平成20(ワ)19874 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年6月10日 東京地方裁判所
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判決文本文130,172 文字)

- 1 -平成23年6月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成20年(ワ)第19874号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年2月1日判決横浜市都筑区<以下略>原告クリエートメディック株式会社訴訟代理人弁護士増井和夫同菊池毅同豊島真同工藤敦子秋田市<以下略>被告秋田住友ベーク株式会社東京都渋谷区<以下略>被告オリンパスメディカルシステムズ株式会社被告ら訴訟代理人弁護士田中成志同平出貴和同山田徹被告ら訴訟代理人弁理士速水進治被告ら訴訟復代理人弁護士森修一郎 主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して1億2532万1672円及びこれに対する平成23年1月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを4分し,その1を被告らの負担とし,その余は原告の負担とする。 - 2 - 4 この判決の第1項は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して5億円及び内金1億7820万円に対する被告秋田住友ベーク株式会社において平成20年8月2日から,被告オリンパスメディカルシステムズ株式会社において同月1日から,内金3億2180万円に対する被告ら両名において平成23年1月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件 ムズ株式会社において同月1日から,内金3億2180万円に対する被告ら両名において平成23年1月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,後記2(2)記載の特許権の専用実施権者であった原告が,被告らが共同して別紙物件目録1及び2記載の胃壁固定具(以下,それぞれを「被告製品1」,「被告製品2」といい,これらを総称する趣旨で,単に「被告製品」という場合がある。)を製造,販売した行為は上記専用実施権の間接侵害(特許法101条2号)に当たる旨主張して,被告らに対し,専用実施権侵害の不法行為による損害賠償として5億円及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者ア原告は,医療用品の研究製造及び販売等を目的とする株式会社である。 イ被告秋田住友ベーク株式会社(以下「被告秋田住友ベーク」という。)は,医薬品,医薬部外品,医療機器,化粧品及びこれらに関連する製品の製造,輸入,販売及び賃貸等を目的とする株式会社である。 被告オリンパスメディカルシステムズ株式会社(以下「被告オリンパスメディカル」という。)は,医療用具,動物用医療用具,事務用機械その- 3 -他一般機械器具の製造,販売,修理及び賃貸業務等を目的とする株式会社である。 (2) 原告の専用実施権原告は,発明の名称を「医療用器具」とする特許第1907623号(平成2年12月29日出願(特願平2-416573号),平成7年2月24日設定登録)の特許権について,特許権者であるX1(以下「X1」という。)から下記の専用実施権の設定を受け,平成19年2月14日にその設定登録を受けた(以下,この特 16573号),平成7年2月24日設定登録)の特許権について,特許権者であるX1(以下「X1」という。)から下記の専用実施権の設定を受け,平成19年2月14日にその設定登録を受けた(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」,原告の専用実施権を「本件専用実施権」という。)。その後,本件特許権は,平成22年12月29日に存続期間満了により消滅した。 記専用実施権の範囲地域日本全国期間本特許権の存続期間中内容全範囲(3) 特許発明の内容ア本件特許の特許出願(以下「本件出願」という。)に係る明細書(以下,当該明細書と図面を併せて,「本件明細書」という。甲2)の特許請求の範囲は,請求項1ないし7から成り,請求項1及び3の記載は,それぞれ次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項3に係る発明を「本件発明2」といい,これらを総称して「本件各発明」という。)。 「【請求項1】 縫合糸挿入用穿刺針と,該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と,該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットと,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材とからなり,前記スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前- 4 -記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており,さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具。」「【請求項3】 前記医療用器具は,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通さ 材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具。」「【請求項3】 前記医療用器具は,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材を有している請求項1に記載の医療用器具。」