- 1 -平成20年(わ)第1158号主文被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中220日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成20年5月12日午後4時50分ころから同日午後5時14分ころまでの間,兵庫県伊丹市ab丁目c番地所在のd住宅e号棟f号のA方において,次女Bに対し,その頭部を激しく揺さぶる,あるいは,その頭部を同所に置かれた布団等柔らかいものに打ち付けるなど外傷を伴わない何らかの暴行を加え,よって,同女に急性硬膜下血腫の傷害を負わせ,同月13日午前7時29分ころ,同県西宮市g町所在のC病院において,前記傷害による脳腫脹により死亡させたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明) 本件で,検察官は,訴因変更後の公訴事実記載の被告人の被害者に対する暴行によって被害者が死亡したと主張し,弁護人は,被告人は被害者に対しそのような暴行を加えておらず,被告人は無罪であると主張している。 そこで,①被害者は,他者の加えた有形力によって死亡したか否かを検討し,さらに,②被害者が他者の加えた有形力によって死亡したといえる場合,その有形力を加えたのは被告人であるか否かについて,以下検討する。 関係証拠によれば,次の事実が認められる。 (1)被害者は,被告人とその前夫との間の次女であり,両者の離婚後である平成14年6月10日に生まれた。 被告人とその前夫との間には,被害者のほかに,長男D,長女Eがいる。 (2)被告人は,被害者を出産した数日後,被害者を乳児院に入所させたが,平- 2 -成15年11月,被害者を引き取り同居するようになった。 その後,被告人は平成16年1月にAと再婚し,同年4月,同人との間にFが生まれた。 被害者は,被告人方で暮らしている間に,重度のやけど1回,骨折3か所等多く ,被害者を引き取り同居するようになった。 その後,被告人は平成16年1月にAと再婚し,同年4月,同人との間にFが生まれた。 被害者は,被告人方で暮らしている間に,重度のやけど1回,骨折3か所等多くの傷害を負った。被害者は,同年12月15日,前記傷害のうち,頭蓋骨線状骨折等の傷害を負ったのを契機に,Gこども家庭センターH分室(以下「こども家庭センター」という。)に一時保護され,平成17年3月1日児童養護施設に入所した。 被害者は,平成19年10月20日,被告人方に戻った。その後も,被害者には,口付近のやけど等多くの傷害がみられ,4回にわたって家出を繰り返した。 (3)被告人の父母であるIとJは,被告人方近くに居住し,被告人の子育て等を手伝っていたが,被告人らの生活に相当干渉を加えてもいた。被害者に関しても,乳児院や児童養護施設から被告人の元に戻すよう,被害者やこども家庭センターに強く働きかけていた。 (4)被害者は,平成20年4月10日から幼稚園に通うことになったが,家に帰る際に,「ママいや。」,「家いや。」と言って,素足で座り込んで後ずさりするなどしたことがあった。 (5)被害者は,同年5月12日午前9時20分ころ被告人に連れられて幼稚園に登園してから,午後4時50分ころまでの間,外観上体調に異常がある様子はなかった。 被害者は,幼稚園から帰宅した後,同日午後2時10分ころから午後3時30分ころまでの間,被告人及びIとこども家庭センターに行き,面接やプレイセラピーを受けたが,その行動や体調に外観上異常はなかった。同日午後4時20分から同30分ころ帰宅した後も,被害者はドーナツを食べるなどしており,同日午後4時50分ころ被告人方からI,J及びEが出るまでの間,被害- 3 -者の行動や体調に外観上異常はなかった。 Iら3名が被告人方 0分ころ帰宅した後も,被害者はドーナツを食べるなどしており,同日午後4時50分ころ被告人方からI,J及びEが出るまでの間,被害- 3 -者の行動や体調に外観上異常はなかった。 