令和5(わ)285 暴行、傷害致死、恐喝

裁判年月日・裁判所
令和6年6月15日 大阪地方裁判所 堺支部
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判決文本文7,191 文字)

主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中280日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は、第1 令和4年10月15日午後5時過ぎ頃、堺市堺区(地名等省略)において、A(当時63歳)に対し、拳でその右上腕部を1回殴る暴行を加え、第2 同月16日午前3時過ぎ頃、大阪府和泉市(地名等省略)において、同人に対し、拳でその腹部を1回殴る暴行を加え第3 同日午後4時頃、和歌山市(地名等省略)において、同人に対し、その左足を1回蹴る暴行を加え第4 同年11月10日午前11時22分頃、堺市中区(地名等省略)において、同人に対し、拳でその腹部を1回殴る暴行を加え第5 同日午後2時39分頃、同市南区(地名等省略)において、同人に対し、拳でその腹部を1回殴る暴行を加え第6 同日午後8時9分頃、前記(地名等省略)において、同人に対し、その襟首付近をつかんで引き寄せる暴行を加え第7 同月20日午前2時54分頃から同日午後6時54分頃までの間に、前記(地名等省略)において、同人に対し、何らかの暴行を加え、よって、同人に肋骨多発骨折の傷害を負わせ、その間から同日午後8時45分頃までの間に、同所において、同人を前記傷害に基づく両側性気胸により死亡させ第8 同人に甲店から借りさせたレンタカーを同人と共に利用し、同レンタカーの延長利用料金を同人に代わって支払うとしていた者であるが、甲店従業員にその支払請求を断念させようと考え、同年10月15日午後7時35分頃、堺市北区(地名等省略)において、甲店従業員B(当時64歳)に対し、「ここカメラないんけ。 暴れたろか、ほんなら、こらぁ。」「おちょくっとんか、わしのこと、こらぁ。」「なんやねん、こらぁ、2万て、こらぁ。」「本人 において、甲店従業員B(当時64歳)に対し、「ここカメラないんけ。 暴れたろか、ほんなら、こらぁ。」「おちょくっとんか、わしのこと、こらぁ。」「なんやねん、こらぁ、2万て、こらぁ。」「本人2万やったら納得いってないんやて。」などと語気荒く言い、前記レンタカーの延長利用料金2万240円の支払請求を断念するよう要求し、もしこの要求に応じなければ、同人の身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示して、同人を怖がらせて前記支払請求を断念させようとしたが、甲店において被告人らが同料金の支払に不満を述べた場合には請求をしなくてよいという方針をあらかじめ決めていたなどの、Bが怖がった以外の何らかの理由で前記支払請求をしなかったため、その目的を遂げなかったものである。 (証拠の標目)【省略】(争点に対する判断)第1 本件の争点関係各証拠によれば、被告人が、判示第1ないし第7記載の暴行をしたこと及び判示第8記載の行為をしたことが認められ、当事者間に争いがない。 本件の争点は、判示第7について、①Aの死因、②被告人の判示第7の暴行(以下「本件暴行」という。)とAの死亡との間の因果関係の有無であり、恐喝既遂として起訴された判示第8について、③被告人の判示第8の行為(以下「本件行為」という。)がレンタカーの延長利用料金の支払請求を断念させることに向けられたものであったか否か、④被告人の本件行為がBを怖がらせるに足りるものであったか否か、⑤Bが被告人の本件行為によって実際に怖がったか否かである。 なお、以下に示す月日は、令和4年を指す。 第2 判示第7に関する争点に対する判断 1 争点①(Aの死因)についてAの遺体の解剖を担当した解剖医である証人C(以下「C医師」という。)及び解剖時の写真を確認した法医学医である証人D( 第2 判示第7に関する争点に対する判断 1 争点①(Aの死因)についてAの遺体の解剖を担当した解剖医である証人C(以下「C医師」という。)及び解剖時の写真を確認した法医学医である証人D(以下「D医師」という。)