主文 1 被告らは,各自,別紙損害一覧表の「原告名」欄記載の各原告に対し,同一覧表「認容額」欄記載の金員及びこれに対する同一覧表の「起算日」欄の各被告欄記載の起算日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを20分し,その17を原告らの負担とし,その余は被告らの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,別紙損害一覧表の「原告名」欄記載の各原告に対し,連帯して,同一覧表の「請求額」欄記載の金員及びこれに対する同一覧表の「起算日」欄の各被告欄記載の起算日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要(1) 本件は,原告らが,「茶のしずく石鹸」と称する薬用洗顔石鹸を使用したことにより小麦アレルギー等を発症し,重大な健康被害を生じたとして,同石鹸及びその原材料の一つである加水分解コムギ末(商品名「グルパール19S」)の欠陥の存在を主張し,同石鹸の製造又は販売を行った被告悠香及 び被告フェニックス,加水分解コムギ末を製造販売した被告片山化学に対し,製造物責任法3条に基づき,包括一律請求として,連帯して,特に重篤なアレルギー症状であるアナフィラキシーショックを生じた原告らについては各1500万円,その余の原告らについては各1000万円の損害の賠償及びこれらに対する各製品引渡し後のアレルギー発症以降の日である各訴状 送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害 金の支払を求める事案である。 (2) 本件については,合計5次にわたる提訴があ ー発症以降の日である各訴状 送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害 金の支払を求める事案である。 (2) 本件については,合計5次にわたる提訴があり,口頭弁論の併合がされた結果,併合提訴にかかる原告の総数は120名となった。その後,うち91名については訴訟外において和解が成立したこと等により訴えを取り下げ,うち9名については裁判上の和解が成立し,いずれも訴訟が終局した。これ により,本件の原告は20名となった。なお,以下においては,各原告を個別に特定する場合には,氏名ではなく,別紙損害一覧表記載の原告番号によって特定する場合がある。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) (1) 当事者ア原告らは,平成16年3月から平成23年頃までの間に,被告悠香が販売した,商品名を「フェイスソープP」,「フェイスソープW」,「薬用フェイスソープP」及び「薬用悠香の石鹸」と称する薬用洗顔石鹸(通称「茶のしずく石鹸」,以下,上記各商品名の石鹸のうち,後記グルパール19S を配合した石鹸を「本件石鹸」という。)を使用したところ,小麦アレルギー等のアレルギー症状を発症したと主張する者である。 イ被告悠香は,平成15年5月23日に設立され,茶葉成分を利用した健康食品,医薬部外品及び化粧品の製造,販売及び輸出入等を業とする株式会社であり,自らの名において本件石鹸を消費者に対して販売した(甲A 1)。 ウ被告フェニックスは,各種石鹸,洗剤の製造販売及びグリセリン,化粧品,油脂化学製品の製造販売等を業とする株式会社であり,本件石鹸を自社の工場において製造し,被告悠香に対して販売した(甲A2)。 被告フェニックスは,各種石鹸,洗剤の製造販売及びグリセリン,化粧品,油脂化学製品の製造販売等を業とする株式会社であり,本件石鹸を自社の工場において製造し,被告悠香に対して販売した(甲A2)。 エ被告片山化学は,医薬品,医薬部外品,試薬,食品添加物の製造及び販 売等を業とする株式会社であり,本件石鹸の原材料の一つである加水分解 コムギ末「グルパール19S」を製造し,被告フェニックスに対して販売した(甲A3)。 (2) 本件石鹸の概要ア特徴本件石鹸は,主として洗顔用の美容石鹸であり,薬事法(昭和35年法 律第145号。なお,平成25年法律第84号により「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改正された。以下,同改正の前後にかかわらず「薬事法」という。)における分類としては,「化粧品」又は「医薬部外品」に該当するものとして製造販売された製品である。 本件石鹸は,「茶のしずく」と称されていたとおり,無農薬有機栽培により生産された茶葉エキスを配合している点を特徴としており,茶葉の成分によって,肌本来の美しさをサポートするとの効能が謳われていた(乙イA1の1ないし38,弁論の全趣旨)。 イ被告悠香による販売 被告悠香は,平成16年3月から通信販売の方法で本件石鹸の販売を開始した。被告悠香は,有名芸能人を起用したテレビコマーシャル等により積極的な広告宣伝を展開したところ,本件石鹸は,女性を中心とした購買層に反響を呼び,被告悠香は,上記販売開始から平成23年5月に自主回収を行うに至るまでの間,延べ466万7000人の消費者に対し,総数 4650万8000個の本件石鹸を販売することができた(甲A34,乙イA17,乙ハA 上記販売開始から平成23年5月に自主回収を行うに至るまでの間,延べ466万7000人の消費者に対し,総数 4650万8000個の本件石鹸を販売することができた(甲A34,乙イA17,乙ハA20の1ないし2,乙ハB15)。 ウ本件石鹸の製造等(ア) 本件石鹸は,いずれも被告フェニックスの工場において製造されたものである(弁論の全趣旨)。 (イ) 本件石鹸は,1個当たりの大きさが30g,60g,110gの3種 類の規格の製品が販売されたところ,このうち,60gの製品については平成22年5月22日出荷分以降,110gの製品については同月13日出荷分以降,製品に「製造販売元」として被告悠香の表示を付して販売された(なお,上記の被告悠香が「製造販売元」と表示された本件石鹸について,被告悠香が製造物責任法2条3項2号又は3号所定の 「製造業者等」に当たることについて当事者間に争いはない。)。 (3) グルパール19Sの概要ア概要グルパール19Sとは,被告片山化学が開発した小麦加水分解物の製品群であるグルパールシリーズに属する製品の一つである。被告片山化学は, 食品や化粧品の原材料として使用されることを想定してグルパール19Sを製造,販売した。(乙ロA10,41の1ないし2)被告悠香は,本件石鹸の販売に当たり,本件石鹸が洗顔に適したもっちりとした泡を簡単に実現できる効能を有することも製品の特徴として強調していたところ,グルパール19Sは,泡立ちの良さを実現するための 改良成分等として,本件石鹸に0.3%の割合で配合されていた(甲A33,乙イA1の1ないし38)。 イ小麦加水分解物ないし加水分解コムギ末の概要(ア) 小麦加水分解物とは,小麦に含まれるたんぱく 分等として,本件石鹸に0.3%の割合で配合されていた(甲A33,乙イA1の1ないし38)。 イ小麦加水分解物ないし加水分解コムギ末の概要(ア) 小麦加水分解物とは,小麦に含まれるたんぱく質(グルテン)を種々の触媒を用いて加水分解することで得られた成分であり,一般に乳化性 や起泡性といった様々な機能特性を有しているため,古くから食品添加物や化粧品,香粧品の添加物として利用されている(乙ハA29)。 (イ) 本件石鹸の販売当時,薬事法によれば,化粧品及び医薬部外品の製造販売については品目毎に厚生労働大臣の承認を受けなければならないものとされていたところ,同法は,化粧品及び医薬部外品の原材料(配 合成分)につき必要な基準を定めることができるとしており,厚生労働 省は,上記承認事務の簡素合理化の観点から,「医薬部外品原料規格」,「化粧品原料基準」及び「化粧品種別配合成分規格」等を公表し,化粧品や医薬部外品に配合することができる成分の規格を定めていた。 上記の各基準には,コムギの種子の粉を加水分解して得られる水溶性成分の乾燥粉末である「加水分解コムギ末」が収載されており,グルパ ール19Sは同成分と規格において同一の成分であった。 (以上につき,乙ロA2ないし6)(4) 食物アレルギーの概要ア概要日本小児アレルギー学会が定める食物アレルギー診療ガイドラインに よれば,食物アレルギーとは,食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象をいうとされる(甲総C3,乙イ総C10,11,乙ロB10)。 食物アレルギーのうち,即時型と呼ばれる症状は,原因食物を摂取後,通常2時間以内に出現するアレルギー反応による 惹起される現象をいうとされる(甲総C3,乙イ総C10,11,乙ロB10)。 食物アレルギーのうち,即時型と呼ばれる症状は,原因食物を摂取後,通常2時間以内に出現するアレルギー反応による症状を示すことが多く, 一般に小麦アレルギーという場合,小麦を原因食物とする即時型症状を生じるものを指す。即時型アレルギーの特殊型として,原因物質を摂取後,運動を行ったとき等にアナフィラキシー症状を起こす疾患を食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:Food-DependentExercise-InducedAnaphylaxis)と呼ぶ。食物依存性運動誘発アナフィラキシーは, 小麦やエビ,カニが主に発症頻度の高い食物とされており,特に,小麦を原因とする場合を小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA:Wheat-DependentExercise-InducedAnaphylaxis)と呼ぶ。(甲総C3,乙イ総C11,乙ロB10)イ症状 一般に食物アレルギーによって引き起こされる症状として,掻痒感,蕁 麻疹,血管運動性浮腫,発赤及び湿疹等の皮膚症状,充血・眼瞼浮腫等の眼症状,くしゃみ・鼻水等の鼻症状及び口腔の違和感・咽頭の痒み等の口腔咽喉症状を伴う粘膜症状,腹痛・嘔吐及び下痢等の消化器症状,咽頭紋扼感,喘鳴及び呼吸困難等の呼吸器症状がある。 このような症状が,多臓器にわたって全身性の症状として生じる場合を アナフィラキシーと呼び,アナフィラキシーの中でも重篤な症状を生じ,血圧低下や意識喪失といった生命を脅かす危険な状態に陥ることをアナフィラキシーショックと呼ぶ。 (以上につき,甲総C3)(5) 本件石鹸によるアレルギー被害の発生及び製品回収に至る経緯 血圧低下や意識喪失といった生命を脅かす危険な状態に陥ることをアナフィラキシーショックと呼ぶ。 (以上につき,甲総C3)(5) 本件石鹸によるアレルギー被害の発生及び製品回収に至る経緯 ア平成22年10月頃までに,全国のアレルギー専門病院において本件石鹸を使用した者の中に食物依存性運動誘発性のアレルギーを発症する患者がいることが相当数報告されるようになり,中には小麦含有食品を摂取後,運動時にアナフィラキシーを発現し,救急搬送された事例等も報告されるようになった(乙イA18,以下,本件石鹸の使用後に本件石鹸の使 用者らに発症したアレルギー疾患を「本件アレルギー」という。)。 イ上記の症例報告等を受けた厚生労働省医薬食品局安全対策課は,同月15日,「小麦加水分解物を含有する医薬部外品・化粧による全身性アレルギーの発症について」と題する報道発表を行い,併せて,各都道府県衛生主管長宛てに「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上 の注意事項等について」(薬食安発1015第2号・薬食審査発1015第13号)を発出したことを公表し,加水分解コムギ末を含有する化粧品等の使用につき,注意喚起を行った。 被告悠香も,同月20日,ホームページ上に「安心してお使いいただくために」と題して,厚生労働省より化粧品等でも小麦由来成分で全身性ア レルギーが発症したと疑われる事例が報告されたため,本件石鹸の使用に 当たって何か異常を感じたら医師に相談するようにとの旨の案内を掲載した。 (以上につき,乙イA18,乙イB13)ウところが,上記注意喚起の後も,本件石鹸が原因ではないかと考えられる症例数は増加の一途をたどり,社会問題化したことから,平成23年5 月20日,厚生労 につき,乙イA18,乙イB13)ウところが,上記注意喚起の後も,本件石鹸が原因ではないかと考えられる症例数は増加の一途をたどり,社会問題化したことから,平成23年5 月20日,厚生労働省医薬食品局安全対策課は,「小麦加水分解物含有石けん「茶のしずく石鹸」の自主回収について」を公表した。また,同日,被告悠香は,ホームページ上に「旧茶のしずく石鹸(昨年12月7日以前販売分)をまだお持ちの方へ」と題する案内を掲載して本件石鹸の自主回収を公表し,回収を開始した。(乙イB13,以下,本件石鹸の使用により 生じたアレルギー被害全体を指して「本件製品事故」ということがある。)エ被告悠香は,平成22年9月26日以降,本件石鹸の配合成分を見直し,グルパール19Sに代えて株式会社成和化成のプロモイスWG-SPという加水分解コムギ末を配合し,同年12月8日からは,再度成分変更を行い,小麦由来成分に代えて加水分解シルク(シルクゲン)を配合した石 鹸を製造,販売していたが,平成23年6月20日頃までに,加水分解シルクのほか,一切の加水分解物を含む石鹸の製造販売を中止した。 なお,被告悠香は,現在においても,本件石鹸の成分内容を変更した「茶のしずく石鹸」という通称名を付した薬用石鹸(販売名「薬用悠香の石鹸」)の製造,販売を行っている(乙イA17,弁論の全趣旨)。 (6) 学会の対応及び特別委員会の設置ア特別委員会の設置平成23年7月4日,一般社団法人日本アレルギー学会(以下「日本アレルギー学会」という。)は,本件石鹸の使用者にみられる即時型小麦アレルギーの発症が大きな社会的問題となっていることを踏まえ,患者,医療 従事者及び一般国民に向けて正確な情報提供を行うとともに,今後の同様 )は,本件石鹸の使用者にみられる即時型小麦アレルギーの発症が大きな社会的問題となっていることを踏まえ,患者,医療 従事者及び一般国民に向けて正確な情報提供を行うとともに,今後の同様 の問題の発生防止のための調査研究を実施することを目的に,学会内に松永佳世子藤田保健衛生大学医学部皮膚科学教授(以下「松永委員長」という。)を委員長とする「化粧品中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会」(以下,単に「特別委員会」という。)を設置した。 特別委員会は,国内の大学においてアレルギーを専門に扱う医師やアレ ルギー専門病院の医師らにより構成され,以後,定期的に会合を開催し,本件アレルギーに関する症例の収集と分析,原因の解明・研究,予後の調査等を実施した。 (以上につき,甲B1,乙イB1の1,乙ハA17)イ診断基準の公表 同年10月11日,特別委員会は,それまでに集積された臨床報告等を踏まえて,「茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギ(グルパール19S)による即時型コムギアレルギーの診断基準」を取りまとめ,公表した。 その内容は,概ね以下のとおりである(甲C総1,以下,単に「診断基準」ということがある。)。 (ア) 確実例以下のa,b,cの条件を全て満たすこと。 a 加水分解コムギ(グルパール19S)を含有する茶のしずく石鹸等を使用したことがある。 b 以下のうち,少なくとも1つの臨床症状があったこと。 ⒜ 加水分解コムギ(グルパール19S)を含有する茶のしずく石鹸等を使用して数分後から30分以内に,接触蕁麻疹(痒み,眼瞼浮腫,鼻汁,膨疹など)が出現した。 ⒝ 小麦製品摂取後4時間以内に痒み,膨疹,眼瞼浮腫,鼻汁,呼吸 )を含有する茶のしずく石鹸等を使用して数分後から30分以内に,接触蕁麻疹(痒み,眼瞼浮腫,鼻汁,膨疹など)が出現した。 ⒝ 小麦製品摂取後4時間以内に痒み,膨疹,眼瞼浮腫,鼻汁,呼吸困難,悪心,嘔吐,腹痛,下痢,血圧低下などの全身症状が出た。 c 以下の検査で少なくとも1つ陽性を示すこと。 ⒜ グルパール19S0.1%溶液,あるいは,それより薄い溶液でプリックテストが陽性を示す。 ⒝ ドットブロット,ELISA,ウエスタンブロットなどの免疫学的方法により,血液中にグルパール19Sに対する特異的IgE抗体が存在することを証明できる。 ⒞ グルパール19Sを抗原とした好塩基球活性化試験が陽性である。 (イ) 否定できる基準グルパール19S0.1%溶液でプリックテスト陰性(ウ) 疑い例 上記(ア)のa,bを満たすがcを満たさない場合は疑い例となる。 ただし,a,bを満たすがcを満たさない場合でも,血液特異的IgE抗体価検査やプリックテストでコムギ又はグルテンに対する感作が証明され,かつω-5グリアジンに対する過敏性がないか,コムギ及びグルテンに対する過敏性よりも低い場合は強く疑われる例としてよい。 ウ中間報告の公表平成24年5月28日,特別委員会はそれまでに収集した各種情報や研究成果を踏まえて,中間報告をとりまとめ,同時点までに明らかとなった本件アレルギー及び本件製品事故に関する各種知見を公表した。その概要は,以下のとおりである。(甲B1,乙イB1の1,乙ハA17) (ア) 「茶のしずく石鹸等による小麦アレルギー情報サイト」による疫学調査結果同調査は,厚生 。その概要は,以下のとおりである。(甲B1,乙イB1の1,乙ハA17) (ア) 「茶のしずく石鹸等による小麦アレルギー情報サイト」による疫学調査結果同調査は,厚生労働科学研究補助金を受けて,本件アレルギーの正確な症例の把握と予後の調査等を目的として実施された疫学調査研究である。 a 症例登録数等 同月10日時点の集計により,全国40都道府県の102の施設から,463名の確実例が登録された(「確実例」とは,特別委員会診断基準を満たす者をいう。)。なお,被告悠香から厚生労働省に対しては,1971件の症例が報告されているが,このうち確実例は480件であり,本件アレルギーではない症例が含まれていることが考えられる。 b 症例における本件石鹸の使用状況⒜ 患者らの問診票(254例分)によれば,本件石鹸の使用開始年は,平成16年当時は3例であったが,平成19年に34例と増加し,平成20年に64例,平成21年に60例とピークを迎え,平成22年に33例,平成23年に1例となっている。他方,症例の 多くは,厚生労働省が加水分解コムギ末を含有する石鹸に関する注意喚起を行った平成22年10月及び同省が被告悠香による自主回収について公表した平成23年5月頃に本件石鹸の使用を中止していた。患者らにおいては,平成17年に1例,平成18年に6例,平成19年に8例,平成20年に36例,平成21年に52例, 平成22年に73例がアレルギー症状を発症し,厚生労働省の通達発出後である平成23年に58例,平成24年に2例が発症している。 ⒝ 1人当たりの石鹸使用数は,最小1個,最多70個で,10個が最も多く23例であり,平均は15.6個であった。 発出後である平成23年に58例,平成24年に2例が発症している。 ⒝ 1人当たりの石鹸使用数は,最小1個,最多70個で,10個が最も多く23例であり,平均は15.6個であった。 1日の使用回数は,1回ないし4回であり,2回が最も多く114例であり,平均は1.7回であった。 石鹸の使用部位については,顔だけが64%,顔と体が17%,顔と首が2%,顔・腕・手が1%,体だけという回答はなく,記載なしが16%であった。顔面に回答した84%の全員が顔面に使用 し,20%は顔面以外の部位にも使用をしていた。 c 臨床症状⒜ 本件石鹸を使用した洗顔後に眼が腫れる,顔に蕁麻疹が出るなどのアレルギー症状の出現及び小麦摂取後のアレルギー症の出現という両方の症状があった症例が67%,洗顔後の症状はなく小麦摂取後アレルギー症状ありが30%,洗顔後症状があり小麦摂取後ア レルギー症状なしが3%であり,97%の症例は小麦摂取後にアレルギー症状を発症していた。 ⒝ 洗顔後の症状は,そもそも洗顔後に症状のないものが30%あったほか,眼瞼の腫張,蕁麻疹,痒みは多く見られたが,呼吸困難やショック症状をきたした症例はなかった。 ⒞ 小麦摂取後の症状は,アナフィラキシーショックが25%,ショック症状はないが呼吸困難,嘔吐や下痢を生じた症例が27%あり,合計52%の症例でアナフィラキシー症状を起こしていた。アナフィラキシー以外の蕁麻疹,眼の腫れ,鼻閉,鼻水,痒み等は45%で見られた。 d 本件石鹸によるコムギアレルギーの特徴これまでのコムギによる運動誘発アナフィラキシーとの違いは,以下のとおりである。 ⒜ 本 水,痒み等は45%で見られた。 d 本件石鹸によるコムギアレルギーの特徴これまでのコムギによる運動誘発アナフィラキシーとの違いは,以下のとおりである。 ⒜ 本件石鹸の使用がコムギアレルギー症状発症に先行する。 ⒝ 圧倒的に女性に多い。 男女比は1:19で,年齢では20代から60代に多く,40代にピークがある。美白効果を口コミに,女性が薬用石鹸として洗顔に使用していたことに起因すると思われる。 ⒞ 眼瞼浮腫,顔面の膨疹,痒み,鼻水等を生じる。 ほぼ全症例が小麦摂取後に眼瞼浮腫,顔面の膨疹,痒み,鼻水等 の症状を生じており,これはこれまでのコムギアレルギーが全身に 膨疹を発症するのに比べて特徴ということができる。 ⒟ 運動誘発性が低い。 従来のコムギによる運動誘発アナフィラキシーでは,相当量の運動負荷をかけなければ症状は現れなかったが,本件石鹸によるコムギアレルギーの症状は,買い物や家事等の軽度の運動で生じたり, 明らかな運動負荷がなくとも誘発されたりすることがある。 ⒠ 本件石鹸によるコムギアレルギーも運動と非ステロイド抗炎症薬内服で症状が誘発される。症状発現時に運動負荷があったのは56%であり,非ステロイド系抗炎症薬を内服していた人が16%いた。 ⒡ 症例の約50%にアレルギー疾患の既往歴があり,その中では花粉症が40%,その他10%の割合であり,この頻度は同年齢の一般の人の有病率と明らかな差はない。他方,50%はアレルギー疾患の既往はなく,健常人にも感作が成立するということができる。 ⒢ 重篤化している症例とそうでない症例との違いは明らかでない が,素因の関与が疑われる。 %はアレルギー疾患の既往はなく,健常人にも感作が成立するということができる。 ⒢ 重篤化している症例とそうでない症例との違いは明らかでない が,素因の関与が疑われる。 (イ) 診断基準,予後や発症メカニズムに関する調査研究の進捗状況a 診断基準に関しては,上記イのとおりである。 この点,グルパール19Sに対する血中特異IgE抗体を検出する方法にはELISA法があり,免疫学的方法により,血液中にグルパ ール19Sに対する特異的IgE抗体が存在することを証明できる。 b 発症メカニズム本件石鹸は,洗浄によって皮膚を清潔にすることを目的とする製品であり,界面活性剤を含む。そして同石鹸にはグルパール19Sという加水分解コムギ末が0.3%含有されていたところ,繰り返し,同 石鹸で入念に洗顔をすることで抗原(グルパール19S)が毎日少し ずつ経皮的に,また経粘膜的に吸収され,抗原提示細胞によって抗原がリンパ球に提示され,感作特異IgE抗体を産生し,これが肥満細胞の表面に結合して,アレルギー症状の準備状態を作ったと考えられる。経皮・経粘膜的に感作され,特異IgE抗体を産生し続けた個体では,やがて小麦製品を摂取すると全身性のアレルギー症状を発症す るようになった。 グルパール19Sがコムギアレルギーを発生した原因については,現在,エピトープ解析等を進めているところであるが,調査研究と実験の途中である。 疫学研究によれば,石鹸洗顔後の症状は眼瞼浮腫,痒み,顔の膨疹, 鼻汁等の軽度の症状が主で,アナフィラキシーを生じた症例はなかったが,小麦摂取後には50%を超える人が呼吸困難や嘔吐下痢等の重篤な症状を発生し,25%の 後の症状は眼瞼浮腫,痒み,顔の膨疹, 鼻汁等の軽度の症状が主で,アナフィラキシーを生じた症例はなかったが,小麦摂取後には50%を超える人が呼吸困難や嘔吐下痢等の重篤な症状を発生し,25%の人がショック症状を起こしていた。 c 予後予後に関しては少しずつ研究が進んでいるところであるが,国立病 院機構相模原病院(以下「相模原病院」という。)臨床研究センター所属の福冨友馬医師(以下「福冨医師」という。),島根大学の森田栄伸教授(以下「森田教授」という。),千貫祐子医師(以下「千貫医師」という。)らによる11例の研究では,本件石鹸の使用中止により全例で小麦,グルテン特異的IgE抗体の減少傾向を認めており,松永委 員長のグループの検討でもほぼ全例で上記抗体が減少し,ELISA法で経過を追ったグルパール19Sに対する抗体は半減期5.1カ月で減少している。 島根大学31例の症例中3例は,初診時に小麦が摂取できなかったものの,本件石鹸の使用を中止することによって運動負荷をかけても 小麦製品を摂取できるようになっている。 (7) 被告悠香による原告の一部に対する金銭支払被告悠香は,以下の各原告に対し,以下の金員を支払った(なお,これが損害の填補に当たるか否かについては争いがある。)。 ア原告番号18に対し,治療費名目で11万2788円イ原告番号41に対し,10万5655円 ウ原告番号52に対し,見舞金名目で20万円及び治療費名目で10万9190円(合計30万9190円)エ原告番号68に対し,見舞金名目で20万円及びそのほか3万6630円(合計23万6630円)オ原告番号85に対し,見舞金名目で10万円並 で10万9190円(合計30万9190円)エ原告番号68に対し,見舞金名目で20万円及びそのほか3万6630円(合計23万6630円)オ原告番号85に対し,見舞金名目で10万円並びに検査及び診断書発行 費用名目で7470円(合計10万7470円)カ原告番号118に対し,見舞金名目で15万円 3 争点(1) 被告悠香が製造業者等に該当するか。(争点1)(2) 本件石鹸に欠陥があるか。(争点2) (3) 本件石鹸の製造業者等について開発危険の抗弁が成立するか。(争点3)(4) 本件石鹸の原材料であるグルパール19Sに欠陥があるか。(争点4)(5) グルパール19Sの製造業者等について開発危険の抗弁が成立するか。 (争点5)(6) 損害の発生及びその額等(争点6) 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(被告悠香が製造業者等に該当するか。)について【原告らの主張】被告悠香は,以下のとおり,製造物責任法2条3項1号にいう「製造業者」あるいは,同項2号後段又は3号にいう「表示製造業者」又は「実質的製造 業者」に該当する。 ア製造業者該当性について製造物責任法2条3項1号にいう「製造物を業として製造,加工又は輸入した者」とは,製造物の企画,開発,設計,製作など一連の製造過程全てを観察し,製造物を製作した狭義の意味における製造業者のみならず,その企画,開発又は設計のみに関わった者も含むものと解される。 被告悠香は,本件石鹸を被告フェニックスと共同で企画し,成分組成も共同で確認するなど,共同で開発したものであること,被告悠香は,被告フェニックスとの間で単なる売買契約でなく,本件石鹸の 被告悠香は,本件石鹸を被告フェニックスと共同で企画し,成分組成も共同で確認するなど,共同で開発したものであること,被告悠香は,被告フェニックスとの間で単なる売買契約でなく,本件石鹸の製造委託契約等を締結しており,本件石鹸の製造過程全体に深く関与していたこと,平成20年には被告悠香が本件石鹸の生産態勢強化のために製造設備を新た に購入し,それを被告フェニックスに貸与することで増産するに至っていること等の事情によれば,被告悠香が本件石鹸の製造過程に関与した度合いが全般的かつ決定的なものであったことを裏付けており,被告悠香は同号に定める製造業者に該当する。 イ表示製造業者該当性について 表示製造業者も製造物責任を負うべき主体とされる趣旨は,信頼責任の観点から,自ら製造,加工又は輸入を行っていない場合であっても,製造物の表示全体からみて,社会通念上,製造業者と誤認させるような表示がされている場合には,購入者等の第三者からすれば,そのような表示をした者こそが当該製造物の製造業者と誤認し,信頼するのが一般的である以 上,製造物責任を負わせることが公平であるという点にある。そして,その表示は,現在,流通している製品の多くは,製品本体だけではなく,その付属品,容器,包装,使用説明書,保証書等多数の関連品から構成されているため,そうした関連品をも含めた形での製品の表示機能,関連品と製品本体との関係等を考慮して判断する必要がある。また,特に肩書を付 すことなく自己の氏名やブランド等を表示している場合には,誤認させる ような表示があると解すべきである。 この点,本件石鹸の本体には,特に肩書等が付されることなく,被告悠香の登録商標である「茶のしずく」のロゴ及び「茶の木」のデザインが は,誤認させる ような表示があると解すべきである。 この点,本件石鹸の本体には,特に肩書等が付されることなく,被告悠香の登録商標である「茶のしずく」のロゴ及び「茶の木」のデザインが表示されていること,付属品である「美肌へ導く「茶のしずく」洗顔法」と題するDVDの下段に「悠香」という商号が表示され,包装(パッケージ) についても,本体密封用の保護フィルム裏に貼付されたラベルには,上段に被告悠香の商標である「茶のしずく」という商品名が記載され,下段には一段と大きなフォントで「悠香」と印字されており,化粧箱正面には,「茶のしずく」,「悠香」と印字されている。他方で,パッケージ裏面には,確かに製造者として被告フェニックスの表示がなされているが,ごく小さ なフォントでなされているにすぎない。そもそも一般消費者は,常にパッケージの裏面を見るとは限らない上,本件石鹸は通信販売の形態によって販売されており,本件石鹸購入者は,購入前にパッケージの裏面を見ることはそもそも不可能である。実際に,本件石鹸にかかるテレビコマーシャルやウェブサイトにおいても,「茶のしずく」のロゴや「茶の木」のデザイ ンが表示された本件石鹸本体のみが示され,パッケージ等は示されず,製造業者が被告フェニックスであるとの情報は本件石鹸の購入者には提供されていない。 以上のとおり,本件石鹸本体,付属品及びパッケージ等の表示を総合的に評価すれば,被告悠香が本件石鹸の製造業者であると誤認させる表示が されていることは客観的に見て明らかであり,被告悠香は,少なくとも表示製造業者(同項2号後段)に該当する。 ウ実質的製造業者該当性について(ア) 被告悠香が,仮に製造には関与していなかったことを前提としても,被告悠香は,上 悠香は,少なくとも表示製造業者(同項2号後段)に該当する。 ウ実質的製造業者該当性について(ア) 被告悠香が,仮に製造には関与していなかったことを前提としても,被告悠香は,上記ア,イの事情に加え,以下に述べる「当該製造物の製 造,加工,輸入又は販売に係る形態その他の事情」からみて,製造物責 任法2条3項3号にいう「当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者」に該当する。 (イ) 考慮要素a 当該製造物の製造,加工に係る形態平成22年5月以前に被告悠香が本件石鹸につき販売元として記 載されていたのは,製造販売元との表記がされるようになった後においても被告フェニックスの工場における製造に変わりがないことからして,被告悠香が製造販売業の許可を取得していなかったからにすぎないこと,本件石鹸は鹿児島県産の無農薬茶葉の成分を使用した石鹸を製造販売したいとの被告悠香の提案に基づく製品であり,本件石 鹸の製造の初期段階から,被告悠香が茶の成分の抽出溶剤の変更等を指示するなどその設計に関与し,成分表を確認して製造されたものであったこと,同年9月のグルパール19SからプロモイスWG-SPへの成分変更も,専ら被告悠香からの指示に基づいたものであったこと,被告悠香自身が製造業者であることを前提とした営業・宣伝活動 を行ってきていること等からみて,本件石鹸の当初からの企画,製造について,被告悠香の相当な関与が窺われる。 b 本件石鹸の販売に係る形態平成14年10月頃から,被告フェニックスが被告悠香からの委託ないし指示に基づいて被告フェニックスの工場において本件石鹸を 製造し,被告悠香に対して独占的に本件石鹸の販売を行い,被告フェニック 成14年10月頃から,被告フェニックスが被告悠香からの委託ないし指示に基づいて被告フェニックスの工場において本件石鹸を 製造し,被告悠香に対して独占的に本件石鹸の販売を行い,被告フェニックスにおいて一般消費者に対して直接本件石鹸を販売したことはないのに対し,被告悠香は,被告フェニックスから納品を受けた本件石鹸を国内市場において一手販売をしてきたものである。また,被告悠香のテレビコマーシャル等において,洗顔料固形石鹸部門,洗顔 料お茶石鹸部門,洗顔料薬用石鹸部門及び洗顔料通信販売部門で売上 第1位と宣伝されていたように,被告悠香は,本件石鹸について,同種業界において高い販売シェアを誇っていた。 c その他の事情実質的製造業者該当性で検討すべき「その他の事情」とは,例えば,製品の製造等の実態,その製造物に付された全ての表示の内容や実態, 表示者の同種の製造物の製造業者としての社会的知名度等を含めた表示者の業実態に対する消費者の認識等を含む諸般の事情であるところ,本件石鹸の場合,被告悠香は「茶のしずく」という商標を登録するなど自ら本件石鹸のブランドを管理しており,しかも,著名芸能人を広告塔として起用し,テレビや全国紙等を媒体として本件石鹸を 自社製品として全国的かつ大々的に広告し,それにより,平成22年12月7日時点で,販売個数は少なくとも約4650万個,購入者数も約467万人に及ぶなど,社会的に極めて高い知名度,認知度を有していた。 (ウ) 上記した事情に照らせば,被告悠香は,単なる販売業者にとどまるも のではなく,まさに実質的製造業者に当たるというべきである。 【被告悠香の主張】ア被告悠香が販売した本件石鹸には3種類の重量(110g,60g,30g)のものがあると にとどまるも のではなく,まさに実質的製造業者に当たるというべきである。 【被告悠香の主張】ア被告悠香が販売した本件石鹸には3種類の重量(110g,60g,30g)のものがあるところ,110gのものについては平成22年5月13日以降,60gのものについては同月22日以降,本件石鹸の外箱等に 「製造販売元/株式会社悠香」とのみ表示されており,被告悠香が製造物責任法2条3項2号後段又は3号にいう「製造業者等」に該当することは争わない。しかし,以下のとおり,110gのものについては同月13日以前,60gのものについては同月22日以前に出荷,販売されたもの及び30gのものについては全販売期間のもの(以下「本件表示変更前の本 件石鹸」という。)につき,被告悠香は,「製造業者等」のいずれにも当た らない。 イ製造業者該当性について製造物責任法2条3項1号にいう「製造業者」に該当するのは,製造物の製造,加工又は輸入を行った者であり,単に製品の企画・開発に携わったにすぎず,実質的に製造に関与していない設計事業者等は,同号にいう 責任主体には含まれない。本件石鹸を製造していたのは,一貫して被告フェニックスであり,被告悠香は一切製造していないばかりか,被告悠香は本件石鹸の企画,開発にすら関与しておらず,製造業者に該当しないことは明らかである。 確かに,被告悠香の創業者らが茶成分を配合した石鹸を作ることを思い つき,開発者を探したところ,被告フェニックスにたどり着き,被告フェニックスにより平成14年頃に本件石鹸が誕生した(なお,当時は,「フェイスソープP」という名称であり,化粧品として届け出られていた。)との経緯は事実である。しかし,被告悠香の創業者らが茶成分を配合し ニックスにより平成14年頃に本件石鹸が誕生した(なお,当時は,「フェイスソープP」という名称であり,化粧品として届け出られていた。)との経緯は事実である。しかし,被告悠香の創業者らが茶成分を配合した石鹸を思いついたこと自体は単なる発案にすぎず,石鹸はおろか化粧品一般を 一切開発したことのなかった同創業者らが,企画書を提出する,配合成分につき指示を与え,決定するなど,本件石鹸の開発,製造過程に関与できるはずもなかった。そもそもかかる開発経緯は,被告悠香が設立される平成15年5月23日よりも前の出来事であるから,これをもって,被告悠香の行為とみなすことはできない。被告フェニックスは,被告悠香との間 での製造委託契約に基づき,本件石鹸を共同で製造していたと認識している旨主張するが,当該契約は,本件石鹸を含む数種類の製品についての継続的な売買契約にすぎず,本件石鹸は被告フェニックスにより企画,開発され,許認可の当事者も被告悠香が製造販売承認を取得するまで被告フェニックスであったのに対し,被告悠香が,本件石鹸の配合成分や仕様変更 につき指示や了解を与えたとの事実はなく,被告悠香を本件石鹸の共同製 造者と見ることはできない。 ウ表示製造業者該当性について製造物責任法2条3項2号後段に定める表示製造業者に該当するのは,自ら製造,加工又は輸入を行っていない場合にあっても,製造業者又は輸入業者として明らかにこれと誤認するような表示をした者であり,具体的 には,特に肩書を付すことなく自己の氏名・ブランド等を表示している場合である。このような者は,自ら製造,加工又は輸入を行っていなくとも,製造業者と明らかに誤認するような表示をすることを通じて,製造業者や輸入業者としての信頼を一般消費者に与えてお 等を表示している場合である。このような者は,自ら製造,加工又は輸入を行っていなくとも,製造業者と明らかに誤認するような表示をすることを通じて,製造業者や輸入業者としての信頼を一般消費者に与えており,そうした信頼を保護するという考え方から本法の責任主体とされている。 上記の趣旨に照らせば,製品上に,製造業者の肩書を付した別主体の表示がある場合には,当該製造業者として表示された者が製造業者として認識されるのであるから,同項2号後段の適用はほとんど考えられないことになる。ましてや,製造業者の表示とともに,販売業者が「発売元B社」のように,販売者としての肩書を付して表示されているのであれば,当該 販売業者がおよそ製造業者と誤認されるおそれはないはずである。また,本号及び3号の「表示」とは,あくまで製造物への表示を意味し,店頭のPOPやチラシ等における表示は含まれない。 本件石鹸のパッケージには,平成22年5月までは,「製造元/株式会社フェニックス」(平成14年法律第96号による改正後の薬事法(以下「改 正薬事法」ということがある。)施行前),又は,「製造販売元/株式会社フェニックス」(同施行後)と明記され,「株式会社悠香」の表示は,あくまで「発売元」と明記した上でのことであったから,上記の表示を見れば,製造しているのは被告フェニックスであり,被告悠香は販売業者にすぎないことが一見して明らかである。したがって,被告悠香が製造業者である と誤認される可能性はなく,被告悠香は「明らかに製造業者と誤認するよ うな表示」をした者ではなく,表示製造業者等に該当しない。 エ実質的製造業者該当性について(ア) そもそも製造物責任法が予定する原則的な責任主体は同法2条3項1号にいう「製造業者」である。 な表示」をした者ではなく,表示製造業者等に該当しない。 エ実質的製造業者該当性について(ア) そもそも製造物責任法が予定する原則的な責任主体は同法2条3項1号にいう「製造業者」である。その例外として,信頼責任の観点を重視して,同項2号及び3号の規定が認められており,これらの規定によ り「製造業者」でない者に製造業者性を認めるのであれば,その解釈は慎重にされなければならない。かかる規定の趣旨に反して,消費者保護の名のもと,責任主体の無限定な拡大解釈が許されるならば,製品を販売する企業は多大なリスクを抱えることになり,経済活動が阻害され,最終的には国民全体にとって損失となりかねない。 (イ) 本件のように,製造物たる本件石鹸のパッケージに,「発売元/株式会社悠香」のほか,「製造元/株式会社フェニックス」(改正薬事法施行前)又は「製造販売元/株式会社フェニックス」(同施行後)との表示がある場合,その製造業者が被告フェニックスであることは明らかであるから,販売者にすぎない者については,極めて例外的な事情が認められ る場合に限って,実質的製造業者に当たると解すべきである。 製品上に製造業者の表示がなく,販売業者の表示しかないような場合であれば,表示の他に一手販売を行っていた等の事情が加われば実質的製造業者と評価できようが,販売業者の表示とともに製造業者の表示がある場合,消費者が当該販売業者を製造業者と誤認する可能性は通常考 え難いから,それにもかかわらず販売業者が責任を負うというのは,例外的に,一手販売の事実のほか,販売業者が販売に先立って製造物の検査や製造物の小分けや包装を行っていること,製造業者や輸入業者との間において密接な業務提携や資本関係が存在すること等の特段の事情がある場合に,初めて実質的製造 か,販売業者が販売に先立って製造物の検査や製造物の小分けや包装を行っていること,製造業者や輸入業者との間において密接な業務提携や資本関係が存在すること等の特段の事情がある場合に,初めて実質的製造業者に当たるというべきである。 さらに,販売業者の行った表示の点でも,単なる名称・商標のみが表 示されている場合に比して,「発売元」のような販売業者としての肩書を付して表示されている場合の方が,販売業者が製造業者と誤認される可能性はより少なくなるといえる。したがって,製品上に,製造業者の表示とともに販売業者が「販売元」として販売者であることを明示して表示されている場合においては,一手販売の事実に加え,上記した製造物 の検査,小分けや包装などの製造に付随する過程に販売業者が関与するだけでは足りず,更に,こうした製造に付随する過程を主導し,しかも製造業者に対し,指示命令関係が認められるなどの極めて例外的な場合に限って,実質的製造業者性が認められるべきである。 そうすると,被告悠香は,確かに,本件石鹸を一手販売していたもの の,製造設備も検査設備も保持しておらず,出荷検査を行なっておらず,製品の小分け,包装等を行なっていたわけでもなく,被告フェニックスとの間に密接な業務提携,資本関係も存しない。また,被告悠香が販売している商品の種類は多いが,いずれも自らは製造していないのであり,同種の製造物の製造業者として社会に認知されているともいえない。し たがって,上記した要件に照らし,被告悠香を実質的製造業者ということはできない。 (2) 争点2(本件石鹸に欠陥があるか。)について【原告らの主張】ア原告らは,いずれも本件石鹸を通常予見される使用形態で使用したにも かかわらず,本件石鹸に起 できない。 (2) 争点2(本件石鹸に欠陥があるか。)について【原告らの主張】ア原告らは,いずれも本件石鹸を通常予見される使用形態で使用したにも かかわらず,本件石鹸に起因して深刻な小麦アレルギー等を内容とする本件アレルギーを発症し,その被害を被ったものであり,本件石鹸は,その成分配合を含む製品設計上,洗顔等に用いられる石鹸として通常有すべき安全性を欠いており,設計上の欠陥がある。 イ欠陥判断の枠組み 製造物責任法における「欠陥」とは,「当該製造物の特性,その通常予見 される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」(製造物責任法2条2項)をいう。 こうした欠陥の主張立証責任について,被害者側は,当該製造物について通常の用法に従って使用していたにもかかわらず,生命,身体若しくは 財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張立証すれば,当該製造物には欠陥が存することが事実上推認され,これに対して,製造業者側において,当該製造物が「通常有すべき安全性」を欠いていないことを根拠づける事情について積極的に反証する必要があるというべきである。また,被害者側は,上記した主張,立証を超えて,具体的に欠陥等を特定した上で, 欠陥を生じた原因,欠陥の科学的機序まで主張立証責任を負うものではない。 本件において,原告らは,①原告らが本件石鹸を通常の用法に従って使用していたこと(製品の通常使用)と②小麦アレルギー等の被害を及ぼす異常が発生したこと(製品起因性)を主張立証すれば足り,被告らにおい て,欠陥を否定する事情を反証すべきである。そして,医学的機序や石鹸の製 製品の通常使用)と②小麦アレルギー等の被害を及ぼす異常が発生したこと(製品起因性)を主張立証すれば足り,被告らにおい て,欠陥を否定する事情を反証すべきである。そして,医学的機序や石鹸の製法等の専門技術的な領域の詳細は,原告らが特定して主張立証責任を負うべき事実には含まれず,むしろ,これ以上の技術的な詳細については,製造業者等である被告らが欠陥原因のないことを具体的に特定して主張立証する責任を負う。 ウ本件石鹸につき欠陥が事実上推認されること本件石鹸は,石鹸本来の性能である身体の清浄の他,にきび,肌荒れの防止や美肌を目的とし,洗顔にも使用可能な医薬部外品たる薬用石鹸であり,その通常の使用方法は,これを泡立て,直接顔や身体に接触させ,顔や身体の汚れを落とすことにある。原告らは,本件石鹸の販売開始時点か ら平成23年頃にかけて,本件石鹸を自ら購入するか,知人から貰い受け るなどして,いずれも,毎日の洗顔や洗身等,その通常の使用方法に沿って使用をしていたところ,本件アレルギーを発症したものである。 本件アレルギーの具体的機序は原告らが主張立証責任を負うものではないが,日本アレルギー学会等の研究により,本件石鹸に起因する小麦アレルギーが多数発生しているという疫学的事実に基づく因果関係及び本 件石鹸に含有されるグルパール19S(なお,グルパール19Sは,平成9年4月から平成22年8月まで,被告片山化学から被告フェニックスに納入されていた間,製法,組成等に変化がなかった。)が,本件石鹸使用時に,使用者の皮膚や粘膜等を通じて体内に入り感作され(経皮・経粘膜感作),まずは加水分解コムギに対するアレルギーを獲得し,ひいては交差反 応により,食物アレルギーとしての小麦アレルギーを引き起 に,使用者の皮膚や粘膜等を通じて体内に入り感作され(経皮・経粘膜感作),まずは加水分解コムギに対するアレルギーを獲得し,ひいては交差反 応により,食物アレルギーとしての小麦アレルギーを引き起こすという臨床的知見に基づく発生機序が明らかとなっている。そして,本件石鹸使用に起因する小麦アレルギーであるかの医学的診断方法については,診断基準が策定されており,原告らは,いずれも上記基準を満たすものと診断されているのだから,本件石鹸の使用により本件アレルギーを発症したこと は明らかである。 以上によれば,原告らは,①本件石鹸を通常の用法に従って使用していたところ,②これによって本件アレルギーの発症という異常が発生したということができるから,上記イの欠陥判断の枠組みに照らせば,本件石鹸には欠陥があることが事実上推認される。 エ他の考慮要素及び被告らの主張に対する反論上記のとおり,本件石鹸には欠陥の存在が推認されるが,欠陥判断に際して考慮されるべきその他の事情及び被告らへの反論は,以下のとおりである。 (ア) 本件石鹸の製造物としての特性 a 効用又は有用性 本件石鹸は,洗顔にも身体の清浄にも使用可能な医薬部外品たる薬用石鹸として,被告悠香及び被告フェニックスにより製造,販売されたものであるところ,製品のパッケージ(外箱)には,効能ないし効果として「皮膚の清浄,にきび・肌荒れを防ぎます。」との記載,美肌成分として「無農薬栽培茶葉使用」との記載がされ,広告宣伝上「も っちり泡」等と称する泡立ちの良さが強調されていた。実際に,本件石鹸の効用又は有用性については,通常の洗顔石鹸以上にどのような内容,程度のものであるか定かではないが,少なくとも,医薬品のよう っちり泡」等と称する泡立ちの良さが強調されていた。実際に,本件石鹸の効用又は有用性については,通常の洗顔石鹸以上にどのような内容,程度のものであるか定かではないが,少なくとも,医薬品のような高度の効用等があるわけではなく,本件石鹸を使用できなかったとしても,そのことにより健康状態が損なわれたり,日常生活に支障 が生じたりするようなものではない。本件石鹸は,その効用・有用性ゆえに使用者において何がしかの危険性の存在を引き受けなければならないような製造物ではあり得ない。 b 指示ないし警告の有無及び内容本件石鹸の包装等には,肌に異常が生じた場合に本件石鹸の使用を 中止するよう促す使用上の注意が記載されているが,本件アレルギーにかかる皮膚症状が発症した時点では,既にグルパール19Sによる感作が成立しているのだから,上記の注意書きに従ったとしても,本件アレルギーの発症を防止することはできない。 また,本件アレルギーの典型的な症状は,小麦含有食品を摂取後の 軽度の運動負荷等により生じる食物アレルギー症状であるところ,現に,本件アレルギー被害に遭った被害者の多くが,本件石鹸の使用が原因であると分からないまま,アレルギー症状の恐怖と不安に脅えた生活を続けていたことからも明らかなように,本件石鹸の使用者らが本件石鹸の使用によって被害を生じたと認識すること自体,そもそも 不可能に近く,上記の注意書き等の指示ないし警告としての有効性は 甚だ疑問である。 さらに,上記の注意表示は,化粧品かぶれ等の接触皮膚炎を想定したものであり,本件アレルギー被害のような食物アレルギー(Ⅰ型アレルギー)を想定したものではないし,本件石鹸の使用継続による本件アレルギーの発症や,増悪に対する注意喚起の趣旨を含まな 皮膚炎を想定したものであり,本件アレルギー被害のような食物アレルギー(Ⅰ型アレルギー)を想定したものではないし,本件石鹸の使用継続による本件アレルギーの発症や,増悪に対する注意喚起の趣旨を含まないとい うべきである。 以上によれば,本件石鹸に表示された指示ないし警告により本件アレルギーへの罹患を避けたり,症状の悪化を避けたりすることは不可能であったというほかなく,こうした適切な指示ないし警告がなかったことも本件石鹸の欠陥を肯定する事情である。 (イ) 通常予見される使用形態本件石鹸は,洗顔にも身体の洗浄にも使用可能な医薬部外品たる薬用石鹸である。したがって,その通常の用法は,本件石鹸を泡立て,直接顔や身体に接触させ,これに含有されている成分によって顔や身体の汚れを落とすという洗顔ないし身体の洗浄であり,皮膚のみならず目や鼻 等の粘膜にも本件石鹸の成分が直接触れることも予定されている。そして,洗顔,洗身用の石鹸という特性上,日常的に使用すること,及び美肌や肌荒れ防止等の効用を得るために,毎日,複数回使用することも当然に予定されているものである。 すると,原告らを含む本件アレルギーの被害者らは,いずれも,上記 した通常予見される使用方法の範囲において,本件石鹸を用いて洗顔,洗身等をしていたにもかかわらず,その配合成分であるグルパール19Sに対し,経皮,経粘膜的な感作が成立し,本件アレルギーに罹患したものである。 原告らが,本件石鹸を「通常予見される使用形態」によって使用した にもかかわらず,本件アレルギーに罹患したということは,いうまでも なく製品自体に欠陥が存在したことを裏付けており,かかる事情は,本件石鹸の欠陥を考える上で重要な事情である た にもかかわらず,本件アレルギーに罹患したということは,いうまでも なく製品自体に欠陥が存在したことを裏付けており,かかる事情は,本件石鹸の欠陥を考える上で重要な事情である。 (ウ) 本件アレルギーによる被害の重大性及び本件石鹸の危険性前記のとおり,現時点までに,本件アレルギーについて,本件石鹸に含まれていたグルパール19Sが,その使用により,使用者の経皮,経 粘膜的な感作が成立し,その後,小麦やグルテンの経口摂取により,グルパール19Sに対する特異的IgEが小麦やグルテンに交差反応し,アレルギー症状を発症するとの発生機序が明らかになっている。そして,本件アレルギーは,運動依存性が低いことを特徴とする運動誘発型の小麦アレルギーであり,小麦摂取後に,眼瞼や顔面の腫れといった皮膚症 状のみならず,全身性の症状及び呼吸困難や下痢嘔吐といった多臓器にわたる種々の症状を併発するアナフィラキシーを生じさせ,時には,生命に関わるアナフィラキシーショックという重篤な症状を生じることもあるものである。かかる症状は,化粧品が肌に合わないことで生じる肌のかぶれ等とは比較できないものである。そして,原告らは,本件ア レルギーを発症した後,その原因がわからないために度々,上記の症状を引き起こし,多大な苦痛を味わいつつ,不安な日々を過ごさざるを得なかった。また,原因が本件石鹸であると判明した後であっても,本件アレルギーを根治させる治療法がない以上,小麦の摂取を制限した日々を強いられており,そのために社会生活及び家庭生活上の様々な支障, 苦痛を現在まで被った。さらに,日本アレルギー学会によっても本件石鹸の使用中止後,5年を経過しても60%以上の患者は略治(治癒ではない。)にすら至らないとされ 活及び家庭生活上の様々な支障, 苦痛を現在まで被った。さらに,日本アレルギー学会によっても本件石鹸の使用中止後,5年を経過しても60%以上の患者は略治(治癒ではない。)にすら至らないとされていること,新規治療法とされるオマリズマブ(商品名は「ゾレア」である。)の投薬も副作用等の危険性を伴う不確定な治療法であり,これを積極的に考慮することはできないこと,血 中の特異的IgE抗体値が陰性化したとしても症状を発現することが ないと評価することはできないことなどの事情に鑑みれば,本件アレルギーの被害は,現在のみならず将来においても継続していくものである。 以上のような本件アレルギー被害の深刻さを考えれば,その程度は,洗顔等に用いる石鹸の使用によって生じるものとして社会通念上許される被害などではおよそあり得ず,本件石鹸が洗顔等に用いる石鹸とし て,製造物としての通常有すべき安全性が欠いていること,すなわち本件石鹸に欠陥があることは明らかである。 (エ) 引き渡した時期における社会通念等a 被告らは,本件アレルギーの発症率が小さいことなどをもって,本件石鹸の危険性を否定するが,上記した本件アレルギーによる被害の 深刻さを考えれば,発生数や発生確率が少ない,あるいは低いからといってその欠陥を否定する事情ということはできず,1例であったとしてもそのような被害を発生させる洗顔用石鹸の存在が許容されるものではないというべきである。 仮に,発生数及び発生確率を考慮するとしても,本件石鹸は,数千 人規模の非常に多数の(少なくとも決して少数,低確率などと言うことは許されないレベルの)被害者を生じさせ,また,大々的な製品回収といった社会を揺るがす大規模な製品事故をもたらしたものであって, 人規模の非常に多数の(少なくとも決して少数,低確率などと言うことは許されないレベルの)被害者を生じさせ,また,大々的な製品回収といった社会を揺るがす大規模な製品事故をもたらしたものであって,単なる化粧品による肌荒れ被害の事案とは全く異なっている。 b また,本件アレルギーを引き起こす原因物質とされるグルパール1 9Sは,石鹸のひび割れ防止や泡の性質の改良のために配合されたにすぎず,もとより洗顔等に用いる石鹸の製造のために必要不可欠な成分などではない。事実,被告悠香は,本件アレルギーによる被害が明らかとなって以降の「茶のしずく石鹸」の製造のために,直ちにグルパール19Sの配合使用を止めて代替成分への変更を行っており,こ のことからも分かるように,本件石鹸の製造販売当時において,技術 的にも費用的にも,本件アレルギーを引き起こさないような製品を製造(代替設計)することは,容易に可能であったことは明らかである。 c 本件石鹸を含む洗顔用石鹸は,近時開発された新規製品ではなく,古くから長年にわたって,老若男女を問わず,我々の生活に必要な生活用品として日常的に使用されてきた製品である。そして,洗顔用石 鹸が日常品として使われ始めた当初から本件石鹸の引渡し時期までの間,そして,現在に至るまで,一般に,日用品として用いられる洗顔用石鹸の使用により,本件アレルギーのような重篤な健康被害が生じることが社会通念上やむを得ないと考えられていたなどということはなく,本件石鹸の引渡し時においても,上記の深刻な被害の発生 を許容する社会通念など何ら存在しなかった。 このことは,製品の有用性を踏まえても同様である。グルパール19Sを配合することで得られる本件石鹸の効用や有効性は洗顔に適したもっちり 害の発生 を許容する社会通念など何ら存在しなかった。 このことは,製品の有用性を踏まえても同様である。グルパール19Sを配合することで得られる本件石鹸の効用や有効性は洗顔に適したもっちりとした泡立ちを実現するという程度のものにとどまるのに対して,かかる効用なるものと引き換えに,消費者において本件 アレルギー発症の危険性をやむを得ないものとして甘受すべきとする社会通念は存在しないというべきである。現に,本件石鹸は販売中止となり自主回収されている上,厚生労働省はじめ行政による対策が実施され,また,業界全体としても本件アレルギー被害を踏まえた対応がなされるなど,本件製品事故は重大な社会問題となっており,こ のような経緯を踏まえれば,本件アレルギーを引き起こす本件石鹸は,消費者が期待する安全性を欠いていたというにとどまらず,業界の常識等を含む社会通念一般に照らしても,通常有すべき安全性を欠くと評価されるべき製造物であったことは明らかである。 オ小括 以上のとおり,本件アレルギーは,本件石鹸について通常想定される使 用者が,通常予見される使用形態によって使用したことによりもたらされたものであり,そのことのみで本件石鹸には欠陥が推認されるものであるが,加えて,本件石鹸及びその配合成分であったグルパール19Sの効用や有用性は医薬品に代表される高度なものではなかったこと,本件石鹸の注意表示等によっては,本件アレルギー発症,増悪を防止することは期待 できず,適切な指示ないし警告があったとはいえないこと,その引渡し時期においても本件製品事故に係る重篤な被害の発生は社会的に許容されていなかった反面,被告らによって危険性のない製品を代替設計することは容易に可能であったこと等を鑑みれば,本 えないこと,その引渡し時期においても本件製品事故に係る重篤な被害の発生は社会的に許容されていなかった反面,被告らによって危険性のない製品を代替設計することは容易に可能であったこと等を鑑みれば,本件石鹸は洗顔等に用いられる石鹸として通常有すべき安全性を欠いており,欠陥があったというべきで ある。 【被告悠香の主張】アアレルギーの本質を踏まえた本件石鹸の欠陥の有無及び欠陥との因果関係の有無について本件石鹸により原告らに生じた被害は,本件アレルギーの発症であると ころ,本件石鹸の欠陥を考えるに当たっては,かかるアレルギー疾患の特性を十分に考慮する必要がある。 そもそもアレルギーとは,身体にとって有用又は無害な異物が侵入したにもかかわらず,誤って過剰な免疫反応が働き,自らの身体を傷つけるなどの不要な反応をしてしまうことをいう。人間の身体には,細菌やウイル スなどの病原体の侵入から体を守る免疫機能があるところ,これは一度体内に侵入した病原体の型を体が記憶し,再度,同じ病原体が侵入した場合に反応を起こし,疾患の発症を未然に防ぐという作用であるが,時に,かかる免疫が有害な病原体ではなく,本来,有用又は無害な異物(食物等)にまで過敏に作用してしまい,誤って自らの体を傷つけてしまうことがあ り,これがアレルギーである。したがって,アレルギーという場合,それ は,①もともと身体にとって有用又は無害な異物に対する反応であること,及び②免疫反応が過剰に働いたことによるバイスタンダー(まきぞえ)効果により,本来体を守るべき免疫作用がかえって体を傷つけてしまうという点に本質がある。本件石鹸には,身体に有害な物質は何ら含まれておらず,アレルギー反応を生じ得る過剰な免疫状態にない大多数の通常人にと 本来体を守るべき免疫作用がかえって体を傷つけてしまうという点に本質がある。本件石鹸には,身体に有害な物質は何ら含まれておらず,アレルギー反応を生じ得る過剰な免疫状態にない大多数の通常人にと っては,何ら被害を及ぼさない安全な製品である。そして,原告らは,本件アレルギーの原因物質,すなわちアレルゲンを特定して主張しているにすぎず,原告らが本件アレルギーを発症した原因,つまり,本来無害な特定の物質が,特定の者に対してなぜアレルギー(及びアレルギー症状の前提条件である感作状態)を引き起こすのかにつき,何ら主張立証をしてい ない。なお,この点に関しては,医学的な定説は未だ認められておらず,現時点においてアレルギー患者における遺伝的要因と環境的要因の2要因が強く示唆されているに留まっている。 以上のとおり,もともと身体にとって有毒な異物を含有する食品を摂取したことにより身体に傷害を与えたというような事案とは異なり,本件石 鹸について,これを原因とするアレルギー被害の発生をもって欠陥があるというには,アレルギーは身体にとって有用又は無害な物に対して誤って過剰な免疫反応が引き起こされた状態であるから,かかる意味での有用又は無害な物を配合するにすぎない本件石鹸になぜ欠陥があるといえるか,また誤って過剰に引き起こされた免疫反応はそのような体質を有する本 件石鹸の使用者側の事情であり,本件石鹸それ自体に内在する性質とは無関係であるにもかかわらず,その点について製造業者等がなぜ,法的責任を負わなければならないのかについて,原告らは主張立証を尽くさなければならない。しかしながら,原告らは,本件石鹸に内在する危険とは無関係なアレルゲン(グルパール19S)を特定して主張しているにすぎず, 本件石鹸の使用により本件アレルギーがなぜ を尽くさなければならない。しかしながら,原告らは,本件石鹸に内在する危険とは無関係なアレルゲン(グルパール19S)を特定して主張しているにすぎず, 本件石鹸の使用により本件アレルギーがなぜ生じたのかの原因を説明し ない。 アレルゲンは,化粧品等の化学製品だけでなく,自然界に存在する植物,動物,金属等広範に及んでいるところ,仮に,人の皮膚にある製品が接触したことによってアレルギー性皮膚炎が生じた場合にその製品に欠陥があるのだとすると,時計やアクセサリーなどの金属製品をはじめ,世の中 のあらゆる製品が欠陥を有するとの不当な結果になりかねない。 そして,上記したアレルギーの本質に照らせば,アレルギーは製品ではなくその使用者の体質,素因等により引き起こされる疾患であるから,原告らが本件石鹸の使用によりアレルギー被害という損害を被ったのだとしても,本件石鹸の欠陥との間に因果関係も認められない。 イ医薬部外品及び化粧品に関する欠陥の判断基準について製造物責任法における「欠陥」の判断は,当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を総合的に考慮した上で,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いているといえるか否かの判断であって,本件において, 原告らのいうような事実上の推認を働かせる余地はない。 アレルギーは特定の人に生じる特定の物質に対する免疫過剰反応であって,人間は自然界に存在する全ての物質に対してアレルギー反応を生じ得ることからすれば,およそすべての人間にとってアレルギー反応を結果として引き起こす可能性がない化粧品又は医薬部外品は考えられず,アレ ルギー反応を引き起こす可能性があることは,化粧品又は医薬部外品 とからすれば,およそすべての人間にとってアレルギー反応を結果として引き起こす可能性がない化粧品又は医薬部外品は考えられず,アレ ルギー反応を引き起こす可能性があることは,化粧品又は医薬部外品の使用に元来,不可避な危険性であるというべきである。この点,製造物責任法の立案段階において開催された国民生活審議会においても,「医薬部外品,化粧品による皮膚トラブル等については,消費者の特異な体質,体調と相まって生じる場合があり,一概にこれを欠陥とすることは適当でない」 との意見が出されており,同様の考え方が妥当とされている。 したがって,本件石鹸を含む化粧品や医薬部外品の使用によりアレルギー被害が生じたのだとしても,それをもって直ちに当該製造物に欠陥があると考えることはできない。 ウ本件石鹸は通常有すべき安全性を欠いていないこと。 以下に述べる事情を考慮すれば,本件石鹸は製品として通常有すべき安 全性を欠いているということはできず,また,原告らのアレルギー被害と本件石鹸の欠陥との間に因果関係もない。 (ア) 十分な指示ないし警告が付されていたこと。 本件石鹸の使用に伴ってアレルギー被害が発生しただけでは直ちに欠陥があるということはできないが,アレルギー被害をもたらす危険性 を適切に指示又は警告文言として表記していなければ,(指示ないし警告上の)欠陥が認められる可能性は否定できない。 しかし,本件石鹸においては外箱において「お肌に異常があるとき,お肌に合わない時はご使用をお止めください。」,「使用中,赤み,かゆみ,刺激等の異常が出た場合は,使用を中止し皮膚科専門医へご相談くださ い。」等と表記し,また,包装紙においても「お肌に合わないときはご使用をおやめください。」等と指示ないし警告 ,赤み,かゆみ,刺激等の異常が出た場合は,使用を中止し皮膚科専門医へご相談くださ い。」等と表記し,また,包装紙においても「お肌に合わないときはご使用をおやめください。」等と指示ないし警告していたものである。上記したアレルギーの本質に照らせば,本件石鹸の使用により,どの消費者に対して,どのような機序で小麦アレルギー反応が生じるのかについて,製品を製造,販売する被告らにおいて予め具体的に見通すことは困難で あり,それは本件石鹸を継続使用した結果,初めて判明するものであること,本件石鹸によるアレルギー症状は,本件石鹸の継続使用により発生し,かつ,その初期症状は石鹸使用時の目や皮膚の痒み,鼻炎等から始まるのが典型例であったから,上記の指示警告文言に従って目の異物感や皮膚のかゆみ等が発生した時点で石鹸の使用継続を中止すれば,被 害の発生拡大を防ぐことができたといえることからすると,上記した指 示警告を行うことで被害の拡大防止を消費者らに委ねることは合理的であり,また,その注意喚起は必要十分なものであったといえる。かかる指示ないし警告が存在した以上,本件石鹸の使用に伴いアレルギー反応が発生したとしても,本件石鹸に欠陥があったということはできない。 (イ) アレルギーの発症率等に照らしても本件石鹸に欠陥はないこと。 a 本件アレルギーの発症率やその被害の程度をみても,以下に述べるとおり,本件アレルギーの発症率は極めて低値であり,また,本件石鹸の使用により偶々本件アレルギーを生じたとしても,その症状は早期に回復,治癒する可能性のあるものということができることからすれば,本件石鹸が通常有すべき安全性を欠いていたとは認められない。 b 本件石鹸使用者における本件アレルギーの 状は早期に回復,治癒する可能性のあるものということができることからすれば,本件石鹸が通常有すべき安全性を欠いていたとは認められない。 b 本件石鹸使用者における本件アレルギーの発症率被告悠香の顧客名簿に登録されている者は約467万人であり,実際に本件石鹸を使用したことがある者は少なくとも約560万人であると推測される。そして,平成24年11月20日時点において本件アレルギーであるとの確定診断を受けた者は1675人というこ とであるから,本件石鹸を使用したことがある者のうち,本件アレルギーを発症した者の割合は,約0.03%にとどまり,極めて低い数値である。 この点,我が国の製造物責任法が米国における議論状況も参照して立法されたとの経緯や,製品により生じる危険を社会全体でどの程度 許容するかに関して,地域差や国による差が生じるとは考え難いことからすれば,米国法における議論が参考になると考えられるところ,米国の判例においては,アレルゲンについて「不当に危険である」として製造物責任を問うには,発生割合が少なくとも0.1%を上回ることが必要であるとされている。これを参照すれば,本件石鹸におけ る本件アレルギーの発症率に照らせば,本件石鹸は「不当に危険」と はいえないから,製造物責任を問うことはできない。 これに対し,製品の危険性を考えるに当たっては,アレルギーの発症数の多寡を考慮要素とするのは,適切ではない。アレルギーの発症数は,当該製品の使用者数が多くなれば多くなるほど当然増大することになるが,それにより本件石鹸の使用に伴う危険性が増大するとい うことはできないからである。特に,本件石鹸は類似の製品と比較しても稀に見るほどの爆発的なヒット商品となり, るほど当然増大することになるが,それにより本件石鹸の使用に伴う危険性が増大するとい うことはできないからである。特に,本件石鹸は類似の製品と比較しても稀に見るほどの爆発的なヒット商品となり,その販売数が多かったが故にアレルギー発症者の数も多く見えるところ,発症数の多寡をもって欠陥を判断することになれば,それは単に多数の被害者に対する救済をいかに図るべきかという行政判断を行うに等しく,あくまで 製品が通常有するべき安全性を欠いているかを要件とする法の趣旨に悖る。 c 本件アレルギーの回復可能性本件アレルギーは,本件石鹸の使用を中止することにより被害が回復する傾向があることも顕著に認められている。本件アレルギーの予 後として,各種の知見によれば遅くとも平成25年11月時点において,その被害が回復,治癒傾向にあることは明らかにされており,実際に大多数の被害者が,同時点までに特段の問題なく小麦の摂取を再開できていた。これによれば,更に早期の時点で食事制限や行動制限等は皆無となっていたものと考えられる。 (ウ) 欠陥を否定すべき他の事情についてa 本件アレルギーの発生原因について本件アレルギーが発症する原因については,特定の遺伝子の存在が強い影響を与えた可能性(遺伝的要因)が示唆されるものの,依然として不明なままである。このように,アレルギー発症の原因が解明さ れていないにもかかわらず,その被害につき製造業者等に責任を負わ せることがあるとすれば,それは被害救済という美名のもとに,製造業者等に対して結果責任を強いるものに他ならず,かかる解釈は,法の趣旨に反して,事業者の創業意欲を奪い,もって,国民経済の健全な発展を著しく妨げるものである。 は被害救済という美名のもとに,製造業者等に対して結果責任を強いるものに他ならず,かかる解釈は,法の趣旨に反して,事業者の創業意欲を奪い,もって,国民経済の健全な発展を著しく妨げるものである。 製品によるアレルギー事故については,特別立法による基金設置等 により被害救済が図られるべきものである。 b 本件石鹸の引渡し時期における知見本件アレルギーの機序については,徐々に解明されつつあるが,本件石鹸を引き渡した時期における知見をもとにする限り,小麦成分をどのように加工し,またどの程度まで分解すれば経皮経粘膜感作を通 じて本件アレルギーを発症させることになるのか,また,経皮経粘膜感作の成立によって,小麦製品との間においても交差反応が生じるのかといったことについての正確な医学的知見は存在しておらず,現時点においても不明である。 c 本件石鹸は規制に完全に適合していること。 本件石鹸は,被告フェニックスが厚生労働省の定める当時の薬事法上の所定の手続に則って適切に承認手続を経て製造販売したものであり,かかる点もまた本件石鹸に欠陥がないことを裏付けるものである。安全規制への適合,不適合は,規制対象製品の事故に関わる損害賠償責任を論じる際にも重要な考慮事情とされる。 d 本件石鹸の効用及び社会的有用性本件石鹸を初めとする化粧品は,主として美容,容貌の変化等の目的という自己実現の目的のために使用される製品であり,歴史的,文化的,社会的において客観的な意義を有するものである。現代では,延命治療と同等に,QOLを優先する価値観も尊重されるべきであり, 時には化粧品はQOLを高める自己実現の有効な道具であり,その使 用する者の自尊感情と不可分一体であるから,本件石鹸には医薬品に準ずる有用性を認め 値観も尊重されるべきであり, 時には化粧品はQOLを高める自己実現の有効な道具であり,その使 用する者の自尊感情と不可分一体であるから,本件石鹸には医薬品に準ずる有用性を認めるべきである。 【被告フェニックスの主張】ア本件石鹸における欠陥の判断枠組み(ア) 原告らは,本件石鹸を通常の使用方法によって使用したにもかかわら ず,本件アレルギー被害という異常な事態が生じたことをもって,本件石鹸には欠陥が存在することが事実上推定され,原告らにおいて具体的な欠陥原因までを特定する必要はない旨主張する。確かに,個別具体の製品の特性や事案の性質いかんによっては,欠陥の存在を事実上推認すべき場合があることは否めないが,かかる推認はいかなる事案において も常に妥当するものではない。医薬部外品や化粧品は,本来的に,アレルギー反応を引き起こす危険性を内在した製品であって,本件石鹸の製品としての性質及び石鹸使用によるアレルギー被害の発生という本件事案の性質に照らせば,本件石鹸につき,原告らの主張するような事実上の推認を働かせることはできない。したがって,原告らは本件石鹸に 欠陥があったと主張するのであれば,その内容を具体的に特定する必要がある。 (イ) 製造物責任法にいう欠陥とは,同法2条2項に掲げられた諸般の事情を総合考慮して決せられるものであるから,本件において,本件石鹸が通常有すべき安全性を欠いているか否か,すなわち欠陥があるか否かに ついては,法の文言に即して,本件石鹸の特性,通常予見される使用形態,本件石鹸を引き渡した時期その他の本件石鹸に係る事情を総合考慮して判断される必要がある。より具体的には,①本件石鹸の特性,②本件アレルギーに係る被害の程度及び被害発生の蓋然 通常予見される使用形態,本件石鹸を引き渡した時期その他の本件石鹸に係る事情を総合考慮して判断される必要がある。より具体的には,①本件石鹸の特性,②本件アレルギーに係る被害の程度及び被害発生の蓋然性,③本件石鹸の引渡し時期における科学技術水準,④本件石鹸の表示並びに⑤本件石鹸の 効用及び社会的有用性を総合考慮する必要がある。そして,以下に述べ る上記要素を総合考慮すれば,本件石鹸は通常有すべき安全性を欠いているとはいえず,欠陥はない。 イ本件石鹸の欠陥判断に関する考慮要素(ア) 本件石鹸の特性現在においても,アレルギー一般の発症に係る医学的機序,アレルゲ ンとなり得る物質や交差反応が生じる範囲はいまだ解明されたとはいい難い。およそ全ての製品使用者との関係で,アレルゲンとなり得る成分を予め全て認識し,これを排除することは技術的に不可能である。また,アレルギー症状は,毒性物質の様に使用する全ての人に発生するものではなく,非毒性物質に対してある特定の人についてのみ生じる不利 益な作用であり,やはり毒性物質のように予め排除することは不可能である。それゆえ,本件石鹸のような人の皮膚などの生体に直接接触させて使用することを前提とする化粧品又は医薬部外品に属する製品には不可避的にアレルギー発症の危険性が内在しているといわざるを得ない。このように,本件石鹸のような化粧品又は医薬部外品には不可避的 にアレルギー発症の危険性が内在していること及びアレルギー被害の特殊性に鑑みれば,本件石鹸のような化粧品や医薬部外品において単発的にアレルギー被害が発生したとしても,そのことのみをもって直ちに欠陥があると評価されることにはならない。 以上を前提に,本件石鹸を含む化粧品又は医薬部外品について,アレ や医薬部外品において単発的にアレルギー被害が発生したとしても,そのことのみをもって直ちに欠陥があると評価されることにはならない。 以上を前提に,本件石鹸を含む化粧品又は医薬部外品について,アレ ルゲンを含有しているとして製品に欠陥があると評価されるためには,問題となるアレルゲンと他のアレルゲンとの間に危険性の程度につき有意的な差異があること,より具体的には,当該アレルゲンによるアレルギー被害が他のアレルゲンによるアレルギー被害と比較して,①その被害の程度において重篤なものであり,かつ,②被害発生の蓋然性にお いて発症率が高いものであることが立証される必要があるというべき である。 (イ) 本件アレルギーに係る被害の程度及び被害発生の蓋然性a 被害の程度本件アレルギーは,医学的には,通常の小麦アレルギーとは異なり,実際に治癒し得るアレルギーである。すなわち,本件アレルギーに関 しては,現在までに,専門家医師の多くの臨床研究やその後の症例報告等によって,大多数のケースでは,本件石鹸の使用を中止することで,小麦及びグルテンのIgE抗体値が陰性化し,その後,徐々に小麦含有製品を摂取することができるようになっていることが判明している。また,近時のオマリズマブの臨床研究によれば,オマリズマ ブを継続使用することにより難治性の患者であっても治癒寛解することが判明している。症状の寛解に要する期間は,個々人で区々であることからすれば,現時点でまだ小麦含有製品を摂取することにより症状が生じる被害者であっても,将来的に小麦含有製品を摂取することができる可能性は十分にある。 また,本件アレルギー発症者の全てにおいてアナフィラキシーショックという重篤な症状 状が生じる被害者であっても,将来的に小麦含有製品を摂取することができる可能性は十分にある。 また,本件アレルギー発症者の全てにおいてアナフィラキシーショックという重篤な症状が発生している訳ではなく,全症例のうちショック症状を呈したのは25%にとどまる。 b 被害発生の蓋然性本件石鹸の全購入者のうち,本件アレルギーを発症した者の割合は 約0.03%にとどまっており,本件アレルギーと同種のアレルギーである通常の小麦アレルギーの有病率が0.21%であることに比べると,本件アレルギーの発症率の方が相対的に低い。また,本件アレルギーと同類型の即時型アレルギーであるアトピー性皮膚炎の20~30歳代の有病率は約9%であり,この点でも本件アレルギーの発 症率の方が相対的に低い。 c このように,本件石鹸によるアレルギーの発症率は他のアレルギーと比較して低値であり,症状の程度も重篤とはいえず,回復し得るものであることは,欠陥を否定すべき重要な要素である。 (ウ) 本件石鹸の引渡し時期における科学技術水準製造物の欠陥の有無の判断に際しては,当該製造物の引渡し時におけ る当該製造物の性能,安全性等に対する社会の通念,常識等が考慮され,さらに,その背景にあるその当時の実用的な科学技術水準に照らした被害防止措置の技術的実現可能性も考慮要素となる。 a 本件石鹸の行政上の規制への適合,安全性確認の実施⒜ 本件石鹸は,薬事法に基づく製造業又は製造販売業の許可(改正 薬事法12条1項。同法は平成17年4月1日に施行された。)を得た上で,平成16年3月からは化粧品として,平成17年6月からは,医薬部外品として個別品目に く製造業又は製造販売業の許可(改正 薬事法12条1項。同法は平成17年4月1日に施行された。)を得た上で,平成16年3月からは化粧品として,平成17年6月からは,医薬部外品として個別品目について製造承認(薬事法14条)を得ており,行政規制上,適法に製造し,販売されていたものである。 薬事法上,医薬部外品等の製造販売に課される個別品目に関する承認手続においては,実際に製造販売される製品の品質,有効性,安定性及び安全性等に関する事項が適当であるかが審査される(薬事法14条3項,薬事法施行規則40条)ところ,かかる審査基準は当時の科学技術に照らして作成された社会生活上も相当な基準 であり,当時の安全性の水準の基準となるべきものである。本件石鹸が安全性の審査を内容とする上記法規制に適合した製品であることは,本件石鹸が通常有すべき安全性を備えていたことを裏付ける有力な事情である。 ⒝ 本件石鹸の製造承認申請に当たり,被告フェニックスは,本件石 鹸を用いて,合計15名に対して24時間クローズドパッチテスト を実施し,皮膚に対する刺激性の有無を検査したが,いずれも塗布部には紅斑ないし浮腫等の異常は確認されず,また,第三者である株式会社消費化学研究所に対して,本件石鹸を使用して,10名の女性に対して,初期,10日後,20日後及び30日後の合計4回にわたり,本件石鹸の使用前後の皮膚の状態を経時的に確認したが, アレルギー症状を疑わせる炎症反応等は確認されなかった。 かかる安全確認は,厚生労働省が当時の科学的知見に基づいて定めた各種安全性試験の種類及び内容と同等以上の水準のものであった。 b グルパール19Sの安全性 ⒜ 本件石鹸の引渡し当 は,厚生労働省が当時の科学的知見に基づいて定めた各種安全性試験の種類及び内容と同等以上の水準のものであった。 b グルパール19Sの安全性 ⒜ 本件石鹸の引渡し当時,コムギたんぱく商品は20年以上化粧品に使用され,国際的な販売実績があること,1億個の商品に対してアレルギー症状が10件以下(工場での粉末吸入,アレルギー患者のかぶれ等)であることなどが知られており,加水分解コムギ末自体は極めて安全な成分であると市場において認識されていた。 ⒝ 本件石鹸にグルパール19Sを配合することを決定する前の時点で,グルパール19Sは医薬部外品への使用前例(承認前例)があり,また,これを配合する化粧品について製造承認の申請中であった。 医薬部外品の製造承認の申請では,配合成分について,公定書に 記載されていない新規成分を原材料として使用する場合には安全性試験の結果(いわゆる別紙規格と呼ばれるもの。)の添付が求められるが,これに代わるものとして製造承認を受けた類似の化粧品又は医薬部外品の原材料としての使用前例(承認前例)がある場合には,当該成分の安全性試験の結果の添付を省略することができる。 したがって,使用前例(承認前例)が存在するということは,当該 成分が安全性試験を経たものと同様の安全性を有することを意味している。 グルパール19Sは,厚生省(厚生労働省)が定めた公定書である「化粧品原料基準外成分規格1993追補」(平成6年3月18日薬審第193号厚生省薬務局審査課長通知。以下「粧外規1993 追補」という。)及び「医薬部外品原料規格2006」(平成18年3月31日薬食発第0331030号厚生労働省医薬食品局長通知。以下「外原規20 号厚生省薬務局審査課長通知。以下「粧外規1993 追補」という。)及び「医薬部外品原料規格2006」(平成18年3月31日薬食発第0331030号厚生労働省医薬食品局長通知。以下「外原規2006」という。)等に収載されている成分である加水分解コムギ末と規格において同一の成分である。ある成分が外原規2006等の公定書に収載される場合,厚生労働省により, あらかじめ薬事法施行規則40条1項3号に従って定められた9項目の安全性の検査を経た成分として現実に承認された実績が一定数あり,実際に市場における相当期間にわたり問題がなかったという使用前例(承認前例)があることの確認が行われるから,外原規2006等の公定書に収載されていることは,当該成分の安全性 に対する信頼が確立していることを意味している。そして,グルパール19Sがかかる外原規2006等の公定書に収載された原料と規格において同一であることは,これが安全であることを意味している。 前述のとおり,製造承認の実務上,外原規2006等の公定書に 収載された成分と相当ないし適合する成分を原料として使用する場合には,安全性の試験結果に係る諸資料の添付が不要とされていた。本件石鹸の製造許可承認に際しても,グルパール19Sが外原規2006等の公定書に収載された加水分解コムギ末と同一性を有する成分であるとして申請を行ったところ,これが認められ,改 めてグルパール19Sの安全性等に関する試験結果の添付は不要 と判断されたものである。 ⒞ 被告片山化学の対応被告片山化学は被告フェニックスに対し,一貫して,グルパール19Sは安全な成分であるという情報提供を技術資料等の提出を通じて行っており,安全性に注意すべき点がある旨の指摘を の対応被告片山化学は被告フェニックスに対し,一貫して,グルパール19Sは安全な成分であるという情報提供を技術資料等の提出を通じて行っており,安全性に注意すべき点がある旨の指摘を行った ことは一度もなかった。 なお,被告片山化学は,本訴に至り,自ら安全性確認を行ったことはない旨主張するが,他のメーカーと比べても,原材料メーカーとしてあるまじき態度である。また,被告片山化学は,本件石鹸においてアレルギー被害が生じたのは,本件石鹸の製造過程における グルパール19Sの配合割合や他の成分との配合結果に問題があるために生じたものであり,被告フェニックスらの誤使用に起因する旨主張するが,現時点で,本件アレルギーは,グルパール19Sの製造工程自体(酸加水分解によるグルテン分子中のグルタミン残基の脱アミド化)にその抗原性増強の契機があったことが解明され るに至っており,かかる主張は失当である。さらに,被告片山化学は,被告フェニックスが本件石鹸を開発する際に,被告フェニックスと協議する過程でグルパール19Sの仕様等を変更しており,グルパール19Sは純粋な汎用品でもない。 c 代替設計の可能性 欠陥の有無を判断する上で,当時の実用的な科学技術の水準に照らして,合理的な代替設計によって危険性除去又は軽減措置をなし得たか否かも重要な考慮要素となる。この際,単に,当該製造物の引渡し当時において,製造物の欠陥原因箇所に代わる設計が可能であったかを検討するのではなく,当該製造業者において代替設計が可能であっ たかを検討する必要があるというべきであり,具体的には,当時の同 種分野における科学技術水準に照らし,当該製造業者に欠陥の認識可能性がなければ,代替 おいて代替設計が可能であっ たかを検討する必要があるというべきであり,具体的には,当時の同 種分野における科学技術水準に照らし,当該製造業者に欠陥の認識可能性がなければ,代替設計を行うことも不可能であったというべきである。 本件について見ると,そもそも小麦由来の成分をどのように加工,分解すれば,経皮的又は経粘膜的に感作が成立するのかということや, どのような成分との間で交差反応を生じるかということに関する正確な医学的知見は,本件石鹸の引渡し当時のみならず,現時点においても存在しない。そして,本件石鹸は行政上の製造承認を得て適法に製造,販売されたものであった上,薬事法上,医薬部外品に含有される成分の安全性試験において,即時型アレルギーに関する試験項目は なく,本件石鹸の使用開始時期から本件アレルギー症状の発症時期までは,最短でも1か月,長い場合は5年もの期間の経過を要するとされているところ,本件アレルギー症状の発症を適時に確認するために必要な動物実験は,世界的に禁止又は縮小の傾向にある一方,その他感作性に関する代替的な検査方法は十分に確立されていなかった。そ うすると,本件石鹸の引渡し当時の科学技術水準に照らして,被告フェニックスにおいて本件石鹸に本件アレルギーを引き起こす何らかの危険性があるか否かを認識することは困難であった。したがって,被告フェニックスにおいて,本件石鹸の引渡し当時,本件アレルギーを回避する代替設計を実施することは不可能であり,このことは,本 件石鹸の欠陥の有無を判断する際の重要な要素として考慮されなければならない。 (エ) 本件石鹸の表示本件石鹸の発売当初から,その外箱及び包装紙の双方に,グルパール19Sを含む全成分の表示をし を判断する際の重要な要素として考慮されなければならない。 (エ) 本件石鹸の表示本件石鹸の発売当初から,その外箱及び包装紙の双方に,グルパール19Sを含む全成分の表示をした上,本件石鹸の使用により皮膚に異常 が認められた場合の使用中止を求める注意表示を記載していた。本件石 鹸に記載した注意表示は日本化粧品工業連合会(以下「粧工連」ということがある。)の自主基準においても推奨されていた表記例であり,適切な内容である。実際に,本件アレルギーの初期症状として目や皮膚の単独症状が生じるため,その時点で上記注意表示に従って本件石鹸の使用を中止することで症状の重篤化を回避することができたのであるから, 被告フェニックスの行った上記注意表示は,症状の重篤化を回避するため適切なものであった。本件当時の石鹸製造業者の認識水準に照らすと,被告フェニックスには,小麦アレルギー発症の危険性についての予測可能性がないのだから,それに対応した注意表示を行うことは不可能であり,本件アレルギー発症そのものの危険についての表示義務は存在しな かったというべきである。 (オ) 本件石鹸の効用及び社会的有用性a 石鹸には,一般に,身体の表皮等を清潔に保ち,疾患から守る機能がある上,本件石鹸は,人の健康及び環境に対して悪影響を与えず,かつ,茶カテキンが含まれる茶葉を配合することによる抗菌作用,抗 酸化作用及び消臭作用を有し,保湿性,起泡性にも優れているから,その効用,社会的有用性は大きい。実際に,本件石鹸は,総販売個数4650万個という,爆発的に販売された商品であり,多くの消費者にスキンケア商品として有用な商品として評価されていたことは明らかである。 b そして,グル 本件石鹸は,総販売個数4650万個という,爆発的に販売された商品であり,多くの消費者にスキンケア商品として有用な商品として評価されていたことは明らかである。 b そして,グルパール19Sが属する加水分解コムギ末は,保湿性,起泡性等に優れ,かつ,天然由来の成分であるため,環境負荷が小さいという点で社会的有用性が高く,このことから,外原規2006等に収載され,食品のほか,化粧品など多様な製品の原材料として広く使用されてきた経緯がある。グルパール19S自体も,食品用途で十 分な使用実績があるほか,化粧品用途としても推奨されていたもので あり,泡の改質剤として優れた効用があった。 c このような本件石鹸の効用及び有用性は,本件石鹸の欠陥の有無を判断する上で,適切に考慮される必要がある。 (3) 争点3(本件石鹸の製造業者等について開発危険の抗弁が成立するか。)について 【被告悠香の主張】ア開発危険の抗弁の適用の当否製造物責任法の立法経緯に鑑みれば,同法4条1号所定の開発危険の抗弁は,製造業者に開発危険についてまで責任を負わせると,研究,開発及び技術開発が阻害され,ひいては消費者の実質的な利益をも損なうことに なりかねないことから,当該欠陥が開発危険に相当することを製造業者が立証したときには製造業者を免責することとした趣旨である。このような趣旨からすれば,本件石鹸を含む化粧品の分野において本抗弁の適用を制限する理由は全くない。開発危険の抗弁の適用範囲が制限される旨の原告らの主張は,かかる立法趣旨や文言にも反して本抗弁の適用を不当に制限 しようとするものであり,失当である。 イ 「科学又は技術に関する知見」の意義欠陥の認 限される旨の原告らの主張は,かかる立法趣旨や文言にも反して本抗弁の適用を不当に制限 しようとするものであり,失当である。 イ 「科学又は技術に関する知見」の意義欠陥の認識可能性に関する「科学又は技術に関する知見」とは,当該製造物の引渡し時において,科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて,当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立され た知識の全てをいい,客観的に社会に存在する知識の総体に組み入れられたものであることを要する。この点,欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識というには,製造物責任法の立法当時の議論を参照しても,単に特定の一学者が唱えているだけでは足りないし,内容面でも十分な検証がされていなければ,当該知見をして確立したものと 評価することはできない。特に,本件で問題となる生物学,医学の分野に おける知見の確立は,数例の症例報告から始まり,原因の探求,治療法の探究等の過程を経てなされるものであるところ,検証対象の個体差や特異体質が実験結果等に与える影響等も考慮すると,一般に知見の確立には相当の時間を要するものであり,更にそれまでの通説的知見に相反する知見が新たに確立するためには,実証的な研究による裏付けや相当数の学者に よる支持を要するというべきである。また,知見が記載された文献の性質についても,単なる症例報告から学術雑誌に掲載された学術論文まで多様なものがあるが,このうち,症例報告については,他者による十分な検証を受けたものではなく,個体差や特異体質等による影響を排除できないものであり,かかる症例報告に記載があるからといって直ちに当該知見が確 立したということはできない。裁判所は,当該分野における研究の進捗状況,学 く,個体差や特異体質等による影響を排除できないものであり,かかる症例報告に記載があるからといって直ちに当該知見が確 立したということはできない。裁判所は,当該分野における研究の進捗状況,学説の状況,証拠として提出された文献の性質やエビデンスレベル等を踏まえ,それぞれが確立された知見といえるか否かを慎重に判断しなければならない。 原告らは,教科書,雑誌又は研究報告書等の形で客観的に存在さえして いれば,広く開発危険の抗弁の関する基礎資料に組み込むことができる旨主張するが,これは上記のとおり,医学分野における研究の進捗状況や文献の性質といった特性等を無視したものであること,そもそも症例報告は,医学的なエビデンスレベルが低い(効果推定が不確実である)とされていることからすれば,本件においておよそ客観的に存在さえしていればその ような知見は広く判断材料に組み込むことができるという主張は採り得ない。 ウ認識可能性について(ア) 判断基準について問題となった欠陥の存在を直接に裏付ける知見が存しなくとも,製造 物の引渡し当時に確立していた複数の知見を組み合わせ,またそこから ある事柄を類推することで,欠陥を認識できたのか否かを論じることはできる。しかし,欠陥判断の基礎資料として取り込まれる科学又は技術に関する知見には初歩的な知識から最高水準の知識までの全てが含まれるとしても,開発危険の抗弁が裁判規範であるとともに,製造業者等に対する行為規範であることにも照らせば,欠陥を認識できなかったの かの判断基準は,被告となった個々の企業を基準とするのではなく,当該製造物と同種の製造物を製造する製造業者にとって欠陥を具体的に認識することができたか否かという基準を用いるべきであると ったの かの判断基準は,被告となった個々の企業を基準とするのではなく,当該製造物と同種の製造物を製造する製造業者にとって欠陥を具体的に認識することができたか否かという基準を用いるべきであると解される。 原告らは,欠陥の認識可能性については抽象的なもので足りる旨主張 するが,これでは開発危険の抗弁が行為規範としての性格を有することを無視し,製造業者に結果責任を負わせるに等しく,法の趣旨に反するというべきである。 (イ) 認識可能性の対象について原告らの主張する本件石鹸の欠陥の内容は判然としないが,これまで アレルギーの既往がない多数の使用者に対して,経皮的ないし経粘膜的に感作し,その後経口摂取した天然小麦と交差反応により重篤な症状を呈する本件アレルギーの抗原となったグルパール19Sを配合していることをもって,本件石鹸に欠陥があると主張するようである。したがって,欠陥に係る原告らの主張の要点は,①これまでアレルギーの既往 がなかった者が,本件石鹸を使用することによって,本件石鹸に含有されていた加水分解コムギ(グルパール19S)に経皮的ないし経粘膜的に感作すること,②その後,交差反応性を持つ天然小麦を含有する食品を経口摂取することによって,アレルギー症状を呈すること,③しかも,その被害者は多数に上り,かつ,その被害の程度は重篤であること,と 整理することができ,これが開発危険の抗弁における認識対象と解され る。 すると,本件石鹸の引渡し時において,被告悠香は,入手可能な世界最高の科学技術水準の知見をもってしても,本件石鹸における上記①ないし③の危険性を認識することはできなかった。 エ本件石鹸の危険性を認識できなかったことについて 悠香は,入手可能な世界最高の科学技術水準の知見をもってしても,本件石鹸における上記①ないし③の危険性を認識することはできなかった。 エ本件石鹸の危険性を認識できなかったことについて (ア) 本件石鹸に含まれる加水分解コムギによって経皮的,経粘膜的感作が生じることは認識できなかったこと。 a そもそも皮膚や粘膜は体内外の物質を隔てるバリアとしての機能を有している。皮膚は,表皮,真皮及び皮下組織が重なり合うことで構成され,身体内部を様々な外部環境から守っているところ,このう ち表皮の最も外側においては,10数層以上の角質が積み重なることによって形成される角質層が存在し,更に角質層の下層に存在する表皮細胞は細胞同士がしっかりと結びつけられたシール構造となっており,皮膚は二重のバリア構造を有している。なお,石鹸には界面活性剤が含まれているが,これにより除去されるのは角質表面の油脂成 分や垢のみであり,角質層そのものが破壊されるわけではない。この点に関し,平成12年にいわゆる500Daルールが提唱され,本件石鹸の引渡し当時,かかる見解が皮膚科学,アレルギー学の分野において広く受け入れられていた。これは,皮膚のバリア構造に照らし,分子量が500を超える物質は,薬剤であれ,アレルゲンであれ,通 常の皮膚を透過することができないという見解である。そして,本件アレルギーの抗原となった物質は,グルパール19Sのうち分子量が約2万以上のものであるとの見解が示されている。上記知見に照らせば,本件石鹸の引渡し当時において,グルパール19Sが経皮的又は経粘膜的に感作するということは,世界最高水準の科学技術的知見を もってしても,認識することができなかったというべきである。 時において,グルパール19Sが経皮的又は経粘膜的に感作するということは,世界最高水準の科学技術的知見を もってしても,認識することができなかったというべきである。 原告らがグルパール19Sに経皮的,経粘膜的に感作した理由は現時点でも定かではないが,平成23年になって,慶應義塾大学医学部皮膚科の久保亮治医師(以下「久保医師」という。)らの研究報告において,抗原認識細胞(ランゲルハンス細胞)が細胞間の接着因子に作用し,角質層最下層まで進出し得ること,角質層最下層まで到達した 物質を細胞内に取り込むといった内容の見解が提唱された。これは,物質が皮膚内部に進入するのではなく,抗原認識細胞が角質層最下層まで進出し,角質層最下層までたどり着いた物質を抗原として認識するというものであり,分子量500以上の物質についても,経皮又は経粘膜的感作が起こり得ることを理論的に裏付けるものである。つま り,分子量500を超える物質に経皮又は経粘膜的感作が生じるという知見は,上記の見解が発表され,また本件が問題となって1000例を超す事例が集積された後である平成23年5月以降,初めて確立したものということができる。 b 原告らの主張に対する反論 原告らは,欧州での数例の症例報告をもって,グルパール19Sの経皮感作の可能性を認識できた旨主張するが,それらはいずれもⅠ型アレルギーの抗原となる分子量の大きな物質が,皮膚ないし粘膜を透過する可能性があると述べるものではない。原告らが証拠として提出した症例報告のうち「化粧クリーム中の加水分解小麦に由来する即時 型接触アレルギー」と題する報告(甲B7の1・2。以下「甲B7の報告」という。)は,わずか1名の患者に関する報告である上,当該 した症例報告のうち「化粧クリーム中の加水分解小麦に由来する即時 型接触アレルギー」と題する報告(甲B7の1・2。以下「甲B7の報告」という。)は,わずか1名の患者に関する報告である上,当該製品を使用する以前から加水分解コムギに感作していた可能性を指摘しており,また感作経路も何ら特定されていない。また「化粧クリーム中の小麦加水分解タンパク質からのアレルギー性接触皮膚炎」と題 する報告(甲B8の1・2.以下「甲B8の報告」という。)は,刺激 性又はⅣ型アレルギーである接触性皮膚炎に関する報告であり,加水分解コムギの経皮感作に関する報告と読むことはできない。さらに「タンパク質由来製品を含む化粧品を塗布するのは安全か?」と題する報告(甲B9の1・2。以下「甲B9の報告」という。)についても,従来から加水分解コムギに感作していた1名の患者に関する報告に すぎず,アトピー素因を有していたというものである。そして,「加水分解小麦タンパク質:化粧品ならびに食品中の新たなアレルゲン」と題する報告(甲B10の1・2。以下「甲B10の報告」という。)に記載された症例は,患者らの素因が不明であり,以前から加水分解コムギに感作していた可能性がある事例である。このように,原告らの 指摘する症例報告は,まずもって,それが経皮感作に関する報告ということができるのかすら疑わしい。また,これらの症例報告を後視的にみれば,経皮感作の可能性を示唆していたとする余地はあるが,前述のとおり,そのような見解は,当時の通説的見解である500Daルールに相反すること,文献の性質も症例報告であり,内容の信用性 に疑義がないとはいえないことからすれば,上記の各症例報告を一般化して考えることはできない。したがって,これらの症例報告から,被 ールに相反すること,文献の性質も症例報告であり,内容の信用性 に疑義がないとはいえないことからすれば,上記の各症例報告を一般化して考えることはできない。したがって,これらの症例報告から,被告悠香が経皮感作の可能性を認識できたということはできない。 (イ) 加水分解コムギに感作した者が経口摂取した天然小麦との交差反応によってアレルギー症状を呈することは認識できなかったこと。 a 交差反応とは,ある抗体が,その抗原の産生反応を引き起こした原因である抗原以外の別の抗原に結合することをいう。Ⅰ型アレルギーにおいて,抗原Aに対するIgE抗体は,本来,抗原Aに対してのみ特異的に反応し,抗原Bに対して反応することはない。ところが,稀に抗原Aに対するIgE抗体が,別の抗原Bに対し反応することがあ り,これが交差反応である。このような交差反応に関する確たる知見 はなく,交差反応は,近縁の抗原間において起こることもあるが,花粉と豆乳のように全く関係のないものの間でも起き得るものであるし,豆腐と豆乳のような近縁の抗原間において必ずないし高い確率で起こるものでもない。そもそも人体に対し抗原となり得る物質は数百,数千にも及ぶことからすると,交差反応は実際に起こってみなければ わからない事象であり,その発生を事前に予見することなど不可能である。 b また,グルパール19Sを含む加水分解コムギは,天然小麦を構成するたんぱく質を酸処理,熱処理ないし酵素処理するなどしてアミノ酸配列を分解,再構築して作り出された物質であり,原料たる小麦由 来の成分とはいっても,その構造,性質は全く異なる物質である。例えば,牛乳アレルギーの乳児のため,乳たんぱく質を加水分解処理して抗原性を失わせたミルクが作ら された物質であり,原料たる小麦由 来の成分とはいっても,その構造,性質は全く異なる物質である。例えば,牛乳アレルギーの乳児のため,乳たんぱく質を加水分解処理して抗原性を失わせたミルクが作られるなど,加水分解を通して由来物質とは全く異なる物質(低アレルゲン化食品)が作られ,広く社会でも実用されている。このように,加水分解による分子構造の変容に照 らせば,加水分解コムギが小麦に由来するものであり,成分が近似していることから,その交差反応性を予見できたということもできない。 以上によれば,本件石鹸の引渡し時において,加水分解コムギが小麦に交差反応をするなどということは世界最高水準の知見をもってしても認識することはできなかった。 c 原告らの主張に対する反論原告らは,加水分解コムギを含んだ化粧品の使用により,加水分解コムギに対する感作が成立し,さらに,小麦粉等に対する特異的IgEが高い値を示すこともあるとの症例報告の存在から,本件石鹸の引渡し時において,交差反応の可能性を認識できた旨主張する。しかし, 原告らが主張の根拠とする症例報告は,加水分解コムギによる小麦へ の交差反応の可能性を直接示すものではない上に,患者数が少数であり,小麦アレルギーの既往を有していた可能性のある者に関するものである可能性があることに加え,「小麦粉に対する特異的IgEが,2例で陽性であった」とする一方,「未改質小麦粉に対しては陰性であった」等ともしており,その内容も不明確である。このような症例報告 から,加水分解コムギの小麦への交差反応性を読み取ることなど不可能というべきである。 本件石鹸の引渡し当時に存在した交差反応に関係する知見は,ラテックスに経皮感作 うな症例報告 から,加水分解コムギの小麦への交差反応性を読み取ることなど不可能というべきである。 本件石鹸の引渡し当時に存在した交差反応に関係する知見は,ラテックスに経皮感作した後,経口摂取したバナナやアボカドに交差反応を起こすラテックス・フルーツ症候群の存在,近縁の物質間では交差 反応を起こす確率が高いということ,加水分解処理によって作り出した物質と由来物質との間には,何らかの共通性が認められるということといった程度のものにとどまり,これらの知見を組み合わせることで,加水分解コムギによる小麦への交差反応性を具体的に認識することなど到底できなかった。原告らの主張は,抗原となり得る物質を含 んだ製品において,交差反応によるアレルギーが生じた場合に,製造業者は全ての交差反応について責任を負わなければならないというものであり,製造業者に結果責任を課すに等しい。 (ウ) 被害者は多数に上り,かつ,その被害の程度は重篤であることは認識できなかったこと。 本件発生後に専門家により研究が進められ,初めて被害の全容が判明したように,本件石鹸を使用した多数の者に重篤なアレルギー被害を生ぜしめるなどということは,誰もが予想不可能なことであった。 【被告フェニックスの主張】ア開発危険の抗弁の適用の有無について 開発危険の抗弁が認められる事例とは,先端の科学・医療技術等が問題 となる領域での事例や,製造販売時には判明していなかったが当初から内在していた副作用等がその後の科学技術により明らかになるといったように長期間の使用後初めて欠陥が明らかになる場合等が想定されるといわれている。この点,本件石鹸は,多種多様な化学物質を成分として生産される高度の化学製品であり,また,本件アレ 明らかになるといったように長期間の使用後初めて欠陥が明らかになる場合等が想定されるといわれている。この点,本件石鹸は,多種多様な化学物質を成分として生産される高度の化学製品であり,また,本件アレルギーは,本件石鹸の引渡 し時の科学又は技術に関する知見によっては認識し得なかった新たな抗原により感作が生じ,当初は皮膚障害等に留まっていたものが,その後の本件石鹸の使用継続後相当期間経過後に,突如としてその症状が発症する潜伏的性格を有する症状であるから,本件は,まさに開発危険の抗弁の適用が問題となる典型的な事例である。 開発危険の抗弁は,新製品の研究開発,技術革新が国民生活の安定向上と国民経済の発展に寄与するとの前提に立ち,科学技術の進歩を不当に阻害することのないようにとの視点から採用されたものであるところ,本件アレルギーの発生について製造業者等に責任を負わせることは,結果責任を肯定するに等しく,上記した法の趣旨に反し,不当である。 イ(ア) 認識可能性の対象開発危険の抗弁は,製造物に欠陥があることが認められて初めて問題となる抗弁であり,開発危険の抗弁を議論する前提として,「当該製造物の欠陥」が特定されていなければならないが,本訴において原告らは本件石鹸の欠陥を特定しておらず,開発危険の抗弁の対象が明確になって いないという問題点がある。 この点,被告フェニックスは,本件石鹸に欠陥があるというには,本件アレルギー被害が通常のアレルゲンによるアレルギーと比較して,被害の程度において重篤であり,かつ,被害発生の蓋然性において発症率が高いことの立証が必要となると考えるため,開発危険の抗弁を論ずる 上での前提となる本件石鹸の欠陥についても,本件アレルギーの被害が あり,かつ,被害発生の蓋然性において発症率が高いことの立証が必要となると考えるため,開発危険の抗弁を論ずる 上での前提となる本件石鹸の欠陥についても,本件アレルギーの被害が 通常のアレルゲンによるアレルギーと比較して,被害の程度において重篤であり,かつ,被害発生の蓋然性において発症率が高いといえるものであることと解する。 (イ) 認識可能性の基準時製造物責任法4条1号に定める「当該製造物をその製造業者等が引き 渡した時」とは,当該製造物が流通におかれた時点であるところ,本件石鹸が流通におかれた時点は平成16年3月である。 ウ参照すべき「科学又は技術に関する知見」の意義開発危険の抗弁の前提となる「知見」とは,科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて,当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受け る程度に確立された知識の全てをいい,それは,特定の者が有するものではなく客観的に社会に存在する知識の総体を指すものであって,当該製造物をその製造業者等が引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされる。また,入手可能な知見とは,特定の者の有する知見では足りず,教科書,雑誌,研究書等の形で,一般に公 表されていることが必要であるほか,知識,経験,実験等により裏付けられ,特定の科学・技術の分野において認知される程度に確立しているとまでは言えなくとも存立しているものであることは必要である。また,最高水準の知識とは,一般的に承認された客観的知識であり,かつ,一般的に利用できるものであることを必要とする。 アレルギーに関する医学知見は,まず生の症例報告レベルから始まり,症例の積み重ねとそれらを統一的に理解するための仮説の提唱が試 あり,かつ,一般的に利用できるものであることを必要とする。 アレルギーに関する医学知見は,まず生の症例報告レベルから始まり,症例の積み重ねとそれらを統一的に理解するための仮説の提唱が試みられ,その批判,再検証が繰り返されて,確立した知見が形成される。したがって,本件石鹸の引渡し当時には,仮説の端緒レベルの症例報告しかなかった場合,その後の科学技術の進歩による批判検証を踏まえて成立した 見解,学説を前提に,上記した仮説の端緒レベルの症例報告を解釈しては ならないという点に留意する必要がある。 エ本件石鹸の危険性を認識することはできなかったこと。 (ア) 本件石鹸引渡し時におけるアレルギーに関する知見食物アレルギーは,非毒性物質であるアレルゲンによる反応であるところ,アレルゲン自体はごく普通のたんぱく質であって(アレルゲンと なり得る物質には,社会生活において,食品用途のほか,工業的に加工され,多種多様な用途で用いられている。),その分子構造(エピトープや分子量)に共通した特徴はなく,現在においても,いかなる成分が,どのような機序で,特定の人に対してアレルゲンとして機能するかということについての明確な知見は存在せず,ある成分について感作が成立 した場合どのような範囲で交差反応が生じるかということも解明されていない。ある物質がアレルゲンとして機能するには,それ自体の構造や機能のほか,生体内への進入経路,暴露量,暴露の持続時間及びホスト側の遺伝的要因が密接に関わっている。 アレルギーに関するこれらの知見を前提にすると,そもそも被告フェ ニックスが本件石鹸の製造販売に先立ち,あらかじめアレルゲンとなり得る成分を特定した上,これらを事前に製造物から排除するという措置を執る に関するこれらの知見を前提にすると,そもそも被告フェ ニックスが本件石鹸の製造販売に先立ち,あらかじめアレルゲンとなり得る成分を特定した上,これらを事前に製造物から排除するという措置を執ることは,およそ不可能であった。 (イ) 本件アレルギーに関する知見こと本件アレルギーに即して述べても,本件アレルギーは,本件石鹸 使用時の皮膚障害にとどまらず,小麦含有食品を経口摂取することにより,食後の運動に誘発されて食物アレルギーを発症する点が特徴であるところ,本件石鹸の引渡し時である平成16年3月当時,経口食物アレルギーの感作経路としては,消化管等の経口感作(腸管膜感作)ルートが主体であり,経皮感作を通じて経口食物アレルギーが発症するとは考 えられておらず,医学的に経皮感作を通じて経口食物アレルギーが発症 する可能性を提唱したのは,平成20年の英国の小児科医ラックが初めてであり,それ以前にはかかる知見は存在していなかった。また,経皮感作に由来して食物アレルギーが発症する知見も存在していなかった。 本件アレルギーは,ω-5グリアジンや高分子量グルテニンに対して抗原反応を示さないなど,従来から知られていた小麦による食物依存性 運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)とは異なるアレルギーであることが判明するに至っているが,本件石鹸の引渡し時である平成16年3月時点で,石鹸を使用した者が,その配合成分である加水分解コムギ末に対するアレルギー性接触皮膚炎に留まらず,交差反応性の機序を介して,食物アレルギーとしての経口小麦アレルギーを発症することを指 摘した医学文献は,世界中を見ても存在していなかった。その後,現在までに研究が進められる中で,ようやく平成26年になって,本件アレルギーについては,グル 経口小麦アレルギーを発症することを指 摘した医学文献は,世界中を見ても存在していなかった。その後,現在までに研究が進められる中で,ようやく平成26年になって,本件アレルギーについては,グルパール19Sの製造工程自体(酸加水分解によるグルテン分子中のグルタミン残基の脱アミド化)にその抗原性増強の契機があったとの程度には解明に至っているが,未だ全容は不明である。 (ウ) 小麦加水分解物に関する知見そして,上記のとおり,通常の小麦アレルギーとは全く異なる型のエピトープを有する抗原による本件アレルギーは,独自の加水分解の仕方及び工程により産出された高分子量の抗原性たんぱく質であるグルパール19Sに由来するとの可能性が示されているが,本件石鹸の引渡し 時である平成16年3月時には,上記の生産工程による高分子量のたんぱく質が,皮膚の角質を通過して皮膚内において感作を引き起こすことはないとも考えられていた。 高分子量のたんぱく質が感作性リスクの高いものであることは,本件アレルギー被害の発生後,国立医薬品食品衛生研究所で行われた試験等 により初めて裏付けられ,厚生労働省は,平成29年3月30日に至っ て,かかる安全性確認の結果を添付するよう外原規2006の一部改正に至っている。