Iら3名が被告人方を出る際,被告人方には,被告人,被害者及びFがいた。 (6)同日午後5時10分過ぎころ,J及びEが被告人方に戻ると,被告人方には被告人,被害者及びFの3名がおり,被害者は意識不明の状態で床上に倒れていた。 Jは,同日午後5時14分ころ,Iに被害者の異変を知らせる電話をかけ,その後,被告人は,Jの指示で119番通報した。 (7)被害者は,同日午後5時37分ころ救急車内で心肺停止の状態になり,翌同月13日午前7時29分に死亡した。 (8)被害者の遺体には,腹部,腕の内側,足の甲などに普通に生活している状態で生じるには不自然な傷が多くあった。 (9)被害者の死因は,急性硬膜下血腫に基づく脳腫脹である。 (10)急性硬膜下血腫を生じさせる場合としては,<ア>頭部を強打するなどして,頭部に直接外力が作用して脳が損傷して出血する場合,<イ>脳と上矢状静脈洞という血管をつないでいる比較的太い架橋静脈という血管が破断し,そこから出血する場合がある。 (11)被害者には,脳の表面に明らかな挫傷がなく,頭部の外表にも後頭部にごく薄い変色があったにすぎず,前記(10)<ア>の場合に脳挫傷を生じる際に伴うはずの明白な頭部外傷はなかった。 (12)前記(10)<イ>の架橋静脈の破断は,身体を大きく激しく揺さぶられることによって頭部が揺れ,頭蓋骨の動きと架橋静脈によって頭蓋内につり下げられた状態の脳の動きに大きなずれが生じ,両者の動きのずれに架橋静脈が耐えられなくなって破断することによって生じる。その結果,架橋静脈の破断部分から出血して急性硬膜下血腫を生じ,脳腫脹 内につり下げられた状態の脳の動きに大きなずれが生じ,両者の動きのずれに架橋静脈が耐えられなくなって破断することによって生じる。その結果,架橋静脈の破断部分から出血して急性硬膜下血腫を生じ,脳腫脹に至る。 被害者は,他者の加えた有形力によって死亡したか否かについて(1)ア被害者の死後にレントゲンやCTの画像等を分析したK医師は,硬膜下- 4 -血腫の発生原因には,前記(10)のほか,病気や先天的異常などの内的な要因として血友病や脳の動静脈奇形があるが,これらが原因の場合は,脳のCT画像によって判断でき,本件の場合はこれらの形跡が見られないので内的な要因によるものではなく,前記(10)のいずれかによるものであると述べている。 K医師及び被害者を解剖したL医師は,公判廷において,いずれも,本件被害者の急性硬膜下血腫は前記(10)<イ>の架橋静脈の破断によるものであり,破断箇所からの出血により急性硬膜下血腫,脳腫脹を生じさせたといえると供述している。また,K医師は,被害者の脳のCT画像には,脳の表面を広く覆う状態で硬膜下出血があり,このことも架橋静脈が破断したことを示すものであり,被害者には頭皮下出血がないので,転倒して頭部を強打した結果架橋静脈が破断したことは考えられない旨述べている。 イK医師及びL医師は,本件の場合,被害者の内的な要因によって架橋静脈が破断したとは考えられず,外的な要因によって生じたものであり,本件のように,頭部に外傷を生じさせずに架橋静脈を破断させる原因としては,頭部が激しく揺さぶられたり,厚手のマットや布団のような柔らかいものに頭を強く打ち付けられることなどが考えられると供述している。 また,K医師は,架橋静脈が破断するには,相当激しく頭部が振れることが必要であって,子供をあやす程度の揺さぶり方では足りず, 柔らかいものに頭を強く打ち付けられることなどが考えられると供述している。 また,K医師は,架橋静脈が破断するには,相当激しく頭部が振れることが必要であって,子供をあやす程度の揺さぶり方では足りず,被害者の身体に防御や抵抗しようとする力を働かせることなく,頭部が完全に振り切れる状態になるまで振られることが必要である,被害者が自分で高いところから飛び降りたり,自分で頭を振ったり,自分で柔らかいものに頭を打つように転倒するような場合,被害者の身体には防御や抵抗しようとする力が働くので架橋静脈は通常は破断しないと供述している。