平成12(わ)1583 強盗殺人未遂,窃盗,建造物侵入,火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年5月22日 神戸地方裁判所
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判決文本文12,660 文字)

主文 被告人を懲役15年に処する。 未決勾留日数中700日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 Aらと共謀の上,平成12年6月25日午前零時30分ころから同日午前1時ころまでの間,兵庫県姫路市駅前町210番地先路上(JR姫路駅北側モニュメント北東側)において,ビールびん(中びん)にガソリンを入れた上,びんの口部分にティッシュペーパーを詰めて点火装置とした火炎びん6本を製造した。 第2 Bと窃盗を共謀し,同年8月23日午後9時10分ころ,同県明石市Aa丁目b番c号G酒店先路上(別紙図面(省略)①地点)において,エンジンをかけたまま停車していたV(当時24歳)が所有する普通乗用自動車の運転席に乗り込んだところ,同人が,盗難を阻止しようとして同車の前に立ちはだかり,同車前部に設置されたフロントグリルガードにしがみついたため,同人を振り落として同車を強取しようと決意し,同所から同市小久保d丁目e番f号αパーキング事務所南側路上(同図面②地点)まで約161メートルにわたって同人を引きずったまま後退を続けるなどの暴行を加え,さらに,同所において,ハンドルを切り返して前進させようとしたが,その際,依然として同人が上記フロントグリルガードにしがみついたままであるのを認め,そのまま同人を引きずったまま前進して走行を継続すれば,同人を同車から脱落させて同車下部に巻き込んだり,脱落時に路上に強打させたりした上,車輪で轢過するなどして同人を死に至らせることがあることを認識しながら,同車を強取するためにはそれもやむを得ないと決意し,同車をそのまま急発進させ,同所から同市松の内g丁目h番地のi先路上(同図面③地点)まで約310メートルにわたって同人を引きずった を認識しながら,同車を強取するためにはそれもやむを得ないと決意し,同車をそのまま急発進させ,同所から同市松の内g丁目h番地のi先路上(同図面③地点)まで約310メートルにわたって同人を引きずったまま前進走行しながら右左折を繰り返すなどの暴行を加えて,同人の反抗を抑圧した上,同所で同人を同車から脱落させて轢過し,同車を強取したが,その際,上記暴行により,同人に対し,約300日間の加療を必要とする外傷性両側血気胸,両側肺挫傷,右多発肋骨骨折,右前胸部挫傷(タイヤ痕)等の傷害を負わせたに止まり,死亡させるに至らなかった。 第3 Cと共謀の上, 1 同年9月4日午後4時15分ころ,同県三木市J町j番地のk所在のH方東側路上において,Iが所有する釣り竿約5本を積載した同人が管理する普通乗用自動車1台(時価合計453万円相当)を窃取した。 2 同日午後5時30分ころ,同県明石市Ll丁目m番地のn所在のJ荘敷地内において,同所に駐車中のKが所有する普通乗用自動車のナンバープレート2枚を取り外して窃取した。 3 同月6日午前2時ころ,同県姫路市Oo番地所在の駐車場において,同所に駐車中のLが所有する普通乗用自動車1台(時価150万円相当)を窃取した。 第4 C及びDと共謀の上, 1 同月20日午前4時30分ころ,同県三木市P町p番地所在の株式会社M店第2工場事務所において,同店店長Nが管理する工具箱等117点(時価合計11万6500円相当)を窃取した。 2 同日午前6時ころ,同県加古川市Qq丁目r番所在の県高層住宅s号棟駐車場において,同所に駐車中のOが所有する普通乗用自動車のナンバープレート2枚を取り外して窃取した。 第5 Dと共謀の上, 1 同月22日午後2時30分ころ,同県T町t番地のu所在の有限会社P工業駐車場において,同 駐車中のOが所有する普通乗用自動車のナンバープレート2枚を取り外して窃取した。 第5 Dと共謀の上, 1 同月22日午後2時30分ころ,同県T町t番地のu所在の有限会社P工業駐車場において,同所に駐車中のQが管理する普通乗用自動車1台(時価400万円相当)を窃取した。 