令和6年9月12日宣告令和5年(う)第157号 主文 本件各控訴を棄却する。 被告人らに対し、当審における未決勾留日数中各430日を、それぞれ その原判決の刑に算入する。 理由 第1 本件の概要及び控訴趣意 1 本件の概要被告人Aは、北九州市に拠点を置き、平成4年6月には指定暴力団に、平成24 年12月には特定危険指定暴力団に指定されたA2會(代替わりの前後を区別しない。)又はその二次団体であるB2組(同様に区別しない。)において、原判示第1及び第2の当時はB2組本部長、原判示第3の当時はA2會直じき若わか、原判示第4の当時はA2會理事長補佐であるとともに、A組組長(当初は三次団体、途中より二次団体)であった。 被告人Bは、原判示第1及び第2の当時はB2組組員、第4の当時はB2組組長秘書であった。 本件は、①平成22年3月15日、北九州市内の自治会長方に拳銃で弾丸6発が撃ち込まれたが、自治会長らに命中せず殺害に至らなかった事件(原判示第1。「自治会長事件」)、②平成23年2月9日、北九州市内の新築工事作業所において、甲 株式会社従業員が拳銃で撃たれて傷害を負ったが殺害に至らなかった事件(原判示第2。「甲事件」)、③平成23年11月26日、乙株式会社会長が拳銃で射殺された事件(原判示第3。「乙事件」)、④平成25年1月28日、A2會総裁Cの担当看護師が刃物で刺されるなどして傷害を負ったが殺害に至らなかった事件(原判示第4。 「看護師事件」)、⑤平成29年11月27日、小倉拘置支所の調室において、窓ガ ラス1枚及びガラスフィルム1枚を2回肘打ちして破損させた(損害見積額合計3 万0200円相当)事件(原判示第5。「器物損壊事件」)からなる 1月27日、小倉拘置支所の調室において、窓ガ ラス1枚及びガラスフィルム1枚を2回肘打ちして破損させた(損害見積額合計3 万0200円相当)事件(原判示第5。「器物損壊事件」)からなる事案である。被告人Aは、①自治会長事件、②甲事件、③乙事件及び④看護師事件の共謀共同正犯として、被告人Bは、①自治会長事件、②甲事件及び④看護師事件の共謀共同正犯並びに⑤器物損壊事件の単独犯として、それぞれ起訴された。 原審において、被告人両名は、種々の点を争い、①ないし④については無罪を、 ⑤については器物損壊罪の成立は争わないが損害見積額がより低額である旨を主張したが、原判決は、全事件につき、公訴事実(訴因変更後のものを含む。)と同旨の各事実を認定して被告人Aを①ないし④につき、被告人Bを①、②、④及び⑤につき有罪とし、被告人Aを無期懲役に、被告人Bを懲役14年にそれぞれ処した。 なお、⑤器物損壊事件について、弁護人は当審において何らの主張をしていない から、以下ではその余の事件についてのみ検討することとし、⑤器物損壊事件以外の全事件を指して「本件全事件」ということがある。 2 控訴趣意被告人両名の主任弁護人A5及び弁護人B5並びに被告人Bの控訴趣意は、①本件全事件につき研究者論文等の証拠調べ請求を却下した点、自治会長事件につき検 証請求を却下する一方、過去の判決書、刑事施設における面会記録及びHの裁判官調書を採用した点並びに看護師事件につき本件通信傍受関連証拠を採用した点が、それぞれ訴訟手続の法令違反に当たると主張するもの、②本件全事件につき他の共犯者らとの共謀を認めた点で事実誤認を主張するもの、③看護師事件につき、組織犯罪処罰法を適用する根拠を欠くとして法令適用の誤りを主張するものである。こ れに対する の、②本件全事件につき他の共犯者らとの共謀を認めた点で事実誤認を主張するもの、③看護師事件につき、組織犯罪処罰法を適用する根拠を欠くとして法令適用の誤りを主張するものである。こ れに対する検察官の答弁は、論旨はいずれも理由がなく、本件各控訴は棄却されるべきであるというものである。 そこで、以下ではまず研究者論文等の証拠調べ請求を却下した点に係る訴訟手続の法令違反の主張を検討し(第2)、以降は事件ごとに控訴趣意に対する検討を加え(第3ないし第6)、最後に結論を述べる(第7)。 第2 訴訟手続の法令違反の控訴趣意のうち、研究者論文等の証拠調べ請求の却下 に関する主張について論旨は、看護師弁第4ないし6、18及び20号証、自治会長弁第11号証の証拠調べ請求を却下した原裁判所の決定は判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反に当たる、というのである。 原裁判所は、これらの請求を却下した理由について明示していない。所論は、看 護師弁第4及び5号証は通信傍受に、看護師弁第6及び20号証並びに自治会長弁第11号証は殺意に、看護師弁第18号証は共謀にそれぞれ関連する、研究者らの論文又は意見書であり、これらを参照して法令解釈及び事実認定を行う必要性があったにもかかわらず、これらを却下した原審の訴訟手続には法令違反がある、という。 しかし、原裁判所は、これら書証に係る原審弁護人の証拠調べ請求に対し、原審検察官が不同意の意見を述べたため、伝聞例外に該当しないことから採用の根拠を欠くものとして却下したことが明らかであって、所論は失当である。 第3 自治会長事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人両名が、D、E、F、G であって、所論は失当である。 第3 自治会長事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人両名が、D、E、F、G及びHと共謀の上、平成22年3月15日午後11時13分頃、北九州市内のB3方敷地内において、E若しくはFのいずれか又は両名が、B3方在宅中のA3(当時75歳)及びB3(同月17日当時75歳)に対し、B3らを殺害することになってもやむを得ないと考え、回転弾倉式拳銃を使用して、B3方台所勝手口から家屋 内に弾丸2発を発射して台所壁に、B3方玄関先から家屋内に弾丸4発を発射し、玄関に接した8畳和室空間を通してB3ら2名が在室していたB3方1階6畳寝室のふすまを貫通させて同室押入に、それぞれ着弾させるなどしたが、いずれもB3らに命中せず、殺害に至らず(原判示第1の1。殺人未遂及び拳銃発射)、その際、前記拳銃1丁を適合実包6発と共に携帯所持した(同第1の2。拳銃加重所持)、と いうものである。 論旨は、①検証請求を必要性なしとして却下した原裁判所の判断は証拠の必要性に関する評価を誤った、過去の判決書、刑事施設における面会記録及びHの裁判官調書は法律的関連性を欠くのに原裁判所はこれを採用した、という訴訟手続の法令違反、②実行犯らの拳銃発射行為は殺人の実行行為に該当せず、殺意も認められない上、被告人両名に共謀及び故意は認められないとする事実誤認である。 当裁判所は、①検証請求を却下し、所論指摘の証拠を採用した原裁判所の判断に訴訟手続の法令違反はなく、②実行犯らの拳銃発射行為は殺人の実行行為に該当し、殺意も認められ、被告人両名の共謀及び故意も認められるとした原判決の認定説示は正当であり、是認することができると判断した。以下、詳 の法令違反はなく、②実行犯らの拳銃発射行為は殺人の実行行為に該当し、殺意も認められ、被告人両名の共謀及び故意も認められるとした原判決の認定説示は正当であり、是認することができると判断した。以下、詳述する。 2 訴訟手続の法令違反の主張について ⑴ 検証請求の却下に係る主張についてこの点は後記3⑶イ(ア)の判断と密接に関連するため、同所で判断する。 ⑵ 法律的関連性を欠く証拠の採用に係る主張について所論は、①他人が起こした過去の事件について被告人両名が認識していた事実を推認する証拠として、判決書及び面会記録を内容とする捜査報告書を被告人両名の 関係で採用し、②被告人Aが以前に事件に「関与」したと評価される経験に係る証拠としてHの裁判官調書を被告人Aの関係で採用した原裁判所の判断は、いずれも法律的関連性を欠く証拠を採用したもので憲法31条及び刑訴法317条に違反する、という。 しかしながら、まず②のHの裁判官調書は、自治会長事件の証拠として採用され ていないことが記録上明らかであり、原判決が実質的にこれを自治会長事件において考慮したとみるべき根拠も全くない。次に①の判決書及び面会記録を内容とする捜査報告書についてみると、原判決は、後記3⑵ア及び⑶アのとおり、一審判決において拳銃を用いて被害者を殺害したと認定されたA2會関係者との面会に被告人両名が訪れている以上、被告人両名はこれらの者が起こしたとされる事件の内容を 知っていたと認定し、この点に被告人両名のなした自治会長事件における関与等を 総合して、被告人両名の共謀及び故意を認定したものである。その推認過程は単なる悪性格の立証などとは異なるものであって、法律的関連性に欠けるところはない。 