平成26年9月5日判決宣告裁判所書記官号判 決主 文 被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 神戸地方検察庁で保管中のチャック付きポリ袋入り覚せい剤1袋(同庁平成25年領第2139号符号1)を没収する。 理 由(罪となるべき事実)被告人は,第1 法定の除外事由がないのに,平成25年10月21日頃,神戸市a 区b 町cd番地ef号室の被告人方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を不詳の方法により自己の身体に摂取し,もって覚せい剤を使用した。 第2 みだりに,同月25日,前記被告人方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する結晶約0.199グラム(神戸地方検察庁平成25年領第2139号符号1は,その鑑定残量)を所持した。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)第1 争点 1 公訴事実第1(覚せい剤の自己使用)について被告人は,平成25年10月22日午後7時42分頃,110番通報により被告人方に臨場した警察官により保護されたとして兵庫県垂水警察署に連行され,同日午後9時18分頃から翌23日午前11時43分頃まで同警察署の保護室に収容さ れていた(弁1)。被告人は,その後,同警察署内において押収された尿から覚せい剤成分が検出されたという鑑定に基づき,覚せい剤の自己使用事件で逮捕,起訴された(本件公訴事実第1)。 弁護人は,被告人の保護は,警察官職務執行法3条1項1号の要件を具備せず,覚せい剤取締法違反の捜査を目的としたものであるから,実質的には令状によらない違法な逮捕であり,違法な身柄拘束を直接利用した違法な採尿手続により領置した尿を鑑定した被告人の尿の鑑定書は, 具備せず,覚せい剤取締法違反の捜査を目的としたものであるから,実質的には令状によらない違法な逮捕であり,違法な身柄拘束を直接利用した違法な採尿手続により領置した尿を鑑定した被告人の尿の鑑定書は,違法収集証拠であるので証拠能力がなく,公訴事実第1について被告人は無罪であると主張している。 公訴事実第1については,被告人の上記の保護の適法性が争点である。 2 公訴事実第2(覚せい剤の単純所持)について同月25日,警察は,被疑者A に対する覚せい剤取締法違反被疑事件の捜索差押許可状に基づき,被告人宅から本件の覚せい剤1袋を押収した。被告人は,この覚せい剤の鑑定書に基づき,覚せい剤の所持の事実で検挙,起訴された(本件公訴事実第2)。 弁護人は,本件覚せい剤は被告人が所有するものであることは明らかであったから,上記A に対する捜索差押許可状に基づき本件覚せい剤を差し押さえることは違法であるので,実質的には令状に基づかない捜索差押えとして本件覚せい剤は違法収集証拠であり,本件覚せい剤の鑑定書は証拠能力がなく,公訴事実第2についても被告人は無罪であると主張している。 公訴事実第2については,本件覚せい剤の押収手続きの適法性が争点である。 第2 当裁判所の判断 1 事実経過証拠によって認定した事実経過は以下のとおりである。 被告人の保護の事実経過平成25年10月22日午後6時20分頃,被告人方において男女の言い争う声や「助けて」という女性の声が聞こえるという110番通報に基づき,兵庫県 垂水警察署の警察官数名が被告人方に臨場した。被告人には,その約1週間前にも警察官が住居に強制的に立ち入って精神病院に入院させる措置をとったことがあり,警察官らはこのことを知っていた。警察官らがワンルームの被告人宅の玄関の外からド 臨場した。被告人には,その約1週間前にも警察官が住居に強制的に立ち入って精神病院に入院させる措置をとったことがあり,警察官らはこのことを知っていた。