主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実本件公訴事実は,「被告人は,山口県宇部市fg番地のhに本店を置き,不動産の取引,斡旋等を営む有限会社Aの取締役として勤務し,同社の業務全般を掌理するものであるが,平成13年3月27日,上記有限会社A本店事務所内において,Bから中古アパートの購入資金として現金2000万円を預かり,これを同女のために,同市ij丁目k番l号所在の株式会社C銀行D支店貸金庫内に業務上預かり保管中,そのころから同14年3月7日ころまでの間にわたり,上記C銀行D支店等において,自己の用途に費消する目的でほしいままにこれを着服して横領したものである。」というのである。 第2 争点本件公訴事実のうち,被告人が,①上記有限会社Aの取締役として勤務し,同社の業務全般を掌理していたこと,②平成13年3月27日,Aの本店事務所内において,現金2000万円を受け取ったこと,③その後,上記現金を費消したこと,以上の事実は,関係証拠から明らかである。 本件における主たる争点は,上記現金は,被告人がBから中古アパートの購入資金として預かったものか否かである。 第3 当裁判所の判断以下において個別の証拠を摘示するときは,検察官請求の甲号証及び乙号証は「甲1」,「乙1」などと記載し,弁護人請求の証拠は「弁1」などと記載する。 1 まず,前提となる事実として,被告人とBとの関係,Aの営業状況などをみると,関係証拠によれば,①被告人は,平成7年ころ,Eと知り合い,平成8年ころから,宇部市内にあるEの自宅で同女と同棲していたこと,②Bは,Eの姉であり,Eの紹介によって被告人と知り合ったこと,③ ると,関係証拠によれば,①被告人は,平成7年ころ,Eと知り合い,平成8年ころから,宇部市内にあるEの自宅で同女と同棲していたこと,②Bは,Eの姉であり,Eの紹介によって被告人と知り合ったこと,③被告人は,平成12年5月,有限会社Fの取締役に就任して,その経営を引き継ぎ,同年6月には,商号を有限会社Aに変更して,不動産取引業等を行っていたこと,④平成13年3月当時,Aの従業員は,GとHであり,Eも,Aの事務所に頻繁に出入りしていたことが認められる。 2 本件争点に関する主要な直接証拠としては,B及びEの各証言並びに「預り金」と題する書面(甲35)がある。 以下において,上記各証拠の信用性・証明力について検討する。 B及びEの各証言の概要証人B及び同Eは,上記争点に関し,次の要旨の供述をする。すなわち,Eは,平成8年,Bから,数回に分けて現金合計1850万円を借り受け,その担保の趣旨で,E所有の建物をBに売却する旨の不動産売買契約書を作成した。Eは,宇部市mにマンション(以下「Iマンション」という。)を所有していたところ,平成13年3月16日,これを第三者に代金9200万円で売却することができたので,その売却代金の中から,2000万円を上記借入金の返済としてBに支払うこととした。借入金1850万円との差額である150万円は,利息やお礼の趣旨を含んでいる。Eは,Bに電話をかけて,上記返済の件を話したところ,Bは,アパートの購入費用として被告人に預けたい旨述べた。そこで,EとBは,同月27日にAの事務所に行って被告人に2000万円を預けることとした。Eは,同日,金融機関から現金2000万円をおろした上,これを紙袋に入れてAの事務所に持って行き,事務所にいた被告人に対し,「これはBのお金やから,後で姉ちゃ 被告人に2000万円を預けることとした。Eは,同日,金融機関から現金2000万円をおろした上,これを紙袋に入れてAの事務所に持って行き,事務所にいた被告人に対し,「これはBのお金やから,後で姉ちゃんが来るけど,とりあえず2000万入ってる」などと伝えて渡した。間もなく,Bも上記事務所に到着して,被告人に対し,この2000万円でアパートを購入してほしい旨依頼した。被告人は,その際,同所で,「預り金」と題する書面を作成した。以上のとおりである。 B及びEの各証言の信用性についてア Eが平成8年にBから現金合計1850万円を借り受けたとの証言の信用性① Bは,上記貸付は数回にわたって行ったと証言し,個々の貸付時期,金額,その原資等についても証言する。 