平成29年8月25日判決言渡平成28年(行ウ)第354号退去強制令書発付処分等取消請求事件 主文 1 東京入国管理局長が原告に対して平成27年12月10日付けでした出入国管理及び難民認定法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。 2 東京入国管理局主任審査官が原告に対して平成28年2月29日付けでした退去強制令書発付処分を取り消す。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文第1項及び第2項と同旨第2 事案の概要本件は,インドネシア共和国(以下「インドネシア」という。)の国籍を有する女性である原告が,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号ロ(不法残留)の退去強制対象者に該当するとの東京入国管理局(以下「東京入管」といい,その長を「東京入管局長」という。)入国審査官の認定が誤りがないとの東京入管特別審理官の判定に対し,入管法49条1項の規定による異議の申出をしたが,法務大臣から権限の委任を受けた東京入管局長が平成27年12月10日付けでその異議の申出には理由がない旨裁決し(以下「本件裁決」という。),これを受けて東京入管主任審査官が原告に対し平成28年2月29日付け退去強制令書(以下「本件退令」という。)を発付したため,原告が,東京入管局長及び東京入管主任審査官の所属する被告国に対し,原告には,日本人男性と婚姻している等の事情 があるのに,原告の在留を特別に許可しないでした本件裁決は,裁量権の範囲をこえ又はその濫用があるもので違法であり,これを受けてされた本件退令発付処分も違法であるとして,これらの各取消しを求める事案である。 1 前提事実(概ね当事者間に争いがなく,甲7,乙1及び後掲 囲をこえ又はその濫用があるもので違法であり,これを受けてされた本件退令発付処分も違法であるとして,これらの各取消しを求める事案である。 1 前提事実(概ね当事者間に争いがなく,甲7,乙1及び後掲各証拠によっても認められる。)(1) 原告は,1982年(昭和57年)▲月▲日にインドネシアで出生した同国国籍を有する女性である。 (2) 原告は,平成15年11月13日,在留資格を「短期滞在」,在留期間を90日とする上陸の許可を受けて本邦に上陸した後,在留期限である平成16年2月11日までを超えて本邦にとどまり,不法残留した。 (3) 原告は,この間の平成16年▲月▲日に日本人男性のAとの婚姻を千葉県G市長に届け出たが,同年▲月▲日に離婚した(甲9)。 (4) 原告は,平成23年▲月▲日に日本人男性のBとの婚姻を千葉県H市長に届け出(甲10),同月22日,不法滞在者であることを申告するため,自ら東京入管に出頭したところ,同年6月23日,在留資格を「日本人の配偶者等」,在留期間を1年とする在留特別許可を受けた。 原告は,以後2度にわたり,1年の在留期間更新許可を受け,最終の在留期限を平成26年6月23日とされたが,同年▲月▲日,Bと離婚した(甲10)。 (5) 原告は,平成26年▲月▲日に日本人男性のC(昭和46年▲月▲日生。)との婚姻を千葉県I市長に届け出(甲3ないし5),同年11月4日,不法滞在者であることを申告するため,自ら東京入管に出頭した。 (6) 東京入管入国審査官は,平成27年2月26日,原告が入管法24条4号ロの退去強制対象者に該当すると認定し,同日,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,口頭審理の請求をした(甲16,17,乙12,13)。 (7) 東京入管特別審理官は,平成27年10月16日 号ロの退去強制対象者に該当すると認定し,同日,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,口頭審理の請求をした(甲16,17,乙12,13)。 (7) 東京入管特別審理官は,平成27年10月16日,上記(6)の東京入管入国審査官の認定が誤りがないと判定し,同日,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,法務大臣に対して異議の申出をした(甲22ないし24,乙15,16)。 (8) 入管法69条の2,同法施行規則61条の2第10号,11号により法務大臣の権限の委任を受けた東京入管局長は,同法50条1項に基づき原告の在留を特別に許可しないで,平成27年12月10日付けで,上記(7)の原告の異議の申出には理由がない旨裁決し(本件裁決),同日その旨の通知を受けた東京入管主任審査官は,平成28年2月29日,原告に対し,本件裁決を通知するとともに,退去強制令書(本件退令)を発付した(甲1,2,乙17ないし20)。 2 主な争点及び当事者の主張本件の主な争点は,原告の在留を特別に許可しないでした本件裁決の適否であり,これに関する当事者の主張は以下のとおりである。 (1) 原告の主張ア原告の在留を特別に許可すべき積極事情(ア) Cとの婚姻関係原告は,Bとの婚姻から約1年を経た平成24年夏頃から,Bのほか,原告の母親のD及びその夫のE(原告の母を,Eとの婚姻の前後を通じて「D」という。)と2世帯4人の同居生活を始めたが,平成25年9月17日から約1か月間,原告が虚血性大腸炎の疑いでF病院に入院した際,Bが原告を献身的に看護する ことなく,入院費用を支払うこともなく,また,原告が退院した頃,BがEに鼻骨骨折,顔面打撲の傷害を負わせる激しい暴力を振るったこともあり,同年11月頃,原告,D及びEの3名は,家を出てBと別居した ことなく,入院費用を支払うこともなく,また,原告が退院した頃,BがEに鼻骨骨折,顔面打撲の傷害を負わせる激しい暴力を振るったこともあり,同年11月頃,原告,D及びEの3名は,家を出てBと別居した。 原告は,同月22日,CとG市のカラオケ喫茶店の開店パーティーで出会い,互いに好感を持って連絡先を交換し,同年12月30日から交際を始めた。原告がBと離婚した後の平成26年4月前半頃,Cが原告にプロポーズして,原告もこれを受け,原告は,同年8月にCとともにI市内の同人の実家を訪ねて両親に挨拶に行って歓迎されて以来,親しく行き来するようになり,同年9月からG市内で一緒に暮らし始めた。