平成18(わ)1716 覚せい剤取締法違反

裁判年月日・裁判所
平成19年5月9日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,210 文字)

主文 被告人を懲役2年2月に処する。 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,法定の除外事由がないのに,平成18年10月中旬ころから同月22日までの間,東京都内,兵庫県内又はその周辺において,フェニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって,覚せい剤を使用した。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足) 被告人は,捜査・公判を通じて,本件覚せい剤使用の事実を否認し,弁護人も同様に述べて被告人の無罪を主張するので,以下,当裁判所が判示のとおり被告人による覚せい剤使用の事実を認定した理由を補足して説明する。 証拠(甲1ないし8)によれば,被告人が平成18年10月22日午前10時48分ころ兵庫県A警察署において排出した尿から,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンが検出されたことが認められるところ,覚せい剤が人体内で合成されることがないことからすれば,この排尿時以前に覚せい剤が何らかの経緯により被告人の体内に取り入れられたことになる。また,その時期は,一般に人体内に取り込まれた覚せい剤は遅くとも10日前後で尿などとして体外に排出されることからすると,平成18年10月中旬ころから同月22日までの間と認められ,さらに,その場所は,証拠(乙12)により認められる当時の被告人の生活状況からすると,東京都内,兵庫県内又はその周辺と認められる。 次に,覚せい剤が被告人の体内に取り込まれた経緯について検討すると,覚せい剤の使用,所持等が重い罰則によって厳しく規制されていることからすれば,覚せい剤が無造作に放置され,飲食物等に混入する可能性は極めて低く,被告人 が自ら覚せい剤を誤飲するなど誤って体内に取り込むことはほとんどあり得ないし,また,他人が故意に被告人の意思に反して ば,覚せい剤が無造作に放置され,飲食物等に混入する可能性は極めて低く,被告人 が自ら覚せい剤を誤飲するなど誤って体内に取り込むことはほとんどあり得ないし,また,他人が故意に被告人の意思に反して覚せい剤をその体内に入れることも,その他人において所持や使用という自己の違法行為が発覚する危険を顧みずに被告人をして危険な急性中毒症状に陥れたり,覚せい剤使用という犯罪の嫌疑を受けさせることを意図するだけの特別な動機・原因がなければあり得ないといえる。 このように被告人自身が誤って体内に取り込んだにせよ,他人から故意に体内に入れられたにせよ,そこには覚せい剤の管理状態や人的関係において極めて特殊な事情があることになるから,被告人の供述やその他の証拠において,そのような事情の少なくとも一部が相当程度の確からしさをもってうかがえるはずである。 したがって,被告人の供述やその他の証拠において,そのような事情が何らうかがえないとか,一見そのような事情がうかがえたとしても,それによって被告人の意思に基づかずに覚せい剤がその体内に取り込まれたと見るには不自然又は不合理な点がある場合,さらには,尿からの覚せい剤の検出以外にも被告人による覚せい剤使用の事実を疑わせる事実が認められるため被告人の供述全体の信用性に疑問を抱かざるを得ない場合には,被告人の意思により覚せい剤がその体内に取り込まれたことすなわち本件覚せい剤使用の事実について証明があるというべきである。 そこで,上記の観点から被告人の供述及びその他の証拠関係を見るに,被告人は,上記のとおり尿を排出した平成18年10月22日までの身辺状況について,捜査・公判を通じ,概要以下のとおり供述する。 「前日の21日は不動産業の仕事のために土地を見に行ったり,喫茶店や銭湯に行くなどして過ごし,日付が変わる前に 18年10月22日までの身辺状況について,捜査・公判を通じ,概要以下のとおり供述する。 