診療の情報であり、保険医療機関等名、受診歴、診療年月日、入外等区分、診療識別、診療行為名から成る。)及び③特定健診情報(医療保険者が40歳以上の加 入者に対して実施する健康診査の結果等の情報であり、診察(既往歴等)、身体計測、血圧測定、血液検査(肝機能・血糖・脂質等)、尿検査、心電図検査、眼底検査の結果等から成る。以下、①ないし③の各情報を併せて「薬剤情報等」という。)を共有することができる(乙27)。 ⑸ 保険医療機関等において必要となるシステム整備 保険医療機関等においては、オンライン資格確認を導入するに当たり、①- 9 - オンライン資格確認の機器(顔認証付きカードリーダー、資格確認端末)の導入や設定、②現在利用中のシステム(レセプトコンピュータ、電子カルテシステム等)の改修や動作確認、③ネットワークの設定・疎通確認をシステム事業者に依頼する作業が必要となる。電子カルテシステム等を導入していない保険医療機関等については、④セキュリティ基準を満たした薬剤・特定 健診・診療等情報閲覧用端末の増設、⑤閲覧用端末を使用する場所(診療室等)へのオンライン資格確認のためのシステムに接続可能な回線の引込みについてもシステム事業者に依頼することが想定されている。(甲4)⑹ システム整備に係る費用等の財政支援の補助事業保険医療機関等に対する財政支援の補助事業については、令和元年度から 令和5年度までの間に、総額約1428億円の予算措置が講じられている(乙39、40)。 主な補助内容は、保険医療機関等に対する、①顔認証付きカードリーダーの無償提供(病院は3台まで、診療所は1台)及びそれ以外の費用(マイナンバーカードの読取・資格確認等のソフトウェア・機器の導入、ネットワー 容は、保険医療機関等に対する、①顔認証付きカードリーダーの無償提供(病院は3台まで、診療所は1台)及びそれ以外の費用(マイナンバーカードの読取・資格確認等のソフトウェア・機器の導入、ネットワー ク環境の整備、レセプトコンピュータ・電子カルテシステム等の既存システムの改修等)に係る補助金の交付であり、交付される補助金の上限額は、令和4年6月7日以降に顔認証付きカードリーダーを申し込んだ場合、診療所については事業額42万9000円を上限に実費を補助することとし、病院については事業額最大420万2000円を上限にその2分の1を補助する こととしている(乙38)。 令和4年度末までの補助金交付決定実績のデータによれば、診療所の場合、オンライン資格確認の体制整備のための総事業費が補助上限額(42万9000円)を下回っている割合は72.2%であり、90%以上の診療所において総事業費が50万円を下回っている(乙42)。 ⑺ 本件訴えの提起- 10 - 第1事件原告らは、令和5年2月22日、第1事件を、第2事件原告らは、同年4月21日、第2事件を、第3事件原告らは、同年9月12日、第3事件をそれぞれ当裁判所に提起した(顕著な事実)。 ⑻ オンライン資格確認の原則義務化の状況令和5年4月30日時点において、オンライン資格確認の義務化対象施設 (適用除外の保険医療機関等を除く。)のうち、約76.3%(16万2874施設)がオンライン資格確認の運用を開始している(乙32)。マイナンバーカードについては、令和5年4月末時点で、交付件数が約8787万枚(人口に対する交付枚数率は69.8%)、保険証の利用登録件数が約5978万件である(乙32、34)。 3 主たる争点及びこれに関する当事者の主張の要旨 月末時点で、交付件数が約8787万枚(人口に対する交付枚数率は69.8%)、保険証の利用登録件数が約5978万件である(乙32、34)。 3 主たる争点及びこれに関する当事者の主張の要旨⑴ 本件各規定の適法性(原告らの主張の要旨)ア憲法41条違反保険医療機関のオンライン資格確認に関する事項を委任する健康保険法 の規定はないから、本件各規定は同法が委任していない事項を定めたものであって、憲法41条に違反し、違法かつ無効である。 イ委任命令としての適法性仮に本件各規定の授権法が健康保険法70条1項であると解釈したとしても、以下のとおり、委任の範囲を逸脱しており違法かつ無効である。 健康保険法70条1項が省令に委任しているのは「療養の給付」であり、その内容は同法63条1項各号所定の5つ(前記1⑴イ)に限定され、診察等の医療サービスの提供の細目に限られるのであって、保険医療機関が行う被保険者の資格確認に関する事項は何ら含まれない。 