- 1 - 主文 1 原判決主文2,3項を次のとおり変更する。 (1) 控訴人は、被控訴人に対し、本判決確定の日まで、別紙賃金支給額計算表の支払期日欄記載の各期日限り、同表合計額欄記載の各金員及びこれに対する各期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。 2 その余の本件控訴を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 前項の取消部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。 (以下、略語、略称は原判決のそれに従う)第2 審理の経過等 1 事案の骨子(1) 雇用契約等控訴人は、アメリカ合衆国軍隊(在日米軍)及び諸機関が必要とする労務の円滑な充足と労働者の権利、利益の擁護を図る観点から、労働者(駐留軍等労働者)を雇用し、その労務を在日米軍及び諸機関に提供している(間接雇用方式)。控訴人は、米国政府との間で、それぞれ対象とする労働者を異にする基本労務契約、船員契約及び諸機関労務協約の3つの労務提供契約を締結し、当該契約に基づき、日米両国政府が分担して労務管理を行っている(日米共同管理方式)。 被控訴人は、平成7年4月17日、基本労務契約に基づき控訴人に雇用され、各基地に配属されていたところ、平成14年10月16日、諸機関労務 - 2 -協約に基づきP1海兵隊福利厚生部(MCCS)自動車輸送課に転任し、自動車機械工として稼働していた。 本件制裁解雇の当時、被控訴人の直属の上司は第一監督者であるP2であり、その他の上司として、階層順に第二監督者であるP3、P4及びP5が勤務していた。 (2) 制裁解雇の定め従業員が著しい非行 裁解雇の当時、被控訴人の直属の上司は第一監督者であるP2であり、その他の上司として、階層順に第二監督者であるP3、P4及びP5が勤務していた。 (2) 制裁解雇の定め従業員が著しい非行その他違反行為及び制裁措置に関する表(附属書6(英文附属書3)別添1。本件違反行為表)に列挙された行為を行ったときは、制裁解雇の措置を執ることができるものとされている(諸機関労務協約附属書8(英文附属書18)D節10a)。本件違反行為表には、12「秩序を乱す行為」b「重」として、「争闘、脅迫もしくは他人に対する傷害、権限ある者に対する肉体的抵抗、士気、業務もしくは規律の保持に悪影響をあたえる粗野な言動またはみだらなもしくは不道徳な行為」が列挙されているところ、違反行為1回目に執ることが適当な制裁措置として「公式訓戒から解雇まで」、2回目として「出勤停止から解雇まで」、3回目として「解雇」がそれぞれ明記されている。 制裁解雇に当たっては、日本国の労働法規によって除外される場合を除き、公式な人事措置通知書により制裁解雇の予告及び解雇の決定をしなければならないものとされている(諸機関労務協約附属書8(英文附属書18)D節10b)。そして、公式な人事措置通知書は、あらかじめ沖縄防衛局に送付されるなどの所要の手続を経て、正式なものとすることが完了するものとされている(諸機関労務協約附属書8(英文附属書18)E節8)。 (3) 本件制裁解雇被控訴人は、平成19年1月17日、第一監督者であるP2に対し、最近P4が自分を解雇しようとしているなどとして「もう我慢できない、家族には迷惑をかけたくないから妻と離婚する準備とか、手続も全部したから、も - 3 -うP4を殺す。」と発言したものとされている(本件発言)。また、被控訴人は、平成15年 もう我慢できない、家族には迷惑をかけたくないから妻と離婚する準備とか、手続も全部したから、も - 3 -うP4を殺す。」と発言したものとされている(本件発言)。また、被控訴人は、平成15年ころから平成18年ころまでの間、同僚や上司に対する攻撃的な態度を執るなどしたものとされている。 在沖米海兵隊民間人人事部(海兵隊人事部)は、被控訴人の本件発言及び上記態度が制裁解雇事由としての「秩序を乱す行為」「重」に該当するものとして、いずれも控訴人の同意を得た上で、平成19年11月20日、被控訴人に対し、その旨を記載した解雇予告通知書(本件解雇予告通知書)を交付して解雇予告を行い、同年12月18日、同月20日付けで解雇する旨の解雇決定通知書(本件解雇決定通知書)を交付して解雇する旨の意思表示をした(本件制裁解雇)。 (4) 請求及び当事者の主張の骨子ア制裁解雇事由の有無(争点①)について被控訴人は、「ウチクルス」(沖縄方言で「懲らしめる」の意)と発言したにとどまり「殺す」とは発言していない、同僚や上司に対する攻撃的な態度を執っていないと主張する。