- 1 -平成25年3月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ワ)第222号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成24年12月20日判決 主文 1 被告大分県及び被告豊後大野市は,原告Aに対し,連帯して2328万0013円及びこれに対する平成21年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告大分県及び被告豊後大野市は,原告Bに対し,連帯して2328万0013円及びこれに対する平成21年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告Aの被告大分県に対するその余の請求及び被告豊後大野市に対するその余の請求をいずれも棄却する。 4 原告Aの被告Cに対する請求及び被告Dに対する請求をいずれも棄却する。 5 原告Bの被告大分県に対するその余の請求及び被告豊後大野市に対するその余の請求をいずれも棄却する。 6 原告Bの被告Cに対する請求及び被告Dに対する請求をいずれも棄却する。 7 訴訟費用は,原告らに生じた費用の10分の4,被告大分県に生じた費用の10分の4,被告Cに生じた費用,被告Dに生じた費用,被告豊後大野市に生じた費用の10分の4を原告らの負担とし,原告らに生じた費用の10分の3,被告大分県に生じた費用の10分の6を被告大分県の負担とし,原告らに生じた費用の10分の3,被告豊後大野市に生じた費用の10分の6を被告豊後大野市の負担とする。 8 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由- 2 -第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して4314万2498円及びこれに対する平成21年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して4314万249 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して4314万2498円及びこれに対する平成21年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して4314万2498円及びこれに対する平成21年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨原告A及び原告Bの子であるEは,被告大分県が設置する大分県立竹田高等学校(以下「竹田高校」という。)の2年生であり,竹田高校の剣道部(以下「剣道部」という。)の部員であった。本件は,原告A及び原告Bが,竹田高校の教員で剣道部の顧問を務める被告C及び副顧問を務める被告Dについて,Eが剣道部の部活動の練習をしている際に熱中症又は熱射病を発症したにもかかわらず,直ちに練習を中止し,医療施設に搬送し,あるいは冷却措置を実施するなどの処置を取らなかった過失があり,また,その後にEが搬入された被告豊後大野市が設置する病院の担当医について,熱中症又は熱射病に対する適切な医療行為を尽くさなかった過失があり,これらの各過失によってEが死亡するに至ったと主張して,被告C及び被告Dに対してはそれぞれ民法709条(Eの慰謝料請求については民法710条,原告ら固有の慰謝料請求については民法711条。慰謝料請求について,以下同じ。)に基づき,被告大分県に対しては民法715条1項本文又は国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,被告豊後大野市に対しては民法715条1項本文に基づき,連帯して損害賠償(原告A及び原告Bのそれぞれにつき4314万2498円)及びこれに対する不法行為時(Eの死亡事故発生日である平成21年8月22日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求めている事案である。 2 前提となる事 498円)及びこれに対する不法行為時(Eの死亡事故発生日である平成21年8月22日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求めている事案である。 2 前提となる事実- 3 -証拠を掲記した部分以外は,当事者間に争いがない。 (1) 当事者等ア原告A及び原告B原告A及び原告Bは,平成21年8月22日に死亡したEの父母であり,相続分各2分の1でEを相続した(甲1)。 イ EEは,平成4年5月27日生まれの原告らの子であり(甲1),平成21年8月22日当時,17歳で,竹田高校の2年生であり,剣道部の主将を務めていた。Eは,剣道の段位3段を取得していた。 ウ被告大分県被告大分県は,竹田高校を設置する地方自治体であり,同校の教職員の使用者である。 エ被告C被告Cは,平成21年4月に竹田高校に赴任した教員(地方公務員)であり,同年8月22日当時,剣道の段位7段を取得しており,剣道部の顧問としてEを含む同部部員を指導していた。 オ被告D被告Dは,平成13年4月に竹田高校に赴任した教員(地方公務員)であり,赴任以降(ただし,平成14年ないし平成15年に青年海外協力隊に派遣されていた期間を除く。),剣道部の副顧問を務めていた。平成21年8月22日当時,剣道の段位5段を取得しており,剣道部の副顧問としてEを含む同部部員を指導していた。 カ被告豊後大野市被告豊後大野市は,公立おがた総合病院(平成21年8月22日当時の名称であり,その後「豊後大野市民病院」に名称を変更した。以下,単に「被告病院」という。)を設置する地方自治体であり,同病院に勤務する- 4 -医師らの使用者である。 キ FF(以下「F医師」という。)は,平成21年8月22日当時,被告病院において勤務し 「被告病院」という。)を設置する地方自治体であり,同病院に勤務する- 4 -医師らの使用者である。 キ FF(以下「F医師」という。)は,平成21年8月22日当時,被告病院において勤務していた医師であり,Eが救急車で搬入された際に,Eに対する医療行為を担当した。 (2) Eの死亡事故Eは,平成21年8月22日,竹田高校の剣道場(以下「剣道場」という。)において,被告C及び被告Dの立会いのもと,剣道部の部活動の練習をしていたところ,倒れるなどし,その後に救急車で被告病院に搬送され,F医師による医療行為を受けたが,同日午後6時50分頃に被告病院において死亡した(以下「本件事故」という。)。 (3) 本件事故に至るまでの経緯ア平成18年8月11日,剣道場において,剣道部の夏合宿に参加していた生徒数名が熱中症を発症し,救急搬送されたことがあった(甲34の1ないし甲34の3)。 イ Eは,平成20年4月,竹田高校に入学し,剣道部に入部した。 Eは,平成20年の剣道部の夏合宿での練習中に,熱中症を発症して倒れたことがあった。 ウ Eは,平成21年6月から,剣道部の主将を務めていた。 剣道部は,平成21年8月10日から13日まで4日間の夏合宿を行い,14日から16日までを完全休養日として,17日に練習を再開することとなっていた。ところが,剣道部員にインフルエンザ罹患の可能性があったため,同月18日から20日まで,部員全員は自宅待機となった(甲4〔3頁〕)。 平成21年8月21日に剣道部の練習は再開されたが,この日は,被告C及び被告Dの立会いはなく,Eが被告Cから受けていた指示に従って,- 5 -部員のみによる自主練習が行われた(甲4〔3頁〕)。 なお,剣道部の男子部員は,平成21年8月30日開催の秋季高校剣道大会に 告Dの立会いはなく,Eが被告Cから受けていた指示に従って,- 5 -部員のみによる自主練習が行われた(甲4〔3頁〕)。 なお,剣道部の男子部員は,平成21年8月30日開催の秋季高校剣道大会に出場予定であった(甲4〔4頁〕)。 エ(ア) 平成21年8月22日の剣道部の練習は,剣道場において,同日午前9時頃に開始された。被告C及び被告Dの立会い(被告Dは途中から立ち会った。)のもと,練習に参加した部員は,Eを含む8名であった。 同日午前9時頃から同日午前9時55分頃まで,体操,素振り,足さばき等の基礎練習が行われ,その後,休憩時間となった。 練習を再開した後は,防具を着用の上で,面打ち(打突部位として,面を打つ稽古),切り返し(正面打ちと連続左右面打ちを組み合わせた稽古)が行われ,その後に1対1での打ち込み稽古(打ち込み稽古の受け手を「元立ち」という。元立ちの与える打突の機会に打ち込む稽古。 4名が打ち込みをし,4名が元立ちをすることによって,1対1での打ち込み稽古となる。),3人元立ちによる打ち込み稽古(元立ちが3名となることを「3人元立ち」といい,この場合は残りの5名が打ち込みをする。元立ちの人数の表記について,以下同じ。),2人元立ちによる打ち込み稽古が行われた。 被告Cは,Eに他の部員よりも多く打ち込み稽古をさせ,Eが,被告Cに対して「もう無理です。」と告げた後も練習を継続させた。その後,Eは,元立ちから竹刀を払われて竹刀を落としたのに気付かないまま竹刀を構える仕草を続けたり,ふらふらと壁に向かって歩き,壁に額を打ち付けて倒れるなどした(Eが壁に額を打ち付けた後に,倒れたのか,あるいは長座姿勢で座り込んだのかについては,争いがある。)。その後,被告Cは練習を終了した。 (イ) 同日午後0時19分頃,被告Cは,救急車の出 などした(Eが壁に額を打ち付けた後に,倒れたのか,あるいは長座姿勢で座り込んだのかについては,争いがある。)。その後,被告Cは練習を終了した。 (イ) 同日午後0時19分頃,被告Cは,救急車の出動を要請し,同日0時24分頃に救急車が到着し,Eは救急車で病院に搬送された。 - 6 -同日午後0時54分頃,Eは被告病院に搬入された(甲12の1)。 (ウ) 被告病院においては,F医師がEの治療を担当した。 (エ) 同日午後6時50分頃,Eは,被告病院において死亡した。Eの死亡原因は,熱射病であった(甲19,甲5の2〔26頁〕)。 (4) 原告らが受けた給付平成23年6月17日頃,原告らは,本件事故により,独立行政法人日本スポーツ振興センターから死亡見舞金として2800万円の支給を受けた(乙A8,乙A9)。 3 主な争点(1) Eの熱射病の発症時期(2) 被告Cの過失の有無(3) 被告Dの過失の有無(4) F医師の過失の有無(5) 被告C及び被告Dの各過失と結果との間の因果関係の有無(6) F医師の過失と結果との間の因果関係の有無(7) 被告大分県に対する損害賠償請求権の成否(8) 被告豊後大野市に対する損害賠償請求権の成否(9) 被告C及び被告Dに対する損害賠償請求権の成否(10)共同不法行為の成否(11)損害の額 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(Eの熱射病の発症時期)ア原告らの主張Eが熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したのは,本件事故日,剣道場において部活動をしていた最中である。その理由は,以下のとおりである。 (ア) 熱射病と熱疲労とを鑑別する最も重要な指標は,意識障害の有無及び- 7 -体温の程度並びに多臓器機能障害の有無及びその程度である。 (イ) Eは ある。その理由は,以下のとおりである。 (ア) 熱射病と熱疲労とを鑑別する最も重要な指標は,意識障害の有無及び- 7 -体温の程度並びに多臓器機能障害の有無及びその程度である。 (イ) Eは,本件事故日,剣道場内で,時系列順に,①足がふらふらして切れがなくなり,ケアレスミスが重なって,「もう無理です。」などと弱音を吐いた,②元立ちの反対側を向いて竹刀を構えた,③元立ちの発声に対して発声を返さなかった,④竹刀を払われて落としたのにそれに気付かず竹刀を持って構える仕草を続けた,⑤被告Cに前蹴りされて倒れた,⑥剣道場内をふらふらと歩き,壁に額を打ち付けて倒れた,という行動を取っている。 熱射病の指標に照らすと,Eが上記②及び③の行動を取った時点において,熱射病の症状である異常行動が発現していたとみるべきであり,Eの熱射病は,遅くとも,上記③及び④の時点で既に発症していた。 (ウ) Eについては,竹田高校から被告病院へ救急車で搬送中,血圧の低下と呼吸機能の低下がみられ,これによれば,既に末梢血酸素飽和度が低下し,意識障害が発症していたことが認められる。 なお,この頃のEの体温は37.1℃であったと記載されているものがあるが,これは,剣道場内において,Eの腋窩等に冷却処置が取られ,腋窩温が低かったためであり,Eの深部温が既に高温となっていたことを否定する根拠にはならない。 (エ) 被告病院搬入時のEの状態は,①半昏睡ないし昏迷,JCSが200で,不穏等の中枢神経症状があり,②AST,ALT,LDH,CPK,クレアチニンの上昇等から,多臓器障害があるものと認められ,③口唇の乾燥が認められ,④腋窩温が39.3℃に達していることから深部温が40℃を超えていることが推認されるという状態であり,熱射病の診断基準に照らせば,この時点で熱射病( 害があるものと認められ,③口唇の乾燥が認められ,④腋窩温が39.3℃に達していることから深部温が40℃を超えていることが推認されるという状態であり,熱射病の診断基準に照らせば,この時点で熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症していたことは明らかである。なお,Eが発汗したのは,1500mlの輸液の後である。このような被告病院搬入時のEの状態に照らせば,被告- 8 -病院搬入時には熱疲労の状態であったにすぎないという被告大分県の主張は失当であることが明らかである。 (オ) 以上によれば,Eが熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したのは,本件事故日,剣道場において部活動をしていた最中であったといえる。 イ被告大分県の主張原告らの主張は争う。 Eの熱射病が発症したのは,Eが被告病院に搬入された後である。その理由は,以下のとおりである。 熱射病は,深部温40.5℃超,意識障害,発汗停止を三徴候とするところ,被告病院に搬入されるまでの間に,Eが熱射病であることを示す三徴候はみられなかった。すなわち,被告病院搬入時,Eの腋窩温は39. 3℃であり,深部温が40℃を超す高体温であったとはいい難かった。また,Eが昏睡等の意識障害に陥ったのは,被告病院に搬入された後であった。さらに,Eは,被告病院搬入後にも,血圧が安定し十分な発汗が確認されており,剣道場において発汗は停止していなかった。 これらの事情に照らすと,Eが剣道場において部活動をしていた最中に熱射病を発症していたとは認められない。Eは被告病院搬入時には熱疲労の状態であったにすぎない。 ウ被告C及び被告Dの主張原告らの主張は争う。 エ被告豊後大野市の主張Eが熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したのは,剣道場において部活動をしていた最中である。その理由は,以下のとおりである。 ( 及び被告Dの主張原告らの主張は争う。 