イ本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。 (ア) 本件発明1A 縫合糸挿入用穿刺針と,B 該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と,C 該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットと,D 前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材とからなり,E 前記スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており,F さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるG ことを特徴とする医療用器具。 (イ) 本件発明2- 5 -H 前記医療用器具は,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材を有しているI 請求項1に記載の医療用器具。 (4) 原告による本件各発明の実施品の販売ア原告は,本件各発明の実施品である「鮒田式胃壁固定具」(以下「原告製品」という。)を開発し,平成5年6月ころからその販売を開始し,更に平成10年11月ころから原告製品を含むセット製品である「経皮的瘻用カテーテルキット(鮒田式胃壁固定具付)」(以下「原告キット」という。)の販売を行って ,平成5年6月ころからその販売を開始し,更に平成10年11月ころから原告製品を含むセット製品である「経皮的瘻用カテーテルキット(鮒田式胃壁固定具付)」(以下「原告キット」という。)の販売を行っている(甲3,21,33の1,2,38ないし41)。 イ原告製品は,自力で栄養を摂取することができない患者の胃腸に直接栄養を投与するために,内視鏡下で,腹壁と胃壁にカテーテルを通す胃瘻を造設する手術(経皮内視鏡的胃瘻造設術)のうち,イントロデューサー法と呼ばれる術式において,胃瘻を造設する位置の腹壁と胃壁を縫合糸で固定する施術(胃壁固定術)に用いられる医療器具である。 すなわち,経皮内視鏡的胃瘻造設術の術式には,大きく分けて,留置カテーテルを口腔・咽頭部を通して胃腔内に挿入するPull/Push法と,口腔・咽頭部を通さずに,留置カテーテルを腹壁及び胃壁を通して直接胃腔内に挿入するイントロデューサー法があり,このうちイントロデューサー法においては,腹壁及び胃壁を縫合糸で固定する施術(胃壁固定術)が必要となるが,原告製品は,この施術に用いられる2本の穿刺針からなる胃壁固定具である(乙6,24ないし26)。 原告キットには,①原告製品,②栄養投与のために患者の胃の中に留置されるバルーンタイプのカテーテル(バルーンカテーテル),③バルーンカテーテルを胃の中に挿入するために用いられるPS針及びシース,④バルーンカテーテルを固定するために用いられる固定板及びタイが含まれている(甲3)。 - 6 -(5) 被告らの行為ア被告秋田住友ベークは,平成19年4月から,被告製品1を製造し,これを含むセット製品である胃瘻造設術キット(商品名「Direct イディアルPEGIDEAL」)及び被告製品1の単品を被告オリンパスメディカルに販売していた 19年4月から,被告製品1を製造し,これを含むセット製品である胃瘻造設術キット(商品名「Direct イディアルPEGIDEAL」)及び被告製品1の単品を被告オリンパスメディカルに販売していたが,その後,被告製品1に替わる被告製品2を製造し,これを含むセット製品である胃瘻造設キット(商品名「Direct イディアルPEGIDEAL」)及び被告製品2の単品を被告オリンパスメディカルに販売するようになった(以下,被告製品を含む上記胃瘻造設キットを「被告キット」という。)。 被告オリンパスメディカルは,平成19年4月から,被告秋田住友ベークが製造した被告キット及び被告製品の単品を全量購入して販売店等に販売し,これらの製品は販売店等を通じて病院等の医療機関に販売されていた。 イ被告製品の構成は,それぞれ別紙物件目録1及び2のとおりである。 被告製品1と被告製品2とは,縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針の各針先の形状が,被告製品1においては,曲げ加工された後,刃面の最先端が針パイプの中心軸付近に位置するようにカットされている(ヒューバータイプ)のに対し,被告製品2においては,曲げ加工されずに,そのままカットされている(ストレートタイプ)点において異なっているが,その他の構成はおおむね同一である。 被告製品は,経皮内視鏡的胃瘻造設術のうち,前記イントロデューサー法の一種で,ダイレクト法と呼ばれる術式において,カテーテルを取り付ける位置の腹壁と胃壁を縫合糸で固定する施術(胃壁固定術)に用いられる医療用器具である(乙6,24ないし26)。 被告キットには,①被告製品,②栄養投与のために患者の胃の中に留置されるカテーテルであるイディアルボタンを含む「イディアルボタン(A- 7 -セット)」,③イディアルボタンを胃の中に挿 )。 被告キットには,①被告製品,②栄養投与のために患者の胃の中に留置されるカテーテルであるイディアルボタンを含む「イディアルボタン(A- 7 -セット)」,③イディアルボタンを胃の中に挿入する際,穿刺針によって得られた穿刺孔を拡張するために用いられる「イディアルダイレータセット」,④胃瘻造設術に用いられる穿刺針,縫合糸,ガーゼ等からなる「処置セット(Iセット)」が含まれる(甲5)。 ウ被告製品の構成のうち,「イエロー針」は,本件発明1の構成要件Aの「縫合糸挿入用穿刺針」に,「スタイレット」は,構成要件Cの「縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレット」に,スタイレットの先端側にあるスネアは,構成要件Eの「弾性部材により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収容可能な環状部材」にそれぞれ該当する。 