同様の知見は,他のEUやアメリカ合衆国でも平成26年以降になって初めて認知されるに至ったものである。 (エ) 検査方法に関する知見及びその限界本件石鹸の欠陥を基礎付けるアレルギー被害の重大性及び発生頻度 の高さを認識することが可能であったというためには,かかるアレルギーを引き起こす抗原に関する安全性試験を行い,その被害の重大性及び被害発生の頻度を事前に測定できたことが必要となるところ,本件石鹸の引渡し を認識することが可能であったというためには,かかるアレルギーを引き起こす抗原に関する安全性試験を行い,その被害の重大性及び被害発生の頻度を事前に測定できたことが必要となるところ,本件石鹸の引渡し時において,世界最高水準の安全性検査によっても,上記の危険性等を認識することは不可能であった。当時の世界最高水準であった 経済協力開発機構(OECD)のガイドラインに依拠して粧工連が定めた安全性検査の基準や,欧州共同体(EC)や,欧米の業界団体が定めていたガイドラインにおける安全性試験の方法においても,皮膚上における感作及びアレルギー症状発生の有無を確認するにすぎないものであり,また,限られた人数について,長くても1か月程度の期間で行わ れるものであるという点で限界があった上 ,仮に,検査によって一部の者に軽微な皮膚障害が認められたとしても,それだけで直ちに安全性を欠くと判断されるものではないところ,本件アレルギーは発症率約0. 03%と極めて低値であり,また長期間の潜伏期間があるという事情の下では,本件石鹸の引渡し時である平成16年3月当時に,上記の検査 を行うだけでは,本件石鹸の危険性を認識することはできなかった。また,当時,世界的に動物実験の実施についても消極的な見解が占めるようになっており,これによりアレルギーに関する安全性を検査することにも限界があり,同様に本件石鹸の危険性を発見することはできなかった。 (オ) 以上の各知見によれば,平成16年3月時点で,被告フェニックスが 本件石鹸の原料として加水分解コムギ末であるグルパール19Sを使用するに当たり,その危険性を認識することはできなかったことは明らかである。 オ原告らの主張に対する反論(ア) 原告らは,本件石鹸引渡し当 分解コムギ末であるグルパール19Sを使用するに当たり,その危険性を認識することはできなかったことは明らかである。 オ原告らの主張に対する反論(ア) 原告らは,本件石鹸引渡し当時,加水分解コムギは経皮,経粘膜で感 作能を有するという知見が存在していたと主張するが,そのような知見は存在しない。また,食物アレルギーに関して感作能を有する分子量の知見やグルテンが感作能を有することに関する知見が存在したとしても,本件アレルギーは加水分解コムギによる経皮・経粘膜アレルギーであるから,機序等が大きく異なり,本件に妥当する知見であるというこ とはできない。 (イ) また,原告らは,本件石鹸の危険性を認識可能であったことを裏付ける資料として,欧州での複数の症例報告を指摘するが,これらはいずれも,化粧品中の加水分解コムギによる接触性蕁麻疹の症例や加水分解コムギの経口摂取による食物アレルギー発症の報告ではあるものの,交差 反応の発現の有無や範囲,症例数において本件アレルギーと異なっており,特に,いずれの症例でもパン等の小麦製品は問題なく摂取可能であり,経口小麦アレルギーを発症したという症例報告ではなく,本件アレルギーと同様の機序によるアレルギー症状の発症を指摘するものではない。 そもそも,原告らの指摘する各症例報告は,発症の機序及び原因について基礎研究として考察を加えたものではなく,後付け的な解釈をせずに,本件石鹸の引渡し当時の常識的な見解を踏まえて読み解く限り,そこから原告らが主張するような本件石鹸の危険性を認識することは不可能であった。例えば,甲B9の報告では,保存食品を食べた後に全身 性蕁麻疹を発症したとされているものの,感作が最初に生じた経路につ いては不明であるとさ 険性を認識することは不可能であった。例えば,甲B9の報告では,保存食品を食べた後に全身 性蕁麻疹を発症したとされているものの,感作が最初に生じた経路につ いては不明であるとされており,経皮感作により経口食物アレルギーを発症する具体的危険性を指摘する症例報告と理解することはできないし,甲B10の報告についても,改質グルテンに食物アレルギーがあり,化粧品に対するアレルギーが食物アレルギーに先行していたものと考えられると指摘されているものの,先行していたという指摘に留まり, 経皮感作により経口食物アレルギーを発症する具体的危険性を指摘する症例報告と理解することは到底できない。 【原告らの主張】ア開発危険の抗弁の適用範囲を制限すべきであること。 製造物責任法が立法された最大の意義は,製品の欠陥による事故が発生 した場合,民法上の不法行為に基づく過失責任の追及によっては必ずしも被害者の実効的な救済ができなかったことを踏まえ,欠陥責任を導入し,被害者救済を図った点にある。同法の条文の解釈,運用に当たっては,過失責任の欠陥責任への転換という上記した意義を損ねることがあってはならない。この点,開発危険の抗弁は欠陥の予見可能性を問題とするもの であり,本来,製品の客観的性状を問題とする欠陥責任の概念になじまないものであり,立法当時から,その論理的一貫性には疑義が呈されていた。 にもかわらず,開発危険の抗弁は,産業界の強い要望の下,政策的な観点から採用されたものにすぎないものであって,その適用に際しては上記の製造物責任法の立法意義を損なわないよう,厳格な解釈と運用が必要であ る。 開発危険の抗弁による製造業者等の免責を認めることは,未知の危険による事故が生じた場合にその損害を消費者 ては上記の製造物責任法の立法意義を損なわないよう,厳格な解釈と運用が必要であ る。 開発危険の抗弁による製造業者等の免責を認めることは,未知の危険による事故が生じた場合にその損害を消費者に転嫁するものであり,安易な免責が許されるとすれば,消費者が新製品開発の名の下に安全性が確認されることなく流通に置かれた製品を使用するなどして,モルモットとして の役割を与えられることにもつながる。開発危険の抗弁の適用の問題は, 未知の危険による事故が生じた場合に,その損害を誰に負担させるかという問題であり,立法時にも,製造業者等に賠償責任を課すか否かによって問題を解決するより,むしろ社会全体で損失を負担して被害者の救済を図ることが望ましいとの指摘もあったところである。他方で,開発危険の抗弁を認めなければ,技術革新の停滞等による不利益が消費者にも及ぶとの 主張もあり,製造物責任法の立法に当たり,開発危険の抗弁が導入された旨の説明がされることもある。そうすると,開発危険の抗弁は,当該製品による未知の危険により事故が生じた場合にその損害を社会全体で負担してもなお技術革新等を進めることが消費者及び社会全体にとって有用であると認められる製品や,開発危険について被害者を救済する社会的な 制度がない分野においては,当該製品による未知の危険により事故が生じた場合にその損害を被害者である消費者に負担させてもなお技術革新等を進めることが消費者及び社会全体にとって有用であると認められる製品においてのみ,極めて限定的に適用することが許されるというべきである。このように,開発危険の抗弁により免責をすることが許される製品と は,実際は,極めて有用性が高く,かつ製品開発時に高度の水準をもって安全性確認が尽くされていることをも考慮す というべきである。このように,開発危険の抗弁により免責をすることが許される製品と は,実際は,極めて有用性が高く,かつ製品開発時に高度の水準をもって安全性確認が尽くされていることをも考慮すれば,社会全体で損失を負担しても技術革新を進めることが許される余地があるとされる医薬品や最先端技術を駆使した製品に限られるというべきである。 これによれば,本件石鹸は,上記した医薬品やこれと同列に論じられる 化学製品等と同程度の社会的有用性を有し,また高度の安全性審査が尽くされたものとはいえないから,本件石鹸につき,被告らが開発危険の抗弁を主張すること自体許されないというべきである。 イ 「科学又は技術に関する知見」の意義上記アの趣旨に照らせば,開発危険の抗弁にいう欠陥の認識可能性は過 失判断における予見可能性と同様のものとして扱われることは許されず, その内容は厳格に解釈される必要がある。かつて我が国の薬害事件等では海外の症例の存在等を理由に過失責任が肯定されているが,開発危険の抗弁を論じるに当たってはそのような水準を下回ることは当然許されない。 なお,本抗弁の導入時に参照された欧州諸国では,実際に同抗弁が容れられた事例は皆無である。 同抗弁にいう欠陥を認識できなかったことを裏付ける「科学又は技術に関する知見」とは,広く当該科学技術の領域で利用可能な専門知識の総体を意味し,製造者の居住する国等に限定されることなく,世界的水準で考えられねばならず,およそ客観的に入手し得る限り,初歩的なものから最高水準のものまでの全ての知識,意見を含む,総体としての最高の科学又 は技術の水準と解釈しなければならない。 かかる「知見」は,他に影響を与える程度に確立されている必要があると説明されることが 水準のものまでの全ての知識,意見を含む,総体としての最高の科学又 は技術の水準と解釈しなければならない。 かかる「知見」は,他に影響を与える程度に確立されている必要があると説明されることがあるが,これは,社会に知見が存在することを求める趣旨のものであり,知識の確立の程度について基準を設けるような内容ではない。特定の者が頭の中で考えている段階の考え方までは含まないが, 教科書,雑誌又は研究報告書等の形でそのような知識が社会的に客観的に存在してさえいれば当該科学技術の領域で利用可能な専門知識ということはでき,そのような考え方,知識に対して学問的に異論が提起されていないとか,その詳細が科学的に証明されたものであることまでは必要ではない。 したがって,ある知識,見解が社会において抽象的に入手できる形になっていれば,他に影響を及ぼし得る程度の知識として広く「科学又は技術に関する知見」に該当し,被告悠香が述べるような学説としての確立等は不要である。原告らが指摘する知見はいずれも研究者の論文の形をとっているものであり,いずれも上記の「科学又は技術に関する知見」に当たる ことはいうまでもない。 ウ認識の対象と「認識できなかったこと」の意義(ア) 開発危険の抗弁が認められるには,上記した「科学又は技術に関する知見」をもってしても当該製造物に存する欠陥を認識することができなかったことを,被害者ではなく製造業者側において主張立証する必要がある。 具体的には,原告らではなく,被告らにおいて,①認識対象である本件石鹸の欠陥の内容を具体的に明示し,②当該欠陥を原因として発生した本件製品事故の態様,事故発生に至る機序等に応じ,本件石鹸の引渡し時にはなぜこれに上記の欠陥があることを認識するこ 認識対象である本件石鹸の欠陥の内容を具体的に明示し,②当該欠陥を原因として発生した本件製品事故の態様,事故発生に至る機序等に応じ,本件石鹸の引渡し時にはなぜこれに上記の欠陥があることを認識することができなかったのかに関する具体的事情を示した上で,この認識不可能性の事情を 証明することが可能な「科学又は技術に関する知見」の内容を明示的に主張し,当該知見を裏付ける科学論文等を証拠として提出して立証する必要があるというべきである。 (イ) そして,同抗弁における認識の対象はあくまで欠陥の存在であり,欠陥の科学的機序や損害発生に至る具体的機序自体は,立証命題ではなく, 仮に,欠陥の科学的機序や損害発生に至る具体的機序まで認識することができなかったのだとしても,当該製造物の欠陥を認識し得る可能性が存する限り,開発危険の抗弁は成立しないこととなる。 本件に即していえば,製造物に起因する身体被害(損害)を生じさせる医学的,科学的作用を認識し得る可能性があれば,欠陥の認識可能性 が認められ,開発危険の抗弁は成立しない。被告らは認識可能性を否定する知見を具体的,積極的に立証する必要がある。 (ウ) 「科学又は技術に関する知見」とは,初歩的なものから最高水準のものまでの全ての知見,知識の総体であるから,製造物の欠陥を直接的に示す知見に限られるものではなく,欠陥の認識を可能とする間接的な知 見をも含む。すなわち,様々な知見の組み合わせにより,当該欠陥を直 接認識できる場合はもちろんのこと,同種,類似の欠陥が認識できるといえる場合にも,開発危険の抗弁は成立しない。 被告悠香も,知見を組み合わせることが許されることは認めるが,その具体的な欠陥の認識可能性の判断につき,当該製造物と同種の製造業者 きるといえる場合にも,開発危険の抗弁は成立しない。 被告悠香も,知見を組み合わせることが許されることは認めるが,その具体的な欠陥の認識可能性の判断につき,当該製造物と同種の製造業者にとって,欠陥を具体的に認識できたかとの基準を用いるべきである と主張する。しかし,本抗弁において問題とされるのは,「科学技術の領域で利用可能な専門知識の総体」あるいは「入手し得る最高の科学又は技術の水準」における知見の組み合わせをもってしても,欠陥を「認識できなかった」といえるか否かであり,当該製造業者やそれと同レベルの製造業者の具体的な予見可能性を問題とすることは誤っている。被告 悠香の主張は,立法当時にまさに懸念された製造業者の予見可能性を持ちこむことになりかねず,本抗弁の趣旨を正しく理解しない独自の見解である。 エ本件石鹸の欠陥は認識し得るものであったことについて原告らは,欠陥の認識可能性を積極的に立証すべき立場にないが,以下 に述べる本件石鹸の引渡し当時の知見を総合すれば,本件石鹸の欠陥を認識できなかったということはなく,被告らのいう開発危険の抗弁が成立することはない。当時の知見によれば,むしろ被告らにおいて本件石鹸の欠陥の存在を容易に認識することも可能であったというべきであり,本件は被告らの過失責任すら肯定され得る事案である。 (ア) 免疫学の基礎的知識に照らした認識可能性の有無一般に,石鹸は界面活性剤を含むため,石鹸の使用により皮脂膜が分解され,古い角質が除去されることによって皮膚のバリア機能が破壊され,分子量が大きい物質でも皮膚から体内に侵入可能になることは古くから知られており,鼻粘膜を通過できる物質の大きさの上限は分子量4 万という知見もある。また,あらゆる 皮膚のバリア機能が破壊され,分子量が大きい物質でも皮膚から体内に侵入可能になることは古くから知られており,鼻粘膜を通過できる物質の大きさの上限は分子量4 万という知見もある。また,あらゆる物質がアレルゲンとなり得ること は被告らも認める知見である。そして,交差反応という作用自体は一般的に知られた現象であり,これは近縁の抗原間で起こるばかりではなく,関連の知られていない物質間でさえも起こるが,交差反応性の程度は分類学的な近縁関係の程度と一致しており,近縁な関係にあるほど強く交差反応するとされる。 これらを総合すれば,分子量の大きな物質であっても,経皮,経粘膜的に体内に侵入してアレルゲンの可能性となり,近縁の物質との間で交差反応を生じ得ることを認識し得るといえ,上記の基礎的な知見のみをもってしても,本件石鹸の欠陥を十分認識できたといえる。 (イ) 欧州に存在した症例報告等に照らした認識可能性の有無 a 本件アレルギーの機序は,本件石鹸を繰り返し使用することにより,同石鹸に含有されたグルパール19Sに由来する抗原が使用者の体内に経皮ないし経粘膜的に吸収され,体内にグルパール19Sに対する抗体が産生され,感作状態が生じた後,やがて経口摂取した小麦やグルテンに対しても交差反応を示すようになったというものである。 b 欧州での症例報告等欧州では,平成12年3月にもともとアトピー素因のなかった患者において,ボディークリームに含有された加水分解コムギによりIgE介在型のアレルギー性接触蕁麻疹を発症したとの症例が報告されており,同報告では患者の血清から加水分解コムギに対する特異的I gEが認められたとされている(甲B7の報告)。また,同年10月にも加水 型のアレルギー性接触蕁麻疹を発症したとの症例が報告されており,同報告では患者の血清から加水分解コムギに対する特異的I gEが認められたとされている(甲B7の報告)。また,同年10月にも加水分解コムギを含む保湿クリームを2年間使用していたという事例において,同様のアレルギーを生じたとの症例が報告されている(甲B8の報告)。これらの文献によれば,加水分解コムギは皮膚バリアに問題が無い者に対しても,経皮ないし経粘膜的に感作を生ぜしめ るという知見が存在したということができる。そして,上記の知見に よれば,直接的には加水分解コムギに対する経皮ないし経粘膜的感作が成立し得ることを裏付けるにすぎないが,加水分解コムギは小麦(グルテン)を分解して得られる小麦由来成分である以上,上記の知見だけでも,小麦に対しても交差反応を生ぜしめる可能性があると認識するには十分であったというべきである。 その上で,後に上記の仮説は以下に述べるとおり,現実に裏付けられた。平成14年2月には加水分解コムギが含まれる化粧品の使用により感作が生じた患者において,グルテンを含有する製品を食べた後に全身性蕁麻疹を生じたとの症例が報告され(甲B9の報告),平成16年3月にも,加水分解コムギにより接触蕁麻疹を発症した7人の女 性のうち,6人につき,改質グルテンを含む食品を摂取した後にアナフィラキシー反応を示し,また,小麦又はグルテンに対する特異的IgE抗体値が陽性であったとの症例も報告された(甲B10の報告)。 この点,小麦等に対する特異的IgE抗体値が陽性であったということはこれに対するアレルギーが成立していることを示すものである ところ,上記の各症例報告は,加水分解コムギに感作した後,小麦やグルテンに対しても反応を 特異的IgE抗体値が陽性であったということはこれに対するアレルギーが成立していることを示すものである ところ,上記の各症例報告は,加水分解コムギに感作した後,小麦やグルテンに対しても反応を生ぜしめることを実際に裏付ける知見であるということができる。 以上のとおり,本件石鹸の引渡し当時の世界最高水準の知見をもってすれば,本件石鹸の欠陥を認識することができなかったとは到底い うことができない。 (ウ) 被告悠香の主張を踏まえた反論等a 被告悠香は,開発危険の抗弁における認識対象を,大きく①グルパール19Sの身体(皮膚ないし粘膜)への感作性と②グルパール19Sと小麦又はグルテンとの交差反応性であると整理をし,当時の知見 によれば,①②の点を認識することはできなかった旨主張するが,仮 に,認識の対象を以上のとおりに設定したとしても,被告悠香の援用する知見はその内容が正確でないし,認識できなかったことを積極的に裏付ける知見を的確に主張立証するものでもなく,失当である。 b 経皮的,経粘膜的感作について被告悠香の依拠する500Daルールとは,薬剤等を製造する際の 指針として,有効成分を適切に浸透させるにはその分子量を500以下に抑えることが望ましいとする見解にすぎず,500以上の分子量を持つ小麦たんぱく質が体内に経皮又は経粘膜的に取り込まれるということはおよそありえないことを積極的に裏付ける知見ではない。 むしろ,上記の見解を示した論文自体において,分子量500を超え る成分が皮膚を浸透し得る例外の存在を指摘している。また,被告悠香が主張する久保医師らによる研究発表は,それ以前から知られていた経皮感作という現象に関し,その機序に いて,分子量500を超え る成分が皮膚を浸透し得る例外の存在を指摘している。また,被告悠香が主張する久保医師らによる研究発表は,それ以前から知られていた経皮感作という現象に関し,その機序に関する理論的可能性を示したにすぎず,同研究発表より以前に感作に関する知見が無かったことを裏付けるものではない。被告らにより,加水分解コムギが経皮ない し経粘膜的に感作し得ないことを積極的に基礎づける知見は何ら立証されておらず,かえって,化粧品等に含まれる加水分解コムギの経皮ないし経粘膜感作を裏付ける症例報告が欧州で相次いでされていたことは前述のとおりであり,これに加え,たんぱく質が経皮感作することで生じるラテックス・アレルギーの存在は古くから知られてい たのである。 c 交差反応性について被告らは,結局,交差反応は実際に起こってみて初めて分かる事象であり,事前にこれを予見することなどできないと主張するが,積極的に,本件石鹸に含まれたグルパール19Sに関して,およそ交差反 応を生じることはあり得ないことを基礎づける知見の存在は,全く主 張,立証されておらず,開発危険の抗弁の主張としては失当である。 むしろ,ラテックス・アレルゲンにより経皮感作が成立した後,ラテックスと交差抗原性を有するバナナやアボカドを経口摂取した際には,蕁麻疹等のみならず,時にはアナフィラキシーショックを起こすという,ラテックス・フルーツ症候群の存在が古くから知られていた など,ある抗原に対する経皮感作の成立後に経口摂取した別の食物に対して交差反応を生じるという知見は既に存在しており,前述した海外の症例報告も加水分解コムギの経皮粘膜感作の成立後に小麦に対する交差反応の可能性があることを裏付ける知見である。 摂取した別の食物に対して交差反応を生じるという知見は既に存在しており,前述した海外の症例報告も加水分解コムギの経皮粘膜感作の成立後に小麦に対する交差反応の可能性があることを裏付ける知見である。 被告悠香は,交差反応の仕組み等に関連し,小麦を酸処理及び熱処 理する過程での脱アミド化して生成されるグルパール19Sは,小麦やグルテンと全く異なる物質であるから,その間に交差反応が起こり得ることは認識できなかったとも主張するが,グルパール19Sに対する特異的IgEは,現に天然の小麦にもグルテンにも交差反応を示しており,このことのみからしても,加水分解コムギと小麦,グルテ ンが相当近い物質であることは明らかである。グルパール19Sがグルテンと全く異なる物質であるとする主張の趣旨が不明確であり,そのことを前提とした主張には何ら意味がない。 なお,グルパール19Sに対して感作が成立した後に,経口摂取した小麦やグルテンに対しても反応を示す理由として,経口摂取した天 然小麦が胃の中で加水分解(脱アミド化)されることにより,加水分解コムギと同様の物質が生じるため,これが体内に産生されていたグルパール19Sに対する特異的IgEと反応し,アレルギー症状が生じるとの機序も想定し得る(これは,交差反応というよりも直接的ないし本来的なアレルギー反応といえる。)。もっとも,この点に関して も,平成12年3月に公表された甲B7の報告において,既に,「加水 分解の際に,新しいエピトープが出現したのかも知れない」との指摘がされており,グルテンに加水分解を加えることにより,新たなエピトープが出現し,それによって感作を成立させ得るということは知られていたこと,鹿児島地方裁判所における訴訟に証人として出廷し 」との指摘がされており,グルテンに加水分解を加えることにより,新たなエピトープが出現し,それによって感作を成立させ得るということは知られていたこと,鹿児島地方裁判所における訴訟に証人として出廷した被告片山化学の取締役である B (以下「B 」という。)はグル テンに加水分解を加える作用は体内でのグルテン分解とよく似た作用であると述べ,そのことをグルパールの開発過程において認識していたことからすれば,経口摂取した天然小麦が胃の中で加水分解され,これが体内に産生されていたグルパール19Sに対する特異的IgEと反応し,アレルギー症状が生じるとの機序に関しても当時の世界 最高水準の知見により認識することができなかったとはいうことができないというべきである。 (4) 争点4(本件石鹸の原材料であるグルパール19Sに欠陥があるか。)について【原告らの主張】 ア本件アレルギーを引き起こした原因物質は,被告片山化学により製造納品され,本件石鹸に使用された原材料の一つであるグルパール19Sであるところ,グルパール19Sは,洗顔用石鹸の原材料として使用される物質として通常有すべき安全性を備えておらず,欠陥がある。 具体的には,グルパール19Sは,使用者に対する明確な指示ないし警 告等がされることなく,化粧品及び医薬部外品全般に使用できる原材料として使用方法等に限定のない汎用品として製造されたものであって,その通常予見される使用形態に沿って化粧品又は医薬部外品である本件石鹸に使用されたところ,その使用者の身体に被害を及ぼす異常を発生させている点で,設計上の欠陥があるというべきである。また,本件アレルギー のような被害を発生させる危険性がありながら,その点につき適切な指示 ないし警告がさ を及ぼす異常を発生させている点で,設計上の欠陥があるというべきである。また,本件アレルギー のような被害を発生させる危険性がありながら,その点につき適切な指示 ないし警告がされておらず,指示ないし警告上の欠陥があるといえる。 被告片山化学は,安全な製造物を製造,供給すべき原材料の製造業者としての責任を十分果たすことなく,化粧品又は医薬部外品の原材料としての感作性のチェックを怠り,石鹸の原材料として欠陥のある危険なグルパール19Sを世に出したために,本件製品事故のような深刻な製品事故を もたらしたというべきであり,被告片山化学の責任が他の被告ら2社と比べて軽いということはない。 イ部品ないし原材料の欠陥についての判断枠組み(ア) 完成品と原材料等の関係部品や原材料(以下「原材料等」ということがある。)はそれ自体製造 物であるところ,原材料等が組み込まれた完成品に起因して製品事故が生じた場合,被害者は,当該完成品の欠陥を理由として完成品製造業者に対して製造物責任を問うことができるとともに,当該製品事故が原材料等の欠陥によるものである場合には,原材料等の製造業者等に対しても原材料等の欠陥を理由とする製造物責任を問うことができる。この場 合における原材料等の欠陥の有無についても,製造物責任法2条2項の規定に従い,原材料たる当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いているといえるかという観点から判断がされるのであり,欠陥の定義や主張立 証責任の所在については,完成品としての製造物の場合と原材料等としての製造物の場合とで,何ら区別されない。 (イ) 原材 えるかという観点から判断がされるのであり,欠陥の定義や主張立 証責任の所在については,完成品としての製造物の場合と原材料等としての製造物の場合とで,何ら区別されない。 (イ) 原材料等の欠陥の判断枠組みについてa 完成品と原材料等において欠陥判断の在り方につき基本的には違いは生じない以上,被害者が原材料等の製造業者等の製造物責任を追 及する場合には,完成品の製造物責任を問う場合と同様に,以下の事 情を主張立証すれば,その欠陥の存在が事実上推認されるというべきである。 つまり,①当該原材料等が用いられた完成品を通常予見される使用形態に従って使用していたことと,②当該原材料等に起因して身体又は財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張立証すれば,当該原 材料等に欠陥があったことが事実上推認され,また,それ以上に原材料等の具体的欠陥等を特定した上で,原材料等に欠陥が生じた原因や,欠陥をもたらした科学的機序までの主張立証する必要はないと解される。 この点,上記①について,完成品の製造過程において原材料等がそ の通常予見される使用形態に従って使用されなかったため,完成品において欠陥が生じるということも想定できるから,原材料等に起因して製品事故が生じたからといって直ちに原材料等の欠陥を推認することはできないとも考え得る。 しかし,被害者である完成品使用者(消費者)においては,完成品 の製造過程がいかなるものであるのかや,完成品に含まれる原材料等の使用形態自体を知り得る立場にないから,製品事故の被害者において,原材料等が完成品の製造過程において通常予見される使用形態に沿って使用されたことの主張立証責任を負うとすることは,事実上被害者に不可能を強いることとなりかねず,法の趣旨に悖る。 の被害者において,原材料等が完成品の製造過程において通常予見される使用形態に沿って使用されたことの主張立証責任を負うとすることは,事実上被害者に不可能を強いることとなりかねず,法の趣旨に悖る。 したがって,原材料等が「通常予見される使用形態」で使用されたことについては,完成品使用者である被害者において,当該完成品を通常予見される使用形態に従って使用した事実を立証すれば,原材料等を使用した完成品製造業者の使用形態も原材料等の通常予見される使用形態に沿ったものであったことが事実上推認されるというべ きであり,これに対し,原材料等の製造業者等において完成品製造業 者等における通常予見される使用形態を越えた著しい誤使用等を主張立証しない限り,上記の事実上の推認は覆らないと解すべきである。 (ウ) グルパール19Sの欠陥の存在が事実上推認されること。 以上によれば,原告らは,①原材料としてグルパール19Sが含有された完成品である本件石鹸を洗顔や洗身等といった完成品の通常予見 される使用形態で使用したところ,②原材料であるグルパール19Sに起因して,それまでアレルギーを有していなかった原告らに本件アレルギーの発症という被害を及ぼす異常が発生したことについては,争点1に関する原告らの主張において既に主張しており,グルパール19Sに欠陥があったことが事実上推認される。 ウ他の考慮要素及び被告片山化学の主張に対する反論上記のとおり,グルパール19Sには欠陥の存在が強く推認されるが,その他グルパール19Sの欠陥を裏付ける事情等は,以下のとおりである。 (ア) グルパール19Sの特性a 感作抗原性の所在 まず,グルパール19Sが本件アレルギーの原因物質であること ル19Sの欠陥を裏付ける事情等は,以下のとおりである。 (ア) グルパール19Sの特性a 感作抗原性の所在 まず,グルパール19Sが本件アレルギーの原因物質であることは,現在までに判明した各種医学的知見によればもはや疑う余地はない。 b 効用及び有用性グルパール19Sは,被告片山化学が開発した加水分解コムギ末であるグルパールシリーズの中でも,乳化力・保湿性等に優れ,安全性 が高い化粧品用基剤として位置付けられていた製品であり,被告フェニックスは,同製品を,石鹸のひび割れ防止に効果を発揮することを期待して本件石鹸の配合成分の1つとして使用していたものであるが,本件石鹸を含めた石鹸の製造そのものに,グルパール19Sのような加水分解コムギ末の配合が必要不可欠ということはできず,本件 石鹸の安全性を考えるに当たって,グルパール19Sの有する危険性 をやむを得ない前提として考える必要はない。 (イ) 指示ないし警告(表示)の有無及び内容被告片山化学は,その技術資料等を通じて,グルパール19Sの販売当初から,化粧品等の原材料として使用前例があることや,同製品は公定書に登載された加水分解コムギ末に該当する製品であり,安全性が担 保されていること(製造承認を得る際に安全性に関する特段の資料の添付が必要とされない原材料であること)を繰り返し説明し,その安全性及び化粧品用の原材料としての利点・有用性を強調して売り込みを行っていた一方で,同製品をおよそ石鹸の製造における原材料として用いることを全く禁じていないことはもちろん,その使用方法に関しても,一 定濃度の限定,使用頻度の限定にかかる記載や,混ぜ合わせを禁じる他の原料等の記載,その他使用上の注意を喚起する記載を行 用いることを全く禁じていないことはもちろん,その使用方法に関しても,一 定濃度の限定,使用頻度の限定にかかる記載や,混ぜ合わせを禁じる他の原料等の記載,その他使用上の注意を喚起する記載を行うことなく,使用に関する警告等を何ら行っていない。被告片山化学から被告フェニックスに対して交付された平成10年10月9日付け「製品安全データシート」(乙ハA4。以下「本件製品安全データシート」という。)では, 「感作性」について「データなし」との記載があるが,これは被告片山化学においてグルパール19Sに関する特定の安全性データを所持していない状況にあることを示しているにすぎず,危険性を指摘する趣旨などではない。 グルパール19Sは本件アレルギーを引き起こす危険性を有するに もかかわらず,その流通に際して,用途や用量の制限その他危険の回避のための指示・警告と評し得るものは何らされていなかった。 (ウ) 汎用品であるとの被告片山化学の主張についてa グルパール19Sはその通常予見される使用形態の範囲内の用途及び用法で本件石鹸の原材料として使用されたのであり,本件石鹸の 原材料以外の用途において安全に使用できるか否かは,本件での考慮 要素ではない。問題の本質は「汎用品」であるか否かではなく,当該製造物の使用が,その「通常予見される使用形態」の範囲内か否か,その使用に対して「通常有すべき安全性」があるか否かが端的に問題とされなければならない。 b また,汎用品でありさえすれば,製造業者としての安全性確保を免 れるわけではなく,汎用性が高い製品を製造する場合は用途及び用法が適切に限定された製造物よりも広汎な用途及び用法が通常想定されることになるのだから,むしろ,そのよ 造業者としての安全性確保を免 れるわけではなく,汎用性が高い製品を製造する場合は用途及び用法が適切に限定された製造物よりも広汎な用途及び用法が通常想定されることになるのだから,むしろ,そのような用途及び用法に対応するだけの十分な安全性が設計上も製造上も求められることになる。 製品の特性を知る技術的能力を有するのはあくまで当該製品の製 造業者等であってその使用者ではなく,このことは原材料等の製造業者においても変わりはなく,原材料等の製造業者等には安全な原材料等を製造,流通させる責任がある。 c そして,汎用品であったとしても,使用してはならない配合方法や用量等があるとすれば,その旨の適切な表示ないし警告がなければ欠 陥が認められることは当然である。原材料等の製造業者には,当該原材料等の使用者(完成品の製造業者)において誤使用や不適切な使用をさせることのないよう,その使用に当たっての危険性を利用者に明確に告知しなければならない。被告片山化学は,グルパール19Sに関し,「感作性:データなし」と表示したにすぎず,製品の危険性につ いて使用者に対して具体的かつ十分に情報を提供したとは到底評価し得ない。 (エ) グルパール19Sの「通常予見される使用形態」及びその使用形態に沿って本件石鹸が製造されたこと。 グルパール19Sが完成品製造業者である被告悠香や被告フェニッ クスにおいてその「通常予見される使用形態」によって使用されたか否 かについて原告らが主張立証を行う必要はないが,「通常予見される使用形態」によって使用されたことは以下の事情に照らしても明らかである。これに対し,本件石鹸におけるグルパール19Sの使用がいかなる点で「通常予見される使用形態」を逸脱しているのかについて,被告片山化学か 」によって使用されたことは以下の事情に照らしても明らかである。これに対し,本件石鹸におけるグルパール19Sの使用がいかなる点で「通常予見される使用形態」を逸脱しているのかについて,被告片山化学からは何ら有効な主張・立証はなされていない。 a グルパール19Sの通常予見される使用形態グルパール19Sは,広く化粧品や食品に用いることができる成分として,グルパールの中から特に「グルパール19S」という商品名を付されて製造されたものであり,その「通常予見される使用形態」は,洗顔用石鹸を含めた化粧品又は医薬部外品の乳化力,保湿力の向 上等のために他の原材料と配合して使用することであり,特段の用途や用法の制限はない。そうすると,その使用者において自己の求める品質に沿うように適宜,配合濃度等を調節し,その他の原材料等と配合することも当然想定されていた。 b 被告悠香及び被告フェニックス(完成品製造業者)によるグルパー ル19Sの使用方法が,上記aの通常予見される使用形態に沿うものであること。 上記のとおり,グルパール19Sは,洗顔等を主たる用途とし医薬部外品に該当する本件石鹸に使用することも「通常予見される使用形態」に含んだ製品であるところ,被告悠香及び被告フェニックスは, かかる使用形態に沿って,本件石鹸を製造,販売したものである。 具体的な配合方法や配合濃度等をみても,本件石鹸におけるグルパール19Sの配合割合は0.3%であるが,同数値は被告片山化学により使用濃度として推奨されてきたものであるし,石鹸自体に界面活性作用がある以上,被告フェニックスが本件石鹸の製造に際し界面活 性剤を使用したことは何ら問題でない(ちなみに,グルパール19S は, 奨されてきたものであるし,石鹸自体に界面活性作用がある以上,被告フェニックスが本件石鹸の製造に際し界面活 性剤を使用したことは何ら問題でない(ちなみに,グルパール19S は,界面活性剤が加えられなくとも経皮感作能を有することが明らかとなっている。)など,本件石鹸の製造に当たり,「通常予見される使用形態」を逸脱してグルパール19Sの使用がされたことを窺わせる事情は存在しない。 また,本件石鹸と製法や配合濃度が基本的には異ならない他の同種 石鹸においても本件アレルギーと同様の被害の申告がされていること,グルパール19Sが配合されていたにもかかわらず被害が出なかったとされる渋の泡石鹸が主として男性の身体洗浄用に用いられることを想定したものであり,洗顔用石鹸において特に被害が発生しやすいとしても殊更不合理ではないこと等に鑑みれば,本件石鹸におい てのみグルパール19Sが誤使用され,被害を生ぜしめたと考えることはできない。 c 被告片山化学は本件石鹸の原材料としてグルパール19Sを供給していたこと。 グルパール19Sは特定の完成品を想定しない汎用品ではなく,む しろ,被告片山化学は,本件石鹸の製造販売以前から,被告フェニックスに対し,グルパール19Sの効果が十分発揮できるようその加工方法を変更したサンプルを提供したり,検証協議を継続したりするなどしており,グルパール19Sが本件石鹸に使用されることを念頭に置いてその供給を行っていたことが窺われる。 いずれにしろ,本件製品事故は,グルパール19Sが「通常予見される使用形態」で完成品たる本件石鹸に使用された結果生じたものであり,まさに原材料の危険性が発現したものなのである。 (オ) 本件アレルギーの被害の重 事故は,グルパール19Sが「通常予見される使用形態」で完成品たる本件石鹸に使用された結果生じたものであり,まさに原材料の危険性が発現したものなのである。 (オ) 本件アレルギーの被害の重大性前記のとおり,本件製品事故による被害の重篤さ,深刻さを考えれば, その内容は,洗顔等に用いる石鹸の使用によって生じるものとして社会 通念上許される被害などではおよそあり得ず,本件石鹸に「欠陥」があることは明らかであるが,本件アレルギーの発症は,原材料であるグルパール19Sが元来有していた危険性が,その「通常予見される使用形態」での使用されたことで発現したものであり,グルパール19Sについても,本件石鹸同様,通常有すべき安全性を欠くとの評価がなされな ければならないのは当然である。 (カ) 「引き渡した時期」の解釈及び当時の科学技術水準の考慮についてa 製造物責任法2条2項が欠陥の存否を判断する代表的な考慮事情のうちの一つとして「当該製造物を引き渡した時期」を例示しているのは,①製造物の欠陥は製造物の引渡し時を基準に決せられること, ②製造物の開発・改良は日々行われ,より安全性の高い製品が製造・販売され,製造物に要求される安全性の内容や程度も時代によって異なる(求める安全性がより高まる)こともあり得ることから,当該製造物に要請される安全性の程度・水準に関連する社会通念についても製造物を引き渡した時期が考慮され得るということを示した趣旨で ある。ここにいう社会通念は,当該製造物の安全性の程度・水準に関して消費者が期待する社会的評価ということができる。 b 社会通念及び科学技術水準の考慮について安全性の程度・水準に関する社会的評価は, の安全性の程度・水準に関して消費者が期待する社会的評価ということができる。 b 社会通念及び科学技術水準の考慮について安全性の程度・水準に関する社会的評価は,その製品の固有の特性や登場時期等により異なり,科学技術の水準が高まるにつれ,製品に 求められる安全性の程度・水準に関する社会的評価も高度になり,この意味で,引き渡した当時の科学技術的水準は考慮され得る要素である。しかし,本件で問題とされるべきは,長年社会に定着して,年齢,性別又は時代を問わず社会の多数の人々が,使用に際して危険を感じることなく,毎日使用している日用生活用品に対する社会的評価であ り,その安全性に関する評価は既に定着しているのであり,時代の進 展に伴い科学技術的知見も進歩・発展するに従い,その安全性の程度に関する社会的評価の水準も,高まりこそすれ低下することはない。 グルパール19Sが引き渡された当時においても,化粧品・医薬部外品用の原材料に対し,小麦アレルギーの感作を生じさせないという安全性は,当然に社会的に要請されていたのである。 したがって,石鹸の原材料として引き渡されたグルパール19Sにつき,被告片山化学が主張するように,当該科学技術的知見によって危険の発生を想定(予見)できたか否かを欠陥の判断において考慮することはできない。そもそも被告片山化学は,当時の科学技術的水準を考慮することに関し,過失責任ではなく欠陥責任の議論であると強 弁するが,当該製品による被害の発生を当時の科学技術的知見から予見できなかったことを理由に欠陥を否定することは,過失の有無の判断における予見可能性を,欠陥の判断に持ち込もうとするものであり,そもそも「過失」から「欠陥」に責任の発生原因を変更した製造物責 ら予見できなかったことを理由に欠陥を否定することは,過失の有無の判断における予見可能性を,欠陥の判断に持ち込もうとするものであり,そもそも「過失」から「欠陥」に責任の発生原因を変更した製造物責任法の本質的な意義や開発危険の抗弁をあえて設けた法の体系にも 反するというべきである。 さらに,被告片山化学が引渡し時における科学技術的水準を基礎づける知見として主張する元日本免疫学会理事(平成2年日本免疫学会会長)であり,順天堂大学院医学研究科特任教授・名誉教授,アトピー疾患研究センター長を務める奥村康(以下「奥村教授」という。)の 平成26年2月26日付け意見書(乙ハB12),平成27年2月17日付け意見書(乙ハB20)及び平成29年8月4日付け意見書(乙ハB25。以下,上記3つの意見書を併せて「奥村意見書」ということがある。)は,免疫学やアレルギーに関する基礎的知見や欧州での種々の症例報告等の知見に反しており,誤っている。 (キ) その他の事情について 以上のほか,被告片山化学は,グルパール19Sは公定書に収載された加水分解コムギ末に該当し,医薬部外品としての使用前例があり,行政上求められる安全水準を確保していたとか,本件アレルギーの発症率と通常の小麦アレルギーの有病率との比較等も主張するが,グルパール19Sの欠陥を否定する事情とはなり得ない。 【被告片山化学の主張】ア完成品と原材料等の欠陥との関係完成品に欠陥が認められない場合,当該完成品による製品事故が発生したとしても,その原材料等の欠陥が問題となることはない。 本件石鹸に係る各種事情を適切に考慮し,その引渡し当時の社会通念に 照らせば,完成品たる本件石鹸に欠陥は認められ による製品事故が発生したとしても,その原材料等の欠陥が問題となることはない。 本件石鹸に係る各種事情を適切に考慮し,その引渡し当時の社会通念に 照らせば,完成品たる本件石鹸に欠陥は認められず,その原材料であるグルパール19Sの欠陥も問題とならず,グルパール19Sの製造業者である被告片山化学は責任を負わない。本件石鹸の欠陥に関しては,被告悠香及び被告フェニックスの主張を全て援用する。 イ欠陥判断の判断基準(科学技術水準の考慮の当否)について (ア) 欠陥判断の枠組みについて製造物責任法2条2項は,多種多様な製品事故における基本的,重要な事情として法定の考慮事情を掲げ,製造物が製造業者らから引き渡された時点を基準として,個別具体的な事案において,各要素を適切に考慮し,欠陥を判断すべきとする。そして,かかる欠陥の存在について立 証責任を負うのは製品の欠陥を主張する原告側であり,立法過程等を踏まえても,立証責任の転換はしないことが明らかにされている。 製造物を通常の用法に従って使用していたにもかかわらず,身体又は財産に損害を及ぼす異常を発生したことの主張立証をすれば,当該製造物に欠陥が認められるとの原告らの主張は,上記定義にかかる諸事情を 看過し,製造物責任法の立法時の議論を全く無視するものであり,法律 の解釈としてとり得るものではない。 (イ) 欠陥判断の基準について法定の考慮事情である「その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期」とは,製造物の引渡し時を基準として欠陥判断を行うべきことを明らかにするとともに,当該製品が製造業者によって引き渡された時点 での社会通念に基づいて要請される安全性の程度等を踏まえて欠陥の有無を判断するとの趣旨であ を基準として欠陥判断を行うべきことを明らかにするとともに,当該製品が製造業者によって引き渡された時点 での社会通念に基づいて要請される安全性の程度等を踏まえて欠陥の有無を判断するとの趣旨であり,引渡し時の科学技術的水準は上記の社会通念を構成する要素として,欠陥判断における重要な事情と位置付けることができる。 これに対し,原告らは,いつの時代であっても化粧品又は医薬部外品 の原材料が重篤かつ頻発のアレルギーを発症させてはならない,という製品に対する消費者の期待は変わらず,グルパール19Sは,かかる社会通念に照らせば通常有すべき安全性を欠いている旨主張するが,「消費者の期待」を欠陥認定の基準の柱に据える当該見解は,製造物責任法の立法過程において,採用されなかったものである。 (ウ) 当時の科学技術的水準を踏まえた社会通念に基づけば,グルパール19Sは通常有すべき安全性を欠いていたとはいえないこと。 a 引渡し時の科学技術的水準,技術的な実現可能性及並びに製品における事故発生の予見可能性及び結果回避可能性は,「その他の当該製造物にかかる事情」として,考慮することができる。事故発生の予見 可能性に関する事情(事故発生の可能性の内容,重大性の程度,頻度,範囲)は,製造物の設計及び製造の過程においては製造業者等が当然に検討し,考慮する事情であるところ,これらの過程を経て製造物が設計,製造,販売された後,当該製造物に起因する事故が発生した場合には,当該製造物が販売された時期を基準として,上記の事情を適 切に考慮すべきであることは,製造物の設計及び製造に係る実態,実 務に鑑みて当然である。 原告らは,上記の主張は欠陥判断を過失責任と混同するものであり,製造物責任の趣旨に反するというが あることは,製造物の設計及び製造に係る実態,実 務に鑑みて当然である。 原告らは,上記の主張は欠陥判断を過失責任と混同するものであり,製造物責任の趣旨に反するというが,過失責任における予見可能性等は過失を認めるための要件であるのに対し,上記の意味での科学技術水準や製品事故の発生に係る予見可能性は,欠陥判断に関する考慮事 情の一つであり,可能性の内容や重大性の程度,頻度,範囲,回避方法等の事情をも含んだ概念であり,過失判断とは全く異なる位置付けを与えられるものであるから,原告らの指摘は失当である。 また,被告片山化学が,奥村意見書等に基づいて主位的に主張しているのは,徹頭徹尾,欠陥責任の議論であり,開発危険の抗弁の議論 ではない。開発危険の抗弁における科学技術に関する知見と上記した欠陥の考慮要素である科学技術水準等は,その水準の程度,予見又は認識の対象,それを考慮した結果の法的効果や立証責任の所在等の点で相違しており,欠陥判断において当時の科学技術水準を考慮することは,開発危険の抗弁の存在と何ら矛盾しない。 b 以上を前提に,グルパール19Sの最終引渡し時である平成22年8月4日以前においては,厚生労働省やアレルギーに関する専門家医師においても,グルパール19Sのような小麦加水分解物が配合された石鹸の使用によって,小麦アレルギーの症状が発生することは,全く想定できず,通常の原材料製造業者や一般人であれば,その想定は いっそう困難であり,このような当時の科学技術的水準に基礎付けられた当時の社会通念に基づけば,本件石鹸及びグルパール19Sが通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。 この点,アレルギー学の第一人者である奥村教授は,奥村意見書におい 準に基礎付けられた当時の社会通念に基づけば,本件石鹸及びグルパール19Sが通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。 この点,アレルギー学の第一人者である奥村教授は,奥村意見書において,グルパール19Sが引き渡された当時の知見につき,①50 0Daルールが広く知られており,また,石鹸に含まれる成分は直ち に洗い流されることが想定され,長時間皮膚に付着する他の物質とは全く異なるとも考えられていたなど,本件石鹸に含有された加水分解コムギが人に経皮ないし経粘膜的感作を生じるとはおよそ考えられていなかったこと,②本件アレルギーは,小麦加水分解物に対し,小麦やグルテンが交差反応を生じる症例であるが,本件アレルギーの患 者らの抗体が記憶しているエピトープは小麦には存在せず,なぜ交差反応が生じるのかについては本件製品事故が発生した後,未だに定説を見ない状態であって,かかる事態の発生を当時の科学技術の水準で想定することなどおよそ不可能であったことを指摘している。 原告らは,免疫反応に関する抽象的な知見を組み合わせることで本 件アレルギーの発生は予見し得たなどと主張するが,結果としてアレルギーが発生すればその原因となった製造物の製造業者は必ず法的責任を負うという非常識な結論を導きかねず,不当である。また,原告らの援用する海外の数例の症例報告も,到底当時の科学技術水準を基礎づけるほど一般化したものではなかったし,そもそもその内容も 本件アレルギーとは機序等が全く異なっていたものである。 ウ原材料等の欠陥判断の在り方(原材料たる製品に固有の論点)について(ア) 原材料が完成品に組み込まれ,当該完成品を使用することで事故が発生した場合,完成品に欠陥が認められたとしても,そのことから直ちに原材 の在り方(原材料たる製品に固有の論点)について(ア) 原材料が完成品に組み込まれ,当該完成品を使用することで事故が発生した場合,完成品に欠陥が認められたとしても,そのことから直ちに原材料の欠陥が認められることにはならず,当該原材料自体につき,法 定された諸事情を適切に考慮の上,通常有すべき安全性を欠いていたか否かが問題とされなければならない。 (イ) 一般に,製造物の利用に関して,使用者側に製品の用途・用法違反,不注意使用,すなわち「通常予見される使用形態」に背いた使用が認められ,これが製品の主要な事故原因となった場合,かかる事情は,製品 (原材料)の欠陥を否定する事情ないし製品(原材料)と損害発生との 間の因果関係を否定する事情として考慮されることになる。欠陥の有無や因果関係の存在は,製造物責任を主張する被害者側,すなわち原告らにおいて主張立証すべきであるから,原材料等が「通常予見される使用形態」に沿って適正な用途及び用法で使用されたか否かについても,原告らが主張立証しなければならない。 そして,製造物が安全な用途及び用法で使用されたか否かを考えるには,単に当該製品に想定される用途での使用がされたかのみでなく,安全な用法により製造物が使用されたかについても着目する必要があり,安全な用法を逸脱して危険回避措置を講じずに製品を用いた場合には,その責任は製品の使用者が負担すべきである。 また,製造物の適正使用の当否を考えるに当たっては,当該製造物に想定される使用者の資格や技能等も考慮すべきであり,使用者が専門業者であり,その使用者が,社会通念上の常識を働かせることにより(あるいは,提供された製品情報を認識し,これに従って製品を使用すべきという注意義務及び遵守 格や技能等も考慮すべきであり,使用者が専門業者であり,その使用者が,社会通念上の常識を働かせることにより(あるいは,提供された製品情報を認識し,これに従って製品を使用すべきという注意義務及び遵守義務を履行することにより)製品事故を防止で きる場合には,発生した事故は製造物の不適切な使用により生じたものとして,当該製品自体の欠陥を否定する方向で考慮すべきである。 (ウ) 以上は,完成品における製品事故に関する原材料等の欠陥の有無を論じる際にも妥当し,原材料等と完成品の関係を考える場合には,原材料等の選択,調達,製造,加工,表示等は,完成品の製造業者等によって 行われるものであり,原材料等の性能,用途,使用方法,危険性等を考慮し,当該完成品の原材料等として選択し,調達することは,基本的には当該完成品の製造業者等の判断と責任によって行われるべきものであるから,完成品には欠陥が認められたとしても,原材料の欠陥を認定するに当たっては,完成品製造業者が原材料を「その通常予見される使 用形態」に従い,安全な用途及び用法で使用したものか否かがより慎重 に審理されなければならない。特に,特定の完成品との関係が希薄であり,当該原材料の用途及び用法の選択が専ら完成品の製造業者等に委ねられることになる汎用品である原材料の欠陥を論じる際には,この理が強く当てはまる。原材料の欠陥が肯定されるには,完成品との関係を考慮することなく,原材料の独立した用途,性能,構造等からみて,その 欠陥の有無を判断することが必要である。 以上によれば,本件においてグルパール19Sの欠陥の有無を考えるに当たっては,その想定された用途で使用されたかということについて,原告らは主張立証しなければならない。のみならず,被告片山化学は,本件 上によれば,本件においてグルパール19Sの欠陥の有無を考えるに当たっては,その想定された用途で使用されたかということについて,原告らは主張立証しなければならない。のみならず,被告片山化学は,本件石鹸の欠陥判断において,本件石鹸引渡し時における本件アレルギ ーの予見可能性が必要であると考えているが,この時点の知見に照らし,本件アレルギーが予見可能であったとして,本件石鹸の欠陥が認められる場合,完成品の製造業者等が被害の出ない工夫をした上で原材料を使用したかという用法の適否が論じられなければならず,用法が適正といえるためには,化粧品又は医薬部外品の製造専門業者である被告悠香や 被告フェニックスが,なすべき被害防止のための様々な工夫(危険回避措置)を講じていたといえることを,原告らが主張立証しなければならない。 (エ) グルパール19Sは,特定の完成品に使用することを前提として開発された製品ではなく,化粧品や食品に広く用いることができる汎用的な 原材料であり,現にこれを用いた石鹸である渋の泡石鹸を始め,多数の同種製品において被害報告はされておらず,医薬部外品等の製造に係る専門業者である被告フェニックスや被告悠香らは,本件アレルギーを発生させない安全な完成品を製造することができたものである。 この点に関し,原告らは,被告フェニックスや被告悠香の製法の工 夫(配合成分,配合濃度),使用方法等各種警告の工夫(使用部位の特定, 異常発生時の対処法),販売方法の工夫(対面販売か,通信販売か,販売個数の単位をどのようにするか),万全なアフターケア体制の工夫(相談窓口の設置,健康被害に関する知見に触れた際に速やかに製品の回収を行う等)に問題がなかったこと,すなわち,被告フェニックス及び被告悠 数の単位をどのようにするか),万全なアフターケア体制の工夫(相談窓口の設置,健康被害に関する知見に触れた際に速やかに製品の回収を行う等)に問題がなかったこと,すなわち,被告フェニックス及び被告悠香がグルパール19Sを安全な用途・用法で本件石鹸に使用したこと (危険回避のための工夫に問題がなかったこと)の主張立証をしておらず,本件アレルギーの原因がグルパール19Sそのものにあること(用途・用法を工夫しても被害を防げなかったこと)についての主張立証もしていない。 むしろ,グルパール19Sを配合した同種製品のうち,170万個も の販売実績を誇った渋の泡石鹸をはじめ,圧倒的多数の種類の化粧品等では,本件アレルギーのような健康被害は確認されておらず,このことは,本件製品事故の原因が被告フェニックスないし被告悠香による製造過程にあったことを推認させ,グルパール19S自体には問題がなかったことを推定させるものである。 エその他グルパール19Sの欠陥を否定すべき考慮事情上記のとおり,グルパール19Sの引渡し当時の科学技術水準によれば本件製品事故は想定できなかったことや,本件石鹸の製造過程において原材料たるグルパール19Sが適正使用されたことが立証されていないことは,それぞれそのことのみをもって,グルパール19Sの欠陥を否定す る事情であるが,その他以下の事情を総合考慮しても,やはりグルパール19Sが通常有すべき安全性を欠いていたとは評価できない。 (ア) 本件アレルギーの頻度及び重篤度a あらゆる製造物は本来的にアレルギー反応を引き起こす危険性を内在しているおり,その旨の適切な指示警告がされている限り,製品 が原因となってアレルギーが発症しても,そのことをもって直ちに当 a あらゆる製造物は本来的にアレルギー反応を引き起こす危険性を内在しているおり,その旨の適切な指示警告がされている限り,製品 が原因となってアレルギーが発症しても,そのことをもって直ちに当 該製造物が欠陥製品であると評価するのは不当である。当該製造物によるアレルギーの症状が,世の中に通常に流通している他の製品からも不可避的に発生するアレルギーとの比較において,重篤度・頻発度が高い場合に初めて欠陥を肯定する方向の事情として考慮される。 b 本件アレルギーの発生頻度 本件石鹸が爆発的ヒット商品であったことからすれば,発症者数に着目すべきではなく,本件石鹸の全体の使用者における発症率が他のアレルギーとの比較で高頻度といえるかに注目しなければならない。 本件アレルギーと比較対象となるのは,社会的に許容されている通常の小麦アレルギーの発症頻度であるが,本件アレルギーの発症率は0. 03%にとどまるのに対し,日本の小麦アレルギーの有病率は0.21%(そのうち,ショックに至る率は18.9%)であり,また,本件アレルギーと通常のWDEIAとでは,ショックに至る頻度においても,前者の方が低頻度とされる。したがって,本件小麦アレルギーは社会的に許容されている通常の小麦アレルギー全般と比較して高 頻度と評価することはできない。 c 本件アレルギーの重篤度現在までに,本件アレルギーは,通常のアレルギーと異なり,比較的早期に改善し,小麦摂取可能となっている症例が多数を占めていることが判明している。また,少数ある治癒遷延(難治)症例について も,オマリズマブ投与の治療により,治癒の可能性が高いと考えられるに至り,平成29年4月以降,被告片山化学が拠出した基金(片山基金)に基づくオマリズマブ使用 ある治癒遷延(難治)症例について も,オマリズマブ投与の治療により,治癒の可能性が高いと考えられるに至り,平成29年4月以降,被告片山化学が拠出した基金(片山基金)に基づくオマリズマブ使用による治療の提供が開始されている。 したがって,本件アレルギーが小麦アレルギー全般と比較して重篤であると評価することはできない。 (イ) 製品としての有用性 グルパール19Sは,乳化力及び保湿性に優れた小麦加水分解物であり,食品,化粧品又は医薬部外品用の原材料として,広く有用性のある物質である。このような事情は上記した本件アレルギーによる被害の実態との衡量の上,グルパール19Sの欠陥を否定する事情として考慮される。 なお,欠陥の存否は製造物が引き渡された時点(平成22年8月4日まで)において判断されなければならないのであるから,原告らが主張するように,引渡し時より後に判明した本件アレルギーの危険性と,引渡し時に存したグルパール19Sの有用性との間で衡量をすること自体,誤りである。 (ウ) 本件アレルギーの危険性につき,表示・警告すべき義務がないこと。 製造業者において製品の危険性に関する表示・警告を欠いていたことが,欠陥を肯定する事情として考慮されるには,製造業者が表示・警告義務を負うことが前提となる。この点,製造業者には不可能を強いない限度で情報提供をするよう求めることができるのだから,本件製品事故 のように,引渡し時の科学技術水準に照らして想定不能な危険についてまで,情報提供すべきとは解されず,また,当該製品の使用者が危険に関して専門知識を有している場合にも,改めて表示・警告をする必要はない。 なお,以上の点を置くとしても,被告片山化学が被告フェニックスに 対して適切な されず,また,当該製品の使用者が危険に関して専門知識を有している場合にも,改めて表示・警告をする必要はない。 なお,以上の点を置くとしても,被告片山化学が被告フェニックスに 対して適切な表示及び警告をしていたことについては,後記オにおいて述べる。 (エ) 行政上の規制への適合性行政上求められる安全規制への適合・不適合は,規制対象製品の事故にかかる損害賠償請求の際の欠陥判断における重要な考慮要素の一つ であり,法令上の安全規制に合致していれば,製造物責任の有無に関し ても原則として欠陥がないとみるべきである。グルパール19Sの引渡し全期間(平成10年11月30日~平成22年8月4日)において,「加水分解コムギ末」は,外原規2006等の各公定書に収載された成分であり,薬事法上,化粧品及び医薬部外品に汎用的に用いることができるものとして位置付けられており,グルパール19Sは,これらの規 格の加水分解コムギ末の定義に相当する成分であったから,薬事法上の安全規制に適合していたといえる。これによれば,グルパール19Sには事実上,無欠陥が推定されるというべきである。 オ責任領域論(ア) 汎用的に用いることができる原材料等を流通に置くに際して,いかな る用途及び用法においても安全な原材料等を供給すべきであるとか,危険な用途及び用法があるのであればそれらにつき事故が発生する前に全て先回りして調べた上で表示,警告すべきであるという考え方に立つと,汎用品原材料メーカーにおよそ不可能なこと(組み込まれる可能性のあるあらゆる完成品を想定して安全性を担保すること)を要求するこ とになり,およそ汎用品というものは,世の中に流通し得なくなり,社会基盤を損なう不当な結果を招く。 そこで,原材料 可能性のあるあらゆる完成品を想定して安全性を担保すること)を要求するこ とになり,およそ汎用品というものは,世の中に流通し得なくなり,社会基盤を損なう不当な結果を招く。 そこで,原材料製造業者において,①汎用的な原材料等を製造販売した場合,②汎用品の製造業者において求められる完成品製造業者に向けた適切な警告ないし表示をすれば,原材料等製造業者は自己の責任領域 に属する役割を果たしたといえ,その上で原材料等を提供した以上は,当該原材料等は完成品製造業者において自己の責任領域に属する役割を果たして安全に使用するものと信頼することが合理的である。かかる信頼が合理的である以上,その後,完成品の使用者のもとで原材料と事実的因果関係のある製品事故が発生してしまった場合であっても,原材 料等製造業者は欠陥責任を負わないと解すべきである。 (イ)a グルパール19Sが汎用的な原材料であること。 グルパール19Sは,本件石鹸に用いることを想定して製造,販売された特注品ではなく,広く化粧品,食品等に添加することを想定して平成2年8月に誕生し,汎用的な用途に利用できる汎用品である。 実際に,販売開始以後,多数の食品,化粧品等の配合成分として活用 され,その仕様は,原材料,製造方法及び分子量いずれの点においても,全供給期間(製品見本提供も含めると,平成9年4月以降平成22年8月までの期間)を通じて一切変更されていない。 本件石鹸において,グルパール19Sをどのような製品にどのような濃度で配合するのか決めたのは被告フェニックスであり,技術資料 等の記載も,被告フェニックスによる実験結果を受けたものにすぎず,被告片山化学が積極的に配合濃度等を推奨したものではない。被告片山化学は本件石鹸の製造過程にも 告フェニックスであり,技術資料 等の記載も,被告フェニックスによる実験結果を受けたものにすぎず,被告片山化学が積極的に配合濃度等を推奨したものではない。被告片山化学は本件石鹸の製造過程にも全く関与しておらず,被告片山化学が本件石鹸にグルパール19Sが使用されていることを知ったのは,本件石鹸の販売開始から2年以上経った時点であった。 b 被告片山化学が被告フェニックスらに対し適切な警告・表示をしていたこと。 被告片山化学は,石鹸製造の専門業者である被告フェニックスらに対し,資料提供及び口頭により,危険を回避するのに十分な警告,表示を尽くしてきた。本件製品事故は,被告片山化学の保証範囲外で発 生した事故である。 そもそも被告片山化学は,技術資料等の交付を通じて,グルパール19Sが小麦由来の成分であること及び平均分子量6万以上であること等の情報を提供し,本件アレルギーの発生の要因となる事情について完成品業者に明示しており,これらの事情は被告悠香及び被告フ ェニックスも十分把握していた。そして,本件製品安全データシート に「感作性:データなし」と記載し,被告フェニックスに交付しており,感作性に関するデータを被告片山化学において調査していないこと,いわば,感作性についてはメーカーの保証範囲外と明示している。 なお,感作性試験の実施は,法令上も実務上も化粧品及び医薬部外品用の原材料等製造業者に義務付けられておらず,感作性試験を実施し なかったことに何ら問題はないし,上記の情報の存在に鑑みれば,技術資料等における「使用前例あり」,「別紙申請中」との記載や,「規格(公定書)の加水分解コムギ末に相当」という記載により,被告片山化学がグルパール19Sにつき,感作性試験を実施したも に鑑みれば,技術資料等における「使用前例あり」,「別紙申請中」との記載や,「規格(公定書)の加水分解コムギ末に相当」という記載により,被告片山化学がグルパール19Sにつき,感作性試験を実施したものと保証したとはいえない。 (ウ) 以上より,本件製品事故は,グルパール19Sを使用した被告フェニックスないし被告悠香の責任領域に属する原因により発生したものであり,自己の責任領域に属する事柄を果たした被告片山化学は,その責任を負わない。 (5) 争点5(グルパール19Sの製造業者等について開発危険の抗弁が成立 するか。)について【被告片山化学の主張】争点4における被告片山化学の主張で述べたとおり,グルパール19S引渡し時の科学技術に関する知見によれば,被告片山化学においてグルパール19Sの欠陥を認識することは不可能であったのであり,仮に本件石鹸の原 材料であるグルパール19Sの欠陥が認められた場合には,被告片山化学は,開発危険の抗弁を予備的に主張する。 【原告らの主張】被告片山化学は,開発危険の抗弁を主張するとしながら,その認識対象として,原告らの主張を,グルパール19Sが本件アレルギーを発症させたこ とをもって欠陥であると主張しているものと解釈した上で,グルパール19 Sの引渡し時の科学技術に関する知見によっては,グルパール19Sが本件アレルギーを発症させることを認識できなかったことは明らかと主張するのみで,当該科学又は技術に関する知見の具体的内容に関する主張を明示しない。このように,被告片山化学から「引き渡した時における科学又は技術に関する知見」によっては,当該製品の「その欠陥」の具体的内容を「およ そ認識し得なかったこと」についての合理的根 張を明示しない。このように,被告片山化学から「引き渡した時における科学又は技術に関する知見」によっては,当該製品の「その欠陥」の具体的内容を「およ そ認識し得なかったこと」についての合理的根拠,すなわち,欠陥認識不可能性の具体的な主張立証がない以上,被告片山化学の主張は,主張自体失当である。 (6) 争点6(損害の発生及びその額等)について【原告らの主張(損害総論)】 ア本件石鹸に起因するアレルギー症状とそれによる不利益(ア) 原告らは,本件石鹸を使用したことにより本件アレルギーを発症したものであり,日本アレルギー学会によって2011年10月に策定された診断基準に基づき,専門の医師により本件アレルギー罹患の確定診断を受けた被害者である。 (イ) 本件アレルギーの重篤性a 本件アレルギーの症状は,①本件石鹸使用時における眼瞼,眼周辺のかゆみ,蕁麻疹,湿疹等の皮膚の痒み,くしゃみ,鼻水等の鼻炎症状や息苦しさ等のアレルギー症状を生じるだけでなく,②小麦含有食品を摂取した後に生じる症状を中心とし,その際は,単に皮膚症状を 生じるのみではなく,腹痛,下痢,血圧低下,ふらつき,呼吸困難等といった全身症状を生じ,重篤な場合には生命にかかわるショック症状を生じるというものである。 一般にアレルギー反応により,蕁麻疹等の皮膚症状,腹痛や嘔吐等の消化器症状,息苦しさ等の呼吸器症状が複数同時かつ急激に出現し た状態をアナフィラキシーと呼んでおり,本件アレルギーのように小 麦摂取後の運動により誘発されるアナフィラキシーを特に,小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)という。さらに,アナフィラキシーの中でも,血圧が低下し,意識レベルの低下や脱力を来たすような場合を 後の運動により誘発されるアナフィラキシーを特に,小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)という。さらに,アナフィラキシーの中でも,血圧が低下し,意識レベルの低下や脱力を来たすような場合を特にアナフィラキシーショックと呼び,直ちに対応をしなければ生命に関わる重篤な状態を意味する。 本件アレルギーの症状は,上記したとおり,単に局所的な皮膚症状を生じるにとどまらず,全身性,かつ腹痛,意識障害や呼吸困難といった重篤な症状に至る場合が多く,意識障害や呼吸困難に至った場合は具体的な死の恐怖にさらされるなど極めて重篤な症状(アナフィラキシーショック)となる。実際に,極度の血圧低下,呼吸困難,めま い又は意識障害などにより救急搬送された原告らも少なくない。そして,運動誘発性とはいうものの,運動が必須なのではなく,体調や小麦の摂取量いかんによっては,家事を行う程度であっても,アナフィラキシーは生じ得るところ,本件アレルギーは特に運動誘発性が低い点に特徴がある。 b 原告らは本件アレルギーの発症後,本件石鹸に原因があると気づくことができず,1年から2年にわたって,死にも直面し得る重篤な症状を繰り返し生じながら,不安な日々を送ることを強いられた。原告らは,現在に至るも,その大多数は,安全かつ安心に小麦を摂取できる状態に至っておらず,程度の差こそあれ,小麦の摂取や生活上多大 な配慮をしなければならない状態が継続しており,本件製品事故による被害の中核的な部分は今なお継続しているものである。 原告らの症状が現在も治癒していないことにつき,個別の検査結果や発症のエピソードをもって積極的に立証せよと求めることは,原告らに不可能を強いるものであり,本件アレルギーによる被害の実態を 正しく理解しな が現在も治癒していないことにつき,個別の検査結果や発症のエピソードをもって積極的に立証せよと求めることは,原告らに不可能を強いるものであり,本件アレルギーによる被害の実態を 正しく理解しない不当な要求である。 c⒜ 原告らの中には,最近の検査結果において,小麦又はグルテンの特異的IgE抗体値が陰性化している者もいる。しかし,アレルゲンが体内に取り込まれた際,アレルギー症状を引き起こすのは,体内(血液中)に単体で存在しているIgE抗体ではなく,マスト細胞と結合したIgE抗体であるところ,ELIZA法やウエスタン ブロット等の血液検査により窺い知ることができるのは,血液中の状態にすぎない。各検査は,マスト細胞と結合せず,血液中に存在するIgE抗体を検出するというものであり,これらの検査によって検出できるのは,あくまで血液中に存在しているIgE抗体の状態のみであり,仮にこれらの検査結果において小麦又はグルテンの 特異的IgE抗体値が陰性化していたとしても,体内にはマスト細胞と結合したIgE抗体が皮膚や粘膜などの組織に大量に残っている可能性があり,それらの量を直接検出する方法はないのである。 したがって,IgE抗体値が陰性化したからといって,本件アレルギーが治癒したと見ることはできず,実際に,症例報告の中には, 血清中抗原特異的IgEが陰性化しても,小麦製品の摂取後に本件アレルギーの症状がみられる症例を指摘しているものがある。 ⒝ 平成27年5月に日本アレルギー学会が行った講座において,通常の食事および日常生活を行い,3か月以上即時型アレルギー症状のない場合を「略治」と名づけ,石鹸の使用を中止して5年後には, 約40%が略治すると推定されるとの報告がなされた。 通常の食事および日常生活を行い,3か月以上即時型アレルギー症状のない場合を「略治」と名づけ,石鹸の使用を中止して5年後には, 約40%が略治すると推定されるとの報告がなされた。 しかしながら,原告らは,いずれも,現在でも本件石鹸の使用前のように,好きなだけ小麦を食べて好きなだけ運動する,ということはできておらず,本件石鹸の使用を中止して何年経てば何パーセントの人が略治する,というような一般的なデータは,本訴の損害 を考える上で直接的な意味はない。また,同報告は,「治癒」ではな く「略治」という,治癒に至らない状態しか見極めることができないということを指摘したにすぎず,しかも,石鹸の使用を中止して5年という長い年月が経過してもなお約60%の患者は略治にすら至らないということであって,損害評価において仮に考慮するとしても過大視すべきでない。 ⒞ 難治性の患者に対しては,オマリズマブを用いた新規治療法の開発が進められているようであり,被告片山化学は,この点を欠陥論との関係でのみ斟酌すべきと主張するが,かかる事情は欠陥論において斟酌されるべきものでないことは勿論,損害論において損害評価を小さくする意味で斟酌されることもあってはならない。 オマリズマブを用いた治療は,あくまで対症療法にすぎず,オマリズマブの投与を中止すれば,遊離IgE濃度及び症状は治療前の状態に戻り,長期投与を続けない限り,やがて効果が薄れるものである。効果を保ち続けようとすれば定期的に注射を受け続けなければならない。さらに,重大な副作用として,ショック,アナフィラ キシーが生じ得るのは重大な問題である。そもそも,こうした試みは,現在はまだ臨床研究の段階でしかなく,しかも,上記の け続けなければならない。さらに,重大な副作用として,ショック,アナフィラ キシーが生じ得るのは重大な問題である。そもそも,こうした試みは,現在はまだ臨床研究の段階でしかなく,しかも,上記の副作用の危険を理解しつつ,長期間注射を打ち続けようとする患者がどれくらいいるのかを考えた場合,上記治療法の存在を積極的に評価すべきでないことは明らかである。 (ウ) 上記症状の発生を抑えるために原告らが被る不利益a 本件アレルギーを根治するための有効,適切な治療方法は現在に至っても確立していない。したがって,上記した重篤なアレルギー症状の発生を避けるためには,日々の生活の中において小麦含有食品の徹底的な除去を要することになるが,原告らは,そのために極めて深刻 な生活上の不利益を長きにわたって被ることになる。 b 具体的な不利益の内容⒜ 小麦は,単にパンや洋菓子,和菓子類,スパゲッティその他のパスタ類,小麦粉又はパン粉のような判別しやすい食品にのみ含まれているわけではなく,例えば,そば,うどん,冷や麦,そうめん等のつなぎ,餃子,春巻き等の皮,とんかつ,天ぷら等の衣,シリア ル食品,カレーやシチュー等のルー,ハム,ソーセージ,かまぼこなどの練り物類,ピザ,お好み焼き,たこ焼き,もんじゃ焼き等の料理や加工食品,その他調味料や飲料の一部等にもわたって極めて広範に使用されている。原告らは,本件アレルギーの発症前には何の問題もなく摂取できていた実に多くの食品を一切摂取できなく なったものであり,その食生活上の不利益は極めて甚大といわざるを得ない。しかも,外食や市販の弁当等の購入に当たっては,どの食品に小麦成分が含まれているのかさえ明確でない場合も多く,誤って小麦成分を含む食 ものであり,その食生活上の不利益は極めて甚大といわざるを得ない。しかも,外食や市販の弁当等の購入に当たっては,どの食品に小麦成分が含まれているのかさえ明確でない場合も多く,誤って小麦成分を含む食品を食べてしまった場合の苦痛や,小麦成分を避けるために神経を使う心労等の苦痛は看過することができな いものである。原告らの中には,気付かぬうちに小麦を摂取してしまい,死の危険を感じるほどの苦痛を味わうことや,周囲に迷惑をかけることを恐れるあまり,そもそも食事をすること自体をできるだけ控え,我慢して生活する者も多い。 また,本件アレルギーは運動誘発性という性質を有するため,原 告らが小麦を誤って摂取してしまった場合には,症状の誘発を避けるために,数時間は身体的活動を避けて寝たきりの安静状態を要するのであり,その不利益は計り知れない。 ⒝ さらに,小麦含有食品を摂取できなくなった結果,外食や運動が困難となり,周囲との交際や余暇の楽しみ等の面においても,制約 が生じている。原告らの中には主婦である者も多く,そのような者 は小麦成分の摂取を避けるために,食事に工夫を加える手間を強いられ,家族全員で同じ食事をする楽しみさえ奪われている。なお,食品以外にも加水分解コムギ末は保湿成分や市販の医薬品,漢方薬にも使用されている場合があり,それらの使用も制限されている。 ⒞ 小麦食品を摂取できないことや運動が制限されることは,職業上, 小麦成分を扱う職種に従事できないだけではなく,広く多様な職種に就く原告らにおいて,小麦摂取時に安静を強いられて思うように仕事ができず,勤労意欲や作業能率に影響すること,接待,交際が制限されること等の諸々の点において,労働能力にも負の作用を及ぼしている。 ⒟ 本件アレルギーの予 に安静を強いられて思うように仕事ができず,勤労意欲や作業能率に影響すること,接待,交際が制限されること等の諸々の点において,労働能力にも負の作用を及ぼしている。 ⒟ 本件アレルギーの予後につき,現在の医学的知見では治療方法が確立されておらず,治癒する見込みも立っていない。したがって,原告らは,今後も,上記した生活を継続して送る必要があり,その不利益やいつ症状を再発するか分からないという精神的な不安,恐怖感による継続的な苦痛は耐え難いものである。 ⒠ 原告らが小麦成分の摂取を回避し,安全な食生活を送るためには,小麦アレルギー対応の特別な食品を購入しなければならない。また,アレルギー症状を抑制するためには,抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤などの常備を要し,万一,ショックを再発した場合に備えて,1本3000円するエピペン(アドレナリン自己注射器)を処方さ れている者もいる。原告らは,このような専用食品や薬剤購入の経済的負担を継続的に強いられる。 c 小括(原告らが被った損害の中核部分)原告らは,本件アレルギーの発症により,今後生涯の長きにわたり,一切の小麦含有食品を安全に摂取できなくなることを中核とする生 活全般にわたる極めて重大な損害を受けるに至ったのである。 イ本訴における原告らの請求(包括一律請求)(ア) 原告らの被った損害の捉え方原告らは,本件アレルギーの発症により,アレルギー被害による入通院費用,薬剤の購入等に要する治療関係費,休職を余儀なくされたことによる休業損害,逸失利益及び精神的苦痛の各損害を被ったことはいう までもないが,上記のとおり,社会生活,家庭生活,経済生活及び日常生活のあらゆる場面における生活全般で広範な被害を受け,損害項目のみでは評価しつく 利益及び精神的苦痛の各損害を被ったことはいう までもないが,上記のとおり,社会生活,家庭生活,経済生活及び日常生活のあらゆる場面における生活全般で広範な被害を受け,損害項目のみでは評価しつくせない多大な不利益を被った。そして,かかる生活上の不利益も今後も継続して被り続けるものである。 このような原告らの被った被害は複合的であり,かつこれを個別に金 銭換算して適正な損害額に反映させることは極めて困難であって,原告らにおいて一切の小麦含有食品を安全に摂取できなくなったことにより,今後長きにわたり上記のような生活全般にわたる被害を甘受しながら生活を続けなければならないこと自体が,本件製品事故により被った原告らの損害の実態というべきである。 そこで,原告らは,小麦含有食品を安全に摂取することができなくなったこと及び安心して食事をすることができなくなったことを共通損害としてとらえ,現在までに被った財産的及び精神的損害並びに今後被るであろう財産的及び精神的損害を包括した損害項目として,かつ,全損害を賠償する金額としても十分に控えめな請求として,包括一律請求 を主張する。 (イ) 原告らの請求に関する基本的な考え方についてa 本訴提起に至るまでの損害本訴提起までに,原告らは本件アレルギーを発症し,症状の発現による被害を被った。これに加え,発症から1年以上の期間にわたり生 活上の不利益を日々被ってきたことに鑑みれば,その財産的及び精神 的損害を含めた包括的かつ控えめな一律の損害額は,100万円を下らない。 加えて,アナフィラキシーショックを発症して救急搬送されるなど,生命の危険にさらされた経験を有する者については,生命の危険又は死の恐怖を感じたことによる苦痛の大きさ,小麦摂取を回避す 下らない。 加えて,アナフィラキシーショックを発症して救急搬送されるなど,生命の危険にさらされた経験を有する者については,生命の危険又は死の恐怖を感じたことによる苦痛の大きさ,小麦摂取を回避する等の 生活を強いられる程度の大きさに鑑み,より高額な請求が認められてしかるべきであり,アナフィラキシーショックを生じた者については,150万円を包括的,一律的な損害額とすべきである。 b 今後将来的に継続する不利益に関する損害また,原告らは,本件アレルギーの根治的な治療方法が確立されな い限り,今後生涯の長きにわたり上記した不利益を被り続けることになる。すると,各原告らの平均余命までの期間に応じて,上記aの年額を基礎に損害額を試算し,更に,専門的な知見を要する訴訟の提起に要した弁護士費用(上記金額の20%に相当するというべきである。)を加算した金額は,アナフィラキシーショックを生じた原告ら (Aランク)についてはいずれも1500万円,そうでない原告ら(Bランク)についてはいずれも1000万円を優に上回る。 (ウ) 本訴における原告らの請求額以上を前提に,原告らは,控えめな算定による包括一律請求として,Aランクに属する原告らにつき1500万円,Bランクに属する原告ら については1000万円の各支払を,連帯して,被告らに対して求める。 ウ金銭評価に関する考え方(ア) 小麦含有食品を安心し,又安全に食べられなくなったことを中核とする本件アレルギーの発症による損害の評価は,前述した生活全般にわたる不利益が今後生涯の長きにわたって継続することの苦痛に対する評 価にほかならず,この苦痛の評価をどのように考えるかについては,類 例があるわけではないので,新たな被害類型の損害として法的 今後生涯の長きにわたって継続することの苦痛に対する評 価にほかならず,この苦痛の評価をどのように考えるかについては,類 例があるわけではないので,新たな被害類型の損害として法的に評価せざるを得ない。 (イ) 本件アレルギーにつき,現在の医学的知見でも治療方法が確立しておらず,治癒するか否か不明であることに照らせば,仮に,労災,交通事故事件において実務上一般的に採用されている損害基準を参照したと すると,未だ症状固定に至らず,治療中であると評価することが考えられる。とするならば,交通事故の損害算定基準にて評価した場合,傷害慰謝料だけでも発生時から2年間経過時点でも200万円を超え,5年以上経過している本件では相当の金額となる。 他方で,本件アレルギーは,治療方法がなく,治癒しないとすると, 既に症状固定していると評価することも考えられるが,その場合の後遺障害評価で問題とされるべき損害は,固定した身体機能に対する評価である。本件アレルギー被害は,単に小麦摂取を控えなければならない制約やこれに伴う生活利益の喪失のみならず,今後外食等により不可避的に小麦を摂取した場合に,再びアレルギー症状が,しかも生命に関わる ような重篤なアレルギー症状が起きる危険ないし恐怖が継続しているという被害(いわば体内に爆弾を抱え続ける被害)であって,固定した機能障害として損害評価することは適切ではなく,同様の評価では評価として不十分である。仮に,交通事故等と同様の視点に立って損害額を考えてみても,その後遺障害の程度(等級)は,小麦含有製品を食せな いことを「味覚脱失」(基本4味覚(甘味,塩味,酸味,苦味)全てが認知できないもの)に類するものと捉えたとすると,12級相当となり,後遺障害慰謝料だけで280万円となる。そ 含有製品を食せな いことを「味覚脱失」(基本4味覚(甘味,塩味,酸味,苦味)全てが認知できないもの)に類するものと捉えたとすると,12級相当となり,後遺障害慰謝料だけで280万円となる。そして,「胸腹部臓器の機能に障害が残るもの」(後遺障害等級13級11号)と捉えたとしても,本件アレルギーに伴う被害は,かかる後遺障害の類型により評価される身体 の機能障害にとどまらない広範な社会的な不利益であるから,その金額 ははるかに高額になると解される。 (ウ) 以上のとおり,本件アレルギー被害の実態を直視し,その重篤性,重大性,長期間にわたる被害であることを踏まえて損害評価した場合,少なくとも,原告らの損害が本訴請求に係る損害額を下回ることはない。 エ損害の増減額事由について (ア) 過失相殺等に関する主張a 製造物責任法が,欠陥のある製品による被害者を保護すべく,一般不法行為における過失責任から厳格な欠陥責任を認めるに至った趣旨に照らせば,過失相殺は一般不法行為の場合よりも制限されなければならず,例外的な場合に限って許されるというべきである。 被告らは,本件石鹸の使用に際して肌や眼に異常を感じた時点で本件石鹸の使用を中止せず,なおも使用を継続した者に対して,過失相殺がされるべきである旨主張するが,本件石鹸のパッケージ等ではその利点が強調される反面,本件石鹸の使用により小麦アレルギーが生じる危険性があることについては,およそ何らの指示ないし警告もさ れておらず,原告らが自発的に石鹸の使用を中止することなどおよそ不可能であった。また,本件石鹸の使用が本件アレルギーの原因であることは,本件製品事故の初期段階で医師ですら思い至らなかったもの れておらず,原告らが自発的に石鹸の使用を中止することなどおよそ不可能であった。また,本件石鹸の使用が本件アレルギーの原因であることは,本件製品事故の初期段階で医師ですら思い至らなかったものであり,仮に原告らが,本件石鹸の使用を直ちに中止しなかったとしても,それをもって損害額を減額するほどの落ち度であると評価さ れるものではない。そもそも,本件アレルギーの初期症状が出た時点で,既にグルパール19Sに対する感作が成立しているとみるべきであり,本件石鹸の使用を中止したからといって被害の発生,拡大を回避し得たのか甚だ疑問である。 以上のとおり,原告らにおいて本件石鹸の使用を完全に回避する行 動をとることは到底期待できなかったのであり,被告ら自身でさえ, 欠陥の存在を否定し,開発危険の抗弁まで主張して殊更責任を否定しようとしている本件において,原告らの使用時の落ち度を問うことは許されるものではない。 b むしろ,非難されるべきなのは,平成22年10月15日に厚生労働省が本件石鹸及び本件アレルギーの発症に関する通知を公表する などして注意喚起を行うに至るまで,本件石鹸の製造販売を続けた被告悠香である。 上記の注意喚起文書にもあるとおり,上記の時点から2年も以前から本件アレルギーに関する症例報告はされていたのであり,平成21年9月末時点では,医学雑誌にも,本件石鹸の使用により小麦アレル ギーを発症した症例の報告がされていた。被告悠香が,かかる情報に基づいて,より早く,本件石鹸の製造,販売を中止していれば,その後の被害の発生,拡大を防止することができたはずである。しかも,かかる厚生労働省の注意喚起があってもなお,被告悠香は,本件石鹸に重大な問題があることを明確にした社告等を行うことはなく ていれば,その後の被害の発生,拡大を防止することができたはずである。しかも,かかる厚生労働省の注意喚起があってもなお,被告悠香は,本件石鹸に重大な問題があることを明確にした社告等を行うことはなく,その 後も,使用者や一般消費者への迅速かつ適切な情報提供も製品の回収も行わないまま,平成22年12月7日販売分まで漫然と本件石鹸を販売し続け,平成23年5月に至るまで自主回収開始を公表しなかったのである。 このような被告悠香との関係で原告らに損害を分担させる理由な どなく,むしろ被告悠香の不誠実な企業態度は原告らの慰謝料の増額事由というべきである。 (イ) 素因減額に関する主張被告らは,提出されたカルテ等の検討により,原告らの体質が,症状の発症や重症化に影響しているのではないかと縷々主張する。 しかし,原告らの中には,本件石鹸の使用前から小麦アレルギーの症 状を有していた者は存在しない。また,現在までに判明している医学的知見によれば,アレルギー疾患の既往と本件アレルギーの発症との間には関連性がないことが示されており,もともとアレルギー等の既往があったとしても,本件アレルギーの発症等とは無関係である。 また,本件石鹸は,肌に優しい石鹸として開発され,アトピー性皮膚 炎の症状を有する者にも適した製品であることが宣伝されていたものであることからすれば,発症者の中に仮にアトピー性皮膚炎等の既往がある者がいたとしても,損害の公平な分担の見地から,これを減額事由とすることは許されない。 原告らにおいて素因減額をすべき事由は何ら見出すことができない。 (ウ) 既払金分の控除(損益相殺)について原告らは,個別損害積上方式による個 されない。 原告らにおいて素因減額をすべき事由は何ら見出すことができない。 (ウ) 既払金分の控除(損益相殺)について原告らは,個別損害積上方式による個々の損害を積算せず,共通損害について控えめに同額の包括請求を行っているものであり,仮に被告悠香に既払金があったとしても,そのことのみで直ちに控除すべきものにはならない。 また,そもそも被告悠香の一部原告らに対する既払金とされるものは,損害賠償金とは趣旨の異なる見舞金である旨を明示して支払われたものであり,いずれにしても控除することは許されない。 オ遅延損害金の起算日被告らの製造物責任は不法行為責任であり,不法行為発生時から遅延損 害金が発生することはいうまでもない。 【被告らの主張(損害総論)】ア包括一律請求における損害の把握及びその額原告らは,本訴においていわゆる包括一律請求方式の採用を主張している。かかる請求は,各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求める のではなく,本件石鹸の使用により原告ら全員が最小限度被ったと認めら れる被害を原告らに共通する損害として,各自につきその限度で慰謝料という形でその賠償を求めるものであり,その性質上,原告間に共通する最小限の損害のみが認められる(最高裁昭和51年(オ)第395号,同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)。したがって,原告ら各自の被害の程度には軽重があっても,認容される損害額は, あくまで各原告間に共通する最小限の損害額にとどまり,この意味で損害額が低額にとどまることはやむを得ない。原告らは症状や状態が重かった者を前提として現在でも症状が治まらず本件アレルギーは治癒し あくまで各原告間に共通する最小限の損害額にとどまり,この意味で損害額が低額にとどまることはやむを得ない。原告らは症状や状態が重かった者を前提として現在でも症状が治まらず本件アレルギーは治癒しないものである旨等の主張を繰り返すが,原告らの中には軽度の症状を生じたにとどまり,早期に治癒状態に至った者もみられ,原告らが包括一律請求を 維持するのであればかかる主張は無意味であるし,原告ら全員に生じていない損害(例えば,休業損害等)をもって共通損害を捉えることは許されない。 また,包括一律請求は,集団訴訟等において原告らに生じた個別の損害額の積み上げを要しない点で原告側の立証の負担を軽減し,訴訟の促進に 役立ち,集団訴訟における被害者の団結にも有利に作用するなど,被害者たる原告らの便宜にも資する請求である反面,被告側においては,通常訴訟において行われるものと同レベルの防御権の行使が困難である。かかる点からしても,包括一律請求による場合は,個別積上方式により財産的損害が立証できた場合に予想される損害額よりもかなり低額の認定とされ るべきである。 以上によれば,仮に包括一律請求が認められたとしても,原告側において相当程度の立証がされ,被告側において適切な防御権の行使が行われた損害のみが考慮されるべきであり,裁判所は判断内容の客観性を確保し,謙抑的な金額を認容すべきである。包括一律請求を維持しつつ,個別損害 について十分な立証を行わないのに,症状が軽かった者が個別損害を積み 上げて計算をした場合の金額を超える過大な損害賠償を得ることは,不法行為制度における損害の公平な分担という趣旨を著しく害し,他の人身損害賠償請求訴訟との均衡も全く保てないのであり,到底許されるものではない。 イ損害の内 る過大な損害賠償を得ることは,不法行為制度における損害の公平な分担という趣旨を著しく害し,他の人身損害賠償請求訴訟との均衡も全く保てないのであり,到底許されるものではない。 イ損害の内容及びその主張立証責任の所在について 原告らの請求が包括一律請求であるとしても,損害の主張立証責任はあくまで原告らにある。 一般に,人身損害賠償請求においては,治療の必要性がある期間の治療費,慰謝料等が損害としてとらえられるのであり,本件においても,損害と評価できる状態がいつからいつまであったかを原告らは主張立証すべ きであるところ,原告らが,客観的な資料をもって,具体的な被害の状態,程度,通院の必要性がある状態にあること,通院回数,積極損害額や消極損害額等を立証しない限りは,損害として評価のしようがない。 この点,原告らは,小麦含有食品を安全に摂取することができなくなったことや安心して食事をすることができなくなったことを共通損害であ ると主張するが,そのような極めて曖昧かつ抽象的な不安感等をもって損害を算定することは不可能というべきである。原告らは,共通損害として,原告ら全員において最小限共通していつからいつまでどのような症状が出る状態が継続し,小麦摂取ができない状態にあったのか,損害が発生するような状態にあったのか,治療の必要性がある状態にあったのかなど, 損害を算定する上で基礎となる事情を何ら立証できていない。 また,原告らの主張する損害は,傷病を理由とする他の損害賠償請求訴訟等(とりわけその基本となる交通事故損害賠償請求訴訟)と比較しても,合理的な理由なく不相当に損害額や損害項目を拡大している点で不当である。小麦摂取が制限されることによる支障や症状の発症に伴う不利益等 は,個々の症状が発現 事故損害賠償請求訴訟)と比較しても,合理的な理由なく不相当に損害額や損害項目を拡大している点で不当である。小麦摂取が制限されることによる支障や症状の発症に伴う不利益等 は,個々の症状が発現した際の入通院日数に応じた損害により,評価され 尽くされており,独自の項目として損害算定をする余地はない。 ウ本件アレルギーの一般的な予後及び原告らの症状(ア) 本件アレルギーの一般的な予後a 本件アレルギーについては,他のアレルギーとは異なり,現在までに明らかにされた医学的調査や報告等により,回復,治癒傾向を有す ることが裏付けられており,実際に本件アレルギーの発症者の大多数が(もともと又はその後早期に)特段の問題なく小麦を摂取できる状態に回復しているものである。 b⒜ 例えば,厚生労働省が実施した本件石鹸の使用者に発生したアレルギーに関する調査(乙イ総C1)によれば,本件アレルギー患者 のうち,当初から小麦を摂取し続けていた者やその後に小麦摂取を再開した者が非常に多いことが明らかとされた。 ⒝ また,平成25年11月に開催された特別委員会における報告の中にも,「石鹸使用中止後3年以上経過している症例207例のなかで87%は小麦を摂取しており,摂取しても51%は症状がない と答えていた。」,「現在90%の人が小麦を食べている。4%程度が食べられていない。」,「対象57例中,…2013年6月現在,重症度に限らず42例は小麦製品を摂取している。」,「当該アレルギー患者は臨床症状,SPT,sIgEともに軽快傾向であり,いずれは治癒する可能性が示唆された。」などというものがあった。 上記の報告の中にもあるとおり,患者らの中には実際は小麦製品を摂取できる可能性があるものの,患者自 Eともに軽快傾向であり,いずれは治癒する可能性が示唆された。」などというものがあった。 上記の報告の中にもあるとおり,患者らの中には実際は小麦製品を摂取できる可能性があるものの,患者自身がコムギを摂取せず,治ったか判断できない例も多いものと考えられ,このことも本訴における損害を考える上で考慮すべき事情である。 ⒞ さらに,平成27年の日本アレルギー学会における報告(乙イ総 C6)においても,特別委員会による全国疫学調査の結果によれば, 本件アレルギーの登録総数2011例につき,「経過が確認できた192例中89%はコムギを摂取しており,GP19S特異IgE抗体はほとんどの症例で経時的に減少していた。」,「GP19Sコムギアレルギーは多くの症例で,血清特異IgE抗体は減少しており,コムギ摂取できる症例が増加していた」と報告され,本件アレ ルギーの回復,治癒傾向が再度確認された。 この点,千貫医師らによる報告によれば,複数回経過を追跡できた本件アレルギー患者350名を対象として,カプランマイヤー法を用いた治癒曲線を作成し,石鹸使用中止からコムギアレルギー略治までの期間を推定したところ,治癒期間の推定中央値は石鹸の使 用中止から65,3か月であること,本件アレルギーの多くは治癒傾向がみられるが,一部で治癒が遷延する傾向があることが指摘されている。この結果からは,本件アレルギーが治癒するものであること,又は多くの患者が治癒傾向にあることが見て取れる。 なお,本訴において問題とされるべきは,損害と評価できる状態 がいつからいつまであったのかであるから,略治に至らない場合があることや治癒までの期間を要することをもってしても,そのこと自体を損害と評価することができず,原告側において損害と評価で る状態 がいつからいつまであったのかであるから,略治に至らない場合があることや治癒までの期間を要することをもってしても,そのこと自体を損害と評価することができず,原告側において損害と評価できる状態を客観的資料によって立証しなければならない。また,カプランマイヤー法においては,実際に回復,治癒した多数の者が分 母から外されているため,より早く治癒している者が多数いるものと考えられ,上記の数値のみを過大視すべきでない。 (イ) 原告らの症状及び症状に関する主張についてa 前記(ア)のとおり,本件アレルギーは患者の大多数において早期に回復,治癒する傾向にあることが明らかになっており,原告らにおいて も同様の状況が当てはまるはずである。それにもかかわらず,原告ら 全員において現在でも食事制限等が必要であり,損害が継続しているなどと主張するのであれば,口頭弁論終結時においてもなお重篤な症状があり小麦製品を摂取できない状態にあるということを原告らにおいて客観的に立証する必要がある。しかし,原告らは,陳述書やカルテの主訴部分等をもって立証が十分であるとするにとどまるとこ ろ,主訴等は,その性質上,多分に個々人の感覚や感情等に左右されるものであり,これを証拠評価において重視することはできないというべきである。 この点,原告らにおいて現実に小麦製品が摂取できない状態や症状が出る状態が継続していることを立証する手段として食物経口負荷 試験という方法が存在する。これは食物アレルギーの最も確実な診断法と評価されており,確定診断(原因アレルゲンの同定),耐性獲得の確認,誤食時のリスク評価及び安全摂取可能量の決定等を目的として実施されるものである。原告らは食物経口負荷試験という安全かつ現 診断法と評価されており,確定診断(原因アレルゲンの同定),耐性獲得の確認,誤食時のリスク評価及び安全摂取可能量の決定等を目的として実施されるものである。原告らは食物経口負荷試験という安全かつ現実的な手段によって現実にいつからいつまでどの程度の量の小麦製 品をどういう状況のもとで摂取することができない状態にあったのか医学的客観的に立証することが可能であるにもかかわらず,その立証を行わず,立証不足の負担は原告らが負うべきである。 b 原告らの多くは,カルテ等によれば小麦及びグルテンに関するIgE抗体値の減少が見られ,これは原告らのアレルギー症状が回復傾向 にあることの客観的裏付けである。理論上,IgE抗体がアレルギー症状を誘発することは紛れもない事実であり,これが減少すればアレルギー症状の程度も低下すると考えることができるし,本件アレルギーに関する多数の医学的報告がIgE抗体値に着目し,実際の臨床においても繰り返しIgE抗体値が計測されていること等の実態に照 らしても,IgE抗体値の減少が本件アレルギーの回復を示す指標で あることは明らかである。これに反して,原告らがIgE抗体価の減少が回復傾向を意味しないと主張するのであれば,例えば,小麦特異的IgE抗体価が陰性化している個体において,食物経口負荷試験によって症状が出ることやその程度,状態等を医学的,客観的に立証するべきである。 他方で,アレルギーはIgE抗体が存在するからといって常に反応を示すものではなく,実際にIgE抗体値が陽性であっても小麦製品を摂取できるケースもみられることからすれば,その数値の高さをもって小麦製品が摂取できない状態にあるということはできないし,一度IgE抗体値が陽性であったとしても,短期間で擬陽性ないし陰性 品を摂取できるケースもみられることからすれば,その数値の高さをもって小麦製品が摂取できない状態にあるということはできないし,一度IgE抗体値が陽性であったとしても,短期間で擬陽性ないし陰性 化している例もあるなど,IgE抗体値の高さを直ちに損害に結び付けることも不当である。 c 食物アレルギーの場合,アレルゲンに対する耐性獲得に伴ってIgE抗体値が陰性化することが多いことは,基礎的な医学的知見であり,原告らの臨床経過をみても,小麦及びグルテンIgE抗体値の陰性化 後に,主治医より小麦を徐々に摂取することが勧められている。 小麦及びグルテンIgE抗体値の陰性化は,その後の小麦摂取への指標として利用されていることは明らかであり,原告ら個々人において,小麦及びグルテンIgE抗体値の陰性化が確認できる場合には,本件アレルギーによる症状も客観的にみて軽快しているものと推定 できる。また,前回の抗体値の検査時期から既に相当年数が経過しているにもかかわらず検査を実施していない場合には,これまでの本件アレルギーの患者の全体的な傾向に鑑み,特に陽性所見であるとの立証がなされない限り,たとえ過去の検査時期に陽性所見が認められたとしても,その経過期間に応じてその後,陰性化しているものと推定 するのが相当である。 原告らの一部には,小麦及びグルテンIgE抗体値が陰性化しているにもかかわらず,グルパール19Sの抗体反応が残存していることを理由に,医師から小麦含有製品の摂取を制限されている者もいるようであるが,医学文献によっても,グルパール19Sの抗体反応の残存と小麦及びグルテンIgE抗体値の陰性化は別であり,グルパール 19Sの抗体反応が残存していてもそのことから直接小麦含有製品を食べることができないと によっても,グルパール19Sの抗体反応の残存と小麦及びグルテンIgE抗体値の陰性化は別であり,グルパール 19Sの抗体反応が残存していてもそのことから直接小麦含有製品を食べることができないということにはならない。 なお,原告らは,小麦及びグルテンIgE抗体値が陰性化したとしても,グルパール19Sに対するプリックテスト等の反応が消滅していない限り,同種の加水分解コムギ末に対するアレルギー反応の危険 性があると主張する。しかし,グルパール19S自体は既に製造中止となっているほか,これと同種類の製品類は販売停止となっているなど,今後グルパール及び類似の加水分解物を原因としてアレルギー反応が生じる危険性はほぼなく,将来的にグルパール19S及びこれと類似した加水分解物を原因としてアレルギー症状が発生する蓋然性 の程度は実質的には極めて低いと評価することができる。 d 原告らの中には,継続的な通院を行っておらず,エピペンなどの薬剤の処方も継続的に受けていない者など,最終受診時期から相当期間が経過している者もいる。そのような原告らについては,最終受診時期以後は,少なくとも通院を要する程度の症状の再発もないことが合 理的に推認できるから,原告らが主張する症状再発の不安感は解消されたものと推認でき,結論として,現在では治癒ないし寛解しているものと推定できる。 仮に通院の事実はなくても,日常生活上小麦の摂取の制限を続けていたり,現実には本件アレルギーの症状が発生したりしている可能性 があるが,原告らも主張するとおり,小麦は,現在では様々な食品と して用いられているのみならず,加工食品の原料やシャンプー,化粧品などの成分等としても使用されているし,食品の製造工程の過程で,たまたま小麦を原料として使用し 現在では様々な食品と して用いられているのみならず,加工食品の原料やシャンプー,化粧品などの成分等としても使用されているし,食品の製造工程の過程で,たまたま小麦を原料として使用した製造容器等を他の食品の製造工程で使用する場合に混入することもあるのだから,実際上,人が日常生活を送る上で,小麦の摂取を回避することは事実上困難なはずであ る。そうだとすれば,客観的に小麦の摂取を避けられない環境があるにもかかわらず,現実に病院に通院しておらず,抗アレルギー薬剤等の処方を受けていないという事実は,これらの原告らの症状の程度が軽微であり,日常生活上,格別に重視するほどの症状の経過が認められず,また,重篤な症状の発症への心理的不安感も相当程度解消され たことを推認できる事実というべきである。 e 原告らはアナフィラキシーショックを発症した原告については死の恐怖を味わったことによる精神的苦痛の大きさから,損害額をかさ上げして請求しているが,一般的に交通事故等において死の恐怖を味わうような事故に遭ったと主張しても,極めて主観的かつ客観的に把 握できない恐怖感なるものをもって慰謝料は独自に計算されておらず,そのような損害を認めること自体できない。 そもそも,アナフィラキシーショックとはアナフィラキシーに加え,血圧低下や意識障害等の重篤な症状を伴う場合をいうが,これを発症したと主張する原告らの多くが,カルテ等の客観的資料にその旨の記 載がなく,その存在自体を立証できていない。 また,現在までに判明している知見によれば,ショックを生じた者であっても,本件アレルギーは本件石鹸の使用を中止すれば回復傾向にあり,今後,同様のショックを再度生じる可能性が高いということはできず,原告らの主張するランク分けには疑問がある。 ショックを生じた者であっても,本件アレルギーは本件石鹸の使用を中止すれば回復傾向にあり,今後,同様のショックを再度生じる可能性が高いということはできず,原告らの主張するランク分けには疑問がある。 エ損害額の算定について (ア) 本件アレルギーの実態をみれば,患者ないし原告ら各人によって小麦を食べられない程度や,症状,期間の差は極めて大きく,原告らに共通する損害としてその小麦摂取の状況や症状を評価することは不可能である。 そもそも原告らが主張する小麦摂取の状況や症状の継続性等につい ては,検査結果等に裏付けられた客観的な立証がなく,また,一般的にQOLの低下や1回1回の症状の発現に伴う苦痛というものは通院日数に基づく入通院慰謝料で評価し尽くされるものであり,これが独自に損害として評価されることはない。例えば,一般的な人身損害賠償請求訴訟において,むち打ちの首の痛みで,1年間運動やスポーツができな かったとか,顔面に傷ができ,顔面醜状により外に出られない期間が長期間続いたとか,何月何日の痛みが非常に強くて動けなかったとか,歯を失って1年間まともに食事ができなかったとか,死の恐怖を味わってその後車に乗れなくなったとか,救急搬送された等の各症状の経験やQOLの低下を言えばきりがないが,これらも含めて入通院慰謝料により 損害評価されているものである。 (イ) 本件アレルギーにおいて,損害を認めるのであれば,その拠るべきところはカルテ等に現れた客観的な入通院日数や医学的・客観的な検査結果である。そして,入通院慰謝料を中心として,治療費や通院交通費等が本件における具体的な損害の内容として考えられるが,一方で,原告 ら全員について現時点において症状が寛解していないこと(残存して である。そして,入通院慰謝料を中心として,治療費や通院交通費等が本件における具体的な損害の内容として考えられるが,一方で,原告 ら全員について現時点において症状が寛解していないこと(残存していること)及び今後回復する可能性がないこと(一生涯続くこと)について医学的・客観的な立証がされていないから,後遺障害に関する損害が認められる余地はなく,同様に全員に生じていない休業損害も共通損害としては考慮することができない。 そして,かかる観点から原告らの症状を見ると,発症当初から小麦特 異的IgE抗体価が陰性であり,小麦製品の摂取が継続できていたものとみられる者すらおり,小麦特異的IgE抗体価が陽性であるとしても,その期間における通院日数(及び総通院日数)は数日程度で入院をしていない者等もみられ,通院慰謝料を観念するとしても,原告らは日常的に持続した症状があるわけではなく,小麦を摂取し,かつ運動をしなけ れば症状は発現しないことを考慮すれば,包括一律請求を前提とした原告らに共通損害として認められるべき損害額は,仮に認められるとしても,数万円ないし数十万円という低額なものになるといわざるを得ない。 オ減額事由について(ア) 過失相殺について 一般的に化粧品,石鹸又はシャンプー等を使用して肌等にトラブルが発生すれば,使用者としては,使用品による症状であることを疑い,使用を中止する判断をするのが通常である。本件石鹸においても外箱や包装紙において「使用中,赤み,かゆみ,刺激等の異常が出た場合は,使用を中止し皮膚科専門医へご相談ください。」,「お肌に合わないときは ご使用をおやめください。」等と指示ないし警告をしていた。そして,本件アレルギーの典型例は,石鹸を使用した時 出た場合は,使用を中止し皮膚科専門医へご相談ください。」,「お肌に合わないときは ご使用をおやめください。」等と指示ないし警告をしていた。そして,本件アレルギーの典型例は,石鹸を使用した時に生じる眼のかゆみや皮膚のかゆみ・鼻炎症状が始まり,その後,小麦を食べたときに食物アレルギー症状が出るようになるというものであり,原告らのほとんどにおいて,小麦アレルギーを起こす前に,本件石鹸使用時に肌や眼に異常を感 じていた又は異常があったものと考えられる。そうであれば,本件石鹸による症状であることを疑い,指示ないし警告に従って本件石鹸の使用を中止する判断をするのが通常である。それにもかかわらず,原告らは,上記指示警告に従うことなく本件石鹸の使用を継続した結果,小麦アレルギーを発症又は増悪させるに到ったものといえる。なお,本件におい ては石鹸使用中止後,早期に回復,治癒する傾向にあることがわかって おり,石鹸使用の中止が早ければ,それだけ回復も早いことになる。よって,損害の公平な分担の見地から,原告らには少なくとも5割程度の過失相殺をするべき不注意,落ち度が認められる。 (イ) 素因減額について既に主張しているとおり,アレルギーは,そもそも身体にとって「有 用又は無害な物」に対する「過剰な免疫反応」であり,本件アレルギー発症の原因は,グルパール19Sを抗原として,過剰な免疫反応を起こした原告ら自身の過剰免疫体質にある。特別委員会は,当初から,本件アレルギーの症状の重篤化には素因が寄与していると指摘していた。そして,現時点での遷延症例については,本件アレルギー罹患以前から職 業的に小麦に暴露されることが多かった者,従来型の小麦アレルギーであるω-5グリアジンに陽性反応を示していた者や重度 いた。そして,現時点での遷延症例については,本件アレルギー罹患以前から職 業的に小麦に暴露されることが多かった者,従来型の小麦アレルギーであるω-5グリアジンに陽性反応を示していた者や重度のアトピー素因保有者でありアレルギー体質である者が該当しているとの医学的知見があり,原告らのカルテによっても同様の傾向が読み取れる。つまり,本件アレルギーの重症化には,上記素因が寄与しているということがで きる。また,本件アレルギーの発症には,遺伝的素因の関与が窺われることが繰り返し指摘されており,アレルギー一般の機序として,患者自身の遺伝的な素因が関与していることが判明している。本件アレルギーの発症者は本件石鹸を使用した者全てではなく,わずか0.03%にすぎないことからすれば,このような体質が原因となって生じたアレルギ ー被害による全損害を被告らだけに負わせることは,衡平を失するというべきである。 以上によれば,本訴においては少なくとも5割程度の素因減額が認められるべきである。 (ウ) オマリズマブによる治療可能性 原告らの中には,治癒寛解傾向が認められず,難治性の病態を示す症 例も存するが,島根大学の後押しにより設立されたNPO法人生活習慣病予防研究センターで,難治性の患者を対象としてオマリズマブを用いた臨床研究が行われたところ,オマリズマブの投与により小麦を摂取できる状態に回復し得ること,少なくとも6ヶ月後には数値も下がってくるという結果が得られ,難治性の本件アレルギーについても治癒可能性 があるとの結論が示された。 したがって,本件アレルギーは,難治性の経過を辿ったとしても,オマリズマブを投与することによって治癒に至る可能性が示されており,このことは症状の回復可能性を示すものと があるとの結論が示された。 したがって,本件アレルギーは,難治性の経過を辿ったとしても,オマリズマブを投与することによって治癒に至る可能性が示されており,このことは症状の回復可能性を示すものとして,損害算定に斟酌されねばならない。 (エ) 損益相殺(既払金控除)について本件では,被告悠香から原告らに対し,仮払金として治療費等の一部が支払われていることから,既払金控除が行われるべきである。 カ遅延損害金の起算日本訴請求が包括一律請求であることに照らせば,仮に被告らに責任が認 められたとしても,遅延損害金の起算日は口頭弁論終結時とされるべきである。 【原告らの主張(各原告の症状等)】ア原告番号8(A1)平成17年冬頃,母から分けてもらって本件石鹸の使用を開始し,厚生 労働省による発表等を知るまで毎日使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 使用を開始した初期から,使用後に手指の湿疹,充血,顔の腫脹等がみられた。平成23年5月23日には,朝食後,顔面が腫れあがり,全身にみみず腫れが出て熱くなり,立っていられない状態となって救急搬送をさ れた後3日間入院し,同年7月18日にも夕食後に同様の症状が出て救急 搬送をされたことがあるなど,入院を要するほどの重篤なショック症状を少なくとも2回起こした。 現時点でも症状は継続している。自宅で小麦製品を摂取することもあるが,食前にアレルギー薬を服用し,食後の運動も控えており,小麦の摂取量や期間いかんによっては,このような処置をとっても目の周りの痒みや 下痢等の症状が発現する。現在も継続して通院し,アレルギー薬の処方を受けており,小麦製品を食べられない苦痛や,食事内 麦の摂取量や期間いかんによっては,このような処置をとっても目の周りの痒みや 下痢等の症状が発現する。現在も継続して通院し,アレルギー薬の処方を受けており,小麦製品を食べられない苦痛や,食事内容を工夫しなければならない不便,夫や両親に家事等の負担を任せている負担等,生活上の不利益が続いている。 イ原告番号17(A2) 平成21年2月から同年12月までの間,本件石鹸を購入して使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 平成22年6月6日頃,移動中に,顔の腫脹,全身の蕁麻疹等の症状を生じ,意識が遠のいて倒れ,救急搬送され,搬送先の病院で点滴等の治療を受けた。その後,大阪大学医学部附属病院において,本件アレルギーの 診断を受けた。 発症後,小麦を摂取しない生活を続け,そのため症状は発現していないが,現在でも同様の生活を続けている。年に1回程度,東京医科大学病院皮膚科に通院しており,担当医師からは今でも小麦を食べないように指示され,抗アレルギー薬(エバステル)の処方を受けている。 小麦を摂取できない制限のほか,家族や知人に気遣いを強いたり,治療費,代替食品(米粉パン等)の購入費用の負担を強いられたりするなど,心理的,金銭的な負担は今なお重い。 ウ原告番号18(A3)平成18年6月23日から平成23年5月頃まで,母が購入していた本 件石鹸をメイク落とし,洗顔及び入浴時の洗身に使用していたところ,本 件アレルギーを発症した。 使用開始初期から目の痒み,顔面の湿疹等が生じたが,本件石鹸が原因と知らず,その後も使用を継続し,湿疹が全身に広がる,下痢や吐き気を生じるなど,徐々に症状が悪化した。平成22年6月27日,食後 使用開始初期から目の痒み,顔面の湿疹等が生じたが,本件石鹸が原因と知らず,その後も使用を継続し,湿疹が全身に広がる,下痢や吐き気を生じるなど,徐々に症状が悪化した。平成22年6月27日,食後に外出したところ,顔の腫脹のため瞼が開かなくなり,意識が朦朧として立って いられなくなり,父に連絡を取って病院を受診することがあった。 本件アレルギーとの診断を受けた後は,家族の協力もあり,小麦を一切摂取しない生活を続け,今でもできるだけ小麦は食べず,どうしても食べたいときには食後安静にしている。現在も症状が出ないわけではなく,平成29年末頃,小麦製品と知らずに摂取した際には目の腫れや湿疹のため 病院を受診し,抗アレルギー薬の処方を受けた。 小麦製品の摂取制限のほか,これまでの症状のために体中に湿疹の痕が残り,肌を露出する服装を避けざるを得ない生活を続けており,肉体的苦痛だけでなく,精神的苦痛も今なお大きい。 エ原告番号21(A4) 平成21年8月に通信販売で本件石鹸を購入し,洗顔や入浴時に毎日使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 同年10月頃から石鹸使用時に目の痒み等を生じはじめた。その後,小麦摂取後に顔面の腫脹や激しい下痢等を生じるようになり,平成22年4月12日から同月16日にかけて関西医科大学附属枚方病院に検査入院 して小麦の負荷テストを実施すると,ショック症状を引き起こした。 現在まで小麦製品を摂取しない生活を続けているところ,小麦を摂取できないことに伴う精神的負担は大きく,一時期うつ状態に陥るほどであった。気付かず小麦製品を摂取してしまった際には依然,顔や眼の腫れ,下痢等の症状が生じ,現在でも年に2回,定期的に通院をし,エピペンと抗 ことに伴う精神的負担は大きく,一時期うつ状態に陥るほどであった。気付かず小麦製品を摂取してしまった際には依然,顔や眼の腫れ,下痢等の症状が生じ,現在でも年に2回,定期的に通院をし,エピペンと抗 アレルギー剤(ザイザル等)の処方を受けている。 小麦製品を食べられない生活に伴って家族や友人にも気を遣わせており,肉体的,心理的苦痛は今でも続いている。 オ原告番号22(A5)平成17年7月から平成23年5月にかけて,3か月置きに本件石鹸を購入し,毎日洗顔に使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 平成17年末頃から蕁麻疹が出現したが,本件石鹸によるものとは知らず,平成18年2月6日の朝食後,蕁麻疹,嘔吐,下痢の症状が出て意識不明となり倒れ,救急搬送された後,小麦アレルギーとの診断を受けた。 また,平成22年9月21日には夕食後に皮膚症状を生じた後,呼吸困難,血圧低下,意識不明となって病院に救急搬送され,そのまま1日入院をし た。生じた症状は多岐にわたるが,少なくともこれらの2回の症状は,アナフィラキシーショックである。その後,平成23年夏になり,本件アレルギーであることを知ったが,それまでの間,小麦を食べた際に度々,アナフィラキシー症状を生じた。 以後は,小麦摂取を控える生活を続けているが,現在でも,誤って小麦 を摂取してしまった際は全身が痒くなることがある。平成30年4月に病院でアレルギー検査を受けたところ,その特異的IgE抗体値は,未だにグルテンがクラス2,小麦がクラス1であり,現在でも数値は陰性化しておらず,生活上の不利益が継続している現状が非常に憂鬱である。 カ原告番号23(A6) 平成21年1月から平成22年 クラス2,小麦がクラス1であり,現在でも数値は陰性化しておらず,生活上の不利益が継続している現状が非常に憂鬱である。 カ原告番号23(A6) 平成21年1月から平成22年7月頃まで,毎日朝晩の洗顔,洗身に本件石鹸を使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 平成21年11月,旅行中に全身に蕁麻疹が出て呼吸が困難となり,意識が朦朧とするなど初めてショック症状を呈して以降,平成22年1月8日,同月17日,同年6月7日と4度にわたるショックを生じた。ただし, いずれも配偶者が傍についており,適切な処置がとられたため,救急搬送 はされていない。 その後は,現在まで小麦を一切摂取しない生活を継続しているが,未だに痒みに伴う睡眠障害等が続いており,症状の回復の兆しもないため,2年ほど前から通院もしなくなった。本件アレルギーのために,雇用を断られるなど就業にも大きな影響が出ており,身体的,精神的な苦痛も今なお 続いている。 キ原告番号25(A7)平成19年6月から同年9月までの間,及び平成21年8月から平成22年7月までの間,自ら購入したり,姉から貰い受けたりして本件石鹸を使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 平成22年8月以降,小麦摂取後に目の痒みや顔面の腫脹,咳き込みによる呼吸困難などの症状が出始め,本件アレルギーとの診断を受けた後は,小麦摂取を完全に断っていた。その後,平成29年12月に大阪はびきの医療センターにおいて経口負荷試験を受けたところ,医師から小麦を摂取可能と告げられ,以降は日常生活で小麦を食べられるようになり,症状の 発現はない。ただし,今でも食後に激しいスポーツをすることは避けている。 荷試験を受けたところ,医師から小麦を摂取可能と告げられ,以降は日常生活で小麦を食べられるようになり,症状の 発現はない。ただし,今でも食後に激しいスポーツをすることは避けている。 ク原告番号34(A8)平成19年12月から同居の母が購入して使用していた本件石鹸を使用し始めたところ,本件アレルギーを発症した。 平成21年10月頃,食後に顔面の腫脹,全身性の蕁麻疹を生じ,病院搬送後,一旦は自宅に戻ったものの,翌日も症状が治まらず,再度病院に受診するとショックとの診断を受けた。その後,平成23年8月に和歌山県立医科大学附属病院に検査入院し,誘発テストを受けると,ショック症状を呈した。 発症以来,小麦を一切口にしない生活を続けているが,誤って小麦を摂 取してしまった際にはなお症状が発現する。本件アレルギーと判明して以降,定期的な通院を継続しており,平成27年12月の血液検査でも,なお小麦の特異的IgE抗体値はクラス3であった。 ショック後,小麦が一切食べられなくなり,本件アレルギーの罹患後,体質が変化し,慢性的な症状のために販売員としての職を退職することに なり,海外生活も諦めざるを得ないなど,肉体的な苦痛に加えて社会的な不利益も極めて大きい。 ケ原告番号41(A9)母が購入した本件石鹸を,平成18年4月から平成20年10月まで毎日洗顔に使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 同年3月以降,食後に顔面浮腫や咽頭浮腫の症状が出るようになり,同年10月2日に,パンを食べた後に上記症状に加え,呼吸困難を伴うショック症状を起こし,箕面市立病院を受診し,小麦アレルギーとの診断を受けた。平成23年4月23日にも 頭浮腫の症状が出るようになり,同年10月2日に,パンを食べた後に上記症状に加え,呼吸困難を伴うショック症状を起こし,箕面市立病院を受診し,小麦アレルギーとの診断を受けた。平成23年4月23日にもパン食後に全身の蕁麻疹,呼吸困難を生じ,同病院に救急搬送されるなど,少なくとも2回はショック症状を生じ ている。 現在でも少量の小麦摂取にもかかわらず眼瞼浮腫や鼻水等の症状の発現が続いており,平成28年6月15日の検査においても小麦,グルテンの特異的IgE抗体値は陰性化していない。日常生活において小麦摂取を制限しなければならない苦痛に加え,職場においても満足な就業ができず, 他の職員に協力を依頼しなければならないなど,今なお不利益が継続している。 コ原告番号50(A10)母が購入した本件石鹸を平成19年6月28日頃から平成22年4月頃まで洗顔に使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 平成22年3月18日に夕食後ランニングをしていると,呼吸困難,血 圧低下,意識低下といったショック症状を引き起こし,病院に救急搬送され,顔面の腫脹が治まるまで1週間を要した。その後も複数回,アナフィラキシー症状を呈した。 現在でも小麦摂取を控えているが,週に1回程度は少量の小麦を摂取することがある。小麦製品を摂取しない生活を継続し,食べた際も安静にし ているので,現在では症状の発現はなく,通院もしていない。 ショック時の恐怖がいまだに忘れられず,また,趣味の運動も辞めることとなり,学生生活を送る上で制限があったのみならず,就職後も仕事上の付き合いを断らざるを得ないなど,精神的,社会的な負担が続いている。 サ原告番号52(A11) 動も辞めることとなり,学生生活を送る上で制限があったのみならず,就職後も仕事上の付き合いを断らざるを得ないなど,精神的,社会的な負担が続いている。 サ原告番号52(A11) 平成21年4月14日に本件石鹸の購入を開始し,平成22年12月頃まで入浴時の洗顔に使用し続けていたところ,本件アレルギーを発症した。 平成21年10月頃から入浴後に鼻炎,痒み,目の充血が生じ始め,その後動悸や呼吸困難を伴うなど症状が悪化した。平成22年7月1日,昼食後に歩いていたところ,全身が異様に痒くなり,激しい腹痛に襲われた 後,意識を消失するなどのショック症状を呈し,この際は夫の協力もあり,済生会中津病院に駆け込んで治療を受けた。 本件アレルギーの診断後は,小麦を摂取しない生活を継続し,現在でも気付かずに摂取してしまった際には咳や痒み等の症状を生じる。今なお,医師からは小麦摂取を控えるように指示されている。 本件アレルギーに伴い,家族への負担増や会社を休まなければならない不利益,更に海外旅行の制限等,生活面全般への不利益が今なお継続している。 シ原告番号62(A12)平成21年4月頃から家族が購入した本件石鹸の使用を開始したとこ ろ,本件アレルギーを発症した。 平成22年6月15日,ロキソニンを服用した後,勤務先でパンを食べると,両眼が腫れあがって前が見えなくなり,また呼吸困難,意識朦朧となって,兵庫県立医科大学まで職場の同僚に連れて行ってもらった。 ショック症状を引き起こした後は小麦摂取を控える生活を継続し,現在でも同様であり,気付かず食べてしまった際には目の腫れや腹痛が今でも 生じる。発症直後は上記大学病院に通 てもらった。 ショック症状を引き起こした後は小麦摂取を控える生活を継続し,現在でも同様であり,気付かず食べてしまった際には目の腫れや腹痛が今でも 生じる。発症直後は上記大学病院に通院を繰り返していたが,現時点では対症療法的な診察を最寄りの病院で受ける程度にとどまっている。 小麦を摂取できないことによる生活制限により,体重が10kg以上も激減し,自律神経失調症等の体調の異変も生じた。小麦が食べられない生活は変わっておらず,不安な日々が続いている。 ス原告番号67(A13)平成21年7月28日に本件石鹸を購入し,洗顔,入浴時の洗身に使用し始め,平成22年12月に本件アレルギーの存在につき医師から注意喚起されるまで継続使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 同年3月頃から小麦摂取後に顔面の腫脹等の症状を呈するようになっ ていたが,同年9月頃,朝食後に,全身の発疹,嘔吐,下痢,呼吸困難,意識混濁を生じ,住友病院に緊急搬送されることがあったほか,同年11月6日にも友人宅でのパーティーの際に呼吸困難等を生じ,救急搬送されて入院するなど,少なくとも3回にわたってショック症状を起こした。 現在に至るまで小麦製品を摂取しない生活を継続しているが,誤って小 麦を食してしまった際にはいまだに呼吸困難を生じることもある。現在でも1,2か月に1回程度,住友病院に通院して医師の問診と薬(エピペン,アレグラ)の処方を受けており,症状が継続している。 現在でも依然として症状が出るため,肉体的な苦痛が続いているほか,小麦の代用品の購入を強いられる経済的負担,人間関係における心理的負 担等,多大な不利益が続いている。 セ原告番号68 症状が出るため,肉体的な苦痛が続いているほか,小麦の代用品の購入を強いられる経済的負担,人間関係における心理的負 担等,多大な不利益が続いている。 セ原告番号68(A14)平成22年5月頃から家族とともに本件石鹸を洗顔に使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 同年10月22日,修学旅行中,夕食後に全身が腫れ,呼吸困難,意識混濁を生じ,救急車で病院に搬送されたことがあったほか,平成23年1 月13日にも朝食後に顔面腫脹,呼吸困難を生じ,病院に搬送されたことがあった。少なくとも上記の平成22年10月22日と平成23年1月13日の2回はショック症状を生じている。 現時点では小麦摂取が可能であるが,できるだけ摂取を控えるようにしており,運動前には全く食べないようにしている。摂取制限が功を奏し, 症状の発現はなく,現時点で通院もしていない。 ショック症状による恐怖感のほか,幼少から親しんできた部活動(サッカー)も制限されるなど,今でも精神的,社会的な不利益が残っている。 ソ原告番号71(A15)平成21年11月頃,母から貰い受けて本件石鹸の使用を開始し,平成 23年1月頃まで毎日洗顔に使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 平成22年10月23日に昼食後,全身性の発疹を生じ,息苦しさから立っていられなくなり,緊急搬送されたほか,同年11月6日,同月27日,平成23年3月1日,同年4月10日,同年8月27日と幾度となく ショック症状を呈して病院に搬送された。 平成24年7月13日に本件アレルギーと診断されて以降,小麦を完全に排除した生活を続けており,現在も同様である。現時点では,小麦を摂 なく ショック症状を呈して病院に搬送された。 平成24年7月13日に本件アレルギーと診断されて以降,小麦を完全に排除した生活を続けており,現在も同様である。現時点では,小麦を摂取しないため症状は出ておらず,通院もしていない。 ショックを何度も生じた精神的苦痛は大きく,現在は子育てをしている が,子どものことを考えると恐怖心と不安は以前よりも増している。 タ原告番号85(A16)平成20年8月末に購入して本件石鹸を洗顔,洗身に使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 平成21年7月21日,そうめんを食べた後に全身の腫脹を生じ,近くの医院に駆け込むと,呼吸困難,意識朦朧を生じ,そこから救急車で日赤 和歌山医療センターに救急搬送された。 その後は小麦を徹底して摂取しない生活を続けており,そのため通院や服薬はしていない。もっとも,誤って摂取してしまった際には呼吸困難を生じたことがあった。 現在でも,普段の料理の手間や自由に旅行に行けないなど,生活上の不 利益が継続している。 チ原告番号111(A17)平成21年頃から平成22年3月末頃まで,毎晩の洗顔に本件石鹸を使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 同月16日,食後にウォーキングをしていると,顔面の腫脹,呼吸困難 を生じたため,すぐさま淀川キリスト教病院に駆け込むと,ショックを起こしていると診断され,エピペンを打たれ,その後数時間酸素吸入を受けた。 その後は,小麦を摂取しない生活を継続していたが,現在では服薬しつつパンを食べる程度に至っている。もっとも,服薬無しに小麦を摂取する と顔が赤く腫れるなど,依然として を受けた。 その後は,小麦を摂取しない生活を継続していたが,現在では服薬しつつパンを食べる程度に至っている。もっとも,服薬無しに小麦を摂取する と顔が赤く腫れるなど,依然として症状が発現するため,現在でも3か月に1回程度は通院し,抗アレルギー剤を処方してもらっている。 小麦の摂取を制限しなければならない生活が続いていることに変わりはなく,なおも多大な不安を抱えながら生活をしている。 ツ原告番号114(A18) 平成18年7月に妻名義で購入した本件石鹸を洗顔や入浴に使用し始 め,その後本件アレルギーを発症した。 平成20年11月頃から,洗顔後の肌の赤みや火照りを感じるようになり,その後,全身性の湿疹や痒みなど,皮膚症状が悪化していった。本件石鹸が原因とは知らず,平成23年10月にアレルギー科の病院を受診すると,小麦アレルギーとの診断を受け,平成24年には本件アレルギーと の診断を受けた。 医師からは小麦摂取を控えるように指示されているが,長距離バスの運転手という職業柄,外食が多く,小麦を完全に避けることはできず,そのため現在に至るまで服薬をしつつ小麦を摂取する生活及び定期的な通院を継続している。 今でも症状が出ていることによる仕事への多大な影響,また治療等に要する経済的負担,その他精神的苦痛はなおも続いている。 テ原告番号118(A19)平成20年9月頃から母に分けてもらった本件石鹸を朝晩の洗顔に使用し始め,平成23年1月頃まで継続していたところ,本件アレルギーを 発症した。 平成22年2月頃から,顔面の湿疹や目の充血といった症状が出始め,平成23年5月には食後に上記症状に加え,呼吸困 成23年1月頃まで継続していたところ,本件アレルギーを 発症した。 平成22年2月頃から,顔面の湿疹や目の充血といった症状が出始め,平成23年5月には食後に上記症状に加え,呼吸困難となったことがあったものの,ショック症状は生じていない。 平成24年12月に本件アレルギーと診断されて以降,小麦摂取を一切 控えており,現在も同様である。小麦を摂取していないので症状の発現はなく,通院もしていないが,平成30年3月に血液検査を行うと,まだ陰性化していなかった。 小麦摂取を制限されることに伴う生活制限は現在も続いており,心理的負担や就業上の制約等,社会的な不利益も大きい。 ト原告番号119(A20) 平成21年8月から平成23年夏にかけて,洗顔,洗身に本件石鹸を使用していたところ,本件アレルギーを発症した。 平成23年4月8日,朝食後に眼が腫れて前が見えなくなり,続いて呼吸困難となり,意識が遠のいたところで病院に救急搬送され,搬送先の病院に6日間入院するというショック症状を引き起こした。 その後,小麦製品を一切摂取しない生活を現在まで続けているが,誤って微量の小麦を摂取した際には,未だに口蓋が腫れるなどの症状が発現する。現時点では,小麦を摂取しない限り症状は出ないので,通院はしていない。 小麦を制限しなければならない生活に伴う心理的苦痛や,家庭生活への 影響などは今なお継続している。 【被告らの主張(各原告の症状等)】ア原告番号8(A1)平成23年7月18日にショック症状を生じたという点については,救急搬送時のバイタルサインは正常であり,ショックの疑いとされているに すぎないことに照らすと,原告番号 番号8(A1)平成23年7月18日にショック症状を生じたという点については,救急搬送時のバイタルサインは正常であり,ショックの疑いとされているに すぎないことに照らすと,原告番号8がショック症状を来たしたとは認められない。 また,証拠上確認できる同原告の通院日数は不定期かつ7日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては3日),入院日数5日程度にとどまり,重篤な症状を生じたとは考え難く,かえって診療録 によれば,平成23年時点で「パンは食べているが,問題なし」,「うまく抗アレルギー剤を併用すれば日常生活はかなり大丈夫かと思われます」などの記載もあり,当初から小麦摂取が可能であったことが窺われる。 現在までの症状継続の有無につき,平成23年以降現在に至るまで小麦を摂取すると症状が発現することを裏付ける証拠もなく,小麦特異的Ig E抗体値も,平成24年9月及び平成25年12月時点で小麦のIgE抗 体値が陰性であるなど,回復傾向は明らかであり,医師からは注意しながら小麦を摂取するよう勧められていることからすれば,既に同原告の症状は治癒ないし寛解に至っている。 イ原告番号17(A2)診療録等の記載によれば,「アナフィラキシー様発作出現」とあるのみで あり,原告番号17がアナフィラキシーショックを起こしたとは認められない。 また,証拠上確認できる同原告の通院日数は不定期かつ22日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては3日),入院日数5日程度にとどまり,重篤な症状を生じたとは考え難い。そして,平成 22年9月8日時点の経口負荷試験の結果では小麦摂取のみでは症状は陰性とされていること,医師から小麦摂取制限をされているとの診療録の 度にとどまり,重篤な症状を生じたとは考え難い。そして,平成 22年9月8日時点の経口負荷試験の結果では小麦摂取のみでは症状は陰性とされていること,医師から小麦摂取制限をされているとの診療録の記載は見当たらないことからすれば,同時点において既に小麦摂取ができない状態であったかは疑わしく,ましてその後の時間の経過によっても小麦摂取ができない状態にあったとはなお認め難い。 小麦特異的IgE抗体値も,平成22年9月7日時点では陽性であったものが,平成24年6月の検査ではクラス1と擬陽性化しているなど,実際に回復傾向は明らかであり,現時点では既に治癒ないし寛解に至っている。 ウ原告番号18(A3) 診療録等によれば,原告番号18の主張するショック症状の発現を裏付ける血圧低下,意識障害等の具体的な所見は見当たらない。 また,IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間において証拠上確認できる同原告の通院日数は10日,(検査)入院5日程度にとどまる。そして,診療録によれば,平成22年6月時点で「パスタを食べた。」, 「パンやケーキを食べてもアナフィラキシー症状なし」との記載があり, その後も,小麦製品を摂取している旨の記載が相次ぎ,平成25年5月段階でも「タリオン2t内服続けながら小麦食べている」と記載されており,客観的には発症後早期の段階から小麦摂取が可能な状態であり,現時点では小麦を摂取している。 小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値も,平成23年8月時点で擬陽 性化し,プリックテストでは陰性化しているなど,回復傾向は明らかである。同原告は,今でも体中に湿疹の痕が残っているなど主張するが,アトピー素因が窺われる同原告においてそのような皮膚障害が本件アレルギーによるも ックテストでは陰性化しているなど,回復傾向は明らかである。同原告は,今でも体中に湿疹の痕が残っているなど主張するが,アトピー素因が窺われる同原告においてそのような皮膚障害が本件アレルギーによるものとの立証はされていない。 エ原告番号21(A4) 診療録等によれば,主訴としてショックを起こしたとの記載はあるものの,原告番号21にショック症状の発現を裏付ける血圧低下,意識障害等の所見は見当たらず,むしろアナフィラキシーとのみ記載されていることからすれば,重篤な症状を呈したとは認められない。 また,証拠上確認できる通院日数は不定期かつ18日(IgE抗体値が 陽性であることが確認されている期間においては5日),入院日数3日程度にとどまり,重篤な症状が続いたとは考え難く,かえって診療録によれば,平成22年1月時点で「ケーキなどの少量摂取では出ません」との記載があるなど,当初から小麦摂取が可能であったことが窺われる。 そして,診療録上,平成25年時点で小麦及びグルテンの特異的IgE 抗体値は陰性化しており,プリックテストでは平成24年1月時点で陰性化し,さらに平成26年5月時点で「つなぎは摂取可,その際日常生活の範囲内の運動は可として退院」との記載があるなど,症状の回復傾向は明らかであり,現時点においては,治癒ないし寛解に至っている。 オ原告番号22(A5) 診療録によれば,原告番号22の平成18年2月6日の症状については ショックとの診断はされておらず,客観的所見も血圧や血中酸素濃度の点で正常値を示している。また,平成22年9月21日の症状についても,ショックの疑いとの診断しかなく,ショック症状の発現を裏付ける具体的な所見を欠く。 証拠上確認できる や血中酸素濃度の点で正常値を示している。また,平成22年9月21日の症状についても,ショックの疑いとの診断しかなく,ショック症状の発現を裏付ける具体的な所見を欠く。 証拠上確認できる同原告の通院日数は合計3日にとどまり,特に,平成 24年3月の2度目の通院から平成30年4月の3度目の通院まで相当長期間通院をしておらず,この間,症状の発現がなく,小麦摂取に支障がなかったものと窺われる。 平成23年8月時点の診療録によっても,「小麦+運動の組み合わせは避けるように」とされ,運動を組み合わせない限り小麦摂取が許容され ており,当初から小麦摂取自体は可能であったと思われる。 小麦特異的IgE抗体値も,平成23年8月時点では高かったが,その後低下をし,平成30年4月時点では擬陽性化しているなど,症状の回復傾向が見て取れる。平成24年3月以降,現に治療を受けた経過は認められず,最終受診日に医師から小麦摂取を禁じられたとも認められないこと からすれば,現時点で原告番号22の症状は治癒ないし寛解に至っている。 カ原告番号23(A6)平成22年1月17日の症状については,診断書にショックとの記載があるが,主訴は呼吸苦等にとどまっており,その他ショック症状を裏付ける具体的な記載はない。その余の3回のショック症状についても,客観的 資料の提出がなく,いずれもショック症状であると認められない。 IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間において証拠上確認できる通院回数は11日程度にとどまる。原告番号23は今でも一切の小麦製品を摂取できていない旨主張するが,平成25年4月25日以降の診療録等の提出はなく,同日における医師の指摘が最終のものであり, その後現在に至るまでの経過につ 原告番号23は今でも一切の小麦製品を摂取できていない旨主張するが,平成25年4月25日以降の診療録等の提出はなく,同日における医師の指摘が最終のものであり, その後現在に至るまでの経過については不明といわざるを得ない。 また,平成23年7月時点で小麦特異的IgE抗体値(UA/ml)は14. 8と高い値であったが,平成25年6月時点では3.86まで低下しており,回復傾向が看取でき,最終の特異的IgE抗体値の測定時から現時点まで5年超が経過しており,一般的に本件アレルギーが回復傾向にあることをも踏まえれば,同原告の症状は現時点では治癒ないし寛解に至ってい ると推認できる。 さらに,同原告はω‐5グリアジンのIgE抗体価がクラス2であり,元々小麦アレルギーの既往ないし素因を有していた可能性がある。また,診療録には「米を食べたらかゆくなる」との記載もあり,同原告の訴える症状の全てが本件アレルギーによるものか不明である。 キ原告番号25(A7)診療録等の記載によれば,呼吸苦等のアレルギー症状の発現は認定できない。証拠上確認できる通院日数は不定期かつ19日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては3日),(検査)入院日数2日程度にとどまっている。 原告番号25は,食後に激しいスポーツをすることは避けている旨主張するが,医師からそのような制限がされているわけではない。また,同原告は,回復するまでの間,小麦製品を摂取していない旨主張するが,診療録によれば,平成23年3月時点で「薄力粉の製品は食べているが,症状は出ません。」などの記載があり,早期の段階から小麦が摂取可能な状態に あったものと考えられ,平成29年12月の経口負荷試験を 録によれば,平成23年3月時点で「薄力粉の製品は食べているが,症状は出ません。」などの記載があり,早期の段階から小麦が摂取可能な状態に あったものと考えられ,平成29年12月の経口負荷試験を受けて小麦の摂取を再開するよりも以前の段階で既に症状が治癒していた可能性が高い。 さらに,同原告には,クラス2以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められ,そのアトピー素因に基づく疾患が本件アレル ギーに基づく症状の重篤化ないし遷延化に寄与した事実が認められる。 ク原告番号34(A8)IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間において証拠上確認できる通院日数は5日,入院日数は8日程度にとどまる。 何らの客観的資料がなく,小麦摂取により症状が出る状態にあった期間の立証はされていない。同原告は今でも全く小麦摂取をしていない旨主張 するが,診療録上,小麦摂取が医師から禁じられているわけでもない。 小麦やグルテンに対するIgE抗体値は経時的に減少傾向にあることや,現時点において花粉症の症状は確認できるものの,本件アレルギーの症状の発現は確認できないことからすれば,同原告の症状は回復傾向にある。 また,同原告は,医師から,元来から小麦アレルギーがあったことも否定はできないといわれていることや,クラス2以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められるのであるから,そのアトピー素因に基づく疾患が本件アレルギーに基づく症状の重篤化ないし遷延化に寄与したとして,素因源額がされるべきである。 ケ原告番号41(A9)診療録等によれば,原告番号41の主張する2回の症状については,いずれも,血圧低下な 化ないし遷延化に寄与したとして,素因源額がされるべきである。 ケ原告番号41(A9)診療録等によれば,原告番号41の主張する2回の症状については,いずれも,血圧低下なし,意識清明,会話可能等と記載されており,ショック症状を発現したとは認められない。 IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間において証拠上 確認できる通院回数は10日又は24日程度,経過観察入院1日にとどまっており,重篤な症状が継続したとは考え難い。 同原告は今でも小麦を全く食べていない旨主張するが,経口負荷試験の結果を含め,小麦摂取ができないことを裏付ける客観的な資料は提出されていない。平成21年9月8日時点での小麦特異的IgE抗体値(UA/ml) は,14.0であったが,その後,平成25年12月の検査では1.19 まで低下しており,回復していると推認できる。本件アレルギーの症状が仕事に影響を与えているとの点も裏付けを欠いている。 コ原告番号50(A10)原告番号50は,初回の検査である平成23年12月27日時点の小麦特異的IgE抗体値が既に陰性を示しており,本件アレルギーの発症当初 から軽微な症状であったことが窺われ,平成24年1月時点のプリックテストでも陰性であり,証拠上確認できる通院日数もわずか3日,入院2日にとどまっていることからも裏付けられている。 平成23年時点で既に小麦の特異的IgE抗体値は陰性であり,グルテンも経時的に陰性化していると思われることや,平成24年1月以降,現 に治療を受けた経過は見当たらず,むしろ医師からは運動しないときは小麦の摂取が可能であるといわれていること,現時点で既に少量の小麦を摂取していることなどか れることや,平成24年1月以降,現 に治療を受けた経過は見当たらず,むしろ医師からは運動しないときは小麦の摂取が可能であるといわれていること,現時点で既に少量の小麦を摂取していることなどからすれば,同原告の症状は既に治癒ないし寛解に至っている。 サ原告番号52(A11) 診療録には,血圧低下,意識障害等の所見は見当たらず,原告番号52がショック症状という重篤な症状を呈したとは認められない。 また,証拠上確認できる同原告の通院日数は不定期かつ9日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては4日),(検査)入院2日程度にとどまっており,他に小麦製品の摂取ができない状態が継続 したことを裏付けるに足りる客観的な立証はない。診療録によれば,「ご本人と相談し,少量摂取による減感作は試さないこととした」とあり,同原告の事情により症状を改善する治療法を行っていないようである。 最終の抗体値測定日から既に5年超経過しており,同数値は陰性化している可能性が高い。医師からも少量の小麦摂取は禁止されていないことな どからすれば,同原告の症状は回復していると考えられる。 同原告は,クラス4以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められるのであるから,素因減額がなされるべきである。 シ原告番号62(A12)診療録等によれば,「血圧低下こそなかった」との記載のほか,単にアナフィラキシーを生じたとのみ記載されているにとどまることからすれば, 原告番号62がショック症状を来たしたと認めることはできない。 証拠上確認できる同原告の通院日数は不定期かつ18日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間において すれば, 原告番号62がショック症状を来たしたと認めることはできない。 証拠上確認できる同原告の通院日数は不定期かつ18日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては1日)程度にとどまっている。この点,同原告は皮膚科,眼科,内科に合計35回の通院を繰り返している旨主張するが,本件アレルギーの症状と関連性を有する通院は 18回である。 同原告は小麦を含む食品は一切摂取していない旨主張するが,平成23年8月時点の診療録において「タリオンをのんでカレーをたべたりしている」などとの記載があり,矛盾しており,小麦特異的IgE抗体値の値も不明確であること,最終の抗体値測定日から既に8年超が経過しているこ とから,数値も現在では陰性化していると思われること,平成24年2月以降治療を受けていないことなどの事情に照らせば,現時点では相当程度回復をし,治癒ないし寛解していると考えられる。 また,同原告においては,その主張する症状が本件アレルギーによるものか,既存疾患である花粉症に由来するものが判然としないものがあり, 事実的因果関係も疑わしい。また,「スイカ食べると口唇が腫れる」などとしていることや,クラス2以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められることから,そのアトピー素因に基づく疾患が本件アレルギーに基づく症状の重篤化ないし遷延化に寄与した事実が認められ,素因減額がなされるべきである。 ス原告番号67(A13) 原告番号67の主張する平成22年9月の症状については診療録の提出がないこと,同年11月6日の症状については素因であるエビアレルギーの可能性があり,また,血圧低下なし,意識清明,呼吸苦なしとの診療録の記載 67の主張する平成22年9月の症状については診療録の提出がないこと,同年11月6日の症状については素因であるエビアレルギーの可能性があり,また,血圧低下なし,意識清明,呼吸苦なしとの診療録の記載があること,平成26年12月の症状も血圧低下等が認められないことからすれば,いずれもショック症状を来たしたものとは断定できな い。 また,証拠上確認できる本件アレルギーと関連する通院日数は不定期かつ5日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては3日),入院日数は2日にとどまっている。 診療録によれば,平成25年1月29日時点で「最近,少々小麦含有し ている加工食品は食べて少し痒い時もあるが,蕁麻疹は出ない」などと記載されていること,医師からも「体調を見て注意しながら徐々に摂取量増やすこと」と指示されていることからすれば,小麦摂取ができる状態へと回復が進んでいるというべきである。 最終の抗体値測定日から既に7年が経過しており,同数値は陰性化して いる可能性が高いこと,現時点では小麦の摂取を実施していることからすれば,同原告の症状は治癒ないし寛解に至っている。 同原告は,もともと,アトピー性皮膚炎やエビ・カニアレルギー等を有し,診療録中も,本件アレルギーによる症状というよりも既存疾患であるアトピー性皮膚炎による症状が多く,本件アレルギーの発症との間の事実 的因果関係の立証が尽くされていない。少なくとも,同原告の場合,アトピー性皮膚炎の既存疾患により,本件アレルギーに基づく症状の重篤化ないし遷延化に寄与した事実が認められるから,仮に損害発生の事実を認める余地があるとしても,その損害額の算定に際しては,上記素因をもって相当な範囲で減額評価すべきである。 症状の重篤化ないし遷延化に寄与した事実が認められるから,仮に損害発生の事実を認める余地があるとしても,その損害額の算定に際しては,上記素因をもって相当な範囲で減額評価すべきである。 セ原告番号68(A14) 診療録によれば,「アナフィラキシーを2度起こし」としか記載されておらず,ショック症状を裏付ける血圧低下や意識障害に関する所見が何ら記載されていないことからすれば,ショック症状が生じたとは認められない。 証拠上確認できる本件アレルギーと関連する通院日数は不定期かつ1 4日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては1日)程度にとどまっており,重篤な被害が生じたとは考え難い。 現時点で原告番号68は小麦含有製品を食べることができるようになっているところ,依然として恐怖感等は払拭できていない旨述べるが,診療録によれば,平成25年2月1日時点で「現在通常生活で小麦は摂取で きている」とあるほか,「普段小麦OK」などの記載もみられ,小麦摂取に恐怖感を抱いていることは読み取れない。 さらに,小麦特異的IgE抗体値も,平成24年2月24日の検査でクラス0と陰性化しており,小麦プリックテストでも陰性とされるなど,回復傾向は明らかである。平成26年時点で小麦及びグルテンの特異的Ig E抗体値は陰性となっていること,医師からは少量から小麦を摂取するよう勧められ,現時点では実際に小麦の摂取を実施していることなどを踏まえれば,同原告の症状は,既に治癒ないし寛解に至っている。 加えて,同原告は,イネ科(カモガヤ)花粉症の既往があるため,クラス3以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められ るのであるから,素 治癒ないし寛解に至っている。 加えて,同原告は,イネ科(カモガヤ)花粉症の既往があるため,クラス3以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められ るのであるから,素因減額がされるべきである。 ソ原告番号71(A15)原告番号71が主張する症状は,いずれも診療録に記載がないか,ショックとの記載があるとしても意識正常,呼吸状態異常を認めずなどの所見と併記されたものであるなど,ショック症状の発現とは認められないもの である。 また,証拠上確認できる本件アレルギーと関連する通院回数は不定期かつ11日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては5日)程度にとどまり,重篤な症状を生じたとは考え難く,かえって診療録によれば,平成23年1月時点で「小麦食べたら運動しないこと」「制限までする必要は現時点ではないと思われる」などの記載があり,早くか ら小麦摂取自体は可能であったことが窺われ,平成25年8月時点でフォローアップが終了予定の患者である旨診断されているなど,本件アレルギーは治癒状態にあるものと考えられる。 客観的にも,小麦特異的IgE抗体値(UA/ml)は初回検査時である平成23年1月21日には陽性であったところ,同年10月6日の検査では 0.27(クラス0)と陰性化し,その後,平成24年7月13日には0. 03まで値が低下し,平成24年時点で小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値は陰性化しており,その後,医師から小麦の摂取を勧められ,現時点では小麦摂取を実施していることからすれば,同原告の症状は既に治癒ないし寛解に至っている。 タ原告番号85(A16)診療録によれば,平成21年7月21日の症状につき,気 点では小麦摂取を実施していることからすれば,同原告の症状は既に治癒ないし寛解に至っている。 タ原告番号85(A16)診療録によれば,平成21年7月21日の症状につき,気道狭窄音なしとされ,血圧も正常値の範囲内であるなど,ショック症状を来たしたものとは認められない。 証拠上確認できる通院回数は不定期かつ5日程度にとどまっており,平 成25年5月10日を最後に一度も通院をしていないことが窺われ,本件アレルギーによる症状の程度が軽微であったことが推認される。 また,現在の小麦摂取の状況についても,摂取できない状態にあるとの客観的裏付けはなく,診療録において小麦製品の摂取を制限するよう指示されたとの記載もない。初回の検査時の小麦特異的IgE抗体値(UA/ml) は0.56(クラス1)にとどまっており,検査はこの一度のみであるが, 最終の抗体値測定時から既に6年超経過しており,小麦やグルテンの同数値は陰性化している可能性が高い。その後の時間の経過により,小麦摂取が可能な状態に至っているものと思われる。 チ原告番号111(A17)平成22年3月16日の症状につき,ショックとの記載はあるが,血圧 低下や意識障害等の所見はなく,現実にショック症状を起こしたとは認められない。 証拠上確認できる通院回数は不定期かつ16日にとどまっており,平成25年4月10日の初回の検査時から既に小麦特異的IgE抗体値(UA/ml)は0.10と陰性であった。 診療録によれば,平成24年11月21日時点で「小麦は食べている」とあり,平成25年11月27日時点では「小麦アレルギー茶のしずく関連,なおっているかも」,その後も「普段通りの生活 診療録によれば,平成24年11月21日時点で「小麦は食べている」とあり,平成25年11月27日時点では「小麦アレルギー茶のしずく関連,なおっているかも」,その後も「普段通りの生活で」などと記載されていること,また,小麦特異的IgE抗体値は平成25年時点で既に陰性化しており,本件アレルギーは既に治癒していることが窺われ,早期に小 麦摂取可能な状態に回復していたと考えられる。 ツ原告番号114(A18)IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間における通院回数は不定期かつ6日程度にとどまる。原告番号114は,平成30年5月時点でも通院をするなど,現在まで通院を継続している旨主張するが,小 麦摂取が可能な状態にあることが窺われる以上,治療の必要性があるのか疑問であり,そのような通院日数を損害算定において考慮すべきでない。 診療録によれば,平成23年10月14日時点で「厳格なコムギ制限は必要ないと考える」とされ,その後も「コムギ食べることある」と記載されているなど,発症後,早期の段階から小麦摂取が可能な状態であったか, 現在までに症状が回復,治癒していることが窺われる。 さらに,最終の抗体値測定時から既に6年超経過しており,同数値は陰性化している可能性が高いこと,現時点では薬の処方を受けつつも小麦摂取を再開していることからすれば,同原告の症状は治癒ないし寛解に至っていると考えられる。 テ原告番号118(A19) 証拠上確認できる原告番号118の通院回数は不定期かつ2日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては1日)程度にすぎず,症状のエピソードも喉の違和感,眼の痒み,鼻水程度の軽微なものにとどま できる原告番号118の通院回数は不定期かつ2日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては1日)程度にすぎず,症状のエピソードも喉の違和感,眼の痒み,鼻水程度の軽微なものにとどまっている。平成23年5月に呼吸困難を来たしたと主張するが,診療録上,そのような記載は認められない。 同原告は,現在でも小麦製品の摂取を控えている旨主張するが,平成24年1月時点の経口負荷試験において,「症状誘発されず」と診療録上記載されており,現時点では既に抗体値も陰性化している可能性が高く,既に小麦摂取が可能な状態まで回復,寛解していることが推認される。 その他同原告は小麦摂取が制限されることに伴う社会的な不利益を主 張するが,いずれも本件アレルギーとの因果関係が不明であり,実損害を生じたものかも不明である。 ト原告番号119(A20)診療録等によれば,原告番号119の平成23年4月8日の症状につき,意識清明,血圧正常等の記載があり,アナフィラキシーとの記載にとどま っていることから,ショック症状まで至ったとはいえない。 また,証拠上確認できる同原告の通院回数は不定期かつ3日(IgE抗体値が陽性であることが確認されている期間においては1日)であり,入院日数も6日にとどまるなど,重篤な症状を引き起こしたとは認められない。 小麦やグルテンに対する特異的IgE抗体値も現在までに陰性化して いる可能性が高く,平成23年5月以降に医師の治療を受けたことを裏付ける証拠もないことからすれば,現時点では小麦の摂取が可能な状態まで回復,寛解しているものと考えられる。 さらに,同原告については,アトピー性皮膚炎の既存疾患があり,クラス3以 とを裏付ける証拠もないことからすれば,現時点では小麦の摂取が可能な状態まで回復,寛解しているものと考えられる。 さらに,同原告については,アトピー性皮膚炎の既存疾患があり,クラス3以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められ るのであるから,そのアトピー素因に基づく疾患が本件アレルギーに基づく症状の重篤化ないし遷延化に寄与したものとして,素因減額がされるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,これを左右するに足りる証拠はない。 (1) 本件石鹸の概要等ア石鹸一般に関する基礎的知見(ア) 石鹸とは,広義には高級脂肪酸(一般にC₈以上)の塩を総称し,狭 義には洗浄を主目的とする水溶性の脂肪酸アルカリ塩を指す。 石鹸は,一般に,天然の動植物油脂(牛脂,豚脂やパーム油,ヤシ油,大豆油等)を原料として,①油脂をアルカリでけん化して石鹸を得る手法(けん化法),②油脂を加水分解し,得た脂肪酸とアルカリを直接反応させる手法(中和法),又は③精製した脂肪酸をアルカリで中和する手法 等によって製造する。 上記手法で得られた石鹸素地(上記手法で得られたのり状のものをニートソープと呼び,ニートソープを乾燥させたものが石鹸素地である。)に,色や香りをつけ,機械練り法,枠練り法等の手法で成形をして製品となるところ,化粧石鹸,洗濯石鹸や台所用石鹸等の各種石鹸は,それ ぞれの目的に応じた色や香り,性能向上剤等を組み合わせることで製品 として完成する。 (イ) 化粧石鹸の使用において,皮膚に異常がある場合,石鹸は弱いアルカリ性の物質であるため異常のある部位に 応じた色や香り,性能向上剤等を組み合わせることで製品 として完成する。 (イ) 化粧石鹸の使用において,皮膚に異常がある場合,石鹸は弱いアルカリ性の物質であるため異常のある部位には多少の刺激を与え,皮膚異常を悪化させることがある。 (ウ) 洗顔石鹸は,一般にきめ細やかなクリーム状の泡が肌を包み,肌の潤 いを奪うことなく,過剰な皮脂やメイク等の毛穴の奥に詰まった汚れや古くなった角質の除去を目的とするものであり,保湿効果のある天然ハーブエキスや果実エキス,また抗炎症効果のあるグリチルリチン酸ジカリウム等が配合されていることがある。洗顔石鹸の配合成分と期待できる効果として,石鹸素地自体に洗浄効果が期待できるほか,コムギ末に は泡質の改善,茶エキスには保湿と抗菌作用を期待することができる。 石鹸には界面活性剤が含まれるため,洗浄により皮膚膜を分解し,古い角質を除去する作用がある。 (以上につき,甲A33,甲B2,乙ロA48,乙ハA42)。 イ本件石鹸の概要 (ア) 用途等a 本件石鹸は,洗顔を主たる用途とする化粧石鹸として製造販売されたものである。 被告悠香は,本件石鹸を販売するに当たり,無農薬栽培の茶エキスを美肌成分として配合したことを強調し,「茶のしずく」という通称名 を付し,外箱の表面には茶葉をあしらった挿絵や無農薬栽培茶葉使用との記載をし,外箱の裏面にもお茶のもつ美肌効果が肌本来の美しさをサポートする等の記載をした。 また,被告悠香は,本件石鹸を洗顔等の際に石鹸を泡立てるために用いる洗顔ネットに包んで販売し,外箱の裏面の記載において,利用 者に対し,当該ネットを用いた本件石鹸の使用方法として,本件石鹸 を入れたネットを数秒間水に浸したのち,これを引 用いる洗顔ネットに包んで販売し,外箱の裏面の記載において,利用 者に対し,当該ネットを用いた本件石鹸の使用方法として,本件石鹸 を入れたネットを数秒間水に浸したのち,これを引き上げてこすり合わせ,手のひらに乗せてひっくり返しても落ちない程度に弾力のある泡を作って洗顔することを推奨するとともに,2回洗顔で化粧落としも可能である旨の記載をした。 (以上につき,乙イA1の1ないし1の22) b 株式会社富士経済により発行された「医薬部外品マーケティング要覧2011」(乙ハA20の1)によれば,本件石鹸は「薬用洗顔料」に分類されており,皮膚表面の洗浄を目的として,石鹸の持つ洗浄力に加え皮膚の保護機能や毛穴の汚れを除去する効果を持つ顔用の薬用洗浄料とされる。なお,洗顔料の剤型としては,固形石鹸のほか, フォーム,パウダー,ジェル及びリキッドタイプ等多岐にわたる製品が含まれる。 c 本件石鹸は,発売当初から平成17年6月7日までの間は,薬事法上の「化粧品」として,同日から販売中止までの間は薬事法上の「医薬部外品」として販売された(乙ロA1の2)。 (イ) 組成,配合成分及び効用a 本件石鹸は,脂肪酸と苛性ソーダ(アルカリ)を中和して製造した石鹸用素地に,混合機によって各種成分を配合し,自動型打ち機で型打ちを行って製造されたものである。 本件石鹸には,グリチルリチン酸2Kのほか,茶葉から抽出したエ キス(茶エキス-1),オウゴンエキス,カモミラエキス-1,アロエエキス-2,黒砂糖,ユキノシタエキス,ホホバ油,シア脂,ベントナイト,加水分解コムギであるグルパール19(水解小麦末),グリセリン,ファンゴ,ヒドロキシエタンジホスホン酸4Na,フェノキシエタノール,黄酸化Fe, ,ユキノシタエキス,ホホバ油,シア脂,ベントナイト,加水分解コムギであるグルパール19(水解小麦末),グリセリン,ファンゴ,ヒドロキシエタンジホスホン酸4Na,フェノキシエタノール,黄酸化Fe,群青,香料及びBGといった成分が配合さ れていた。なお,同成分は薬事法に基づき製品の包装に全て記載され ていたものである。 本件石鹸に配合されたグルパール19Sの配合濃度は全販売期間を通じて0.3%であった。上記の製造過程において,グルパール19Sはニートソープの完成後に添加されたものであり,その性質が本件石鹸に配合されることで変質するということはなかった。 (以上につき,甲A33,乙ロA48)b 被告悠香は,本件石鹸のパッケージ等において,本件石鹸の効能及び効果について,皮膚の洗浄,にきび・肌荒れを防ぐという効能及び効果のほか,無農薬有機栽培による茶エキスが美肌成分として配合され,同成分により,抗酸化作用,抗菌作用及び消臭作用が期待でき, 清潔できめ細やかなハリのある肌が実現できる旨の効能及び効果を謳っていた(乙イA1の1ないし1の21)。 (ウ) 販売方法,販売個数等a 本件石鹸は,製品1個当たりの大きさにより,30g,60g,110gの種類があり,専ら登録制の通信販売の方法により,個別の商 品として,あるいは60gの2個セットや110gの6個セット等のセットにした商品として販売された(乙イA1の1ないし1の21,乙ハA20の1)。 本件石鹸は販売開始当初から終始,被告悠香が一手販売を行い,被告フェニックスが一般の消費者に対して直接本件石鹸を販売したこ とはなかった(乙イA15,17,乙ロA48)。 b 本件石鹸の外箱においては,平成16年3月の販売開始時から平 手販売を行い,被告フェニックスが一般の消費者に対して直接本件石鹸を販売したこ とはなかった(乙イA15,17,乙ロA48)。 b 本件石鹸の外箱においては,平成16年3月の販売開始時から平成17年4月1日の改正薬事法施行時までは,全種類の製品につき,「製造元株式会社フェニックス」,「販売元株式会社悠香」と併記されており,改正薬事法施行後,平成22年5月までは,「製造販売元株 式会社フェニックス」,「販売元株式会社悠香」と併記されていた。 被告悠香は,平成21年9月4日に本件石鹸の製造販売承認を取得し,110gの製品については平成22年5月13日出荷分から,60gの製品については同月22日出荷分から「製造販売元株式会社悠香」と表記して本件石鹸を販売するようになった。なお,30gの製品につき,被告悠香が同被告を「製造販売元」と表示して販売を行 ったことはない。 他方で,上記のうち,その外箱や個包装の包装袋において「製造元」あるいは「製造販売元」として「株式会社フェニックス」,「販売元株式会社悠香」と併記されていたものについても,「販売元株式会社悠香」との記載及びこれに続く本店所在地及び電話番号等の記載は,上 記被告フェニックスに係る記載部分に比して相当大きく表示され,「株式会社悠香」のうち「悠香」との文字部分はとりわけ大きく,字体も装飾なロゴマーク様の記載とされているか,別途,独自の茶葉のイラストに添えて「悠香」と上記と同様の装飾的な字体で記されたロゴマークが記載されており,被告悠香の商号やブランドが特に目立つ ような体裁となっていた。なお,「茶のしずく」との記載の末尾には,登録商標を意味するⓇマークが付されているものがある。加えて,製品に関する問い合わせ先として 悠香の商号やブランドが特に目立つ ような体裁となっていた。なお,「茶のしずく」との記載の末尾には,登録商標を意味するⓇマークが付されているものがある。加えて,製品に関する問い合わせ先としても,被告悠香の電話番号やホームページのアドレス等が記載されていた。 (以上につき,乙イA1の1ないし38,16の1・2,17,乙 ロA13の1・2)c 本件石鹸のうち,薬用フェイスソープPは,平成17年6月7日から平成22年9月27日にかけて,薬用悠香の石鹸は同年5月13日から同年7月12日にかけて製造出荷され,被告悠香によれば,本件石鹸は延べ466万7000人に対し,合計4650万8000個が 販売された(甲A34,乙ハB15)。 d 本件石鹸の発売開始以来,被告悠香はテレビコマーシャル等により積極的に本件石鹸の宣伝を行い,急速に本件石鹸の販売実績を伸ばし,薬用洗顔料のマーケットシェアにおいて,メーカーシェア及びブランドシェアで被告悠香及び茶のしずく石鹸が,平成20年に33.6%,平成21年に56.5%,平成22年に58.5%,平成23年には 60%(見込み)を占めるに至り,本件石鹸については,薬用洗顔料市場全体の動向を左右するまで成長したとか,当該業界の市場全体の拡大をけん引していると評されるようになった(乙ハA20の1)。 (エ) 注意喚起及び警告等本件石鹸の外箱や外装には,「使用上の注意」として「※お肌に異常が ある時,お肌に合わない時はご使用をお止めください。」(乙イA1の1),「お肌に合わないときはご使用をおやめください」(乙イA1の2),「使用及び保管上の注意」として「傷,湿しん等,お肌に異常のある時は,ご使用にならないでください。」,「使用中,赤み, 1の1),「お肌に合わないときはご使用をおやめください」(乙イA1の2),「使用及び保管上の注意」として「傷,湿しん等,お肌に異常のある時は,ご使用にならないでください。」,「使用中,赤み,かゆみ,刺激等の異常が出た場合は,使用を中止し皮膚科専門医へご相談ください。」(乙イA 1の18),「目に入らないようご注意ください。入った場合はこすらずにすぐに洗い流してください。」,「使用中,赤み,かゆみ,刺激及び目に異物感が残る場合は,使用を中止し皮膚科専門医又は眼科医にご相談ください。」(乙イA1の34)等の注意事項が表示されていた。 また,本件石鹸の包装には,シールが添付され,そこには「お肌に合 わないときは,ご使用をお止めください」などの注意喚起がされていたほか,薬用悠香の石鹸の同シールには以上の記載に加え,全配合成分の表示がされていた(乙ロA13ないし16)。 (2) グルパール19Sの概要等ア概要及び開発経緯 (ア) 概要 グルパール19Sは,被告片山化学が開発した小麦たんぱく(グルテン)の加水分解物であるグルパールの一種であり,小麦たんぱく質を酸加水分解することによって得られた小麦由来のたんぱく加水分解物である。 被告片山化学が作成して被告フェニックスに交付したグルパール1 9Sの品質規格書(乙ロA10,41の1・2。以下,これらを併せて「本件品質規格書」という。)によれば,グルパール19Sは,黄褐色の粉末で,若干のグルテン臭があり,主として,小麦を原材料とするたんぱく加水分解物(95%)と食塩(4.6%)から組成される。また,本件品質規格書によれば,グルパール19Sの名称は「たん白加水分解 物(食品素材)」と があり,主として,小麦を原材料とするたんぱく加水分解物(95%)と食塩(4.6%)から組成される。また,本件品質規格書によれば,グルパール19Sの名称は「たん白加水分解 物(食品素材)」とされ,主な用途として「食品用汎用品,化粧品汎用品」とされており,食品に用いる場合は「たんぱく加水分解物(小麦)」又は「植物性たんぱく(小麦)」又は「小麦たんぱく,食塩」と,化粧品に用いる場合は「加水分解コムギ末」と表示することが例として挙げられている。(乙ロA10,41の1・2)。 (イ) 開発経緯a 平成元年以前,被告片山化学は,食品工場のボイラーで使用できる耐熱性の強い安全なスケール防止剤(水垢防止剤)を開発する目的で小麦たんぱくに注目した。これは小麦グルテンが他のたんぱく質に比べグルタミン酸残基等の酸性アミノ酸が多く含まれているという特 徴があり,スケール防止剤として利用されているポリカルボン酸系の重合物と類似構造を有していたからであった。この点,小麦グルテンは分子量が高く,水に溶解しないことから,そのままでは水に溶解して用いるスケール防止剤としての効果を期待できないため,被告片山化学では小麦グルテンを部分的に分解することにより溶解性を向上 させることを発案した。そして,小麦グルテンにつき,酸分解,アル カリ分解,酵素分解等の各種加水分解を検討した結果,分解条件や分解方法の組み合わせにより,乳化安定性,保水性,表面張力の低下及び小麦グルテンの分散力等の効力をもったたんぱく質といった,それぞれに異なった性質や特徴を持った物質を得られることが判明した。 b 上記手法により得られた小麦グルテン加水分解物は,食品である小 麦の分解物という性質上,当初想定された工業用の用 れぞれに異なった性質や特徴を持った物質を得られることが判明した。 b 上記手法により得られた小麦グルテン加水分解物は,食品である小 麦の分解物という性質上,当初想定された工業用の用途(スケール防止剤)としてだけでなく,加工食品の乳化分散及び品質改良材や食品・食器の洗浄剤としても利用可能性があると考えられた。 そこで,平成元年4月,被告片山化学は,開発した小麦グルテン加水分解物にグルパールという名称を付けて商品化した。同年7月8日 の食品化学新聞には「天然乳化剤で新規参入」との見出しの下に,グルパールに関する記事が掲載され(乙ハA31),被告片山化学が小麦グルテン由来の天然乳化剤として「グルパール」を開発し,食品分野へ新規参入した旨,グルパールの概要として強い乳化剤,粒子分散力,表面張力低下能等の効果を持ち,特に乳化分散力については従来のシ ョ糖脂肪酸と比較して効果が強い旨,グルパールの主な用途としては,①食品の乳化分散及び品質改良,②表面張力の低下能を生かした食品食器の洗浄,③食品及び食品添加物工場・病院などのボイラ・一般冷却水系スケール防止,④分子量が数千~数万のペプチドであることから高吸収性たんぱく質食品として,⑤グルテンの改質力を応用した高 濃縮たんぱく質培地などがあるとし,特性に応じて4種類の標準品がある旨,被告片山化学としては,製パン分野,水産練り製品向け品質改良材として積極的に市場開拓を進める方針出る旨,上記標準品のほか,ユーザーの用途・目的に合わせた最適品の提供も予定している旨記載されている。 c 同年7月,被告片山化学は,食品用乳化剤・安定剤の開発研究を行 い特にショ糖脂肪酸エステルの製造・分析等で知られる渡辺隆夫技術士(乙ハA32)を顧問とし る。 c 同年7月,被告片山化学は,食品用乳化剤・安定剤の開発研究を行 い特にショ糖脂肪酸エステルの製造・分析等で知られる渡辺隆夫技術士(乙ハA32)を顧問として招聘し,グルパールの食品用途での研究開発を更に進めた。その結果,乳化力,乳化安定性はグルパール19と同様であるが,塩分を少なく調整した分解物の生成に成功し,これをグルパール19Hと名付けて食品用として商品化した。 同じ頃,被告片山化学は製品の展示会でグルパールの存在を知った他社から,グルパールシリーズの技術説明やサンプル提供の依頼があったため,これを行ったところ,同社の研究によりグルパールは保湿性にも優れているとの性能が判明した。これを受け,被告片山化学では保湿性を生かしてグルパール19を化粧品用途にも使えないか検 討することとなり,その結果,グルパール19と同等の保湿性を有し,塩分を少なく調製したグルパール19Hについて,「グルパール19S」との名称を付して化粧品原材料として商品化するに至った。 (以上につき,乙ハA137,139の1)d グルパールシリーズにつき,平成4年頃に発行された雑誌「JET I」に,高乳化性植物たんぱく質として紹介する記事が掲載された。 同記事には,グルパールとは,小麦グルテン(たんぱく)を加水分解して得られた食品素材で,乳化力(乳化安定),保水力,グルテン分散力及び洗浄力(表面張力低下能)等のさまざまな機能,特長を有していること,消費者のニーズとして食品のソフトな食感が求められると ころ,これを実現するためにグルパールは開発されたとの経緯が記載されている。そして,グルパールには,乳化安定性,保水性及びグルテン分散性をもつグルパール19シリーズ5 トな食感が求められると ころ,これを実現するためにグルパールは開発されたとの経緯が記載されている。そして,グルパールには,乳化安定性,保水性及びグルテン分散性をもつグルパール19シリーズ5種,グルテン分散性をもつ同26シリーズ2種,洗浄性のある同46シリーズ3種があり,同19及び同26シリーズは,食品(ハム,ソーセージ,パン,菓子類 等)や化粧品,部外品(クリーム,ローション,シャンプー,リンス) に,同46シリーズは洗剤(野菜・生鮮食品用洗剤,厨房用洗剤)に使用できることが紹介されている(乙ハA1の1・2)。 イ原材料及び製造方法(ア) 原材料グルパール19Sの原材料は,生グルテン(小麦たんぱく),水,3 5%食添用塩酸(HCI)及び48%食添用苛性ソーダ(NaOH)であった。 (イ) 製造方法a 仕込みジャケット釜(反応釜)に水を投入する。他方,スーパーミキサー にはグルテン,水及び塩酸を既定の数量を入れて撹拌し,これをジャケット釜に移して撹拌するという作業を繰り返す。原材料を全て釜に移し終えると,撹拌しながら加熱を開始する。 b 酸分解約40℃になったところで,塩酸を添加し,液温が50℃になった ところでpHが0.5ないし1.2の範囲内に収まることを確認する。 その後加熱を続け,95℃になった時点から40分間保持する(95~98℃の範囲で)。 c 等電点沈殿苛性ソーダをゆっくり滴下し,pHを4.1±0.1に調整する。 d 脱塩自然沈殿又はデカンター(機械)により脱塩を行う。 e 中和加水し,苛性ソーダを くり滴下し,pHを4.1±0.1に調整する。 d 脱塩自然沈殿又はデカンター(機械)により脱塩を行う。 e 中和加水し,苛性ソーダをゆっくり滴下してpHを7.0±0.1に調整する。 f 粉末化 スプレードライヤーにより粉末化を行う。 (ウ) 平成9年4月から平成22年8月までの間(本件石鹸の原材料として使用されていた期間を含む。)において,被告片山化学は,原材料としてペースト状のものを一度完成させたものに水を加えて使用するのか,もともとペースト状のものを使用するのかという点,脱塩処理において自 然沈降をするのか,機械を使用するのかという点での変更はしたものの,グルパール19Sの品質,構造に影響を与えるような原材料や製造方法の変更はしなかった。 (以上イにつき,乙ロA10,41の1・2,乙ハA127ないし130,137,139の1) ウ特徴等(ア) グルパールに関する被告片山化学作成の各技術資料には,以下の記載がある。 a 「グルパール技術資料」(平成2年頃作成,乙ロA28)⒜ グルパールの特徴 グルパールは小麦グルテンを酸,アルカリ及び酵素等で部分分解することで得られたたんぱく質素材であり,以下の特徴がある。 ⅰ 乳化力グルパールは数千から数万の分子量を有する水溶性の直鎖状高分子で,親水性と疎水性のアミノ酸残基を持っており,界面に おいて親水基の多い部分が水相に,疎水基の多い方が油相に吸着し,乳化剤として機能する。 ⅱ スケール防止力グルパールは,カルシウム,マグネシウム,シリカ等 おいて親水基の多い部分が水相に,疎水基の多い方が油相に吸着し,乳化剤として機能する。 ⅱ スケール防止力グルパールは,カルシウム,マグネシウム,シリカ等のスケール成分となる各種イオンを分散させ,結晶の析出及び成長を抑制 する。 ⅲ 粒子分散力グルパールは,水中の炭酸カルシウム,カオリン等の粒子に吸着し,マイナス電位を増加させて凝集(成長)を防止する。 ⅳ 小麦グルテンの分散(粒子分散の一種)小麦グルテンは水中で凝集し,粘着性の物質となるため取扱い が困難であるが,グルパールを小麦グルテンに予め数%混合したものはその凝集を防ぎ,均一な分散液となる(グルテンの改質)。 ⅴ 水溶性中性域で15~20%の水溶液を調製することができる。 ⅵ 安全性 グルパールは安全性が高く,食品として取り扱うことができる。 ⒝ グルパールの用途グルパールは乳化力,分散力及び安全面に優れた特徴を持っているので,次のような用途に向いている。 ⅰ 食品の乳化分散及び品質改良(乳化力,分散力による。) ⅱ 食品,食器の洗浄(表面張力,界面張力の低下能による。)ⅲ ボイラ,一般冷却水系スケール防止(食品及び食品添加物工場・病院等)ⅳ 高吸収性たんぱく質食品(グルパールは分子量が数千~数万のペプチドである。) ⅴ 高濃縮たんぱく培地(グルテン改質力による。)⒞ 標準品の性状・特徴グルパール19,同2 パールは分子量が数千~数万のペプチドである。) ⅴ 高濃縮たんぱく培地(グルテン改質力による。)⒞ 標準品の性状・特徴グルパール19,同26,同32及び同46は,いずれも淡黄色粉末であり,pHは6~8であるが,それぞれ乳化力及び粒子分散力に富む,グルテン改質に著効,乳化力に富む,表面張力低下及び 粒子分散に有効であるといった性状・特徴である。また,被告片山 化学において,上記標準品の他にも,用途・目的に応じた最適品の提供が可能である。 ⒟ 性能データ「乳化力」という点では,グルパールは優れた乳化安定力を示し,乳化粒子も細かく均一に分散するものであり,無添加の場合やショ 糖脂肪酸エステルを添加した場合には,乳化の状態として分離が生じるが,グルパール19を0.3ないし0.2%添加した場合には乳化の状態は均一となり,0.15%添加した場合はわずかに分離するにとどまる。グルパール32の場合もグルパール19と同様の効用がある。 b 「グルパール19S(化粧品用)技術資料」(平成2年8月30日発行のもの。以下「平成2年版技術資料」という。乙ロA24,乙ハA2)⒜ グルパール19Sは乳化力,保湿性に優れた小麦たんぱく分解物であるグルパール19を更に精製して得られたたんぱく質素材で, 化粧品分野で安心して使用できる。乳化力はグルパール19の約1. 5~1.8倍であり,味・臭いはほとんどない。 ⒝ 特徴は,乳化力が強いこと,保湿性が良いこと,ほとんど無味無臭であること,たんぱく質素材で安全性が高いことである。 ⒞ グルパール19Sは食品衛生法で定めるところの「食品」から作 られたものであり,化粧品に用いる場合には類似の こと,ほとんど無味無臭であること,たんぱく質素材で安全性が高いことである。 ⒞ グルパール19Sは食品衛生法で定めるところの「食品」から作 られたものであり,化粧品に用いる場合には類似の化合物に使用前例があり,化粧品用基剤としての利用が見込めるものであって,「現在別紙申請中」である。そして,変異原性は英国の分析会社による分析では「なし」であり,ヒメダカLC50及び重金属,ヒ素等の項目については,日本食品分析センターの分析により限度内とされ た。 ⒟ 「乳化力」という点では,特に中鎖トリグリセリド,セチルイソオクタノエートに対して安定した乳化が得られる。油として流動パラフィンを用いた場合には,グルパール19Sの添加濃度が0.3ないし2.0%であれば乳化の状態として分離が生じてしまうが,3.0%及び5.0%添加することで均一の状態となる。また,中 鎖トリグリセリド,セチルイソオクタノエートに対しては,いずれも0.3ないし0.5%の添加濃度ではわずかに分離が生じるが,1.0ないし5,0%の添加濃度では均一の状態となる。 「保湿性」という点では,グルパール19Sは保湿性に優れ,相対湿度の影響をあまり受けることがなく,ヒアルロン酸,プロポリ ングリコール,グルパール19Sを調製した試液及び蒸留水をデシケーター内に放置するという試験によれば,水分残存率はいずれもグルパール19Sが優位であった。 また「吸湿性」という点でもグルパール19Sは吸湿性が低く,相対湿度の影響をほとんどうけず,ヒアルロン酸やグリセリンと比 較しても優位である。 ⒠ 使用例グルパール19Sをハンドクリームに配合してモニター試験を実施したところ,そのアンケート結果からグルパール19Sを配合 ルロン酸やグリセリンと比 較しても優位である。 ⒠ 使用例グルパール19Sをハンドクリームに配合してモニター試験を実施したところ,そのアンケート結果からグルパール19Sを配合したハンドクリームは使用後にしっとりするとの評価が得られて いる(モニター40名中,37名が「しっとりする」と回答)。 c 「グルパール19シリーズ技術資料」(平成3年6月1日発行のもの。以下「平成3年版技術資料」という。乙ロA25) はじめにグルパール19は,小麦たんぱく(グルテン)を酸,アルカリな どで多段分解することによって得られた,平均分子量数万のポリペ プタイドである。乳化及び乳化安定力,保水力,個体粒子の分散力などを特徴としており,目的に応じた各種グレードがあるため,数多くの食品や化粧品に使用できる。 ⒝ グルパール19シリーズグルパール19は,標準品としてのそれのほか,シリーズとして 食品全般を用途する易分散品の19D,精製品(脱塩タイプ)の19H(食品全般)のほか,化粧品を用途とする精製品の19Sがあり,その他精肉製品を用途とする19M,19N,19Rがある。 ⒞ 基本物性グルパール19シリーズに共通する物性として,本来水分散性の 良好な物質であるが,粉末であるため一度に水中に入れると継粉になり溶解し難い場合があったり,常温で1年以上安定するが液状では腐敗したりすること等がある。 ⒟ 基本性能ⅰ 乳化力及び乳化安定力 たんぱく質はそれ自体乳化力を有しているが,その乳化力は弱く,液中数パーセント存在してはじめてその効力を発揮するところ,グル 能ⅰ 乳化力及び乳化安定力 たんぱく質はそれ自体乳化力を有しているが,その乳化力は弱く,液中数パーセント存在してはじめてその効力を発揮するところ,グルパール19シリーズは液中濃度0.3%程度で充分な乳化力を発揮し,乳化の安定性も良好である。 無添加の場合,乳化の状態としては分離が生じ(×),ショ糖脂 肪酸エステルでは0.15%添加で分離(×),0.3%添加でやや分離(△)してしまうが,グルパール19であれば,0.15%添加でやや分離(△),0.3%添加で均一状態となる(○)。 グルパール19シリーズを用いた場合の乳化の特徴としては,①通常の食品用乳化剤と同程度の使用濃度でよい,②O/W乳化 に適し,広範囲のO/W比率に対応できる,③耐塩性,耐熱性が 強い,④耐酸性については,酵素処理レシチンとの併用するのが良い,⑤各種油脂に対して有効ではあるが油の種類により,その安定性に差が認められる,⑥乳化時の湿度は低い方が良い。高い湿度で乳化する必要がある場合は滴下法が望ましい,⑦脱脂粉乳存在下でも乳化性は良好で,特に加熱安定性が良い,ということ が挙げられる。 ⅱ 保水力(保湿力)グルパール19シリーズの2番目の効果として保水力があり,水分残存率でグルパール19Sはヒアルロン酸よりも優位な測定結果を残している。また,ヒアルロン酸は化粧品用の保湿剤と して使用されているが,保湿力のほか吸湿性がないことが特徴とされている。この点,グルパール19Sはヒアルロン酸よりも吸湿性が低く,化粧品用保湿剤として有効と考えられる。 ⅲ その他グルパール19には,水不溶性粒子を分散させたり, ことが特徴とされている。この点,グルパール19Sはヒアルロン酸よりも吸湿性が低く,化粧品用保湿剤として有効と考えられる。 ⅲ その他グルパール19には,水不溶性粒子を分散させたり,分散性の低いグルテンに混合することでこれを改良し,粘弾性に変 化を与えたりすることができる。 ⅳ 安全性グルパール19シリーズは食品衛生法で定めるところの「食品」であり,また食品添加物や既存化学物質としても登録されているため,幅広い応用が可能である。化粧品に使用する場合は,別紙 規格で申請することになるが,すでに申請中であり,化粧品,医薬部外品としても利用可能である。 応用例グルパール19は,その乳化力等の特徴を生かして,ビタミン・香料の乳化やクリーム類,畜肉加工品(ソーセージ,ハム等),ドレ ッシング類に応用することができると考えられる。 ⒡ その他グルパール19Sシリーズの特徴及び応用例は上記のとおりであるが,その他パン,麺,ケーキなどの粉製品,各種惣菜類,冷凍食品をはじめとする全ての加工食品に応用が可能と考えられる。更に,食品以外の用途として,化粧品,医薬部外品等への応用も期待 されている。今後はそれらの応用データを拡充し,グルパール19シリーズを更に使いやすいものとして提供していきたいと考えている。 d 「グルパール19S(化粧品用)技術資料」(平成15年8月30日改訂,乙ハA6) 被告片山化学は,平成15年に平成2年版技術資料(乙ハA2)を改訂し,安全性に関する記載につき,グルパール19Sは食品衛生法で定めるところの「食品」であり,食品に自由に添加できること,食品添加物や既存化学物質として 成15年に平成2年版技術資料(乙ハA2)を改訂し,安全性に関する記載につき,グルパール19Sは食品衛生法で定めるところの「食品」であり,食品に自由に添加できること,食品添加物や既存化学物質としても登録されているため幅広い応用が可能であること,及び化粧品の原料としても認められているとして, 粧外規1993追補の「加水分解コムギ末」に当たるとの表記に改訂がされている。 e 「グルパール19S(化粧品・食品用)技術資料」(平成16年8月1日発行,乙ロA27)⒜ グルパールは小麦たんぱく質を部分分解及びイオン化すること で乳化力及び乳化安定性,保湿性,たんぱく質との反応性を付与した機能性の高いたんぱく質素材である。また,グルパール19Sは食品素材であり,食品用途に制限なく添加することができ,食品添加物や既存化学物質としても登録されているため幅広い応用が可能である。 ⒝ 特徴としては,①乳化力が強く乳化安定性が高いこと,②保湿性 が高いこと,③たんぱく質素材で安全性が高いこと,④水溶性であることである。 ⒞ 小麦たんぱく質のうち約80%を占めるグルテンは,主要な構成成分としてグルテニンとグリアジン等から成っているところ,他の植物性たんぱく質と比較してグルテンは,その構成アミノ酸の約3 分の1がグルタミンであり,グルタミン残基間で形成される水素結合によりグルテンが会合するため水に不溶性になるといわれており,本来有するグルテンの機能が十分活用されていない。これに対し,グルパールは小麦たんぱくを酸により加水分解しグルタミン酸残基を脱アミド化してカルボキシル基に変えてその親水性を高め ており,またポリペプチド鎖の分解も進行し分子量を6万程度とすることで乳化性・保水性等 小麦たんぱくを酸により加水分解しグルタミン酸残基を脱アミド化してカルボキシル基に変えてその親水性を高め ており,またポリペプチド鎖の分解も進行し分子量を6万程度とすることで乳化性・保水性等,多機能な性質を有する素材とした(グルパールは低分子化と脱アミド化により水溶性が高くなっており,幅広い用途へ応用できる。)。また,グルパールは同一分子中に陽イオン性の解離基と陰イオン性の解離基を併せ持つため,両性界面活 性剤としての機能も有する。 ⒟ 分子構造では,グルパール19Sは約6万の平均分子量を有する直鎖状の高分子構造で,疎水性(親油性)と親水性のアミノ酸基を持っており,界面においては疎水基の多い部分が油相に吸着し,親水基の多い部分が水相に吸着して界面張力を低下させ,乳化剤とし ての機能を発現する。 グルパール19Sは,変異原性,重金属,ヒ素,一般細菌数,耐熱生菌数,大腸菌群,MCP及び遺伝子組換えの各項目において,毒素等は不検出ないし許容範囲内であり,安全性を備えている。 ⒡ グルパール19Sは粧外規1993追補に記載されている「加水 分解コムギ末」(成分コード523069)に相当し,平成6年に出 された化粧品種別許可基準によると,「アイライナー・口紅リップクリーム・歯磨き」以外に使用できる素材であり,石鹸,シャンプー・リンスに使用できる。 ⒢ グルパール19Sは乳化力・乳化安定性に優れ,特に中鎖トリグリセリド,セチルイソオクタノエートに対しては安定した乳化物が 得られること,保湿性に優れ相対湿度の影響をあまり受けないこと及び吸湿性が低く相対湿度の影響をほとんど受けない。 ⒣ 実績及び実施例として以下のものがある。 ⅰ 化粧石鹸におけるひび割れ抑制従来,化 保湿性に優れ相対湿度の影響をあまり受けないこと及び吸湿性が低く相対湿度の影響をほとんど受けない。 ⒣ 実績及び実施例として以下のものがある。 ⅰ 化粧石鹸におけるひび割れ抑制従来,化粧石鹸のひび割れ防止にはグリセリンが用いられてい るが,満足な効果は得られておらず,一方でグルパールはその高い保湿性により化粧石鹸のひび割れ防止に効果的である。グルパール19Sを原料に対して0.5%添加することで割れの問題をほとんど解決できた。 また,ひび割れ抑制以外にも,泡の状態が細かく非常にクリー ミーで軽く肌触りがよい,濡れも改良されつるつる感が出る,泡切れが良く3回すすぎで済む,石鹸自体の溶けが早い,通常の石鹸では取れない物質が除去できる等の効果があり,炭石鹸や透明化粧石けん等に使用されている。 ⅱ 自然化粧品でのリンス効果 毛髪たんぱくであるケラチンはグルタミン酸成分が多いため4級アンモニウムイオンのようなカチオン性を有する成分を吸着しやすいといわれている。グルパール19Sもカチオン性イオンを有しており,かつ分子量が6万程度の疎水性で毛髪に吸着しやすいと考えられている。一旦吸着したグルパールは,その保湿 力によりしっとりさを保ち,その高い乳化力により毛髪の疎水部 分をより滑らかにし,吸着効果により表面コーティング効果も期待できる。リンスインシャンプーに0.3%の割合でグルパール19Sを添加したところ,乳化効果により油脂添加量が高まるとともに,リンス効果も高くなり櫛通りが改善できた。 ⅲ シャンプーにおけるダメージケア―効果 グルパール19Sを5.0%添加したシャンプーを処方したところ,濁り,臭いの点で添加量が多すぎたが,ヘアトリートメント等のダメージケ た。 ⅲ シャンプーにおけるダメージケア―効果 グルパール19Sを5.0%添加したシャンプーを処方したところ,濁り,臭いの点で添加量が多すぎたが,ヘアトリートメント等のダメージケア効果を有することが判明した。 f 「グルパール19Sのシャンプー・リンスの利用について」(平成10年7月7日発行,乙ロA23) 同資料は,被告片山化学が被告フェニックスに対し交付するために個別に作成した資料である。同資料は,グルパール19Sのシャンプー及びリンスへの利用について被告片山化学の考察を報告する内容であり,以下の内容が記載されている。 ⒜ グルパール19Sは小麦グルテンを部分的に脱アミド化し分子 量を少し小さくした素材であり,粧外規1993追補に記載されている「加水分解コムギ末(成分コード523069)」に相当する(規格内)。また,平成6年に出された化粧品種別許可基準によると,「アイライナー・口紅リップクリーム・歯磨き」以外の製品に使用できる素材であり,当然シャンプー・リンスにも使用できる。そ の性能は乳化・保湿・触感改良の効果であり,化粧石けんのひび割れ防止や泡の改良効果もこれら基礎性能が関与している。シャンプー・リンスに用いた場合にもこの乳化・保湿・触感改良の効果が作用するが,それとは別にグルパール19Sが脱アミド化による酸性アミノ酸残基と低分子化によるアミノ基とを併せ持った「両性高分 子電解質」であることが吸着や触感改良に影響すると考えられる。 ⒝ グルパール19Sは,①分子量約6万の物質であり,②分子中にカルボキシル基と4級アンモニウムというイオン性官能基を持つ両性高分子電解質である(このイオンが他の植物たんぱく系商品と異な ⒝ グルパール19Sは,①分子量約6万の物質であり,②分子中にカルボキシル基と4級アンモニウムというイオン性官能基を持つ両性高分子電解質である(このイオンが他の植物たんぱく系商品と異なる。)。 ⒞ グルパール19Sはカチオン性イオンを有しており,かつ分子量 が6万程度の疎水性吸着しやすい分子量であるため毛髪に吸着しやすいと考えられ,一旦吸着したグルパールはその保湿力によりしっとりさを保つばかりでなくその有する乳化力で毛髪の疎水部分をより滑らかにし,更には6万という分子量で表面コーティングの効果も期待できる。 (イ) 被告片山化学が平成7年11月に作成したグルパールに関するパンフレット(乙ハA39)には,概要以下の記載がある。 a グルパールは小麦のグルテン(たんぱく)を加水分解して得られた新しい食品素材であり,現在の消費傾向の大きな潮流である「安全性」をクリアした天然素材であるため,食品はもちろん化粧品から洗剤ま で多彩な用途に使用することができる。 グルパールには標準品として19シリーズ,30シリーズ,46シリーズがあり,19シリーズのうち,19は食品用汎用品,19Hは食品用精製品,19Sは化粧品用精製品(使用前例有)を主な用途とする。 b グルパールは,①O/W乳化において安定した乳化物を得られ,耐熱性・耐塩性・耐冷凍性等の優れた機能も有し,②高い保水力を有している上,ゲル化力が弱いため食感への影響はなく,③表面張力を大きく低下させる機能によって,洗浄力において優れた効果を発揮する性能を有する。 c 用途としては,食品(ハム,ソーセージ,麺,ケーキ,菓子類,ク リーム類,ドレッシング類,その他加工食品),化粧品・部外品(クリーム,ロー を発揮する性能を有する。 c 用途としては,食品(ハム,ソーセージ,麺,ケーキ,菓子類,ク リーム類,ドレッシング類,その他加工食品),化粧品・部外品(クリーム,ローション,シャンプー,リンス,その他),洗剤(野菜・生鮮食品用洗剤,厨房用洗剤)がある。 (ウ) 被告片山化学の従業員が平成5年6月頃に執筆した「高乳化性植物たん白『グルパール』の特性とその利用分野」と題する雑誌記事(乙ロB 9)には,概要以下の記載がある。 a 近年,食品業界では天然物志向の動きが活発になり,改めてたんぱく質が注目され各種たんぱく素材の研究がなされている。特に,大豆たんぱくは古くから種々の加工食品に利用され,最近でも新たな機能を持たせたものが研究されているが,これに追随して乳たんぱく,小 麦たんぱく,卵たんぱく等についても加水分解するなどした新たな利用方法が食品分野に限らず多方面にわたって検討されている。小麦たんぱくである小麦グルテンは,グルテニンとグリアジンを主体としたたんぱく質であり,グルテニンは分子量数百万の網目構造を持っているため,強い粘弾性を示すことが特徴である。小麦グルテンは大豆た んぱくに比べて乳化力,保水力が弱く,また粘弾性のため水分散性が劣るため,利用分野が広まっているとはいえない反面,他のたんぱく質に比べ,グルタミン酸残基等の酸性アミノ酸が多く含まれている特徴があり,顔料の分散剤やスケール防止剤として利用されているポリカルボン酸系の重合物と類似の構造を有している。 そこで,食品工場のボイラで使用できる耐熱性の強い安全なスケール防止剤の開発を目指し,被告片山化学ではこの小麦グルテン中の酸性アミノ酸残基に着目した。小麦グルテンはそのままでは分子量が高く,水に溶解しないのでスケー ボイラで使用できる耐熱性の強い安全なスケール防止剤の開発を目指し,被告片山化学ではこの小麦グルテン中の酸性アミノ酸残基に着目した。小麦グルテンはそのままでは分子量が高く,水に溶解しないのでスケール防止剤としての効果は期待できないが,これを部分的に分解することにより溶解性を向上させ,その効果 を引き出す試みを行った。分解方法としては,酸分解,アルカリ分解, 酵素分解等を検討し,この分解条件や分解方法を種々組み合わせることによって,粒子分散効果やスケール防止効果の優れたたんぱく質のほか,乳化安定性,保水性,表面張力の低下,小麦グルテンの分散力等の効力を持ったたんぱく質を得ることができた。 このように,ある特定の条件を選ぶことにより全く異なった性質や 特徴を持ったものが得られ,たんぱくの分解物であるという安全性の高さを考えると,工業用の用途のみならず,食品業界における各種加工食品の乳化分散及び品質改良材や食品(野菜,果物,生鮮食品等),食器の洗浄剤としての用途と,今までになかった機能を持った新しいたんぱく質素材としての利用ができるものと考えられる。 b グルパールは乳化力,乳化の耐熱,耐塩,耐酸性,保水性を兼ね備えた化合物であり,従来にはなかった新しい乳化剤,品質改良材として各種加工食品への応用が期待できる。畜肉加工食品(ハム,ソーセージ),クリーム類(ホイップクリーム,コーヒークリーム),ドレッシング類,小麦粉製品,洗浄剤等に有用と考えられる。 また,化粧品,医薬品分野においてもシュガーエステルをはじめ食品用乳化剤が使用されているが,グルパールも乳化安定性,保水性及び安全性を生かして,化粧品分野への用途開発が期待できる。グルパール19は保水性に優れているが,吸 においてもシュガーエステルをはじめ食品用乳化剤が使用されているが,グルパールも乳化安定性,保水性及び安全性を生かして,化粧品分野への用途開発が期待できる。グルパール19は保水性に優れているが,吸湿性も低いため,しっとりとしてベタツキのない,理想的な保湿剤であるといえる。また,医薬部外 品としての使用前例も取得しており,タンパク系の活性剤であるため,シャンプー,リンス類の基剤としても応用できると考えられる。 エ実際の用途(ア) 平成5年以降,被告片山化学は,食品メーカー向けに,毎年5040kgないし6万7035kgのグルパールを出荷し,平成23年までの 総出荷量は97万3596kgに及んだ(乙ハA13)。 (イ) グルパール19Sは,平成22年5月時点で,少なくとも本件石鹸を含む35種類の香粧品(医薬部外品又は化粧品)の原材料として使用されていた(甲A33,乙ハA18)。 平成10年以降,被告片山化学は被告フェニックスに対してグルパール19Sを出荷し,平成22年8月までの総出荷量は1万0160kg, 総額3751万7600円相当に及んだ(乙ハA5,ただし,上記出荷に係るグルパール19Sがすべて本件石鹸の原材料として使用されたわけではない。)。 オ小麦たんぱく(グルテン)の特徴およびその用途(ア) 小麦たんぱく質の特徴 a 小麦たんぱくは種子の登熱過程で開花後の8日目に生合成がはじまり,種子の完熟までにたんぱく質の蓄積を続けている。一般の小麦粉の中にはたんぱく質が10~15%含まれており,その中には12~20%の可溶性プロテインである水溶性アルブミンとグロブリンであり,残りの80%はグリアジンとグルテニンである(この2つが 小麦粉の中にはたんぱく質が10~15%含まれており,その中には12~20%の可溶性プロテインである水溶性アルブミンとグロブリンであり,残りの80%はグリアジンとグルテニンである(この2つが 40%ずつを占めている)。一般に市販されている小麦たんぱく質は,可溶性のアルブミンとグロブリンを除去したグリアジンとグルテニンの混合物,すなわちグルテン(Gluten)である。 グルテンの分子量分布は低分子から高分子まで幅広く,複雑である。 グルテンをグリアジンとグルテニンに分けると,グリアジンは分子量 3万6000のところに溶出され,4つ以上の低分子成分により構成される低分子たんぱく質である。他方で,グルテニンは多種類の高分子サブユニット(分子量10万以上)と低分子サブユニット(分子量3万~6万)がS-S結合によって結合した高分子たんぱく質である。 小麦たんぱく質のアミノ酸組成は,ほかの植物たんぱく質(米,ト ウモロコシ,大麦)と比較してグルタミン酸の含量がおよそ2倍多く, プロテインも比較的多いという点,他方でリジンの含量が低いという特徴がある。 b 植物たんぱく質には,溶解性,弾性,凝集性及,保水性と水分吸着性,乳化性,脂肪吸着性,泡特性,粘性,ゲル形成能,粘着性といった機能特性がみられるところ,小麦たんぱく質は乳化性,脂肪吸着性, 保水性と水分吸着性等の機能特性を有している。小麦たんぱく質は水を含んだ状態で強い粘弾性を呈する点で他の植物たんぱく質とは異なるほか,香粧品における乳化性,乳化安定性及び起泡性に特徴がある。 小麦たんぱく質の加水分解には,酸分解,アルカリ分解及び酵素分 解がある。酸分解はアミノ酸を構成するペプチド鎖を開裂すると同 における乳化性,乳化安定性及び起泡性に特徴がある。 小麦たんぱく質の加水分解には,酸分解,アルカリ分解及び酵素分 解がある。酸分解はアミノ酸を構成するペプチド鎖を開裂すると同時に様々な副反応も起こる。酵素加水分解はペプシン,トリプシン,キモトリプシン等の分解酵素を用いて加水分解を行うことである。未分解の小麦たんぱく質は巨大で難溶性であるが,加水分解を行うことで分子量の小さい様々なペプチドが得られるようになり,可溶性となる。 また,未分解の小麦たんぱく質であっても界面活性剤を加えることで水への溶解性は改善されるため,未分解のままであっても香粧品の配合成分として利用することは可能である。 (以上,(ア)につき,乙ハA29)(イ) 小麦たんぱく及びその加水分解物製造の経緯 a 小麦たんぱく質を加工した物質は,古くは明治41年に特許を取得したグルタミン酸ソーダがあり,昭和23年頃にも小麦たんぱく質を強酸で分解することにより製造された物質がしょうゆの代用品等として使用されてきた。 b その後も,植物たんぱく質の有効利用を目的として,小麦たんぱく 質であるグルテンに処理,加工を施してその特性を改良したり新しい 素材としての用途を開発したりすることが試みられ,1980年代に入ってからは,香粧品や医薬品分野での機能性配合成分としても小麦たんぱくが利用されるようになった。 小麦に含まれるグルテンを酵素(プロテアーゼ)により分解処理して起泡剤を製造することは昭和50年頃から知られていた。このほか, 中性付近ではほとんど水に不溶性でありそのために食品加工への利用が大きく制限されている小麦グルテンを温和な酸やアルカリ加水分解処理により脱アミド化してその乳化性,溶解性及び加工性を改良し , 中性付近ではほとんど水に不溶性でありそのために食品加工への利用が大きく制限されている小麦グルテンを温和な酸やアルカリ加水分解処理により脱アミド化してその乳化性,溶解性及び加工性を改良し,肉加工用の添加物として用いることも昭和55年頃には知られていた。 上記のグルテンの脱アミド化処理では,グルテンの側鎖に存在するアミド結合が切断されるだけで,主鎖のペプチド結合はほとんど切断されず,そのためにグルテンは未だ巨大分子状を呈し,分散性や加工性等に劣るものであったのに対し,昭和63年頃には,原料グルテンを部分的に脱アミド化し,そののちにプロテアーゼで処理することで 分散性,加工性や起泡性に優れた,平均分子量5000ないし2万のたんぱく質を製造する方法が特許出願された。同手法の特許公報によれば,同手法により製造された加水分解グルテンは,上記特徴を有するほか,小麦等の穀物に由来していて安全性が高いために,食品加工用の添加剤として有効であり,特にケーキ,クッキー,メレンゲ,ア イシングなどの製菓や製パン,かまぼこやはんぺん等の練製品の製造に適するとされている。 (以上abにつき,乙ハA26ないし29)c 平成3年8月頃までには,小麦たんぱく質は香粧品の配合成分として応用が進み,アメリカのクローダ社はハイドロトリティカム200 0,ベジェテック社は加水分解コムギプロテインVP-8560を発 売していた。同時期,クローダ社は分子量10万を超える高分子量の製品を発売している。また,同時期までに日本でも,丸源株式会社がグリアジンAGPを市場に出していた。(乙ハA29)さらに,クローダ社は,平成6年頃には,分子量25万という大きな分子量を有する している。また,同時期までに日本でも,丸源株式会社がグリアジンAGPを市場に出していた。(乙ハA29)さらに,クローダ社は,平成6年頃には,分子量25万という大きな分子量を有する加水分解コムギたんぱくを調製し,トリティゾール という商品名で発売をした。当時の資料(乙ハA30)によれば,それまで加水分解たんぱくは主として毛髪化粧料に利用されていたところ,上記の高分子量加水分解コムギたんぱくは,表面張力,湿潤性,保湿性,毛髪への光沢性,櫛通り性等でより優位な効用を有しており,その他メイクアップ製品や石鹸,洗剤等への応用も示唆されている。 (3) 医薬部外品,化粧品及びその原料に関する法令上の規制等ア薬事法等の規制(ア) 品目の定義a 薬事法上,「医薬部外品」とは,①吐きけその他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止,あせも,ただれ等の防止,脱毛の防止,育毛又は 除毛の目的に使用される物であって機械器具等でないもの,②人又は動物の保健のためにするねずみ,はえ,蚊,のみ等の駆除又は防止を目的とする物であって機械器具等でないもの,③医薬品のうち厚生労働大臣が指定するものであって,人体に対する作用が緩和なものというとされている(同法2条2項)。 b 薬事法上,「化粧品」とは,人の身体を清潔にし,美化し,魅力を増し,容貌を変え,又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために,身体に塗擦,散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で,人体に対する作用が緩和なものをいう(ただし,これらの使用目的のほかに,医薬品の用途に使用されることも併せて 目的とされている物及び医薬部外品を除く。)とされている(同法2条 3項)。 (イ) 製造販売に係 (ただし,これらの使用目的のほかに,医薬品の用途に使用されることも併せて 目的とされている物及び医薬部外品を除く。)とされている(同法2条 3項)。 (イ) 製造販売に係る規制a 製造(製造販売)に係る許可平成14年法律第96号による改正前の薬事法においては,業として医薬部外品及び化粧品の製造を行うには厚生労働大臣の許可が必 要であり(同法12条),当該許可は製造所ごとに与えられた(同条2項)。当時は,医薬部外品及び化粧品の販売を直接規制する規定は存在せず,製造者は製造所を保有することを前提に,製造に関する許可及び製品の承認を通じて,医薬部外品及び化粧品の販売が許されていた。 なお,かかる製造業の許可の申請は,施行規則に定められたによる申 請書を当該許可の権限に属する事務を行うこととされた地方厚生局長又は都道府県知事に提出することによって行うものとされていた(同法施行規則14条)。 これに対し,改正薬事法(平成17年4月1日施行)においては,業として医薬部外品等の製造を行うには従前と同様に許可を要する こと(同法13条)に加え,製造とは別に製造販売業の許可制度が採用され,医薬部外品等の販売を行うには製造販売業者としての許可を要することとされた(同法12条)。その趣旨は,従来の制度では製造と販売元が分離されることにより製造された医薬部外品等の市場での流通後の品質管理及び安全対策が不十分となることから,販売業者 においてその責任を果たさせることとした点にある。なお,「製造販売」とは,その製造等(他に委託して製造をする場合を含み,他から委託を受けて製造をする場合を含まない。以下同じ。)をし,又は輸入をした医薬品(原薬たる医薬品を除く。),医薬部外品,化粧品又は医療機器を,それぞ の製造等(他に委託して製造をする場合を含み,他から委託を受けて製造をする場合を含まない。以下同じ。)をし,又は輸入をした医薬品(原薬たる医薬品を除く。),医薬部外品,化粧品又は医療機器を,それぞれ販売し,賃貸し,又は授与することをいう(同法 2条12号)。かかる製造業ないし製造販売業の許可申請は,当該許可 の権限に属する事務を行うこととされた地方厚生局長又は都道府県知事に提出することによって行うものとされた(同法施行規則19条,25条)。 b 個別品目ごとの製造承認医薬部外品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬部外品を除 く。)及び厚生労働大臣の指定する成分を含有する化粧品を製造ないし製造販売する場合には,上記許可とは別に品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならないものとされ(同法14条1項),厚生労働大臣はかかる承認手続において実際に製造販売される製品の品質,有効性,安全性等に関する事項が適当で あるかどうかを判断する(同条2項)。なお,実際の承認審査は,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)で実施するものとされている。 かかる承認の申請に際して,製造販売業者は,厚生労働省令で定めるところにより,申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の 資料を添付して申請しなければならないものとされているところ(同条3項),平成16年3月当時においては,同法施行規則等において,医薬部外品についての承認申請であれば,①起原又は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料,②物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料,③安定性に関する資料,④安全性に 関する資料(具体的な資料の範囲として,急性毒性,亜急性毒性,慢性毒性,生殖に及 状況等に関する資料,②物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料,③安定性に関する資料,④安全性に 関する資料(具体的な資料の範囲として,急性毒性,亜急性毒性,慢性毒性,生殖に及ぼす影響,抗原性(皮膚感作試験,光感作試験等),変異原性,がん原性,局所刺激(皮膚刺激試験,粘膜刺激試験等),吸収,分布,代謝,排泄に関する各資料),⑤効能又は効果に関する資料の添付が必要であり,化粧品についての承認申請であれば,①起原又 は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料,②物理的化 学的性質等に関する資料,③安全性に関する資料の添付等が必要であった(乙ロA46の2,47の2)。 ただし,承認申請実務の便宜を考慮して,当該申請に係る事項が医学薬学上公知であると認められる場合その他資料の添付を必要としない合理的理由がある場合においては,その資料を添付することを要 しないものとされ(同施行規則18条の3柱書ただし書き),その旨の通達も発出されていた(「医薬部外品等の製造又は輸入申請に際し添付する資料について(通知)」・昭和55年5月30日薬発第700号厚生省薬務局長通知。乙ロA46の2)。 そして,厚生省及び厚生労働省は,「医薬部外品原料規格」(平成3 年5月14日薬発第535号薬務局長通知「医薬部外品原料規格について」,その後数度にわたり改変され,実務上「旧外原規」と呼ばれる。),「化粧品原料基準」(昭和42年8月厚生省告示第322号,実務上「粧原規」と呼ばれる。),化粧品種別配合成分規格(平成5年10月1日薬審第813号審査課長通知,実務上「粧配規」と呼ばれる。 乙ロA3,乙ハA8)及び粧外規1993追補(乙ロA2)といった公定書を公表し,化粧品や医薬部外品に配合することができる成 0月1日薬審第813号審査課長通知,実務上「粧配規」と呼ばれる。 乙ロA3,乙ハA8)及び粧外規1993追補(乙ロA2)といった公定書を公表し,化粧品や医薬部外品に配合することができる成分や添加物を定めていた。 これらの公定書は,平成18年3月31日付け外原規2006より統合され,公表,施行された(乙ロA4,5,乙ハA10)。 (ウ) 製造承認に関する申請実務上の取扱いa 安全性資料の添付の要否製造承認を得ようとする者がある品目に係る承認の申請を行う場合,申請書に添付する資料の範囲に関しても,「医薬部外品等の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料について」(昭和55年5月 30日薬発第700号薬務局長通知)により取扱いが定められており, 申請区分1(新有効成分),同2(承認前例あり),同3(新添加物等)の申請区分に応じた定めがされていた(乙ロA47の2)。 すなわち,製造承認を得ようとする品目に配合しようとする成分が過去に化粧品ないし医薬部外品の原材料として使用された前例がある場合(つまり,過去に同量の同成分を原材料とする製品につき,厚 生労働省に対し,別紙規格及び安全性試験の結果を添付の上で申請がされ,承認の上,実際に製品に同成分が配合,使用された実績がある場合)には,このような承認前例(使用前例)を把握できる資料を提出することによって,安全性等に関する試験結果の添付の省略が許容されていた。また,上記の公定書に記載されている原材料に属する成 分と同一規格の成分を指定された配合成分量の範囲内で対象製品の原材料として使用することを予定している場合は,申請書において,その原材料を当該製品の成分として用いることを記載し,公定書の名称及び成分名を記載して申請を行えば された配合成分量の範囲内で対象製品の原材料として使用することを予定している場合は,申請書において,その原材料を当該製品の成分として用いることを記載し,公定書の名称及び成分名を記載して申請を行えば,審査実務上,安全性等に関する試験結果の添付の省略が許容されていた(ただし,この場合は承認 前例との規格における同一性は担保されるが,事前に承認がされた事実の有無や配合量の点で疑義が生じた場合には安全性資料の提供が求められる可能性がある。)。以上が申請区分2によるものである。 なお,厚生労働省は外原規2006の制定に当たり,「医薬部外品の添加物リストについて」(平成20年3月27日薬食審査発第032 7004号医薬食品局審査管理課長通知)を発出し,医薬部外品の配合前例等を示す添加物リストを公表しており,これによれば,外原規2006にいう「加水分解コムギ末」を「薬用石けん・シャンプー・リンス等」(薬事法2条3項に規定する使用目的のほかに,にきび,肌荒れ,かぶれ,しもやけ等の防止又は皮膚の殺菌消毒に使用されるこ ともあわせて目的とされているもののうち,専ら洗い流す用法で使用 されるもの)や「薬用化粧品」に使用する場合には,原則としてその承認申請に際して,安全性に関する資料の提出を求めないこととされている(乙ロA40)。 以上に対し,承認前例がなく,また公定書に収載されていない新規成分を原材料として使用する場合には,薬事法の定める原材料として の安全性等に関する試験を実施し,その結果を申請書に添付して承認申請を行う必要があった(申請区分1及び3。これを「別紙規格による申請」ということがある。)。 (以上につき,乙ロA46の1・2,47の1・2,49)b 安全性試験の内容 行う必要があった(申請区分1及び3。これを「別紙規格による申請」ということがある。)。 (以上につき,乙ロA46の1・2,47の1・2,49)b 安全性試験の内容 医薬品の製造(輸入)承認申請に際して添付すべき資料のうち毒性に関するものについて,厚生省は,平成元年9月1日付け「医薬品の製造(輸入)承認申請に必要な毒性試験のガイドラインについて」(薬審一第24号厚生省薬務局審査第一・審査第二・生物製剤課長連名通知)を発出し,従来のガイドラインを改めて,「医薬品毒性試験法ガイ ドライン」を定めた(乙ロA29)。 同ガイドラインにおいては,添付すべき資料に係る各種試験(単回投与毒性試験,反復投与毒性試験,生殖・発生毒性試験,皮膚感作性試験,皮膚光感作性試験等)の内容が定められており,上記改定時に,新たに皮膚感作性試験及び皮膚光感作性試験について新たな定めが おかれた。また,同ガイドラインでは,皮膚感作性試験として,皮膚外用剤として用いる被験物質の皮膚感作性検査のための標準的試験法を示しており,原則として新たに皮膚外用剤として全ての被験物質について試験を実施すべきとしている。試験方法としては,AdjuvantandPatchTest,MaximizationTest 等,8種類のものがあり,適切 と判断される方法を用いることができるが,MaximizationTest につ いては,モルモット5匹以上を一群として,被験皮膚外用剤感作群,陽性対照感作群,対照群を設けた上,まず,試験動物の皮膚に被験皮膚外用剤・被験皮膚外用剤とFCAとの乳化物・蒸留水を皮内注射し,1週間おいた後にラウリル硝酸ナトリウムを塗布し,更に翌日,同一部位に被験皮膚外用剤を4 照群を設けた上,まず,試験動物の皮膚に被験皮膚外用剤・被験皮膚外用剤とFCAとの乳化物・蒸留水を皮内注射し,1週間おいた後にラウリル硝酸ナトリウムを塗布し,更に翌日,同一部位に被験皮膚外用剤を48時間閉塞パッチすることにより感作を させ,次いで,閉塞パッチ後2週間目に当該動物に被験皮膚外用剤を開放で塗布して惹起させ,24時間目及び48時間目の皮膚反応に照らして,被験皮膚外用剤の皮膚感作性を評価するものとされている。 その際は,紅斑並びに浮腫の程度及び頻度を陽性対照感作群,対照群と比較して評価するものとされている。 なお,安全性試験の内容としては上記の通知のほか,OECDガイドライン等の公的に確立された試験法に従ったものであってもよいとされている。 (以上につき,乙ロA29,33,34,49)(エ) 化粧品に関する規制 a 改正内容化粧品に関しては,薬事法の改正により,平成13年4月1日に規制緩和がされ,品目毎の事前許可制の廃止,全成分表示が導入されたほか,新規原料の使用に関しても,一部のカテゴリーを除き,製造業者の自己責任で原料の安全性を確認し,選択・配合することが可能と なった。上記制度改正に先立ち,厚生省は,平成12年9月29日に,化粧品基準を策定し(同基準の施行は平成13年4月1日),化粧品の配合成分に関する「ポジティブリスト」と「ネガティブリスト」を公表した。ポジティブリストは,防腐剤,紫外線吸収剤及びタール色素に該当する成分(特定成分)の中で化粧品に使用することができる成 分を収載したものであり,ここに示された範囲内で化粧品に配合する ことができる成分が明らかにされている。特定成分のうち,ポジティブリストに収載されていない成分を使用したい場合は,安全 分を収載したものであり,ここに示された範囲内で化粧品に配合する ことができる成分が明らかにされている。特定成分のうち,ポジティブリストに収載されていない成分を使用したい場合は,安全性に関する資料(制度改正前に新規化粧品成分の申請時に求められていた9項目,すなわち単回投与毒性,皮膚一次刺激性,連続皮膚刺激性,接触感作性,光毒性,光接触感作性,眼刺激性,遺伝毒性,パッチテスト のほか,3試験の結果等)等を厚生労働省に提出し,審査を経た上でリストに収載されれば,化粧品への配合が可能となる。他方,ネガティブリストには化粧品への配合禁止成分と特定成分以外で配合制限が設けられている成分が収載されており,企業はこれらの成分に該当しない成分については,自社の責任で化粧品に配合することができる。 このような規制緩和の結果,平成13年4月1日以降,化粧品について薬事法上の製造承認を取得した例は存在しない。(乙ロA46の1,乙ハA122)b 上記制度改正を受けて化粧品業界の健全な発展を目的とし,昭和34年に設立された化粧品製造業者の全国団体である粧工連は,技術委 員会安全性部会名で「化粧品の安全性評価に関する指針」を策定し,化粧品に配合される原料の安全性評価の考え方及び代表的な評価試験法を紹介し,自主規制を行うようになった(乙ハA45,46)。 同指針の平成20年の改定版(乙ロA32,乙ハA47)によれば,製品の安全性評価につき,化粧品の安全性評価は製品そのものについ て実施されるのが基本的であり,一般的に市場で実績のある原料のみで処方構成される製品については使用方法等が同一であればその市場実績により基本的に安全性が担保されているものと考えられるが,市場実績がない又は使用方法等が異なる原料を配合する製品につい ある原料のみで処方構成される製品については使用方法等が同一であればその市場実績により基本的に安全性が担保されているものと考えられるが,市場実績がない又は使用方法等が異なる原料を配合する製品については,原料の市場実績と安全性評価,製品の種類,適用方法,製品中 の配合濃度,製品の適用量,適用頻度,皮膚との接触総面積,適用部 位,適用時間,予見できる誤使用,使用対象層及び類似の組成製品に関する市場実績等を考慮して各企業の責任において適切な方法で評価を実施し,安全性を担保すべきとされている。 c 「指針」における安全性試験の内容上記「指針」は,具体的な安全性評価試験法の概略につき,単回投 与毒性,皮膚毒性や眼刺激性等,各項目に関する試験法を紹介している。 「皮膚毒性」の項目には,化学物質は皮膚に接触することにより皮膚炎を起こす場合があるところ,刺激性皮膚炎は皮膚免疫系を介さず化学物質の直接的な傷害作用により非特異的に生じるものであって, 一次刺激性皮膚炎,連続刺激性皮膚炎,紫外線(太陽光)が関与した皮膚炎があり,皮膚に適用される被験物質の皮膚刺激性の程度を知り,皮膚傷害の防止に役立てることは化粧品原料の安全性を確保する上で重要であるとされている。