令和4(ワ)8785 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年4月15日 大阪地方裁判所
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令和6年4月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第8785号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和6年2月8日判決 原告P1同訴訟代理人弁護士浅田隆幸同堀井秀知 被告徳島県同代表者知事P2同訴訟代理人弁護士田中浩三同坂田知範 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、1億円及びこれに対する令和4年10月21日から支払済 みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本判決における呼称(1) 甲2契約:平成27年10月1日に原被告間で締結された共同研究契約(甲2)。甲2契約に基づいて実施された研究は本件共同研究。 (2) 支援センター:徳島県立農林水産総合技術支援センター (3) 本件特許:特許第6878720号の特許(その権利は本件特許権、本件特許に係る発明は本件発明)(4) 本件公表行為:支援センターが、平成29年度の事業報告書において、「水車を利用した青ノリ類の効率的な採苗技術の開発」と題する記事を掲載し、同内容を支援センターのウェブサイトに掲載した行為(甲3、乙13) (5) 本件公表内容:本件公表行為に係る記事の内容(6) 乙2発明:特開2005-46051公開特許公報(平成17年2月24日公開。乙2。以下「乙2文献」)に記載の発明(7) 徳島県漁連:徳島県漁業協同組合連合会 2 訴訟物 被告の本件公表行為及び被告に本件特許権の取得妨害行為があったことを前提として、これらが甲2契約における債務不履行であるとす (7) 徳島県漁連:徳島県漁業協同組合連合会 2 訴訟物 被告の本件公表行為及び被告に本件特許権の取得妨害行為があったことを前提として、これらが甲2契約における債務不履行であるとする、債務不履行に基づく損害賠償請求権(明示的一部請求)及び請求の日の翌日から支払済みまでの民法所定の割合による遅延損害金の支払請求 3 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実) (1) 当事者原告は、その屋号を用いて、黒ノリ、青ノリの種付け事業を営む者である。 被告は、地方公共団体であり、農業、林業、水産等に関する試験研究等の業務を行う支援センターを設置している。 (2) 支援センターの内規 支援センターは、内規により「共同研究実施要領」(甲9)を定めている。 同内規9条においては、共同研究の結果、発明を行った場合は、共同研究者と共同して特許出願を行うこと、被告が共同出願を行おうとするときは、共同研究者との間で、特許権のそれぞれの持分その他必要な事項を定めた共同出願契約を締結しなければならないこと、費用は持分に応じて負担することが原則 であることなどが定められていた。 また、同内規12条2項では、研究成果の公表の際には、あらかじめ相手方に通知の上、承諾を得なければならない旨定められていた。 (3) 原告による共同研究の申込みと実施決定、甲2契約の締結ア原告は、クロノリの水車採苗を行い、水車を保有していたところ、平成27年頃、支援センターに対し、研究課題を「水車を利用した青ノリの採苗技 術の開発」、研究目的を「合理的な青ノリの採苗技術を開発する」、研究内容を①「母藻から遊走子を放出させる条件の解明」②「水車の操作方法の確立」③「網への遊走子付着の確認」とす た青ノリの採苗技 術の開発」、研究目的を「合理的な青ノリの採苗技術を開発する」、研究内容を①「母藻から遊走子を放出させる条件の解明」②「水車の操作方法の確立」③「網への遊走子付着の確認」とする共同研究を申し込み、同年9月30日、支援センターは、これを実施することを原告に通知した(甲1、11)。 イ原告と被告(支援センター)は、同年10月1日、甲2契約(期間:同日 から平成28年3月31日まで)を締結した。 