したがって,被告製品は,本件発明1の構成要件A,C,E及びGをいずれも充足する。 3 争点本件の争点は,次のとおりである。 (1) 原告主張の各使用態様の下における被告製品の構成が本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)。 ア被告製品の上記構成が構成要件B,D,F,H及びIを充足し,本件各発明の技術的範囲に属するか。 イ仮に被告製品の上記構成に構成要件Dと異なる部分があり,同構成要件を充足していないとしても,被告製品の上記構成が本件各発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するか(均等侵害の成否)。 (2) 特許法101条2号の間接侵害の成否(争点2)(3) 本件各発明に係る本件特許に被告ら主張の無効理由があり,原告の本件専用実施権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点3)。 (4) 被告らが賠償すべき原告の損害額(争点4)- 8 -第3 争点に関する当事者の の無効理由があり,原告の本件専用実施権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点3)。 (4) 被告らが賠償すべき原告の損害額(争点4)- 8 -第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(技術的範囲の属否)について(1) 原告の主張ア経皮内視鏡的胃瘻造設術を行う医師が被告製品を用いて腹壁と胃壁の固定を行う場合における被告製品の使用態様には,以下の各態様が考えられる。 (ア) 使用態様1(係止して同時に穿刺する態様)被告製品のイエロー針を体表ガイドのイエロー針挿入口に挿入し,一体化機構によってホワイトウイングとブルーウイングを係止した状態(以下,この状態を「一体化機構による係止状態」という場合がある。)で,ホワイト針とイエロー針を患者の胃の中まで同時に穿刺する。 その後,スタイレット先端のスネアをホワイト針の先端から突出させて環状に開かせ,イエロー針の中空部を通して縫合糸を送り,スネアの環状部の内側を貫通させ,その状態でスタイレットを引き上げることにより,縫合糸の先端をスネアによって把持して患者の体外に取り出す(以下,この作業を「縫合糸の受渡し」という場合がある。)。 (イ) 使用態様2(別々に穿刺し,係止しない態様)まず,被告製品のホワイト針のみを患者の胃の中まで穿刺し,スネアをホワイト針の先端から突出させて環状に開かせる。 次に,イエロー針を体表ガイドのイエロー針挿入口に挿入し,ブルーウイングをホワイトウイングに重なる位置まで移動させて,患者の胃の中まで穿刺する。このとき,ホワイトグリップとイエローグリップの各頭頂部にある矢印が向かい合っていることを確認する。 その後,縫合糸の受渡しを行うが,その際にも一体化機構による係止は行わない。 (ウ) 使用態様3(同時に穿刺した後に プとイエローグリップの各頭頂部にある矢印が向かい合っていることを確認する。 その後,縫合糸の受渡しを行うが,その際にも一体化機構による係止は行わない。 (ウ) 使用態様3(同時に穿刺した後に係止する態様)- 9 -被告製品のイエロー針を体表ガイドのイエロー針挿入口に挿入し,ホワイトウイングとブルーウイングを一体化機構による係止は行わずに指で重ねて保持した状態(以下,この状態を「指による重ね保持状態」という場合がある。)で,ホワイト針とイエロー針を患者の胃の中まで同時に穿刺する。 その後,縫合糸の受渡しを行うが,その際には一体化機構による係止状態とする。 (エ) 使用態様4(別々に穿刺した後に係止する態様)まず,被告製品のホワイト針のみを患者の胃の中まで穿刺し,スネアをホワイト針の先端から突出させて環状に開かせる。 次に,イエロー針を体表ガイドのイエロー針挿入口に挿入し,ブルーウイングをホワイトウイングに重なる位置まで移動させて,患者の胃の中まで穿刺する。このとき,ホワイトグリップとイエローグリップの各頭頂部にある矢印が向かい合っていることを確認する。 その後,縫合糸の受渡しを行うが,その際には一体化機構による係止状態とする。 (オ) 使用態様5(同時に穿刺し,係止しない態様)指による重ね保持状態で,被告製品のホワイト針とイエロー針を患者の胃の中まで同時に穿刺する。 その後,縫合糸の受渡しを行うが,その際にも一体化機構による係止は行わない。 イ上記アのような各使用態様の下における被告製品の構成は,以下のとおり,本件各発明の構成要件をすべて充足するか又は本件各発明と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する。 (ア) 使用態様1,3及び4における一体化機構による係止状態の場合使用態 のとおり,本件各発明の構成要件をすべて充足するか又は本件各発明と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する。 (ア) 使用態様1,3及び4における一体化機構による係止状態の場合使用態様1,3及び4の下における被告製品は,穿刺開始前から縫合- 10 -糸の受渡しまで終始一体化機構による係止状態にあるか(使用態様1の場合),又は,穿刺後の縫合糸の受渡しの時点において一体化機構による係止状態にある(使用態様3及び4の場合)。 このように一体化機構による係止状態にある被告製品の構成は,以下のとおり,本件発明1の構成要件B,D及びF並びに本件発明2の構成要件H及びIをいずれも充足する。 