警察官らがワンルームの被告人宅の玄関の外からドアを開けるよう何度も呼びかけたが,被告人は,所属等を問いただして警察官であることを信用せず,玄関ドアを開けなかった。このような状態が約1時間近くも続いたことから,警察官らは,消防レスキュー隊を応援要請し,同隊員がドアガードを解錠して,同日午後7時42分頃,B 警察官をはじめ,防刃盾や刺す股を持った5,6名の警察官が被告人方に入った。 被告人は,室内の電灯を消し,部屋の中央でスニーカーを履いたまま,入口に面して立っており,右手に木刀を持ち,左手に懐中電灯を所持していた。部屋の奥のベッドの上には女性(A)がいた。被告人は,木刀を振り上げてはいないものの,切っ先を警察官らの方に向けて構えていることから,B 警察官が,凶器を捨てるように警告すると,被告人は木刀をベッドの上に放り投げた。同警察官らが,被告人に対し,落ち着いてその場に座るように何度も申し向けると,被告人は床の上に座ったが,警察官らが被告人に近づいていくと,被告人が急に立ち上がろうとし,警察官らの方に向かってこようとしたので,直ちに,B 警察官らは数名がかりで被告人を制圧し,手錠をかけた。 被告人は,警察車両で垂水警察署に連行され,取調室で事情聴取を受けたが,警察官に対し,「お前の顔はむかつく」「殺したる」などと叫び,椅子から立ち上がろうとするなど興奮した状態が続き,同日午後9時18分頃保護室に収容された。 保護室に収容された被告人は,保護室を監視する警察官に対し,弁護士への連絡を求める等の身柄拘束に対する不服を述べたり,深夜まで,室内をうろうろして,保護室の壁を叩いたり,頭をぶつ に収容された。 保護室に収容された被告人は,保護室を監視する警察官に対し,弁護士への連絡を求める等の身柄拘束に対する不服を述べたり,深夜まで,室内をうろうろして,保護室の壁を叩いたり,頭をぶつけたりし,また,過呼吸になって白目をむいているとして,警察から救急車を要請し,救急隊員も臨場したが,結局,被告人は病院に行くことを拒絶した。 翌,同月23日午前11時43分保護が解除され,被告人は,保護室から出された。 被告人の尿の差押え経緯垂水警察署の警察官らは,同警察署に任意同行したA から,2日前に被告人と一緒に覚せい剤を使用した旨の自供を得るとともに,任意提出を受けたA の尿を科学捜査研究所において鑑定し,覚せい剤成分が検出された鑑定結果を受け,同月23日午前3時5分,A を覚せい剤の自己使用の事実で通常逮捕した。 C 警察官らは,前述したA の供述に基づき,被告人に対する覚せい剤取締法違反の捜査を開始した。A の供述調書や同人の尿の鑑定結果等,A の覚せい剤取締法違反被疑事件の証拠を疎明資料として,同日早朝,神戸地方裁判所に被告人に対する捜索差押許可状(尿,着衣等)を請求し,同日午前11時10分頃,神戸地方裁判所裁判官から捜索差押許可状が発付された。 C 警察官は,同日午前11時49分頃,被告人に対し捜索差押許可状(着衣及び携行品)を呈示して捜索を開始し,引き続き,覚せい剤の使用と所持を認める供述をする被告人に尿の任意提出を求めたところ,同日午後零時8分頃,被告人は任意に尿を排出した。C 警察官は,同日午後零時11分,捜索差押許可状(尿)に基づき,その尿を差し押さえた。 同警察官らは,差し押さえた被告人の尿について,直ちに予試験を実施したところ,覚せい剤の陽性反応が認められたことから,同日午後零時34分 分,捜索差押許可状(尿)に基づき,その尿を差し押さえた。 同警察官らは,差し押さえた被告人の尿について,直ちに予試験を実施したところ,覚せい剤の陽性反応が認められたことから,同日午後零時34分,被告人を覚せい剤取締法違反(自己使用)の事実により,緊急逮捕した。神戸地方裁判所裁判官は同日午後3時24分被告人に対する逮捕状(緊急逮捕)を発付した。 本件覚せい剤の捜索差押の経緯垂水警察署の警察官らは,A に対する逮捕状請求と同時にA に対する覚せい剤取締法違反の被疑事実で被告人方に対する捜索差押許可状を請求し,同月23日,神戸地方裁判所裁判官から被告人方に対する捜索差押許可状の発付を受けた。