主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中100日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成15年6月21日午後9時15分ころ,大型貨物自動車を運転して国道51号線を茨城県鹿島郡a村方面から水戸市b町方面に向かって進行中,同県鹿島郡c村大字d番地のe先路上において,運転開始前に飲んだ酒の影響により前方注視及び運転操作が困難な状態となったにもかかわらず,同車を時速約50キロメートルで走行させ,もって,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより,同日午後9時25分ころ,水戸市f町g番地のh先路上において,故障車のレッカー作業のために停止していた普通貨物自動車後部に自車前部を衝突させて同普通貨物自動車を側道に転落させ,さらに,同車の前方に停止していた前記故障車である普通乗用自動車後部に自車前部を衝突させて,同普通乗用自動車を左前方に押し出し,同車を修理するため同車の前方に佇立していた甲(当時30歳)に衝突させ,さらに,同車左側付近に佇立していた乙(当時35歳)及び丙(当時34歳)に同車左前部等を衝突させるなどし,よって,前記甲に瘢痕拘縮の後遺症を残す入院加療約4か月間を要する見込みの左下腿剥脱創等の傷害を,前記乙に頭部裂傷等の傷害を,前記丙に頭蓋骨骨折の傷害をそれぞれ負わせ,即時,同所において前記乙を前記頭部裂傷等の傷害に基づく外傷性ショックにより,前記丙を前記頭蓋骨骨折の傷害による脳挫傷によりそれぞれ死亡させたものである。 (量刑の理由)本件は,被告人が,走行開始前に多量に飲酒し,そのアルコールの影響により正常な運転操作が困難な状態となったにもか 頭蓋骨骨折の傷害による脳挫傷によりそれぞれ死亡させたものである。 (量刑の理由)本件は,被告人が,走行開始前に多量に飲酒し,そのアルコールの影響により正常な運転操作が困難な状態となったにもかかわらず大型貨物自動車を走行させ,その結果,故障車のレッカー作業のために停止していたセルフローダー車及びその故障車に順次自車を衝突させ,故障車付近に佇立していた3名に同車を衝突させるなどして,2名を即死させ1名に重篤な傷害を負わせた危険運転致死傷の事案である。 まず,本件犯行に至る経緯は以下のとおりである。 被告人は,昭和55年ころに大型一種免許を取得し,以降大型トラックないし大型トレーラーの運転手として稼働していたが,平成15年6月21日(なお,以降時間のみを記載した場合は平成15年6月21日のことである。)朝,前日に積んでいた荷を運ぶため,本件犯行時乗車していた判示大型貨物自動車(以下「本件トレーラー」ともいう。)に乗って自宅を出て,午前9時50分ころ,最初の荷下ろしを終えた。そして,再び本件トレーラーに荷を積むために荷積み先の会社に向かう途中,荷積みしてから午後8時30分に出発するまでの待機時間中に茨城県鹿島郡大洋村内のトラックステーション(茨城県トラック協会鹿島トラック休憩所)で休憩する際に飲もうと考えて,コンビニエンスストアに立ち寄り,缶入りチューハイ(500ミリリットル)3本等を購入した。被告人は,午前10時ころ荷積み先の会社に到着して午後零時ころ積載を終え,トラックステーションに向かう際に,無線で会社の同僚2名に連絡をとり,トラックステーションに隣接する食堂に行く約束をした。これまで,被告人とその同僚らは同食堂に行った際には,食事だけではなく,飲酒もしていたことから,被告人らは今回も当然に飲酒することになると考えていた。 ックステーションに隣接する食堂に行く約束をした。これまで,被告人とその同僚らは同食堂に行った際には,食事だけではなく,飲酒もしていたことから,被告人らは今回も当然に飲酒することになると考えていた。被告人は,午後零時40分ころ,トラックステーションに到着すると,本件トレーラーの運転席でおにぎり1個を食べながら,先程購入した缶入りチューハイ1本を飲み,その後同僚らと合流し,午後1時ころ,他社の運転手1名を加えた合計4名で前記食堂に赴いて,午後2時30分ころまでの間に,ビール中ジョッキ1杯,レモンサワーグラス1杯を飲んだ。その後,被告人は,同僚らと共に前記トラックステーションに戻り,本件トレーラーに乗り込んだが,車内は暑い上飲み足りないと感じていたことから,先程購入した缶入りチューハイ1本を飲み干し,なおも飲酒したいと考え,午後3時ころ,前記同僚らのうちの2名を誘って再び前記食堂に赴き,午後8時の閉店までの間にレモンサワーをグラスで五,六杯飲んだ。そして,被告人は,店を出る際には足元がふらついており,飲み過ぎて酔っぱらったと自覚していたが,午後8時30分にトラックステーションを出発する予定であったことから,本件トレーラーに戻り,寝過ごさないために本件トレーラーのキャビンで横にならず,運転席に座って休むこととした。 