控訴人は、本件制裁解雇に係る制裁解雇事由として、本件解雇予告通知書に記載されている本件発言及び上記態度のほか、被控訴人の勤務状況等が極めて悪く、被控訴人が職場の秩序を乱し、他の従業員に恐怖や不安を与えたとの事実を主張するところ、被控訴人はそれらの事実も存在しないと主張する。 イ解雇権濫用の成否(争点②)についてまた、被控訴人は、本件制裁解雇はP5らによる被控訴人に対するパワーハラスメントの一環としてされたものであるなどとして、解雇権の濫用に該当すると主張する。 ウ請求被控訴人は、上記の理由により本件制裁解雇が無効であるとして、控訴人に対し雇用 るパワーハラスメントの一環としてされたものであるなどとして、解雇権の濫用に該当すると主張する。 ウ請求被控訴人は、上記の理由により本件制裁解雇が無効であるとして、控訴人に対し雇用契約上の地位にあることの確認を求めるほか、未払賃金 - 4 -等の支払を求めている。 2 原判決(1) 制裁解雇事由の有無(争点①)についてア原審は、諸機関労務協約において「秩序を乱す行為」「重」につき「争闘、脅迫もしくは他人に対する傷害、権限ある者に対する肉体的抵抗、士気、業務もしくは規律の保持に悪影響をあたえる粗野な言動またはみだらなもしくは不道徳な行為」と説明されているところ、これを例示と解したとしても、これと同程度の行為でなければ制裁解雇の根拠とすることができないとした。 イ原審は、被控訴人が「殺す」又は「ウチクルス」のどちらの発言をしたのかは必ずしも判然としないものの、海兵隊がP4の生命・身体を保護する措置を執った形跡がないことを踏まえると、その発言が現にP4を殺害するなどの物理的攻撃に及ぶことを高い蓋然性で予見させるようなものであったとは認めるに足りず、本件制裁解雇を基礎付ける事由たり得ないとした。 ウまた、原審は、控訴人が制裁解雇事由として主張するその余の事実(被控訴人の勤務状況等が極めて悪く、被控訴人が職場の秩序を乱し、他の従業員に恐怖や不安を与えたとの事実)については、本件制裁解雇を基礎付けるほどの重大な事実は認めるに足りないとした。 (2) 解雇権濫用の成否(争点②)について原審は、仮に制裁解雇事由が認められるとしても、被控訴人の本件発言の内容その他の事情にかんがみ、本件制裁解雇は重きに失し、解雇権の濫用に該当するとした。 (3) 結論原審は、被控訴人が控訴人に対し雇用契約 裁解雇事由が認められるとしても、被控訴人の本件発言の内容その他の事情にかんがみ、本件制裁解雇は重きに失し、解雇権の濫用に該当するとした。 (3) 結論原審は、被控訴人が控訴人に対し雇用契約上の地位にあることを確認するとともに(主文1項)、平成20年1月から本判決確定の日まで毎月1 - 5 -0日限り月額賃金29万7590円(基本給26万0900円+格差給2万6090円+扶養手当6500円+通勤手当4100円。毎月末日締翌月10日支払)、毎年6月5日限り夏季手当56万8225円(基本給と扶養手当の合計額の212.5%)、毎年12月5日限り年末手当62万1705円(基本給と扶養手当の合計額の232.5%)の支払を求める限度で請求を認容した(主文2項)。 第3 事案の概要 1 事案の概要は、次項において当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりである。 2 当審における控訴人の主張(1) 制裁解雇事由の有無(争点①)についてア軍隊としての性質にかんがみると、在日米軍のすべての部隊あるいは職場においては、厳重に規律、秩序を維持することが必要であるから、上司に反抗し、危害を加える旨の言動をなすことは厳重に取り締まられなければならない。他人に対する物理的な攻撃が行われるか又はその現実的な危険がある場合のみならず、発言の内容や状況等に照らして業務又は規律の保持に悪影響を及ぼす場合も同様である。また、被控訴人は車両整備等を任務としていたところ、上司の命令に従わずに不正な整備や不十分な作業がされると重大な事故に繋がり、多くの人命が奪われることにもなりかねないし、工具等の武器となりうるものも常に保持している状況にあった。 このような特殊性を踏まえると ずに不正な整備や不十分な作業がされると重大な事故に繋がり、多くの人命が奪われることにもなりかねないし、工具等の武器となりうるものも常に保持している状況にあった。 