2 同月24日午後8時25分ころ,同県明石市V町v丁目w番x号所在のコンビニエンスストアR店駐車場において,同所に駐車中のSが所有する普通乗用自動車1台(時価150万円相当)を窃取した。 第6 D,E及びFと共謀の上, 1 金品を窃取する目的で,同月25日午前1時30分ころ,被告人,E及びFの3名が,同県同市藤江y番地所在のガソリンスタンド「T」の店長Uが看守する同店事務所西側出入口から同事務所内に侵入し,同所において,同人が管理する現金26万4450円及び商品券17枚等22点在中の金庫1個(時価合計5万9800円相当)を窃取した。 2 同日午前5時30分ころ,同県加古川市Z町z番地パチンコ「W」先路上において,同所に駐車中のXが所有する普通乗用自動車1台(時価20万円相当)を窃取した。 第7 B及びEと共謀の上,同年10月6日午後8時45分ころ,同県明石市○町○丁目×番地の△先路上において,Yが所有又は管理する現金170万円及びセカンドバッグ1個等155点(時価合計16万5100円相当)積載の普通乗用自動車1台(時価250万円相当)を窃取した。 (証拠の標目)省略(判示第2の強盗殺人未遂の事実認定の補足説明) 1 弁護人の主張の要旨弁護人は,判示第2の強盗殺人未遂の事実について,Vが普通乗用自動車(ランドクルーザー,以下「本件車両」という。)のフロントグリルガードにしがみついていたことは認めながらも,被告人は,本件車両を運転していたとき,このこと 盗殺人未遂の事実について,Vが普通乗用自動車(ランドクルーザー,以下「本件車両」という。)のフロントグリルガードにしがみついていたことは認めながらも,被告人は,本件車両を運転していたとき,このことを認識していなかったのであるから,被告人には未必的な殺意も強取の意思も認められず,強盗殺人未遂罪を適用することはできないと主張し,被告人も公判廷においてこれに沿う弁解をするので,以下検討する。 2 関係各供述の信用性について(1) Vの供述について被害者であるVは,捜査段階において,被告人が本件車両の運転席に乗り込んだことに気付いて,本件車両の前に立ちふさがり,被告人に大声で「何しよんや。」と声をかけた,被告人が,いったんは本件車両を前進させようとしたものの,すぐさま後退を始めたので,このままでは逃げられてしまうと思い,とっさに本件車両のフロントグリルガードに両手でしがみついたが,被告人は,Vを引きずったまま本件車両を後退させた,Vは,フロントグリルガードに必死にしがみついており,その頭は運転席から十分見える位置にあった,被告人は,途中で切り返しをしており,その時,Vは顔を上げて運転している被告人の顔をまた見ることができ,その時,被告人と目が合った感じがし,被告人がVの顔を見て,ニタッと口をゆがめる感じで笑ったように見えた,被告人が,切り返しを終えると,本件車両を急発進させ,スピードを上げて走り出した,本件車両に引きずられるうち,意識も薄れていき,フロントグリルガードから手を離してしまった,被告人の本件車両の走らせ方は,急発進させたり,急停車したり,蛇行運転をしたり,猛スピードを出したり,角を曲がるときも,車体を大きくふくらませる形で回ったりするもので,これはしがみついているVを何とか振り切ろうとしていたとしか考えられない り,急停車したり,蛇行運転をしたり,猛スピードを出したり,角を曲がるときも,車体を大きくふくらませる形で回ったりするもので,これはしがみついているVを何とか振り切ろうとしていたとしか考えられないなどと供述している。 このVの供述は,特に,本件車両を奪われた際の状況や同人の心理状態等については,それなりに具体的かつ詳細で,特段不自然・不合理な点はなく,後記のZ証言やB証言とも符合していることから,十分信用することができる。 弁護人は,このVの供述について,Vの供述は,本件車両の走行経路やひかれたときの状況,被告人がどの地点でどのような運転をしていたかについて具体性がないから,信用できないと主張する。しかしながら,Vのおかれた当該状況に照らすと,これらの点について詳細に供述できないのは,むしろ当然であって,弁護人が指摘する点は,Vの供述の信用性を減じるものとはいえない。 