判決平成15年1月20日神戸地方裁判所平成14年(わ)第356号,第1163号覚せい剤取締法違反,公正証書原本不実記載,同行使被告事件 主文 被告人を懲役7年及び罰金200万円に処する。 未決勾留日数中200日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 押収してあるチャック付きポリ袋入り覚せい剤白色結晶粉末37袋(平成14年押第76号の1ないし33,55ないし58)及びポリ袋入り覚せい剤白色結晶粉末21袋(同押号の34ないし54)を没収する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 A,B,C及びDと共謀の上,CがDと婚姻した事実がないのに,Cの本邦における日本人配偶者の在留資格を得る目的で,平成13年4月26日,兵庫県伊丹市千僧1丁目1番地所在の伊丹市役所において,同市役所市民課戸籍係員に対し,CとDが婚姻した旨の虚偽の事実を記載した婚姻届等を提出して虚偽の申立てをし,同市役所職員をして,Dの戸籍を管轄する兵庫県尼崎市東七松町1丁目23番1号所在の尼崎市役所に同婚姻届を送付させ,よって,同年5月上旬ないし中旬ころ,前記尼崎市役所において,情を知らない同市役所市民課戸籍係員をして,Dの戸籍の原本にその旨不実の記載をさせた上,これを同市役所に備え付けさせて行使した第2 営利の目的で,みだりに,平成14年3月11日午後零時35分ころ,兵庫県伊丹市Ef丁目g番地h所在のIマンション南側路上において,フェニルメチルアミノプロパン塩類を含 備え付けさせて行使した第2 営利の目的で,みだりに,平成14年3月11日午後零時35分ころ,兵庫県伊丹市Ef丁目g番地h所在のIマンション南側路上において,フェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤白色結晶粉末約121.553グラム(平成14年押第76号の1ないし14,16ないし19,21ないし58はその鑑定残量)及びフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤白色結晶粉末約1.595グラム(同押号の15,20はその鑑定残量)を所持したものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明)第1 争点の整理等弁護人は,判示第2の事実につき,被告人は「J」なる人物(男)から頼まれて判示第2の覚せい剤(以下「本件覚せい剤」という。)を貸金の担保として預かり所持していたに過ぎないから,本件覚せい剤を営利目的で所持していたものではない旨主張し,被告人も当公判廷でこれに沿う供述をするところ,当裁判所は,関係各証拠によれば,被告人が営利の目的で本件覚せい剤を所持していたものと優に認められると判断したのであるが,所論に鑑み若干補足して説明する。 第2 当裁判所の判断 1 前掲関係各証拠によれば,被告人は平成14年3月11日午後零時48分ころ,判示第2記載の場所でセカンドバック(灰色,横長,革製のもの)入りの本件覚せい剤を所持しているところを現行犯逮捕されたこと,本件覚せい剤は,約123グラムと多量であり,概ね10グラム弱,5グラム弱,0.8グラム前後,0. 5グラム前後,0.3グラム前後の5種類に小分けされた上(合計58袋),郵便局等の紙封筒に入れるなどして前記セカンドバックに分別して収納されていたこと,また,同セカンドバック内には,多数のチャック付きポリ袋,スプーン,はさ ム前後の5種類に小分けされた上(合計58袋),郵便局等の紙封筒に入れるなどして前記セカンドバックに分別して収納されていたこと,また,同セカンドバック内には,多数のチャック付きポリ袋,スプーン,はさみ,電子秤1個,未使用の注射器13組等の覚せい剤密売に関連する物品が入っていたほか,被告人が自己の物であることを自認する手帳が入っていたこと,前記紙封筒のうちの1つは兵庫県伊丹市内所在の郵便局に備え付けのものであり,被告人使用に係る普通乗用自動車から前記紙封筒と同種の銀行等の紙封筒が多数押収されたこと,被告人の前記手帳には「K(注:ひらなが人名) 1.3 16日」の記載のほかこれと同種の記載が多数なされていること,被告人が現行犯逮捕された日である平成14年3月11日から同月12日にかけて,茶髪ロングの女性が被告人又は同人の妻名義の銀行預金口座から前後31回にわたり合計2749万9000円を引き出したことが認められる。 2 前記1認定の事実,とりわけ本件覚せい剤が約123グラムと多量であること,その小分け・収納状況,その他,前記セカンドバック内に覚せい剤密売に関連する物品が多数在中していたこと等の事実によれば,セカンドバック内の覚せい剤は密売用のものであり,営利目的で保管されていた物であることは明白というべきである。 