所論はいずれも前提を欠いている。 なお、原裁判所は 、被告人両名の共謀及び故意を認定したものである。その推認過程は単なる悪性格の立証などとは異なるものであって、法律的関連性に欠けるところはない。 所論はいずれも前提を欠いている。 なお、原裁判所は前記①の捜査報告書中面会記録部分を刑訴法323条2号該当書面として採用しているが、そのうち「談話の要旨」欄記載の事項は、面会に立ち 会った刑事施設職員が聴取した内容を要約記載するものと解され、逐語的に記載されるものではない以上、その記載の要否や表現ぶりについて、同職員の判断を経ることが予定されているものというほかないから、同号に該当するものとはいえず、これを含めて採用した原審には訴訟手続の法令違反があるというべきである。もっとも、その余の「接見時間」「面会時間」欄や「接見者の身上及び本人との関係」「面 会の相手方の身上及び本人との関係」欄記載の事項は同号に該当するものといえ、これらを総合すれば前記のとおり被告人両名が一審判決において射殺事件を起こしたと認定されたA2會関係者の面会に訪れたことは優に認定できるから、前記訴訟手続の法令違反は判決に影響を及ぼさない。 3 事実誤認の主張について ⑴ 実行犯らの行為の実行行為該当性及び殺意についてア原判決の認定説示原判決は、要旨以下のとおり説示して、実行犯らの行為が殺人の実行行為に該当し、殺意に欠けるところもないと認定した。 実行犯らは、高い殺傷能力を有する口径0.38インチの真正拳銃を用いて、弾 丸6発をA3及びB3が在宅中のB3方内に向けて発射した。犯行時間は深夜帯であるが、B3方は一般住宅であるから、その住人であるB3らが家屋内のどこにいたとしても何ら意外ではない。現に発射された弾丸のうち1発はB3らがいた寝室にまで到達していたように、B3らの動向や弾 帯であるが、B3方は一般住宅であるから、その住人であるB3らが家屋内のどこにいたとしても何ら意外ではない。現に発射された弾丸のうち1発はB3らがいた寝室にまで到達していたように、B3らの動向や弾丸の角度がわずかにでも異なれば、B3らに命中し、死に至らしめる危険があった。とりわけ、玄関先における発射行 為については、玄関戸が閉じられ屋内の様子を把握できない状態で、直立した人体 の上半身に相当する高さからほぼ水平方向に、B3方内に向け左右の角度を異にして4発連射しており、B3方内の住人に弾丸が命中し、死に至らしめる危険性が高いものであった。実行犯らにおいて、弾丸がB3方住人に命中しないよう配慮した形跡は一切うかがわれない。 以上によれば、前記銃撃行為は殺人の実行行為に該当すると認められ、実行犯ら は、発射した弾丸がB3方内の住人に命中し、死亡させたとしてもやむを得ないものとして前記銃撃行為に及んだと認められるから、殺意が認められる。 イ当裁判所の判断所論は、①B3方の総面積に占める6つの弾丸の軌道の合計面積は極めて小さく、弾丸が命中する確率は極めて低かった、②深夜の一般住宅であれば多くの住人は就 寝しており、また、消灯されている場所に住人がい続けることは通常考えられないところ、実行犯らは、勝手口台所や玄関土間が消灯されており人がいないことを確認してから拳銃を発射しているから、命中しないよう配慮した形跡は一切うかがわれないとする評価は誤っている、という。 しかしながら、①の弾丸の命中確率をいう点については、人の現在する住居に真 正拳銃で6発の弾丸を撃ち込む行為の危険性は、建物の総面積に占める弾丸の軌道の合計面積の割合で定まるものではなく、原判決が正当に説示するとおり弾道の高さ等から判断されるべき 現在する住居に真 正拳銃で6発の弾丸を撃ち込む行為の危険性は、建物の総面積に占める弾丸の軌道の合計面積の割合で定まるものではなく、原判決が正当に説示するとおり弾道の高さ等から判断されるべきものであって、所論は失当である。次に、②の人がいないことを確認して発砲したとの点については、勝手口台所や玄関土間は消灯されていたものの、本件犯行当時、寝室の照明は点灯していたのであり、現に発射された弾 丸のうち1発はB3らがいた寝室にまで到達していることからすれば、実行犯らは発射する弾丸の弾道上に照明の点いた部屋があるか否かを意に介さず発砲しているとみるよりないから、住人に命中しないよう配慮した形跡は一切うかがわれないとする原判決の説示は正当である。 ⑵ 被告人Aの共謀及び故意について ア原判決の認定説示 原判決は、要旨以下のとおり認定説示して、被告人Aの共謀及び故意を認めた。 被告人Aは、本件犯行の三、四日前に、Hに対し犯行に使用する本件バイクの用意を指示し、本件犯行当日も、本件バイクを指定の時間までに本件銭湯に運ぶようH及びGに指示した上、本件バイクが動かなくなったため当初の計画を変更してDらを予備の車のところへ案内することについてもHから報告を受け把握していた。 また、被告人Aは、本件犯行後にも、HからH及びGが実際に果たした役割の報告を受けた。以上のとおり、被告人Aは、自らが組長を務めるA組組員(H及びGはいずれもB2組組員兼A組組員)らに本件犯行への関与を指示し、Hから進捗状況や結果の報告を受けていたことからすると、少なくとも、本件バイクの使用が予定された何らかの犯罪行為がA2會により組織的に計画されていたことを知っていた と認められる。 そして、A2會組員らが過去に起こした事件として とからすると、少なくとも、本件バイクの使用が予定された何らかの犯罪行為がA2會により組織的に計画されていたことを知っていた と認められる。 そして、A2會組員らが過去に起こした事件として、平成10年にIらが元漁協組合長を拳銃で射殺した事件や、平成19年にJらがA2會から絶縁されていた元組長を拳銃で射殺した事件などが存在するところ、被告人Aは、本件犯行以前から各射殺事件について認識しており、A2會はその組員が拳銃を含む凶器により対象 者を殺害する事件を起こすことが十分あり得る組織と認識していた。 以上によれば、被告人Aは、上位者からの指示により本件犯行に関与するに当たって、本件犯行が拳銃を含む凶器を用いて加害行為に及ぶもので、場合によっては対象者を殺害する事態となることも1つの可能性として想定しつつ、そうなったとしてもやむを得ないとの認識を有していたと認められ、少なくとも本件に係る未必 的故意を有しており、以上でみたところからすれば共謀も認められる。 イ当裁判所の判断所論は、①被告人Aは過去のA2會組員による事件の詳細を把握しておらず、A2會が原判決説示のような組織であると認識していたとはいえない、②仮に認識していたとしても、被告人Aが関与した本件の準備行為からは、本件犯行において拳 銃が準備されており、それが使用されるとまでは認識できず、これを認識したとい える根拠を原判決は示していない、という。 しかし、①の点については、被告人Aは、J及びIの未決勾留中等に接見に行くなどしているから、両名がどのような事件で起訴されたかや判決の概要について認識していなかったとは考え難い。また、②の点については、原判決の説示する被告人AのH及びGに対する指示内容等に、A2會に係る認識を併せ考慮すれば、拳銃 のような事件で起訴されたかや判決の概要について認識していなかったとは考え難い。また、②の点については、原判決の説示する被告人AのH及びGに対する指示内容等に、A2會に係る認識を併せ考慮すれば、拳銃 を用いた加害行為についても未必的故意があるとした原判決の説示に誤りはない。 ⑶ 被告人Bの共謀及び故意についてア原判決の認定説示原判決は、要旨以下のとおり認定説示して、被告人Bの共謀及び故意を認めた。 (ア) 被告人Bは、ヘルメットをEらに渡すために本件銭湯に来た際に本件バ イクが動かないことを知り、Hに連絡してHを本件銭湯へ呼び出した。本件銭湯を離れた後も、犯行前後にわたって、DやE又はF(Gの携帯電話を使用している。)と連絡を取り、進捗状況の確認等を行っていた。被告人Bが本件犯行計画につきどの程度知っていたかは必ずしも明らかではないものの、少なくとも、ヘルメットや本件バイクの使用が予定された何らかの犯罪行為がA2會により組織的に計画され ていたことを知っていた。 そして、被告人Bは、本件犯行以前から、A2會組員らが過去に起こした前記各射殺事件がA2會により組織的に行われたものであることを認識していた。 以上によれば、被告人Bは、本件犯行に関与するに当たり、本件犯行が拳銃を含む凶器を用いて加害行為に及ぶもので、場合によっては対象者を殺害する事態とな ることも1つの可能性として想定しつつ、そうなったとしてもやむを得ないとの認識を有していたと認められ、少なくとも本件に係る未必的故意を有しており、以上でみたところからすれば共謀も認められる。 (イ) 原審弁護人は、Hの証言及び供述のうち、平成22年3月15日午後7時34分の前頃、Gと共に、本件バイクの鍵を本件銭湯に置き、帰りかけると、被 告人B ろからすれば共謀も認められる。 (イ) 原審弁護人は、Hの証言及び供述のうち、平成22年3月15日午後7時34分の前頃、Gと共に、本件バイクの鍵を本件銭湯に置き、帰りかけると、被 告人Bから戻ってくるよう電話で伝えられ、本件銭湯へ向かっている途中で被告人 Bに出会ったとする部分の信用性を争っている。 本件バイクが犯行に使用されず、当初想定されていなかった本件ゴルフが代わりに使用されたという経過に照らせば、Hが本件銭湯に本件バイク及び鍵を置いて去った後に、本件バイクが動かないことに気付いた共犯者がH又はGを電話で呼び戻すことは自然である。Hは、当初、A、E、Fの誰かははっきりしないが、共犯者 の誰かから呼び戻された旨述べていたところ、捜査過程で通話履歴を確認し、呼び戻したのは被告人Bであるとの記憶を喚起し、その旨述べるに至ったと認められ、共犯者の誰かから呼び戻されたこと自体は当初から一貫して供述している。そして、通話履歴によれば、この時間帯に被告人BとHとの間で複数回連絡が交わされているのに対し、判明している限りではあるが、D、E又はFとの間の通話は存在せず、 H又はGに対して電話を発信しているA2會組員は被告人Bのみである。以上によれば、Hが平成22年3月15日午後7時38分頃の被告人Bからの電話で本件銭湯に呼び戻されたという供述の信用性は高い。 また、Hが本件銭湯へ戻る道中、被告人Bとすれ違い会話をし、その際、被告人Bは自らが乗っている車を「彼女の車」である、ヘルメットを持ってきた、と述べ ていたとの供述については、同車の特徴が、被告人Bの当時の交際相手が実際に所有していた車両の特徴と合致したことから一定程度裏付けられており、ヘルメットを持ってきた旨の被告人Bの発言は本件銭湯に赴きHに連絡するに至 については、同車の特徴が、被告人Bの当時の交際相手が実際に所有していた車両の特徴と合致したことから一定程度裏付けられており、ヘルメットを持ってきた旨の被告人Bの発言は本件銭湯に赴きHに連絡するに至った経緯の説明として不自然でない。 原審弁護人は、H供述中、夜間に、Hの乗車する本件ゴルフから、対向進行して きた被告人Bの乗る車両の運転手を識別したとする点は、そのようなことは不可能であって信用できないと主張する。確かに、すれ違いざまに互いを認識して停止することは一般的にかなり困難といえる。しかし、Hの供述する、呼び戻されてから本件銭湯までの経路上には、交差点付近など車両が減速又は停止し得る場所が含まれるし、交通量が少なく、複数回の通話によりお互いの位置を概ね知ることが可能 であったことなどの事情も加味すれば、走行中に停止して対向車の運転手と会話を 交わすことが可能な場面があっても不合理とはいえない。 イ当裁判所の判断(ア) Hの証言及び供述に係る所論所論は、Hを本件銭湯に呼び戻したのは被告人Bであるとする点の信用性を争い、①通話履歴は、原判決も指摘するとおり判明しているものに限られており、被告人 B以外の共犯者からの電話で呼び戻されたが、通話履歴が判明していない可能性は十分にある、②Hが被告人Bとすれ違い会話したとされる場所における交通量が少ないことを示す証拠も、Hと被告人Bが通話により居場所の確認をしあったことをうかがわせる事情もないことなどからすれば、夜間に対向車の運転手を識別し、すれ違い会話をしたというおよそ不可能な内容のH証言及び供述の信用性を肯定した 原判決は不合理である、などという。 しかし、①については、抽象的な可能性の指摘にとどまるというほかなく、信用性を左右しない。そして、② およそ不可能な内容のH証言及び供述の信用性を肯定した 原判決は不合理である、などという。 しかし、①については、抽象的な可能性の指摘にとどまるというほかなく、信用性を左右しない。そして、②については、原判決は、被告人Bに本件銭湯に呼び戻されたとするHの証言及び供述には被告人Bとの通話履歴の存在等の裏付けがあり、虚偽供述の動機もうかがえないから、同供述等の全体的な信用性は高い、との評価 を前提として、Hの述べるようなすれ違い時に互いに相手の車両の特徴等を認識して停止することに困難な面はあるがおよそ不可能とまではいえない、との判断からその点を含めて信用性を肯定したのであって、この判断に誤りはない。 なお、この点に関連して所論は、原判決が自ら指摘するように、夜間に街灯のない道路で自動車がすれ違う際に走行中の対向車の特徴を視認することは一般に相当 困難で、すれ違い時に互いを認識して停止することは一層困難なのであるから、H証言及び供述の信用性判断のためには現地での検証が必要であったのに、これを却下した原審の訴訟手続には証拠の必要性に関する判断を誤った法令違反がある、ともいう。 しかしながら、既にみたとおり、原裁判所は、Hの述べる内容にそのような困難 な点が含まれていることを前提としても、その他の点から原審弁護人請求の検証を 行うまでもなく信用性評価は可能と判断したものであると解され、その必要性の判断に誤りはない。 (イ)その余の所論所論は、①被告人Bが複数回にわたりGの携帯電話やDと通話していたのは、犯行当日、Kが起訴されたことから、K不在後のB2組の態勢について相談や指示が 繰り返されたためであって、その通話内容は本件犯行と無関係であった、②原判決は、被告人Bにおいて本件犯行が拳銃を含む凶器を使用 Kが起訴されたことから、K不在後のB2組の態勢について相談や指示が 繰り返されたためであって、その通話内容は本件犯行と無関係であった、②原判決は、被告人Bにおいて本件犯行が拳銃を含む凶器を使用すると知り得た具体的事情を指摘することなく、本件犯行以前からA2會の過去の射殺事件を認識していたことをもって共謀及び故意を認めており、論理の飛躍がある、という。 しかし、①の点は、被告人BとDの本件犯行当日の通話は、午後1時11分頃な いし午後11時21分頃の間で実に11回にも及ぶ反面、通話時間は最長のものでも1分26秒(午後5時29分頃のもの)であり、Gの携帯電話との通話も合計9回でいずれも1分にも満たないから、原判決の説示する進捗確認等の内容には沿う反面、K不在後の態勢に係る相談や指示を内容とするものとすれば回数及び長さの点でそぐわないというほかなく、採用できない。また、②の点は、原判決は、A2 會の過去の射殺事件の認識に加え、本件当日に被告人Bが担った役割等を考慮して、被告人Bの共謀及び故意を認定しているのであって、その説示は正当である。 ⑷ 小括以上のほかにも、所論は実行犯らの行為に実行行為性及び殺意は認められず、被告人両名に共謀及び故意は認められない旨縷々主張するが、前記認定を左右するも のではない。 第4 甲事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人両名が、L、M、G及びHと共謀の上、平成23年2月9日、北九州市内の病院移転新築工事作業所2階事務 所において、Mが、A4(当時50歳)に対し、殺意をもって、回転弾倉式拳銃で 弾丸3発を発射し、そのうち1発をA4の下腹部に命中させたが、全治約23日間を要する下腹部挫 作業所2階事務 所において、Mが、A4(当時50歳)に対し、殺意をもって、回転弾倉式拳銃で 弾丸3発を発射し、そのうち1発をA4の下腹部に命中させたが、全治約23日間を要する下腹部挫創を負わせたにとどまり殺害するに至らず(原判示第2の1。殺人未遂及び拳銃発射)、その際、前記拳銃1丁を適合実包3発と共に携帯所持した(同第2の2。拳銃加重所持)、というものである。 論旨は、①Mの拳銃発射行為は殺人の実行行為に当たらず、その殺意も認められ ない、②被告人両名に共謀及び故意は認められない、という事実誤認である。 当裁判所は、Mによる拳銃発射行為は殺人の実行行為に該当し、殺意も認められる旨並びに被告人両名に共謀及び故意が認められる旨の原判決の認定説示はいずれも正当なものとして是認できると判断した。以下、説明する。 2 Mの銃撃行為の実行行為該当性及び殺意について ⑴ 原判決の認定説示Mは、高い殺傷能力を有する口径0.38インチの真正拳銃を用い、事務所室内で合計3発の弾丸を発射した。最初の2発はA4がいる方向に向けて発射され、うち1発が現にA4に命中しており、人を死亡させる危険性の高い行為である。また、3発目の際A4は机の陰に隠れてはいたものの、概ねA4がいる方向に向けて発射 されており、備品を貫通するなどしてA4に命中する可能性は十分あった。以上によれば、Mの銃撃行為は殺人の実行行為に該当し、Mはその行為の危険性を認識して犯行に及んだと認められるから、殺意が認められる。 ⑵ 当裁判所の判断所論は、①A4に命中した弾丸1発は跳弾により当たったもので、MがA4の身 体に向けて発射した弾丸はない、②A4の負傷の程度は軽傷であることからすれば、Mの銃撃行為は殺人の実行行為性を欠き、殺意も認めら A4に命中した弾丸1発は跳弾により当たったもので、MがA4の身 体に向けて発射した弾丸はない、②A4の負傷の程度は軽傷であることからすれば、Mの銃撃行為は殺人の実行行為性を欠き、殺意も認められない、という。 しかし、①の点については、まずA4に命中した弾丸は、A4と相対する状態にあったMが2発目に発射した弾丸であるところ、同弾丸は、A4の前にあったサイドテーブル上に置かれていたファイルケース内の紙の束を貫通するなどしてA4に 命中したものであって、その貫通時に若干の弾道の変化があったか否かにかかわら ず、A4の身体の方向に向けて撃ったことが明らかである。また、1発目の弾丸は、事務所入口から入ってきたMが、椅子に座っていたA4の方向に向けて発射したもの、3発目の弾丸は、2発目の弾丸が命中して倒れ込んだA4の方向に向かって、Mが事務所入口に向かって逃走する過程で発射したものとそれぞれ認められる。したがって、いずれの弾丸もA4の身体に向けて発射されたものと認められる。また、 ②の点については、原判決は、高い殺傷能力を有する真正拳銃を用い、A4の身体目掛けて弾丸を発射する行為が殺人の実行行為に当たり、Mは当該行為の認識に欠けるところはなかった以上殺意もあるとするものであり、その評価は正当であって、A4の負った傷害の軽重はこれを左右するものではない。 3 被告人Aの共謀及び故意について ⑴ 原判決の認定説示後記アないしクを総合すれば、被告人Aは、本件犯行において、H及びGに対して本件バイクや本件バッグ等犯行に使用する用具の準備を指示し、本件犯行当日の行動についても多岐にわたる指示を出すとともに、本件犯行直前、待合せ場所で待機し、犯行後自ら実行犯であるMの逃走を援助したといえる。このような役割から 用する用具の準備を指示し、本件犯行当日の行動についても多岐にわたる指示を出すとともに、本件犯行直前、待合せ場所で待機し、犯行後自ら実行犯であるMの逃走を援助したといえる。このような役割から すると、被告人Aは、Mが従業員の出入りする本件事務所において発砲するという本件犯行の全体像を把握していたと認められる。以上によれば、被告人Aは、本件犯行が従業員のいる本件事務所内において拳銃で弾丸を発射し、場合によっては対象者を殺害し得るものと認識した上で、本件犯行の実行指揮役として中心的な役割を果たしたことが認められ、共謀及び故意が認められる。 ア被告人Aは、本件犯行の1週間から10日程前に、Hに対し、バイクを用意するよう指示し、Hは、Gと共に、本件犯行の約四、五日前に、本件バイクを窃取して調達した。 イ被告人Aは、本件バイクの窃取後本件犯行当日までに、Hに、被告人Bと連絡を取って荷物を受け取るよう指示した。Hは、被告人Bと連絡を取って、a事務 所で荷物の受渡しをすることとなり、被告人Bと夜間にa事務所で落ち合い、着替 えが入っている旨告げられて本件バッグを受け取ったが、本件バイクを用意していた経緯から、本件バッグ内の着替えは実行犯が着るものと理解した。その後間もなく、Hは、本件バッグをGに渡すため、Gに電話をしてa事務所に来るよう依頼し、本件カペラに乗ってNを帯同して来たGに対し、「着替えが入っているようなので保管していてくれ。」と述べて本件バッグを渡した。 ウ被告人Aは、本件犯行当日までに、北九州市のb病院に入院していたDをHと共に見舞いに行った帰り、本件事務所が所在していた工事作業所(当審注:上記病院から道路を隔てて西方に所在)を指さして、「ここの場所を覚えておけよ。」とHに述べた。また、被 病院に入院していたDをHと共に見舞いに行った帰り、本件事務所が所在していた工事作業所(当審注:上記病院から道路を隔てて西方に所在)を指さして、「ここの場所を覚えておけよ。」とHに述べた。また、被告人Aは、本件犯行当日までに、Hに対し、本件バイクを運んで人に渡し、その後Gの車で別の場所へ移動し、本件バイクが戻ってきたら隠す か処分するなどのHの犯行当日の行動を指示した。 エ本件犯行当日、Gは、Nから本件カペラを借りた。同日、Lは、集合場所において、被告人Aが運転しMが乗る本件カペラに乗り込み、本件カペラ内に置かれていた作業着、手袋、靴及びヘルメットを身に着けた。MはLが来た時点で、既に着替えを終えていた。 Hは、被告人A又はGから連絡を受け、本件バイクをc区dのe団地付近の道路へ運転して運んだ。同所には、被告人A、M及びLが乗った本件カペラとGが乗った本件軽自動車が、順に並んで停まっていた。Hはその付近に本件バイクを停め、本件軽自動車に乗り込んだ。 M及びLが本件カペラから降りて本件バイクの方へ行き、Lが本件バイクの運転 席に、Mがその後部座席に乗って発進した。被告人Aが本件カペラを発進させたのを受け、H及びGが本件軽自動車で本件カペラに追従し、c区fの線路沿いの道まで移動した。 オ M及びLは、本件バイクに乗ってb病院西側の道路まで移動した。Mが本件バイクから降りて本件事務所まで走って移動し、本件犯行を実行し、Lは、犯行を 終えて戻ってきたMを後部座席に乗せて前記線路沿いの道まで逃走した。 カ前記線路沿いの道において、M及びLは本件バイクを降り、Mは本件カペラに、Lは本件軽自動車にそれぞれ乗り込んだ。Hは、本件軽自動車から降りて本件バイクに乗り、c区g内の駐輪場まで本件バイクを移動さ 前記線路沿いの道において、M及びLは本件バイクを降り、Mは本件カペラに、Lは本件軽自動車にそれぞれ乗り込んだ。Hは、本件軽自動車から降りて本件バイクに乗り、c区g内の駐輪場まで本件バイクを移動させ、同所に置いた。 被告人Aは、Hと合流後、Gに対し、本件カペラの鍵を渡すとともに、H及びGに対し、被告人A、H及びGが本件犯行で使用した他人名義の携帯電話、実行犯ら が使用した着替え等を処分するよう指示した。H及びGは、本件カペラに載っていた黒いスポーツバッグに、本件カペラ及び本件軽自動車に載っていた2人分の着替え等を詰め込み、本件軽自動車に載せた。 キ H及びGは、平成23年2月10日、本件バイクを海中に投棄し、同日及び翌11日、本件軽自動車に載せていた黒いスポーツバッグ及びその中に詰め込んで いた着替え等を焼却処分した。 ク以上の事実は、主としてHの証言及び供述により認定したが、Hは、本件犯行への関与を自認しており、その供述内容に、他の客観証拠と矛盾する点や不自然、不合理な点はみられない。a事務所でGに本件バッグを手渡した点等はNの供述と整合している。また、Hには殊更虚偽の供述をすることをうかがわせる事情は見当 たらないことからすれば、Hの証言及び供述は全体として高い信用性を認めることができる。 ⑵ 当裁判所の判断ア所論は、Hが受け渡した本件バッグが犯行に使用されたものと認められないとして、①Hの述べる、横1m、高さ50cm、奥行き30cm程度という本件バ ッグの大きさでは実行犯が使用するフルフェイスヘルメット、作業着2組及び靴等が入りきらないから、Hの述べるところは信用できない、②原判決は、被告人Aが本件バッグの用意を指示し、被告人Bからこれを受け取ってGに渡した旨のH供述はN証言及び供述と整 メット、作業着2組及び靴等が入りきらないから、Hの述べるところは信用できない、②原判決は、被告人Aが本件バッグの用意を指示し、被告人Bからこれを受け取ってGに渡した旨のH供述はN証言及び供述と整合しており信用できるとするが、Nは、Gが「事件の数日前」に「誰か」からバッグを受け取った、バッグの形状等の詳細も覚えていないときわ めて抽象的に述べているだけであるから、H証言及び供述と整合するとはいえない、 また、Gは、本件バッグをHから受け取ったのはHが述べるよりもっと前の時期であり、実行犯が使用したバッグはGが準備した別のバッグであると証言しているが、この証言を原判決は無視している、という。 しかし、まず①のバッグのサイズは、この点を尋ねられたHが「結構大きいバッグで、どんぐらいなんですかね、ちょっと今、想像しても余りちょっと想像付かな いんですけど」などと述べながら説明したものでしかなく、正確に測定した結果等ではないから、これを根拠として上記ヘルメット等が入りきらないなどといい得るものではない。②の点については、本件の数日前に本件カペラでa事務所に来たGがバッグを受け取ったという範囲ではHとNの述べるところが一致している以上、整合しているとの評価に誤りはなく、Nがそのバッグの詳細な特徴を記憶していな くても不自然とはいえないから、H証言及び供述の信用性を高めるものとする原判決に誤りはない。