L医師も,同様に,被害者自身の行為によっては,通常架橋静脈は破断しない旨述べている。 ウK医師及びL医師の供述には,いずれも特段不自然な点や不合理な点はな- 5 -く,両供述は整合しており,いずれも十分に信用できる。 (2)ア弁護人は,①K医師は,揺さぶられっ子症候群(以下「SBS」という。)の専門家であるが,<ア>首が据わっていない年齢の子供の場合には,揺さぶられた場合に防御の態勢を取ることができないため頭が振れやすく,その場合の頭部の動きも架橋静脈が破断しやすい動きになりやすく,また,架橋静脈も細く,体が小さく揺さぶりやすいことなどから,年長の幼児に比べてSBSが生じやすい旨述べていること,及び<イ>成人で架橋静脈が破断する場合,プロボクサーのアッパーカットを受けた場合や交通事故の場合のように極めて強い外力が必要とされると述べていることからすれば,当時5歳11か月であった被害者と同程度の年齢の幼児の場合,女性の力で,直接頭部に衝撃を与えずにSBSを生じさせるのは不可能又は著しく困難であると主張するとともに,②K医師自身,SBSの乳幼児の事例を130から140例も経験していながら,その9割が零歳児であり,本件以外 頭部に衝撃を与えずにSBSを生じさせるのは不可能又は著しく困難であると主張するとともに,②K医師自身,SBSの乳幼児の事例を130から140例も経験していながら,その9割が零歳児であり,本件以外の被害児は2歳10か月が最高齢であり,被害者の当時の年齢に近い児童の事例は経験したことがないと述べていることからすれば,被害者のような年齢の幼児の場合,直接頭部に衝撃を与えない態様でSBSが生じる可能性はないか,極めて低く,仮に生じたとしても被告人のような女性の力でその原因となる有形力を頭部に加えることは不可能又は著しく困難であると思われるのに,K医師は本件と同様の事例の経験がないにもかかわらず,本件と同様の条件を設定して実験を行ってみることもせず,想像で被告人のような女性の力でもSBSを引き起こすことは可能である旨述べているにすぎないから,その供述は信用できない旨主張している。 しかし,①については,K医師は,<ア>,<イ>を踏まえた上で,被告人のような女性の力でもSBSを引き起こすことは可能であると述べており,②については,その供述内容はそれまでに経験した事例に基づいてなされており何ら不合理な点はない。また,被害者の年齢を考慮しても被害者がSBS- 6 -であったと述べる点についてはL医師の供述とも合致しており信用できる。 弁護人の主張は採用の限りでない。 イまた,弁護人は,前記(1)イのK医師の,架橋静脈を破断するには,相当激しく頭部が振れることが必要であって,被害者の身体に防御や抵抗しようとする力を働かせることなく,頭部が完全に振り切れる状態になるまで振られることが必要であるから被害者自身の行為によっては架橋静脈は通常破断しないという供述について,頸部に防御姿勢をとることはできるが,架橋静脈自体にそのような体勢をとることはできない 態になるまで振られることが必要であるから被害者自身の行為によっては架橋静脈は通常破断しないという供述について,頸部に防御姿勢をとることはできるが,架橋静脈自体にそのような体勢をとることはできないから,自傷行為によって架橋静脈の破断が生じる可能性は十分にあるといえ,K供述は信用できない旨も主張している。 しかし,揺さぶりに対して防御や抵抗しようとする力が頸部に働けば,頭部の揺れも小さくなり頭蓋内の脳の揺れも小さくなるのであるから,架橋静脈にかかる力は小さくなるといえ,弁護人の主張は失当である。 (3)以上のとおり,信用できるK医師及びL医師の供述によれば,被害者は,自らの行為や病気等の内的要因によってではなく,他者から,その頭部を激しく揺さぶられたり,その頭部を布団等の柔らかいものに強く打ち付けられるなどの有形力を加えられたことによって架橋静脈が破断し,そこからの出血により急性硬膜下血腫を生じ,これに基づく脳腫脹により死亡したものといえる。 被告人が前記3(3)の有形力を加えたのか否かについて(1)アK医師は,架橋静脈が破断してから意識消失までにかかる時間は,急性硬膜下血腫の場合には非常に短い例が多いが,瞬間的に意識がなくなる場合もあれば,長ければ2時間程度かかることもある,架橋静脈が破断すれば,意識消失までの間に,架橋静脈を破断した際の衝撃によって脳震盪になったり,吐き気がして何度も嘔吐したり,手足が痙攣するなど何らかの症状が出るはずであって,全く症状が出ずに突然意識を消失することは通常考えられないと述べている。 - 7 -イ前記2(5)のとおり,平成20年5月12日午後4時50分ころ,Iら3名が被告人方を出る際には,被害者には外観上異常がなく,脳震盪のような症状や嘔吐や痙攣もみられなかったのであるから,その時点では,被害 2(5)のとおり,平成20年5月12日午後4時50分ころ,Iら3名が被告人方を出る際には,被害者には外観上異常がなく,脳震盪のような症状や嘔吐や痙攣もみられなかったのであるから,その時点では,被害者の架橋静脈は破断していなかったものといえる。 その後,JとEが被告人方に戻った際,被害者は被告人方で意識を失って倒れており,Iらが被告人方を出てからJとEが帰宅するまでの間,すなわち同日午後4時50分ころから同日午後5時14分までの間に被害者の架橋静脈は破断したといえる。 ウ信用できるK医師の供述によれば,当時4歳のFが,5歳11か月の被害者を押すなどして転倒させることによって,被害者の架橋静脈を破断させることは,両者の体格や力の差からいって不可能である。 エ以上によれば,被害者の架橋静脈が破断したものと認められる同日午後4時50分ころから同日午後5時14分までの間,被告人方には被告人,被害者,Fの3名しかおらず,被害者自身の行為やFの行為によっては被害者の架橋静脈が破断するような状況は生じないのであるから,被告人が被害者に対し加えた有形力によって被害者の架橋静脈が破断したと十分推認することができる。 (2)弁護人は,被告人の供述に基づき,同日午後4時50分ころにIら3名が被告人方を出る際,Jが被害者の身体を激しく揺さぶっており,この行為によって被害者の架橋静脈が破断して被害者が死亡した可能性がある旨主張しているので,この点について検討する。 ア被告人は,公判廷において,被告人,I,J,E,被害者,Fが被告人方にいたが,IとJは,Dが翌日使う弁当箱をI方に取りに帰ることになった,Iと被告人は玄関に移動したがしばらく待っていてもJは来なかったので被告人が居間に様子を見に行くと,居間では,Jと被害者が向かい合って座り,Jが怖い顔をして, 弁当箱をI方に取りに帰ることになった,Iと被告人は玄関に移動したがしばらく待っていてもJは来なかったので被告人が居間に様子を見に行くと,居間では,Jと被害者が向かい合って座り,Jが怖い顔をして,被害者の肩付近に手を置いて被害者の身体を激しく揺さ- 8 -ぶっており,被害者の首には力が入っていない様子で頭部は前後にぐらんぐらんと揺れていた,被害者は正座から少し腰が浮いた体勢であった,被告人がJに「M」と声を掛けると,Jは揺さぶるのをやめて何も言わずに立ち上がって玄関に行った,被告人とIが玄関にいたころからJが玄関に行くまでの間,Jと被害者の声は聞こえなかった,被告人は,Jにも被害者にも,Jがそのようなことをした理由は聞かなかった,その後すぐ,被害者は被告人のそばに来て立っており,ふらついた様子はなかった,Iら3名が被告人方を出た後被害者が意識を失うまでの間,被害者の体調に外観上異変はなかった,Jはこれまでにも数回怒りながら被害者やEの身体を揺さぶっていた,その際の揺さぶり方は強くはなかった旨供述している。 