- 1 - 主文 1 原判決を取り消す。 2 第1審原告が,第1審被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,第1審被告の負担とする。 事実 第1 控訴の趣旨第1審原告は,主文第1項及び第2項と同旨の判決を求めた。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,第1審被告の設置するA高等学校(以下「A高校」という。)の教諭であり水泳部の顧問であった第1審原告を第1審被告が解雇したことが,労働基準法19条(業務上疾病により休業中の労働者の解雇禁止)の規定に違反するかどうかが争われる事案である。原判決は,第1審被告に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める第1審原告の請求を,第1審原告のうつ病が業務上の疾病とはいえないことを理由として棄却した。これを不服として第1審原告が控訴したのが,本件控訴事件である。 2 第1審原告の主張請求の原因第1審原告は,昭和56年4月,第1審被告との間で,期限の定めのない労働契約を締結した。 抗弁に対する認否抗弁事実(解雇通知があったこと)は認め,解雇の効力は争う。 再抗弁第1審原告は,平成23年6月9日頃,業務に起因してうつ病を発症し,平成24年12月25日(解雇日)の頃はうつ病により休職していた。 - 2 - 第1審被告による解雇は,業務上疾病により休業中の労働者の解雇を禁止する労働基準法19条の規定に違反し,解雇の効力を生じない。 よって,第1審原告は,第1審被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める。 3 第1審被告の主張請求の原因に対する認否請求の原因事実 反し,解雇の効力を生じない。 よって,第1審原告は,第1審被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める。 3 第1審被告の主張請求の原因に対する認否請求の原因事実は認める。 抗弁第1審被告は,第1審原告に対し,平成24年12月25日付け解雇通知書により,同日付けで解雇することを通知した。 再抗弁に対する認否平成24年12月25日(解雇日)の頃に第1審原告が業務に起因するうつ病にかかっていたことは,否認する。 理由 第1 請求の原因及び抗弁について請求の原因事実(労働契約の締結)及び抗弁事実(解雇通知があったこと)は,当事者間に争いがない。そこで,第2以下において,再抗弁(第1審原告が解雇日において業務に起因するうつ病により休職していたといえるかどうか)について検討することとする。 第2 当裁判所が認定した事実証拠(甲1から23まで,乙1から29まで,36から70まで,原審及び当審における証人Bの証言,当審における第1審原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 1 A高校における特待生・部活動等 A高校の部活動A高校は,学校法人である第1 審被告の設置する高等学校であり,横浜市a- 3 - 区に所在する。 文武両道を標榜するA高校の特色の一つに,生徒の部活動における活躍があり,複数の運動部が強豪校として知られている。A高校は,特待生制度を設けており,特待生の対象の一つが,中学校の運動部で優れた実績を残した生徒である。中学校の水泳部で実績を残した生徒の中からも,A高校に特待生として入学し,水泳部に入部する者がいた。特待生の特典は,入学金及び授業料の免除又は入学金の免除であった。 A高校においては,部活動の る。中学校の水泳部で実績を残した生徒の中からも,A高校に特待生として入学し,水泳部に入部する者がいた。特待生の特典は,入学金及び授業料の免除又は入学金の免除であった。 A高校においては,部活動の顧問を務める教諭には定額の顧問手当(年額1万5500円)及び休日出勤手当(平成23年当時は日額2500円)を支給し,顧問手当の範囲でできることをやればよいという建前がとられていた。 部活動の活動内容,練習時間その他の指導の具体的内容については,建前上は,部活動の顧問を務める教諭に委ねられていた。しかしながら,特に入学金等免除の特待生が所属する部においては,インターハイ(全国大会・地方予選)等の対外試合で好成績を出すことが暗に期待されており,部活動の顧問を務める教諭は,相応の実績を出すことが自己の勤務成績に直結するものと認識していた。第1審被告も,前記の建前を取りながらも,本音の部分では,部活動の好成績も期待し,好成績を含めた部活動における教育実績を顧問教諭の評価の対象にしていた。これに伴い,部活動の顧問を務める教諭は,平日の勤務時間外の時間及び休日を返上して,部員の日常の練習指導,対外試合への引率及びレース前後の指導(第1審被告の業務)並びに競技役員その他の対外試合の運営業務(外部の競技団体の業務)を実行していた。 部活動会計A高校の生徒会予算の中から,部活動を行う各部に予算が割り当てられていた。水泳部の活動に必要な費用としては,対外試合出場のための宿泊交通費並びに対外試合会場用のテント・シート,クーラーボックス,生徒の競技映像撮影視聴器具及び練習用強化器具等の購入費などがあった。 - 4 - 水泳部においては,昔から,生徒会予算では足りない分を,部員一人当たり定額(月額500円)の部費,スポット的な合宿や大会参加費として保護者か 練習用強化器具等の購入費などがあった。 - 4 - 水泳部においては,昔から,生徒会予算では足りない分を,部員一人当たり定額(月額500円)の部費,スポット的な合宿や大会参加費として保護者から徴収し,時には保護者有志から寄付を受けたりして,まかなってきた。