また、所論指摘のG証言は、Hから受け取ったバッグのほかに、被告人Aの指示で用意したもの1つを含むヘルメット、作業着、靴等が入ったバッグを合計3つ、N方で保管していた、これら3つのバッグはそれぞれを区別できるように保管していなかったところ、被告人Aから指示されたサイズの靴が入ったバ ッグを本件当日持って行ったというものであ グを合計3つ、N方で保管していた、これら3つのバッグはそれぞれを区別できるように保管していなかったところ、被告人Aから指示されたサイズの靴が入ったバ ッグを本件当日持って行ったというものである。しかし、ほとんど同じ内容物のバッグを複数、しかも区別できない形で保管していたという内容自体不自然である上、この点について虚偽を述べる動機のないNは、自宅にGがバッグを置いていたことはない旨証言しており、これとも整合しないことからすれば、所論の前提となるG証言が信用できない。本件バッグが犯行に使用されたものと認められる旨の原判決 の説示に誤りはなく、所論は前提を欠いている。 イ所論は、被告人Aにおいて実行犯の拳銃所持を認識していたとみるべき根拠も、仮に認識していたとしても発射すると認識していたとみるべき根拠もない、という。 しかしながら、原判決説示のとおり、被告人Aは、Hらに犯行場所を教示すると ともに実行犯の送迎に関する計画、実行犯が使用するバイクや着替え等の準備を指 示していたのであって、被告人Aにおいて、実行犯が犯行場所において何をするかについて知らされないままであったとは考え難い。被告人Aは、本件犯行の内容を認識した上で、実行指揮役として中心的な役割を果たしたものであって、共謀及び故意が認められるとする原判決の説示は正当である。 ウ以上のほかにも、所論は被告人Aに共謀及び故意が認められない旨縷々主張 するが、いずれも原判決の認定を左右するに足るものではない。 4 被告人Bの共謀及び故意について⑴ 原判決の説示前記3⑴イのとおり、本件犯行に使用された着替え等が入った本件バッグを被告人BがHに渡しており、これは被告人Bの上位者の指示による行動と推認できる。 A2會組員による過去の発砲事 決の説示前記3⑴イのとおり、本件犯行に使用された着替え等が入った本件バッグを被告人BがHに渡しており、これは被告人Bの上位者の指示による行動と推認できる。 A2會組員による過去の発砲事件に係る被告人Bの認識等からすれば、被告人Bは、A2會内の上位者の指示によりHに渡した本件バッグが、いずれ拳銃を用いて対象者を殺害する犯罪に使用される可能性を想定していたと認められ、殺人未遂、拳銃発射、拳銃加重所持の未必的故意を有していた。被告人Bは、A2會組員として本件バッグが将来的に組織的犯行に使用され得ることを想定の上、自らの役割を果た しており、本件バッグ及びその在中物が実行犯らにより現に使用されたことなども踏まえれば、被告人Bに本件の共謀及び故意が認められる。 ⑵ 当裁判所の判断所論は、被告人Bから本件バッグを受け取った旨のHの証言及び供述は信用できず、本件バッグが本件犯行の用に供されたともいえない、というが、所論に理由の ないことは前記3⑵アで説示したとおりである。 所論は、a事務所の駐車場において被告人B及びGとの間で本件バッグの受渡しをした旨のH供述が不自然、不合理ということはできないとする原判決は誤りであるとした上で、その理由を次のようにいう。すなわち、原判決は、いつ職務質問をされるか分からない状況下にあるa事務所付近で事件に関する物の授受をすること はないとの原審弁護人の主張を排斥するにあたり、職務質問をされたとしても本件 バッグの中身は着替え等の日用品と想定され、その物自体からは何らかの犯行との関連を疑うことはできず、警察官が一般的な質問以上の追及をすることは困難であると説示する一方で、被告人Bの共謀の認定においては、A2會の過去の各射殺事件を知っている者がヘルメットや着替え等の日用品を 関連を疑うことはできず、警察官が一般的な質問以上の追及をすることは困難であると説示する一方で、被告人Bの共謀の認定においては、A2會の過去の各射殺事件を知っている者がヘルメットや着替え等の日用品を認識しただけで、これらの日用品が何らかの犯罪に使用され、拳銃等の凶器を使用して対象者を殺害することを 1つの可能性として想定できると説示する。しかし、A2會の過去の射殺事件を当然に把握している警察官もこれら日用品を確認すれば、何らかの犯罪に使用され、殺人をも1つの可能性として何らかの犯行との関連性を疑うことになるはずであるから、所持品検査の場面では日用品について犯罪に使用されることを想起させないとする原判決は論理矛盾を来している。 そこで検討するに、A2會による過去の射殺事件を把握している警察官が職務質問に当たったとしても、本件バッグの中身が着替え等の日用品である以上、必然的にこれら日用品が殺人をも1つの可能性とする犯行に使用されるとの疑いをもち、その追及をするとの想定は困難であり、このことは被告人BやHも理解し得るところであったと認められる。これに対し、被告人Bは、過去のA2會の拳銃を用いた 事件についての知識を有するのみならず、本件犯行の用に供された物を上位者の指示により自身で調達した事実が認められるのであって、原判決は、この点を踏まえて所論引用の説示をしているのである。したがって、前者の知識は格別、後者の事実を認識していない職務質問に当たる警察官と被告人Bとを同列に論ずることができないことは明らかであって、原判決に所論のいう論理矛盾はない。 以上のほかにも、所論は被告人Bに共謀及び故意が認められない旨縷々主張するが、いずれも原判決の認定を左右するに足るものではない。 第5 乙事件に関する控訴趣意について 理矛盾はない。 以上のほかにも、所論は被告人Bに共謀及び故意が認められない旨縷々主張するが、いずれも原判決の認定を左右するに足るものではない。 第5 乙事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人Aが、M、O、F、P、G、 H及びQと共謀の上、平成23年11月26日、北九州市内の乙株式会社会長の男 性(以下、第5では「被害者」という。)方前路上付近で、Pが、当時72歳の被害者に対し、殺意をもって、回転弾倉式拳銃で被害者の身体を目掛けて弾丸2発を発射し、うち1発を頚部に命中させ、被害者を右内頚静脈及び右鎖骨下動脈の離開に基づく失血により死亡させて殺害し(原判示第3の1。殺人及び拳銃発射)、その際、前記拳銃1丁を、適合実包2発と共に携帯所持した(原判示第3の2。拳銃加重所 持)、というものである。 論旨は、①実行犯の殺意、②被告人Aの共謀及び故意を認めた点で、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というものである。 当裁判所は、実行犯の殺意並びに被告人Aの共謀及び故意をいずれも認めた原判決の判断には、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、是認することがで きると判断した。以下、所論に鑑み説明する。 2 実行犯の殺意について原判決は、実行犯が至近距離から被害者に向けて連続して2発弾丸を発射したと認定した上で、人を死に至らしめる危険性の高い行為であることは明らかで、それと認識した実行犯の殺意に欠けるところはない、とした。 所論は、原判決が至近距離から被害者に向けて発砲したとする認定の根拠であるA1証言は曖昧なもので、実際にはA1は被害者が至近距離から銃撃されるところを見ていない、という はない、とした。 所論は、原判決が至近距離から被害者に向けて発砲したとする認定の根拠であるA1証言は曖昧なもので、実際にはA1は被害者が至近距離から銃撃されるところを見ていない、という。 確かに、A1証言には、被害者とA1が当日帰宅時に使用したM1運転車両が犯行当時に犯行現場に存在したか等の点に混乱が見られるが、本件犯行時、バイクに 2人乗りをした実行犯が被害者を拳銃で撃ったとする点は110番通報の当初から一貫しており、被害者が倒れていた位置を含めた位置関係にも照らせば、バイクから降車した実行犯に至近距離から銃撃されるところをA1が目撃したものと認められる。所論は採用できない。 3 共犯者らとの共謀等について 原判決は、被告人Aは、自ら組長を務めるA組の組員であるH及びGに対し、本 件犯行に用いられるバイクの準備、犯行後の逃走援助といった密接に関係する、本件犯行の全体像を知った上でなければ的確に行うことの著しく困難な指示を行っていることに加え、本件犯行後、装填されていた5発の弾丸のうち2発が本件犯行に使用され3発が残っていた拳銃の入った袋の対処につき、子供が家から2人出て行ったが、まだ3人家に残っている旨Hから隠語で相談を受けると、その意図を即座 に理解し適切な指示を与えていることなどに照らせば、被告人Aには本件犯行の共謀及び故意が認められる、と説示する。 