また,弁護人は,Vの供述中,切り返しの際,Vが被告人と目が合い,そのとき被告人がニタッと笑ったことについては,検察官調書で初めて出てきたものであって,それ以前の警察官調書では,Vが本件車両の前に立ちふさがったときに被告人の顔を見たことの記載しかないから,供述が変遷したもので信用できないし,恐怖やパニック状態にあったVが,切り返しの際,冷静に物事を見て,正確に記憶できるはずはないから信用できないとも主張する。 そこで検討すると,平成12年9月21日付け及び同月26日付け各警察官調書(検察官請求証拠番号58,59)には,犯人と目が合った旨の記載はなく,同年11月14日付け警察官調書(同番号60)において,「犯人が私の車を盗み急発進したために咄嗟に私はフロントグリルにしがみつきましたが,その時に犯人は,私の顔を見て,ニタッと口を歪めて 載はなく,同年11月14日付け警察官調書(同番号60)において,「犯人が私の車を盗み急発進したために咄嗟に私はフロントグリルにしがみつきましたが,その時に犯人は,私の顔を見て,ニタッと口を歪めて,人を馬鹿にしたように笑った」との記載がなされ,次いで,同年12月12日付け検察官調書(同番号62)に,「(犯人の男は何度か切り返しをしており)その時,男と目が合った感じがし,犯人の男が私の顔を見てニタッと口を歪める感じで笑ったように見えました」との供述記載があり,この点をみれば,同人の供述には,ある意味での変遷のあることは否定できない。しかし,平成12年9月21日付け(同番号58)及び同月26日付け(同番号59)の各警察官調書は,被告人がいまだ本件で逮捕されず,その弁解もなかった時期に,被害状況と犯人の特定を中心に聴取されたものであるから,切り返しの際の場所や状況について聴取しても,そのときに目が合ったか否かといったことの録取までなくても必ずしも不自然ではない。他方,平成12年11月14日付け警察官調書(同番号60)の前記記載は,被告人が,別件で逮捕された後に,いわゆる面通しをした結果,思い出したこととして述べられたものであり,また,同年12月12日付け検察官調書(同番号62)は,それを前提として,更に具体的な状況を想起する形で供述が録取されたものであって,このような供述経過に照らすと,その供述の変遷は,それなりに理解できるものであって,不合理とはいえない。そして,犯人と目が合ったなどということは,格別正確な観察を要するようなものではなく,恐怖感等に襲われていても十分認識しうることであって,強い印象に残るものであると考えられる。そうすると,この点に関するVの供述は,相応の証拠価値を持つものというべきである。 (2) Zの証言について に襲われていても十分認識しうることであって,強い印象に残るものであると考えられる。そうすると,この点に関するVの供述は,相応の証拠価値を持つものというべきである。 (2) Zの証言について別紙図面②地点付近にある駐車場αパーキング出入口横の事務所で本件の状況を目撃していたZは,公判廷において,本件車両が,同駐車場事務所南側前面にある交差点(T字路)(別紙図面②地点)に,南北道路の南から後進してきて,交差点内で急停止し,前進に転じて,東西道路を西に向かって走り去ったが,そのとき,本件車両のボンネットとバンパー辺りに男が両手を大きく広げ,頭がボンネットから上に出て,足が車のバンパーから下に入るか入らないかくらいの姿勢(実況見分調書(同番号73)の写真番号10,15参照)でしがみついており,Zの方を見て「警察を呼べ。」と強い口調で叫んでいた旨証言する。 このZの証言は,具体性,迫真性に富んだ自然かつ詳細なものである上,前記Vの供述とも符合し,かつ,Zは,本件の関係者とこれまで一面識もなく,殊更被告人にとって不利益な虚偽証言をする理由は全くないことから,十分信用することができる。 弁護人は,このZの証言について,Zが警察にすぐ通報していないことや,目撃時間が短いことなどをもって信用できないなどと主張するが,第三者であるZが警察にすぐ通報しなかったとしても不自然なことではないし,目撃時間が短いとはいえ,駐車場事務所から前記交差点方向は,夜間であっても明るく(捜査復命書(同番号66),実況見分調書抄本(同番号74)の写真番号8ないし14参照),事務所の窓も開かれていた上に,同人の視力は左1.0,右1.2であるというのであるから,その視認状況に何ら問題はなく,しかも本件で目撃した状況がかなり特異な状況であるこ 写真番号8ないし14参照),事務所の窓も開かれていた上に,同人の視力は左1.0,右1.2であるというのであるから,その視認状況に何ら問題はなく,しかも本件で目撃した状況がかなり特異な状況であることからすると,弁護人が指摘する点は,Zの証言の信用性を減じるものとはいえない。 