温水プールの燃料代は第1審被告が負担してきたが,保護者の中には,部費は温水プールの燃料代であると誤解する者もいた。 解雇通知があった平成24年からさかのぼること15年前の平成9年に開催されたA高校の職員会議において,当時のボクシング部の父母会につき,父母代表に無断で顧問教諭が父母会費を徴収管理し,父母への決算報告もしていないという問題が口頭で報告されたことがあった(乙66)。その際,後援会費(父母会費)については,全て部員の父母代表が管理すべきことが口頭で確認された。しかしながら,当該確認事項は文書化されたり,教諭に文書配布されたりしておらず,平成9年以降にA高校に新たに着任した教諭にどのように伝達されたのかも不明である(給与に関する新任教職員のしおり(乙11)の書きぶりによれば,新任教職員に対する各種ルールの文書による伝達が逐一実行されていたわけではないことがうかがわれる。)。また,平成9年に生じた問題は,保護者を構成員とする団体(父母会)の会計を部外者である教諭が保護者に無断で行っていたことにより生じた問題であり,教諭が管理運営する部の会計(保護者から徴収した部費等の金銭管理)を部内者である教諭が行うこととは,問題の側面を異にする。また,第1審被告は,立証趣旨を「生徒からの部費徴収は学校長名義の文書で用途を明示して保護者に要請し,部費を受領したら保護者に預かり証を交付すること」として,平成25年の陸上競技部新入部員保護者用資料(乙63)を提出する。しかしながら,肝心の 徴収は学校長名義の文書で用途を明示して保護者に要請し,部費を受領したら保護者に預かり証を交付すること」として,平成25年の陸上競技部新入部員保護者用資料(乙63)を提出する。しかしながら,肝心の会計報告の実施を証明する文書の提出がない上,立証趣旨にあるような一般的なルール自体を記載した文書の提出もない。以上によれば,平成23年当時のA高校の部活動会計については,保護者からの費用徴収,管理,決算報告等の実効性あるルールは定められておらず,会計に関する監査・検査- 5 - なども実行されておらず,どんぶり勘定的な部活動の会計運営が放置されていたものと認められる。 A高校の部活動と県高体連等の外部団体A高校は,神奈川県高等学校体育連盟(以下「県高体連」という。)に加盟しており,部活動の生徒は,県高体連の開催する対外試合に出場することができた。対外試合は,県高体連の各競技専門部(水泳は県高体連の水泳専門部)が中心となって運営し,各競技専門部による大会運営等の実務は,県内各高等学校の部活動の顧問教諭(第1審原告を含む。)のボランティア的な活動により支えられてきた。また,県高体連の各競技専門部等の役員は,県内各高等学校の部活動の顧問教諭以外にはほとんど供給源がなく,競技指導や競技運営に熱心なベテラン教諭の中から選出せざるを得なかった。高等学校側からすると本業を一部おろそかにすることになるので,県高体連役員就任はできるだけ避けてほしいと考えるのが,多くの高等学校における一般的な考え方であった。特に,多数の自校教諭が同時に色々な競技専門部の役員に就任することは,避けていた。しかしながら,県内全ての高等学校が自校教諭の県高体連役員就任を禁止すると,県高体連が機能を停止し,対外試合が実施できなくなるという実情もあった。そこで,基本的には就 に就任することは,避けていた。しかしながら,県内全ての高等学校が自校教諭の県高体連役員就任を禁止すると,県高体連が機能を停止し,対外試合が実施できなくなるという実情もあった。そこで,基本的には就任辞退を促すが,やむを得ない場合には就任を認めるのが,多くの高等学校の通常の取扱いであった。A高校も,同様の方針であった。競技指導や競技運営に熱心なベテラン教諭として役員就任適齢期にあったとみられる第1審原告の県高体連水泳専門部役員就任は,第1審原告本人の希望もあり,A高校としては,やむを得ず認めていた。第1審原告は,平成20年頃から県高体連水泳専門部委員長に就任し,これに伴い神奈川県水泳連盟の役員にも就任していた。 2 第1審原告の労働の実情(部活業務・県高体連業務を含む)第1審原告の経歴第1審原告(昭和32年○月○日生・男性)は,C大学体育学部を卒業し,- 6 - 昭和56年4月,A高校の体育科教諭として第1審被告に雇用され,水泳部の顧問に就任した。 第1審原告の業務・労働時間平成22年及び平成23年当時の第1審原告の業務内容や労働時間の概略は,次のとおりであった。なお,第1審原告は,第1審被告の承認を得て,勤務時間内に,県高体連の会議に月1,2回(5月から8月までは月5,6回),神奈川県水泳連盟の会議に月1,2回出席していた。 ① 平日は毎日午前6時頃に出勤して,午前8時まで部活動の顧問の仕事に従事し,午前8時20分から午後3時50分までの勤務時間を終えた後,午後8時まで部活動の顧問の仕事に従事していた。 ② 土曜日の授業のある日は午前6時に出勤して,午前8時まで部活動の顧問の仕事に従事し,午前8時20分から午後0時50分までの勤務時間を終えた後,午後8時まで部活動の顧問の仕事に従事していた。 土曜日の授業のない 業のある日は午前6時に出勤して,午前8時まで部活動の顧問の仕事に従事し,午前8時20分から午後0時50分までの勤務時間を終えた後,午後8時まで部活動の顧問の仕事に従事していた。 土曜日の授業のない日は,午前6時から午後1時まで部活動の顧問の仕事に従事していた。 ③ 日曜日等のうち対外試合がある日(月2回程度)は,対外試合に生徒を引率し,かつ,対外試合における審判等の競技役員を務めていた。また,有望な選手をA高校に特待生等としてスカウトするため,中学生の水泳大会の視察も行っていた。 