甲2契約には、支援センターの内規に沿い、研究成果の公表の際には、あらかじめ相手方に通知の上、承諾を得なければならない旨(8条2項)、共同研究に基づく共同出願を行おうとするときは、共同出願契約を締結し、同契約で定める持分に応じ、特許権の取得及び管理に要する費用を負担するもの とする旨(10条)の定めが設けられていた。 ウ甲2契約と同旨の再度の共同研究契約甲2契約に基づく研究においては、とりわけノリ網への遊走子付着の確認手法が確立できなかったことなどから、原告と被告は、平成28年9月、研究期間を平成29年7月31日までとして再度共同研究を行い、平成28年 10月頃、全ての研究課題において一定の成果を得られた。被告は、同月末、共同研究の成果の報告を行った(乙3)。 なお、この再度の契約については、何らかの事情で契約書が作成されなかったが、甲2契約と同様の規範に服することについては当事者間に争いはない(以下、甲2契約は双方を総称したものをいう。)。 (4) 本件公表行為(甲3、乙13) 支援センターは、平成29年度水産研究課事業報告書において「水車を利用した青ノリ類の効率的な採苗技術の開発」と題する報告をした。同報告書は、平成30年8月、冊子体で刊行され、平成31年4月、 支援センターは、平成29年度水産研究課事業報告書において「水車を利用した青ノリ類の効率的な採苗技術の開発」と題する報告をした。同報告書は、平成30年8月、冊子体で刊行され、平成31年4月、支援センターのウェブサイトにおいても公開された。 本件公表内容は、別紙1のとおりである。 (5) 原告による本件特許に係る出願(甲6)及び審査経過(乙11)原告は、令和2年8月11日、発明の名称を「アオノリ用種網の生産方法及びアオノリ用種網生産装置」とする本件特許に係る出願(特願2020-146319)を行った。 当該出願は、特許庁審査官に一度拒絶査定を受け、補正を経て特許査定を受 け、令和3年5月7日登録された。拒絶査定の理由の一部は、乙2発明を引例とする新規性欠如、進歩性欠如であり、スジアオノリの葉片を水車式採苗装置に投入することにより胞子を網に付着させることが可能であることの周知技術の一例として本件公表内容が引用された。原告は、アオノリの遊走子を、「無性生殖を行うアオノリの遊走子」に限定するなどの補正を行った。 (6) ノリ(海苔)の養殖の概要ノリの養殖は、秋頃に、網にノリの胞子(ノリの胞子を作る方法は、牡蠣の殻を利用するもの(乙8)や、母藻を小さく切断する方法(乙1)などがある。 また、いわゆる「種」に当たるものは、胞子のほか、遊走子と称されるものもある。)を付着、定着させて「種網」を完成させ、これを適切な時期に海洋の養 殖場に設置して育成して収穫する方法により行われる。種網の生産は、自然環境で行われるもの(天然採苗)、あるいは陸上で人工的に行われるもの(人工採苗)があり、人工採苗の方法には、本件発明のように水車を利用するもの(乙2)や、タンクを利用するもの(乙1)がある。 本件 で行われるもの(天然採苗)、あるいは陸上で人工的に行われるもの(人工採苗)があり、人工採苗の方法には、本件発明のように水車を利用するもの(乙2)や、タンクを利用するもの(乙1)がある。 本件発明は、この種網の生産に関するものである。 4 争点 (1) 本件公表行為が承諾を得ない公表行為であって、甲2契約における被告の債務不履行となるか(争点1)(2) 被告に、原告が本件特許権を取得するにあたっての妨害行為があったか、あったとして甲2契約の債務不履行となるか(争点2)(3) 原告の被った損害(争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件公表行為が承諾を得ない公表行為であって、甲2契約における被告の債務不履行となるか)について【原告の主張】(1) 本件共同研究の経緯 平成27年頃、原告は、黒ノリの採苗で行われていた水車式の採苗は青ノリの採苗では行われていなかったところ、青ノリでも水車採苗ができれば安定的な生産が見込めると考え、「水車で青ノリの採苗が可能かどうか」を研究すべく、被告に相談し、甲2契約に至った。 (2) 本件共同研究の成果 本件共同研究は、甲2契約に記載の期間内には成果がみられなかったが、平成28年10月頃、青ノリ胞子の網への付着が認められ、研究は所定の成果を得た。