平成18(し)391 強姦被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年12月19日 最高裁判所第一小法廷 決定 その他 東京地方裁判所
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判決文本文5,097 文字)

- 1 -主文原決定を取り消す。 本件を東京地方裁判所に差し戻す。 理由 本件抗告趣意の検討に先立ち,職権で判断するに,原決定は,以下の理由により,取消しを免れない。 記録によれば,以下の事実が認められる。 (1)申立人は,強姦被告事件(以下「本案被告事件」という。)で東京地方裁判所に起訴され,甲弁護士がその国選弁護人に選任された。 (2)申立人は,本案被告事件の捜査段階において,自己の所有物が押収されたことに関し,平成18年6月15日付けの書面で,検察官に対しその還付を請求したところ,一部しか還付されなかったとして,同年8月29日付けの東京地方裁判所をあて先とする「検察の押収品還付処分に対する準抗告申立」と題する書面(以下「本件書面」という。)を作成し,甲弁護人に託したが,同書面には,5枚にわたって準抗告を申し立てる経緯及び理由等が相当程度具体的に記載されているほか,同申立てが刑訴法430条1項に基づくものであることなども記載されており,申立人の署名指印も整っていた。 (3)同年9月29日,本案被告事件につき,申立人を懲役9年に処する旨の第1審判決が言い渡されたところ,申立人は,同年10月12日,控訴を申し立てた。 (4)甲弁護人は,同月31日,同弁護人作成に係る申立ての趣旨及び理由を簡略に記載した全1枚の準抗告申立書に,本件書面を別紙として添付した上,本件準- 2 -抗告を申し立てたが,原決定は,本案被告事件につき第1審判決が言い渡された後,申立人が控訴を申し立てたことにより,甲弁護人に対する国選弁護人選任の効力は既に失われている上,同弁護人が同被告事件の控訴審の弁護人に選任された事実もないことが明らかであるとして,本件準抗告の申立てを不適法として棄却した。 原審は,上記1(4)のような判断に基づき甲弁護人のし れている上,同弁護人が同被告事件の控訴審の弁護人に選任された事実もないことが明らかであるとして,本件準抗告の申立てを不適法として棄却した。 原審は,上記1(4)のような判断に基づき甲弁護人のした本件準抗告を不適法として棄却しただけで,その内容に立ち入った判断を行っていない。しかし,本件書面は,独立した準抗告の申立書としての要件及び実質を備えている上,これを独立の準抗告申立てとみた場合,申立て自体を適法なものとみる余地が十分あったことは明らかである。そうすると,原審として,甲弁護人がした準抗告を不適法とみるならば,少なくとも本件書面を独立の準抗告申立てとみて,これに対する判断を行うかどうかを検討すべきであった。ところが,原審は形式的な処理を行い,本件書面についての検討,判断を欠いたまま本件準抗告を不適法なものとして棄却したものであり,このような処理をした原決定には違法があり,これを取り消さなければ著しく正義に反するというべきである。 よって,刑訴法411条1号を準用し,同法434条,426条2項により,原決定を取り消し,本件を東京地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり決定する。この決定は,裁判官才口千晴の補足意見,裁判官泉徳治の意見があるほか,裁判官全員一致の意見によるものである。 裁判官才口千晴の補足意見は,次のとおりである。 私は,多数意見に賛同するものであるが,泉裁判官の意見を踏まえて補足して意見を述べる。 - 3 - 多数意見は,原決定は形式的な処理により本件準抗告を不適法なものとして棄却したものであり,著しく正義に反するから,これを取り消し,原審に差し戻すというものである。 裁判は,当事者等の申立てあるいは不服等に対し,適式かつ的確な判断を迅速になすべきものであるところ,原審は,甲弁護人に対する国選弁護人選任の効力 これを取り消し,原審に差し戻すというものである。 