原告とCは,同年▲月▲日に正式に婚姻したが,入籍が遅れたのは,原告とCが,日本民法の待婚期間6か月の規定を守らなければ入籍できないと考えたからであった。なお,2人が提出した婚姻届の証人欄には,Cの両親が名前を連ねていることからも,両名の婚姻はCの家族らから全面的に賛同され,応援されているものであることが明らかである。 法務省は,在留特別許可の運用の透明性を更に向上させ,不法滞在者が出頭しやすくなる環境を整備するとの観点から,その許否の判断についての基準として,「在留特別許可に係るガイドライン」(以下,平成21年7月改訂後のものを,単に「ガイドライン」という。)を策定して公表しており,地方入国管理局長は,これを踏まえて在留特別許可の許否の審査をすることになっているところ,原告は,日本人との婚姻が法的に成立し,相当期間共同生活し,相互に協力して扶助しているばかりでなく,子どもこそいないものの,双方の家族,親族らから完全に祝福され,婚 姻が安定かつ成熟しているといえ,ガイドライン上の「特に考慮する積極要素」が認められる。 (イ) 本邦への定着性 でなく,子どもこそいないものの,双方の家族,親族らから完全に祝福され,婚 姻が安定かつ成熟しているといえ,ガイドライン上の「特に考慮する積極要素」が認められる。 (イ) 本邦への定着性原告は,21歳という若年時から,本件裁決時点まででも12年以上にわたって日本に継続的に生活しており,その間に愛する日本人男性とも巡り会っているばかりでなく,実の母親であるDも日本に正規滞在し,原告の義理の父親であるEも日本人である。 原告の日本語は極めて流暢であり,日本の習慣にも慣れ親しんでいるばかりか,本件裁決時点で本人の思考言語はとうに日本語となっていた。 したがって,原告は,ガイドライン上の「本邦での滞在期間が長期間に及び,本邦への定着性」が十分に認められ,「積極要素」が顕著に認められる。 (ウ) 出頭申告さらに,原告は,ガイドラインにいう「不法滞在者であることを申告するため,自ら地方入国管理官署に出頭した」との「積極要素」にも当たる。 (エ) 本国に送還することによる支障原告は,インドネシアで生存可能なほどの収入を得た稼働経験を有さず,インドネシアで生存していくことはできない。本国の弟2人は年に1度連絡を取るか否かの浅い関係で,しかも貧窮に喘いでおり,妹も,夫と離婚せざるを得ない状況に追い込まれ,Cが弁護士費用を貸したばかりで,生活の見通しの立たない不安な状況であって,原告の弟妹が原告を支えることは決してない。 Cは,日本においてハウスクリーニング,図面作成などを自営業で行っており,長期休暇は顧客を失うことを意味するから,C が長期休暇を取ってインドネシアに通ったり,両国での二重生活を送ったりすることは不可能であるし,スカイプや電話やメールだけで夫婦生活の維持を要求することは,あまりに残酷である。 るから,C が長期休暇を取ってインドネシアに通ったり,両国での二重生活を送ったりすることは不可能であるし,スカイプや電話やメールだけで夫婦生活の維持を要求することは,あまりに残酷である。 原告をインドネシアに送還することは,経済面においても,愛情面においても,原告の生活を破滅させることを意味し,子を持つという原告の夢も絶つこととなる。 イ原告の在留を特別に許可するに当たっての消極事情(2度の不法残留)について原告が平成26年6月23日に超過滞在になってしまってから,同年11月4日に自主出頭するまで,僅か4か月半である。被告は,不法残留したとの事実のみから,原告の在留状況が悪質であることは明らかであると主張するが,ガイドラインによれば,超過滞在は在留特別許可の「消極要素」とされておらず,完全な自己矛盾を来している。 また,原告は,過去に退去強制手続を受けたことが1度あるが,その際,在留特別許可を与えられているため,ガイドライン上の「消極要素」に仮に当たるとしても,その消極要素は重視すべきではない。 原告が超過滞在になる直前の正規滞在中に入院治療を行い,その後も通院中であった事実,原告がCとともに自主出頭し,夫婦ともども深い反省を見せている事実等にも鑑みれば,原告が今回超過滞在になってしまったことをもって,原告に退去強制の命令まで課すことは,あまりにもバランスを失した判断と評価せざるを得ず,比例原則に反し,違法である。 ウまとめ本件裁決は,ガイドラインに従った判断とは到底いえず,その基 準から大きく外れた判断を行ったことは,その判断の誤りの原因が事実誤認であったにせよ,他の原因だったにせよ,裁量を完全に逸脱するものであり,違法である。日本人配偶者と婚姻し,1年以内の婚姻期間で,子が無く きく外れた判断を行ったことは,その判断の誤りの原因が事実誤認であったにせよ,他の原因だったにせよ,裁量を完全に逸脱するものであり,違法である。日本人配偶者と婚姻し,1年以内の婚姻期間で,子が無くとも,自主出頭のケースのみならず,当局摘発のケースにおいてすら,在留特別許可を認められることに鑑みれば,これより保護すべき原告に在留特別許可を与えない本件裁決の判断は,平等原則にも完全に反し,違法である。法務大臣の行政裁量はおろか,地方入国管理局長の行政裁量が無制限であるはずがなく,法の趣旨・平等原則・信義則等に拘束されることは,法治国家であれば当然のことである。 違法な本件裁決を前提とする本件退令発付処分も違法である。 (2) 被告の主張ア原告の在留を特別に許可すべきでない消極事情(ア) 2度の不法残留不法残留については,入管法70条1項5号により懲役刑も科し得る違法性の高い犯罪行為とされていることに照らせば,このような刑罰規定に該当する行為は,それ自体が重要な国家社会的な法益の侵害である。したがって,理由や目的のいかんを問わず,不法残留したとの事実だけをみても,原告の在留状況は悪質であることは明らかである。原告は,不法残留が違法であることを認識しながら,自らの個人的な都合により,あえて不法残留することを選択したものであって,原告の遵法意識の欠如は顕著である。 不法残留期間が短期であるとの理由により,その悪質性が減殺されるものではないし,原告の体調不良は,原告が不法残留した理由の1つとはいえない。 