このような特殊性を踏まえると、原判決のように制裁解雇事由を限定的に解釈するのは相当ではなく、文字どおり「規律の保持に悪影響をあたえる粗野な言動」であれば、その程度を問わず制裁解雇事由に該当するというべきである。 イ原判決は、本件発言に関するP2の原審供述を全面的には採用することが - 6 -できないものとした。 P2の原審供述は、具体性及び迫真性に富むものであり、供述に変遷もみられず、P3の原審供述とも符合する。P2が虚偽の供述を行う動機はない。 本件発言に関するP2の原審供述は全面的に信用することができる。 ウ原判決は、本件発言に関する被控訴人の原審における供述を採用することができるものとした。 被控訴人の原審供述は、不自然なものである上に客観的事実と符合しないから、信用することができない。 エ原判決は、海兵隊がP4の生命・身体を保護する措置を執った形跡がないとして、本件発言が現にP4を殺害するなどの物理的攻撃に及ぶことを高い蓋然性で予見させるようなものであったとは認めるに足りないものとした。 在日米軍は、本件発言があった日の翌日には、被控訴人を休業手当支給身分に置き、出勤することによりP4を攻撃する機会を奪った。仮に被控訴人が出勤してきても、直ちに同僚らが憲兵隊に通報することによりP4を護衛することができる状態にあったので、被控訴人から通行許可証(ベースパス)を取り上げる必要はなかった。P4は、私生活においても被控訴人から攻撃を受けないよう警戒していた。 また、被控訴人は、日ごろから同僚や上司らに対して攻撃的ないし威圧的な言動を繰り返してき パス)を取り上げる必要はなかった。P4は、私生活においても被控訴人から攻撃を受けないよう警戒していた。 また、被控訴人は、日ごろから同僚や上司らに対して攻撃的ないし威圧的な言動を繰り返してきたのであるから、本件発言は単なる一時的な感情の高ぶりにより不満等を暴力的な言葉で表現したものにとどまるものではなく、直ちにP4を殺害し、又はこれに準ずるような深刻な打撃を加える切迫した危険を感じさせるものであった。 (2) 解雇権濫用の成否(争点②)についてア本件発言は、直ちにP4を殺害し、又はこれに準ずるような深刻な打撃を加える切迫した危険を感じさせるものであったから、厳格な職場規律を重んじる在日米軍においては到底容認し得ないものである。 - 7 -イ被控訴人は、①平成15年には監督者の命令に従わなかったことを理由としてカウンセリング(面談による注意、指導)を複数回受けた(乙24ないし28)ほか、手続上の理由で後に撤回されたものの、公式訓戒措置が執られ(乙32、35及び36)、②平成16年からは違反記録が取られるようになり、その記録に残っている限りでも、複数回にわたる遅刻、早期離職が認められており(乙13、31)、③平成17年3月14日には早期離職(午後3時30分までの勤務であるのに午後3時22分に離職)が認められ、口答指示に従わない行為として、今後同様あるいは他の違反行為があった場合には、出勤停止あるいは解雇も含む厳しい措置が執られる旨の警告がされ(乙31)、④平成18年10月13日にも昼食時間を超えて遅く職場に戻ってきたためこのまま仕事に遅れることが続けば公式訓戒措置が執られる旨告げられ(乙29)、⑤同月17日にも、午前6時30分に出勤すべきところ、午前6時32分に出勤したことを理由として、このまま仕事に遅れ たためこのまま仕事に遅れることが続けば公式訓戒措置が執られる旨告げられ(乙29)、⑤同月17日にも、午前6時30分に出勤すべきところ、午前6時32分に出勤したことを理由として、このまま仕事に遅れることが続けば公式人事措置が執られる旨警告を受け(乙30)、⑥平成19年1月4日には、公式訓戒文書が交付された(乙37)。 原判決は、P4及びP3が作成した日誌(乙13)のうち平成18年度の記載部分を捉えて被控訴人の遅刻が少ないとした。P4及びP3は平成16年9月24日から上記日誌に被控訴人の出勤時刻や勤務状況の記録を取っているところ、それ以外にも被控訴人は規律違反行為を繰り返しており(P4及びP3の各原審供述)、これによれば平成18年度以外にも被控訴人が違反行為を繰り返し、その都度指導や注意を受けてきたことが明らかである。 このように、被控訴人は、長期間、多数回にわたり規律違反行為を繰り返し、その都度指導及び注意を受け、今後も違反行為が続くようであれば解雇も含む厳しい措置が執られる旨の警告を受けていながら本件発言に - 8 -及んだものである。 第4 当裁判所の判断 1 制裁解雇事由の有無(争点①)について(1) 判断の骨子諸機関労務協約における「秩序を乱す行為」「重」が制裁解雇という重大な法的効果を伴うものであることを踏まえると、少なくとも諸機関労務協約における説明と同程度以上の違法性を有する行為であって初めてこれに該当するものと解すべきである。 