エ被告豊後大野市の主張Eが熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したのは,剣道場において部活動をしていた最中である。その理由は,以下のとおりである。 (ア) 救急車内で測定されたEの体温は,37.1℃であったと記録されているが,これは,被告CらがEの腋に保冷剤を置くなどした後に当該腋窩温が測定されたために,真実の腋窩温よりも低く測定された可能性が- 9 -高い。被告病院搬入時には,Eの腋窩温は39.3℃であったから,剣道場においても相当の高体温であったといえる。また,Eは,剣道場で部活動をしている際に,重篤な意識障害があった。そして,被告病院搬入時には,Eの発汗は停止していた。 したがって,Eは,被告病院搬入時に既に,熱射病の三徴候(高体温,意識障害,発汗停止)が認められた。 (イ) さらに,熱中症の新分類によっても,Eには,被告病院搬入時に脳機能障害があったと認められ,また,被告病院搬入直後の採血の検査の結果,AST,ALT,クレアチニンの上昇が見られ,肝・腎機能障害が進んでいたと認められる。 したがって,被告病院搬入時に既に,Ⅲ度熱中症に該当する状態にもあった。 (2) 争点(2)(被告Cの過失の有無)ア原告らの主張(ア) 被告Cは,剣道部の顧問という立場にあるから,部活動の実施によって部員の生命及び身体に危険が及ばないように配慮し,部員に何らかの異常を発見した場合には,その容態を確認し,応急処置を取り,必要に応じて医療機関に搬送すべき一般的な注意義務を負っている。 (イ)a 本件事故当時,既に,熱中症の予防策や発生時の対処方法は,文部科学省検定済みの教科書や公刊物である「熱中症予防ガイドブック」(甲7),被告C及び被告Dが出席した平成21年6月29日の竹田高校教 a 本件事故当時,既に,熱中症の予防策や発生時の対処方法は,文部科学省検定済みの教科書や公刊物である「熱中症予防ガイドブック」(甲7),被告C及び被告Dが出席した平成21年6月29日の竹田高校教職員朝礼において配付された資料(甲11)に記載されていた。 すなわち,上記配付資料(甲11)によれば,熱中症について気温(乾球温)28℃以上で警戒,31℃以上で厳重警戒とされており,熱中症対策として40分ごとの休憩時間の際の給水が指摘され,「もうろうとして吐き気がある」症状がみられた場合等には運動をすぐに中止- 10 -すること,足がもつれ,転倒する,意識が朦朧としているなどの場合には,熱射病を疑い,すぐに救急車の出動を要請し,同時に応急手当を行うことが指示されている。また,上記「熱中症予防ガイドブック」(甲7)によれば,気温及び湿度が高い場合,その程度に従って一層の注意が必要とされているから,安全のためには,運動練習中の温度チェックも欠かすことができないといえる。これらの記載内容に照らせば,熱中症の危険性とその予防対策の重要性,熱中症発症時の対処方法に関する知識は,体育教育関係者にとっては,当然身につけておくべき必須の知識であった。 加えて,剣道は,身体から発生する熱の放散を妨げる防具を着て運動する競技であり,熱中症が起こりやすい競技特性を有しているから,剣道の指導者は,熱中症につき,特に慎重な予防対策が求められる。 以上のように,被告Cとしては,公刊物や資料の記載及び剣道の上記競技特性を踏まえ,部員が熱中症を発症することを予防すべく,剣道場内の気温に留意し,その気温が高度な場合,あるいは湿度が高いような場合には,練習内容を比較的軽微なものにとどめ,練習中は適宜休憩を設けた上で,部員らに対して十分に水分及び塩分を補給することを指導 場内の気温に留意し,その気温が高度な場合,あるいは湿度が高いような場合には,練習内容を比較的軽微なものにとどめ,練習中は適宜休憩を設けた上で,部員らに対して十分に水分及び塩分を補給することを指導すべき注意義務を負っていた。 さらに,被告Cは,Eが本件事故の前年にも熱中症を発症していたことを知っていたのであるから,より一層,Eの動静に配慮すべきであった。 b 本件事故日は,剣道場内の気温及び湿度は高く,部員らが熱中症を発症する危険が高かったから,激しい運動や体温が上昇しやすい運度は避け,運動をする場合には積極的に休息を取り水分補給を行うべきであった。 c ところが,被告Cらは,練習中の室温チェックを怠っただけでなく,- 11 -本来なら40分に1回又は30分に1回の頻度で水分補給の休憩を取るべきであるにもかかわらず,Eに,約90分間にわたり,休憩及び水分補給を取らせることなく打ち込み稽古等の激しい運動を継続させた。 したがって,被告Cには注意義務違反が認められる。 (ウ)a また,「熱中症予防ガイドブック」(甲7)によれば,応答が鈍かったり言動がおかしかったりするなど,少しでも意識障害がある場合には,熱中症が重症であると考えて処置をすべきであるとされており(甲7〔24頁〕),熱中症のうち重症である熱射病は,死の危険が差し迫った緊急疾患であるとされている(甲7〔25頁〕)。 本件事故日は,遅くとも,Eが,打ち込み稽古の最中に,元立ちに竹刀を払われてこれを落としたのにこれに気付かず,竹刀を持っているかのような構えをし,他の部員が注意しても,竹刀を落としたままで竹刀を構える仕草を続けるという異常行動を取った時点で,Eには熱中症による意識障害が認められた。そのため,被告Cは,この時点で熱射病を疑い,直ちに練習を中止させて安静に しても,竹刀を落としたままで竹刀を構える仕草を続けるという異常行動を取った時点で,Eには熱中症による意識障害が認められた。そのため,被告Cは,この時点で熱射病を疑い,直ちに練習を中止させて安静にさせ,冷却措置を開始するとともに,救急車の出動を要請するなどして医療機関へ一刻も早く搬送すべき注意義務を負っていた。 b ところが,被告Cは,Eの意識障害を認識し得たにもかかわらず,直ちに打ち込み稽古を中止せず,上記のEの異常行動後も約15分間にわたり練習を続け,練習中止後約20分間救急車の出動を要請せず,上記のEの異常行動の後約35分間にわたり,医療機関へ搬送する措置を怠ったものである。 したがって,被告Cには注意義務違反が認められる。 c これに対し,被告C及び被告Dは,Eの異常を確認して以降,迅速に冷却措置を取るなどの応急措置を施したとして,過失はなかった旨- 12 -主張する。 しかし,ふらふらするなどの行動障害や意識障害等の熱射病が疑われる症状が認められた場合には,生命への重大な危険があるものとして直ちに救急車の出動を要請すべき義務があり,原告らは,被告C及び被告Dがそのような義務に違反した旨を主張しているものである。 甲11にも,熱射病が疑われた場合には,すぐに救急車の出動を要請し,同時に応急手当を行うものと明記されている。 イ被告大分県の主張原告らの主張は争う。 (ア) 被告C及び被告Dは,Eが壁に背中をもたれ掛けて長座姿勢で座った後,直ちには救急車の出動を要請してはいないが,気付けの意味でEの頬を叩いて声を掛け,Eの身体を冷やす処置を取っている。 この点について,原告らは,直ちに救急車の出動を要請するなどの措置を取るべきであったと主張するが,Eが竹刀を落としてから長座姿勢で座り込むまでの間隔は4分ないし5分 身体を冷やす処置を取っている。 この点について,原告らは,直ちに救急車の出動を要請するなどの措置を取るべきであったと主張するが,Eが竹刀を落としてから長座姿勢で座り込むまでの間隔は4分ないし5分程度であり,Eが長座姿勢で座り込んでからは,被告Cらにおいて意識の覚醒を図り,身体を冷やすなどの処置を取っているから,その処置に適切さを欠くところはなく,被告Cらに注意義務違反はない。 (イ) また,①本件事故日の剣道場内の気温は気象庁(竹田市)の測定結果と比較して大幅な相違があったとは考えられず,30℃程度にとどまっており,②剣道場内の窓は全て開放され,大型扇風機3台が稼働しており,③練習内容も通常の練習と比較して特に厳しいものではなく,本件事故日以前に実施された夏合宿における練習の方が厳しいものであり,④Eは,「もう無理です。」と発言した後に,被告Cから「お前の目標は何だ。」と問い掛けられ,「大分県制覇です。」としっかりした口調で受け答えをし,その後の打ち込みも強い打突であった。したがって,- 13 -Eが「もう無理です。」との趣旨の発言をした時点においては,Eが熱中症を発症することについて予見可能性はなく,被告Cらに何らかの注意義無違反があったとすることはできない。 ウ被告Cの主張原告らの主張は争う。 (ア) 被告Cは,平成21年4月に剣道部顧問となって以降,自費で大型扇風機1台を購入して剣道場内に設置したり,剣道場内の冷蔵庫に保冷剤やスポーツドリンクを必要量常備させたりして,練習環境を整備してきた。 また,被告Cは,常日頃から,剣道部部員に対し,休憩を十分に取り,水分及び塩分補給を十分行うよう指導しており,これを実践させていた。 (イ) 本件事故日の練習内容は,特段厳しいものではなく,十分な長さの休憩を取り,水分も ら,剣道部部員に対し,休憩を十分に取り,水分及び塩分補給を十分行うよう指導しており,これを実践させていた。 (イ) 本件事故日の練習内容は,特段厳しいものではなく,十分な長さの休憩を取り,水分も補給させていた。練習の合間に指導をするために練習を中断させるなどしており,部員はその間にも休むことが可能であった。 (ウ) Eは,「もう無理です。」と発言した後に,被告Cが「お前の目標は何だ。」と問い掛けたところ,「大分県制覇です。」としっかりした口調で受け答えをし,その後の打ち込みも強い打突であった。したがって,Eが「もう無理です。」との趣旨の発言をした時点においては,Eが熱中症を発症することについて予見可能性はなかった。 (エ) そして,被告Cは,Eに異常が認められた後は,Eに水分を補給させ,保冷剤や大型扇風機を用いて冷却措置を取り,救急車の出動を要請するなどしている。 (オ) 以上のような事情のもとでは,被告Cには,Eの熱中症の悪化及び熱射病の発症について過失はない。 (3) 争点(3)(被告Dの過失の有無)ア原告らの主張- 14 -(ア) 被告Dについて認められるべき注意義務は,被告Dが剣道部の副顧問という立場にあったことにも照らせば,部活動の実施により部員の生命及び身体に危険が及ばないように配慮すべきであることなど,基本的に被告Cのそれと同様である。 そして,被告Dは,遅くとも,Eが元立ちに竹刀を払われ,竹刀を落としたにもかかわらず,これに気が付かずに竹刀を構える仕草を続けたという異常行動が見られた時点において,被告Cが練習を継続しようとするのを制止し,あるいは被告Cに練習の中止を要請したり,また,被告CがEの上に馬乗りになって平手打ちの暴行を加えるのを制止しなければならなかったのに,そのような制止をしないばかり 習を継続しようとするのを制止し,あるいは被告Cに練習の中止を要請したり,また,被告CがEの上に馬乗りになって平手打ちの暴行を加えるのを制止しなければならなかったのに,そのような制止をしないばかりか,Eの体温,意識障害の有無等を確認してEに救護措置を取る必要があるかどうかを判断することを怠り,被告Cと同調してEを放置するなどしたのであるから,注意義務に違反する過失があった。 なお,被告Dは,部員の言動についても注意すべきであるところ,Eが被告Cに対し「もう無理です。」と発言したのを聞き逃すなどしている。 (イ) 被告Dは,被告Cが年上であり,経験及び剣道の段位が自分よりも上であることなどから,被告Cに進言することができなかった旨主張する。 しかし,被告Dは,部員の生命及び身体の安全を守るべき義務があるから,生徒の異常行動を目前にした場合には,体を張ってでも事態を止めるべきであって,被告Dの弁解は到底認められない。 イ被告大分県の主張原告らの主張は争う。 被告Cの過失が認められないのと同様に,被告Dの過失も認められない。 ウ被告Dの主張原告らの主張は争う。 - 15 -(ア) 被告Dが認識していた具体的事実のもとでは,少なくともEが倒れる以前の時点では,被告Dにおいて,Eが熱中症や熱射病を発症することを予見することは困難であった。 (イ) 本件では,剣道部における被告Dの権限や関与の状況に照らして,被告D独自の注意義務違反の存否を判断すべきである。 そして,監督等の指導責任者の指揮下でその指導を補助するのみである場合には,指導責任者の指揮下で指導を補助する限りにおいて,原則として独自の注意義務違反を認めることはできない。 (ウ) 被告Cの剣道の実績は,被告Dのそれに比してはるかに上であり,剣道部の練習に関して, ,指導責任者の指揮下で指導を補助する限りにおいて,原則として独自の注意義務違反を認めることはできない。 (ウ) 被告Cの剣道の実績は,被告Dのそれに比してはるかに上であり,剣道部の練習に関して,顧問である被告Cの権限は絶対的であって,被告Dは,練習内容や練習計画の作成についても意見を述べることはできなかった。被告Dは,本件事故日まで,練習に参加すること自体が多くなく,Eの日頃の練習状況も十分に把握できていなかった。本件事故日の練習は,被告Cが指示をしており,被告Dは途中から練習に参加した。 (エ) 以上のような事情のもとでは,被告Dについて,被告Cの指揮や指示に反して積極的に練習を止めるなどの独自の注意義務があったとすることはできない。 (4) 争点(4)(F医師の過失の有無)ア原告らの主張(ア) F医師は,Eが被告病院に搬入された時点において,Eの病状,検査所見等から,熱射病を発症している可能性を認識し,それを前提として,直ちに四点冷却や全身冷却等の冷却措置を取るべき義務があったにもかかわらず,Eが被告病院に搬入された時から約2時間経過した午後3時頃まで,このような冷却措置を実施しなかったという過失がある。 (イ)a ①Eが被告病院に搬入された時点において,Eの腋窩温は39. 3℃に達していたこと,②Eには意識障害及び行動異常があったこと,- 16 -③真夏の剣道練習中の事故であることはF医師に伝えられていたこと,④救急隊員らは熱中症であると判断しており,それはF医師にも伝えられていたことなどからすれば,F医師は,Eが熱射病を発症している可能性を認識し得たはずである。F医師も,振り返ってみればEはⅢ度熱中症であったと認めている。 b この点について,被告豊後大野市は,F医師は,Eの症状が,頭部外傷を原因とする意識 を発症している可能性を認識し得たはずである。F医師も,振り返ってみればEはⅢ度熱中症であったと認めている。 b この点について,被告豊後大野市は,F医師は,Eの症状が,頭部外傷を原因とする意識障害である可能性があり,その可能性を排除し得なかったために冷却措置を実施し得なかったと主張する。そして,F医師は,頭部外傷等による可能性を疑ったとか,ショック状態の改善に忙殺されたなどの弁明を行っている。 しかし,F医師は,脳外科への転院を求め,あるいは診断の手掛かりとなる頭部X線撮影を早期に実施するなどしておらず,また,F医師が指摘する事情は,いずれも積極的に頭部外傷による意識障害を疑うべき所見ではない。そして,体温を下げることは,病態の改善に何ら悪影響を与えるものではなく,ショック状態の改善についても,そのために体温の経時的測定や冷却措置等の治療を行う余裕がなかったという経過をたどっていない。F医師の見解は,医学的知見に照らしても誤りがあり,自己のカルテの記載(乙DA1〔5頁〕)とも矛盾するものであるから,Eの病状の原因を熱射病と疑うことができなかった旨のF医師の弁明は,信用することができない。