昭和63(オ)316 離婚請求本訴、財産分与等請求反訴事件

裁判年月日・裁判所
平成元年9月7日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 大阪高等裁判所 昭和61(ネ)1834
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      本件を大阪高等裁判所に差し戻す。          理    由  上告代理人宮下靖男の上告理由について  原審の認定した事実の概要は、次のとおり

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判決文本文5,378 文字)

主文 原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人宮下靖男の上告理由について原審の認定した事実の概要は、次のとおりである。(1) 上告人(大正一五年四月一四日生)は、大学在学中の昭和二二年頃から一六歳年上の訴外Dと事実上の夫婦として生活し、昭和三〇年九月婚姻の届出をしたが、昭和四一年一〇月同女が年齢差を気にして身を引く形で協議離婚した。(2) 上告人と被上告人(昭和九年三月二四日生)は、昭和四一年一一月頃私設の結婚相談所を通じて知り合い、交際の上、昭和四二年四月結婚式を挙げ(同年五月二三日婚姻届出)、昭和四三年二月七日長男Eをもうけた。(3) 上告人、被上告人間には昭和四五年夏頃までは格別深刻な対立が生じたことはなかったが、同年八月頃被上告人が妊娠し、妊娠四か月目の同年一一月頃、被上告人が自分よりも先に就寝したことに憤慨した上告人が、「子供が一人でこんな状態なら、子供二人になれば先が思いやられる」などと言って妊娠中絶を迫り、被上告人の反対を押し切って妊娠中絶手術を受けさせ、その後は避妊を強く要求してこれを実行させた。(4) 訴外F(昭和八年三月一七日生。以下「F」という。)は、昭和四二年一月上告人の経営するG印刷出版株式会社(以下「G印刷」という。)に入社し、経理等の事務全般を担当していた。(5) 昭和四六年四月の上告人の誕生日頃、上告人が、持ち帰ったネクタイピン等をFからプレゼントをもらったと言って被上告人に見せたため、被上告人が雇主と従業員の関係を超える不自然なことだと上告人に指摘したことがあった。(6) 上告人は、昭和四六年四、五月頃から被上告人に対して離婚を求めるようになり、同年七月頃からは被上告人に無断で度々外泊するようになったことから、被上告 然なことだと上告人に指摘したことがあった。(6) 上告人は、昭和四六年四、五月頃から被上告人に対して離婚を求めるようになり、同年七月頃からは被上告人に無断で度々外泊するようになったことから、被上告人は、Fとの仲- 1 -を強く疑うようになり、Fの自宅付近に出かけてその動向を探ったり、それとなくG印刷の事務所を訪れて上告人とFの様子を窺うなどしたが、不貞関係の確証をつかむことはできなかった。しかし、上告人の外泊は次第にエスカレートし、これをめぐって夫婦間に争いが絶えない状態となった。そして、上告人は、同年一〇月、大阪家庭裁判所堺支部に離婚調停を申し立てたが、被上告人が離婚を拒否し、調停委員から円満復帰を説得されたことから、同年一一月二六日右調停申立を取り下げた。(7) 被上告人は、上告人が離婚を要求するのはFのためだと考え、昭和四六年一二月頃Fに対して上告人を誘惑しないでほしいと要求したが、Fは、上告人を尊敬はしているが男女の関係はないと言って、潔白を主張した。(8) このような状態の中で、昭和四六年一二月末被上告人は妊娠していることを知ったが、上告人から出産に強く反対され、結婚生活の将来に不安を覚えたことから、翌四七年一月妊娠中絶手術を受けた。(9) 上告人は、昭和四七年二月一四日、Eとともに家を出て前記D方に身を寄せ、それ以来被上告人と別居するに至った。そして、上告人は、遅くとも同年五月初旬頃までに、Eを連れてFと同棲を始めた。Fは、事前に、実父や姉兄らから「上告人には別居しているとはいえ奥さんがあるのだから、結局二号的存在になるに決まっている」として上告人との同棲に反対されたが、これを押し切って同棲を始めたものであった。なお、Fは、同年四月末、G印刷を退職した。(10) 被上告人は、昭和四七年五月、大阪家庭裁判所堺支部に自己をE ている」として上告人との同棲に反対されたが、これを押し切って同棲を始めたものであった。