被控訴人が「殺す」と発言したと認めるに足りる確たる証拠はなく、本件発言をもって「秩序を乱す行為」「重」に相当するほどの高い違法性を有する行為であると評価することはできない。 控訴人が主張するその余の制裁解雇事由は認めるに足りない。 当裁判所が上記のとおり をもって「秩序を乱す行為」「重」に相当するほどの高い違法性を有する行為であると評価することはできない。 控訴人が主張するその余の制裁解雇事由は認めるに足りない。 当裁判所が上記のとおり判断する理由は、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の2に記載のとおりである。 (2) 当審における控訴人の主張に対する判断ア控訴人は、軍隊においては厳重に規律ないし秩序を維持することが必要であるから、原判決のように制裁解雇事由を限定的に解釈することは相当ではないと主張する。 被控訴人が所属していたMCCS自動車輸送課は福利厚生部の一般車両の整備等を担当する部署であって、軍事行動や兵器の管理に直接関与する部署ではないから、その職務が民間の自動車整備工場と本質的に異なるものとは認め難い。本件全証拠をもってしても、上記部署において殊更に厳重な規律ないし秩序の維持が必要であると認めるに足りない。 諸機関労務協約には「秩序を乱す行為」「重」に加えて「軽」(業務、規律または士気に悪影響をあたえる乱暴な騒がしい遊び。無礼な、下品なまた - 9 -は挑発的な言葉を用いること。喧嘩(けんか)または喧嘩を煽動(せんどう)すること)が規定されているところ、控訴人の主張するように「重」を広く解すると「軽」の存在意義が失われ、制裁解雇事由のうち「秩序を乱す行為」に2段階を設けた諸機関労務協約の趣旨に反することとなるのは被控訴人において指摘するとおりである。 イ控訴人は、P2の原審供述は全面的に信用することができるものであると主張する。 原判決が適切に説示するとおり、P2の原審供述は具体性及び迫真性に富むものではあるものの、被控訴人を制裁解雇しようとする海兵隊人事部の意 は全面的に信用することができるものであると主張する。 原判決が適切に説示するとおり、P2の原審供述は具体性及び迫真性に富むものではあるものの、被控訴人を制裁解雇しようとする海兵隊人事部の意向に沿い、その上司であるP3とともに被控訴人に不利な虚偽供述を行うおそれを否定することができない。 さらに付言すると、証拠(乙17、P2の原審供述)によれば、本件発言の当日、被控訴人はまずP2に対して注意書やカウンセリング記録のすべてのコピーを要求し、その必要性についてP4が被控訴人を馘首しようとしているのに備えて資料を集めると説明していたこと、本件発言はその直後であったとされているところ、P2がいうようなP4殺害の確定的な意思を窺わせる本件発言の内容と上記資料交付の請求目的とは両立し難いように思われる。また、控訴人は、本件発言の内容は直ちにP4を殺害し又はこれに準ずるような深刻な打撃を加えるという切迫した危険を感じさせるものであった旨主張するところ、仮にP2においてそのように感じるようなものであったとすると、本件発言は殺人ないし強度の暴行の予告であり得るから、直ちに当局にその旨連絡し、被控訴人をも対象として事実の存否・経緯や重大性の有無について速やかな調査ないし捜査や必要に応じて身柄の確保等が行われるべきところ、実際には翌日から被控訴人を休業手当支給身分としたにとどまり、また海兵隊人事部による被控訴人に対する調査が開始されたのが1か月以上経過した後である平成19年2月27日であることはいずれも控訴人 - 10 -において自認するところである。前認定事実にこれらの対応等を総合すると、少なくともP2は本件発言をもって実際に殺人等の犯罪行為が行われる可能性が高いとは受け止めていなかったことが推認されるのであって、結局P2のいう本件発言の 。前認定事実にこれらの対応等を総合すると、少なくともP2は本件発言をもって実際に殺人等の犯罪行為が行われる可能性が高いとは受け止めていなかったことが推認されるのであって、結局P2のいう本件発言の内容の真実性は疑わしいといわねばならない。 ウ控訴人は、被控訴人の原審供述は不自然なものである上に客観的事実と符合しないから信用することができないと主張する。