「前日の21日は不動産業の仕事のために土地を見に行ったり,喫茶店や銭湯に行くなどして過ごし,日付が変わる前に行きつけの焼鳥屋に行き,午前2時ころまでそこで飲食した後,当時寝泊まりしていたマンションに向かって歩いていたところ,路上に立っていた外国人女性から声を掛けられて近くのラブホ テルに行った。その途中,のどが渇いたのでその外国人女性が手に持っていたペットボトルに入っていた飲料水を飲んだ。ラブホテルに入り,ベッドで横になっているうちに眠ってしまい,午前6時半ころ目が覚めると,その外国人女性がいなかったので,マンションに帰るためにラブホテルを出た。マンションに帰ると,パジャマに着替え,睡眠薬を飲んで眠ったが,その後は,警察署で迎えに来た友人の姿を見るまで記憶がない。自分の尿から覚せい剤が検出されたとすれば,その外国人女性が持っていたペットボトルの飲料水に入っていたとしか考えられない。」このように被告人の供述によっても,平成18年10月22日午前2時ころに外国人女性が持っていたペットボトルの飲料水を飲むまでは,被告人の身辺状況に特段異変はなく,また,それ以後も,覚せい剤が被告人の意思に基づかずにその体内に入る原因となり得る事情はうかがわれないことからすれば,その原因としては,外国人女性が持っていたペットボトルの飲料水を飲んだという点だけが問題となる。 しかしながら,外国人女性が持っていたペットボトルの飲料水に覚せい剤が入っていたとするには,以下のとおり疑問が多い。 まず,売春勧誘目的で路上に立っていた外国人女性が手に覚せい剤入りの飲料水を持っており,声を掛けた被告人に求められるままにこれを飲ませたというのは,前記のとおり所持等が重い刑罰をもって厳し が多い。 まず,売春勧誘目的で路上に立っていた外国人女性が手に覚せい剤入りの飲料水を持っており,声を掛けた被告人に求められるままにこれを飲ませたというのは,前記のとおり所持等が重い刑罰をもって厳しく規制されている覚せい剤が入ったものを,違法行為の発覚をおそれることなく,そのように無防備な状態で持ち,見ず知らずの被告人に提供したという点において不自然であり,そのような行為に及んだ合理的な理由を見出すことも困難である。この点について,被告人は,ラブホテルで眠っている間にその外国人女性から財布の中の現金を盗まれたと述べるが,盗みが目的であれば,その薬理作用を考えると,睡眠薬を飲ませるのなら格別,あえて覚せい剤入りの飲料水を飲ませるのは不合理である。 また,覚せい剤の薬理作用との関係ではこれに加え,上記飲料水を飲んだ直後 にラブホテルで眠ってしまったということ自体不自然であるし,さらに,同日午前6時半ころには自力でラブホテルを出てマンションに帰ったと供述しているが,被告人は,同日午前9時ころ,そのマンションのベランダにおいて,パジャマ姿で「うわおー,うおー」などと大声をあげながら意味不明な言葉を発するなど,覚せい剤の急性中毒症状と見られる異常な行動をしていたこと(甲7)からすれば,同日午前2時ころに飲んだ覚せい剤の薬理作用がその約4時間半後の時点ではまだ出現していないのに,さらにその約2時間半後に出現していることになり,覚せい剤が経口摂取時においても短時間のうちに血中に入って中枢神経に作用することを考えると,上記のような薬理作用の出現の仕方は不合理というほかない。 他方,被告人の供述する上記経過の中で,むしろ注射によって被告人の体内に覚せい剤が入れられた可能性を示す事実として,当時被告人が着ていたとされるパジャマの右袖の中央付近に複数の暗 いうほかない。 他方,被告人の供述する上記経過の中で,むしろ注射によって被告人の体内に覚せい剤が入れられた可能性を示す事実として,当時被告人が着ていたとされるパジャマの右袖の中央付近に複数の暗赤褐色の汚斑があり,そのうちの比較的鮮明な2箇所について実施された鑑定により,その汚斑から被告人と血液型及びDNA型が一致する人血とともに覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンが検出された事実(甲6,13ないし24,33,被告人の公判供述)がある。 