平成16(わ)225 傷害致死被告

裁判年月日・裁判所
平成17年1月19日 甲府地方裁判所
ファイル
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判決文本文3,714 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (犯罪事実)被告人は,従兄弟のA(以下「被害者」ともいう。)が,いわゆるサラ金から借金をしては競馬につぎ込み,借金の清算で何度も実兄夫婦に迷惑をかけたあげく,実兄から兄弟の縁を切られて,本家の長男である被告人を頼ってきたことから,被害者を何とか立ち直らせたいと考え,被害者に「サラ金には手を出さない」「絶対にギャンブルはしない」などと約束させた上,平成15年2月上旬ころ,仕事の世話や住まいと食事の提供など生活全般について,献身的に被害者の面倒を見るようになったところ,被害者が土木作業員や新聞配達員として真面目に働くようになったことから,被害者が立ち直ってくれたものと信頼して,同年5月には約350万円もの借金を代わりに返済してやり,さらに,平成16年2月には被害者が単身居住するための町営住宅を借りてやった。しかし,被害者は,町営住宅での単身生活が始まると度々行方をくらますようになり,ついに,同年5月7日ころ,新聞配達員の仕事も辞めて行方が全く分からなくなってしまった。その後,被害者の実兄夫婦の家にサラ金業者から借金の返済を督促する電話がかかってくるようになったことから,被告人は,被害者がサラ金から借金をしているものと確信し,毎日のように,仕事の合間をぬっては被害者を探し続けていたところ,同年6月2日の午後1時過ぎころ,当時の山梨県北巨摩郡a町bc番地西側路上において,駐車中の軽自動車内で眠っている いるものと確信し,毎日のように,仕事の合間をぬっては被害者を探し続けていたところ,同年6月2日の午後1時過ぎころ,当時の山梨県北巨摩郡a町bc番地西側路上において,駐車中の軽自動車内で眠っている被害者を発見した。 被告人は,直ちに被害者A(当時43歳)を起こして車内に乗り込むと,借金について問いつめたが,同人が借金について頑強に否定したばかりか白々しい言い訳をしたことに立腹し,前同日午後1時30分ころ,同車内において,助手席に座っていた被害者に対し,その顔面を平手の甲の部分で数回叩き,その結果同人の頭部を助手席側センターピラー付近に打ち付けさせるという暴行を加えた。その後,被告人は,被害者を車から降ろし,車内で借金関係の資料を探していたところ,車内からサラ金関係の明細書が見つかり,被害者が300万円以上もの借金を作っていたことを知って,被害者に裏切られたと感じて激高し,同日午後2時30分ころ,上記路上において,佇立していた被害者の右大腿部及び右下腿部を足蹴にして転倒させた上,その腰部及び胸部等を数回足蹴にするなどの暴行を加えた。その後,被告人は,前記の町営住宅や当時の山梨県北巨摩郡d町ef番地被告人方において,被害者に説教をしたり,被害者に休息を取らせるなどして過ごしていたが,被告人方において,被害者の所持品を点検していた際,同年3月12日ころにも被害者が借入れをしていたことを示す明細書や同年4月中旬にも被害者が競馬をしていたことを示す勝馬投票券を発見し,被害者を信頼して一人暮らしをさせていた時期に借金や競馬をしていたことを知って,愕然とするとともに立腹し同人を厳しく問いつめたところ,同人が言い訳をしたり黙り込んだりしたことに一層立腹し,同年6月2日午後8時45分ころ,両足を伸ばして座っていた被害者に対し,その顔面を平手で叩き,そ するとともに立腹し同人を厳しく問いつめたところ,同人が言い訳をしたり黙り込んだりしたことに一層立腹し,同年6月2日午後8時45分ころ,両足を伸ばして座っていた被害者に対し,その顔面を平手で叩き,その右膝裏側に自己の右足甲を差し入れて蹴り上げ,バランスを崩した被害者を仰向けに転倒させ,その結果同人の後頭部等を柱の角に打ち付けさせるという暴行を加えた。そして,上記一連の暴行により被害者に左硬膜下血腫,多発性脳挫滅,左第10肋骨骨折等の傷害を負わせ,同月3日午前7時ころ,山梨県甲府市gh丁目i番j号B病院において,同人を多発性脳挫傷兼硬膜下血腫による呼吸中枢麻痺により死亡するに至らしめた。 (法令の適用)被告人の判示所為は,行為時においては平成16年法律第156号(刑法等の一部を改正する法律)による改正前の刑法205条(刑の長期はその改正前の刑法12条1項による。)に,裁判時においてはその改正後の刑法205条(刑の長期はその改正後の刑法12条1項による。)に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,判示のとおりの傷害致死の事案である。 被告人は,終始無抵抗の被害者に対し一方的に暴力をふるったものであるばかりか,被害者が水頭症に罹患しており,脳が外的圧力に対して脆弱であることを知っていながら,長時間にわたり断続的に,執拗な暴行を加えており,中には肋骨を 被害者に対し一方的に暴力をふるったものであるばかりか,被害者が水頭症に罹患しており,脳が外的圧力に対して脆弱であることを知っていながら,長時間にわたり断続的に,執拗な暴行を加えており,中には肋骨を骨折するほどの強度の暴行まで加えているのであり,その犯行態様は危険で悪質といわざるを得ない。また,信頼して献身的に生活上の面倒を見てきたのに裏切られたという気持ちが先走るあまり,一時の激情に流されて,上記のような暴行を加えて被害者を死亡するに至らしめたもので,被害者が死を甘受しなければならないほどの落ち度がなかったことはいうまでもなく,いかなる事情があったにせよ,人一人の命を奪った責任は重大といわなければならない。さらに,被害者は,容態が変化した後1時間以上も放置されたあげく,病院に搬送されて1日を経ないうちに絶命したものであり,暴行による肉体的苦痛はいうまでもなく,精神的苦痛や無念さは察するに余りある。 以上によれば,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。 しかしながら,他方で,競馬と借金を繰り返して兄弟からも見放された被害者を気遣い,本件犯行に至るまで被害者の更生に心を砕いて献身的に生活全般の面倒を見てきたという経緯があること,そのため再び借金と競馬に手を出した被害者に対し,恩を仇で返すような仕打ちをされて裏切られたと感じて感情的になった心情には同情の余地がないではないこと,被害者を詰問していく中で借金や競馬を重ねていたことが明らかになったため思わず感情的になった事情があり,したがって偶発的な犯行であること,被害者に致命傷を生じさせた暴行は,被告人宅において,足を伸ばして座っている被害者の右膝裏側に自己の右足甲を差し入れて蹴り上げ,バランスを崩して仰向けに転倒させたというものであったと認められるが,これ自体は,通常は死の結果 行は,被告人宅において,足を伸ばして座っている被害者の右膝裏側に自己の右足甲を差し入れて蹴り上げ,バランスを崩して仰向けに転倒させたというものであったと認められるが,これ自体は,通常は死の結果を生じさせるほどの危険な態様の暴行ではなく,本件においては,偶々被害者の背後に柱があってその角に頭を打ち付けさせたことや被害者に水頭症の基礎疾患が存在していたことが重なり,不幸な結果が発生したものであること,被害者の容態に異変を感じたもののすぐに病院に搬送しなかったのは,被害者にはてんかんの症状があり30分程度すれば回復するという被害者の実兄の言葉に従ったからであり,ことさらに発覚をおそれて放置したものではないこと,被害者の実兄が情状証人として出廷し,これまでの被害者の生活状況や被告人による被害者に対する支援の実情をふまえて寛大な処分を求めていること,被害者の親族らからも嘆願書が提出されていること,被告人は,本件で逮捕,勾留され,本件犯行を深く反省し,被害者及び遺族に対する謝罪の意思を表明するとともに被害者の冥福を祈る気持ちを示していること,被告人に前科前歴はないことなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。 そこで,当裁判所は,これらの諸般の事情を総合考慮し,被告人には,主文の刑を科した上で,社会内で更生する機会を与えるのを相当と認め,その刑の執行を猶予することとした。 (検察官千石奈央,国選弁護人川手一郎各出席)(求刑懲役5年)平成17年1月19日甲府地方裁判所刑事部裁判長裁判官川島利夫裁判官柴田誠裁判官肥田薫 裁判官柴田誠 裁判官肥田薫

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