平成23年5月30日判決言渡平成22年(行ケ)第10363号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年4月25日判決 原告サンケミカルコーポレーション 原告 A 原告 B原告ら訴訟代理人弁護士田治之佳同上原恭典同佐藤史肇同野口英一郎原告ら訴訟代理人弁理士辻永和徳 被告特許庁長官 指定代理人小林和男同須藤康洋 主文 1 特許庁が不服2010-13844号事件について平成22年7月9日 にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文と同旨第2 当事者に争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯(1) 原告サンケミカルコーポレーション(以下「原告サンケミカル」という。),原告A(以下「原告A」という。)及び原告B(以下「原告B」という。)は,発明の名称を「チオキサントン誘導体,およびカチオン光開始剤としてのそれらの使用」とする発明(以下「本願発明」という。)の特許を受ける権利の共有者である。 原告らは,平成15年2月26 という。)は,発明の名称を「チオキサントン誘導体,およびカチオン光開始剤としてのそれらの使用」とする発明(以下「本願発明」という。)の特許を受ける権利の共有者である。 原告らは,平成15年2月26日,本願発明について,特許出願をした(国際出願番号 PCT/US2003/005820,出願番号特願2003-571274。優先権主張平成14年2月26日英国(グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国)。以下「本件出願」という。)(乙1)。 (2) 平成16年8月24日,弁理士辻永和徳(以下「辻永弁理士」という。)は,【特許出願人】の欄に原告サンケミカルの名称のみを記載した国内書面を提出したが,特許庁は,同年12月14日,辻永弁理士に対して,「発明者の『A』『B』は発明者でもあり出願人となっている。」旨注記した上,【特許出願人】の欄を正確に記載するよう手続補正指令書を発送した(甲5,乙1,2)。辻永弁理士は,同年12月21日,「錯誤により出願人を間違えましたので補正致します。」と理由を付記した上,原告A及び原告Bを国内書面の出願人に追加する旨の手続補正書を提出した(乙3)。 (3) 特許庁は,本件出願について,平成22年2月22日付けで拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。)をしたが,本件拒絶査定書には,特許出願人として「サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」,その代理人として,辻永弁理士の氏 名が記載されている(甲3)。 (4) 辻永弁理士は,平成22年6月23日,代理人として本件拒絶査定に対する不服審判(不服2010-13844号事件。以下「本件審判」という。)を請求したが,同審判請求書(以下「本件審判請求書」という場合がある。)における【審判請求人】欄には,原告サンケミカルの名称のみを記載し,その余の特許出 13844号事件。以下「本件審判」という。)を請求したが,同審判請求書(以下「本件審判請求書」という場合がある。)における【審判請求人】欄には,原告サンケミカルの名称のみを記載し,その余の特許出願人2名の氏名を記載しなかった(甲4)。 (5) 特許庁は,平成22年7月9日,本件審判の請求を却下する旨の審決をした(以下「本件審決」という。)。 2 本件審決の理由本件審決の理由は,以下のとおりである。 すなわち,本件は,特許を受ける権利が「A」,「B」及び「サン・ケミカル・コーポレーション」の共有に係る特許出願の拒絶査定に対する審判請求であるから,この請求は,特許法第132条第3項の規定により,上記共有者の全員が共同して請求しなければならないところ,本件は,その一部の者である「サン・ケミカル・コーポレーション」によってなされたものであるから不適法な請求であって,その補正をすることができないものである。 第3 当事者の主張 1 取消事由に関する原告らの主張本件審決は,原告ら全員が共同して本件審判請求を行っていないとした判断の誤り(取消事由1),補正を命じることを怠った違法(取消事由2)があるから,違法なものとして取り消されるべきである。 (1) 原告ら全員が共同して本件審判請求を行っていないとした判断の誤り(取消事由1)ア原告らは,日本国内に住所又は居所を有さず,特許管理人によらなければ,特許出願等特許に関する手続等を行うことができない(特許法8条1項)。原告らは,特許出願等の諸手続を辻永弁理士に依頼して行っているのであるから,辻永弁理士 は特許管理人である。特許管理人は,包括的代理権を有しており(同条2項),辻永弁理士も本件諸手続に関し,包括的な代理権を有している。 特許管理人が在外者を代理して特許に関す ら,辻永弁理士 は特許管理人である。特許管理人は,包括的代理権を有しており(同条2項),辻永弁理士も本件諸手続に関し,包括的な代理権を有している。 