原告は,過去にも,不法残留した上で,退去強制手続を経て在 留特別許可を受け,本邦に適法に在留をし続けるためには,我が国の法令を遵守しなければならないことを十分理解していたはずであるにもかかわらず,原告は,個人的な した上で,退去強制手続を経て在 留特別許可を受け,本邦に適法に在留をし続けるためには,我が国の法令を遵守しなければならないことを十分理解していたはずであるにもかかわらず,原告は,個人的な理由により,あえて不法残留し,再び入管法所定の退去強制事由に該当することとなったものであって,原告の規範意識は著しく鈍麻しているというほかなく,そのような原告に対して,再度,恩恵としての在留特別許可を付与するのは相当でないというべきである。 以上のとおり,原告は,2度にわたり不法残留し,安易に我が国の法秩序を侵害したものであって,原告の在留状況は悪質というほかなく,このような事情は,原告の在留特別許可の許否判断に際し,重要な消極要素として考慮されるべきである。 (イ) 外国人登録法(平成21年法律第79号による廃止前のもの。以下「外登法」という。)上の義務違反原告は,Aと離婚した後すぐにA宅からEとDが居住する家に転居し,Bと婚姻してB宅に転居するまではE宅に居住していたにもかかわらず,A宅からE宅へ転居した平成16年6月29日の後すぐ,外登法で定められている居住地等の変更登録をせず,平成23年▲月2日までこれを行わなかったところ,その理由は,自らの不法残留事実の発覚を免れようとしたものであると推認される。このような原告の行動は,外登法の趣旨(同法1条)に反し,罰則規定にも抵触するものであり,この点も,原告の在留状況の悪質性を基礎付ける一事情として,在留特別許可の許否の判断に当たり消極要素として斟酌されることは当然である。 イ原告の在留を特別に許可するに当たっての積極事情について(ア) Cとの婚姻関係について退去強制事由に該当する外国人に日本人の配偶者がいること は,法務大臣及び地方入国管理局長(以下「法務大 在留を特別に許可するに当たっての積極事情について(ア) Cとの婚姻関係について退去強制事由に該当する外国人に日本人の配偶者がいること は,法務大臣及び地方入国管理局長(以下「法務大臣等」という。)が当該外国人に対して特別に在留を許可すべきか否かの判断をする際に斟酌される事情の一つとはなり得るものの,法務大臣等の裁量権の行使を制約するものではないところ,不法残留という違法状態の上に築かれた婚姻関係については保護すべき必要性が低いというべきである。 原告及びCは,原告が不法残留し,本国に退去強制される可能性があることを承知の上で,不法残留という違法状態の下で婚姻したといえるから,仮に,原告が本国に送還されることにより,何らかの不利益や不便が生じたとしても,そのような事情は両名において甘受すべきである。原告とCが婚姻してから本件裁決時までの期間は約1年2か月程度(同居期間もこれを若干上回る程度)であり,両者の間に子は存しないことからすれば,原告とCの婚姻関係は,本件裁決時において,いまだ安定かつ成熟したものであったとまではいうことができないから,原告の在留特別許可の許否判断において格別有利に斟酌すべき事情とはいえない。 ガイドラインは,在留特別許可に係る基準ではなく,その許否判断に当たり考慮する事項を例示的に示したものにすぎないものであり,ガイドラインを根拠に在留特別許可を付与すべきであるということにはならず,まして在留特別許可をしなかったことが法務大臣等に与えられた裁量権の逸脱・濫用になるということはない。 (イ) 本邦への定着性について原告の本件裁決時までの本邦在留期間である約12年間のうち,原告が本邦に正規在留していた期間は,僅か3年3か月にすぎず,そのほとんどが不法に滞在していた期間なのであり, 本邦への定着性について原告の本件裁決時までの本邦在留期間である約12年間のうち,原告が本邦に正規在留していた期間は,僅か3年3か月にすぎず,そのほとんどが不法に滞在していた期間なのであり,この ような滞在をもって,原告が本邦に十分定着していたなどとは到底いえないから,原告の在留期間は,在留特別許可の許否判断において格別有利に斟酌すべき事情とはいえない。原告が,長期間にわたって本邦での不法残留を継続していたとの事実は,原告の違法行為が長期間に及んでいることを意味するものにほかならず,不法滞在中に本邦に生活基盤等を築いたとしても,直ちに法的保護を受ける筋合いのものではない。 (ウ) 出頭申告について原告が東京入管に出頭申告したことは,在留特別許可の許否の判断に当たり,斟酌される一事情にすぎず,出入国管理行政の適正な執行を見合わせてまで原告を法的に保護しなければならない事情とはいえないと判断されたとしても,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえない。 (エ) 本国に送還することによる支障について原告は,インドネシアにおいて生まれ育ち,同国の高校を卒業しており,本邦入国後は,食品製造工場,果物梱包工場で稼働するなど,稼働能力を有する成人女性である。また,本国には原告の2人の弟及び1人の妹が居住しており,妹とは1か月に一,二回くらい連絡を取っているというのであるから,原告と本国の家族との交流は維持されているといえる。 原告が本国に帰国したとしても,現代のように国際化が進んだ社会においては,夫婦等が異なる国で生活することはある程度起こり得ることであり,また,今日の交通手段及び通信手段の発達により,Cが本邦とインドネシアを往来したり,電話,電子メールやインターネット等の手段を用いて交流 婦等が異なる国で生活することはある程度起こり得ることであり,また,今日の交通手段及び通信手段の発達により,Cが本邦とインドネシアを往来したり,電話,電子メールやインターネット等の手段を用いて交流したりすることは可能であるから,原告が退去強制されることにより,必ずしも原告 とCとの別離を余儀なくされるというものでもない。 以上の事情を考慮すれば,原告の本国での生活に特段の支障があるとは認められず,原告を本国へ送還することに特段の支障はないというべきである。 ウまとめ在留特別許可は,入管法上,退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人に恩恵的に与え得るものにすぎず,その許否に関する法務大臣等の裁量の範囲は,相当性の要件が定められている在留期間の更新の許否に関する裁量の範囲よりも質的に格段に広範なものであり,在留特別許可を付与しないという法務大臣等の判断が裁量権の逸脱濫用に当たるとして違法とされるような事態は容易には想定し難く,極めて例外的にその判断が違法となり得る場合があるとしても,在留特別許可の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきところ,本件において,そのような極めて特別な事情があるということはできないから,東京入管局長の判断に裁量権の逸脱,濫用はなく,本件裁決は適法である。