この際、種網の枚数は70枚であった。 (3) 本件公表内容について本件公表内容は、平成29年に被告が実施した研究であるかのように書かれ ているが、平成29年の研究は存在せず、実際は、本件共同研究で行われた成果を、被告のみが行ったかのように発表したものである。 原告は、本件公表行為について承諾したことはないから、本件公表行為は甲2契約の8条2項の定めに違反し、債務 実際は、本件共同研究で行われた成果を、被告のみが行ったかのように発表したものである。 原告は、本件公表行為について承諾したことはないから、本件公表行為は甲2契約の8条2項の定めに違反し、債務不履行となる。 (4) 被告主張の本件公表内容の特定は争う。 【被告の主張】 (1) 本件共同研究の目的及び内容ア目的本件共同研究の目的は、水車式黒ノリ採苗装置を利用して合理的な青ノリの採苗方法を開発することであり、具体的には、水車を利用して青ノリを採苗する場合に適した水温、水車の操作方法を知ることであった。原告主張の ように、水車採苗が可能かどうか自体を研究するものではない。 イ研究内容中課題(1)母藻から遊走子を放出させる条件の解明に関する研究として、小課題①水車下部の遊走子を含む水を蓄えた採苗水槽(以下「採苗水槽」という。)内に適した水温の研究、小課題②採苗に必要な母藻量の研究が行わ れた。具体的には、採苗水槽に投入する遊走子の適した投入量の研究が、それぞれ被告の担当のもと行われた。 中課題(2)水車の操作方法の確立に関する研究として、小課題①水車の使用方法の研究(具体的には、青ノリを採苗するのに適した水車の回転速度の研究)及び小課題②種網の生産可能量に関する研究(具体的には、水車1 台につき、一度に積載可能なノリ網の枚数に関する研究)が、原告の担当で行われた。 中課題(3)のり網への遊走子付着の確認に関する研究として、小課題①検鏡が容易な遊走子付着素材の研究が行われた。なお、同研究の主担当は被告、副担当は原告とされた。 (2) 本件共同研究の成果本件共同研究の成果は次のとおりである。 ア中課題(1)小課題①採苗水槽内の水温は20℃以上に保 、同研究の主担当は被告、副担当は原告とされた。 (2) 本件共同研究の成果本件共同研究の成果は次のとおりである。 ア中課題(1)小課題①採苗水槽内の水温は20℃以上に保つ。 イ中課題(1)小課題② 採苗水槽に投入する遊走子の量は、容量1トンにつき50グラムが適量で ある。原告所有の採苗水槽の容量は約6トンであることから、よって採苗水槽に投入する遊走子の量は、300グラムが適量である。 ウ中課題(2)小課題①水車の回転速度は、1回転15秒が適度である。 エ中課題(2)小課題② 水車1台につき、70枚積載可能である。 オ中課題(3)小課題①透明で小さいスジアオノリ遊走子を発見するために、透過性のあるナイロン製素材を、採苗前にノリ網に固定し、採苗後に取り外し、ナイロン製素材を顕微鏡で確認すると、遊走子を発見することが可能である。 (3) 本件公表内容について本件公表内容は、被告水産研究課が行った生産現場での実証試験事業に関する報告であるところ、上記成果は何ら記載されていない。なお、水車を利用してスジアオノリの採苗を行い得ることは当業者に自明であるか、乙2発明から容易に想到し得たものである。 (4) 小括したがって、被告は、本件共同研究の成果を公表しておらず、甲2契約の債務不履行をしていない。 2 争点2(被告に、原告が本件特許権を取得するにあたっての妨害行為があったか、あったとして甲2契約の債務不履行となるか)について 【原告の主張】(1) 原告と被告は、本件共同研究の当初から、研究成果を権利化することを合意しており、甲2契約もこれを前提としていた。 しかし、被告は、研究開始当初は権利化に積極的であったが、 原告の主張】(1) 原告と被告は、本件共同研究の当初から、研究成果を権利化することを合意しており、甲2契約もこれを前提としていた。 しかし、被告は、研究開始当初は権利化に積極的であったが、研究終了後に権利化を具体化することなく、共同研究結果報告書のとりまとめや研究資料を 原告に提供せず、かえって、本件公表行為を行い、また徳島県漁連に青ノリの 種を横流しし、原告以外の水車保有者において本件共同研究の成果に係る発明に属する水車採苗を使用させようとするなどしていた。 (2) 令和元年9月28日、原告と、支援センター職員等との間で協議が持たれた際、被告担当者は、「特許に関して提出の認識を欠いており、異動もあって特許申請を怠っていた」旨述べて原告に詫び、速やかに特許出願をすることで合意 した。 しかし、被告はその後4か月間、出願もその準備行為もせず、前記合意を反故にした。また、水車採苗の結果のほとんどのデータを原告に渡しておらず、現在でも同様である。 (3) したがって、被告は、原告の本件特許権取得にあたって妨害行為をし、かか る妨害行為は、甲2契約の10条の定めに違反する。 【被告の主張】(1) 本件共同研究を開始した当初、特許出願の話はなく、この話が原告からあったのは、令和元年7月のことである。 被告としては、新規性、進歩性を備えた発明とはいえず、特許権を取得する ほどの成果とは考えていなかったが、原告が、特許取得にこだわっていたこともあり、一緒に研究をした被告の共同研究担当者としては、少しでも、共同特許出願する可能性があるのであればと思い、勤務発明届(甲8)を作成した。 同年9月28日に開かれた原告と被告担当者との協議において、原告から、やはり被告と共同出願したいとの意向を示され 、共同特許出願する可能性があるのであればと思い、勤務発明届(甲8)を作成した。 同年9月28日に開かれた原告と被告担当者との協議において、原告から、やはり被告と共同出願したいとの意向を示されたことから、被告は、共同特許 出願の準備を進めることとした。 (2) 令和2年1月下旬、被告は、特許取得の可能性があるとの感触を得られたので、原告に対し、共同出願にかかる協議の連絡をしたが、原告は、特許取得に向けた協議にも、その後の持分や費用の分担についての協議にも、応じることはなかった。 (3) このように、共同特許出願が遅れたとすればその原因は原告にあり、被告職 員は、原告の特許出願を遅延させる行為などしていないし、原告主張の妨害行為もしていない。 3 争点3(原告の被った損害)について【原告の主張】(1) 原告は、被告の債務不履行により、次の損害を被った。 ア平成29年10月から令和3年5月まで4年間の収入減として1億2000万円イ徳島県全体の特許権使用料3億6000万円ウ慰謝料200万円(2) 本訴において、原告は(1)の合計4億8200万円のうち1億円を請求する。 【被告の主張】否認し争う。 第4 判断 1 認定事実後掲各証拠(全体につき甲25、乙14、15、原告本人、P3証人。ただし、 認定に沿わない部分を除く。)及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると、次の事実を認めることができる。 (1) 本件共同研究以前の先行技術ア文献(特開平9-224511号公開特許公報。平成9年9月2日公開。 乙1)には、天然採苗では目的とする高品質のアオノリが付かないことが多 く、良品アオノリを採苗できる人工採苗方法の開発を課題として(【0007】)、ア 1号公開特許公報。平成9年9月2日公開。 乙1)には、天然採苗では目的とする高品質のアオノリが付かないことが多 く、良品アオノリを採苗できる人工採苗方法の開発を課題として(【0007】)、アオノリの母藻を塩水に入れて胞子を放出させて胞子液とし、この胞子液を使用して高品質の胞子を生育材に能率よく付着させてアオノリを養殖するアオノリの人工採苗方法において、アオノリの母藻を小さく切断して塩水に入れて胞子を放出させて胞子液とすることを特徴とするアオノリの 人工採苗方法(【請求項1】)が開示されている。 また、生育材にアオノリの胞子を付着させる例として、透明タンクに海水を希釈した1トンの塩水を入れ、これに培養液を添加し、タンクの底に空気を噴射して無数の気泡を浮上させる方法(【0017】)が開示されている。 イ文献(平成10年3月付けの被告水産試験場鳴門分場におけるスジアオノリ講習会資料。乙5)には、人工採苗の目的として、「目的とするスジアオノ リの胞子を確実に付けることができる」、「品種改良が進み、種ができれば、天然採苗では対応できない」、「水車採苗の技術が開発されれば、芽数の調整ができる(今後の課題)」、「種場の役割で最も大きなものは干出による芽数の調整機能であり、これができれば直接漁場に張り込める」等の記載があり、現在の採苗方法では芽付きの調整がとれず、水車採苗で付着を確認しながら 採苗するのが理想であるとの記載があり、水車を用いてスジアオノリを育成材に付ける採苗方法についての技術思想が開示されている。 