皮膚一次刺激性試験とは,ヒト皮膚に被験物質を単回適用することによって生じる皮膚反応(紅斑,浮腫,落 屑等)を予測するために実施され,一般的な試験法は,試験動物の除毛した健常皮膚に被験物質を塗布又は閉塞貼付し,投与後24,48及び72時間目に投与部位を肉眼観察して判定及び評価を行うものである。連続皮膚刺激性試験とは,ヒト皮膚に被験物質を繰り返し接触させることにより生じる皮膚反応の程度を予測するために実施さ れ, 一般的な試験法は,試験動物の除毛し て判定及び評価を行うものである。連続皮膚刺激性試験とは,ヒト皮膚に被験物質を繰り返し接触させることにより生じる皮膚反応の程度を予測するために実施さ れ, 一般的な試験法は,試験動物の除毛した健常皮膚に被験物質を1日1回,2週間(5日以上)にわたって塗布し,投与部位を各自肉眼観察して判定・評価を行うものである。また,被験物質の皮膚に対する安全性が動物試験等により立証された場合には,ヒトパッチテストを行うものとされ,これは,被験物質の一次刺激性,場合によっては 感作性により生ずる皮膚反応の程度を確認するものである。試験法は, 成人40例以上の上背部等の皮膚に被験物質を閉塞貼付(24時間)し,貼付の除去後,1時間後,24時間後等の皮膚反応の発現状態を観察し,判定及び評価をするものである。 「皮膚アレルギー性」の項目には,皮膚感作性試験や光感作性試験が紹介されている。皮膚感作性とは,被験物質を皮膚に繰り返し接触 させ,その後に被験物質を単回接触させることにより生じる紅斑,浮腫及び落屑等の変化を指標とする特異的皮膚反応であり,皮膚感作性試験は,ヒトが皮膚に被験物質を繰り返し適用することによって生じる特異的な免疫システムの誘導と,その結果による皮膚反応惹起の有無とその程度を予測するために実施される。試験方法としては,アジ ュバント(免疫増強剤)を用いる方法と,用いない方法があるが,一般的にはアジュバントを用いた試験法で感作性ポテンシャルを確認し,そこで陽性反応が認められた場合には,次にアジュバントを用いない試験により,より実使用に近い条件での感作性反応の有無を確認することが多いとされる。アジュバントを用いる試験法としては, MaximizationTest のほか,AdjuvantandP 験により,より実使用に近い条件での感作性反応の有無を確認することが多いとされる。アジュバントを用いる試験法としては, MaximizationTest のほか,AdjuvantandPatchTest が紹介されている。このうち,AdjuvantandPatchTest の具体的な方法としては,被験動物5匹以上を一群として,被験物質感作群,陽性対照感作群及び対照群として,皮膚に被験物質を閉塞貼付するなどして感作させ,感作の2週間後に開放塗布を行い惹起させ,その24時間目及び48 時間目に投与部位を肉眼観察し,判定・評価をするものとされている。 その他,アジュバントを用いない試験法としてBuehler 法が,ガイドライン化された方法ではないがヒト皮膚感作性試験法等が紹介されている。 (以上につき,乙ロA32,乙ハA47) (オ) 公定書への収載 公定書に収載されていない成分を新たに公定書に収載する際には,厚生労働省が公定書への収載を希望するのかに関するアンケートを実施し,成分の製造業者らが応募して申し込むことになる。 この際,厚生労働省は申し込まれた成分を公定書に収載するかどうかの判断に際し,過去に当該成分が配合された医薬部外品の承認実績が一 定数存在するかという点を要件として判断する(乙ロA31)。したがって,新たに公定書に収載された成分は,医薬部外品等の原材料として使用前例があること,つまり,過去に安全性試験等の添付を要する厚生労働省による承認を経た上で実際に製品に使用されたという実績があることが担保されているといえる。 なお,平成18年に外原規2006が新たに編纂される際,従来の公定書に記載されていた加水分解コムギ末を含む各成分は,概ね特段の安全性資料 たという実績があることが担保されているといえる。 なお,平成18年に外原規2006が新たに編纂される際,従来の公定書に記載されていた加水分解コムギ末を含む各成分は,概ね特段の安全性資料の提出を求められることなく,引き続き外原規2006に収載された。 (以上につき,乙ハA122,140の1・2)。 イ新たに製造販売される化粧品又は医薬部外品に関する製造承認の申請において,安全性試験の結果等を提出すべき主体は,当該化粧品及び医薬部外品の製造業者(製造販売業者)であり,配合成分の原材料業者ではなく,厚生労働省が原材料の安全性につき,原材料業者に直接問い合わせることも通常ない。なお,化粧品及び医薬部外品に用いられる原材料の製造 業者において,自ら当該原材料の安全性試験を実施している場合もあるが,必ずこれを行っているわけでもない。(乙ロA26,乙ハA139の1,140の1・2,142の1・2)ウ 「加水分解コムギ末」について(ア) 公定書への収載 a 加水分解コムギ末は,粧外規1993追補に新たに収載された。(乙 ロA2,乙ハA7)これによれば,加水分解コムギ末(HydrolyzedWheatPowder)とは,コムギの種子の粉を加水分解して得られる水溶性成分の乾燥粉末であるとされ,定量するとき,窒素を8.0~18.0%含むとされるほか,その規格は以下のとおりである。 性状本品は,白~淡かっ色の粉末で,わずかに特異なにおいがある。 ⒝ 確認試験ⅰ 本品の水溶液(1→20)1mlに水溶化ナトリウム溶液(1→100)5mlを加えて混和し,硫酸銅溶液(1→20)を1 摘加えるとき,液は,淡赤紫~赤紫色を呈する。 ⅱ 本品の水溶液 ⅰ 本品の水溶液(1→20)1mlに水溶化ナトリウム溶液(1→100)5mlを加えて混和し,硫酸銅溶液(1→20)を1 摘加えるとき,液は,淡赤紫~赤紫色を呈する。 ⅱ 本品の水溶液(1→20)5mlにニンヒドリン試液1mlを加えて混和し,水溶上で3分間加熱するとき,液は,青~青紫色を呈する。 ⒞ 純度試験 ⅰ 重金属本品1.0gをとり,第3法により操作し,試験を行うとき,その限度は,20ppm以下である。ただし,比較液には鉛標準液2.0mlをとる。 ⅱ ヒ素 本品1.0gをとり,第3法により試験溶液を調製し,操作Bを用いる方法により試験を行うとき,その限度は,2ppm以下である。 ⒟ 乾燥減量 8.0%以下(1g,105°,4時間) 強熱残分 12.0%以下(第1法,1g) ⒡ 定量法 本品約0.02gを精密に量り,窒素定量法(第1法)により試験を行う。0.01N硫酸1ml=0.14007mgNb 加水分解コムギ末は,その後も公定書に収載され続け,外原規2006にも収載された(乙ロA5)。 (イ) 加水分解コムギの利用 平成23年8月の時点で,加水分解コムギは様々な医薬部外品及び化粧品の原材料として使用されており,被告フェニックスの社の従業員がインターネット上で加水分解コムギ又は加水分解コムギ末が含まれる商品名を調べたところ,少なくとも79商品が該当し(乙ロB14),実際にこれらの商品が店頭で販売されているかを確認すると,3商品が確 認された(乙ロA30)。 (ウ) 外原規2006における規格改正a 本件製品事故の発生後,厚生労働省は,平成23年8月24日,「 が店頭で販売されているかを確認すると,3商品が確 認された(乙ロA30)。 (ウ) 外原規2006における規格改正a 本件製品事故の発生後,厚生労働省は,平成23年8月24日,「医薬部外品又は化粧品の使用による健康被害の報告について」(薬食発0824第4号厚生労働省医薬食品局長通知)を発出し,以後,国立 医薬品食品衛生研究所の代謝生化学部が中心となり,厚生労働科学研究「成人独自のアナフィラキシーの実態と病態に関する研究」及び「医薬部外品・化粧品に含有される成分の安全性に関する研究」が開始された。 国立医薬品食品衛生研究所では,マウスを使用する経皮感作試験系 を構築し,グルパール19Sとその原料であるコムギグルテンの経皮感作性の比較,加水分解コムギグルテンの経皮感作性に与える影響等について検討を行った結果,以下の知見を得た。 まず,本件アレルギーの発症機序は,経皮経粘膜にてグルパール19の一部が吸収され,体内にグルパール19Sに対する特異的IgE が産生し,その抗体が小麦と交差反応したことによると考えられた。 そして,グルパール19Sには高分子量の抗原性たんぱく質が多く含まれていたことが強いIgE抗体の産生に関与していると考えられ,コムギグルテンの酸加水分解の時間を長くすると,分子量も低下し,IgE抗体との反応性は低下することが示された。更に,限外濾過により加水分解コムギの分子量を分けたものについてIgE応答性を 調べたところ,分子量3000以下のものではIgE応答性が見られないことが確認された。 また,諸外国では,欧州では,平成26年10月に加水分解コムギのペプチド最大分子量が3.5kDa以下の場合,加水分解コムギタンパクは安全との考え方が示され,米国では,同年3月に化 とが確認された。 また,諸外国では,欧州では,平成26年10月に加水分解コムギのペプチド最大分子量が3.5kDa以下の場合,加水分解コムギタンパクは安全との考え方が示され,米国では,同年3月に化粧品成分 審査委員会(CIR)で平均分子量が3500以下の加水分解コムギたんぱくは安全であるとの考えが示された。 以上を受けて,国立医薬品食品研究所では,加水分解コムギについて,サイズ排除クロマトグラフィーを用いて測定して分子量と感作能との関係を調査した結果,感作の要因は,加水分解による製造過程で 生成した高分子量たんぱく質の混在によるものと考えられ,分子量1万以下では感作リスクが低下することが示唆された。この点,グルパール19Sと他の市販品を測定した結果,分子量約1万以下の割合はグルパール19Sが10%程度であるのに対し,他銘柄は70%と違いが認められた。 b 厚生労働省は,国立医薬品食品衛生研究所の上記検討結果を踏まえて試験等を実施し,平成26年2月18日,平成25年度第2回外原規検討会において,加水分解コムギ末に関する規格の記載につき審議を行った。この際,規格試験法は,加水分解コムギ末の分子量分布をサイズ排除クロマトグラフィーで測定するものとし,規格はチトクロ ムc(分子量1万2400)を指標にして,これ以下の分子量の割合 が一定以上であるよう設定された。また,判断基準である75%以上は,加水分解コムギ末のモデルとして用いたコムギグルテンの各種条件下での加水分解物の分子量分布及びマウスを用いた感作性試験の結果等に基づき設定された。 c 厚生労働省は,平成29年3月30日付けの「「医薬部外品原料規格 2006」の一部改正について(薬生発0330第2号)」を発出し,加水分解コ 用いた感作性試験の結果等に基づき設定された。 c 厚生労働省は,平成29年3月30日付けの「「医薬部外品原料規格 2006」の一部改正について(薬生発0330第2号)」を発出し,加水分解コムギ末に関する外原規2006の記載につき,強熱残分の次項に分子量分布の項目を加えるという改正を行った(乙ロB30)。 追加された分子量分布とは,下記の内容である。 記 本品0.1gをとり,加水分解コムギ末用0.02mol/Lトリス試液5mLを加えて振り混ぜた後,1時間静置する。これに加水分解コムギ末用産生0.02mol/Lトリス・塩化ナトリウム試液5mLを加えて振り混ぜた後,メンブランフィルター(0.22μm)濾過したものを試料溶液とする。別に,チトクロム1c1mgを移動 相1mLに溶かし,標準溶液とする。試料溶液及び標準溶液20μLずつとり,次の条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行うとき,試料溶液において,チトクロム1cの保持時間以降に認められるピーク面積は,試験条件の面積測定範囲に認められるピークの合計面積の75%以上である。(以下略) (以上aないしcにつき,乙ロB29,30)(4) 本件石鹸の開発経緯ア本件石鹸の開発以前の被告フェニックスと被告片山化学との交渉経緯(ア) 被告片山化学は,平成2年版技術資料を作成するに先立ち,グルパールと同様に小麦由来の加水分解物であるグルアディンAGPという製 品が,欧州から輸入され,日本国内で既に使用前例がある旨を聞いてい た。また,当時,被告片山化学は,尚和化工株式会社(以下「尚和」という。)及び株式会社リアル(以下「リアル」という。)に対してグルパールの提供を行っており,両社はグルパールを配合した製品の開発に取 た。また,当時,被告片山化学は,尚和化工株式会社(以下「尚和」という。)及び株式会社リアル(以下「リアル」という。)に対してグルパールの提供を行っており,両社はグルパールを配合した製品の開発に取り組んでいた。そこで,被告片山化学は,尚和から出来合いの製品(ハンドクリーム)を譲り受け,自社でモニター試験を行ったところ,使用 後にしっとりするとの感想を多く得られた。また,被告片山化学は,リアルが上記製品の製造承認申請を行う旨聞き及んでいた。 以上の情報を基に,被告片山化学は,平成2年版技術資料(乙ロA24,乙ハA2)に,グルアディンAGPの前例使用を念頭に「類似の化合物に使用前例があり」,リアルの製造承認申請を念頭に,「化粧品用基 剤としての利用が見込めます(現在別紙申請中)」と記載し,上記したモニター試験の結果も「使用例」として記載した。 リアルは,実際に,平成3年3月7日,ショーワスベットスクラブクリームという製品を医薬部外品として製造承認申請を行い,厚生省より同年12月1日付けで製造承認を取得した。 被告片山化学は,以上を基に平成3年版技術資料(乙ロA25)には「化粧品に使用する場合は,別紙規格で申請する事になりますが,すでに申請中であり,化粧品,医薬部外品としての利用も可能です」と記載した。もっとも,リアルが上記製造承認申請を別紙規格により行った際,安全性等に関するいかなる資料を提出したのかは明らかでなく,被告片 山化学においても,その内容を把握していなかった。 被告片山化学は,平成7年11月にグルパールシリーズに関するパンフレット(乙ハA39)を作成したところ,上記のとおり,リアルにおいてグルパールを用いた製品が製造承認を得ていたことから,これを念 被告片山化学は,平成7年11月にグルパールシリーズに関するパンフレット(乙ハA39)を作成したところ,上記のとおり,リアルにおいてグルパールを用いた製品が製造承認を得ていたことから,これを念頭にグルパール19Sの「主な用途」として「化粧品用精製品(使用前 例有)」と記載した。 (以上につき,乙ロA24,25,乙ハA39,40,137,139の1)。 (イ) 平成9年頃,被告フェニックスの研究部部長として石鹸などの販売商品の企画と開発を担当していた C (以下「C 」という。)は,大手通販会社から依頼を受けていた石鹸の製造開発中,石鹸の性状として 「ひび割れ」が生じてしまう現象に直面しており,これを抑制する効能を有する原材料(添加成分)を探していた。そこで,同年4月,C は,被告フェニックスが原材料等の購入取引を行っていた篠永化成株式会社(以下「篠永化成」という。)の担当者に対し,その旨相談すると,篠永化成の担当者は,C に対し,被告片山化学の作成したパンフレット を交付し,グルパールを紹介した。グルパールに興味をもったC は,面談による詳細な技術説明を要望したため,篠永化成は被告片山化学に対し,その旨打診した。この間,被告片山化学は篠永化成を介して被告フェニックスに対し平成2年版技術資料を提供した。 同年5月9日,被告フェニックス,被告片山化学及び篠永化成の担当 者らは面談を行い,被告片山化学からグルパールに関する技術説明が行われた。この席でC はグルパールを石鹸のひび割れ防止のために用いる構想を持っている旨を話すとともに,被告フェニックスにおいてグルパールを1%程度添加してその性能を評価する試験を実施したい旨述べたため,被告片山化学は,グルパール19Sを50g れ防止のために用いる構想を持っている旨を話すとともに,被告フェニックスにおいてグルパールを1%程度添加してその性能を評価する試験を実施したい旨述べたため,被告片山化学は,グルパール19Sを50g無償提供するこ ととした。 被告フェニックスでは,提供を受けたグルパール19Sを1%ではなく,0.5%添加して石鹸を試作したところ,期待していたひび割れ抑制効果よりも泡の性状の改質効果があることが判明した。 同年6月末頃,被告フェニックスは,篠永化成を介して,被告片山化 学に対し,パンフレットや技術資料にある「使用前例」や「別紙申請中」 と記載されている内容の詳細の開示を要望したため,被告片山化学は,グルパール19Sがリアルのショーワスベットスクラブクリームに使用され,平成3年に製造承認を得た旨及び同成分が化粧品種別許可基準1994に収載された加水分解コムギ末に相当する旨を記載したファックスを篠永化成に送付し,同社は同旨を被告フェニックスに伝えた (乙ハA40,41)。 同年7月16日頃,被告フェニックス,被告片山化学の担当者らは打合せを行い,C はグルパール19Sには泡の改質効果があることを被告片山化学に伝えた。また,C は,試作品でモニターテストを実施したいことやグルパールを含んだ石鹸を製造した場合に特許権侵害にな らないかどうかを被告片山化学に伝えていたため,被告片山化学の担当者は,この際,グルパール19Sの製品見本1.5kgと出願特許リストを持参して,C に交付した。当時,石鹸のひび割れ防止につき満足な結果は得られていなかったが,C は,石鹸以外のシャンプーやリンス等の製品にグルパール19Sを応用することを検討している旨述べ, そのために水溶性に難 た。当時,石鹸のひび割れ防止につき満足な結果は得られていなかったが,C は,石鹸以外のシャンプーやリンス等の製品にグルパール19Sを応用することを検討している旨述べ, そのために水溶性に難があった同成分の改良を被告片山化学に対して求めた。 同年11月11日頃,被告フェニックス,被告片山化学及び篠永化成の担当者らは,グルパール19Sの泡の改良効果を踏まえて共同での特許出願に関する打合せを行った。この特許出願の提案は被告フェニック ス側からされたものであったが,被告片山化学は申請方法の概要や費用等について説明を行った。また,この頃までに,被告フェニックスではグルパール19Sを用いた石鹸でモニター試験を行ったところ,概ね良好な結果が得られたものの,ひび割れは未だ生じており,この点に関する満足のいく結果は得られていなかった。C は,その旨及びグルパー ル19Sのシャンプー等への応用について,被告片山化学側に説明を行 った。 平成10年7月,被告フェニックスがグルパール19Sをシャンプーやリンスへの応用も検討している旨を被告片山化学に伝えたことを踏まえ,被告片山化学は,それまでにグルパール19Sについて被告フェニックスにおいて見出されていたひび割れ防止効果や泡の改良効果等 の性能に考察を加えた技術資料(乙ロA23)を作成し,これを同社に交付した。 また,同年10月9日,被告片山化学は,グルパール19Sに関する本件製品安全データシート(乙ハA4)を作成し,被告フェニックスに交付した。なお,本件安全データシートのような資料は,一般に,化学 物質につき取引を行う際に,原料メーカーから取引先に交付されるものである。本件製品安全データシートには,「有害性情報」として 交付した。なお,本件安全データシートのような資料は,一般に,化学 物質につき取引を行う際に,原料メーカーから取引先に交付されるものである。本件製品安全データシートには,「有害性情報」として,皮膚や眼に直接付着した場合には刺激を起こす可能性があること,変異原性は陰性であることのほか,「感作性:データなし」と記載されている。また,その他の欄には,記載内容は現時点で入手出来る資料や情報等に基づい て作成されており新しい知見によって改訂されることがあること,記載された注意事項は通常の取扱いを対象としたものであり,特別な取扱いをする場合は用途及び用法に適した安全対策の実施を求めること,重要な決定等に利用する場合は試験によって確認することを勧める旨のほか,危険性及び有害性の評価は必ずしも十分ではない旨の記載がある。 なお,一般に,製品の安全性のデータシートにおいて感作性につき「データなし」と記載された場合,それは感作性に関する何らのデータもないという意味(有害であることを示すデータもないし,有害でないことを示すデータもないという趣旨)で用いられている。 同年11月から,被告片山化学は被告フェニックスに対してグルパー ル19Sの出荷を開始し,同月に10kgを出荷して以降,平成11年 3月に20kg,同年10月に10kgをそれぞれ出荷した。 しかし,同年10月以降,被告フェニックスが大手通販会社との間で取り組んでいた石鹸の開発企画が頓挫し,グルパール19Sを配合した石鹸は販売されることなく,同企画は終了した。以降,本件石鹸の開発が開始されるまで,被告片山化学との取引は中断した。 上記やりとりの中,C は,シャンプーやボディソープ等にグルパール19Sを用いた場合 く,同企画は終了した。以降,本件石鹸の開発が開始されるまで,被告片山化学との取引は中断した。 上記やりとりの中,C は,シャンプーやボディソープ等にグルパール19Sを用いた場合の効果を教えてほしい旨ないし試験を行ってほしい旨を被告片山化学に対して申し入れたが,被告片山化学は,同社では化粧品開発のノウハウをもっておらず,申入れのあった試験も方法が分からず,問い合わせには答えられない旨,グルパール19Sの乳化性 等に関する試験であれば実施できる旨を回答したことがあった。 (以上につき,乙ロA23,45の2,48,乙ハA4,5,40,41,137,139の1,144の1・2,145の1・2,146の1・2,147の1・2,148の1・2,149の1・2,150の1・2,151の1・2)。 イ本件石鹸の開発経緯(ア) 平成13年4月頃,被告フェニックスは,被告悠香の設立に関与したD 夫妻(以下「D 夫妻」という。)から,鹿児島県産の無農薬茶葉を使用した石鹸を開発したいという相談を受け,以後,新たな石鹸の開発に向けた協議を行うようになった。 C は,新たな石鹸の原材料の一つとしてグルパール19Sを使用することを思い立ち,同年8月,被告片山化学からグルパール19Sを10kg購入し,以後,グルパール19Sの継続的な購入を開始した。この際,C は,被告片山化学に対し,茶を配合した石鹸を開発する旨の概要を伝えた。 同月16日,被告片山化学は被告フェニックスから以前に納品したグ ルパール19Sと色が異なる旨の問い合わせを受けたため,担当者らが被告フェニックスを訪問し,冷暗所にて保管することで様子を見てほしいと説明した。この際,被告フ から以前に納品したグ ルパール19Sと色が異なる旨の問い合わせを受けたため,担当者らが被告フェニックスを訪問し,冷暗所にて保管することで様子を見てほしいと説明した。この際,被告フェニックスの担当者らは,平成9年頃に開発していた石鹸にグルパール19Sは正式採用されなかったこと,ある会社から製造委託を受けている石鹸にはグルパール19Sをすでに 配合していること,リンスやリンスインシャンプーにグルパール19Sの配合を検討していること等を述べた。 その後,平成14年頃までに被告フェニックスは本件石鹸を完成させた。C は,本件石鹸の開発に当たって当初からグルパール19Sを配合することを計画し,D 夫妻の了承も得つつ開発を行ったが,配合割 合は,当初から0.3%とされた。 (以上につき,乙ロA45の2,48,乙ハA139の1)(イ) 平成14年10月2日,被告フェニックスは,奈良県知事に対し,「フェイスローションP」及び「フェイスソープP」の2製品につき,化粧品として製造製品販売名の届出を行った(乙イA2の1)。 平成15年5月23日,被告悠香が設立された。 平成16年2月16日,被告フェニックスは,フェイスソープPの組成成分から茶葉の抽出溶液等をマイナーチェンジした「フェイスソープW」を完成させ,奈良県知事に対し,化粧品として製造製品販売名の届出を行った(乙イA2の2)。 平成16年3月,被告悠香は本件石鹸の販売を開始した。なお,被告フェニックスが自ら一般消費者に対し,本件石鹸を販売したことはなく,被告悠香が,通信販売の方法により,一般消費者に対して販売した。 (ウ) その後,被告フェニックスは,フェイスソープWの後継 フェニックスが自ら一般消費者に対し,本件石鹸を販売したことはなく,被告悠香が,通信販売の方法により,一般消費者に対して販売した。 (ウ) その後,被告フェニックスは,フェイスソープWの後継商品であり,茶葉の抽出溶剤を変更した「薬用フェイスソープP」を完成させ,同年 4月16日,厚生労働大臣に対し,同製品につき,医薬部外品の製造承 認申請を行った。その際,被告フェニックスは,グルパール19Sを含め,上記石鹸の原材料はいずれも公定書に収載された成分であったため,安全性等に関する資料を添付せず,含有成分が公定書収載の成分であること等を記載して申請を行った。 平成17年4月1日,被告悠香と被告フェニックスは,改正薬事法の 施行に伴って,被告フェニックスが製造販売する本件石鹸の製造後の安全管理業務を,本件石鹸を販売する被告悠香に委託する旨の契約を締結した。また,同年5月19日頃,フェイスソープP及び薬用フェイスソープPに添付する注意書き案が決定され,これにはいずれも製造販売元として被告フェニックスが,販売元として被告悠香が記載された。そし て,同年6月7日,厚生労働省から,薬用フェイスソープPにつき,医薬部外品としての製造承認がされた。 (以上につき,乙ロA1の1・2,乙ロA19)(エ) 同年7月19日,被告フェニックスでは薬用フェイスソープPにつき,15名(男性9名,女性6名)を対象としたパッチテストを実施したと ころ,いずれも塗布部の目視判定で紅斑・浮腫等の異常は確認されず,全員陰性との結果を得た。 また,同年7月13日,被告フェニックスは外部の株式会社消費科学研究所に本件石鹸の検査,試験及び評価を委託した。同研究所では,45歳から55歳の女 認されず,全員陰性との結果を得た。 また,同年7月13日,被告フェニックスは外部の株式会社消費科学研究所に本件石鹸の検査,試験及び評価を委託した。同研究所では,45歳から55歳の女性10名につき,1か月間にわたって皮膚の試験調 査を行ったところ,皮膚のキメに対して4名について,皮膚のくすみに対して7名について有効である等の結果が判明し,同年8月30日付けで上記結果報告書が被告フェニックスに開示された。なお,上記試験における本件石鹸の使用条件は,ネットを使用し石鹸を十分に泡立ててから顔をこすらずに包み込みように洗い,水で洗い流してこすらずに水分 を取り除く作業を2回行うというもの(ダブル洗顔)であり,使用頻度 は朝1回,寝る前1回というものであった。 (以上につき,乙ロA7,8)(オ) 平成18年4月20日,被告悠香と被告フェニックスは,被告悠香が被告フェニックスの製造する本件石鹸を継続的に購入し,これを一般消費者に対して独占的に販売すること等を内容とする売買基本契約を締 結した。 平成19年11月7日,被告片山化学は,被告フェニックスからの問い合わせに対して,グルパール19Sが外原規2006に収載されている加水分解コムギ末の規格基準に適合することを確認した旨の報告を行った。 (以上につき,乙ロA6,20)(カ) 平成20年8月29日,被告悠香と被告フェニックスは,被告悠香が被告フェニックスに対して本件石鹸の製造を継続的に委託し,被告悠香は被告フェニックスから製品を継続的に買い取り,第三者に販売すること等を内容とする継続的製造委託基本契約書を交わした。 前記前提事実のとおり,本件石鹸はヒット商品となり,被告フェニックスは ックスから製品を継続的に買い取り,第三者に販売すること等を内容とする継続的製造委託基本契約書を交わした。 前記前提事実のとおり,本件石鹸はヒット商品となり,被告フェニックスは被告悠香との間の委託契約に基づき,自社工場の3つのライン全てを用いて本件石鹸を製造していたが,被告悠香は更なる増産を要請した。しかし,被告フェニックスでは増産態勢を整えられなかったため,被告悠香が製造設備を輸入して,被告フェニックスに対して使用貸借す ることとなり,同年12月12日,「薬用フェイスソープ生産設備貸与契約書」が交わされた。これに基づき製造設備が海外メーカーから輸入され,被告フェニックスの工場に備え付けられ,以後,被告フェニックスが同ラインの管理,保守等も担当し,自社所有の3つのラインと併せて4つのラインによって本件石鹸の製造を行った。 (以上につき,乙ロA22,39,48) (キ) 平成21年3月19日,被告悠香は,本件石鹸の医薬部外品製造販売承認申請を行い,同年9月4日,厚生労働省は被告悠香に対し,製造販売承認を与えた。 本件石鹸の製造販売承認を得た被告悠香は,平成22年5月から被告フェニックスではなく自社を製造販売元として本件石鹸を販売し,また, 本件石鹸の名称を薬用フェイスソープPから薬用悠香の石鹸に変更するよう被告フェニックスに指示をした。 (以上につき,乙イA16の1・2,乙ロA48)(ク) 被告フェニックスは,本件石鹸の製造を開始した後,断続的に被告片山化学からグルパール19Sの納品を受けた。しかし,平成22年8月 4日に10kgの納品を受けたのが最後となった。 また,同年8月26日頃,被告悠香は,被告フェニックスに対し,本 山化学からグルパール19Sの納品を受けた。しかし,平成22年8月 4日に10kgの納品を受けたのが最後となった。 また,同年8月26日頃,被告悠香は,被告フェニックスに対し,本件石鹸の原材料として,グルパール19Sではなく,別の加水分解コムギ末であるプロモイスWG-SPを使うように指示をした。これにより,同年9月26日をもってグルパール19Sを配合した本件石鹸の製造 は打ち切られ,被告悠香が同年9月27日以降に消費者に発送した石鹸には,グルパール19Sは配合されていない。 (以上につき,乙イA15,17,乙ハA5)。 ウ問題発生後の経過(ア) 本件石鹸の使用を原因とするアレルギー被害の報告 a 症例報告等平成21年9月頃に開催されたミニシンポジウムにおいて,福冨医師らは,洗顔石鹸中の加水分解コムギに対する経皮経粘膜感作が発症原因として疑われたとする,成人小麦アナフィラキシーを生じた4症例につき,症例報告を行った。福冨医師は,同報告において,4症例 いずれともにアナフィラキシー症状を発症する数年前から同一の加 水分解コムギを含有する洗顔石鹸を愛用してきたところ,入浴・洗顔時の皮膚や鼻の痒みを自覚し,経年的に憎悪してきたという経過が認められたことや,プリックテスト等により加水分解コムギ及び小麦・グルテンに対する陽性反応が認められたこと及びWDEIAの確定診断後,当該石鹸の使用を禁止したところ,入浴・洗顔時のアレルギ ー症状は消失したが,小麦製品摂取時の症状は未だ改善していない等の経過がみられるなどとし,結論として,一部の小麦アナフィラキシー症例では,経皮・粘膜小麦感作が発症原因となっている可能性が示唆される旨を報告した。(甲B14) 症状は未だ改善していない等の経過がみられるなどとし,結論として,一部の小麦アナフィラキシー症例では,経皮・粘膜小麦感作が発症原因となっている可能性が示唆される旨を報告した。(甲B14)その後,福冨医師は,平成22年11月20日,平成20年から平 成21年にかけて相模原病院を受診した本件アレルギーを発症したと考えられる5名の患者の症例と,従来型のWDEIA(CO-WDEIA)及びそれまでに欧州で報告されていた加水分解コムギたんぱく(HWP)による即時型過敏症との臨床面での比較を行った考察結果をまとめた「Rhinoconsensitizationtohydrolyzedwheatprotein infacialsoapcaninducewheat-dependentexercise-inducedanaphylaxis」(日本語訳:「洗顔石鹸中の加水分解コムギタンパクに対する鼻結膜性の感作は,小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを誘発する可能性がある」)と題する論文を公表した。同論文において,福冨医師は,本件アレルギーの患者は,本件石鹸の継続的な使用により 使用部位の皮膚症状から小麦摂取後の運動時におけるアナフィラキシーと重篤化していったという症状経過や,ω-5グリアジンではない他のグリアジン又はグルテニンに対する感作が窺われる点等において,CO-WDEIAとは異なり,また通常の小麦製品にも反応を示す点で通常の小麦製品は摂取できていた欧州の症例とも異なるこ と等を指摘し,現時点では上記の相違点が生じる理由は不明であって, 今後,本件アレルギーの原因となる小麦アレルゲン成分及びHWP中のIgEエピトープを明確にするため,更なる研究が必要であるとした。(乙ハ は上記の相違点が生じる理由は不明であって, 今後,本件アレルギーの原因となる小麦アレルゲン成分及びHWP中のIgEエピトープを明確にするため,更なる研究が必要であるとした。(乙ハB2)b 厚生労働省への報告厚生労働省医薬食品局安全対策課には,平成22年9月9日に国立 病院機構福岡病院の医師から,近時,特定の洗顔石鹸の使用者で食物依存性運動誘発性のアレルギーを発症する患者が相当数おり,全国のアレルギー専門病院で問題となっているとの連絡があり,同年10月13日までに同病院及び相模原病院から合計21例の同様の副作用報告が提出された。 上記報告には,加水分解コムギ末を含む洗顔石鹸の使用者で小麦含有食品を摂取後,運動時に急なアナフィラキシー症状を発現し,救急搬送された事例も含まれていた。さらに,上記報告の中には,石鹸等の医薬部外品・化粧品が原因となる事例はこれまでに専門医でも経験がほとんどなく,認識されていないため,食品ではないものが原因で 小麦に対するアレルギーとなっていることに気が付かれず,全国的に多発しているおそれがあるとの医師の問題意識を伝えるものも存在した。 (以上につき,乙イA18)(イ) 厚生労働省による通知の発出等及び被告悠香の対応 a 以上の状況を踏まえて,厚生労働省は,同年10月15日,「小麦加水分解物を含有する医薬部外品・化粧品による全身性アレルギーの発症について」と題する注意喚起を行い,併せて「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について」(薬食安発1015第2号・薬食審査発1015第13号)を発出したことを 公表した。 この段階で,厚生労働省は,副作用報告において死亡例はなく,製品の回 事項等について」(薬食安発1015第2号・薬食審査発1015第13号)を発出したことを 公表した。 この段階で,厚生労働省は,副作用報告において死亡例はなく,製品の回収の必要はないと考えていたが,消費者が気付かずにアレルギーとなり,突然アナフィラキシーを発症することは危険であるとして,被告悠香に対し,加水分解コムギ末を含有している医薬部外品及び化粧品につき,アナフィラキシー症例が報告されている製品については, ダイレクトメールにより適切な情報提供を行うとともに容器又は外箱に,眼,鼻等の粘膜への使用を避けるとともに,使用中又は使用後に,眼瞼のはれ,苦しさ,息苦しさ,蕁麻疹,しっしん,顔や体のはれ・赤み,腹痛等の症状が現れた場合,速やかに医師に相談する旨記載する措置を講じるよう指示した。 複数の医療機関によって加水分解コムギ末を含有する製品の使用後に全身性のアレルギーを発症したとする報告がされたとの問題は,同年11月29日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会でも取り上げられ,この場で事務局の担当者は,使用者らが気づかないうちにアレルギーを発症している危険もあることから,注意 事項の記載や注意喚起を徹底するよう指示を行った旨の報告をした。 (以上につき,乙イA18,乙イB13,乙ハA37)b 被告悠香は,同月20日,ホームページ上に「安心してお使いいただくために」と題して,小麦由来成分を含む化粧品等が原因となって全身性アレルギーを発症したと疑われる症例が報告されたとして,使 用に当たって何か異常を感じた場合には医師に相談するよう案内する旨を掲載し,注意喚起を行うとともに,2年間の購入実績を有する消費者を対象として,ダイレクトメールで注意喚起文を送付した。 ,使 用に当たって何か異常を感じた場合には医師に相談するよう案内する旨を掲載し,注意喚起を行うとともに,2年間の購入実績を有する消費者を対象として,ダイレクトメールで注意喚起文を送付した。 他方,同年11月25日,被告悠香は被告フェニックスに対し,それまで石鹸の原材料として使用してきたプロモイスWG-SPに代 わって加水分解コムギではないシルク由来成分を配合するよう指示 し,同年12月8日以降の出荷分には,加水分解コムギ末は使用されないようになった。 (以上につき,乙イA15,17,乙イB13)(ウ) 自主回収に至る経過a ところが,その後も本件石鹸の使用によるアレルギーの発症報告は 増加の一途をたどったため,平成23年5月20日,厚生労働省医薬食品局安全対策課は,「小麦加水分解物含有石けん「茶のしずく石鹸」の自主回収について」を公表し,同日,被告悠香もホームページ上に「旧茶のしずく石鹸(昨年12月7日以前販売分)をまだお持ちの方へ」を掲載し,本件石鹸の自主回収に踏み切った。 重ねて,同月24日,被告悠香は,全国紙3社に社告を掲載し,同月30日には,本件石鹸の購入者全員466万9000人を対象に,回収のお知らせはがきを送付した。同はがきには,共同購入や贈り物とした人へも回収を伝えてほしい旨記載されていた。 同年6月7日,消費者庁が「小麦加水分解物含有石けん「茶のしず く石鹸について」」を公表し,被告悠香の自主回収に関するお知らせを公表した。なお,この間,被告悠香は茶のしずく石鹸から加水分解シルク液を除去し,配合成分を再度調整した。 同年7月2日,被告悠香は,本件石鹸の購入者全員を対象として本件石鹸を回収,交換 表した。なお,この間,被告悠香は茶のしずく石鹸から加水分解シルク液を除去し,配合成分を再度調整した。 同年7月2日,被告悠香は,本件石鹸の購入者全員を対象として本件石鹸を回収,交換する旨及び共同購入や贈り物をした人にも回収を 伝えてほしい旨を記載したお知らせはがきを約430万枚送付した。 (以上につき,乙イB13)b 本件石鹸(「薬用フェイスソープP」,「薬用悠香の石鹸」)の自主回収に伴い,平成23年6月10日時点で170万個以上販売されていた「渋の泡石鹸」等,本件石鹸と同様にグルパール19Sを含有する 医薬部外品・化粧品35種の製品につき,自主回収が実施され,厚生 労働省のホームページにおいてその旨掲載がされた(乙ハA18,19)。 (5) 本件アレルギーの実態解明に係る経過ア平成23年頃(ア) 各関係機関による対応 a 平成23年7月4日,日本アレルギー学会は,本件石鹸の使用による小麦アレルギーの発症が社会的問題となっており,責任ある立場として患者,一般国民らに向けて適切な情報提供を行う必要があるとして,特別委員会を立ち上げた。 特別委員会は,その第1回の会合において,①加水分解たんぱく含 有化粧品の障害実態の把握と抗原分析,②有害事象に関する情報収集システムの構築及び③治療方法の開発を大きな到達目標として合意した。なお,上記①に係る加水分解たんぱく含有化粧品の障害実態の把握,茶のしずく石鹸の障害実態の把握及びグルパール19Sの感作抗原性の分析と交差反応性の検討は,いずれも厚生労働科学研究事業 として実施されることとされた。 同委員会は,大学の研究機関や病院に所属するアレルギー専門医ら合計14名で構成され,そ 作抗原性の分析と交差反応性の検討は,いずれも厚生労働科学研究事業 として実施されることとされた。 同委員会は,大学の研究機関や病院に所属するアレルギー専門医ら合計14名で構成され,その後,同年11月には3名が委員として追加された。 (以上につき,乙イB1の1,乙イ総C1)。 b 同年8月4日,中日新聞に「化粧品の小麦成分注意を」と題する本件石鹸の危険性について解説した記事が掲載された。同記事においては,松永委員長が,本件アレルギーについて「かつてない集団発生」であり「前代未聞の事件」である旨の談話を寄せたことや,これまで,ラテックス・フルーツ症候群など皮膚や粘膜からアレルギー物質を吸 収した後に,似たたんぱく質を含む食物を食べてアレルギーを起こす 例はあったが,化粧品成分のアレルギーに食物アレルギーが関係することは知られていなかったこと等が紹介された。(乙イB11)c 独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」という。)は,同年7月14日被告悠香から本件石鹸の使用中止と交換・返品に対するお知らせが同年5月20日に出されたことやPIO-NET に本件石鹸の危害情報が247件寄せられていること(2004年3月~2011年7月10日現在)を踏まえて,食品のコムギアレルギー自体はよく知られているものの,消費者にとっては石鹸類により口から摂取する小麦に対するアレルギーを発症することは思いかけないことや,本件石鹸は販売個数が非常に多く事業者が直接把握し切れ ていない利用者に対し注意喚起が行き届いていない可能性があることから,被害拡大防止のため,広く情報提供を行うことが必要であるとして,注意喚起を行うに至った。 福冨医師は,国民生活センター ない利用者に対し注意喚起が行き届いていない可能性があることから,被害拡大防止のため,広く情報提供を行うことが必要であるとして,注意喚起を行うに至った。 福冨医師は,国民生活センターによる上記のプレスリリースにコメントを寄せ,本件アレルギーの問題点として,軽微な皮膚のかゆみ, かぶれ等にとどまらず,本件石鹸の使用を継続していく中で加水分解コムギに対するアレルギーを発症し,最終的には口から食べるアレルギー反応まできたすことがあり,場合によっては呼吸困難や血液低下などの命に係わる重篤な症状をきたしかねないこと,かかるアレルギー被害は,もともと小麦アレルギーを有していた人ではなく,アレル ギー体質の無い健康な人において本件石鹸の使用により新しく小麦アレルギーを発症してしまうものであること,このように化粧品等に含まれる食物由来のたんぱく質成分に反応してアレルギーを発症した結果,食物アレルギーを発症するという現象はこれまで予想されてこなかったこと等を挙げ,消費者に対し,十分注意するように促して いる。 (以上につき,乙イB13,乙ハA15)d 粧工連では,国民生活センターの発表した被害状況を踏まえて,同年8月26日,同会傘下会員に宛てて加水分解コムギ末を含有する化粧品(薬用化粧品を含む)の安全性に関する問題につき対応策を記載した文書を発出し,被害の拡大防止を防ぐため,加水分解コムギ末の うち「酸分解で製造したものであって,かつ,平均分子量5~6万程度の加水分解コムギ末」を今後化粧品及び薬用化粧品等の医薬部外品に配合しないことや,製品における注意事項の表示を徹底するように要請した。上記文書には,発症原因の解明に向けて粧工連としても協力していくことや新たな事実が判明し次第,追 及び薬用化粧品等の医薬部外品に配合しないことや,製品における注意事項の表示を徹底するように要請した。上記文書には,発症原因の解明に向けて粧工連としても協力していくことや新たな事実が判明し次第,追加対応を講ずる可能性 がある旨記載されている。(乙ハA14)(イ) 同年9月7日,本訴における原告ら代理人等により構成された「茶のしずく石鹸被害救済・大阪弁護団」によって被害者説明会が開催され,福冨医師による本件アレルギーに関する見解が資料として配布された。 同資料には,平成21年頃から通常の小麦アレルギーとは少し変わった 小麦アレルギーの症例が急に増え始め,それらは通常の小麦アレルギー(WDEIA)と比べ,臨床症状,アレルゲン感作のパターン,IgE抑制試験のパターン等で全く異なるものであるとの記載があるほか,治療法等に関し,一般的に成人で食物アレルギーを発症した場合は良くならないことが多いものの,本件アレルギーの場合は石鹸の使用を止める ことでほとんどの患者で少しずつ症状がよくなってきていること,ただし,現時点で完全によくなった人はおらず,治るには数年かかると考えられるなどの記載がある。(乙イA14)(ウ) 同年10月11日,特別委員会は本件アレルギーに関する診断基準を策定し,これをアレルギー情報センターのホームページにて公表するな どして,一般に公開した(甲総C1)。 (エ) 同年11月14日,厚生労働省における平成23年度第2回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会が開催され,安全対策課長から,それまでに判明した本件アレルギーに関する症例や症例数,同問題に対して執られた製品の自主回収の開始その他行政等による対応内容について報告があった後,加水分解コムギ自体は相当数のものが長い期 長から,それまでに判明した本件アレルギーに関する症例や症例数,同問題に対して執られた製品の自主回収の開始その他行政等による対応内容について報告があった後,加水分解コムギ自体は相当数のものが長い期間使用 されてきており,その全てを使用禁止にすることは難しく,現在もいかなる製造方法による加水分解コムギが危険であるかにつき国立医薬品食品衛生研究所等でも研究を進めており,今後の研究の進捗を待って本件アレルギーの原因及びいかなる分子量のものが又はどのような分解方法のものが原因となり得るのかについて,解明の上,製品規格の整備 を行いたい旨報告された(乙ロA35)。 (オ) 厚生労働省は,厚生労働科学研究費補助金による免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業として,福冨医師を研究代表者,松永委員長,手島玲子医師(以下「手島医師」という。),千貫医師,森田教授ら研究者及び医師を研究分担者及び研究協力者とする「成人独自のアナフィラキ シーの実態と病態に関する研究」を実施し,その中で平成23年度は加水分解コムギに対するアレルギーの実態把握と病態解明を目的とした疫学研究等を行い,その報告をとりまとめた(乙ロB5)。その内容は,以下のとおりである。 a 研究目的 アナフィラキシーは最重症型の致死性の即時型アレルギー反応であり,死の恐怖と隣り合わせで日常生活を送る患者のみならず,患者を抱える社会に対しても重大な負担を強いる原因となっている疾患である。成人の食物アレルギーやアナフィラキシーは小児のそれと大きくその臨床像と病態が異なるにもかかわらず,十分な検討がされて いない。さらに,成人の食物アレルギーやアナフィラキシーは,成人 の一般人口のアトピー体質を持つものの割合の増加に従って 臨床像と病態が異なるにもかかわらず,十分な検討がされて いない。さらに,成人の食物アレルギーやアナフィラキシーは,成人 の一般人口のアトピー体質を持つものの割合の増加に従ってその有病率が今後増加してくることが推測される。同年度は,第一に現在社会問題になっている加水分解コムギに対するアレルギーの実態把握と病態解明を目的とし,さらに,その他の小児・成人の食物アレルギーに関する臨床研究,成人の薬剤アレルギーに関する疫学研究を行っ た。 b 研究方法福冨医師らは,インターネットを通じた加水分解コムギ関連小麦アレルギーに関する普及啓発活動・診療体制整備や通常のコムギアレルギー症例との比較,特異的IgE抗体価の経年変化による長期予後に 関する検討を行い,手島医師らは動物実験モデルにおける加水分解コムギの感作能評価,板垣医師らはウエスタンブロッティング,クロマトグラフィー,グルテンの酵素分解と逆相クロマトグラフィーによるペプチドマッピングによる加水分解コムギの抗原性に関する検討を通じて病態解明に取り組んだ。 c 結果加水分解コムギへの経皮経粘膜感作によって発症した小麦アレルギー(主に本件石鹸による小麦アレルギー)に関して,以下の知見(要約)が明らかとなった。 当該疾患による小麦アレルギーは,小麦の経口摂取により発症し た小麦アレルギーと臨床像が大きく異なる。 ⒝ 臨床的観察から,当該疾患の患者の大部分が加水分解コムギを含有する本件石鹸を使用していた。 ⒞ 本件石鹸の使用と小麦アレルギーの流行の疫学的な関係も証明された。 ⒟ 本件石鹸に含有されていたグルパール19Sという加水分解コ ムギは,天然の小麦にはない独 いた。 ⒞ 本件石鹸の使用と小麦アレルギーの流行の疫学的な関係も証明された。 ⒟ 本件石鹸に含有されていたグルパール19Sという加水分解コ ムギは,天然の小麦にはない独自の抗原性を有している。 グルパール19Sは,天然小麦に比べて新規の感作能力という意味でも抗原性が高い。 ⒡ 当該疾患は本件石鹸の使用の中止(加水分解コムギへの曝露の消失)により,病態が改善傾向に向かう患者が多いようである。 今後は,その他の市販されている加水分解コムギの安全性の評価,なぜグルパール19Sにおいて抗原性が高くなってしまったかなどの基礎検討が求められると考えている。さらに,加水分解コムギ以外にも食品由来化粧品原材料は多くあり,これらのうち食物アレルギーの発症に関与しているものがないかは評価してゆく必要がある。 (カ) 各医療機関の報告等a この頃,広島大学医学部の秀道広教授(以下「秀教授」という。)は,Ⅰ型アレルギーについては抗原の種類により臨床的課題が大きく異なることが明らかになってきているところ,最近になって,本件アレルギーに係る報告がされていることにつき,石鹸に含まれる加水分解 コムギが経皮的に個体に感作し,食物依存性運動誘発アナフィラキシーを起こすことは誰もが予想だにしなかった現象であると言及した。 また,東京逓信病院の大谷医師も,平成23年に公表した論考において,医薬部外品や化粧品に含まれる加水分解コムギ末を使用中,小麦を含む食品を摂取した後に運動により食物依存性運動誘発アナフ ィラキシーが誘発される事例はあまり知られていなかったとしている。 (以上につき,乙イB12,乙ハB1)。 b 国立病院機構 食品を摂取した後に運動により食物依存性運動誘発アナフ ィラキシーが誘発される事例はあまり知られていなかったとしている。 (以上につき,乙イB12,乙ハB1)。 b 国立病院機構福岡病院皮膚科の杉山晃子医師(以下「杉山医師」という。)らは,平成22年1月から同年10月にかけて同病院を受診し た加水分解コムギ含有石鹸により感作を生じたと考えられる12症 例につき,臨床面から検討を加え,その考察結果を概要以下のとおり明らかにした。 ⒜ 臨床的経過を踏まえれば,12症例のアレルギー疾患は,本件石鹸の使用継続により加水分解コムギに対する感作が成立し,小麦アレルギーが二次的に起こったものと考えて矛盾しない。また,従来 のWDEIAと比較すると,発症者の全てが女性であったこと及び従来のWDEIAでは患者の80%でω-5グリアジンが主要アレルゲンと考えられるのに対し,本件の症例では12例中10例でω-5グリアジン特異的IgE抗体が陰性であったことが特徴的である。 ⒝ さらに,当該12症例においては本件石鹸以外の加水分解コムギを含む石鹸に対しても陽性を示すものがあることから,他の石鹸においても同様の被害を生じ得る可能性があるとともに,他の石鹸の中には陰性を示すものもあるところ,当該石鹸は本件石鹸と含有量が異なっているほか,加水分解の過程に差があり,抗原決定基が残 っていないということから,相違が生じているとも考えられる。 ⒞ 同病院では本件石鹸の使用を中止するとともに小麦の摂取制限を指導した上で,3か月ごとに小麦,グルテンの特異的IgEの測定及びプリックテストを実施しており,予後を考え得る際には臨床的な検査の数値と実際の症状経過を追うことが重要である。 (以上につ を指導した上で,3か月ごとに小麦,グルテンの特異的IgEの測定及びプリックテストを実施しており,予後を考え得る際には臨床的な検査の数値と実際の症状経過を追うことが重要である。 (以上につき,甲B13)c 島根大学の千貫医師は,平成23年12月15日に放送されたラジオ番組において,本件アレルギーに関する知見等を解説した。 同医師は,同番組のウェブサイトに掲載された資料において,従来の小麦アレルギーと比較した本件アレルギーの臨床面での特徴等が 記載されているほか,本件は肌に良いと思われる石鹸を使用したこと によって経皮又は経粘膜的に感作が生じ食物アレルギーを引き起こした可能性の高いものであること,グルパール19Sは特に不完全な分解による高分子のたんぱく質を含むものであり,これがアレルギー発症の原因として危険であると考えられ,更に界面活性剤を含む石鹸に含有されていたことも皮膚バリアの障害をもたらし,感作を成立さ せやすくした要因であったと思われ,全ての加水分解コムギが危険であるとはいえないこと,本件アレルギーの治療法は通常のFDEIAとほぼ同様であるのに対し,同時点までに患者らのIgE抗体値は著明に改善してきており,軽症例では治癒例もあるなど,治る可能性があることなどが記載された。 (以上につき,乙イB1の2)イ平成24年頃(ア) 厚生労働省の動き平成24年3月23日に開催された平成23年度第3回医薬品等安全対策部会において,本件アレルギーのように医薬部外品及び化粧品の 使用により感作されて発症した全身性アレルギーはこれまでほとんど報告がなく,未だ十分な知見が得られていないことから,今後の発症予防や診断,治療方法の確立を目的として, 医薬部外品及び化粧品の 使用により感作されて発症した全身性アレルギーはこれまでほとんど報告がなく,未だ十分な知見が得られていないことから,今後の発症予防や診断,治療方法の確立を目的として,現在詳細な研究,調査を開始している旨の報告がされた(乙ハA16,38)。 (イ) 特別委員会の動き a 平成24年3月9日,第4回特別委員会が開かれ,被告悠香及び被告片山化学の担当者らが参考人として,粧工連の担当者がオブザーバーとして出席した。 松永委員長の研究班から,グルパール19SをELISA法,ウエスタンブロット法にて解析,酸加熱処理を行ったところ,従来の小麦 アレルギー患者の反応性が消失し,本件アレルギー患者の反応性が増 強されることから,熱加工処理の工程がグルパール19Sの抗原性発現の主要因であることが判明した等の研究報告がされた。そして,粧工連から提供のあった全HWPをELISA法にて解析したところ,クローダ社の原料がいずれも交差性が高いことが判明したことから,同社に対し,製造過程の開示等を求めるべきであること,グルパール 19S特異的IgE抗体の半減期は一部例外を除き,約5.1か月と考えられる旨,報告があった。 参加した被告片山化学の担当者からはグルパール19Sの規格等の資料提出,説明がされ,また粧工連担当者からは,平成23年12月16日付けで注意喚起をしたこと等が報告された。 また,今後(翌年度以降)の同委員会の活動予定として,①本件アレルギーの原因解明を進め,被害報告システムを確立しつつ,対象を化粧品中の他の加水分解物(コメ,シルク等)にも広げて検討すること,及び②エピトープ等の構造的問題を解明し,応用可能な知見の確立を目指すことが確認された。 (以上につ を確立しつつ,対象を化粧品中の他の加水分解物(コメ,シルク等)にも広げて検討すること,及び②エピトープ等の構造的問題を解明し,応用可能な知見の確立を目指すことが確認された。 (以上につき,乙ハA12)b 同年5月13日,平成24年度第1回(通算第5回)特別委員会が開催され,報道機関から寄せられた本件アレルギーに関する質問に対し,本件アレルギーの原因抗原はグルパール19Sであると特定されていること,同アレルギーによる被害は,原因が分からない中被害が 拡大してしまったこと,目の周りの腫れが多くの症例に生じること,アレルギー素因の無い人にも起こり得るが特徴であること,他方で,改善例も見られること等の回答をすることが確認されたほか,委員である手島医師から,動物実験データに基づき,加水分解コムギの新規感作性に関する中間報告等がされ,グルパール19S以外の加水分解 コムギにも新規感作能を有しているものがあることが疑われる旨の 報告があった。 また,同日参考人として出席したクローダ社の担当者からは,同社の販売に係る加水分解コムギ含有商品に関して報告がされた。同社担当者は,コムギたんぱく商品は20年以上化粧品に使用しており,国際的な販売実績もあること,1億個の商品に対しアレルギー症例は1 0件以下(これも工場での粉末吸入や,アレルギー患者のかぶれ等の事例である)で,アナフィラキシーの発症例はなく,「lowrisk」(リスクの低い)商品であると認識している旨発言した。他方,同担当者は,本件アレルギーに関して加水分解コムギは交差性が高いという情報を踏まえ,日本国内での商品販売は中止したとも述べた。 (以上につき,乙ハA11)c 同月28日,特別委員会は中間報告をとりまとめ,公表した。同報 加水分解コムギは交差性が高いという情報を踏まえ,日本国内での商品販売は中止したとも述べた。 (以上につき,乙ハA11)c 同月28日,特別委員会は中間報告をとりまとめ,公表した。同報告においては,それまでに行われた疫学調査の結果が紹介された上で,それまでに特別委員会で作成した診断基準,確定診断に必要な検査の1つであるELISA法の紹介がされ,さらに予後や発症のメカニズ ムについての調査研究の進捗状況についても言及された。(甲B1,乙イB1の1,乙ハA17)。 d 同年10月8日,平成24年度第2回(通算第6回)特別委員会が開催され,抗原解析等の研究の進捗報告,症例報告及び総合討論等が行われた。 ⒜ 抗原解析等に関する報告抗原の解析に関する研究の進捗報告として,委員である手島医師は,マウスを用いた動物実験等の結果として,グルパール19Sと同様に高分子成分が残存しているHWPにおいて,グルパール19Sと同様の経皮感作能を有すること,酸加水分解グルテンの経皮感 作能は0.5hrの加水分解物が最も高く,加水分解時間が長くな るにつれて感作性が減弱することが示されたと報告した。 また,同医師から,本件アレルギーの患者血清を解析したところ,患者のIgEはグルパール19Sのほか,0.1NHCL・100℃で0.5~12時間分解したHWPにも強く反応したことから,本件アレルギーの抗原につき,加水分解処理により何らかの新しいエ ピトープが生成したと思われること等が報告された。 他方,加藤善一郎委員からは,遺伝子解析及びこれに基づく治療法開発に取り組んでいる旨の書面報告がされた。 ⒝ 症例報告及び予後等について同時点までの各患者の臨床経過が報告された後,総合討論として 一郎委員からは,遺伝子解析及びこれに基づく治療法開発に取り組んでいる旨の書面報告がされた。 ⒝ 症例報告及び予後等について同時点までの各患者の臨床経過が報告された後,総合討論として, 本件アレルギーの典型例については石鹸の使用中止によりほとんどの患者が小麦グルテンの抗体価低下と同時にグルパール19Sに対する抗体価も下がり,現在までに小麦を食べられるようになった人も多いが,運動負荷,体調によっては強い反応が出ることもあるので注意を要すること,患者の中には抗体価が下がらない人や当 初高い抗体価であったためなかなか下がらない人もいることが指摘され,小麦を食べてそこに運動負荷をかけても反応が起きない場合を略治とするのであれば,現在までに3%ぐらいの患者が略治したものと思われる旨まとめられた。 また,IgE抗体が検出されなくなっているにもかかわらず症状 が誘発されている患者も少なくないとの指摘もあり,係る症例に関しては詳しい検討が必要とされた。 (以上につき,乙イB4)e 同年12月1日,平成24年度第3回(通算第7回)特別委員会が開催され,同時点までの研究の進捗報告がされ,加藤委員からは引き 続き,遺伝子解析や治療法の検討を進めている旨報告がされた。また, 平成25年度以降の同委員会の継続の必要性及び課題についても議論され,患者の経過観察がまだ十分にフォローされておらず,抗体が下がらない例外症例や抗原の構造,感作のメカニズムがまだ解明されていないことから,今後も継続して検討を行う必要があることが確認された。また,委員である福冨医師からは,リウマチアレルギーセン ターに関する情報と同委員会の提供情報内容を一本化した方がよいとの提案があり,その方針により進められるこ 行う必要があることが確認された。また,委員である福冨医師からは,リウマチアレルギーセン ターに関する情報と同委員会の提供情報内容を一本化した方がよいとの提案があり,その方針により進められることが確認された。(乙イB5)(ウ) 特別委員会の委員による個別的な活動等a 福冨医師は,平成24年4月5日,特定非営利法人健康食品フォー ラムが開催した第22回健康食品セミナーにおいて講演し,本件アレルギーの分析結果等,同時点における最新の情報を明らかにするとともに,健食メーカーに対してアレルギー疾患を考慮した製品開発を行うよう促した。 この際,加水分解コムギ末を含む化粧品等は多数存在するのに,な ぜ本件石鹸のみでアレルギー症状が流行したのかという点に関して,①他の化粧品は肌にのみ触れるが,石鹸の場合は眼や鼻の粘膜と接触が多いという使用用途の差異,②本件石鹸には泡立ちをよくするために0.3%という濃度で加水分解コムギが配合されていたこと,③使用されていた加水分解コムギ末の平均分子量が50kDa(5000 0Da)と大きかったこと,④本件石鹸には界面活性剤等の化学物質が含まれていたこと,⑤4600万個という販売量の多さ等が原因として考えられる旨指摘した。 (以上につき,乙ハA25)b 松永委員長は,同年6月までに本件アレルギーの確実例とされた6 06例に関する疫学調査の結果をまとめるとともに,化粧品の安全性 評価の問題点と今後の課題についてまとめた「化粧品は安全か?-加水分解コムギ末含有石鹸によるコムギアレルギーに学ぶ-」と題する論文を公表した。 同論文では,概ね特別委員会の中間報告において取りまとめられた内容が述べられるとともに,化粧品が安全であるかにつき, 水分解コムギ末含有石鹸によるコムギアレルギーに学ぶ-」と題する論文を公表した。 同論文では,概ね特別委員会の中間報告において取りまとめられた内容が述べられるとともに,化粧品が安全であるかにつき,本件製品 事故は,皮膚から吸収されたコムギ由来の加水分解たんぱく質が経皮・経粘膜吸収されることによって,コムギに交差反応するIgE抗体が産生され,コムギを摂取することで重篤な即時型アレルギーを発症させることを示したのであり,「食べ物に含まれるから安全」,「天然成分だから安全」という謳い文句に反する結果を招いたものであると ころ,現在,化粧品や医薬部外品(薬用化粧品)の製造販売前に化粧品成分の即時型アレルギーの試験は必要項目には入っていないばかりか,欧州では平成21年(2009年)から化粧品成分に対する動物実験禁止等が拡がっているのに対し,経皮感作による即時型アレルギーについては,動物実験もまだ十分確立されていない状況であり, 代替法もないことから,今後は安全性を確保する市販前の試験法の標準化と,市販後の化粧品の有害事象を早期に把握するシステムの構築が急がれるとの意見が述べられている。 (以上につき,乙ロB3)c 同年7月27日,手島医師は,平成24年度国立医薬品食品衛生研 究所シンポジウム「食のレギュラトリーサイエンス,食の安全を目指して」において,「化粧品に含まれていた食物アレルゲンでの感作事例―再発防止に向けて―」と題する発表を行った。 この際,同医師は,本件アレルギーの原因物質はグルパール19Sであったとした上で,その発症のメカニズムとして,本件石鹸は,洗 浄によって皮膚を清潔にすることが目的の製品であり,界面活性剤を 含むところ,同石鹸を用いて入念に洗顔をすることにより抗原( た上で,その発症のメカニズムとして,本件石鹸は,洗 浄によって皮膚を清潔にすることが目的の製品であり,界面活性剤を 含むところ,同石鹸を用いて入念に洗顔をすることにより抗原(グルパール19S)が毎日少しずつ経皮的にまた経粘膜的に吸収され,抗原提示細胞によって抗原がリンパ球に提示され,感作特異IgE抗体を産生し,これが肥満細胞の表面に結合してアレルギー症状の準備状況を作ったと考えられるとする見解を述べた。そして,グルパール1 9Sがコムギアレルギーを発生した原因,つまり,グルパール19Sの抗原決定基(エピトープ)については,現時点までに判明した知見として,①患者のIgE抗体がグルパール19S中の比較的高分子(分子量3.5-5万)に結合することから,従来の小麦たんぱく質(グルテン)に存在する抗原決定基に加えて,酸分解により新たな抗 原決定基が出現した可能性が考えられること,②患者のIgE抗体は,従来の小麦アレルギー患者(CO-WDEIA)のIgE抗体と異なり,ω-5グリアジンに対する反応性が低いので,ω-5以外のグリアジンと反応する可能性が考えられるとするほか,グルテンの酸加水分解の時間を長くすると,分子量も低下し,IgE抗体との反応性も 低下することが示されていることなどを紹介した。 (以上につき,乙ロA36)(エ) リウマチ・アレルギー情報センターによる情報提供平成25年までに,リウマチ・アレルギー情報センターは,本件アレルギーに関する基本的事項に関わる情報をFAQの形式でホームペー ジ上に掲載し,一般消費者に向けて情報発信を行った。同ホームページでは,本件アレルギーの発症メカニズムに関して,石鹸やシャンプー,その他の化粧品成分に対するアレルギーが食物アレルギーに関係する ジ上に掲載し,一般消費者に向けて情報発信を行った。同ホームページでは,本件アレルギーの発症メカニズムに関して,石鹸やシャンプー,その他の化粧品成分に対するアレルギーが食物アレルギーに関係するとはよく知られておらず,「石鹸の中の加水分解コムギに対するアレルギーにより,小麦アレルギーを発症してしまったという現象は,これま で予想されていなかったと言ってもよいと思います。」と回答されてい る。 また,小麦アレルギーの治癒可能性につき,本件アレルギーは新しい病態のものであり,数年後にどうなるのかは分かっていないが,一般に大人になってから発症する食物アレルギーは治りにくいと考えられており,本件アレルギーの患者で現在までに自由に小麦を食べられるよう になった人はまだいないとされている。 さらに,本件石鹸使用者における発症割合については,全体の一部であるとするが,具体的な割合は分かっておらず,本件石鹸以外の加水分解コムギ含有物の危険性について,加水分解コムギはその作り方もメーカーによって異なり,製品によって使用濃度や使用方法も異なるため, 他の製品が危険とまではいえないとする。その上で,本件石鹸においてのみ多数の被害が出ている原因として,本件石鹸には加水分解コムギの含有濃度が他の製品に比べて比較的高かったこと,洗顔石鹸という使用用途で使用したために皮膚と違って簡単に洗い流せない眼や鼻の粘膜に石鹸が付着し長期にアレルゲンにさらされやすくなったこと,目や鼻 の粘膜は比較的アレルゲンが吸収されやすいこと,石鹸は界面活性剤が主な成分であり,皮膚のバリア機能を多少なりとも破壊し,アレルゲンが吸収されやすくなる可能性があること及び本件石鹸に使用された加水分解コムギは分子量の大きいたんぱく質を含んでいたこともア 面活性剤が主な成分であり,皮膚のバリア機能を多少なりとも破壊し,アレルゲンが吸収されやすくなる可能性があること及び本件石鹸に使用された加水分解コムギは分子量の大きいたんぱく質を含んでいたこともアレルゲン性の増加に関与していた可能性があるとしている。もっとも,上記 した原因はまだ推測の域を出ず,はっきりとした理由は分かっていないとも述べている。 (以上につき,乙ハA36)ウ平成25年頃(ア) 厚生労働省の動き 平成25年3月22日,厚生労働省では,平成24年度第3回医薬品 等安全対策部会が開催され,特別委員会の松永委員長より,本件アレルギーに関して同時点までに集積された調査結果や研究成果等の報告がされた。 この際の資料では,本件アレルギーに係る被害発生の背景として,加水分解コムギ末は香粧品原料として従来から使用されてきたが,近年そ の一種であるグルパール19Sを含有した石鹸使用者に小麦アレルギー患者が多発し,社会問題化したこと,コムギ摂取で全身性のアレルギー症状を発症した約半数は小麦製品摂取後にアナフィラキシー等で生命の危機を脅かされた重症症例であったこと,眼瞼浮腫など特徴的な症状もあったが,従来の小麦依存性運動誘発アナフィラキシーとの類似性 が高かったこと,これまでにグルパール19S以外の加水分解コムギ末で大規模な有害事例の報告は無いことに触れられている。 また,同時点までに策定された診断基準や疫学的な調査結果等が報告され,本件アレルギーを発症した患者のその後の状況を追跡したアンケート結果の報告部分では,まとめとして,石鹸の使用を中止することに より特異IgE抗体価の減少がみられること,石鹸の使用中止後小麦の摂取が再開できる例も報告されてい の後の状況を追跡したアンケート結果の報告部分では,まとめとして,石鹸の使用を中止することに より特異IgE抗体価の減少がみられること,石鹸の使用中止後小麦の摂取が再開できる例も報告されていることが指摘されている。 (以上につき,乙イ総C1)(イ) 特別委員会の動きa 同年5月10日,平成25年度第4回(通算第8回)特別委員会が 開催され,松永委員長から,①障害実態の把握と抗原分析について,本件石鹸の障害実態は9割方把握できていること,グルパール19Sの感作抗原性の分析と交差反応性の検討についても最後の部分について各委員で検討を進めているところであること,②治療方法の開発について,症例の経過を把握し,抗原解析を進め治療方法を開発すべ きことが説明されたほか,各委員からの報告では,田中委員より,マ ウスを用いてグルパール製造工程中サンプルの経皮感作能の検討を行ったところ,酸加水分解処理に感作抗原性獲得の原因があること,及び酸加水分解処理の過程でグルテンの物性が大きく変化し,新たに誕生したたんぱく質が高い抗原性をもっている可能性が高い旨報告された。 また,オブザーバーとして出席した筑波大学の野口恵美子は,本件アレルギーによる被害は,加水分解コムギ末を含む石鹸の使用による経皮感作から重症の食物アレルギーを呈したという世界でも例を見ない症例であるとして,その発生状況から遺伝的素因の関与が考えられるとして,本件アレルギーの患者を対象に遺伝的解析を行うゲノム 研究を実施することを計画している旨を明らかにし,特別委員会として同計画に協力することが承認された。 (以上につき,乙イB15)b 同年8月31日,平成25年度第5回(通算第9回)特別委員会が開催され,松永委員長 る旨を明らかにし,特別委員会として同計画に協力することが承認された。 (以上につき,乙イB15)b 同年8月31日,平成25年度第5回(通算第9回)特別委員会が開催され,松永委員長から,特別委員会の当初定めた到達目標(実態 把握,診療施設の情報提供,患者の抗原性の分析及び交差反応性の検討等)は相当程度達成できたところであり,今後は治療方法の開発や難治性症例の治療方法の開発及び提案が課題であるとし,特別委員会は残された課題に取り組む予定であるが,今期をもって活動を完遂する予定であるとの方針が示された。その上で,以下の報告等が行われ た。 ⒜ 抗原分析等に関する報告グルパール19Sの感作抗原性の分析と交差反応性の検討について,以下の報告がされた。 オブザーバーとして出席した中村政志研究員から,本件アレルギ ーの確実症例のIgE抗体は,グルテンの酸分解95℃(pH1. 06)の工程でグルパール19Sと類似の反応性を示し,マウスを用いた実験でも同工程で感作性が認められたとし,酸加熱処理の工程で抗原性が生まれたこと,LMWグルテニンとγ―グリアジンのQE変換物が主要抗原であろうとの説明がされた。 委員である森田教授からは,本件アレルギーの患者はγ―グリア ジンに反応する割合が高いところ,エピトープ解析により,QPQQPFPQが主要なエピトープであること,加水分解コムギのIgE結合エピトープはPEEPFPであることが明らかとなり,通常の小麦アレルギーではω-5グリアジンのQQXPQQQが主要なエピトープであるのとは大きく異なっているとの報告がされた。 また,同じく委員である手島医師からは,動物実験の結果,小麦たんぱく質の経皮感作能は酸加水分解により一旦増大し QQQが主要なエピトープであるのとは大きく異なっているとの報告がされた。 また,同じく委員である手島医師からは,動物実験の結果,小麦たんぱく質の経皮感作能は酸加水分解により一旦増大し,その後分解の進行とともに減弱することが示されたこと,グルパール19Sを10kDa,3-10kDa,<3kDaに分画して血清との応答性を調べたところ,10kDa以上の画分では分画前のグルパー ル19Sとほぼ同等の反応が,3-10kDaでは弱い反応がみられた一方,3kDa以下では反応がみられなかったこと,グルテン酸加水分解物のSEC分析等によれば,酸処理による脱アミド化及び部分加水分解による高分子タンパク(分子量10kDa以上)の残存の2つが感作性・惹起性の要因であると考えられること,分子 量1万以下ではかなりリスクが減少すること等が指摘され,これらの要因を避けるべく,外原規2006に反映すべきとの報告がされた。 ⒝ 症例報告等各研究グループから,小麦の摂取状況や難治性の有無等につき, 症例の経過報告がされた。 ⅰ 島根大学33名中コムギ摂取16例(症状あり3,なし13〔略治〕),条件付きコムギ摂取8例(症状あり3,なし5),摂取なし9例(症状あり3,なし6),難治症例(石鹸使用中止後2年以上経ち,特異的IgEが下がっているが症状出現等,4,5例) ⅱ 相模原病院経過観察66例(食べていない22例,夕食時摂取15例,軽い運動11例,中等度4例,15~30%略治)。全く食べられない人もいるが,多くの患者でIgE抗体価は減少している。 ⅲ 国立病院機構福岡病院 58名回答:コムギ摂取67%(従来の摂取量の7割以上26%,5割以下5 )。全く食べられない人もいるが,多くの患者でIgE抗体価は減少している。 ⅲ 国立病院機構福岡病院 58名回答:コムギ摂取67%(従来の摂取量の7割以上26%,5割以下56%),摂取していない33%略治は20名程度であり,38%がなお恐怖心をもっている。 ⅳ 藤田保健衛生大学病院経過観察57例中,コムギ摂取42例(73.6%)・2例症状 あり,32例で陰性,難治3例(2例コムギ摂取)ⅴ 広島大学運動誘発あり92,なし12,接触蕁麻疹4,治癒例は92例中10。大まかに3割ぐらいが食べられるようになり,7割は工夫しながら食べている。食べている方が食べられるようになって おり,食べられているものは1割程度(ただし全量摂取とは限らない。)。患者自身がコムギを摂取せず,治ったか判断できない例も多い。 ⒞ その他治療方法の開発に関して,委員である森田教授からオマリズマブ 投与により難治性患者の症状が緩和されたなどの報告がされたが, コストがかかる難点やアナフィラキシーを起こす危険があること等も指摘され,委員会としては,個別研究として取り組むのはよいが委員会方針としてまとめるものではないと位置付けられた。 また,ゲノム研究を進める意義につき,松永委員長から,本件アレルギーを発症した患者は本件石鹸の使用者のうちのわずか(0. 1%以下)であることから遺伝子解析が重要であり,アレルギーに関連する新規の遺伝子の同定が規定され,治療や予防につながる可能性があると説明された。 (以上につき,乙イ総C4,乙ハA123)c 同年11月28日,平成25年度第6 り,アレルギーに関連する新規の遺伝子の同定が規定され,治療や予防につながる可能性があると説明された。 (以上につき,乙イ総C4,乙ハA123)c 同年11月28日,平成25年度第6回(通算第10回)特別委員 会が開催され,予後・治療法に関して,現在90%以上の人が小麦を食べており,4%程度が食べられていないこと,ショックを起こした症例でも4割程度は食べられていること,治りにくい症例はアトピー素因やω-5グリアジンの特異的IgE抗体を有している症例が多いことが報告された。また,ゲノム研究につき,平成26年には解析 を終了し,平成27年に論文発表をするといった見通しが示され,グルパール19S以外の化粧品による障害についても,集積した症例の確定作業を進めることが確認された。(乙イ総C3,乙ハA125)エ平成26年以降(ア) 松永委員長は,「皮膚科医から見た化粧品安全性の現状と安全性確保 のための提案」と題する講演を行い,本件製品事故を取り上げ,化粧品の安全性確保のために必要な措置,提携等につき提言する中で,平成26年8月現在,本件アレルギーの患者の多くは特異IgE抗体が減少し,運動負荷をかけてもコムギを症状の誘発なく摂取できる者が増えてきており,回復までの中央値は約60か月であることが明らかになってき たとする一方,患者の中には抗体が減少しないものや,一旦減少した抗 体が再度上昇するものなどが少数存在し,今後もその病態の解明と治療方法の開発が必要であると述べた。(乙ロB26)(イ) 平成27年5月31日,第114回日本皮膚科学会総会市民公開講座が開催され,「化粧品を安全に使うには~2つの化粧品健康被害から学んだこと~」というテーマのもと,本件アレルギ 26)(イ) 平成27年5月31日,第114回日本皮膚科学会総会市民公開講座が開催され,「化粧品を安全に使うには~2つの化粧品健康被害から学んだこと~」というテーマのもと,本件アレルギーに関する報告がされ た(甲総C3,乙イB26)。 (6) 同種製品におけるアレルギー被害の有無ア本件石鹸による本件アレルギー被害の発生までに,グルパール19Sを配合した香粧類は35種類ほど販売されており,その配合量は0.1%から0.5%まで様々であるが,0.3%配合の製品は少なくとも11種類 存在した。これら各製品はいずれも本件製品事故を受けて自主回収された。 (甲A33,乙ハA18)イ被害報告がされた製品アのうち,被告フェニックスが製造した製品は18種類存在し,平成18年1月18日から平成23年6月2日までに30万5997個を出荷 した「はちみつクレンジングソープP」において,本件アレルギーと同種の被害が報告された。同石鹸にもグルパール19Sが0.3%配合されていた。 また,株式会社コスメナチュラルズが製造し,平成18年頃から平成23年頃にかけて出荷された「サヴォンアンベリール」(総出荷数6448 個)及び「サヴォンアンベリールノワール」(総出荷数14万7484個)の使用者において本件アレルギーと同種の被害が報告された。 (以上につき,甲A33,34)ウ被害報告がされなかった製品他方,上記イを除き,グルパール19Sを含有する香粧品について,本 件アレルギーと同様の被害報告はされていない。特に,被告フェニックス により製造され,平成21年2月13日から平成23年4月20日までに170万3714個が出荷された「渋の泡石鹸」(「薬用石鹸TR-5」,医薬部 されていない。特に,被告フェニックス により製造され,平成21年2月13日から平成23年4月20日までに170万3714個が出荷された「渋の泡石鹸」(「薬用石鹸TR-5」,医薬部外品)は,製造工程及びグルパール19Sの配合割合において本件石鹸と共通であったが,本件アレルギーと同様の被害報告はされていない。 渋の泡石鹸は,「医薬部外品マーケティング要覧2011」によれば,平成 22年には薬用石鹸分野において業界で4番目のシェア(3.2%)を占めるブランドとなっていたものである。 他方,渋の泡石鹸は,主に男性の体臭防止を効用とする洗身用の薬用石鹸であり,「医薬部外品マーケティング要覧」においても,本件石鹸が薬用洗顔料に分類されていたのに対し,渋の泡石鹸は皮膚の洗浄・殺菌・消毒 等を訴求する薬用石鹸として分類がされていた。 (以上につき,甲A33,34,乙ハA18,19,20の1・2)(7) アレルギーに関する一般的知見ア概要(ア) ヒトの有する正常な免疫システムは抗体,白血球,肥満細胞等から成 っており,異物が体内に侵入した際に応答し,異物を排除し生体を保護している。これに対し,危険ではない異物(花粉,ダニや一部の食物等)が体内に侵入したにもかかわらず誤って免疫反応が働き,身体が不要な反応をしてしまうことをアレルギー反応という。かつては過剰に起こる免疫反応のことを広くアレルギーと呼んでいたが,異物の中でも病原体 や有毒な物質に対する免疫反応が生じることは当然であることから,現在では,一般に,本来体にとっては無害と思われる物質に対する異常,過剰反応をもってアレルギーという。 この点,免疫現象は本来異物を排除して生体を守るものと考えられ,相 あることから,現在では,一般に,本来体にとっては無害と思われる物質に対する異常,過剰反応をもってアレルギーという。 この点,免疫現象は本来異物を排除して生体を守るものと考えられ,相手に傷害を与えて破壊するというような機序も含まれているため,そ の反応は生体側にも多少の影響をもたらす場合があるが,その程度が軽 微である限り,生体にとっては有意義であり問題となることはない。これに対し,異物が生体にさしたる危害を与えるものでもないのに,それに対する免疫反応がむしろ生体に傷害を与えるようなものであるとき,それをアレルギー反応という。免疫反応は生体防御とアレルギーという両側面をもち,その比重の大きさにより,生体にとっての意義が異なる。 異物を排除するのに必要な反応よりも過大な反応を起こし,生体に危害を及ぼすという点では,過敏反応という言葉が使われることもある。 (以上につき,乙イB2,3の1ないし7,乙ロB1,2)(イ) 免疫反応を起こす抗体を作るような異物のことを抗原と呼び,抗原の中でアレルギー反応(疾患)を引き起こす物質をアレルゲンという。こ の物質が免疫応答を惹起する能力をアレルゲン性ないし抗原性と呼ぶ。 アレルゲン性は,感作される生体側の要因(免疫応答の遺伝子要因,生体の栄養状況等)や,アレルゲンの侵入経路(吸入,経口,非経口等),アジュバントの量や種類,アレルゲンの量や性状等によって規定される。 アレルゲンになり得る物質は,たんぱく質,糖質,脂質,化学物質等, 自然界にある物質のみならず,合成された化学物質もある。 (以上につき,乙イB2,3の1)(ウ) アトピーは多義的な用語であるが,「少ない量のアレルゲンに反応してIgE抗体を分泌 自然界にある物質のみならず,合成された化学物質もある。 (以上につき,乙イB2,3の1)(ウ) アトピーは多義的な用語であるが,「少ない量のアレルゲンに反応してIgE抗体を分泌し,喘息・鼻結膜炎・失神等のよくみられるアレルギー症状を発症しやすい個人的又は家族性の体質」と定義されたり,「I gEを介したアレルギーのことをアトピーといい,そういう病態を起こしやすい遺伝的傾向をアトピー素因という」などとされたりしている(乙イB3の6,乙ロB12)。 イアレルギー反応の類型アレルギー反応ないしアレルギー反応の関与する疾患は,その発生機序 によってⅠないしⅣ型に分類することができる。 (ア) Ⅰ型アレルギーⅠ型アレルギーは免疫グロブリン(Ig)E依存型であり,一般にアレルギーという場合はこのⅠ型を意味する場合が多い。 その機序は以下のとおりである。アレルゲンが腸管,気道あるいは皮膚から体内に入ると,樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞に よって抗原の情報がT細胞に伝達され,T細胞が活性化される。T細胞は抗原提示細胞が提示する抗原由来のペプチドを認識する。このT細胞認識に必要なペプチド構造をT細胞エピトープといい,同一の抗原であっても個人により認識部位が異なるが,共通性の高い部分も多いことが知られている。活性化されたT細胞はB細胞にアレルゲン特異的な抗体 を産生させる。産生される抗体のクラスがIgEであると,そのコンポーネントであるFce鎖が肥満細胞などに発言する高親和性IgEレセプター(FceRI)に結合する。IgEが認識する部位もT細胞エピトープ同様多様性をもつが,共通性の高い部位も多い。その後,アレルゲンが再度侵入すると,肥満細胞表面のIgEと する高親和性IgEレセプター(FceRI)に結合する。IgEが認識する部位もT細胞エピトープ同様多様性をもつが,共通性の高い部位も多い。その後,アレルゲンが再度侵入すると,肥満細胞表面のIgEと架橋構造を形成し, 細胞内顆粒に蓄えられているヒスタミンなどの化学物質が放出され,血管透過性の亢進や気管支平滑筋の収縮,腺分泌の亢進等のアレルギー症状を来たすというものである。 アレルギー性皮膚炎(ただし,異論あり。),喘息,蕁麻疹,アナフィラキシー等がⅠ型アレルギーの代表的疾患であり,花粉症や食物アレル ギーは,主にⅠ型反応により惹起されるものである。 (イ) その他の類型Ⅱ型アレルギーは,IgEやIgMにより自己抗原やハプテンと結合した自己組織が異物と認識され,補体により細胞障害が引き起こされるものである。 Ⅲ型アレルギーは,抗原がIgGやIgMと反応して形成される免疫 複合体が補体の活性化を引き起こし,肥満細胞や好塩基球を活性化させることで発症する。 Ⅳ型アレルギーは,抗原に感作されたT細胞が主に関わり,抗体によらず,抗原に応答してT細胞が放出したサイトカインにより傷害が引き起こされる。 (以上イにつき,乙イB3の2,乙イB25)ウ抗原及びアレルゲンに関する一般的知見(ア) 抗原についてa 抗原とは古典的には免疫適格細胞によって異物(非自己)と認識された複雑な分子と定義される。 一般に,抗原は複雑で大きな分子であり,分子量1000以下の小さい分子でも抗原として働くこともあり得るが,分子量1万以下の物質は通常,抗原として働くことができない。しかし,抗原として働く 一般に,抗原は複雑で大きな分子であり,分子量1000以下の小さい分子でも抗原として働くこともあり得るが,分子量1万以下の物質は通常,抗原として働くことができない。しかし,抗原として働くためには巨大分子というだけでは不十分であり,免疫原としての活性を要する。つまり,抗原は,①抗体産出を引き起こす能力,免疫原性 と,②抗体と反応する能力,抗原性の2つの性質を有しており,この両方をもつものは完全抗原と呼ばれ,複雑な高分子物質のみである。 免疫原性をもたないが抗原性を有する物質も存在するが,このような物質は単純すぎて免疫応答を起こすことができない。しかし,それがより大きい分子(キャリア)の一部となっていると,免疫原性を示し て抗体産生を引き起こすことができ,キャリアから引き離しても抗体と反応する。このような免疫原性を欠くが抗原性をもつ物質が人工的に合成された分子でない場合には,それをエピトープの抗原決定基と呼び,他の分子と人工的に結合させたものであればハプテン(hapten)という。 b 立体構造と抗原特異性 抗原性をもつ分子のどの部分が免疫学的特異性にかかわりあうのかについて,自然抗原の場合,たんぱく分子の二次構造,三次構造が重要である。たんぱく分子を立体的に形作っているペプチド鎖のらせん構造と関連し,このような立体構造のために,球状分子の表面の微小な反応部位が露出する。この反応部位は抗原特異性に関与する決定 基に相当し,抗原はそこに結合する。決定基の数は非常に多く,しかもその全てが同じであるとは限らず,別々の特異性を有する決定基にそれぞれの抗体が対応する。鍵が鍵穴に合うように,免疫学的特異性は決定基が抗体のくぼみにぴったり一致するかどうかで決まる。この結合が完全な場合に が同じであるとは限らず,別々の特異性を有する決定基にそれぞれの抗体が対応する。鍵が鍵穴に合うように,免疫学的特異性は決定基が抗体のくぼみにぴったり一致するかどうかで決まる。この結合が完全な場合には,その抗原と抗体は十分に接近し,その結果, 近距離でしか有効な作用を及ぼし得ないような二次的な結合力の作用を受けて結合が安定化する。 他方で,2種類の抗原が共通あるいは構造的に類似した抗原決定基をもつと一方の抗原に対する抗体はもう一方の抗原とも反応することが多い。このような反応を交差反応という。この場合,免疫原とし て用いられた抗原は通常ホモ抗原と呼ばれ,交差反応を示す抗原はヘテロ抗原と呼ばれる。交差反応は系統発生的に近縁の抗原間で起こるばかりでなく,系統発生的に離れた由来のものや,関連の知られていない物質間でさえも起こる。数多くの研究により,抗原特異性には立体構造が重要な意味をもつことが明らかとなっている。天然のたんぱ く抗原や合成ポリペプチドでは,その特異性がアミノ酸の配列によって保たれているもの(配列性決定基)と分子の構造によって保たれているもの(構造性決定基)とを区別することができる。配列性決定基に対して産生された抗体は類似の配列をもつ他の決定基とも反応する。しかし構造性決定基に特異的な抗体はその免疫原とアミノ酸配列 が同一であっても,立体構造の異なる決定基とは反応しない。球状た んぱく,あるいはコラーゲンのような線維状たんぱくのあるものでは,その抗原特異性は主として立体構造によるものと思われている。 c 免疫原性の科学的根拠は抗原特異性ほどよくわかってはいない。一般に,抗原としての強さの差は分子の大きさと関連があるが,それだけではなく,免疫原性の決定基を構成する のと思われている。 c 免疫原性の科学的根拠は抗原特異性ほどよくわかってはいない。一般に,抗原としての強さの差は分子の大きさと関連があるが,それだけではなく,免疫原性の決定基を構成するアミノ酸の性状や決定基が 近寄りやすい部位に存在するか否か等の要因も関係していると考えられる。 抗原の免疫原性を増強する物質や処置をアジュバントという。多くの抗原が抗体の生合成を引き起こさせるためにはTリンパ球の協力が必要であるが,ある種の抗原ではT細胞の共同作業が無くても抗体 産生が行われる。アジュバントの作用機序はほとんどわかっていない。 (以上aないしcにつき,甲B6)(イ) アレルゲンについてa アレルギー疾患は遺伝的要因(素因)と環境的要因の相互作用によって発症するが,アレルゲンへの曝露がなければ感作も発症もないこ とから,アレルギー疾患の発症に関わる環境的要因の中で最大のものはアレルゲンであるといわれている。 b アレルゲンの生科学的・免疫化学的性質⒜ アレルゲンとは,ヒトのⅠ型アレルギー反応の原因となる抗原,つまりヒトにIgE抗体を誘導してアレルギー疾患を引き起こす 抗原のことである。ヒトの体内への侵入経路により,①気道を介する吸入性アレルゲン,②消化管を介する食餌性アレルゲン,又は③接触や刺傷など皮膚を介する経皮性アレルゲンの三者に大別される。 ⒝ アレルゲンには,花粉(イネ科,ブタクサ,スギ,ヒノキ),ダニ (ヤケヒョウヒダニ),哺乳動物(ネコ,イヌ,ラット),食物(卵 白,牛乳,エビ,リンゴ),昆虫(ゴキブリ,ユスリカ,ミツバチ),真菌類等多様なものが存する。なお,医療現場ではアレルギー症状を呈した患者に対し,アレルゲ イヌ,ラット),食物(卵 白,牛乳,エビ,リンゴ),昆虫(ゴキブリ,ユスリカ,ミツバチ),真菌類等多様なものが存する。なお,医療現場ではアレルギー症状を呈した患者に対し,アレルゲンを突き止めるために特異的IgEの検査が実施されるが,当該検査の検査項目は日本で承認されているだけで190種以上,全世界では650種にも及ぶとされる。 上記のアレルゲンは,生理的な条件下で容易に可溶化されるたんぱく質又は糖たんぱく質で,多くのものは分子量がおよそ1万から4万の間に分布しており,たんぱく質としては比較的低分子のものである。高分子量の成分は気道や消化管の粘膜を通過し得ないためアレルゲンとなりにくいと説明されており,実際,鼻粘膜,肺胞粘 膜を通過できる物質の大きさの上限は分子量がそれぞれ4万,6万であるという報告がある。他方で,分子量の小さな物質は分子の複雑さ(complexity)が少なく,十分な免疫原性を持たないためアレルゲンになりにくい。 ⒞ 球状たんぱく質抗原に対する特異的抗体の多くは,特定の三次元 構造を保持したたんぱく質表面の一部をB細胞エピトープとして認識しており,アレルゲンとIgE抗体の場合も同様で,変性その他の要因でアレルゲン分子の三次元構造が破壊されればIgE抗体との反応性は大幅に低下する。ただし,どのような条件で失活するかはそれぞれのたんぱく質によって大きく異なる。 一方,T細胞抗原レセプターによって認識されるT細胞エピトープは,抗原分子が抗原提示細胞に取り込まれて断切化された全長が15残基前後の小さなポリペプチド鎖であり,B細胞エピトープとは異なり,一次構造さえ保たれていれば機能を発揮する。 c アレルゲン分子の本来の生物学的機能・アレルゲンとしての活性 た全長が15残基前後の小さなポリペプチド鎖であり,B細胞エピトープとは異なり,一次構造さえ保たれていれば機能を発揮する。 c アレルゲン分子の本来の生物学的機能・アレルゲンとしての活性 アレルゲンとなる分子の本来の生物学的機能には,プロテアーゼを はじめとする酵素たんぱく質,酵素インヒビター,リガンド結合たんぱく質,構造たんぱく質等,多種多様なものが存在しており,その分子構造にはアレルゲンとして共通する明確な特徴は見出されていない。すなわち,アレルゲンには普通の抗原とは異なった特殊なT細胞エピトープがあり,それを介してヒトにIgE抗体を誘導するという わけではなく,IgE抗体と反応し得る特定のB細胞エピトープがあり,それを多くのアレルゲンが共有しているというわけでもない。 アレルゲンはごく普通のたんぱく質であり,その分子内にはIgE抗体を誘導するための特別な仕掛けというようなものとは見出されておらず,アレルゲンがなぜアレルゲンになるのかの明快な回答は得 られていない。分子そのものの構造や機能よりはむしろ,生体内への侵入経路,ばく露量やばく露の持続期間あるいはアレルゲン粒子の粒径や空気力学的特性等がホスト側の遺伝的要因とともに,アレルギー疾患における感作や発症,病態に密接に関わっていると考えられる。 (以上aないしcにつき,甲B5,乙イB22,乙ロB12) エ交差(交叉)反応について(ア) 一般的知見アレルゲンはそれぞれが独立した抗原性を有しているのではなく,類似のアレルゲンの間には多くの場合免疫学的交差反応性が認められる。 一般的には交差反応性の程度は分類学的な近縁関係の程度と一致し ており,近縁な関係にあるものほど強く交差反応する。例えば,ダニの場 レルゲンの間には多くの場合免疫学的交差反応性が認められる。 一般的には交差反応性の程度は分類学的な近縁関係の程度と一致し ており,近縁な関係にあるものほど強く交差反応する。例えば,ダニの場合,同じチリダニ科ヒョウヒダニ属に属するヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニのアレルゲンは臨床的にはほとんど区別がつかないほど互いに強く交差反応するが,属の異なるシワダニとの交差反応性は弱くなり,科の異なるコナダニ科やニクダニ科のダニとはほとんど交差反応 しない。このような交差反応性の程度は分子レベルでいえばアレルゲン たんぱく質の構造がどの程度に通っているかということと関係しており,臨床的に問題となるレベルで交差反応するかしないかの境界は,アミノ酸配列の一致率が60%前後のところにあるといわれている。このような近縁のアレルゲン間の交差反応は,B細胞エピトープだけではなくT細胞エピトープにおいても広く認められている。 上記した分類学上の近縁度に対応した交差反応ではなく,更に広範な交差反応性を示す一連のアレルゲンがあり,パンアレルゲン(panallergen)と呼ばれている。典型例は,花粉症やラテックス・アレルギーに合併した口腔内アレルギー症候群(OralAllergySyndrome,OAS)である。そこに関与しているのはPRたんぱく質といわれる植物の 生体防御に関わる一連のたんぱく質群であり,これらのたんぱく質は進化の過程で高度に保存されており,分類学的な位置関係がかけ離れていても構造的類似性が高く,互いに強く交差反応する。 (以上につき,甲B5,乙ロB12)(イ) ラテックス・アレルギーについて a 概要ラテックス・アレルギーとは,天然ゴム製品に接触する く交差反応する。 (以上につき,甲B5,乙ロB12)(イ) ラテックス・アレルギーについて a 概要ラテックス・アレルギーとは,天然ゴム製品に接触することによって起こる蕁麻疹,アナフィラキシーショック,喘息発作等の即時型アレルギー反応のことをいう。 現在,手袋やカテーテル等の医療用具,ゴム風船,コンドーム等の 日用品に広く天然ゴム製品が使用されているところ,その原料となるゴムの木から得られる白い樹液がラテックスである。ラテックスは,成長したゴムの木の幹に傷を付け,薬品等を用いて採取されるため,植物として生育するのに必要なたんぱく質のほか,採取時に傷付けられたストレスに対応する生体防御たんぱく質等の多くのたんぱく質 が含まれており,これがアレルギー反応を起こす抗原となる。 ラテックス・アレルギーは,昭和54年(1979年)に接触蕁麻疹の患者に関する報告があった後,1990年代になって多くの症例が発生し,米国では,FDAが平成3年(1991年)にラテックス・アレルギーの注意を勧告するまでに,アナフィラキシーショックによる死亡が15名,ショックの症状が1000名以上報告された。 b 機序ラテックス・アレルギーは花粉症と同様に,経皮的に感作を生じ,発症する。つまり,ラテックスを原料として製造された手袋等の医療用製品を使用する際,汗や摩擦によりたんぱく質が溶け出し,使用者の皮膚からたんぱく質が侵入することで感作が成立する。したがって, 医療従事者やラテックス製品を用いた治療を継続的に受けている患者らがハイリスクグループとされる。 c 交差反応性(ラテックス・フルーツ症候群)ラテックス・アレルギーの主要アレルゲン 医療従事者やラテックス製品を用いた治療を継続的に受けている患者らがハイリスクグループとされる。 c 交差反応性(ラテックス・フルーツ症候群)ラテックス・アレルギーの主要アレルゲンとしては13以上のアレルゲンが同定されているところ,このうちいくつかのたんぱく質は, 他の食品が有するアミノ酸配列と同じアミノ酸配列を有しているため,当該食品を摂取した際に交差反応を生じ,アレルギー症状を呈する。特に,バナナ,アボカドやキウイ等を経口摂取した際に交差反応を生じて惹起されるアレルギー症状をラテックス・フルーツ症候群という。 ラテックス・アレルギーでは,ラテックス製手袋を使用した際の手指の接触性蕁麻疹が典型的症状であるが,全身に蕁麻疹が広がることもあり,アナフィラキシーショックに移行する場合もあり得る。海外では,手袋,歯科用デンタルダム,バリウム浣腸用のカフ,コンドーム,交差反応性を有する果物類の摂取等によりショックを生じ,死亡 した例が報告されている。ラテックス・フルーツ症候群の症状はOA Sと呼ばれており,口腔,咽頭粘膜の接触による即時型アレルギー反応による口唇腫脹,口腔内浮腫,痒みから,鼻閉,顔面の蕁麻疹等を伴うもの,更に胃腸症状,喘息症状を伴うもの,アナフィラキシーを起こす重症のものまである。 ラテックス・アレルギーの治療は,現在のところラテックス製品を 回避する以外にないとされる。 d 平成12年,国立医薬品食品衛生研究所の矢上,中村研究員らは,「知られざるラテックスアレルギー」と題する論文(甲B22〔2000年〕)において,ラテックス・フルーツ症候群に関する知見を踏まえ,これまでの即時型アレルギー反応は経口摂取や吸入,接触といっ 「知られざるラテックスアレルギー」と題する論文(甲B22〔2000年〕)において,ラテックス・フルーツ症候群に関する知見を踏まえ,これまでの即時型アレルギー反応は経口摂取や吸入,接触といっ た感作経路毎に特有のアレルゲンが存在し,独立して発症に至るものであるかのように考えられてきた側面があり,感作抗原と誘発抗原は常に同一のたんぱく質であるという前提があったかのように感じられるが,今後の研究では感作の成立過程と症状の誘発段階を区別し,問題となるたんぱく質抗原がどの段階に関わっているのかを常に意 識することが必要である旨指摘している。 (以上aないしdにつき,甲B19,22,23)オ抗体に関する一般的知見(ア) 生体に侵入してきた異質な物質にはそれに対し特異的に結合するたんぱく質が作られるところ,このたんぱく質はグロブリンに属し,固有 の分子構造をしていて免疫機能を営むことから,免疫グロブリン(Ig)といわれる。これに対応する相手となる物質を抗原といい,それぞれの抗原に対応する免疫グロブリンを抗体という。抗原と抗体は鍵と鍵穴のような関係にある(これを特異的という。)。 通常,抗体は抗原が生体内に侵入した際に,抗原に対応するB細胞が 何らかの理由で活性化されることで産生される。抗体が抗原と実際に結 合するのは特定のわずかな部分であり,それを抗原決定基ないしエピトープ(epitope)という。 (イ) 免疫グロブリンはその分子構造により,IgA,IgG,IgE等に分類され,その種別に応じて働きも異なる。IgG抗体の一種は,肺炎球菌やインフルエンザ菌に結合し,抗原と結合した抗体は好中球やマク ロファージにより補足,殺菌され,ウイルスの防御に働く。これに 分類され,その種別に応じて働きも異なる。IgG抗体の一種は,肺炎球菌やインフルエンザ菌に結合し,抗原と結合した抗体は好中球やマク ロファージにより補足,殺菌され,ウイルスの防御に働く。これに対し,IgEはそのままでマスト細胞上のFcε受容体Ⅰに結合して存在するようになり,その状態で抗原と反応するとマスト細胞が活性化され,ケミカルメディエーターを放出し,アレルギーの症状をもたらす。 なお,アレルギー反応の原因物質がIgE抗体であることは,昭和4 1年(1966年)に明らかにされたとされる。 (以上(ア),(イ)につき,乙ロB1,13)カアレルギーを生じる原因等(Ⅰ型)アレルギーは,本来人体に無害な物質が侵入した際に,抗原認識細胞がこれを異物と認識し,Tリンパ球にその情報を伝え,Tリンパ球 がBリンパ球にIgE抗体を作るように命令を出すことで,IgE抗体が産生され,これがマスト細胞と結合した状態で,次に抗原が侵入した際にマスト細胞上の抗体と結合することで人体に危害を加える症状を呈するものであるが,個体によってなぜこのような現象が生じるのかについては,遺伝的素因の影響や環境の影響等が指摘されるが,現時点でも明確な知見 は確立されていない(乙イB2ないし3の7,乙ロB1,2)。 (8) 食物アレルギーに関する知見ア概要食物アレルギーとは,日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会が公表した「食物アレルギー診療ガイドライン」によれば,「食物によって引 き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体によって不利益な 症状が惹起される現象」とされる。文献的に食物アレルギーとされてきている疾患の多くはⅠ型アレルギー(IgE依存性アレルギー)のメカニズムによるも 的機序を介して生体によって不利益な 症状が惹起される現象」とされる。文献的に食物アレルギーとされてきている疾患の多くはⅠ型アレルギー(IgE依存性アレルギー)のメカニズムによるものであり,IgE抗体以外のメカニズムによる食物アレルギーとしては,セリアック病や新生児・乳児消化管アレルギー等が知られている。 一般には,食品摂取後にかゆくなったり,湿しんが出たりすることも食物アレルギーと呼ぶことがあるが,免疫機序であるかどうかわからない段階の症状は食物過敏反応と呼ばれ,上記した食物アレルギーの範囲に必ずしも含まれないとされる。例えば,天然の刺激物質を多く含む山芋やパイナップル等を食べた際に口の周りが痒くなる症状等は,IgE抗体に関係 なく生じるものであって食物アレルギーではなく,食物の中の病原体や毒素によって発病する食中毒や毒性食物による反応,体質的に食物を消化できないために生じる食物不耐症等も食物アレルギーには含まれない。 IgE依存性の食物アレルギーは,重篤な場合,アナフィラキシーに至ることもあることから,医学的に重要視されている。 (以上につき,甲B20,甲C総3,乙イB20の1・2,乙ロB10)イ原因食物IgE依存性の食物アレルギーは様々な食物によって引き起こされ,基本的にはいかなる食物であっても原因食物となり得るが,年齢に応じて頻度の高い食物がある程度定まっている。例えば,0~3歳の場合は鶏卵(5 5.5%),牛乳(25.6%),小麦(13.1%)が3大原因であるのに対し,20歳以上では小麦(36.4%),甲殻類(13.9%),魚類(11.3%)等の頻度が高い(かっこ内は,消費者庁「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査事業」平成23年即時型食物アレル に対し,20歳以上では小麦(36.4%),甲殻類(13.9%),魚類(11.3%)等の頻度が高い(かっこ内は,消費者庁「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査事業」平成23年即時型食物アレルギー全国モニタリング調査の結果による原因食物の割合)。 以前は鶏卵,乳製品,大豆が3大アレルゲンといわれていたが,現在で は大豆が減少し,小麦がこれに代わった。 「食物アレルギー診療ガイドライン2012」によれば,食物摂取後60分以内に症状が出現し,かつ医療機関を受診した患者3882名の症例における原因食物の内訳は,割合の多い順に,鶏卵が38.3%,牛乳が15.9%,小麦が8%であった。 (以上につき,甲B20,乙イB20の1) ウ症状及び臨床型分類(ア) 症状a 一般に食物アレルギーにより引き起こされる症状としては,皮膚症状(痒み,蕁麻疹,発赤,湿疹等),粘膜症状(眼症状として,結膜充血,痒み,流涙及び眼瞼浮腫,鼻症状としてくしゃみ,鼻汁及び鼻閉, 口腔咽頭症状として口腔等の違和感及び咽頭の痒み等),消化器症状(腹痛,悪心,嘔吐,下痢及び血便),呼吸器症状(咽頭浮腫,喘鳴及び呼吸困難等)等多岐にわたっており,即時型であれば,皮膚,呼吸器,粘膜,消化器の順で頻度が高いとされる(甲総C3,乙イB20の1,乙イ総C10)。 b アナフィラキシー及びアナフィラキシーショック⒜ アレルゲンの侵入により多臓器にわたって全身性の症状を生じる場合をアナフィラキシーと呼び,その中でも血液低下や意識障害を伴い,生命を脅かす危険な状態を生じることをアナフィラキシーショックと呼び,かかるアナフィラキシーやアナフィラキシーショ ックを生じた場合には,特に迅速な 呼び,その中でも血液低下や意識障害を伴い,生命を脅かす危険な状態を生じることをアナフィラキシーショックと呼び,かかるアナフィラキシーやアナフィラキシーショ ックを生じた場合には,特に迅速な対応が必要であるとされる。 アナフィラキシー(特に即時型の場合)により引き起こされる症状として,90%以上で皮膚症状(蕁麻疹,発赤,痒み等)を生じ,次いで,呼吸器症状(呼吸困難,喘鳴,鼻炎等)が40~60%,めまい,脱力,失神,血圧低下等が30~35%,消化器症状(悪 心,嘔吐,腹痛,下痢)が25~30%等の割合の順の頻度でみら れる。 また,平成24年の即時型により病院を受診した患者総数の内,ショックを生じた者は10.9%程であり,日本では毎年3人程度がショックが原因で死亡しているとされる。 (以上につき,甲B20,甲総C3,乙イB20の1,乙イ総C 10)⒝ アナフィラキシーの臨床的重症度は,次のとおり分類できる(甲総C3)。 ⅰ グレード1皮膚限局性掻痒感,発赤,蕁麻疹,血管性浮腫 消化器口腔内掻痒感,違和感,軽度口唇腫脹呼吸器 ―循環器 ―精神神経 ―ⅱ グレード2 皮膚全身性掻痒感,発赤,蕁麻疹,血管性浮腫消化器 ⅰに加え,悪心,嘔吐呼吸器鼻閉,くしゃみ循環器 ―精神神経活動性変化 ⅲ グレード3皮膚 ⅱの症状消化器 ⅱに しゃみ循環器 ―精神神経活動性変化 ⅲ グレード3皮膚 ⅱの症状消化器 ⅱに加え,繰り返す嘔吐呼吸器鼻水,明らかな鼻閉,咽頭喉頭の掻痒感・紋扼感循環器頻脈(+15/分) 精神神経 ⅱに加え,不安 ⅳ グレード4皮膚 ⅱの症状消化器 ⅲに加え,下痢呼吸器嚥下困難,呼吸困難,喘鳴,チアノーゼ等循環器 ⅲに加え,不整脈,軽度血圧低下 精神神経軽度頭痛,死の恐怖ⅴ グレード5皮膚 ⅱの症状消化器 ⅳに加え,腸管機能不全呼吸器呼吸停止 循環器重度徐脈,血圧低下,心肺停止精神神経意識消失c なお,症状の重症度は患者によって大きく異なり,少量の摂取で常に症状が誘発される患者もいれば,普通の食事によっても時々しか症状の出現しない患者もいる。また,個々の患者においても症状の発現 の程度はその時々において異なり,疲労時や食後に運動をしたとき,また解熱鎮痛剤を内服しているとき等には,いつもは摂取できている量であるにもかかわらず症状が誘発される場合があり,注意を要する。 (甲B20)(イ) 臨床的分類 食物アレルギーは,次の代表的な4つの臨床病型に分類される(甲総C3,乙イB20の1,乙イ総C10)。 a 即時型症 る。 (甲B20)(イ) 臨床的分類 食物アレルギーは,次の代表的な4つの臨床病型に分類される(甲総C3,乙イB20の1,乙イ総C10)。 a 即時型症状即時型症状とは,通常,原因食物の食後2時間以内に出現するアレルギー反応による症状をいい,当該食物に対するIgE抗体が主たる 原因と考えられている。皮膚症状と呼吸器症状等,様々な臓器に複数 の症状を同時に生じ,アナフィラキシーに至る例も多く,重篤な場合にショックの症状を呈する可能性も高い。「食物アレルギーの診療の手引き2011」によれば,発症年齢は乳児期から成人期にみられ,ショックの可能性は「(++)」とされている。鶏卵,牛乳,小麦,大豆等を原因とする場合は寛解(耐性獲得)しやすく,その他は寛解し にくいとされる。 b 新生児・乳児消化管アレルギーミルクや母乳中の食物タンパクが原因となり,新生児・乳児に嘔吐や血便,下痢等の消化器症状を引き起こすものである。IgE抗体の関与は少なく,細胞性免疫によることが多い。上記「手引き」によれ ば,ショックに至る可能性は「(±)」とされ,多くは寛解するとされている。 c 食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎厚生労働省研究班により提案であり,乳児期のアトピー性皮膚炎に伴って発症し,食物アレルギーがアトピーに関与しているものである。 アレルゲン食品の除去によって湿疹が軽快する場合がある。乳児期に発症し,上記「手引き」によれば,ショックに至る可能性は「(+)」,多くは寛解するとされている。 d 特殊型⒜ 口腔アレルギー症候群(OAS) 口唇・ し,上記「手引き」によれば,ショックに至る可能性は「(+)」,多くは寛解するとされている。 d 特殊型⒜ 口腔アレルギー症候群(OAS) 口唇・口腔粘膜における果実・野菜によるIgE抗体を介した接触蕁麻疹で,原因食物を摂取後5分以内に症状を認めることが多い。 花粉症に合併することが多く,カバノキ科ハンノキ属・カバノキ属(シラカバ)はバラ科果物(リンゴ,モモ,サクランボ等)と,イネ科とブタクサはウリ科果物(メロン,スイカ等)と交差反応しや すい。上記「手引き」によれば,幼児期から成人期にかけて発症し, ショックの可能性は「(±)」,寛解はしにくい類型とされている。 なお,ラテックス・アレルギーでは,アボカド,クリ,バナナ等と交差反応して,アナフィラキシーを誘発する場合がある。 ⒝ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(Food- dependentexercise-inducedanaphylaxis:FDEIA) 原因食物を摂取後,それだけでは症状が生じず,運動負荷等の二次的要因が加わることによってアナフィラキシーが誘発される症状であり,主に小麦,エビ,カニが原因となることが多い。運動によって腸での消化や吸収に変化が起き,未消化のたんぱく質が吸収されて生じるものと考えられている。上記「手引き」によれば,学 童期から成人期にかけての期間を発症年齢とし,ショックを生じる可能性は「(+++)」と他の類型の中で最も高く,一般に寛解しにくいものとされている。 通常の即時型アレルギーに比較して,寛解しにくく,アナフィラキシーショックの可能性も高い点に特徴がある。 (ウ) 発症年齢と症状類型の関係原因食物の種類 れている。 通常の即時型アレルギーに比較して,寛解しにくく,アナフィラキシーショックの可能性も高い点に特徴がある。 (ウ) 発症年齢と症状類型の関係原因食物の種類だけでなく,症状の起こり方についても年齢に応じて特徴があり,即時型症状は乳児期から成人期にかけて幅広い期間にわたってみられるが,特に成人では食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)や口腔アレルギー症候群(OAS)の病態でアレルギー を発症することが多く,我が国では20歳以上の小麦アレルギーでは,FDEIAとして発症するタイプの患者が多く,この症状類型を小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)と呼ぶことがある(甲B20)。 エ機序(メカニズム) (ア) IgE依存性の食物アレルギーには感作相と惹起相という二つの時 相がある。 a 感作相まず,アレルゲンが皮膚,気道・腸粘膜を介して体内に侵入し,抗原提示細胞(マクロファージ等)に認識され,B細胞からIgE抗体の産生が行われるようになる。食物アレルゲンが体内に侵入しても初 めはその食物に反応するリンパ球の数は少ないため,目に見える症状は起きないが,反応するリンパ球が数を増やしたり,機能を獲得し,この際,当該個体の素因や当該食物がアレルギーを起こしやすい性質であったりすると,Tリンパ球が2型(Th2)の性質を帯び,Bリンパ球(B細胞)にその食物に対するIgE抗体を作らせることにな る。このように産生されたIgE抗体が体中の皮膚や粘膜に存在するマスト細胞表面に結合した状態を感作という。 b 惹起相次いで,原因食物を食べることで感作されたヒトに,再度アレルゲンが侵入すると,これがマスト細胞上のIgE抗体に結合し,マスト 在するマスト細胞表面に結合した状態を感作という。 b 惹起相次いで,原因食物を食べることで感作されたヒトに,再度アレルゲンが侵入すると,これがマスト細胞上のIgE抗体に結合し,マスト 細胞が活性化されて,ヒスタミン,ロイコトリエン等のケミカルメディエーター(化学伝達物質)が産生,放出される。