特許管理人が在外者を代理して特許に関する諸手続を行うに当たり,日本国内に住所又は居所を有する者の代理人の場合と異なり,書面による証明も含めて,その代理権の存在を証明することは求められていない。したがって,特許庁が,特許に関する諸手続を行っている者が特許管理人であるという事実を認識していれば,特許庁は,手続を行っている者が包括的代理権を有しており,その包括的代理権に基づいて特許に関する手続を行っていることも,認識しているはずである。 特許庁は,本願発明に関する諸手続が特許管理人によってされていることを認識していたから,原告らが,拒絶査定に対する不服審判請求に関する手続も含め,本願発明に関する一切の手続を行う代理権を特許管理人に与え,同人が原告らから授権された包括的代理権に基づいて,本願発明に関する一切の手続を行っていたという事実を認識していた。 イ平成18年1月31日に特許庁に対し提出された出願審査請求書には,請求人として原告ら3名が,代理人として辻永弁理士が記載されている。このような事実に照らすならば,出願審査請求書を受領した特許庁は,辻永弁理士が特許を受ける権利の共有者である原告ら全員を代理して出願審査請求を行っていたことを認識していた。 また,特許庁は平成21年8月7日付けで拒絶理由通知書を辻永弁理士に発送しており,その表題部分には,特許出願人代理人として辻永弁理士の氏名が記載されている。さらに,特許庁が,平成22年2月25日付けで辻永弁理士に発送した拒絶査定書の表題部分には,特許出願人として「原告サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と原告らの名称が記載されてい れている。さらに,特許庁が,平成22年2月25日付けで辻永弁理士に発送した拒絶査定書の表題部分には,特許出願人として「原告サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と原告らの名称が記載されている。 このように,特許庁が行った拒絶理由通知及び拒絶査定は,辻永弁理士が,特許を受ける権利の共有者である原告ら全員を代理して行った出願審査請求に対して行われているのであり,その法的効果が本人である原告らに帰属することも特許庁 は認識していた。そして,拒絶理由通知や拒絶査定等の法的効果が確定することによって不利益を被るのは原告らであるから,その内容が確定することを防ぐために行われる不服申立手続は,原告らの意思に基づき,その利益を実現するために行われていたと合理的に理解できる。本件審判請求は,包括代理権を有する特許管理人である辻永弁理士が原告ら全員のために行っていたのであり,そのことは特許庁も十分認識している。 なお,本件審判請求書の提出物件目録に記載されている包括委任状番号は原告サンケミカルの包括委任状番号のみであるが,特許管理人が拒絶査定不服審判の請求を行う場合,包括委任状の提出を含め,代理権の所在を証明する書面を提出する運用はされていない。したがって,原告A及び原告Bの包括委任状の番号が記載されていなかったとしても,そのことによって,原告A及び原告Bに審判請求の意思がないと判断することはできない。 (2) 補正を命じることを怠った違法(取消事由2)本件審判請求は特許を受ける権利の共有者である原告ら全員が共同して行っているのであるから,本件審判請求書の審判請求人欄に原告Aや原告Bの記載がされていないことは,特許法131条1項に規定する方式についての不備に当たる。したがって,同法133条1項により,審判長は,相当の期間を指定して ,本件審判請求書の審判請求人欄に原告Aや原告Bの記載がされていないことは,特許法131条1項に規定する方式についての不備に当たる。したがって,同法133条1項により,審判長は,相当の期間を指定してその表示の補正をすべきことを命じなければならず,補正を命じることなく直ちに本件審判請求を却下した審決は,同条項に反する違法がある。 2 被告の反論(1) 原告ら全員が共同して本件審判請求を行っていないとした判断の誤り(取消事由1)ア特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができず(特許法38条),特許を受けようとする者は,願書に特許出願人の氏名又は名称等を記載しなければならない(同法36条1項)旨規定されている。そして,特許を受ける権利の共有者が,その共有に係る権利につ いて審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならず(同法132条3項),また,審判を請求する者は,審判請求書に,当事者及び代理人の氏名又は名称等を記載しなければならない(同法131条1項)旨規定されている。 さらに,審判請求書の補正は,その要旨を変更するものであってはならない(同法131条の2第1項)旨規定されている。 審判請求書の審判請求人を追加又は変更することは,その要旨を変更するものと解すべきである。