平成13(オ)734 保険金請求,債務不存在確認請求本訴,同反訴事件

裁判年月日・裁判所
平成16年3月25日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 東京高等裁判所 平成11(ネ)2692
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判決文本文7,561 文字)

主文 1 原判決主文第一項を破棄し,同項に係る部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。 2 原判決主文第二項のうち次の部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。 (1)被上告人B1保険相互会社,同B2保険株式会社,同B3保険相互会社及び同B4保険相互会社の上告人A1株式会社に対する債務不存在確認請求に関する部分(2) 被上告人B3保険相互会社及び同B5保険相互会社の上告人A2に対する債務不存在確認請求に関する部分 3 前項の部分に係る被上告人らの訴えを却下する。 4 上告人らのその余の上告を棄却する。 5 第2項及び第3項に関する訴訟の総費用並びに前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。 理由 第1 事案の概要 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 上告人A1株式会社(以下「上告会社」という。)は,甲(以下「甲」という。)が昭和42年7月に防水建築請負を主たる目的として設立した会社であり,甲は,平成7年10月31日に死亡するまで,その代表取締役であり,甲が死亡した後は,その妻である上告人A2(以下「上告人A2」という。)が代表取締役に就任した。 (2) 上告会社は,平成2年度以降,毎年度の売上高が4億円前後であったが,未処理の損失が次第に増加し,平成6年度には,その額が1億0419万1512- 1 -円となり,また,同年度末(平成7年3月31日)における借入金の総額は2億7194万4385円であり,平成6年ころの上告会社の経営状態は,相当厳しい状況にあった。 (3) 上告会社は,平成6年6月1日,別紙契約目録記載1~4の保険会 月31日)における借入金の総額は2億7194万4385円であり,平成6年ころの上告会社の経営状態は,相当厳しい状況にあった。 (3) 上告会社は,平成6年6月1日,別紙契約目録記載1~4の保険会社欄記載の各保険会社(同目録の同欄記載の各保険会社は,原判決言渡時の商号により表示する。なお,被上告人らについては,次のような組織変更等があった。B2保険相互会社は,平成14年4月1日,B2保険株式会社へと組織を変更し,また,D保険相互会社とE保険相互会社は,平成16年1月1日を合併期日として,前者を存続会社,後者を消滅会社とする合併をし,前者の商号をB3保険相互会社に変更し,同月5日,その旨の登記を了した。)との間で,甲を被保険者,上告会社を保険金受取人として,同目録記載1~4の各生命保険契約を締結した(以下,これらの生命保険契約を「平成6年契約」と総称する。)。 (4) 上告会社は,平成7年5月1日に別紙契約目録記載5~7の保険会社欄記載の各保険会社との間で,同年6月1日に同目録記載8の保険会社欄記載の保険会社との間で,甲を被保険者,上告会社を保険金受取人として,同目録記載5~8の各生命保険契約を締結した。また,甲は,同年7月1日,同目録記載9,10の保険会社欄記載の各保険会社との間で,甲を被保険者,上告人A2を保険金受取人として,同目録記載9,10の各生命保険契約を締結した(以下,これら6件の生命保険契約を「平成7年契約」と総称し,また,平成6年契約と平成7年契約とを合わせて「本件各生命保険契約」と総称する。)。 (5) 本件各生命保険契約に適用される約款には,終身保険及び定期保険の死亡保険金の支払事由は「被保険者が死亡したとき」と定められており,また,保険者の責任開始の日から1年内に被保険者が自殺した場合には保険者は死亡保険金を支 適用される約款には,終身保険及び定期保険の死亡保険金の支払事由は「被保険者が死亡したとき」と定められており,また,保険者の責任開始の日から1年内に被保険者が自殺した場合には保険者は死亡保険金を支払わない旨の特約(以下「1年内自殺免責特約」という。)が定められている。 - 2 -(6) 上告会社は,平成7年8月から9月にかけて,複数の損害保険会社との間で,被保険者を甲とする5件の傷害保険契約(保険金の合計額は3億円)を締結した。 (7) 上告会社及び甲が支払うべき保険料の合計額は,平成7年7月には,本件各生命保険契約のみで月額209万8176円となっており,同年9月には,別件の養老保険及び上記(6)の傷害保険の各保険料を加えると月額225万円を超える金額に達していた。 (8) 甲は,平成7年10月31日の午前中に上告会社が屋上防水補修工事を請け負っていた埼玉県北足立郡a町所在の集合住宅用建物3棟の中間検査に立ち会った後,同日午後2時30分ころ,1人で上記建物のうちの1棟の屋上に上がり,同所から転落し,脊髄損傷等により死亡した。上記の死亡事故は,上告会社及び甲が,上記のとおり,多数の保険会社との間で,多額の保険金額の本件各生命保険契約等を締結していること,当時の上告会社の経営状態は相当に厳しく,月額200万円を超える保険料の支払を継続することは相当困難な状態にあったこと,上記死亡事故に至る甲の行動については合理的な説明ができないことなどから,自殺によるものと認めるのが相当である。 2 上告会社は,被上告人B2保険株式会社(以下「被上告人B2」といい,他の被上告人の各保険会社についても,同様の略称を用いることとする。),被上告人B5,被上告人B6及び被上告人B3(以下「平成6年契約関係被上告人4社」という。)に対し,平成6年契約に基 」といい,他の被上告人の各保険会社についても,同様の略称を用いることとする。),被上告人B5,被上告人B6及び被上告人B3(以下「平成6年契約関係被上告人4社」という。)に対し,平成6年契約に基づく各保険金及びその遅延損害金の支払を求めている(以下「第1事件」という。)。 また,被上告人B6を除く被上告人ら(以下「平成7年契約関係被上告人5社」という。)は,上告会社又は上告人A2に対し,平成7年契約中の主契約に基づく死亡保険金について保険金支払債務の不存在確認を求め(以下「第2事件」という。)- 3 -,これに対する反訴として,上告会社は被上告人B2,被上告人B1,被上告人B3及び被上告人B4に対し,上告人A2は被上告人B3及び被上告人B5に対し,平成7年契約に基づく各保険金及びその遅延損害金の支払を求めている(以下「第3事件」という。)。 なお,上告人らの上記各保険金請求のうち,災害割増特約及び傷害特約の各災害死亡保険金に関する部分については,原判決において請求を棄却すべきものとされ,これに対して上告人らから上告がされていないため,上記部分は,当審における審理判断の対象とはなっていない。 第2 上告代理人山本隆夫,同根岸隆,同久利雅宣,同増田英男の上告理由について 1 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,上記各項に規定する事由に該当しない。 2 職権により判断するに,第2事件の平成7年契約関係被上告人5社の上記保険金支払債務の不存在確認請求に係る訴えについては,第3事件の上告人らの平成7年契約に基づく保険金等の支払を求める反訴が提起されている以上 り判断するに,第2事件の平成7年契約関係被上告人5社の上記保険金支払債務の不存在確認請求に係る訴えについては,第3事件の上告人らの平成7年契約に基づく保険金等の支払を求める反訴が提起されている以上,もはや確認の利益を認めることはできないから,平成7年契約関係被上告人5社の上記訴えは,不適法として却下を免れないというべきである。 したがって,原判決主文第二項のうち,上記保険金支払債務の不存在確認請求に関する部分は,破棄を免れず,同部分につき第1審判決を取り消して,同請求に係る訴えを却下することとする。 なお,本判決主文第2項及び第3項に関する訴訟の総費用については,民訴法62条の規定を適用し,上告人らの負担とする。 - 4 -第3 上告代理人山本隆夫,同根岸隆,同久利雅宣,同増田英男の上告受理申立て理由第三について 1 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判示して,第1事件につき,上告会社の平成6年契約関係被上告人4社に対する平成6年契約に基づく主契約の死亡保険金の請求を棄却した。 商法680条1項1号は,保険者の責任開始後の経過期間を論ぜず,被保険者が自殺した場合を保険者の保険金支払義務の免責事由の一つとして規定しているが,一般に,生命保険契約の保険約款においては,本件と同様の1年内自殺免責特約が定められている。そして,当該生命保険契約の保険約款に1年内自殺免責特約が存在する場合には,同特約の反対解釈として,被保険者が責任開始の日から1年以上を経過した後に自殺したときには,保険者は保険金支払義務を負うことになるものと解される。