なお、Fは、同年四月末、G印刷を退職した。(10) 被上告人は、昭和四七年五月、大阪家庭裁判所堺支部に自己をEの監護者と定める旨の審判を申し立て、これに対して上告人も、同年八月、自己をEの監護者と定める旨の審判の申立をした。そして、その手続が進行中の同月二一日には被上告人がEを連れ去り、上告人が同月二八日これを取り戻すという紛争が続いたが、同裁判所は、昭和四八年一月一三日、Eの監護者を上告人と定める旨の審判をした。これに対し被上告人が即時抗告したところ、大阪高等裁判所は、同年三月三一日、原審判を取り消して事件を原裁判所に差し戻す旨の決定をしたが、大阪家- 2 -庭裁判所堺支部は、同年一二月一〇日、改めて、Eの監護者を上告人と定める旨の審判をし、抗告審でもこれが維持されて、右審判が確定した。(11) この間の昭和四八年三月頃、上告人は、被上告人を社会保険の被扶養者から外し、Fを妻として被扶養者の届出をしたが、被上告人が社会保険事務所に抗議したため、改められた。(12) 被上告人は、昭和五二年九月、大阪家庭裁判所堺支部に婚姻費用分担の調停を申し立てたが、昭和五三年五月調停が不調となって審判に移行し、同裁判所は、昭和五四年八月七日、上告人に対し昭和五三年一月から昭和五四年七月までの生活費の不足分合計七六万円と同年八月以降別居中毎月一三万三〇〇〇円の支払を命ずる審判をし、これに対する上告人の即時抗告が棄却されて、右審判が確定した。しかし、上告人は任意にその履行をせず、このため、被上告人は強制執行を繰り返すことを余儀なくされている。(13) 上告人は、EにFを実母と教えており、EもFに実の母子のごとく馴染んで順調に成長し、大学に入学して寮生活をしている。( ず、このため、被上告人は強制執行を繰り返すことを余儀なくされている。(13) 上告人は、EにFを実母と教えており、EもFに実の母子のごとく馴染んで順調に成長し、大学に入学して寮生活をしている。(14) 被上告人は、上告人が家を出た後も従来どおり上告人所有名義のマンションに居住し、昭和四七年四月から昭和五二年一二月までは勤めに出ていたが、その後は勤めを辞めて主に上告人から支払われる婚姻費用によって生活している。 被上告人は、上告人とFによって一方的に結婚生活を破壊されたばかりか、Eまで奪われ、人生を踏みにじられたとの思いが深く、上告人の離婚請求に応じることはEとの実質的親子関係の回復を永遠に不可能にすることに通ずると考えて、離婚を拒否している。 原審は、右認定事実のもとにおいては、上告人、被上告人間の婚姻は既に回復の見込みがない程度に破綻した状態に至っており、被上告人主張のように上告人とFが昭和四六年七月頃から情交関係を結んでいたとは認められないとしても、右婚姻破綻の主たる責任は、被上告人の心情を無視してFと同棲生活を開始しこれを継続した上告人にあるところ、上告人は、被上告人に対し今日に至るまで特に財産の分- 3 -与もしていないうえ、婚姻費用分担の審判確定後も強制執行を受けなければこれを支払わないという態度を続けているし、昭和四八年三月頃には被上告人を社会保険の被扶養者から外す措置をとるなど、不誠実な態度をとり続けているのであって、このような事情や被上告人に定職がなく、その年齢からみて相応の収入のある職業を新たに見つけることは困難であり、離婚となれば将来更に経済的な窮境に放置される危険性があることなどの事情に照らすと、本件離婚請求を認容することは、自ら婚姻破綻の原因を作出し、不誠実な態度を継続している上告人の請求を容認し、他方、婚 婚となれば将来更に経済的な窮境に放置される危険性があることなどの事情に照らすと、本件離婚請求を認容することは、自ら婚姻破綻の原因を作出し、不誠実な態度を継続している上告人の請求を容認し、他方、婚姻継続を熱望している被上告人を経済的、精神的に更に窮状に追い込むことになるから、本件離婚請求は信義誠実の原則に照らして許されないとして、右請求を棄却した第一審判決を正当として控訴棄却の判決をした。 しかしながら、民法七七〇条一項五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないというのが当裁判所の判例である(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決・民集四一巻六号一四二三頁)。