F医師は,熱射病(ないしⅢ度熱中症)が単なる脱水症状ではなく,体温調節機能の破綻による多臓器不全であり,迅速に対応しなければ致死的となる重篤な状態であるという基本的知識を欠いており,そのため,Eの病態の推移が熱射病による死亡の典型的な経過をたどっていることを認識していなかった。 (ウ) F医師は,本件事故日の午後3時以降に冷却措置を実施しているが,- 17 -この時点でEは,約2時間もの放置により,腋窩温が42℃(深部温は43℃超)に達していたのであるから,もはや回復不可能な状態に陥っていた。したがって,F医師には,約2時間にも及びEに - 17 -この時点でEは,約2時間もの放置により,腋窩温が42℃(深部温は43℃超)に達していたのであるから,もはや回復不可能な状態に陥っていた。したがって,F医師には,約2時間にも及びEに冷却措置を実施しなかったという過失がある。 イ被告大分県の主張(ア) F医師は,事後的にみれば,Eは,被告病院に搬入された時点で既にⅢ度熱中症を発症していたと述べており,実際には熱射病ないしⅢ度熱中症に対する適切な治療行為を行わなかったのであるから,F医師に重過失があったことは明らかである。 (イ) 具体的にいえば,F医師には,①体温管理及び冷却措置を実施していないこと,②禁忌であるソリタ-T3を投与していること,③循環管理を怠っていること,④呼吸管理を怠っていること,⑤他の病院への転送を怠っていることなどの重過失がある。 ウ被告Cの主張前記イのとおりに,F医師には重過失があった。 エ被告豊後大野市の主張原告らの主張は争う。 (ア) F医師は,熱射病も念頭に置いて診療に当たっていた。 もっとも,Eの頭部には,必ずしも軽症とはいい難い明らかな外傷があり,意識レベルの低下の原因となっていることも十分に考えられたが,被告病院ではCTが点検中のために頭部CTを実施することができず,頭部外傷による意識レベルの低下の可能性を排除することができなかった。 また,F医師は,被告Cから,竹田高校において新型インフルエンザ患者が出ていると聞いており,Eの体温が高いことについて,新型インフルエンザの可能性も否定し得なかった。 - 18 -F医師は,このような状況下において,全身状態が不良であったEに対し,十分な輸液,酸素投与を行い,これにより,Eの血圧,呼吸状態は改善し,発汗も確認された(なお,F医師がソリタ-T3を投与したことに 医師は,このような状況下において,全身状態が不良であったEに対し,十分な輸液,酸素投与を行い,これにより,Eの血圧,呼吸状態は改善し,発汗も確認された(なお,F医師がソリタ-T3を投与したことについて,過失はなかった。)。 したがって,Eの搬入後直ちに冷却措置を開始しなかったことをもって,医療水準を下回る処置であったとはいえない。 (イ) そして,その後,Eに瞳孔不同はなく,対光反射もあり,頭部X線でも頭蓋骨骨折は確認されなかったことから,F医師は,頭部外傷による頭蓋内出血の可能性を否定的に考え,熱中症を主として念頭に置き,午後3時頃に入院措置を取ることにした。その後,Eに対し,三点冷却及び四点冷却を行った。 本件事故日の午後4時10分に瞳孔散大,眼球上転,対光反射が非常に遅くなるなどの状態が確認されたので,F医師は,直ちに高次医療機関に転送の手配を行った。 したがって,F医師に過失はない。 (5) 争点(5)(被告C及び被告Dの各過失と結果との間の因果関係の有無)ア原告らの主張剣道場において,死亡の危険がある熱射病を発症したEに対し,迅速に救急車の出動を要請するなどの措置が取られなかったために,結果としてEが熱射病によって死亡したのであるから,被告C及び被告Dの各過失と結果(Eの死亡)との間には因果関係がある。 イ被告大分県の主張原告らの主張は争う。 (ア) 被告C及び被告Dのいずれにも過失がなく,因果関係を論ずる前提を欠く。 (イ) また,剣道場におけるEの容態は,放置すれば死亡に至るような傷害- 19 -を負っていたとは認められないものであった。 (ウ) さらに,F医師には,Eに対して直ちに冷却措置を実施しなかった点や禁忌のソリタ-T3を投与した点等において重過失があった(前記⑷イ)。 (エ) を負っていたとは認められないものであった。 (ウ) さらに,F医師には,Eに対して直ちに冷却措置を実施しなかった点や禁忌のソリタ-T3を投与した点等において重過失があった(前記⑷イ)。 (エ) 以上より,被告C及び被告Dの行為とEの死亡との間に相当因果関係はない。 ウ被告Cの主張被告Cの過失と結果との間に因果関係があるとする原告らの主張は争う。 (ア) 被告Cには過失がない。 (イ) また,F医師に重過失があることは明白なのであって,F医師の重過失によってEの体温は上昇し,死亡するに至ったといえるのであるから,死亡の結果を被告Cに帰責することはできない。 エ被告Dの主張被告Dの過失と結果との間に因果関係があるとする原告らの主張は争う。 被告Dには過失がない。 (6) 争点(6)(F医師の過失と結果との間の因果関係の有無)ア原告らの主張(ア) F医師について,前記⑷アのとおりに過失が認められるところ,その結果としてEは,熱射病により腋窩温42℃(深部温43℃超)という過高温に達し,回復不可能な状態に陥って死亡するに至ったものである。 したがって,F医師の過失と結果との間には因果関係がある。 (イ) 被告豊後大野市は,Eが被告病院に搬入された時点において,既に回復不可能な状態にあったとして,救命可能性がなかったと主張し,その根拠として,医学文献である乙DB6を挙げる。 しかし,本件においては,被告病院搬入時のEは,自発呼吸をし,S- 20 -pO2が97%に保たれていたから,Eが人工呼吸を要する状態にはなく,また,血液検査の結果,各数値の上昇も軽度にとどまっていたから,Eが回復不可能な状態にあったとみることもできない。 したがって,被告豊後大野市の主張は,失当である。 イ被告大分県の主張被告豊 また,血液検査の結果,各数値の上昇も軽度にとどまっていたから,Eが回復不可能な状態にあったとみることもできない。 したがって,被告豊後大野市の主張は,失当である。 イ被告大分県の主張被告豊後大野市は,乙DB6を根拠として因果関係を否定するが,本件は乙DB6記載の症例とは前提を異にしており,被告豊後大野市の主張は失当である。 F医師が適切な医療行為を行っていれば,Eはほぼ確実に救命できたものであり,F医師の過失と結果との間の因果関係は認められる。 ウ被告豊後大野市の主張(ア) Eは,被告病院に搬入された時点で,既に回復不可能な状態に陥っており,原告らが主張する処置を実施していたとしても,Eの死亡という結果を回避し得た高度の蓋然性は到底認められず,F医師の行為と結果との間に因果関係はない。 すなわち,Eは遅くとも本件事故日の午前11時55分頃に熱射病による意識障害を発現しており,被告病院に午後0時54分に搬入されるまでに少なくとも1時間以上が経過していた。また,Eは,被告病院搬入時に,既に,熱射病の三徴候が認められ,また,新分類における最重症のⅢ度熱中症に該当する状態にあった(前記⑴エ)。そして,Eが被告病院に搬入された時点において,血圧が低下し,脈も弱かったこと,大量輸液を行ったにもかかわらず全く排尿がなかったこと,搬入後わずか約4時間後に心肺停止状態に至る程度に症状の進行が急激であったことなどの事情に照らせば,被告病院搬入時に既に心機能や腎機能に重大な障害を来していたものであり,血液検査の結果上も既に肝・腎機能に障害が現れていたことが示されていた。加えて,被告病院におけるEの- 21 -検査結果は,ほとんどが予後不良群の範囲に属するものであった(乙DB6参照)。 したがって,Eは,被告病院に搬入された時点で, ていたことが示されていた。加えて,被告病院におけるEの- 21 -検査結果は,ほとんどが予後不良群の範囲に属するものであった(乙DB6参照)。 したがって,Eは,被告病院に搬入された時点で,既に回復不可能な状態に陥っていた。 (イ) なお,被告大分県及び被告Cは,F医師のソリタ-T3の投与が過失であると主張しているが,Eには死因となるような高カリウム血症は認められておらず,Eに認められた無尿は熱射病の典型的な症状であって,高カリウム血症によるものではないから,ソリタ-T3の投与に過失はなく,ソリタ-T3の投与とEの死亡との間には,因果関係が認められない。 (7) 争点(7)(被告大分県に対する損害賠償請求権の成否)ア原告らの主張原告らは,被告大分県に対し,民法715条1項本文又は国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権を有する。 イ被告大分県の主張原告らの主張は争う。 (8) 争点(8)(被告豊後大野市に対する損害賠償請求権の成否)ア原告らの主張原告らは,被告豊後大野市に対し,民法715条1項本文に基づく損害賠償請求権を有する。 イ被告豊後大野市の主張原告らの主張は争う。 (9) 争点(9)(被告C及び被告Dに対する損害賠償請求権の成否)ア原告らの主張(ア) 公立学校での部活動における教員の不法行為に基づく事故については,国公立病院における医療事故と同じく,民法709条,同法715- 22 -条1項本文による請求は許容される。 (イ) 被告C及び被告Dは,Eの死亡という結果を生じさせたことにつき,故意にも比すべき重大な過失があるから,このような重過失が認められる事案では,民法715条1項本文又は国賠法1条1項に基づいて地方公共団体が損害賠償責任を負うのと併せて,公務員個人も民法709 き,故意にも比すべき重大な過失があるから,このような重過失が認められる事案では,民法715条1項本文又は国賠法1条1項に基づいて地方公共団体が損害賠償責任を負うのと併せて,公務員個人も民法709条に基づく不法行為責任を負う。 イ被告C及び被告Dの主張原告らの主張は争う。 仮に,被告C及び被告Dについて過失が認められるとしても,公立学校の部活動における教員の教育活動には国賠法1条1項の適用があり,原告らは,竹田高校を設置する被告大分県に対してのみ,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求を行い得るにとどまり,公務員個人である被告C及び被告Dが不法行為責任を負うことはない。これは,最高裁昭和28年(オ)第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁(以下「最高裁昭和30年判決」という。)のとおりである。 (10) 争点(10)(共同不法行為の成否)ア原告らの主張被告らは,原告らに対し,民法715条1項本文,同法709条又は国賠法1条1項に基づく損害賠償債務を負っており,民法719条1項の共同不法行為が成立するから,原告らに対し,連帯して損害の全額について損害賠償義務を負う。 イ被告大分県の主張原告らの主張は争う。 仮に,被告C及び被告Dについて過失があったと認められるとしても,被告Cらの行為とF医師の過失行為との間には,主観的関連共同性も客観的関連共同性もないのであるから,被告大分県と被告豊後大野市との間で- 23 -共同不法行為が成立することはない。 また,本件は独立した複数の行為が順次競合する場合であって,最高裁平成10年(受)第168号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号328頁の判示するところは,当てはまらない。 ウ被告C,被告D及び被告豊後大野市の主張原告らの主張 であって,最高裁平成10年(受)第168号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号328頁の判示するところは,当てはまらない。 ウ被告C,被告D及び被告豊後大野市の主張原告らの主張は争う。 (11) 争点(11)(損害の額)ア原告らの主張(ア) Eの損害a 葬儀関係費用 150万円葬儀関係費用は150万円である。 b 逸失利益 4778万4996円(a) 基礎収入基礎収入は,学歴計男子労働者平均賃金であり,552万3000円である。 (b) 生活費控除率生活費控除率は50%である。 (c) 中間利息控除Eは死亡時17歳であり,67歳までの50年に対応するライプニッツ係数は18.256,18歳までの1年に対応するライプニッツ係数は0.952であり,それらの差は17.304である。 (d) 逸失利益逸失利益は,4778万4996円(552万3000円×(1-0.5)×17.304=4778万4996円)である。 c 死亡慰謝料責任感の強かったEは,将来,人の命を大切にする救急救命士に- 24 -なりたいと思い,そのために勉強にも励んでいた。その志半ばにして,命を大切にしたとは到底思えない措置により無念の死を迎えなければならなかった心中は察するに余りある。Eの死亡慰謝料は2500万円である。 d 合計Eの損害の合計は,7428万4996円(150万円+4778万4996円+2500万円=7428万4996円)である。 (イ) 相続原告A及び原告Bは,Eの損害賠償請求権を,それぞれ相続分2分の1により相続したから,原告A及び原告Bが相続した損害賠償請求権の金額は,それぞれ3714万2498円(7428万4996円×1/2=3714万2498円)である。 (ウ) 原 れぞれ相続分2分の1により相続したから,原告A及び原告Bが相続した損害賠償請求権の金額は,それぞれ3714万2498円(7428万4996円×1/2=3714万2498円)である。 (ウ) 原告ら固有の慰謝料長男を突然失った原告らの怒りと憤りはいかなる慰めも通用しないほどであり,精神的苦痛は山より高く,海より深い。原告ら固有の慰謝料はそれぞれ250万円である。 なお,被告Cは,本人尋問を受ける段階にあっても,事故報告書(甲4)も部員らの供述の記載も十分に見ることはなく,自らが反省すべき点は思いつかないと述べ,開き直る態度を示しており,これらは不法行為後の事情ではあるが,慰謝料を増額すべき事情となる。 (エ) 弁護士費用原告A及び原告BがそれぞれEから相続した損害賠償請求権の金額とそれぞれの固有の慰謝料の合計は,3964万2498円(3714万2498円+250万円=3964万2498円)である。 本件事案の性質等に鑑みると,本件における不法行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は,原告A及び原告Bにつき,それぞれ- 25 -350万円と認めるのが相当である。 (オ) 損害の合計損害の合計は,原告A及び原告Bそれぞれにつき,4314万2498円(3964万2498円+350万円=4314万2498円)である。 (カ) 過失相殺の主張に対し本件事故日,Eが「もう無理です。」と訴えたこと,顧問である被告Cがこれを無視して練習を継続させたことは明らかであり,本件における事実経過に鑑みれば,Eに過失相殺すべき過失がないことは明らかである。 イ被告大分県の主張原告らの主張は争う。 (ア) 逸失利益について基礎収入は,本件口頭弁論終結時である平成24年の学歴計男子労働者平均賃金によるべきである。 ( ことは明らかである。 イ被告大分県の主張原告らの主張は争う。 (ア) 逸失利益について基礎収入は,本件口頭弁論終結時である平成24年の学歴計男子労働者平均賃金によるべきである。 (イ) 死亡慰謝料についてEの死亡慰謝料は2000万円ないし2200万円が妥当である。 (ウ) 過失相殺の主張仮に,被告C及び被告Dに何らかの過失が認められるとしても,Eは,当時17歳の高校2年生であり,通常その心身の発達程度は成人に近く,体調が悪いなどの事情があれば自ら申し出て,休憩を取ったり,練習を中止するなどの判断能力が十分に備わっていたと考えられるところ,そのような行動を取らなかったEには過失があり,過失相殺がされるべきである。 (エ) 損益相殺の主張仮に,原告らが主張する損害が認められたとしても,本件事故によって,独立行政法人日本スポーツ振興センターから,原告らに対して,2- 26 -800万円の死亡見舞金が支給されており,上記死亡見舞金は,原告ら主張の損害から控除されるべきである。 ウ被告C及び被告Dの主張原告らの主張は争う。 エ被告豊後大野市の主張原告らの主張は争う。 葬儀費用は具体的に証明されていない。 死亡慰謝料は2000万円が上限である。 第3 当裁判所の判断 1 事実認定前提となる事実(前記第2,2),後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(以下,()内等に証拠として人証を掲記する場合があるが,被告Cの本人尋問については,第13回口頭弁論(平成24年6月14日)に実施したものを「被告C①」とし,第14回口頭弁論(平成24年7月5日)に実施したものを「被告C②」とし,F医師の証人尋問については,「証人F」とし,Gの証人尋問については,「証人G」とする。)。 (1) 剣 を「被告C①」とし,第14回口頭弁論(平成24年7月5日)に実施したものを「被告C②」とし,F医師の証人尋問については,「証人F」とし,Gの証人尋問については,「証人G」とする。)。 (1) 剣道場の状況剣道場は,広さが約306平方メートル(約12メートル×約25.5メートル)である(乙B1の6)。 剣道場は,東側が崖の法面に面しており,北,西,南側は周りに樹木が植栽されていた(甲22)。北側に玄関と男子部室,女子部室があり,西側に窓(開閉できる窓6組が上下二段)と出入口があり,東側にも窓(同じく開閉できる窓8組が上下二段)があったが,夏は,剣道場内に胴衣等を干しても乾かない程度に湿度が高いこともあった(証人G〔5頁〕,原告A〔13頁〕)。 (2) 剣道部における被告C及び被告Dの役割- 27 -ア被告Cの役割被告Cは,剣道部の顧問として,1日の練習(稽古)の内容や長期的な練習計画を決定し,剣道場での練習や合宿等に立ち会うなどの中で,部員に対する指導をしていた。練習中の休憩や練習を終了する時間についても,指示をしていた。練習後には,部員らに「練習日誌」等(乙C1ないし乙C3)に練習内容や感想等を記載させ,その記載内容を確認した上で,コメントを付して返却していた。 イ被告Dの役割被告Dは,剣道部の副顧問として,顧問の補佐をしていた。練習(稽古)の内容や練習計画を決めるに当たって,被告Cと相談したり,被告Cから意見を求められるなどしたことはない(被告C②〔26,35頁〕,被告D〔2頁〕)。剣道場での練習には,週に2,3回,あるいは月に数回程度の頻度で立ち会い,また,練習の途中から立ち会うことが多かった(被告C②〔27,34頁〕,被告D〔3頁〕)が,練習に立ち会った場合には,部員に対する指導をしていた。 ウ 回,あるいは月に数回程度の頻度で立ち会い,また,練習の途中から立ち会うことが多かった(被告C②〔27,34頁〕,被告D〔3頁〕)が,練習に立ち会った場合には,部員に対する指導をしていた。 ウなお,原告らは,被告C及び被告Dは,Eが平成20年の夏合宿で熱中症を発症したという事実(前記第2,2⑶イ)について,本件事故日以前に既に知っていたと主張する。 しかしながら,被告C及び被告Dが本件事故日以前に上記事実を知っていたことを認めるに足りる証拠はない。 (3) 本件事故日の気温本件事故日の大分地方気象台管理の竹田観測所における気温は,以下のとおりであった(甲25)。 午前9時 28.5℃午前9時30分 28.8℃午前10時 29.9℃- 28 -午前10時10分 30.0℃午前10時20分 30.0℃午前10時30分 30.6℃午前10時40分 30.7℃(当日の最高気温)午前10時50分 30.5℃午前11時 30.6℃午前11時10分 30.4℃午前11時20分 29.8℃午前11時30分 30.3℃午前11時40分 30.5℃午前11時50分 30.4℃午後0時 30.2℃午後0時10分 29.6℃午後0時20分 29.8℃午後0時30分 30.1℃午後0時40分 30.1℃午後0時50分 30.0℃午後1時 30.0℃(4) 本件事故日の練習の状況等本件事故日の練習の状況は,当事者間に争いがない事実,前提となる事実(第2,2⑶),後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下のとおり認められる。 ア本件事故日は,出入口の戸及び全ての窓を全開にした上で,剣道場の 況は,当事者間に争いがない事実,前提となる事実(第2,2⑶),後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下のとおり認められる。 ア本件事故日は,出入口の戸及び全ての窓を全開にした上で,剣道場の壁際に設置した大型扇風機3台を最大風力,首振りで稼動させていた。当日の練習参加者は,顧問である被告C及び副顧問である被告D(以下,併せて「被告Cら」という。)と,Eを含む同部の部員ら8名(うち女子2名)- 29 -の合計10名であった。被告Dは,練習開始より遅れて参加した。 (当事者間に争いがない)イ練習前半から休憩まで午前9時,被告Cは,剣道場において,剣道部の練習を開始させ,部員らは,胴と垂れを着け,体操,素振り及び足さばきを行い,午前9時30分頃からは,前進,後退等の足運びの練習を行った(当事者間に争いがない)。 その後,被告Cらは,部員らに,午前9時55分頃から午前10時25分頃までの間,休憩を取らせた(甲4〔6頁〕)。 休憩時間中には,各部員がコップ2,3杯のスポーツドリンクを飲み,Eもスポーツドリンクを飲んだ(甲20〔3頁〕)。 また,保冷剤(乙A11参照)を当てて体を冷やす部員もいた(被告C①〔169項〕)。 ウ休憩後の練習後半午前10時25分頃から午前11時過ぎ頃まで,被告Cらは,部員らに防具を着けさせ,大きく行う面打ち,大きくゆっくり行う切り返し,大きく速く行う切り返し,一息の切り返し(息継ぎをせずに行う切り返し)を行わせた(甲4〔6頁〕,被告D〔12頁〕)。 これらの練習を行う中で,被告Cらは,適宜に部員の練習を中断し,指導を行うことがあった(乙B4〔20頁〕,被告C①〔188項〕,被告D〔38,39頁〕)。 一息の切り返しの練習中,被告Cが,部員らを集め,Eが一息の切り返しができているか確認 の練習を中断し,指導を行うことがあった(乙B4〔20頁〕,被告C①〔188項〕,被告D〔38,39頁〕)。 一息の切り返しの練習中,被告Cが,部員らを集め,Eが一息の切り返しができているか確認させたため,Eは,他の部員らよりも数回多く切り返しの練習をした。被告Cが,Eを「合格」と判定してよいかどうかを他の部員らに尋ねたところ,2年生の男子部員1名がEを合格と判定したが,被告Cは,その判定を撤回させた(甲42,証人G〔9,10頁〕)。な- 30 -お,時期は判然としないが,この前後に,被告Cは,剣道場にあった椅子を床に向かって投げた(甲14〔4頁〕,甲42)。さらに,被告Cは,Eの面の突き垂を上げ,Eの首付近を叩き(証人G〔11頁〕,被告C①〔229項〕,被告D〔17頁〕),Eが,外れた面を着け直そうとして座ると,Eを押すなどした(証人G〔12頁〕)。 午前11過ぎ頃から打ち込み稽古が開始された(被告D〔12頁〕)。 打ち込み稽古は,当初4人元立ちで行われたが,途中で,3人元立ちとなり,その後,2人元立ち(元立ちを女子部員2名として,2対6で行う。)になった(証人G〔13頁〕,被告D〔20頁〕)。この間,部員らの中には,トイレに行って嘔吐するなどした者がいた(甲4〔7頁〕,証人G〔13頁〕)。 E以外の部員が有効打を取って合格し,打ち込み稽古を終えていく中で,被告Cは,E1人に繰り返し打ち込み稽古をさせた(証人G〔16頁〕,被告D〔22頁〕)。被告Cは,再び,他の部員らにEの合否を判定させたが,他の部員らはEが合格であるとは判定しなかった(当事者間に争いがない)。このため,Eは,他の部員よりも数回多く打ち込み稽古をした(甲4〔7頁〕)。 この打ち込み稽古の最中,Eが,「もう無理です。」などと述べたのに対し,被告Cが「お なかった(当事者間に争いがない)。このため,Eは,他の部員よりも数回多く打ち込み稽古をした(甲4〔7頁〕)。 この打ち込み稽古の最中,Eが,「もう無理です。」などと述べたのに対し,被告Cが「お前の目標は何だ。」などと問い掛けたところ,Eは,「大分県制覇です。」,「俺ならできる。」と述べ,練習を継続した(甲4〔7,10頁〕,被告C①〔266,269項〕,被告C②〔16頁〕)。 なお,これまでの部活動において,Eが,自ら「もう無理です。」などと発言することは稀であった(被告C②〔15頁〕,甲14〔12頁〕,証人G〔17,18頁〕)。 Eは,打ち込みの最後の面打ちについて,小技でしなければならないところを大技で,かつ元立ちの女子部員が頭を押さえるぐらいに強い力で打- 31 -ち込んだ(証人G〔16,47頁〕,被告C①〔274項〕)。 元立ちが女子部員から男子部員に交代した後,元立ちが先に発声したのに対し,Eが発声を返さなかったため,元立ちが発声するように促し,Eの竹刀を払ったところ,Eは竹刀を落とした。しかし,Eはそのことに気が付かないまま,竹刀を構える仕草を続ける行動をした。他の部員らが注意してもEはこれに気が付かなかった。 (甲4〔8,10頁〕,甲14〔16頁〕,甲15〔10頁〕,甲17〔12頁〕,甲20〔18頁〕,証人G〔18,19頁〕,被告C①〔276,277,280項〕,被告C②〔17頁〕)被告Cが,「演技するな。」などと言いながら,Eの右横腹部分を前蹴りした(証人G〔21頁〕,被告C①〔278,279項〕,被告C②〔17,19頁〕)。Eは,一旦は踏みとどまったものの,ふらついて倒れた(甲4〔8,10頁〕,甲15〔11頁〕,甲20〔19頁〕,証人G〔21,22頁〕,被告C①〔283項〕。なお,被告Cは,Eが倒れるこ ,19頁〕)。Eは,一旦は踏みとどまったものの,ふらついて倒れた(甲4〔8,10頁〕,甲15〔11頁〕,甲20〔19頁〕,証人G〔21,22頁〕,被告C①〔283項〕。なお,被告Cは,Eが倒れることはなかったと主張するが,証拠に照らし,採用できない。)。 他の部員が,Eに対してコップで水を掛けると,Eは,倒れたまま,自らの太腿付近を叩いたりする動作をした。また,この間に,Eは,自らの面をはぎ取るなどの動作もした。 (甲4〔8頁〕,甲44,甲45〔3枚目〕,被告D〔26,47,48頁〕)被告Cが,Eの頬を叩き,Eは再び立ち上がったが,道場内の女子部室の方へふらふらと歩いて行き,壁に額を打ち付けて倒れた(甲4〔9,10頁〕,甲14〔18頁〕,甲15〔13頁〕,甲16〔10頁〕,甲17〔13頁〕,証人G〔24頁〕。なお,被告大分県及び被告Cは,壁に額を打ち付けた後,Eは壁に背中をもたれ掛けて長座姿勢で座り込んだと主張するが,これらの証拠に照らして採用できない。)。このとき,Eは,- 32 -頭部から出血する傷を負った(当事者間に争いがない)。 被告Cは,倒れたEの上にまたがり,「D先生,これは演技じゃけん,心配せんでいい」旨,「俺は何人も熱中症の生徒を見てきている」旨述べ,また,「演技をするな。」,「目を開けんか。」などと言いながら,10回程度,Eの頬に平手打ちをした(甲4〔10,11頁〕,甲14〔19,20頁〕,甲15〔13頁〕,甲16〔10頁〕,甲17〔15頁〕,甲20〔24,25頁〕,乙C4〔15頁〕,証人G〔24,25頁〕,被告D〔27,65頁〕)。 その後,被告Cは,他の部員らを集め,面打ちの練習を1回させ,練習を終了した(証人G〔25頁〕)。 他の部員らや被告Dは,Eに水を飲ませるなどした(証人G〔26,70頁 告D〔27,65頁〕)。 その後,被告Cは,他の部員らを集め,面打ちの練習を1回させ,練習を終了した(証人G〔25頁〕)。 他の部員らや被告Dは,Eに水を飲ませるなどした(証人G〔26,70頁〕)。 午前11時55分頃,被告Cら及び他の部員らは,Eに水分を摂らせ,頭部の傷を拭き,応急措置として,部員らが冷却のために利用していた保冷剤でEの額,頚部,脇の下,腿の付け根を冷やすとともに,大型扇風機をEに近付けて,風を当てた(証人G〔70,77頁〕,被告C①〔291,292項〕,被告D〔27,49頁〕)。 その後,Eが,突然嘔吐した(証人G〔26頁〕,被告D〔28頁〕)。 被告Cは,Eに対して「おまえもう無理なんか。」「救急車呼ぶんか。」などと声を掛けたが,Eはその声掛けに応じなかった(証人G〔26頁〕)。 その様子を見て,被告Cは,午後0時19分,救急車の出動を要請し,午後0時24分頃,救急車が竹田高校に到着した(甲12の1)。Eは救急車に乗せられ,被告Cも救急車に同乗した(当事者間に争いがない)。 エ救急車による搬送救急隊員により計測されたEの体温は,「37.1」℃と記録された(甲12の1,乙DA1〔4頁〕。ただし,腋窩温か深部温かの記載はない。)。 - 33 -意識レベルがJCSで200,血圧が80/53,酸素供給下でのSpO2が97%,脈拍が毎分183回であった(甲12の1。なお,これに反する乙DA1〔11頁〕の記載は,聞き取りによるものとも考えられ,正確性に疑いの余地がある。)。また,救急隊は,Eの傷病名及びその程度を,熱中症・重度と判断した(甲12の1)。 被告病院は,午後0時35分頃,救急隊からの「熱中症及び頭部打撲の患者さんの受け入れをお願いしたい。」との第一報に対して,当直看護師が「頭部打撲については,CT 症・重度と判断した(甲12の1)。 被告病院は,午後0時35分頃,救急隊からの「熱中症及び頭部打撲の患者さんの受け入れをお願いしたい。」との第一報に対して,当直看護師が「頭部打撲については,CT点検中につき対応ができません。」旨応答したところ,救急隊員が「頭部打撲については,軽傷である。熱中症の方がひどい。熱中症の対応で受け入れをお願いしたい。」旨説明したため,F医師が,被告病院において受け入れることを決めた(乙DA1〔5,7頁〕)。 (5) 被告病院に搬入された後の状況ア被告病院に搬入された時点のEの状態Eは,午後0時54分頃,被告病院に搬入された(甲12の1)。被告病院に搬入された当時のEの診療所見は,体温(腋窩温)が39.3℃であり(乙DA1〔11頁〕,乙DA2〔9頁〕,証人F〔反訳書7頁〕),血圧が106/34,脈拍が毎分170回,意識レベルがⅢ,JCSで200,酸素供給下(10リットル)でのSpO2が97%,全身状態不良,意識状態が半昏睡ないし昏迷,不穏,瞳孔散大,顔面蒼白,口唇は非常に乾燥し,チアノーゼあり,対光反射あり(+),左前額部の打撲あり(+),外傷あり(+)などであった(乙DA1〔4,5,11頁〕)。