すなわち,弁護人がB及びEの各証言に対する弾劾証拠として提出したBの検察官に対する供述調書の写し(弁9)によれば,Bは,平成14年10月16日,検察官に対し,Eに対する上記貸付に関して,(a)平成8年3月11日,郵便局で簡易保険を担保として327万円を借り受け,これに手持ちの現金3万円を加えた330万円をそのころ融通し,(b)同月22日,Jの株式500株を売却して,売却代金750万円余りを入手し,そのうちの750万円を同月25日ころ融通し,(c)同年5月2日に姉であるKから返してもらった現金200万円のうちの70万円とLの株式を売却した代金のうちの150万円を合わせた現金220万円を同月10日ころ融通し,(d)同年9月24日,M銀行で預金290万円を引き出し,そのころ同金額を融通し,(e)同年12月10日,N銀行で預金260万円を引き出し,そのころ同金額を融通したと供述し,同調書末尾には上記供述の裏付けとして簡易保険証書,株式取引 0万円を引き出し,そのころ同金額を融通し,(e)同年12月10日,N銀行で預金260万円を引き出し,そのころ同金額を融通したと供述し,同調書末尾には上記供述の裏付けとして簡易保険証書,株式取引証明書,預金受払額明細表等が添付されている。そして,Bは,本件第4回公判において,検察官からの質問に対しては,上記(a)の貸付について,同年3月11日,合計347万円を借りて,そのうちの327万円に手持ちの現金3万円を加えた330万円をEに貸したと証言(証人調書71項等)し,上記(b)の貸付について,Jの株式の売却代金は,一部を他の株式の購入資金に当てており,現金として入手した約568万円をEに融通したと証言(証人調書75項等,320項以下)し,上記(c)の貸付について,Lの株式の売却代金約160万円,Kから返してもらった現金200万円のうちの90万円及び既に工面していた現金150万円の合計400万円を同年5月10日ころ融通(証人調書84項以下)し,上記(d)及び(e)の各貸付については,上記平成14年10月16日付け供述調書のとおり証言し,さらに,残りの120万円については,魚市場からもらった現金を渡した(証人調書103項)と証言する。 しかし,関係証拠によれば,上記(e)の貸付について,Bが平成8年12月10日にN銀行で引き出した普通預金260万円のうち200万円は定期預金にされていることが認められ,260万円をEに融通したとの証言は不自然であるが,Bは,この点について合理的な説明をすることができず(第4回公判証人調書333項等,第13回公判証人調書66項以下),上記(c)の貸付に関し,Kに対する貸付金の原資について裏付けのある説明をすることができず(第4回公判証人調書345項以下,第13回公判証人調書3項以下),Lの 等,第13回公判証人調書66項以下),上記(c)の貸付に関し,Kに対する貸付金の原資について裏付けのある説明をすることができず(第4回公判証人調書345項以下,第13回公判証人調書3項以下),Lの株式の売却代金を融通したとの点については記憶が明確でないと証言(第13回公判証人調書214項以下)し,上記(d)の貸付についても,明確な証言をすることができない(第13回公判証人調書222項等)。 上記のとおり,個々の貸付に関するBの証言は,変遷するとともにあいまいであり,客観的事実と矛盾する部分もある。さらに,Bは,本件第13回公判においては,平成8年当時,遊漁船や漁業協同組合からの売上金を数百万円自宅に現金で保管しており,この現金をEに融通したこともある旨証言(証人調書232項等)するとともに,遊漁船などからの現金収入については,税金の関係があるからこれまで黙っていたと証言(証人調書187項等)するに至った。しかし,Bは,本件公訴事実において被害者とされ,その供述や証言が被告人の有罪・無罪を左右する重要なものであることが明らかである上,BからEへの貸付の有無が本件における重要な争点とされていることも承知していたのであるから,その貸付の原資について税金の関係があるので黙っていたなどということは,にわかに信用することができない。また,仮に上記の理由により黙っていたのであれば,それは,Bが,自らの利害によっては,宣誓して証人として供述する場合であっても,真実を述べないことがあることを意味するものである。したがって,Eに1850万円を貸したとの上記証言は,その信用性に軽視できない疑問がある。 ② B及びEは,現金1850万円の貸借を行ったので,その担保の趣旨で,E所有の建物をBに売却する旨の不動産売買契約書 円を貸したとの上記証言は,その信用性に軽視できない疑問がある。 ② B及びEは,現金1850万円の貸借を行ったので,その担保の趣旨で,E所有の建物をBに売却する旨の不動産売買契約書を作成した旨各証言するので,この点について検討する。 不動産売買契約書の写し(弁8)その他の関係証拠によれば,上記各証言にいう契約書は,「不動産売買契約書」との表題が付された平成8年6月20日付け書面であり,宇部市nに所在する宅地及び居宅をEがBに売り渡す旨の記載がなされているが,売買代金の記載はなく,上記金銭貸借の担保の趣旨で契約したことをうかがわせる記載もない。また,関係証拠によれば,上記不動産について,EからBへの売買に基づく所有権移転登記はなされていないことが認められる。そうすると,B及びEの各証言のほかには,上記契約書の作成時期及び作成の趣旨を裏付ける証拠はなく,上記契約書の存在及び記載内容がB及びEの上記各証言の証明力を高めるものとはいい難い。 ③ したがって,Eが平成8年にBから現金合計1850万円を借り受けたとの上記各証言は,にわかに信用することができない。 イ平成13年3月27日,Aの事務所において,Eが「これはBのお金やから,後で姉ちゃんが来るけど,とりあえず2000万入ってる」などと伝えて被告人に現金2000万円を渡し,間もなく到着したBがこの2000万円でアパートを購入してほしい旨被告人に依頼したとの証言の信用性① 関係証拠によれば,Eは,平成13年3月16日,所有していたIマンションを代金9200万円で売却し,同月27日,売買代金のうち現金2000万円を紙袋に入れてAの事務所に持参し,これを被告人に渡したことが認められる。 ② 上記現金 有していたIマンションを代金9200万円で売却し,同月27日,売買代金のうち現金2000万円を紙袋に入れてAの事務所に持参し,これを被告人に渡したことが認められる。 ② 上記現金授受等の具体的状況に関するE及びBの各証言は,次のようなものである。 Eは,次のように証言する(第5回公判証人調書132項以下,第14回公判証人調書112項等)。現金を持ってAの事務所に行ったとき,事務所内には被告人とOという男性がいた。Oは,少しして出て行った。事務員のHは,いなかった。Gは後から来たかもしれないが,やはりいなかったと思う。Eは,袋に入ったままの現金を被告人の前の机の上に置き,被告人に対し,「これはBのお金やから,後で姉ちゃんが来るけど,とりあえず2000万入ってる」とはっきり言った。Bは,後から事務所に来て,被告人に対し,「もう漁師をやめにゃいけんから,とにかく中古のアパートでええから買ってくれ」と言った。被告人は,Bに対し,「Pはええから。家賃も,あそこだったら3万5000は最低取れる。」などと話した。EがAの事務所に大金を持って行って被告人に渡したことは,平成13年3月27日以外にはない。以上のとおりである。 Bは,次のように証言する(第4回公判証人調書135項以下,588項等)。Aの事務所に行ったとき,事務所内にはEと被告人だけがいた。被告人は,事務所の奥の机の前に座っていた。机の上に紙袋があった。袋の中は確かめなかったが,現金2000万円が入っていると思った。アパートを買いたかったので,被告人に預けることとした。そのとき,Bは,被告人に対し,この2000万円でアパートを探して欲しい旨頼み,「早く安いアパートが欲しいね。Pが出るといいね。」と話した。被告人は,Bに対し,「早 ので,被告人に預けることとした。そのとき,Bは,被告人に対し,この2000万円でアパートを探して欲しい旨頼み,「早く安いアパートが欲しいね。Pが出るといいね。」と話した。被告人は,Bに対し,「早う見つけようね。」と言った。以上のとおりである。 ③ 上記のとおり,被告人に現金2000万円を渡した動機について,EとBは,Bがアパートを購入するためである旨一致して供述する。そして,関係証拠(弁33,弁36の1・2,第8回公判被告人質問調書169項以下及び201項以下など)によれば,上記供述に登場する「P」は,平成13年3月当時,既に倒産していた園芸業者であり,その敷地内に中古アパートがあったことが認められる。 