横浜北労働基準監督署が,A高校の出勤簿及び第1審原告からの聴取りに基づき,第1審原告の労働時間を整理した結果(甲10・17枚目,15,16)及び平成22年12月12日から平成23年6月9日までの間における第1審原告の実労働時間を認定した結果(甲10・18枚目~23枚目)は,別紙4記載のとおりである。 3 水泳部特待生の退学事件と第1審原告の失言水泳部特待生(平成22年入学)の退学事件- 7 - 水泳の実績が認められて第1審原告のスカウトにより平成22年4月にA高校に特待生として入学した生徒(以下「元特待生」という。)が,水泳部に入部した後,原因がはっきりしないものの水泳部の練習に参加しなくなり,さらには喫煙を理由に停学処分を受け,結局1年生の途中でA高校を退学するという事件が発生した。元特待生は,退学の原因として,水泳部内での先輩からのイジメを指摘したという情報が出回った。イジメの有無は,はっきりしなかった。この退学事件は,元特待生をスカウトした水泳部顧問教諭である第1審原告の失態(水泳部内の教育管理や特待生への指導配慮の不十分又は問題ある中学生の特待生への推薦)となり,第1審原告にとっても,ストレスのかかるショッキングな出来事 ウトした水泳部顧問教諭である第1審原告の失態(水泳部内の教育管理や特待生への指導配慮の不十分又は問題ある中学生の特待生への推薦)となり,第1審原告にとっても,ストレスのかかるショッキングな出来事であった。 第1審原告の失言退学事件発生後のある日,第1審原告は,水泳部員の生徒たちの前で話をしていた際,話の流れの中で元特待生のことに触れて,「ここに刃物があれば,あいつを刺して自分も死にたいくらいだ」と思わず失言してしまった。第1審原告は,当該失言をした事実を忘れていた(甲12)。 平成23年5月11日,元特待生の祖母と名乗る者からA高校宛てに,別紙1記載の投書があった。投書の内容は,元特待生が他の生徒から罪をなすりつけられたことをA高校が把握せずに退学に追い込まれたとの内容,退学後に第1審原告の失言があったことを聞きこれを非難する内容を含むものであった。祖母と名乗っていることから,投書者は保護者ではなく,また,投書内容には伝聞や孫可愛さからの思い込みが含まれている可能性もある。 4 失言問題・口止め問題調査(平成23年5月) 失言問題調査A高校のD校長(当時・昭和7年生の男性)は,平成23年5月13日の金曜日,B副校長(当時は副校長であったが,現在はA高校の校長である・昭和27年生の男性)及びE理事(当時はA高校の学監の地位にもあり,現- 8 - 在は第1審被告の代表者理事長である・昭和16年生の男性)に対して,3の投書内容の調査を命じた。同日,B副校長及びE学監からの聴取調査(1回目)を受けた第1審原告は,記憶がなかったのでその旨の回答をした。週末に対外試合を控えている水泳部の生徒への調査の実施は,第1審原告の希望により翌週に行うことになった。 第1審原告による口止め第1審原告は,同日(同月 記憶がなかったのでその旨の回答をした。週末に対外試合を控えている水泳部の生徒への調査の実施は,第1審原告の希望により翌週に行うことになった。 第1審原告による口止め第1審原告は,同日(同月13日の金曜日),水泳部の3年生の生徒らに確認したところ,実際に失言があった旨の回答を多く得た。第1審原告は,失言を理由に解雇等の不利益処分を受けるリスクを感じて,思わず水泳部の3年生の生徒らに口止めをした。 同月16日月曜日にB副校長らによる水泳部生徒らへの調査が実施された。水泳部の3年生の生徒らは失言の事実を知らないと答えたが,水泳部の2年生の生徒らは失言があったと答えた。このことを知った第1審原告は,水泳部の2年生の生徒らに対して,覚えていないと言うように口止めした。 生徒らの一部は,非常に混乱した。B副校長らは,同月25日の水泳部生徒に対する聴取により,第1審原告による前記口止めの事実を把握した。 B副校長による進退発言同月30日に聴取調査(2回目)を受けた第1審原告は,B副校長からの指摘に対して前記口止めの事実を認めた。B副校長らは,D校長に謝罪した上で,進退を任せたらどうかと伝えた。第1審原告は,進退という言葉を聞かされて驚き,このままでは依願退職に追い込まれると思い,D校長の前では進退を任せるとは言わなかった。 失言問題及び口止め問題の発覚並びにB副校長の進退発言は,第1審原告にストレスとしてのしかかることになった(甲13)。 5 顧問業務及び授業の禁止処分とうつ病症状の発生(平成23年6月上旬) 金銭問題調査への急転換・処分発言- 9 - 平成23年5月31日の聴取調査(3回目)から,突然,それまでと異なり,水泳部会計の調査が始まった。その直前に,水泳部員の保護者有志から5万円の寄付(部費等の 急転換・処分発言- 9 - 平成23年5月31日の聴取調査(3回目)から,突然,それまでと異なり,水泳部会計の調査が始まった。その直前に,水泳部員の保護者有志から5万円の寄付(部費等の徴収金以外の任意の寄付)があったことをB副校長が聞きつけたことがきっかけであった。第1審原告にとって,金銭問題調査の開始は,不意をつかれた形となった。 第1審原告は,保護者から部費等を徴収していたことや寄付があったことは認め,交通費や強化器具費などの正当な用途に使用したと説明した。ところが,A高校側は,金銭問題を,厳しい態度で,非常に細かく調査を続けた。B副校長は,金銭問題は第1審被告内部で収まらず刑事事件になるかもしれないと言って,過去数年間にさかのぼって,領収証原本などの資料により最後の1円まで説明するように求めた。D校長も,金銭問題は厳しい処分になると述べた。第1審原告は,会計問題について突然厳しい調査を受けて,非常に不安になった(甲14)。 顧問業務及び授業の禁止処分とうつ病症状の発生A高校は,平成23年6月1日頃,第1審原告に対して水泳部の顧問業務の担当を禁止する処分をした。