なお,弁護人は,被告人が切り返しを行ったのは,別紙図面②地点ではないから,Zの証言は基本的部分に重大な誤りがあって信用できない旨主張するが,Zは,被告人が切り返しを行った場面を直接,目の前で目撃したものであり,その供述の信用性を肯定できることは前記のとおりであるから,弁護人の主張の方が前提を欠いていることは明らかである。 (3) Bの証言について被告人と本件車両の窃盗を共謀したBは,信号の手前で被告人を待っていたところ,目の前の国道2号線の交差点を,被告人が乗り込んだ本件車両が西から東に走り去り,同車前部に,頭がボンネット上に出るように男がしがみつき,助けを求めて大声で叫んでいるのを見聞きしたことや,本件後,被告人と会ったとき,被告人が,Vを引きずったことや,Vを落としてひいたことを,へらへらして笑う感じで言っており,被告人のことを怖いなと思った旨証言する。 このBの証言は,迫真性に富んだものである上,前記Vの供述や,本件犯行後,被告人が人を引きずって走っていた旨電話で伝えた点で,証人βの証言とも符合し,かつ,Bは,被告人の友人で,殊更被告人に不利益な虚偽証言をする理由はなく,また,Bは窃盗の共犯者であるが,強盗殺人未遂の共犯者とされる関係にないことは明白であって,いわゆる共犯者供述の引っ張り込みの危険性は問題とならないことから,十分信用することができる。 弁護人は,このBの証言についても,視認状況や他の関係者との供 関係にないことは明白であって,いわゆる共犯者供述の引っ張り込みの危険性は問題とならないことから,十分信用することができる。 弁護人は,このBの証言についても,視認状況や他の関係者との供述の細かい食い違いを問題としたり,本件後被告人と会ったAが,被告人が重大事をおこしたようには見えなかったと述べていることをもって,信用性がない旨主張するけれども,いずれもBの証言の核心部分を弾劾するに足りるものとはいえない。 3 被告人の認識について上記2で検討したとおり十分信用することができるVの供述並びにZ及びBの各証言を含む関係証拠を総合すると,被告人が,G酒店前路上(同図面①地点)でVが本件車両に立ちふさがったことを認識したことはもちろん,被告人が,αパーキング事務所南側前面にある交差点(同図面②地点)まで後退を続け,同所で本件車両の進行方向を転換させる際,Vが依然として本件車両のフロントグリルガードにしがみついていることを認識していたことや,その後もVがフロントグリルガードにしがみついていたが,ついには落ちたところ本件車両で轢過したことを認識していたことは,優に推認することができる。そして,Vを認識していたことを認める被告人の捜査段階の供述は,この推認と合理的に符合するものとして,信用することができる。 さらに,被告人がこのような認識を有していた以上,被告人が,本件車両を強取しようとしていたことはもちろん,判示のとおり,Vを引きずったまま前進して走行を継続すれば,同人を本件車両から脱落させて同車下部に巻き込んだり,脱落時に路上に強打させたりした上,車輪で轢過するなどして同人を死に至らせることがあることを認識したものの,本件車両を強取するためにはそれもやむを得ないと決意し,本件犯行に及んだことも明らかである。 4 被告 上に強打させたりした上,車輪で轢過するなどして同人を死に至らせることがあることを認識したものの,本件車両を強取するためにはそれもやむを得ないと決意し,本件犯行に及んだことも明らかである。 4 被告人の弁解について(1) これに対し,被告人は,公判廷において,Vが本件車両のフロントグリルガードにしがみついていたことは,終始認識していなかった旨弁解するので,その弁解について,更に検討する。 まず,被告人は,本件車両に乗り込むや,直ちにこれを後退発進させ,同図面②地点まで後退し続けたことは前記認定のとおりである。そうしたところ,被告人は,同図面①地点において,本件車両の前方に何人かが立ちふさがったことには気付いていたというのであるから,仮に,被害者がフロントグリルガードにしがみついていたことに気付かなかったとしても,まず,逃走のため本件車両を後退させたことは理解できる。