健康保険法70条1項は、「療養の給付」である診察等の医療サービ スの提供の細目について規定する際に専門的技術的判断を要することか- 11 - ら省令に委任したものであり、被保険者の資格確認の方法を委任したとはいえない。 本件各規定がオンライン資格確認とそのための体制整備を義務付けたとすれば、保険医療機関が廃業する現実的なおそれが増大するのであって、健康保険法70条1項の委任の趣旨に反する。 保険医である原告らが医療を提供する行為は、職業活動の自由という側面だけではなく、生存権にも深く関連し、患者のプライバシー権とも密接に関連するのであって、安易に制約することは許されない。 最高裁平成24年(行ヒ)第279号同2 為は、職業活動の自由という側面だけではなく、生存権にも深く関連し、患者のプライバシー権とも密接に関連するのであって、安易に制約することは許されない。 最高裁平成24年(行ヒ)第279号同25年1月11日第二小法廷判決・民集67巻1号1頁(以下「平成25年最判」という。)は、① 省令による規制対象となる行為の需要が現実に相当程度存在したこと、②規制に反対する意見が根強く存在したこと、③規制によって制約される権利の重要性と制約の程度が相当程度に及ぶことから、省令の制定を委任する授権の趣旨が授権法から明確に読み取れることを要すると指摘しているところ、上記①ないし③の事情は本件にも当てはまる。健康保 険法70条1項からは委任する授権の趣旨が明確に読み取れることはなく、本件各規定は、委任の範囲を逸脱する違法なものである。 ウ憲法上保護された原告らの医療活動の自由に対する権利侵害オンライン資格確認を義務化する目的での医療DXの促進は、プライバシー侵害の危険といった弊害もあり、先験的に重要と評価することはでき ない。オンライン資格確認の義務化により、保険医療機関には多額の経済的負担(患者の医療情報の漏えいに起因する損害賠償債務を含む。)が生ずるのであって、その負担に耐えられない多数の保険医療機関が廃業を余儀なくされるから、オンライン資格確認の義務化は医療DXの促進という目的を阻害するおそれがあり、目的達成の手段として実質的関連性を欠い ている。 - 12 - したがって、本件各規定は、原告らの医療活動という憲法上の権利を侵害するものであり、違憲・無効である。 (被告の主張の要旨)ア憲法41条違反の主張について本件各規定は、健康保険法70条1項による明確な授権に基づいて定め いう憲法上の権利を侵害するものであり、違憲・無効である。 (被告の主張の要旨)ア憲法41条違反の主張について本件各規定は、健康保険法70条1項による明確な授権に基づいて定め られたものであり、憲法41条に違反するものではない。 イ委任命令としての適法性の主張について本件各規定は、以下のとおり、健康保険法70条1項の委任の範囲を逸脱するものではなく、適法である。 健康保険法70条1項は、保険医療機関等が療養の給付を「担当」す るに当たって、遵守することが必要な基本的事項の全般を定めることを省令に委任していると解するのが同項の文理解釈として自然である。 健康保険法70条1項は、保険医療機関等が療養の給付を担当するに当たって遵守すべき事項等について、その判断を厚生労働大臣の専門技術的な裁量に委ねているのであって、広範な裁量が認められるというべ きである。 健康保険法63条3項は、令和元年健康保険法改正により、オンライン資格確認を原則的な資格確認の方法として位置付けたのであって、オンライン資格確認の原則義務化は、同項の趣旨に合致する。同法における療養の給付を中心とする保険給付の仕組みからすれば、同法70条1 項が委任した中身には、療養の受給資格である被保険者の資格を有することの確認をも含んでいる。 保険医療機関等において、オンライン資格確認の原則義務化により体制整備等に伴う経済的な負担が生ずるとしても、適用除外規定を設け、財政支援としての補助や高いセキュリティ対策等の各種施策を講じてい ることからすれば、保険医療機関等に対して事業継続を困難にするよう- 13 - な影響を与えることは想定し難い。 オンライン資格確認の原則義務化は、多数の保険医療機 策を講じてい ることからすれば、保険医療機関等に対して事業継続を困難にするよう- 13 - な影響を与えることは想定し難い。 オンライン資格確認の原則義務化は、多数の保険医療機関等が廃業を余儀なくされるほどの負担があるとはいえず、被保険者の医療を受ける機会を奪うものでもない上、本件改正療担規則の制定過程で消極的意見が相当数存在したとは認められないから、平成25年最判で示された基 準は本件で妥当しない。 