a 構成要件Bの充足構成要件Bは,縫合糸把持用穿刺針の縫合糸挿入用穿刺針に対する位置関係について,「所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた」ものであることを規定するところ,これは,2本の穿刺針を穿刺し,患者の胃の中で環状部材を開かせたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸方向が確実に環状部材の内側を貫通する位置関係を維持し,縫合糸が確実に環状部材の内側に挿入されるようにするための要件を規定したものである。このような構成要件Bの意義からすれば,同構成要件における「ほぼ平行に設けられた」といえるためには,2本の穿刺針の位置関係が「絶対的な平行」である必要はなく,上記の目的を達成できる程度に平行に近い状態であれば足りる。 被告製品の構成のうち,イエロー針は,構成要件Aの「縫合糸挿入用穿刺針」に該当し,また,ホワイト針は,構成要件Bの「縫合糸把持用穿刺針」に該当するところ,一体化機構による係止状態にある被告製品のイエロー針とホワイト針の位置関係は,上記の目的を達成できる程度に平行に近い状態にあるものといえる。 したがって,一体化機構によ 穿刺針」に該当するところ,一体化機構による係止状態にある被告製品のイエロー針とホワイト針の位置関係は,上記の目的を達成できる程度に平行に近い状態にあるものといえる。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,そのホワイト針が,「該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」に該当するから,構成要件Bを充足する。 - 11 -b 構成要件Dの充足一体化機構による係止状態にある被告製品においては,被告製品のブルーウイングとホワイトウイングとが係止され,その結果,イエロー針とホワイト針の基端部が一体的に固定された状態となる。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,一体化機構を備えたブルーウイングとホワイトウイングの組合せが,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」に該当するから,構成要件Dを充足する。 c 構成要件Fの充足一体化機構による係止状態にある被告製品においては,スタイレットの先端側にある環状部材(スネア)をホワイト針の先端から突出させた状態において,イエロー針の中心軸又はその延長線が,環状部材(スネア)の内側を貫通する位置関係に,イエロー針と環状部材(スネア)が位置決めされている。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,スタイレット先端側の環状部材(スネア)が,「前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ものに該当するから,構成要件Fを充足する。 d 構成要件Hの充足被告製品においては,スライダーの先端に,「板状の,底面が平らで 部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ものに該当するから,構成要件Fを充足する。 d 構成要件Hの充足被告製品においては,スライダーの先端に,「板状の,底面が平らで略小判形状に形成されている体表ガイド」が設けられているところ,ホワイト針の先端側が体表ガイドを摺動可能に貫通するように設けられている。 また,体表ガイドは,イエロー針の先端を貫通させるイエロー針挿- 12 -入口を備えているところ,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,イエロー針がイエロー針挿入口に沿って体表ガイドを摺動可能に貫通する状態となる。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,体表ガイドが,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材」に該当するから,構成要件Hを充足する。 e 構成要件Iの充足以上のとおり,一体化機構による係止状態にある被告製品は,構成要件B,D及びFをいずれも充足する。 そして,被告製品が構成要件A,C,E及びGを充足することは前記争いのない事実等(5)ウのとおりであるから,一体化機構による係止状態にある被告製品は,本件発明1の構成要件AないしGをすべて充足し,「請求項1に記載の医療用器具」に該当する。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品は,構成要件Iを充足する。 (イ) 使用態様3及び5における指による重ね保持状態の場合使用態様3及び5の下における被告製品は,穿刺の時点において指による重ね保持状態にある。 指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件発明1の構成要件B,D及びF並びに本件発明2の構成要件H及びIをいずれも充足する。また,仮に指による重ね保持状態にある被告製品の「ブル にある。 指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件発明1の構成要件B,D及びF並びに本件発明2の構成要件H及びIをいずれも充足する。また,仮に指による重ね保持状態にある被告製品の「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」の構成が構成要件Dの「固定部材」と相違し,構成要件Dを充足しないとしても,指による重ね保持状態にある被告製品は,本件各発明と均等なものである。 