イこの被告人供述に関し,検察官は,①Jは,裁判官の面前で,本件当日被害者を揺さぶっていない旨を述べ,Iも,検察官に対し,Iが居間を出たのと同じくらいにJも居間を出た,玄関で居間からなかなか出てこないJを待っていた記憶はない旨供述しており(甲43号証),これらと矛盾する被告人の供述は信用できない,②被告人は,本件直後には,Jが被害者を揺さぶっていたとは供述せず,本件から5か月以上経過してからJの行為について述べるに至っているが,乙3号証において,Jの揺さぶり方が激しかったので被害者が首を痛めていないか心配した旨述べているのに,Jの行為は本件とは関係ないと思って供述しなかったというのは不自然であり,その供述の変遷に合理的な理由はな おいて,Jの揺さぶり方が激しかったので被害者が首を痛めていないか心配した旨述べているのに,Jの行為は本件とは関係ないと思って供述しなかったというのは不自然であり,その供述の変遷に合理的な理由はなく,変遷後の供述は信用できない旨主張している。 しかし,①の点は,Jは,本件当日のことをほとんど覚えておらず,いままでに被害者を揺さぶったことがないから本件当日もそのようなことはしていない旨述べているにすぎず,当日に関するその供述の信用性は高くなく,Iも,平成20年10月18日付けの警察官調書(甲42号証)では,被害者らがドーナツを食べていたかどうかはっきり覚えておらず自分は車で待っていた可能性もある,被告人方からI方に行く際Eも一緒に来ていた記憶は- 9 -ない旨述べているにもかかわらず,同月30日付けの検察官調書(甲43号証)では,Iも皆と一緒に居間でドーナツを食べた,Eも一緒に被告人方を出たと供述しており,本件から約5か月が経過した段階で,甲42号証を作成した12日後に当日の状況を思い出すに至った理由も一切説明されておらず,甲43号証におけるIの供述のうち甲42号証と食い違う部分の信用性は乏しい。 ②の点は,被告人は,公判廷において,本件直後には被害者が揺さぶり行為によって死亡した可能性があることを知らされておらず,Jの行為は本件とは関係ないと思っていたため捜査官に話していなかった旨述べており,被告人が検察官に対し,被害者がJの揺さぶり行為で首を痛めていないか心配したと述べている点についても,被告人は,被害者はJに揺さぶられた後もしばらく立ち上がって話したり動いたりしていたと述べており,Jの行為は本件と関係がないと考えたという説明も必ずしも不合理とまではいえない。 そうすると,検察官の前記主張には賛同できない。 ウしかし,前記の被告人 上がって話したり動いたりしていたと述べており,Jの行為は本件と関係がないと考えたという説明も必ずしも不合理とまではいえない。 そうすると,検察官の前記主張には賛同できない。 ウしかし,前記の被告人供述は,Iと被告人が居間を出るまでの間,Jと被害者の間に何事もなかったにもかかわらず,Iらが玄関に行った後被告人が様子を見に行くまでのほんのわずかな間に,Jが被害者の身体を激しく揺さぶるほど激高していたという点,そのような状態であったにもかかわらず,Jも被害者も特に声を出していなかったという点,Jは被告人に声を掛けられて揺さぶるのをやめた後黙って立ち上がって玄関まで行き,被告人やIに対し,被害者について何も言わなかったという点で,極めて不自然である。 エ一方,Jは,裁判官の面前で,今までに被害者を強く揺さぶったことはない旨を述べ,E及びDも,捜査段階においていずれも,Jは子供らに一切暴行を加えたことがない旨を述べている。これに対して,Aは,公判廷において,JがE及び被害者の身体を,合わせて3,4回揺すっているのを見た旨述べているが,その揺さぶり方は激しくはなかった,子供たちも暴行とはと- 10 -らえていなかったかもしれない旨述べ,被告人も,前記のとおり,これまでに数回Jが怒りながらE及び被害者の身体を揺さぶっているのを見たがその揺さぶり方は強くなかった旨述べている。