ウ憲法上保護された原告らの権利侵害の主張についてオンライン資格確認の原則義務化によって、国民に対して正確なデータに基づきより良い医療を提供するという目的を阻害するおそれがあるとはいえず、目的達成の手段として実質的関連性を欠くとはいえないから、オ ンライン資格確認の原則義務化によって憲法上の権利を侵害されたとする原告らの主張には理由がない。 ⑵ 国家賠償請求の成否(原告らの主張の要旨)違憲・違法なオンライン資格確認の義務化を内容とする本件各規定の制定 や関連する政府の動きのため、原告らは、保険医療機関の閉鎖を余儀なくされる可能性など、自己の職業活動又はその継続に対する不安のため精神的苦痛を受けた。その損害額は一人10万円を下らない。 (被告の主張の要旨)オンライン資格確認の原則義務化を内容とする本件各規定の制定は何ら違 憲・違法なものではなく、同制定やこれに伴う政府の対応が国家賠償法上違法であるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件各規定の適法性)について⑴ 委任命令の適法性についての判断枠組み 本件各規定が法律の委任の範囲を逸脱する違法なものであるか否かの判断- 14 - に当たっては、授権規定である健康保険法70条1項 ⑴ 委任命令の適法性についての判断枠組み 本件各規定が法律の委任の範囲を逸脱する違法なものであるか否かの判断- 14 - に当たっては、授権規定である健康保険法70条1項の文言に加え、当該授権規定が下位法令たる療担規則に委任した趣旨、当該授権規定の趣旨目的及び仕組みとの整合性、上記委任に基づいて制定された本件各規定によって制限される権利利益等に照らして、本件各規定が授権の趣旨に反しないか否かを検討することになる(平成25年最判等参照)。なお、原告らはオンライ ン資格確認に関する事項を委任する健康保険法の規定は存在せず憲法41条違反であると主張するが、後記説示のとおり、健康保険法70条1項が本件各規定の授権規定であると解するのが相当であるから、同主張を採用することはできない。 ⑵ 委任命令の適法性についての検討 そこで、上記の観点から、本件各規定の効力について検討する。 アまず、法文の文理をみると、健康保険法70条1項は、「保険医療機関又は保険薬局」すなわち保険医療機関等は、「厚生労働省令で定めるところにより」、「療養の給付を担当しなければならない。」と規定しており、例えば「厚生労働省令で定める療養の給付をしなければならない」な どとは規定していない。このように、「担当」との文言が用いられていることからすれば、同項は、療養のために提供される医療サービスそのものに限って厚生労働省令に委任したのではなく、保険医療機関等が療養の給付を「担当」をするに当たって遵守することが必要な事項の定めを厚生労働省令に委任していると解するのが自然である。このような解釈は、同様 に「省令(又は告示)の定めるところにより」、「医療を担当しなければならない」との規定を設けている児童福祉法21条、 厚生労働省令に委任していると解するのが自然である。このような解釈は、同様 に「省令(又は告示)の定めるところにより」、「医療を担当しなければならない」との規定を設けている児童福祉法21条、生活保護法50条1項及び感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律38条3項が、いずれも「担当」という文言により、医療の受給資格の確認といった、医療機関が医療サービスを提供するに当たって遵守することが必要な 事項の定めを省令等に委任しているなど、健康保険法70条1項と同様の- 15 - 文言でかかる事項に関する定めを下位法令に委任することが一般的に行われている実務とも整合的である。 他方で、健康保険法上の「療養の給付」(70条1項)は63条1項各号に列挙されているもの(前記第2の1⑴)のみを指すから同法70条1項が厚生労働省令に委任した内容も診察等の医療サービスの提供に係る細 目に限られると解することは、同項が「第72条第1項の厚生労働省令で定めるところにより、診療又は調剤に当たらせるほか」として、医療サービスの提供そのものは保険医等が同法72条1項によって委任された厚生労働省令(療担規則の第2章(保険医の診療方針等)であり、診療の一般的方針及び具体的方針、施術の同意、使用医薬品及び歯科材料、診療録の 記載等について規定している。)