しかしながら,その後,後退のまま路地に入り,同図面②地点まで後退を続けた理由については,Vが本件車両の前部にしがみついていることを被告人が認識していたと考える以外,合理的な説明は困難である。更に,本件車両を後退から前進に転じる際,このような運転操作を行う車両運転者としては,歩行者や路上に駐車されている自動車等の障害物の有無を確認するために,車両前方を注視するはずであるのに,頭がボンネットから上に出る姿勢でフロントグリルガードにしがみついているVを全く認識しなかったというのは,不自然・不合理である。加えて,被告人は,せっかく盗取した本件車両を,轢過現場から直線距離でわずか約900メートルしか離れていない明石市明南町にある月極駐車場に放置したまま逃走しているのであるが,Vが本件車両にしがみついていたことにも,同人を振り落としたことにも全く気付いていなかったとすれば か約900メートルしか離れていない明石市明南町にある月極駐車場に放置したまま逃走しているのであるが,Vが本件車両にしがみついていたことにも,同人を振り落としたことにも全く気付いていなかったとすれば,被告人は,予定どおり本件自動車を乗り去ってしまえばよかったのであるから,あえてこれを放棄した理由を合理的に説明することはできない。以上の諸点に照らし,被告人の弁解は,前記2で検討した関係者の供述等と対比して,信用することができない。 (2) ところで,弁護人は,被告人は,本件車両を前進させる際,あえて腰を前にずらして,姿勢を低くし,頭の高さくらいのところに手を高く上げてハンドルを握る運転姿勢を取っていたのであり,このことは本件車両が発見されたとき,運転席のシートがアクセルからかなり離れた位置にあり,背もたれもかなり後ろに倒れていたことからも裏付けられるのであって,こうした運転姿勢のためVが見えなかったかのように主張し,被告人も公判廷でこれに沿う供述をする。 しかしながら,そもそもこのような運転姿勢では前部の視界が遮られて運転が極めて困難になるのであって,そうした運転姿勢自体甚だ不自然な感が免れない上,被告人は,本件車両を放置して逃走する際,本件車両のハンドルや運転席ドア付近を濡れタオルでふいて指紋を消すなどの罪証隠滅工作をしており,直ちに逃走したわけではないことからすると,発見時の運転席のシートの位置をもって直ちに運転中のものであると推測することはできない。むしろ,Vの指示説明(実況見分調書(同番号65))によれば,同人は,運転席シートを通常の位置にして運転していたことが認められるところ,被告人が本件車両に乗り込んだ際,運転席のシートの位置を動かす余裕があったとは考えられず,被告人も,公判廷で,その旨の供述をしていることからし を通常の位置にして運転していたことが認められるところ,被告人が本件車両に乗り込んだ際,運転席のシートの位置を動かす余裕があったとは考えられず,被告人も,公判廷で,その旨の供述をしていることからしても,本件犯行時の座席シートの位置は,発見時のそれと異なり,通常の運転姿勢に沿うものであったと認めるのが相当である。 (3) また,弁護人は,被告人が,前記の罪証隠滅工作をしながら,Vがしがみついていた本件車両のフロントグリルガード付近をふき取らなかった点をもって,被告人の弁解を裏付ける事情とするが,被告人としては,自己の指紋さえふき取れば,本件に自己が関与したことを隠蔽できるのであるから,弁護人が指摘する点は,特段被告人の弁解を裏付けるものではない。 5 結論以上のとおりであって,結局,判示第2の強盗殺人未遂の事実は,これを優に認めることができる。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法60条,火炎びんの使用等の処罰に関する法律3条1項に,判示第2の所為は刑法60条(ただし,窃盗の範囲で),243条,240条後段に,判示第3の1ないし3,第4の1及び2,第5の1及び2,第6の2並びに第7の各所為はいずれも同法60条,235条に,判示第6の1の所為のうち建造物侵入の点は同法60条,130条前段に,窃盗の点は同法60条,235条にそれぞれ該当するところ,判示第6の1の建造物侵入と窃盗の間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑で処断し,各所定刑中判示第1の罪について懲役刑を,判示第2の罪について無期懲役刑をそれぞれ選択し,判示第2の罪は未遂であるから同法43条本文,68条2号を適用して法律上の減軽をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判 