Aや被告人の各供述がどの程度信用できるかは問題であるが,仮にそれらの供述が信用できるとして,本件以前に,Jが被害者に対して揺さぶる暴行を加えていたとしても,それは強くはなかったというのであるから,そのようなJが本件の際に突然激高し,被害者の身体を激しく揺さぶったという被告人の前記供述はやはり不自然である。 また,被害者は,すぐに被告人のそばに来ておりふらついたりなどした様子 のであるから,そのようなJが本件の際に突然激高し,被害者の身体を激しく揺さぶったという被告人の前記供述はやはり不自然である。 また,被害者は,すぐに被告人のそばに来ておりふらついたりなどした様子はなく,外観上何らの異常もなかったのであり,このような事情からしても,被告人の前記供述は不自然である。 オ以上のとおり,Jが激高しながら被害者を激しく揺さぶっていた旨の被告人供述を信用することはできず,これに基づき,Jの揺さぶり行為によって被害者の架橋静脈が破断して被害者が死亡した可能性がある旨の弁護人の主張は失当である。 (3)また,弁護人は,仮に,Jが被害者の身体を揺さぶった時点では被害者の架橋静脈が破断していなかったとしても,Jの揺さぶり行為と,その後になされた被害者の頭を壁にぶつけるなどの自傷行為,被告人の被害者をあやす行為が重なったために架橋静脈が破断した可能性がある旨も主張している。弁護人は,K医師は,公判廷において,日常的にダメージが加えられていれば,かえってそのダメージが修復される結果傷を負った部分は以前よりも強くなるため,日常的なダメージが原因で血管が切れやすくはならない旨供述しているが,血管が受けたダメージの修復には一定の時間が必要であるから,短時間で次々と有形力が加えられた場合には妥当せず,前記可能性は排斥されないと主張している。 K医師は,短時間で連続的に有形力が加えられた場合については供述してい- 11 -ないが,前記3(1)イのとおり,架橋静脈が破断するには,相当激しく頭部が振れることが必要である旨,幼児の血管は高齢者のものと異なり弾力性に富んでいる旨述べていることからすれば,架橋静脈を破断するに至らない程度に揺さぶられることで幼児の血管が損傷する可能性は極めて低く,そのような行為が短時間で連続的に行われるこ のものと異なり弾力性に富んでいる旨述べていることからすれば,架橋静脈を破断するに至らない程度に揺さぶられることで幼児の血管が損傷する可能性は極めて低く,そのような行為が短時間で連続的に行われることで架橋静脈が破断するに至るとはいえず,弁護人の主張は採用できない。 以上のとおり,被害者は,被告人に,判示のような外傷を伴わない何らかの暴行を加えられた結果,架橋静脈が破断し,そこからの出血によって急性硬膜下血腫を生じ,これに基づく脳腫脹により死亡したものと認められる。前記3(1)イのとおり,架橋静脈を破断するには相当強度の有形力が加えられる必要があり,被告人が過失でそのような有形力を加えた可能性は極めて低く,被告人も,過失によって被害者に有形力が加わったとは一切供述していないのであって,被告人の前記暴行は故意に加えられたものと認められる。 なお,弁護人は,被告人には被害者を傷つける理由がないと主張しているが,この点については量刑の理由の項で検討することとする。 (法令の適用)罰条刑法205条未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人は,幼く抵抗力の弱い被害者に対し,その頭部が相当激しく揺さぶられ,架橋静脈が破断するほどの強い暴行を一方的に加え,その結果硬膜下血腫の傷害を負わせて死に至らしめたものである。被害者は,母親である被告人の暴行によりわ- 12 -ずか5歳11か月で突如その生命を奪われたのであって,今後送るはずであった人生を考えると,その結果は誠に重大である。