これに対し,被告人は,上記パジャマの汚斑について,平成18年10月22日午前6時半ころにラブホテルからマンションに帰った際,クリーニングから戻ってきたパジャマを着たが,安全ピンで留められたクリーニングの紙を外した時に安全ピンの針で指先を刺してしまい,止血のためにその指先をパジャマの右肘部分に押し付けたため,そこに自分の血が付着した旨供述する。 しかしながら,針で刺した指先を血液がパジャマに染み付くのもかまわずその右肘部分に押し付けたというのはいかにも不自然であるし,上記パジャマの右袖には,鑑定の対象とされたもの以外にも血液様のものが付着した部分があるが,その付着状況からすると明らかに袖の内側から付着したものと認められ,被告人の上記供述ではその説明が付かない。 また,上記パジャマに付着した血液量が極めて少量であるにもかかわらず,覚 せい剤が検出されていることから,当該血液及び覚せい剤は,被告人の腕に注射器等を用いて覚せい剤を注射した際にその部位から漏れ出た可能性が高いとの専門家の見方もある(甲27)。 さらに,上記出血が被告人の供述するとおり安全ピンの針で指先を刺した時のものであるとすれば,それ以前に覚せい剤が被告人の体内を循環していたことになるが,それにもかかわらず,上記のとおり,安全ピンの針で らに,上記出血が被告人の供述するとおり安全ピンの針で指先を刺した時のものであるとすれば,それ以前に覚せい剤が被告人の体内を循環していたことになるが,それにもかかわらず,上記のとおり,安全ピンの針で指先を刺したとする22日午前6時半ころの時点ではまだ覚せい剤の薬理作用が出現していないのは不合理である。 加えて,被告人が当時寝泊まりしていた神戸市内のマンションの近くに被告人の名前で現に利用されているクリーニング店があって,同店の回答によれば,パジャマのクリーニングの依頼があっても仕上がり後の引渡時には安全ピンを外しているし,平成17年,18年には被告人名でパジャマのクリーニング依頼はないとのことである(甲32)。 以上によれば,上記パジャマの汚斑に関する被告人の供述は,不自然・不合理な点があまりに多く,敢えて虚偽を述べるものと見ざるを得ないところ,注射によって被告人の体内に覚せい剤が入れられたとすれば,注射時の刺激や覚せい剤の即効的な薬理作用から,被告人において終始それに気が付かなかったとは到底考えられないから,上記供述によってその事実を積極的に隠蔽しようとしていることになり,被告人がその意思に基づいて覚せい剤を注射した事実を疑わざるを得ない。 (なお,甲9号証及び25号証によれば,平成18年12月11日及び同月16日の各時点で被告人の両腕に注射痕があることが確認されているが,被告人が以前から医療機関において1か月に数回の割合で腕に点滴を受けていることを示す証拠として弁5号証及び6号証もあることからすれば,上記注射痕から被告人の覚せい剤使用の事実を推認することは困難である。) 以上のとおり,被告人の尿から覚せい剤が検出されているのに加え,被告人の 供述によっても,被告人の意思に基づかずに覚せい剤がその体内に入った経緯に関する事情とし を推認することは困難である。) 以上のとおり,被告人の尿から覚せい剤が検出されているのに加え,被告人の 供述によっても,被告人の意思に基づかずに覚せい剤がその体内に入った経緯に関する事情としてうかがわれるのは,平成18年10月22日午前2時ころ,神戸市内の路上で声を掛けてきた外国人女性からもらったペットボトル入りの飲料水を飲んだということだけである上,この点についても,それによって被告人の意思に基づかずにその体内に覚せい剤が取り込まれたと見るには不自然又は不合理な点が多く,他に上記事情をうかがわせる証拠がないのみならず,むしろ,尿からの覚せい剤の検出以外にも被告人がその意思に基づいて覚せい剤を使用したことを疑わせる事情があることからすれば,被告人による覚せい剤の使用の事実は十分証明されているというべきである。 なお,証人Bは,被告人の生活状況から覚せい剤を使用している事実はうかがえなかったと証言するが,同証人も被告人の生活状況のすべてを把握していたわけではないことからすると,同証言は上記認定を何ら左右するものではない。 (累犯前科)省略(法令の適用)省略(検察官求刑懲役3年)平成19年5月9日神戸地方裁判所第4刑事部裁判官佐茂剛

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