これは,上記の1年経過後の自殺の場合には,保険金取得目的に出たものは一般に少なく,通常,それは,生命保険契約とは無関係な動機,目的による自殺であり,専ら又は主として保険金の取得を目的としたものとは これは,上記の1年経過後の自殺の場合には,保険金取得目的に出たものは一般に少なく,通常,それは,生命保険契約とは無関係な動機,目的による自殺であり,専ら又は主として保険金の取得を目的としたものとはいえないと推定されるから,これに対して保険金の支払がされたとしても,商法の上記規定の趣旨を没却するものではないとの判断によるものと解される。 しかしながら,1年内自殺免責特約の趣旨が上記のようなものであるとすると,責任開始の日から1年経過後に被保険者が自殺した場合であっても,保険者において,その自殺が専ら又は主として保険金の取得を目的としてされたものであることを主張し,立証したときには,同特約の存在にもかかわらず,保険者は,商法の上記規定に基づき,保険金支払義務を免れるものと解するのが相当である。 前記の事実関係の下においては,甲は,専ら又は主として,本件各生命保険契約に基づく各保険金をその受取人である上告人らに取得させる動機,目的の下に自殺したものと認められるから,平成6年契約関係被上告人4社は,平成6年契約に基- 5 -づく各保険金について,1年内自殺免責特約の存在にかかわらず,その支払義務を免れるものというべきである。 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 商法680条1項1号は,被保険者の自殺による死亡を保険者の保険金支払義務の免責事由の一つとして規定しているが,その趣旨は,被保険者が自殺をすることにより故意に保険事故(被保険者の死亡)を発生させることは,生命保険契約上要請される信義誠実の原則に反するものであり,また,そのような場合に保険金が支払われるとすれば,生命保険契約が不当な目的に利用される可能性が生ずるから,これを防止する必要があること等によるものと解される。そして,生 実の原則に反するものであり,また,そのような場合に保険金が支払われるとすれば,生命保険契約が不当な目的に利用される可能性が生ずるから,これを防止する必要があること等によるものと解される。そして,生命保険契約の約款には,保険者の責任開始の日から一定の期間内に被保険者が自殺した場合には保険者は死亡保険金を支払わない旨の特約が定められるのが通例であるが,このような特約は,生命保険契約締結の動機が被保険者の自殺による保険金の取得にあったとしても,その動機を,一定の期間を超えて,長期にわたって持続することは一般的には困難であり,一定の期間経過後の自殺については,当初の契約締結時の動機との関係は希薄であるのが通常であること,また,自殺の真の動機,原因が何であったかを事後において解明することは極めて困難であることなどから,一定の期間内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って,その動機,目的が保険金の取得にあるか否かにかかわりなく,一律に保険者を免責することとし,これによって生命保険契約が上記のような不当な目的に利用されることを防止することが可能であるとの考えにより定められたものと解される。そうだとすると,上記の期間を1年とする1年内自殺免責特約は,責任開始の日から1年内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って,自殺の動機,目的を考慮することなく,一律に保険者を免責することにより,当該生命保険契約が不当な目的に利用されることの防止を図るもの- 6 -とする反面,1年経過後の被保険者の自殺による死亡については,当該自殺に関し犯罪行為等が介在し,当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別,そのような事情が認められない場合には,当該自殺の動機,目的が保険金の取得にあることが認められるときで 死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別,そのような事情が認められない場合には,当該自殺の動機,目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても,免責の対象とはしない旨の約定と解するのが相当である。そして,このような内容の特約は,当事者の合意により,免責の対象,範囲を一定期間内の自殺による死亡に限定するものであって,商法の上記規定にかかわらず,有効と解すべきである。 このような見地に立って本件をみるに,前記の事実関係によれば,甲が自殺したのは,平成6年契約の責任開始の日から1年を経過した後であるから,1年内自殺免責特約により,上記特段の事情がない限り,商法の上記規定の適用が排除され,保険者は,平成6年契約に基づく死亡保険金の支払義務の免責がされないものというべきところ,当時,甲が経営する上告会社の経営状態は相当厳しい状況にあり,上告会社及び甲は,前記のとおり,多数の保険会社との間で,多額の保険金額の本件各生命保険契約等を締結していたこと等が明らかであるが,その自殺に至る過程において犯罪行為等が介在した形跡はうかがわれず,その他公序良俗にかかわる事情の存在もうかがえない本件においては,その自殺の主たる動機,目的が,保険金を保険金受取人である上告人らに取得させることにあったとしても,上記特段の事情があるとはいえないものというべきである。 