水泳部の代わりのコーチは,すぐに外部から招へいされた。A高校は,水泳部の部室の鍵を第1審原告に予告することなく取り換えた上で,部室内にある第1審原告の私物を撤去することを命じた。同月9日からは,水泳部員所属クラスの授業の担当を禁止する処分も追加した。第1審原告は,担当業務のない謹慎に近い状態に追いやられた。授業及び部活動における生徒との触れ合いを禁止されることは,生きがいを奪われるに等しく,教諭として大きなショックを受けた。また,金銭問題調査の開始や,「厳しい処分」という言葉を聞かされたことは,第1審原告に大きな精神的ストレスを与えた。このころから,第 ,生きがいを奪われるに等しく,教諭として大きなショックを受けた。また,金銭問題調査の開始や,「厳しい処分」という言葉を聞かされたことは,第1審原告に大きな精神的ストレスを与えた。このころから,第1審原告の食欲が落ち始め,精神状態も衰弱し始め,気持ちが不安定になったり,不眠症状が出たり,死んで楽になりたいという希死念慮症状が出るようになった。 - 10 - 6 金銭問題調査の継続(平成23年6月中旬から7月上旬まで) インターハイ神奈川県予選まで平成23年6月10日の聴取調査(4回目)においても,D校長とB副校長は,過去数年間にさかのぼって,領収証原本などの資料により最後の1円まで説明するように求め,処分にも言及した。第1審原告は,水泳部員の保護者から生徒1人当たり月額500円(年額6000円)の部費を徴収したり,保護者有志から寄付を受け取ったりして,水泳部の活動に使用してきたことを説明した。B副校長らは,部費を温水プールの燃料代と認識している保護者がいることから,徴収の趣旨や使途が明示されていない点に着目し,説明と使途が異なれば横領になるかのごとき発言をした(乙15)。 同月12日の日曜日には,第1審原告を出席させないまま,水泳部保護者会が開催された(甲13)。 同月13日の聴取調査(5回目)でも,過去数年にさかのぼって,領収証原本などの資料に基づく個別の金額の使途の説明を求められた。資料を整備していなかった第1審原告は,直ちに説明ができなかった。D校長は,第1審原告に対して,使途等をきちんと説明できなければ厳しい処分を検討すると述べた。第1審原告は,退職を迫られると感じ,精神的ストレスがますます強まった。 A高校教職員組合の委員長らは,同月16日,D校長らに対し,第1審原告に対する退職強要があると申し入れ を検討すると述べた。第1審原告は,退職を迫られると感じ,精神的ストレスがますます強まった。 A高校教職員組合の委員長らは,同月16日,D校長らに対し,第1審原告に対する退職強要があると申し入れた。同月17日,D校長らと教職員組合の役員及び第1審原告が面談した結果,退職強要との主張は撤回され,第1審原告が水泳部員の保護者に直接説明する機会を設けることが合意された(乙16)。 平成23年6月19日(日),25日(土)及び26日(日)は,インターハイ(神奈川県予選会)の開催が予定されており,もともとは,第1審原告は競技役員(審判長)を務める予定であった。A高校水泳部顧問の解任処- 11 - 分を受けることになった第1審原告は,生徒の引率やレース前後の指導の業務はできないものの,A高校とは無関係の神奈川県水泳連盟の役員の資格で競技役員(審判長)を務めるため,自費で神奈川県内の会場に行く意向であった。しかしながら,D校長は,A高校とは無関係の第1審原告の活動についても自粛を求め,大会前日になるまで大会出席を認めず,第1審原告に大きな精神的ストレスを課した(甲14・乙16)。 水泳部保護者会での説明平成23年7月3日(日曜日)に,D校長,B副校長,E学監のほか,第1審原告も出席して,水泳部保護者会が開催された。 保護者から一番大きな苦情が出たのは,口止め問題により生徒が受けた心理的な苦しみ及び混乱の問題であった。会計問題でも質問や苦情が出たが,会計問題がさらに広がりをみせることはなく,保護者との間の会計問題は終息の方向に向かうことになった。同時に,第1審原告に代わって慣れない水泳部顧問を担当していた教諭のエントリー作業のミスにより,国体予選会の出場資格を持つ水泳部員の生徒の一部が国体予選会に出場できなくなったという疑惑 とになった。同時に,第1審原告に代わって慣れない水泳部顧問を担当していた教諭のエントリー作業のミスにより,国体予選会の出場資格を持つ水泳部員の生徒の一部が国体予選会に出場できなくなったという疑惑も,保護者から指摘された。なお,E学監は,A高校側としての保護者への説明の役割を担わず,保護者席に座り,説明を受ける側の保護者のような立場での発言に終始した(甲14,乙17)。 7 第1審原告の症状の悪化(平成23年7月中旬から8月まで) 聴取調査の継続平成23年7月11日(6回目),同月12日(7回目)及び同月16日(8回目)の聴取調査においては,主に過去の遠征試合(全国大会,関東大会等)における宿泊交通費等が問題となった。第1審原告は,宿泊交通費を県高体連と第1審被告から二重に受領していた部分があったことを認め,第1審被告に返金を申し出たが,第1審被告は返金の受領を拒否した。また,第1審原告による県高体連の会計処理の不適正な部分があることも判明した- 12 - が,県高体連側の担当者(他校の教諭)から問題を大きくしない意向を伝えられたため,県高体連に対応を委ねた(甲14)。 県高体連の会計処理に関する問題については,後日,県高体連と第1審原告との間で精算の合意が成立し,かつ,合意内容が履行された(甲17)。 インターハイ関東地区予選会まで第1審原告に対して水泳部の顧問業務担当の禁止処分をしたため,A高校は,第1審原告に対して,平成23年7月23日から山梨県で開催されるインターハイ(関東地区予選会)への出張を禁止することを伝えた。