このケミカルメディエーターが全身の血管や臓器に作用することにより,臨床症状としてアレルギー反応,症状が生じる(惹起相)。 (以上abにつき,甲B20,乙イB20の1) (イ) アレルゲンについてa アレルギーは一般に化学物質等が抗原となって生じることもあるが,IgE依存性食物アレルギーのアレルゲンには圧倒的にたんぱく質が多い。これは,アレルゲンによるマスト細胞の活性化にはアレルゲンがマスト細胞表面上のIgE抗体の架橋結合をする必要がある ためである。架橋にはある程度の分子量が必要(一般的には少なくと も3000Da以上)とされており,たんぱく質と異なり,分子量の小さい化学物質等はアレルゲンになりにくく,これらがアレルゲンになる場合は生体内の分子量の大きいタンパク等と結合する必要がある。 そして,食物アレルギーといっても食物全体がアレルゲンとなるの ではなく,一つの食品中に含まれる多種類のたんぱく質のうち,患者が反応するたんぱく質は限られており,これを主要アレルゲンという。 (以上につき,甲B20,乙イB20の1)b 日常生活におけるアレルゲンの所在及び成分表示現在の食生活は加工食品への依存度が高く,予期せぬ原材料が食品 中に使用されることもあるため,食品衛生法の改正により,アレルギーを引き起こす可能性の高い食品を原材料として含む場合の表示が義務付けられる 活は加工食品への依存度が高く,予期せぬ原材料が食品 中に使用されることもあるため,食品衛生法の改正により,アレルギーを引き起こす可能性の高い食品を原材料として含む場合の表示が義務付けられるに至った。これによれば,平成14年4月から容器包装された加工食品中に含まれるアレルギー物質7品目(特定原材料,卵・乳・小麦・そば・落花生に,平成20年の省令改正によりえびと かにが追加)については省令に基づきその表示が義務付けられ,これに準ずる18品目についても表示の推奨がされている。 ただし,日常生活を送る上では,ワクチン(予防接種)や薬剤等,思いがけないところに食物アレルゲンが潜んでおり,不慮の事故が生じるおそれはある。 (以上につき,乙イB20の1・2,乙イB25)c 低アレルゲン化について上記aのとおり,食物アレルギーといっても食物全体がアレルゲンとなるのではなく,食物中のたんぱく質の一部がアレルゲンとして機能するため,当該部分を除去したり,分解により機能・特性を失活さ せたりすれば,当該食物を食べることができるようになる場合もある。 これを低アレルゲン化といい,例えば,加熱は最も簡単な低アレルゲン化の方法であり,マグロには反応を示しても,高圧加熱処理によりたんぱくが分解しているツナ缶であれば症状が出現しないということがある。その他,牛乳はペプチドまで分解することで低アレルゲン化することができ,実際に製品化されている。 (以上につき,乙イB20の1,乙イB25)。 (ウ) 交差反応(交差抗原性)についてa 交差反応性とは,アレルゲンたんぱく質のある構造(アミノ酸配列)に対して産生された特異的IgE抗体が,もとのたんぱく質と異なるが同じ構造(アミノ酸配列)(これ (交差抗原性)についてa 交差反応性とは,アレルゲンたんぱく質のある構造(アミノ酸配列)に対して産生された特異的IgE抗体が,もとのたんぱく質と異なるが同じ構造(アミノ酸配列)(これを相同性ともいう。)をもつたんぱ く質と反応してしまう現象である。 例えば,ニワトリとウズラのように種が近いとそれぞれが作るたんぱく質もよく似ており,鶏卵の卵白アレルゲンであるオボアルブミンに対してできたIgE抗体がウズラの卵に反応するなど,他のアレルゲンに交差反応を示す交差抗原の存在が知られている。代表的なもの として(かっこ内は反応する危険率を示す。),メロンとスイカ,バナナ,アボカド等の他の果物(92%),牛乳と山羊乳(92%),エビとカニ,ロブスター等の他の甲殻類(75%),モモとリンゴ,ナシ等の他のバラ科の果物(55%)等がある。 口腔アレルギー症候群などのクラス2食物アレルギーも,シラカバ 花粉とリンゴなどのバラ科の果物,スギ花粉とトマトと言った組み合わせの交差抗原性が原因で反応すると考えられている。ラテックス・フルーツ症候群に関して,ラテックス(ゴム手袋)のIgE抗体にはキウイ,バナナ,アボカド等の果物が35%の確率で交差反応を生じ,対してキウイ・バナナ・アボカド等の果物のIgE抗体には11%の 確率でラテックスが交差反応を生じるとされる。 (以上につき,甲B23,乙イB20の1)b 一般的には,交差反応性の程度は分類学的な近縁関係の程度と一致しており,近縁な関係にあるものほど強く交差反応するものとされており,しばしば同種間の植物,動物の同様の機能をもつたんぱく質で交差反応性が認められている。 他方で,豆乳アレルギーの場 り,近縁な関係にあるものほど強く交差反応するものとされており,しばしば同種間の植物,動物の同様の機能をもつたんぱく質で交差反応性が認められている。 他方で,豆乳アレルギーの場合に豆腐の摂取は多くの症例において可能であるなど,近縁種であっても交差反応を示さない例もあり,上記のとおり,シラカバ花粉とリンゴ,モモ等の果物やラテックスとキウイ,バナナ等,全く異なる物質間で交差反応を示すこともある。 (以上につき,甲B5,甲B23,乙イB21,乙ロB12) オ感作経路について(ア) 古典的には,食物は,本来経口摂取するものであることから,ある食物を何度も食べているうちに次第に食物に対してIgE抗体を保有するようになり(感作),感作が生じた状態で再度その食物を食べた際にアレルギー症状が生じる(惹起)という経口感作・経消化管感作が,食物 アレルギーの機序であると考えられてきた。もっとも,1980年代に花粉やラテックス等の環境抗原と食物との交差反応による機序が知られるようになり,更に平成20年(2008年)には経皮感作という新たな機序が提唱されるようになり(ただし,その全貌は明らかでない。),現時点では食物アレルギーの感作経路は,経口感作以外の感作経路も含 めて整理されるのが一般的である。(甲B20,乙ロB21)(イ) 食物アレルギーの感作経路につき,以下のように整理する見解がある。 a 3つの類型に整理する見解食物アレルギーは食物を食べた際に主に食物に含まれるたんぱく質がアレルゲンとなって発症するものであるところ,通常は,以前そ の食物を食べたときに感作が成立し,IgE抗体が作られている。こ のように食物による消化管感作によるものを ぱく質がアレルゲンとなって発症するものであるところ,通常は,以前そ の食物を食べたときに感作が成立し,IgE抗体が作られている。こ のように食物による消化管感作によるものをクラス1食物アレルギーという。これに対し,感作は花粉などにより鼻や気管・気管支の粘膜で成立し,作られたIgEが果実や野菜とも反応するため(交差反応),これらを食べたときに発症するタイプのものもあり,環境抗原に感作し,食物と交差反応を起こすものをクラス2食物アレルギーとい う(典型的には,花粉・食物アレルギー症候群やラテックス・フルーツ症候群)。これらに加え,経皮感作により発症する類型が存在する。 クラス1食物アレルギーを起こす食物たんぱくは,熱処理や消化酵素に対して強いといった特徴があり,胃を通過してもアレルギー症状を起こす。クラス2食物アレルギーを起こす食物たんぱくは,調理や 消化に弱いため,生で食べたときに,口腔内の症状を起こすことが多いといわれる。 (以上につき,乙イB20の1,乙ロB21)b 腸管感作と腸管外感作により整理する見解⒜ 腸管感作型発症(経口感作) ある食物を何度も食べているうちに,腸管を介して食物が体内に侵入して次第に食物に対してIgE抗体を保有(感作)するようになり,感作された状態で再度その食物を食べた場合にアレルギー症状が起こる(惹起)というもので,基本的な食物アレルギーの発症機序である。様々な食物の中でなぜ一部の食物が高頻度に食物アレ ルギーを発症するのかは明らかになっていない。 なお,乳幼児の食物アレルギーの発症機序として,近年は皮膚を介した感作の重要性が注目されている。 ⒝ 腸管外感作型発症 するのかは明らかになっていない。 なお,乳幼児の食物アレルギーの発症機序として,近年は皮膚を介した感作の重要性が注目されている。 ⒝ 腸管外感作型発症食べること以外,つまり腸管以外の経路を介した感作により発症 する事例も存する。 ⅰ 花粉症から始まる食物アレルギー(花粉食物アレルギー)鼻粘膜を介して花粉に感作し,花粉症を発症した患者において,当該花粉の主要アレルゲンとアミノ酸配列の一致率が高いたんぱく質を含む果物や野菜を経口摂取した際に,アレルギー症状を呈するものであり,花粉食物アレルギー症候群(Pollen-food AllergySyndrome)という。例えば,シラカンバやハンノキ花粉等の主要アレルゲンであるPR-10というアレルゲンたんぱく質は,リンゴやモモ,サクランボ,セロリの中にも存在し,その構造が類似するために交差反応し,これらの花粉症患者の一部は上記食物を摂取した際に,口唇腫脹,咽頭の痒み,ひどい場合 は咽頭浮腫,アナフィラキシーを生ずる場合がある。 ⅱ ラテックス・アレルギーから始まる食物アレルギー(ラテックス・フルーツ症候群)ラテックス手袋を頻繁に使用する医療従事者やラテックスの尿道カテーテル等を使用しなければならない患者が,ラテックス アレルゲンタンパクに感作されて,それと交差反応性のある食物(バナナ,クリ,アボカド,キウイ等)摂取時に食物アレルギー症状を来たしてしまうものである。 ⅲ 化粧品感作から始まる食物アレルギー工業的に加工された食物由来の添加物成分が,化粧品,ヘアケ ア製品,石鹸等の日用品に頻繁 を来たしてしまうものである。 ⅲ 化粧品感作から始まる食物アレルギー工業的に加工された食物由来の添加物成分が,化粧品,ヘアケ ア製品,石鹸等の日用品に頻繁に使用されており,このような食物由来の添加成分も食物アレルギーの原因となり得る。 平成4年頃から知られているものに,コチニール色素によるアレルギーがある。コチニール色素とは,南米産のサボテンに寄生する昆虫であるコチニールカイガラムシから抽出される分子量 492の赤色色素であり,口紅,アイシャドー,カマボコ,カン パリ,明太子等に赤色染料として使用されている。同色素を含む化粧品を使用することで,色素に含まれる虫体由来のたんぱく質に経皮経粘膜感作し,食物アレルギーを生じるものと考えられている。 その他,コチニール以外でも,平成12年頃から化粧品添加成 分へのアレルギーが誘因になって食物アレルギーが発症したとする論文報告が国際的に散見される。 (以上につき,甲B20)(ウ) 経皮感作に関する知見食物アレルギーの感作経路は経口曝露であるという仮定から,従来, アレルギーの家族歴をもつハイリスク児が消化管機能の未熟な時期から食物アレルギーを起こす確率の高い食品を摂取するのは危険であると考えられてきた。ところが,平成15年の英国の小児科医ラックによる疫学調査では,ピーナッツの摂取は危険因子でなく,むしろ乳幼児がピーナッツオイルをスキンケアとして用いることがピーナッツアレル ギーの危険因子であるとの結果が判明し,平成18年にフィラゲンの研究の中で食物抗原による経皮感作のメカニズムが次第に明らかとなり,平成20年,ラックは,経口曝露は本来あるべき免疫寛容を導くもの ギーの危険因子であるとの結果が判明し,平成18年にフィラゲンの研究の中で食物抗原による経皮感作のメカニズムが次第に明らかとなり,平成20年,ラックは,経口曝露は本来あるべき免疫寛容を導くものであり,アレルギー感作は経皮曝露により生じるという二重抗原曝露仮説を提唱するに至り,提唱からわずか5年ほどで着実にエビデンスを重ね, 確固たるものとして定着しつつある。(乙ロB21)カ診断(アレルギー検査)(ア) 概要IgE依存性食物アレルギー(即時型食物アレルギー)の診断には,①患者が当該食物に対してIgE抗体を保有していること,及び②患者 が当該食物を摂取して症状を生じることの証明を要する。 具体的な診断手順としては,一般に,症状の出現後,問診や食物日誌(日々の食事内容を記載した日誌)を通じて原因アレルゲンを推定し,次いで,IgE抗体が体内に存在するか否かを血液検査や皮膚テスト等を通じて判別する。これに代わって食物除去試験(疑わしい食物を1~2週間完全除去し,臨床症状の改善が得られるかどうかを観察するもの) が実施されることもある。そして,IgE抗体が存在する場合,通常は食物経口負荷試験を行い,確定診断に至るが,問診で因果関係が明らかな場合や食物経口負荷試験を行うリスクが高い場合には同試験はスキップされることがある。他方,問診等から原因アレルゲンが容易に予測できない場合や特異的IgE抗体が多抗原で陽性であるといった場合 等には,専門医において必要に応じ経口負荷試験が実施され,その他各種検査と併せて診断に至ることもある。 (以上につき,甲B20,甲総C3,乙イB20の1)(イ) 抗原特異的IgE抗体の存在の証明IgE抗体の検査方法としては,皮膚テスト 種検査と併せて診断に至ることもある。 (以上につき,甲B20,甲総C3,乙イB20の1)(イ) 抗原特異的IgE抗体の存在の証明IgE抗体の検査方法としては,皮膚テスト(プリックテスト,皮内 テスト)と血液抗原特異的IgE抗体価検査が最も一般的に行われている。他にも,一部食品に関してはヒスタミン有利試験,研究レベルの検査として好塩基球活性化試験という手法も存する。一般に皮膚テストの方が血液検査よりも実際の症状に即したものと考えられており,血液検査に比して重要視される。 a 血液抗原特異的IgE抗体価検査⒜ 検査内容食物由来タンパクをそれに最も適したバッファーで抽出し,その抽出液をセルローススポンジ,ポリスチレンビーズ等に固相化し,これに患者血清,酵素等で標本された抗IgE抗体,酵素気質を加 え,酵素反応の生成物量を計測し,特異的IgE抗体価を定量する 検査である(なお,セルロースのスポンジにアレルゲンを吸着させる方法をイムノキャップという。)。同検査は食物アレルギーの診断には非常に有用であるが,検査項目にないアレルゲンに関しては検査を実施できず,また血液検査結果の解釈には注意を要する点もあり,食物―食物間,食物―環境間の交差抗原性の理解も重要である。 イムノキャップの結果は,アレルゲンごとに血液中の特異的IgE抗体の量(測定値)をわかりやすいように0~6のクラス分けがされており,クラスが高いほどアレルギー症状が起きやすくなる。 イムノキャップのクラスや測定値が高いほど食物経口負荷試験での症状は誘発されやすくなるところ,その測定値と症状誘発の可能 性をグラフにしたものをプロバビリティカーブという。卵白,牛乳,小麦のプロバビリティカーブはよく 定値が高いほど食物経口負荷試験での症状は誘発されやすくなるところ,その測定値と症状誘発の可能 性をグラフにしたものをプロバビリティカーブという。卵白,牛乳,小麦のプロバビリティカーブはよく知られており,これを活用することで食物経口負荷試験の陽性率を推定し,同試験の実施をスキップすることにも役立つ。 ⒝ 留意点 まず,同検査で陽性とされる場合,当該食物に対して感作されていることは判明するが,感作されているヒトがみな実際にその食物を摂取することによりアレルギー症状を起こすわけではなく,同検査で陽性でも食品摂取が可能な場合もある。したがって,抗原特異的IgE抗体が検出されても,そのことのみをもって食物アレルギ ーであると診断することは早計である場合がある。もっとも,小麦アレルギーについては,小麦特異的IgE抗体価の陰性的中率は良好であり,95%以上は即時型アレルギーを否定できる抗体価を設定できるとする見解もある。 また,検査のために固相化したたんぱくは変性している可能性が あり,未加工の新鮮な食物にしか反応しない患者については,固相 化したたんぱくには反応しないことがある。 さらに,血液検査では血液中の遊離IgE抗体の量を測量するが,患者によっては皮膚や粘膜にはIgE抗体が大量に存するものの,血液中の遊離IgE抗体の濃度は低い人もおり,そのような場合,検出感度の問題で結果が陰性になる場合がある。そして,IgE抗 体の値が低い食物の方が,それが高い食物よりも症状が軽いということもできず,値の解釈の差は食物によって異なり,個人差も大きい。 b 皮膚テスト皮膚のマスト細胞上の抗原特異的IgE抗体の存在を評価する手 法である。通常,皮内 よりも症状が軽いということもできず,値の解釈の差は食物によって異なり,個人差も大きい。 b 皮膚テスト皮膚のマスト細胞上の抗原特異的IgE抗体の存在を評価する手 法である。通常,皮内テストではなくプリックテストが行われる。 ⒜ プリックテスト皮膚に少量のアレルゲンエキスを滴下し,その後皮膚にプリック針を押し付けて針孔程度の微小な傷をつけ,15~20分後に生じる膨疹の直径を評価するものである。これが陰性コントロールより 3mm大きい場合や陽性コントロールの2分の1より大きい場合は陽性と判別される。 食品や食物添加物そのものを用いてアレルギー検査が可能であり,血液検査よりも実際の臨床症状に近い検査結果を得ることができる。他方,皮膚テストではまれに副作用としてアナフィラキシー を生じることや重篤なアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患がある場合には実施困難である点などのデメリットもある。 ⒝ 皮内テスト微細な針を用いて皮内に希釈された溶液を注射し,その際生じる膨疹の大きさを評価してIgE抗体の存否を判別する手法である。 プリックテストに比して有意な場合があり得るが,副作用としての アナフィラキシーのリスクが比較的高く,食物アレルギーの診断には原則として用いられない(原則禁忌である。)。 c 好塩基球ヒスタミン遊離試験(好塩基球活性化試験)リンパ球から産生された抗原特異的IgEは,組織マスト細胞や末梢血好塩基球の高親和性IgE受容体に付着するため,皮膚マスト細 胞や末梢血好塩基球は抗原の結合により活性化され,ヒスタミンを遊離する。そこで,かかる機序を基に,末梢血好塩基球に抗原を作用させて活性化を調べるという検査方法である好塩基球ヒスタミン マスト細 胞や末梢血好塩基球は抗原の結合により活性化され,ヒスタミンを遊離する。そこで,かかる機序を基に,末梢血好塩基球に抗原を作用させて活性化を調べるという検査方法である好塩基球ヒスタミン遊離試験ないし活性化試験が,即時型アレルギーの原因探索に試験的に用いられている。一般に,卵,牛乳,小麦については診断的有用性があ るとされ,強い症状を誘発されるリスクが高いと思われる症例で負荷試験を行わずに抗原診断を行うための補助検査として有用とされる。 特に,本件アレルギーに関しては同試験の有効性が確認されており,同試験による陽性反応が診断基準の一部を成すとされているほか,食物アレルギーの治癒の判定にも有効であり,食物負荷試験に替わる検 査法として期待する見解も存在する。 (ウ) 患者が当該食物を摂取して本当に症状を有していることの証明a 食物経口負荷試験⒜ 検査内容アレルギーが疑われる食品を一定の時間間隔で分割摂取させて 症状の出現を観察する検査であり,目標とする総負荷量を漸増法で3~6回に分割し,患者に対し当該食品15~30分ごとに摂取させるのが原則である。食品そのものを食べるオープン法と,食品負荷に伴う心因性の反応を避けるためにプラセボ(擬似負荷食品)を併用するブラインド法がある。なお,同試験は食物アレルギーの原 因確定だけでなく,耐性獲得の判断,食物制限のレベルの再評価の ためにも用いられる。 ⒝ 実施上の注意点診断を確定するために極めて有用であるが,患者において実際に原因食物を摂取させ,その症状の誘発の有無を確認するというものであり,アナフィラキシーのような重篤な症状が誘発されるリスク があるため,専門の医師が誘発症状への 有用であるが,患者において実際に原因食物を摂取させ,その症状の誘発の有無を確認するというものであり,アナフィラキシーのような重篤な症状が誘発されるリスク があるため,専門の医師が誘発症状への緊急対応が可能な状況で,慎重に実施する必要があり,直近にアナフィラキシーを生じた症例や血中抗原特異的IgE抗体高値例で明らかなエピソードのある例に対しては同試験を実施すべきでないとされる。また,体調の悪いときは行わず,事前にアレルギー症状を十分にコントロールし, 負荷は少量からスタートして症状が出現すれば中止し,症状出現後は抗ヒスタミン薬,ステロイド薬,アドレナリンを必要に応じて使用するなどの手順などに配慮する必要があるとされる。 ⒞ 検査結果に関する留意点一回の経口負荷試験での検査陰性は将来的に症状が全く出現し ないことを保証するものではなく,例えば,疲れているときに摂取した場合や食後に運動した場合等に症状が誘発されることがある。 b 詳細な病歴聴取等確定診断には食物経口負荷試験を実施することが理想であるが,病歴等からアレルギーの原因物質が明らかである場合には,あえて同試 験を実施する必要が無い場合もあり,また,症状が重篤で食物経口負荷試験を行えない場合等は,患者に対し食物日記を作成してもらい,症状が行ったときに共通して摂取した食物を明らかにして原因食物を決定したり,絞り込んだりすることもある。 (以上,(イ),(ウ)につき,甲B20,甲総C3,乙イB20の1,乙 イ総C5,9,乙ロB18,19,乙ハB9) キ治療,管理・予防等(ア) 概要a 治療内容食物アレルギーの根本的な治療法は,現在においても未だ開発,確立されていない 8,19,乙ハB9) キ治療,管理・予防等(ア) 概要a 治療内容食物アレルギーの根本的な治療法は,現在においても未だ開発,確立されていない。一般に,乳児から幼児早期の即時型食物アレルギー の多くは,その後成長に伴って消化器機能や免疫学的機能が成熟することによって,症状がなくなる(耐性獲得という。)傾向にある一方,学童期や成人期での食物アレルギーは難治性で,長期にわたるとされているが経過はさほど明らかでない。 したがって,食物アレルギーの治療は,症状を起こさないための原 因食品の摂取回避(食事療法)と,症状が生じた際の薬物療法を含めた対症療法からなる。このうち,原因食物の除去による予防治療が食物アレルギー治療の基本であり,薬物療法はあくまで食事療法の補助治療にとどまる。 なお,食物の摂取を通じて耐性獲得を目指すという経口免疫療法 (OralImmunotherapy:OIT)は,耐性獲得を誘導する可能性のある治療方法であるが,OITによる減感作状態と耐性獲得は異なる状態であり,未解決や未知の問題も山積しており,同治療法は未だ研究段階にあること,また,これにより必ず耐性獲得ができるわけではなく,治療経過中に症状が誘発され,かつ重篤な副作用も起こるリス クも高いことから,一般診療には推奨されないとする見解もある。 (以上につき,甲総C3,乙イB20の1,乙ロB24,乙ハB13の1)b 予後管理アレルギー症状の発症後,原因食物が特定された後は,一般に,医 師の指導の下,日常生活における原因食物の除去を継続し,その中で 抗原特異的IgE抗体値が低下傾向をみせ,また症状が消失,著明改善するなどの事情が認められた場合には専門医により 師の指導の下,日常生活における原因食物の除去を継続し,その中で 抗原特異的IgE抗体値が低下傾向をみせ,また症状が消失,著明改善するなどの事情が認められた場合には専門医により食物負荷試験を実施し,その結果症状が出なければ食事制限を解除,又は症状が出るようであればなお食事療法(原因食物の除去)を継続するとのサイクルを基本に予後管理を行うこととなる。なお,食物除去解除後であ っても,徐々に摂取量や摂取頻度を増加させ,症状が出現しないことを確認する必要があるほか,食物経口負荷試験により解除された場合でも体調の悪いときや運動時には症状が出現することもあるため,注意が必要とされる。(甲総C3,乙イB20の1)(イ) 症状発現時の対症療法及び薬物療法 a 予防治療としての薬物療法食物アレルギーの治療として症状発生の予防のために薬物が用いられることがある。典型的には,蕁麻疹発生の予防のために抗ヒスタミン薬等が用いられる。もっとも,薬物療法はあくまで補助的な治療であり,診断が確定し,食物除去が可能であれば薬物療法は中止し, 原因食物を除去した食事療法を原則として実施すべきとされる。(甲総C3,乙イB20の1)b 対症療法としての薬物療法症状が誘発された場合には,対症療法として,臨床症状に応じ,以下の薬物が用いられる。一般的にも症状発現時にはその進行が早く, 急速に悪化することもあるため,迅速,適切な対応が求められる。 皮膚の痒み,発赤,蕁麻疹等には抗ヒスタミン薬が有効とされる。 抗ヒスタミン薬には多くの種類があり,眠気などの鎮静作用や剤型等を考慮し,使用薬を決定するものとされるが,最近では,鎮静作用の少ないもの(例えば,エバステル,アレジオン,アレロック,アレグ れる。 抗ヒスタミン薬には多くの種類があり,眠気などの鎮静作用や剤型等を考慮し,使用薬を決定するものとされるが,最近では,鎮静作用の少ないもの(例えば,エバステル,アレジオン,アレロック,アレグ ラ,タリオン,ザイザル等)が普及している。 気管支が狭くなるために生じる喘鳴や咳き込み等の呼吸器症状には気管支拡張薬が用いられる。ただし,咽頭浮腫による咳や呼吸困難には無効である。 即効性は無いが,急性症状に用いる治療薬の効果を増強したり,数時間後に症状が再発する遅発性アレルギーを予防したりするために ステロイド薬が用いられることもある。 (以上につき,乙イB20の1)(ウ) 原因食物の除去(食事療法)食事療法の実施には,正しい診断(原因食物の特定)に基づいた必要最小限度の原因食物の除去が肝要であり,食物日誌を活用するなどし, 患者毎に個別的な対応を行う必要がある。 原因食物を除去する上では,患者自身及び家族のQOLの維持への配慮や特に乳幼児においては当該食物を摂取できないことによる栄養面での配慮が重要となる。なお,食物は,加熱など調理の過程での変性やたんぱく分解酵素によるアレルゲンたんぱく質の切断によるアレルゲ ン性の減弱等を行うことができる場合もあることから,食事療法においては原因食品を食材として用いないで調理すること(アレルゲン除去食)が基本的な治療になるものの,調理による低アレルゲン化や低アレルゲン化食品を利用することなどを組み合わせる工夫が望ましいとされる。 (以上につき,甲総C3,乙イB20の1) (エ) 症状発現時の対応a 概要原因食物を摂取することにより症状が誘発,出現した場合には,症状の内容や程度を観察し,抗ヒスタミン薬及びステロイド 乙イB20の1) (エ) 症状発現時の対応a 概要原因食物を摂取することにより症状が誘発,出現した場合には,症状の内容や程度を観察し,抗ヒスタミン薬及びステロイド薬の内服等,適切な対処をとる必要がある。特に,アナフィラキシーを生じた場合 には生死にかかわる事態を生じる場合もあるため,アドレナリン自己 注射や医療機関への救急搬送等,迅速な措置が求められる。 b 症状発現時の自己対応(プレホスピタルケア)医療機関外において症状が発現した場合につき,まず症状が軽度である場合には抗ヒスタミン薬を内服し,注意深く症状を観察すべきである。症状が更に進行する場合や抗ヒスタミン薬を携帯していない場 合等は必要に応じ,医療機関を受診する。症状が中等度である場合は,抗ヒスタミン薬に加え,ステロイド薬や気管支拡張薬等を使用し,医療機関を受診すべきである。症状が重症である場合(なお,呼吸困難はアナフィラキシーで最も危険な症状の一つとされ,意識消失等も一刻の猶予も許さない危険状態とされる。)には,アドレナリン自己注射 薬(エピペン)を使用し,救急車等で医療機関に救急搬送すべきである。そして,過去にアナフィラキシーを経験したことがある患者においては,症状の程度いかんに関わらず既往を考慮して対処する必要がある。 アドレナリン自己注射薬(エピペン)とは,患者等が症状発現時に 自己で使用する注射薬であり,アナフィラキシー既往がある患者を中心に処方がされる。なお,医療機関においてはボスミンという注射薬が使用される。即効性があり,また,アナフィラキシーの全ての症状を和らげる効果があり,約20分間効用が継続するとされている。 c 医療機関における ,医療機関においてはボスミンという注射薬が使用される。即効性があり,また,アナフィラキシーの全ての症状を和らげる効果があり,約20分間効用が継続するとされている。 c 医療機関における対応 医療機関でも,患者の症状の内容や程度に応じて,酸素投与・補液,抗ヒスタミン薬投与,気管支拡張薬吸入,ステロイド薬投与(内服・静注),アドレナリン筋肉注射(ボスミン)を行い,経過を観察し,症状の鎮静化を図ることとなる。 アレルギー患者に対しては,医師は食事等により症状が出現した場 合の対応をあらかじめ指導し,エピペンを含め必要な薬剤を処方して おく必要があるとされる。 (以上aないしcにつき,甲総C3,乙イ20の1)ク小麦アレルギーの治療法に関する補足食事療法を行う際のポイントとして,主食を米飯にすることが推奨される。小麦は加熱による低アレルゲン化がほとんど生じないため,調理時の 混入に特に注意を要する。例えば,うどんが食べられてもパンが食べられないこともあり,食品の選別には注意すべきである。小麦は他の穀物との交差抗原性が約20%認められ,麦ご飯等で症状を引き起こす場合がある。 近時,製菓用やパン用の米粉が販売され,米粉パンやクッキーを家庭で作ることも可能であるが,市販の米粉パンには小麦たんぱく質であるグルテ ンを添加している場合があり,なお注意が必要である。 (乙イB20の1)(9) 本件アレルギーに関する知見等ア本件アレルギーの概要(ア) 特別委員会の委員らによる論文特別委員会の委員であった矢上晶子医師(以下「矢上医師」という。) らは,平成29年6月16日,免疫アレルギー分野の臨床医学雑誌に,特別委員会における活動の成果をまとめた「日本での よる論文特別委員会の委員であった矢上晶子医師(以下「矢上医師」という。) らは,平成29年6月16日,免疫アレルギー分野の臨床医学雑誌に,特別委員会における活動の成果をまとめた「日本での洗顔石鹸による加水分解コムギたんぱく質に対する即時型アレルギーのアウトブレイク」と題する論文(以下「矢上論文」という。)を公表した。その概要は以下のとおりである。(乙ハB26の1・2,27) a 本件アレルギーの症例に関する全国調査⒜ 本件石鹸の概要本件石鹸は,平成16年3月から平成22年12月まで日本国内において通信販売でのみ販売された。本件石鹸にはグルパール19Sという名称の加水分解コムギ(HWP)が含有されていた。 本件石鹸は肌の美白という宣伝効果のため,特に女性の間で非常 によく売れた。本件石鹸の販売業者である被告悠香における登録顧客数は466万7000人であり,顧客に販売された石鹸の総数は4650万8000個とされ,日本の成人女性数を5444万4000人と仮定すると,およそ12人に1人がこの石鹸を使用したものと推計された。 ⒝ 症例数の把握平成21年に福冨医師らにより本件石鹸の使用後に小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)を生じた5例が初めて報告されたのを皮切りに,その後,日本アレルギー学会内に特別委員会が発足し,平成23年10月に本件アレルギーの診断基準が確立 され,平成24年4月から被告悠香,日本アレルギー学会,厚生労働省,消費者庁及び各病院等を介した全国調査に基づく患者の登録が開始された。 かかる全国調査は,被数の情報源に基づくものであり,日本国内で生じた症例のほぼ全容を示すものと考えられるところ,平成26 年10 び各病院等を介した全国調査に基づく患者の登録が開始された。 かかる全国調査は,被数の情報源に基づくものであり,日本国内で生じた症例のほぼ全容を示すものと考えられるところ,平成26 年10月の終了時までに,2111名が専門医による診断を受けた確実例として報告された。このうち,女性が2025名,男性が86名であり,発症年齢は1~93歳まで,平均年齢は45.8±14.5歳である。最も人数の多い年齢群は40歳代の患者からなる年齢群であった。 b 本件アレルギーの症状及び特徴⒜ 本件アレルギーの患者のほとんどは,本件石鹸を洗顔専用に使用していたが,一部は他の身体部分にも使用していた。患者らが本件石鹸を使用開始してから1年後に,症状が発現するようになった。 なお,本件石鹸の使用前に明白な小麦アレルギーを示していた患者 はいなかった。 ⒝ 具体的症状及び発症割合登録された患者のうち臨床的詳細が入手可能であった899例を分析すると,小麦製品摂取後の典型的な症状は,瞼の腫れ(77%),蕁麻疹(60%),紅斑(38%),掻痒(31%),鼻水(13%)及び鼻づまり(11%)等であったが,25%においてアナ フィラキシーショックが起こり,43%が呼吸困難,16%が下痢,11%が嘔吐の症状を起こした。 これに対し,本件石鹸の使用中又は使用後には71%が皮膚症状を生じたものの,皮膚症状がない又は不明である症例が合計29%存在した。 ⒞ 従来型のアレルギー及び海外の症例との相違点本件アレルギーの患者の小麦摂取後のアナフィラキシーの初期症状は,顔面に出る瞼の腫れ,蕁麻疹,掻痒,鼻水等であり,掻痒及び蕁麻疹の全身性反応の初期症状を伴う従来のWDEIA 相違点本件アレルギーの患者の小麦摂取後のアナフィラキシーの初期症状は,顔面に出る瞼の腫れ,蕁麻疹,掻痒,鼻水等であり,掻痒及び蕁麻疹の全身性反応の初期症状を伴う従来のWDEIAとは異なるものであった。 海外では化粧品中のHWPにアレルギー反応を示したとする症例報告が平成12年から平成25年にかけて12あり,いずれも欧州諸国におけるもので,一つの報告当たりの患者数は1名ないし9名である。これらの報告に係る患者の多くはフェイスクリームを使用し,一部患者はスプレー式ヘアコンディショナーを使用していた。 また,一部患者にはそもそも食物摂取に関連する症状はみられなかったが,別の一部の患者では小麦含有食品の摂取後にアレルギー症状が示されたものがある。 興味深いのは,欧州の各症例では,ハムやパテ等のHWPを含有する加工食品の摂取後にアレルギー反応を示すことはあっても,従 来からある小麦製品(パンやパスタ等)にはいずれの症例も耐容性 を示していた(つまり,欧州で報告された各症例では,天然小麦食品に対しては症状が出なかった。)のに対し,本件アレルギーの患者は従来からある小麦製品の摂取後にもアレルギー反応を示した点である。 c 原因となった物質の特定 本件アレルギーの患者らは,本件石鹸の使用後にⅠ型アレルギーの症状を発現し,その症状が反復されたこと,グルパール19Sに対する皮膚プリックテスト,ELISA法又は好塩基球活性化試験が陽性であったこと,本件石鹸の使用開始前に小麦アレルギー反応の観察がされていなかったことから,本件アレルギーの原因物質(抗原)は, 本件石鹸に配合されていたグルパール19Sであると特定された。 確認された2111例のうち,899 に小麦アレルギー反応の観察がされていなかったことから,本件アレルギーの原因物質(抗原)は, 本件石鹸に配合されていたグルパール19Sであると特定された。 確認された2111例のうち,899名についてはアレルギー疾患の病歴があり,アレルギー性鼻炎・花粉症,アトピー性皮膚炎,蕁麻疹及び喘息が,それぞれ297例(33%),107例(12%),42例(5%),17例(2%)がみられた。これらの疾患の有病率は一 般集団調査における有病率(アレルギー性鼻炎・花粉症〔47.2%〕,成人喘息〔5.4%〕)と概ね変わるものではなかったが,アトピー性皮膚炎の発症率は一般集団調査の有病率〔20代では9.4%,30代では8.3%,40代では4.8%〕とわずかに高値であった。 d 感作を生じた原因及び発症メカニズム等 ⒜ アレルゲン性の獲得上記のとおり,本件アレルギーの原因となった物質であるグルパール19Sは,95℃で40分間,グルテンを酸処理(pH,0. 5~1.2)したものであるところ,グルテンを高温で短時間の酸処理したことにより,新たなエピトープが生じ,これがアレルギー 反応を引き起こしているのではないかと考えられる。0.1Nの塩 酸で100℃にて30分間処理されたグルテンには患者の血清のIgE結合能を著しく増大させたこと,及び高温で短時間の酸処理によってグルテンのランダムな分解及び短鎖ペプチドと長鎖ペプチドの混合状態が生じ,電気泳動ではグルパール19Sを使用した場合と同様のスメアパターンが示されたのに対し,高温で長時間 (24時間)のグルテンの酸処理では小さいペプチドしか生成せず,この場合はアレルゲン性を有さなかったこと等が報告されている。 ⒝ 感作及び交差反応の機序本件アレルギーの患者ら 高温で長時間 (24時間)のグルテンの酸処理では小さいペプチドしか生成せず,この場合はアレルゲン性を有さなかったこと等が報告されている。 ⒝ 感作及び交差反応の機序本件アレルギーの患者らはグルパール19Sを含む本件石鹸を繰り返し顔に使用したため,瞼や鼻を通してアレルゲンへの曝露が 行われ,瞳に強いアレルギー反応を生じたほか,本件アレルギーに係る反応がもたらされたものと考えられる。 本件アレルギーの患者は,小麦含有食品を摂取すると症状を発症するものであるが,ほとんどの食品にはHWPは含まれていないため,摂取後の消化酵素反応がアレルゲン性の獲得を担っているのか もしれないと推測された。その後の各種の研究結果によれば,グルパール19S自体は体内でトランスグルタミナーゼによって脱アミドしないが,上記のとおり,酸と熱でのグルテン処理の過程で脱アミド化ペプチドが生成し,次いで,患者がこの石鹸を繰り返し使用することでグルパール19Sに対する特異的IgE抗体が産生 されたと考えられる。そして,摂取された小麦食品が体内でトランスグルタミナーゼにより脱アミド化され,患者の体内に産生されたグルパール19Sに対する特異的IgE抗体が食品中のグルテンに由来するかかる脱アミド化ペプチドと交差反応することにより,当該患者にアレルギー反応(アナフィラキシー反応)をもたらした のかもしれない。 e 予後等2111名の患者の一部である110名は寛解状態にあること,及び110名の寛解率は本件石鹸の使用中止の60か月後もなお56. 1%であるとの報告がある。 (イ) 「特殊型食物アレルギーの診療の手引き2015」 厚生労働科学研究費補助金を受けて構成された森田教授を代表とする研究班によ 0か月後もなお56. 1%であるとの報告がある。 (イ) 「特殊型食物アレルギーの診療の手引き2015」 厚生労働科学研究費補助金を受けて構成された森田教授を代表とする研究班による「生命予後に関わる重篤な食物アレルギーの実態調査・新規治療法の開発および治療指針の策定」の調査結果に基づき作成された手引きには,本件アレルギーにつき,以下の記載がある(乙イ総C11)。 a 概念本件アレルギーは,加水分解コムギ含有石鹸を使用して加水分解コムギに感作され,小麦製品を摂取して即時型アレルギーを発症するものである。特別委員会の症例登録システムでは,茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギ(グルパール19S)による即時型小麦アレ ルギー患者が合計2000例以上把握されている。比較的大きな分子量の加水分解コムギが抗原となり経皮経粘膜的に感作され,加水分解コムギに対するIgE抗体が小麦たんぱく質と交差反応してアレルギー症状を示したと考えられる。 b 診断基準 特別委員会作成の基準に準じる。 c 予後略治とは,通常の食事及び日常生活を行い,3か月以上即時型アレルギー症状のない場合をいうところ,本件アレルギーとの診断を受けた患者350名の予後調査結果によれば,本件石鹸の使用中止5年 (60か月)後の略治率は約40%(41.6%)であり,略治まで の期間の推定中央値は,65.3か月である。 患者らのうち,臓器症状のあった症例,ショック症例,ω-5グリアジン特異的IgE陽性症例は治癒しにくい。 (ウ) 第114回日本皮膚科学会総会市民公開講座プログラム平成27年5月31日に開催された上記プログラム 症例,ショック症例,ω-5グリアジン特異的IgE陽性症例は治癒しにくい。 (ウ) 第114回日本皮膚科学会総会市民公開講座プログラム平成27年5月31日に開催された上記プログラムにおいて,特別委 員会の委員であった福冨医師,矢上医師,千貫医師及び手島医師らは,「化粧品を安全に使うには~2つの化粧品健康被害から学んだこと~」という題目で,本件アレルギーについて,以下の報告を行った(甲総C3,乙イB26)。 a 本件アレルギーの特徴 元々アレルギーのなかった人が,本件石鹸を使用し,同石鹸の中に含まれていた加水分解コムギ末に曝されることによって,これに感作し,小麦に対する食物アレルギーを引き起こしたものである。最終的に,全国で2000名を超える患者が同様のアレルギーを発症する大事故となった。 石鹸の使用部位も反映し,小麦を食べた際の症状も瞼や顔面の痒み,腫れが主な症状であった。 b 全国調査により判明した事項・経過平成26年10月20日までに実施された全国疫学調査により,診断基準を満たした症例総数が2111例あったこと,本件石鹸を使用 した際に約6割の患者において顔面の痒みや眼瞼の腫れを生じていたこと,小麦を摂取した際に約5割の患者において呼吸困難や嘔吐,アナフィラキシー症状等の重篤な即時型アレルギー反応が誘発されていたこと,時間の経過とともにいずれの重症度の患者においても小麦の摂取を再開していることが判明した。 今後の展望としては,本件石鹸の使用を中止したことで小麦の摂取 を再開できるようになった患者がおり,今後もその割合は増えていくことが予想される一方で,現時点でも小麦の摂取 今後の展望としては,本件石鹸の使用を中止したことで小麦の摂取 を再開できるようになった患者がおり,今後もその割合は増えていくことが予想される一方で,現時点でも小麦の摂取を回避している又は制限のある状況でのみ小麦を摂取している患者もおり,適切な生活指導や治療法の確立が求められている。 c 予後及び難治性症例に向けた取組み 平成26年10月までの350症例の予後調査結果によれば,略治期間の中央値は65.3か月と推定され,本件石鹸の使用中止後5年後には約40%が略治すると推定される。多くの患者は本件石鹸の使用を中止することでアレルギー症状が改善してきており,定期的に医療機関を受診してアレルギーの状態を評価してもらうとともに,小麦 製品の摂取制限の解除時期について相談すること等が奨められる。皮膚以外の臓器症状(下痢,嘔吐,呼吸困難等)のあった症例やショック症例,血液検査でω-5グリアジン特異的IgE抗体値が陽性であった症例では治癒しにくい傾向がある。 難治性症例に対しては,現在,抗IgE抗体製剤(オマリズマブ) を用いて,アレルギーを起こすたんぱく質であるIgEを中和する治療法が試みられている。 d 抗原解析及び今後の対策本件アレルギーは,経皮・経粘膜によりグルパール19Sが吸収され,体内にグルパール19S特異的IgE抗体が産生し,その抗体が 小麦と交差反応したことが発症機序と考えられた。本件石鹸中の加水分解コムギは,コムギグルテンの加熱条件下では酸による部分加水分解により作られたものであるが,この加水分解処理が部分的であったことにより低分子ペプチドの生成と同時に,一部で凝集等が生じ大きな分子量の物質が形成されたこと, テンの加熱条件下では酸による部分加水分解により作られたものであるが,この加水分解処理が部分的であったことにより低分子ペプチドの生成と同時に,一部で凝集等が生じ大きな分子量の物質が形成されたこと,この処理方法により新たに脱アミ ド化修飾残基が生成されたことにより,熱や酸に耐性の新たな抗原性 の高い抗原決定基が産生されたと思われる。 今後の展望として,グルパール19Sが感作性を獲得した原因として分子量分布が大きく影響していることが分かってきたので,分子量の大きい部分が製品に入らないように加水分解コムギ末の医薬部外品基準の改正を検討している。 イ臨床的特徴及び通常の小麦アレルギーとの比較等(ア) 森田教授及び千貫医師らのグループ(島根大学)特別委員会の委員であった森田教授及び千貫医師らは,平成24年から平成25年頃にかけて本件アレルギーの特徴等を分析した論文を発表し,その内容は以下のとおりである(甲B2,乙ハB10,14)。 a 本件アレルギーは,加水分解コムギを含有する石鹸の長期使用により,石鹸中の加水分解コムギがアレルゲンとして皮膚から吸収され,食べた小麦と交差反応をしてアレルギー症状を発症したというものである。従来,食物アレルギーは食物を経口摂取することにより消化管で感作が成立してアレルギーを発症すると考えられていたため,こ の度の出来事は食物アレルギー発症の概念を一新するもの,ないし経皮感作の重要性を再認識させるものとなった。 b 臨床的特徴等(通常型WDEIAと本件アレルギーの相違点)食物アレルギーのうち,原因食物を食べただけでは何らの症状をきたさないが,食物を食べた後,運動等の二次的要因が加わって発症す 臨床的特徴等(通常型WDEIAと本件アレルギーの相違点)食物アレルギーのうち,原因食物を食べただけでは何らの症状をきたさないが,食物を食べた後,運動等の二次的要因が加わって発症す る特殊例があり,これを食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)という。誘因は運動のほか,痛み止め薬(非副腎皮質ステロイド系消炎鎮痛薬〔NSAIDs〕)の服用,その他患者の体調や気候の影響等様々な誘因がある。国内では,小麦が原因となる食物依存性運動誘発アナフィラキシー,通称WDEIAが症例の約60%を占め, 実際に学童期以降の小麦アレルギーはFDEIAの病型をとること が多い。 通常型のWDEIAの症状は全身の蕁麻疹とアナフィラキシーショックが典型であり,難治性の病態をとる。そして,患者の約8割で小麦構成たんぱく質のω-5グリアジンが,残りの2割で高分子量グルテニンが主要抗原であることが見出されている。 これに対し,本件アレルギーは,本件石鹸の使用が発症に先立ち,その主たる症状は顔の腫れ・眼瞼浮腫等であり,自然寛解の可能性がある。また,患者の多くはω-5グリアジンや高分子量グルテニンに対する抗原特異的IgEを有していないか低値であり,従来型のWDEIAとは異なるエピトープ配列を認識していると思われる。一方で, 小麦・グルテン特異的IgE陽性率は比較的高いものである。最大の特徴は,上記aのとおり,分子量の大きなたんぱく質は通常の皮膚からは吸収されないと考えられていたところ,本件アレルギーは本件石鹸で洗顔を繰り返している間に経皮経粘膜感作が生じたという点である。 以上をまとめると,以下のとおりとなる。 ⒜ 通常型WDEIA ーは本件石鹸で洗顔を繰り返している間に経皮経粘膜感作が生じたという点である。 以上をまとめると,以下のとおりとなる。 ⒜ 通常型WDEIA好発年齢学童期~老年期性別男女問わず発症に先立つ加水分解コムギ含有石鹸の使用歴通常はなし 主症状蕁麻疹(全身の膨疹)アナフィラキシーショックしばしば検査陽性率小麦 44%(n=50,以下の項目も同様)グルテン 48% ω―5グリアジン 82% 抗体値の比率小麦<ω―5グリアジン自然寛解困難⒝ 本件アレルギー(加水分解コムギ型WDEIA)好発年齢 20~60代性別ほぼ女性 発症に先立つ加水分解コムギ含有石鹸の使用歴あり主症状血管性浮腫(顔の腫れ,眼瞼浮腫)アナフィラキシーショック起こり得る検査陽性率小麦 70%(n=30,以下の項目も同様) グルテン 77%ω―5グリアジン 6.7%抗体値の比率小麦>ω―5グリアジン自然寛解可能性あり(イ) 相原道子教授らのグループ(横浜市立大学) 特別委員会の委員であった相原道子教授らは,平成24年11月,アレルギー疾患の新常識と題する特集に,以下のような本件アレルギーの イ) 相原道子教授らのグループ(横浜市立大学) 特別委員会の委員であった相原道子教授らは,平成24年11月,アレルギー疾患の新常識と題する特集に,以下のような本件アレルギーの概説を内容とする「「茶のしずく石鹸」使用者に発症した小麦依存性運動誘発アナフィラキシー」と題する論文を寄稿した(甲B12)。 a 感作経路について 特定の食物摂取と運動が同時に関与することによって起きるアナフィラキシーを食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)という。その主症状は典型的には蕁麻疹の出現に続き,喘鳴,咽頭浮腫,呼吸困難等の消化器症状や悪心・嘔吐等の消化器症状を呈し,更には意識消失する場合もあるというもので,経口摂取した食物抗原が 腸管から未消化の状態で吸収され,血流を介して全身に運ばれるため に生じると考えられている。原因食物は,エビ,イカ,カニ,貝類,ナッツ,そば等多岐にわたるが,日本では小麦が約60%と最も多く,小麦を原因とするFDEIAを小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)と呼んでいる。これらの患者は小麦の経口摂取により感作され(経消化管感作),発症に至ると考えられてきた。 これに対し,本件アレルギーは,本件石鹸の使用により経皮的又は経粘膜的に加水分解コムギが吸収,感作され,その後に経口摂取した小麦たんぱく質によりWDEIAを発症したものとされ,経皮経粘膜感作を生じた点に特徴がある。 従来,即時型の食物アレルギーの発症機序は「食べることで感作さ れる」,すなわち消化管での感作が主体であると考えられてきた。しかし,ラックは平成20年,経口摂取は免疫寛容を促進し,経皮的接触がアレルゲンの感作を惹起促進するとい 序は「食べることで感作さ れる」,すなわち消化管での感作が主体であると考えられてきた。しかし,ラックは平成20年,経口摂取は免疫寛容を促進し,経皮的接触がアレルゲンの感作を惹起促進するという二重抗原曝露仮説を提唱し,それまでの食物アレルギーの概念を一新し,また,Codreanuらは化粧品に含まれる食物たんぱく質の経皮感作がアトピー性 皮膚炎患者で起こり得ると指摘している。本件アレルギーは,食物アレルギーの感作経路が経皮・経粘膜感作であることを裏付ける根拠の一つとなった。皮膚は外界からの微生物や抗原の侵入を防ぐ臓器であり,角層で覆われた正常な皮膚を通過できる物質は分子量1kDa程度とされるのに対し,食物アレルゲンの分子量は5~150kDa, 特にグルパール19Sは20~250kDa程度の分解産物を含むと考えられる。このような大きな分子が経皮的に感作されるには何らかの皮膚のバリア障害が存在していると考えられ,アトピー性皮膚炎等の内因的要因のほか,界面活性剤や研磨剤,たんぱく質分解酵素等の影響という外因的要因が想定される。特に,本件アレルギーの患者 らにおいてアトピー性皮膚炎がある場合,有意に発症しやすいという 傾向はなく,界面活性剤は皮膚表面のpHを上昇させることにより角層剥離酵素の活性を上昇させ,角層の剥離・菲薄化を起こすと報告されていることからすれば,外因的要因が大きく関与したものと推察される。 b 臨床的特徴等(通常型WDEIAと本件アレルギーの相違点) 本件アレルギーの臨床症状の特徴として,①石鹸使用時に接触蕁麻疹の症状が先行し,その後又はほぼ同時期にWDEIAが出現すること,従来のWDEIAとの相違点として,②本件アレルギーの主症状は眼瞼浮腫(血管性 ルギーの臨床症状の特徴として,①石鹸使用時に接触蕁麻疹の症状が先行し,その後又はほぼ同時期にWDEIAが出現すること,従来のWDEIAとの相違点として,②本件アレルギーの主症状は眼瞼浮腫(血管性浮腫)であること及び③アナフィラキシーショックの頻度が低いことがあげられ,④特異的IgEの点では小麦とグル テンに対する値が陽性になりやすく,ω―5グリアジンに対する値は陰性又は低値になりやすい傾向があった。 以上をまとめると,以下のとおりとなる(横浜市立大学附属病院皮膚科の集計)。 ⒜ 従来型WDEIA 年齢学童期~高年期性別男女問わず(男:女=6:14)先行する加水分解コムギ石鹸の使用なしWDEIA前の石鹸使用時の局所症状の自覚なし主症状全身性蕁麻疹 ショック多い(90%,n=20)検査陽性率特異的IgE陽性率(ImmunoCAP)小麦 40%(n=20)グルテン 55%(n=20) ω-5グリアジン 80%(n=10) HWPによるプリックテスト陰性(n=5)⒝ 本件アレルギー(HWP型WDEIA)年齢 20~60代性別全例女性(n=20)先行する加水分解コムギ石鹸の使用あり WDEIA前の石鹸使用時の局所症状の自覚 80%(n=20)主症状眼瞼浮腫(n=20) 先行する加水分解コムギ石鹸の使用あり WDEIA前の石鹸使用時の局所症状の自覚 80%(n=20)主症状眼瞼浮腫(n=20)ショック比較的少ない(10%,n=20)検査陽性率特異的IgE陽性率(ImmunoCAP) 小麦 45%(n=20)グルテン 50%(n=20)ω-5グリアジン 10%(n=20)HWPによるプリックテスト陽性(n=20)(ウ) 福冨医師の見解 本件アレルギーに係る症例報告を最初に行った福冨医師は,特別委員会の委員でもあったが,本件アレルギーの特徴につき欧州の症例と比較するなどして,以下の知見を明らかにしている。 a まず,同医師は,平成24年に発表した「化粧品に含まれている食物アレルゲンによる経皮感作」と題する論文(乙イB14)において, アナフィラキシーを生じた本件アレルギーに関する症例1例につき,通常のWDEIAの症状としては,全身性の膨疹を特徴とするのに対して,当該症例では,目の痒みや眼瞼腫脹を主様症状としていたこと等の相違点が見出されるとした上で,他方で欧州では平成12年以降,化粧品などに含まれる加水分解コムギにより接触性蕁麻疹を来たし, さらにその患者の一部は食品添加物として使用される加水分解コム ギの経口摂取でアナフィラキシーを来たすことが報告されており,このような疾患をimmedeiatehypersensitivitytohydrolyzedwheatprotein(IHHWP)と称してい アナフィラキシーを来たすことが報告されており,このような疾患をimmedeiatehypersensitivitytohydrolyzedwheatprotein(IHHWP)と称しているところ,本症例も,洗顔石鹸中の加水分解コムギへの感作という点で類似するが,IHHWPは普通の小麦製品は摂取できるが,本症例は普通の小麦製品も摂取できないと いう違いがあるとし,通常のWDEIAやIHHWP等の疾患が鑑別にあげられたが,本症例はいずれの病態とも異なっており,加水分解コムギへの経皮経粘膜感作が原因となり発症したWDEIAという,独立した臨床亜型であると確定診断したとする。 b また,同医師は,同年7月25日発刊の雑誌に掲載された「食物関 連化粧品添加成分により発症する経口食物アレルギー」と題する記事(乙ロB15)において,成人食物アレルギーの原因としての化粧品・ヘアケア製品中のたんぱく質に関する文献的な考察を中心として,以下の見解を述べている。 ⒜ 成人食物アレルギーにおける環境アレルゲンの経皮経粘膜感作 ルートの重要性特に成人の食物アレルギーでは,花粉などの吸入性抗原に対する経粘膜感作に関連して発症する食物アレルギー(PFAS,pollen-foodallergysyndrome)の頻度が高いことはよく知られており,その代表であるカバノキ科花粉症患者におけるバラ科果物を中心と する果物野菜アレルギーはこれまでもよく研究されてきた。他にも,そば殻の枕の使用による経気道感作に関連して発症する経口ソバアレルギーや,ダニのトロポミオシンと甲殻類のそれとの交差反応性等は食物アレルギーが経腸管的な食物アレルゲン感作ではなく経皮経粘膜感作ルートにより発症する例としてよく知られている。 発症する経口ソバアレルギーや,ダニのトロポミオシンと甲殻類のそれとの交差反応性等は食物アレルギーが経腸管的な食物アレルゲン感作ではなく経皮経粘膜感作ルートにより発症する例としてよく知られている。 成人における腸管外感作ルートは,成人の経口食物アレルギーの 発症において重大な役割を担っている。 ⒝ 化粧品及び日用品の添加たんぱく成分による食物アレルギー化粧品,ヘアケア製品又は石鹸等といった日用品の中に含まれる成分の中には,食物など天然物から作られたものも少なくなく,それらの添加成分には必然的にその原料天然物由来のたんぱく質が 少量であっても含有される。すると,このような化粧品等が最も濃厚に接触する組織は,皮膚,眼球結膜及び鼻粘膜であり,これらは同時に人間にとって最も免疫学的に敏感な組織であることは周知のとおりである。上記の成人食物アレルギーにおける経皮経粘膜感作ルートの重要性を考えると,必然的に,このような食物たんぱく 質由来の成分に日常的に曝露され続けることにより,われわれがそれらに対して感作が成立して,その後食物アレルギーを発症してしまうのではないかという懸念が生じてくる。 この点,化粧品添加物と食物アレルギーの関係について,最も古くから知られているのはコチニールアレルギーである。また,ラッ クらは,乳児期のピーナッツオイル入り軟膏の使用とその後のピーナッツアレルギーとの関係を見出し,発症の一因としてピーナッツオイル中のピーナッツアレルゲンたんぱく質への経皮感作の可能性を示唆した。しかし,この説には異論もあり,市販されているピーナッツ油中には残留たんぱく質が全く測定できず,感作を引き起 こすとはいえないというものである。これらのほか,近年,工業用 可能性を示唆した。しかし,この説には異論もあり,市販されているピーナッツ油中には残留たんぱく質が全く測定できず,感作を引き起 こすとはいえないというものである。これらのほか,近年,工業用に加工された天然素材由来のたんぱく質の加水分解物(小麦,コラーゲン,シルク,コンキオリン,ダイズ,卵白)が,化粧品,石鹸等の日用品に頻繁に用いられるようになりつつある。小麦や魚由来コラーゲンがその代表であり,これらは天然素材由来という意味で 人体に安全であろうという前提のもとで頻用されているものと推 測されるが,加水分解後の生成物の分子量が比較的高い場合は,接触蕁麻疹などの即時型アレルギーが起こり得ることは想像に難しくない。実際,欧州から1990年代後半になり化粧品・ヘアケア製品中のたんぱく加水分解物に対するアレルギーの報告が少ないながらも散見されるようになってきた。例えば,Niinmaki らは呼 吸器アレルギー外来の患者2,160例に種々の加水分解たんぱくを用いてプリックテストを行った結果,9例にコラーゲン加水分解物に対しての感作を認める等しており,これは経皮的な抗原曝露ルートによってコラーゲン加水分解物に感作されている可能性を示唆している(平成10年の研究)。 ⒞ 加水分解コムギアレルギー上記のとおり化粧品中のたんぱく成分による即時型アレルギーは古くから知られているが,近年になって特に加水分解コムギによる接触蕁麻疹等の即時型アレルギーの報告が多い。欧州では平成12年以降,化粧品中の加水分解コムギに対する接触性蕁麻疹の症例 が多数報告されるようになり,最近になって,化粧品中の加水分解コムギに対する接触性蕁麻疹症例の一部が食品中に添加された加水分解コムギを経口摂取 品中の加水分解コムギに対する接触性蕁麻疹の症例 が多数報告されるようになり,最近になって,化粧品中の加水分解コムギに対する接触性蕁麻疹症例の一部が食品中に添加された加水分解コムギを経口摂取することで食物アレルギーを来たすことも報告されている。これらの症例はIHHWPとも呼ぶれ,通常の小麦は問題なく摂取できる点が特徴であるが,論文で報告されてい る症例数も多くて9例であるので,本件アレルギーの症例のような大流行をきたしているわけではない。 我が国では,平成20年以降,IHHWPとして報告されているような症例が出現し始め,その大半は本件石鹸を使用することで経皮経粘膜的に加水分解コムギに感作された症例で,臨床症状として も眼瞼腫脹を主要症状とする小麦依存性運動誘発アナフィラキシ ーであった。大半の症例では加水分解コムギ入りの石鹸使用時の接触性蕁麻疹の症状は軽微で患者自身が気付かないうちに加水分解コムギに感作されており,使用し続けて感作が進行したものである。 単一の製品で500名を超すような患者が出たような事例は国際的にもこれまで報告はなく,今後の詳細な検討が待たれる。 c 福冨医師は,平成25年11月に「「(旧)茶のしずく石けん」による小麦アレルギーの総括」と題する論文(乙ハB18)を,平成26年3月に「加水分解コムギアレルギー:最新の知見」と題する論文(乙ハB17)をそれぞれ発表し,本件製品事故は1600例(平成25年1月現在)に本件アレルギーを発症数させた我が国のアレルギー史 上の大問題とした上で,本件アレルギーの特徴につき,以下のとおりの見解を明らかにした。 ⒜ 本件アレルギーは通常の成人発症のWDEIAと全く異なった臨床症状をもつ女性の小麦アレルギー患者群が同一の洗顔石鹸を使 上で,本件アレルギーの特徴につき,以下のとおりの見解を明らかにした。 ⒜ 本件アレルギーは通常の成人発症のWDEIAと全く異なった臨床症状をもつ女性の小麦アレルギー患者群が同一の洗顔石鹸を使用していたという臨床的観察から見出された疾患概念である。 本件アレルギーの患者らは,通常型のWDEIAと比較すると,ω-5グリアジンに対するIgE抗体価が認められないか極めて低値であるなどの相違点があり,他方,天然小麦には存在しない加水分解処理によって新規に生じたアレルゲンエピトープに対して非常に強いIgE反応性を有し,加水分解コムギへの感作が原因と なって天然小麦アレルギーを発症した点に特徴がある。 【臨床像の違い】ⅰ CO-WDEIA(通常のWDEIA)男女比男性>女性年齢若年~高齢 茶のしずく石鹸の使用歴 - 石鹸使用時の症状 -アナフィラキシーの初期症状全身の痒みと膨疹アナフィラキシーの進行症状血圧低下ⅱ HWP-WDEIA(本件アレルギー)男女比女性>>>男性 年齢 20~60代に多い茶のしずく石鹸の使用歴 +石鹸使用時の症状目の痒み・くしゃみ・鼻水・顔面皮膚の痒みアナフィラキシーの初期症状眼・顔面の痒み・膨疹アナフィラキシーの進行症状消化器・呼吸器症状,血圧低下 ⒝ 加水分解コムギの概念加水分解コムギとは,酸・塩基・酵素等によって小麦やグルテンを加水分解してその生化学的特性を修飾し,食品や食品添加物,化粧品添加物として使用される物質の総称である。かかる処理により親水性の向上や乳化作用の向上等,天然小麦にはない付加 によって小麦やグルテンを加水分解してその生化学的特性を修飾し,食品や食品添加物,化粧品添加物として使用される物質の総称である。かかる処理により親水性の向上や乳化作用の向上等,天然小麦にはない付加価値が生 まれ,工業的に大量生産され,多くの食品や化粧品に国際的に現在でも多く利用されている。 加水分解コムギは国内外の様々なメーカーから販売されており,その製造方法も使用用途も様々であるが,以下の分類が可能である。 本件アレルギーの原因となったグルパール19Sは用途からする と化粧品用のHWPであるが,①その生化学特性は食品用の改質グルテンに類似し,また,②他社の化粧品添加用HWPの多くは平均分子量が数千Da以下であったのに対し,グルパール19Sは5万Da程度あり,高めであった。 【HWPの用途による分類】 ⅰ 化粧品用のHWP ・分子量は様々。平均分子量は1万Da以下のものが多い。 ・用途:保湿作用・使用例:トリートメント,シャンプー,化粧品等・表示:加水分解コムギⅱ 食品用添加用のHWP(法的には食品扱い) (ⅰ) 改質グルテン・分子量は比較的大きい。比較的短時間の加水分解処理(脱アミド化)をしたもので天然グルテンに近い。 ・用途:食品の起泡性,乳化性の増加・使用例:キャラメル,カップラーメン,豚の角煮,ハンバー グ,チョコレート等・表示:小麦タンパク(ⅱ) 調味目的で使用されるHWP・分子量は小さい。平均分子量500~数千Da程度で,主成 グ,チョコレート等・表示:小麦タンパク(ⅱ) 調味目的で使用されるHWP・分子量は小さい。平均分子量500~数千Da程度で,主成分はアミノ酸~低分子ペプチド(ほとんどアミノ酸になるま で分解する)・用途,使用例:調味料・表示:たんぱく加水分解物(小麦),加水分解コムギ⒞ 欧州の症例(IHHWP)との比較文献上,初めてHWPへのIgE機序の即時型アレルギー症例 が報告されたのは,化粧クリームに含有されていたHWPにより接触蕁麻疹を発症した27歳女性例の報告(平成12年)であり,さらに,平成18年(2006年)には化粧品中のHWPへ経皮感作された患者の一部に食品用HWPを経口摂取した場合に即時型アレルギー症状を来たす患者が存在することが報告され,このような 病態はIHHWPと称されている。 これに対し,我が国で発生した本件アレルギーでは,食品中の通常の小麦製品で(も)食物アレルギー症状を来たすが,IHHWPは通常の小麦は摂取できるが,食品中のHWPにのみ特異的にアレルギー症状をきたす病態である。その他欧州ではHWPへの経皮感作の可能性の言及なしに,経口的に摂取されたHWPへの特異的食 物アレルギーも報告されている。 ウ機序等(ア) 平成23年ないし平成25年頃までの知見a 森田教授及び千貫医師らは,平成23年の段階で,加水分解コムギによる感作を生じた6症例を分析し,「加水分解コムギによる感作と は何か」と題する記事において,本邦のWDEIA患者の主要抗原はω-5グリアジンないし高分子量グルテニンであることが判明しているのに対し,本件 た6症例を分析し,「加水分解コムギによる感作と は何か」と題する記事において,本邦のWDEIA患者の主要抗原はω-5グリアジンないし高分子量グルテニンであることが判明しているのに対し,本件アレルギーの患者らは,上記抗原に対する特異的IgEを有しておらず,通常のWDEIAとは異なるエピトープ配列を抗原として認識している可能性があるものの,原因エピトープの解 明には至っていないとした。 また,発症の原因として,臨床経過からして石鹸中の加水分解コムギに感作されて接触蕁麻疹を発症し,後に小麦たんぱくとの交差反応によりWDEIAを発症したことが推察されるとし,なぜかかる感作が成立したのかの要因については,加水分解コムギが洗浄剤である石 鹸に含有されていたところ,石鹸は界面活性剤を含み,これには皮脂膜を分解し,古い角質を除去する効果があるため,それにより皮膚のバリア機能が破壊され,破壊されたバリアを通過して加水分解コムギたんぱくが侵入し,感作が成立した可能性があるとしている。 そして,同医師らは,同年12月に発表した「食物依存性運動誘発 アナフィラキシー」と題する論考においても,加水分解コムギ末の経 皮感作による症例につき,その抗原及び感作の成立にはいまだ不明な点が多いとしている。 (以上につき,乙イA12,乙ハB3の1・2)b 広島大学の平郡真記子医師,秀教授らによる平成23年11月に発表された「加水分解コムギ含有石鹸の使用後に発症した小麦依存性運 動誘発アナフィラキシーとその経過について」と題する論考においても,千貫医師らの見解を引用し,本件アレルギーの発症につき石鹸に含有されている界面活性剤が皮膚のバリア機能を破壊し,加水分解コムギが感作されやすい状態となった可 の経過について」と題する論考においても,千貫医師らの見解を引用し,本件アレルギーの発症につき石鹸に含有されている界面活性剤が皮膚のバリア機能を破壊し,加水分解コムギが感作されやすい状態となった可能性を指摘している(乙ハB7)。 c 森田教授及び千貫医師らは,平成24年に発表した「茶のしずく石鹸による小麦アレルギー」(甲B2)と題する論文において,加水分解コムギの抗原性及び本件製品事故の拡大原因につき,以下のとおり見解を明らかにした。 加水分解コムギ型WDEIAは,茶のしずく石鹸で洗顔を繰り返し ている間に加水分解コムギに感作された点で特徴的であるところ,分子量の大きなたんぱく質は,通常の皮膚からは吸収されないと考えられている。しかし,上記WDEIAを発症した患者の多くが,石鹸使用時に顔の蕁麻疹と思われる症状を起こしており,石鹸中の加水分解コムギ抗原が皮膚を通じて吸収されることを示唆している。この要因 として,石鹸は界面活性剤を含む,洗浄により皮膚膜を分解し,古い角質層を除去する作用があるため,石鹸の使用により皮膚のバリア機能が低下し,含まれていた加水分解コムギの吸収を来たした可能性がある。このことはラテックス・アレルギーにおける感作について,手荒れがあり,頻回にゴム手袋を使用した医療従事者に多発したことと 共通する点も興味深い。 そして,加水分解コムギは小麦あるいはグルテンを酸,酵素処理して部分的に分解したもので,国内では数種類の製品が化粧品,洗浄剤及び食品への添加剤として利用されているところ,本件アレルギーの患者の血清を解析した結果,グルパール19Sには反応を示したのに対し,それ以外の製品にはほとんど反応を示さなかった。グルパール 19Sは他の製品に比較して大きな分 ているところ,本件アレルギーの患者の血清を解析した結果,グルパール19Sには反応を示したのに対し,それ以外の製品にはほとんど反応を示さなかった。グルパール 19Sは他の製品に比較して大きな分子量の小麦分解物を含んでおり,この違いが高いアレルゲン性に影響していると考えられ,他の製品を添加した化粧品等のアレルゲン性は低いと考えられる。 また,千貫医師は,平成24年に発表した論文(乙ロB16,17)において,本件アレルギーにおける主要アレルゲン(エピトープ)に つき,以下のとおり述べている。 まず,小麦が抗原となって発症するアレルギーの内容は多彩であり,小麦粉の吸引によって喘息や鼻炎を引き起こすパン職人喘息,小麦への接触により即時型症状を呈する小麦接触蕁麻疹等のほか,乳幼児期には小麦の摂取により即時型小麦アレルギーを呈する場合及びアト ピー性皮膚炎の悪化を来たす場合があるのに対し,成人では多くの場合はFDEIA(WDEIA)の病態をとる。この点,小麦たんぱく質では約85%をグルテンが占め,その中でも70%エタノールに可溶なグリアジンと不溶なグルテニンに分類され,グリアジンはその生化学的性質やアミノ酸配列,分子量の違い等に基づき,α-,γ-, β-,ω-1,2,ω-5グリアジンに分類でき,グルテニンは分子量約3万の低分子量グルテニンと7万~9万の高分子量グルテニンに分けることができる。上記した病態ごとに原因抗原は異なっているところ,成人期におけるWDEIAについては抗原解析によりω―5グリアジン(患者の約8割)と高分子量グルテニン(患者の約2割) が主要抗原であることが明らかとなっている。 これに対し,本件石鹸の使用後に発症したWDEIAにおいては,血清中にω-5グリアジン及び高分子 子量グルテニン(患者の約2割) が主要抗原であることが明らかとなっている。 これに対し,本件石鹸の使用後に発症したWDEIAにおいては,血清中にω-5グリアジン及び高分子量グルテニン特異的IgEが検出されにくく,これは従来のWDEIA患者とは主要アレルゲンが異なり,加水分解コムギ型WDEIA患者は従来のWDEIA患者異なるエピトープを認識しているものと考えられる。グルパール19S は小麦たんぱく質を酸分解したものであるが,グルテンを酸分解すると,グルタミンはグルタミン酸へ,アスパラギンはアスパラギン酸へと変化し,生成された加水分解コムギはかなり小さい分子量の分解産物から,本来の小麦構成たんぱく質よりも大きい分子量の重合体まで含むことがある。患者の血清を用いた解析の結果からは,加水分解コ ムギ型WDEIA患者の血清中IgEは,加水分解コムギの分子量の大きいたんぱく質に強く結合する傾向があり,不完全な分解あるいは処理中の再重合による高分子量(75kDa以上)の加水分解コムギが,感作性が高く,アレルギー発症の原因であると考えられる。 d 産業医科大学医学部皮膚科学教室の小林美和医師らは,平成24年 3月に発表した「洗顔石鹸に含まれる加水分解コムギが感作原と考えられる小麦依存性運動誘発アナフィラキシー」と題する論文(甲B4)において,本件アレルギーの症例報告を行い,感作経路について,以下のように述べた。 通常,たんぱく質は十分に消化されていればアミノ酸あるいはジペ プチド,トリペプチドに分解されて吸収されるところ,WDEIAでは,食後の運動により消化管微小循環の虚血状態から胃酸分泌抑制による消化不良を来たし,また運動負荷やNSAIDsによる腸管上皮粘膜バリア障害か トリペプチドに分解されて吸収されるところ,WDEIAでは,食後の運動により消化管微小循環の虚血状態から胃酸分泌抑制による消化不良を来たし,また運動負荷やNSAIDsによる腸管上皮粘膜バリア障害から透過性亢進を来たした結果,アレルゲンとなる高分子グルテンタンパク分解物が腸管から吸収され,アレルギー症状を 誘発すると考えられている。これまで食物アレルギーは感作,惹起の 経路が同じ消化管と考えられていたが,近時,別の感作経路として経皮感作が注目されており,一般に皮膚には抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞,真皮樹状細胞が常駐しているところ,バリア破壊された皮膚ではこれらの細胞が活性化,すなわち抗原認識能が亢進していることから,そのような皮膚を介して感作が成立する可能性や,皮膚 付属器を介した感作経路等も考えられる。 この点,本件アレルギーを発症に関しては,洗顔料(石鹸)自体に界面活性剤が含まれており,かつ,グルパール19S自体が界面活性作用をもつ乳化剤であるため,角層バリアを透過しやすい性質を持つことは容易に推測された。さらに,顔面は角層が薄く物理刺激を受け やすい部位であることからバリア機能が低下しやすく,脂腺が発達しており経皮吸収能が高いため接触皮膚炎を起こしやすい。本件アレルギーでは,粘性に優れた泡立ちが良い石鹸であるため皮膚に接触する時間が長くなる結果,角層隔離と角質細胞間の脱脂が促され,経皮経粘膜感作が成立しやすい条件がそろったと考えられる。 e 平成24年5月に猪又直子医師及び相原道子教授が行った「経皮感作による食物アレルギー」と題する学会発表では,経皮感作の一般的な成立につき,経皮感作が成立するには表皮バリア障害の存在下で皮膚からアレルゲンが侵入し,その抗原に対してTh 道子教授が行った「経皮感作による食物アレルギー」と題する学会発表では,経皮感作の一般的な成立につき,経皮感作が成立するには表皮バリア障害の存在下で皮膚からアレルゲンが侵入し,その抗原に対してTh2反応へと誘導される必要があるところ,マウスの研究によれば,表皮バリア,特に角 質が破壊された状態で皮膚に抗原が接触すると,それだけでもTh2反応が誘導されるとされており,アトピー性皮膚炎のように遺伝的要因又は石鹸中界面活性剤による障害等後天的要因により表皮バリア障害が生じると,経皮感作が起こりやすい状態となると指摘した。 (乙ハB6)。 f 平成25年に千貫医師及び森田教授が発表した「加水分解コムギに よる小麦アレルギー」と題する論文(乙ハB14)では,本件アレルギーについて,全ての加水分解コムギが感作能を有している訳ではなく,不完全な分解による高分子量のたんぱく質を含む加水分解コムギにおいて感作能が高く,酸分解による過程で新しいエピトープが生じて感作が生じたものと推察されるとし,感作経路につき,本件アレル ギーは皮膚障害の既往が無い者にも感作が生じており,石鹸中の界面活性剤によって皮膚バリアが障害され,障害された皮膚から加水分解コムギが侵入し,感作が成立しやすかった可能性があるほか,本来,ヒトは幼少児期から経口摂取している自然界の小麦たんぱく質に対しては耐性を獲得しているものと思われるが,加水分解コムギは自然 界には存在しない修飾されたたんぱく質であったため,生体が異物として認識し,感作が成立しやすかった可能性がある旨の指摘がある。 (イ) 本件アレルギーにおけるエピトープの特定a 平成25年4月,広島大学の横大路智治医師(以下「横大路医師」という。)らは,「加水分解コムギ感作 立しやすかった可能性がある旨の指摘がある。 (イ) 本件アレルギーにおけるエピトープの特定a 平成25年4月,広島大学の横大路智治医師(以下「横大路医師」という。)らは,「加水分解コムギ感作による小麦依存性運動誘発アナ フィラキシーの原因抗原の解析」と題する学会発表において,本件アレルギー患者22名の血清IgEとグリアジン類及びグルテニン類との結合をドットプロット法で解析し,合成ペプチドアレイを用いてγ―グリアジンのIgE結合エピトープを解析したところ,患者らのIgEは主にγ‐グリアジンと結合することが判明し,その結合エピ トープはQPQQPFPQと同定され,さらに,患者のIgEは脱アミド化したエピトープペプチド(PEEPFP)と強い結合を示したことから,本件アレルギーの患者は,PEEPFPを含む加水分解たんぱく質に感作され,小麦経口摂取時のアレルギー症状誘発にはγ‐グリアジンが関与している可能性が示唆されたとの見解を明らかに した(乙イB23)。 b 森田教授及び千貫医師らは同年12月に発表した「経皮感作による小麦アレルギー」と題する論文において,原因抗原となったグルパール19Sの特徴と抗原性について概説し,そのエピトープに関して,本件アレルギーはγ―グリアジンに反応する割合が高く,患者血清からエピトープの解析を行った結果,主要エピトープはQPQQPFP Q(Q:グルタミン,P:プロリン,F:フェニルアラニン)であるとされ,ω-5グリアジンが主要抗原とされる通常のWDIAとは大きく異なっているとした。そして,グルパール19Sの加水分解の過程において,本来の小麦たんぱく質のグルタミン及びアスパラギンの側鎖が脱アミド化され,それぞれグルタミン酸,アスパラギン酸へ変 換されると ているとした。そして,グルパール19Sの加水分解の過程において,本来の小麦たんぱく質のグルタミン及びアスパラギンの側鎖が脱アミド化され,それぞれグルタミン酸,アスパラギン酸へ変 換されると考えられる結果,加水分解コムギのIgE抗体結合エピトープは,PEEPFPであることが推定されるとした。(甲B21,乙ハB15)c 平郡真記子医師らは,平成26年に発表した「加水分解コムギ」に関する解説記事において,本件アレルギーの患者の多くがグルテンた んぱく中のQPQQPFPQというアミノ酸配列に対するIgEを有するところ,その配列中のグルタミンをグルタミン酸に変換したPEEPFPにはより強く反応すること,この変換は酸処理の他に組織トランスグルタミナーゼによっても生じ,組織トランスグルタミナーゼ処理後のグルテンでは上記患者の血清の反応性が高まるとの報告 がされていること等を紹介した(乙ハB16)。 (ウ) グルパール19Sの経皮感作能に関する知見安達玲子医師らは,平成25年5月,「加水分解たんぱく質の経皮感作能」と題する論文を発表し,平成24年5月に開催された学会において発表したマウスモデルを用いた実験結果を紹介しつつ,以下のとおりグ ルパール19Sの経皮感作能等につき,グルパール19S自体が経皮感 作能を有しているとの結果が示されたこと等との見解を明らかにした(甲B17,乙ハB5)。 a 実施された実験は,大要,マウスの背部を剃毛し,セロハンテープで角質を剥離した後,グルパール19Sあるいはグルテンの懸濁液を同皮膚に3日間貼付し,4日間休止するというサイクルを4回繰り返 すことにより,感作を生じさせ,感作終了翌日に抗原を腹腔内投与することでアナフィラキシー症状の発現の程度を測定 グルテンの懸濁液を同皮膚に3日間貼付し,4日間休止するというサイクルを4回繰り返 すことにより,感作を生じさせ,感作終了翌日に抗原を腹腔内投与することでアナフィラキシー症状の発現の程度を測定するというものである。また,比較検討として,SDS(界面活性剤)添加群と非添加群が設定された。 b この結果,グルパール19Sで感作した群では特異的IgE抗体の 産生がみられ,SDS添加の効果はほとんどみられなかった。また,グルパール19Sの量の増大に応じて,抗体の産生も増大した。他方,グルテンで感作した場合,SDS添加群では特異的IgE抗体の産生がみられたが,SDS非添加群ではみられなかった。このことは,界面活性剤が経皮感作において重要な役割を果たしていることを示し ている。なお,グルパール19S感作群の血清はグルテンに反応し,グルテン+SDS群の血清はグルパール19Sに反応したことから,グルパールとグルテンには交差反応性がある。アナフィラキシー反応の惹起については,グルパール19Sの感作群ではSDSの添加に関わらず反応がみられたのに対し,グルテン+SDS感作群では反応が みられた一方,グルテン-SDS群では反応がみられなかった。また,グルパール19Sで感作した場合,反応の程度は感作時のグルパール19Sの量に依存することも示された。 以上より,グルパール19Sは経皮感作能を有すること,グルテンはSDSを共存させた場合に同様の経皮感作能を示すことが明らか となった。 c なお,同論文では末尾において,感作時の界面活性剤の効果については,抗原の溶解度増大,皮膚透過性亢進等が考えられるが,アジュバントとして作用している可能性もあり,この点の解明も求められるとしている。 (エ) において,感作時の界面活性剤の効果については,抗原の溶解度増大,皮膚透過性亢進等が考えられるが,アジュバントとして作用している可能性もあり,この点の解明も求められるとしている。 (エ) グルパール19Sの抗原性獲得等に関する知見 a 平成26年,酒井信夫医師,安達玲子医師及び手島医師らは,「抗原性を有する加水分解コムギの分子プロファイリング」と題する論文(乙ロB27)を発表し,グルパール19Sの製造工程に抗原性獲得の要因があることが示唆されるとした。 上記医師らは,グルテンを0.1N塩酸,100℃の条件で,それ ぞれ0,0.5,1,3,6,9,12,24時間に分けて加水分解を行い,それにより調整された加水分解物とグルパール19Sとの比較検討,経皮感作性試験等を実施した。その結果,0.5時間加水分解をしたHWPはグルパール19Sに類似した分子プロファイリングを示し,グルパール19Sと同様の経皮感作性を示すこと,より加 水分解が進行し低分子化された9時間加水分解をしたHWPでは経皮感作性は認められなかったこと等が明らかとなり,HWPにおいては,加水分解の程度がその抗原性に影響を及ぼし,分子量分布が安全性評価の指標の一つとなり得ることが示唆された。 b なお,上記医師らは,平成26年5月に行った学会発表において, 上記の実験結果につき,加水分解コムギは加水分解条件が抗原性に影響を及ぼし,分子量分布及び脱アミド化が安全性評価の指標となることが示唆されたとするとともに,アルカリ分解においてもグルパール19Sと同等の経皮感作性が示されたことから,今後,患者の血清と酸及びアルカリ加水分解物間で比較することが重要との見解を示し た(乙ハB19)。 c 解においてもグルパール19Sと同等の経皮感作性が示されたことから,今後,患者の血清と酸及びアルカリ加水分解物間で比較することが重要との見解を示し た(乙ハB19)。 c また,手島医師は,同年に発表した「化粧品に含まれる食物アレルゲン」と題する論文(甲B16)において,小麦加水分解物(グルパール19S)の感作性及び惹起性に関してそれまでに明らかになった知見をとりまとめて以下のとおり紹介している。 ⒜ 抗原性獲得の原因 グルパール19Sは,グルテンを酸性条件下(pH0.5-1. 2)かつ高温(95℃)で40分間部分加水分解したものであるところ,複数の論文により,グルパール19S中のIgE結合たんぱく質は未分解グルテン中のそれと分子量の点でいくぶん異なっており,酸部分分解によってたんぱく質の低分子化が引き起こされる 一方,グルパール19Sでは一部のペプチドにおいて凝集体ができる結果,この凝集体がエピトープの密度が高いために感作能,惹起能ともに高いと考えることができる。 ⒝ 加水分解コムギの感作・惹起性マウスを用いた動物実験による経皮感作に関する研究では,小麦 由来たんぱく質をマウス背部皮膚に界面活性剤とともに貼付することによって抗原特異的IgE抗体が産生されること,すなわちTh2型の免疫反応が起きていること,グルパール19Sの方がグルテンより感作に引き続く全身性のアナフィラキシーを起こしやすい性質を有していること等が観察されている。 また,ヒト型マスト細胞を用いた惹起試験による研究では,グルテンを0.1N塩酸中,100℃で処理時間を種々変えて加水分解を行い,経時的な抗原性の変化を検討し,0.5-1時間で惹起能が上昇することが観察されている。 ト細胞を用いた惹起試験による研究では,グルテンを0.1N塩酸中,100℃で処理時間を種々変えて加水分解を行い,経時的な抗原性の変化を検討し,0.5-1時間で惹起能が上昇することが観察されている。 ⒞ エピトープの特定について 本件アレルギーの発症メカニズム,特にグルパール19Sの抗原 決定基(エピトープ)についての詳細はまだ明らかになっていないものの,従来の小麦たんぱく質に存在する抗原決定基(例えば,HWPの腹腔内感作を行ったマウスの血清中のIgE抗体が未処理のγ-グリアジンと反応することが示されている。)に加えて,酸分解により新たな抗原決定基が出現した可能性(例えば,γ-又はω -2グリアジンの共通のエピトープであるQPQQPFPQ中のグルタミンが酸処理によって脱アミド化し,グルタミン酸になったQPEEPFPEに強いIgE結合活性があることが示されている。)が考えられる。 この点に関し,グルテンの脱アミド化と抗原性の変化に関しても 現在検討中であるが,HWP患者IgE抗体は未処理グルテンやその消化断片にはほとんど反応しなかったが,tissuetransglutaminase(tTG)で処理したグルテンには顕著なExiLE応答を誘導し,対して通常のWDEIA患者のIgE抗体はほとんど変化がなかったこと等の結果が得られており,か かる結果は,経口摂取した小麦グルテンが小腸吸収後にtTGにより脱アミド化されることでグルパール19Sと交差反応するエピトープを生じる可能性を示唆している。グルパール19S特異的IgE抗体が高値のHWP患者は,たとえ石鹸使用の中断によりグルテン特異的IgE量が減少しても,依然として小麦の摂取には十分 な注意を要することを意味するものと思わ る。グルパール19S特異的IgE抗体が高値のHWP患者は,たとえ石鹸使用の中断によりグルテン特異的IgE量が減少しても,依然として小麦の摂取には十分 な注意を要することを意味するものと思われる。 ⒟ 現在までに疫学研究の結果とも併せて,本件石鹸に関してはアレルギーを新たに発症させるリスクがあると判断できるが,他の石鹸に関しても本件石鹸に使用されていたのと同じグルパール19Sという加水分解コムギを用いた石鹸の場合に症例が観察されてい る。これらについても本件石鹸同様に回収がされており,他の加水 分解コムギを用いた石鹸での全身性のアレルギー症例は観察されていないので,グルパール19S以外の加水分解コムギについては,現時点ではリスクはほとんどないと判断できると思われる。 ⒠ 他の経皮等腸管外感作の事例報告等について成人では,花粉などの環境アレルゲンへの曝露と感作が食物アレ ルギー発症の原因となっていることはよく知られており,カバノキ花粉によるOASを特徴とする病態,ラテックス・フルーツ症候群,経口ソバアレルギー等,腸管外感作をきっかけに食物アレルギーを発症する症例が報告されており,成人における食物アレルギー発症には腸管外感作が重大な役割を担っているものと考えられる。 d また,同年,手島医師は,「経皮感作のメカニズムと食物惹起のクロストーク」と題する論文(乙イB27)を発表し,グルパール19Sとグルテンとの交差反応性(クロストーク)について掘り下げ,以下のとおり報告した。 グルパール19Sの抗原決定基(エピトープ)については,まだ詳 細は明らかになっていないが,現時点では横大路医師らが明らかにしたように,従来の小麦たんぱ 下のとおり報告した。 グルパール19Sの抗原決定基(エピトープ)については,まだ詳 細は明らかになっていないが,現時点では横大路医師らが明らかにしたように,従来の小麦たんぱく質に存在する抗原決定基に加えて,酸分解により新たな抗原決定基が出現した可能性が考えられている。 そして,tTGで処理したグルテンを用いた実験結果に対する考察等を踏まえれば,グルテン中のグルタミンの脱アミド化が惹起反応を 引き起こすこと等が判明している。これらによれば,グルパール19Sは酸加水分解処理により部分脱アミド化され,また部分加水分解された小麦グルテンたんぱく質であり,新しいエピトープが加水分解処理により生じたと考えられる。エピトープには,①物理的構造変化によって生じたエピトープ,及び②アミノ酸残基の化学的変化であるグ ルタミン残基の脱アミド化により生じたエピトープの2種類が考え られ,①には,加水分解処理前のグルテンにも存在するγ-グリアジンのIgEエピトープが属し,これらは直接的に交差反応性を示すと考えられ,②は,加水分解前のグルテンには存在しないが,経口摂取した小麦グルテンが小腸吸収後にtTGにより脱アミド化されることで間接的にグルパール19Sと交差反応するエピトープを生じる 可能性が考えられる。 e 福冨医師は,前記平成25年11月に発表した「「(旧)茶のしずく石けん」による小麦アレルギーの総括」と題する論文及び平成26年3月に発表した「加水分解コムギアレルギー:最新の知見」と題する論文において,他の研究者の実験結果等を引用しつつ,欧州で確認さ れているIHHWPと比較して本件製品事故が極めて大規模なアレルギー被害となったことに照らし,グルパール19SがHWPの中でも特に において,他の研究者の実験結果等を引用しつつ,欧州で確認さ れているIHHWPと比較して本件製品事故が極めて大規模なアレルギー被害となったことに照らし,グルパール19SがHWPの中でも特に抗原性が高かった可能性や本件石鹸固有の問題があったのではないかという着眼点から,グルパール19Sの抗原性等について当時までに明らかとなった知見を紹介した上で,本件製品事故がこれだ け大規模なものとなった原因には,グルパール19Sの分子量の高さと含有濃度の高さが関与していたと考えられ,更にグルテンの脱アミド化による抗原性の上昇が関与していた可能性が示唆されている旨,本件石鹸が洗顔石鹸として使用されたため,眼球・鼻粘膜への大量曝露が,疾患の流行に強く関与していたと考えられる旨の見解を述べた (乙ハB17,18)。 (オ) 他の石鹸における症例報告山本祐理子医師らは,平成24年11月に行った「茶のしずく石鹸以外の加水分解コムギ含有石鹸を使用していた患者にみられた小麦アレルギーの1例」と題する症例報告において,本件石鹸と同様にグルパー ル19Sを0.3%の割合で配合していた美容石鹸の使用を継続してい た患者1名において,本件アレルギーを発症したことを明らかにした。 同報告によれば,患者は平成21年から2種類の美容石鹸(商品名「サヴォンアンベリール」,「サヴォンアンベリールノワール」。いずれもグルパール19Sを0.3%配合)を洗顔時に使用していたところ,平成23年頃から顔面の掻痒感を認め,同年3月に食パン摂取後,歩行したと ころ,眼瞼浮腫や呼吸困難を生じ,入院加療を行ったというものであり,同症例については,特別委員会の診断基準を満たすものとして,本件アレルギーと診断されたと ,同年3月に食パン摂取後,歩行したと ころ,眼瞼浮腫や呼吸困難を生じ,入院加療を行ったというものであり,同症例については,特別委員会の診断基準を満たすものとして,本件アレルギーと診断されたとしている。 (以上につき,甲B18)(カ) 素因の影響を示唆する知見 a 前記認定のとおり,特別委員会では,本件アレルギーが本件石鹸の使用者のうち一部の者に発生した要因として遺伝的素因の関与が疑われるとの見解が示され,ゲノム解析等の研究に協力するとの方針が示された(乙イ総C4等)。 b アトピー素因と本件アレルギーとの関係性については,平成24年 にされた田中文医師らによる学会報告において,本件アレルギーとOASを併発した症例1例に関する症例報告に,AD素因を持つ患者では経皮感作を契機としたクラス2食物アレルギー成立を来たしやすい危険性が考えられるとの指摘がある。また,平成25年に発表された杉山医師及び岸川禮子医師による論文では,後記認定のとおり,元 来アトピー素因の強い患者においては,既存のアレルギー疾患の活動性が亢進されると,コムギアレルギーの活動性も連動して亢進されてしまう可能性も示唆されたなどとしている。(乙ロB4,25)エ予後・治療法等(ア) 治療法等 a 相原道子教授らは,平成24年に発表した「「茶のしずく石鹸」使用 者に発症した小麦依存性運動誘発アナフィラキシー」と題する論文(甲B12)において,治療・管理につき,急性期には,血管確保・抗ヒスタミン薬・ステロイド薬・アドレナリン投与等の一般的な食物アレルギーないしアナフィラキシーと同様の治療を行い,長期的には感作源のコントロールが重要であるとしている。本件石鹸の使用 ,血管確保・抗ヒスタミン薬・ステロイド薬・アドレナリン投与等の一般的な食物アレルギーないしアナフィラキシーと同様の治療を行い,長期的には感作源のコントロールが重要であるとしている。本件石鹸の使用中止 とともに,WDEIAとしての症状誘発を予防するため,小麦摂取後の運動等は控えるべきであるのに加え,症状が誘発される運動の程度は症例により様々であり,病歴によっては,小麦の摂取自体を禁止すべきであるとの見解を示した。 b 平成25年6月に森田教授及び千貫医師は,「加水分解コムギによ る小麦アレルギー」と題する論文(乙ハB14)において,本件アレルギーの治療及び生活指導等につき,加水分解コムギ含有石鹸の中止が重要であることはいうまでもないが,他の患者指導は通常型WDEIAと同様に行っている旨の報告をした。 具体的には,①病歴上アナフィラキシーの既往のある患者で,小麦 の少量摂取や歩行などの軽作業の組み合わせでも発症する患者は,原則として小麦製品の摂取を禁止し,誤食による軽い症状出現に備えて抗ヒスタミン薬を処方するとともに,重篤な症状出現に備えるためにアドレナリン自己注射薬の処方も検討している,②病歴上アナフィラキシーの既往のない患者は,小麦製品の摂取禁止までは行わず,小麦 製品と運動やNSAIDs内服との組み合わせは避けるように指導し,軽い症状の出現に備えて抗ヒスタミン薬を処方することを内容とし,双方に共通して,上記医師らの施設では,1~3か月ごとに血清中小麦,グルテン特異的IgE抗体検査を中心に種々の検査を組み合わせて病勢の評価を行っている旨の報告を行った。 なお,森田教授及び千貫医師は,同論文において,多くの患者はI gE値の低下がみられ,現在では寛解例もみられるが,いまだ み合わせて病勢の評価を行っている旨の報告を行った。 なお,森田教授及び千貫医師は,同論文において,多くの患者はI gE値の低下がみられ,現在では寛解例もみられるが,いまだ少数であり,小麦アレルギーが寛解しても加水分解コムギに対するアレルギーの寛解には至っていない可能性もあり,今後の経過観察が重要であるとの見解も示した。 c 平成25年,国立病院機構福岡病院の杉山医師及び岸川禮子医師は, 「加水分解コムギによるコムギアレルギーの治療について」と題する論文(乙ロB25)において,本件アレルギーの2症例の臨床的な経過を踏まえて,本件アレルギーに関する治療方針につき,以下のとおり述べた。 まず,長期的には本件石鹸の使用を中止し,その上で詳細な問診を 行い,WDEIAと診断できれば,小麦摂取後,2~4時間は運動をしないことを指導するが,中には「食後に皿を運ぶ」,「トイレに行く」等のごく軽微な体の動きで症状が誘発される患者もおり,運動の組み合わせが無くても症状が誘発されている病歴を持つ場合は,小麦摂取自体を禁止した方が無難である。 小麦摂取の可否については,運動誘発が明らかで,症状が皮膚のみ,特異的IgE抗体価がクラス1以下との要件を全て満たす場合は,小麦摂取後の安静や鎮痛薬との併用を避けること等に気を付けること等を指導する。他方で,小麦摂取のみで症状が出現する,アナフィラキシー症状がある,ショックの既往がある,基礎疾患で鎮痛薬等を常 用している,特異的IgE抗体価がクラス2以上である,職業で小麦に接する環境にある場合には,小麦摂取を制限する又は摂取量を減らすように指導している。調味料に含まれる小麦についても,一般的には制限をしないが,個々の症例に E抗体価がクラス2以上である,職業で小麦に接する環境にある場合には,小麦摂取を制限する又は摂取量を減らすように指導している。調味料に含まれる小麦についても,一般的には制限をしないが,個々の症例に合わせた指導を要する。明らかな小麦製品だけでなく,ハンバーグや蕎麦のつなぎ,てんぷら等の衣等も 注意を要する。 投薬では,抗アレルギー薬の定期的な内服によりアレルギーが改善するとの報告はないため,抗アレルギー薬の定期的な内服は必ずしも必要ではないと考えるが,予防的な側面や精神的不安を和らげる意味で服薬を指示する場合がある。ショックの既往がある場合はエピペンの携帯を指示している。エピペンは1年ごとの更新が必要であるが, 検査結果と臨床症状から改善していると判断できる症例に関しては,更新せずに経過をみていく症例もある。 (イ) 予後に関する知見a 本件アレルギーの予後については,鈴木慎太郎医師及び足立満医師による平成24年の「当施設で経験した加水分解コムギ含有石鹸の使 用後に発症した小麦アレルギー症例の臨床的特徴」と題する論文(甲B11)において,病態把握が十分でないため長期間の経過観察を要するとの指摘がされた一方で,本件製品事故が明るみになった早い段階から早期回復の可能性が指摘されていた。 例えば,平成23年12月に発表された,本件アレルギーの患者の 臨床経過等を調査した平郡真記子医師らの報告(乙イB1の3,乙ロB8,乙ハB7)では,本件石鹸の使用中止後3か月程度でグルテン特異的IgE抗体値の低下がみられるようになり,同値が陰性化した患者においては小麦摂取が可能になった者も存在する旨報告されている。また,太田理会医師及び矢上医師らによる平成24年5月の学 ルテン特異的IgE抗体値の低下がみられるようになり,同値が陰性化した患者においては小麦摂取が可能になった者も存在する旨報告されている。また,太田理会医師及び矢上医師らによる平成24年5月の学 会発表(乙ロB11)においては,平成23年11月現在までに確実例とされた35例につき,同時点において小麦・グルテンIgEは多くで低下傾向をみせ,20例については小麦摂取をしているが重篤な症状は誘発されていないとの報告がされた。 b 森田教授及び千貫医師は,平成23年末時点で本件アレルギーの治 癒可能性に言及していたところ,平成24年に発表した症例報告等に おいて,同教授らが経験した患者の多くは本件石鹸の使用中止と小麦製品の一部摂取制限により,小麦・グルテンに対する血清IgE値が徐々に低下してきており,好塩基球活性化試験においても同様の経過がみられること,軽症例では小麦摂取後に運動をしても症状がみられなくなった例もあるとし,本件アレルギーは治る可能性のあるFDE IAといえるとの見解を明らかにした。同教授らは,同年に発表した「皮膚アレルギー疾患の診断に必要な基礎知識」という論文でも,食物負荷試験ではアナフィラキシー誘発の危険性があるとしつつ,本件アレルギーの患者の臨床経過として,小麦製品の摂取自体は解除しても特に問題は生じていない者もいるとの知見を明らかにした。 同教授らは,平成25年に発表した論文,学会発表においても同旨の見解を述べており,同年に発表した「加水分解小麦成分入り化粧品による眼瞼浮腫」と題する論文(乙ロB20)においても,本件アレルギーの症例に係る患者の小麦・グルテン特異的IgE値が経時的に改善してきていることが判明したため,徐々に制限を解除し,同時点 で よる眼瞼浮腫」と題する論文(乙ロB20)においても,本件アレルギーの症例に係る患者の小麦・グルテン特異的IgE値が経時的に改善してきていることが判明したため,徐々に制限を解除し,同時点 では運動や消炎鎮痛薬との組み合わせを避ければ小麦製品の摂取を許可しており,症状の再燃はないと報告した。また,同教授らは,「加水分解コムギによる経皮感作で発症した小麦アレルギー」との論文(乙ハB10)において,本件石鹸の使用中止とともに患者の血清中の小麦・グルテン特異的IgE値は急速に低下し,半数以上の患者で 陰性化が生じ,通常型のWDEIAにおいてなかなか抗体値が下がらないのとは対照的であることに言及した。 この頃に公表されたと考えられるインターネット上での森田教授による解説記事でも,本件アレルギーの病態に続いて,その予後等について説明がされており,通常の経口摂取を感作経路とする小麦アレ ルギーの場合,小麦製品の摂取を完全に避けることは難しいため,I gE抗体値が下がりにくいのに対し,本件アレルギーの場合,本件石鹸の使用中止によりIgE抗体値が徐々に改善し,小麦製品を食べても反応しにくくなると考えられる旨説明されている。 (以上につき,乙イB1の2,4,乙ロB6,19,20,22,乙ハB10,11) c 平成24年11月に横浜市立大学付属市民総合医療センターの医師らが行った報告(乙ハB9)では,本件アレルギーと診断された11症例につき,同報告時点で小麦除去を継続している症例は2例,小麦摂取可能な症例が8例であるなどとし,結論として,多くの症例で本件石鹸の使用中止により小麦アレルギー症状の軽快傾向を認め,検 査値についても改善傾向を示したとしている。ただし,上記2例は現在も小 可能な症例が8例であるなどとし,結論として,多くの症例で本件石鹸の使用中止により小麦アレルギー症状の軽快傾向を認め,検 査値についても改善傾向を示したとしている。ただし,上記2例は現在も小麦を除去しており,今後も注意深い検討が必要ともしている。 d 平成25年11月に開催された日本アレルギー学会のミニシンポジウムでは,本件アレルギーの予後に関して,以下の内容の報告がされた(乙イ総C2,乙ロB23)。 ⒜ 「特別委員会報告:グルパール19による経皮感作コムギアレルギー全国疫学調査結果からみえてきたこと」(松永委員長)同時点までの全国疫学調査の結果によれば,石鹸使用中止後3年以上経過している症例207例の中で87%は小麦を摂取しており,摂取しても51%は症状がないと答えていた。 ⒝ 「加水分解コムギ含有石鹸によるコムギアレルギー57例の予後調査」(佐野晶代医師,矢上医師ら)57症例(男性1例,女性56例)を対象とした,小麦摂取状況の調査,SPT,小麦,グルテン及びグルパール19S(ELASA法)sIgEの測定を行った結果として,初診時グルパール19 SsIgEが100unit 以上の症例は9例あり,全例,診断時には 本件石鹸の使用を中止していたが,平成25年6月現在,重症度に限らず42例は小麦製品を摂取しており,2例で小麦摂取後に腹痛を認めた以外に重篤な症状は誘発されていない。また,全例につき,小麦,グルテンのIgE抗体値は低下傾向で,32例では陰性化していること,グルパール19Sの値も徐々に低下傾向であり,43 例は20unit 未満であるが,現在も100unit 以上の症例が3例あり,うち2例は小麦製品を摂取しても問題 32例では陰性化していること,グルパール19Sの値も徐々に低下傾向であり,43 例は20unit 未満であるが,現在も100unit 以上の症例が3例あり,うち2例は小麦製品を摂取しても問題はなく,1例は摂取していない。結論として,当該アレルギー患者は臨床症状,SPT,sIgEともに軽快傾向であり,いずれは治癒する可能性が示唆された。 e 平成25年に発表された杉山医師及び岸川禮子医師による「加水分解コムギによるコムギアレルギーの治療について」と題する論文(乙ロB25)では,本件アレルギーの予後につき,本件アレルギーは感作原となった石鹸の使用を中止後,当該石鹸に使用されていたグルパール19Sに対する特異的IgE抗体価が低下した症例もみられた ことから,従来のコムギアレルギーとは異なり,寛解する可能性があると指摘する。 もっとも,実際の症例の臨床経過をみると,何の問題もなく小麦摂取が可能となった症例はまだ少なく,石鹸の使用を中止により小麦やグルテンの抗体価が下がるとしても,その低下の程度には個人差があ るとする。更に,同論文で検討した2症例をみると,血清学的にコムギ,グルテンの特異的IgE抗体価は陰性となっても,臨床症状の改善が非常に緩やか(症状がなくならない)こともあり,元来アトピー素因の強い患者で既存のアレルギー疾患の活動性が亢進されると,コムギアレルギーの活動性も連動して亢進されてしまう可能性も示唆 されたとする。 f 平成27年5月26日,日本アレルギー学会において加水分解コムギたんぱくによる食物アレルギーをテーマとしたミニシンポジウムが開催され,本件アレルギーにおける本件石鹸の使用中止後の経過,今後予想される予後,また難治例の治療と対策等について以下のような報告がさ ギたんぱくによる食物アレルギーをテーマとしたミニシンポジウムが開催され,本件アレルギーにおける本件石鹸の使用中止後の経過,今後予想される予後,また難治例の治療と対策等について以下のような報告がされた(乙イ総C6,乙ハB21)。 ⒜ 「茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギによる即時型コムギアレルギー患者の現状把握と治癒率の推定」(平郡真記子,平郡隆明ほか)広島大学医学部附属病院皮膚科を受診した本件アレルギーの患者110名にアンケートを行い,46名から回答を得た結果,治癒 例は11名(23.9%),鎮痛剤や運動との併用を避けながら小麦を摂取していた者が29名(63%)で最も多く,これらの結果等からカプランマイヤー法で治癒率を推定したところ,1年20%,2年9.2%,3年17.2%,4年21.4%であった。 本件アレルギーは石鹸の使用中止後,治癒した者もいるが,一部 では症状が持続している患者もおり,多くの患者は未だ何らかの小麦摂取制限をしている。 ⒝ 「加水分解コムギ末(グルパール19S)含有石鹸による小麦アレルギー55例の臨床経過」(松永委員長ほか)確実例55例を対象とした皮膚テスト,IgE抗体価の測定を行 ったところ,平成26年12月現在,35例は小麦を摂取しても症状誘発を認めず,11例は摂取後に蕁麻疹や眼瞼腫脹が誘発されるがいずれもグルパール19SのsIgEは20未満である。初診時グルパール19SのsIgEが100unit 以上の症例は9例あり,現在でも20unit 以上の症例は7例ある。このうち2例は小麦摂取 を避けているが,その他は摂取しても症状の誘発はない。 本件アレルギー患者は抗原の曝露を回避することに ,現在でも20unit 以上の症例は7例ある。このうち2例は小麦摂取 を避けているが,その他は摂取しても症状の誘発はない。 本件アレルギー患者は抗原の曝露を回避することにより治癒する可能性が示唆された。 ⒞ 「グルパール19Sによる即時型小麦アレルギー患者350名の予後調査結果」(千貫医師,河野邦江ほか)厚労科研・森田班員施設にて追跡ができた350名の患者を対象 にカプランマイヤー法を用いた治癒曲線を作成し,本件石鹸の使用中止から略治までの期間の推定や因子解析を行った。その結果,略治期間の推定中央値は石鹸の使用中止から65.3か月であり,アナフィラキシーの既往があった症例,初診時の小麦未摂取症例,初診時にω―5グリアジンが検出された症例は治癒が遷延する傾向 がみられた。 本件アレルギーの多くは治癒傾向がみられるが,一部で遷延する傾向がある。 ⒟ 「グルパール19Sによる即時型コムギアレルギーの全国疫学調査およびELISA法GP19S特異的IgE抗体の推移」(松永 委員長ら)特別委員会による全国疫学調査の結果として,最終登録例2011例のうち,経過が確認できた192例中89%はコムギを摂取しており,グルパール19Sの特異的IgE抗体はほとんどの症例で経時的に減少していた。本件アレルギーは多くの症例で血清特異I gE抗体は減少しており,コムギ摂取できる症例が増加していた。 gIgE抗体値の陰性化の意味について森田教授らが平成25年に発表した「加水分解コムギによる経皮感作で発症した小麦アレルギー」と題する論文(乙ハB10)では,血清中小麦関連抗原特異的IgEが陰性化しても治癒と判定できるか どうか 田教授らが平成25年に発表した「加水分解コムギによる経皮感作で発症した小麦アレルギー」と題する論文(乙ハB10)では,血清中小麦関連抗原特異的IgEが陰性化しても治癒と判定できるか どうかは疑問であるとし,実際に同医師らが治療に当たった患者らの 中にはIgEが陰性化しても小麦製品の摂取により症状が誘発される症例を経験しているとする。 平成24年11月に相原道子教授らが発表した「「茶のしずく石鹸」使用者に発症した小麦依存性運動誘発アナフィラキシー」と題する論文(甲B12)においても,本件アレルギーの予後に関する一般的な 知見として,患者の小麦とグルテンに対する特異的IgE抗体価は本件石鹸の使用中止と小麦製品の一部摂取制限により徐々に低下することが知られており,軽症例では小麦摂取後に運動をしても症状が見られなくなった例も報告されてり,全体的にIgE抗体価は低下傾向をたどるものの,抗体が陰性化しても誤食や少量摂取により症状が誘 発された例もあり,個々の症例で慎重な検討が必要であるとされている。 また,平成26年に国立病院機構福岡病院の杉山医師らが発表した「小麦運動負荷試験を行った加水分解コムギによる即時型コムギアレルギーの確診例41例の臨床的検討」と題する論文(甲B15)で は,要旨以下の見解が述べられている。 すなわち,本件アレルギーの確診例41例を対象に小麦運動負荷試験等を実施した結果,小麦・運動負荷で32例(78%),アスピリン前負荷・小麦・運動負荷で7例(17%)が誘発され,計39例(95%)が陽性となった反面,運動負荷のみでは誘発された症例はなか ったなど,小麦運動負荷試験は非常に高い各位確率で確実に即時型小麦アレルギーの診断が可能であ (17%)が誘発され,計39例(95%)が陽性となった反面,運動負荷のみでは誘発された症例はなか ったなど,小麦運動負荷試験は非常に高い各位確率で確実に即時型小麦アレルギーの診断が可能であり,同試験による診断が推奨される。 ただし,同試験はアナフィラキシーを起こす危険性の高い検査であるため,安全性の確保が必須である。 他方で,小麦運動負荷試験では陽性であった39例のうち,特異的 IgE抗体価の結果を見ると,11例では小麦・グルテンともにクラ ス0であったことなどを踏まえれば,血清学的検査により特異的IgE抗体値が陰性であったとしても,本件アレルギーを否定できるものではないことを示している。現在,小麦やグルテンの血清中特異的IgE抗体の測定値が本件アレルギーの診断に関する指標の一つになっているが,係る結果によれば,血清中特異的IgE抗体価のみで判 断をすることは危険が大きいと思われる。 オオマリズマブ投薬による治療の可能性(ア) オマリズマブ(ゾレア)の概要・本件アレルギー治療への応用可能性a 概要オマリズマブとは,ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体のこと をいい,既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者にのみ保険適用が認められる気管支喘息治療薬である。作用機序は,喘息ではIgE抗体のCε3(受容体結合部位)がマスト細胞上にある高親和性受容体(FcεRⅠ)に結合し,そこに抗原が架橋して炎症性メディエーターが放出されるところ,オマリズマブは遊離性 IgE抗体のCε3に結合し,IgE抗体とFcεRⅠの結合を阻害することで炎症性メディエーターの放出を抑制するとされている。 オマリズマブ(遺伝子組換え)注射用凍結乾燥製剤であ IgE抗体のCε3に結合し,IgE抗体とFcεRⅠの結合を阻害することで炎症性メディエーターの放出を抑制するとされている。 オマリズマブ(遺伝子組換え)注射用凍結乾燥製剤であるゾレアの添付文書(甲総C4)によれば,同剤は気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る。)及び特異 性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果不十分な患者に限る。)を対象としている。重要な基本的注意として,本剤の投与によりショック,アナフィラキシーが発言する可能性がある旨指摘されているほか,本剤の投与中止により通常遊離性IgE濃度及び症状は治療前の状態に戻るとされている。副作用は,国内で成人気管支喘息患者を対象として実 施された臨床試験284例中134例(47.2%)に認められ,主 な臨床症状は,注射部紅斑,掻痒感,腫脹,疼痛,熱感のほか,蕁麻疹,倦怠感等が報告されている。また,重要な副作用として,気管支痙攣・呼吸困難・血圧低下・失神・蕁麻疹・舌浮腫・口唇浮腫・咽喉頭浮腫等のショック,アナフィラキシーが頻度不明で生じるとされ,投与後は観察を十分に行い,以上が認められた場合は投与を中止し, 直ちに適切な処置を行うよう指示されている。 (以上につき,甲総C4,乙ハA126)b 本件アレルギー治療への応用可能性理論上,オマリズマブは,遊離性IgE抗体のCε3に結合し,IgE抗体とFcεRⅠの結合を阻害する作用をもつため,本件アレル ギーの発現の抑制にも効果が期待でき,本件アレルギーは本件石鹸の使用を中止すれば時間の経過で治っていくものであるため,オマリズマブの投与により症状をおさえれば治癒に導ける可能性がある。また,オマリズマブでIgE抗体を中和しても でき,本件アレルギーは本件石鹸の使用を中止すれば時間の経過で治っていくものであるため,オマリズマブの投与により症状をおさえれば治癒に導ける可能性がある。また,オマリズマブでIgE抗体を中和してもリンパ球は寿命が長く,新たなIgE抗体を作り続けるため,オマリズマブの投与を中止しその効 果がなくなればアレルギー状態が戻ることが考えられるが,IgE抗体を作り出すリンパ球の寿命が来るまでオマリズマブ投与による中和を続ければ,アレルギーは治ると考えることができる。 (乙ハA126,143)(イ) オマリズマブ投薬治療の臨床試験の実施とその結果 a 平成26年7月22日,NPO法人生活習慣病予防研究センターは,森田教授らの研究グループとともに,本件アレルギーの治癒遷延症例を対象とした抗IgE抗体療法に関する臨床試験を開始した。