ところで,審判請求書の請求人の欄に記載されていない者であっても,審判請求期間満了までに提出された書面から共同して審判を請求する意思が表示されているものと推認することができるときには,審判請求書の方式に不備があるものとみて,審判長名による補正命令がなされ,それに応答して審判請求書に欠落している共同出願人を補正することは許されるが,共同して審判を請求する意思が表示されているものと推認すること 式に不備があるものとみて,審判長名による補正命令がなされ,それに応答して審判請求書に欠落している共同出願人を補正することは許されるが,共同して審判を請求する意思が表示されているものと推認することができないときには,その欠陥の補正は許されないというべきである。 イ本件出願は,原告らによる共同出願である。しかし,本件審判請求書には,請求人として原告サンケミカルが記載されているのみで,原告Aや原告Bは記載されておらず,代理人として辻永弁理士が記載され,提出された目録には「【包括委任状番号】0504270」が記載され,同包括委任状番号「0504270」は,辻永弁理士に対する原告サンケミカルの包括委任状番号である。本件審判請求書の記載によると,原告サンケミカルのみが審判請求人であり,それを代理する辻永弁理士も原告サンケミカルから包括委任を受けたものであって,原告Aや原告Bも共同審判に係る請求人であることの記載も示唆もない。また,本件審判請求書と同日付けで提出された手続補正書にも,補正をする者として原告サンケミカルが,代理人として辻永弁理士の氏名が記載されているのみである。本件出願後,実体審理に入ってから提出された平成21年11月3日付意見書(乙4)及び手続補正書(乙5)にも,特許出願人又は補正をする者として原告サンケミカルが,代理人として辻永弁理士が記載されているのみであり,実体審査以降,共同出願であ るにもかかわらず,実質的に原告サンケミカルのみが応答して手続を行っている。 以上のような経緯を勘案すると,辻永弁理士が代理人として行った本件審判請求は,原告サンケミカルが単独で行ったものというべきであり,実質的に原告らの共同審判請求の意思表示であると推認することはできない。 したがって,本件審判請求は,特許法13 として行った本件審判請求は,原告サンケミカルが単独で行ったものというべきであり,実質的に原告らの共同審判請求の意思表示であると推認することはできない。 したがって,本件審判請求は,特許法132条3項に違反してされたものである。 (2) 補正を命じることを怠った違法(取消事由2)前記のとおり,本件審判請求は原告サンケミカルが単独で行ったものであり,本件審判請求書の全趣旨や審判請求期間満了までに提出された書面から勘案しても原告Aや原告Bが請求人になっていると推認させるものはないから,本件審判請求書の請求人に原告A及び原告Bを追加する補正は,その要旨を変更するものである。 したがって,審判請求人に対し補正の機会を与えず,本件審判請求を却下した本件審決には何ら違法はない。 第4 当裁判所の判断本件審決では,原告A及び原告Bは,形式的には,審決の名宛人とされていない。 しかし,同原告らは,本願発明に係る特許を受ける権利の共有者であること,原告らは,審判請求においても,原告サンケミカルと共同審判請求人であった旨を主張して,本件審決取消訴訟を提起していることから,特許法178条2項の「当事者」に準ずる者として,本件審決の効力の有無について法律上の利益を有するものとして,上記原告らには,本件審決の取消しの訴えについて原告適格があると解すべきである。 そこで,原告らの主張する取消事由1及び2について,判断する。 1 争いのない事実及び認定事実(1) 原告らは,本願発明の特許を受ける権利の共有者であるが,平成15年2月26日,本願発明について特許出願をした。原告サンケミカルはアメリカ合衆国の法人であり,原告A及び原告Bは英国内に住所又は居所を有する者であり,いずれも日本国内に営業所又は住所若しくは居所を有しない。 いて特許出願をした。原告サンケミカルはアメリカ合衆国の法人であり,原告A及び原告Bは英国内に住所又は居所を有する者であり,いずれも日本国内に営業所又は住所若しくは居所を有しない。 (2) 平成16年8月24日,辻永弁理士は,国内書面を提出したが,同書面の【特許出願人】欄には,原告サンケミカルの名称のみを記載し,他の原告らの氏名を記載しなかった(甲5)。特許庁は,同年12月8日付けで,特許出願人代理人である辻永弁理士あてに,原告A及び原告Bは発明者であると共に出願人でもあるとして,国内書面の特許出願人の欄を補正するよう手続補正を指令し,辻永弁理士は,同月21日,錯誤により出願人を間違えた旨付記した上,原告A及び原告Bを国内書面の特許出願人に追加する旨の手続補正を行った(乙1ないし3)。 辻永弁理士は,特許庁に対し,平成17年3月16日付けの原告サンケミカルの辻永弁理士に対する包括委任状を提出した。なお,原告A及び原告Bの委任状は特許庁に提出されていない(乙6)。 (3) 辻永弁理士は,平成18年1月31日,本件出願につき審査請求をしたが,同審査請求書には,請求人として原告ら3名の名称,代理人として辻永弁理士の氏名を記載した(甲1)。 (4) 特許庁は,本件出願については,平成22年2月22日付けで本件拒絶査定をしたが,本件拒絶査定書では,特許出願人として「サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と記載し,代理人に辻永弁理士の氏名を記載した(甲3)。 (5) 辻永弁理士は,平成22年6月23日,代理人として本件審判を請求したが,本件審判請求書には,出願番号として「特願2003-571274」,審判の種類として「拒絶査定不服審判事件」と記載され,審判請求人欄には原告サンケミカルとその識別番号が,代理人欄には 請求したが,本件審判請求書には,出願番号として「特願2003-571274」,審判の種類として「拒絶査定不服審判事件」と記載され,審判請求人欄には原告サンケミカルとその識別番号が,代理人欄には辻永弁理士の氏名が,目録欄には包括委任状番号として原告サンケミカルの包括委任状の番号が記載されていた(甲4,乙6)。 2 判断(1) 特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができず(特許法38条),その共有に係る権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならない(同法132条3項)。 また,特許を受けようとする者は,特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならず(同法36条1項),拒絶査定に対して不服審判を請求する者は,当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないとされている(同法131条1項)。したがって,共有者の全員が一人の代理人に対して拒絶査定不服審判の請求を委任し,その代理人が,共有者のために拒絶査定不服審判を請求する際には,審判請求書に請求人として共有者全員の氏名を記載することが求められる。 (2) 上記規定によれば,審判請求書には審判請求人全員の氏名を記載しなければならないのであるが,他方,共有に係る権利の共有者全員の代理人から審判請求書が提出された場合において,共有者全員が「共同して請求した」といえるかどうかについては,単に審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきものではなく,その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁が知り得た事情等を勘案して,総合的に判断すべきである。 ところで,共有に係る特許を受ける権利についての審判請求の 記載のみによって判断すべきものではなく,その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁が知り得た事情等を勘案して,総合的に判断すべきである。 ところで,共有に係る特許を受ける権利についての審判請求のように,共有者全員が共同して請求しなければならないと規定されている場合に,代理人が,共有者全員から拒絶査定不服審判請求について委任を受けているにもかかわらず,共有者の一部の者のみを代理して拒絶査定不服審判を請求することは,あえて不適法な審判請求をすることとなり,そのような行為は,不自然かつ不合理であるといえるから,代理人がそのような共有者全員の利益を害するような行為を行うことは,通常考えられない。そうだとすると,その代理人から審判請求書を受理する特許庁としては,代理人がこのような不合理な行為を行うやむを得ない特段の事情が推認される場合はさておき,そのような事情がない限り,審判請求書の記載上,共有者の一部の者のためにのみする旨の表示となっている場合があったとしても,そのような審判請求書は,誤記に基づくものであると判断するのが合理的である。 (3) 上記の観点から,本件について検討する。前記のとおり,①原告らは,いずれも日本国内に営業所又は住所若しくは居所を有しない者であり,特許に関する代 理人である特許管理人によらなければ特許法に基づく諸手続を行うことができず,しかも,特許管理人は原則として一切の手続について本人を代理するという包括的な代理権を有していること(特許法8条1項,2項),②原告らは,本願発明に係る特許法に基づく諸手続を辻永弁理士に委任しており,同弁理士は原告らの特許管理人であったこと,③特許庁は,特許出願過程において,平成16年12月8日付けで,特許出願人代理人である辻永弁理士あてに,原告A及び原告Bが発明者であると共に 委任しており,同弁理士は原告らの特許管理人であったこと,③特許庁は,特許出願過程において,平成16年12月8日付けで,特許出願人代理人である辻永弁理士あてに,原告A及び原告Bが発明者であると共に出願人でもあると理解した上,国内書面の特許出願人の欄を補正するよう手続補正を指令し,これに応じて,辻永弁理士は,同月21日,錯誤により出願人を間違えた旨付記した上,原告A及び原告Bを国内書面の特許出願人に追加する旨の手続補正を行ったこと,④特許庁は,本件出願について,平成22年2月22日付けで本件拒絶査定をしたが,本件拒絶査定書には,特許出願人として「サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と記載し,代理人に辻永弁理士の氏名を記載したこと等の事実が認められる。 