同捜索差押許可状には,差し押さえるべき物として,覚せい剤が記載されていた。 同月25日,D 警察官らは,被告人を立会人として,A に対する上記捜索差押許可状に基づき,被告人宅を捜索した。居室の6段プラスチックケース(レターケース)の中から,チャック付きポリ袋入り覚せい剤(神戸地方検察庁平成25年領第2139号符号1)を発見した。被告人は,その覚せい剤は自分のものであると同警察官らに述べたが,同警察官は,A に対する上記捜索差押許可状に基づき本件覚せい剤を差し押さえた。 2 当裁判所の判断 被告人の保護の適法性(保護要件)について前記の事実経過で認定した,助けを求める女性の声がするという110番通報の内容,被告人が約1週間前にも精神病院への強制的な入院措置がとられていること,臨場した垂水警察署警察官に対し,被告人が玄関ドアを開けず,警察官であることを信用せずに1時間以上も押し問答が続いていたこと,被告人が居室の電灯を消し,懐中電灯を点け,室内で靴を履いたまま,木刀を構えており,侵入者を待ち構える体勢をとっていたこ を開けず,警察官であることを信用せずに1時間以上も押し問答が続いていたこと,被告人が居室の電灯を消し,懐中電灯を点け,室内で靴を履いたまま,木刀を構えており,侵入者を待ち構える体勢をとっていたこと,部屋の奥のベッドに女性がおり,被告人は木刀は手放したものの,警察官が近づくと襲いかかる気勢を示したことなどの事実関係によれば,B 警察官らが,被告人について,警察官職務執行法3条1項1号に基づき,精神錯乱のため,自己又は他人の生命,身体に危害を及ぼすおそれがある者と認め,応急の救護を要すると信じたことには正当な理由がある。B警察官らが被告人の保護を開始したことについて何らの違法はない。 弁護人は,この点につき,①臨場した警察官らと会話ができており,保護後の警察署内での言動や被告人方の室内での木刀の所持についても,理由があるものであるから,被告人は精神錯乱状態にはなかった,木刀を持っていたのは正当防衛の目的であり,警察官らに抵抗しておらず,A に危害を加える理由もないから,被告人に自傷他害のおそれはなかった,②被告人に対し応急の救護は必要としなかった,と主張している。 しかしながら,先に摘示した事実関係によれば,警察官らが,被告人が精神錯 乱により,自己又は他人(この場合はA)に危害を及ぼすおそれがあることが明らかであると判断したことには理由がある。警察官と会話ができているからといっても,その内容が妄想をうかがわせるようなものであれば,精神錯乱を否定するものではないし,客観的には異常な挙動でも行為者の内心では行為者なりの理由があるものである。また,110番通報の内容や被告人宅の状況からすると,警察官らが被告人がA に危害を及ぼすおそれがあると判断したことには理由がある。また,当時の状況からすると,警察官らが被告人に対し応急の救護を る。また,110番通報の内容や被告人宅の状況からすると,警察官らが被告人がA に危害を及ぼすおそれがあると判断したことには理由がある。また,当時の状況からすると,警察官らが被告人に対し応急の救護を要すると信じた相当な理由はある。 被告人の保護の適法性(覚せい剤取締法違反の捜査目的)についてまた,弁護人は,警察官は被告人を覚せい剤取締法違反で逮捕するために被告人に違法な保護を実施したとし,その理由として,警察官らは被告人の身体拘束を目的に被告人宅に侵入した上,垂水警察署は,A の自供から被告人に対する覚せい剤取締法違反の嫌疑を抱いて,被告人を保護室に収容し,その間に被告人に対する覚せい剤取締法違反の捜索差押許可状の請求等の捜査を行おうとして,被告人が落ち着いた状況であるのに不当に保護を継続し,被告人に対する捜索差押許可状が発付されるのを待って,保護を解除した,緊急逮捕手続書には,被告人の保護の経緯について,被告人が木刀を振りかざしたとか暴れたとか虚偽の事実を記載して保護の違法性を糊塗しようとし,また,保護カードにも簡易裁判所に通知を要しない警察法2条に基づく保護であると虚偽の記載をしていたと指摘する。 