裁判は,当事者等の申立てあるいは不服等に対し,適式かつ的確な判断を迅速になすべきものであるところ,原審は,甲弁護人に対する国選弁護人選任の効力は控訴申立てにより既に失われている上,同弁護人が控訴審の弁護人に選任された事実もないことが明らかであるとの弁護権の不存在を理由として,本件準抗告を全体として不適法なものとして棄却した。しかし,申立人作成の本件書面は,準抗告の申立書としての要件及び実質を備えているものであり,その検討,判断はもとより,準抗告の申立ての適否の判断も容易であって,これを独立の準抗告申立てとみて,内容に立ち入った判断をすべきであったから,原審の取扱いは形式的な処理というべく,その結果,本件特別抗告がなされ,申立人の権利や人権の擁護はもとより裁判の迅速にも反することになっている。 このような実質的判断を回避する形式的な処理は,当事者等に得心されず,延いては裁判に対する国民の信頼を失うところとなるので,努めて避けるべきことである。 ところで,本件は,国選弁護人選任の効力という理論及び実務に関連する論点を含む事案である。弁護人選任の効力の終期については,審級代理の原則(刑訴法32条2項)との関係で論議があり,従来の実務では,その終期を上訴期間の満了又は上訴の申立てによって移審の効果が生ずるまでとする上訴申立説に基づきおおむね運用されている。これに関し泉裁判官は,第1審における国選弁護人の選任の効力は,被告人の控訴申立てがあっただけで直ちに失われるものではなく,少な- 4 -くとも当該被告事件の訴訟記録がいまだ第1審裁判所に存し,同裁判所が被告事件に付随する事項について裁判をする可能性がある段階では,同弁護人は弁護権を行使することができるものとされ,国選弁護人選任の効力 とも当該被告事件の訴訟記録がいまだ第1審裁判所に存し,同裁判所が被告事件に付随する事項について裁判をする可能性がある段階では,同弁護人は弁護権を行使することができるものとされ,国選弁護人選任の効力の終期につき,訴訟記録送付の有無と結び付ける見解を開陳されている。確かに,可能な限り間断ない弁護権の保障は被告人の権利保護や人権の擁護に不可欠であって,刑事弁護の理念でもあるが,国選弁護をめぐっては解決すべき多くの問題が山積しており,特に,平成18年10月から日本司法支援センターが業務を開始して国選弁護報酬の支払事務等が同センターに移管され,これらの実務が緒に就いたばかりでいまだ定着していない等の状況を配慮すれば,当審が本件について弁護人選任の効力の終期につき判断を示すことは時宜を得た処理とはいえない。 また,間断ない弁護権の保障を実現するためには,上訴申立後に国選弁護人の選任を速やかに行う態勢の整備が不可欠であり,それには,まずもって原審裁判所が上訴審裁判所に訴訟記録を可及的速やかに送付するという実務の改善とその定着こそが急務である。 本件は,第1審判決言渡し,申立人の控訴申立後の第1審弁護人の準抗告申立てについて,申立書に申立人作成の本件書面が添付されているという事案であり,これに対し原決定は形式的な処理により本件準抗告を不適法なものとして棄却したものであるから,このような特殊な事案について,当審としては,その処理に当たって,原決定の採った見解に対して弁護人選任の効力の終期につき特段の判断を示すことなく,原決定が著しく正義に反することを理由にこれを取り消し,原審に差し戻すという事例判断にとどめるのを相当とするものである。 裁判官泉徳治の意見は,次のとおりである。 - 5 -私は,原決定が本件書面についての判断を欠いたまま本件準抗告を不適 れを取り消し,原審に差し戻すという事例判断にとどめるのを相当とするものである。 裁判官泉徳治の意見は,次のとおりである。 - 5 -私は,原決定が本件書面についての判断を欠いたまま本件準抗告を不適法なものとして棄却したのは違法であるとする多数意見に賛成するが,甲弁護人の平成18年10月31日付け準抗告申立て自体も適法であるから,これを不適法として棄却した原決定は違法であると考える。 原決定は,被告人が本案被告事件の判決について平成18年10月12日に控訴を申し立てたことにより,甲弁護人に対する国選弁護人選任の効力が失われたから,同弁護人が同月31日付けで行った準抗告の申立ては不適法であるとする。 