ウ乙2文献には、例えば、約30~100枚の海苔網(長さ約18m)を水車状の回転枠(直径約1.6~3m)に巻き付け、その回転枠を回転させることで海苔網の繊維表面に海苔種を付着させる従来技術(【000 乙2文献には、例えば、約30~100枚の海苔網(長さ約18m)を水車状の回転枠(直径約1.6~3m)に巻き付け、その回転枠を回転させることで海苔網の繊維表面に海苔種を付着させる従来技術(【0002】)にお いて、種の付着しやすい外周側の層と付着しにくい内周側の層とが発生して、海苔種の付着度合いに斑を生じるなどの課題(【0005】)に対し、回転枠の直径を大きくして、回転枠の外周長さを巻き付けるべき海苔網の長さより長くするなどして回転枠の外周に所要枚数の海苔網を夫々一重に巻き付け、一重巻の状態で殻胞子を付着させることを繰り返し、所定枚数の海苔網に殻 胞子の付着を終えた後、カキ殻糸状体を取り出した状態で所要時間回転させて、殻胞子を海苔網に定着させることで、課題の解決手段を提供する(【0007】)発明が開示されている。 (2) 本件共同研究の内容等ア本件共同研究は、「水車を利用した青ノリの採苗技術の開発」に関する研 究であり、具体的内容は、中課題として、母藻から遊走子を放出させる条件 の解明に関する研究(小課題として、母藻の使用方法の研究と、採苗に必要な母藻量の研究)、水車の操作方法の確立に関する研究(小課題として、水車の使用方法の研究、種網の生産可能量の研究)、のり網への遊走子付着の確認に関する研究(小課題として、検鏡が容易な遊走子付着素材の研究)であった。また、研究目的は、安定的な採苗法である「青ノリのタンク式人工採 苗法」では一度で大量に生産できなかったことから「水車を利用して合理的な青ノリの採苗方法を開発すること」とされた(甲2)。 イ本件共同研究は、甲2契約の所定の期間(平成28年3月31日まで)には所期の成果が上がらなかったが、平成28年9月頃に再度共同研究が行われ、所期の成果を上げ、 開発すること」とされた(甲2)。 イ本件共同研究は、甲2契約の所定の期間(平成28年3月31日まで)には所期の成果が上がらなかったが、平成28年9月頃に再度共同研究が行われ、所期の成果を上げ、被告の担当者により被告内部において報告がとりま とめられた(乙3、4)。 ウイの報告においては、水槽や水車の大きさのほか、好適な青ノリの葉片の重量、水車の回転時間、回転速度、水槽の水温が明らかにされ、タンク式人工採苗法に比して短時間で多くの種網が生産できることとされ、今後、水車採苗で生産された種網が養殖漁場で正常に生長するかどうかの確認を行う こととされた(乙3)。 (3) 本件公表行為に至る事情(甲3、14、19、乙13)ア被告は、前記(2)ウのとおり、水車採苗で採苗された種網の現実の生産現場における生育状況の確認が必要と考え、平成29年度の研究成果開花事業としてこれを行った。具体的には、平成29年10月末に原告のもとで水車 による採苗を行い、同年11月に、ある養殖漁場でその網を用いて実際に養殖するというものであったが、当該漁場では、プランクトンの大量発生により良好な成果を上げられなかった。 イ被告においては、当該漁場の漁師から、その実証実験については公表を望まない旨の申し出を受けたことから、種付けまでの工程を事業報告として報 告することとして、前記アの研究成果開花事業の報告として、前提事実(4) の本件公表行為をした。 (4) 原告と被告の職員との話合い等(甲13ないし15、18)ア令和元年7月31日、同年8月30日及び同年9月28日、原告と、被告の職員が話合いをする機会が持たれ、原告は本件共同研究の成果についての権利化の状況や、被告が原告以外の者に水車採苗の技術を使用させているの 31日、同年8月30日及び同年9月28日、原告と、被告の職員が話合いをする機会が持たれ、原告は本件共同研究の成果についての権利化の状況や、被告が原告以外の者に水車採苗の技術を使用させているの ではないか等について被告に質した。 