しかしながら,警察官が被告人宅に進入した目的は,110番通報を受けて,助けを求めている女性の状況確認と保護にあると認められる。被告人は,前記の事実経過のとおり,警察署に連行された後も,警察官に対し「殺してやる」などと悪態を付くなどして興奮状態で,保護室に収容することが必要と考えられる状態にあり,保護室に収容した後も,深夜まで落ち着かず壁に頭をぶつけたり,救急車を要請する事態になるなど異常な挙動を続けていた。当夜の被告人の異常な 挙動は精神疾患等による妄想に基づくものと考えられ,酩酊者と異なり,自然と時間の経過により精神 壁に頭をぶつけたり,救急車を要請する事態になるなど異常な挙動を続けていた。当夜の被告人の異常な 挙動は精神疾患等による妄想に基づくものと考えられ,酩酊者と異なり,自然と時間の経過により精神錯乱が解消するというものではないから,一見落ち着いた様子が見られるようになったからといって,保護終了後の適切な措置が確定しないままに保護を解除することが相当とも考えられない。被告人に対する覚せい剤取締法違反の嫌疑があるのに,保護中であるからといって,覚せい剤取締法違反事件の捜査を中断することは相当でないし,他方で,保護中に覚せい剤取締法違反の事実について取り調べたり,尿の任意提出を求めることも相当でないから,保護の解除の直後に捜索差押許可状を執行したことはやむを得ないことであって,違法とはいえない。緊急逮捕手続書や保護カード中の弁護人が指摘する「虚偽記載」は,いずれにしても保護の適法性の結論を左右しない。弁護人の主張は理由がない。 本件覚せい剤の差押えの適法性について弁護人の主張が,そもそもA に対する捜索差押許可状によっては,被告人所有の覚せい剤を差し押さえることができないという見解を前提とするものであれば,その見解自体が採用できない。 A に対する覚せい剤取締法違反被疑事件の捜索差押許可状に基づき,その捜索差押えの目的物として記載されており,当該被疑事件と関連性のあるものであれば,必要性が認められる限り,その所有者如何に関わらず,その令状によって差し押さえることができる。本件覚せい剤は被告人所有のものと認められるが,被告人とA が同棲するワンルームマンションの居室の6段プラスチックケースの中にあり,A は,被告人と一緒に覚せい剤を使った,残りは部屋にある旨自供していた。本件覚せい剤がA の覚せい剤取締法違反(自己使用)被疑 同棲するワンルームマンションの居室の6段プラスチックケースの中にあり,A は,被告人と一緒に覚せい剤を使った,残りは部屋にある旨自供していた。本件覚せい剤がA の覚せい剤取締法違反(自己使用)被疑事件と関連性があることは明らかである。本件のA に対する捜索差押許可状に基づき本件覚せい剤を差押えたことは適法であり,何らの不当な点もない。 まとめ本件の捜査手続きに何らの違法は認められず,被告人の尿の鑑定書も本件覚せ い剤の鑑定書も,その証拠能力が認められるから,関係証拠に基づき,各公訴事実は罪となるべき事実記載のとおり認定する。 (累犯前科)省略(法令の適用)省略(量刑の理由)公訴事実は,ごく一般的な覚せい剤の自己使用と単純所持の事実である。被告人の前科前歴に加え,公判中2期日にわたって証人に襲いかかろうとするなどし,本件公判にも現れた反社会的な言動からは,更生の意思は全く認められない。被告人のために酌むべき一般情状は特段見あたらないので,公訴事実の行為責任に相応した刑を科すこととする。 (求刑:懲役2年,没収)平成26年9月5日神戸地方裁判所第4刑事部 裁判官冨田敦史
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