被告人は,母親として,被害者を保護すべき立場にあったのに,後記のとおり,本件以前も被害者に一定の暴行を繰り返し加えていたものであり,そのような中で本件にまで至ったのであって,本件自体は偶発的な要素があったとみ として,被害者を保護すべき立場にあったのに,後記のとおり,本件以前も被害者に一定の暴行を繰り返し加えていたものであり,そのような中で本件にまで至ったのであって,本件自体は偶発的な要素があったとみられるものの,厳しい非難に値する。また,被告人は,本件行為はもとより,これまでの間に被害者に対して加えてきた暴行を反省する態度に乏しく,Eに対してもある程度暴行を加えてきた状況も窺われることに照らすと,これまでの自己の前夫との間の子供らに対する接し方を真剣に反省悔悟しなければ,今後再び子育てに行き詰まった際,本件と同種の暴行を加えてしまうおそれも否定できない。 それらの諸点に照らすと,被告人の刑事責任は相当重い。 検察官は,被害者は,2度にわたって施設で生活していた期間は特に怪我を負ったりしていなかったのに,被告人と被害者が同居している期間には,複数回骨折したり重度のやけどを負うなど多くの傷害を負っており,被害者の遺体には腹部,腕の内側,足の甲といった被害者が転倒するなどしても生じ得ない場所に傷跡があったこと,Eが自分や被害者は,被告人から,肩を持って強く揺さぶられたり,頭を布団にたたきつけられるなどの暴行を加えられていた旨供述していることなどから,被告人は被害者を日常的に虐待していたのであり,本件は,常習的虐待の一環であり,偶発的,単発的犯行ではない旨主張している。 前記事実認定の補足説明2(2),(8)のとおり,被害者が,被告人方で生活していた期間に,検察官の主張する傷害を負っていたことは認められる。また,被告人も,遊びの一環であったと言いながらも固い表情をして子供らにこれらの行為をしていた旨Eの供述と整合する供述をし,被害者の頬をつねったこともあると述べ,また,前記事実認定の補足説明2(4)のとおり被害者が幼稚園から帰る際,「ママいや。」 い表情をして子供らにこれらの行為をしていた旨Eの供述と整合する供述をし,被害者の頬をつねったこともあると述べ,また,前記事実認定の補足説明2(4)のとおり被害者が幼稚園から帰る際,「ママいや。」,「家いや。」と言って素足で座り込んで後ずさりするなどしたことがあり,被害者は6歳に満たない幼児であったにもかかわらず,前記事実認定の補足説明2- 13 -(2)のとおり4回にわたって家出を繰り返していたことなどからして,被告人が被害者に暴行と評価できる程度の有形力を加えていたことが認められる。そのような事情からすれば,被告人が検察官が主張するような虐待といってよい暴行を日常的に被害者に加えていた疑いはある。しかし,Eは,被告人のこれらの行為によってけがをしたことはないと述べており,その他の関係証拠によっても,本件以前に被害者が負った重いやけどや骨折,あるいは身体に残された傷跡が生じるような強度の暴行を被告人がすべて日常的に加えていたものとまで認めることはできず,検察官が主張する傷跡や暴行を被告人が日常的に被害者に加えており,本件がそのような暴行の一環であることを前提として量刑を考えることはできず,被告人がそのような暴行を加えていたのではないかという疑いがあるという限度で考慮するのが相当である。 また,検察官は,被害者が外出したいと言ったことに立腹した短絡的な犯行であり,両親から受けていた干渉もさほど強いものではないし,両親は被告人らを心配していたものであり,そもそも双方の間で解決すべき問題であって,これらは被告人に有利に考えるべき事情ではないなどとして,本件の動機に同情すべき事情はない旨主張している。 被告人は,前夫の暴力が原因で同人と離婚した後,同人との間の子である被害者の妊娠に気づき,その子を出産して育てることに葛藤を生じ,中絶を考えた して,本件の動機に同情すべき事情はない旨主張している。 