しかし,Bは,本件第4回公判において,被告人に2000万円を預けた際,購入するアパートの価格は決めておらず,所在場所に関する希望等も伝えていなかった旨証言(B証人調書546項以下)するのであり,購入物件等の具体的内容が決まっておらず,購入資金を預ける必要性が何ら存しない状況において,2000万円もの大金をアパートの購入資金として被告人に預けることは不自然との感を拭えない。 ④ 次に,Aに事務員として勤務していた証人G及び同Hの各供述について検討する。 証人Gは,次のように供述する。すなわち,平成13年3月末ころ,Aの事務所にHと二人でいたところ,Eが手に袋を持って来た。雑談のような感じで,Eから「2000万円ある」,「姉に上げようと思ったけど,いらないと言われた」といった趣旨の話を聞いた。その後,被告人が事務所にやって来た。Eと被告人がどのような会話をしたかは覚えていない。その後,Eが事務所から出て行き,被告人が袋を持って出て行った。Eが事務所に来てから出て行 った趣旨の話を聞いた。その後,被告人が事務所にやって来た。Eと被告人がどのような会話をしたかは覚えていない。その後,Eが事務所から出て行き,被告人が袋を持って出て行った。Eが事務所に来てから出て行くまでの間に,被告人のほかにはだれも事務所に来なかったと思う。同月は仕事が忙しく,Aの事務所には,必ず自分かHのどちらかがいた。以上のとおりである。 次に,証人Hは,次のように供述する。すなわち,平成13年3月当時,平日には,Aの事務所に毎日出勤していた。同月下旬,Aの事務所にGと二人でいたところ,Eがやって来て,その後しばらくして被告人が来た。そのとき,机の上に紙袋があり,Eは,被告人との会話の中で,お金を姉が受け取ってくれなかったというようなことを言っていた。紙袋の中には大金が入っていると思った。Eが事務所から出て行った後,被告人が紙袋をわきに抱えて事務所から出て行った。 その間に,他の者はだれも事務所に来なかった。以上のとおりである。 ⑤ 上記GとHの各証言は,上記①のEが現金2000万円をAの事務所に持参した際の状況を述べるものである。そして,Eが紙袋を持って事務所にやって来てから,被告人が紙袋を持って事務所を出て行くまでの間に,他のだれも事務所に来なかったというのであり,この点において,事務所内にEと被告人がいるところにBが来たとのB及びEの各証言と大きく食い違う。そこで,この点に関する上記4名の各証言の信用性について検討する。 検察官は,(a)G及びHは,被告人に雇用されていた人物であり,Gは,Aの営業を受け継いでいる上,被告人は,Q及びRに偽証の働きかけをしており,G及びHは,被告人の弁解に沿う証言をしている疑いが極めて強く,(b)G及びHの証言内容は,2000万円の受渡時刻 ,Gは,Aの営業を受け継いでいる上,被告人は,Q及びRに偽証の働きかけをしており,G及びHは,被告人の弁解に沿う証言をしている疑いが極めて強く,(b)G及びHの証言内容は,2000万円の受渡時刻やEが「姉がこの金を受け取ってくれない」という話をした場面など基本的事実関係にそごがあり,同一場面を目撃した者達の証言内容とは思えず,(c)Eが「姉がこの金を受け取ってくれない」という話をしたという点については,被告人は,聞いた覚えがないと供述しており,(d)Gは,捜査段階において事情聴取を受けた際には,2000万円の授受の機会に居合わせたことに全く触れていなかったのであり,G及びHの各証言の信用性は低い旨主張する。しかし,上記(a)については,G及びHは,被告人が経営するAに雇用されていた人物であり,関係証拠によれば,Gは,被告人が本件により逮捕された後,Aの営業を受け継いで行っていることが認められるが,G及びHが偽証罪により処罰される危険を冒してまで,被告人のため虚偽の証言をするような関係にあったとは認められない。また,上記両名が当公判廷で証言をした平成15年5月当時,被告人は,勾留されていたのであり,被告人が上記両名に対し,証言等に関して,直接又は間接に何らかの働きかけを行ったことをうかがわせる証拠はない。また,証人Qの供述によれば,被告人は,保釈によって同年6月6日に釈放された後,Qの内縁の夫であるRに電話をかけたことなどが認められるが,上記供述によっても,被告人がQ又はRに対し,具体的な偽証の働きかけをしたとは認め難い。したがって,G及びHが,真実に反して,被告人の弁解に沿う証言をしている疑いが強いとはいえない。