に従って行うという前提に立っていることとそぐわない上、見出しを「療養の給付」としている同法63条が、その3項で療養の給付を受ける方法である被保険者の資格確認に関する事項についても規定しているなど、同法上「療養の給付」の文言が療養のために提供される医療サービスの内容そのものに限定して用いられてはおら ず、当該医療サービスを受ける際の資格確認の方法を含んだものとして用 規定しているなど、同法上「療養の給付」の文言が療養のために提供される医療サービスの内容そのものに限定して用いられてはおら ず、当該医療サービスを受ける際の資格確認の方法を含んだものとして用いられていることとも整合的ではないものといわざるを得ない。なお、原告らは、被保険者の資格確認に関する事項は給付を受けるための方法に位置付けられるから同法70条1項ではなく専ら同法63条3項で規律されているとの趣旨をもいうが、後者は「療養の給付」を受けるために必要な 資格確認の方法について被保険者等の立場から定める趣旨のものであって、保険医療機関が療養の給付を行うに際してどのように被保険者等の資格確認を行うべきか等については「療養の給付を担当しなければならない」との文言で前者が規律しているものと解されるから、原告らの上記主張を採用することはできない。 イ次に、委任の趣旨についてみると、保険医療機関等が療養の給付を担当- 16 - するに当たって遵守することが必要な事項については、健康保険法の理念である医療保険の運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図る見地から健康保険制度が適切に実施される(2条)ように決定する必要があり、その判断に当たっては、保険医療機関等における医療の提供内容及びそれに伴って発生する事 務等の実情や利用可能なインフラの技術的進展といった観点を踏まえた時宜を得た柔軟な検討が必要であって、必ずしも国会での審議になじむものとはいえず、同法70条1項は、保険医療機関等が療養の給付を担当するに当たって遵守することが必要な事項についても、その定めを厚生労働大臣の専門技術的な裁量に一定程度委ねているものと解するのが相当であ る。 ウさらに 医療機関等が療養の給付を担当するに当たって遵守することが必要な事項についても、その定めを厚生労働大臣の専門技術的な裁量に一定程度委ねているものと解するのが相当であ る。 ウさらに、健康保険法の趣旨目的及び仕組みとの整合性をみると、健康保険制度は、国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的として、被保険者の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行うものであり(1条)、その中心的なものが療養の給付であるところ、同法は、 被保険者等の資格を有する者を対象に療養の給付がされることを前提としている(35条、63条)から、保険医療機関等が療養の給付をする際には、患者が被保険者等の資格を有することを適切に確認する作業が必要となる。そして、健康保険制度が適切に運用されるためには、保険医療機関等からの保険者に対する診療報酬の請求が正確にされることが必要となる ところ、これを十全に担保するためには、資格確認の方法についても法令で規定しておく必要性が高いものといえる。これらの健康保険法の仕組みからすれば、保険医療機関等が療養の給付を担当するに当たって遵守することが必要な事項の中身には、資格確認の方法が含まれるものと解すべきである。令和元年健康保険法改正により新たに規定された健康保険法63 条3項が、「電子資格確認その他厚生労働省令で定める方法により」、被- 17 - 保険者であることの確認を受けた者が療養の給付を受ける旨を明示的に規定し、かつ、オンライン資格確認「その他の」方法として例示列挙するのではなくオンライン資格確認を原則的な資格確認の方法と位置付け、その余の方法についてのみ厚生労働省令に委ねたことを踏まえると、資格確認の方法について保険医療機関等にオンライン資格確認を原則として義務付 オンライン資格確認を原則的な資格確認の方法と位置付け、その余の方法についてのみ厚生労働省令に委ねたことを踏まえると、資格確認の方法について保険医療機関等にオンライン資格確認を原則として義務付 けた本件各規定が、令和元年健康保険法改正の趣旨に適合しないものということはできないものというべきである。なお、原告らは、63条3項は「電子資格確認」と「厚生労働省令で定める方法」を並列関係に置いているから両者間に優劣はない旨主張するが、同項のような定めによればオンライン資格確認については省令の有無にかかわらず資格確認の方法として 認められることや改正の難易が法律と省令とでは大きく異なること等からみて、上記説示のとおり解すべきものである。 