の当公判廷における供述によれば、Aの死因は、肋骨多発骨折に基づく両側性気胸と認めら れる(なお、上記両医師の供述については、解剖医又は法医学専門家として十分な知識・経験に基づくもので、その前提資料や内容にも特段不合理な点は見当たらないから、信用性が認められる。)。 2 争点②(被告人の本件暴行とAの死亡との間の因果関係の有無)について⑴ 検討前記のとおり信用性が認められるD医師の公判供述によれば、前記Aの肋骨多発骨折は、近接した時間帯において、強い力で多数回の暴行を受けたことによって生じたものと認められ、その暴行は人の拳や足等によるものと考えて矛盾がない。そして、防犯カメラ映像及びこれを踏まえたD医師の公判供述等によれば、前記の肋骨多発骨折は、本件暴行直前の11月20日午前2時54分頃以前には発症しておらず、同時点からAの死亡推定時刻である同日午後8時54分頃までの間に生じたものであること、その間にAと接触したのが被告人のみであることが認められる。 これらの事実を踏まえると、Aは、被告人の本件暴行によって肋骨多発骨折を発症し、この骨折に基づく両側性気胸によって死亡したというべきである。 したがって、被告人の本件暴行とAの死亡との間の因果関係があると認められる。 ⑵ 弁護人の主張についてア弁護人は、Aが自己転倒や遺体発見時にされた心臓マッサージによって肋骨を骨折した可能性があるから、被告人の本件暴行とAの死亡との間の因果関係があるとは認められないと主張する。 しかし、D医師の公判供述等の Aが自己転倒や遺体発見時にされた心臓マッサージによって肋骨を骨折した可能性があるから、被告人の本件暴行とAの死亡との間の因果関係があるとは認められないと主張する。 しかし、D医師の公判供述等の関係各証拠によれば、Aの肋骨が左右合わせて19本骨折しており、その骨折箇所が合計31か所と多数に及んでいること、顔面部や後頭部といった転倒時に受傷しやすい部位に損傷がないこと等が認められるから、Aの肋骨多発骨折が自己転倒によって発症したとは考えにくい。また、Aの肋骨多発骨折が、心臓マッサージ時に骨折しやすい心臓付近の肋骨以外の部分にも及んでいること、生活反応を伴っていること等が認められることからすると、遺体発見時にされた心臓マッサージによって発症したとも考えにくい。 したがって、弁護人の上記主張は採用できない。 イ弁護人は、被告人には、Aに対し、同人を死亡させてしまうほどの強い暴行を加える理由はなく、実際にもそのような暴行を加えていないと主張する。被告人も、当公判廷において、Aに対し、5回から10回程度、怪我を負わせないように加減した力で、腹部周辺に正面から暴行を加えたのみで、それ以外の部位に暴行を加えていない旨供述する。 しかし、D医師の公判供述等の関係各証拠によれば、前記肋骨多発骨折は、交通事故や高所からの転落に比肩するような強い外力によって生じたものと考えられることに加え、Aの肋骨骨折が背中側にも生じていることが認められ、本件暴行の程度・態様に関する被告人の上記供述は、これらの事情と整合しないものであるから、全部を信用することはできない。 したがって、弁護人の上記主張は採用できない。 第3 判示第8に関する争点に対する判断 1 争点③(被告人の本件行為がレンタカーの延長利用料金の支払請求を断念させることに向 ことはできない。 したがって、弁護人の上記主張は採用できない。 第3 判示第8に関する争点に対する判断 1 争点③(被告人の本件行為がレンタカーの延長利用料金の支払請求を断念させることに向けられたものであったか否か)について⑴ 検討本件当時の被告人及びBの発言を録音した音声などの関係各証拠によれば、被告人は、A名義で甲店(以下「本件店舗」という。)からレンタカーを借り、Aとともにこれを利用していたところ、同月15日、本件店舗において、甲店従業員であるBに対し、「ここカメラないんけ。暴れたろか、ほんなら、こらぁ。」「おちょくっとんか、わしのこと、こらぁ。」「なんやねん、こらぁ、2万て、こらぁ。」「本人2万やったら納得いってないんやて。」などと、レンタカーの延長利用料金に不満があることを大声で語気荒く発言するとともに、Aを促して同料金に不満があると発言させたことが認められる。これに加えて、被告人は、Bが同料金の支払は結構であると発言した直後に、同料金の支払請求をしない旨の誓約書を作成するよう要求していることなどからすれば、被告人の本件行為は、同料金の支払請求を断念させるこ とに向けられたものであったと認められる。 ⑵ 弁護人の主張について弁護人は、被告人にはレンタカーの延長利用料金を支払う意思があったから、被告人の本件行為は、同料金の支払請求を断念させることに向けられていないと主張する。 確かに、被告人は、同料金を支払えというなら支払う旨の発言もしているが、同発言は、Bが同料金を請求しない旨の意思を表明した後に初めてされたものであり、それ以前においては、Bに対する危害を加えかねない気勢を示すとともに、同料金に対する不満を述べていたのであるから、同料金を支払う真摯な意思があったと考えるのは困難である。 初めてされたものであり、それ以前においては、Bに対する危害を加えかねない気勢を示すとともに、同料金に対する不満を述べていたのであるから、同料金を支払う真摯な意思があったと考えるのは困難である。 また、弁護人は、被告人が事前に本件店舗にレンタカーを返却していたこと等からすると、仮に延長利用料金を支払う意思がないのであれば本件店舗に行く必要はなかったのであるから、本件店舗を訪れた被告人には同料金を支払う意思があったといえる旨主張している。しかし、被告人は、本件店舗において、レンタカー内に置き忘れた自分の物を回収したい旨述べていることが関係証拠上認められる上、延長利用料金に関して、弁護人の主張するような料金を踏み倒す方法ではなく、料金を請求しない旨約束させるなどして自分なりに後々問題が起きないように紛争を解決しておくことは、当時の被告人にとって十分メリットがあったと考えられることなどをも考慮すれば、本件店舗に行く必要がなかったとはいえない。 したがって、弁護人の主張は採用することができない。 2 争点④(被告人の本件行為がBを怖がらせるに足りるものであったか否か)について前記認定の被告人の本件行為の発言内容や語気荒い発言態度等からすれば、被告人の本件行為は、Bを怖がらせるに足りるものであったと認められる。 3 争点⑤(Bが被告人の本件行為によって実際に怖がったか否か)について 前記2のとおり、被告人の本件行為がBを怖がらせるに足りるものであったと認められること、Bが被告人に対してレンタカーの延長利用料金の支払請求をしなかったこと等によれば、Bは、被告人の本件行為によって実際に怖がった可能性がある。 しかし、被告人及びBの発言を録音した音声によれば、①Bは、本件当日、本件行為を含む被告人の発言や苦情等に対して ったこと等によれば、Bは、被告人の本件行為によって実際に怖がった可能性がある。 しかし、被告人及びBの発言を録音した音声によれば、①Bは、本件当日、本件行為を含む被告人の発言や苦情等に対して冷静かつ毅然と対応し、これに言い返すなどもしていたこと、②Bが同料金の支払は結構である旨発言したのは、被告人の本件行為があった直後ではなく、その後に被告人から発言するよう促されたAが、しばらく沈黙を続けた末にレンタカーの延長利用料金を支払いたくないとの意思を示した後のことであって、上記沈黙の間も、Bは落ち着いた様子でAの発言を促すなどしていたこと、③被告人が本件店舗から出て行った後に、被告人について「チビリやな」と発言していること等からすると、Bの言動は、被告人の本件行為によって怖がっていなかったと評価することも十分可能である。また、前記音声によれば、④Bは、前記誓約書を作成するに当たって、被告人に対し、社長は不在であるが、被告人らが料金に不満を持っているようであることなどから、料金の支払請求はしなくてよいと社長から言われている旨発言したこと、⑤その後に被告人と応対した前記社長と考えられる男性も、被告人に対し、既に同料金の支払請求をしないこととしているはずなので支払は結構である旨発言したことが認められる。そして、⑥被告人は、本件行為の前日である10月14日に、本件店舗にかけた電話で、レンタカーの返却時期について長時間にわたって押し問答となり、店舗側の電話応対の在り方や延長利用料金等について強く不満を述べるなどしていたこと等をも考慮すれば、本件店舗において、あらかじめ、被告人らがレンタカーの延長利用料金の支払に応じず、その対応に苦慮するおそれがあると予想した上で、被告人らが同料金の支払に不満を述べた場合には請求をしなくてよいという方針を決めるな いて、あらかじめ、被告人らがレンタカーの延長利用料金の支払に応じず、その対応に苦慮するおそれがあると予想した上で、被告人らが同料金の支払に不満を述べた場合には請求をしなくてよいという方針を決めるなどしていた可能性は否定できない。