以上の事実を総合すれば,辻永弁理士が本件審判請求書を提出することによってした審判請求は,審判請求書の記載上,原告サンケミカルの名称のみ表記され,原告A及び原告Bの氏名は表記されていないが,辻永弁理士に原告ら全員のためにする意思があることは明らかであり,しかも,特許庁においても,その意思は,十分に知り得たものというべきである。したがって,本件審判請求は請求人が原告ら3名であるにもかかわらず,本件審判請求書には請求人として原告サンケミカルのみが記載されている場合であるから,同法131条1項の定める方式について不備があることとなる。このような場合,審判長は,同法133条1項に基づき,原告らの代理人たる辻永弁理士に対して,相当の期間を定めてその補正をすべきことを命じなければならなかったといえる。 (4) これに対し,被告は,本件審判請求書に請求人として原告サンケミカルのみが記載され,提出物件の目録として,原告サンケミカルの辻永弁理士に対する包括委任状の番号のみが記載されていたこと 。 (4) これに対し,被告は,本件審判請求書に請求人として原告サンケミカルのみが記載され,提出物件の目録として,原告サンケミカルの辻永弁理士に対する包括委任状の番号のみが記載されていたこと,本件審判請求書と同日付けで提出さ れた手続補正書にも,補正をする者に原告サンケミカルしか記載されていなかったこと,本件出願手続で提出された平成21年11月3日付意見書(乙4)及び手続補正書(乙5)にも,特許出願人又は補正をする者として原告サンケミカルしか記載されていなかったことを挙げて,辻永弁理士が本件審判請求書を提出することによってした審判請求は,原告サンケミカルのみが行ったと解すべきであると主張する。 しかし,前記のとおり,①辻永弁理士は,平成18年1月31日,本件出願につき審査請求をしたが,同審査請求書には,請求人として原告ら3名の名称,代理人として辻永弁理士の氏名を記載していること,②特許庁は,本件出願について,平成22年2月22日付けで本件拒絶査定をしたが,本件拒絶査定書では,特許出願人として「サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と記載し,特許出願人が原告ら3名であることを前提として手続を行ったこと,③本件審判請求書には本件出願の出願番号が記載され,本件審判は本件拒絶査定に対する不服手続であることが明白であること,④原告らはいずれも日本国内に営業所又は住所若しくは居所を有しないことから,辻永弁理士は原告らの特許管理人であり,包括的な代理権を有していることを,特許庁が認識していること等の諸経緯に照らすならば,本件審判請求書に,原告A及び原告Bの氏名が表記されなかったのは,過誤に基づくものであって,原告らの共同請求であると認めるのが合理的である。 なお,本件では,本件出願後,特許庁に対し,原告サンケミカルか 判請求書に,原告A及び原告Bの氏名が表記されなかったのは,過誤に基づくものであって,原告らの共同請求であると認めるのが合理的である。 なお,本件では,本件出願後,特許庁に対し,原告サンケミカルから辻永弁理士に対する包括委任状は提出されているが,原告A及び原告Bから同弁理士に対する包括委任状は提出されていない。しかし,特許法や特許法施行規則において,代理人による特許出願の場合に委任状の提出は義務付けられておらず,委任状の提出を要しない実務慣行の存在も推認されること,特許庁も原告A及び原告Bの委任状の提出を求めることはなく,辻永弁理士が同原告らの代理人であるとして出願手続を進めてきていること等の経緯に照らすならば,原告A及び原告Bから同弁理士に対する包括委任状が提出されていない事実をもって,本件審判請求が,原告らの共 同意思に基づく請求であることを否定する根拠とはならない。なお,日本国内に住所又は居所(法人にあっては営業所)を有する者が代理人に拒絶査定不服審判の請求を委任する場合は,特別の授権を要し(特許法9条),その代理権の授与は書面をもって証明しなければならないが(同法施行規則4条の3),特許管理人である辻永弁理士は,包括的な代理権を有しており,拒絶査定不服審判を請求するに当たっても特別の授権は必要ないことからすると,原告A及び原告Bの包括委任状が特許庁に提出されておらず,そのため,本件審判請求書の提出物件の目録にも同原告らの包括委任状の番号は記載されていなかったとしても,そのことをもって,原告A及び原告Bには本件審判を請求する意思がないことの根拠にもならない。 (5) 以上によれば,審判長は,不適法かつ補正し得ない審判請求であるとして,原告らの代理人である辻永弁理士に対して,補正命令をすることなく,審決をもって本件審判 思がないことの根拠にもならない。 (5) 以上によれば,審判長は,不適法かつ補正し得ない審判請求であるとして,原告らの代理人である辻永弁理士に対して,補正命令をすることなく,審決をもって本件審判請求を却下したものであるから,本件審決は違法であって,取り消されるべきである。 3 よって,原告ら主張の取消事由1及び2は理由があるので,本件審決を取り消すこととする。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官知野明
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