被告人は,前夫の暴力が原因で同人と離婚した後,同人との間の子である被害者の妊娠に気づき,その子を出産して育てることに葛藤を生じ,中絶を考えたが時期を失していてできず,被害者を出産後直ちに乳児院に預け,その後,Iらの非常に強い意向により,被告人自身は被害者と向き合う精神的余裕ができていない状態で被害者を乳児院から引き取るに至ったが,被害者は,自分で育ててきたD,Eとは違い,うまくコミュニケーションを図ることができなかった。被害者は骨折を機に児童養護施設に入所させられ,被告人に対する周囲の目も厳しくなり,Iらが奔走して再度被害者と同居するようになっても被害者をうまく育てることができず,Aに十分相談することやその助けを求めることもできないまま,両親からの干渉にも我慢しながら長期間にわたって被害者の育児について悩み続けてきた。しかし,他- 14 -方で,平成20年5月1日及び2日には被害者に幼稚園を休ませてハイキングに行って二人で過ごす時間を作るなど,被害者との関係を良くしようと被告人なりに努力していた一面も窺われる。また,本件当日,幼稚園の園長にこれまで話すことができずにいた不安な心情を泣きながら相談しており,被告人なりに精神的に追い詰められた状況を何とか改善したいとの思いを有していたものと考えられる。 本件当時,被告人は,相当不安定な精神状態下にあり,被害者が外へ行きたいと言って駄々をこねるのに対し,発作的に激高して判示のような暴行に至ったものと考えられ,極めて短絡的であり,相手が6歳に満たない子供であるから,そのような行為に出るべきでないのは当然ではあるが,被告人が置かれていた当時の状況からすれば,自己の激する感情を抑えることができず,言うことをきかずに駄々をこねる被害者に対し, ない子供であるから,そのような行為に出るべきでないのは当然ではあるが,被告人が置かれていた当時の状況からすれば,自己の激する感情を抑えることができず,言うことをきかずに駄々をこねる被害者に対し,ついかっとなって強く当たってしまったとみることができ,一定程度同情できる余地がある。検察官の主張には同調できない。 その他,被告人のために酌むべき事情として以下の点を指摘することができる。 すなわち,被告人が被害者に加えた暴行は外傷を与えるような態様ではなく,傷害の故意は認められず,被害者が死亡する結果になろうとはおよそ思ってもいなかったであろうこと,施設で長い期間をすごしてきた被害者とうまく接することができず,両親の過干渉があり,夫にも相談できず,他に3人の子をかかえ,被害者の育児に大きな不安を抱きながらも,被告人なりに被害者を何とかうまく育てたいと努力しようとしていた一面もあること,夫が今後の生活を支える旨述べていること,養育すべき3人の子がいること,特に,今後の3人の子の養育を考慮すると,余りに長期間被告人を矯正施設に収容しておくのは相当でないことなどが指摘できる。 以上の諸事情を総合考慮し,被告人が,前夫との間の子供3人,ことに本件被害者に対しこれまでとってきた自己の言動を心から見直して反省し,現在の夫の協力を得て,残された前夫との間の子供2人とFとを分けへだてなく養育することができるよう,自己の性格やこれまでの生き方を十分に見直した上で更生できるよう期待して,主文のとおり判決する。 - 15 -(求刑懲役10年)(私選弁護人高橋司〔主任〕,禿祥子,中村克宏)平成21年7月13日神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官佐野哲生裁判官五十嵐浩介裁判官中田ひろみ 禿祥子,中村克宏)平成21年7月13日神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官佐野哲生裁判官五十嵐浩介裁判官中田ひろみ
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