控訴人の主張は、被控訴人が平成19年1月17日午後3時40分ころ、メンテナンス事務所付近でたばこを吸っているP2を見たとの原審供述につき、①P2は当時禁煙していたこと、②P2は同日午後3時19分ころ給油所でブレーキクリーナーを購入していたことという2つの客観的事実と矛盾するとするものである。 P2は平成19年1月17日当時に禁煙していたと原審において供述するところ、その裏付けとなる客観的な証拠は何ら存しない。証拠(乙46、47、P2の原審供述)によれば、P2が同日午後3時19分ころに給油所にてブレーキクリーナーを購入した事実が認められるところ、当該給油所はメンテナンス事務所から約1㎞(自動車で2、3分程度)にあったのであるから、P2が同日午後3時40分ころにメンテナンス事務所付近にいたことと何ら矛盾するものではない。 また、原判決が適切に説示するとおり、被控訴人の原審供述にはあいまいな部分があるにせよ、上司であるP4に不満を抱くP2に対して、同感であることを表わすためにP4に対する被控訴人の否定的評価を明らかにしたものであると解するのが自然であることは原判決において説示するとおりであり、また、被控訴人が突然P4に殺意を抱く動機は何ら窺われないのであって、P4を殺害し又は何らかの物理的攻撃に出ることを高い蓋然性で予見させるような発言をしなかったという限度では信用することができる。 た、被控訴人が突然P4に殺意を抱く動機は何ら窺われないのであって、P4を殺害し又は何らかの物理的攻撃に出ることを高い蓋然性で予見させるような発言をしなかったという限度では信用することができる。 エ控訴人は、本件発言の後間もなく、海兵隊がP4の生命・身体を保護する措置を執り、P4も自らの身の安全を確保するよう警戒していたと主張する。 - 11 -本件発言の内容が現実的な危険性を感じさせるものでなかったと判断すべきことは前述のとおりである。当審に至って提出されたP4の陳述書(乙48)にはこれに沿う記載があるものの、原審において提出されたP4の陳述書(乙22)その他の証拠にはこれに沿うものは全くない。当審提出の上記陳述書には、上記のような重要な事実を当審に至って初めて陳述するに至った合理的な理由の説明がないので、これを採用することができない。 また、仮にそのようなことが行われたとしても、上記認定を前提にする限り、せいぜい念のための備えにすぎないというほかなく、本件発言が控訴人の主張するようなものであるとすれば、むしろその程度のことしか行われなかったことこそ不自然不合理である。 2 解雇権濫用の成否(争点②)について(1) 判断の骨子当裁判所も、前記のとおり本件制裁解雇には制裁解雇事由が認められないところ、仮にこれが認められたとしても、被控訴人の本件発言の内容その他の事情にかんがみ、本件制裁解雇は重きに失し、解雇権の濫用に該当すると判断する。その理由は、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の3に記載のとおりである。 (2) 当審における控訴人の主張に対する判断ア控訴人は、本件発言が直ちにP4を殺害し、又はこれに準ずるような深刻な打撃を加える 由」の「第3 当裁判所の判断」の3に記載のとおりである。 (2) 当審における控訴人の主張に対する判断ア控訴人は、本件発言が直ちにP4を殺害し、又はこれに準ずるような深刻な打撃を加える切迫した危険を感じさせるものであったから、厳格な職場規律を重んじる在日米軍においては到底容認し得ないものであると主張する。 前記のとおり、本件発言は上記のような危険を感じさせるものではなかった。また、前記のとおり、被控訴人が所属していたMCCS自動車輸送課において殊更に厳重な規律ないし秩序の維持が必要であるとは認めるに足りない。控訴人の上記主張は前提において失当である。 - 12 -イ控訴人は、被控訴人が長期間、多数回にわたり規律違反行為を繰り返し、その都度指導及び注意を受けていると主張する。 控訴人が主張する規律違反行為のうち、平成15年6月24日に係るもの(乙24)は従業員同士の喧嘩を理由とするものであるから、被控訴人ばかりを非難することはできない。平成15年8月11日及び12日に係るものは、最終的に公式訓戒が取り下げられているので(乙25~27、32~35)、これをもって被控訴人の規律違反行為と評価することはできない。平成15年10月15日に係るものはユニフォームの不着用(乙28)、平成17年3月14日に係るものは8分の早退(乙31)、平成18年10月17日に係るものは2分の遅刻(乙30)、平成18年10月13日に係るものは昼食からの帰りが遅いというものであり(乙29)、仮にこれらの事実が存在していたとしても比較的軽微なものである。 