在留特別許可は,比例原則にのっとって許否の判断をするものではないし,その許否を拘束する行政先例ないし一義的基準なるものも存在せず,これを付与された他の事例と比較して平等原則に違反するなどということはできない。 本件裁決が適法である以上,本件退令発付処分も当然に適法である。 第3 当裁判所の判断 1 原告の在留を特別に許可しないでした本件裁決の適否(1) 裁決行 するなどということはできない。 本件裁決が適法である以上,本件退令発付処分も当然に適法である。 第3 当裁判所の判断 1 原告の在留を特別に許可しないでした本件裁決の適否(1) 裁決行政庁の裁量について ア国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを,当該国家が自由に決定することができるものとされているから,憲法上,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものでもないと解すべきである(最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。 この憲法の趣旨を前提として,入管法は,外国人に対し,原則として一定の期間を限り,特定の在留資格により我が国への上陸を許すこととした上で,その在留期間が経過し又は在留資格を取り消される等の退去強制事由に該当する者は,出国命令対象者となる所定の要件に該当するか否かにより,出国命令により定められた出国期限までに,あるいは直ちに我が国から退去しなければならないものとしている。 イもっとも,入管法50条1項は,外国人が上記の退去強制事由に該当するとの入国審査官の認定が誤りがないとの特別審理官の判定に対し,当該外国人から異議の申出がされた場合,法務大臣においてその異議の申出が理由がないと認める場合でも,当該外国人の在留を特別に許可することができるという在留特別許可の制度を設けているが,これを認めるための要件は,本邦との強い関係性を示す一定の事情や他人の支配下に置かれて本邦に在留するという人道的に考慮すべき事情のほかは 許可することができるという在留特別許可の制度を設けているが,これを認めるための要件は,本邦との強い関係性を示す一定の事情や他人の支配下に置かれて本邦に在留するという人道的に考慮すべき事情のほかは,概括的に「法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」と規定するにとどめ,それ以上に,その許否の判断の要件ないし基準となる事項を定めてい ない。 これは,外国人に対する在留特別許可の許否を決するに当たっては,国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定などの国益を保持する見地から,当該外国人の在留中の一切の行状,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情を総合的に考慮して,時宜に応じた的確な判断をすることが必要であり,このような判断は,出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければ適切な結果を期待することができないと考えられることから,その判断を法務大臣の広範な裁量権に委ねる趣旨であると解される。そして,この理は地方入国管理局長が法務大臣から権限の委任を受けてその許否の判断をする場合においても基本的に変わらないと考えられる。 ウしたがって,退去強制対象者である外国人の在留を特別に許可するか否かについての法務大臣等の判断は,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限って,裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるというべきである(行政事件訴訟法30条参照)。 そこで以下,上記の見地に立って,東京入管局長による本件裁決に,裁量権の範囲をこえ又はその濫用がある違法があっ その濫用があったものとして違法であるというべきである(行政事件訴訟法30条参照)。 そこで以下,上記の見地に立って,東京入管局長による本件裁決に,裁量権の範囲をこえ又はその濫用がある違法があったといえるかを検討する。 (2) 認定事実前提事実及び証拠によれば,以下の各事実が認められ,これらに反する証拠は信用することができない。 ア原告は,1982年(昭和57年)▲月▲日,インドネシアで, 後に死別したタイ人の実父と実母Dとの間に,2男2女の第1子として出生した同国国籍を有する女性である(前提事実(1),甲38の2~3頁,甲43の1頁,乙4の1頁・5頁,乙7の4頁)。 イ原告は,本国で,2001年(平成13年)6月に秘書業を学ぶ職業高校を卒業後,エアロビクスのインストラクターとして稼働したが,生計を立てられず,平成15年11月13日,当時本邦に不法に滞在していたDの反対を押して来日することを決意し,在留資格を「短期滞在」,在留期間を90日とする上陸の許可を受けて本邦に上陸し,当時Dが身を寄せていたG市内のE宅で生活するようになり,外登法に基づき,同所に外国人新規登録をした(前提事実(2),甲7,甲38の3頁,乙1,乙3の2丁,乙4の2頁,乙7の4頁,乙23,原告本人8頁)。 ウ原告は,間もなく,大工を業とするEが同じ大工として使用していたAと親しくなり,当時Dとの関係が芳しくなかったこともあって,EとDの反対にもかかわらず,平成16年▲月▲日にAとの婚姻を届け出て,千葉県J市内に転居してA及びAの母と同居するようになり,同年2月9日にその転居の旨の変更登録をした。しかし,やがて原告は,Aから暴力を受け,「やくざに売るぞ」と脅されるなどして,助けを求めてEに架電し,Eが原告を迎えに行き,E宅に迎え入れ うになり,同年2月9日にその転居の旨の変更登録をした。しかし,やがて原告は,Aから暴力を受け,「やくざに売るぞ」と脅されるなどして,助けを求めてEに架電し,Eが原告を迎えに行き,E宅に迎え入れた。