上記(b)については,確かにG及びHの証言内容は,Eが「姉がこの金を受け取ってくれない」という趣旨の話をした場面につき Hが,真実に反して,被告人の弁解に沿う証言をしている疑いが強いとはいえない。上記(b)については,確かにG及びHの証言内容は,Eが「姉がこの金を受け取ってくれない」という趣旨の話をした場面につき食い違いがあり,Eが事務所に来た時刻についても,Gは午前中だと思う旨証言するのに対し,Hは午後だと思う旨証言する。しかし,両名の各証言は,Aの事務所に二人でいたところ,Eがやって来て,その後しばらくして被告人が来たこと,Eは,大金が入っていると思われる紙袋を持って来たこと,事務所からは,まず,Eが出て行き,その後,被告人が紙袋を持って出て行ったこと,その間に,他の者はだれも事務所に来なかったこと,Eが「お金を姉が受け取ってくれなかった」というようなことを話すのを聞いたことなどの基本的事実関係にそごはない。両名の証言が2年以上前の出来事を内容とするものであることに照らすと,上記のような食い違いがあることをもって,その証言の信用性に疑問があるとはなし難い。上記(c)については,被告人は,Eから「姉がこの金を受け取ってくれない」という話を聞いたことはない旨供述している。確かに,この点は不自然というべきであるが,被告人の供述には,この点のほかにも不自然な部分があり,被告人の供述と食い違うことをもって,GとHの各証言の信用性を直ちに否定するのは相当でない。上記(d)については,Gの警察官に対する平成14年8月8日付け供述調書(甲73)によれば,Gは,同日,警察官に対し,2000万円の授受の機会に居合わせた旨供述しなかったことが認められるが,同日行われたGに対する事情聴取の具体的状況は明らかでなく,上記供述調書の記載内容がGとHの各証言の信用性を否定するものとはいえない。 ところで,上記のとおり,B及びEの各証言は,本件公訴事実に対 する事情聴取の具体的状況は明らかでなく,上記供述調書の記載内容がGとHの各証言の信用性を否定するものとはいえない。 ところで,上記のとおり,B及びEの各証言は,本件公訴事実に対する重要な直接証拠であり,本件公訴事実が証明されるためには,上記各証言に十分な証明力が認められることが必要であって,G及びHの各証言の信用性は,これがB及びEの各証言の証明力を減殺するものか否かという観点から検討されなければならない。そして,G及びHの各証言は,上記のとおり,互いに食い違う部分や被告人の供述と食い違う部分があり,さらに,Gは,平成14年8月8日,警察官に対し,2000万円の授受の機会に居合わせた旨供述しなかったという事実も認められるから,その信用性に何らの疑問もないとはいい難い。しかし,上記両名は,本件公訴事実に関しては第三者としての立場にある上,上記各証言は,基本的部分において互いに一致し,偽証等の働きかけを受けたことをうかがわせる証拠もないから,「Eが事務所に来た後,被告人が事務所を出て行くまでの間に,他の者はだれも事務所に来なかった」との証言について,その信用性をすべて否定することはできない。そうすると,「事務所内にEと被告人がいるところにBが来た」とのB及びEの各証言は,上記G及びHの各証言に照らして,その証明力に看過できない疑問があるといわざるを得ない。 「預り金」と題する書面(甲35)の記載内容について上記書面(以下「本件預かり証」という。)は,作成日付が「13年3月27日」とされ,また,不動文字で「領収証」と記載された部分が線を引いて抹消された上,「預り金」と訂正されている。宛名欄には「B」,金額欄には「20,000,000円」と各記載され,被告人名義の署名と押印がなされている。 で「領収証」と記載された部分が線を引いて抹消された上,「預り金」と訂正されている。宛名欄には「B」,金額欄には「20,000,000円」と各記載され,被告人名義の署名と押印がなされている。 本件預かり証の証明力についてア本件預かり証は,その記載内容からすると,被告人がBから2000万円を預かったことを証するため平成13年3月27日に作成されたというものであり,本件における重要な直接証拠ということができる。そして,被告人は,本件預かり証に署名・押印したことを認めている。 