令和2年2月5日判決言渡令和元年(行コ)第247号行政文書不開示決定処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成30年(行ウ)第254号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要等 1 事案の概要被控訴人は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成28年法律第51号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)に基づき,処分行政庁に対し,宗教法人Aが所轄庁に提出した規則,役員名簿等にかかる開示請求(本件開示請求)をしたところ,処分行政庁は,規則については取得しておらず不開示とし,その他の請求文書(本件対象文書)については,情報公開法8条に基づき,これらの文書の存否を明らかにしないで不開示とする旨の決定(本件不開示決定)をした。 本件は,被控訴人が,処分行政庁の所属する控訴人に対し,本件不開示決定のうちの部分(本件存否応答拒否部分)の取消しを求める事案である。 原判決は,本件不開示決定のうちの本件存否応答拒否部分は不適法であるから取り消すべきであると判示して,被控訴人の請求を認容した。そこで,控訴人がこれを不服として本件控訴した。 2 関係法令等の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,原判決 3頁14行目の「できないこと」の次に「,当該文書は,仮に存在するとしても,公にすることにより当該法人の権利その他正当な利益を害するおそれがあるもの(同法5条2号イ)等に該当し,不開示となる文書でもあること」を付加し,当事者の当審における補充主張を後記3のとおり付加するほ 公にすることにより当該法人の権利その他正当な利益を害するおそれがあるもの(同法5条2号イ)等に該当し,不開示となる文書でもあること」を付加し,当事者の当審における補充主張を後記3のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」中の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当事者の当審における補充主張⑴ 控訴人の補充主張ア宗教法人法25条4項に基づく書類提出制度に係る「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」について本件対象文書の写しの存否にかかる情報は,宗教法人が書類提出制度に基づく提出義務を履行しているかどうかを把握できる情報であるが,当該義務の履行状況は,宗教法人法上は公開を予定されていないのみならず,宗教法人においてもこれを対外的に明らかにされない内部情報と位置付けている。平成7年の宗教法人法の改正で書類提出制度が導入される際にも,複数の宗教法人から反対意見が出て,制度導入後も現実に提出に応じない宗教法人も存在することからすれば,書類提出制度の履行の確実性を図るには,宗教法人の任意の協力が必要不可欠である。 すなわち,書類提出制度は,同制度に基づき提出される書類について,宗教法人法上の閲覧制度(宗教法人法25条3項)の枠内での情報開示のみが予定され,その提出の有無自体を含めて公開を予定していない情報であり,宗教法人も提出書類に記録された情報がその提出の有無も含めて公開されないという前提の下で書類の任意提出に応じているものであって,いわば,宗教法人と所轄官庁とのかかる信頼関係の下に成り立っている制度であるから,かかる事情に照らせば,対象文書の存否を応答した場合には,書類提出制度の事務の適正な遂行に支障が生じることは,具体的かつ現実的なおそ れと かかる信頼関係の下に成り立っている制度であるから,かかる事情に照らせば,対象文書の存否を応答した場合には,書類提出制度の事務の適正な遂行に支障が生じることは,具体的かつ現実的なおそ れとして想定し得る。 したがって,本件対象文書の写しの存否を明らかにした場合,それ自体から情報公開法5条6号柱書の不開示情報を開示したことになるから,本件存否応答拒否処分は同法8条の要件を満たすものであって適法である。 イ不活動宗教法人対策に係る「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」について本件対象文書を提出しない宗教法人が不活動宗教法人である可能性があることは否定できないのであるから,対象文書の存否を明らかにすることになれば,開示を受けた第三者が不活動宗教法人の法人格を悪用する事態が,その可能性の高低とはかかわりなく想定され,不活動宗教法人対策に係る事務等の円滑が阻害される事態が具体的に生じ得る。