所論は、原判決が共謀及び故意の認定の根拠とするHの証言及び供述は、本件犯行に使用された車両の色等につき記憶が曖昧で、犯行に使用された着衣等を被告人Aの実家の前に置かれた車に入れたなど内容も不合理であることなどから信用でき ないし、原判決が説示する事実関係を前提としても被告人Aの共謀及び故意を認定するに足りない、などという。 し 告人Aの実家の前に置かれた車に入れたなど内容も不合理であることなどから信用でき ないし、原判決が説示する事実関係を前提としても被告人Aの共謀及び故意を認定するに足りない、などという。 しかし、所論指摘の事情は、原判決が説示する、本件犯行に用いられるバイクの準備や逃走援助等被告人Aの指示内容に係るH証言及び供述の核心部分の信用性に影響するものとはいえない。また、原判決の説示する間接事実を総合すれば共謀及 び故意が認められることは明らかである。 その他、所論は縷々主張するが、原判決の判断の正当性を左右し得るものは存在しない。 第6 看護師事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、A2會理事長補佐兼A組組長であった被告人A及びA2會専務理事兼B2組組長秘書であった被告人Bが、C、R(A2會会長)、K(A2會理事長兼B2組組長)、M(A2會上席専務理事兼B2組若頭)、F(A2會専務理事兼B2組組織委員長)、O(A2會専務理事兼B2組風紀委員長)、P(A2會専務理事兼B2組筆頭若頭補佐)、S(A2會専務理事兼B2 組若頭補佐)、T(A2會専務理事兼B2組組長付)、U、V(両名ともA2會専務 理事兼B2組組織委員)及びH(A2會常任理事兼A組組員)と共謀の上、組織により、美容形成皮膚科クリニックにおいてCを担当していた看護師(当時45歳。 以下、第6では「被害者」という。)を殺害することになってもやむを得ないと考え、Cの意思決定及び命令に基づき、A2會の威信を維持する活動として、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成25年1月28日、福岡市内の歩道上において、 Sが、被害者に対し、殺意をもって、刃物(以下「本件刃物」という。)で左側 2會の威信を維持する活動として、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成25年1月28日、福岡市内の歩道上において、 Sが、被害者に対し、殺意をもって、刃物(以下「本件刃物」という。)で左側頭部等を数回突き刺すなどしたが、約3週間の入通院加療を要する見込みの左眉毛びもう上部挫創、顔面神経損傷等を負わせたにとどまった(原判示第4。組織的殺人未遂)、というものである。 論旨は、①違憲・違法な手続により収集された証拠(通信傍受関連証拠)を採用 したとする訴訟手続の法令違反、②実行犯の行為は殺人の実行行為に該当せず、殺意も認められない、被告人両名の共謀及び故意も認められないとする事実誤認、③「罪に当たる行為を実行するための組織」(組織犯罪処罰法3条1項)が存在せず、被告人両名がこれに属してもいないのに、組織性を認定したという法令適用の誤りである。 当裁判所は、①原審の訴訟手続に法令違反はなく、②実行犯の行為の実行行為該当性及び殺意、被告人両名の共謀及び故意をそれぞれ認めた原判決の説示は正当であり、③組織性を認めた原判決の判断についても是認することができると判断した。 以下、所論に鑑み説明する。 2 訴訟手続の法令違反(違法収集証拠)の主張について ⑴ 原判決の説示原判決は、要旨以下のとおり説示して、看護師事件に関し証拠として用いられている本件通信傍受関連証拠について証拠能力を認めた。 本件通信傍受関連証拠は、平成24年4月に発生した、元警察官が北九州市内の路上で銃撃された事件(元警察官事件)を被疑事実として、P及びMが使用する各 携帯電話を対象とする傍受令状が発付され、平成25年1月16日以降に捜査機関 により行われた本件通信傍受により記録された通信を内容とする。その傍受の期間中であ て、P及びMが使用する各 携帯電話を対象とする傍受令状が発付され、平成25年1月16日以降に捜査機関 により行われた本件通信傍受により記録された通信を内容とする。その傍受の期間中である同月28日、看護師事件が発生し、これに関するPと共犯者らの間の通信が傍受され、傍受の原記録に記録された。福岡県警察司法警察員は、平成25年10月、福岡地方裁判所に対し、本件通信傍受により傍受された通信の中に、元警察官事件につきA2會が犯罪を実行する際の謀議、指示の状況等を証明するために必 要な通信が含まれているとして、通信傍受法25条3項(平成28年法律第54号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき本件聴取等請求を行ったが、平成25年12月、同請求は却下された。同司法警察員は、平成26年1月、元警察官事件と看護師事件にはいずれもA2會による組織的殺人未遂事件という共通点があり、看護師事件の指揮系統を明らかにすることにより元警察官事件の指揮系統を推認する ことができることなどを理由として準抗告を申し立て、福岡地方裁判所は平成26年3月、原裁判を取り消し、同年5月、傍受の原記録聴取許可決定をした。本件通信傍受関連証拠は、いずれも前記許可決定に基づき捜査機関が傍受の原記録を聴取した結果作成されたものである。 原審弁護人は、本件聴取等請求は、元警察官事件の指揮系統等を解明する必要が あるとの理由でされているが、これはまやかしに過ぎず、実際には看護師事件の立証のために請求されたもので、これを許可する裁判は憲法35条、通信傍受法25条3項に反し違憲違法である、という。 しかし、本件聴取等請求当時、元警察官事件及び看護師事件はいずれもA2會による組織的犯行との疑いが強く、関与が疑われるA2會B2組幹部らが重複してい たことか 反し違憲違法である、という。 しかし、本件聴取等請求当時、元警察官事件及び看護師事件はいずれもA2會による組織的犯行との疑いが強く、関与が疑われるA2會B2組幹部らが重複してい たことから、その指揮系統等には共通点が多いと考えられた上、傍受対象に係る携帯電話を使用していたのは、両事件において中心的役割を果たしたと強く疑われていたPであった。これらの事情からすると、看護師事件の指揮系統等の解明が元警察官事件の解明に資すると期待することには相応の合理性がある。よって、本件聴取等請求及びこれに対する許可決定は何ら違憲違法ではない。 ⑵ 当裁判所の判断 所論は、①原判決の説示するような「期待」を考慮要素として認めないとするのが通信傍受法の良識的な解釈で、本件で採用されるべき研究者論文にも鑑みれば、本件通信傍受関連証拠に証拠能力は認められない、②公判未提出の通信傍受記録に関し、被告人らは通信傍受法所定の通知を受けていない、などという。 しかし、①の点については、原判決の説示する事情からすれば、看護師事件の指 揮系統等の解明は元警察官事件の共謀の解明に資するものといえ、「犯罪事実の存否の証明」「のために必要がある」ときに該当するから、所論は独自の見解というほかない。また、所論指摘の研究者論文を採用しなかった原審訴訟手続が正当であることは既に第2でみたとおりである。そして、②の点については、本件通信傍受関連証拠の証拠能力に影響するものではない。 以上のほかにも所論は縷々主張するが、原判決において採用されなかった主張の蒸し返しであって、理由がない。 3 実行犯の行為の実行行為該当性及び殺意について⑴ 原判決の説示原判決は、概要以下のとおり説示して、実行犯であるSの行為の実行行為該当性 た主張の蒸し返しであって、理由がない。 3 実行犯の行為の実行行為該当性及び殺意について⑴ 原判決の説示原判決は、概要以下のとおり説示して、実行犯であるSの行為の実行行為該当性 及び殺意を認めた。 被害者の左側頭部の傷害は、浅側頭動脈及び顔面神経が切断されており、右前腕部の傷害は筋層まで達していた。被害者の治療に当たった医師ら及び法医学者の供述も踏まえれば、本件刃物は、少なくとも、人体の皮下組織にある動脈、神経、筋繊維等をわずかな時間で切断するに足る鋭利さを備えており、人に対する殺傷能力 を十分に有していた。このような刃物を用いて左側頭部を突き刺す行為は、皮膚の直下を走行している動脈を切断して短時間のうちに大量出血を引き起こすおそれがあり、人の生命に危険を生じさせる現実的危険性を有し、殺人の実行行為に該当する。そのような行為を、それと認識しつつ実行したSについて、少なくとも未必的殺意が認められる。 ⑵ 当裁判所の判断 所論は、本件の目的は、Cを侮辱した被害者に対する嫌がらせであり、未必的にも殺人などという犯罪を起こす理由となるものではない、Sは、左側頭部が大量出血を起こすような部位とは知らず、刃体の長い包丁等と比較して殺傷能力が格段に劣る刃物を使用しており、実際の出血量も生命に危険のない程度であり、被害者を死亡させる危険性の高い行為とは思ってはいなかった、という。 しかし、これらの指摘を踏まえても、Sが、動脈や神経等が皮下に多数存在している側頭部に、これらを切断し、創が筋層にまで達する力で本件刃物を入れ、それを抜かないまま大きく動かしたこと、かつ、これがSの意図と齟齬するものでないことには、何ら変わりはない。そして、原判決の説示するとおり、被害者は搬送先の病院で出血性ショックに陥 本件刃物を入れ、それを抜かないまま大きく動かしたこと、かつ、これがSの意図と齟齬するものでないことには、何ら変わりはない。そして、原判決の説示するとおり、被害者は搬送先の病院で出血性ショックに陥っていることからしても、実際の出血量が生命に危険 のない程度であったなどとはおよそいえない。所論は採用できない。 4 被告人Aの共謀及び故意について⑴ 原判決の認定説示原判決は、要旨以下のとおり認定説示して、被告人Aに共謀及び故意を認めた。 以下のアないしウを総合すれば、被告人Aは、Kの命令によりA2會組員が組織 的に特定の人物を襲撃するという本件犯行の中核部分を認識し、Kの下位者、Pの上位者として本件犯行に関与し、具体的な関与の一環としてPがHに指示してバイクを調達させることを了承したといえる。 そして、被告人Aが看護師事件に先立つ乙事件において自らHに指示して犯行に用いるバイクを調達させていたことからすると、被告人Aは、少なくとも、Kの指 示に基づきA2會組員が組織的に特定の人物を襲撃する本件犯行が、人の生命を奪いかねないものであることをも一つの可能性として想定していた。 ア本件犯行に使用されたバイクは、PがHに指示して調達させ、実行犯の送迎役であるTに渡させたものである。Pが、地位が上の被告人Aに無断でA組組員であるHを関与させるとは考え難く、Pは少なくとも何らかの犯罪に使用するバイク をHに調達させることの了承を被告人Aから得ていた。 イ本件犯行後の平成25年1月28日午後10時15分頃、PがSに電話をかけ、「自分が明日。」「多分親分から朝呼ばれて。」「言われると思うんですよ。」「で、そこで。」「言うやないですか。」「だいたいAオジキに言うて、Aオジキから親分に報告してもらうのが筋なん に電話をかけ、「自分が明日。」「多分親分から朝呼ばれて。」「言われると思うんですよ。」「で、そこで。」「言うやないですか。」「だいたいAオジキに言うて、Aオジキから親分に報告してもらうのが筋なんやけど。」「多分逆になると思うんですよ。」などと述べている。本件犯行から約3時間後の会話であり、会話相手が本件犯行の実行犯である Sであることを踏まえると、前記報告事項とは、本件犯行の経過や結果であると認められる。したがって、Pは、本件犯行の経過や結果を、本来は、自身が直接Kに報告するのではなく、まずは被告人Aに報告し、被告人AからKに報告すべきであると認識していた。被告人Aが本件犯行に関与していなければPがそのように認識することはあり得ない。 ウ本件犯行翌日である平成25年1月29日午後1時59分頃、Kが、Pの携帯電話を使用して、被告人Aに対し「HとGですか。」「二人がしたですか。」と問い、これに対して被告人Aが「Hだけです。」などと返答している。この頃KがPから本件犯行の報告を受け、Hを含む本件犯行の関与者への報酬の分配をPに指示したことによれば、前記通話はKが報酬の分配のために、被告人Aに対して本件犯行に関 与したA組組員がHとGの2人であるかを確認し、被告人Aがその簡潔な質問の趣旨を本件犯行に関するものと理解した上で即座に本件犯行に関与したのがHだけと返答したと認められる。これは、被告人Aが本件犯行を事前に認識し、Hにバイクを調達させることを了承していたことを裏付ける。 ⑵ 当裁判所の判断 所論は、被告人Aは本件に全く関与していない、とし、①通信番号72は、その前半部分に現れているとおりWに対する捜索についてのKへの報告を本来被告人Aが行うべきであるとする内容であり、本件とは無関係である、②通信番号 は本件に全く関与していない、とし、①通信番号72は、その前半部分に現れているとおりWに対する捜索についてのKへの報告を本来被告人Aが行うべきであるとする内容であり、本件とは無関係である、②通信番号75は、当審において弁護人が請求した証拠によれば、Kが、配下の者を韓国での高麗人参等の買付けに行かせるに当たり、被告人Aの分も買わせることになっていたところ、 Kが被告人Aに対し、その購入代金を誰に持って来させるかを尋ねたものであり、 やはり本件とは無関係である、という。 そこで①についてみると、PとSを通話者とする通信番号72は以下のような流れになっている。すなわち、Pが、翌日午前に行われるWに対する捜索について風紀委員長(O)から電話があったと切り出し、その対応につき、O以外の役員が対応すればよいと言おうかと思った旨の発言、Sにおいて、それなら自分が明日会本 部で「アレ」をしておく旨の発言がなされている。そして、その後に、Pが「自分が明日。」「多分親分から朝呼ばれて。」「言われると思うんですよ。」「で、そこで。」「言うやないですか。」「だいたいAオジキに言うて、Aオジキから親分に報告してもらうのが筋なんやけど。」「多分逆になると思うんですよ。」などと述べ、さらに、何もなかったら自分が本家に行って被告人Aに言ってから会本部に行くが、親分が 来るまで待てなどと言われたら会本部に行けなくなってSが一人になる旨述べている。これに対しSがそれは構わない旨述べて通話が終わっている。以上の流れを見ても、Wに対する捜索対応と「親分」すなわちKに対する報告は、会本部においてPらが行う予定であった「アレ」を予定者全員がそろって行うことは困難かもしれない理由としてそれぞれ述べられているものであるから、所論がいうように全体を 通じて Kに対する報告は、会本部においてPらが行う予定であった「アレ」を予定者全員がそろって行うことは困難かもしれない理由としてそれぞれ述べられているものであるから、所論がいうように全体を 通じてWに対する捜索に関する話であるとみるのは無理がある上、Pは、前者については自身を含む役員限りで対応することを考えている一方で、後者は本来被告人AにおいてKに報告すべき事項と考えていることを踏まえると、両者は別の事柄であるとみるべきである。両者は同一のものであり、かつ、Wに対する捜索に関する事柄であるとする所論は採用できない。したがって、通信番号72のなされた時間 帯などから、前記「被告人Aにおいて報告すべき事項」は看護師事件であるとした原判決の説示に誤りはない。また、②については、原判決が説示するとおり、Pが本件犯行についてKに報告をし、報酬の分配が行われる際になされている通話であること等からすれば、所論指摘のような趣旨のやりとりとは考え難い(なお、所論を裏付ける主たる証拠として弁護人の援用するKの陳述書及び証人尋問請求は、所 論を前提としても、原判決以前は看護師事件への関与を否認していたKが一転して 関与を認めた後に作成されたものというのであり、その経過の点で既に信用性に著しく乏しいことが明らかであり、取調べの必要性が認められないことから、当裁判所はいずれも却下した。)。 5 被告人Bの共謀及び故意について⑴ 原判決の認定説示 以下のアないしエからすれば、被告人Bは、平成25年1月24日の時点で、PがKの指示を受けてA2會及びB2組組員として組の任務に従事していることを確実に認識しており、それまでの経験によれば、その任務が組織的に特定の人物を襲撃するものであることも未必的に認識していた。同認識を前提に、被告 てA2會及びB2組組員として組の任務に従事していることを確実に認識しており、それまでの経験によれば、その任務が組織的に特定の人物を襲撃するものであることも未必的に認識していた。同認識を前提に、被告人Bは、B2組組長秘書として、B2組組長であり配下の者に犯行を指示するKと、実行指揮 役であるPをつなぐ連絡役を担い、組織的犯行である本件犯行の円滑な実行に現実に寄与した。とりわけKは、事件との関連性を推測させる話を電話で行わないよう意を払っているが、これはKが自身の関与の形跡をできるだけ残さないようにするためであったと推認できる。このように、Kが関与の形跡をできるだけ残すことなくPから連絡や報告を受け、A2會及びB2組が団体の活動として組織により本件 犯行を円滑に実行するためには、連絡役としての被告人Bの存在が不可欠であった。 