以後,Aが原告を引き取るためE宅を訪れることもあったが,原告はAの下には戻らず,同年▲月▲日にAと離婚した。 (前提事実(3),甲38の4~5頁,甲42の1~2頁,乙7の5頁,原告本人11頁)この間,原告の在留期間は同年2月11日までをもって満了し,以後,原告は,本邦に不法に残留した(前提事実(2))。 エ Dは,平成17年4月14日,不法滞在外国人として摘発され, 同年6月2日に入管法24条1号(不法入国)に該当するとして再度の退去強制をされたが,同年末頃には再度本邦に不法入国し,平成18年10月30日に再び摘発され,平成19年5月1日に再々度の退去強制をされた。Dは,この間の平成18年▲月▲日にEとの婚姻を届け出ており,Eがインドネシアを2度訪れ,Dの招聘を願い出るなどしつつ,平成20年及び平成21年の2度,「日本人の配偶者等」の在留資格認定証明書の交付を申請したところ,2度目の同年9月10日にその交付を受け,同年10月13日,在留資格を「日本人の配偶者等」,在留期間を1年とする上陸特別許可を受けて本邦に上陸し,改めてE宅で生活するようになった。以上の間,原告はE宅で生活していた。(甲8の3,乙14の8頁,乙23,24,原告本人11~13頁)オ原告は,平成22年頃,Bと見合いして,以後,交際するようになり,平成23年▲月2日,G市内にEを世帯主としてその妻の子として変更登録をした後,同月▲日にBとの婚姻をH市長に届け出るとともに,同市内にBを世帯主としてその妻として変更登録をした。原告は,同月22日,不法滞在 月2日,G市内にEを世帯主としてその妻の子として変更登録をした後,同月▲日にBとの婚姻をH市長に届け出るとともに,同市内にBを世帯主としてその妻として変更登録をした。原告は,同月22日,不法滞在者であることを申告するため,自ら東京入管に出頭して,同年6月23日,在留資格を「日本人の配偶者等」,在留期間を1年とする在留特別許可を受け,平成24年4月12日と平成25年5月8日にそれぞれ1年の在留期間更新許可を受け,最終の在留期限を平成26年6月23日とされた。 (前提事実(4),甲7,31,甲38の5頁,乙1,甲42の2頁,乙7の3~5頁,乙14の4~5頁,乙22,26)カこの間,Bは,平成24年頃から,原告に時折暴力を振るうようになり,原告は,同年7月5日には,G市内に変更登録をして,Bのほか,E及びDとも2世帯4人で同居するようになった。原告は, 平成25年9月17日から約1か月間,虚血性大腸炎の疑いでF病院に入院したが,Bは病院にほとんど顔を見せず,入院費もBは支払わずに原告が自身で負担するところとなり,Bは,原告の退院後,原告に離婚の意思を告げた。(甲7,11,12,甲38の1頁・5頁,甲42の2頁,乙1,乙3の1~2丁,乙7の6頁,乙25)キ平成25年10月21日,Eが原告と出掛けたことがきっかけでBがEを殴打してEに鼻骨骨折,顔面打撲の傷害を負わせ,警察沙汰になる事件が発生し,E,D及び原告の3名は間もなくG市内で転居し,原告は,同年12月12日,平成24年7月9日に施行されていた改正入管法に基づき,転居を届け出た。(甲7,13,甲38の5頁,甲42の3頁,乙1,乙7の6~7頁,乙25,26)クこの間の平成25年11月20日頃,Cの仕事の親方がリフォームし,Eが改築工事に携わったG市内のカラオケ喫 出た。(甲7,13,甲38の5頁,甲42の3頁,乙1,乙7の6~7頁,乙25,26)クこの間の平成25年11月20日頃,Cの仕事の親方がリフォームし,Eが改築工事に携わったG市内のカラオケ喫茶店の開店祝いがあり,EやCが招待されたパーティーの席に,原告も同席した。 10名ほどの参加者の多くが年配であったこともあり,原告は比較的若かったCと会話するところとなり,両名は,その日のうちにメールアドレスを交換して,以後,週に数回メールを交わし,やがて食事やカラオケ,ボウリングに一緒に行く関係になった。同年12月30日,Cが原告に男女の交際を申し込み,Cの礼儀正しさや優しさに惹かれるようになっていた原告もこれを応諾した。この頃までに,Cは,原告が他の男性と結婚したままの状態にあることを認識したが,原告がBとの離婚を平成26年▲月▲日に届け出たと聞いたのを待ってから,初めて原告と肉体関係を結んだ。(前提事実(4),甲38の5~6頁,甲39の3頁,甲42の3頁,乙3の2~3丁,乙4の3頁,乙5の1頁,乙7の8~10頁,乙8の4~6頁) ケ Cは,10年以上前に独立してハウスクリーニングと図面作成の仕事を自営しており,休みは少なかったが,この頃,原告と,週に2回は夕食を共にし,2週に1回は昼間のデートもしていた。平成26年4月頃,Cが原告に将来の結婚のことを話すと,原告は,Cに対し,自身の在留期限が同年6月に迫っていることを告げた。原告は,同年4月15日から同年5月10日まで,潰瘍性大腸炎が再発したとして再度F病院に入院したところ,Cはこまめに見舞いに赴いた。原告は,退院後間もない同月13日,Eに連れられて東京入管千葉出張所に赴き入管法19条の16第3号に基づくBとの離婚の届出をするとともに,Cとの婚姻についても職員に相談し はこまめに見舞いに赴いた。原告は,退院後間もない同月13日,Eに連れられて東京入管千葉出張所に赴き入管法19条の16第3号に基づくBとの離婚の届出をするとともに,Cとの婚姻についても職員に相談したところ,職員から,在留期限が1か月後なので本国に帰国しなければならないと言われ,出張所のそばにあった行政書士の事務所にも相談したが,一旦帰国した上,Cを介して在留資格認定証明書の交付を受ける手順を踏むこと(入管法7条の2参照)を勧められた。 原告は途方に暮れ,Cは原告の離婚後6箇月の待婚期間(平成28年法律第71号による改正前の日本民法733条1項(以下「本件待婚規定」という。)によるもの)が経過するのを待って原告との婚姻手続をしようと思い,その後行政手続をとらずに時が過ぎるまま,原告は,平成26年6月23日の在留期限を超えて本邦に残留した。(甲14の1~15,甲38の6~7頁,甲39の2頁・4頁,甲42の3頁,甲44,乙3の1丁・3丁,乙4の7頁,乙5の2頁,乙6,乙7の7頁・10頁,乙8の6頁・10~11頁,乙14の7頁,証人C3~6頁・12頁・18~20頁,原告本人14~18頁)コ平成26年7月,Eが肩の手術を受けるために入院することとなり,遅くともこの頃にはCと原告が結婚を考えているとの報告を受 けていたEは,家に男手が無いと困るとの名目で,入院中,Cに自宅に泊まるよう促したところ,Cは,これに応じて,約1か月間,主にEが不在の家でDと原告と起居する生活をした。