第1審原告にとっては,他校の水泳部顧問教諭など旧知の神奈川県水泳関係者からどのように思われるかということも,精神的ストレスを高める原因になっていた。県高体連水泳専門部の関係者(他校の教諭) えた。第1審原告にとっては,他校の水泳部顧問教諭など旧知の神奈川県水泳関係者からどのように思われるかということも,精神的ストレスを高める原因になっていた。県高体連水泳専門部の関係者(他校の教諭)からA高校に対して,水泳専門部の委員長を務める第1審原告が派遣されないと,神奈川県選手団としても困ると強く要請されたため,D校長は,大会の前日の平成23年7月22日になってようやく,第1審原告の山梨出張を許可した。 神奈川県水泳大会への出張禁止(8月下旬)B副校長らは,平成23年8月9日頃までに,金銭問題等を理由に懲戒解雇処分とする方針を固めた。A高校は,同月22日,第1審原告に弁明の機会を与えるため,面談をしたい旨を連絡した。他方で,A高校は,第1審原告が同月23日から開催される県高体連主催の神奈川県水泳大会に出張することは,禁止した。重い処分を受けるリスクを察知し,かつ神奈川県水泳大会への出張も禁じられた第1審原告の体調は,心身ともに最悪となった。第1審原告と教職員組合のF副委員長は,同月23日,A高校に行って,B副校長に対して面談の実施を断る旨を伝えた。 8 うつ病診断と休職G医師の診断- 13 - 第1審原告は,平成23年8月24日,横浜市内のGメンタルクリニックにおいて,G医師の診察を受けた。第1審原告は,G医師の問診に対し,私立中高一貫校の体育教師であること,少子化・教員過剰の状態にあり昨年も若い教師が辞めさせられたこと,5月から校長,副校長及び学監が自分を退職に追い込もうとしていること,3人揃ってあれはどうしたこれはどうしたと追い詰めてくることなどを訴えた(乙20)。G医師は,同日,第1審原告について軽度うつ病のため3か月程度の休養を要すると診断した。第1審原告は,G医師の診断書(乙24)及び療養 したこれはどうしたと追い詰めてくることなどを訴えた(乙20)。G医師は,同日,第1審原告について軽度うつ病のため3か月程度の休養を要すると診断した。第1審原告は,G医師の診断書(乙24)及び療養休暇届を第1審被告に提出し,平成23年8月24日から病気休職扱いとなった。 休職中の状況第1審原告は,その後もG医師の診察及び治療を受け続けた。しかしながら,なかなか復職できるまでには回復しなかった。第1審原告は,平成24年8月までの間,3か月ごとに,その旨の診断書を第1審被告に提出した(乙24)。第1審原告は,平成23年8月24日から1年間は有給の病気休職,平成24年8月24日からは無給の病気休職と扱われた。 D校長は,平成24年1月,第1審原告に対して,A高校と主治医の二者又は第1審原告を加えた三者による接見を希望する旨を通知した(乙18)が,第1審原告は応じなかった。D校長は,同年5月30日付けで,第1審原告に対して,休職についてセカンドオピニオンを得るために,業務命令として横浜市内の特定の2つの病院のいずれかを受診し,受診結果を診断書を添えて同年6月13日までに提出することを命じた(乙19)。第1審原告は,セカンドオピニオンを得るため,同年7月6日,G医師の勤務する病院でもなく,D校長が指定した2つの病院でもない別の病院の診察を受け,うつ病と診断され,「抑うつ気分,食欲不振,不眠,希死念慮は軽快されていると思われるが,精神運動抑制は目立ち,未だうつ病の回復過程段階にあると考える。」とのセカンドオピニオンを得た(乙22)。 - 14 - 本件解雇第1審被告は,第1審原告に対し,平成24年12月25日付け解雇通知書を送付して,同日付けで懲戒解雇することを通知した(甲7)。当該解雇通知書の別紙である懲戒解雇理由書 - 本件解雇第1審被告は,第1審原告に対し,平成24年12月25日付け解雇通知書を送付して,同日付けで懲戒解雇することを通知した(甲7)。当該解雇通知書の別紙である懲戒解雇理由書には,失言問題,口止め問題,公金の着服横領が指摘され,当該行為は就業規則48条2号,同6号及び同8号に該当することから懲戒解雇処分とする旨記載されている(甲7)。 なお,第1審被告の就業規則(乙12)には,無給休職は2年間まで取得することができるとの定めのほか,以下の定めがあった。 第48条職員が下記の各号の一に該当するときは懲戒に付する。 業務上の指示・命令に従わず秩序をみだしたとき(第2号) 業務に関し金品その他を受け取り又は与えたとき(第6号) その他前各号に準ずる行為のあったとき(第8号)第49条懲戒はこれを譴責・減給及び懲戒解職とする。但し情状酌量の余地があり又は改悛の情明らかな者は懲戒を免じて訓戒に止めることがある。 懲戒解職は予告期間を設けず即時解職する(第3号) 職員は懲戒に対し事前に弁明の機会が与えられる。 横浜北労働基準監督署は,平成25年10月21日,A高校に対し,第1審原告が業務上疾病にかかり療養のために休業していたにもかかわらず解雇したことについて,即時是正勧告をした(乙6)。 9 労災認定業務上認定第1審原告は,平成24年9月,横浜北労働基準監督署に対して,うつ病発症を理由に,労働者災害補償保険の給付を申請した。申請に対して,横浜北労働基準監督署は,平成25年5月16日に平成24年5月16日の分の- 15 - 支給を決定し(甲2),平成25年8月2日に平成23年8月24日から平成25年5月31日までの分の支給を決定した(甲3) 監督署は,平成25年5月16日に平成24年5月16日の分の- 15 - 支給を決定し(甲2),平成25年8月2日に平成23年8月24日から平成25年5月31日までの分の支給を決定した(甲3)。 