そして、前記事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人との婚姻は既に破綻しており、上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被上告人の別居期間は、原審の口頭弁論終結時まででも約一五年六か月に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、上告人、被上告人間の長男Eは右の時点において既に一九歳の半ばに達しているから、両者の間には既に未成熟の子が存在しないというべき- 4 -である。したがって、上告人の本訴請求は、右のような特段の事情のない限り、これを認容すべきところ、被上告人が離婚によって被 達しているから、両者の間には既に未成熟の子が存在しないというべき- 4 -である。したがって、上告人の本訴請求は、右のような特段の事情のない限り、これを認容すべきところ、被上告人が離婚によって被るべき原審認定のような経済的・精神的不利益は、離婚に必然的に伴う範囲を著しく超えるものではないというべきであって、未だ右にいう「精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態」に当たらないというほかはなく、また、原審が上告人の不誠実な態度の徴表として認定説示している前記事情も、本件の紛争の経緯に照らすと、これを過大に評価することはできないというべきであるから、原審認定の前記事実関係だけでは、他に格別の事情の認められない限り、前示特段の事情があると認めることはできないものというべきである。 そうすると、右特段の事情の有無について審理を尽くすことなく、本件離婚請求は信義誠実の原則に照らして許されないものとして、これを棄却すべきものとした原判決は、民法一条二項、七七〇条一項五号の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべきであり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、財産分与及び慰藉料の支払を求める被上告人の予備的反訴を含めて更に審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官佐藤哲郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官佐藤哲郎の反対意見は、次のとおりである。 私は、多数意見の結論に賛成することはできない。 私は、婚姻関係が破綻した場合においても、その破綻につき専ら又は主として原因を与えた当事者からされた離婚請求は原則として許されない のとおりである。 私は、多数意見の結論に賛成することはできない。 私は、婚姻関係が破綻した場合においても、その破綻につき専ら又は主として原因を与えた当事者からされた離婚請求は原則として許されないが、右のような有責配偶者からされた離婚請求であっても、有責事由が婚姻関係の破綻後に生じたよう- 5 -な場合、相手方配偶者側の行為によって誘発された場合、相手方配偶者に離婚意思がある場合は、もとより許容されるが、更に、有責配偶者が相手方及び子に対して精神的、経済的、社会的に相応の償いをし、又は相応の制裁を受容しているのに、相手方配偶者が報復等のためにのみ離婚を拒絶し、又はそのような意思があるものとみなしうる場合など離婚請求を容認しないことが諸般の事情に照らしてかえって社会的秩序を歪め、著しく正義衡平、社会的倫理に反する特段の事情のある場合には、有責配偶者の過去の責任が阻却され、当該離婚請求を許容するのが相当であると考える。その理由は、多数意見の引用する大法廷判決における意見において詳述したとおりである。 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人との婚姻は破綻し、上告人はその破綻につき専ら又は主として原因を与えた有責配偶者というべきであるところ、未だ前示特段の事情があるとは到底認めることができないから、本訴離婚請求は許されないというべきである。これと同旨の原判決は結論において相当であるから、本件上告はこれを棄却すべきものである。 最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官角田禮次郎裁判官大内恒夫裁判官佐藤哲郎裁判官四ツ 田禮次郎裁判官大内恒夫裁判官佐藤哲郎裁判官四ツ谷巖裁判官大堀誠一- 6 -

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