血圧は低下しており,脈も弱かった(血液ガスチェックを,時期を変えて3回試みたが,大腿動脈微弱で採取不能であった。乙DA1〔4頁〕)。また,自発呼吸あり(+),失禁あり(+)であった(乙DA1〔11頁〕)。発汗は停止した状態であった(乙DA6〔5,19頁〕)。 - 34 -F医師は,午後1時5分頃から午後1時20分頃までの間にEの採血をした(乙DA6〔4頁〕,乙DA5)。採血された血液の検査結果によって,基準値を超える数値が示された検査項目は,以下のとおりである(乙DA1〔17頁〕,乙DA3)。 20分頃までの間にEの採血をした(乙DA6〔4頁〕,乙DA5)。採血された血液の検査結果によって,基準値を超える数値が示された検査項目は,以下のとおりである(乙DA1〔17頁〕,乙DA3)。 総蛋白 9.8アルブミン(B) 5.8AST 73ALT 90LDH 543γ-GTP 53CPK 467クレアチニン 2.720尿酸 18.5血清K 5.63血清Ca 10.50CRP(定量) 0.35空腹時血糖 131イ(ア) F医師は,Eに対し,酸素投与及び輸液を行った。輸液は,当初は,ラクテックGを500ml投与し,午後1時25分頃にソリタ-T3を500ml,午後2時35分頃にラクテック注を500ml投与した(乙DA1〔5頁〕,乙DA2〔6,14頁〕,乙DA6〔4頁〕)。なお,これらの輸液は,25℃程度まで冷却されたものではなかった(証人F〔反訳書10頁〕)。 この酸素投与及び輸液の後,当初確認されなかった発汗が確認されるようになった(乙DA1〔5頁〕)。また,血圧に改善の傾向がみられ,呼吸状態に安定の傾向がみられたが,他方,意識状態は改善しなかった- 35 -(乙DA1〔5頁〕,乙DA6〔12頁〕)。なお,午後2時35分には,頭部X線検査が実施されたが,異常は認められなかった(乙DA1〔5頁〕,証人F〔反訳書6頁〕)。 F医師は,救急外来として経過観察することとし,午後3時頃に入院措置を取るまで,体温測定や冷却措置(輸液の実施を除く。)を実施することはなかった(当事者間に争いがない)。 この間に,Eには,午後1時25分頃にケイレン様振戦,午後1時40分頃にベッド上で暴れ,その後も時折暴れるなどの行動が認められ(乙DA1〔12頁〕 施することはなかった(当事者間に争いがない)。 この間に,Eには,午後1時25分頃にケイレン様振戦,午後1時40分頃にベッド上で暴れ,その後も時折暴れるなどの行動が認められ(乙DA1〔12頁〕),入院時看護記録(乙DA2〔19頁〕)には,外来で嘔吐,ケイレン様発作ありと記載された。 (イ) F医師は,Eを搬送した救急車に同乗していた被告Cから,午前9時から剣道場内で剣道をしていたが,午後0時前にふらふらして面を取った後,壁に頭部をぶつけて倒れ嘔吐した旨,たいした運動は強いていないし,水分も十分に与えていた旨を聴取した(乙DA1〔4頁〕,乙DA6〔4,6頁〕,被告C②〔40頁〕)。 また,F医師は,被告C又は被告病院に駆け付けた原告Aから,剣道部で新型インフルエンザを発症した部員が出たため練習を中止した旨を聴取した(乙DA6〔6頁〕)。 ウ F医師は,午後3時頃,Eに入院措置を取り,Eに対して三点冷却を実施するよう指示したが,指示を受けた看護師の判断で四点(頭部,片側腋窩及び両側鼠径部)での冷却措置(氷枕や保冷剤を使用)が取られた(乙DA2〔6,22頁〕,乙DA6〔7頁〕)。 この午後3時頃の入院時のEの状況は,体温が42.0℃,血圧が97/46,脈拍が毎分171回であり,発汗多量,全身ケイレン様発作あり,便失禁あり,意識なし,の状態であった(乙DA2〔22頁〕)。 エ Eの体温は,午後4時頃に41.6℃,午後4時30分頃に42.0℃- 36 -であった(乙DA2〔22頁〕)。 Eは,午後4時10分頃,昏睡の状態に陥り(乙DA2〔9頁〕),午後4時50分に至って呼吸状態が悪化し,体温は41.1℃,血圧測定不能,四肢冷感,チアノーゼがみられ,午後5時頃には,心肺停止に陥り,この頃から心臓マッサージが開始され,午後5時10分 9頁〕),午後4時50分に至って呼吸状態が悪化し,体温は41.1℃,血圧測定不能,四肢冷感,チアノーゼがみられ,午後5時頃には,心肺停止に陥り,この頃から心臓マッサージが開始され,午後5時10分に気管内挿管による人工呼吸が開始された(乙DA2〔10,22頁〕)。 そして,午後6時50分頃,Eの死亡が確認された(甲5の2〔26頁〕,乙DA2〔11頁〕)。 オ平成21年8月23日,大分大学医学部教授のH医師によって病理解剖が行われ,死亡原因が熱射病であると診断された(甲19)。 (6) 熱射病に関する医学的知見等熱射病に関して,以下の医学的知見等が認められる(以下,注記をしているものを除き,本件事故当時に発刊されていた文献である。)。 ア熱中症(ア) 高温・高湿度の環境下で発生する生体の障害を総称して熱中症と呼ぶ(甲9〔498頁〕)。 (イ) なお,体温の調整中枢は,視床下部,特に視束前野及び前視床下部にある。体温中枢は,外界温・深部温の情報をもとに,熱の産生・放散の調整を行うことにより,深部温の一定化を保つように働いている(乙A7〔1247頁〕)。 イ熱中症の分類(ア) 熱中症には,重症なものとして「熱射病」,中等症として「熱疲労」,軽症なものとして「熱失神」,「日射病」,「熱痙攣」が含まれる(乙A5〔353頁〕。ただし,乙A5は平成24年に発刊された文献である。以下同じ。)。 熱中症は,体温の上昇を伴うものは熱疲労,熱射病に,体温の上昇を- 37 -伴わないものは日射病,熱痙攣に分類される(甲9〔498頁〕,甲21〔590頁〕,乙A7〔1248頁〕)。 (イ) 熱中症という病態は,正常な放熱反応の結果生じる脱水や塩分喪失による変化と,体温調節機能の破綻により起こる体温変化とに分類でき,熱射病は後者の体 1〔590頁〕,乙A7〔1248頁〕)。 (イ) 熱中症という病態は,正常な放熱反応の結果生じる脱水や塩分喪失による変化と,体温調節機能の破綻により起こる体温変化とに分類でき,熱射病は後者の体温調節機能の破綻により引き起こされる全身症状の変化が病態の主体となる。その前段階にとどまるのが熱疲労である。 (乙A7〔1248頁〕,甲30〔1497頁〕)ウ熱射病と熱疲労(ア) 熱射病は,体温調節機能の破綻による高体温によって,皮膚の乾燥,意識障害が現れ,肝(AST,ALT,LDH上昇),腎(BUN,Cr上昇),筋肉(CK上昇)等の多臓器にわたる障害の所見等が認められるとされる(乙A7〔1252頁〕)。熱射病における意識障害について,財団法人日本体育協会発行の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(以下「ガイドブック」という。ガイドブックは,スポーツ医学や生理学等を専門とする大学教授らによって執筆されたものであって,医学的知見に準じた正確性を有するものと認められる。)は,応答が鈍い,言動がおかしい,意識がない場合を含む概念とする(甲7〔4頁〕)。なお,深部温の高さについては,後記クのとおり,様々な見解がある。 (イ) 熱疲労は,高温環境への暴露あるいは激しい身体活動の結果生じる水分又は塩分及び水分喪失の混合型脱水症で,全身倦怠感,極度の口渇感,筋力低下,不快感,不安,眩暈,失神,頭痛,吐き気,嘔吐等の症状を有する。意識レベルは清明とされる。 (乙A2〔677頁〕,乙A5〔354頁〕)エ人の体温について人の体温の測定方法として,深部温を測定する方法と日常の検温方法で- 38 -ある腋窩温を測定する方法等がある。前者は,簡便な直腸温により計測することが多く,一般的に,腋窩温と比較して,0.5℃ないし1℃程度高いと て,深部温を測定する方法と日常の検温方法で- 38 -ある腋窩温を測定する方法等がある。前者は,簡便な直腸温により計測することが多く,一般的に,腋窩温と比較して,0.5℃ないし1℃程度高いとされている(甲47〔603頁〕,乙DA6〔14頁〕)。 オ新しい熱中症の分類概念以上のような従来型の分類の他に,熱中症をⅠ度ないしⅢ度に分類する新しい考え方が紹介されている。Ⅰ度は軽度で,国際的分類の熱失神,熱痙攣に相当する。Ⅱ度は中等度で,熱疲労に相当する。Ⅲ度は重度で,熱射病に相当する(以下,これを「新分類」という。)。 (乙A3)もっとも,必ずしもこのように整然と対応するものではなく,幅のある基準となっている(乙A5〔353頁〕)。 カ対処療法等(ア) 熱射病は,後記キのとおり,死亡の危険があるところ,早急に救急隊等の出動を要請し,病院等の医療施設に搬送した上で,迅速に体温を降下させるために冷却することが重要であるとされる。救急隊の到着までは,冷却措置を取るべきとされている。 (甲47〔603頁〕,乙A6〔97頁〕。ただし,乙A6は平成22年に発刊された文献である。)新分類のⅢ度熱中症でも,厳重な管理と治療を必要とするとされる(乙A3)。 ガイドブックにも,同様の処置が記載されている(甲7〔5,25頁〕)。 (イ) 迅速に体温を降下させる方法については,各種の方法が提示されているが,一般には,①太い血管が存在する首,脇の下,足の付け根などの局所を氷等によって冷却する四点冷却,②体表面を水に浸して扇風機等で水分の蒸発を図る方法,③体表面にアルコールを塗布する方法(以下,上記②及び③の方法を指して「全身冷却」という。),④冷却した輸液- 39 -(補液)を行う方法等があり,中でも,②が最も効果的であるとされる( 方法,③体表面にアルコールを塗布する方法(以下,上記②及び③の方法を指して「全身冷却」という。),④冷却した輸液- 39 -(補液)を行う方法等があり,中でも,②が最も効果的であるとされる(甲21〔592頁〕,甲47〔604頁〕,乙A7〔1252頁〕)。 (ウ) ④輸液(補液)について,25℃程度に冷却したソリタ-T3号注やラクテック注を急速静注する方法は冷却効果があるとされている(甲46〔888頁〕。ただし,平成23年に発刊された文献である。)。 (エ) 必要な検査として,頭部CTを挙げる文献があるが,検査を実施するのは深部温が38℃以下になった場合であるとする(甲47〔603頁〕)。 キ熱射病の予後(ア) 熱射病(重症の熱中症)による死亡率は高いとされ(甲7〔4頁〕),死亡率を10%ないし30%とする文献(乙A7〔1254頁〕),30%以上とする文献(乙DB3〔6頁〕),また,多臓器不全を合併した場合の死亡率が10%ないし75%とする文献(甲49〔340頁〕)がある。 (イ) 熱射病は,超急性期(発症から1時間ないし2時間)の初期治療が患者の予後を決めると指摘する文献がある(甲30〔1500頁〕)。 発症から20分以内に体温を下げることができれば,確実に救命できると紹介する文献がある(甲9〔500頁〕)。 (ウ) 36歳の男性について,熱射病の発症後約30分程度という短時間で医療機関に搬入され,搬入時の直腸温(深部温)が43.7℃であったが,直ちに適切な治療を施した結果,合併症を残さずに回復したとの症例を紹介する文献がある(甲29)。 (エ) 平成18年,平成20年に日本救急医学会熱中症検討特別委員会が実施した症例調査から,熱中症の症例(全症例1441例)を抽出し,中枢神経系後遺症は22例(1.5%)であり,他方 (甲29)。 (エ) 平成18年,平成20年に日本救急医学会熱中症検討特別委員会が実施した症例調査から,熱中症の症例(全症例1441例)を抽出し,中枢神経系後遺症は22例(1.5%)であり,他方,後遺症がなく生存した症例は286例であると分析した上で,冷却措置に関する時間的要因は後遺症発生に重要な因子であるとする文献がある(甲31。ただし,- 40 -平成22年に発刊された文献である。)。 (オ) 平成20年に受診した熱中症患者の中から,Ⅲ度熱中症よりも重症で,人工呼吸管理を要する患者の症例を分析し,これら患者の予後は,病院来院後の治療の影響を受けず,現場及び来院時の生理学的因子により決定される。また,現場での低血圧と酸素飽和度の低下,来院時の動脈血BEの低下がある場合,死亡又は高次脳機能障害等の後遺症を残す可能性が高いとする文献がある(乙DB6。ただし,平成22年に発刊された文献である。以下同じ。)。 ク熱射病と熱疲労との鑑別(ア) 熱射病は,高体温,意識障害,発汗停止を徴候とする(以下,これを「三徴候」という。)とされている(甲21〔594頁〕,乙A2〔677頁〕)。もっとも,発汗の停止は突然生じる場合があることから,高体温と意識障害があれば,熱射病を否定できないとする文献がある(乙A2〔677頁〕)。 このうちの高体温について,深部温40℃以上を挙げる文献が存在し(甲30〔1498頁〕,甲47〔603頁〕),他方で,深部温40. 5℃超とする文献(乙A2〔677頁〕),深部温40℃未満でも熱射病を否定できないとする文献(乙DB3〔6,8頁〕)も存在する。 なお,熱射病の発症が認められる例について,患者の入院時に必ずしも40℃以上の高熱や発汗停止が生じているわけではないし,発症後に体表冷却を施されている場合が多く 乙DB3〔6,8頁〕)も存在する。 なお,熱射病の発症が認められる例について,患者の入院時に必ずしも40℃以上の高熱や発汗停止が生じているわけではないし,発症後に体表冷却を施されている場合が多く,このような場合には腋窩での体温測定では,深部高体温が見逃されるなどの指摘もある(乙DB3〔6,7頁〕。また,甲21〔595頁〕参照)。 (イ) 新分類においては,暑熱環境にさらされるなどし,深部温39℃以上の高熱を有する者で他疾患を除外した後,①脳機能障害(意識障害等の中枢神経症状),②肝・腎障害,③血液凝固障害のいずれか1つの徴候- 41 -があれば,Ⅲ度熱中症に該当するとされる(乙A3〔1121頁〕,乙A5〔354頁〕,乙DB3〔7頁〕)。 (7) 熱射病に関する注意,警告等ア全日本剣道連盟は,平成17年に,剣道競技における熱中症の発症予防のための提言を公表している。その中では,①室内競技において最も熱中症の事故が多いのは剣道競技であり,剣道の練習中に熱中症を発症して医療機関を受診する例が毎年数百件存在していること,②1975年〔昭和50年〕から1997年〔平成9年〕までの間に剣道の練習中に5例の熱中症による死亡事故が発生していることが報告されている(甲24〔1頁〕)。 また,熱中症の主な発生原因が①暑熱環境下での運動によって体温が異常に上昇すること,②汗により体の水分と塩分が失われてしまうことであるとした上で,剣道の稽古には,上記①及び②が増強されてしまう競技特性があると指摘している(甲24〔1頁〕)。 イ文部科学省は,平成20年6月13日付け及び平成21年6月26日付けで,全国の大学,高等専門学校,都道府県教育委員会等に宛てた「熱中症事故の防止について(依頼)」との文書を作成し,学校管理下における体育・スポーツ活動 0年6月13日付け及び平成21年6月26日付けで,全国の大学,高等専門学校,都道府県教育委員会等に宛てた「熱中症事故の防止について(依頼)」との文書を作成し,学校管理下における体育・スポーツ活動による熱中症事故を防止するよう要請を行っている(甲10の1・2)。ここでは,気温が25℃ないし30℃とそれほど高くない場合でも湿度が高ければ熱中症事故が発生していること,予防のために「熱中症環境保健マニュアル」を参考とすることとされている(甲10の1〔1頁〕,甲10の2〔1頁〕)。 