業務上認定の理由横浜北労働基準監督署が作成した調査復命書(甲10)には,業務上の疾病と認めた理由として,「平成23年6月上旬に事情聴取を契機に徐々に抑うつ状態になり,不眠や死んで楽になりたいと思う症状が現れ,ICD-10による『F32うつ病エピソード』を発病したものと推察される。発病前6か月間における業務による出来事の心理的負荷の強度は『中』と認められるが,『中』の出来事の前後に月100時間を超える恒常的な時間外労働が認められるため,業務による心理的負荷の総合評価は『強』と判断する。以上から,本件は認定基準に定める認定要件を満たすことから,業務上の疾病に該当するものと認められる。なお,発病年月日については,請求人が部活指導禁止処分後に部員在籍クラスの授業停止処分を受けた平成23年6月9日とすることとしたい。」との記載がある。横浜北労働基準監督署の判断の基礎となった神奈川労働局地方労災医員協議会(精神障害等専門部会)の意見書(甲11)には,別紙2のとおりの記載がある。 通達における労働災害の認定基準通達における労働災害の認定基準は,別紙3記載のとおりである。 10 なお,第1審被告は,保護者から徴収した金員の第1審原告による使途の中には,対外試合の期間中に第1審原告が宿泊先の健康ランドに女性を呼び込んだ上での飲食費及び宿泊費が含まれていると主張する。しかしながら,第1審被告が援用する証拠資料(乙42,48,51,59,62,B証言)によっても,女性を呼び込んだ事実を認めるに足りず,他にこの第1審被告主張事実を認めるに足りる証 いると主張する。しかしながら,第1審被告が援用する証拠資料(乙42,48,51,59,62,B証言)によっても,女性を呼び込んだ事実を認めるに足りず,他にこの第1審被告主張事実を認めるに足りる証拠はない。 第3 争点(再抗弁・本件解雇の時期は第1審原告が業務上疾病にかかり療養のために休業する期間中であるかどうか)についての当裁判所の判断- 16 - 1 労働基準法19条1項の「業務上の疾病」の意義労働基準法19条1項において業務上の傷病によって療養している者の解雇を制限している趣旨は,労働者が業務上の疾病によって労務を提供できないときは,自己の責めに帰すべき事由による債務不履行であるとはいえないことから,使用者が打切補償(労働基準法81条)を支払う場合,又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合でない限り,労働者が労働災害補償としての療養(労働基準法75条,76条)のための休業を安心して行えるよう配慮したところにある。 そうすると,解雇制限の対象となる業務上の疾病か否かは,労働災害補償制度における「業務上」の疾病かどうかと判断を同じくすると解される。 そして,労働災害補償制度における「業務上」の疾病とは,業務と相当因果関係のある疾病とされているところ,同制度が使用者の危険責任に基づくものであると理解されることから,当該疾病の発症が当該業務に内在する危険が現実化した場合に相当因果関係があると認めるのが相当である。具体的には,①当該業務による負荷が,平均的な労働者,すなわち,日常業務を支障なく遂行できる労働者にとって,業務によるストレスが客観的に当該疾病を発症させるに足りる程度の負荷であると認められること(危険性の要件),②当該業務による負荷が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力 行できる労働者にとって,業務によるストレスが客観的に当該疾病を発症させるに足りる程度の負荷であると認められること(危険性の要件),②当該業務による負荷が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって,当該疾病を発病させたと認められること(現実化の要件)が必要である。 2 第1審原告のうつ病の発症及び発症時期について本件疾病の発症及び発症時期について前記認定のG医師の診断及び横浜北基準監督署作成の調査復命書の記載内容等を総合すれば,第1審原告の本件疾病は,ICD-10による「F32うつ病エピソード」であり,その発症時期は平成23年6月上旬から同年8月下旬と認めるのが相当である。 第1審被告の主張に対する判断- 17 - ア第1審被告は,G医師は,簡単な問診をしただけで,軽度うつ病で3か月程度の休業を要する旨の診断を行っており,科学的検査を実施しておらず,第1審被告との面談も実施しないなど,精神科医のとるべき対応として不十分であるとして,G医師の診断が信用できない旨を主張する。 しかしながら,G医師は,第1審原告には,日内変動,抑うつ,制止のうつの徴候が深刻であり,激しい不安焦燥,不穏,自殺念慮,自棄的破壊的激情噴出等の精神的症状と,不眠,7㎏の体重減少等の身体的症状があり,これらの具体的症状に基づきうつ病エピソードと診断したと認められ(甲1),その症状の把握や診断手法に不合理な点は認められない。平成24年7月6日に第1審原告を診断したH病院のI医師も,精神運動抑制と認知の歪みが目立つとして,G医師と同様のうつ病診断をしていることが認められる(甲10・12枚目)。 イ第1審被告は,自らの主張に沿う証拠としてJ医師(以下「J医師」という。)作成の意見書(乙43)を提出する。しかしながら, 様のうつ病診断をしていることが認められる(甲10・12枚目)。 イ第1審被告は,自らの主張に沿う証拠としてJ医師(以下「J医師」という。)作成の意見書(乙43)を提出する。