弁護人は,被告人は「J」から貸金の担保として前記セカンドバックを預かったに過ぎない旨主張し,被告人は,その公判供述等において,平成14年2月11日,「J」に15万円を貸付け,その担保として同人から本件覚せい剤が在中する前記セカンドバックを預かり,逮捕当日,「J」と会ってその返済を受けるため,前記セカンドバックを所持していただけであると供述するのであるが,そもそも15万円程度の貸金の担保として約123グラムもの多量の本件覚せ バックを預かり,逮捕当日,「J」と会ってその返済を受けるため,前記セカンドバックを所持していただけであると供述するのであるが,そもそも15万円程度の貸金の担保として約123グラムもの多量の本件覚せい剤を預かり,しかも格別の理由もなくこれを自ら持ち歩いていたとするその供述内容自体が極めて不自然不合理なものであって容易に信じがたいものである上,本件覚せい剤のパケから被告人の指紋が検出されたこと,被告人が小口貸付金の未回収分をメモしていたとする前記手帳にも,被告人所持に係る携帯電話にも「J」なる人物に関する記載や登録がないこと,前記手帳が前記セカンドバック内に存在した理由,前記手帳の記載内容,本件逮捕当時の前記銀行預金の形成経過及び払戻経過等につき,被告人において,指紋が検出されたのは中身を確認したことがあったためであると思う,前記手帳はポケットに入らないのでたまたまセカンドバック内に入れたに過ぎない,手帳の記載は小口貸付金の未回収分のメモであるなどと強弁するのみで,合理的な説明を全くなし得ないこと等に徴すると,被告人の前記各供述部分は信用できない。 かえって,被告人が本件犯行当時覚せい剤の密売をしていたものであり,本件覚せい剤の所持が営利目的をもってなされたものであることを推認させる証拠として,(1)被告人から覚せい剤を何度か購入した旨及び平成14年2月初旬ないし中旬ころ,被告人使用に係る普通乗用自動車内に前記セカンドバックと同様のセカンドバックが置かれていているのを見た旨のKの前掲供述調書謄本(検察官請求証拠番号76)中の供述記載部分,(2)平成13年8月か9月ころ,兵庫県伊丹市内所在の喫茶Lにおいて,被告人において,MことNの指示に従い,同人が電話で注文を受けた覚せい剤を受渡場所で注文者に交付するため運び出し,あるいは被告人が 2)平成13年8月か9月ころ,兵庫県伊丹市内所在の喫茶Lにおいて,被告人において,MことNの指示に従い,同人が電話で注文を受けた覚せい剤を受渡場所で注文者に交付するため運び出し,あるいは被告人が「N」と覚せい剤の密売に関する話をしているのを目撃した旨のOの前掲供述調書(同77)中の供述記載部分,(3)被告人が自分の交際相手ほか10名位の者に覚せい剤を密売していたし,自分も被告人から覚せい剤を購入していた旨のPの公判供述があるところ,これらの供述は,いずれも具体的かつ詳細で迫真性に富んでおり,いずれもその信用性は十分である。 弁護人は,OはQを被告人であると誤認していると主張し,被告人も当公判廷でこれに沿う供述をするが,Oは被告人を2回にわたり目撃した旨供述しているところ,その供述内容に照らすと見誤り等は考えがたく,その信用性は十分であるから,被告人の前記公判供述は採用できない。 3 そうすると,前記セカンドバッグ内の覚せい剤は密売用のものであり,営利目的で保管されていた物であることは明白であることは前記のとおりであるところ,そのセカンドバックを被告人が所持しているところを現行犯逮捕されたことに加えて,前記信用性の十分なPの公判供述,K及びOの前掲供述調書中の各供述記載部分等を総合考慮すれば,被告人が営利の目的で本件覚せい剤を所持していたものと疑いの余地なく認められる。弁護人の前記主張は理由がない。 (累犯前科)被告人は,(1)平成7年2月3日和歌山地方裁判所で毒物及び劇物取締法違反罪により懲役8月(3年間刑の執行猶予,平成9年1月23日その猶予取消し)に処せられ,平成10年4月8日その刑の執行を受け終わり,(2)平成8年12月24日神戸地方裁判所尼崎支部で覚せい剤取締法違反罪により懲役10月に処せられ,平成10年6月25日そ 日その猶予取消し)に処せられ,平成10年4月8日その刑の執行を受け終わり,(2)平成8年12月24日神戸地方裁判所尼崎支部で覚せい剤取締法違反罪により懲役10月に処せられ,平成10年6月25日その刑の執行を受け終わり,(3)その後犯した恐喝罪により平成12年1月20日大阪地方裁判所で懲役1年2月に処せられ,同年9月20日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科照会回答書(検察官請求証拠番号94)及び前記各前科に係る判決書謄本3通(同98ないし100)によって認める。