被告人は,午後8時50分ころ目を覚まし,頭の中がはっきりしないことからかなり酔っていると思ったが,荷下ろしの時間に遅れると同業者に迷惑をかける反面,あまり速度を出さなければ検挙されることはないなどと考えたことから,午後8時50分ころ,本件トレーラーの運転を開始した。被告人は,午後9時15分ころには目の前がかすんだり視界が揺れているように感じ始め,酔いがまわったことを十分に認識していたにもかかわらず,荷下ろしの時間を少しでも早 ,本件トレーラーの運転を開始した。被告人は,午後9時15分ころには目の前がかすんだり視界が揺れているように感じ始め,酔いがまわったことを十分に認識していたにもかかわらず,荷下ろしの時間を少しでも早くし,また,荷下ろしをすれば荷積みをする間は休めるなどと考えて,本件トレーラーを蛇行させるなどしながらあえて走行を続け,本件犯行に及んだ。 以上のとおり,被告人は,午後8時30分には本件トレーラーを運転しなければならないことを知悉しながら,それまでに時間があるとして気を許し,その間に飲むための酒を購入してこれを飲酒したばかりか,同僚らと共に2度にわたり7時間以上もの間,出発予定時刻の直前まで飲酒を続け,その摂取に係るアルコールの合計が多量になっていたのであって,飲酒運転に及ばなければならない必要性・緊急性が全く認められないことはもちろん,飲酒した経緯,その飲酒の具体的状況及び運転開始の状況等は,大型貨物自動車の職業運転手としてのモラルに大きく背き,飲酒運転の危険性や他者の生命・身体の安全に対する配慮を著しく欠いたものというほかないのであって,厳しい非難に値する。しかも,被告人は,以前から休憩時間とはいえ勤務時間中に飲酒を繰り返していた形跡がうかがわれることに照らすと,本件が単なる偶発的犯行とはいい難く,その意味でも犯情は甚だ悪質である。 さらに,本件トレーラーは,トラクタ部とセミトレーラー部を合わせると,全長約16.9メートル,幅約2.49メートル,車両重量合計約17.8トンの大型トレーラーであり,しかも,本件犯行当時約24トンの大豆を積載して重量の合計が約42トンにも及んでいたものである。かかる車両が衝突事故を惹起した場合には,相手方に深刻かつ重大な結果を生ぜしめることが明らかであるにもかかわらず,被告人は,本件犯行の約1時間15分 重量の合計が約42トンにも及んでいたものである。かかる車両が衝突事故を惹起した場合には,相手方に深刻かつ重大な結果を生ぜしめることが明らかであるにもかかわらず,被告人は,本件犯行の約1時間15分後に実施された飲酒検知の結果,呼気1リットル中0.65ミリグラムのアルコールが検出されたことなどからも明らかなように,多量のアルコールを身体に保有する状態で本件トレーラーの運転を開始し,途中,およそ正常な運転ができない状態になり,被告人自身においてそのことを十分認識したにもかかわらず,なおも走行を続け,セルフローダー車の存在に全く気付かないまま減速することなく本件衝突を引き起こしたのであるから,本件犯行の無謀性及び危険性は際立っている。 他方,本件現場は片側2車線の見通しの良い幹線道路であり,判示甲(以下「甲」という。)は,判示乙及び丙(以下両名を「乙夫妻」ということもある。)使用の普通乗用自動車(以下「乙使用車両」という。)の故障救援のためにセルフローダー車で本件現場に赴き,事故防止のため,青色回転灯をつけたままハンドルを左一杯に切り,サイドブレーキをかけて,セルフローダー車を乙使用車両の後方約15メートルの位置に停止させた上,その後方にセイフティコーンや矢印板などを設置し,後続車両から容易に視認できるような措置を講じて作業に従事し,乙夫妻も,乙使用車両左側でその作業を見ていたのであるから,被害者らには何ら落ち度は認められない。 加えて,被告人は,本件犯行後,110番通報はしたものの,その後の負傷者の救助等には一切協力せず,かえって,勤務先の会社社長に,事故を起こしたが飲酒はしていないなどと虚偽の報告をする電話をかけ,また,飲酒検知の際にも飲酒量を偽っているほか,その後の捜査においても飲酒状況について当初は虚偽の供述をするなどして の会社社長に,事故を起こしたが飲酒はしていないなどと虚偽の報告をする電話をかけ,また,飲酒検知の際にも飲酒量を偽っているほか,その後の捜査においても飲酒状況について当初は虚偽の供述をするなどしており,犯行後の情状も悪い。 被告人の無謀かつ危険極まる本件犯行により,乙夫妻両名の生命が奪われてその5歳の長男が1人残されることになったほか,1名に重篤な傷害を負わせたのであり,その結果は誠に重大である。 乙夫妻は,それぞれ前途ある30歳代半ばの年齢であったところ,被害者乙は,本件犯行により,本件トレーラーに押し出された乙使用車両に衝突された上本件トレーラーに轢過され,被害者丙は同様に乙使用車両に衝突された上ガードレールの支柱に頭部を激突させられ,即時,本件事故現場においてその生命を絶たれたのであり,その際に感じたであろう精神的・肉体的苦痛は計り知れないものであるばかりか,5歳の長男を残して,その成長を見届けることもできずにその人生を終えなければならなかった無念さ,悔しさは筆舌に尽くしがたいものがあると思われる。 