ついて無期懲役刑をそれぞれ選択し,判示第2の罪は未遂であるから同法43条本文,68条2号を適用して法律上の減軽をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人を懲役15年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中700日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 事案の概要本件は,被告人が,それぞれの共犯者らと共謀の上,火炎びんを製造したという火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反の事実(判示第1),駐車中の自動車を盗もうとして同車に乗り込んだものの,その所有者に発見され,同人が自動車にしがみついてきたにもかかわらず同車を走行させ,同人を轢過して重傷を負わせたという強盗殺人未遂の事実(判示第2),その後,次々に自動車6台等を窃取したり,事務所等に侵入して金庫,工具箱等を盗んだという窃盗,建造物侵入の各事実(判示第3ないし第7)からなる事案である。 2 量刑上考慮した事情(1) 判示第2の強盗殺人未遂の事実について被告人は,共犯者らとともにいわゆるランドクルーザー型普通乗用自動車を盗んで他に売却して利益を得ようと企て,ランドクルーザーを探して徘徊し,偶然エンジンがかかったまま停車中であった本件車両を見つけ,率先して本件犯行に及んだものであり,その動機は極めて利欲的なものであって,全く酌量の余地はない。 そして,被告人は,本件車両のフロントグリルガードにしがみついた被害者を引きずったまま,判示したとおりの態様による運転走行を約471メートルにもわたって継続した結果,落下した被害者を轢過しており,その犯行態様は,被 ,本件車両のフロントグリルガードにしがみついた被害者を引きずったまま,判示したとおりの態様による運転走行を約471メートルにもわたって継続した結果,落下した被害者を轢過しており,その犯行態様は,被害者の生命,身体の安全を一顧だにしない,極めて危険かつ執拗なものであって,非常に悪質である。 被害者は,自己の車を盗まれまいとして,とっさに本件車両のフロントグリルガードにしがみついたところ,本件被害に遭い,手を離せば頭を道路に打ち当てたり,ひかれたりして死ぬのではないかという極度の恐怖感に耐え続け,ついには意識を失って手を離し,本件車両に轢過されており,購入して間がない本件車両を抵抗のかいなく奪われたばかりか,幸いにして死亡という最悪の結果は免れたものの,一時は生死の境をさまよい,約300日間という長期間の加療を必要とし,後遺症の残る極めて重篤な傷害を負わされ,被害当時24歳というこれから家族を支えていくべき年齢であったのに,本件被害の結果,体を激しく動かすことができず,運動といってもせいぜい歩く程度のことしかしてはならず,働くこともできないような状況に陥り,幼いころから抱いてきた潜水士になるという夢も無残に打ち砕かれ,肉体的,精神的,経済的なすべての面において極めて大きい苦痛を受けたもので,本件犯行の結果はまことに重大であり,被害感情には依然として非常に厳しいものがある。 しかも,被告人は,本件犯行後,被害者を轢過したことを認識しながら,被害者に対して救護のための措置を一切講ずることなく,強取した本件車両に付着した自己の指紋を濡れタオルでふき取るなどの入念な罪証隠滅工作を行った上,放置して逃走しており,事後的な犯情も悪い。 加えて,被告人は,公判廷において不合理かつ不誠実な弁解に終始しており,真しな反省 紋を濡れタオルでふき取るなどの入念な罪証隠滅工作を行った上,放置して逃走しており,事後的な犯情も悪い。 加えて,被告人は,公判廷において不合理かつ不誠実な弁解に終始しており,真しな反省の情を示しているとは認め難い。 (2) その他の犯罪事実について被告人は,判示第2の強盗殺人未遂という重大犯罪を敢行した後も,引き続き共犯者らとともに,ほぼ同様の自動車盗の犯行を重ねており,被告人には,何ら判示第2の強盗殺人未遂の事件に対する反省,自重の態度を見てとることができない。 