本件犯行は被害者の生命をも奪いかねない危険な態様で実行されたところ、これはSがPの指示どおりに行ったものであって襲撃計画上意外な事態ではなく、被告人Bも、本件犯行により対象者を殺害する事態が生じ得ることを少なくとも未必的には認識していた。 したがって、被告人Bは、本件犯行により対象者を殺害し得ることを認識した上で、KとPとをつなぐ連絡役として不可欠かつ重要な役割を果たし、A2會組織の一員として、他の共犯者と一体となって本件犯行を実行したものといえ、組織的殺人未遂罪の共謀及び故意が認められる。 ア平成25年1月24日の被害者襲撃は犯行に用いるバイクを発見できなかっ たため中止となったが、Pは、同日午後6時57分頃、被告人Bに対し電話をかけ、 前置きなく「ちょっと微妙、微妙な感じやけ。」と述べ、これに対し被告人Bは即座に「腹九分くらいですか。」と返し、「一応報告しときますね。」とP 同日午後6時57分頃、被告人Bに対し電話をかけ、 前置きなく「ちょっと微妙、微妙な感じやけ。」と述べ、これに対し被告人Bは即座に「腹九分くらいですか。」と返し、「一応報告しときますね。」とPに述べた。同日午後7時19分頃、KはPを呼び出し、同日午後7時37分頃、Pは、A2會組員に電話をかけ、翌日のSの会長警備当番の交代を依頼し、同日午後7時44分頃、Vに電話をかけ、翌日再度決行する旨述べた。 襲撃失敗直後に「微妙」であったと被告人Bを介してKに報告しなければならない事柄は、当該襲撃の結果以外に考えられない上、被告人Bは、Pから何の前置きもなく「微妙な感じ」とのみ言われたのに対し、即座にその真意を理解し、より具体的に事態を把握しようとして「腹九分くらいですか」と隠語で質問し、Pの言葉をKに報告する旨述べている。以上によれば、被告人Bは、PがKの指示で何らか の任務に従事していることを認識した上で、Pからその結果を「微妙」と報告するよう依頼され、その旨Kに報告し、これを受けたKは、Pを呼び出し、翌25日再度襲撃する方針を決め、Pがその方針に従い実施に向けた調整を行ったと認められる。 イ Pは、2回目の襲撃が中止となった平成25年1月25日午後8時3分頃、 被告人Bに電話をかけ、既に「あがった」かを尋ね、被告人Bがこれを否定して「aです。」と答えると、Pはそちらに向かう旨述べた。そして、同日午後8時27分頃、PはUに電話をかけ、G及びHを他の仕事から外すことなどを指示し、翌26日午前10時33分頃、A2會組員に電話をかけ、用事が入ったため同月28日の当番を代わってもらえないか相談した。 Pは、平成25年1月25日の襲撃中止後、Kに報告すべく、被告人Bに連絡してKの所在を確認してK及び被告人Bのいるa け、用事が入ったため同月28日の当番を代わってもらえないか相談した。 Pは、平成25年1月25日の襲撃中止後、Kに報告すべく、被告人Bに連絡してKの所在を確認してK及び被告人Bのいるa事務所へ行き、Kに対し報告し、Kが同月28日に襲撃を実施する方針を決め、Pがその方針に従った調整や準備を行ったと認められる。 ウ Pは、本件犯行後の平成25年1月28日午後8時25分頃、被告人Bに電 話をかけ、「お腹一杯っち言っとって。」と述べ、同日午後8時28分頃の被告人B からの電話に対し「言うた。俺のこと。」「なんちゅうた。ほんなら。」と尋ねたのに対し、被告人Bは「みんなが、おるけ。」と詳細な会話を断った。 PがKに対し、字義どおり「お腹一杯」であることを報告するつもりであったとは考え難い。前記アのとおり、被告人Bが任務結果を腹具合で確認していたことからすれば、Pの発言は、被告人Bに対し、本件犯行が完了した旨のKへの報告を依 頼する趣旨のもので、被告人Bは、かかるPの意図を即座に理解してKに報告し、その内容が第三者の前で話すべきことでないと認識していた。 エ本件犯行翌日である平成25年1月29日午後1時43分頃、被告人BがPに対して「aでお願いします。」と伝えた後、PはKの指示を受けて看護師事件の関与者へ報酬の分配を行った。その直後、被告人Bは、Pから「分配」が終わった旨 告げられるや「も終わったですか。」「おいしかったですか、分配。」とPに聞いたり、分配が終わったことをKに電話で報告するよう勧めたりした。 このPと被告人Bとの間の会話によれば、被告人Bは、PがKの指示で報酬の分配を行うことを知っていたか、少なくともPが任務を遂行したことに伴う必然的な行為として推察していたと認められる。 このPと被告人Bとの間の会話によれば、被告人Bは、PがKの指示で報酬の分配を行うことを知っていたか、少なくともPが任務を遂行したことに伴う必然的な行為として推察していたと認められる。 ⑵ 当裁判所の判断以上の原判決の認定説示は正当であって、当裁判所も是認することができる。 所論は、原判決は被告人Bが本件犯行について未必的に認識していた旨説示するが、その根拠を具体的に説明していない、などという。 しかし、原判決は、被告人Bが、犯行前後にわたり、実行指揮役であったPから、 当日の襲撃の成否や分配について、隠語等を含んだり前置きのなかったりする報告等を受けながら、趣旨を尋ねることなどなく即座に理解し、Kに報告していたことなどを根拠に、本件犯行について未必的に認識していた旨説示している。原判決が認定の根拠を具体的に説明していることは明らかである。 以上のほかにも所論は、被告人Bに共謀及び故意が認められない旨縷々主張する が、前記認定を左右するに足るものではない。 6 法令適用の誤りの主張(組織性)について⑴ 原判決の認定説示看護師事件は、B2組筆頭若頭補佐であるPが実行指揮役となって、実行犯であるSら配下組員に対し、事前の行動確認や逃走援助、証拠隠滅等、それぞれの役割を分担させて敢行された組織的犯行と認められる。 そして、A2會総裁であるCを除いては、A2會及びB2組と被害者との間に有意な接点が存在せず、P、SらA2會及びB2組組員において被害者を襲撃する理由が組織的にも個人的にも皆無であることからすると、看護師事件は、被害者の対応に強い不満を抱いたCの意思決定及び命令に基づいて敢行されたと考える以外、その発生をおよそ合理的に説明することができない。 A2會内において あることからすると、看護師事件は、被害者の対応に強い不満を抱いたCの意思決定及び命令に基づいて敢行されたと考える以外、その発生をおよそ合理的に説明することができない。 A2會内において、Cの命令がRを経由せずKに直接下されることはなく、CやRの命令がKを経由せずKより下の者に直接下されることもないことからすると、看護師事件に係るCの命令は、R、Kの順に経由して、P以下本件犯行の関与者に下されたと認められる。 以上によれば、看護師事件は、A2會総裁であるCの意思決定に基づき、被害者 を組織的に襲撃することによって、C、ひいてはA2會の威信を維持するとともに、その結束を固めるという効果等をA2會に帰属させるもので、団体の活動として行われたと認められる。 ⑵ 当裁判所の判断所論は、①本件はCをおちょくるようなことを言った被害者につき、Cの心情を 忖度したRが発起し、嫌がらせ目的での襲撃をKに指示したもので、さしたる計画や謀議もなく、肩書の上下に必ずしもとらわれず起こされた事件であり、そもそも「罪に当たる行為を実行するための組織」が存在しない、②仮にそうでないとしても、被告人Aは何ら本件に関与しておらず、被告人Bは本件犯行について全く知らずにそれに関連する連絡等をPから受け、そのままKに伝達していたのみであるか ら、いずれも「罪に当たる行為を実行するための組織」に属していたものはいえな い、という。 しかし、①については、本件は被害者の対応に強い不満を抱いたCが指示したものと認められる上、Pが実行指揮役となって、実行犯であるSら配下組員に対し、事前の行動確認や逃走援助、証拠隠滅等、それぞれの役割を分担させて敢行されたものであることは原判決が説示するとおりであって、「罪に当たる行為を実行するた 役となって、実行犯であるSら配下組員に対し、事前の行動確認や逃走援助、証拠隠滅等、それぞれの役割を分担させて敢行されたものであることは原判決が説示するとおりであって、「罪に当たる行為を実行するた めの組織」により行われたことは明らかである。また、②については、前記4及び5でみたところからすれば、被告人両名が本件犯行に際しそれぞれに重要な役割を分担したことは明らかであり、所論は前提を欠いている。 第7 結論以上によれば、論旨は全て理由がないから、刑訴法396条、刑法21条により、 主文のとおり判決する。 令和6年9月12日福岡高等裁判所第3刑事部 裁判長裁判官市川太志 裁判官髙橋明宏 裁判官関洋太
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