乙夫妻の親ら遺族は,慈しみ育て,成長を暖かく見守り,今後のその人生に自己の夢と希望をふくらませていた息子ないし娘を,突如として失ったばかりか,その変わり果てた無残な姿の乙夫妻と対面することを余儀なくされたのであるから,その精神的衝撃は甚大であり,乙の実父,丙の実母がそれぞれ公判廷での意見陳述や捜査段階での供述調書作成に際し,被告人の死をもってしてもその悲しみを癒すことはできず,残された幼い長男のこれからの成長を慮ると不憫でならない旨悲嘆の念を述べて,被告人に対する厳重処罰を切々と訴えているが,その心情は十分に理解し得るところである。また,当時5歳であった乙夫妻の長男は,幼くしてその両親を突如奪われ,両親の愛情を受ける機会を永 嘆の念を述べて,被告人に対する厳重処罰を切々と訴えているが,その心情は十分に理解し得るところである。また,当時5歳であった乙夫妻の長男は,幼くしてその両親を突如奪われ,両親の愛情を受ける機会を永遠に奪われたのであり,その点も十分に考慮する必要がある。 一方,甲は,本件トレーラーにより押し出された乙使用車両に衝突されてそのフロントガラス等に激突させられて判示の傷害を負い,今後も装具なしで歩行できるまで回復するか否かは不明な状態にあるというのであるから,本件により被った精神的・肉体的苦痛や将来への不安は大きく,書面による意見陳述においても,健康な足を返して欲しい旨述べるなどして被告人に対する厳重処罰を求めているが,同人の心情も至極当然ということができる。 そして,現段階では,各遺族らとの間で示談は成立しておらず,甲に対する治療費のみが支払われている状況にある。また,被告人の当時の勤務先の会社が示談の成立に向けて努力していることを踏まえても,遺族らの心痛の強さ等に照らし,これまでの被告人側による慰謝の措置は十分であるとは認められない。 加えて,危険運転致死傷罪は,近時,飲酒運転等の悪質かつ危険な自動車の運転行為による重大な死傷事犯の増加に伴い,かかる事案の実態に即した適切な処罰実現の観点から,単なる過失犯としてではなく,暴行の故意に基づく死傷事犯に準じた犯罪として立法化されたものであるところ,そのような趣旨にかんがみれば,職業運転手である被告人が勤務時間中に常軌を逸した多量の飲酒をして酩酊し,正常な運転操作ができない状態にあることを十分認識しながら,衝突の危険性等を何ら顧みることなく,あえて大型貨物自動車を走行させ,上記の深刻かつ重大な死傷の結果を惹起させた本件犯行については,本件の如き悲惨な死傷事犯の再発を防止する観点からも 認識しながら,衝突の危険性等を何ら顧みることなく,あえて大型貨物自動車を走行させ,上記の深刻かつ重大な死傷の結果を惹起させた本件犯行については,本件の如き悲惨な死傷事犯の再発を防止する観点からも厳罰をもって臨むべきである。 以上のように,本件犯行の経緯等に酌むべき事情が何ら見当たらず,その態様も無謀性及び危険性が際立っていること,被害者らには何ら落ち度が認められないこと,本件犯行の結果は誠に重大で遺族らの被害感情は峻烈であること,それに対する慰謝の措置も十分とはいえないこと等の本件における諸事情を勘案すると,被告人の刑事責任は他の同種事案に比しても特に重いというほかはない。 そうすると,本件トレーラーには,対人賠償無制限,対物賠償2000万円の任意保険が付されており,これまでにも甲に対する治療費については支払われており,今後も被害者及び遺族らに相当額の賠償がなされるものと見込まれること,被告人は,本件犯行後に110番通報をしている事実がうかがわれること,捜査・公判段階を通じて本件犯行については素直に認め,当公判廷においても,今後は酒を断ち,自動車を運転する仕事には就かない旨を述べるなど反省の情を示していること,20年以上前の罰金前科を有するのみであること,本件犯行により解雇されたほか,本件犯行が広く報道されるなど相応の社会的制裁を受けていること,被告人の妻が今後被告人を監督する旨を法廷で誓約していること,その他被告人の家庭の状況や知人ら周囲の者による減刑嘆願の状況等弁護人も指摘する被告人に有利な一切の事情を十分考慮しても,本件の刑事責任の重大性にかんがみると,被告人に対しては,主文のとおりの刑を量定するのが相当であると判断した。 (求刑懲役12年)水戸地方裁判所刑事部裁判長裁判官林正彦裁 任の重大性にかんがみると,被告人に対しては,主文のとおりの刑を量定するのが相当であると判断した。 (求刑懲役12年)水戸地方裁判所刑事部裁判長裁判官林正彦裁判官江口和伸裁判官小西慶一
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