したがって,本件対象文書の存否を明らかにする対応は,不活動宗教法人対策に係る「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」を招来するというべきである。 ウ情報公開法5条2号イ該当性について本件対象文書の存否についても宗教法人が秘匿する利益を有し,このような包括的な保秘が担保されることは,宗教法人の信教の自由や結社の自由等の擁護を貫徹する上でも保護に値するものといえる。 例えば,収支計算書を提出していることが明らかにされることにより,収入が8000万円を超えることが推定され,マスコミ等により「儲かっている」と報道された宗教法人が宗教活動を自粛することは十分想定され,かかる事態は信教の自由を侵害することになるし,役員名簿の写しの存否を明らかにした場合,これを提出していない宗教法人は宗教法人法に違反してい 報道された宗教法人が宗教活動を自粛することは十分想定され,かかる事態は信教の自由を侵害することになるし,役員名簿の写しの存否を明らかにした場合,これを提出していない宗教法人は宗教法人法に違反していることが明らかになるから,これを秘匿する利益を侵害することになるのであって,これらの対象文書の写しの存否は,情報公開法5条2号イの該当性が認められる。 ⑵ 被控訴人の補充主張 アそもそも,宗教法人法25条4項に基づき宗教法人が提出を義務付けられている書類の全部または一部について提出の有無が明らかになったとしても,当該宗教法人の具体的な状況,活動内容等が明らかになるとはいえないことからすれば,書類の写しの提出の有無を明らかにすることによって,宗教法人の信頼を損なうことにより書類の提出に応じてもらえなくなるなど,書類提出制度に係る「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす」具体的なおそれがあるということはできない。 また,宗教法人法は,書類及びその写し自体については公開することを予定していないが,書類提出の有無についてまで公開しないことを制度上保障しているものではないことからすれば,仮に書類提出の有無が明らかにされないという宗教法人の信頼が存在するとしても,それは所轄行政庁による存否応答拒否という誤った対応の積み重ねによって事実上形成されたものにすぎず,法的保護に値するものではない。したがって,そのような法的保護に値しない信頼を損なうことにより書類の提出に応じてもらえなくなることがあったとしても,それ自体はそもそも同法25条4項の書類提出制度に係る「事務又は事業の適正な遂行に支障」を及ぼすものには当たらない。 イ書類提出制度における書類が提出されない理由は,不活動宗教法人であるからという事情以外にも様々あり得ることから 書類提出制度に係る「事務又は事業の適正な遂行に支障」を及ぼすものには当たらない。 イ書類提出制度における書類が提出されない理由は,不活動宗教法人であるからという事情以外にも様々あり得ることからすれば,特定の宗教法人について宗教法人法25条4項に基づく書類の写しの全部または一部が提出されないことが明らかになったとしても,控訴人が主張する不活動宗教法人の法人格が悪用されるおそれが生ずる可能性は抽象的なものであるといわざるを得ない。 また,地方自治体において,宗教法人法25条4項に基づき提出された書類の情報公開請求に対し,提出の有無が明らかにされた事例において,控訴人が懸念するような不活動法人の法人格が悪用されたという事態がおよそ確認されていないことからも,控訴人の主張するおそれが抽象的なものにす ぎないことが明白である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被控訴人の請求には理由があるものと判断する。その理由は,当事者の当審における補充主張に対する判断を後記2のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当事者の当審における補充主張に対する判断⑴ 控訴人の補充主張アについて控訴人は,本件対象文書の写しの存否にかかる情報は,宗教法人法上の書類提出義務の履行状況に関する情報であって,宗教法人にとって公開が予定されていない情報であり,宗教法人としてはこれが公開されないという前提で,いわば所轄庁と宗教法人との信頼関係の下で任意提出に応じているから,同制度の運用を支える必要不可欠な秘匿されるべき情報であり,所轄庁が当該対象文書の存否を応答した場合には,書類提出制度の事務の適正な遂行に支障が生ずるおそれが具体的かつ現実的に 出に応じているから,同制度の運用を支える必要不可欠な秘匿されるべき情報であり,所轄庁が当該対象文書の存否を応答した場合には,書類提出制度の事務の適正な遂行に支障が生ずるおそれが具体的かつ現実的に想定しうるなどと主張する。 