しかしながら,J医師は,第1審原告を診察した上で意見を述べているものではない上,うつ病診断における科学的検査(血液検査や画像診断所見等)は研究段階にあり有用性は現在のところ確立されていない旨述べ,また,医師による使用者からの事情聴取は寛解を目指して長期的に診療を続ける場合にストレス要因を明らかにするという意味で大切であるが,患者の主観面を確認し当面の症状を改善させ落ち着かせることと比べれば重要度は落ちるという趣旨を述べているにとどまる。J医師の意見書は,G医師の診断自体の信用性に影響を及ぼす余地はない。したがって,第1審原告がうつ病を発症したとするG医師の診断は,採用できる。 ウ第1審被告は,第1審原告が平成23年8月に休職するまで体調不良を訴えることもなく通常どおり業務をこなしていたこと,休職後もA高校のOB会の宴会に出席して飲酒したり,平成24年6月に5日間の講習を受- 18 - 講して教員免許を更新するなどしたことを指摘する。 しかしながら,平成23年6月初めに水泳部顧問や授業の禁止処分を受ける前後から第1審原告の精神が衰弱して不眠,希死念慮の症状が出ていたことは,前記認定のとおりである。また,うつ病の回復過程にある平成24年6月に教員免許更新のため5日間の講習を受講した(乙46)からといって同年7月のI医師のうつ病との診断(乙22)が否定されるものではない。休職中の宴会出席は,うつ病の回復過程において主治医の助言に従い治療の一環として出席したことが認められる(第1審原告本人)。その他第1審被告が主張する事情を併せ考慮しても,前記の認 ものではない。休職中の宴会出席は,うつ病の回復過程において主治医の助言に従い治療の一環として出席したことが認められる(第1審原告本人)。その他第1審被告が主張する事情を併せ考慮しても,前記の認定(第1審原告が平成23年6月上旬から同年8月下旬までの間にうつ病を発症したこと)を左右するには足りない。 3 うつ病発症の業務起因性(第1審被告による聴取調査等)前記認定事実によれば,第1審原告が失言問題,口止め問題,金銭問題等について合計8回の聴取調査を受けた時期は,平成23年5月から同年7月までの間であり,これはうつ病の発病時期(平成23年6月上旬から同年8月下旬まで)のおおむね6か月前の間の出来事に当たる。 失言は仕事上のミスに当たり,口止めは(生徒に与える影響の面でも,職場の秩序を維持する上でも,不適切な行為であることはもちろんであるが)ミスの発覚を防ぐために思わずやってしまいがちなことであるから,業務による心理的負荷として,「会社の経営に影響を与えるなどの重大な仕事上のミスをした場合」に該当する。そして,失言や口止めに関する調査の段階でB副校長から「進退」という言葉を聞かされた第1審原告は,自らが退職に追い込まれるリスクを感じ,大きな精神的負荷を課された。 また,平成23年6月以降の金銭問題調査については,保護者から徴収する部費等の金銭の取扱いルールが文書化も規範意識化もされておらず,どんぶり勘定的な処理の風土が残されている中で,突然株式会社の会計監査並み- 19 - のルールが適用されたという側面は,否定できない。金銭問題調査開始とほぼ同時に実行された部活動顧問業務及び授業担当の禁止処分は,生徒との触れ合いという教諭の根源的な生きがいを奪うものであった。突然の金銭問題調査開始や部活動禁止処分は,精神衰弱 。金銭問題調査開始とほぼ同時に実行された部活動顧問業務及び授業担当の禁止処分は,生徒との触れ合いという教諭の根源的な生きがいを奪うものであった。突然の金銭問題調査開始や部活動禁止処分は,精神衰弱,不眠,希死念慮等の症状発生の引き金をひいたものと推認される。また,対外試合のための出張禁止の措置は,神奈川県内で築き上げてきた水泳指導者としての地位が風前の灯になるという喪失感を,第1審原告に与えた。そして,D校長やB副校長から「厳しい処分」,「横領」という言葉を聞かされた第1審原告は,自らが退職に追い込まれるリスクを強く感じ,非常に大きな精神的負荷を課された。 以上によれば,前記の聴取調査やこれに付随する部活動禁止等の処分は,業務に内在する危険の現実化といえる。そして,その業務上負った心理的負荷の程度は大きく,平均的な教諭にとっても,軽度のうつ病を発症させるに足りるものであったといえる。 なお,第1審原告が生徒への口止め,保護者会出席,県高体連への金銭返還などの行為をしていたとしても,そのことから第1審原告の心理的負荷が小さいものであったと推認することは,困難であるというほかはない。 4 うつ病発症の業務起因性(第1審原告の労働時間等)横浜北労働基準監督署は,第1審原告の時間外労働時間を,次のとおり認定した。 平成22年12月12日から同23年1月10日まで 91時間45分平成23年1月11日から同年2月9日まで 146時間40分平成23年2月10日から同年3月11日まで 140時間45分平成23年3月12日から同年4月10日まで 102時間50分平成23年4月11日から同年5月10日まで 132時間30分平成23年5月11日から同年6月9日まで 109時間55分 第1審被告は,定期 月10日まで 102時間50分平成23年4月11日から同年5月10日まで 132時間30分平成23年5月11日から同年6月9日まで 109時間55分 第1審被告は,定期試験前及び試験中(最終日を除く。)の部活動禁止期間- 20 - が考慮されていないと主張するが,インターハイ予選が迫った時期などを中心に禁止が励行されない可能性もあり,主張の証明がないというほかはない。 前記時間外労働は,うつ病の発病前(発病時期は平成23年6月から同年8月まで)おおむね6か月の間の業務における出来事に当たる。これによれば,発症前6か月間の時間外労働時間は平均して月間120時間以上(少ないときで月91時間45分,多いときで月146時間40分)である。時間外労働時間は長く,それによる心理的負担は強かった。 