イ被告は、特許出願については、本件共同研究の当時の被告担当者から引継ぎがなく、その点については陳謝したものの、当該被告担当者においても、当該話合いの時点までに権利化についての明確な要請を認識しておらず、したがって被告の内規で必要な勤務発明届を作成していない状態であったが、 当該話合いを受け、同年9月28日付けの勤務発明届(甲8)を作成し、県知事に提出した。 この勤務発明届は、母藻から遊走子を放出させる条件につき、海水に対する母藻量の割合(多すぎるとかえって成熟阻害物質が放出される。)や適温、水車の操作方法、のり網への遊走子付着の確認方法などが記載されたもので あり、おおむね本件共同研究の報告(乙3)と同じ内容であった。 被告は、被告が原告以外の者に水車採苗の技術を使用させているとの原告の疑念については、当該事実を否定した。 ウ令和元年9月28日の話合いの機会に、本件共同研究の成果を共同特許出願することが合意された。 (5) 原被告間の出願に向けた交渉経緯等ア令和元年10月頃、原告と被告担当者は弁理士に相談し、また、被告においては、並行して内部で発明の特定や進歩性の検討を行い、出願するとの方針となった。 令和2年1月頃、被告は、原告に対し、共同出願に係る協議を申し入れた。 他方、原告は、同月22日付けで、被告担当者が、原告の事業を妨害し、本 件共同研究に係る成果を他に漏洩した行為があったとして、謝罪等を求める通知を被告に送付した(乙6の1)。 。 他方、原告は、同月22日付けで、被告担当者が、原告の事業を妨害し、本 件共同研究に係る成果を他に漏洩した行為があったとして、謝罪等を求める通知を被告に送付した(乙6の1)。 イ令和2年2月に入り、被告は、特許出願に向けた協議をうながす書面を複数回原告に送付したが(乙6の2、6の3)、原告は、被告担当者の行為を問題とする姿勢を変えようとしなかった。 同年5月に至り、原告は、持分割合につき原告8割、被告2割とし、実施料、出願料、更新料を被告が負担し、メディアへの公開の段取りをする、との条件を被告に提示したが(乙6の9)、被告は、持分や費用負担の面で原告の申出には応諾できないとして、更に協議を求めた(乙6の10)。 ウ原告は、被告の協議の申入れに応答せず、同年8月11日、被告に知らせ ることなく本件特許の出願に及んだ。 2 争点1(本件公表行為が承諾を得ない公表行為であって、甲2契約における被告の債務不履行となるか)について(1) 本件共同研究の目的等前記認定によると、少なくとも被告においては、平成10年頃より、水車を 用いてアオノリの人工採苗をすることができるとの技術思想自体は把握していたこと及びこの技術思想自体も講習会の資料に搭載するなどして公知のものとしていたこと(前記1(1)イ)が認められるところ、これを前提とすると、甲2契約に基づく本件共同研究は、当該水車を用いたアオノリの採苗が可能か否かではなく、水車を利用した合理的なアオノリの採苗方法の開発、すなわち、 当該採苗技術がどのような状況や条件で実用的になるのかという観点から研究することを目的とするものであるといえる。甲2契約上の研究の各課題(中課題及び小課題)の具体性も、このことと整合するものである。 この点 どのような状況や条件で実用的になるのかという観点から研究することを目的とするものであるといえる。甲2契約上の研究の各課題(中課題及び小課題)の具体性も、このことと整合するものである。 この点、原告は、アオノリについて水車による採苗を行うこと自体が新規性ある原告固有の着想であることを前提とする主張をするが、当該技術思想自体 は本件共同研究以前に存在し公知となっていたことは上述のとおりであり、ま た原被告間で、当該技術思想自体、あるいは共同研究の実施現場自体を非公知のものとしようとしたとはうかがわれない(甲5の5、19、乙3)ことも考慮すると、そのような前提は認められず、本件共同研究の目的に関する上記判断を左右しない。 そうすると、本件共同研究の成果は、上記採苗の合理的な状況や条件、すな わち被告担当者が報告したもの(乙3・前記1(2)ウ)と捉えるのが相当である。 (2) 本件公表内容について前記認定のとおり、被告(支援センター)は、平成29年度に、研究成果開花事業として、水車採苗による種網を実際の生産現場(漁場)で養殖する事業 を行ったが、当該漁場で良好な結果が得られなかったことから、種付けまでの工程を事業結果の報告とすることとして本件公表内容を作成し本件公表行為をしたものと認められるところ、本件公表内容(前提事実(4))は、水車の大きさや網の枚数への言及はあるものの、基本的には、アオノリについて水車で採苗を行うという公知の技術思想の試行について、従前の人工採苗(タンク式採 苗)でも用いられる母藻の作り方の技術や、網の胞子の付着の判定方法を用いてその結果を報告したものにとどまり、本件共同研究の成果である水車による採苗の際の好適な状況や条件は述べられていないものと認められる。 (3) 母藻の作り方の技術や、網の胞子の付着の判定方法を用いてその結果を報告したものにとどまり、本件共同研究の成果である水車による採苗の際の好適な状況や条件は述べられていないものと認められる。 (3) 小括したがって、本件公表行為は、甲2契約に基づく本件共同研究の成果を公表 するものとは認められないから、甲2契約の債務不履行に当たらず、これをいう原告の主張は理由がない。 3 争点2(被告に、原告が本件特許権を取得するにあたっての妨害行為があったか、あったとして甲2契約の債務不履行となるか)について(1) 前記認定によると、令和元年7月から9月にかけて持たれた原被告間の話合 い以前にあっては、被告担当者において、本件共同研究の成果についてこれを 権利化することについて認識していなかったと認められ、原告がこれ以前に権利化を求めたことを認めるに足りる証拠はないことにも照らすと、前記話合いの以前に、甲2契約(その期間後の共同研究の基礎となる合意を含む)に基づく本件共同研究の成果について権利化するとの何らかの規範的な合意がされたものとは認められず、令和元年9月28日の話合いをもって、本件共同研究 の成果について特許権取得を目指すとの合意がされたものというべきである。 そうして、前記認定のとおり、同日以降、被告は、原告を伴って弁理士に相談したり、被告内部での権利化に向けた検討や具体的意思形成をしたりしてこれに努め、令和2年1月以降は、原告に対し、持分や費用負担に関して協議を求めていたこと、むしろ原告がこの協議に応じなかったり、同年5月には甲2 契約の趣旨に反する申入れをしたりしていたことが認められる。 このような状況において、原告は同年8月11日には被告に知らせることなく本件特許権に係る特許出願をする たり、同年5月には甲2 契約の趣旨に反する申入れをしたりしていたことが認められる。 このような状況において、原告は同年8月11日には被告に知らせることなく本件特許権に係る特許出願をするに至り、被告は出願後の審査手続に何ら関与していないところ、前記のとおり、令和元年9月28日から当該出願の日までに、被告は特許権取得に向けた準備を進めているのであって、上記特許出願 を妨害する何らの行為も認められないというべきである。 (2) 前提事実(5)のとおり、本件特許の審査過程で、本件公表内容がアオノリの採苗に水車を用いることが周知技術であることの引用例として用いられたことは認められるが、前記認定(前記1(1))のとおり、アオノリの採苗に水車を用いるとの技術思想自体は本件公表行為以前から公知であったことが認めら れるのであって、被告による本件公表行為による影響とは認められないから、本件公表行為が本件特許権の取得の妨害になったとは認められない。 また、被告が本件共同研究の成果を原告以外の者に活用させたことについては、これを認めるに足りる証拠はなく、被告が研究成果の資料を原告に提供しないことについても、原告は、被告作成の職務発明届(甲8)を所持していた との反対事実からして採用できない。その他原告が本件において縷々主張する 妨害行為全般についても、これを認めるに足りる証拠はないか又は失当である。 (3) 小括以上によると、被告に、本件特許権の取得を妨げる行為があったとは認められず、これを前提とする原告の債務不履行の主張も理由がない。 第5 結論 以上の次第で、その余の争点を判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 履行の主張も理由がない。 第5 結論 以上の次第で、その余の争点を判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 阿波野右起

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