しかし,第1審における国選弁護人選任の効力が被告人の控訴申立てにより失われることを定めた明文の規定は存しない。その一方で,刑訴法は,上訴中の事件で訴訟記録が上訴裁判所に到達していないものについて,勾留の期間を更新し,勾留を取り消し,又は保釈若しくは勾留の執行停止をし,若しくはこれを取り消す場合には,原裁判所が,その決定をしなければならない,勾留の理由の開示をすべき場合も,原裁判所が,これを行う旨を規定している(97条2項及び3項)。さらに,刑訴法は,控訴の申立てが明らかに控訴権の消滅後にされたものであるときは,第1審裁判所は,決定でこれを棄却しなければならない,この決定に対しては,即時抗告をすることができる旨を規定している(375条)。刑訴法は,このように,被告人の控訴申立て後においても,訴訟記録が控訴審裁判所に到達していない段階では,第1審裁判所が被告事件に付随する上記事項について裁判を行うこととしているから,第1審選任弁護人が上記事項に係る請求,準抗告,即時抗告等について被告人の弁護に当たることを予定しているというべきである。上記事項のほ 告事件に付随する上記事項について裁判を行うこととしているから,第1審選任弁護人が上記事項に係る請求,準抗告,即時抗告等について被告人の弁護に当たることを予定しているというべきである。上記事項のほかにも,控訴趣意書作成のための相談,接見交通,記録閲覧謄写等で,第1審選任弁護人による弁護の必要性が存することも明らかである。したがって,第1審に- 6 -おける国選弁護人の選任の効力は,被告人の控訴申立てがあったというだけで直ちに失われるものではなく,少なくとも当該被告事件の訴訟記録がいまだ第1審裁判所に存し,第1審裁判所が上記のような裁判をする可能性がある段階においては,第1審選任弁護人は弁護権を行使することができるというべきである(ちなみに,最高裁昭和26年(あ)第1567号同29年12月24日第二小法廷判決・刑集8巻13号2336頁は,自ら控訴の申立てをした第1審選任弁護人が控訴審裁判所に対し控訴趣意書を提出する権限を有することも認めているのである。)。そして,第1審選任弁護人は,その包括的な代理権に基づき,第1審段階で行われた検察官の処分に対する準抗告の申立てを行うこともできると解すべきである。このように解釈することが,憲法37条3項において,刑事被告人は「いかなる場合にも」弁護人を依頼することができると規定している趣旨に適合するものと考える。 刑訴法32条2項は「公訴の提起後における弁護人の選任は,審級ごとにこれをしなければならない。」と規定しているが,これは,被告人に原審弁護人と異なる弁護人選任の機会を保障し,憲法37条3項の弁護人依頼権を実効あるものとするための規定である。かかる被告人保護のための規定を根拠に,被告人の弁護人依頼権を制限するような解釈をすることは許されない。被告人が控訴の申立てをしたからといって,直ちに新たな国 を実効あるものとするための規定である。かかる被告人保護のための規定を根拠に,被告人の弁護人依頼権を制限するような解釈をすることは許されない。被告人が控訴の申立てをしたからといって,直ちに新たな国選弁護人が選任されるわけではなく,被告人において第1審選任弁護人の弁護・後見的保護を受ける必要性がなくなるものではないのである。 本件準抗告は,被告人が第1審判決言渡し前にした押収物の還付請求に関する東京地方検察庁検察官の処分に対するものであり,しかも,本件準抗告申立て当時,本案被告事件の記録がいまだ原審に存していたのであって,新たな弁護人が選任さ- 7 -れていたわけでもないのであるから,第1審で国選弁護人に選任された甲弁護人は,被告人のため本件準抗告を申し立てる権限を有していたというべきである。原決定は,この点においても,違法といわざるを得ない。 (裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官涌井紀夫)

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