また,被告人は,他人の物を盗むための移動手段や道具として用いるために,自動車や工具等を窃取しており,その犯行動機に何ら酌量の余地はなく,その犯行態様も,次々と共犯者らを各犯行に誘い込み,いずれの犯行においても終始主導的立場を担っていること,判示第3ないし第7の合計10件の窃盗被害金品は合計約1653万5850円の多額に及んでいること,また,被告人が使用していた盗難車の車内や当時の被告人方から,100万円を超える現金や被害者を異にする多数の盗難被害品が発見,押収されており,被告人の本件各犯行は,常習的,職業的に敢行された一連の窃盗の一部であることがうかがわれることなどの事情に照らすと,各窃盗の犯情もまことに悪質といわざるを得ない。 加えて,被告人は,人出の多い祭り期間中の駅前で,暴走族集団と警察の機動隊が競り合っているさなか,自ら約4リットルものガソリンを購入し,ビールびんを盗んで調達した上,火炎びんを6本も製造したばかりか,それらの火炎びんは,実際に暴走族構成員により着火されて機動隊に投てきされており,一歩間違えば警察官の死傷という極めて重大な結果をもたらしかねなかったのであって,その違法性は大きい。 (3) その余の不 炎びんは,実際に暴走族構成員により着火されて機動隊に投てきされており,一歩間違えば警察官の死傷という極めて重大な結果をもたらしかねなかったのであって,その違法性は大きい。 (3) その余の不利な事情について被告人は,少年時に傷害,窃盗(自動車盗,出店荒らし),恐喝(たかり),住居侵入,占有離脱物横領,毒物及び劇物取締法違反(シンナー吸引),覚せい剤取締法違反(覚せい剤自己使用)の非行事実による多数の前歴及び道路交通法違反(共同危険行為,無免許運転)による罰金前科1犯があり,平成6年7月には,教護院送致の保護処分を受け,成人後は,道路交通法違反(無免許運転)による罰金前科1犯のほか,平成12年4月11日には,神戸地方裁判所姫路支部で窃盗罪,同未遂罪(自動販売機荒らし)により懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受け,その判決確定後わずか2か月しかたっていない平成12年6月から約3か月半の間に,執行猶予期間中であるにもかかわらず,判示の各犯行を共犯者らとともに連続して敢行したものであって,被告人の犯罪性向は根深く,ことに盗犯に関する規範意識は欠如しているといわざるを得ない。 (4) まとめ上記(1)ないし(3)の諸事情に照らすと,被告人の刑事責任は非常に重いといわなければならない。 (5) 有利な事情しかしながら,他方,被告人は,第5回公判期日において,判示第2の強盗殺人未遂の被害者との間で,当該被告事件の被害に係る民事上の争いについて合計500万円の損害賠償義務があることを認め,被告人の両親の連帯保証の下,約14年間にわたって支払うことで和解し,その支払履行は継続されており,本件車両も被害者に返還されたとみられること,被告人は,判示第7の犯行の被害者Yに対して,弁償金として57万円を支払って の下,約14年間にわたって支払うことで和解し,その支払履行は継続されており,本件車両も被害者に返還されたとみられること,被告人は,判示第7の犯行の被害者Yに対して,弁償金として57万円を支払っていること,判示第3ないし第7の各窃盗の被害品の一部は被害者に還付済みであること,被告人は,判示第2の強盗殺人未遂の事実以外の各犯罪事実については素直に認め,反省の情を一応示していること,現在24歳といまだ若年であること,妻と幼い双子の男児が被告人の出所を待っていること,被告人の母親が被告人の更生のために尽力する旨当公判廷で証言していることなど,被告人にとって有利な事情も認められる。 3 結論上記の犯情に照らすと,被告人に対しては,相当長期間の矯正教育を受けさせることが必要であり,以上の諸事情を総合考慮して,主文の刑を定めた。 (求刑・懲役18年)平成15年5月22日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官谷口吉伸

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