Cは,同年8月初め,原告に正式に結婚を申し込み,原告もこれを応諾したため,同月4日,原告を実家に連れて行き,両親に婚約者として顔合わせをしたところ,両親もこれを歓迎した。原告は,同年9月頃からCの家で生活するようになり,同年10月頃には原告の荷物も全て運 応諾したため,同月4日,原告を実家に連れて行き,両親に婚約者として顔合わせをしたところ,両親もこれを歓迎した。原告は,同年9月頃からCの家で生活するようになり,同年10月頃には原告の荷物も全て運び込んで,以後,同居している。Cと原告は,本件待婚規定による原告の待婚期間経過後,同年▲月▲日に駐日インドネシア大使館に婚姻を届け出,同月▲日,連れ立ってI市役所に赴き,Cの両親が証人となった婚姻届を提出した。Cは初婚であり,Cの親戚に外国人と婚姻歴のある者もいない。(前提事実(5),甲5,33,甲38の7頁,甲39の4頁,甲40,41,乙4の3頁,乙7の10~11頁,乙8の7~10頁,証人C1~2頁・9頁・20~21頁,乙25)サ原告は,平成26年11月4日,不法滞在者であることを申告するため,Cと連れ立って,東京入管に出頭したところ,東京入管入国審査官は,平成27年2月26日,原告が入管法24条4号ロ(不法残留)の退去強制事由に該当すると認定した。当該認定が誤りがないとの同年10月16日の東京入管特別審理官の判定に対し,原告が異議を申し出たところ,法務大臣の権限の委任を受けた東京入管局長は,原告の在留を特別に許可しないで,当該異議の申出には理由がない旨,同年12月10日付けで裁決し(本件裁決),平成28年2月29日月曜日,原告にその旨が通知された。原告は,東京入管主任審査官の発付した同日付け本件退令に基づき,そのまま東京都品川区所在の東京入管収容場に収容されたため,Cは,仲間 に無理を頼み込んで仕事を休み,即日,EとDに連絡して3人で上京して原告と面会し,さらに,翌同年3月1日,予定されていた現在の肩書住所地への転居の作業をEとDに委ね,自身の両親を連れて原告を面会に訪れた。Cは,更に同月8日までの平日は毎日,そ して3人で上京して原告と面会し,さらに,翌同年3月1日,予定されていた現在の肩書住所地への転居の作業をEとDに委ね,自身の両親を連れて原告を面会に訪れた。Cは,更に同月8日までの平日は毎日,その後も原告が同月22日に仮放免を許可されて出所するまで週に二,三度は,原告を面会に訪れるとともに,面会に行けない日も,原告から毎日架かってくる電話を介して原告を励ました。原告は,収容中から腹痛,下痢,不眠の症状が続き,同日から同年4月11日まで潰瘍性大腸炎でF病院に入院した。 (前提事実(5)ないし(8),甲6,25,26の1・2,甲38の7~8頁,甲39の4~5頁,甲48,49の1~10,乙2ないし6,乙14の11~12頁,乙20,21,証人C2~7頁)シ Cと原告は,平成28年▲月▲日,千葉県K市のブライダルサロンで,Cの両親並びにE及びDも参列して,結婚披露宴を挙げた(甲15,32,40)。 (3) 検討ア原告の在留を特別に許可するに当たっての消極事情(在留状況等)について(ア) 不法残留について被告は,理由や目的の如何を問わず,原告が不法残留したとの事実だけでも悪質であるとし,さらに,原告が自らの個人的な都合によりあえて不法残留することを選択し,原告が過去にも不法残留後に在留特別許可を受けていたにもかかわらず再び不法残留したことは,原告の規範意識の著しい鈍麻を示すものであり,重要な消極要素として考慮されるべきである旨主張する。 そこで,原告が不法残留するに至った経緯をみると,上記(2) の認定事実によれば,原告とBは,平成23年▲月に婚姻したものの,Bが時折暴力行為に及ぶようになった上,平成25年10月頃には原告に対して離婚の意思を表明し,その頃,BがEを殴打した事件が契機となって別居し,平成26 原告とBは,平成23年▲月に婚姻したものの,Bが時折暴力行為に及ぶようになった上,平成25年10月頃には原告に対して離婚の意思を表明し,その頃,BがEを殴打した事件が契機となって別居し,平成26年▲月▲日に至って離婚の届出がされた(認定事実オないしキ)。一方,原告とCは,平成25年12月頃から男女の交際をするようになり,平成26年4月頃には結婚の方向で話をしていたものの(認定事実ク及びケ),この時点では,本件待婚規定が定めるとおり,待婚期間が6か月として法律が運用されていたことから,原告の在留期限である同年6月23日までに原告とCが婚姻することは困難な状況にあった。原告は,このような状況を前提としつつ,Bとの婚姻の際には不法残留となった後に出頭申告して「日本人の配偶者等」の在留資格を得られた経験があること(認定事実オ)や,実母Dの例からして,一旦本国に帰国した場合には,その後に日本人との婚姻を届け出たとしても速やかに「日本人の配偶者等」の在留資格で再上陸することには困難を伴うといった認識があったこと(認定事実エ,原告本人12~13頁)から,同年5月13日に東京入管千葉出張所を訪れた際には職員や行政書士から帰国を慫慂されたにもかかわらず(認定事実ケ),不法残留してでもCと離れない方がよいと判断するに至ったことがうかがわれる。 しかしながら,そもそも,本件待婚規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分は,遅くとも平成20年当時において,憲法14条1項,24条2項に違反する違憲の規定となっていたものであり(最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照),本件待婚規定のうち当該違憲部 分の規定がなければ,原告とCは,原告がBとの離婚を届け出た平成26年▲月▲日から100日を経過した同年 月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照),本件待婚規定のうち当該違憲部 分の規定がなければ,原告とCは,原告がBとの離婚を届け出た平成26年▲月▲日から100日を経過した同年▲月▲日(原告の在留期間内)には婚姻を届け出ることが可能な法状態にあったということができる。 