同研究は,本件アレルギーの患者の多くは症状が改善傾向にあり,3割程度はほぼ治癒といってよい状態にある一方,依然として症状がみられ, 小麦の摂取を控えている患者も一部にみられることから,そのような 遷延症例を対象として,重症の気管支喘息の治療に利用される抗IgE抗体を用いた治療法の有効性について検討するものとされた。 具体的には本件アレルギーを発症し,当該時点でアレルギー症状がみられる患者あるいは数値が高く小麦製品の摂取を控えている患者を対象に,オマリズマブを4週毎に3回皮下注射し,治療後3か月に わたって血液検査を行い,アレルギー状態を評価するというものであった。 当時,オマリズマブは重症の気管支喘息にのみ保険適用され,同研究を進めるに当たり,患者には数万円から100万円程度の治療費の私費負担が予想されたところ,被告ら3社がそれぞれ166 。 当時,オマリズマブは重症の気管支喘息にのみ保険適用され,同研究を進めるに当たり,患者には数万円から100万円程度の治療費の私費負担が予想されたところ,被告ら3社がそれぞれ1666万66 67円ずつ合計5000万0001円の寄付金を拠出し,NPO法人生活習慣病予防研究センターが同資金を管理して研究を進めることとされた。 (以上につき,乙ハA126)b 臨床試験の結果 ⒜ 平成29年6月,鼻岡佳子医師らは,小麦製品の摂取を制限している本件アレルギー患者4例に対し,オマリズマブを4週間ごとに計12回投与し,反応性の変化を観察した試験において,4例中3例はオマリズマブ投与中に小麦制限を全解除でき,小麦を含む食品を安全に食べることができており,同試験により,難治性の小麦ア レルギー患者に対して抗IgE抗体は過敏性を改善する効果があることが示唆され,今後治療中止後の長期予後についての検討が必要との学会報告を行った(乙ハA158)。 ⒝ 千貫医師らは,平成30年5月,本件アレルギー患者12例に対し,オマリズマブ投与を1年間継続し,その後6か月経過観察を行 ったところ,プロトコルを完遂できた11名のうち,8名は小麦摂 取制限を全解除でき,3名は部分解除となったとの結果を得,オマリズマブの長期投与により小麦摂取が可能となり,投与後多くの症例で治癒を見たとの学会報告を行った(乙ハB28)。 なお,千貫医師らは,上記試験を通常の小麦アレルギー患者8例に対しても実施したところ,当該症例においても好塩基球活性化試 験の反応性の低下がみられ,小麦製品の制限摂取を解除できた。森田教授はこのことから,通常の食物アレルギーに対してもオマリズ 患者8例に対しても実施したところ,当該症例においても好塩基球活性化試 験の反応性の低下がみられ,小麦製品の制限摂取を解除できた。森田教授はこのことから,通常の食物アレルギーに対してもオマリズマブ投与の効果が期待できる旨の見解を述べている。(乙ハB23,乙ハA160)(ウ) 片山基金を活用したオマリズマブ適用外治療の開始 平成29年5月15日,島根大学医学部附属病院医療安全委員会は,本件アレルギーの治療を目的としたオマリズマブ皮下注射の適用外使用を承認し,同大学において,オマリズマブ投与による治療が開始された。 同治療は,平成29年4月から平成32年3月までの間,オマリズマ ブを2~4週間ごとに計3回皮下注射し,その後小麦製品の摂取を行うという内容で実施されることとなり,被告片山化学が拠出した加水分解コムギアレルギー治癒遷延例の治療基金(片山基金)が費用負担をするもの(ただし,通常の診察費用は加入している健康保険の規定に従った自己負担分を支払う。)とされている。同治療には,ショック,アナフィ ラキシー等の副作用が現れる可能性があるものの,副作用も保険診察として治療し,後遺症などに対しては本治療のために加入する臨床研究保険の条件の範囲内で補償が受けられる。(乙ハA156,157)(10) 本件アレルギーの発生の認識可能性に関する知見ア皮膚のバリア機能に関する知見 (ア) 皮膚に関する一般的知見 a 皮膚は,ヒトの生体の中で外界に接する最外層の臓器であり,単に人体を包む皮袋ではなく,生体内部の生命活動が環境の影響から乱されることなく,いつも一定条件で行われるように保つ働き,つまり生体の防衛器官として重要な働きをしている。 皮膚は,外から内へ,上皮組織で 体を包む皮袋ではなく,生体内部の生命活動が環境の影響から乱されることなく,いつも一定条件で行われるように保つ働き,つまり生体の防衛器官として重要な働きをしている。 皮膚は,外から内へ,上皮組織である表皮,結合組織である真皮, 脂肪組織である皮下脂肪という3つの組織から成り立っている。真皮や皮下脂肪は知覚神経,皮膚のハリ,体温調節,クッションという役割を果たしているが,生体の防衛器官としての働きを担っているのが表皮の中でも一番表面にある角層と呼ばれる層であり,その厚さは20ミクロンほどである。角層は人体から落ちる垢からできた膜である が,生命活動において不可分な水分の蒸発を防ぎ,細菌やウイルスの侵入を防ぐバリア機能という生体防御器官としての重要な役割を果たしている(乙イA10〔平成19年〕)。 b 皮膚のバリア機能は主に角質層(セラミドに代表される角層間脂質や天然保湿因子)やその表面を覆う皮脂膜により担われており,それ らが正常に機能する限り,体内からの水分の喪失を防いだり,外界からの様々な刺激や物質の侵入を防いだりしている。しかし,このようなバリア機能が破壊された皮膚では,水分が失われ,またアレルゲンを始めとする物質や様々な刺激の侵入を許してしまう。 アトピー性皮膚炎(Atopicdermatitis,AD)は幼小児期に始まり, 寛解と憎悪を繰り返しながら慢性に経過する湿疹を主体とした皮膚炎群であり,非常に強力な痒みを伴うのも特徴的で,その病態は主として外来より侵入してくる抗原(食物,ダニ,フケ,細菌や真菌)に対するアレルギー反応(免疫学的異常)とアトピックドライスキンに代表される皮膚バリア機能異常の二元論的に考えられている。つまり, AD患者は,抗原や様々な刺激が侵入しや ,フケ,細菌や真菌)に対するアレルギー反応(免疫学的異常)とアトピックドライスキンに代表される皮膚バリア機能異常の二元論的に考えられている。つまり, AD患者は,抗原や様々な刺激が侵入しやすい肌質と,それらに対し て過敏に反応しやすい体質を持っていると考えられる。 AD患者の皮膚は乾燥を呈していることが多く(これをアトピックドライスキンと呼ぶ。),そのような皮膚では抗原や刺激の侵入を許しやすくなり,そのために湿疹の発症,悪化,痒みの誘発がされ,更に皮膚バリアの破壊につながるという悪循環的作用が働く結果,難治性 の病態を形成していると考えられている。 (以上につき,甲B3〔平成16年6月〕)(イ) 500Daルールa 概要平成12年頃,アムステルダム大学医療センター皮膚科に属するJ. D.ボス及びM.M.H.M.メイナルディは,化学化合物や医薬の皮膚浸透(皮膚透過)に関する,いわゆる「500Daルール」を提唱した。 ヒトの皮膚が持つ主な性質は,物理的・化学的バリア機能であり,その構造は多くの分子に対して透過(浸透)耐性である一方,小さい 分子は主要な透過妨害構造である角質層を通り抜けて皮膚を透過することができることが知られていた。 この点,ボスらは,ヒトの皮膚外用化合物の開発上の便宜のため,ヒトの皮膚バリアを透過して吸収され得る物質の分子量の上限を明らかにするという観点から,①主要な接触アレルゲンは事実上全て5 00Da未満の分子量であり,それよりも分子量が大きい接触感作物質は知られていないこと(すなわち,大きい分子は皮膚を透過できず,ヒトに対するアレルゲンとして働けないこと),②皮膚外用治療において最もよく使用されている薬剤はいずれも500Da未満の分子量であること, られていないこと(すなわち,大きい分子は皮膚を透過できず,ヒトに対するアレルゲンとして働けないこと),②皮膚外用治療において最もよく使用されている薬剤はいずれも500Da未満の分子量であること,③経皮薬物送達系で使用される既知の皮膚外用薬はい ずれも500Da未満の分子量であること等を論拠に,化合物が経皮 吸収されるためには,その分子量が500Da未満でなければならないこと,つまり,500Daよりも大きい分子は角質層を透過することができない,という内容を500Daルールと名付けて提唱し,皮膚外用治療や経費全身治療又は経皮ワクチン接種を目的として医薬関連の新規化合物を開発する場合には,分子量を500Da未満に抑 えることが推奨されるとの見解を明らかにした。 (以上につき,乙イA11の1ないし3)b 内容ボスらの論文(乙イA11)によれば,500Daルールの詳細は以下のとおりである。 ⒜ ヒトの皮膚機能及び500ダルトンルールの意義ヒトの皮膚は物質や生物に対する防御器官として機能しており,何らかの化合物が体外から体内に透過(浸透)しようとする場合,表皮にある角質層がその透過を妨げている。角質層は,表皮角化細胞(ケラチノサイト)がアポトーシスして生じたリポたんぱく質含 有エンベロープ(ケラチンに富む)と脂質二重膜(親水性部分を内側に持つ)から成っており,その厚さは数マイクロメートルほどである。角質層バリアは疎水性であり,水溶性分子よりも脂質性分子の浸透の方が容易であると考えられているが,脂質二重層は親水性部分も持ち,この部分は強親油性の化合物の透過を妨げると考えら れている。水溶性分子は角質層以外に汗腺口及び毛嚢口を通って皮膚を透過し得る 方が容易であると考えられているが,脂質二重層は親水性部分も持ち,この部分は強親油性の化合物の透過を妨げると考えら れている。水溶性分子は角質層以外に汗腺口及び毛嚢口を通って皮膚を透過し得るが,それらの開口部は皮膚表面積の0.1%にすぎず,重要性は低いと推察される。 角質層の透過耐性を乗り越えるためには,超音波や高電圧パルス等を用いて角質層を破壊する方法しかなく,その余の方法も実証的 な効果がないとされているか,治療現場における実用性を欠いてい る状況である。 他方で,皮膚は比較的小さい分子量の侵入を防ぐことはできないとされており,500Daルールは,ヒトの皮膚バリアを透過して吸収され得る化学化合物や医薬の分子量の上限を示すものであり,局所治療から全身治療やワクチン接種まで,様々な用途のヒト皮膚 外用化合物の開発に有用な視座を提供するものである。 ⒝ 論拠ⅰ 皮膚アレルギー学的検討ある物質が皮膚バリアを透過したことによって感作が生じ,アレルギー接触皮膚炎は発症すると考えられているところ,接触性 アレルギーの原因となる物質の分子量を考察することにより,どのような分子サイズであれば皮膚バリアを透過するのかにつき手掛かりを得ることができるものと考えられる。そこで,接触性アレルギーの診断に用いられている国債接触皮膚炎研究班(ICDRG)推奨の標準パッチテストシリーズに登載された各化合物 の分子量を調べたところ,主要アレルゲンの大多数は分子量が500Da未満であった。硫酸ネオマイシンは例外的に分子量712であったが,ネオマイシン分子はネアミン分子(分子量322)2個からなる二重体であるため,ネアミンモノマーが感作 ゲンの大多数は分子量が500Da未満であった。硫酸ネオマイシンは例外的に分子量712であったが,ネオマイシン分子はネアミン分子(分子量322)2個からなる二重体であるため,ネアミンモノマーが感作因子となっている可能性も十分ある。 ⅱ 皮膚科治療で最もよく使用される皮膚外用薬の分子量世界的によく用いられている外用抗真菌薬,外用コルチコステロイド,外用抗感染薬といった皮膚外用薬12種の分子量を調査したところ,その多くは分子量500Da未満であり,例外的な2つの外用薬も分子量517,531にとどまっていた。 ⅲ 経皮薬物送達系で強い要される薬物の分子量 パッチを用いて経皮薬物送達系に使用される医薬7種類の分子量はいずれも500Da未満(350Da未満)であった。 ⅳ 外用免疫抑制剤(シクロスポリン)に関する知見による裏付け皮膚病治療用の全身投与薬として登場したシクロスポリン(分子量1202Da)は,外用治療への有効性が目されたが,その 後,外用しても効果が無い反面,病変内注射した場合には有効性を示すとの知見が明らかになった。これは分子量の大きさゆえに十分な皮膚浸透が妨げられているためと考えることができる。他にも,タクロリムス(822Da)やアスコマイシン誘導体SDZ-ASM-981(811Da)につき,外用した場合に有効 との明確な知見はない。 もっとも,これらの薬品はアトピー性皮膚炎に外用した場合には有効であり,アトピー性皮膚炎患者は皮膚のバリア機能に欠損が存在しているために,分子量が大きくとも経皮吸収されるのだろうと考えることができる。 ⒞ 反論 膚炎に外用した場合には有効であり,アトピー性皮膚炎患者は皮膚のバリア機能に欠損が存在しているために,分子量が大きくとも経皮吸収されるのだろうと考えることができる。 ⒞ 反論・例外則について皮膚がラテックスに曝露されることによって生じ,接触性蕁麻疹や接触皮膚炎の症状を引き起こすラテックス・アレルギーについては,高分子量分子により感作が生じると考えられている。しかし,IgE分子やT細胞レセプターが認識できるのは大きい分子では なく,通常は6~8アミノ酸の誘導体であるペプチドエピトープのみであって,高分子量分子が皮膚を透過して発症するのではなく,皮膚表面のプロテアーゼによってラテックスたんぱく質が分解されて生成した小ペプチドが皮膚バリアを透過してアレルギー反応を引き起こしているか,免疫原化合物となる小分子が元々ラテック ス中に含まれている可能性により説明することができる。アレルギ ー顕出のために同様な高分子を皮膚外用するアトピーパッチテストや,スーパー抗原を用いた皮膚感作試験についても同様に説明することができる。 500Daルールは,正常なヒト皮膚においては分子量が500を超えると経皮吸収が急速に低下することを示すものであるが,透 過バリアをつくっている角質層が存在していない粘膜や,アトピー性皮膚炎患者のように角質層が正常でない皮膚については,分子量が500を超える物質でも体内への浸透が生じる。 (ウ) ランゲルハンス細胞による外来抗原の取り込みに関する研究平成21年12月11日,久保医師らは,マウスを使った皮膚のバリ ア構造に関する実験結果を踏まえ,活性化したランゲルハンス細胞がタイトジャンクションを貫通して樹状突起を伸ばし,外来抗原を取り込んでいるとの見解を発表 久保医師らは,マウスを使った皮膚のバリ ア構造に関する実験結果を踏まえ,活性化したランゲルハンス細胞がタイトジャンクションを貫通して樹状突起を伸ばし,外来抗原を取り込んでいるとの見解を発表した。 平成23年,久保医師は,「皮膚バリアとランゲルハンス細胞の動態」と題する論文を公表し,その中で以下の見解を明らかにした。 陸生脊椎動物の皮膚の構造は,表皮・真皮・皮下組織の大きく3つからなる点でほぼ共通している。最外層の表皮はケラチノサイト(表皮細胞)により構成される重層上皮組織であり,表面から角質層,顆粒層,有刺層,基底層に分けることができる。そして,表皮のもっとも外側にある角質層は角化脱核した角質細胞とその細胞間を埋める角質細胞間 脂質によって構成されるバリア構造をとっており,内部の細胞を乾燥や外力による障害から守っている。角質層の内側の顆粒層は扁平化したケラチノサイトが複数積み重なってできた層であり,その間にタイトジャンクション(以下「TJ」という。)が存在し,細胞間を通る物質移動を制限するバリアを形成している。これにより,表皮の細胞外液性環境を タイトジャンクションバリアの外側と内側の2つのコンパートメント に分割している。顆粒層の下の有刺層はデスモソームの発達したケラチノサイトが重層する層であり,ランゲルハンス細胞と呼ばれる表皮内樹状細胞が散在している。以上のとおり,ヒトの皮膚には角質層とTJという2つのバリアが存在している。皮膚に存在する抗原取得細胞は,表皮内に存在するランゲルハンス細胞と真皮に存在する真皮樹状細胞の 2種類がある。これらの細胞はいずれも角層とTJからなる皮膚表皮のバリアの内部に存在しており,バリアの外部に存在する抗原をどのように補足するかは明らかでなかった。 皮に存在する真皮樹状細胞の 2種類がある。これらの細胞はいずれも角層とTJからなる皮膚表皮のバリアの内部に存在しており,バリアの外部に存在する抗原をどのように補足するかは明らかでなかった。 久保医師らは,マウスを用いた実験により,活性化したランゲルハンス細胞がバリア構造を破壊することなく,TJの外部に樹状突起を進出 させ,たんぱく質を取り込む様子を確認し,角質バリアの脆弱化により角層を通過して侵入したものの,TJバリアを通過できないようなサイズの大きいたんぱく質抗原を,活性化したランゲルハンス細胞がTJバリアの外側で抗原取得している可能性を示した。 (以上につき,乙B16の18) イラックによる仮説(二重抗原曝露仮説)の提唱(ア) 概要平成15年頃,英国の医師であるデギオン・ラックらは,児童のピーナッツアレルギーの有病率が上昇している原因を探究する目的の下,英国南西部のエイボン保険医療地区に在住する妊婦に対し問診等を行い, その後出産された就学前児童1万3971人を対象とした研究調査の結果に基づき,児童に発症するピーナッツアレルギーにつき,ピーナッツオイルを児童の皮膚炎症部に塗布することでピーナッツたんぱく質に対する感作が成立し得るとの仮説を提唱した。 (イ) 内容 ラックらの調査結果に基づく考察内容は以下のとおりである。 考察の前提となる調査は就学前児童のコホートを対象に二重盲検の食物負荷試験(プラセボ対照)によってピーナッツアレルギーの確診を行ったところ,アレルギー発症と重要な関連性をもつ要因として,家族歴,児童自身の大豆摂取,湿疹の早期発症,滲出液と痂皮とを伴う発疹及びピーナッツオイルを含有する外用調剤の曝露が明らかになっ の確診を行ったところ,アレルギー発症と重要な関連性をもつ要因として,家族歴,児童自身の大豆摂取,湿疹の早期発症,滲出液と痂皮とを伴う発疹及びピーナッツオイルを含有する外用調剤の曝露が明らかになった。 従来,ピーナッツアレルギーのリスク因子として,家族歴及びアトピーは知られていた。今回の調査結果によれば,妊娠中の母体によるピーナッツ摂取との関連性は認められず,臍帯血中にピーナッツ特異的IgEが検出されなかったこと等から,胎内感作や経母乳感作は生じていないと考えられた。児童による大豆摂取は,ピーナッツアレルギーとの関 連性を示したが,大豆たんぱく質画分がピーナッツたんぱく質と免疫的相同性を有することが過去に示されていることからすると,交差反応を生じているためと説明することができる。一方で,ピーナッツアレルギーの発症以前に大量のピーナッツを摂取した児童は見受けられなかったこと,おむつ発疹,湿疹,乾燥肌及び皮膚の炎症性状態を治療するた めの皮膚軟化薬を使用していた児童等についてアレルギー発症との有意な関係性が認められたことに照らすと,皮膚炎症部が少量のピーナッツ抗原に曝露されるとアレルギー感作が生じる,との仮説を提唱することができる。 検討の結果,ピーナッツアレルギー発症の決定要因は,家族歴,滲出 液と痂皮とを伴う発疹の既往(アトピー),大豆たんぱく質への曝露,そしてピーナッツオイルを使用した調剤の外用ではないかと推察される。 この結果は,食物アレルゲンに対する感作経路が経口感作ではなく,経皮感作であることを示すものでもある。 また,湿疹の憎悪には食物が重要であることが過去に報告されている が,今回の検討結果からは,ピーナッツに対するアレルギー感作が皮膚 の炎症性環境によって促進されるとい ある。 また,湿疹の憎悪には食物が重要であることが過去に報告されている が,今回の検討結果からは,ピーナッツに対するアレルギー感作が皮膚 の炎症性環境によって促進されるという逆の因果関係が示唆された。 (以上(ア),(イ)につき,乙イB19,乙ロB21)ウ海外での症例報告(ア) 平成12年3月,E.Varjonenらによって,アトピーの既往や家族歴のない27歳の女性が,加水分解コムギを含む保湿ボディーク リームを使用し続けたところ,塗布後まもなく掻痒性,紅斑性,蕁麻疹様の発疹が生じるようになり,時の経過とともに次第に発疹が強く生じるようになったという症例1例について,化粧品中の加水分解コムギに感作し,IgEの介在する即時型接触性蕁麻疹を発症したものとする症例報告(Allergy2000:55:294-295 Casereport 「immediatecontact allergyfromhydrolyzedwheatinacosmeticcream」E.Varjonen ほか。 甲B7の報告)がされた。その内容は以下のとおりである。(甲B7の1・2)a 症例報告患者は製品を使い続けたところ,次第に発疹を生じるようになった。 患者の前腕の掌側の正常な皮膚に製品のオープン塗布試験を実施したところ,広範な膨疹,潮紅反応を認めた。そして,一般的な吸入性アレルゲン,小麦を含む穀物粒の市販プレパレーションや,化粧品に用いられている植物及び動物由来の21項目のたんぱく質アレルゲン(鶏卵,牛乳,ミルクカゼイン,アーモンド,シルクプロテイン, アロエゲル,パパイヤ果肉,加水分解コラーゲン)による皮膚プリック試験を実施したところ,同試験は陰 21項目のたんぱく質アレルゲン(鶏卵,牛乳,ミルクカゼイン,アーモンド,シルクプロテイン, アロエゲル,パパイヤ果肉,加水分解コラーゲン)による皮膚プリック試験を実施したところ,同試験は陰性であったが,42項目の成分からなる製品を用いた皮膚プリック試験では,加水分解コムギたんぱく質に対してのみ陽性反応を示し,仮足形成を認めた。反応機序を解明するため,患者の血清の特異的IgE抗体を調べたところ,患者の 血清からの特異的IgE結合は小麦加水分解物についてのみ認めら れ,他方,市販の小麦粉RASTは陰性であった。 b 考察これまでにヘアコンディショナーに含まれるコラーゲン加水分解物が免疫性接触性蕁麻疹を引き起こすとの研究は存在したものの,本症例は,化粧品中の加水分解コムギがIgEの介在する即時型接触性 蕁麻疹を誘発させた最初の報告である。当該症例によれば,天然由来たんぱく質やその加水分解物はIgEが介在するアレルギー反応を生じさせ得るものであるといえるが,その出現頻度は不明であり,機序についても,小麦たんぱく質を加水分解する際にどのような理由により加水分解物がアレルゲンとして作用できるようになったのかは 不明であり,加水分解の際に新しいエピトープが出現した可能性や使用した添加物(酵素等)がアレルゲンとして作用した可能性がある。 ただし,製品使用以前に感作が生じている可能性については,初回塗布の時点で即時性の反応が観察されていないことから,製品により感作が生じた可能性が高い。また,接触性蕁麻疹の症状は,かゆみと発 赤から広範な蕁麻疹反応まで様々であり,中には全身症状を伴う場合もあり,稀ではあるがアナフィラキシーに至る場合もある。当該症例が奇妙なのは,患者にアトピーの既往や家族歴が 症状は,かゆみと発 赤から広範な蕁麻疹反応まで様々であり,中には全身症状を伴う場合もあり,稀ではあるがアナフィラキシーに至る場合もある。当該症例が奇妙なのは,患者にアトピーの既往や家族歴が無かったこと及び小麦に対するプリック試験と血清を用いた試験のいずれにおいても結果が陰性であったことである。製品はオープン試験で強い陽性反応を 示したが,小麦加水分解物に対する試験では陰性のままであったところ,その原因は使用したオープン試験の面積が比較的狭かったことによるものと考えられる。 以上をまとめると,他に報告されているたんぱく質加水分解物に加え,加水分解コムギも即時型アレルギー性接触性蕁麻疹を生じさせる ものと思われる。最近では,スキンケア製品やヘアケア製品にたんぱ く質やその加水分解物が使われることが多くなってきているが,化粧品使用により生じ得る一般的な症状であるⅣ型接触性皮膚炎のほかに,即時型接触反応も生じる可能性があることを念頭に置くべきである。 (イ) 平成12年10月,JavierSanchez-Perezらに よって,64歳の非アトピーの主婦が,加水分解コムギを含んだ保湿クリームを2年間にわたって顔面と頚部に使用していたところ,使用中止の2か月前から眼瞼,顔面,頚部に痒み,紅斑,浮腫性の病変を生じたという症例1例につき,化粧クリーム中の小麦加水分解たんぱく質によりアレルギー性接触皮膚炎を生じた可能性があるとの症例報告 (ContactDermatitis2000:42:360「Allergiccontactdermatitisfromhydrolyzedwheatproteinincosmeticcream」JavierSanchez- :42:360「Allergiccontactdermatitisfromhydrolyzedwheatproteinincosmeticcream」JavierSanchez-Perezほか。甲B8の報告)がされた。その内容は以下のとおりである。(甲B8の1・2)a 症例報告 当該症例では,患者のクリーム使用を中止させ,外用ステロイド剤で治療を行ったところ,2週間以内に皮膚病変は軽快した。患者の所有していた化粧クリームやその成分のパッチ試験を実施したところ,硫酸ニッケルに対する陽性反応が生じ,また化粧クリームそのもの及びその成分の一つである小麦加水分解たんぱく質に対して陽性反応 が得られた。小麦加水たんぱく質10%水溶液を使って前腕の掌側でオープン試験を行ったところ,30分では陰性であり,パッチ試験でも34例の対象被験者で陰性であった。 b 考察たんぱく質加水分解物は,その保湿成分や毛髪にボリューム感を出 すとの効用から,クリームや石鹸,ボディソープ,ヘアコンディショ ナー等のスキンケア製品や整髪料に添加されている。これまで,ヘアコンディショナー中のたんぱく質加水分解物がアトピー性皮膚炎の女性患者に接触性蕁麻疹や結膜炎を生じさせた症例や,2名のパン職人に職業性皮膚炎が生じた症例が報告されているが,化粧クリームに含まれている小麦加水分解たんぱく質により接触性感作が生じたと の報告は存在していないと思われる。小麦加水分解たんぱく質は化粧品や整髪料に広く利用されており,本症例に鑑みれば,今後,これによる接触性感作が更に増加するものと思われる。 (ウ) 平成14年2月,CatherinePecquetらによって,46歳のアトピー女性は眼 利用されており,本症例に鑑みれば,今後,これによる接触性感作が更に増加するものと思われる。 (ウ) 平成14年2月,CatherinePecquetらによって,46歳のアトピー女性は眼瞼クリームとボディー保湿クリームを使用 していたところ,接触性蕁麻疹を生じたとする症例1例につき,小麦たんぱく質を含有する保存食品により誘発された全身性蕁麻疹に関連して化粧品中の加水分解コムギたんぱく質に対して蕁麻疹が生じたとの症例報告(contactDermatitis 2002:46:123 「Istheapplicationofcosmeticcontainingprotein-derivedproductssafe? 」Catherine Pecquet ほか。甲B9の報告)がされた。その内容は以下のとおりである。(甲B9の1・2)a 症例報告患者は,検査の受診前10か月にわたって毎日,異なるメーカーが製造した眼瞼クリームとボディ保湿クリームを使用しており,問題は 生じていなかったものの,検査の受診3か月前に上記クリームを塗布して接触性蕁麻疹を発症し,その後,検査の受診前2か月の間に,ソーセージとレンズ豆及びカスレの保存食品を食べて30分後に全身性蕁麻疹を引き起こしたことが2度あった。他方で,パンやペストリー(菓子)のような穀物ベースの製品は何ら問題なく摂取できた。 食物抽出物,2種の保存食品,2種のクリーム及びメーカーが提供 したこれらの製品の各成分を前腕の掌側と背中にオープン塗布試験を実施し,陰性であればプリック試験を実施した。その結果,保存食品,それらの製品に成分として含まれている小麦グルテン,2種のクリーム及び製造に用い の製品の各成分を前腕の掌側と背中にオープン塗布試験を実施し,陰性であればプリック試験を実施した。その結果,保存食品,それらの製品に成分として含まれている小麦グルテン,2種のクリーム及び製造に用いられている加水分解コムギたんぱく質に対して強い陽性反応が得られ,加水分解コムギたんぱく質に対しては,1 /1000まで希釈しても陽性反応を示し,同様の反応が小麦粉から抽出された純グリアジンとグルテン成分でも得られた。クリームに含まれる加水分解コムギたんぱく質は保存食品のグルテンと同じメーカーのものであることがわかった。CAPシステムを使って特異的IgEを検出すると,小麦粉については16.4kUA/L,グルテン については16.2kUA/Lと,いずれもクラス3レベルを示した。 この症例以来,他に2例を観察しており,現在検査中であるが,1つは化粧品中の加水分解コムギたんぱく質及びグルテン含有食品に関するものであり,他方は食品中のグルテンに対してアナフィラキシーを生じた患者で加水分解コムギたんぱく質に対して陽性であった。 b 考察加水分解たんぱく質に対する即時型反応についてはこれまでに報告例があり,主にヘアコンディショナー中の加水分解たんぱく質に対する反応であったが,最近では化粧クリーム中の加水分解たんぱく質に対する反応も報告されている。最近の報告では,加水分解コムギた んぱく質に対するアレルギーが3例報告されており,1例は化粧クリームによる接触性蕁麻疹の発症,2例はヘアコンディショナーと化粧クリームによる接触性皮膚炎の発症であった。この点,筆者らはグルテンを摂取した場合でも食物アレルギーが関連して生じることは指摘していなかった。化粧品中のごま油で誘発された接触性蕁麻疹の患 化粧クリームによる接触性皮膚炎の発症であった。この点,筆者らはグルテンを摂取した場合でも食物アレルギーが関連して生じることは指摘していなかった。化粧品中のごま油で誘発された接触性蕁麻疹の患 者2例については先に報告しており,これらの症例ではごま油やゴマ の趣旨を食品から摂取するとアナフィラキシー反応を伴っていた。今回の症例では,グルテン由来の製品が皮膚接触及び経口摂取の両方で即時型過敏の原因となっていた。感作が最初に生じた経路については不明であるが,患者は同じ化粧品を長時間使用しており,一方でグルテンを含有する食物については何の反応もなく摂取していたとの経 過に照らせば,皮膚感作の可能性の方が高い。皮膚を通じてたんぱく質が侵入することは動物やヒトでよく知られており,天然ゴムアレルギーやアトピーでは皮膚が主な感作ルートであると考えられている。 化粧品中のたんぱく質に対して即時型アレルギーが生じることはまれであるとしても,化粧品中のたんぱく質の使用は増加し続けてお り,医師は化粧品中のたんぱく質がアレルゲン活性を有している可能性があることを認識しておかなければならない。 (エ) 平成16年3月,CatherinePecquetらは,「加水分解コムギたんぱく質:化粧品ならびに食品中の新たなアレルゲン」との要約文で,数例の症例を報告した(ContactDermatitis2004:50:182- 183「Hydrolysedwheatprotein: anewallergenincosmeticandfood」CatherinePecquet ほか。甲B10の報告)。その内容は以下のとおりである。(甲B10の1・2)過去数年間,主に狂牛病に対 incosmeticandfood」CatherinePecquet ほか。甲B10の報告)。その内容は以下のとおりである。(甲B10の1・2)過去数年間,主に狂牛病に対する懸念のため,加水分解コムギたんぱく質(HWP)が牛コラーゲンの代わりに乳化剤や安定剤として化粧品 や食品に使用されるようになってきているが,患者7例にこのようなHWPで誘発された化粧品に対する接触性蕁麻疹が生じたことを報告する。このうち6例については,改質グルテンに対する食物アレルギーがあった。 7例の女性は全て異なるブランドのHWPを配合されている化粧品 (主にフェイシャルクリーム)を塗布した直後に接触性蕁麻疹を発症し た。このうち6例は改質グルテンを含んでいる保存食品やデリカテッセン(持ち帰り惣菜)を摂取した後にアナフィラキシー反応や蕁麻疹も生じた。他方で,パンを摂取した後にアレルギー反応を生じた患者はいなかった。 化粧品,それらに配合されているHWP,そして食物アレルギーのあ る患者の場合,改質グルテンに対する皮膚試験が陽性であった。未改質小麦粉に対しては陰性であった。しかし,小麦粉に対する特異的IgEが2例で陽性であり,グルテンに対する特異的IgEは3例で陽性であった。 小麦たんぱく質と様々なグルテン製品に対する血清の特異性につい ても調べたところ,個人差があることが観察された。全ての血清には,加水分解ペプチドと一部の未改質小麦たんぱく質の両方に反応するIgEが含まれていた。既往歴から,化粧品に対するアレルギーが食物アレルギーに先行していたものと考えられる。 これらの点を考慮すると,化粧品にHWPを使用することについては 問題意識を持つべきであろう。 (11) から,化粧品に対するアレルギーが食物アレルギーに先行していたものと考えられる。 これらの点を考慮すると,化粧品にHWPを使用することについては 問題意識を持つべきであろう。 (11) 奥村教授の見解元日本免疫学会会長である奥村教授は,奥村意見書において,以下のとおり基礎的知見や本件アレルギーに関する見解を明らかにしている。 アアレルギーについての基礎的知見 (ア) アレルギーの一般的な発生機序についてa 抗原Aが体内に侵入し,体内に抗原A特異的IgE抗体がつくられ,抗原A特異的IgEがマスト細胞へ結合して,感作が成立する。感作した状態のところへ抗原Aが侵入すると,抗原Aはマスト細胞と結合している抗原A特異的IgE抗体と結合する。そうすると,マスト細 胞はヒスタミン,ロイコトリエン等の物質を放出し,腸管を収縮させ たり,皮膚に痒みを起こさせたり,涙を流させたり,くしゃみをさせるなどのアレルギー症状を引き起こし,抗原Aの体内への侵入を食い止めようとする。これがアレルギー反応の一般的な機序である。 マスト細胞が化学物質を放出し人体に上記反応を引き起こすのは,元来は体内に侵入した寄生虫を排除する目的によって発達してきた ともの考えられるが,現代においては,それが有害に働いてアレルギーの原因とされている。 b 抗原A特異的IgE抗体は,抗原Aの体内への侵入量に比例して生成されるわけではなく,個体差があるが,大量の抗原が頻繁に侵入した方が抗体の作られる可能性は高くなり,その量も多くなる傾向があ る。ただし,大量の抗原の侵入が続くと,逆に抑制効果が現れることもある。抗原Aの体内への侵入が止めば,新たな抗体は作られなくなり,また 体の作られる可能性は高くなり,その量も多くなる傾向があ る。ただし,大量の抗原の侵入が続くと,逆に抑制効果が現れることもある。抗原Aの体内への侵入が止めば,新たな抗体は作られなくなり,また,既存の抗体も寿命を迎え消滅することで,徐々に体内の抗体は少なくなるのが一般的であるが,抗体を生み出す細胞は消滅することがないため,再び抗原Aが侵入すると抗原A特異的IgE抗体が 生成される。 マスト細胞と好塩基球は,双方ともにIgEの受容体を細胞膜表面にもち,ヒスタミン等を含有する顆粒を細胞内に蓄積しており,抗原Aに応答するという点で共通している。他方,存在する場所と数において大きく異なっており,マスト細胞は皮膚や粘膜(鼻・眼・気道・ 消化管)等の組織に存在し,その数も多く,当該部位に侵入した抗原Aに応答して症状を引き起こすアレルギー応答の主役である。好塩基球は血流にのって全身を循環しており,その数は少ない。 抗原A特異的IgE抗体は,マスト細胞と結合するが,抗原A特異的IgE抗体の数が増えてくるとマスト細胞と結合していない抗体 も増加し,それが血液中に検出される抗原A特異的IgE抗体である。 マスト細胞と結合していない抗原A特異的IgE抗体は,抗原Aと結合してもアレルギー症状を引き起こすことはない。 (イ) 抗体による抗原の認識等についてa 抗原A特異的IgE抗体は,抗原Aのアミノ酸配列の一部分を記憶しており,侵入してきた物質のアミノ酸配列に記憶している配列と同 一のものが存在しているか否かにより,抗原Aか否かの識別を行う。 厳密には,三次元構造をとるたんぱく質の形の一部を記憶するものであるが,本件アレルギーについて説明する限りは,抗原たんぱく質は 一のものが存在しているか否かにより,抗原Aか否かの識別を行う。 厳密には,三次元構造をとるたんぱく質の形の一部を記憶するものであるが,本件アレルギーについて説明する限りは,抗原たんぱく質は加水分解されて元々の形を消失しているため,アミノ酸配列の一部分といって差し支えない。このようなアミノ酸配列の一部分を,エピト ープという。 そして,いわば,抗原A特異的IgE抗体は特定の抗原である抗原Aに適合する鍵穴であり,抗原Aがかかる鍵穴に適合する鍵である。 鍵と鍵穴のパターンが完全に一致すれば鍵が鍵穴に入るが,パターンが異なれば鍵は鍵穴に入らない。この鍵のパターンをエピトープ配列 という。エピトープ配列の表記に使用されるP,Q,X等の記号は,アミノ酸の種類を指しており,Pはプロリン,Qはグルタミンを意味する。Xは2種類以上のバリエーションが許容される場合や不明である場合に使用される。 b 抗原A特異的IgE抗体は,抗原A以外の物質が体内に侵入した場 合には反応しないが,これは物質が異なるとアミノ酸配列が異なるため,抗原A以外の物質には抗原A特定的IgE抗体が記憶しているエピトープ配列が存在せず,鍵穴に鍵が入らないためである。 (ウ) 交差反応について抗原A特異的IgE抗体は抗原Aにしか反応しないのが原則である が,稀に,抗原A以外の物質(物質B)に対しても反応をする場合があ り,これを交差反応という。 交差反応が起こるメカニズムは,物質Bのアミノ酸配列は抗原Aのそれとは異なるものの,その一部がたまたま抗原A特異的IgE抗体の記憶しているエピトープ配列と完全に一致するため,その鍵穴に鍵が入るということが起こり,反応を示すという点にある。理論上,アミノ酸配 とは異なるものの,その一部がたまたま抗原A特異的IgE抗体の記憶しているエピトープ配列と完全に一致するため,その鍵穴に鍵が入るということが起こり,反応を示すという点にある。理論上,アミノ酸配 列に共通する部分がある物質相互間では交差反応の可能性があるということができるが,アミノ酸配列の一部に共通する部分がある物質の組み合わせは無数にあり,交差抗原の量も様々であること(アレルギー反応が起きるためにはある程度の量が含有されることが必要である)からすれば,物質のアミノ酸配列が判明していたとしても,交差反応の危険 を事前に予見することは困難である。 イ医学的知見の確立の意味,時期医学的知見は,医学界では医療水準に適った治療行為を定める重要な指針となり,製薬会社,化粧品会社その他人体に影響を与え得る可能性のある製品を取り扱う企業にとっても,製品開発の指針となるものであり, 我々の日々の生活に取り巻いて,生命・身体の安全や健康を守るものである。 医学的知見は,症例報告がされたからといって直ちに確立されたものということはできない。患者の個体差や特異体質等の属性が介在した可能性等を考慮する必要があり,数例の症例報告があるからといってそれを一般 化することはできず,特に,既に確立されていた知見を覆すような症例報告については,慎重な調査・研究の積み重ねにより,前提となっていた知見を覆すに足りるものか否かを厳格に判断する必要がある。以上により,既存の知見に反する症例報告の内容が新たな知見として確立されたと考えることができる時期は,単に症例の報告がされただけであるとか臨床レ ベルで認識されただけであるということだけでは足りず,基礎研究等の積 み重ねにより広く承認され,学会での発表等を経て実際の医療 期は,単に症例の報告がされただけであるとか臨床レ ベルで認識されただけであるということだけでは足りず,基礎研究等の積 み重ねにより広く承認され,学会での発表等を経て実際の医療現場において反映されるに至った時期であると考えられている。 ウ本件アレルギー(本件石鹸の使用に起因する健康被害)に関する知見(ア) 発生原因,機序a 本件アレルギーは,従来小麦アレルギーではなかった消費者が,本 件石鹸を使用する過程で,石鹸に含有されていた加水分解コムギ(グルパール19S)に経皮的又は経粘膜的に感作し,感作がある程度進んだ時点で,小麦成分を含有する食品等を摂取したときに交差反応を起こすことによって生じたものと考えられる。 b 人類が長い歴史を通じて食物として大量に摂取している小麦成分 は,経口摂取においては一般に安全と考えられており,加水分解コムギを含む化粧品は本件症例以前にも存在していたが健康被害を生じた問題症例が報告されたことはなかった。本件アレルギーの発生原因,機序はその発生当初は明らかでなかったが,特別委員会の研究等により,平成26年2月頃までに一定の知見を得,現時点ではその全容が 徐々に明らかになっているが,厚生労働省が注意事項につき告示を行った平成22年10月15日以前の段階で,今回の健康被害を想定することは困難であった。 本件の症例は,生活環境中に自然に存在するハウスダストのような抗原ではなく,石鹸に含有される抗原によって人体に強力な経皮経粘 膜的感作が誘導され,健康被害が生じたという点で,従来の医学的知見をもってしても想定外であり,医学界に大きな衝撃を与えるものであった。 (イ) 本件アレルギー発生の認識可能性についてa 総論 康被害が生じたという点で,従来の医学的知見をもってしても想定外であり,医学界に大きな衝撃を与えるものであった。 (イ) 本件アレルギー発生の認識可能性についてa 総論 厚生労働省によって注意事項が告示された平成22年10月15 日以前において,当時存在した国内及び世界的な医学的知見を前提にしても,①本件石鹸に含有されていた加水分解コムギが経皮経粘膜的に感作を起こし,②感作成立後に経口摂取した小麦又は小麦成分を含有する食品等と交差反応を起こして小麦アレルギー症状を呈し,健康被害が生じることを想定することは困難であった。 b 加水分解コムギの経皮経粘膜感作性について⒜ 人体の皮膚や粘膜は通常,体内外の物質を隔てるバリアとしての機能を有している。皮膚については最も外側には10層以上の角質が積み重なることによって形成されている角質層が存在し,その下層に存在する表皮細胞は細胞同士がしっかりと結びついたシール 構造になっており,二重のバリアによって一定以上の大きさ(分子量)を有する物質が身体内部に侵入することを妨げる機能を有している。 平成12年の発表以来,健常な皮膚では,分子量が小さなアレルゲンや薬剤は皮膚を透過し得るものの,分子量500以上の物質は 透過できないとの500Daルールが医学界の常識的見解として確立していた。なお,粘膜の場合,健常な粘膜では分子量1200以上の物質は透過できないとの見解が存在していた。 グルパール19Sの分子量は2000以上であるとの見解が示されており,当時の知見によれば,そもそも人体の皮膚や粘膜から グルパール19Sに対する感作が生じるということは想定し得なかった。 これ 子量は2000以上であるとの見解が示されており,当時の知見によれば,そもそも人体の皮膚や粘膜から グルパール19Sに対する感作が生じるということは想定し得なかった。 これに対し,バリア破壊の生じた皮膚においては,ハウスダストに含有されるダニ(死骸,糞)やペットの分泌物といった物質が長時間付着することにより身体内部に侵入して感作抗原となる可能 性はあったが,そのような考え方は平成22年10月15日以前に 医学的知見として確立したものではなかったし,使用後直ちに洗い流されることが想定される石鹸含有成分には当てはまらない事象というべきである。 また,グルパール19Sは小麦たんぱく加水分解物の一種であるところ,小麦たんぱく加水分解物は化粧品用途のみならず,ハム, 醤油等の食品用素材等としても安全性が認められるものとして広く利用されてきており,化粧品や石鹸等に含まれる食物由来のたんぱく質成分に反応しアレルギーを発症した結果,食物アレルギーを発症するとの現象は報告されていなかった。 ⒝ 種々の症例報告の意味について ⅰ 甲B7の報告について同論文は,軽度の皮膚傷害が生じたという症例報告にすぎず,経口小麦アレルギーを発症したとの症例を報告するものではない。また,同論文は患者が当該製品の使用期間中に感作を生じた可能性が高いとしつつも,感作が生じた時点について解明されて おらず,製品使用前に感作が生じた可能性も指摘し,複数の感作経路を指摘している。したがって,同論文が,加水分解コムギが即時型アレルギー性接触性蕁麻疹を引き起こした旨を指摘し,たんぱく質やその加水分解物による感作を念頭にした診療を推奨しているとか,加水分解コムギにより ている。したがって,同論文が,加水分解コムギが即時型アレルギー性接触性蕁麻疹を引き起こした旨を指摘し,たんぱく質やその加水分解物による感作を念頭にした診療を推奨しているとか,加水分解コムギにより即時型アレルギーが生じる 旨の知見を明らかにしたものということはできない。 ⅱ 甲B8の報告について同報告は,接触性皮膚炎につき,オープン試験の結果,2日後と4日後に陽性反応を得られたとしており,陽性反応が得られるまで長時間を要している点に着目している。これは筆者らが,Ⅰ 型アレルギーではなく,Ⅳ型(遅発型)アレルギーの可能性を疑 っていたことを示している。また,同論文は,軽度の接触皮膚炎を生じた症例を報告しており,経口小麦アレルギーの発症例を報告したものではない。したがって,同論文は,加水分解コムギによりⅠ型アレルギーが生じたとの症例を報告するものではない。 ⅲ 甲B9の報告について 同報告で紹介された症例については,感作経路が特定されていない。また,当該症例は加水分解コムギたんぱくに感作して,当該加水分解コムギたんぱくと同じ製造者が製造した小麦グルテンや加水分解コムギたんぱくを含有する保存食品によって全身性蕁麻疹が誘発されたというものであり,交差反応の事例ではな く,天然小麦アレルギーの事例でもない。更に,同報告は,アトピー性皮膚炎患者の症例報告であり,患者本人の身体的素因が感作の原因となったことが疑われる。したがって,同報告によって,化粧品等に含まれる加水分解コムギたんぱくに対する感作が生じ,その後小麦グルテンや加水分解コムギたんぱくを食べて全身 性蕁麻疹の発作を起こす可能性があるとの知見等を明らかにしたということはできない。 ⅳ 甲B10の コムギたんぱくに対する感作が生じ,その後小麦グルテンや加水分解コムギたんぱくを食べて全身 性蕁麻疹の発作を起こす可能性があるとの知見等を明らかにしたということはできない。 ⅳ 甲B10の報告について同報告は,加水分解コムギたんぱくを含有する化粧品を塗布した直後に接触性蕁麻疹を発症し,そのうち数例は改質グルテンを 含む保存食品やデリカテッセンを摂取した後にアナフィラキシー反応や蕁麻疹も生じた改質グルテンに対する経口アレルギーの症例報告である。同報告では,パンを摂取後にアレルギー反応を生じた患者はいなかった,未改質の小麦粉に対する皮膚試験は陰性とされており,パンや未改質グルテンとの交差反応による発 症が確認されている症例ではない。また,同報告では,患者の素 因や皮膚異常等の存在が明らかにされておらず,通常の皮膚において経皮感作が起こった事例ということはできない。したがって,同論文により,化粧品に含まれる加水分解コムギにより経皮感作が生じたなどの知見が明らかになったということはできない。 c 加水分解コムギと天然小麦の交差反応性について ⒜ 本件アレルギーの患者の血液中IgEは,γ―グリアジンに反応することが判明し,γ―グリアジンのアミノ酸配列を39通りに切断し,これを患者の血液に反応させたところ,9番目の断片(QFLQPQQPFPQQPQ)が強く反応することが判明した。そして,同配列のうち,どの部分が最も強く血液中のIgEと反応する かを分析したところ,QPQQPFPQが強く反応し,更にQをEに置換した配列が強い反応を示し,その中でもPEEPFPがコアであることが判明した。これにより,本件アレルギーの主要なエピトープは,PEEPFPであると ろ,QPQQPFPQが強く反応し,更にQをEに置換した配列が強い反応を示し,その中でもPEEPFPがコアであることが判明した。これにより,本件アレルギーの主要なエピトープは,PEEPFPであると突き止められた。 このように,エピトープの特定は,患者の血液がなければ行うこ とができないものであり,具体的な症例が存在しない段階でエピトープの同定を行うことは不可能である。 ⒝ 従来から存在する小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシーでは,ω-5グリアジン及び高分子量グルテニンが主要アレルゲンであるのに対し,本件アレルギーでは,それらの特異的IgE 抗体価は陰性又は低値であり,γ‐グリアジンが主要アレルゲンであること,ペプチドマッピングによるエピトープ解析でも,通常の小麦アレルギーのエピトープがQQXPQQQであるのに対し,本件アレルギーではQPQQPFPQが主要エピトープであり,そのメカニズムは大きく異なっている。これらの事実は本件石鹸による 健康被害の発生後,特別委員会を中心とした研究・調査が積み重な り,初めて明らかになったものである。 本件アレルギーのメカニズムとして,グルパール19SにPEEPFPというアミノ酸配列が生じたのは,生グルテンを原材料にして酸加熱分解等の工程を経る中でγ‐グリアジンに含まれるPQQPFPとの配列が脱アミド化して生じたと考えられる(いわゆる QE変換)が,アルカリ分解によっても同様に抗原性が高まるとの報告もあり,いかなる分解方法,程度が危険であるかということについては解明されていない。また,天然小麦たんぱくにはPEEPFPというアミノ酸配列は存在しないため,なぜグルパール19Sに対する抗体が天然小麦に反応するのかにつ 法,程度が危険であるかということについては解明されていない。また,天然小麦たんぱくにはPEEPFPというアミノ酸配列は存在しないため,なぜグルパール19Sに対する抗体が天然小麦に反応するのかについても明らかではな い。一つの仮説として,天然小麦たんぱくに存在するPQQPFPとのアミノ酸配列が体内酵素の一種であるトランスグルタミナーゼの働きによって脱アミド化し,PEEPFPという配列を生じ,上記抗体と交差反応したのではないかとの見解が提唱されているが,確たる見解ではない。 ⒞ 甲B7ないし10の報告で示された症例数は,併せて8例にとどまり,このうちグルテンに対して陽性反応を示した症例では3例にすぎない。また,母集団となる化粧品の総使用者数も判然とせず,発症頻度が不明であること,化粧品使用とは別の原因によりグルテンに対するIgE抗体値が上がっていた可能性を否定できないこ と等からすれば,上記各報告をもって,加水分解コムギ末に経皮経粘膜感作した患者が経口摂取した小麦に対してもアレルギー反応を起こし得るとの知見が確立していたとは到底評価できない。 ⒟ 以上によれば,加水分解コムギ末に経皮経粘膜感作した患者が,経口摂取した小麦でアレルギー反応を生じるということは,今後, 学問的な教科書にも掲載され得る新発見であり,本件石鹸の開発, 販売段階では,およそ想定し得なかった現象であるといえる。 (以上につき,乙ハB12,20,24の1・2,25) 2 争点1(被告悠香が製造業者等に該当するか。)に対する判断(1) 本件石鹸は,平成16年3月頃から平成22年9月26日までの間に製造販売されたものであるところ,本件石鹸のうち1個当たりの重量が60gの ものについて に該当するか。)に対する判断(1) 本件石鹸は,平成16年3月頃から平成22年9月26日までの間に製造販売されたものであるところ,本件石鹸のうち1個当たりの重量が60gの ものについては平成22年5月22日以降,110gのものについては同年13日以降に出荷された製品については,本件石鹸の外装に「製造販売元株式会社悠香」との製造業者として被告悠香の商号が表示されており,これらの製品に関して,被告悠香が製造物責任法2条3項2号又は3号所定の「製造業者等」に該当することは当事者間に争いがない。 そこで,平成22年5月22日よりも前に出荷された60gの本件石鹸,同月13日よりも前に出荷された110gの本件石鹸及び全販売期間に係る30gの本件石鹸(以下これらを併せて「表示変更前の本件石鹸」という。)について,被告悠香が同条3項にいう「製造業者等」に該当するかについて,以下,検討する。 (2) 製造物責任法2条3項は,製造物責任を負う責任主体として,1号において「製造業者」,2号及び3号においていわゆる表示製造業者について定めるところ,各号の関係については,補充的なものではないと解される。そこで,本件においては,表示変更前の本件石鹸の外装には,「販売元」として被告悠香の商号の表示がなされていたことに鑑み,まず,同項3号所定の「実質的 製造業者として表示された者」(実質的製造業者)に該当するかについて検討することとする。 同項3号が,自ら当該製造物を業として製造,加工又は輸入した者(現実の製造業者)だけでなく,当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等を表示した者についても,製造物責任を負うべき主体として いるのは,単に販売,流通業者としての表示しか行わず,自ら製造 者)だけでなく,当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等を表示した者についても,製造物責任を負うべき主体として いるのは,単に販売,流通業者としての表示しか行わず,自ら製造物の製造 等を行っていない場合であっても,当該製造物の製造や販売に係る形態その他の事情に照らし,実質的にみて製品の設計,製造に寄与しているとみなし得るような場合には,社会一般の信頼保護及び報償責任の観点から欠陥により生じた損害につき損害賠償責任を負わせることとし,被害者の救済を可能とするのが相当であるとの趣旨に基づくものと解される(平成5年12月国 民生活審議会消費者政策部会報告参照)。 この趣旨を踏まえるならば,実質的製造業者に該当するかについては,当該製造物の製造,加工,輸入又は販売等の形態その他の事情を総合的に考慮し,当該業者の製造販売に対する関与の態様及び程度に照らし,当該製造物に社会通念上実質的な製造業者であると認めることができる表示を行った といえるか否かにより判断すべきである。そして,上記の趣旨からすれば,「当該製造物」とは,製品本体のみならず,これと一体的あるいは密接な関係があるというべき,容器,包装,付属品及び使用説明書等を含むものと解される。 (3)ア前記認定事実によれば,表示変更前の本件石鹸の外箱や個包装の包装袋 においては,平成16年3月の販売開始時から平成17年4月1日までは,全種類の製品につき,「製造元株式会社フェニックス」,「販売元株式会社悠香」と併記され,平成22年5月までは,「製造販売元株式会社フェニックス」,「販売元株式会社悠香」と併記されていたこと,これらの記載において,「販売元株式会社悠香」との記載及びこれに続く本店所在地 及び電話番号等の記 は,「製造販売元株式会社フェニックス」,「販売元株式会社悠香」と併記されていたこと,これらの記載において,「販売元株式会社悠香」との記載及びこれに続く本店所在地 及び電話番号等の記載は,上記被告フェニックスに係る記載部分に比して相当大きく表示され,「株式会社悠香」のうち「悠香」との記載はとりわけ大きく字体も装飾的な毛筆フォントによるロゴマーク様の記載とされているか,別途,独自の茶葉のイラストに添えて上記と同じ装飾的なフォントにより「悠香」と記されたロゴマークが記載されているものもあるなど, 製品の表示として,製造元又は製造販売元である被告フェニックスよりも 販売元である被告悠香に係る表示が全面に押し出されていたこと,また,表示変更前の本件石鹸を含む全ての本件石鹸の外装には,縦書きの「茶の」と「しずく」を二段に書きわけた「茶のしずく」との特徴的な毛筆フォントによる文字が記載され,その末尾には登録商標を意味するⓇマークが付されていた。加えて,製品に関する問い合わせ先として,被告悠香の電話 番号やホームページのアドレス等が記載されていたことが認められる。 イそして,本件石鹸の開発や製造過程に関する被告悠香の関与の有無,程度等についてみるに,前記認定事実に証拠(甲A1,乙ロA37ないし39)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件石鹸は,無農薬栽培による茶葉の成分を配合した点を特長として売り出された石鹸であるところ,茶成分 を洗顔用石鹸に配合するというコンセプトは,本件石鹸の開発に際して後に被告悠香を設立するD 夫妻によって,被告フェニックスに持ちかけられたものであること,被告悠香は,D 夫妻により,当初から茶葉成分を利用した医薬部外品及び化粧品の販売を目的の一つとして設立された会社であること, するD 夫妻によって,被告フェニックスに持ちかけられたものであること,被告悠香は,D 夫妻により,当初から茶葉成分を利用した医薬部外品及び化粧品の販売を目的の一つとして設立された会社であること,本件石鹸の販売期間を通じて茶葉の抽出溶剤が変更されて いるが,そのような変更指示を被告フェニックスに行ったのは被告悠香であること,さらに,本件石鹸の売上げが拡大するとともに,被告フェニックスの生産体制が間に合わなくなるや否や,平成20年12月頃,被告悠香は海外から製造設備を輸入し,同設備を被告フェニックスに対して無償で貸与し,増産態勢を積極的に支えたこと等が認められ,被告悠香は自身 が直接本件石鹸の開発や製造を行わなかったとはいえるものの,その開発,製造過程に相当程度関与していたというべきである。 ウまた,本件石鹸の販売形態に係る事情をみるに,前記認定事実によれば,被告悠香は,被告フェニックスとの間で売買基本契約書や継続的製造委託基本契約書を交わすなどし,本件石鹸の全販売期間にわたって,被告フェ ニックスに対し独占的に製造を委託し,同社が製造した本件石鹸の全てを 独占購入し,登録制の通信販売によって,国内の顧客に対して一手販売していたこと,被告悠香は,平成16年3月の本件石鹸の発売以来,本件石鹸に「茶のしずく石鹸」との印象的な通称を付してブランド化を図り,有名女優を起用したテレビコマーシャル等により,自社の名において積極的な広告宣伝を行ったこと,かかる広告宣伝の効果もあり,平成21年頃に は,本件石鹸については,薬用洗顔料のマーケットシェアにおいて被告悠香とのメーカー名とともに,ブランド及びメーカーシェアの双方において,市場全体の半数以上の割合を占めるにまでに至ったこと,その後,流通終了時まで ついては,薬用洗顔料のマーケットシェアにおいて被告悠香とのメーカー名とともに,ブランド及びメーカーシェアの双方において,市場全体の半数以上の割合を占めるにまでに至ったこと,その後,流通終了時までには延べ466万7000人の顧客に対して4650万8000個を売り上げるという爆発的なヒット商品となったことが認められる。 かかる事実に照らすならば,被告悠香は,本件石鹸の製造販売に相当程度関与していたことは明らかであるし,本件石鹸が消費者に受け入れられ,ヒット商品として流通するに至った経緯を観察するならば,本件石鹸の一手販売を担った被告悠香が製造販売における中心的役割を果たしていたというべきである。 エ以上によれば,本件石鹸は,製品等に付された表示においては,製造者であることを示す被告フェニックスの商号と販売元であることを示す被告悠香の商号が併記されているとしても,表示全体の内容において,当初からその全ての仕様の製品につき,被告悠香のブランド製品であることが強調され,消費者に対し,一手販売をしており,その後の販売実績を獲得 するに至る経緯等を踏まえれば,まさに被告悠香の製品であるとの社会的認知が築かれ,確立していた製造物であったと認められる。 (4) 以上認定事実を総合するならば,被告悠香は,表示変更前の本件石鹸において,製造物責任法2条3項3号所定の実質的製造業者に該当すると認められる。 (5) 上記認定に対し,被告悠香は,製品に販売業者の名称の記載のみがある場 合と異なり,製品上に「発売元」などと販売業者との肩書を付した上で,製造業者として別途の主体の表示がある場合には,通常,当該記載に係る販売業者を製造業者であると信頼することはないから,一手販売の事実に加え,販売業者が製造過程を などと販売業者との肩書を付した上で,製造業者として別途の主体の表示がある場合には,通常,当該記載に係る販売業者を製造業者であると信頼することはないから,一手販売の事実に加え,販売業者が製造過程を主導し,現実の製造業者に対する指示,命令関係が認められなどの特段の事情がなければ,実質的製造業者に当たるということは できない旨主張する。 しかし,前記のとおり,実質的製造業者に当たるか否かについては,当該製造物の製造,加工,輸入又は販売等の形態その他の事情を総合的に考慮し,当該業者の製造販売に対する関与の態様及び程度に照らし,当該製造物に社会通念上実質的な製造業者であると認めることができる表示を行ったとい えるか否かにより判断すべきであるところ,製造業者として別の主体が併記されている場合であっても,販売業者の表示の態様や製品の流通形態によっては,当該製品を購入する消費者の側において,販売業者として表示されている者について実質的な製造業者としての信頼が生じないということはできないのであり,本件石鹸について,表示全体の内容において,当初からそ の全ての仕様の製品につき,被告悠香のブランド製品であることが強調され,消費者に対し,一手販売をしており,その後の販売実績を獲得するに至る経緯等を踏まえれば,まさに被告悠香の製品であるとの社会的認知が築かれ,確立していた製造物であったと認められることは前記認定説示のとおりである。被告悠香の主張は,独自の見解をいうものであって,採用の限りでな い。 (6) したがって,争点1に関する原告らの主張には理由がある。 3 争点2(本件石鹸に欠陥があるか。)に対する判断(1) 製造物責任法における「欠陥」とは,当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物 主張には理由がある。 3 争点2(本件石鹸に欠陥があるか。)に対する判断(1) 製造物責任法における「欠陥」とは,当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該 製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いてい ることをいうところ(同法2条2項),その考慮要素として規定されている要素は例示であり,当該製造物の特性や当該製品の安全性に対する社会通念を踏まえつつ,欠陥判断において考慮すべき要素を適切に取捨選択し,当該製品に通常有すべき安全性が欠けていたか否かについて検討する必要があるものと解される。 (2) 判断枠組み等ア本件石鹸の特性を踏まえた考慮要素について(ア) 前記認定事実によれば,石鹸とは,油脂を原料とする脂肪酸アルカリ塩と定義され,多種多様な成分が配合された化学化合物であり,洗濯や工業用途等を含む多様な用途に利用される製品であるが,その中でも本 件石鹸は,肌の洗浄及び薬用成分による美容効果の実現を目的とした洗顔用石鹸であり,美容に関心のある女性を中心とした使用者において日常的に使用されること,また,その使用時には主に使用者の顔面という身体に対し,直接,石鹸成分が触れ,作用することが想定された製品であることが認められる。 本件石鹸は,薬事法上は,「化粧品」又は「医薬部外品」に該当する製品として製造販売されたものである。薬事法上,「化粧品」とは,人の身体を清潔にし,美化し,魅力を増し,容貌を変え,又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために,身体に塗擦,散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で,人体に対する作用が緩 和なものと定義され(薬事法2 容貌を変え,又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために,身体に塗擦,散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で,人体に対する作用が緩 和なものと定義され(薬事法2条3項参照),「医薬部外品」は,吐きけその他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止又はあせも,ただれ等の防止等を目的とし,かつ,人体に対する作用が緩和な物であって器具器械でないもの及びこれらに準ずる物で厚生労働大臣が指定したものをいうと定義されている(同法2条3項参照)。医薬部外品は規制の強度とい う点では化粧品と医薬品の中間的なものと位置付けられるが,「人体に 対する作用が緩和」であることが要件とされる点や薬局以外でも販売できる点等で化粧品と共通する一方,医薬品とは区別されており,一般的に,化粧品及び医薬部外品に該当するものを併せて化粧品と呼ぶこともある(弁論の全趣旨)。 このような化粧品(薬事法上の医薬部外品に該当する製品も含む。) は,医薬品が主として疾病の治療,予防等のために医師の関与の下,通常は限られた治療期間内にのみ用いられるものであるのとは異なり,身体を清潔に保ち,美しく装うという美容効果を主たる目的として,日常生活の長期にわたって,使用者の自己判断に基づき,その皮膚,毛髪等に塗布,散布するなどして使用され,直接身体に作用するものである。 一方,薬事法が医薬品と並んで化粧品をもその規制対象に含めているのは,作用が緩和であるとしても化粧品が人体に直接作用する点では医薬品と共通しており,その品質,有効性等を確保し,国民の保健衛生の向上及び危害発生を防止すべきであるとの趣旨(薬事法1条)が同様に当てはまるものであるからと解される。 このように,洗顔用石鹸ないし化粧品が,人の身体に直 有効性等を確保し,国民の保健衛生の向上及び危害発生を防止すべきであるとの趣旨(薬事法1条)が同様に当てはまるものであるからと解される。 このように,洗顔用石鹸ないし化粧品が,人の身体に直接触れて作用することが想定された製品であり,使用するか否かや使用回数,使用態様も基本的に当該製品の使用者の判断に委ねられ,日常生活の長期にわたって使用されるといった製品としての特性に鑑みれば,その製造物として求められる安全性の程度については,相当に高度なものが要求され ると解することができる。 (イ) 他方で,現代において広く流通している化粧品の多くは,様々な化学物質(原料)を組み合わせて製造される化学製品としての一面も有しており,そのような化粧品が皮膚に接触した場合,一定数の使用者において炎症や湿疹といった皮膚障害(いわゆる「化粧品かぶれ」)が生じ得る。 一般に,化粧品の使用に伴う皮膚障害として想定されている臨床的な 症状は,局所的な皮膚の炎症,かぶれ,湿疹等であろうが,かかる皮膚症状を医学的な機序に基づいて分析した場合,化粧品中に含まれる成分により肌が刺激されることによって,免疫系を介さずに紅斑,浮腫等を生じる一次刺激性皮膚炎や連続刺激性皮膚炎と呼ばれる症状と,化粧品に含まれる化学物質が皮膚に繰り返し接触することで当該成分に対す る感作が成立し,当該製品を再度使用した際に紅斑,浮腫等を生じる免疫系を介した特異的皮膚反応であるアレルギー性の症状とに区別される。上記の各症状は,化粧品に含有される成分と使用者の体質等の相性いかんによって生じ得るものである。特に,アレルギー性の反応に関しては,前記認定事実のとおり,本来,人体にとっては無害とされる物質 に対して特定の個体において過剰な免疫反応を 者の体質等の相性いかんによって生じ得るものである。特に,アレルギー性の反応に関しては,前記認定事実のとおり,本来,人体にとっては無害とされる物質 に対して特定の個体において過剰な免疫反応を生じるものであって,いかなる物質がアレルゲンとなるのかにつき明確な知見はなく,また,症状を発生させるに足りるアレルゲンの量についても不明ないし個体差があり,発症の要因は,生体内への侵入経路や当該個体の遺伝的要因,体質その他環境といった外的要因にあるのではないかともされている ところである。そうすると,全ての使用者にとっておよそ何らの健康被害を引き起こす危険性もない化粧品を作り出すことは限りなく不可能に近いといえ,化粧品について通常有すべき安全性を検討する上では,この点を考慮に入れる必要がある。 そして,特定の使用者において化粧品を使用した際に一定数,不可避 的に生じ得る上記の皮膚障害に対しては,例えば,製品に付された成分表示や指示,警告等を通じて,アレルギー既往を有する使用者においてその使用を控えることを促し,未然に被害の発生を回避することを期待したり,化粧品の継続使用中に肌の変調等を使用者が感じた際,使用者において製品に付された指示,警告に沿って,以後の使用を中止し,被 害の発生・拡大を最小限に抑えるよう期待したりすることは,化粧品が 生命活動に不可欠な製品ではなく,その使用の当否は専ら消費者に委ねられているという点を踏まえても,合理的というべきであり,適切な指示,警告が製品に表示されている限り,上記の通常想定される範囲の皮膚障害等を生じる危険を有した製品が流通することも社会的に許容されていると考えられる。 したがって,化粧品には回避困難な皮膚障害を生じ得る内在的な危険性が存してお 記の通常想定される範囲の皮膚障害等を生じる危険を有した製品が流通することも社会的に許容されていると考えられる。 したがって,化粧品には回避困難な皮膚障害を生じ得る内在的な危険性が存しており,特定の使用者においてかかる危険が発現したことをもって,直ちに製造物としての安全性を欠くということはできないというべきであるし,そのような危険性を回避,防止し得る適切な指示・警告の付された化粧品についてまで一概に製造物としての安全性を欠いて いると評価することはできないというべきである。 (ウ) この点,製造物責任法の立法段階における中央薬事審議会・製造物責任制度等特別部会報告書においても,化粧品及び医薬部外品の欠陥判断につき,医薬部外品,化粧品による皮膚トラブル等については,消費者の体質,体調と相まって生じる場合があり,一概にこれを欠陥とするこ とは妥当でなく,被害の程度や適切な警告表示の有無などから総合的に判断し,通常人が正当に期待できる安全性を有しているか否かで欠陥の有無を判断すべきであるとしていること(甲A23)や,消費者庁国民生活審議会でも,医薬部外品,化粧品による皮膚トラブル等については,消費者の特異な体質,体調と相まって生じる場合があり,一概にこれを 欠陥とすることは適当でないと述べられていること(甲A26)も,化粧品という製品の安全性及び製品に内在する危険性の捉え方につき,同旨を述べているものと解される。 (エ) 以上によれば,本件石鹸のような洗顔用石鹸ないし化粧品は,人の皮膚に触れて身体に直接作用する化学製品であることから相当程度に高 度の安全性が求められる反面,その使用によっては特定の消費者に不可 避的に健康被害を生じる可能性があり,製品の使用に起因して健康被害が生じ 化学製品であることから相当程度に高 度の安全性が求められる反面,その使用によっては特定の消費者に不可 避的に健康被害を生じる可能性があり,製品の使用に起因して健康被害が生じることのみをもって直ちに欠陥が存するとは評価できないことや,そのような危険性に対しては適切な指示・警告がされている限り,消費者の支配領域において危険の回避及び被害の拡大防止を期待しても一概に不合理とは言い難いという製造物としての特性を考慮すれば, その使用を原因とした製品事故に関して,当該製品の欠陥の有無を判断するに当たっては,製品の使用によって生じる被害の内容・程度をまずもって重要な考慮要素とすべきであるのに加え,被害発生の蓋然性,製品の有用性,指示・警告の有無・内容,及び法令等への適合性といった種々の事情を考慮した上で,当時の科学技術の水準や消費者らの期待を 含む社会通念に照らし,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いているか否かをもって決すべきであると解するのが相当である。 イ欠陥の存在時期及び基準時について(ア) 製造業者等は,安全性を欠いた製品を自ら市場の流通においたことをもって,製品に起因して現実化した危険に対して責任を負われることが 正当化されるというべきであり,かかる趣旨を踏まえて製造物責任法2条2項は「当該製造物を引き渡した時期」を欠陥の考慮要素と明記していることに鑑みれば,製造物の欠陥は,当該製品の引渡し時において存在していなければならず,製造物に欠陥があるか否かは,当該製造物が引き渡された時点における社会通念によって判断すべきものと解され る。 (イ) もっとも,製造物における欠陥の存在時期及び判断の基準時が製造物の引渡し時であるとされていることと,製造物の引渡し時における欠陥 における社会通念によって判断すべきものと解され る。 (イ) もっとも,製造物における欠陥の存在時期及び判断の基準時が製造物の引渡し時であるとされていることと,製造物の引渡し時における欠陥の有無を判断するに際して,引渡しの後,口頭弁論終結時までに明らかになった製造物の客観的性状に関する知見や事情を考慮することが許 されないか否かとは直結する議論ではないと解され,製造物責任法が, 一般不法行為法の特則として,不法行為における過失の要件に代えて製造物の通常有すべき安全性の欠如という客観的な性状をもって製造業者等に対する帰責要件とした趣旨からすれば,少なくとも製造物の設計上の安全性の欠如が問題となる事案においては,引渡し後,口頭弁論終結時までに明らかとなった知見や事情をも考慮し,当該製造物の引渡し 時において既に存在していた欠陥の有無を判断することが許されると解するのが相当である。 したがって,製品の引渡し時において製造業者等が気づかなかった製品に潜在する危険性が,製品の流通後に明らかになったという場合,かかる危険性は製品の引渡し時に既に存在していたものが,単に製品の引 渡し後に明らかになったにすぎないといえるから,当該製品の引渡し時の欠陥を判断するに際して,引渡し後に明らかとなった知見や事情を考慮することも許されるというべきである。その上で,製品の引渡し時において入手可能な世界最高水準の科学・技術的知見をもってしても製品の危険性は明らかにならなかったとの事情は,開発危険の抗弁の当否を 論じるに際して問題とすべき事情といえるし,また,引渡し当時の科学技術的水準に照らし,製造業者及び一般人も危険性を予見できないときには,場合によっては,欠陥判断における製品の引渡し当時の社会通念を構成する一 して問題とすべき事情といえるし,また,引渡し当時の科学技術的水準に照らし,製造業者及び一般人も危険性を予見できないときには,場合によっては,欠陥判断における製品の引渡し当時の社会通念を構成する一事情として,それぞれの場面で考慮し得るものと解される。 (ウ) そして,製造業者等が自ら通常の流通の過程においた製造物について の危険責任を負担するとの前記の趣旨からすれば,欠陥の判断時期(同法2条2項,3条)や開発危険の抗弁の基準時(同法4条1号)となる製品を「引き渡した時」とは,消費者の手に渡った個々の欠陥製品毎に,それらの製品が流通に置かれた時点を基準に判断されるものである。もっとも,原告らは,本件石鹸が販売されて以来,流通が終了するまでの 全製品についての欠陥を主張するものであるところ,本件石鹸の最初の 引渡し時に欠陥が存在するのであれば,その後に欠陥の存在を否定するような事情の変化や製品の安全性に対する社会通念の変動がなければ各製品において欠陥が存在し続けたというべきであるから,まずは,原告と被告悠香及び被告フェニックスが,本件石鹸を最初に市場流通させて使用者の下に引き渡した時として争いがない平成16年3月時点を 基準として検討すれば足りる(その後,必要があれば,それ以降における引渡し時を基準とする欠陥について検討することとする。)。 ウ原告らの主張(事実上の推定)について原告らは,製品事故の被害者側は,当該製造物について通常の用法に従って使用していたにもかかわらず,生命,身体もしくは財産に被害を及ぼ す異常が発生したことを主張・立証すれば,当該製造物には欠陥が存することが事実上推認され,かかる推認を覆すためには,むしろ製造業者側において,当該製造物が通常有すべき しくは財産に被害を及ぼ す異常が発生したことを主張・立証すれば,当該製造物には欠陥が存することが事実上推認され,かかる推認を覆すためには,むしろ製造業者側において,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていないと根拠づける事情を積極的に反証する必要があるところ,本件の事実関係に鑑みれば,本件石鹸には欠陥の存在が事実上推認される旨主張する。 しかし,製造物責任法が,製品及び製品事故の個別性,多様性を重視し,欠陥の存否等に関する一般的な推認規定を置かなかったとの立法経過を踏まえれば,本件石鹸及び本件製品事故の内容を捨象して,原告らが主張するような事実上の推認を一般的に働かせることは困難である。また,事実上の推認とは,個々の事案の内容,性質や当該事実の立証の難易等も考 慮して,個別的に定まる経験則の問題であるところ,化粧品としての特性を有する製造物の使用により発症したアレルギー被害に関して欠陥を判断するには,上記した種々の事情を考慮,評価して初めてその存否が明らかになるという側面もあり,化粧品の使用により消費者に異常が発生したからといって,直ちに当該製品が通常有すべき安全性を欠いていると認め るべき経験則は存在しないといわなければならない。 したがって,本件石鹸に関して欠陥が事実上推認されるとの原告らの上記の主張は採用することができない。 エ被告悠香の主張(本件アレルギー発症原因の特定及び因果関係)について被告悠香は,有害ないし有毒な物質を含む製造物によって製品事故が生 じたのとは異なり,原告らは,身体にとって有用又は無害な物に対して誤って過剰な免疫反応が引き起こされることで生じるアレルギーを発症するに至ったのであるから,過剰な免疫反応を生じた使用者側の事情であって のとは異なり,原告らは,身体にとって有用又は無害な物に対して誤って過剰な免疫反応が引き起こされることで生じるアレルギーを発症するに至ったのであるから,過剰な免疫反応を生じた使用者側の事情であって,製造物それ自体に内在する性質とは無関係であることからすれば,原告らは本件アレルギーがなぜ生じたのかを特定し,その上で本件石鹸にな ぜ欠陥があるのかを明らかにする必要がある旨,本件アレルギーがなぜ発生したのかが特定されていないのであれば,欠陥と発生した被害との因果関係も認められない旨主張する。 しかし,本件石鹸の欠陥を検討する際,被告悠香も指摘するアレルギーの特性を十分踏まえた上で,後記に述べる種々の事情を考慮して決すべき ものであるが,本件アレルギーが身体に対する不利益をもたらす異常(疾患)であることは明らかであり,その判断に際して,本件アレルギーの発生原因や発生機序までを必ずしも具体的に明らかにしなければならないというわけではないと解される。そして,当該製品の欠陥を肯定し得る場合に,当該製造物を使用したことに起因して製品の使用者においてアレル ギー症状が発生したという点が明らかになれば,被害発生と欠陥との因果関係は肯定されるというべきである。前記認定のとおり,そもそも本件アレルギーは通常の成人発症のWDEIAとは異なる臨床症状をもつ小麦アレルギー患者群につき,本件石鹸の使用という臨床的観察から見出された疾患概念であって,後記認定のとおり,原告らはいずれも本件石鹸の使 用歴があり,また,専門医によって本件アレルギーであるとの確定診断を 受けたものであるから,原告らは本件石鹸を使用したことに起因して本件アレルギーを発症したことは明らかであって,本件石鹸に欠陥が存するといえる限りにおいて,原 ーであるとの確定診断を 受けたものであるから,原告らは本件石鹸を使用したことに起因して本件アレルギーを発症したことは明らかであって,本件石鹸に欠陥が存するといえる限りにおいて,原告らに生じた被害と当該欠陥との因果関係の存在は明らかというべきである。 以上によれば,被告悠香の上記主張はいずれも採用できない。 (3) 各考慮要素についてア被害の内容・程度(ア) 本件アレルギーの内容前記認定事実のとおり,現在までに本件アレルギーについて,以下の点が明らかになっている。本件石鹸は,その使用者に対して,配合成分 であった加水分解コムギ末(グルパール19S)を抗原とするアレルギー症状,すなわち本件アレルギーを発症させ得るものであり,本件アレルギーの発症機序としては,本件石鹸を洗顔等に使用することによって,その使用者が本件石鹸に含まれていた加水分解コムギ末であるグルパール19Sに対して経皮経粘膜的に感作を生じ,その後,経口摂取した 小麦に対してもアレルギー症状を引き起こすようになった。本件アレルギーの患者らは,本件石鹸を購入後,主に毎日の洗顔等に本件石鹸を継続して使用していたところ,使用開始から1年程度を経たところで,相当数の症例では,本件石鹸の使用時に皮膚の湿疹,赤み,眼瞼浮腫等を生じるようになり,また,ほぼ全ての症例において,経口摂取した小麦 成分に対してもアレルギー症状を生じるようになったという経過をたどった。そして,疫学的な調査結果によれば,本件アレルギーによる症状の特徴は,本件石鹸の使用時に,眼瞼浮腫や顔面の湿疹・蕁麻疹等の顔を中心とした局所的な症状を生じたほか,小麦摂取時に,小麦成分の摂取に運動負荷が加わることによって,ほぼ全症例において,眼瞼浮腫, 状の特徴は,本件石鹸の使用時に,眼瞼浮腫や顔面の湿疹・蕁麻疹等の顔を中心とした局所的な症状を生じたほか,小麦摂取時に,小麦成分の摂取に運動負荷が加わることによって,ほぼ全症例において,眼瞼浮腫, 顔面の紅斑,掻痒,蕁麻疹,鼻水といった皮膚症状を生じ,また,半数 程度の症例においては,嘔吐,下痢等といった消化器症状や呼吸困難といった呼吸器症状等,複数の臓器にわたる全身症状であるアナフィラキシー症状を生じ,更に約4分の1程度は意識消失,血圧低下といった,適切な処置を施さずに放置をすれば死に至る可能性もある危険な状態であるアナフィラキシーショックを生じたというものであった。前記認 定のとおり,食物アレルギーの中には,食物の摂取に加えて,二次的な要因である運動負荷が加わって症状を生じる食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)と呼ばれる病態が存するところ,現在までに明らかとなっている知見によれば,本件アレルギーは,上記の臨床症状に照らし,小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)の一 種ないし亜種として位置付けられる。 (イ) 本件アレルギーによる症状の程度(重篤性)a 前記認定事実によれば,本件アレルギーを発症した患者の個々の臨床症状は一様ではなく,本件石鹸を用いた洗顔時に,顔面を中心とした局所的な皮膚症状を生じるにとどまった症例もないわけではない が,ほぼ全ての症例において,単に製品使用時に生じる皮膚症状だけでなく,小麦を摂取した際にアレルギー反応を生じるという食物アレルギー(小麦アレルギーの一種である小麦依存性運動誘発アナフィラキシー)を発症したものであること,本件アレルギーを含む食物依存性運動誘発アナフィラキシーは,一般に食物アレルギーの中でもショ ックに至る可 アレルギーの一種である小麦依存性運動誘発アナフィラキシー)を発症したものであること,本件アレルギーを含む食物依存性運動誘発アナフィラキシーは,一般に食物アレルギーの中でもショ ックに至る可能性が高く,特に危険であるとされていること,実際に本件アレルギーを生じた半数近くの症例では,単なる皮膚症状にとどまらず,呼吸器,消化器,循環器及び精神神経といった多臓器にわたる全身性の症状であるアナフィラキシー,更には放置すれば死に至る危険性もあるアナフィラキシーショックまで生じたものも相当数み られたことが認められる。かかる事実に照らすならば,本件アレルギ ーを発症した場合の症状の程度は,相当に重いものということができる。 この点,本件アレルギーの臨床症状の特徴として,通常の小麦依存性運動誘発アナフィラキシーと比較した場合に,主たる症状は全身性蕁麻疹でなく眼瞼浮腫にとどまること,ショックを生じる割合につい ても低いと整理する見解もある(前記認定事実(9)イ)。しかし,これはあくまで通常型のWDEIAと比較した場合の本件アレルギーの特徴を指摘するものにすぎず,本件アレルギーの症状の程度が軽度であることを裏付けるものではない。かえって,通常の運動誘発性アナフィラキシーにおいては,原因食物の摂取に加えて明らかな運動負荷 をかけなければ症状は発現しないとされているのに対し,本件アレルギーは明らかな運動負荷がなくても,又は一般に運動とはいえない買い物や家事といった日常生活における行動に伴っても症状が誘発される点が特徴とされており,症状発現の頻度ないし行動の制約という観点からは,本件アレルギーは一般的な運動誘発性アナフィラキシー の中でも患者が受ける影響の度合いが大きい病態と評価することができる。 れており,症状発現の頻度ないし行動の制約という観点からは,本件アレルギーは一般的な運動誘発性アナフィラキシー の中でも患者が受ける影響の度合いが大きい病態と評価することができる。 b 被告悠香及び被告フェニックスは,本件アレルギーの予後につき,一般的な食物依存性運動誘発アナフィラキシーとは異なっており,本件石鹸の使用を中止することで大部分が治癒に向かい,小麦摂取が可 能なまでに回復し得ること,一部の難治性の症例においてもゾレア治療といった有効性のある新規治療が開発され,治癒の可能性が示されていることからすれば,被害の程度が重篤なものということはできない旨主張するところ,前記認定事実によれば,本件石鹸の使用を中止することで経時的に小麦及びグルテンに対する特異的IgE抗体値 が減少するなど,治癒の可能性も指摘されており,略治に至った症例 等も認められているところである。 しかし,製品に起因して発症した疾病が結果として治癒するからといって当該疾病を発症したこと及び現に症状が発現したことによって被った被害までもが回復されるわけではないことは明らかであること,前記認定事実及び後記7における本件アレルギーの一般的な予 後に係る知見によれば,本件アレルギーの根本的な治療法は現時点でも確立しておらず,略治に至った症例であっても相当長期間にわたって症状が継続するものであることからすれば,被告悠香及び被告フェニックスが指摘する上記の事情を本件石鹸の欠陥の有無を判断する上で重視することはできないというべきである。 c ところで,化粧品に含有された特定の成分が特定の使用者の体質と合わず,その成分が刺激となり,又は免疫的機序を介することで,使用者が当該化粧品を使用した部位 というべきである。 c ところで,化粧品に含有された特定の成分が特定の使用者の体質と合わず,その成分が刺激となり,又は免疫的機序を介することで,使用者が当該化粧品を使用した部位に皮膚のかぶれ,赤み,発疹といった症状が生じることがある。これについては前記のとおり,全ての使用者にとっておよそ何らの健康被害を引き起こす危険性もない化粧 品を作り出すことは限りなく不可能に近いという,化粧品の製造物としての特性を踏まえると,単に上記のような皮膚症状が生じ得ることのみをもって当該製造物が化粧品としての安全性を欠いているということはできず,当該化粧品の使用を中断することで症状の拡大や再発を避け得るようなものについては,仮にそのような症状を発生させ るおそれが否定できないとしても,適切な警告ないし表示を付した上で流通に置かれること自体は,生じ得る症状の程度,被害発生の範囲にはよるものの,社会的に許容されていると見ることができる。 これに対し,本件アレルギーは,単にその使用時に皮膚症状を生じるにとどまらず,食物アレルギーの一つである小麦アレルギーを生じ たというものであって,一旦感作が成立してしまえば,基本的には根 治が困難であり,以後,本件石鹸の使用とは関係がなく小麦製品を摂取する都度,症状が誘発されるというものであること,症状が誘発された場合,多くの症例において全身性症状であるアナフィラキシーに至ることからすれば,本件アレルギーの症状は,通常,化粧品の使用に由来するものとして社会的に想定できる健康被害の範囲から大き く逸脱しているということができる。これを本件石鹸を使用する消費者の側から見たならば,日常的に洗顔に用いる本件石鹸の使用に起因して,本件アレルギーのような食物アレルギーを発症 害の範囲から大き く逸脱しているということができる。これを本件石鹸を使用する消費者の側から見たならば,日常的に洗顔に用いる本件石鹸の使用に起因して,本件アレルギーのような食物アレルギーを発症し,根治困難な重い健康被害を受けることは全くの想定外であったといわざるを得ないのである。 (ウ) 以上によれば,原告らを含む本件アレルギーの発症者らは,本件石鹸に起因して,相当に重いアレルギー被害を被ったものであり,また,かかる被害は,通常,化粧品の使用に由来するものとして社会的に想定できる健康被害の範囲から大きく逸脱しているということができ,このような被害の内容・程度は,本件石鹸の欠陥の存在を基礎づける重要な事 情であるというべきである。 イ被害発生の蓋然性等(ア) 被告悠香及び被告フェニックスは,本件石鹸の使用者が本件アレルギーを発症する確率(発症率)は約0.03%という極めて低値にとどまっており,本件石鹸を使用したとしても被害を生じる蓋然性は乏しいと いうべきであるから,本件石鹸を全体として見たとき,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえない旨主張する。 アレルギー疾患一般は,個人の体質や素因等がその発症に影響を与えているともされ,また,全ての使用者にとっておよそ何らの健康被害を引き起こす危険性もない化粧品を作り出すことは限りなく不可能に近 いと考えられることからすれば,製品を使用した特定の者において製品 に起因してアレルギー症状が生じたからといって,直ちに当該製品が通常有すべき安全性を欠いているとはいえないと解され,その意味で,当該製品がいかなる蓋然性をもってアレルギー被害を生ぜしめる危険性があるのかについては,欠陥を判断する上での考慮要素となる場合があ 通常有すべき安全性を欠いているとはいえないと解され,その意味で,当該製品がいかなる蓋然性をもってアレルギー被害を生ぜしめる危険性があるのかについては,欠陥を判断する上での考慮要素となる場合があるものと考えられる。 しかし,欠陥すなわち製品が通常有すべき安全性を有しているか否かは,社会通念上相当とされる安全性の期待水準をもって判断されるのであって,欠陥の有無を判断する上で被害発生の蓋然性の程度が持つ意味も,生じる被害との相関関係によって判断すべきものと解するのが相当である。すなわち,製造物に内在する危険が存在するといっても,それ によって生じる被害の性質及び程度が,社会通念に照らし,許容限度内にとどまっているといえるような場合には,被害発生の蓋然性がそれなりにあっても,そのことだけをもって,当該製造物として通常有すべき安全性を備えていないとはいうことはできないと評価されることもあろう。しかしながら,製造物に内在する危険が,重篤な健康被害を生じ させる場合のように,生じる被害の性質及び程度が社会通念に照らし,許容限度内にとどまっているとはいえないような場合には,被害発生の蓋然性は低くとも,当該製造物として通常有すべき安全性を備えているとはいえない場合もあるものと考えられる。このようなときに,被害発生の蓋然性が低いことをもって欠陥を否定すべき事情とみるのは適当 ではないと解される。 かかる観点から本件石鹸に起因する被害の性質及び程度を見た場合,前記アのとおり,本件アレルギーは,その臨床症状に照らして,小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの一種に分類されるところ,本件石鹸の使用時だけでなく,日常生活における小麦摂取時に症状が誘発され得る こと,一旦感作が成立すると,本件石鹸の使用を中止しても小麦の摂取 誘発アナフィラキシーの一種に分類されるところ,本件石鹸の使用時だけでなく,日常生活における小麦摂取時に症状が誘発され得る こと,一旦感作が成立すると,本件石鹸の使用を中止しても小麦の摂取 を控えなければ症状の発現を避けられないこと,誘発される症状の内容も全身性のアナフィラキシー症状を生じる割合が高いこと等に照らせば,本件石鹸に内在する危険によって生じる被害は重い健康被害を伴うものということができる。そうであれば,本件石鹸の使用者全体でみた場合に,仮に本件アレルギーを発症したことが確認された者の割合が0. 03%程度にとどまるとしても,そのことをもって,本件石鹸の欠陥を否定すべき事情として重視することはできない解される。 (イ) 被告悠香は,米国における判例において,アレルギー被害が発生した製品について製造物責任を問うには,発症率が0.1%を上回らなければならないとの基準が採用されているとして,その裏付けとしてテキサ ス州弁護士ゲリー・ローリーらの作成に係る意見書(乙イB24)を証拠として提出する。しかし,同意見書が述べる内容は,米国のいくつかの判例の分析によれば,米国の裁判所においては,概して,消費者全体の相当数がアレルギー反応を起こしやすい場合に限り,製造者が責任を負うという立場をとっているとの見解を述べた上で,数件の州裁判所及 び連邦裁判所の判例を紹介し,米国の裁判所が,本件石鹸に含まれるグルパール19Sによって消費者に本件アレルギーが生じたと主張することを,製造物責任についての相当数とみなす可能性は低いと結論付けているにすぎないところ,法制度が異なる米国における議論が直ちに我が国に妥当するものとは解されない上,上記意見書において分析の対象 とされた判例が必ずしも本件と同様 なす可能性は低いと結論付けているにすぎないところ,法制度が異なる米国における議論が直ちに我が国に妥当するものとは解されない上,上記意見書において分析の対象 とされた判例が必ずしも本件と同様の健康被害を問題とするものではなく,意見書自体「反応の重症度は,米国裁判所により考慮される可能性がある」旨の言及をしているところであるから,意見書が述べる基準自体どこまで確立されたものか判然としないといわざるを得ない。そうすると,上記意見書の存在は,前記認定を左右するものとはいえないと いうべきである。 (ウ) また,被告フェニックスは,本件アレルギーと同種のアレルギーである通常の小麦アレルギーに関する日本人の有病率は0.21%であり,アトピー性皮膚炎の20~30歳代の有病率をみても9%であるのに対し,本件アレルギーの発症率はわずか0.03%にとどまり,その割合は極めて小さいことを指摘する。しかし,被告フェニックスの主張す る小麦アレルギーの有病率等は,単にそのような疾患を有している国民の割合を示すものにすぎず,これと比較して本件石鹸を使用した場合に本件アレルギーを発症する割合に係る数値が小さいからといって,直ちに本件石鹸が製造物として通常有すべき安全性を欠いているか否かの評価に結びつくわけではないから,かかる主張も採用することはできな い。 以上によれば,被害の蓋然性に関する被告悠香及び被告フェニックスの主張はいずれも採用することができない。 ウ法令等への適合性等(ア) 本件石鹸の全販売期間にわたって,薬事法上の化粧品及び医薬部外 品を製造販売するに当たっては,個別品目ごとに,厚生労働大臣の承認を得る必要があったところ(薬事法14条),本件石鹸はそのいずれについても,被告 間にわたって,薬事法上の化粧品及び医薬部外 品を製造販売するに当たっては,個別品目ごとに,厚生労働大臣の承認を得る必要があったところ(薬事法14条),本件石鹸はそのいずれについても,被告フェニックス又は被告悠香の申請によって,上記の製造承認を得て販売されていたことが認められる(乙ロA1,2,乙イA16〔枝番を含む。〕)。 薬事法が医薬部外品等の製造販売に際して上記の規制を設けている趣旨は,医薬部外品等が人の身体に作用する製品であることから,その物が品質,有効性及び安全性からみて医薬部外品等としてふさわしいものであるか否か,つまりその物が一般に流通して国民の生活に使用されることが適当か否かを審査し,適当と認められるものについて承認を与 え,不適当な医薬部外品等の出現を防止し,もって,国民全体における 「保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止」(同法1条)を達成するものであると解される。この点,一般に,行政上の製品安全規制は,製品事故の防止を目的として製品の製造販売に際して充足すべき基準を定めた取締規定であるとともに,企業の製品安全対策や消費者の購入,使用に係る評価の水準ともなり得るものであるから,製造物が安全性の確保 を趣旨とする行政規制に適合しているか否かは,当該製品における製造物責任法上の欠陥を判断する際にも考慮されるべき事情となり得るというべきである。 他方で,行政上の安全規制は,製品の製造過程の規格を定めるなどして,製品事故を未然に防止するために満たすべき最低限度の基準を定め たものであるし,製造物責任法は実際に生じた製品事故について製造業者の損害賠償責任の当否を決することで被害者救済のための規範を定めたものであり,上記の行政規制とは趣旨,目的が異なるものであることから ものであるし,製造物責任法は実際に生じた製品事故について製造業者の損害賠償責任の当否を決することで被害者救済のための規範を定めたものであり,上記の行政規制とは趣旨,目的が異なるものであることからすれば,事故をもたらした当該製品が行政法規上の安全規制に適合したものであったとしても,そのことにより直ちに製造物責任法上の 欠陥が否定されるということまで意味するものではない。 したがって,本件石鹸は,上記のとおり,薬事法上の製造承認を得たものであったが,かかる事情が欠陥判断においていかなる意義を有するものであるかについて,更に進んで検討することとする。 (イ)a 前記認定事実によれば,本件石鹸の引渡し当時,製造販売に係る製 品につき製造承認を得るためには,製造販売業者は厚生労働省令で定めるところにより,原則としてその申請書に臨床試験の試験成績に関する資料,具体的には,安全性に関する資料として皮膚感作試験や皮膚刺激試験の結果等を添付して申請することが求められていたが,当該製品の配合成分がいずれも過去に医薬部外品等の原材料として使 用され,当該製品が承認された前例(承認前例)が存在する場合ない し公定書に収載された成分であった場合には,その旨把握できる資料を添付しさえすれば,当該成分につき安全性等に係る試験結果の添付を省略することが許容されていた。したがって,石鹸の製造業者としては,その配合成分につき,それが承認前例を有する成分であること又は公定書に収載された成分であることを明らかにして承認申請を 行えば,自ら当該製品の安全性等に関して試験を実施せずとも,製造承認を得ることができるというものであったと認められる。 そうすると,被告フェニックス及び被告悠香が製造承認を得て 行えば,自ら当該製品の安全性等に関して試験を実施せずとも,製造承認を得ることができるというものであったと認められる。 そうすると,被告フェニックス及び被告悠香が製造承認を得ているとしても,安全性確認について,法規制上求められているものは上記の限りであって,本件アレルギーとの関係でいえば,法規制に適合し ていることをもって安全性が担保されているものと評価できるものでもない。 b また,本件アレルギーの原因物質となったグルパール19Sは,前記認定事実のとおり,粧外規1993追補に収載された「加水分解コムギ末」と規格において同一の成分であり,以後,本件石鹸の引渡し 当時においても,公定書収載の「加水分解コムギ末」と同規格の成分であった。ここで,公定書に収載される成分は,新規収載時に厚生省又は厚生労働省が,当該成分の製造業者等に応募を募り,過去に当該成分が医薬部外品等に使用された前例(承認前例)が一定数存在するかといった事情を要件として判断し,その採否を決定するものである (乙ロA31)。したがって,公定書に収載された成分は,過去に一定数の使用前例があること,すなわち,当該成分を含む医薬部外品等につき,安全性試験等の添付を要する製造承認を経て実際に製品に使用されたという実績があることを示すものである。 もっとも,本件石鹸にグルパール19Sが配合されるのに先立ち, 平成3年頃,リアルにおいてグルパール19Sを配合した製品(医薬 部外品)につき薬事法上の製造承認を取得していたこと(乙ハA40)は認められるも,リアルが上記の製造承認を得た際にいかなる資料を添付して申請を行ったのか,又は資料添付を行わなかったのかについては証拠上明らかでなく,安全性がどの程度確認されたのかは明らか 40)は認められるも,リアルが上記の製造承認を得た際にいかなる資料を添付して申請を行ったのか,又は資料添付を行わなかったのかについては証拠上明らかでなく,安全性がどの程度確認されたのかは明らかでない。なお,リアルが製造承認を得た製品はスクラブクリームとも されており(乙ハA40),その承認時に何らかの安全性試験が実施されていたとしても,その結果をもってして本件石鹸のような用途・用法に用いる場合の安全性についてまで担保されたと評価することもまた困難である。 (ウ) また,前記認定事実及び証拠(乙ハA4)によれば,被告片山化学は, グルパール19S自体の感作性について,自社に安全性試験等を実施するノウハウがないため安全性試験を実施しておらず,また,外部に委託して試験を行ったこともなく,それゆえ,被告フェニックスに対し,本件製品安全データシートに「感作性:データなし」と記載してその旨の情報を示していたこと,被告フェニックスないし被告悠香は,被告片山 化学から,グルパール19Sの感作性につき「データなし」と記載された本件製品安全データシートの交付を受けながら,被告片山化学から,同成分は公定書における加水分解コムギに該当するものであり,承認前例があるとの情報も得ていたため,製品の販売に際しての一般的な検査等(乙ロA7,8)のほかに,特段,自社又は外部に嘱託するなどして 同成分に着目した十分な安全性試験等を積極的に実施することなく,そして,本件石鹸の製造承認を申請時には,申請区分2によって安全性試験の結果等の資料添付をせずに申請を行い,製造承認を得たものと認められる。 このように,法規制への適合とはいっても,グルパール19Sが配合 された本件石鹸を人体に接触して使用した場合にアレルギー反応を生 申請を行い,製造承認を得たものと認められる。 このように,法規制への適合とはいっても,グルパール19Sが配合 された本件石鹸を人体に接触して使用した場合にアレルギー反応を生 じるか否かという感作性の点について,安全性に関する十分な試験を,結局,一度も実施されないままに,製品を市場に流通することが可能となっていたものである。 (エ) 以上によれば,本件石鹸及びグルパール19Sについて,薬事法等の法規及び行政規制に反するものではなく,本件石鹸が法令等に適合した 製品であったとしても,そのことを本件石鹸ないしグルパール19Sの製造物としての欠陥を考える上で特段重視すべき事情に位置付けることはできないと解するのが相当である。 エ指示・警告の有無・内容(ア) 本件石鹸の外箱や包装等には,本件石鹸の全配合成分が表示されてい たほか,「※お肌に異常がある時,お肌に合わない時はご使用をお止めください。」(乙イA1の1),「お肌に合わないときはご使用をおやめください」(乙イA1の2),「使用及び保管上の注意」,「傷,湿しん等,お肌に異常のある時は,ご使用にならないでください。」,「使用中,赤み,かゆみ,刺激等の異常が出た場合は,使用を中止し皮膚科専門医へご相談 ください。」(乙イA1の18),「目に入らないようご注意ください。入った場合はこすらずにすぐに洗い流してください。」,「使用中,赤み,かゆみ,刺激及び目に異物感が残る場合は,使用を中止し皮膚科専門医又は眼科医にご相談ください。」(乙イA1の34)などと記載されており,これによれば,本件石鹸の使用者に対し,何らかの皮膚障害が存する場 合には本件石鹸の使用を控える旨,及び本件石鹸の使用時に何らかの皮膚の異変等を生じた場合には 1の34)などと記載されており,これによれば,本件石鹸の使用者に対し,何らかの皮膚障害が存する場 合には本件石鹸の使用を控える旨,及び本件石鹸の使用時に何らかの皮膚の異変等を生じた場合には,本件石鹸の使用を中止するよう注意を喚起する内容の指示,警告がされていたことが認められる。 しかしながら,本件アレルギーの主たる症状は,本件石鹸時における局所的な皮膚障害ではなく,小麦成分を摂取した後に全身に生じる皮膚 症状,消化器症状及び呼吸困難といったアレルギー症状であるところ, 上記の指示,警告は,かかる症状の発現につき,注意喚起を促すものではない。これを要するに,本件石鹸に付された指示,警告は,本件石鹸の使用時に皮膚障害が生じ得ること及びそのような症状が生じた場合に使用を中止するよう喚起する旨にとどまっており,本件アレルギーを発症した患者らにおいてその危険性を認識させるに足りるものではな かったというべきである。 (イ) 被告悠香及び被告フェニックスらは,本件アレルギーの初期症状は,本件石鹸の使用時に目や顔に単独症状を生じるものであるから,その時点で本件石鹸の外箱や包装に記載された上記の指示,警告に従って本件石鹸の使用を中止すれば,症状の重篤化を回避できた旨主張する。 しかし,前記認定事実によれば,本件アレルギーの特徴は,本件石鹸の使用を継続する中で,経口摂取した小麦に対しても反応を生じるといった症状が出るようになるものであって,本件石鹸使用時には明確な症状が発現しないものの,小麦摂取時に症状が発現する者も相当数みられるところである。そうすると,上記の指示,警告があるからといって, 本件石鹸の使用者らにおいて,本件アレルギーの重篤化を回避するような行動をとることを期待す 時に症状が発現する者も相当数みられるところである。そうすると,上記の指示,警告があるからといって, 本件石鹸の使用者らにおいて,本件アレルギーの重篤化を回避するような行動をとることを期待することは困難というべきであり,被告悠香及び被告フェニックスの主張は,本件アレルギーの病態にそぐわないものであって,その前提を欠いており,採用することはできない。 (ウ) また,被告フェニックスは,製品により生じ得る危険性に関して,製 造業者において予見可能性がない場合に,そのような危険性に対応した指示,警告の記載を求めることは製造業者に不可能を強いるものにほかならず,製品に付された指示,警告が危険防止のために適切であったか否かを論じるには,製造業者の予見可能性が前提となる旨主張する。しかしながら,製品に付された指示,警告が適切でなかったことを要素と して製品の欠陥の有無を判断する場合に,製品の引渡し時点で予見し得 ない危険性についての指示,警告がなくとも不適切といえないと解されることはそのとおりとしても,本件石鹸に配合された成分に関する安全性の欠如を要素として欠陥の有無を判断する際においては,製品に付された指示・警告が不適切なものであったかという点は,製品全体の客観的な安全性を論じる上での一事情としての意味を有するにとどまるも のと解され,端的に,製品設計上の危険性が製品の使用者らに告知されていたか否かを考慮することも許されると解される。 (エ) 以上によれば,被告フェニックス及び被告悠香が付していた上記の警告表示をもって,本件石鹸の欠陥を否定する事情と見ることはできない。 一方において,本件アレルギーの特徴が,本件石鹸の使用を継続する 中で,経口摂取した小麦に対しても反応を生じるとい 上記の警告表示をもって,本件石鹸の欠陥を否定する事情と見ることはできない。 一方において,本件アレルギーの特徴が,本件石鹸の使用を継続する 中で,経口摂取した小麦に対しても反応を生じるといった症状が出るようになるというものであることに照らすならば,本件石鹸について,本件アレルギーを発症させ得る危険性がある旨の表示があったとしても,消費者において適切に危険回避の判断をできたとも考えられない上,本件アレルギーの被害の重さに鑑みれば,このような表示があることによ って本件アレルギー発症についての危険を消費者が受け入れたとも評価し難い。そうすると,本件石鹸に本件アレルギーを発症させ得る危険性がある旨の表示がなかったことのみをもって,通常有すべき安全性を欠いていたと考えることもできないのであり,結局のところ,本件石鹸に欠陥があったか否かの判断において,指示,警告が適切なものであっ たかどうかについて,考慮要素として重視すべきものとは解されない。 オ製品の効用及び有用性被告悠香及び被告フェニックスは,本件石鹸を含む化粧品一般について,化粧品には人に対して美容効果をもたらすという効果があることに加え,本件石鹸は抗菌作用,抗酸化作用及び消臭作用を有する茶カテキンを含む 茶葉を配合し,更にグルパール19S等の成分を含み,保湿性,起泡性に も優れた製品であって,総販売個数4650万個という爆発的に販売された商品であることも本件石鹸の製品としての評価を裏付けているとして,本件石鹸は様々な化粧品の中でも特に有用性の高い製造物である旨主張する。 およそ製品は製造,販売され,社会に流通しているものである以上,何 らかの有用性ないし社会的必要性が一応は存在していると考えられるから,そのような事情をもっ 性の高い製造物である旨主張する。 およそ製品は製造,販売され,社会に流通しているものである以上,何 らかの有用性ないし社会的必要性が一応は存在していると考えられるから,そのような事情をもってなお欠陥判断において考慮するには,その有用性や効用の具体的内容や程度,危険を回避し得る代替性の有無等を踏まえて評価する必要があるものと解される。 前記認定事実によれば,本件石鹸には皮膚の洗浄作用のみならず,抗菌 作用,抗酸化作用及び消臭作用を有する茶エキスを配合し,保湿性,起泡性にも優れた製品として宣伝され,販売されたことが認められる。しかしながら,その宣伝されている効能に照らしても,本件石鹸の効用は,洗顔用石鹸としての効用の域を出るものとはいえず,本件石鹸と同様の効用を得るための手段が他に存在しないなどと認めるに足りる証拠もない。また, 他の洗顔用石鹸と比較した場合に,本件石鹸に特有の消費者の需要を喚起する効用又は有用性があったとしても,このことが重い健康被害を生じさせる危険性を社会一般が許容していたことの根拠となるものではない。 したがって,被告悠香及びフェニックスが本件石鹸の効用又は有用性として主張する事情については,本件石鹸の欠陥の存否を考える際に,特段, 意味を持つ事情であると捉えることはできないというべきである。 カ本件石鹸の引渡し当時の科学技術的水準(ア) 製造物責任法は,製造業者等が「当該製造物を引き渡した時期」(同法2条2項)を欠陥の考慮要素として明記しているところ,その意味は,欠陥の判断時点が「製造物を引き渡した時期」であること,すなわち当 該製造物が製造業者によって引き渡された時点を基準として当該製造 物の欠陥の存否が決せられることを確認する趣旨であるととも 点が「製造物を引き渡した時期」であること,すなわち当 該製造物が製造業者によって引き渡された時点を基準として当該製造 物の欠陥の存否が決せられることを確認する趣旨であるとともに,欠陥の有無を判断するに際しては,当該製造物を「引き渡した時期」における製品に対する社会通念上相当とされる安全性の期待水準により欠陥の判断がされることを示しているものと解される。 製造物が通常有すべき安全性を欠いているか否かは,当該製造物の危 険性と有用性の衡量や当該製造物に対する消費者の期待のみを基準として決せられるのではなく,製品の特性,被害内容その他事案の性質に鑑みて社会通念,すなわち,製品に対する社会の期待,常識等が基準となって判断されるところ,このような社会常識等は科学技術的な水準も一つの裏付けとなっていることから,製品を引き渡した当時の実用的な レベルによる科学・技術水準等はかかる社会通念を基礎づける要素として,欠陥判断において意味を持ち得るということができる。 (イ) 前記認定事実によれば,現在までに,本件アレルギーの機序は,本件石鹸に含まれていた加水分解コムギ末であるグルパール19Sが,使用者に対して経皮経粘膜的に感作を生じさせ,その後,使用者の体内に生 成された抗体と経口摂取した小麦とが反応することでアレルギー症状を引き起こしたものであると判明していることが認められる。しかし,このような本件アレルギーの機序自体,本件製品事故が社会的に問題となり,専門医や研究者らの臨床研究,疫学調査等の結果が積み重なって初めて明らかになったものということができ,本件製品事故が社会的に 明らかになる以前において,洗顔用石鹸に含まれた加水分解コムギ末により,本件製品事故と同様の被害が生じ得るということは,化粧 初めて明らかになったものということができ,本件製品事故が社会的に 明らかになる以前において,洗顔用石鹸に含まれた加水分解コムギ末により,本件製品事故と同様の被害が生じ得るということは,化粧品又は石鹸の製造業界の実用レベルにおいて予想されていなかった現象ということができる。 また,本件石鹸は,薬事法上の製造承認を得て製造販売されていたも のであるところ,グルパール19Sについても公定書に収載された成分 (「加水分解コムギ末」)と規格上同一の成分として,医薬部外品等に使用し得る原料の一つと製造業者の間において認識されており,他の化粧品や食品等にも原材料として広く使用されていたことに照らすと,本件石鹸の引渡し当時の実用的な科学技術水準において,本件石鹸又はグルパール19Sが健康被害を引き起こす危険があるものであるとの認識 は存在していなかったものと認められる。 以上によれば,引渡し当時の実用的な科学技術水準において,本件アレルギーの発生が予想されていなかったこと,本件石鹸又はグルパール19Sが健康被害を引き起こす危険があるものであるとの認識は存在していなかったことは,本件石鹸の欠陥を判断する上で考慮すべき事情 ということができる。 (ウ) この点に関し,被告片山化学は,製品の引渡し当時の科学技術的水準を欠陥の判断に際して考慮すること自体は開発危険の抗弁が設けられた法の趣旨と矛盾せず,また,過失責任との混同を招くものでもないなどとして,本件石鹸ないしグルパール19Sの引渡し当時の科学技術水 準によれば本件アレルギーの発生という事象は通常の企業や一般人はおろか,専門医ですら想定できなかったものであるから,結論においてかかる水準を含む社会通念によれば本件石鹸は通常有すべき安全性を欠い 準によれば本件アレルギーの発生という事象は通常の企業や一般人はおろか,専門医ですら想定できなかったものであるから,結論においてかかる水準を含む社会通念によれば本件石鹸は通常有すべき安全性を欠いていたとは認められない旨主張する。また,被告悠香は,本件石鹸の引渡し時において,小麦成分をどのように加工,分解すれば人に対し て経皮経粘膜感作を生じるなどして本件アレルギーを発症させることになるのかを明らかにする医学的知見は存せず,同種の製造業者において本件アレルギーの発生を予見することはできなかった旨主張する。 製造物責任法が,一般不法行為における過失の要件に代えて欠陥を要件として導入することにより被害者保護を図った趣旨を踏まえるなら ば,当該製造業者の予見可能性や結果回避可能性の有無を欠陥判断の考 慮要素とすることはできないとしても,前記のとおり,製品を引き渡した当時の実用的なレベルにおける科学・技術水準は欠陥判断の考慮要素となり得るものではある。しかしながら,製品を引き渡した当時の実用的なレベルによる科学・技術水準等を製品の欠陥判断において考慮することができるとする意味は,あくまで種々の要素によって裏打ちされた 製品に対する社会通念上相当とされる安全性の期待水準を検討する上で,製品の引渡し当時の社会通念を支える一要素として考慮することが許されるにすぎず,当時の科学・技術水準に照らして危険を予見できなかったことが,直ちに欠陥の存在の否定に結びつくものではないと解される。 したがって,上記の被告片山化学及び被告悠香の主張は,直ちに採用することができない。 (エ) また,被告フェニックスは,当時の実用的な科学技術の水準に照らして危険性のない製品を製造できたか否か及び製造物の代替設計が可能 び被告悠香の主張は,直ちに採用することができない。 (エ) また,被告フェニックスは,当時の実用的な科学技術の水準に照らして危険性のない製品を製造できたか否か及び製造物の代替設計が可能であったか否かは,欠陥判断において重要な意味を有するとして,本件 石鹸の引渡し当時,本件アレルギーの発生機序等を明らかにした知見は存在せず,被告らが本件アレルギーを回避し得る製造物を設計することは困難であり,本件石鹸においては安全な代替設計を採用することはできなかった旨主張する。しかしながら,製品を引き渡した当時の実用的なレベルによる科学・技術水準等を製品の欠陥判断において考慮するこ とができるのは,あくまで製品に対する社会通念上相当とされる安全性の期待水準を検討する上で考慮することが許されるにすぎないというべきであるから,代替設計の可否を問う前提として,当該製造業者における危険性の認識可能性(予見可能性)を問題とすべき必然性はなく,製品の設計上の安全性の欠如を考える際には,当時の科学技術的水準に 照らして製造物の危険を排除ないし回避するための設計が客観的に可 能であったか否かを考慮すべきと解される。 そうすると,本件石鹸に含有され,本件アレルギーの原因物質となったグルパール19Sは,泡の改質作用や保湿性に優れるという特徴から本件石鹸の配合成分として採用されたものではあるが,同成分が本件石鹸の組成上,必要不可欠なものであったと認めるに足りる証拠はなく, むしろ,前記認定事実によれば,被告悠香及び被告フェニックスは,本件アレルギーに係る問題が社会的に明るみになるや否や,直ちにグルパール19Sを本件石鹸の配合成分から除去し,以後,プロモイスWG-SPや加水分解シルクといった別の成分を配合して製 フェニックスは,本件アレルギーに係る問題が社会的に明るみになるや否や,直ちにグルパール19Sを本件石鹸の配合成分から除去し,以後,プロモイスWG-SPや加水分解シルクといった別の成分を配合して製品の販売を継続していたことからすれば,グルパール19Sを配合せずに,本件石鹸と 同様の機能を有する洗顔用石鹸を設計することは本件石鹸の引渡し当時においても,客観的に十分可能であったことが窺われる。 以上によれば,被告フェニックスの上記主張もまた採用の限りではない。 (4) 小括 以上を総合考慮すると,一般に,化粧品において不可避的に生じ得ることが想定されている皮膚障害とは,化粧品に配合された化学物質等に皮膚が触れることでその刺激により紅斑,腫脹等を生じたり,又は特異的免疫反応を介して皮膚に同様の症状を生じたりするなど,比較的軽微かつ局所的なものであり,また,当該化粧品の使用を中止することで症状の悪化,再発を回避 し得るものであると考えられるのに対し,本件アレルギーは,皮膚症状にとどまらず,患者の多数が全身性の症状であるアナフィラキシーを生じ得るものであり,ショックを生じた例も少なくないなど相応に重い症状に至ること,本件石鹸の使用時にのみ症状が発現し,その使用を中止すれば症状の発現を避けられるものでもないことなど,その被害の性質,程度は,化粧品の使用 により通常想定され得る健康被害の範囲から大きく逸脱した重篤なもので あったということができ,このことは,本件石鹸の欠陥の存在を基礎づける重要な要素というべきである。 そして,本件石鹸の効用及び有用性は,その宣伝されている効能に照らしても,洗顔用石鹸としての効用の域を出るものとはいえず,他の洗顔用石鹸と比較した場合に,本件石鹸に特有の消費者の需要 べきである。 そして,本件石鹸の効用及び有用性は,その宣伝されている効能に照らしても,洗顔用石鹸としての効用の域を出るものとはいえず,他の洗顔用石鹸と比較した場合に,本件石鹸に特有の消費者の需要を喚起する効用又は有用 性があったとしても,重い健康被害を生じさせる危険性を社会一般が許容していたといえるものではなく,また,本件アレルギーを生じさせないような代替設計を行うことは,本件石鹸の引渡し当時においても十分可能であったと認められる。このような事情を考慮するならば,本件石鹸は法令等の規制に適合し,適法に製造販売された製品であったこと,当時の実用的な科学技 術的水準からすれば,本件石鹸は安全な製品と認識されており,被告悠香や被告フェニックスを含む製造業者らにおいて本件アレルギーによる被害を具体的に想定して製品を開発,製造することは困難であったことという事情を考慮したとしても,本件石鹸は,洗顔用石鹸ないし化粧品として社会通念上許容されている皮膚障害等の程度を超えて,食物アレルギーたる小麦依存 性運動誘発アナフィラキシーに分類される重篤なアレルギー症状を引き起こす危険を有していた点において,その製品設計上,洗顔用石鹸ないし化粧品として通常有すべき安全性を欠く欠陥があったものと認めるのが相当である。 したがって,争点2に関する原告らの主張には理由がある。 4 争点3(本件石鹸の製造業者等について開発危険の抗弁が成立するか。)に対する判断(1) 開発危険の抗弁の意義ア適用対象について製造物責任法は,当該製造物を引き渡した時における科学又は技術に関 する知見によっては,当該製造物にその欠陥があることを認識することが できなかったことを製造業者等が立証した場合,製造業者等は免責され 物を引き渡した時における科学又は技術に関 する知見によっては,当該製造物にその欠陥があることを認識することが できなかったことを製造業者等が立証した場合,製造業者等は免責されるとして,いわゆる開発危険の抗弁を定めており(同法4条1号),本件において,被告悠香及び被告フェニックスは,本件石鹸の製造業者等として,上記開発危険の抗弁が成立する旨主張している。 原告らは,開発危険による製造業者等の免責を認めることは,未知の危 険による事故が生じた場合にその損害を消費者に負担させることになりかねないものであることから,同抗弁を適用するにはそのようなリスクを消費者に負担させる合理的理由がなければならないとして,製造物による未知の危険により事故が生じた場合にその損害を消費者に負担させてもなお技術革新等を進めることが消費者及び社会全体にとって有用である と認められる場合等においてのみ,免責が正当化されるところ,このようなことからすれば,開発危険の抗弁により免責される製造物とは,医薬品や最先端技術を用いるごく一部の化学製品等に限られる旨主張する。 しかしながら,製造物責任法4条1号の規定は,開発危険の抗弁の適用対象となる製造物について特に限定していない。後述するように,同号の 適用に当たっては,製造物引渡し時に入手可能な世界最高水準の知見が判断基準となることからすれば,結果的に最先端技術を用いる技術分野以外において,この抗弁が成立する場面は限られると解されるものの,それは,要件充足判断の結果であって,適用対象を限定するようなものではないと解される。 したがって,本件石鹸は開発危険の抗弁の適用対象となる製造物に当たらない旨の原告らの主張を採用することはできない。 イ 「科学又は技術に関する知見」 ようなものではないと解される。 したがって,本件石鹸は開発危険の抗弁の適用対象となる製造物に当たらない旨の原告らの主張を採用することはできない。 イ 「科学又は技術に関する知見」の意義等(ア) 製造物責任法が,一般不法行為法の特則として,不法行為における過失の要件に代えて製造物の通常有すべき安全性の欠如という客観的な 性状をもって製造業者等に対する帰責要件とした趣旨,及び同法4条1 号の文言上,単なる「知見」ではなく,「科学又は技術に関する」との限定を付していることに鑑みれば,同号にいう「科学又は技術に関する知見」とは,科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて,広く,当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識の全てをいい,それは,特定の者が有するものではなく客観的に社会 に存在する知識の総体を指すものであり,製造業者が製造物を引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の全てをいうと解するのが相当である。 ここで,欠陥の判断の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識というためには,ある知見が特定の学者の頭の中にのみ存 在する段階にとどまるような場合はこれに含まれず,教科書,雑誌,研究報告書等のような形でそのような知識が客観的に社会に存在し,知識,経験,実験等によって裏付けられ,特定の科学,技術の分野において認知される程度に確立されていることを要するというべきであるが,その程度で足りるというべきである。このような意味における知見が,知識 として社会に存在している限り,当該知識に対してその詳細が科学的に異論なく証明されていることや,当該知識が特定の分野で定説や通説になっていることなどは不要である。また,知見の入手可能性に 識 として社会に存在している限り,当該知識に対してその詳細が科学的に異論なく証明されていることや,当該知識が特定の分野で定説や通説になっていることなどは不要である。また,知見の入手可能性についても,情報通信技術の発達した現在においては,ほぼ問題となり得る余地はないというべきである。 そして,製造業者等は,上記した世界最高水準の知的水準をもってしても,なお「当該製造物の欠陥を認識することができなかったこと」を証明した場合に限って,同号により免責されるものであり,製造業者等における具体的な個々の企業の規模や技術水準によって免責の当否が決せられるわけではないと解するのが相当である。 (イ)a 被告悠香は,「科学又は技術に関する知見」の意義として,欠陥の 有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識というには,特定の学者が述べているにすぎない知識では足りず,一定程度の学者らによるコンセンサスの形成が必要であり,また,その内容も十分な検証がされたものでなければならない旨主張するが,かかる見解は,製造物責任法が,製造物の通常有すべき安全性の欠如という客 観的な性状をもって製造業者等に対する帰責要件とし,広く被害者救済を図ることとした趣旨に反して広範に免責の余地を認めるものであって,採用することはできない。 b また,被告悠香及び被告フェニックスは,本件で問題となる医学・生理学の分野において新たに発見された知識や仮説等は,数例の症例 報告から始まり,実験等の過程を経て初めて知見として確立するものであって,ある見解が信頼性を有するものか否かは,当該文献に係るエビデンスレベルを慎重に判断する必要があり,特に通説的見解に反するような見解については,それが確立したと評する 知見として確立するものであって,ある見解が信頼性を有するものか否かは,当該文献に係るエビデンスレベルを慎重に判断する必要があり,特に通説的見解に反するような見解については,それが確立したと評するには相当の裏付け,検証を要するところ,そのような学術分野の特性を無視して単な る症例報告にとどまるような知識について欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された「知見」に含める解釈は妥当ではない旨主張する。 しかしながら,開発危険の抗弁の当否は,特定の業界ないし学術分野の水準に基づいて確立された知見をもって欠陥の有無を認識でき たか否かを判断するものではなく,最先端の知識から初歩的な知識までを含むおよそ製造物の引渡し時において入手可能であった知識の総体としての世界最高水準の知見をもってして,その認識可能性を問うものである。したがって,症例報告に基づく知識のようなものであっても,同抗弁の判断において参照すべき知見に含まれるとした上で, そのような知識の総体をして欠陥の有無が認識できなかったといえ るかを裁判所が判断する際に,知識の信頼性の程度や意味内容等が勘案されると解するのが相当である。 c さらに,被告悠香は,開発危険の抗弁は,製造業者等に対する行為規範となるものであるところ,欠陥を認識できなかったか否かは,世界最高水準の知見をもって当該製造物と同種の製造物を製造する製 造業者にとって当該欠陥を認識できなかったか否かという基準により判断すべきである旨主張するが,同抗弁が規定された趣旨に照らして,その判断は世界最高水準の知見を有する規範的主体としての製造業者を裁判所が想定して判断するものと解するのが相当であるから,被告悠香のかかる主張は採用できない。 規定された趣旨に照らして,その判断は世界最高水準の知見を有する規範的主体としての製造業者を裁判所が想定して判断するものと解するのが相当であるから,被告悠香のかかる主張は採用できない。 (2) 開発危険の抗弁における認識の対象製造物責任法4条1号によれば,製造業者等は当該製造物を引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,「当該製造物に欠陥」があることを認識することができなかったことを立証した場合に免責を認めているところ,前記のとおり,本件石鹸の欠陥は,食物アレルギーである小麦依 存性運動誘発アナフィラキシーに分類される重篤なアレルギー症状を引き起こす危険を有していたことである。したがって,製造業者の認識不可能性の対象となるのも,上記の製造物の欠陥である。そうすると,欠陥該当性を論じるに当たって,具体的な欠陥部位の特定や事故発生に至る機序等を特定する必要が必ずしもないのと同様,開発危険の抗弁を検討する際にも,現実 に起きた具体的なアレルギー症状の機序自体についての認識可能性を問題にすべきではなく,本件石鹸の引渡し時において入手可能であった知識の総体としての世界最高水準の知見の総体をすべて活用しても,上記欠陥について認識可能性がなかったかどうかが問題とされるべきである。すなわち,本件石鹸の引渡し時である平成16年3月時点において,アレルギーの発生機 序に加え,ある抗原に対応する特異的IgE抗体が,別の抗原に対しても反 応を示す場合があり,これを交差反応というとの知見が確立されていたことからすれば,本件において,①本件石鹸に配合された加水分解コムギ末(グルパール19S)が人に対し経皮経粘膜感作を生じ,②経口摂取した小麦と交差反応を生じてアレルギー症状を引き起こすものであった ことからすれば,本件において,①本件石鹸に配合された加水分解コムギ末(グルパール19S)が人に対し経皮経粘膜感作を生じ,②経口摂取した小麦と交差反応を生じてアレルギー症状を引き起こすものであったこと,③アレルギー症状の程度がアナフィラキシーを伴うようなものであったこと,のいず れかについて,入手可能であった知識の総体としての世界最高水準の知見をもってしても,その認識ができなかったといえるかが問題となる。 (3) 本件石鹸に配合されたグルパール19Sが経皮経粘膜感作を生じるものであったことについてア感作とは,アレルゲンが腸粘膜,気道や皮膚から体内に侵入し,抗原提 示細胞によって認識され,B細胞から生成された抗原特異的IgE抗体が体内に存するマスト細胞に結合した状態をいい,このような状態が形成された体内に再度アレルゲンが侵入すると,これがマスト細胞上の抗原特異的IgE抗体に結合し,同細胞が活性化されて化学伝達物質を放出し,種々のアレルギー症状を引き起こすものと考えられており,本件石鹸の引 渡し当時,食物アレルギーは,食物を何度も食べているうちに腸管を介して食物が体内に侵入し,これによって体内に原因食物に対する抗原特異的IgE抗体が生成され,感作が生じるという経口感作が基本的な感作経路であると考えられていた(前記認定事実(8)エ)。また,経皮感作が食物アレルギー一般の主要な感作経路であるとの見解が医学界で広く支持され るようになったのは,平成15年頃のラックらによる仮説の提唱(乙イB19),及びその後に研究が進められた後であった(前記認定事実(8)オ)。 また,ヒトの皮膚は,上皮組織である表皮,結合組織である真皮,脂肪組織である皮下脂肪という3つの組織から成り立っているところ,表皮のもっとも外側に が進められた後であった(前記認定事実(8)オ)。 また,ヒトの皮膚は,上皮組織である表皮,結合組織である真皮,脂肪組織である皮下脂肪という3つの組織から成り立っているところ,表皮のもっとも外側にある角質層は角化脱核した角質細胞とその細胞間を埋め る角質細胞間脂質によって構成されるバリア構造をとっており,内部の細 胞を乾燥や外力による障害から守っているほか,角質層の内側の顆粒層は扁平化したケラチノサイトが複数積み重なってできた層であり,その間にTJ(タイトジャンクション)が存在し,細胞間を通る物質移動を制限するバリアを形成するなどして,外界と身体内部を隔てており,生体内部の生命活動が環境の影響から乱されることなく,いつも一定条件で行われる ように保つ働き,つまり生体の防衛器官として重要な働きをしていることは広く知られていた(前記認定事実(10)ア)。 もっとも,このようなヒトの皮膚のバリア機能にもかかわらず,なお小さい分子は主要な透過妨害構造である角質層を通り抜けて皮膚を透過することができることが従来から知られており,平成12年頃,ボスらは, ヒトの皮膚外用化合物の開発上の便宜のため,ヒトの皮膚バリアを透過して吸収され得る物質の分子量の上限を明らかにするという観点から,①主要な接触アレルゲンは事実上全て500Da未満の分子量であり,それよりも分子量が大きい接触感作物質は知られていないこと(すなわち,大きい分子は皮膚を透過できず,ヒトに対するアレルゲンとして働けないこ と),②皮膚外用治療において最もよく使用されている薬剤はいずれも500Da未満の分子量であること,③経皮薬物送達系で使用される既知の皮膚外用薬はいずれも500Da未満の分子量であること等を論拠に,化合物が経皮吸収されるためには,そ 使用されている薬剤はいずれも500Da未満の分子量であること,③経皮薬物送達系で使用される既知の皮膚外用薬はいずれも500Da未満の分子量であること等を論拠に,化合物が経皮吸収されるためには,その分子量が500Da未満でなければならないという内容を「500Daルール」と名付けて提唱し,本件石鹸 の引渡し当時も,かかる見解は一般的な見解であった(乙イA11,乙ロB21,乙ハB12)。 本件アレルギーの原因となったグルパール19Sは平均分子量が6万程度であるところ(乙ロA27),上記の500Daルールに照らせば,そもそも皮膚を介してヒトの体内に透過することは想定できず,これによれ ばグルパール19Sについて経皮的に感作が成立することについては否 定的なものとなる。 イ他方で,本件石鹸の引渡し当時において,既に,経口摂取以外の感作経路によって食物アレルギーを生じる疾患として,鼻粘膜を介してカバノキ花粉に感作することによってバラ科の食物と交差反応を生じる例や,ラテックス製品を肌に触れて使用することにより感作が生じるラテックス・ア レルギー,コチニール色素と呼ばれる昆虫から抽出されるたんぱく質が経皮経粘膜感作を生じて発症するアレルギー症状など,経皮経粘膜により食物アレルギーを発症する病態自体は広く知られていた(前記認定事実(7)エ及び(8)オ)。 また,500Daルールも,その論拠の多くは,アレルギーの原因物質 として広く知られている物質がいずれも分子量500Da未満であったという数例から経験的に推論されたものであり,それらを踏まえて皮膚外用治療や経費全身治療又は経皮ワクチン接種を目的として医薬関連の新規化合物を開発する場合において分子量を500Da未満に抑えることを推 う数例から経験的に推論されたものであり,それらを踏まえて皮膚外用治療や経費全身治療又は経皮ワクチン接種を目的として医薬関連の新規化合物を開発する場合において分子量を500Da未満に抑えることを推奨する実践的な見解であり,経皮感作を生じ得るアレルゲンの分子量 の限界が500Daであることを直接に示すものではなかった。そして,ボスらの論文(乙イA11)においても,皮膚がラテックスに曝露されることによって生じ,接触性蕁麻疹や接触皮膚炎の症状を引き起こすラテックス・アレルギーについては,高分子量分子により感作が生じると考えられているとして紹介し,このような500Da以上の分子量を持つ物質が 経皮感作を引き起こす症例があることを前提に,その原因を,高分子量分子が皮膚を透過して発症するのではなく,皮膚表面のプロテアーゼによってラテックスたんぱく質が分解されて生成した小ペプチドが皮膚バリアを透過してアレルギー反応を引き起こしているか,免疫原化合物となる小分子が元々ラテックス中に含まれている可能性により説明することがで きるとし,アレルギー検出のために同様な高分子を皮膚外用するアトピー パッチテストや,スーパー抗原を用いた皮膚感作試験についても同様に説明することができるなどと仮定しているにとどまる。また,500Daルールは,正常なヒト皮膚においては分子量が500を超えると経皮吸収が急速に低下することを示すものであるが,その例外として,透過バリアを作っている角質層が存在していない粘膜や,アトピー性皮膚炎患者のよう に角質層が正常でない皮膚については,分子量500を超える物質でも体内への浸透が生じるとして,皮膚のバリア機能が完全でない場合には妥当しない旨も言及しており,この点でも,500Da以上の物質が経皮的に 質層が正常でない皮膚については,分子量500を超える物質でも体内への浸透が生じるとして,皮膚のバリア機能が完全でない場合には妥当しない旨も言及しており,この点でも,500Da以上の物質が経皮的に感作を生じる可能性を排斥しているわけではない。 さらに,海外(欧州)の症例報告に目を向けると,本件石鹸の引渡し時 までに,アトピーの既往や家族歴のない女性が,加水分解コムギを含む保湿ボディークリームを使用し続けたところ,塗布後まもなく掻痒性,紅斑性,蕁麻疹様の発疹が生じるようになり,時の経過とともに次第に発疹が強く生じるようになったという症例1例について,化粧品中の加水分解コムギに感作し,抗原特異的IgEの介在する即時型接触性蕁麻疹を発症し たとする旨の報告(甲B7の報告。平成12年3月公表),及び64歳の非アトピーの主婦が,加水分解コムギを含んだ保湿クリームを2年間にわたって顔面と頚部に使用していたところ,使用中止の2か月前から眼瞼,顔面,頚部に痒み,紅斑,浮腫性の病変を生じたという症例1例につき,化粧クリーム中の小麦加水分解たんぱく質によりアレルギー性接触皮膚炎 を生じた可能性がある旨の報告(甲B8の報告。平成12年10月公表)が存在しており,化粧品中に含まれる加水分解コムギが経皮粘膜感作を生じ,食物アレルギーを発症させたことを直接に示す知見ではないものの,化粧品中に含まれる加水分解コムギが,ヒトの皮膚等へ接触することを通じ,経皮粘膜的感作を生ぜしめることを示唆した見解は存在していた。さ らに,別の症例報告(甲B10の報告。平成16年3月公表)によれば, 7例の女性は全て異なるブランドのHWPを配合されている化粧品(主にフェイシャルクリーム)を塗布した直後に接触性蕁麻疹を発症し,このう B10の報告。平成16年3月公表)によれば, 7例の女性は全て異なるブランドのHWPを配合されている化粧品(主にフェイシャルクリーム)を塗布した直後に接触性蕁麻疹を発症し,このうち6例は改質グルテンを含んでいる保存食品やデリカテッセン(持ち帰り惣菜)を摂取した後にアナフィラキシー反応や蕁麻疹も生じた事例として紹介されており,化粧品の使用により化粧品中に含まれる加水分解コムギ に経皮経粘膜感作し,その後,改質グルテン,すなわち小麦に含まれるグルテンを加工した物質を経口摂取した際にアレルギー症状を生じた旨を報告しており,加水分解コムギに経皮経粘膜的に感作した後,経口摂取した加工小麦製品に反応して,アレルギー症状を生じることを示唆する見解が存在したということができる。 矢上論文(乙ハB26)においては,上記の各症例報告は,化粧品中の加水分解コムギが経皮感作を生じた事例として位置付けられており,本件製品事故の発生後に公表された福冨医師による論文(乙イB14,乙ロB15)でも,上記した欧州での症例群に触れ,文献上,初めてHWPへのIgE機序による即時型アレルギーの症例が報告されたのは平成12年 の化粧クリームに含有されていたHWPにより接触蕁麻疹を発症した27歳女性例の報告であること,平成16年には化粧品中のHWPへ経皮感作された患者の一部に食品用HWPを経口摂取した場合に即時型アレルギー症状を来たす患者が存在することが報告されていること,そして,このような病態はIHHWPと称されていることなどを紹介していること からすれば,本件石鹸の引渡し当時においても,上記した各症例報告は,化粧品中に含まれる加水分解コムギは経皮経粘膜感作を生ぜしめたとの知見を明らかにしたものとして一般に認知されていた いること からすれば,本件石鹸の引渡し当時においても,上記した各症例報告は,化粧品中に含まれる加水分解コムギは経皮経粘膜感作を生ぜしめたとの知見を明らかにしたものとして一般に認知されていたことが認められる。 なお,奥村意見書(乙ハB12)によれば,そもそも上記した各症例報告はいずれも症例数が乏しく,医学の分野において確立した知見を示した ものではない旨述べるが,開発危険の抗弁を検討するに際して参照し得る 程度に確立した知見ということができることは既に述べたところである。 その上で,奥村意見書は,甲B7の報告に記載された症例報告は,感作経路が不明である旨などを指摘するが,同報告では,アトピー既往がない患者において化粧品の使用を継続していたところ,アレルギー症状を認めるに至った事例を検討しており,スキンケア製品やヘアケア製品にたんぱく 質やその加水分解物が使われることが多くなってきているが,化粧品使用により生じ得る一般的な症状であるⅣ型接触性皮膚炎のほかに,即時型接触反応も生じる可能性があることを念頭に置くべきである旨まとめていることから,化粧品の使用による経皮経粘膜感作を念頭に論じられたものというべきである。また,奥村意見書は,甲B8の報告に記載された症例 報告につき,同報告の筆者はⅠ型アレルギーではなくⅣ型(遅発型)アレルギーの可能性を疑っていたことを示している旨を指摘するが,同症例報告では,小麦加水たんぱく質10%水溶液を使って前腕の掌側でオープン試験を行ったところ,30分では陰性であり,パッチ試験でも34例の対象被験者で陰性であった旨を述べており,Ⅰ型アレルギーを想定した試験 の実施にも言及していることからすれば,同報告がⅣ型アレルギーについてのみ検討を加えた報告と読むこと ッチ試験でも34例の対象被験者で陰性であった旨を述べており,Ⅰ型アレルギーを想定した試験 の実施にも言及していることからすれば,同報告がⅣ型アレルギーについてのみ検討を加えた報告と読むことはできない。さらに,奥村意見書は,甲B10の報告に記載された症例報告に関し,それが,加水分解コムギたんぱく質を含有する化粧品を塗布した直後に接触性蕁麻疹を発症し,そのうち数例は改質グルテンを含む保存食品やデリカテッセンを摂取した後 にアナフィラキシー反応や蕁麻疹も生じた改質グルテンに対する経口アレルギーの症例報告であるとしつつも,同報告は,患者の素因や皮膚異常等の存在が明らかにされておらず,通常の皮膚において経皮感作が起こった事例ということはできない旨を指摘するが,そのような事情があるからといって,同症例報告が化粧品使用により経皮経粘膜感作が生じ得るとの 見解を明らかにしたものであるということを左右するとは解されない。 ウ以上によれば,本件石鹸の引渡し当時において,食物アレルギーの感作経路としては経口感作が一般的であるとされており,500Daルールと呼ばれる,化合物が経皮吸収されるには500Da未満でなければならないとの見解が広く知られていたことが認められるものの,ラテックス・アレルギー(ラテックス・フルーツ症候群)やコチニール色素アレルギーと いった経皮感作によって食物アレルギーを生じる症例群が存在することもまた知られており,実際に化粧品に含まれる加水分解コムギが化粧品の使用に伴って経皮経粘膜的に感作したと考えられる旨指摘する症例報告も複数存在していたことなどを踏まえれば,世界最高水準の知見をもってしても,本件石鹸に含有された加水分解コムギ末(グルパール19S)が 人に対し経皮経粘膜感作を と考えられる旨指摘する症例報告も複数存在していたことなどを踏まえれば,世界最高水準の知見をもってしても,本件石鹸に含有された加水分解コムギ末(グルパール19S)が 人に対し経皮経粘膜感作を生じることを認識できなかったということはできない。 (4) 経口摂取した小麦と交差反応を生じてアレルギー症状を引き起こすことについてア前記認定事実(7),(11)によれば,ある抗原に対してB細胞により生成さ れる特異的IgE抗体は,当該抗原のアミノ酸配列の一部分を記憶しており,侵入してきた物質のアミノ酸配列において,同抗体が記憶している配列と同一のものが存在しているか否かにより,当該抗原か否かを識別する(厳密には,三次元構造をとるたんぱく質の形の一部を記憶するものである。)こと,抗原と抗体は,いわば,鍵と鍵穴のような関係にあり,鍵と鍵 穴のパターンが完全に一致すれば鍵が鍵穴に入るが,パターンが異なれば鍵は鍵穴に入らないように,ある抗原に対する特異的IgE抗体は,当該抗原に対する関係でしか反応を示さないのが原則であること,このような原則に対し,稀に,ある抗原に対応する特異的IgE抗体が,別の抗原に対しても反応を示す場合があり,これを交差反応ということ,このような 交差反応が起こるメカニズムは,ある抗原と別の抗原のアミノ酸配列はそ れぞれ異なるものの,その一部がたまたま当該特異的IgE抗体の記憶しているアミノ酸配列(エピトープ)と一致するために,鍵穴に鍵が入るということが起こり,反応を示すからであると考えられていたことが認められる。 この点,奥村教授は,奥村意見書(乙ハB24の2)において,理論上, アミノ酸配列に共通する部分がある物質相互間では交差反応の可能性があるということができるが,ア れていたことが認められる。 この点,奥村教授は,奥村意見書(乙ハB24の2)において,理論上, アミノ酸配列に共通する部分がある物質相互間では交差反応の可能性があるということができるが,アミノ酸配列の一部に共通する部分がある物質の組合せは無数にあり,交差抗原の量も様々であること(アレルギー反応が起きるためにはある程度の量が含有されることが必要である。)からすれば,物質のアミノ酸配列が判明していたとしても,交差反応の危険を 事前に予見することは困難である旨指摘している。これは,アレルゲンとなり得るたんぱく質はそれ自体ごく普通のたんぱく質であるとされており,分子構造においてアレルゲンとして共通する明確な特徴や,IgE抗体を誘導するための特別な仕掛けのようなものについても見出されておらず,特定の個体との関係において当該たんぱく質がアレルゲンとして機 能する原因については定説を見ない状況であったとの知見(甲B5,6,乙ロB12)と同趣旨をいうものである。また,特定の食物アレルギーに関して,交差反応を生じ得る食品として認知されていたものも存在するが(例えば,メロンとスイカやバナナ等の果物,牛乳と山羊乳,エビとカニやロブスター等の甲殻類等),近縁種間においてのみ交差反応が生じるわ けではなく,他方で近縁種間においても交差反応を生じないこともあるとされており,これに上記した知見を併せて考えれば,ある食物アレルギーにおいていかなる物質が交差反応を生じるかについては,基本的には,実際に生じた症例の分析に基づき,経験的にそれらが知られていたにすぎない状況であったと認められる。 グルパール19Sは,小麦たんぱく質を酸加水分解することにより得ら れた,天然小麦(グルテン)自体とは異なる物質であるところ,本 ていたにすぎない状況であったと認められる。 グルパール19Sは,小麦たんぱく質を酸加水分解することにより得ら れた,天然小麦(グルテン)自体とは異なる物質であるところ,本件アレルギーの場合,本件石鹸に配合されていたグルパール19Sに対して経皮経粘膜感作が生じ得ると仮定しても,これによって体内に生成される抗体はあくまで当該グルパール19Sに対する抗体であるから,上記した知見によれば,経口摂取した天然小麦にグルパール19Sに対する抗体が交差 反応することを認識することはできなかったとも考え得るところである。 イ(ア) 他方で,いかなる物質間で交差反応性が認められるかは経験的にしか把握できないとしても,交差反応を示すか否かは分子レベルでいえばアレルゲンたんぱく質の構造がどの程度似通っているかということと関係しており,交差反応性の程度は分類学的な近縁関係の程度と一致し, 近縁な関係にあるものほど強く交差反応するという知見(甲B5)も存在する。この点,小麦たんぱく質は,それ自体,可溶性に難があるものの,乳化性,乳化安定性,起泡性等の機能特性を備えたたんぱく質であるが,小麦加水分解物は,かかる小麦たんぱく質に加水分解処理を施し,機能特性を更に改良した,小麦由来の成分とされる(乙ハA29)。そし て,グルパール19Sもかかる小麦グルテンの特性に着目して開発がされた小麦加水分解物であり,小麦グルテンに酸を加え部分加水分解をして製品化されたものであること,本件品質規格書(乙ロA10,41の1・2)においても,原材料名は「小麦たん白」,由来原料は「小麦」とされ,小麦由来の製品である旨明記されていることが認められる。した がって,本件アレルギーは,経口摂取した天然の小麦に対して,小麦に含まれるたん 原材料名は「小麦たん白」,由来原料は「小麦」とされ,小麦由来の製品である旨明記されていることが認められる。した がって,本件アレルギーは,経口摂取した天然の小麦に対して,小麦に含まれるたんぱく質(グルテン)に加水分解を施して得られた加水分解コムギに対応する抗体が反応を示したものであるところ,加水分解コムギと天然の小麦の関係は,例えば豆乳と花粉など非近縁種が交差反応性を示す場合等,全く異なる関係にある物質というわけではなく,加水分 解コムギは天然小麦たんぱく質の分子構造に操作を施して得られた小 麦由来の物質であるから,上記した意味での成分間の近縁関係ないしそれ以上に近しい関係ともいえるところ,加水分解コムギに経皮感作が成立すれば,その後,食物アレルギーを発症してしまうのではないかと推測する余地もあると考えられる。このような推測は,本件製品事故後に発表された福冨医師の論文(乙ロB15)においても,経皮経粘膜感作 ルートの重要性に鑑みれば,必然的に,食物たんぱく質由来の成分に日常的に曝露され続けることにより,それらに対して感作が成立して,その後食物アレルギーを発症してしまうのではないかという懸念が生じてくる旨述べていることからすれば,合理的に導かれ得るものというべきである(なお,本件石鹸の引渡し後の知見を上記の趣旨で考慮する限 りは,差支えがないものと解する。)。なお,被告悠香も,グルパール19Sは小麦グルテンに加水分解処理を行い,ポリペプチド鎖を断ち切った上で再構築した成分であると主張しつつも,当該処理工程においてポリペプチド鎖の結合が断ち切られるとはいえ,一つ一つのアミノ酸レベルまで分解されるわけではない以上,加水分解コムギにおいて天然小麦 に由来するアミノ酸配列が残存する可能性がないと 程においてポリペプチド鎖の結合が断ち切られるとはいえ,一つ一つのアミノ酸レベルまで分解されるわけではない以上,加水分解コムギにおいて天然小麦 に由来するアミノ酸配列が残存する可能性がないとはいえないこと自体は認めているところである。 (イ) また,経皮経粘膜感作の例として知られているラテックス・アレルギーについても,ラテックスに対する抗体が経口摂取したバナナ,クリ,アボカドやキウイといったフルーツ類に交差反応を示すことが知られ ており(ラテックス・フルーツアレルギー),同様に,コチニール色素に経皮経粘膜感作を生じ,食物アレルギーを生じるコチニールアレルギーといった症例も存在しており,本件石鹸の引渡し当時においても,経皮経粘膜感作により生じたアレルギーにおいて食物と交差反応が生じる病態が存在すること自体は一般に知られていた。 (ウ) そして,海外の症例報告においても,化粧品中の加水分解コムギに経 皮経粘膜的感作を生じた後,加水分解コムギを含有する加工食品を摂取した際にはアレルギー症状を生じる症例は存在したものの(甲B9の報告〈平成14年2月公表〉,甲B10の報告〈平成16年3月公表〉),経口摂取した天然小麦に対しても(交差)反応を示したとする報告は存在しておらず,本件アレルギーと同様の臨床症状を生じたとする直接の知 見,症例報告は存在していなかった。このことは,矢上論文(乙ハB26)において,本件アレルギーと海外の症例報告(IHHWP)との差異として,特に指摘がされていることからも明らかである。 しかし,ある症例報告(甲B10)によれば,7例の女性は加水分解コムギ(HWP)を配合する化粧品(主にフェイシャルクリーム)を塗 布した直後に接触性蕁麻疹を発症し,このうち6例 らかである。 しかし,ある症例報告(甲B10)によれば,7例の女性は加水分解コムギ(HWP)を配合する化粧品(主にフェイシャルクリーム)を塗 布した直後に接触性蕁麻疹を発症し,このうち6例は改質グルテンを含む保存食品やデリカテッセン(持ち帰り惣菜)を摂取した後にアナフィラキシー反応や蕁麻疹も生じたのに対し,パンを摂取した後にアレルギー反応を生じた患者はいなかったとして,直接的には,化粧品中に含まれる加水分解コムギに経皮感作した患者の一部は食品用HWPを経口 摂取した場合に即時型アレルギー症状を来たす患者が存在するが,経口摂取した小麦に(交差)反応を示した症例は存在しなかったことを指摘する一方,患者らの中には,小麦粉に対する特異的IgEが2例で陽性であり,グルテンに対する特異的IgEは3例で陽性であったとし,血清の特異性についても調べたところ,個人差はあるものの,全ての血清 に,加水分解ペプチドと一部の未改質小麦粉たんぱく質の両方に反応するIgEが含まれていたともしている。ここで,アレルギー症状とは,抗原特異的IgE抗体に抗原が結びつき,又は抗原と同様のアミノ酸配列ないし構造を有する物質が結びついて(交差反応),反応を生じるものであるから,血中の抗原特異的IgE抗体の有無は,当該患者において いかなる物質が体内に侵入した際にアレルギー症状を引き起こすのか を推測させる重要な指標となり得るものといえる。すると,上記の症例報告は,患者らの全ての血清には,加水分解ペプチドと一部の未改質小麦粉たんぱく質の両方に反応するIgEが含まれていた等としており,これは,当該患者らの体内に未改質小麦粉たんぱく質,すなわち天然の小麦が侵入した際に,小麦に反応してアレルギー症状を生じ得るIgE 抗体が存在して 方に反応するIgEが含まれていた等としており,これは,当該患者らの体内に未改質小麦粉たんぱく質,すなわち天然の小麦が侵入した際に,小麦に反応してアレルギー症状を生じ得るIgE 抗体が存在していたことを意味するとも解釈でき,当該症例につき,化粧品に対するアレルギーが食物アレルギーに先行していたものと考えられるとの記載があることも併せ考えれば,同症例報告は,化粧品中の加水分解コムギに経皮経粘膜感作した症例において,天然小麦に対してもアレルギー反応をし得る余地があることを示唆していると捉え得る。 ウ以上を総合考慮すると,本件石鹸の引渡し当時において,ある抗原に対する特異的IgE抗体は当該抗原に対してのみ反応を生じるのがアレルギーの一般的な機序であり,別の物質に対して当該特異的IgE抗体が交差反応を示すこともあり得るが,ある物質と交差反応を生じる物質を事前に予測することは通常は困難であったと認められる一方,交差反応とは特 異的IgE抗体が認識している抗体の特徴として認識している分子構造ないしアミノ酸配列と同様の構造を有する物質が体内に侵入した際に生じるものであるところ,分子構造が類似する近縁種間ほど交差反応性を示しやすいとの知見が存在したこと,加水分解コムギは小麦に加水分解処理を施して生成された小麦由来の物質であり,小麦とおよそ異なる分子構造 を有する成分ではなく,近縁と言い得る関係にあること,化粧品中の加水分解コムギに経皮感作した症例において天然小麦に対してもアレルギー反応をし得る余地があることを示唆すると解することができる海外の症例報告も存在したことを考慮すれば,化粧品中に配合された加水分解コムギに経皮経粘膜感作が生じた後,天然小麦を経口摂取した際にアレルギー 症状を引き起こす可能性があることを ことができる海外の症例報告も存在したことを考慮すれば,化粧品中に配合された加水分解コムギに経皮経粘膜感作が生じた後,天然小麦を経口摂取した際にアレルギー 症状を引き起こす可能性があることを,当時の世界最高水準の知見をもっ てしても認識できなかったとまでいうことはできない。 これに対し,奥村意見書(乙ハB20)においては,本件製品事故の発生後に初めて,従来から存在する小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシーと比較すると,本件アレルギーの主要アレルゲンや主要エピトープが異なるなどしてそのメカニズムが大きく異なっていることが判明し, また,本件アレルギーにおいて天然小麦とも反応を示すという点に関するメカニズムは現時点に至っても確たる見解は存在しておらず,仮説が提唱されているにすぎないなど,加水分解コムギに感作した患者が天然小麦に交差反応を示すなどという事態は,本件石鹸の引渡し時にはおよそ想定し得なかった旨の見解が述べられている。しかし,本件石鹸に関する開発危 険の抗弁における認識の対象となる欠陥の内容は,すでに上記した判示のとおりであって,上記の意見書が指摘するような本件アレルギーの具体的な機序,メカニズム等はその認識対象に含まれないものであるから,奥村意見書の見解は,上記結論を左右するものではない。 (5) 本件アレルギー症状の程度がアナフィラキシーを伴うなど重篤なもので あったことについて被告フェニックスは,本件アレルギーの被害実態は本件石鹸による製品事故が発生して初めて判明したものであり,被害の重大性を予め認識するには動物実験等の実施も必要であったところ,本件石鹸の引渡し当時の世界最高水準のガイドラインによっても,化粧品等の製造に際してそのような検査, 試験の実施は求められ 被害の重大性を予め認識するには動物実験等の実施も必要であったところ,本件石鹸の引渡し当時の世界最高水準のガイドラインによっても,化粧品等の製造に際してそのような検査, 試験の実施は求められていなかったなどと旨主張する。 しかし,本件石鹸に関する開発危険の抗弁における認識の対象となるのは,本件アレルギーの症状の程度がアナフィラキシーを伴うような重篤なものであったという点であり,実際に生じた被害実態ではないこと,同抗弁はあくまで認識をすることができなかったかという認識可能性を問うものであ り,実際上,そのような危険を発見できたか又はそれにより危険を回避し得 たかまでを問うものではないことからすれば,被告フェニックスの上記主張は失当である。 そして,前記認定事実(8)によれば,成人に発症する小麦アレルギーの多くは,小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)の病態をとることは確立した知見であったと認められること,海外の症例報告の中にも,化粧 品中の加水分解コムギに感作を生じたとする症例において,改質グルテンを含んでいる保存食品やデリカテッセン(持ち帰り惣菜)を摂取した後にアナフィラキシー反応や蕁麻疹を生じたとするものがあること(甲B10の報告)等に照らせば,加水分解コムギに感作し,経口摂取した小麦に交差反応を示した場合のアレルギー症状の程度がアナフィラキシーを伴うようなもので あることについて,本件石鹸の引渡し当時の世界最高水準の知見をもってしても認識することができなかったということはできない。 (6) 以上述べてきたとおり,本件石鹸を被告悠香及び被告フェニックスが引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,製造業者等において本件石鹸にその欠陥があることを認識することができなか (6) 以上述べてきたとおり,本件石鹸を被告悠香及び被告フェニックスが引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,製造業者等において本件石鹸にその欠陥があることを認識することができなかったというこ とはできない。 したがって,争点3に関する被告悠香及び被告フェニックスの主張には理由がない。 5 争点4(本件石鹸の原材料であるグルパール19Sに欠陥があるか。)に対する判断 原告らは,グルパール19Sにつき,その通常予見される使用形態に沿って使用すると,使用者に本件アレルギーという重篤な疾患を発症させる危険を有していることから,同製品には設計上の欠陥がある旨主張するところ,以下,この点につき判断する。 (1) 部品・原材料たる製造物の欠陥 アグルパール19Sは,被告片山化学により小麦たんぱく質を原材料とし て酸加水分解処理を施すなどの加工をして製造された製品であり,それ自体「製造物」であるが,本件石鹸の配合成分の一つとして使用されたという意味では,本件石鹸という「製造物」の部品又は原材料ということができる。 ある製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合につ き,製造物責任法は特別の免責事由を設けている(同法4条2号)ものの,当該製造物が部品又は原材料であるか否かによって,同法上,欠陥の判断に際して別異の定めがされているわけではない。したがって,部品又は原材料として使用された製造物における欠陥の存否を考えるに当たっても,完成品の場合と同様に,同法2条2項所定の諸般の事情,すなわち,製造 物たる当該原材料の特性,その通常予見される使用形態,その他製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該部品又は原材 項所定の諸般の事情,すなわち,製造 物たる当該原材料の特性,その通常予見される使用形態,その他製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該部品又は原材料とされる製造物において通常有すべき安全性を欠いているか否かにより判断されることに変わりはないが,あくまで,当該部品又は原材料たる製造物の欠陥の有無が問題となる以上,その判断は 部品又は原材料たる製造物について独自にされることとなる。 この点,原告らは,部品又は原材料の製造物責任を問う場合,完成品の責任を問う場合と同様に,被害者側において,当該部品又は原材料が用いられた完成品をその使用者が通常予見される使用形態に従って使用したところ,当該部品又は原材料に起因して身体・財産に被害を及ぼす異常が 発生したことを主張・立証した場合には,当該部品又は原材料に欠陥があったことが事実上推認される旨主張する。しかし,既に判示したとおり,事実上の推認とは個別具体的な事案に応じた経験則の適否の問題であるところ,部品又は原材料たる製造物の欠陥の有無を検討するに当たって,原告らが主張するような事実上の推認を働かせる余地がないことは,既に 完成品たる本件石鹸の欠陥判断において説示したとおりであり,原告らの 上記主張は採用することができない。 イ原材料の欠陥判断における基準時について上記のとおり,製造物責任法は,複数の製造業者等が関与して完成品が製造される場合であっても,その責任要件は個々の製造業者等につき満たす必要があるものとしていることから,その引渡し時期についても,それ ぞれの製造物の各引渡しの時点,すなわち,原材料等については,当該原材料等が完成品製造業者に引き渡された時点を欠陥等の判断の基準時と解するのが していることから,その引渡し時期についても,それ ぞれの製造物の各引渡しの時点,すなわち,原材料等については,当該原材料等が完成品製造業者に引き渡された時点を欠陥等の判断の基準時と解するのが相当である。 原告らは,本件石鹸の原材料としてのグルパール19Sについて,本件石鹸の原材料として配合された全期間において欠陥が存在したと主張し ているものと解される。被告片山化学から被告フェニックスに対するグルパール19Sの納品は平成10年11月から平成22年8月までの期間にわたり,断続的に行われていること(乙ハA5),被告フェニックスは,被告悠香から独占的に本件石鹸の製造委託を受け,製造した本件石鹸は全て被告悠香が購入するとの商流であったことに鑑みれば,被告フェニック スは,グルパール19Sについて,本件石鹸の製造に必要な分量を必要な時期に発注していたものと窺われ,被告フェニックスは,平成16年3月の本件石鹸の新規出荷に接着した時期に,被告片山化学からグルパール19Sの引渡しを受けていたものと推認することができる。したがって,グルパール19Sの欠陥判断の基準となる引渡し時期についても,まずは, 本件石鹸が最初に出荷された平成16年3月時点を基準として検討する(この時点における欠陥が認められない場合には,個々の原告が引渡しを受けた本件石鹸に含有される個々のグルパール19Sの引渡し時期に従って欠陥判断を検討することになる。なお,後記8によれば,いずれの原告においても平成17年以降に本件石鹸の使用を開始しており,本件の製 造販売形態に鑑みれば,少なくともこれらの石鹸に配合されたグルパール 19Sは平成16年3月以降に引き渡されたものと考えられる。)。 (2) 判断枠組み等完成品たる本件石 売形態に鑑みれば,少なくともこれらの石鹸に配合されたグルパール 19Sは平成16年3月以降に引き渡されたものと考えられる。)。 (2) 判断枠組み等完成品たる本件石鹸に欠陥があると認められることについては,争点2についての当裁判所の判断(前記3)において説示したとおりである。そして,原材料として使用された製造物たるグルパール19Sにおける欠陥の存否 を考えるに当たっても,完成品の場合と同様に,製造物責任法2条2項所定の諸般の事情,すなわち,製造物たる当該原材料の特性,その通常予見される使用形態,その他製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情として考慮すべき事情について,当該製造物の特性や当該製品に対する安全性に対する社会通念を踏まえて,検討する必要がある。 アグルパール19Sの特性(ア) 他製品に添加,配合して利用されることが前提である製品であること。 グルパール19Sとは,被告片山化学によって開発され,その名称を付された製品であり,小麦たんぱく質であるグルテンを所定の条件によって酸加水分解をすることにより得られた平均分子量6万程度の粉末 状の小麦たんぱく加水分解物である。グルパール19Sを含む小麦加水分解物そのものは,小麦たんぱく質由来のたんぱく質,すなわち,成分,素材であって,前記認定事実(2)オのとおり,通常は,それ自体が食品や化粧品・医薬部外品等の独立した用途による製品として最終消費者の手に渡るものではなく,別途,食品や化粧品・医薬部外品等の製品に添加, 配合されるなどして使用され,完成製品と不可分一体となり,その原材料の一部として市場に流通することが想定されているものである。 (イ) 汎用的な用途に使用可能な製品であること。 a 添加, 配合されるなどして使用され,完成製品と不可分一体となり,その原材料の一部として市場に流通することが想定されているものである。 (イ) 汎用的な用途に使用可能な製品であること。 a この点,被告片山化学は,グルパール19Sは本件石鹸のための特製品ではなく,汎用的な用途に用いることができる原材料製品である と主張し,同製品が汎用品であることは欠陥を否定すべき事情として 考慮するのが相当である旨主張する。そこで,問題となる製品が汎用品であることの意味内容,その位置付けにつき検討する。 b 前記認定事実によれば,被告片山化学におけるグルパール19Sを含むグルパールシリーズの開発の経緯は,水垢防止剤への応用という大まかな用途を想定して開始されたものではあったものの,特定の何 らかの製品に配合することを企図して開発が進められたものではないこと,グルパール19Sも,かかる経緯の下,種々の分解方法により得られたグルパールにつき,乳化性や保水性といった種々の機能特性を有していることが見出され,化粧品用途にも応用可能であると判断されたことにより,商品化された成分であったことが認められる。 このことからすれば,グルパール19Sは本件石鹸等の特定の製品に配合することを想定して開発された特注品ではないということができる。また,前記認定事実によれば,このように商品化されたグルパール19Sは,平成22年5月時点で少なくとも35種類の化粧品又は医薬部外品の原材料として使用されていたことが認められる。 原告らは,この点に関し,本件石鹸の企画,開発段階において,被告片山化学が被告フェニックスに対し,サンプルの提供や検証協議の実施等を通じ,グルパール19Sを本件石鹸に配合することを念頭において交渉,製品供給を の点に関し,本件石鹸の企画,開発段階において,被告片山化学が被告フェニックスに対し,サンプルの提供や検証協議の実施等を通じ,グルパール19Sを本件石鹸に配合することを念頭において交渉,製品供給をしてきた旨主張するが,被告片山化学が被告フェニックスの求めに応じてグルパール19Sの加工方法を調整し たとか,本件石鹸の使用に特化したサンプルを提供したなどの事情を認めるに足りる証拠はなく,原告らの主張は採用できない。 したがって,グルパール19Sは,その開発経緯や被告フェニックスとの取引経過に照らしても,本件石鹸への配合等を企図した特注品ではなかったということができる。 c もっとも,前記認定事実によれば,グルパール19Sは,グルパー ルの中でも乳化力や乳化安定性に優れ,化粧品用として商品化すべく,塩分の調製を行うなどして開発されたものであること,被告片山化学は,本件品質規格書(乙ロA10,41の1・2)において,名称は「たんぱく加水分解物(食品素材)」とし,主な用途は「食品汎用品,化粧品汎用品」と明示したほか,食品用途に使用する場合には「たん ぱく加水分解物(小麦)又は植物性たんぱく(小麦)」などと,化粧品用途に使用する場合は「加水分解コムギ末」とそれぞれ表記する旨の指示をしたこと,被告片山化学作成の各技術資料によっても,グルパール19Sは乳化力,保湿力に優れた小麦たんぱく質分解物グルパール19を更に精製して得られたたんぱく質素材で,化粧品分野で安心 して使用できる旨に加え,化粧品用,食品用といった用途の記載があり,グルパールシリーズの中でも同19Sは化粧品用との位置付けが与えられていること,被告片山化学が作成したパンフレットにおいても,グルパール19Sは「化粧品用精製品(使用前例有 いった用途の記載があり,グルパールシリーズの中でも同19Sは化粧品用との位置付けが与えられていること,被告片山化学が作成したパンフレットにおいても,グルパール19Sは「化粧品用精製品(使用前例有)」と記載されていること,及び実際上も,同製品は多種多用な化粧品・医薬部外品 の原材料として使用されていたほか,グルパールシリーズ全体でみれば食品用途においても,平成23年までに食品メーカー複数社に向けて総計で100万kg近い出荷実績を有していたことが認められる。 一方で,グルパール19Sの各技術資料等には,乳化力や保湿力といった各成分特性に応じて,被告片山化学において実施した実験結果 に基づく製品データや,他の成分と比較した場合の有効性に関するデータ等といった,製品の性能に関する一般的な記載はあるものの,具体的な用途に応じて特定の用量を推奨する記載や,配合方法等の記載はなく,品質規格書やパンフレットにおいても同様である。 d 以上によれば,グルパール19Sは,本件石鹸に配合するために開 発,製造された特注品ではなく,それを添加,配合する場合の具体的 な完成品の形態の限定(例えば,食品であれば,畜肉加工品やパン等の粉製品,化粧品であれば,石鹸やシャンプー,リンス等)や当該完成品の形態に応じた用量,配合方法等の定めがあるわけではなく,当該完成品の製造業者の判断において自由に配合方法や配合濃度を決定することが想定されていたという意味では,汎用的な原材料製品で あったということができる。 他方で,同製品は,何の用途も想定されていない製品というわけではなく,主として化粧品用途,及び食品用途において配合,添加されることが想定された成分であったということができる。この点,被告片山化学は 他方で,同製品は,何の用途も想定されていない製品というわけではなく,主として化粧品用途,及び食品用途において配合,添加されることが想定された成分であったということができる。この点,被告片山化学は,技術資料やパンフレット等において,「現在の消費傾向の 大きな潮流である『安全性』をクリアした天然素材なので,食品はもちろん化粧品から洗剤まで,多彩な用途にお使いいただけます」(乙ハA39),「たんぱく質素材で安全性が高い」,「食品衛生法で定めるところの『食品』から作られたものです」(乙ロA24)などと記載し,グルパール19Sが小麦ないし食物由来の成分であって,食品にも利 用できる安全性を備えている製品であることを標榜し,販売を行ったものである。 イ上記したグルパール19Sの製品としての特性に照らせば,その欠陥の有無は,当該製造物が,社会通念上,化粧品及び食品に配合,添加される原材料として通常有すべき安全性を欠いているか否かにより決すべきと 解するのが相当であり,かかる製品は,汎用的な原材料であるといっても,化粧品及び食品一般への添加が前提とされたものであって,化粧品及び食品といった製品に原材料として配合,添加され,そのような完成品の一部として,一体となって初めて市場に流通して消費者の下に届くものであることからすれば,化粧品等において一般に製品として高度の安全性が求め られるのと同様に,その原材料としての当該製品においても高度の安全性 が求められるというべきである。 そして,上記した製品の欠陥を判断するに際しては,完成品たる化粧品の欠陥判断におけるのと同様に,製品被害の内容・程度が重視されるほか,被害発生の蓋然性,原材料自体の製品としての有用性,製品の使用者(完成品製造業者を含む。)に 判断するに際しては,完成品たる化粧品の欠陥判断におけるのと同様に,製品被害の内容・程度が重視されるほか,被害発生の蓋然性,原材料自体の製品としての有用性,製品の使用者(完成品製造業者を含む。)に対する指示・警告の有無,内容,法令や公的規制 への適合性といった事情が考慮要素となると解するのが相当である。一方で,グルパール19Sは化粧品及び食品の原材料として利用されることが想定された製品であり,消費者の下では完成品の使用を通じて原材料の危険が実現するわけであるから,かかる原材料たる製品の欠陥を考える上では,完成品が当該原材料の「通常予見される使用形態」に沿って使用され, 製造されたか否か,原材料の他に製品事故の要因が存在するかなどが重要な考慮要素となるものと解される。 上記の考慮要素のうち,製品被害の内容・程度おいて既に述べたところであるから,以下において,まず,グルパール19Sの有する客観的危険性とも関わる製品起因性について述べた上で,そ れぞれの考慮要素について検討する。 (3) 製品起因性についてア現在までに,グルパール19Sを原材料の一つとして配合した製品である本件石鹸の使用者らにおいて,2000症例以上の小麦アレルギー被害が生じたものであるが,前記2(2)オのとおり,かかる製品事故ないし本件 アレルギーの発症は,本件石鹸の使用により生じたことが明らかとされている。 もっとも,本件石鹸に配合されたグルパール19Sの欠陥の有無を論じるでは,本件アレルギーの発症との間に製品起因性が存するかが別途問題となることから,以下,この点について検討を加える。 イ(ア) 抗原について 前記認定事実(9)によれば,現在までに,本件アレルギーはグルパール19Sを含有する本 となることから,以下,この点について検討を加える。 イ(ア) 抗原について 前記認定事実(9)によれば,現在までに,本件アレルギーはグルパール19Sを含有する本件石鹸を主として洗顔時に使用するなどし,皮膚に触れる形で継続使用したところ,使用者においてグルパール19Sに対する経皮経粘膜感作を生じ,その後,経口摂取した小麦に反応してアレルギー症状が生じるようになったものであるとの機序が判明しており, 本件アレルギーのアレルゲン(抗原)はグルパール19Sであったことが明らかにされていることが認められる。 (イ) 抗原性獲得の要因についてまた,前記認定事実(5)及び(9)によれば,本件アレルギーの患者では,その臨床像等からそれまでに判明していた通常のWDEIAとは異な るエピトープを認識していることが早くから指摘されたこと,現在までに明らかにされた医学的知見(矢上論文等)によれば,グルパール19Sは通常の小麦とは異なる独自の抗原性,感作能を有していること,及び天然小麦と比較しても新規の感作能力という点で抗原性が強いこと等が明らかにされており,グルパール19Sは,95℃という高温で4 0分間という短時間,グルテンを酸処理して得られた平均分子量6万ともされる高分子量の小麦加水分解物であるところ,かかる高温で短時間の酸加水分解処理を施すことによってグルテンが不規則に分解され,短鎖ペプチドと長鎖ペプチドの混合状態を含む凝集体が生成されたことがこのような高い感作抗原性の獲得又は独自のエピトープの獲得に寄 与したものと考えられていること,矢上論文に紹介された実験結果では,高温で加水分解処理をしてもそれが長時間に及ぶ場合は同様の感作抗原性は示されなかったこと,マウスを用いた動物実験の 獲得に寄 与したものと考えられていること,矢上論文に紹介された実験結果では,高温で加水分解処理をしてもそれが長時間に及ぶ場合は同様の感作抗原性は示されなかったこと,マウスを用いた動物実験の結果及びその他海外での種々の研究成果によれば,グルパール19Sはある界面活性剤(SDS)と併存する場合にはより高い反応性を示すだけでなく,それ 単体であっても,経皮感作を生じ得ること及び感作後にアナフィラキシ ー反応をもたらし得ることが明らかにされていることが認められる。 ある抗原に対する抗体は特定の抗原としか結びつかないのが通常であるところ,独自に抗原性を獲得したグルパール19Sが,人に経皮経粘膜感作を生じた後,その体内においていかなる機序によって経口摂取した天然小麦と反応を示すようになったかについては,現時点でも未解 明の部分を残すが,前記認定事実によれば,グルパール19Sの製造過程において小麦グルテンの脱アミド化が生じ,加水分解処理前にも存在するγ‐グリアジンが物理的構造変化をして生じたエピトープと経口摂取した小麦が交差反応を示す可能性や,アミノ酸残基の脱アミド化により新たに生じたエピトープが経口摂取した小麦が小腸で吸収後にト ランスグルタミナーゼによって脱アミド化が生じ,同様の構造を示すようになって間接的な交差反応を示す可能性などが有力に指摘されていることが認められる。 同様に,国立医薬品食品衛生研究所において進められた研究(前記認定事実(3))によっても,本件アレルギーが生じた要因は,小麦グルテン の加水分解処理によるグルパール19Sの製造過程で生成された高分子量たんぱく質の混在にあるされ,分子量1万以下では感作リスクが低下することが示唆されており,かかる研究成果に加え,欧州で テン の加水分解処理によるグルパール19Sの製造過程で生成された高分子量たんぱく質の混在にあるされ,分子量1万以下では感作リスクが低下することが示唆されており,かかる研究成果に加え,欧州では平成26年10月に加水分解コムギペプチドの最大分子量が3500以下の場合を安全とする考え方が示され,米国でも化粧品成分審査委員会(C IR)により,同様の見解が示されたことを参照し,平成29年3月,厚生労働省によって加水分解コムギ末につき,高分子量のたんぱく質の含有を制限する内容の規格変更が行われた。その詳細は,前記認定事実(3)ウ(エ)のとおりであるが,かかる外原規の規格変更により,グルパール19Sは現在では,「加水分解コムギ末」の規格を満たさなくなったもの と認められる。 (ウ) 以上の医学的な機序に加え,本件石鹸の製造過程においてグルパール19Sはニートソープの完成後に添加され,その機能や性質が失われるものではなかったこと(前記認定事実(1)イ(イ))も併せ鑑みれば,本件アレルギーの抗原がグルパール19Sであることにとどまらず,アレルギー被害をもたらし得る独自の感作抗原性は,本件石鹸の製造過程ではな く,まさにグルパール19Sの製造工程において生じたものということができ,これらによれば,本件アレルギーの発症はグルパール19Sという原材料成分自体に起因するものということができる。 ウ上記認定に対し,前記認定事実(6)のとおり,本件石鹸と同様にグルパール19Sを0.3%の濃度で配合した渋の泡石鹸及びその他の同種製品に おいては,本件アレルギーと同様の被害の発生が報告されていないことが認められるが,他方で,本件アレルギーと同様の被害を生じた同種製品も存在すること(甲A33,34 石鹸及びその他の同種製品に おいては,本件アレルギーと同様の被害の発生が報告されていないことが認められるが,他方で,本件アレルギーと同様の被害を生じた同種製品も存在すること(甲A33,34,甲B18),上記した本件アレルギー発生の機序に照らせば,渋の泡石鹸等においても同様の被害が発生する可能性は否定できず,同石鹸において被害報告がないのは同石鹸が主として洗身 用であったことにより,被害が生じなかったとも考え得ることなどからすれば,かかる事情をもって,上記の製品起因性自体を否定することはできない。 (4) 通常予見される使用形態についてア本件石鹸の仕様と通常予見される使用形態について (ア) 「通常予見される使用形態」の意義及び考慮の在り方a 製造物責任法は,欠陥の判断において製造物の「通常予見される使用形態」が考慮要素となることを明記している(同法2条2項)。これは,社会に流通している製品一般につき,およそ使用形態を問わず,絶対的に安全な製品というものは存在しないところ,通常予見される 使用形態に沿って使用される限り安全な製品であっても,使用態様や 使用時の環境等の事情によっては製品が有する危険性が現実化し,事故を生じることがあり得るものの(例えば,はさみはその用法に従って使用する限り安全な製品というべきであるが,使用態様いかんでは人の身体を傷付ける危険性を有しているし,塩や砂糖は通常摂取するに際しては何ら危険でないが,合理的な摂取量を超えて摂取すれば人 体に障害を生ぜしめる。),そのような危険は製造物の危険ではなく,使用者が生じさせた危険であると評価すべきであり,製造業者等は製品の通常予見される形態で使用した場合に生じる危険に対して責任を負うことを確認した趣旨と る。),そのような危険は製造物の危険ではなく,使用者が生じさせた危険であると評価すべきであり,製造業者等は製品の通常予見される形態で使用した場合に生じる危険に対して責任を負うことを確認した趣旨と解される。 このような議論は,製品を実際に使用した最終消費者との関係で問 題になることが通常と思われるが,本件のように,製造物である原材料を用いて別の製造業者において別途,完成品が製造された場合においても同様に考えるのが相当である。 b 以上を前提に,一般に,原材料を使用した完成品を消費者が使用したことにより製品事故が生じた際,そのような事故発生の原因が専ら 完成品の設計ないし製造過程にあり,原材料自体に起因するものではないと評価できる場合には,そもそも原材料と製品事故の発生との間に因果関係がないということができる。 また,製品事故の原因が専ら完成品の設計ないし製造過程に起因して生じたとはいえなくとも,原材料の「通常予見される使用形態」に 含まれない完成品の設計ないし製造過程が原因となり又は寄与して製品事故が発生したと評価できる場合には,完成品製造業者が原材料を誤使用,不適切使用をして,危険を生ぜしめたとして,そのような事情は原材料の欠陥を否定する方向に働く考慮事情となるものと解される。 c そして,「通常予見される使用形態」で製造物が使用されたか否かに ついては,かかる事情が社会通念上,当該製造物に求められる通常有すべき安全性を欠いている状態である欠陥を判定する際の考慮要素であることに鑑み,原材料の製造業者等が予定した製造物の用途・使用・性能,一般的に使用されている同種製品の使用・用途の態様,予定外の使用の可能性,製造物の使用者層・能力・資格,指示・警告の 有無・内容等を考慮し,個々の 製造業者等が予定した製造物の用途・使用・性能,一般的に使用されている同種製品の使用・用途の態様,予定外の使用の可能性,製造物の使用者層・能力・資格,指示・警告の 有無・内容等を考慮し,個々の製造物ごとに判断するのが相当である。 (イ) 本件石鹸の仕様についてa グルパール19Sは化粧品用途に広く利用可能な製品であるところ,前記認定事実(1)によれば,石鹸は界面活性剤を含んだ洗浄作用を有する製品であること,本件石鹸は美容を目的とした洗顔用石鹸であ って,製品が頻繁に顔に触れることを想定した製品であること,同石鹸においてグルパール19Sは0.3%の濃度で配合されていたことが認められ,このような完成品の設計,仕様が製品事故拡大の要因となったと分析する見解(乙ハA25,36)がある。以下,このような完成品たる本件石鹸の仕様がグルパール19Sの「通常予見される 使用形態」の範囲外といえるかにつき,検討する。 b まず,前記認定事実によれば,被告片山化学は,グルパール19Sの技術資料やパンフレット等において,同製品は広く化粧品・医薬部外品に使用できる旨明示し,例えば「クリーム,ローション,シャンプー,リンス,その他」などとして幅広い用途を掲げている一方,特 段用途を限定するような記載をしていないこと,化粧品とは一般に美容のために肌(特に顔)や髪等の身体に塗擦,散布する物をいうところ,本件石鹸のような洗顔を主たる用途とした美容石鹸もかかる化粧品に含まれることは明らかであること,グルパール19Sには保水性,保湿性や泡の改質効果(起泡性)などの特性があり,これを洗顔用石 鹸に応用することは何ら不自然でなく,被告片山化学も被告フェニッ クスが石鹸に配合予定であることを知りな 水性,保湿性や泡の改質効果(起泡性)などの特性があり,これを洗顔用石 鹸に応用することは何ら不自然でなく,被告片山化学も被告フェニッ クスが石鹸に配合予定であることを知りながら特段,それを止めるような言動に及んでいるわけでもないことが認められ,かかる事情に照らせば,石鹸や洗顔用石鹸にグルパール19Sを配合することは,グルパール19Sの「通常予見される使用形態」の範囲内の使用であったことは明らかということができる。 なお,被告悠香は,本件石鹸の使用方法として,ダブル洗顔も可能などと説明していたが,洗顔方法として二度洗いが特殊なものということはできないし,被告片山化学は,グルパール19Sについて化粧品一般に使用可能としていたのであるから,頻繁に肌に触れる製品に使用されることもグルパール19Sの想定された使用形態であった というべきである。 また,本件石鹸に配合されたグルパール19Sの濃度についても,技術資料等によっても特段の用量制限はなく,0.3%という数値は被告片山化学自身が技術資料等において同割合で配合することにより乳化力等が十分に発揮されたなどと記載し,性能表示として目安と していた数値であることからすれば,本件石鹸へのグルパール19Sの配合についても「通常予見される使用形態」の範囲内のものであったというべきである。 (ウ) 完成品製造業者による損害回避措置について被告片山化学は,通常予見される使用形態に含まれる適正使用か又は その範囲に含まれない誤使用かを論じるに当たっては,当該原材料がその用途に沿った使用をされたかだけではなく,用法に沿った使用がされたかに着目すべきであり,特に,完成品に使用された原材料が汎用品であり,また完成品製造業者が専門業者であ に当たっては,当該原材料がその用途に沿った使用をされたかだけではなく,用法に沿った使用がされたかに着目すべきであり,特に,完成品に使用された原材料が汎用品であり,また完成品製造業者が専門業者である場合には,原材料の製造業者ではなく,当該完成品の製造業者が原材料を安全な用途・用法で使用 したこと,すなわち危険回避措置を講じたか否かが問題とされるべきで あり,完成品製造業者において用途・用法に工夫をしても被害を防げなかったということを原材料の欠陥を主張する原告らにおいて主張立証しない限り,原材料の欠陥を肯定することはできない旨主張する。 前記(ア)説示のとおり,通常予見される使用形態に沿って使用される限り安全な製品であっても,使用態様や使用時の環境等の事情によっては 製品が有する危険性が現実化することがあるが,そのような危険は製造物の危険として評価できないものであることからすれば,当該原材料自体に客観的危険性があるとしても,これを完成品に組み込む段階で,この危険を完成品の製造業者が支配し,原材料製造者でなく,完成品製造業者のみがこの危険性を除去すると合理的に期待され,それが社会通念 となっているような場合に,完成品製造業者がこのような危険回避措置をとらなかったことは,原材料の欠陥を判断する上での考慮事情として斟酌されるものと解される。しかしながら,本件石鹸に配合されたグルパール19Sにより本件アレルギーを発症するとの知見は,被告フェニックスが本件石鹸へのグルパール19Sの使用を決定し,現に配合した 時点において一般的なものであったとはいえないことは明らかであり,完成品製造業者のみがこの危険性を除去すると合理的に期待され,それが社会通念になっていたとは解されないことから,完成品の製造業者におけ 点において一般的なものであったとはいえないことは明らかであり,完成品製造業者のみがこの危険性を除去すると合理的に期待され,それが社会通念になっていたとは解されないことから,完成品の製造業者における危険回避措置を講じたか否かの点は,原材料であるグルパール19Sの欠陥についての考慮事情たり得ない。したがって,完成品製造業 者による危険回避措置等について原告らにおいて主張立証すべき旨を求める被告片山化学の主張は,当裁判所の採用の限りではない。 イ同種製品における被害発生の有無について被告片山化学は,上記の同種製品において被害報告がないとの事情は,本件石鹸の製造過程等にこそ欠陥があったことを推認させ,また,原材料 たるグルパール19Sの欠陥を否定する有力な事情たり得る旨主張し,前 記認定事実(6)のとおり,本件石鹸と同様にグルパール19Sを0.3%の割合で配合し,累計170万個以上を売り上げた「渋の泡石鹸」においては本件アレルギーと同様の被害が生じたとの報告はされていない。 しかし,本件石鹸と同様にグルパール19Sを0.3%の濃度で配合した同種製品において,必ずしも本件アレルギーと同様の被害の発生が報告 されていないとしても,一方で,同様の被害を生じたと報告された製品もあったこと(前記認定事実(6)イ)や,前記のとおり,本件製品事故は,グルパール19Sの「通常予見される使用形態」によって使用した本件石鹸において,グルパール19Sをその想定される範囲内の使用をしたことに起因して生じたものであることからすれば,グルパール19Sを本件石鹸 以外の用途に用いた場合に同種被害が生じていないとの事情を同製品の欠陥判断において重視することはできないというべきである。 (5) 他の考慮要素等 ,グルパール19Sを本件石鹸 以外の用途に用いた場合に同種被害が生じていないとの事情を同製品の欠陥判断において重視することはできないというべきである。 (5) 他の考慮要素等アグルパール19Sの引渡し当時の科学技術水準かかる事情については,前記3(3)カと同様に解するのが相当である。 イ指示・警告の有無,内容(ア) 被告片山化学は,製造業者において危険に対する適切な指示・警告を欠くことを問題とするには,製造業者が表示・警告義務を負うことが前提になるところ,製品の引渡し当時の科学技術水準によって想定不能な危険についてまで製造業者において表示・警告義務を負わせることはで きず,本件アレルギーの発生はグルパール19Sの引渡し当時の科学技術水準ではおよそ予見不可能なものであった以上,この点につき,表示・警告を欠くことをもって欠陥を肯定する事情として考慮することはできない旨主張する。 しかし,前記3(3)エのとおり,製造物に設計上の安全性の欠如を要素 とする欠陥が存するかが問題となる局面において,適切な指示,警告を 欠いていることを欠陥の一事情として考慮する場合には,端的に,製品設計上の危険性が製品の使用者らに告知されているかを基準に,その指示,警告の有無・内容を考慮すべきであって,製造業者等の予見可能性は必ずしも前提とならないと解される。よって,被告片山化学の上記主張は採用の限りでない。 (イ) また,被告片山化学は,石鹸等の製造の専門業者である被告フェニックスに対し,原材料となるグルパール19Sにつき,完成品の製造に関するノウハウを有していない被告片山化学においては,化粧品への使用を想定した安全性実験等を実施することはできない 者である被告フェニックスに対し,原材料となるグルパール19Sにつき,完成品の製造に関するノウハウを有していない被告片山化学においては,化粧品への使用を想定した安全性実験等を実施することはできないことや,本件製品安全データシートに「感作性:データなし」などと記載し,被告片山化学 においてはその安全性につき保証できないことを明示するなどして,製品及び製品の危険性に係る情報を十分に提供したなどと主張する。 まず,原材料は完成品に使用され,完成品と一体となって市場に流通するのであるから,原材料製造業者が当該原材料の危険性に関する指示,警告を行うべき対象は,完成品の使用者ではなく,完成品製造業者であ ると解される。そして,被告片山化学に比して,被告フェニックスは石鹸又は化粧品等の製造に係る専門業者であるから,同社に対して求められる指示,警告の内容,程度については,一般的には,消費者らに対して求められるそれよりも緩やかなもので足りるということはできる。前記認定事実によれば,被告片山化学は,被告フェニックスに対し,技術 資料やパンフレットによる記載を通じた製品一般に係る情報の提供,口頭で自社では安全性試験を実施できない旨の説明を行っていたほか,本件製品安全データシートにおいて,有害性情報として皮膚や眼に直接付着した場合には刺激を起こす可能性があること,感作性については安全性に関するデータが存在しないこと,特殊な使用をする場合には完成品 製造業者において試験を行うよう勧めるとともに,上記の危険性・有害 性に関する評価は必ずしも十分でないこと等を明記しており,被告片山化学において製品の安全性を必ずしも保証できず,同成分を利用する完成品製造業者において安全性を確認することが望ましいとして,一応の注意喚起ない 評価は必ずしも十分でないこと等を明記しており,被告片山化学において製品の安全性を必ずしも保証できず,同成分を利用する完成品製造業者において安全性を確認することが望ましいとして,一応の注意喚起ないし情報提供を行っていたものと認められる。 もっとも,被告片山化学の行った上記の注意喚起ないし情報提供は, グルパール19Sに由来して本件アレルギーが発症する危険性を直接に指摘,示唆したものということはできず,グルパール19Sに起因した本件アレルギーの発症という危険を回避するに足りる的確な指示,警告がされたとみることはできないのであって,危険の発生を未然に防止するものであったとはいい難く,また,平成16年3月当時の科学技術 水準によっては通常の化粧品等の製造業者らにおいて本件アレルギーの存在を予見できなかったことは前記認定のとおりである。 以上によれば,グルパール19Sの引渡しに当たって,被告片山化学が完成品製造業者である被告フェニックスに対し,本件アレルギーの発症可能性という製造物に由来する危険に関して必ずしも十分な指示,警 告があったといえるかは疑問であり,上記の表示等がされたことをもって製品設計上の欠陥を否定する事情として重視すべきとまではいえない。 ウ法令及び行政規制への適合性についてグルパール19Sの引渡し当時において,同製品は,外原規等の公定書 において規格が定められた「加水分解コムギ末」と規格において同一の成分であったこと,及びリアルが開発,製造した製品の原材料として使用され,同製品が医薬部外品として許可を受けていたこと,つまり使用前例の存在した化粧品原材料製品であったことが認められる(前記認定事実(3)及び(4),乙ハA40,41)。このことは,グルパール19Sを原材料とし 医薬部外品として許可を受けていたこと,つまり使用前例の存在した化粧品原材料製品であったことが認められる(前記認定事実(3)及び(4),乙ハA40,41)。このことは,グルパール19Sを原材料とし て配合した製品について薬事法上の製造承認を申請するに際して,事実上, 同成分に関しては安全性試験の結果等の資料添付を省略して承認を得ることができたことを意味し,かかる規制の観点からみれば,グルパール19Sは安全な原材料であるとの評価が与えられていたということができる。 もっとも,前記判示のとおり,法令に基づく行政規制はあくまで製品の 流通に際して最低限度の基準を定めたものにすぎず,そのことが製造物責任法上の欠陥の有無を直ちに決するものではないし,規格に適合していたこと自体は,グルパール19Sの安全性試験の結果等によりその安全性が直接に裏付けられていたことを意味するものでもないと解される。グルパール19Sにつき,一般細菌数,耐熱性芽胞菌数,大腸菌数,カビ数,酵 母数,ヒ素・重金属・サルモネラ菌等の含有という点では,各種試験結果によっても安全性が確保されていたことが窺われるものの(乙ハA81ないし90),被告片山化学は,自社において同成分が皮膚に触れた際の感作性に関する安全性試験は何ら実施しておらず,リアルが承認申請をした際に添付した資料の確認等を行っていたわけでもなく,感作性試験に関する 安全性のデータがないことを指して,本件製品安全データシートにおいても「データなし」などと記載していたことが認められる(乙ハA4)。この点,被告片山化学は,自らは化粧品の製造会社等ではなく,安全性試験等を実施するノウハウなどを持ち合わせていなかったなどと主張し,これに沿う証拠(乙ハA139の1〈鹿児島地方裁判 る(乙ハA4)。この点,被告片山化学は,自らは化粧品の製造会社等ではなく,安全性試験等を実施するノウハウなどを持ち合わせていなかったなどと主張し,これに沿う証拠(乙ハA139の1〈鹿児島地方裁判所の訴訟におけるB の証 人尋問調書)も存在するが,自社で安全性試験を行わずとも,例えば,外部機関に発注するなどの方法によって安全性試験を実施することは当然可能であったのであり(乙ロA26),被告片山化学の上記主張は,グルパール19Sの欠陥を論じるに当たって意味のあるものではない。 以上によれば,グルパール19Sが行政規制上の規格に適合した成分で あったなどの事情が認められ,適法に製品が流通していたからといって, そのことをグルパール19Sの安全性を考える上で重視することは相当でないというべきである。 エ有用性 グルパール19Sについて,強い乳化力,高い乳化安定性・保水性・保湿性, 耐塩・耐酸性等といった種々の特性,機能を有した成分であると説明していたこと,少なくとも,食品用途一般に配合して使用する限りは本件アレルギーを引き起こしたとする被害報告はなく,安全に使用することができる原材料であると認識されていたこと,実際にも,グルパール19Sを含むグルパールシリーズ全体で平成5年から平成23年までの間に総計9 7万3596kgが食品メーカー複数社に出荷されているなど,社会的にみて一定の有用性を備えた製品と受け止められていたことが認められる。 もっとも,グルパール19Sに上記のような有用性が存在するとしても,医薬品における生命の維持や疾病の治療,健康の維持といった高度の有用性に匹敵するようなものではないし,人が日常生活を送る上で同成分を欠 かすことができない 記のような有用性が存在するとしても,医薬品における生命の維持や疾病の治療,健康の維持といった高度の有用性に匹敵するようなものではないし,人が日常生活を送る上で同成分を欠 かすことができないといった事情も認められず,グルパール19Sに起因する被害の程度に鑑みても,欠陥の判断に際してそのことを重く見るべき事情と位置付けることはできないというべきである。 (6) 汎用的原材料製造業者と完成品製造業者の関係ア被告片山化学は,グルパール19Sが汎用的な原材料であることを前提 に,完成品は原材料製造業者の与り知らない工程により開発,製造されるところ,原材料製造業者がおよそ全ての完成品の用途,仕様を想定し,発生し得る危険に対して適切な表示,警告をすべきであると考えるのであれば,原材料製造業者におよそ不可能を強いることとなり,汎用品という社会に有用な製品の流通が閉ざされてしまうという不合理な結果を招き得 ることから,汎用的な原材料製造業者と完成品製造業者の関係という社会 構造・経済構造に照らせば,原材料製造業者は,その責任領域に属する役割,すなわち,原材料に関する適切な情報提供を行った場合には,当該原材料を用いた製品に関して原材料と事実的因果関係を有する製品事故が発生したとしても,完成品製造業者において,その責任を負うことが相当である旨主張する。 かかる主張が欠陥判断との関係でいかなる意味を持つものとして主張されているのかは必ずしも判然としないが,汎用的な用途に利用可能な原材料の製造業者に求められる社会的な役割に関する被告片山化学の理解を前提として,汎用品たる原材料に対して求められる安全性の内容や程度については,完成品に対して求められるそれとは区別して考えるべきであ るとの事情を述べるも 的な役割に関する被告片山化学の理解を前提として,汎用品たる原材料に対して求められる安全性の内容や程度については,完成品に対して求められるそれとは区別して考えるべきであ るとの事情を述べるものと捉えることができる。 イグルパール19Sは,前述のとおり,特定の用途が想定された製品ではなく,食品・化粧品に添加,配合する限り,幅広い用途に応用可能であって,種々の機能特性に応じ,完成品製造業者においていかなる製品に添加,配合をするか否か,又添加,配合する場合にはその用量をどうするのかを 判断,選択することが想定されていた製品であった。 また,取引の当事者の属性という点からみても,通常,完成品製造業者はグルパール19Sを利用した完成品,すなわち食品や化粧品を製造する専門業者である一方,原材料製造業者である被告片山化学は完成品たる食品や食品等の開発,製造ノウハウを有していたわけではないことが窺われ る(乙ロA48,乙ハA42,139の1)。被告片山化学と被告フェニックスの取引経過に鑑みても,完成品たる石鹸の具体的な仕様や設計等の情報は完成品製造業者である被告フェニックスの企業秘密に属する事柄として,原材料製造業者たる被告片山化学に対してその詳細が伝えられることはなかったのであり,原材料製造業者は完成品製造業者に対し,技術資 料の提供や口頭での説明を通じて,原材料の一般的な性能や品質に係る情 報提供等を行う立場にあったことが認められる(乙ロA48,乙ハA124,139の1)。 さらに,法規制という観点からみても,化粧品及び医薬部外品の製造販売を行うに際して,製造承認を得るべき主体は当該化粧品及び医薬部外品という完成品の製造業者であり,完成品製造業者において,当該完成品に 配合された各種成分に みても,化粧品及び医薬部外品の製造販売を行うに際して,製造承認を得るべき主体は当該化粧品及び医薬部外品という完成品の製造業者であり,完成品製造業者において,当該完成品に 配合された各種成分にかかる安全性試験の結果等を原則申請書に添付するなどし,承認申請することが求められていたのである(乙ハA122)。 これに対し,化粧品及び医薬部外品の原材料(配合成分)の製造業者に対しては,その製造,販売に際して,特段,薬事法上の規制が存するわけではなく,まさに完成品製造業者の責任において使用する配合成分を決定し, 完成品の製造承認を得ることが想定されており,実際上も,所轄官庁である厚生労働省から原材料製造業者に対して配合成分の安全性に関する問い合わせがされることもなければ,原材料製造業者において原材料(配合成分)に関する安全性試験を自ら実施していた企業は少数であったこと(乙ハA122,159)等が認められる。 以上によれば,グルパール19Sの引渡し当時において,行政規制上は,汎用的な原材料である同製品を用いた完成品の製造業者において,同製品を含んだ完成品全体の安全性を確保すべき立場であるとされていたのに対し,原材料製造業者に対しては何らかの規制が存在したわけではなく,取引通念上も,そのような運用が業界の安全性に係る基準,水準として是 認されていたものということができる。 ウしかし,上記のような法規制が存在し,それに沿った実務慣行,運用が存在したとの事情は,完成品に使用された原材料を原因とする製品事故が発生した場合において,当該完成品及び当該原材料に求められる社会通念上相当とされる安全性の期待水準を裏付ける要素と位置付けることはで きるものの,そのことから当該完成品に用いられた原材料の製造業者の責 合において,当該完成品及び当該原材料に求められる社会通念上相当とされる安全性の期待水準を裏付ける要素と位置付けることはで きるものの,そのことから当該完成品に用いられた原材料の製造業者の責 任を免責する趣旨を含むとまで解することはできない。製造物責任法は,高度に科学技術が進歩し,製品が大量生産,大量消費される現代社会においては,製品の危険性の制御,管理は専ら当該製品の製造業者に依存せざるを得ないところ,製品に内在した危険性が現実化した場合には,当該危険を作り出した者こそが責任を負うべきであるとする危険責任の原理,ま た,製造業者は製品の製造販売を通じて利潤を得ている以上,製品に起因して事故が生じたのであれば利得を得た者が賠償責任を負担するのが公平であるとの報償責任の原理,及び製品の安全性に対する信頼保護という信頼責任の観念に立脚していると解される。上記の製造物責任法の立法趣旨に鑑みたとき,完成品の原材料である製品に起因して製品事故が生じた 以上は,危険を有する直接の原因製品を製造した原材料製造業者の責任,及びそのような危険な原材料を利用した完成品を市場に流通させ製品事故をもたらした完成品製造業者の責任のいずれもが問題とされるべきであって,この点において,原材料製造業者と完成品製造業者の責任の当否を責任領域と称して分断的,二者択一的に考える必然性はない。被告片山 化学は,その製造販売に際しても,技術資料やパンフレット等を通じ,グルパール19Sが小麦という植物,天然物に由来する素材であり,安全性が高いものであることを強調し,これを利点として広く販売経路を得ていたことは前記認定のとおりであり,そうすると,上記した報償責任,信頼責任の観点からも,被告片山化学の主張する考え方は採用できないと言わ であることを強調し,これを利点として広く販売経路を得ていたことは前記認定のとおりであり,そうすると,上記した報償責任,信頼責任の観点からも,被告片山化学の主張する考え方は採用できないと言わ ざるをえない。 被告片山化学は,汎用品たる原材料製造業者において完成品の用途,仕様を想定して,いかなる完成品においても安全性が担保されるよう指示,警告等を行わなければならないとすれば,原材料製造業者に不可能を強い,社会的に有用な汎用的原材料の流通を閉ざすことになりかねないと主張 する。しかしながら,製造物責任法は,その責任主体について製造物の製 造業者等と定めるのみで,製造物の範囲を限定しているものではないし,汎用的に利用可能な原材料の製造業者は,まさに当該製品が汎用的に利用できることを強調して広く社会に当該製品を販売,流通させ,利益をあげるとともに製品に対する信頼を獲得しているのであるから,同製品が想定された用途に沿って使用された結果,製品に起因する事故が生じたのであ れば,責任を負うべきであるのは上記した製造物責任法の立法趣旨に照らしても当然といえる。事故発生の危険性を考慮してもなお,当該製品の有用性から社会に同製品を流通させるべきか否かの判断は,まさに当該製品に欠陥が存するか否かの判断にほかならず,汎用的な原材料に限って問題となる事項ではなく,製造物一般について当てはまる事情というべきであ る。 エ以上によれば,上記イの事情は,グルパール19Sを取り巻く社会通念を構成する要素として,当該製品の欠陥の判断において意味を持ちえない事情とまでいうことはできないが,特段,重視すべき事情とまで認めることはできない。 (7) 小括以上を総合考慮すれば,次のとおり述べることができる。すな 判断において意味を持ちえない事情とまでいうことはできないが,特段,重視すべき事情とまで認めることはできない。 (7) 小括以上を総合考慮すれば,次のとおり述べることができる。すなわち,グルパール19Sは,その「通常予見される使用形態」に沿って本件石鹸という洗顔用石鹸の原材料として使用された場合,本件アレルギーの発症ないし本件製品事故という重篤,重大な事故を引き起こす危険性を備えた製品であり, このことはそのような使用を前提とした原材料たる当該製品の設計上の欠陥を基礎づける極めて重要な要素というべきである。 また,グルパール19Sにつき,上記の危険性がある旨,完成品の製造業者に対して必ずしも的確な指示,警告は付されていなかったことが認められ,その有用性についても,種々の製品の原材料として汎用的な用途に利用でき るといった特性はあるものの,日常生活上欠かすことができないとか,生命, 健康の維持に必要不可欠といった程度に高度なものではなかった。 他方,当時の科学技術的水準に照らせば,グルパール19Sは薬事法に基づく規格に適合する成分とされ,当該成分を用いた本件石鹸は薬事法上の製造承認を得て適法に流通してものであり,同種の製造業者やアレルギーの専門医であってもグルパール19Sに起因して本件アレルギーの発症を具体 的に予見することは困難であったことが認められ,当該原材料を用いた完成品たる化粧品等の製造業者において,原材料を含む完成品全体の安全性を確保することが法規制上,又実務慣行上求められていたことが認められるものの,グルパール19Sは食品及び化粧品用の原材料成分であり,完成品に添加,配合されて初めて市場に流通することとなることや,小麦という植物, 天然素材に由来する安全性の高い製品と 認められるものの,グルパール19Sは食品及び化粧品用の原材料成分であり,完成品に添加,配合されて初めて市場に流通することとなることや,小麦という植物, 天然素材に由来する安全性の高い製品として流通に置かれていたという製品特性からすれば,完成品たる化粧品そのものと同様に高度の安全性が求められていたにもかかわらず,同製品に起因して実際に本件アレルギーが生じことに照らせば,当該製品の引渡し当時の社会通念によっても,そのような被害を生ぜしめる化粧品原材料は社会通念上許容されるものではなかった と考えるのが相当である。 したがって,グルパール19Sは,その製品設計上,社会通念に照らして,化粧品に配合,添加される原材料として通常有すべき安全性を欠いていたといえ,設計上の欠陥があったと認めるのが相当である。争点4に関する原告らの主張には理由がある。 6 争点5(グルパール19Sの製造業者等について開発危険の抗弁が成立するか。)に対する判断被告片山化学は,グルパール19Sに関する開発危険の抗弁を予備的に主張する。しかしながら,それを基礎付ける事実については,同被告が欠陥に関する事情として主張するところ及び他の被告らの開発危険の抗弁に関する主張 を援用すると述べるにとどまっている。そして,グルパール19Sの欠陥は前 記5において述べたとおりのものであるところ,その開発危険の抗弁の認識対象,及び基準時についてもグルパール19Sの引渡し時である平成16年3月ころとして,前記3と同様であると解されるから,同項において認定説示したのと同じ理由により,被告片山化学の上記主張は採用できない。 7 争点6(損害の発生及びその額等)に対する判断(損害総論について) (1) 原告らの請求方式の当否 において認定説示したのと同じ理由により,被告片山化学の上記主張は採用できない。 7 争点6(損害の発生及びその額等)に対する判断(損害総論について) (1) 原告らの請求方式の当否ア原告らは後記8認定のとおり,20名全員が本件石鹸の使用歴を有し,特別委員会の示した診断基準を満たすものとして医師から本件アレルギーとの確定的な診断を受けていることから,本件石鹸を使用した結果,本件アレルギーを発症したものと認められる。 イ包括一律請求の当否原告らは,本件アレルギーの発症により,社会生活,家庭生活,経済生活及び日常生活のあらゆる場面において,個別の損害項目では捉え切れない広範かつ多大な不利益を被ったものであり,本件アレルギーの発症時から今後将来にわたって,このような被害は継続することから,これらの被 害を包括して,本件アレルギーを発症し,小麦及び小麦を含む食品を安全に食べることができなくなったことないし安心して食事をすることができなくなったこと等を原告ら共通の損害と捉えた上で,その損害額については,アナフィラキシーショックを発症し,生命の危険にさらされた者は,被害の程度がより重いとしてAランクに分類し1500万円を,そうでな い者はBランクに分類し1000万円をそれぞれ請求しており,包括一律請求の方式により損害賠償を請求しているものと解される。 この点,本件訴訟は,最大時には原告の数が120名にまで至ったいわゆる集団的訴訟であるところ,このような多数の原告の損害を個別に算定するのではく,迅速な被害救済及び訴訟経済のために,上記の請求方式を 選択することの必要性は認められる。そして,本件アレルギーによる被害 については,基本的には本件石鹸を使用 するのではく,迅速な被害救済及び訴訟経済のために,上記の請求方式を 選択することの必要性は認められる。そして,本件アレルギーによる被害 については,基本的には本件石鹸を使用後に小麦を摂取しない限りは具体的な症状が発現することはないが,小麦を摂取しさえすれば種々の症状を発現し,治療等を要することになり,その治療も対症療法によらざるを得ず,確かに小麦の摂取を回避すればこのような症状の発現を防ぐことができるものの,今度は,その回避に伴う生活制限等が課せられることになる という点で,症状の発現や通院回数のみに着目するだけでは被害実態を十分捕捉できず,また,症状も直ちに稼働能力の制限に結びつくものではないが,場合によっては生命の危険すら生じ得るというものであるなど,本件アレルギーの発症及び継続による原告らの被害の実態を評価するには,個別的な損害の積上げによらず,これら被害を包括して金銭評価すること の合理性もあるというべきである。 そして,原告ら各自が被った被害の内容は,各自の具体的症状,経済的状況及び社会的環境などによりその内容,程度を異にするものであるが,本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症及び相当程度の長期間にわたる症状の継続という共通の事実関係の存在を前提として,その被害内容, 程度には共通,類似する点があり,それをもって原告ら全員に共通する損害と捉えて一律にその賠償を請求することもできないものではないと解される。このように解する場合,共通する損害について基準となる損害額を算定した上で,個別の事情を増減事由として考慮することにより,総額を算定するのが相当である。 (2) 原告らに生じた損害の把握ア本件アレルギーは,本件石鹸に含有されていた加水分解コムギ末であるグル を増減事由として考慮することにより,総額を算定するのが相当である。 (2) 原告らに生じた損害の把握ア本件アレルギーは,本件石鹸に含有されていた加水分解コムギ末であるグルパール19Sを抗原とする小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの一種であり,本件石鹸の使用時に皮膚症状を生じる場合があるものの,その主たる症状は,経口摂取した小麦に反応を示すという小麦アレルギーに よるものである。 一般に,食物アレルギーは,体内に抗原が侵入し,これに対する特異的IgE抗体が生成され,肥満細胞との結合により感作を生じることで,次に抗原を体内に摂取した場合,これが肥満細胞上の特異的IgE抗体と結合することにより,アレルギー反応が生じ,皮膚症状,粘膜症状,消化器症状,呼吸器症状等の臨床症状をもたらすものであり,原因食物を摂取し ない限り,症状が発現することはないが,原因食物を摂取した際に,その身体において具体的な症状を生じる疾患である。このような食物アレルギーにつき,現時点においても根本的な治療方法は確立されておらず,アレルゲンとなる食物を摂取してしまい上記の臨床症状が発現した際は,投薬等の対症療法で症状を抑えるとともに,日常生活上はアレルゲンとなる食 物の摂取を制限ないし摂取しない生活を継続すること(食事療法)が基本的な治療方法とされている。 本件アレルギーについても,その機序の解明が進み,オマリズマブ治療等の新規治療法の研究が進められつつあるものの,未だ根治に至る治療方法が確立されているわけではなく,基本的には,症状発現時の対症療法と 日常生活上の食事制限による療法をとるしかないという点では,上記した食物アレルギーの一般的な病態と変わりがない。なお,通常,運動誘発性アナフィラ ではなく,基本的には,症状発現時の対症療法と 日常生活上の食事制限による療法をとるしかないという点では,上記した食物アレルギーの一般的な病態と変わりがない。なお,通常,運動誘発性アナフィラキシーは,原因食物の摂取に加え,運動負荷という二次的要因がなければ症状が誘発されないものであるが,本件アレルギーは運動誘発性が低く,家事程度の運動や明らかな運動負荷がなくとも症状が誘発され る場合もあることが特徴とされており,運動負荷がない限り原因食物の摂取も可能であると捉えることは適当ではない。 以上によれば,本件アレルギーの発症によって原告らが被った損害とは,①アレルギー罹患後に小麦を摂取する都度,発現する具体的な臨床症状による肉体的,精神的苦痛を中核として,②かかる症状の発現に伴う治療費 の出捐といった種々の経済的不利益等並びに③アレルギー疾患が基本的 には治癒しないことによって,日常生活において継続して小麦及び小麦含有食品の摂取を制限されることによる種々の不利益の総体であると捉えることができる。 なお,本件アレルギーの臨床症状として,本件石鹸の使用時に皮膚症状を生じる者も相当数含まれるものの,本件アレルギーの患者らの中には本 件石鹸の使用時には症状を生じない者も一定数含まれており,他方で小麦摂取時の症状発現は患者ら全員について認められることからすれば,原告らに生じた包括的な損害を考える上では,本件石鹸の使用に伴うアレルギー反応の発現については,これを特段考慮に入れないものとする。 イ上記損害の内実 (ア) 具体的なアレルギー症状a 本件アレルギーの症状は,小麦摂取後に生じる眼瞼浮腫,顔面の紅斑,掻痒,鼻水,局所性又は全身性の湿疹,蕁麻疹等の皮 イ上記損害の内実 (ア) 具体的なアレルギー症状a 本件アレルギーの症状は,小麦摂取後に生じる眼瞼浮腫,顔面の紅斑,掻痒,鼻水,局所性又は全身性の湿疹,蕁麻疹等の皮膚症状に加え,約半数の患者においては,これらに嘔吐や下痢,呼吸困難といった症状が加わり,多臓器にわたる全身性症状であるアナフィラキシー 症状を生じ,更に約4分の1程度の患者には最悪の場合には死に至る危険性もあるアナフィラキシーショックを生じるというものである。 このような症状は,皮膚に赤みや痒みを生じるといった軽微な不利益にとどまるものではなく,心身に相当程度の苦痛を生じるものであるほか,一旦,感作が成立し,体内に特異的IgE抗体が生成された 場合,それが存在する限りにおいて,小麦を摂取する都度,症状が生じるものであり,一回的な症状を内容とするものではない。 b 他方で,小麦摂取後に生じる上記の症状は,体内に取り込まれたアレルゲンに対する個別的な過剰免疫反応であり,症状の程度いかんによっては,数日程度の入院加療を要することもあるものの,基本的に は症状発現時に抗アレルギー薬の投与,エピペンの使用等の適切な対 症療法を行うことで発現した症状を抑制できるものであり,個々の機会における具体的な症状は一過性のものであって,本件アレルギーに罹患しているからといって小麦を摂取しない限りは,継続的に症状が発現し続けるというものではない。 (イ) 日常生活において小麦摂取を制限されることに伴う不利益の内容 a 本件アレルギーの病態については前記のとおりであるところ,アナフィラキシー等の症状を引き起こさないためには,治癒に至るまでの期間,当該患者自身が小麦を摂取しない生活を継続する必要が a 本件アレルギーの病態については前記のとおりであるところ,アナフィラキシー等の症状を引き起こさないためには,治癒に至るまでの期間,当該患者自身が小麦を摂取しない生活を継続する必要がある。 このような生活上の制限及びそれに伴う不利益それ自体は,通常,人身傷害事件において損害として観念されている入通院費用といった 積極損害,また消極損害等には含まれないものである。 もっとも,原告らにおける日常生活上,小麦の摂取を制限することに伴う種々の不利益は,以下に述べるとおり,具体的かつ複雑なものであって,このことを損害として全く考慮しないこともまた,本件におけるアレルギー被害の実態を正しく認識しないものであるという べきであって,この点をも踏まえた上で,包括的な損害の内容を捉える必要があると解するのが相当である。 b 現在の我々の食生活においては,小麦はうどんやパンといった主食の原材料として使用されるにとどまらず,身の回りのありとあらゆる食品において多かれ少なかれ利用されていることが多く,例えば,ケ ーキやクッキー等の菓子類,そばのつなぎ,餃子や春巻き等の皮,揚げ物類の衣,シリアル食品,カレーやシチュー等のルー,ハム・ソーセージ・かまぼこ等の練り物,ピザ,お好み焼き,たこ焼き,もんじゃ焼き等の料理や加工食品,その他調味料や飲料の一部なども含め,極めて広範な用途に使用されている。このように我々の食生活,食文 化に深く浸透している小麦及び小麦成分を排除した生活を送らなけ ればならないということは,食に対する楽しみを奪うことはもちろん,小麦を避けるための手段を講じなければならないという不利益にとどまらず,主食の選択が制限されることからグルテンフリー製品を代用すること等による経済的な不 とは,食に対する楽しみを奪うことはもちろん,小麦を避けるための手段を講じなければならないという不利益にとどまらず,主食の選択が制限されることからグルテンフリー製品を代用すること等による経済的な不利益も被ることになる。また,小麦を避けるために日々注意を尽くして生活を続けなければならないこと による心理的負担や,小麦製品を摂取できないことから会食を控えざるを得ない場面も容易に想定できることからすれば,これに伴う社会的な不利益もまた無視することはできない。 小麦製品が日常生活に深く浸透し,あらゆる食品に小麦が含有している可能性を排除できない以上,原告らにおいて意図せず,誤って小 麦を含んだ食品を摂取してしまった場合には実際に症状が発現してしまい,具体的な不利益が現実化する。このような場合には,症状が落ち着くまで安静にせざるを得ないという点で行動の制約をもたらすだけでなく,症状の程度いかんによっては通院の負担及び通院治療費の支出を余儀なくされ,更には就業に影響を与え,仕事を休まざる を得ない場合もあるという意味では労働能力や労働環境にも影響を与えるものである。 (ウ) 本件アレルギーの継続性a 前記認定のとおり,食物アレルギー一般について,根本的な治療方法は確立されておらず,特に成人に発症した食物依存性運動誘発アナ フィラキシーは難治性であるともされており,本件アレルギーに罹患した原告らにおいても,上記症状の発現による不利益及び小麦摂取を制限しなければならないことに伴う不利益が,少なくとも相当長期にわたって継続するということができる。もっとも,上記は小麦アレルギー一般に当てはまる事情であって,本件アレルギーに係る症状の継 続性に関しては,以下に述べる点を考慮する必要がある。 わたって継続するということができる。もっとも,上記は小麦アレルギー一般に当てはまる事情であって,本件アレルギーに係る症状の継 続性に関しては,以下に述べる点を考慮する必要がある。 b 本件アレルギーの予後⒜ 本件アレルギーに関する病態解明が始まった初期の段階から,本件アレルギーは通常の小麦依存性運動誘発アナフィラキシーとは異なり,本件石鹸の使用を中止することで経時的に小麦及びグルテンに対する特異的IgE抗体値が減少していることから,治癒の可 能性があるとの指摘がされており,実際に,本件製品事故の発生から時間が経過するにつれ,治癒ないし寛解に至ったとの症例報告や研究成果が発表されている。現時点においては,平成26年10月までに本件アレルギーと診断された患者350名を対象とした予後調査によれば,通常の食事及び日常生活を行い3か月以上即時型 アレルギー症状のない状態を「略治」と定義した上で,本件石鹸の使用中止5年後の略治率は約40%であって,略治に要する期間の推定中央値は65.3か月であるとの結果が報告されているほか,本件アレルギー患者を対象としたアンケート調査の結果,症状は全体的に寛解傾向にあり,46名中11名(約23.9%)の患者で 治癒,その他の患者も鎮痛剤や運動との併用を避けながら小麦を摂取しているとの回答を得た旨の研究成果が報告されている(乙イ総C6,乙ハB21等)。このような本件アレルギーの予後に関する報告は,特別委員会の成果を記載した矢上論文(乙ハB26の1・2)においても概ね承認されているといえる。 このように現在までに,少なくない患者において小麦の摂取制限の解除に至り,小麦摂取を再開しているとの報告があるほか,実際に,原告らの中にも日常生活に においても概ね承認されているといえる。 このように現在までに,少なくない患者において小麦の摂取制限の解除に至り,小麦摂取を再開しているとの報告があるほか,実際に,原告らの中にも日常生活において特段の支障を生じることなく,小麦の摂取を再開している者も見受けられるところである(原告番号25,68等)。また,本件アレルギーの患者らのうち,特段の支 障がなく小麦の摂取を再開できる状態に至っていなくとも,激しい 運動を避けつつ小麦摂取を再開している者や服薬しつつ小麦摂取を再開している者,少量であれば小麦摂取が可能な者等,何らかの制約を伴いながらであっても小麦の摂取を再開している者は相当数に及んでいることが窺われ,後記認定によれば,原告らにおいても,服薬等を継続しつつ小麦を摂取している者が少なからず見られ る(原告番号18,22,50,111等)など,同様の傾向を有しているということができる。 また,小麦摂取の再開に至らなくとも,前記認定事実(9)ウに係る知見及び後記認定の原告らの症状の推移に鑑みれば,ほぼ全ての症例において小麦やグルテンに対する特異的IgE抗体値は経時的 に低下傾向にあるということができるところ,特異的IgE抗体値は食物アレルギーの罹患の有無,程度を示す重要な客観的指標の1つであるから,この数値が患者ら全体において低下傾向にあることは,本件アレルギーが経時的に回復傾向を示すものであることを裏付るものといえる。 したがって,本件アレルギーの患者らないし本訴の原告らを全体としてみた場合,一般に,その症状は本件石鹸の使用中止後,経時的に寛解傾向を示すものであり,本件アレルギーは,相当程度の割合で治癒し得るアレルギー疾患であるということができる。 本訴の原告らを全体としてみた場合,一般に,その症状は本件石鹸の使用中止後,経時的に寛解傾向を示すものであり,本件アレルギーは,相当程度の割合で治癒し得るアレルギー疾患であるということができる。 ⒝ 上記判示に対し,原告らは,特異的IgE抗体値が低下したから といって本件アレルギーが回復し得ることを裏付けるものではないし,多くの原告においては現在でも小麦の摂取制限を継続しているなど,本件アレルギーが回復傾向にあるとか,治癒し得るものということはできない旨主張し,証拠(甲B15,16,乙ハB10)によれば,具体的なアレルギー反応はマスト細胞と結合した特異的 IgE抗体に抗原が結合することで生じるものであるところ,マス ト細胞と結合せずに血中に遊離している特異的IgE抗体の割合,数値を測定したものである抗体値が陰性化したからといって,直ちに症状の発現が否定されるわけではないこと,実際の症例報告等においても,数値が陰性化したとしても症状が発現する事例が報告されていることは認められる。 しかし,前記認定事実(8)カのとおり,IgE抗体値の測定はアレルギーの罹患の有無や程度を判別するための一般的検査として利用されており,特に,小麦アレルギーにおいては陰性的中率が特に良好との指摘もあること,食物アレルギーの予後管理として通常,IgE抗体値が陰性化したことを前提に経口負荷試験を実施し,そ の後の食物制限解除につなげるとのプロセスが実施されていること等に照らせば,同抗体値の陰性化が直ちに本件アレルギーの治癒を示すとまではいえないとしても,本件アレルギーの患者らを総体的に見た際に,同抗体値が経時的に低下する傾向があることをもって,本件アレルギーが一般に回復傾向にあると評価することが妨げ の治癒を示すとまではいえないとしても,本件アレルギーの患者らを総体的に見た際に,同抗体値が経時的に低下する傾向があることをもって,本件アレルギーが一般に回復傾向にあると評価することが妨げ られるものではない。 また,原告らの提出した各陳述書によれば,現在でもなお小麦の摂取制限を継続している旨述べている者が相当数存在することは認められるが,本件アレルギー患者において小麦の摂取を再開している者が少なからずみられるとの客観的な医学的知見が存する中, 上記陳述書の記載のみをもって,現在でもなお小麦の摂取制限を継続しているとの認定を行うことは困難というべきである。原告らの中には,特異的IgE抗体値が陰性化しており医師から小麦の摂取再開を促されつつもこれを試みていない者や,現時点で通院等をしていない結果,特異的IgE抗体値等も明らかでないまま小麦の摂 取制限を継続している旨述べる者等も見受けられるが,これらの原 告につき,客観的な指標に反して,なお現時点で症状が継続しているとの積極的な認定をすることもまた困難というべきである。前記認定事実(8)カのとおり,食物経口負荷試験は重大な症状を誘発しかねないリスクがあるとはいうものの,アレルギー患者らの症状の評価,確定のために極めて有用な試験と位置付けられており,専門医 の立会いの下,実施される限りにおいておよそ危険とまではいえないことからすれば,原告らにおいて現時点においてもなお症状が継続している旨立証するために,同試験を実施するなどすることは不可能を強いるものではないと考えられる。 以上によれば,上記の原告らの主張は採用することができない。 c 新規治療方法の研究本件アレルギーの患者らを全体としてみた場合,その予後は軽 はないと考えられる。 以上によれば,上記の原告らの主張は採用することができない。 c 新規治療方法の研究本件アレルギーの患者らを全体としてみた場合,その予後は軽快,寛解傾向を示すものであるということはできるが,他方で難治性,遷延性の症例も少なからず報告されており,特別委員会等においてもかかる難治性の症例に対する治療方法の確立等が今後の課題として取 り上げられているところであって,原告らにおいても現時点でもなお症状の継続が顕著な者も見受けられる(原告番号21,52,67等)。 この点,前記認定事実(9)エによれば,島根大学の研究グループにおいて,難治性の本件アレルギー患者らに対するオマリズマブを応用した治療方法の研究が進められており,現在までに,既に臨床実験等も 実施された上,医学文献において同治療法を用いた遷延性の患者らにつき,症状の寛解及び治癒をみたとの報告もされている(乙ハB28)。 そして,平成29年5月以降,島根大学の研究グループによって,本件アレルギーの患者らに対する同治療の提供が開始されており,同治療を受けるために要する治療費用等については,少なくとも現時点に おいて,被告片山化学の拠出により設立された治療基金が費用負担を 申し出ている状況である。しかしながら,オマリズマブの投与による治療自体は特定の研究グループにより研究が進められているにすぎず,現時点においては,未だ本件アレルギーの治療方法として確立したものとまでは評価できないこと,その化学的機序に照らせば,基本的には対症療法的な機序を応用した治療方法であること(乙ハA12 6,143),同治療方法にはアナフィラキシーを発現する危険性があるといった重大な副作用の存在も否定できない 機序に照らせば,基本的には対症療法的な機序を応用した治療方法であること(乙ハA12 6,143),同治療方法にはアナフィラキシーを発現する危険性があるといった重大な副作用の存在も否定できないこと(甲総C4)も認められるところであり,その有効性を過度に強調することは適切ではない。 以上によれば,本件アレルギーにかかる難治性の症例に対して,現 在では新規治療法が存在し,その有効性を裏付ける医学的知見も存するとの事情は,本件アレルギーに関する全体的な損害を考える上で特段考慮すべきとはいえないものの,無視することはできない事情というべきである。 (エ) ショック症状について 食物アレルギーにより引き起こされる症状には,掻痒,蕁麻疹,湿疹等の皮膚症状,眼や鼻,口に関する浮腫,腫脹等の粘膜症状,腹痛,嘔吐,下痢等の消化器症状,咽頭浮腫,喘鳴,呼吸困難等の呼吸器症状があるところ,多臓器にわたって全身性の症状を生じる場合をアナフィラキシーと呼び,この中でも血圧低下や意識喪失といった生命を脅かす危 険な状態を生じることをアナフィラキシーショックという。 後記認定のとおり,原告らの中にもショックを生じた者が相当数含まれるところ,単なる皮膚症状やアナフィラキシー症状を引き起こした場合に比して,ショックを生じた場合には当然,肉体的,精神的苦痛は増大し,特に,血圧低下や呼吸困難,意識喪失等によって生命を脅かす危 険な状態に直面することによる精神的な苦痛は重大というべきである。 また,症状内容自体が重篤である以上,それに伴って治療や入院に要するコストも増大するということができ,日常生活の面においても,ショックの再発を避けるために殊更,小麦摂取を厳格に控える必要性が認められ,それに伴い,生活上の不便 る以上,それに伴って治療や入院に要するコストも増大するということができ,日常生活の面においても,ショックの再発を避けるために殊更,小麦摂取を厳格に控える必要性が認められ,それに伴い,生活上の不便,不利益もショックを生じていない患者と比較して増大するものということができる。 本件アレルギーの継続性,治癒可能性という点から見た場合,ショックを生じたか否かによって大きく予後が異なるとの確たる知見はなく,現に原告らの中にはショックを生じつつも現段階では症状が寛解したとみられる者も含まれている(原告番号68等)。一方で,本件アレルギーの予後に関する臨床報告,文献の中には,皮膚以外の臓器症状(アナ フィラキシー症状)を生じた症例ないしショックを生じた症例等,重篤な症状を引き起こした症例においては遷延性の経過を辿ることが多いとの指摘もあるところである(甲総C3,乙イB26,乙イ総C11等)。 以上によれば,ショックを生じた患者については,そうでない患者に比べて,症状発現時の肉体的・精神的苦痛の程度,症状を避けるための 日常生活上の不利益の程度が相対的に大きいというべきであり,また予後の経過も遷延性の経過を辿ることが多いこと等に鑑みて,共通損害とは別に損害額を加算するということには合理性があるものと解される。 ウ被告らの主張について被告らは,通常の人身損害賠償請求においては,治療の必要性のある期 間の治療費や慰謝料等が損害賠償の対象たる損害として捉えられているところ,原告らはかかる損害と評価できる事情,期間等につき何ら客観的な立証をせず,また,主観的な不安感・恐怖感,生活上の不便性等といった本来,損害項目として取り上げられない事柄をもって損害の範囲を不当に広く捉えているなどと主張する。 につき何ら客観的な立証をせず,また,主観的な不安感・恐怖感,生活上の不便性等といった本来,損害項目として取り上げられない事柄をもって損害の範囲を不当に広く捉えているなどと主張する。 しかしながら,被告らの上記の指摘は,いずれも損害項目ごとの個別損 害の積算を前提とする損害論に当てはまるものであるところ,本訴において原告らは,原告らの被った被害の特殊性に鑑み,そのような被害,不利益を総体として捉えた上で損害評価を行うべきであるとする立場を主張し,当裁判所もこれを是認するものであるから,被告らの主張は採用の限りではない。 (3) 損害額の算定(損害の金銭評価)ア上記判示のとおり,原告らは,小麦摂取時に具体的に発現するアレルギー反応による肉体的,精神的苦痛を中核として,及びこれに伴う治療費等の出捐といった種々の不利益並びに日常生活において継続して小麦及び小麦含有食品の摂取を制限されることによる種々の不利益を被ったもの と認められるところ,この限りにおいては原告ら全員につき等しく損害を被ったものということができる。そして,原告らの中でも特にショックを生じた者については,前記判示のとおり,そのことをもって相対的により大きな損害を被ったということができるから,損害額を加算することが相当である。 イ上記の損害の金銭評価に際しては,原告らの請求は,包括一律請求であって,損害のある程度の同質性を基礎として,集団的処理に伴う立証の負担を緩和し,被害救済を図るというものであり,本件アレルギーの発症によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について,原告らに共通する損害として,その限度で賠償を求めるも のであるから,原告ら全員が被った共通損害を認めるに当た によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について,原告らに共通する損害として,その限度で賠償を求めるも のであるから,原告ら全員が被った共通損害を認めるに当たっては,その損害額は自ずと控えめな算定とならざるを得ない。 ウ以上の観点から,原告らが被った損害を金銭評価すると,原告らは,いずれも,本件アレルギーの罹患後,本件アレルギーとの診断を受ける前後を通じて,小麦製品等の摂取時に,相当回数にわたって本件アレルギー特 有の症状を発現し,その都度,身体的,精神的苦痛を被ったほか,通院を 余儀なくされるなどして,一定の経済的損害を被ったものである。また,本件アレルギーには確立した治療方法が存在せず,本件アレルギーの発症時から相当長期間にわたって日常生活において小麦の摂取制限の継続を強いられる中,前記(2)イで述べたような種々の肉体的・精神的苦痛,社会的,経済的不利益を被ったことが認められ,特に,小麦製品が日常生活に 深く浸透し,小麦を含む多数の食品が存在していることに照らせば,小麦を回避することに伴う不利益は,相当広範な場面で生じるものであり,単にあまた存在する食材の一つを回避すれば足りるというようなものではなく,軽視することはできない。その一方,個々の機会における上記の症状の発現自体については,一過性のアレルギー反応であり,症状自体が続 くものではなく,小麦の摂取制限を前提とする限り,基本的には,継続する不利益の大部分は行動の制限に伴う不利益であること,本件アレルギーが相当長期間にわたって継続し,個々の症例においては難治性,遷延性の経過を辿るものも存するというものの,一般的な予後としては通常の小麦アレルギー等と比較しても良好であり,回復,寛解傾向が医学的知見によ 長期間にわたって継続し,個々の症例においては難治性,遷延性の経過を辿るものも存するというものの,一般的な予後としては通常の小麦アレルギー等と比較しても良好であり,回復,寛解傾向が医学的知見によ り客観的に裏付けられていること,原告らの中には本件アレルギーの症状として皮膚症状を生じたにとどまる者も存在することなどを踏まえれば,本件製品事故による共通損害としては,150万円を認めるのが相当である。 その上で,特に,ショックを生じた者については,そうでない者と比較 して,その症状の重篤性等に応じて相対的により大きな不利益を被ったものということができるから,上記の共通損害に,100万円を加算するのが相当である。 (4) 減額事由その他の主張についてア慰謝料の増額事由(被告悠香の対応)について 原告らは,平成22年10月15日に厚生労働省から本件石鹸に関する 注意喚起が行われるまでに,被告悠香は本件石鹸の欠陥を把握できたにもかかわらず企業として適切な対応を行わず,また,上記注意喚起後も直ちに製品回収等を実施せず,漫然と本件石鹸の販売を継続させたという不誠実な態度は,慰謝料の増額事由に当たる旨主張する。 前記認定事実(4)によれば,平成21年秋頃までには福冨医師らによって 本件石鹸に含まれる加水分解コムギ末が原因と思われるアレルギー症例に関する症例報告がされており(甲B14),被告片山化学から被告フェニックスに対するグルパール19Sの出荷は,平成22年8月出荷分が最終出荷分であり,同年8月末頃,被告悠香は被告フェニックスに対し,グルパール19SではなくプロモイスWG-SPを使用するよう指示してい ること等に照らせば,遅くとも平成22年8月末頃までには被告悠香は であり,同年8月末頃,被告悠香は被告フェニックスに対し,グルパール19SではなくプロモイスWG-SPを使用するよう指示してい ること等に照らせば,遅くとも平成22年8月末頃までには被告悠香は本件石鹸ないしそれに含まれるグルパール19Sにおいてアレルギー被害をもたらす危険性があることを把握しており,したがって上記の成分変更の措置を講じたことが推認される。にもかかわらず,被告悠香は,同年10月15日に厚生労働省により注意喚起文が公表された後も,本件石鹸の 販売自体は継続し,本件石鹸の自主回収が開始されたのは翌年平成23年5月に至ってからであるということが認められ,このような対応は本件石鹸による被害の拡大防止という観点からは遅きに失すると見ることもできる。 他方で,厚生労働省においても,平成22年10月15日段階では,本 件石鹸の使用者において死亡例はなかったことから製品の回収の必要性まではないと判断していたことが窺われ,発出された通知等によっても販売業者において適切な情報提供をすることのみが求められていること(乙イA18),これを受けて被告悠香は同月20日にホームページ上にて小麦由来成分を含む化粧品等が原因となって全身性アレルギーが発症した と疑われる症例が報告されたとし,本件石鹸を使用する際にも何か異常を 感じた場合には医師に相談するよう案内する旨を掲載したほか,2年以上の購入実績を有する顧客にはダイレクトメールで注意喚起文を送付していること,その後,同年11月末には本件石鹸の配合成分から加水分解コムギ末は排除されたことなどによれば,被告悠香において本件石鹸の危険性が認知され始めてから何らの対応を取らなかったとまではいえず,倫理 上,製品の製造販売業者として適切な企業対応を講じ 水分解コムギ末は排除されたことなどによれば,被告悠香において本件石鹸の危険性が認知され始めてから何らの対応を取らなかったとまではいえず,倫理 上,製品の製造販売業者として適切な企業対応を講じたか否かは問題になり得るとしても,少なくとも,このことをもって慰謝料の増額事由として考慮すべきとまでいうことは困難である。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 イ過失相殺の当否 被告らは,本件アレルギーはまずもって本件石鹸の使用時に皮膚症状を生じ,その後経口小麦アレルギーが発現するとの経過を辿るところ,本件石鹸の外箱等には使用上の注意事項が記載されており,原告らにおいて石鹸使用時に皮膚症状を感じた段階で本件石鹸の使用を中止してさえいれば,被害の拡大は防止できたとして,原告らの不注意をもって過失相殺を すべきである旨主張する。 しかしながら,本件アレルギーは本件石鹸使用時に皮膚症状を生じるなどした後,小麦摂取したことにより本件アレルギーの症状を発現するとの経過を常に辿るものではなく,本件石鹸の使用時には症状が発現しない病態も相当数存在することからすれば,被告らの主張はそもそも前提を欠く というべきである。また,本件石鹸の使用時に症状を生じるということは,その時点で既にグルパール19Sに感作し,本件アレルギーを発症している可能性が高く,同時点における本件石鹸の使用中止が損害の拡大防止に寄与したか否かは明らかではない。加えて,本件石鹸の外箱,包装等には本件アレルギーに関する記載はなく,かえって天然成分であることを強調 した記載となっていたことからすれば,好転反応と見る余地もあったので あり,この限りでは,原告らにおいて自主的に本件石鹸の使用を中止することを期待す 天然成分であることを強調 した記載となっていたことからすれば,好転反応と見る余地もあったので あり,この限りでは,原告らにおいて自主的に本件石鹸の使用を中止することを期待するのは困難であったというべきである。以上によれば,原告らについて,本件アレルギーの被害の発生又は拡大に関し,損害の公平な分担の観点から,損害額の減額をしなければならないような落ち度,不注意を見出すことはできない。 したがって,被告らの上記主張は採用できない。 ウ素因減額の当否(ア) 被告悠香は,本件アレルギーの発症には,使用者自身の過剰免疫体質が原因となっており,また,遺伝的素因の関与が窺われることに照らし,本件アレルギーの発症には原告ら自身の素因が寄与しているとして,損 害額の減額を認めるべきである旨主張する。また,被告フェニックスも,本件アレルギーの発症以前からアトピー体質や従来型の小麦アレルギーであった者については症状が遷延化するとの指摘があるところ,このような原告については,損害の公平な分担の見地から,素因減額が認められるべきである旨主張する。 (イ) そこで,検討するに,被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の当該疾患を斟酌す ることができる(最高裁昭和63年(オ)第1094号平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁参照)一方で,被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当た 高裁昭和63年(オ)第1094号平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁参照)一方で,被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しない限り,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはでき ないと解される(最高裁平成5年(オ)第875号平成8年10月29日第 三小法廷判決・民集50巻9号2474頁参照)。 また,素因減額の可否及びその割合を検討するに当たっては,原告らの請求が包括一律請求であって,本件アレルギーの発症によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について原告らに共通する損害として,その限度で賠償を認めるというもので あることを十分考慮するべきである。 (ウ) そうすると,被告らの主張のうち,原告らの免疫過剰体質が本件アレルギーの発症の原因となっているという点については,これ自体を疾患と見ることはできない上,本件アレルギーの発症原因につき,遺伝的素因の関与が窺われるとしても,遺伝的な特徴にとどまっている限りは, これをもって疾患ということができず,これらをもって損害賠償額を定めるに当たり斟酌すべき特段の事情も見当たらない。したがって,これらを理由として損害を減額すべきものとは認められない。 また,被告フェニックスの指摘する,本件アレルギーの発症以前からアトピー体質であった者や従来型の小麦アレルギーであった者につい て,本件アレルギーの患者らのうち,従来型の小麦アレルギーの原因とされるω-5グリアジンに陽性反応を示す者は,症状が遷延している例が多いとの指摘や,元来アトピー素因の強い患者においては,既存のアレル ,本件アレルギーの患者らのうち,従来型の小麦アレルギーの原因とされるω-5グリアジンに陽性反応を示す者は,症状が遷延している例が多いとの指摘や,元来アトピー素因の強い患者においては,既存のアレルギー疾患の活動性が亢進されると,コムギアレルギーの活動性も連動して亢進されてしまう可能性に関する指摘(乙ロB25)がある。 しかし,本件アレルギーの発症に関しては約半数の患者は元来アトピーやアレルギーを有していなかったとされていることに照らし,上記素因が損害の発生に寄与したかは定かではない。また,本件アレルギーによる症状が発症する前に,別のアレルギーが発症しており,その症状と本件アレルギーによる症状が合併するなどしている場合でない限り,ω -5グリアジンに陽性反応を示しているのみでは,本件アレルギーによ る症状の発生や継続にこれらが寄与しているかどうか明らかではないことから,無症状の素因である場合には,これを損害額の算定に当たって斟酌することはできないというべきである。したがって,これらを一般的な減額要因と見ることはできない。 さらに,各原告の個別症例において,上記と異なり,既に発現してい た従来型の小麦アレルギー等による症状と本件アレルギー症状が合併している場合があるとしても,上記のとおり,本件アレルギーの発症によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準を原告らに共通する損害とするものであるから,それが損害の拡大に寄与したか否かについては,当該素因が損害の拡大に寄与している と確かに認められる必要があるというべきである。 エ既払金控除の当否原告らの一部には口頭弁論終結時までに既に被告悠香から見舞金等の名目で金銭給付を受けた者もいるところ,被告らは,こ かに認められる必要があるというべきである。 エ既払金控除の当否原告らの一部には口頭弁論終結時までに既に被告悠香から見舞金等の名目で金銭給付を受けた者もいるところ,被告らは,これをもって損益相殺すべき旨主張するのに対し,原告らは,かかる既払金の趣旨は損害額の 補填の意味を有さない見舞金であることから,損益相殺の対象とはならないと主張する。 確かに,被告悠香が上記金員の支払に当たって本件アレルギーの被害者に宛てた通知文においては,当該金員の名目を「御見舞金」とし,その趣旨につき,「あくまで弊社の誠意としてお支払いしておりますもので,示談 金・解決金といったものではございません」と記載していることが認められる(甲総C5,6)。 もっとも,かかる記載は,その文脈等に照らせば,被告悠香が企業としての社会的責任を前提に,今後,本件製品事故について当該金員の支払以外の対応を講じないことを否定する趣旨を明らかにしたものと解するの が相当であり,むしろ,将来,被告悠香に対して法的な損害賠償責任が認 められた際には,当該既払金をもって損害の填補に充てる趣旨であったと解するのが当事者間の合理的意思に沿うと解される。 したがって,被告悠香による原告らに対する既払金は,損益相殺の対象とするのが相当であり,これが純粋な見舞金としての趣旨を有するにとどまり,損益相殺の対象とはならない旨の原告らの主張は採用できない。 オ遅延損害金の起算日被告らは,本件における損害賠償責任は包括一律請求によるものであるから,口頭弁論終結日の翌日から遅滞に陥る旨主張する。 製造物責任法による損害賠償の法的性質は不法行為に基づく損害賠償債務であるところ,同債務は損害の発生と同時に何らの催 括一律請求によるものであるから,口頭弁論終結日の翌日から遅滞に陥る旨主張する。 製造物責任法による損害賠償の法的性質は不法行為に基づく損害賠償債務であるところ,同債務は損害の発生と同時に何らの催告を要すること なく直ちに遅滞に陥ると解される(最高裁昭和34年(オ)第117号昭和37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。そうすると,包括一律請求がされた場合においても,これと別異に解すべき理由はなく,原告ら各自の包括的損害は,本件石鹸の引渡し後に各自が本件アレルギーを発症した時に生じているというべきであるから,この時点におい て原告ら各自に対する損害賠償債務は遅滞に陥っているというべきであり,被告らの主張は採用できない。 8 争点6(損害の発生及びその額等)に対する判断(原告ら各自の損害額について)(1) 原告番号8(A1) ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号8は,平成17年冬頃から母が友人から譲り受けた本件石鹸を貰い受け(甲個C64の2,乙イ個C64の1),その使用を開始し,平成21年4月以降は自ら購入して,平成23年5月までその使用を継続していたところ,本件石鹸の使用後に手指の湿疹,顔の腫脹等の皮膚症状を生 じるようになり,同月23日には後記イの症状を引き起こすなどし,同年 10月29日,明和病院にてプリックテスト等を受検して,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C8の1,2,乙イ個C8の1)。 イショックの有無原告番号8は,平成23年5月23日,朝食としてパンに蜂蜜,きな粉を付けて食べ,家事を行ったところ,食後30分程度で,気分不良のため 立っていることができなくなり,夫の通報により,明和病院へ 原告番号8は,平成23年5月23日,朝食としてパンに蜂蜜,きな粉を付けて食べ,家事を行ったところ,食後30分程度で,気分不良のため 立っていることができなくなり,夫の通報により,明和病院へと救急搬送された。同病院において,顔面,四肢,体幹全てに紅斑,眼瞼,口腔内等の浮腫等の皮膚症状に加え,血圧低下及び低酸素症状態を引き起こしているとの所見の下,アナフィラキシーショックとの診断を受けた。その後,原告番号8の皮膚症状等は直ちに改善せず,3日にわたって入院治療を受 けた後,退院した。 また,同年7月18日にも,夕食に焼きそばを食べた数十分後に,顔面及び眼瞼浮腫の症状を生じて,明和病院に救急搬送された。この際は,皮膚症状の範囲は全身には及ばず,また呼吸困難といった症状はなかったものの,SpO₂が95%まで低下し,血圧の低下等も見られるなどし,1日 入院治療を行った。 (以上につき,甲個C8の2,乙ロ個C8の1)ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号8は,平成24年8月まで明和病院に引き続き通院し,小麦摂取を控えるように指示を受け,また,アレグラ錠等のアレルギー薬の処方 を受けるなどした後,同病院の紹介により,兵庫医科大学病院へと転医し,さらに,平成26年6月にはたかはし内科クリニックへと転医した。 この間,平成23年6月1日時点で,小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)は,それぞれ4.87,11.9といずれもクラス3に該当するものであったが,平成24年9月の検査では,小麦につき0とな り,数値は陰性化していること(甲個C8の2,乙ロ個C8の2),平成2 4年9月以降は,医師から小麦を食べてもよいとの指導を受け,アレルギー薬を服用しなが ,小麦につき0とな り,数値は陰性化していること(甲個C8の2,乙ロ個C8の2),平成2 4年9月以降は,医師から小麦を食べてもよいとの指導を受け,アレルギー薬を服用しながらであるものの,小麦の摂取自体は再開しており,その後アナフィラキシー症状を生じたとも窺われないこと(甲個C8の2,乙ロ個C8の1,2)からすれば,その症状は一応軽快しているとみることができる。 しかしながら,平成30年5月10日時点においても,小麦を食べる際は事前にアレルギー薬を服用しなければ,下痢を起こすなどの症状が継続しており,現在も寺田・茨木ホームクリニックに定期的な通院を継続し,アレグラ錠の処方を受けていること(甲個C8の3,8の5)からすれば,本件アレルギーの症状は現時点でも継続していると認められる。 エ既払金なしオ損害額以上によれば,原告番号8は,平成23年5月23日にショックを起こしたものと認められる(なお,同年7月18日もショックに準ずるアナフィラキシー症状を生じたと認められる。)から,その損害額は共通損害15 0万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である。 (2) 原告番号17(A2)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号17は,平成21年2月に本件石鹸の購入,使用を開始し,平成22年12月頃まで毎日の朝晩の洗顔に使用を継続していたところ,平 成22年1月にはお好み焼きを食べた後,5分程度歩いたところで,蕁麻疹を生じるなどし,また,同年6月6日には,後記イの症状を引き起こした。そこで,平成23年9月7日から11日にかけて,大阪大学医学部附属病院に検査入院をし,小麦摂取後の運動誘発試験等を受検し ,蕁麻疹を生じるなどし,また,同年6月6日には,後記イの症状を引き起こした。そこで,平成23年9月7日から11日にかけて,大阪大学医学部附属病院に検査入院をし,小麦摂取後の運動誘発試験等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた。 (甲個C17の1,3,乙ロ個C17の1) イショックの有無 (ア) 原告番号17は,平成22年6月6日,千葉県内の実家に帰っていた際,朝食にバウムクーヘン等を食べた後,公共交通機関を乗り継いで移動をしていたところ,眼瞼部周辺の痒み,血圧低下による視界不良を生じ,更に意識を消失するなどして,船橋総合病院に救急搬送された。救急隊員が現場に到着した際は,原告番号17の意識は戻っていたものの, 血圧は66/35mmHg まで低下しており,病院に搬送後,同原告は点滴治療等を受けた。(甲個C17の2,3,乙ロ個C17の1)(イ) このように原告番号17は,皮膚症状に加え,血圧低下,意識消失を生じていること,同月8日に大阪大学医学部附属病院への診療情報提供書を作成した医師によれば,上記出来事をショックの症状に該当する発 作と判断していること(乙ロ個C17の1)からすれば,同月6日の症状はアナフィラキシーショックであったと認められる。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号17は,本件アレルギーとの診断後,小麦の摂取を控えるようにし,平成24年10月までは大阪大学医学部附属病院に定期的に通院を して,エピペンの処方等を受けた。また,平成24年10月からは大阪から東京への転居に伴い,東京医科大学病院へと転医し,現在においても定期的に通院を継続している。 この間,平成22年9月7日時点では小麦及びグルテンの特異的IgE 成24年10月からは大阪から東京への転居に伴い,東京医科大学病院へと転医し,現在においても定期的に通院を継続している。 この間,平成22年9月7日時点では小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)は,それぞれ2.36,3.09といずれも陽性(クラ ス2)であったが,平成24年6月の検査では,それぞれ0.39,0. 45と擬陽性(クラス1)まで低下していること(乙ロ個C17の1),治療中にフライの衣程度は摂取していること,エピペンの処方も現在では中止していること,及びその後アナフィラキシー症状を生じたとも窺われないこと(甲個C17の3,乙ロ個C17の1,2)からすれば,本件アレ ルギーの症状は一応軽快方向にあるとみることができる。 しかしながら,本件アレルギーによる通院の当初から現在に至るまで,常用薬として抗ヒスタミン剤であるエバステル及び後発薬であるエバスチンの処方を受け,これを毎朝食後に服用していること(甲個C17の4,5),医師から小麦摂取を促された形跡はなく,現在でも小麦を除去した生活を継続していると窺われること(甲個C17の4)からすれば,本件ア レルギーが現時点において治癒ないし寛解していると認めることはできない。 なお,クラス3以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められることを理由とする素因減額の主張は,前記7(4)説示のとおり,これを減額要素として考慮すべきものでないから採用しない。 エ既払金なしオ損害額以上によれば,原告番号17は,平成22年6月6日にショックを起こしたものと認められるから,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である。 以上によれば,原告番号17は,平成22年6月6日にショックを起こしたものと認められるから,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である。 (3) 原告番号18(A3)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号18は,平成18年6月に本件石鹸の購入,使用を開始し,平成23年5月頃までメイク落としや洗顔,洗身用に1日2回から3回程度,本件石鹸を使用し続けた。本件石鹸の使用を開始して数か月経った頃から, 本件石鹸の使用後に顔や体に湿疹,膨疹が出現するようになり,その後,湿疹が全身に広がるようになるなど,症状が徐々に悪化した。 平成22年6月27日,後記イの症状を生じ,明治橋病院を受診したところ,小麦依存性運動誘発アナフィラキシーとの診断を受け,同病院の紹介により平成23年8月11日から16日にかけて,近畿大学附属病院に 検査入院をし,プリックテスト等を受検した結果,本件アレルギーとの診 断を受けた。 (以上につき,甲個C18の1,乙イ個C18の1,乙ロ個C18の1,原告番号18本人)イショックの有無(ア) 原告番号18は,平成22年6月27日,自宅でパスタを食べた後, ホームセンターへ徒歩で向かう道中に,くしゃみが止まらなくなり,両眼の腫脹,呼吸苦,頭痛等を生じ,立っていられない状態となり,父に架電して迎えに来てもらい,明治橋病院を受診した。同病院では,点滴治療及びアレグラの処方がされたところ,症状が落ち着いたため,一旦帰宅したが,翌日も眼瞼の腫脹は完全には収束しておらず,同原告は, 再度同病院を受診したところ,医師から小麦依存性運動誘発アナフィラキシーであるとの診断及びアナフィ 症状が落ち着いたため,一旦帰宅したが,翌日も眼瞼の腫脹は完全には収束しておらず,同原告は, 再度同病院を受診したところ,医師から小麦依存性運動誘発アナフィラキシーであるとの診断及びアナフィラキシーは致死的な症状に至ることもあることや小麦摂取を控えること等につき,説明を受けた。 (甲個C18の2,乙ロ個C18の1,原告番号18本人,)(イ) 上記受診時の診療録には,SpO₂は96%,体温も正常である等の 記載があるものの,皮膚症状に加え,呼吸苦や頭痛といった呼吸器症状,神経症状を生じ,更に立っていられない状態にまで及んでおり,これを診察した医師も診療録にアナフィラキシーショックと記載していること(甲個C18の2)からすれば,原告番号18の上記症状はアナフィラキシーショックであったと認められる。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号18は,本件石鹸の使用開始数か月後から,眼瞼腫脹等を生じ始め,その後,咳や湿疹,蕁麻疹が出現するようになるなど症状が悪化し,平成22年2月には,パスタやピザを食べた後に顔面の腫脹,頭痛,軽度の呼吸苦といったアナフィラキシー症状を生じたこともあった。平成22 年6月までは,原告番号18は,上記症状が生じるたびに最寄りの内科を 受診し,抗アレルギー薬やステロイド等の処方を受けていたものの,原因が分からず,上記イのショックを生じた後は,小麦依存性運動誘発アナフィラキシーないし本件アレルギーとの診断の下,平成23年10月までは明治橋病院,その後,平成25年8月頃まで,近畿大学附属病院や阪南中央病院に通院し,エピペン等の処方を受けた。(乙ロ個C18の1・2,原 告番号18本人)この点,小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値( 平成25年8月頃まで,近畿大学附属病院や阪南中央病院に通院し,エピペン等の処方を受けた。(乙ロ個C18の1・2,原 告番号18本人)この点,小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)は平成23年8月1日時点でも,それぞれ0.44,0.64にとどまっていること(乙ロ個C18の1),上記の通院を続けている最中から服薬しつつ小麦摂取自体は行っており,現時点ではお菓子等を食べることもある旨述べて いること(甲個C18の4,乙ロ個C18の1,2),平成25年8月に阪南中央病院を受診した後は通院をしていないこと(原告番号18本人)からすれば,原告番号18の症状は一応回復傾向にあるとみることができる。 また,原告番号18は,平成25年2月頃に皮膚症状の悪化に伴い,勤務先を休職し,同年11月に復帰をしたものの,平成28年2月に再度の 皮膚症状の悪化や体のだるさ等から,勤務の継続が困難と判断し,職場を退職した(原告番号18本人)。 エ素因減額の検討クラス3以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められることを理由とする素因減額の主張は,前記7(4)説示のとおり,こ れを減額要素として考慮すべきものでないから,採用しない。また,アトピー性皮膚炎及びアレルギー性の喘息の既往が損害の発生,拡大に寄与しているとの点についても,同原告に認められる損害が,本件アレルギーの発症によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について,共通損害とするものであることからすれば,この共 通損害にかかる部分において,上記アレルギーが合併的に生じ,損害を発 生拡大させたと認めるに足りる証拠がない以上,これを減額すべきものとは解されない。 からすれば,この共 通損害にかかる部分において,上記アレルギーが合併的に生じ,損害を発 生拡大させたと認めるに足りる証拠がない以上,これを減額すべきものとは解されない。 オ既払金11万2788円カ損害額 以上によれば,原告番号18は,平成22年6月27日にショックを起こしたものと認められ,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当であり,既払金を控除した残額は238万7212円である。 (4) 原告番号21(A4) ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号21は,平成21年8月に本件石鹸の購入,使用を開始したところ,同年10月頃には本件石鹸の使用時に目や顔の痒みを生じるようになり,更に小麦摂取後に呼吸苦を伴って体幹の湿疹,蕁麻疹等を生じるようになるなど症状が悪化したため,本件石鹸の使用を中止した。同月26 日にほうとうを食べた後,全身に湿疹等を生じ,その翌日,大阪赤十字病院を受診し,点滴治療とアレロックの処方を受けた。そして,同病院の紹介により,平成22年1月,地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター(以下「大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター」という。)を受診し,プリックテスト等を受検したところ,本 件アレルギーとの診断を受けた。 (甲個C21の1,3,乙ロ個C21の1)イショックの有無原告番号21は,平成22年4月14日にショックを生じた旨主張するところ,同原告は,同月12日から16日にかけて関西医科大学附属枚方病院に検査入院をし,経口負荷検査を受検したところ,うどん摂取後に運 動をするや呼吸困難等を 4日にショックを生じた旨主張するところ,同原告は,同月12日から16日にかけて関西医科大学附属枚方病院に検査入院をし,経口負荷検査を受検したところ,うどん摂取後に運 動をするや呼吸困難等を生じたこと(甲個C21の3,乙ロ個C21の1), 当該症状はアナフィラキシーショックであるとされ,症状が重症であったためエピペンが処方されたこと(甲個C21の2)が認められ,これらによれば,同原告に生じた症状はアナフィラキシーショックであったと認められる。しかしながら,ショックを生じた場合に損害加算する理由については,前記に述べたとおり,症状の重篤性により身体的,精神的,経済的 不利益が相対的に大きい点にあるところ,食物経口負荷試験は専門医の立会いの下,小麦摂取後にあえて運動負荷をかけて症状の発現を見るものであり,医師のコントロール下で実施されるものであることに照らすと,ショック症状加算の前提となるショック状態であると見ることはできない。 ウ発症後現在に至るまでの経過等 原告番号21は,平成21年10月に症状を生じ始めた後,大阪赤十字病院を受診し,その後,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターにて本件アレルギーとの診断を受けた後は,医師の指示に従い小麦摂取を控え,また,同病院に通院し,エピペン等の処方を受けている(甲個C21の3,乙ロ個C21の1)。 原告番号21の小麦及びグルテンの特異的IgE抗体(UA/ml)は,平成26年4月11日時点で,それぞれ0.20,0.17と陰性化したため,原告番号21は,同年5月27日から29日にかけて大阪府呼吸器・アレルギー医療センターに検査入院をし,負荷テストを実施したところ,うどん摂取後に蕁麻疹が出現し,同検査は3日目の検査内容を行わず, め,原告番号21は,同年5月27日から29日にかけて大阪府呼吸器・アレルギー医療センターに検査入院をし,負荷テストを実施したところ,うどん摂取後に蕁麻疹が出現し,同検査は3日目の検査内容を行わず,途 中で中止された(甲個C21の3,乙ロ個C21の1)。 原告番号21は,現在に至るまで小麦の摂取制限を継続し,また,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターに定期的に通院し,抗アレルギー薬の処方及び年1回の頻度でエピペンの処方を受けていること,平成30年1月26日にはちくわ等を摂取した際,蕁麻疹や喉のつまる感じといった 症状を発現していること(甲個C21の4・5,乙ロ個C21の1)から すれば,同原告の症状は現時点においてもなお継続しているものと認められる。 なお,クラス2以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められることを理由とする素因減額の主張は,前記のとおり,減額すべきものでないから,採用しない。 エ既払金なしオ損害額以上によれば,原告番号21の損害額は,共通損害としての150万円と認めるのが相当である。 (5) 原告番号22(A5) ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号22は,平成17年7月から本件石鹸の定期的な購入を開始し,平成23年8月頃まで,朝晩の洗顔等に本件石鹸を継続使用したところ(甲個C22の1・2・5),本件石鹸の使用後や小麦製品の摂取後に顔面浮腫,蕁麻疹等を生じるようになり,更に後記イの症状を生じるなどし, 平成23年8月に広島大学病院を受診し,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C22の1・5,乙ロ個C22の1)。 イショックの有無(ア ,更に後記イの症状を生じるなどし, 平成23年8月に広島大学病院を受診し,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C22の1・5,乙ロ個C22の1)。 イショックの有無(ア) 原告番号22は,本件石鹸を使用開始して半年を経た頃から,朝食後に顔面浮腫,痒み,蕁麻疹等を生じるようになり,また,入浴中に本件 石鹸を使用した際にも皮膚症状を生じるようになった。 平成18年2月6日,原告番号22は,朝食後,頭痛薬を飲み,ゴミ出しをすると,蕁麻疹が出現し,吐き気や下痢を催し,トイレに向かう途中で意識を消失して倒れこみ,顔面を打撲した。転倒後,意識を取り戻すと夫に電話をし,駆け付けた夫によって済生会松山病院へと搬送さ れた。搬送後の血圧は,84/50,SpO₂は99%であった。 同年4月,永井皮フ科クリニックにおける血液検査の結果,小麦とグルテンに陽性反応を示し,以後は小麦の摂取を控えるようになったものの,平成19年2月には,会社の送別会の最中に蕁麻疹が出現し,帰宅途中で意識混濁状態となり,救急搬送され,入院をするなど,アナフィラキシー症状を生じたことがあった。 平成22年9月21日,原告番号22は,夕食にライ麦パンを食べた後,入浴したところ,全身性の蕁麻疹といった皮膚症状に加え,血圧低下,嘔吐といった症状を生じ,済生会松山病院に救急搬送された。搬送後も,嘔吐の症状は止まず,ボスミンの投薬等の処置の上,経過観察として1日入院をした。 (以上につき,甲個C22の3ないし5,乙ロ個C22の1)(イ) 上記の平成18年2月6日の症状は,皮膚症状に加え,血圧低下を認め,消化器症状,意識消失といった重度の神経症状にまで及んでいること,平成2 個C22の3ないし5,乙ロ個C22の1)(イ) 上記の平成18年2月6日の症状は,皮膚症状に加え,血圧低下を認め,消化器症状,意識消失といった重度の神経症状にまで及んでいること,平成22年9月21日の症状も,皮膚症状に加えて血圧低下,消化器症状を生じ,診療に当たった医師が診療録にショックと記載している こと(甲個C22の4)からすれば,アナフィラキシーショックを生じたものであったと認められる。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号22は,症状発症後,済生会松山病院に複数回搬送されており,また,同病院の紹介により,平成23年8月や平成24年3月には広島大 学病院にて本件アレルギーの検査を行い,診断書の発行や診察を受けている(甲個C22の1,3ないし5,乙ロ個C22の1)。 他方で,小麦やグルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)は,平成23年8月10日時点では8.24,14.4といずれもクラス3であったものが平成30年4月27日時点で,それぞれ0.55,0.77まで低下 していること(甲個C22の6,乙ロ個C22の1),現在までにエピペン の処方を受けたことは窺われないこと,平成24年3月14日の受診を最後に病院には通院しておらず,その後重篤な症状を生じたことも窺われないこと,現時点において外出先でクッキー等を食べることはあるが,必ずしも症状が出るわけではない旨述べていること(甲個C22の5・7,乙ロ個C22の1)などを考慮すれば,原告番号22の症状は回復傾向にあ るものと認められる。 エ素因減額の検討本件アレルギーを発症したと認められるよりも前に,同原告が食物アレルギーを発症したり,これによる通院をしたりしていたと窺われるものは るものと認められる。 エ素因減額の検討本件アレルギーを発症したと認められるよりも前に,同原告が食物アレルギーを発症したり,これによる通院をしたりしていたと窺われるものはなく,ω-5グリアジンに陽性反応を示しているのみでは,本件アレルギ ーによる症状の発生や継続に,小麦アレルギーが寄与しているかどうか明らかとはいえないから,素因減額は相当でない。 オ既払金なしカ損害額以上によれば,原告番号21は,平成18年2月6日及び平成22年9 月21日にショックを生じたものと認められるから,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である。 (6) 原告番号23(A6)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症 原告番号23は,平成21年1月に本件石鹸の購入,使用を開始し,平成22年7月頃まで毎日の洗顔や洗身に本件石鹸を使用していたところ,平成21年8月頃から,本件石鹸の使用後に湿疹,痒み等を生じ始め,後記イの症状を生じた際にはおもろまちメディカルセンターを受診するなどし,平成23年7月23日,同センターの紹介により受診した相模原病 院において検査を受け,同病院の福冨医師により,本件アレルギーとの診 断を受けた(甲個C23の1・3・4,乙ロ個C23の1・2)。 イショックの有無(ア) 平成22年1月17日,原告番号23は,昼食に天かす入りのうどんを食べた1時間後に,全身の湿疹,痒み,手足の痙攣,眼瞼等の顔面全体の腫脹,呼吸苦及び意識朦朧等を生じたため,おもろまちメディカル センターを受診した。同原告は,ボスミンの皮下注射,抗アレルギー薬の点滴などの処置を受 の湿疹,痒み,手足の痙攣,眼瞼等の顔面全体の腫脹,呼吸苦及び意識朦朧等を生じたため,おもろまちメディカル センターを受診した。同原告は,ボスミンの皮下注射,抗アレルギー薬の点滴などの処置を受けると,午後7時頃までに症状は落ち着き,医師が入院を勧めたものの,入院せずに帰宅した。また,同年6月7日,原告番号23は,夕食に担々麺を食べた後,上記した1月17日と同様の症状を生じておもろまちメディカルセンターを受診し,投薬処置を受け た。(甲個C23の3,4,乙ロ個C23の1,2)(イ) 上記した1月17日の症状は,皮膚症状に加え,呼吸器症状,重篤な神経症状等を生じ,診察した医師もショック症状と診断していること(甲個C23の2)からアナフィラキシーショックを生じたものであり,6月7日の症状も,1月17日の症状と同程度のものといえるから,少 なくともショックに準ずる症状であったと認められる。 (ウ) 原告番号23は,その陳述書(甲個C23の3)において,平成21年11月及び平成22年1月にもショックを起こした旨述べ,証拠(乙ロ個C23の1)によれば,その主張に係る各時点において重度の皮膚症状ないしアナフィラキシーを生じたことは窺われるものの,ショック を生じたとまで認めるに足りる的確な証拠はない。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号23は,平成21年12月7日におもろまちメディカルセンターを初診し,平成25年7月25日まで同センターに通院をしている。また,平成23年7月23日には,相模原病院を受診し,本件アレルギーと の診断を受けるとともに小麦を食べないよう指示を受けた。(乙ロ個C2 3の1,2)他方で,平成25年7月25日以降の症状継続又は 原病院を受診し,本件アレルギーと の診断を受けるとともに小麦を食べないよう指示を受けた。(乙ロ個C2 3の1,2)他方で,平成25年7月25日以降の症状継続又は回復を裏付ける的確な証拠は提出されておらず,同年6月20日時点における特異的IgE抗体値(UA/ml)は,小麦及びグルテンにつき,それぞれ3.86,4.57といずれも陽性(クラス3)であること(乙ロ個C23の2)からすれ ば,現在も小麦摂取を控えていることが窺われる。 エ素因減額の検討複数のアレルゲンについて,特異的IgE抗体値がクラス3以上であるというのみでは,素因減額が相当でないことは,前記のとおりであり,また,平成24年2月16日時点におけるω-5グリアジン値も0.95(ク ラス2)であった(乙ロ個C23の2)との点についても,原告番号21の損害に関する認定において説示したのと同様に,本件アレルギーの発症前に既に小麦アレルギーを発症していたとは認められない以上,被告らの主張は採用できない。さらに,平成25年6月20日時点で,「米を食べたらかゆくなる」と述べて米のアレルギー検査を求めたこと(乙ロ個C23 の2・9頁)や,平成27年8月11日時点で食べられていた米や卵が,平成30年6月22日時点では食べられなくなる(甲個C23の3・5)など,症状が相当に遷延化している様子が窺われる。しかし,現在,遷延化している症状には,本件アレルギー以外のアレルギーによるものが含まれているとしても,前記において述べたとおり,本件アレルギーの発症に よって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について,共通損害とするものであるから,この共通損害にかかる部分において,上記アレルギーが合併的に生じていると認 発症に よって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について,共通損害とするものであるから,この共通損害にかかる部分において,上記アレルギーが合併的に生じていると認めるに足りる証拠がない以上,これを減額すべきものとは解されない。また,同様に,ショック症状による加算部分に関しても,個別的損害項目の積み上げでなく, 原告らの同質的に被ったものとして,1回限りのショックであっても加算 されるものであるところ,前記のショックの発現した経緯に照らすと,ショックの発現に他の食物アレルギーの症状が寄与していると認められない以上,原告番号23について損害額を減額すべきものとはいえない。 エ既払金なしオ損害額 以上によれば,原告番号23は,少なくとも2度にわたってショックを生じたものと認められるから,その損害額は,共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である。 (7) 原告番号25(A7)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症 原告番号25は,平成19年6月,本件石鹸を購入して使用するようになり,同年9月から平成21年7月頃の間は使用を中断していたが,同年8月から再度使用を開始し,平成22年7月頃まで使い続けた。そして,平成22年8月,10月,12月に,それぞれ昼食に小麦製品を食べた後,手足や下腹部の掻痒,発疹や咳を生じるなどし,更に平成23年1月下旬 には昼食後に咳,顔面の腫脹,全身の紅斑を生じ,同年2月15日から16日にかけて市立池田病院に検査入院をしてプリックテスト等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた。(甲個C25の2,乙ロ個C25の1,2)イショックの有 じ,同年2月15日から16日にかけて市立池田病院に検査入院をしてプリックテスト等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた。(甲個C25の2,乙ロ個C25の1,2)イショックの有無なし ウ発症後現在に至るまでの経過等(ア) 平成23年1月以降,原告番号25は,市立池田病院への定期的な通院を開始し,小麦の除去の指示やアレロックの処方等を受けるなどした。 通院期間中に小麦製品を摂取することが全くなかったわけではないが,平成25年9月ないし10月頃には,菓子を食べた際に蕁麻疹を生じた ことがあった。 その後,平成27年8日に,市立池田病院にて血液検査を受けると,小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値は陰性化していたため,医師からは小麦摂取の再開の可否を判断するため,1週間の検査入院による経口負荷試験を受検するよう勧められたが,原告番号25は入院に躊躇するなどし,これを断った。平成29年12月に至り,原告番号25は, 大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターにおいて経口負荷試験を受検したところ,症状の発現は認められず,医師から小麦を食べてもよいとの指示をされた。以後,原告番号25は小麦の摂取を全く制限することなく再開したが,症状が出たことはないことから,現時点において本件アレルギーは治癒ないし寛解したものと認められる。 (以上につき,甲個C25の3・4,乙ロ個C25の1・2)(イ) なお,クラス2以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められることを理由とする素因減額の主張は,前記のとおり,減額すべきものでないから,採用しない。 エ既払金なし オ損害額以上によれば,原告番号25の損害 数認められることを理由とする素因減額の主張は,前記のとおり,減額すべきものでないから,採用しない。 エ既払金なし オ損害額以上によれば,原告番号25の損害額は,共通損害としての150万円と認めるのが相当である。 (8) 原告番号34(A8)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症 原告番号34は,平成19年12月頃から同居の母が購入した本件石鹸の使用を開始し,平成23年7月頃まで洗顔時に本件石鹸を使用していたが,平成21年6月や8月に小麦製品の摂取後に顔面発赤,腫脹等の症状を生じ,同年10月にはうどんを食べた後に顔の腫脹,全身に蕁麻疹等のアナフィラキシー症状を生じ,近畿大学狭山病院に検査入院をし,小麦ア レルギーであるとの診断を受けた。その後,平成23年7月に至り,本件 石鹸に関する報道により本件アレルギーを知り,同年8月8日から11日にかけて和歌山県立医科大学附属病院に検査入院をし,プリックテスト,負荷試験等を受検した。(甲個C34の3,乙ロ個C34の1)和歌山県立医科大学附属病院の古川医師が作成した同年8月16日付け診断書(甲個C34の1)によれば,原告番号34は,元来から小麦ア レルギーがあったことも否定できない旨記載されており,また,原告番号34は本件アレルギーとの確定診断を受けたわけではないが,その後に公表された特別委員会による診断基準を踏まえて同医師が作成した平成25年7月30日付け診断書(甲個C34の2)に記載された付記によれば,原告番号34は本件アレルギーに罹患したものと認めることができる。 イショックの有無平成23年8月9日,原告番号34は,和歌山医科大学附属病院にて,医師立会 によれば,原告番号34は本件アレルギーに罹患したものと認めることができる。 イショックの有無平成23年8月9日,原告番号34は,和歌山医科大学附属病院にて,医師立会いの下,経口負荷試験を施行し,パン120gを摂取したところ,約1時間後から,蕁麻疹の出現,腹痛,嘔吐を生じ,更に血圧が67/52mmHg まで急激に低下し,顔面蒼白,ふらつき状態となるなど,ショッ クを生じたものと認められる(甲個C34の3,乙ロ個C34の1)が,ショックを生じた場合に損害加算する理由については,前記に述べたとおり,症状の重篤性により身体的,精神的,経済的不利益が相対的に大きい点にあるところ,食物経口負荷試験は専門医の立会いの下,小麦摂取後にあえて運動負荷をかけて症状の発現を見るものであり,医師のコントロー ル下で実施されるものであることに照らすと,ショック症状加算の前提となるショック状態であると見ることはできない。以上のほか,原告番号34につき,アナフィラキシーショックを生じたと認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。 ウ発症後現在に至るまでの経過等 原告番号34は,平成21年10月に近畿大学狭山病院にて小麦アレル ギーとの診断を受け,小麦制限の指示及びエピペンの処方を受けたほか,平成23年8月からは,和歌山県立医科大学附属病院,平成25年6月からは角谷整形外科病院に定期的に通院し,現在もこれを継続している。 この点,平成23年8月3日時点で小麦,グルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)は,それぞれ23.10(クラス4),134.00(クラス 6)であったものが,平成27年12月3日時点では小麦の特異的IgE抗体値(UA/ml)につき7.01(クラス3 E抗体値(UA/ml)は,それぞれ23.10(クラス4),134.00(クラス 6)であったものが,平成27年12月3日時点では小麦の特異的IgE抗体値(UA/ml)につき7.01(クラス3)まで低下しているものの,いまだ陽性反応を示している(甲個C34の7,乙ロ個C34の1)。加えて,現在でも小麦を除去した生活を徹底している結果であると窺われること(甲個C34の6)からすれば,原告番号34の症状が現時点において 寛解ないし回復傾向にあるということはできない。 エ素因減額の検討和歌山県立医科大学附属病院の古川医師が,平成23年8月11日付けの診療録に「元来から小麦アレルギーがあったことは否定できない」(乙ロ個C34の1・18頁)と記載し,同月16日付けの診断書(甲個C34 の1)にも同旨の記載をしたこと,同病院における検査でω-5グリアジンに対しても陽性反応を示していたこと(乙ロ個C34の1)が認められる。しかしながら,同医師は,平成25年7月30日作成の診断書(甲個C34の2)に,上記診断書に対する付記として,当時の診断書に「元来から小麦アレルギーがあったことも否定できない」旨記載した趣旨につい て,同年10月11日,日本アレルギー学会から「茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギ(グルパール19S)による即時型小麦アレルギーの診断基準」が発表され,その診断基準と照らし合わせると,本患者の病態は茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギ(グルパール19S)による即時型小麦アレルギーと診断される旨を記載しており,同医師は,本 件アレルギーの病態について詳細が明らかになっていない段階において, 同原告が元来小麦アレルギーを有していた可能性を指摘したにすぎないことを自 旨を記載しており,同医師は,本 件アレルギーの病態について詳細が明らかになっていない段階において, 同原告が元来小麦アレルギーを有していた可能性を指摘したにすぎないことを自ら明らかにしている。また,同原告において,本件アレルギーの発症より前に,小麦アレルギーによる症状を発現していたと認めるに足りる証拠はない。そうすると,ω-5グリアジンに対しても陽性反応を示しているという事実のみから,原告番号34に発生した本件アレルギーによ る共通損害について,別の小麦アレルギーが寄与したものとは認められないし,ショックへの寄与についても同様である。 また,原告番号34の血液検査によれば,小麦,グルテン以外にもシラカンバ,ベニシリウム,カンジタ,ピーナッツ,大豆,米,スギ,牛肉,ヒノキ,ダニ,ハウスダスト等にも陽性,擬陽性反応を示している事実が 認められるが,この点についても,原告番号23の損害に関する認定において説示したのと同様に,素因減額すべきものとは認められない。 エ既払金なしオ損害額以上によれば,原告番号34の損害額は共通損害として150万円を認 めるのが相当である。 (9) 原告番号41(A9)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号41は,母親が平成17年11月に購入を開始した本件石鹸を,平成18年4月から平成20年10月頃まで,毎日朝晩,洗顔に使用した ところ,平成20年3月頃から月1回ほどの頻度で,小麦製品の摂取後に顔面浮腫,咽頭浮腫等の症状を生じるようになり,その後後記イの症状を生じるなどしたため,平成23年12月,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターにてプリックテスト等を受検した結果,本件アレルギー に顔面浮腫,咽頭浮腫等の症状を生じるようになり,その後後記イの症状を生じるなどしたため,平成23年12月,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターにてプリックテスト等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C41の1,3,乙ロ個C41の1,原告番号41本人)。 イショックの有無 (ア) 平成20年10月2日,原告番号41は自宅でパンを食べた後,両側の眼瞼腫脹,咳嗽,鼻水等を生じたところ,それまでに生じた症状よりも重篤なものであったため,箕面市立病院を受診し,点滴治療等を受けた。受診時には,血圧やSpO₂等の数値は正常であり,呼吸困難感もなくなっており,同日は医師からアレロックの処方を受け,帰宅した後, 翌日も経過観察のため同病院を受診した。これを受け,原告番号41は,同病院にて血液検査を実施した結果,同月16日,小麦アレルギーないし食物依存性運動誘発アナフィラキシーの可能性もあるとの診断を受け,医師から病態の説明のほか,小麦,鎮痛剤及び運動の併用を避けるべきであること,再発時には受診するよう指示を受けた。 その後,原告番号41は小麦摂取を控えるようになったが,時に小麦を摂取した際は蕁麻疹を生じるなどし,平成21年9月4日には,学校給食を食べた後,顔面浮腫等の皮膚症状に加え,呼吸困難,嘔吐,下痢等を生じて箕面市立病院に搬送され,搬送後は落ち着きを取り戻していたが,医師は精密検査を勧め,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センタ ーを紹介するとともに,発作時に備えてエピペンを処方した。 平成23年4月23日,原告番号41は小麦が含まれないと思って食べた小麦入りパンを食べた後,顔面浮腫を生じ,更に嘔吐,腹痛,下痢,呼吸困難を生じ,箕面市立病院に救 エピペンを処方した。 平成23年4月23日,原告番号41は小麦が含まれないと思って食べた小麦入りパンを食べた後,顔面浮腫を生じ,更に嘔吐,腹痛,下痢,呼吸困難を生じ,箕面市立病院に救急搬送された。同病院では点滴等の処置を受け,症状は改善したものの,経過観察のため入院をし,翌日退 院となった。 (以上につき,甲個C41の2・3,乙ロ個C41の1,原告番号41本人)(イ) 上記のうち,平成20年10月2日の症状は,診療録の記載や入院をしていないこと等も踏まえれば,ショックを生じたとまでは認められな い。他方,平成23年4月23日の症状は,搬送時の各種数値は正常値 まで戻っていたものの,その症状内容や診療に当たった医師がショックを起こしたと診療録に記載していること(甲個C41の2)に照らせば,ショックを生じたものと認められ,また,平成21年9月4日の症状も,皮膚症状に加え,相当程度重篤な消化器症状,神経症状を生じたことが窺われ,ショックに準ずるものであったというべきである。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号41は,症状が生じる都度,上記のとおり市立箕面病院を受診したほか,平成21年頃より,同病院から紹介を受けた大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターに現在まで継続的に通院している(甲個C41の4・5,乙ロ個C41の1,原告番号41本人)。 この間,小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)は,平成21年9月8日時点で14.00(クラス3),22.70(クラス4)であったものが,経時的に低下し,平成28年6月15日時点では0.57,0.55といずれもクラス1まで低下していること(甲個C41の4,乙ロ個C41の1),原告番号41は ),22.70(クラス4)であったものが,経時的に低下し,平成28年6月15日時点では0.57,0.55といずれもクラス1まで低下していること(甲個C41の4,乙ロ個C41の1),原告番号41は,現在では医師からハンバーグに入れる つなぎぐらいから徐々に食べてみてはどうかと指導されるに至っていること(甲個C41の5)からすれば,原告番号41の症状は一応軽快方向にあるものとみることができる。 原告番号41は,本件アレルギーの発症時から現在まで大阪府立支援学校の教諭を務めているところ,症状の発症に備えて他の教諭に職務内容の 代替を依頼したり,学校給食を食べることができず弁当を持参しなければならなかったりするなどの不利益及び心理的負担を被ったものと認められる(原告番号41本人)。 なお,被告らは,特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められることから素因減額すべき旨主張するが,前記7(4)説示のとおり, これを直ちに減額要素として考慮すべきではないことから,被告らの主張 は採用することができない。 エ既払金10万5655円オ損害額以上によれば,原告番号41は,平成23年4月23日にショックを起 こしたものと認められる(なお,平成21年9月4日にもショックに準ずる症状を起こしている。)から,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当であり,既払金を控除した残額は239万4345円である。 (10) 原告番号50(A10) ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号50は,母親が平成19年6月末から購入を開始した本件石鹸を,毎日の洗顔に使用する (10) 原告番号50(A10) ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号50は,母親が平成19年6月末から購入を開始した本件石鹸を,毎日の洗顔に使用するようになり,平成22年4月頃まで継続して使用したところ,後記イの症状を生じるなどし,平成24年1月5日,京都府立医科大学附属滝井病院にてプリックテスト等を受検し,本件アレルギ ーとの診断を受けた(甲個C50の1・5,乙イ個C50の1,乙ロ個C50の1)。 イショックの有無(ア) 平成22年3月18日,原告番号50は夕食にすき焼き,うどんを食べた後,ランニングをしていると,顔面腫脹,呼吸苦等を生じ,動くこ とができなくなり,関西医科大学附属滝井病院に救急搬送された。救急隊が現場に到着した時点で,原告番号50は気分不良のため動けず,顔面蒼白の状態であり,バイタル測定で血圧低下(94/45mmHg)が認められ,救急隊員はショック症状と判断して,応急措置を講じた。搬送時には原告番号50のバイタルは安定していたものの,眼瞼等に浮腫 が認められたことから,点滴やボスミンの皮下注射等が実施され,その まま同病院の集中治療室にて入院となり,翌日,症状が落ち着いた段階で退院となった。(甲個C50の2ないし4)(イ) 上記の症状は,その内容や現場に駆け付けた救急隊員及び搬送後の担当医師のともにショック症状であったと判断していることからすれば,同症状はアナフィラキシーショックであったと認められる。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号50につき,上記の関西医科大学附属滝井病院への搬送及び京都府立医科大学附属病院への検査のための受診のほかに,同原告が通院をしたことを認め ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号50につき,上記の関西医科大学附属滝井病院への搬送及び京都府立医科大学附属病院への検査のための受診のほかに,同原告が通院をしたことを認めるに足りる証拠はない(甲個C50の5・6,乙ロ個C50の1)。そして,平成23年12月27日時点で,原告番号50の小麦の 特異的IgE抗体値は陰性であり,グルテンについても0.35UA/ml で疑陽性であり,平成24年1月のプリックテストも陰性の結果であり,同原告自身,検査の際に運動しないときであればうどんは摂取できると述べていること(乙ロ個C50の1)などからすれば,同時点で既に症状は軽快傾向にあったことが窺われる。その後,特段の症状の発現を認めるに足 りる証拠はなく,現時点では少なくとも自宅での夕食時に1か月に1,2回程度はとんかつやコロッケを食べており,その際症状が発現しているとも窺われないこと(甲個C50の6)からすれば,原告番号50の症状は現時点では相当程度軽快しているものと思われる。 エ既払金なし オ損害額以上によれば,原告番号50は,平成22年3月18日にショックを生じたものと認められるから,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である(11) 原告番号52(A11) ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症 原告番号52は,平成21年4月から本件石鹸の購入を開始し,入浴時の洗顔用として平成22年12月頃までこれを使用し続けた。そうしたところ,同原告は,同年2月頃から,小麦製品の摂取後に本件アレルギーと思われる蕁麻疹等の皮膚症状,嘔吐や下痢等を生じるようになり,同年7月1日には 平成22年12月頃までこれを使用し続けた。そうしたところ,同原告は,同年2月頃から,小麦製品の摂取後に本件アレルギーと思われる蕁麻疹等の皮膚症状,嘔吐や下痢等を生じるようになり,同年7月1日には後記イの症状を生じるなどして,同年12月,かかりつけ医で あったくろせ小児科にて本件アレルギーとの診断を受けた後,同病院の紹介により受診した京都府立医科大学附属病院においても,経口負荷試験等を実施した結果,本件アレルギーと診断された。(甲個C52の1・3,乙ロ個C52の1)イショックの有無 原告番号52は,平成22年7月1日,昼食後に歩いていたところ,全身が異様に痒くなり,激しい腹痛に襲われた後,意識を消失するなどのショック症状を呈した旨主張する。 しかし,上記症状発現時に受診した済生会中津病院の診療録等は提出されておらず,当時の状況及び客観的な所見は不明である。そして,同原告 は,上記症状発現後の7月3日にくろせ小児科を受診しているが,その際の診療録等も提出されておらず,同原告がショックを生じたことを認めるに足りる証拠はない。京都府立医科大学附属病院の診療録に添付されたくろせ小児科の平成23年12月8日付け診療情報提供書(乙ロ個C52の1)によれば,同原告が数回アナフィラキシー症状を生じたこと,同原告 の平成22年12月7日時点の小麦のIgE抗体価がクラス6と高かったことが認められ,相当程度の全身症状を呈したことは否定できないものの,同年7月1日に同原告にアナフィラキシーショックが生じたとまでは認めるに足りない。 ウ発症後現在に至るまでの経過等 原告番号52は,平成22年2月頃からアナフィラキシー症状を含む本 件アレルギーによる症状を生じ始め,かか るに足りない。 ウ発症後現在に至るまでの経過等 原告番号52は,平成22年2月頃からアナフィラキシー症状を含む本 件アレルギーによる症状を生じ始め,かかりつけ医であったくろせ小児科を都度受診し,同年12月には,同病院にて食物依存性運動誘発アナフィラキシーとの診断を受けた。その後,平成23年1月末にアレルギーの専門医のいる済生会中津病院にて,小麦のIgE抗体価がクラス6であることから小麦を完全に除去する指示され,小麦摂取の制限を開始するととも に,エピペンの処方を受けることとなった。その後,くろせ小児科の紹介によって京都府立医科大学附属病院にも,精密検査を含めて平成23年12月から平成25年3月頃まで通院をした。 この間,原告番号52の小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)は,平成23年12月19日時点で12.60(クラス3),2 3.70(クラス4)であったのに対し,平成30年6月20日時点では,0.13,0.15といずれも陰性化している(甲個C52の4,乙ロ個C52の1)。したがって,客観的な数値に基づけば,原告番号52の症状は回復傾向を示しているということができる一方,現時点でもなお医師から小麦除去の継続が必要と判断されており(甲個C53の4),小麦製品の 自発的な摂取は控えているものと窺われること(甲個C52の5)からすれば,小麦摂取時の症状の発現の有無は不明確であるものの,同原告の症状が治癒ないし寛解したと認めることはできない。 なお,被告らは,同原告に特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められるから素因減額すべき旨主張するが,前記7(4)説示のとお り,それのみをもって減額要素として考慮すべきではないから,被告ら らは,同原告に特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められるから素因減額すべき旨主張するが,前記7(4)説示のとお り,それのみをもって減額要素として考慮すべきではないから,被告らの上記主張は採用することができない。 エ既払金 30万9190円オ損害額以上によれば,原告番号52の損害額は共通損害としての150万円と 認めるのが相当であり,既払金を控除した残額は119万0810円であ る。 (12) 原告番号62(A12)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号62は,平成21年4月頃から祖母や同居の母が購入した本件石鹸の使用を開始し,平成22年7月頃まで毎日の洗顔にこれを使用して いたところ,平成21年6月頃から顔に痒みを生じるようになり,更に平成22年6月に後記イの症状を生じるなどし,兵庫医科大学病院にてプリックテスト,特異IgE検査等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C62の1・3,乙イ個C62の1,乙ロ個C62の1)。 イショックの有無 (ア) 原告番号62は,平成22年2月にもパスタを食べた後に眼瞼浮腫等を生じたことがあったところ,同年6月15日には,ロキソニンを服用後,職場にて朝食としてマフィンを食べたところ,両目が腫れあがり周囲が見えなくなり,体中に蕁麻疹を生じ,また呼吸苦なども発生したため,職場の同僚に兵庫医科大学病院に連れて行ってもらい,診察を受け た。搬送後の検査では,SpO₂は80から90%台であり,血圧も一時86/57mmHg まで低下したが,酸素吸入や輸液,抗ヒスタミン剤・ステロイド投与などにより症状が落ち着いたところで,原告番号62は帰宅した。 査では,SpO₂は80から90%台であり,血圧も一時86/57mmHg まで低下したが,酸素吸入や輸液,抗ヒスタミン剤・ステロイド投与などにより症状が落ち着いたところで,原告番号62は帰宅した。(甲個C62の3,乙ロ個C62の1)(イ) 上記の症状につき,診療録上は単にアナフィラキシーとの記載にとど まる部分もあるものの,その症状の内容や経過,原告番号62を診察した同病院の医師の中には,上記症状をアナフィラキシーショックと診断し,他の病院に対する診療情報の提供においても,「小麦によるアナフィラキシーショック」と記載した医師もいたこと(甲個C62の2,乙ロ個C62の1)からすれば,上記の症状はアナフィラキシーショックで あったと認められる。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号62は,上記イの症状を発症後,韓国に移住することとなった平成24年3月頃まで兵庫医科大学病院に継続して通院し,皮膚科においてはタリオン等の処方を受け,また小麦摂取を制限した生活を続けていた(甲個C62の3,乙ロ個C62の1)。 エ素因減額の検討同原告は本件アレルギーの発症当初からホルモンバランスの乱れによって自律神経失調症を発症し,本件アレルギーとは関連性が明らかでない内科や精神科への通院も継続していること(乙ロ個C62の1)が窺われる。しかし,同原告が診断基準によって本件アレルギーの診断を受けてお り,本件アレルギーの罹患については客観的な裏付けがあり,上記の症状経過には,本件アレルギー症状として矛盾のない症状が含まれ,これを損害として評価の上,本件アレルギーの発症によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について,共通損害とする には,本件アレルギー症状として矛盾のない症状が含まれ,これを損害として評価の上,本件アレルギーの発症によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について,共通損害とするものであるから,この共通損害にかかる部分において,上記アレルギーが 合併的に生じていると認めるに足りる証拠がない以上,これを減額すべきものとは解されない。また,上記の点がショックの発現に寄与したとは認められないから,この点についても減額すべきものではない。さらに,同原告は,診察した医師に対し,スイカを食べると口唇が腫れる旨を述べたこと及び本件アレルギー発症前に花粉症に罹患していたこと(乙ロ個C6 2の1)が認められるが,共通損害の発生及びショックの発現にこれらが寄与し,損害が発生あるいは拡大したと認めるに足りないから,減額は相当でない。さらに,特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められるとの点についても,それのみで減額要因となり得ないことは,前記のとおりである。 オ既払金なし カ損害額以上によれば,原告番号62は,平成22年6月15日にショックを生じたものと認められるから,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である。 (13) 原告番号67(A13) ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号67は,平成21年7月頃に本件石鹸を購入して使用するようになり,平成22年12月頃まで毎日の洗顔及び入浴時の洗身の際にこれを使用した。原告番号67は,同年3月頃から小麦摂取後に皮膚症状を生じるようになり,その後,後記イの症状を生じるなどして,平成23年1 1月17日,血液検査の結果 顔及び入浴時の洗身の際にこれを使用した。原告番号67は,同年3月頃から小麦摂取後に皮膚症状を生じるようになり,その後,後記イの症状を生じるなどして,平成23年1 1月17日,血液検査の結果等から尼崎医療生協病院にて本件アレルギーとの診断を受け,更に平成24年9月12日にも同病院にてプリックテストの結果を踏まえて同様の診断を受けた(甲個C67の1・4,乙イ個C67の1,乙ロ個C67の2)。 イショックの有無 (ア) 原告番号67は,平成22年9月頃,朝食にクッキーを食べた後,全身の発疹,嘔吐,腹痛,下痢,呼吸困難,意識混濁等のショック症状を生じ,住友病院に緊急搬送された旨主張する。しかし,同病院おける同日の診療録等は提出されておらず,原告番号67の主張するショックの症状が生じたことの的確な裏付けはない。この点,同病院の診療録(乙 ロ個C67の3)の平成26年12月15日の記載欄に,「アナフィラキシーショック歴あり」との記載があることが認められるが,同記載は,診察した医師が原告番号67との会話におけるやりとりを記録した部分であり,同記載をもって,原告番号67にショックが生じたことの裏付けとなるものではない。 (イ) 原告番号67は,同年11月6日,友人宅でエビフライなどの食事を したのち,顔や太腿の紅斑,掻痒感,腹痛,下痢,嘔吐といった症状を生じ,芦屋セントマリア病院に救急搬送され,経過観察のため集中治療室に1日入院し,翌日退院をした(甲個C67の2,3,5)。この点,救急隊員は覚知(入電)から7分程度で現場に到着し,上記の症状を確認しているところ,救急出場報告書(甲個C67の2)によれば,救急 搬送時の原告番号67の脈拍,血圧,体温及びSpO₂といったバイ 救急隊員は覚知(入電)から7分程度で現場に到着し,上記の症状を確認しているところ,救急出場報告書(甲個C67の2)によれば,救急 搬送時の原告番号67の脈拍,血圧,体温及びSpO₂といったバイタルサインは正常であり,意識も正常であったこと,夫が同日記載した入院時質問票(甲個C67の3)には,入院までの経過について「友人宅にて食後腹痛」とあり,呼吸困難や意識喪失に関する訴えが記載されていないことからすれば,原告番号67がショックを生じたことについては 疑問が残る。 (ウ) また,原告番号67は,平成26年12月13日,食パンを食べた後に,顔の紅潮,腹痛,吐き気,下痢の症状を生じ,住友病院に搬送され,1日入院したこと,診察に当たった医師はショック症状としてボスミン注射等の処置を行ったことが認められる(甲個C67の5,乙ロ個C6 7の3)。もっとも,同病院の診療録(乙ロ個C67の3)の同日の記録には当初「アナフィラキシーショック」との記載があったが,その後同記載については「今回は腹部症状のみ,ショックまでは至っていない」と修正されたことが認められ,上記症状はアナフィラキシーであったとはいえるものの,ショックであったとまでは認め難い。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号67は,もともと有していたアトピー性皮膚炎に伴う通院に加えて,上記の症状発症後,小麦製品の摂取制限を開始し,本件アレルギーの治療のために現在まで住友病院に定期的に通院し,問診及び抗アレルギー薬(アレロック)の処方を継続して受けている。また,エピペンについ ても,現在まで継続して処方を受けていることが窺われる。 (甲個C67の 5ないし7,乙ロ個C67の3)原告番号67の小麦及びグル けている。また,エピペンについ ても,現在まで継続して処方を受けていることが窺われる。 (甲個C67の 5ないし7,乙ロ個C67の3)原告番号67の小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値は,平成23年11月10日当時は陽性であったものの,平成29年2月時点では小麦がクラス1,グルテンは陰性化していること(甲個C67の7,乙ロ個C67の2),平成25年1月末時点で小麦を含有した加工食品程度であった 食べている旨の記載があること(乙ロ個C67の3)からすれば,その症状は一応回復傾向にはあるとみることができるが,上記のとおり現在も通院等を継続しており,症状の発現がなくなったとは窺われないこと(甲個C67の6,7)に鑑みれば,その症状が治癒ないし寛解に至っているとは認められない。 エ素因減額の検討被告らは,原告番号67は,アトピー性皮膚炎で治療中であり,本件アレルギーによる症状というよりも既存疾患であるアトピー性皮膚炎による症状が多く,本件アレルギーの発症との間の事実的因果関係がないか,少なくとも素因減額されるべき旨主張する。しかし,同原告が本件アレル ギーの診断基準によって同アレルギーの診断を受けており,本件アレルギーの罹患については客観的な裏付けがあり,上記の症状経過には,本件アレルギー症状として矛盾のない症状が含まれ,これを損害として評価の上,本件アレルギーの発症によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認められる水準について,共通損害とするものであるから, この共通損害にかかる部分において,上記アレルギーが合併的に生じていると認めるに足りる証拠がない以上,これを減額すべきものとは解されない。 オ既払金なしカ損害額 , この共通損害にかかる部分において,上記アレルギーが合併的に生じていると認めるに足りる証拠がない以上,これを減額すべきものとは解されない。 オ既払金なしカ損害額 以上によれば,原告番号67の損害額は共通損害150万円と認めるの が相当である。 (14) 原告番号68(A14)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号68は,祖母が購入した本件石鹸を平成22年5月頃から約半年間,洗顔に使用していたところ,平成23年1月に後記イの症状を生じ るなどし,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターにて血液検査等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C68の1ないし5)。 イショックの有無(ア) 原告番号68は,平成23年1月13日,朝食にパンを食べてサッカー部の朝の練習に参加したところ,著明な顔面腫脹,全身の痒み等に加 え,呼吸困難,けいれん状態を生じ,教員に搬送され,学校近くの辻󠄀本病院を受診した。同病院では,ボスミン注射等の処置を受けたが,専門医による精査加療を勧められたため,その後,同病院の紹介により大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターを受診した。 (甲個C68の3ないし5) (イ) 上記の症状につき,確かに血圧低下等の所見は認められないが,皮膚症状に加え,重篤な呼吸器症状,神経症状を生じており,医師によりショック症状との診断を受けていること(甲個C68の3)からすれば,アナフィラキシーショックを生じたものと認められる。なお,上記に先立ち,平成22年10月にも修学旅行先の韓国において,夕食後にラン ニングをした際,顔面腫脹,呼吸困難等を生じ,救急搬送されたことが窺 ラキシーショックを生じたものと認められる。なお,上記に先立ち,平成22年10月にも修学旅行先の韓国において,夕食後にラン ニングをした際,顔面腫脹,呼吸困難等を生じ,救急搬送されたことが窺われ,同症状もショックないしそれに準ずる症状であったと推認される(甲個C68の4,5,乙ロ個C68の1)。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号68は,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターにて平成2 3年1月17日に食物依存性運動誘発アナフィラキシーとの診断を受け, 運動時に限っては小麦摂取を制限するよう指示されるとともに,エピペン等の処方を受けた(甲個C68の4,5,乙ロ個C68の1)。その後,同病院に通院を開始するも,同年8月22日には医師から少しずつ小麦を食べるよう指示されると,小麦の摂取を再開し,平成24年2月には小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値が陰性化するとともに,同年8月には小 麦を摂取した後自転車に乗っても症状が出ない程度まで回復をしている(甲個C68の4,5,乙ロ個C68の1)。そして,激しい運動時にはなお症状が発現する可能性がないとはいえないものの,遅くとも平成27年以降は病院を受診することはなく,日常的に小麦を摂取しても症状を発現していないこと(甲個C68の6)からすれば,原告番号68の症状は現 時点において相当程度に治癒ないし寛解しているものと認められる。 エ既払金合計23万6630円オ素因減額の検討被告らは,イネ科(カモガヤ)花粉症の既往や,クラス3以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められるのであるから,素 因減額がされるべきである旨主張するが,花粉症が本件アレルギーによるアレルゲンの存在のみで素 の既往や,クラス3以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められるのであるから,素 因減額がされるべきである旨主張するが,花粉症が本件アレルギーによるアレルゲンの存在のみで素因減額をすべきものとは解されないので,被告らの上記主張を採用することができない。 カ損害額 以上によれば,原告番号68は,平成23年1月13日にショックを生じたものと認められ(なお,平成22年10月にもショックに準ずる症状を起こしている。),その損害額は,共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当であり,既払金を控除した残額は226万3370円である。 (15) 原告番号71(A15)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号71は,母親が購入した本件石鹸を平成21年11月頃から使用するようになり,平成23年1月頃まで毎日洗顔等に使用していたところ,後記イのとおり,複数回にわたってアナフィラキシー症状を発現する などし,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターにおいてプリックテスト等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C71の1・2・5,乙ロ個C71の1)。 イショックの有無(ア) 原告番号71は,平成22年10月23日,京都観光の折,昼食に天 丼を食べた後,眼の痒み,腫脹や喉のいがいが感を生じ,京都第一赤十字病院に救急搬送された。救急隊が到着した時点でバイタルサインはいずれも正常であり,搬送先の病院にて点滴等の処置を受けた結果,症状は軽快したため入院はしなかった。 同年11月6日,原告番号71は,フランス旅行中にピザやパスタを 食べた後に全身に蕁麻疹が広がり,更 送先の病院にて点滴等の処置を受けた結果,症状は軽快したため入院はしなかった。 同年11月6日,原告番号71は,フランス旅行中にピザやパスタを 食べた後に全身に蕁麻疹が広がり,更に手の震え,舌がつる等の症状を生じ,呼吸困難状態となって病院に救急搬送された。同病院では点滴治療等を受けた他,緊急入院により治療を受け,退院時にも各種の注射薬等の処方を受けた。帰国後,直ちに大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターを受診した。 また,同年11月27日にも,昼食後に全身の発赤,震え,息苦しさ等を生じ,病院に救急搬送されることがあった。平成23年3月1日,同年4月10日にはクッキーやパスタを摂取後,皮膚症状に加え嘔吐等を生じたことがあったが,いずれも病院の受診や救急搬送等はされていない。 (以上につき,甲個C71の3ないし5,乙ロ個C71の1) (イ) 上記の症状のうち,平成22年11月6日の症状については,全身性の皮膚症状に加えて重篤な呼吸器症状,また神経症状を生じており,入院加療を要していることからもアナフィラキシーショックを生じたものと認めるのが相当である。他方で,同年10月23日の症状は,救急活動記録書にはショックとの記載があるが(甲個C71の3),その症状 内容やバイタルサインの数値等に照らせば,ショックに至っていたとまで評価することは困難であり,その余の症状についても,上記した事実関係の下ではアナフィラキシー症状を越えてショック症状に至っていたとまでは認めることはできない。 ウ発症後現在に至るまでの経過等 原告番号71は,平成22年11月から大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターへの通院を開始し,医師から本件石鹸の使用中止や運動時 きない。 ウ発症後現在に至るまでの経過等 原告番号71は,平成22年11月から大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターへの通院を開始し,医師から本件石鹸の使用中止や運動時の小麦摂取を制限するよう指示され,その後小麦摂取を完全に控えるようになったことが窺える(甲個C71の5,乙ロ個C71の1)。 もっとも,小麦やグルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)は平成23 年10月6日時点で,それぞれ0.27,0.26と陰性化し,更に平成24年7月13日にはいずれも0.01まで低下していること(乙ロ個C71の1),平成23年11月頃は医師から少しずつ小麦摂取を再開するよう指示され,その後,症状発現への恐怖感はありつつも,小麦製品の摂取を再開し,平成25年1月15日時点で自宅ではラーメン半人前,クッ キー1,2枚を食べており,更に進んで同年8月時点で担当医は原告番号71につき基本的にはフォローアップを終了予定とできる患者である旨診療録に記載していること(乙ロ個C71の1),現時点でも恐怖感から小麦摂取には前向きではないことが窺われるが,病院の受診や検査の受検等は行っていないこと(甲個C71の6)などに照らせば,原告番号71の 症状は,現時点で相当程度軽快しているものと認められる。 エ既払金なしオ損害額以上によれば,原告番号71は,少なくとも一度はショックを生じたものと認められるから,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である。 (16) 原告番号85(A16)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号85は,平成20年8月に本件石鹸を購入して使用するよう と認めるのが相当である。 (16) 原告番号85(A16)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号85は,平成20年8月に本件石鹸を購入して使用するようになり,平成22年1月頃まで朝晩の洗顔と入浴時の洗身の際に本件石鹸を使用し続けたところ,平成21年7月に後記イの症状を生じるなどし,平 成24年4月に和歌山県立医科大学附属病院にてプリックテスト等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C85の1・4,乙イ個C85の1,乙ロ個C85の1)。 イショックの有無(ア) 原告番号85は,平成21年7月21日,仕事に行く前に素麺を食べ た後,30分から1時間を経過したところで全身の痒み,発赤等を生じ,南方内科医院を受診したが,更に呼吸困難,意識障害,腹痛,下痢等を生じるなどして症状が激化したため,日本赤十字社和歌山医療センターに救急搬送された。同センターでは血圧低下等は認めなかったものの,一時SpO₂は93%まで低下するなどし,医師は酸素吸入や点滴等の処 置を施した。(甲個C85の2ないし4,乙ロ個C85の1)(イ) 上記の症状は,その症状の内容や搬送先で処置を担当した医師がショック症状であると診断していること(甲個C85の3)に照らせば,アナフィラキシーショックを生じたものと認められる。 (ウ) その後,原告番号85は小麦アレルギーとの確証が持てなかったため, 再度素麺を食べたところ,上記と同様の症状を生じるなどしたため,以 降,小麦製品の摂取を控えるようになった(甲個C85の4,乙ロ個C85の1)。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号85は,平成21年7月21日に日本赤十字和歌山 降,小麦製品の摂取を控えるようになった(甲個C85の4,乙ロ個C85の1)。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号85は,平成21年7月21日に日本赤十字和歌山医療センターを受診し,平成24年4月に和歌山県立医科大学附属病院にて検査入院 を行ったほかに,本件アレルギーについて通院加療を受けたことを窺わせる証拠はない。 平成25年5月10日に小麦製品を摂取した際,顔や手の紅潮,喘鳴を生じ,上記センターを受診したこと(甲個C85の6),現在も小麦を摂取しないよう徹底している旨述べていること(甲個C85の5)は認められ るが,証拠上認められる最後の症状の発現から既に5年以上経過していること,平成24年4月3日時点での小麦及びグルテンの特異的IgE抗体値(UA/ml)はそれぞれ0.56(クラス1),2.85(クラス2)であり,当時から数値が顕著に高かったわけでもなく,以降6年以上が経過していること(乙ロ個C85の1)などを踏まえれば,現在においても原告 番号85の症状が継続しているか否かについては明らかでないといわざるを得ない。 エ既払金合計10万7470円オ損害額以上によれば,原告番号85は,平成21年7月21日にショックを生 じたものと認められ,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当であり,既払金を控除した残額は239万2530円である。 (17) 原告番号111(A17)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症 原告番号111は,平成21年7月頃から本件石鹸を購入して使用する ようになり,平成22年3月頃まで毎晩の洗顔に使用していたところ の使用による本件アレルギーの発症 原告番号111は,平成21年7月頃から本件石鹸を購入して使用する ようになり,平成22年3月頃まで毎晩の洗顔に使用していたところ,平成22年に後記イの症状を生じるなどし,尼崎医療生協病院にてプリックテスト等を受検した結果,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C111の1・2,乙イ個C111の1)。 イショックの有無 原告番号111は,陳述書(甲個C111の2)において,平成22年3月16日に,小麦製品を夕食に食べた後,ウォーキングをしていると,顔面の腫脹,呼吸困難等を生じ,近くの淀川キリスト教会病院の緊急外来を受診したところ,当直医からショックであるとの診断を受け,エピペンの注射やその後数時間にわたって酸素吸入を受けた旨述べる。同病院の診 療録上,同日の傷病名は「アナフィラキシーショック」とされており,(乙ロ個C111の2・4頁),尼崎医療生協病院の診療録上もショック症状を生じた旨の記載があること(乙ロ個C111の1)からすれば,原告番号111の上記の症状はアナフィラキシーショックであったものと認められる。 ウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号111は,上記イの症状を生じた後,淀川キリスト教会病院への通院を開始し,また,平成24年8月には尼崎医療生協病院にて検査を行い,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C111の1・2,乙ロ個C111の1・2)。 もっとも,小麦の特異的IgE抗体値は平成25年4月10日時点で陰性化していること(乙ロ個C111の1ないし2),原告番号111は,本件アレルギーと診断された後も小麦製品の摂取を完全にやめたわけではなく,抗アレルギー薬を服用しつつ小麦製品 5年4月10日時点で陰性化していること(乙ロ個C111の1ないし2),原告番号111は,本件アレルギーと診断された後も小麦製品の摂取を完全にやめたわけではなく,抗アレルギー薬を服用しつつ小麦製品の一部の摂取は続けており,その後平成25年11月27日の診療録には「茶のしずく関連,なおって いるかも」との記載があること(甲個C111の2,乙ロ個C111の2), 現在は日常的にパン等を食べていること(甲個C111の4)からすれば,原告番号111の症状は現時点で軽快方向にあるということができる。他方で,原告番号111は現時点においても通院を継続しており,アレルギー薬の処方を受けていることや,平成28年11月には薬を服用せずにパンを食べたところ,顔面の紅斑等を生じ,病院を受診していること(甲個 C111の3ないし4)からすれば,その症状が治癒したとまでは認められない。 なお,クラス2以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数認められるから素因減額すべきとの主張については,これのみで減額すべきものではないことは,前記7(4)説示のとおりであるから,採用できな い。 エ既払金なしオ損害額以上によれば,原告番号111は,ショックを生じたことがあると認められることから,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算を した250万円と認めるのが相当である。 (18) 原告番号114(A18)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号114は,平成18年7月に妻が購入を始めた本件石鹸を使用するようになり,平成23年7月まで継続して朝の洗顔や入浴時の洗身に 本件石鹸を使用していたところ,洗顔や入浴時に顔ないし全身の 原告番号114は,平成18年7月に妻が購入を始めた本件石鹸を使用するようになり,平成23年7月まで継続して朝の洗顔や入浴時の洗身に 本件石鹸を使用していたところ,洗顔や入浴時に顔ないし全身の痒み,湿疹等を生じるようになり,平成23年10月,医療法人太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」という。)にて小麦アレルギーとの診断を受けた後,平成24年10月,藤田保健衛生大学での抗体検査を経て,谷口医院にて本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C114の1・2・5・6,乙ロ個 C114の1)。 イショックの有無なしウ発症後現在に至るまでの経過等原告番号114は,平成22年秋頃には大腿部内側等に痒みを生じ,更に湿疹や痒みが全身に広がったため,平成23年10月頃から谷口医院への通院を開始し,現在まで継続的に同病院に通院をして,抗アレルギー薬 や軟膏等の処方を受けている(甲個C114の5ないし8,乙ロ個C114の1)。 原告番号114は,本件アレルギーとの診断後も,現在まで食事の度に服薬をし,又はせずに,小麦製品の摂取を継続しているが,全身性の皮膚症状を超えて重篤なアナフィラキシー症状を生じたことはないものと認 められる。この点,医師からは,平成23年11月時点で,同時点ではアナフィラキシーの発現を示唆する具体的なエピソードがなかったため,厳格な小麦制限までは不要との説明を受けたものの,その後皮膚症状の慢性化に伴って小麦を完全に除去するよう指示されている。もっとも,原告番号114は,医師からの繰り返し小麦を除去するよう指示されているにも かかわらず,現在まで小麦除去には成功しておらず,現時点においてもなお皮膚症状が継続していることが認められる。(甲個C114の5 14は,医師からの繰り返し小麦を除去するよう指示されているにも かかわらず,現在まで小麦除去には成功しておらず,現時点においてもなお皮膚症状が継続していることが認められる。(甲個C114の5ないし8,乙ロ個C114の1)エ既払金なしオ損害額 以上によれば,原告番号114の損害額は共通損害である150万円と認めるのが相当である。 (19) 原告番号118(A19)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号118は,平成20年9月から母が購入した本件石鹸を朝晩の 洗顔時に使用するようになり,平成23年1月頃まで使用を継続した。こ の間,平成22年2月頃から頬の湿疹,目の充血を生じるようになり,病院を受診するようになり,平成23年5月には小麦製品の摂取後に皮膚症状のほか,喉の苦しさ,鼻水等を生じるようになったところ,平成24年1月に関西医科大学枚方病院を受診した際は,スクラッチテストでグルパール19Sに陽性反応を示したが,プリックテストは陰性の反応であった。 その後,同年12月に神戸大学医学部附属病院にてプリックテスト等を実施した結果,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C118の1,2,乙イ個C118の1,乙ロ個C118の1)。 イショックの有無なしウ発症後現在に至るまでの経過等 原告番号118は,本件アレルギーの発症後,病院にてエピペンの処方を受けたほか,小麦製品の摂取の制限を開始した。ただし,平成24年12月時点では一部に小麦を含む製品を食べた際には体の痒みや腹痛,下痢,嘔吐といった症状が出現する状態であった。 (甲個C118の2,乙ロ個C118の1) 原告番 し,平成24年12月時点では一部に小麦を含む製品を食べた際には体の痒みや腹痛,下痢,嘔吐といった症状が出現する状態であった。 (甲個C118の2,乙ロ個C118の1) 原告番号118は,現在においては通院加療等を行っていないことが窺われ,現時点において小麦摂取時にアナフィラキシー症状を生じていることを認めるに足りる証拠は存在しない。もっとも,原告番号118は,平成30年3月末時点においてもなおグルテンの特異的IgE抗体値は0. 94(クラス2)と陰性化していないこと(甲個C118の3ないし4) からすれば,原告番号118が発症した本件アレルギーの症状が治癒したとは認められない。 エ既払金 15万円オ損害額以上によれば,原告番号118の損害額は共通損害である150万円と 認めるのが相当であり,既払金を控除した残額は135万円である。 (20) 原告番号119(A20)ア本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症原告番号119は,平成21年8月から本件石鹸を購入して使用するようになり,平成23年夏頃まで洗顔や洗身に使用していたところ,洗顔時にくしゃみや顔面の痒み等を生じるようになり,平成23年4月には後記 イの症状を生じるなどして,平成25年3月に大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターにてプリックテスト等を実施した結果,本件アレルギーとの診断を受けた(甲個C119の1・4,乙イ個C119の1,乙ロ個C119の1)。 イショックの有無 (ア) 平成23年4月8日,原告番号119は,朝食にパンを食べた後,徒歩で子供を学校まで送って行った帰りに,眼瞼の著明な腫脹,全身の発疹等に加え,呼吸困難感を生じ,立っ クの有無 (ア) 平成23年4月8日,原告番号119は,朝食にパンを食べた後,徒歩で子供を学校まで送って行った帰りに,眼瞼の著明な腫脹,全身の発疹等に加え,呼吸困難感を生じ,立っていられない状態となり,医療法人春秋会城山病院に搬送された。同病院では点滴治療等が実施されたが,症状が残存したため,同月13日まで入院加療を行うこととなった(甲 個C119の4,乙ロ個C119の1)。 (イ) 上記の症状について,その症状内容や担当医師が退院証明書にショックを生じた旨の記載をしていること(甲個C119の2)からすれば,アナフィラキシーショックを生じたものと認めるのが相当である。 ウ発症後現在に至るまでの経過等 原告番号119は,上記イの症状を生じた後,平成23年4月21日に大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターを受診して食物依存性運動誘発アナフィラキシーとの診断を受け,また平成25年にも同病院にて診断書の発行を受けているが,エピペンの処方は受けておらず,その他通院治療等も行っていないことが窺われる(甲個C119の4,乙ロ個C119の 1)。 現時点においても,小麦を除去した生活を継続している旨述べる(甲個C119の5)ものの,薬の処方等は受けておらず,客観的な所見も明らかでなく,現在もなお症状が発現するのか又は治癒ないし寛解しているのかは不明である。 エ素因減額の検討 アトピー性皮膚炎の既存疾患があり,クラス3以上の特異的IgE抗体価が認められるアレルゲンが複数あるとして,素因減額すべき旨主張する。 しかし,同原告に生じた症状は上記に認定したとおりであるところ,アトピー性皮膚炎が合併しているか否かは明らかでなく,本件アレルギ 価が認められるアレルゲンが複数あるとして,素因減額すべき旨主張する。 しかし,同原告に生じた症状は上記に認定したとおりであるところ,アトピー性皮膚炎が合併しているか否かは明らかでなく,本件アレルギーの発症によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被ったと認めら れる共通損害について,これが寄与しているとは認めるに足りない。さらに,他のアレルゲンが存在することのみを理由とする素因減額の主張につことができない。 オ既払金なし カ損害額以上によれば,原告番号119は,平成23年4月8日にショック症状を生じたものと認められるから,その損害額は共通損害150万円にショック症状加算をした250万円と認めるのが相当である。 9 まとめ 以上,検討したところによれば,本件石鹸及びグルパール19Sにはそれぞれ欠陥が存在し,これらの各欠陥が原因となり,共同して,原告らに対し,前記8認定に係る各損害を与えたものというべきであるから,被告らは,製造物責任法3条に基づいて製造物責任を負い,同法6条の準用する民法719条1項前段により,支払義務が重なり合う限度で連帯して上記の各損害を賠償する 責めを負う。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,被告らに対し,別紙損害額一覧表の「認容額」欄記載の金員の連帯支払及び同金員に対する各被告に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払(支払義務が重なり合う限度での連帯支払)を求める限度で理由があるから,その限度で認容することとし,原 告らのその余の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法64条本文,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し,仮執行免脱宣言 主文 原告らのその余の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法64条本文,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し,仮執行免脱宣言はいずれも相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官大須賀寛之 裁判官中武由紀 裁判官中村公大
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