第1審原告の時間外労働の大部分は,水泳部の顧問又は県高体連の仕事に従事していた時間である。そして,休日や土曜日の対外試合のある日は,生徒の引率及びレース前後の指導(第1審被告の業務)と競技運営その他の大会役員としての仕事(県高体連の業務)の両方を混然一体として行っていたものと推認される。専ら県高体連の仕事に従事していた時間は,会議への出席のみであって,時間外労働全体からみるとわずかな時間にとどまる。 第1審被告は,教諭に対して部活動業務は顧問手当(年額1万5500円)の範囲でできることをやればよいと伝達し,それ以上に具体的な指示命令を出していないと主張する。建前はそうであったとしても,入学金等免除の特待生を抱える運動部の顧問教諭が,そのような学校の指示を額面どおり受け取るはずがない。運動部の顧問教諭は,対外試合で好成績を残すことを学校から黙示的に努力目標として課されていると強く感じ,そのことを学校側も る運動部の顧問教諭が,そのような学校の指示を額面どおり受け取るはずがない。運動部の顧問教諭は,対外試合で好成績を残すことを学校から黙示的に努力目標として課されていると強く感じ,そのことを学校側も認識していたことは,前記認定事実から容易に推認できる。したがって,朝と放課後の練習の指導や,休日の対外試合への生徒引率及びレース前後の指導業務については,心理的負担が強かったといえる。 県高体連は,第1審被告とは別の団体であり,第1審被告から第1審原告に県高体連の業務遂行を命じることはなく,また,第1審被告は教諭の県高体連役員就任を基本的には認めない方針であった。しかしながら,県高体連が主催する対外試合の競技運営は県内各高等学校の部活動顧問教諭のボラン- 21 - ティア的な活動にほぼ全面的に依存し,県高体連の各競技専門部の役員の供給源はこれら顧問教諭にほぼ限られ,競技指導及び競技運営に熱心で役員就任適齢期のベテランであった第1審原告の県高体連水泳専門部役員就任は第1審被告もやむを得ないものとして承認していた。また,県高体連が機能しなければ,対外試合が開催できず,A高校の生徒が対外試合で好成績を残す機会が奪われる。そうすると,県高体連の仕事(対外試合の競技運営及び会議出席)は,業務起因性の判断上は,第1審被告における本来の業務に準じるものとして扱うのが常識的である。 以上によれば,横浜北労働基準監督署が認定した第1審原告の時間外労働は,第1審原告と同様に高等学校の教諭の地位にある者にとっても,相当の心理的負荷となるものと認められる。 5 うつ病発症の業務起因性(第1審原告の心理的負荷となる他の要因) 第1審被告は,第1審原告の心理的負荷となる他の要因として,①書籍文具店から金額欄白紙の領収証を受領していたこと, れる。 5 うつ病発症の業務起因性(第1審原告の心理的負荷となる他の要因) 第1審被告は,第1審原告の心理的負荷となる他の要因として,①書籍文具店から金額欄白紙の領収証を受領していたこと,②スポーツ用品店への代金支払を遅滞していたこと,③慢性的借金状態にあることを主張する。 しかしながら,①及び②については,第1審原告と各商店との間でトラブルが生じていた事実を認めるに足りる証拠がない。また,③については,個人再生手続により第1審原告の履行遅滞状態は解消されたものと認められ(甲14),他に第1審原告が借金の返済に窮していた事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,これらの事情が第1審原告にとって特段の心理的負荷となっていたものとは認められない。 他に,既往症,遺伝的要因その他第1審原告のうつ病発症の有力原因となり得るような事実関係を認めるに足りる証拠はない。 6 総合評価以上によれば,第2の9記載の横浜北労働基準監督署による第1審原告のうつ病についての業務上認定は,妥当なものというべきである。 - 22 - D校長及びB副校長らによる進退や重大な処分という発言を伴う聴取調査は,「会社の経営に影響を与えるなどの重大な仕事上のミスをした場合」に該当し,これにより第1審原告に課された心理的負荷は大きく,平均的な教諭であってもうつ病を発症させる程度のものであった。そして,発症前6か月間の第1審原告の月平均100時間を超える時間外労働は,第1審原告に非常に大きな心理的負荷を課するものであり,前記聴取調査による心理的負荷を増大させた。 そして,うつ病発症の有力原因となり得るような他の原因が認められない本件においては,D校長らによる聴取調査及び第1審原告の時間外労働とうつ病発症との間に相当因果関係がある。 うつ病は第1 させた。 そして,うつ病発症の有力原因となり得るような他の原因が認められない本件においては,D校長らによる聴取調査及び第1審原告の時間外労働とうつ病発症との間に相当因果関係がある。 うつ病は第1審被告における業務に起因して発症したものであり,第1審原告は,本件解雇当時,うつ病により休職中であった。そうすると,本件解雇は労働基準法19条に反し無効である。したがって,第1審原告は,第1審被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にある。 第4 結論よって,第1審原告の請求を棄却した原判決の結論は不当であるから,これを取り消して第1審原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第11民事部 裁判長裁判官野山宏 裁判官大塚博喜 - 23 - 裁判官布施雄士は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官野山宏- 24 - 別紙1ないし4は省略
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