そうすると,上告会社の平成6年契約に基づく主契約の死亡保険金の請求については,1年内自殺免責特約により,商法680条1項1号の規定の適用が排除されるものと解すべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決主文第一項は破棄を免れない。そして,上記請求について更に審理を尽くさせるた のと解すべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決主文第一項は破棄を免れない。そして,上記請求について更に審理を尽くさせるため,同項に係る部分につ- 7 -き,本件を原審に差し戻すこととする。 なお,上告人らの平成7年契約に基づく保険金請求に関しては,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除された。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官島田仁郎)(別紙)契約目録 1 契約日平成6年6月1日保険会社 B2保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 1億5000万円保険期間平成6年6月1日から10年間 2 契約日平成6年6月1日保険会社 B5保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 1億5000万円保険期間平成6年6月1日から5年間 3 契約日平成6年6月1日保険会社 B6保険相互会社保険の種類定期保険- 8 -保険金額主契約死亡保険金 2億円災害割増特約の災害死亡保険金 9000万円傷害特約の災害死亡保険金 1000万円保険期間平成6年6月1日から5年間 4 契約日平成6年6月1日保険会社 D保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 1億円災害割増特約の災害死亡保険金 9500万円傷害特約の災害死亡保険金 500万円保険期 定期保険保険金額主契約死亡保険金 1億円災害割増特約の災害死亡保険金 9500万円傷害特約の災害死亡保険金 500万円保険期間平成6年6月1日から5年間 5 契約日平成7年5月1日保険会社 B1保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 2億円保険期間平成7年5月1日から5年間 6 契約日平成7年5月1日保険会社 B2保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 1億5000万円災害割増特約の災害死亡保険金 1億円- 9 -保険期間平成7年5月1日から5年間 7 契約日平成7年5月1日保険会社 E保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 9000万円災害割増特約の災害死亡保険金 9000万円傷害特約の災害死亡保険金 1000万円保険期間平成7年5月1日から5年間 8 契約日平成7年6月1日保険会社 B4保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 2億円災害割増特約の災害死亡保険金 9000万円傷害特約の災害死亡保険金 1000万円保険期間平成7年6月1日から10年間 9 契約日平成7年7月1日保険会社 D保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 9000万円災害割増特約 間 9 契約日平成7年7月1日保険会社 D保険相互会社保険の種類定期保険保険金額主契約死亡保険金 9000万円災害割増特約の災害死亡保険金 5000万円傷害特約の災害死亡保険金 500万円- 10 -保険期間平成7年7月1日から5年間 10 契約日平成7年7月1日保険会社 B5保険相互会社保険の種類定期保険特約付き終身保険保険金額主契約死亡保険金 250万円定期保険特約の死亡保険金 4750万円災害割増特約の災害死亡保険金 5000万円保険期間主契約終身定期保険特約平成7年7月1日から10年間災害割増特約同日から19年間- 11 -

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