このように,原告が不法残留するという判断に至った前提となった法律の運用に,客観的にみれば本来あるべき法状態に反する状況があったといえることが明らかになっていることを勘案すると,原告が自らの個人的な都合によりあえて不法残留することを選択したことが悪質である旨の被告の主張は,その前提において必ずしも適切ではなく,不法残留の状態となったことの責任を原告の個人的な都合のみに帰することは相当ではないといわざるを得ない(なお,本件の実際の経過としては,原告は,Bとの離婚届出後本件待婚規定による待婚期間を経過した直後にCとの婚姻を届け出ているわけではないが,これは,Cが平日昼間に仕事の休みを取れ,原告と連れ立ってI市役所に赴くことのできた日にまで延びたにすぎず(証人C21頁),原告の在留期間が経過してしまっているという状況下において,そのような経過を辿ったにすぎないものと考えられる。)。 以上によれば,原告の不法残留は,Cとの婚姻届出直後に自ら出頭申告したという原告の在留特別許可の許否判断に当たって斟酌すべき事情によって減殺してもなお余りのあるほどの重要な消極要素と評価されるべき悪質性には欠けるといわざるを得ないから,これを重要な消極要素として考慮することは合理的であるとはいえない。 (イ) 外登法上の義務違反について被告は,原告が,平成16年▲月▲日にAと離婚した後,平成 23年▲月2日まで外登法上の居住地等の変更登録をしなかっ 合理的であるとはいえない。 (イ) 外登法上の義務違反について被告は,原告が,平成16年▲月▲日にAと離婚した後,平成 23年▲月2日まで外登法上の居住地等の変更登録をしなかったことは,原告の在留状況の悪質性を基礎付け,その在留特別許可の許否判断に当たり消極要素として斟酌されることは当然であると主張する。 この変更登録懈怠の点は,確かに,原告に対して一定の非難を加えるに値し,原告の在留特別許可の許否判断に当たっての消極要素の1つとして斟酌されることが必ずしも不合理であるとはいえないとしても,この点については,そもそも答弁書で主張されておらず,本件裁決時に真にこの点が消極要素として斟酌されたのか定かでない上,原告がBとの婚姻後に在留特別許可を受ける以前の事情にとどまることを勘案すると,消極要素として必ずしも重大な事柄であるとまではいい難いものと解される。 イ原告の在留を特別に許可するに当たっての積極事情(家族関係等)について(ア) 上記(2)の認定事実によれば,原告は,日本人男性のCと婚姻関係を築いているところ,①原告とCの関係は,出会いから関係が徐々に醸成される過程も順を追ってごく自然であり,婚姻が届け出られる前の期間においても真摯に交際を発展させていったことが認められ,両名の家族ともすべからくその関係を祝福していたとうかがわれること,②両名の精神的なつながりは,Cにおいては本件裁決通知直後の収容時に原告を頻回に面会に訪れる等した状況から,また,原告においては,本件裁決後の本件訴訟における尋問時ではあるものの,通り一遍ではない仕方でCへの愛情を表現していること(原告本人7頁・19頁参照)から認められることなどにも照らすと,原告とCとの婚姻関係は,婚姻届から本件裁決通知まで1年4か月余りの期間にとど の,通り一遍ではない仕方でCへの愛情を表現していること(原告本人7頁・19頁参照)から認められることなどにも照らすと,原告とCとの婚姻関係は,婚姻届から本件裁決通知まで1年4か月余りの期間にとどまり,い まだその間に子がなかったとしても,本件裁決時においても既に,真摯で安定かつ成熟した婚姻関係であると評価すべき素地が十分にあったものと認められる。 この点,原告の前婚及び前々婚に係る婚姻関係は,短期間ないし長くない期間で破綻するに至っているものの,過去の配偶者であったA及びBと,今回の配偶者であるCとでは,性格,気質に有意な相違があって,原告の実母であるDや義父であるEとの関係も大きく異なっているとみられることや,原告の過去の2度の婚姻関係と今回のCとの婚姻関係との間では,原告と配偶者家族との関係の安定性についても相当の径庭があるとうかがわれることからすれば,これらの婚姻関係の間には,質的に大きな相違があるとみるのが合理的である。すなわち,本件裁決時,過去の原告の婚姻歴等から今回のCとの婚姻関係の安定・成熟性を推し量ることには慎重であるべき事情があったと解されるのに,本件裁決に際してこの点が慎重に考慮された形跡がないまま,原告とCの婚姻関係の安定・成熟性についての検討,評価がされたものとすれば,本件裁決時における基礎事情の評価として,必ずしも合理的であったということはできない。 (イ) 被告は,Cが,原告の在留期限が迫っていることを平成26年4月頃には知りながら,原告の在留期限は自分には関係ないと考えるなどして,何らの方策を採ることもなく漫然と原告を不法残留するに至らせたことからすれば,原告とCの婚姻関係は婚姻意思に基づく真摯な関係であったとは評価できない旨主張する。 この点,確かに,Cは,同年5月に原告が 策を採ることもなく漫然と原告を不法残留するに至らせたことからすれば,原告とCの婚姻関係は婚姻意思に基づく真摯な関係であったとは評価できない旨主張する。 この点,確かに,Cは,同年5月に原告が東京入管千葉出張所に出頭した際には原告に同行しておらず(認定事実ケ),原告と の婚姻を届け出るまでの間に原告の在留資格の問題を解決するための積極的な行動に出ていないけれども,Cは,過去に外国人とはもちろん,日本人とも婚姻歴のない初婚で,そうしたことについての経験が浅かった上に,身近な外国人である原告はBと婚姻したことで在留特別許可を受けられており,DもEとの婚姻に基づいて本邦に在留できていたという環境にあったことからすれば,外国人であっても結婚したら普通に日本で生活できるものと思っていた旨のCの弁明(証人C16~17頁)も,あながち不自然なものとまではいい難く,いずれにしても,上記(ア)で判示した原告とCの関係や両名の精神的なつながりに照らせば,そのような不作為の一事をもって,原告とCの婚姻関係が真摯性のないものであると評価することは合理的ではないといわざるを得ない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ) 被告は,原告の不法残留という違法状態の上に築かれたCとの婚姻関係は,保護すべき必要性が低く,仮に原告が本国に送還されることにより何らかの不利益や不便が生じたとしても,そのような事情は両名において甘受すべきである旨主張する。 