ウ竹田高校においては,平成21年6月29日の職員朝礼の際に,「熱中症対策(部活生指導)」と題する資料(甲11。本判決添付の別紙は甲11の写しである。)が教員らに配付され,被告C及び被告Dもこれを受領し,その内容を把握していた(被告C②〔4頁〕,被告D〔50頁ないし53頁〕)。 - 42 -上記文書には,以下の記載のほか,熱中症が発生する機序,熱中症の種類,対策,熱中症になりやすい関連条件,熱中症の症状に関する記載がある(甲11)。 スポーツ時の熱中症対策は? 環境条件を把握しこまめな水分補給が基本1.運動を始める前の環境条件の確認。 ①乾球温度・湿球温度をはかる。(測り方説明)②熱中症予防のための運動指針により練習計画を立てる③なりやすい条件を知る。 高温・多湿・梅雨明け・熱帯夜の翌日など2.体調の確認。(体調が悪いときは活動を控える)①風邪・下痢などないか②睡眠不足・朝食抜きなど生活習慣の乱れはないか③体調を崩していての復帰直後は注意3.状況に応じた水分補給をする。 ①まず練習の前に水分補給(200~300ml)②休憩時間ごとに給水(40分ごと)+個人の体調による摂取運動が長時間(60分以上)にわたる場合や発汗量が 3.状況に応じた水分補給をする。 ①まず練習の前に水分補給(200~300ml)②休憩時間ごとに給水(40分ごと)+個人の体調による摂取運動が長時間(60分以上)にわたる場合や発汗量が多い場合は0.9%,0.2%位の食塩水や特性ジュース等で補給(下線部は原文ママ)③市販のスポーツドリンク類は2倍くらいに薄めると吸収しやすくなる(糖分が多いと胃の停滞時間が長くなり不快を感じる)また,上記資料に併せて配付された「熱中症が疑われたときはどうすればいいのか」との資料には,以下の記載がある。 ●熱中症の応急措置 -あわてるな!されど急ごう応急措置-異状の発生- 43 -↓涼しい場所に運び,衣服を緩めて寝かせる。 次のような症状がみられる場合は,速やかに必要な手当や措置をとる。 ↓(以下,矢印の先は,①「熱けいれん」,②「熱疲労」,③「熱射病(重症)」に分岐している。)↓③「熱射病(重症)」への分岐部分体温調節が破綻して起こり,高体温で種々の程度の意識障害が起こる。足がもつれる・ふらつく・転倒する,突然座り込む・立ち上がれない,応答が鈍い,意識がもうろうとしている,言動が不自然など少しでも意識障害がある場合には,熱射病を疑う。 ↓すぐに救急車を要請し,同時に応急手当を行う↓救急車到着までの間,積極的に体を冷やす。 ☆ 水をかけたり,濡れタオルを当てて扇ぐ。 上記に加えて,氷やアイスバックがあれば,頸部,脇の下,足の付け根などの大きい血管を冷やすのも効果的! ※ できるだけ迅速に体温を下げることができれば,救命率が上がります!! ↓病院へ!! - 44 -体を冷やしながら,設備や治療スタッフが整った集中治療のできる病院へ一刻も早く搬送しましょう!! 2 争点(1)(E ることができれば,救命率が上がります!! ↓病院へ!! - 44 -体を冷やしながら,設備や治療スタッフが整った集中治療のできる病院へ一刻も早く搬送しましょう!! 2 争点(1)(Eの熱射病の発症時期)について(1) 熱射病の発症については,高体温,意識障害,発汗停止の三徴候が特徴的であるとされる(前記1(6)ク(ア))が,必ずしもこれら三徴候の全てが揃うことを要するものでもなく(乙A2〔677頁〕),また,高体温の指標となる温度にも種々の見解がみられる(前記1(6)ク(ア))から,これら三徴候の有無を含め,総合的に検討して,Eの熱射病の発症時期を判断するのが相当である。 なお,新分類におけるⅢ度熱中症が熱射病に相当すると考えられるところ(前記1(6)オ),その徴候とされる肝・腎の障害(前記1(6)ク(イ))の有無についても併せて検討する。 (2) 意識障害ア Eは,本件事故日の午前10時25分頃以降,休憩後に練習を再開して打ち込み稽古をする中で,「もう無理です。」と言った後,「お前の目標は何だ。」と問われ,「大分県制覇です。」などと発言している。その後,Eは練習を継続したが,元立ちに竹刀を払われ,竹刀を落としたにもかかわらず,竹刀を構える仕草を続け,他の部員らから注意を受けても,このことに気が付かなかった。さらに,被告Cに前蹴りをされて,よろめいて倒れ,起き上がった後にふらふらと剣道場の壁まで歩き,壁に額を打ち付けて,倒れるに至っている。その後,Eは,被告Cらや他の部員らの呼び掛けに対して応答することができなかった。 (前記1(4)ウ)イ熱射病における意識障害は,熱疲労の症状(前記1(6)ウ(イ))とは異なる熱射病の徴候であるとされているところ,ガイドブックが熱射病の徴候として,応答が鈍くなったり,言 (前記1(4)ウ)イ熱射病における意識障害は,熱疲労の症状(前記1(6)ウ(イ))とは異なる熱射病の徴候であるとされているところ,ガイドブックが熱射病の徴候として,応答が鈍くなったり,言動がおかしくなったりする状態,いわば- 45 -意識が朦朧とした状態を挙げていること(前記1(6)ウ(ア))に照らせば,必ずしも意識が消失することまで求められている概念ではないと認められる。 これを前提として前記アの事実関係をみれば,Eは,元立ちに竹刀を払われ,竹刀を落としたにもかかわらず,竹刀を構える仕草を続けており,他の部員らから注意を受けてもそのことに気が付かなかった時点において,自らの行動を正常に把握できず,また,周囲からの注意や呼び掛けに対しても正常に応答ができなくなっていたものと認められる。そして,自らの行動を制御できずに歩いて壁に額を打ち付けるなどして倒れるに至り,それ以降は周囲に者からの呼び掛けに対して応答することができない状態が回復しない状態となり,それはEが死亡するまで継続している(前記1(5)参照)。 したがって,遅くとも,Eが竹刀を落としたのに気付かず,竹刀を構える仕草を続けた時点より,Eの意識が朦朧とし,意識障害の発現が開始していたものと認められる。 ウなお,Eは,竹刀を構える仕草を続けた時点の前に,「もう無理です。」と言った後,被告Cの問い掛けに対して,「大分県制覇です。」などと明瞭に答えることができているが,その直後に,小技ですべきところを大技で,かつ強い力で打ち込みをしたり,交代した元立ちに発声を返さなかったりする正常ではない行動がみられていること(前記1(4)ウ)に鑑みれば,その直後に意識が朦朧とし,意識障害の発現が開始していたと認定することを妨げる事情とはならない。 (3) 発汗停止Eが たりする正常ではない行動がみられていること(前記1(4)ウ)に鑑みれば,その直後に意識が朦朧とし,意識障害の発現が開始していたと認定することを妨げる事情とはならない。 (3) 発汗停止Eが被告病院に搬入された時点では,Eの唇が非常に乾燥していたことが認められ(前記1(5)ア),F医師は,Eが被告病院に搬入された時点では発汗が認められなかったと供述している(乙DA6〔5,19頁〕)から,前- 46 -記1(5)アのとおり,Eが被告病院に搬入された時点において,Eの発汗は停止していたと認められる。発汗については,被告病院における輸液の実施の後に,多量の発汗があったと認められる(前記1(5)ウ)が,これは,被告病院に搬入された時点で発汗が停止していたとの上記認定と矛盾するところはない。 そして,Eが意識障害を起こし(前記(2)参照),壁に額を打ち付けて剣道場で倒れたのは,遅くとも午前11時55分頃以前であり(前記1(4)ウ),救急車で被告病院に搬入されたのは午後0時54分頃であったから,被告病院に搬送されるまでに約1時間程度を要したことになるが,この間は,被告Cらや他の部員らによって水分を摂らせるなどの措置が実施され,あるいは救急車で搬送されていたから,Eの発汗状況が悪化することをうかがわせる特段の事情はない。したがって,Eが意識障害を起こした後,遅くとも救急車で病院に搬入されるまでに,Eの発汗が停止したものと推認でき,これを覆すに足りる証拠はない。 (4) 高体温ア被告病院に搬入された時点のEの体温は,腋窩温で39.3℃,したがって,深部温で39.8℃ないし40.3℃であったと認められる(前記1(5)ア,(6)エ)。 そこで,被告病院に搬入された時点のEの腋窩温を前提として,剣道場においてEが意識障害を起こして倒れ がって,深部温で39.8℃ないし40.3℃であったと認められる(前記1(5)ア,(6)エ)。 そこで,被告病院に搬入された時点のEの腋窩温を前提として,剣道場においてEが意識障害を起こして倒れた時点でのEの体温を検討する。 Eの意識障害が生じた時刻は,明確に判明しないが,遅くとも午前11時55分頃以前であり(前記1(4)ウ),救急車で被告病院に搬入されたのは午後0時54分頃であったから,意識障害を生じてから腋窩温を計測されるまでに約1時間程度を要したことになる(前記(3)参照)。そして,この間は,被告Cらや他の部員らによる冷却措置が実施され,あるいは救急車で搬送されていたから,Eの体温が短期間に大きく上昇させる原因が- 47 -あったとは認められない。そうすると,Eが意識障害を起こした時点のEの腋窩温は,被告病院搬入時の体温(深部温で39.8℃ないし40.3℃)と同程度のものであったと推認される。 イ(ア) Eの剣道場における体温については,被告大分県らは,救急車による搬送中に測定されたEの体温を根拠として,熱射病の発症がうかがえる程度に高体温であったとはいえないと主張するので,この点について,以下,検討する。 (イ) 本件事故日にEの体温が最初に計測されたのは,救急車による搬送中であり,この時に計測されたEの体温は,「37.1」℃と記録された(前記1(4)エ。ただし,腋窩温か深部温かの記載はない。)。 一般的に,救急隊の体温測定は腋窩でされており(乙DA6〔14頁〕),また,仮に,上記「37.1」℃が深部温であったとするならば,Eの腋窩温は36.1℃ないし36.6℃ということになり,熱中症を発症していない一般人の平熱と同様であることになるが,これは,Eが直前まで打ち込み稽古等の激しい運動をしていたこと及びその後の経緯と Eの腋窩温は36.1℃ないし36.6℃ということになり,熱中症を発症していない一般人の平熱と同様であることになるが,これは,Eが直前まで打ち込み稽古等の激しい運動をしていたこと及びその後の経緯と整合しないこととなる。したがって,救急隊による計測は,腋窩温の計測であったと推認される。 (ウ) そして,Eは,救急車による搬送の直前まで,被告Cらや他の部員らによって腋の下等を保冷剤によって冷却されているが,このような場合に腋窩の温度を測定すると,真実の腋窩温よりも低い温度が示される可能性があるとされている(前記1(6)ク(ア))。 また,被告病院搬入時のEの腋窩温は39.3℃であったのであり,仮に搬送時のEの真実の腋窩温が37.1℃であったとするならば,救急車で搬送していた約30分未満(前記1(4)ウ,(5)ア)の間に,体温が約2.2℃も上昇していることになるが,救急車での搬送中に,短期間にEの体温を急上昇させる原因があったとはうかがわれない。そうす- 48 -ると,救急車による搬送中に計測された「37.1」℃との体温は,真実のEの腋窩温よりも低く測定されてしまったものと推認される。 (エ) 前記(イ),(ウ)の事実を前提とすれば,剣道場から救急車で搬送されている間のEの深部温は,37.1℃に0.5℃ないし1℃を加えた数値(37.6℃ないし38.1℃)にとどまらず,更に高温であった蓋然性が高いものといえる。 (オ) したがって,Eの救急車での搬送中の体温として「37.1」℃との記録があるとしても,それは,前記アの推認を覆すに足りる事情とまではいえず,したがって,前記アのとおり,Eが意識障害を起こした時点のEの腋窩温は,被告病院搬入時の体温(深部温で39.8℃ないし40.3℃)と同程度のものであったと認められる。 (5) 肝・ まではいえず,したがって,前記アのとおり,Eが意識障害を起こした時点のEの腋窩温は,被告病院搬入時の体温(深部温で39.8℃ないし40.3℃)と同程度のものであったと認められる。 (5) 肝・腎の障害ア F医師は,本件事故日の午後1時5分頃から午後1時20分頃までの間に,Eの採血をし,その血液を検査したところ,肝機能の障害の程度を示す検査項目(前記1(6)ウ(ア)参照)であるAST,ALT及びLDHについて,また,腎機能の障害の程度を示す検査項目であるクレアチニン(Cr)について,いずれも基準値を超える数値が示された(前記1(5)ア,乙DA6〔22頁〕)。 イこれらは,Eが被告病院に搬入された時に,肝機能及び腎機能を障害していたことをうかがわせる事実である。 もっとも,Eが被告病院に搬入された時には,失禁していたと認められる(前記1(5)ア)ところ,この時点で腎機能の障害が相当進行していたとまでみることはできない。 ⑹ Eは,気温30度(前記1(3))であったと考えられる本件事故日の午前11時過ぎ以降,休憩もなく約1時間にもわたって打ち込み稽古等の厳しい剣道の練習をしている最中,前記(2)のとおり,剣道場で竹刀を落としたままこ- 49 -れに気付かずに竹刀を構える仕草を続けた時点で意識障害が発現した。その頃のEの体温は,深部温で39.8℃ないし40.3℃(被告病院搬入時と同程度)であり(前記(4)),意識障害を起こした後,遅くとも救急車で病院に搬入されるまでに,Eの発汗が停止したもの(前記(3))と認められる。そして,医学的知見によれば,熱射病の基準としての体温は,深部温として40℃以上であるとする文献もあるが,これよりも低い深部温でも熱射病の発症は否定されないとするものがあること(前記1(6)ク(ア)),発汗停止に 知見によれば,熱射病の基準としての体温は,深部温として40℃以上であるとする文献もあるが,これよりも低い深部温でも熱射病の発症は否定されないとするものがあること(前記1(6)ク(ア)),発汗停止については突然生じることがあるから,高体温と意識障害の2つの徴候があれば熱射病と考えてよいとする文献があること(前記1(6)ク(ア)),また,新分類による場合,深部温39℃以上で,かつ,肝・腎の障害が認められれば,熱射病に相当するⅢ度熱中症に当たるとされ(前記1(6)ク(イ)),被告病院搬入時においてEの肝・腎に障害が生じていたことがうかがわれること(前記(5))をも踏まえると,Eが被告病院に搬送される前,剣道場内において打ち込み稽古をしている途中,遅くとも,Eが竹刀を落としたままこれに気付かずに,竹刀を構える仕草を続け,意識障害が発現した時点において,Eは熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したものと認められる。 そして,熱射病を発症したこの時点において,直ちに医療機関に搬送し,迅速に冷却措置を実施するなどする必要があり(前記1(6)カ(ア)),そのような処置を取らなければ,死亡する危険が高いといえる状態(前記1(6)キ(ア))に至ったものと認められる。 3 争点(2)(被告Cの過失の有無)について(1)ア竹田高校の職員朝礼において配付された資料(甲11)は,熱中症に関する医学的知見等(前記1(6))に照らして,その内容は合理的なものであり,熱中症の応急措置として記載されている処置も,熱痙攣,熱疲労,熱射病に対応して,適切妥当な措置が記載されているものと認められ,被告Cはこれを受領し,内容を把握していた(前記1(7)ウ)。 - 50 -また,被告Cは,体育協会や教育委員会主催の熱中症対策講習会に出席して研修しており(甲4〔4頁〕), るものと認められ,被告Cはこれを受領し,内容を把握していた(前記1(7)ウ)。 - 50 -また,被告Cは,体育協会や教育委員会主催の熱中症対策講習会に出席して研修しており(甲4〔4頁〕),部活動の指導者として求められる熱中症に関する知識及び生徒が熱中症を発症した際に取るべき処置に関する知識を有していたと認められる。 被告Cは,自身としても剣道をする者であり,指導歴も豊富であったこと,そのため夏場の剣道の稽古が非常に暑い環境下で行われることを当然に認識していたこと(被告C②〔3頁〕参照),部活動における生徒の熱中症(熱射病を含む。)について教員に対する注意喚起が従前からなされていたこと(前記1(7)ウ)に照らせば,剣道の練習中における熱射病に対する処置について,正確な理解が求められていたというべきである。 イ被告Cは,本件事故日,剣道場内において練習の進行順序を決定するなどその全体を把握し,練習開始から部員らの動向を見ており,Eが他の部員よりも多く打ち込み稽古をしており,練習の途中で「もう無理です。」と述べ,その後に竹刀を落としたのにそれに気付かず竹刀を構える仕草を続けるなどの行動を取っていたことも認識していた。このような状況を前提とすれば,被告Cは,遅くともEが竹刀を落としたのにこれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるという行動を取った時点において,Eが異常な行動を取っていることを容易に認識し得たといえる。そして,このようなEの異常な行動が演技ではなく意識障害の発現であることは明らかであるから,剣道場内の温度,それまでのEの運動量,また,40分ごとに水分補給をすべきとされていた(甲11)ところ,練習が1時間以上に及んでいたこと(前記1(4)ウ)などに鑑みて,Eが熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したことについてもやはり容 量,また,40分ごとに水分補給をすべきとされていた(甲11)ところ,練習が1時間以上に及んでいたこと(前記1(4)ウ)などに鑑みて,Eが熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したことについてもやはり容易に認識し得たというべきである。 したがって,被告Cには,竹刀を落としたのにそれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるというEの行動を認識した時点で,Eについて,直ちに練習を中止させ,救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送し,- 51 -それまでの応急措置として適切な冷却措置を取るべき注意義務があったと認められる。 (2) そうであるにもかかわらず,被告Cはこれを怠り,Eに意識障害が生じた後も,打ち込み稽古を続けさせようとした。その後にEがふらふらと歩いて壁に額を打ち付けて倒れた際にも,それがEによる「演技」であるとして,何らの処置も取らなかった。結局,Eに意識障害が生じた後の午前11時55分頃から実際に救急車の出動を要請した午後0時19分頃まで,救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送するという措置を怠ったものであり,この点において,被告Cには過失があったと認められる。 被告Cは,上記のとおり,Eに意識障害が生じた後の午前11時55分頃から実際に救急車の出動を要請した午後0時19分頃まで,救急車の出動を要請するなどしてEを医療機関へ搬送するという措置を怠り,それにより,病院への搬入が少なくとも約24分遅れたものである。発症から20分以内に体温を下げることができれば,確実に救命できるとする文献があるところ(前記1(6)キ(イ)),「確実に救命できる」と記載されていることからすれば,発症から20分以内に体温を下げなければ救命はあり得ないとまで述べているとは認められず,発症から20分以内に体温を下げることができなくても,その後に 実に救命できる」と記載されていることからすれば,発症から20分以内に体温を下げなければ救命はあり得ないとまで述べているとは認められず,発症から20分以内に体温を下げることができなくても,その後に体温を下げれば救命可能性のあることは否定されていないものと解されるが,他方で,発症から20分以内に体温を下げることは,救命可能性を上げるために重要なことであると認められ,その点からして,本件において,意識障害が生じた後に病院への搬入が少なくとも約24分遅れたことは,Eの救命可能性を低下させる大きな原因となったものと認められる。 (3) この点,被告Cは,幾分か遅れてしまったものの,Eに対する一定の冷却措置を取っており,熱中症に対する処置としては十分であった旨主張する。 しかし,本件事故前の竹田高校の朝礼において部活動指導者である教員に配付された資料(甲11)に照らしてみても,「ふらつく・転倒する」など- 52 -の症状,意識朦朧等の少しでも意識障害が疑われる場合に取るべき第一の措置は,救急車の出動の要請であるとされており,冷却措置は,救急車到着までの待機時間における応急措置としての意味をもつにとどまるから,早急に救急車の出動を要請するなどして,Eを早期に医療機関に搬送すべき義務を怠った過失が認められる以上,冷却措置を取ったことをもって,被告Cの過失が否定されるとはいえない。 なお,被告Cは,Eの頬に平手打ちするなどし(前記1(4)ウ),これは気付けの趣旨であったと主張するが,このような行動は,熱中症を発症した者に対して行うべき適切な措置と認めることはできない。 (4) また,被告Cは,同被告が,本件事故以前から,剣道部部員の保護者による会合(保護者会)や日頃の部活動の中で,塩分補給や水分補給について注意を促し,スポーツドリンクの利用を ことはできない。 (4) また,被告Cは,同被告が,本件事故以前から,剣道部部員の保護者による会合(保護者会)や日頃の部活動の中で,塩分補給や水分補給について注意を促し,スポーツドリンクの利用を推奨し,また,積極的に長時間の休憩時間を取るようにしたり,自費で大型扇風機を購入して剣道場に設置するなどしていた旨主張し,実際にそのような事実があったものと認められる(甲4〔4頁〕,乙B2,乙B4,乙B7〔3枚目〕,証人G〔33,34頁〕,被告C①〔79項ないし89項〕)。 しかし,Eは,実際に剣道部の練習中に熱射病を発症したものであり,被告Cには,熱射病を発症した際に,直ちに練習を中止し,救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送し,それまでの応急措置として適切な冷却措置を取るべき注意義務を怠ったという過失が認められるのであるから,被告Cが,事前に種々の熱中症対策を実践していたとしても,その過失を免れることはできない。 したがって,被告Cが指摘する上記事情は,被告Cの過失を否定するものではない。 4 争点(3)(被告Dの過失の有無)について⑴ 被告Dは,竹田高校の職員朝礼において配付された資料(甲11)を受領- 53 -し,その内容を把握しており(前記1(7)ウ),剣道部の副顧問として,被告Cと同じく,部員の生命及び身体の安全を保護すべき義務があった。部員の生命及び身体の安全を保護すべき義務は,顧問,副顧問を問わず,部活動を指導する教員に求められる基本的な注意義務である。被告Dは,副顧問を務めていた平成18年8月に剣道場において夏合宿中の生徒が熱射病を発症して緊急搬送されたことを当然に知り又は知るべき立場にあったこと,また,上記配付資料を受領し,その内容を把握していたことにも照らせば,上記のような注意義務が,顧問に劣後する副 中の生徒が熱射病を発症して緊急搬送されたことを当然に知り又は知るべき立場にあったこと,また,上記配付資料を受領し,その内容を把握していたことにも照らせば,上記のような注意義務が,顧問に劣後する副顧問であったという一事をもって軽減されることはない。そのため,被告Dには,Eに熱射病の徴候である意識障害を窺わせる異常行動が認められた際に,練習を継続する被告Cを制止するなどして直ちに練習を中止し,救急車の出動を要請するなどの適切な処置を取るべき注意義務があったというべきである。 (2) ところが,被告Dは,竹刀を落としたのにそれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるなどのEの一連の行動を見ており,かつ,それが異常な状態であるとの認識も有していた(被告D〔26,27頁〕)にもかかわらず,被告Cが練習を継続するのを制止し,あるいは被告Cに練習の中止を要請するなどといった措置を何ら取っておらず,かつ,Eが倒れるに至っても,被告Cと同様に,直ちに救急車の出動を要請するなどの措置を取っていないのであるから,上記注意義務に違反した過失があると認められる。 被告Dは,自己に過失はなかった旨主張するが,その主張を採用することはできない。 5 争点(4)(F医師の過失の有無)について(1)ア F医師は,救急隊員が熱中症の対応で受け入れを要請したのに応じてEの搬送を受け入れたものであり(前記1⑷エ),Eが被告病院に搬入された時点において,体温(腋窩温)が39.3℃であること,意識障害を起こしていたこと及び発汗の停止がみられたことなどのEの全身状態(前- 54 -記1(5)ア)について認識しており,その際のEの病状について「熱中症」「重度 3週間以上の入院加療を必要とするもの」と診断しており(甲12の2),救急車に同行した被告Cから,Eが倒れた際の状況 記1(5)ア)について認識しており,その際のEの病状について「熱中症」「重度 3週間以上の入院加療を必要とするもの」と診断しており(甲12の2),救急車に同行した被告Cから,Eが倒れた際の状況等も聴取していた(前記1(5)イ(イ))。 このような事実に照らせば,F医師は,医師として,Eが軽度又は中等度の熱中症にとどまらず,熱射病を発症している可能性を認識し,それを前提とした治療行為を行うべきであったといえる。 イそして,熱射病は,その発症から20分以内に体温を下げることができれば,確実に救命し得る(前記1(6)キ(イ))反面,冷却措置等によって体温を下げることができずに時間が経過すれば,結果的に死亡に至る可能性が高い(前記1(6)キ(ア))のであるから,熱射病患者に対する通常期待されるべき適切な治療としては,冷却効果の大きい四点冷却,迅速に患者の体温を下げる全身冷却等の療法を実施することが要請されているといえる(前記1(6)カ参照)。そのため,本件において,F医師は,医師として,熱射病を発症している疑いのあるEに対して,直ちに四点冷却等の効果の大きい冷却措置を取るべき注意義務があったといえる。 (2) それにもかかわらず,F医師は,Eが被告病院に搬入された時(午後0時54分頃)から約2時間経過した午後3時頃まで,冷却されていない輸液を行うにとどまり,経過観察をするのみで,四点冷却等の冷却措置を取らなかった(前記1(5)イ(ア))。 輸液は,熱中症に対する処置として患者の全身を冷却する効果が一定程度あるとされているものの,冷却されていない輸液の場合にはそもそも大きな冷却効果があるとはされておらず,より効果的に体温を降下させる方法として,全身を水等で濡らして送風するなどの全身冷却があるとされている(前記1(6)カ(イ),(ウ いない輸液の場合にはそもそも大きな冷却効果があるとはされておらず,より効果的に体温を降下させる方法として,全身を水等で濡らして送風するなどの全身冷却があるとされている(前記1(6)カ(イ),(ウ))。加えて,冷却措置を実施する場合には,冷却の効果として体温が降下しているかについても経時的に観察することが当然の前提と- 55 -なっているものと解されるが,F医師は,Eの搬入時に体温を測定して以降,午後3時頃に入院させるまでの間,体温の計測を行っていない(前記1(5)イ(ア))。したがって,輸液それ単体を実施したとしても,熱射病を発症しているEの体温を下げるために取るべき処置としてはなお不十分であったというべきである。 したがって,F医師は,Eが熱射病を発症している可能性を疑った上で,直ちに四点冷却や全身冷却等の効果の大きい冷却措置を取るべき注意義務があったにもかかわらず,Eの搬入から約2時間もの間,これらの措置を実施することがなかったのであるから,前記(1)の注意義務に対する違反があったといえる。 (3) この点について,被告豊後大野市は,Eの頭部に必ずしも軽傷とはいい難い傷害が見られたこと,同行した被告Cが「たいした運動はしていない」旨発言したこと,竹田高校で新型インフルエンザが流行していたとの話を聞いたこと,本件当時に被告病院においてCT検査を実施することができなかったこと,F医師は熱中症の専門医ではないことなどの事情もあって,F医師は当初,頭部傷害による発熱の可能性や新型インフルエンザによる発熱の可能性を排除し得なかったと主張する。 しかし,頭部傷害や新型インフルエンザによる発熱の可能性が残るとしても,そのような患者に対して冷却措置を取ることが禁忌であった,あるいは不都合であったとする合理的な根拠は見当たらず(証人F〔 る。 しかし,頭部傷害や新型インフルエンザによる発熱の可能性が残るとしても,そのような患者に対して冷却措置を取ることが禁忌であった,あるいは不都合であったとする合理的な根拠は見当たらず(証人F〔反訳書28頁〕),また,被告病院において直ちに冷却措置を実施することが容易にできなかったという事情も見当たらない。そして,頭部CTについても,Eの腋窩温が高いことから深部温も高いと推認されたことに照らせば,その時点でこれを実施することが必要的であったとすることもできない(なお,前記1(6)カ(エ)参照)。 したがって,被告豊後大野市が主張する上記の事情は,F医師の過失を否- 56 -定する理由となるものではない。 (4) したがって,F医師には,Eの搬入後に直ちに四点冷却,全身冷却等の冷却措置を実施しなかった注意義務違反があり,過失があったと認められる。 6 争点(5)(被告C及び被告Dの各過失と結果との間の因果関係の有無)について(1) 被告C及び被告Dの各過失により,Eは,熱射病を発症後に放置されたものであり,熱射病は死亡に至る危険性があるとの医学的知見(前記1(6)キ(ア))に照らせば,遅ればせながら搬送したことを考慮しても,Eは,そのまま放置されれば死亡するような状態になったものと認められる。そして,Eが竹刀を落としたことに気付かないまま竹刀を構える仕草を続けた時点(熱射病の発症が認められる時点)では,なお熱射病の初期の段階であったと考えられ,熱射病の発症から約20分以内に適切な処置が取られていれば確実に救命できるとされていること(前記1(6)キ(イ))を踏まえると,その時点で直ちに練習を中止し,救急車の出動を要請し,併せて冷却措置を取っていたとするならば,Eの体温を早期に降下させることができ,高度の蓋然性をもって,救命 (前記1(6)キ(イ))を踏まえると,その時点で直ちに練習を中止し,救急車の出動を要請し,併せて冷却措置を取っていたとするならば,Eの体温を早期に降下させることができ,高度の蓋然性をもって,救命ができたものと認められる。 