そうすると、Bは、被告人の本件行為によって実際に怖がっておらず、前記方針等に基づいて、同料金の支払請求をしなかった可能性も 排除できないから、Bが被告人の本件行為によって実際に怖がったと認めるには疑問が残るといわざるを得ない。 したがって、被告人には、恐喝未遂罪が成立するに留まる。 (累犯前科)【省略】(法令の適用)【省略】(量刑の理由)本件は、被告人が、隣室に住んでいた知人であるAに対し、合計6回にわたって暴行を加えた暴行(判示第1ないし第6)、暴行を加えて死亡させた傷害致死(判示第7)、本件店舗の従業員であるBに対し、レンタカーの延長利用料金の支払請求を断念させようと考え、同人を怖がらせるに足りる行為をした恐喝未遂(判示第8)の各事案である。 まず、暴行及び傷害致死について見ると、被告人は、ボクシングの練習生でありながら、Aに対し、複数回にわたって殴るなどの暴行を加えており、傷害致死に至っては、交通事故や高所からの転落に比肩するような強い暴行を多数回加えたものであって、凶器を使用していないことを踏まえても、その犯行態様は極めて悪質なものである。このような暴行を加えられて死亡したAの身体的・精神的苦痛は想像するに余りあり、その結果が重大であることはいうまでもない。被告人は、Aに対し、根拠の乏しい理由で金銭を請求する中で、落ち度のない同人の些細な言動に対してイライラするなどといった理由で、常習的に暴行を加えていたのであり、その動機・経緯は、身勝手かつ理不尽であって強く非難 し、根拠の乏しい理由で金銭を請求する中で、落ち度のない同人の些細な言動に対してイライラするなどといった理由で、常習的に暴行を加えていたのであり、その動機・経緯は、身勝手かつ理不尽であって強く非難されるべきである。 次に、恐喝未遂について見ると、本件では、Bが、怖がった以外の別の理由からレンタカーの延長利用料金の支払請求をしなかったため、既遂には至っていないものの、被告人は、落ち度のないBに対し、根拠の乏しい因縁を付けて語気荒く迫っており、その言動は通常同人を怖がらせるに十分で、その犯行態様は悪質というべ きである。 さらに、被告人の軽度知的障害が本件に影響しているとの弁護人の主張について見ると、精神科医であるE医師の当公判廷における供述によれば、被告人は、軽度知的障害を有しており、感情をコントロールしづらく、共感性の乏しさから暴行行為を繰り返してしまう性質があり、イライラした感情からAに対する暴行行為及びBに対する恐喝行為に及んだという点で、被告人の軽度知的障害が本件に影響したと認められる。しかし、同医師の公判供述を前提としても、前記知的障害は境界域に近いものであり、暴行行為の際のAの反応等から、Aの身体的・精神的苦痛を理解することは可能であるというのであり、被告人においても、周囲に人がいる場合には力加減をしていたなどと当公判廷において述べていること等からすれば、本件に対する被告人の軽度知的障害の影響は限定的なものであったと言わざるを得ず、この限度で、被告人に有利な事情として考慮すべきである。 以上の犯情に照らすと、被告人の刑事責任は、単独で凶器を用いることなく犯した知人等に対する傷害致死の事案の中でも、重い部類に属するというべきである。 そして、被告人が、Aが死亡したことに対する反省の言葉を述べるものの、傷害 の刑事責任は、単独で凶器を用いることなく犯した知人等に対する傷害致死の事案の中でも、重い部類に属するというべきである。 そして、被告人が、Aが死亡したことに対する反省の言葉を述べるものの、傷害致死事案におけるAに対する暴行の程度・態様について客観的な状況と整合しない弁解に終始し、Bに対しても反省の態度を示していないことなどからすると、本件について真に反省して内省を深めることで今後の更生が強く期待できるとは言い難いこと、恐喝未遂を含む累犯前科等を有していること等をも考慮して、主文の刑を量定した。 (求刑・懲役14年)令和6年6月10日大阪地方裁判所堺支部第1刑事部 裁判長裁判官藤原美弥子 裁判官河本薫 裁判官清水瑛夫

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