また、証拠(乙28)及び弁論の全趣旨によれば、保険医療機関等は、オンライン資格確認により、患者が保険医療機関等で療養の給付を受ける時点における正確な被保険者等の資格情報を電子的に即時に確認すること ができる上、患者と保険医療機関等との間で薬剤情報等を共有することができることで、例えば重複投薬や併用禁忌を回避して適切な処方につなげることができるなど、より適切な医療の提供が期待し得るものであることが認められる。他方で、証拠(乙46ないし49)及び弁論の全趣旨によれば、オンライン資格確認の導入に伴い、一部の保険医療機関等におい て、被保険者の被保険者資格がないなどの誤った表示がされるような事象が発生したことも認められるが、被告においては、そのような事象の原因(例えば、被保険者の資格取得から保険者のデータ登録までに時間が掛かること)と対策(例えば、データ登録のタイムラグやデータ未登録の解消)等について公表するなどし、上記のような事象を減少させ、患者及び 保険医療機関等に不利益が 険者のデータ登録までに時間が掛かること)と対策(例えば、データ登録のタイムラグやデータ未登録の解消)等について公表するなどし、上記のような事象を減少させ、患者及び 保険医療機関等に不利益が及ばないよう省令改正等を含めた種々の取組を- 18 - していることが併せて認められる。これらを踏まえると、オンライン資格確認の原則義務化が、国民の生活の安定と福祉の向上に寄与するという健康保険法の目的に整合しないということもできない。 エそして、本件各規定は、保険医療機関において診療に従事する原告らを始めとする保険医が療養の給付をする際の被保険者の受給資格の確認の方 法という事務的な行為について、患者からオンライン資格確認により療養の給付を受ける資格があることの確認を受けることを求められた場合に、これに対応することができるよう必要な体制を整備することを義務付けているものであり、保険医療機関に一定程度の経済的な負担が生ずるものの、療養の給付そのものの内容や態様に係る制限を行うものではない。 また、保険医療機関等のうちレセプトコンピュータを使用していないもの等についてはオンライン資格確認の原則義務化の適用が除外されていること(本件改正療担規則3条3項、本件費用請求命令5条1項及び6条1項)、オンライン資格確認の体制を整備することが困難なやむを得ない事情がある場合は一定期間適用しない旨の経過措置が設けられていること (前提事実⑶カ)からすると、個別の保険医療機関等の実情に応じて一定の場合にオンライン資格確認の義務化を適用しないことが可能となっているものといえる。 さらに、システム整備に対する財政支援の補助事業により7割以上の診療所がオンライン資格確認の導入に係る経費の全てを補填されていること (前提事実 しないことが可能となっているものといえる。 さらに、システム整備に対する財政支援の補助事業により7割以上の診療所がオンライン資格確認の導入に係る経費の全てを補填されていること (前提事実⑹)、証拠(乙31)及び弁論の全趣旨によれば、オンライン資格確認で用いるネットワーク回線には、悪意のある第三者からの攻撃による情報漏えいを防ぐため、通信事業者が独自に保有する閉域ネットワーク等を使用し、データの送受信においては、電子証明書による端末の認証やデータの暗号化を行い、データの滅失・漏えい及び改ざん防止を図ると ともにウイルス対策を講ずるなどの措置が採られているものと認められる- 19 - ことからすると、保険医療機関等においてオンライン資格確認の原則義務化に対応した体制整備等に伴う経済的な負担(システムのランニングコスト等)が一定程度生ずるとしても、それが保険医療機関等に対して事業継続を困難にするようなものに相当すると直ちにはいうことはできない。 したがって、本件各規定によって制限される原告らの職業活動の自由の 制約の程度が大きいということはできないものというほかはない。 オ加えて、証拠(乙6ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、令和元年健康保険法改正時の国会における法案審議に際しては、オンライン資格確認の制度の実効性を担保するために、患者がどの医療機関を受診したとしてもマイナンバーカードによって資格確認が可能となるよう、できるだけ多 くの医療機関でオンライン資格確認が行い得るような整備をする必要があるとの議論がされていたことが認められる。