控訴人は、P4及びP3が作成した日誌(乙13)のとおり被控訴人は遅刻その他の規律違反行為を繰り返したと主張する。 原判決が適切に説示するとおり、上記日誌を前提としたとしても平成18年の遅刻 。 控訴人は、P4及びP3が作成した日誌(乙13)のとおり被控訴人は遅刻その他の規律違反行為を繰り返したと主張する。 原判決が適切に説示するとおり、上記日誌を前提としたとしても平成18年の遅刻は合計5回、最長で10分間にとどまるものであるから、被控訴人が悪質な遅刻を常習的に行っていたとは認めるに足りない。 のみならず、そもそも上記規律違反行為のうち解雇予告通知書(乙8)に記載されていない行為又はこれと関連性の乏しい行為をもって本件制裁解雇の理由とすることは許されないと解すべきである。 そうすると、本件制裁解雇には制裁解雇事由が認められないところ、仮にこれが認められたとしても、被控訴人の本件発言の内容その他の事情にかんがみ、本件制裁解雇は重きに失し、解雇権の濫用に該当する。 第5 結論 1 地位確認請求について以上のとおり、被控訴人による本件発言はP4を殺害し、あるいは少なくと - 13 -もP4に何らかの物理的攻撃に出ることを高い蓋然性で予見させるものではなかったから(したがって、本件が在日米軍が従業員の復職を拒むことができる「軍紀の維持のかく乱を含む安全上の理由による解雇事案」(諸機関労務協約主文第5条c)に該当しないことは明らかである)、本件制裁解雇には制裁解雇事由が認められず、仮にその点を措くとしても諸般の事情にかんがみ本件制裁解雇は解雇権濫用に該当する。被控訴人が控訴人に対し雇用契約上の地位にあることの確認を求める請求は理由がある。 2 未払賃金請求について証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば以下のとおり認めることができる。 (1) 通勤手当は実費の趣旨で支給されるものであると認められるから、現実の出勤がされていない本件においてはこれを請求することができない。 (2) 被控訴人の被扶養者の年齢が 認めることができる。 (1) 通勤手当は実費の趣旨で支給されるものであると認められるから、現実の出勤がされていない本件においてはこれを請求することができない。 (2) 被控訴人の被扶養者の年齢が15歳に達したことから、平成19年4月分から月額1万1500円となるものと認められる。 (3) 被控訴人は本件制裁解雇の効力が生じたものとされた平成19年12月20日までの賃金を支払われているので、同月分の未払賃金は同月21日から同月31日までに係る9万5662円(基本給8万6966円、格差給8696円)と認められる。 (4) 平成22年2月分及び3月分は平成21年度給与改定に伴う較差調整措置によりそれぞれ2万5445円減額され、同月分から基本給表の改正により基本給が26万0500円、格差給が2万6050円に減額されたことが認められる。 (5) 平成20年夏季手当は支給率215%(支給額58万5660円)、年末手当は支給率235%(支給額64万0140円)、平成21年夏季手当は支給率195%(支給額53万1180円)、年末手当は支給率235%(支給額64万0140円)、平成22年夏季手当は支給率195%(支給額53万0400円)、年末手当は支給率220%(支給額59万8400円) - 14 -と改定されたことが認められる。 以上のとおりであるから、被控訴人の控訴人に対する未払賃金請求は、本判決確定の日まで、別紙賃金支給額計算表の支払期日欄記載の期日限り、同表合計額欄記載の金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 3 結論よって、これと一部結論を異にする原判決中未払賃金請求に関する部分(主文2項)を上記の限度で変更し、その余の部分は正当であるからその余の本件 る遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 3 結論よって、これと一部結論を異にする原判決中未払賃金請求に関する部分(主文2項)を上記の限度で変更し、その余の部分は正当であるからその余の本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決をする。 福岡高等裁判所那覇支部民事部 裁判長裁判官橋本良成 裁判官森鍵一 裁判官山崎威
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