確かに,書類提出制度により所轄庁に対して宗教法人から提出される書類(宗教法人法25条2項2号ないし4号及び6号所定の書類)の内容は,一般には知られていない情報であり,これが公にされることにより,第三者により当該宗教法人の宗教活動に対する誹謗中傷など,自由な宗教活動を妨害するためや,または宗教法人の自立的な運営に干渉するための材料として使われ,宗教活動に不利益を与えるおそれの生じる可能性があることは否定できない。 しかし,本件対象文書の写しの存否に関する情報については,書類提出制度に基づく提出義務の履行状況を把握できるにとどまり,これが公になったからといって,当該宗教法人の秘匿すべき具体的な活動内容等が明らかになるものではないから,これを明らかにすることにより宗教法人の信頼を損ない,以後,宗教法人から所轄庁への書類の提出が行われなくなり,書類提出制度における 事務の適正な遂行について実質的な支障を及ぼす具体的なおそれがあるものとは解されない。 また,宗教法人が本件対象文書の写しの存否自体が公開されないことを信頼し,そのことを前提として宗教法人法に定める書類の提出に応じているということを裏付けるに足る根拠はない。控訴人は,平成7年の同法の改正における同法25条4項の書類提出制度の導入やその後に制定された情報公開法の制度運用に対する宗教法人の反応からすれば,提出書類の内容のみならずその提出の有無についても明らかにされないことについて宗教法人の信頼が存在することの根拠として,乙21ないし乙24 れた情報公開法の制度運用に対する宗教法人の反応からすれば,提出書類の内容のみならずその提出の有無についても明らかにされないことについて宗教法人の信頼が存在することの根拠として,乙21ないし乙24を提出するが,これらの証拠を検討しても,書類提出制度に対する宗教法人の懸念や反発は,主として提出された書類の内容を控訴人が把握することを通じて管理監督されることに対するものであって,書類提出の有無が明らかにされることに対するものではないことが読み取れるのであって,これらの証拠から書類提出の有無が明らかにされないことを信頼して宗教法人が書類提出に応じていることが裏付けられるともいえない。 また,乙25及び乙26に照らせば,書類提出の有無についても公開されないことを期待する宗教法人が存在することは否定できないものの,かかる期待は,以下のとおり,法的保護に値するものとはいえず,これを前提として所轄庁と宗教法人との間に「信頼」が存するということもできない。 そもそも,情報公開法は,行政機関が保有する行政文書について,その取得目的に関係なく,何人に対してもその開示を請求する権利を付与し,同法が定める不開示情報に該当する場合を除き,行政機関に開示を義務付ける(情報公開法5条柱書)制度である。したがって,宗教法人法など個別の法律において公開が予定されているかどうかをもって情報公開法に基づく公開の可否が決せられるというものではなく,情報公開法に規定する不開示情報に当たるかどうかという観点から開示の可否が決せられるべきであり,控訴人の主張はかか る情報公開法の趣旨に反するものである。 したがって,控訴人の前記アの主張には理由がないといわざるを得ない。 ⑵ 控訴人の補充主張イ及び同ウについてこれらの点に関する控訴人の主張 る情報公開法の趣旨に反するものである。 したがって,控訴人の前記アの主張には理由がないといわざるを得ない。 ⑵ 控訴人の補充主張イ及び同ウについてこれらの点に関する控訴人の主張はいずれも原審における主張の繰り返しにすぎず,理由がないことは明らかである。 なお,控訴人は,本件対象文書を提出しない宗教法人は不活動宗教法人である可能性が否定できないと主張するが,かかる可能性があるとしても,当該書類を提出しない理由には様々なものがあるのであるから,控訴人の主張する不活動宗教法人の法人格が悪用されるおそれは抽象的なものにとどまるといわざるを得ない。また,実際に書類提出がされていないことが明らかになったことにより,不活動宗教法人であることが明らかとなって,当該宗教法人の法人格が第三者に悪用されたとしても(かかる事例の存することについて証拠もない。),本件対象文書の開示による支障の具体的蓋然性があることについて立証されておらず,控訴人の前記主張は採用できない。 ⑶ 以上のとおり,控訴人の当審における補充主張はいずれも採用できず,本件不開示決定のうち本件存否応答拒否部分は不適法であるから,これを取り消すべきである。 第4 結論以上によれば,被控訴人の請求は認容すべきものであり,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官近藤昌昭 裁判官田徹 裁判官中久保朱美 裁判官中久保朱美
▼ クリックして全文を表示