このことからしても、必ずしもオンライン資格確認の導入が保険医療機関等の任意の選択であることが立法者の共通認識であったということはできず、その他、オンライン資格確認の がされていたことが認められる。このことからしても、必ずしもオンライン資格確認の導入が保険医療機関等の任意の選択であることが立法者の共通認識であったということはできず、その他、オンライン資格確認の原則義務化を定めた本件各規定が令和元年健康保険法改正の立法趣 旨に反するものと認めるに足りる証拠はない(原告らが健康保険法の改正時における国会における議論として挙げる例の多くは、被保険者等がオンライン資格確認以外の方法によって資格確認を行うことは引き続き可能であることを指摘する趣旨のものである。)。また、前提事実⑶並びに証拠(乙15、38)及び弁論の全趣旨によれば、本件改正療担規則の制定に 向けた過程にあった令和4年4月26日の時点において、厚生労働省大臣官房審議官が衆議院総務委員会で、個別の状況を勘案せずに一律に体制整備を義務付けることについて関係者の理解や協力を得ることは難しい旨答弁していることが認められるものの、その後、個別の保険医療機関等の負担等を考慮し、導入費用に係る補助上限額や補助率を引き上げるととも に、一律にオンライン資格確認の体制整備を保険医療機関等に義務付ける- 20 - のではなく、個々の保険医療機関等の実情を踏まえた適用除外や経過措置の範囲について検討を重ね、中医協における医療関係者等との議論・答申を経て本件改正療担規則の制定に至っていることが認められる。このように、本件改正療担規則や本件費用請求命令が全体として医療保険機関等の個別の実情を勘案したものとなっていることからすれば、その経過措置や 運用を含めた本件各規定の内容が上記答弁と矛盾するものともいえない。 カ以上によれば、本件各規定は、健康保険法70条1項の委任の範囲を逸脱した違法なものということはできないものというべきである 用を含めた本件各規定の内容が上記答弁と矛盾するものともいえない。 カ以上によれば、本件各規定は、健康保険法70条1項の委任の範囲を逸脱した違法なものということはできないものというべきである。 ⑶ 原告らの平成25年最判の射程に関する主張について原告らは、本件にも平成25年最判の射程が及び、オンライン資格確認を 保険医療機関等に義務付ける内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が、規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要する旨主張する。 平成25年最判には「郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が、上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要する」との説示部分があるところ、これは、当該事案が郵便等販売をその事 業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであって、委任命令によって制約されるべき権利利益の性質やこれに対する制約の範囲及び程度が大きいことに鑑み、それとの相関関係において、必要とされる授権規定の明確性の程度がより高くなるとの趣旨と解される。 しかるところ、平成25年最判は、事業者の事業そのものを規制する内容 で制約の程度が大きい事案であったのに対し、本件は、患者からオンライン資格確認の方法によることを求められた場合にこれに対応し得る体制を整備することを義務付けるという事案であり、保険医ないし保険医療機関の診療行為そのものを規制するといった事案ではない上、個別の保険医療機関等の実情に応じてオンライン資格確認の義務化を直ちに適用しないことも可能と なっており、システム整備に対する財政支援も事前に相当程度行われている- 21 - のであって、職業活動の自由の制約の程度が相対的に大きいとまではいえないから、両事案は前提となる事実関係や性質が異 ており、システム整備に対する財政支援も事前に相当程度行われている- 21 - のであって、職業活動の自由の制約の程度が相対的に大きいとまではいえないから、両事案は前提となる事実関係や性質が異なり、平成25年最判の上記説示部分が必ずしも本件にそのまま妥当するものではないというべきである。 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。 ⑷ 本件各規定の憲法適合性証拠(乙29)及び弁論の全趣旨によれば、本件各規定が保険医療機関等に対してオンライン資格確認の義務化をした目的は、確実な資格確認による保険給付の適正化及び制度運営の効率化の実現、国民に対する正確なデータに基づいたより良い医療の提供のためと認めることができるところ、この目 的は公共の福祉に合致する重要なものであるといえる。 そして、前記⑵ウのとおり、オンライン資格確認により、保険医療機関等は、正確な被保険者等の資格情報を電子的に即時に確認することができるため、過誤請求ないし不正請求を防ぐことが相当程度期待し得る上、患者と複数の保険医療機関等との間で薬剤情報等を共有することで、提供される医療 の質の向上も期待することができるといえる。オンライン資格確認の導入に伴って一部の医療機関等で発生したトラブル等については、前記⑵ウにおいて認定説示したとおり、被告もこれを減少させ、患者及び医療機関等に不利益が及ばないような取組をしているから、上記事象の発生があったことをもって、直ちにオンライン資格確認による利点等が否定されるものともいえな い。さらに、保険医療機関等が本件改正療担規則3条に従わない場合には、健康保険法70条1項違反として保険医療機関等の指定の取消事由となるものの(同法80条(2号に係る部分))、証拠(甲18、乙4、53) さらに、保険医療機関等が本件改正療担規則3条に従わない場合には、健康保険法70条1項違反として保険医療機関等の指定の取消事由となるものの(同法80条(2号に係る部分))、証拠(甲18、乙4、53)及び弁論の全趣旨によれば、オンライン資格確認の体制整備の義務に違反した場合にあっても、直ちに保険医療機関等の指定を取り消すのではなく、まず は、オンライン資格確認の体制整備の義務があることについて理解が得られ- 22 - るよう、地方厚生局により同法73条1項に基づく指導を行うこと、同指導はまず集団指導により実施され、それでもなおオンライン資格確認を導入しない場合には個別に改善が促されること、個別指導後の対応については再指導等があり、個別指導を何度も繰り返したにもかかわらず改善が見られないとき等に限り要監査とする等の抑制的な運用がされる予定であることが認め られる。以上に加え、前記⑵エにおいて認定説示したとおり、個別の保険医療機関等の実情に応じてオンライン資格確認の義務化の例外が規定され、財政支援も相当程度実施されていることを踏まると、オンライン資格確認の原則義務化が原告らの医療活動の自由に重大な制限を課するとまではいえない。 したがって、オンライン資格確認の義務化が目的達成の手段として実質的関連性を欠くとはいえない。 以上によれば、オンライン資格確認の義務化によって原告らの憲法上の権利が違法に侵害されたということはできない。 ⑸ 原告らのその余の主張について ア原告らは、オンライン資格確認の原則義務化により、多数の保険医療機関が廃業を余儀なくされる旨主張する。しかしながら、原告らが指摘する全国保険医団体連合会の調査結果(甲5)のみによって上記主張を認めるには足りず、原告らが主張する開業医 務化により、多数の保険医療機関が廃業を余儀なくされる旨主張する。しかしながら、原告らが指摘する全国保険医団体連合会の調査結果(甲5)のみによって上記主張を認めるには足りず、原告らが主張する開業医等の退会会員数等(甲29、30)とオンライン資格確認の義務化との因果関係も証拠上明らかとはいえな い。原告らは、東京都保険医協会の「オンライン資格確認義務化を理由に含む退会者数とその割合」に題するヒアリング結果(甲55)をも上記主張の根拠としているが、同ヒアリングの調査方法の正確性は必ずしも明らかではない上、廃業等をした保険医療機関の個別具体的な背景には本来様々な要因があるはずであり、同結果をもって、オンライン資格確認の原 則義務化によって保険医療機関が多数廃業していると認めることは直ちに- 23 - はできない。また、原告らが提出する陳述書(甲31、32、56)によっても、本件各規定の施行の前後に保険医療機関を廃業した者の理由が専らオンライン資格確認の原則義務化によるものとまで認めることは困難というほかなく、かえって、令和元年度から令和4年度までの各年度における10月から3月までの全国における保険医療機関等の廃止件数の推移に 顕著な差異はみられないことを示す証拠(乙56)も存する。