しかしながら,本件において原告が不法残留するという判断に至った前提には,上記ア(ア)においてみたとおり,本件待婚規定に違憲とされるべき部分があり,客観的にみれば本来あるべき法状態に反する法運用状況があったといえることが明らかになっていることからすると,不法残留となった後に (ア)においてみたとおり,本件待婚規定に違憲とされるべき部分があり,客観的にみれば本来あるべき法状態に反する法運用状況があったといえることが明らかになっていることからすると,不法残留となった後に婚姻を届け出たからといって,それを専ら原告とCの責めに帰すべきものとして,送還による不利益を甘受することが当然であると評価することは必ずしも相当とはいえない。 加えて,入管法上,「日本人の配偶者等」の在留資格の取消しに関しては,6月以上の期間にわたり一定の取消事由が継続している場合であっても,別の在留資格への変更等の蓋然性を支える特段の事情があり得ることを考慮して,その申請の機会を与えるべきことを定める規定が存在し(入管法22条の5),例えば,「日本人の配偶者等」として長期に在留している者が相手方の不倫等その責めに帰さない一方的事由により別居のやむなきに至った場合で,「定住者」等の在留資格への変更が見込まれるときには,取消しにより直ちに在留資格の喪失をもたらすような硬直的な取扱いとならないように配慮することを通じて,変更後の在留資格による保護が図られるようになっている。この規定の趣旨に照らせば,「日本人の配偶者等」の在留資格を有する者につき,取消事由の継続が6月に満たないままに,その在留期間中に,許容され得る活動に基づいて新たな在留資格の取得の蓋然性を支える特別の事情が生じている場合においても,同様の保護が図られることが相当であるということができ,そのような場合において,在留資格の変更手続を経ないままに在留期間を徒過するに至った事情次第によっては,変更後の在留資格の基礎となる関係が在留期間の徒過後に形成されたものであったとしても,一律にそれが違法状態の上に築かれたものとして保護の必要性が低いと評価することが必ずしも相 た事情次第によっては,変更後の在留資格の基礎となる関係が在留期間の徒過後に形成されたものであったとしても,一律にそれが違法状態の上に築かれたものとして保護の必要性が低いと評価することが必ずしも相当でない場合もあると考えられるところである。 しかるところ,本件においては,原告が,前夫のBの暴力等が背景にある中で同人と別居に至り,在留資格を有する期間においてCとの真摯な交際を経て婚姻を決意していたところ,在留期間経過後,一部違憲であった本件待婚規定に基づく6か月の待婚期 間の経過を待って速やかに婚姻を届け出たという経緯があるのであるから,この婚姻につき,不法残留という違法状態の上に築かれたものであるとして保護の必要性が低いと評価することは,当を得ないものというべきである。 したがって,被告の上記主張は,本件においては適切でない。 (エ) 上記(ア)及び(イ)で検討したとおり,原告とCとの婚姻関係は真摯なものといえ,本件裁決時においても既に安定かつ成熟した婚姻関係であると評価すべき素地が十分にあったことを踏まえつつ,上記(ウ)に検討したとおり,これが不法残留という違法状態の上に築かれたことも専ら両名の責めに帰するのが相当とはいえない事情があることを斟酌すれば,Cが,10年以上ハウスクリーニングと図面作成の業務を自営して安定した生活を送り,本邦を離れることが著しく困難な状況にあると認められる中で,原告を本国に送還することは,違法状態の上に関係が築かれたことについての両名の帰責性が乏しいにもかかわらず,その安定かつ成熟した家族関係の分断を強いることとなる点で不合理な結果をもたらすものといわざるを得ない。 そうすると,原告の送還に特段の支障がないと評価するのも,必ずしも合理的な判断であるとはいえない。 ウ総合判断 係の分断を強いることとなる点で不合理な結果をもたらすものといわざるを得ない。 そうすると,原告の送還に特段の支障がないと評価するのも,必ずしも合理的な判断であるとはいえない。 ウ総合判断以上に判示したところによれば,東京入管局長は,本件裁決に際して,原告の在留を特別に許可するか否かの判断に当たり,Cとの婚姻関係について,既に安定かつ成熟したものであると評価すべき素地が十分にあったにもかかわらず,これを適切に評価せず,他方,原告が不法残留するに至った経緯についても,原告が自らの個人的な都合により不法残留を選択したものであるとして,その不法残留 の事実を重大な消極要素として過大に評価した上,婚姻が,その不法残留後に届け出られたとの外形のみに基づき,違法状態の上に築かれたものとして保護すべき必要性が低いと判断し,これらに伴って,原告を送還することによって生じると考えられる特段の支障についても,十分に評価しなかったものといえる。 本件裁決に際して,東京入管局長が,以上のような評価に基づいて原告の在留を特別に許可しないとした判断は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くことにより社会通念上著しく妥当性を欠くものであったことが明らかというべきであるから,本件裁決には,その裁量権の範囲をこえ又はその濫用がある違法があったものというべきである。 本件裁決の取消しを求める原告の請求は理由がある。 2 本件退令発付処分の適否本件裁決が違法である以上,これを受けてされた東京入管主任審査官による本件退令発付処分も違法であり,その取消しを求める原告の請求も理由がある。 3 結論よって,原告の本件裁決取消請求及び本件退令発付処分取消請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし,訴訟費用の負担につき行訴法7条 取消しを求める原告の請求も理由がある。 主文 よって,原告の本件裁決取消請求及び本件退令発付処分取消請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官谷口豊 裁判官平山馨 裁判官馬場潤
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