イところで,本件預かり証を作成した時期と場所について,証人B及び同Eは,被告人に対し現金2000万円を渡した際,被告人がAの事務所で作成したものであると供述し,一方,被告人は,現金2000万円を受け取ってから1週間くらい後にEの自宅で作成したと供述する。 そこで,上記作成時期等について検討すると,関係証拠によれば,本件預かり証は,領収証用紙の表題を訂正したものであるところ,Aの事務所で日常的に使用する領収証用紙を使用したものではなく,Eが用意したものであること,Aの事務所には,顧客らとの間で現金の授受がなされた際に交付する書面として,領収証のほかに「預り証」と題する書面(弁37)が置かれていたことが認められる。上記事実によれば,被告人がAの事務所で本件預かり証を作成したのであれば,なぜ同事務所に備え置かれた用紙を使わなかったのか,同事務所には顧客らから現金を預かった際に使用する「預り証」と題する書面が置かれていたのに,なぜわざわざ領収証用紙の表題を訂正して使用したのかとの疑問が生ずる。特に,B及びEが証言するように,アパートの購入資金として現金を預けたのであれば,不動産取引業等を行うAの本来の業務に関してその事務所 ざわざ領収証用紙の表題を訂正して使用したのかとの疑問が生ずる。特に,B及びEが証言するように,アパートの購入資金として現金を預けたのであれば,不動産取引業等を行うAの本来の業務に関してその事務所で行われた現金授受であるから,業務上使用する書面を使用しなかったことの疑問は小さくない。ところが,B及びEの各証言において,上記各疑問を解消するに足る供述はなされていない。また,関係証拠によれば,本件預かり証は,平成14年3月ころまで,Eが所持していたことが認められるところ,その理由について,証人Eは,Bが本件預かり証を忘れて帰ったので,自分が保管していたと供述するが,本件預かり証が真実Bのために作成されたものであり,これをBが忘れて帰ったのであれば,その後,長期間にわたってEがBに渡さなかったことは,やはり疑問というほかない。他方,被告人は,現金授受の1週間くらい後に,Eの自宅で本件預かり証を作成し,これをEに渡した旨供述するとともに,宛名をBとしたことについては,B宛てにするようEから頼まれたので,同人らが姉妹だからあまり考えずにそう書いた旨供述する。被告人の上記供述は,宛名をBとした理由については,直ちに納得できるものではないが,本件預かり証の用紙がAの事務所に備え置かれたものではないこと,本件預かり証をEが所持していたことという事実には,よく符合するものである。 ウ以上の検討結果によれば,本件預かり証の作成時期や作成の経緯等に関するB及びEの各証言には疑問があり,ひいては,本件預かり証の記載内容に従って被告人がBから現金2000万円を預かったと認定することにもちゅうちょせざるを得ない。 3 被告人の供述には,上記のとおり,本件預かり証の宛名をBとした理由について,直ちに納得し難い点があり,また,Eから「姉がこの金を受 万円を預かったと認定することにもちゅうちょせざるを得ない。 3 被告人の供述には,上記のとおり,本件預かり証の宛名をBとした理由について,直ちに納得し難い点があり,また,Eから「姉がこの金を受け取ってくれない」という話を聞いたことはない旨供述している点において,G及びHの各証言と食い違うのであり,被告人の供述には,そのほかにも不自然な部分が散見される。 しかし,被告人は,捜査段階から一貫して,Eから,これでもうけて返してくれなどと言われて2000万円を預かった旨供述し,本件争点に関する本件公訴事実を否認している。 そして,本件争点に関する主要な直接証拠であるB及びEの各証言並びに本件預かり証の各信用性等については,上記のとおり,看過することができない疑問があるから,被告人の供述に不自然な部分が散見されることを併せ考慮しても,現金2000万円について,被告人がBから中古アパートの購入資金として預かったものと認めるには合理的な疑問が存するというべきである。そうすると,結局,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官下瀬寿,主任弁護人山元浩,弁護人近本佐知子各出席)平成15年12月5日山口地方裁判所宇部支部 裁判官古賀輝郎
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