そして、前記⑵エにおいて認定説示したとおり、保険医療機関に対して体制整備のために必要な財政的補助が事前に相当程度実施されていることをも踏まえると、オンライン資格確認の原則義務化によって多数の保険医療機関が廃業を余儀なくされたとの事実を認めることまではできず、これを前提とする 原告らの上記主張を採用することはできない。 イ原告らは、現在のオンライン資格確認の件数や、オンライン資格確認の件数に占めるマイナンバーカードによる資格確認 はできず、これを前提とする 原告らの上記主張を採用することはできない。 イ原告らは、現在のオンライン資格確認の件数や、オンライン資格確認の件数に占めるマイナンバーカードによる資格確認の件数の割合が低いことを指摘し、オンライン資格確認を義務付ける必要性はない旨主張する。しかしながら、令和5年4月末時点のマイナンバーカードの保険証の利用登 録の件数は約5978万件であって相当程度普及していること(前提事実⑻)、証拠(乙55)及び弁論の全趣旨によれば、被告はデータの誤登録防止のための対策や保険医療機関等の窓口対応の見直しなどを通じ、マイナンバーカードの保険証としての利用促進に向けた種々の取組をしていることが認められるところである。そうすると、原告らの指摘する事情をも ってしても直ちにオンライン資格確認の義務付けの必要性が否定されるものではなく、原告らの上記主張を採用することはできない。 ウ原告らは、オンライン資格確認の原則義務化について、保険医療機関等において消極的な意見が相当数存在していた旨主張する。しかしながら、原告らが指摘する反対意見(甲34ないし51)は、そのほぼ全てが全国 保険医団体連合会及びその下位にある各都道府県の保険医協会という特定- 24 - の団体内の意見に限られている上、前提事実⑶で摘示した本件改正療担規則3条の制定経緯のとおり、オンライン資格確認の原則義務化は中協医の答申を得た上でされており、証拠(乙57、58)及び弁論の全趣旨によれば、日本医師会の常任理事である委員が、中協医総会において、令和4年8月及び同年12月、日本医師会を代表してオンライン資格確認の原則 義務化に賛成の意見を示したことが認められ、これらの事情を踏まえると、オンライン資格確認の原則義務化に消極 会において、令和4年8月及び同年12月、日本医師会を代表してオンライン資格確認の原則 義務化に賛成の意見を示したことが認められ、これらの事情を踏まえると、オンライン資格確認の原則義務化に消極的な意見が相当数存在していた事実があったと直ちに認めることもできず、原告らの上記主張を採用することはできない。 エ原告らは、オンライン資格確認を導入済みの保険医療機関で多数のトラ ブルが発生しており、事務的な負担が増加している旨主張する。しかしながら、原告らが主張する根拠は、全国保険医団体連合会の調査結果等(甲13、16、25ないし28)にとどまり、回答率も必ずしも高くはない(甲25によれば15.7%)など、これによって全国の保険医療機関において事務負担が客観的にも大きく増加していると直ちに認めることは困 難である上、一部の保険医療機関等においてオンライン資格確認の実施に伴うトラブルが発生したことは事実であるものの、その後に採られた対策の内容等も勘案すれば、前記⑷において説示したとおり、直ちにオンライン資格確認による利点等が帳消しとなるような状況にあるとまでは認められない。 オ原告らは、オンライン資格確認の原則義務化による患者の負担について主張する。しかしながら、原告らの上記主張は多数の保険医療機関が廃業を余儀なくされることを前提としているところ、前記アにおいて認定説示したとおり、かかる事実を認めるに足りる証拠はないから、原告らの上記主張を採用することもできない。 2 争点⑵(国家賠償請求の成否)について- 25 - 前記1のとおり、本件各規定は、健康保険法の委任の範囲を逸脱した違法なものということはできず、その制定行為及びこれに関連する行為に違法があるということはできない。 したがって、原告 前記1のとおり、本件各規定は、健康保険法の委任の範囲を逸脱した違法なものということはできず、その制定行為及びこれに関連する行為に違法があるということはできない。したがって、原告らの被告に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。 第4 結論以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官岡田幸人 裁判官曽我学 裁判官大門

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