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為のうち,公正証書原本不実記載の点は刑法60条,157条1項に,同行使の点は同法60条,158条1項(157条1項)に,判示第2の所為は覚せい剤取締法41条の2第2項,1項にそれぞれ該当するが,判示第1の公正証書原本不実記載とその行使との間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪として犯情の重い不実記載公正証書原本行使罪の刑で処断することとし,各所定刑中,判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の罪については情状により懲役刑及び罰金刑をそれぞれ選択し,判示の各罪は前記各前科との関係でそれぞれ3犯であるから,いずれも同法59条,56条1項,57条によりそれぞれ3犯の加重(判示第2の罪の懲役刑については同法14条の制限に従う。)をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役7年及び罰金200万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中200日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を 定金額の範囲内で被告人を懲役7年及び罰金200万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中200日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,押収してあるチャック付きポリ袋入り覚せい剤白色結晶粉末37袋(平成14年押第76号の1ないし33,55ないし58)及びポリ袋入り覚せい剤白色結晶粉末21袋(同押号の34ないし54)は,いずれも判示第2の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれらを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,共犯者4名と共謀の上,中華人民共和国国籍の共犯者に日本の在留資格を得させる目的で,同共犯者らをして虚偽の婚姻届等を提出させ,日本人の共犯者の戸籍原本に不実な記載をさせて備え付けさせた公正証書原本不実記載,同行使の事案(判示第1)と営利目的で覚せい剤を所持した覚せい剤取締法違反の事案(判示第2)である。 まず判示第1の犯行について検討すると,被告人は,共犯者から偽装結婚の相手方を捜して欲しいと頼まれるや,前刑の執行終了後7か月も経ないで,報酬目的で安易にこれに応じて本件犯行に及んでおり,その利欲的な動機に酌量の余地はないし,本件犯行において知人を偽装結婚の相手方として紹介するという重要な役割を果たしたこと,戸籍制度を悪用し,外国人の不法滞在を助長した本件犯行は厳しい非難に値し,その社会的影響は軽視できず,本件が暴力団組織の介在した犯行であることをも併せ考慮すると,その犯情は悪質である。 次に判示第2の犯行について検討すると,もとよりその利欲的な動機に何ら酌むべき事情はなく,本件 影響は軽視できず,本件が暴力団組織の介在した犯行であることをも併せ考慮すると,その犯情は悪質である。 次に判示第2の犯行について検討すると,もとよりその利欲的な動機に何ら酌むべき事情はなく,本件覚せい剤が極めて多量であり,多額の不法収益を得るために敢行された常習的かつ職業的犯行であること等に照らすと,極めて反社会的な犯行であり,その犯情は極めて悪質である。以上の諸事情に加え,被告人は,当公判廷で営利目的はなかった旨不自然不合理な弁解に終始して恥じるところがなく,真摯な反省の態度に欠けるといわざるを得ないこと,最終前科に係る刑の執行終了からわずか1年6か月余りで本件犯行に及んだこと等も併せ考慮すると,再犯のおそれも否定できず,被告人の刑事責任は重大である。 そうすると,判示第1の犯行につき,被告人は直接の実行行為に関与したものではないこと,判示第2の犯行につき,覚せい剤が全て押収されて社会内へ拡散することがなかったことのほか,妻が当公判廷で被告人の社会復帰を待つ旨述べてその更生を願っていること,合計31万5000円を社会福祉法人等に贖罪寄付したこと,所属暴力団の脱会届を提出したこと等,被告人のために酌むべき事情を最大限に考慮しても,なお,主文掲記の刑は免れないものと思料する。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年1月20日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官杉森研二 裁判官橋本一 裁判官林史高 裁判官林史高
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