したがって,被告C及び被告Dの各過失と結果(Eの死亡)との間には,相当因果関係があると認められる。 (2) なお,後記のとおり,被告病院において医療水準に従った適切な治療が行われていれば高い確率でEを救命することができたとの事情が認められるとしても,Eは,熱射病を発症することにより,そのまま放置されれば死亡するような状態になったものであるから,上記事情は,先行する被告C及び被告Dの各過失と結果との間に因果関係が認められることについて,影響を与えるものではない。 仮に,F医師について,被告大分県及び被告Cが主張するような重過失(前記第2,4(4)イ,ウ)があるといえたとしても,Eは,被告C及び被告Dの- 57 -過失によって熱射病を発症し,そのまま放置すれば死亡するような状態となり,数時間後に熱射病により死亡するに至ったのであるから,このような経過に照らすならば,被告C及び被告Dの過失は,F医師の過失にかかわりなく,Eの死亡という結果の発生に直接結びつくものということができる。したがって,F医師に重過失があるといえたとしても,それによって,被告C及び被告Dの過失とEの死亡という結果の間の因果関係が否定されるものではない。 7 争点(6)(F医師の過失と結果との間の因果関係の有無)について(1) 発症から20分以内に体温を下げることができれば,確実に救命できるとする文献(前記1(6)キ(イ))があるところ,発症から20分以内に体温を下げることは,救命可能性を上げるために重要なことであると認められるが,「確 に体温を下げることができれば,確実に救命できるとする文献(前記1(6)キ(イ))があるところ,発症から20分以内に体温を下げることは,救命可能性を上げるために重要なことであると認められるが,「確実に救命できる」と記載されていることからすれば,発症から20分以内に体温を下げなければ救命はあり得ないとまで述べているとは認められず,前記1(6)キ(ウ)の文献にも照らせば,発症から20分以内に体温を下げることができなくても,その後に体温を下げれば少なからず救命可能性があるものと解される。 (2) 本件では,被告Cらが,Eの様子がおかしいことから,遅れながらも,一定の冷却措置を開始しているところ,これらの行動が,Eの救命が可能となる時間を延長させることにつながる行為となった可能性は否定できない。 (3) これに加えて,被告病院搬入時から午後3時頃までの約2時間の間,体温降下に有用な処置は,冷却していない輸液のみであった(前記1(5)イ(ア))にもかかわらず,一時的にEの全身状態(意識状態を除く。)の回復が見られ,発汗の再開も見られたこと(前記1(5)イ(ア))を考慮すると,被告病院に搬送された時点におけるEの状態は,いまだ回復不可能な状態にまでは達しておらず,したがって,被告病院において直ちに冷却措置を開始したとするならば,なおEの体温を低下させるなどして救命することが可能であった- 58 -と推認することができる。 (4) 以上の事情に照らせば,Eの重度の熱中症の発症から被告病院搬入までに約1時間程度を要していたこと(前記2(3)参照)を考慮したとしても,F医師がEの被告病院への搬入後直ちに適切な冷却措置を開始していれば,Eが救命され生存し得た高度の蓋然性があったものと認められる。 (5) この点について,被告豊後大野市は,乙DB 慮したとしても,F医師がEの被告病院への搬入後直ちに適切な冷却措置を開始していれば,Eが救命され生存し得た高度の蓋然性があったものと認められる。 (5) この点について,被告豊後大野市は,乙DB6を根拠として,Eが被告病院に搬入された時点では,既に,回復不可能の状態にあり,救命可能性がなかった旨主張する。 しかし,上記文献は,人工呼吸管理を要した症例を挙げて予後の悪さを示すものであるのに対し,本件において,Eは,被告病院搬入時のSpO2は97%であり(前記1(5)ア),自発呼吸も認められており(前記1(5)ア),搬入時直ちに人工呼吸管理を要する状態ではなかった(証人F〔反訳書11頁〕)。このような事実関係に照らせば,本件は上記の文献が紹介する症例と同様のものであるということはできず,したがって,上記の文献を根拠としてEが被告病院搬入時点において救命可能性がなかったとすることはできず,被告豊後大野市の上記主張は採用できない。 (6) したがって,被告病院搬入後に直ちにEに対して冷却措置を実施しなかったF医師の過失と結果(Eの死亡)との間には,相当因果関係があると認められる。 8 争点(7)(被告大分県に対する損害賠償請求の成否)について(1) 前記3及び4のように,被告C及び被告Dについてはそれぞれ過失が認められ,公務員である被告C及び被告Dが,国賠法1条1項の公権力の行使に該当する公立学校における教員の教育活動において,同人らの過失により損害を生じさせたものであるから,公権力の主体である被告大分県が,国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。 (2) 原告らは,被告大分県について,民法715条1項本文に基づく使用者責- 59 -任が成立すると主張する(前記第2,4(7)ア)が,公務員の行為が国又は公共団体の公権力の行使 任を負う。 (2) 原告らは,被告大分県について,民法715条1項本文に基づく使用者責- 59 -任が成立すると主張する(前記第2,4(7)ア)が,公務員の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合には,国又は公共団体は重ねて民法715条1項本文に基づく損害賠償責任を負うことはなく,原告らの上記主張を採用することはできない。 9 争点(8)(被告豊後大野市に対する損害賠償請求権の成否)について前記5のように,F医師については過失が認められ,同人の過失により損害を生じさせたものであるから,F医師の使用者である被告豊後大野市は,民法715条1項本文に基づく損害賠償責任を負う。 争点(9)(被告C及び被告Dに対する損害賠償請求権の成否)について(1) 原告らは,国又は公共団体が国家賠償責任を負う場合であっても,公務員個人に重過失が認められる場合は,公務員個人も損害賠償責任を負うと主張する(前記第2,4(9)ア)。 (2) しかし,公務員関係については,国又は公共団体が国家賠償責任を負う場合には,公務員個人は民法上の不法行為責任を負わないと解すべきである(最高裁昭和30年判決参照)。 本件においては,前記のとおり,被告大分県が国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負うから,被告C及び被告Dは,原告らに対する不法行為責任を負わない。 (3) したがって,原告らの被告C及び被告Dに対する請求は,いずれも理由がない。 11 争点(10)(共同不法行為の成否)について(1) 以上のように,本件において,被告C及び被告Dの各過失により,Eは熱中症(熱射病)を発症し,放置されれば死亡するに至る程度の状態となった(前記2)。そして,その後に搬入された被 )について(1) 以上のように,本件において,被告C及び被告Dの各過失により,Eは熱中症(熱射病)を発症し,放置されれば死亡するに至る程度の状態となった(前記2)。そして,その後に搬入された被告病院において,直ちに冷却措置を取るなどの通常期待されるべき適切な治療が施されていれば,高度の蓋- 60 -然性をもってEを救命できた(前記7)にもかかわらず,F医師の過失により,冷却措置が直ちに取られなかったため,Eは熱射病により死亡した。そうすると,前者の被告C及び被告Dの各過失行為と後者のF医師の過失行為とのいずれもが,Eの死亡という不可分の一個の結果を招来し,この結果についてそれぞれ相当因果関係を有する関係にあるといえる。したがって,被告C及び被告Dの各過失行為は国賠法4条,民法719条1項所定の,F医師の過失行為は民法719条1項所定の共同不法行為に当たるから,これらの過失行為を理由として不法行為法上の責任を負う者は,被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきである。 (2) 本件においては,被告大分県と被告豊後大野市は,原告らとの関係において,損害の全額について連帯して責任を負う。 12 争点(11)(損害の額)について(1) Eの損害ア葬儀関係費用本件におけるEの葬儀関係費用は,150万円と認めるのが相当である。 イ逸失利益(ア) 基礎収入基礎収入は,Eが死亡した平成21年の学歴計男子労働者平均賃金である529万8200円と認められる。 (イ) 生活費控除率生活費控除率は50%とするのが相当である。 (ウ) 中間利息控除Eは死亡時17歳であり,67歳までの50年に対応するライプニッツ係数は18.256,18歳までの1年に対応するライプニッツ係数は0.952であり,それらの差は17 ある。 (ウ) 中間利息控除Eは死亡時17歳であり,67歳までの50年に対応するライプニッツ係数は18.256,18歳までの1年に対応するライプニッツ係数は0.952であり,それらの差は17.304である。 (エ) 逸失利益- 61 -逸失利益は,4584万0026円(529万8200円×(1-0.5)×17.304=4584万0026円)である。 ウ死亡慰謝料Eの死亡慰謝料は,2000万円とするのが相当である。 エ合計Eの損害の合計は,6734万0026円(150万円+4584万0026円+2000万円=6734万0026円)である。 (2) 損益相殺原告らは,本件事故により,独立行政法人日本スポーツ振興センターから死亡見舞金として2800万円の支給を受けており(前記第2,2(4)),これは,損害に対する塡補と認めるのが相当である。これによる損益相殺後のEの損害は,3934万0026円(6734万0026円-2800万円=3934万0026円)である。 (3) 相続原告A及び原告Bは,Eの有する不法行為に基づく損害賠償請求権を,それぞれ相続分2分の1により相続したから,原告A及び原告Bが相続した損害賠償請求権の金額は,それぞれ1967万0013円(3934万0026円×1/2=1967万0013円)である。 (4) 原告ら固有の慰謝料本件において認められる諸事情を総合考慮すると,原告A及び原告Bの固有の慰謝料は,それぞれ150万円とするのが相当である。 (5) 弁護士費用原告A及び原告BがそれぞれEから相続した損害賠償請求権の金額とそれぞれの固有の慰謝料の合計は,2117万0013円(1967万0013円+150万円=2117万0013円)である。 本件事案の性質等に鑑みると,本件にお れEから相続した損害賠償請求権の金額とそれぞれの固有の慰謝料の合計は,2117万0013円(1967万0013円+150万円=2117万0013円)である。 本件事案の性質等に鑑みると,本件における不法行為と相当因果関係のあ- 62 -る損害としての弁護士費用は,原告A及び原告Bにつき,それぞれ211万円と認めるのが相当である。 (6) 損害の合計損害の合計は,原告A及び原告Bそれぞれにつき,2328万0013円(2117万0013円+211万円=2328万0013円)である。 (7) 認容額したがって,原告Aは,被告大分県及び被告豊後大野市に対し,連帯して2328万0013円及びこれに対する不法行為時(本件事故発生日)である平成21年8月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ,原告Bは,被告大分県及び被告豊後大野市に対し,連帯して2328万0013円及びこれに対する不法行為時(本件事故発生日)である平成21年8月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (8) 被告大分県の過失相殺の主張について被告大分県が主張するように,Eが本件事故当時に17歳であり,成人と同程度の判断能力が備わっていたとしても,Eは,剣道場において,打ち込み稽古をする中で,自らの限界を感じ,被告Cに対して,「もう無理です。」と告げ,練習の中止を求めている(前記1(4)ウ)のであり,被告Cらは,このEの真摯な訴えを理解せず,また,意識障害が発現したEの状況を看過した上で,練習を中止させなかったものであって,このような経緯が認められる本件の事実関係のもとでは,Eに過失相殺の基礎となる過失があったと認めることはできない。 したがって,被告大分県の過失相殺 した上で,練習を中止させなかったものであって,このような経緯が認められる本件の事実関係のもとでは,Eに過失相殺の基礎となる過失があったと認めることはできない。 したがって,被告大分県の過失相殺の主張は,採用できない。 13 請求の成否以上によれば,原告Aは,被告大分県及び被告豊後大野市に対し,連帯して2328万0013円及びこれに対する本件事故発生日である平成21年8月- 63 -22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求めることができ,原告Bは,被告大分県及び被告豊後大野市に対し,連帯して2328万0013円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求めることができ,その余の請求はいずれも理由がない。 他方,原告Aの被告C及び被告Dに対する民法709条に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がなく,原告Bの被告C及び被告Dに対する民法709条に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。 14 結論よって,原告Aの請求は,被告大分県及び被告豊後大野市に対し,連帯して2328万0013円及びこれに対する平成21年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度において理由があるから認容し,被告大分県に対するその余の請求,被告豊後大野市に対するその余の請求,被告Cに対する請求,被告Dに対する請求は,いずれも理由がないから棄却し,原告Bの請求は,被告大分県及び被告豊後大野市に対し,連帯して2328万0013円及びこれに対する平成21年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度において理由があるから認容し,被告大分県に対するその余の請求,被告豊後大野市に対するその余の請求,被告Cに対する請求,被告Dに対する請求は,いずれも理由 で年5分の割合による金員の支払を求める限度において理由があるから認容し,被告大分県に対するその余の請求,被告豊後大野市に対するその余の請求,被告Cに対する請求,被告Dに対する請求は,いずれも理由がないから棄却することとする。仮執行宣言は,原告らの請求を認容した主文第1項及び第2項に付するのが相当であり,被告豊後大野市が申し立てた仮執行免脱宣言は,これを付するのは相当でない。 大分地方裁判所民事第1部裁判長裁判官中平健裁判官一藤哲志- 64 -裁判官石本慧
▼ クリックして全文を表示