a 各構成要件の充足- 13 -(a) 構成要件Bの充足被告製品の構成のうち,イエロー針は,構成要件Aの「縫合糸挿入用穿刺針」に該当し,また,ホワイト針は,構成要件Bの「縫合糸把持用穿刺針」に該当するところ,指による重ね保持状態にある被告製品のイエロー針とホワイト針の位置関係は,前記(ア)a記載の「2本の穿刺針を穿刺し,患者の胃の中で環状部材を開かせたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸方向が確実に環状部材の内側を貫通する位置関係を維持し,縫合糸が確実に環状部材の内側に挿入されるようにする」という目的を達成できる程度に平行に近い状態にあるものといえる。 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品においては,そのホワイト針が,「該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」に該当するから,構成要件Bを充足する。 (b) 構成要件Dの充足構成要件Dにおいて,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」の存在が要件とされているのは,これによって縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針とが構成要件Bの「所定距離離間して,ほぼ平行」の位置関係となることを維持し,「2本の穿刺針を穿刺し,患者の胃の中で環状部材を開かせたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸方向が確実に環 把持用穿刺針とが構成要件Bの「所定距離離間して,ほぼ平行」の位置関係となることを維持し,「2本の穿刺針を穿刺し,患者の胃の中で環状部材を開かせたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸方向が確実に環状部材の内側を貫通する位置関係を維持し,縫合糸が確実に環状部材の内側に挿入されるようにする」という目的を達成するためである。 このような構成要件Dの意義からすれば,同構成要件における「固定」といえるためには,2本の穿刺針の強固な固定を要する- 14 -ものではなく,上記の目的を達成できる程度の固定であれば足りる。 被告製品においては,イエロー針とホワイト針の基端部に,それぞれブルーウイングとホワイトウイングが設けられ,一体化機構を使用しなくても,2枚のウイングを重ね合わせて指で保持することにより,2本の穿刺針の位置関係を固定して使用することができるように設計されている。そして,このような2枚のウイングの重ね合わせと,使用時に2本の穿刺針の先端が貫通する体表ガイドの存在によって,2本の穿刺針は,確実に「ほぼ平行」な状態に保持されることになる。 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品においては,イエロー針及びホワイト針の基端部が上記の目的を達成できる程度に固定されているものといえ,ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイドが,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」に該当するものといえるから,構成要件Dを充足する。 (c) 構成要件Fの充足指による重ね保持状態にある被告製品においては,スタイレットの先端側にある環状部材(スネア)をホワイト針の先端から突出させた状態において,イエロー針の中心軸又はその延長線が,環状部材(スネア)の内側を貫通する位置関係に,イエロー針と おいては,スタイレットの先端側にある環状部材(スネア)をホワイト針の先端から突出させた状態において,イエロー針の中心軸又はその延長線が,環状部材(スネア)の内側を貫通する位置関係に,イエロー針と環状部材(スネア)が位置決めされている。 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品においては,スタイレット先端側の環状部材(スネア)が,「前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合- 15 -糸挿入用穿刺針方向に延びる」ものに該当するから,構成要件Fを充足する。 (d) 構成要件Hの充足指による重ね保持状態にある被告製品においては,体表ガイドが,前記(ア)dと同様の理由により,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材」に該当するから,構成要件Hを充足する。 (e) 構成要件Iの充足以上のとおり,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,構成要件B,D及びFをいずれも充足する。 そして,被告製品が構成要件A,C,E及びGを充足することは前記争いのない事実等(5)ウのとおりであるから,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件発明1の構成要件AないしGをすべてを充足し,「請求項1に記載の医療用器具」に該当する。 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,構成要件Iを充足する。 b 均等侵害仮に指による重ね保持状態にある被告製品における「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」の構成が構成要件Dの「固定部材」と相違し,構成要件Dを充足していないとしても,次のとおり,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等なものとして ホワイトウイング及び体表ガイド」の構成が構成要件Dの「固定部材」と相違し,構成要件Dを充足していないとしても,次のとおり,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する。 (a) 相違部分が本件各発明の本質的部分でないこと本件各発明において,縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針を「ほぼ平行」に固定するのは,スタイレットの環状部材の内側に縫合糸が確実に挿入される位置関係を実現するためであり,そのた- 16 -めには,縫合糸挿入用穿刺針の方向と高さが縫合糸把持用穿刺針に対して適切に位置決めされる必要があることから,構成要件Dの「固定部材」により2本の穿刺針の上端側の距離と方向を固定することとしたものである。 この点,指による重ね保持状態にある被告製品においては,前記a(a)のとおり,ブルーウイングとホワイトウイングを重ね合わせて指で保持することにより,2本の穿刺針の位置関係は,確実に「ほぼ平行」な状態に保持されることになるが,このような位置関係は,本件各発明の場合と全く同一であり,この位置関係を維持するために,指を併用するか,部材自体の構成のみによるかは,本件各発明の目的・効果を実現する上で本質的な相違ではない。 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品の構成における本件各発明との相違部分は,本件各発明の本質的部分ではない。 (b) 作用効果の同一性(置換可能性)指による重ね保持状態にある被告製品の場合も,本件各発明の場合も,2本の穿刺針を穿刺するだけで腹壁と胃壁の固定を実現するという効果において同一であり,また,縫合糸が,縫合糸挿入用穿刺針により患者の胃の中のスタイレットの環状部材に挿通され,環状部材によって把持され,患者の体外に引き出されると 壁と胃壁の固定を実現するという効果において同一であり,また,縫合糸が,縫合糸挿入用穿刺針により患者の胃の中のスタイレットの環状部材に挿通され,環状部材によって把持され,患者の体外に引き出されるという機構においても同一である。 (c) 置換容易性本件各発明においては,縫合糸を胃の中に挿入する段階において,縫合糸挿入用穿刺針の位置と方向がスタイレットの環状部材の内側に縫合糸が挿通される位置関係になっている必要があるが,その段階に達するまでの過程においては2本の穿刺針が一体化されている必要はないこと,2本の穿刺針を固定する手段も,必要な位- 17 -置決め機能を有すればよく,強固に固定する手段である必要がないことは,被告製品の製造,販売が開始された当時,当業者において容易に想到される技術内容である。 (d) 出願時の公知技術との関係本件出願当時において,被告製品の構成のような医療用器具を用いて胃壁の固定を行う手段が当業者の容易に想到し得るものでなかったことは,本件特許の成立により明らかである。 (e) 意識的除外の不存在本件各発明において,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針を固定する固定部材の存在が要件とされているのは,固定部材を設けた構成がスタイレットの環状部材に縫合糸を確実に貫通させるために最も簡明だからであり,本件出願に当たって,固定部材により2本の穿刺針を一体化する構成以外に本件各発明の基本的な技術思想を実現できる構成について,特許請求の範囲から意識的に除外する理由は存在しなかったし,本件明細書の記載や出願経過においても,そのような事情は見出されない。 (f) 以上によれば,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等であるから,その技術的範囲に属する。 (ウ) 使用態様2におけ 経過においても,そのような事情は見出されない。 (f) 以上によれば,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等であるから,その技術的範囲に属する。 (ウ) 使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態の場合使用態様2の下における被告製品は,イエロー針穿刺後の時点において,一体化機構による係止状態や指による重ね保持状態にはないものの,イエロー針を体表ガイドのイエロー針挿入口に差し込み,ブルーウイングをホワイトウイングに重ね合わせることにより,両ウイングに手を触れることなく,被告製品を軽く動かしてみても,イエロー針がホワイト針に対して動かない状態となる(以下,この状態を「使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態」という場合がある。)。 - 18 -使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,本件発明1の構成要件B,D及びF並びに本件発明2の構成要件H及びIをいずれも充足する。また,仮に使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」の構成が構成要件Dの「固定部材」と相違し,構成要件Dを充足しないとしても,上記のような状態にある被告製品は,本件各発明と均等なものである。 a 各構成要件の充足(a) 構成要件Bの充足被告製品の構成のうち,イエロー針は,構成要件Aの「縫合糸挿入用穿刺針」に該当し,また,ホワイト針は,構成要件Bの「縫合糸把持用穿刺針」に該当するところ,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品のイエロー針とホワイト針の位置関係は,前記(ア)a記載の目的を達成できる程度に平行に近い状態にあるものといえる。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,そのホワイ とホワイト針の位置関係は,前記(ア)a記載の目的を達成できる程度に平行に近い状態にあるものといえる。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,そのホワイト針が,「該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」に該当するから,構成要件Bを充足する。 (b) 構成要件Dの充足使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,イエロー針が体表ガイドのイエロー針挿入口に差し込まれ,ブルーウイングがホワイトウイングに重ね合わせられることにより,両ウイングに手を触れることなく,被告製品を軽く動かしてみても,イエロー針はホワイト針に対して動かない状態となる。 このような状態にある被告製品においては,イエロー針及びホワ- 19 -イト針の基端部が前記(イ)a(b)記載の目的を達成できる程度に固定されているものといえ,ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイドが,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」に該当するものといえるから,構成要件Dを充足する。 (c) 構成要件Fの充足使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,スタイレットの先端側にある環状部材(スネア)をホワイト針の先端から突出させた状態において,イエロー針の中心軸又はその延長線が,環状部材(スネア)の内側を貫通する位置関係に,イエロー針と環状部材(スネア)が位置決めされている。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,スタイレット先端側の環状部材(スネア)が,「前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状 エロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,スタイレット先端側の環状部材(スネア)が,「前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ものに該当するから,構成要件Fを充足する。 (d) 構成要件Hの充足使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,体表ガイドが,前記(ア)dと同様の理由により,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材」に該当するから,構成要件Hを充足する。 (e) 構成要件Iの充足以上のとおり,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品は,構成要件B,D及びFをいずれも充足する。 そして,被告製品が構成要件A,C,E及びGを充足することは- 20 -前記争いのない事実等(5)ウのとおりであるから,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品は,本件発明1の構成要件AないしGをすべてを充足し,「請求項1に記載の医療用器具」に該当する。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品は,構成要件Iを充足する。 b 均等侵害仮に使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品における「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」の構成が構成要件Dの「固定部材」と相違し,構成要件Dを充足していないとしても,次のとおり,上記状態にある被告製品は,本件各発明と均等なものとして,その技術的範囲に属する。 (a) 相違部分が本件各発明の本質的部分でないこと本件各発明において,縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針を「ほぼ平行」に固定するのは,スタイレットの環状 として,その技術的範囲に属する。 (a) 相違部分が本件各発明の本質的部分でないこと本件各発明において,縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針を「ほぼ平行」に固定するのは,スタイレットの環状部材の内側に縫合糸が確実に挿入される位置関係を実現するためであり,そのためには,縫合糸挿入用穿刺針の方向と高さが縫合糸把持用穿刺針に対して適切に位置決めされる必要があることから,構成要件Dの「固定部材」により2本の穿刺針の上端側の距離と方向を固定することとしたものである。 この点,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,体表ガイドのイエロー針挿入口によってイエロー針の先端位置が決定され,イエロー針が,ホワイト針と平行になるように,イエローグリップとホワイトグリップの各頭頂部にある矢印が向き合う位置で穿刺され,ブルーウイングがホワイトウイングに重なるとその位置で2本の穿刺針が固定され,それ以上にイエロ- 21 -ー針を穿刺することはできず,2本の穿刺針のほぼ平行な位置関係は指による保持を行わなくても維持されることになるが,このような位置関係は,本件各発明の場合と全く同一であり,この位置関係を維持するために,部材の一体化機構を用いるか否かは,本件各発明の目的・効果を実現する上で本質的な相違ではない。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成における本件各発明との相違部分は,本件各発明の本質的部分ではない。 (b) その他の要件使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品について,均等論適用のための上記(a)以外の4要件が満たされることは,前記(イ)b(b)ないし(e)において述べたところと同様である。 (c) したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺 製品について,均等論適用のための上記(a)以外の4要件が満たされることは,前記(イ)b(b)ないし(e)において述べたところと同様である。 (c) したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等であるから,その技術的範囲に属する。 ウ以上のとおり,前記アの各使用態様の下における被告製品の構成は,いずれも本件各発明の技術的範囲に属するものである。 (2) 被告らの主張原告が主張する前記(1)アの各使用態様における被告製品の構成は,以下のとおり,いずれも,本件各発明の構成要件の一部を充足せず,また,均等侵害も成立しないから,本件各発明の技術的範囲に属しない。 ア一体化機構による係止状態にある被告製品の場合(使用態様1,3及び4)(ア) 構成要件Bの非充足一体化機構による係止状態にある被告製品において,イエロー針とホ- 22 -ワイト針の位置関係は,一体化機構のあるブルーウイング及びホワイトウイングと体表ガイドによって決められるが,両ウイングの位置における2本の穿刺針の間隔と,体表ガイド上のホワイト針が貫通する穴とイエロー針挿入口(以下,これらの二つの穴を「体表ガイド上の二つの穴」という場合がある。)の間隔とは異なっており,一体化機構による係止状態にある被告製品において,2本の穿刺針が「平行に設けられ」ているとはいえない。 すなわち,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,2本の穿刺針の両ウイングの位置における間隔は12.9mmであり,他方,体表ガイド上の二つの穴の間隔は14.9mmであるから,2本の穿刺針が平行な状態とはなっていない。 しかも,2本の穿刺針の間隔は,体表ガイドの位置によっても変わり,体表ガイドの位置が基端部側に移動するほど,2本 つの穴の間隔は14.9mmであるから,2本の穿刺針が平行な状態とはなっていない。 しかも,2本の穿刺針の間隔は,体表ガイドの位置によっても変わり,体表ガイドの位置が基端部側に移動するほど,2本の穿刺針の先端部の間隔が,その基端部の間隔に比べてより大きく広がっていくことになる(具体的には,別紙物件目録1及び2の各2.⑦(2)記載の「一体化機構を係止した状態での,ホワイト針とイエロー針の基端部間距離及び先端部間距離(単位mm)」のとおり)。 そして,被告製品の体表ガイドは,穿刺の際に体表に付着させて使用するものではなく,体表からの穿刺の深さの限界を示すものとして使用される。体表ガイドを穿刺針の先端付近に位置させた場合には,ホワイトウイングがスライダーの凹みに嵌合し,穿刺ができない状態となり,また,体表ガイドによって,施術を行う医師の穿刺部位に対する視界が遮られるといった不都合が生ずる。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,ホワイト針が,イエロー針に対して「所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた」ものとはいえないから,構成要件Bを充足しない。 - 23 -(イ) 構成要件Dの非充足構成要件Dにおける縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針の基端部の「固定」とは,これら2本の穿刺針を人体に対して安全確実に同時に穿刺し得る程度の固定を意味するものと解される。 しかるところ,被告製品のブルーウイングとホワイトウイングにある一体化機構は,被告製品を廃棄するときに2本の穿刺針がばらばらにならないようにするために設けられたものであり,軽い力で簡単に係止したり,係止を外したりできるものであって,2本の穿刺針を人体に対して安全確実に同時に穿刺し得る程度に固定するものではない。 したがって,一体化機構に めに設けられたものであり,軽い力で簡単に係止したり,係止を外したりできるものであって,2本の穿刺針を人体に対して安全確実に同時に穿刺し得る程度に固定するものではない。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,イエロー針及びホワイト針の基端部が「固定」されているものとはいえず,ブルーウイングとホワイトウイングにある一体化機構が,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」に該当するものとはいえないから,構成要件Dを充足しない。 (ウ) 構成要件Fの非充足本件各発明は,他に特段の手段を要することなく,患者の胃の中において,縫合糸を縫合糸挿入用穿刺針から縫合糸把持用穿刺針に自動的に受け渡すことができる手段を提供することに,その特徴があるものである。 そして,「他に特段の手段を要することなく,縫合糸を縫合糸挿入用穿刺針から縫合糸把持用穿刺針に自動的に受け渡しをすること」自体は,本件出願前の平成元年7月当時の医学論文(乙27)にも記載された公知の技術であり,こうした先行技術を踏まえれば,本件各発明の特徴は,縫合糸の自動的な受渡しを確実に行うための具体的な装置構成にあるというべきであって,本件各発明の技術的範囲も,そのような具体的- 24 -な装置構成のものに限定して解釈されるべきである。 ところが,上記特徴に対応する構成として本件各発明の特許請求の範囲に記載されているのは,構成要件Fの「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」という機能的記載による構成のみであり,このような機能的記載による構成をどのように実現するのかという具 の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」という機能的記載による構成のみであり,このような機能的記載による構成をどのように実現するのかという具体的な装置構成については何ら記載されていない。 この点,本件明細書の「発明の詳細な説明」をみると,縫合糸の自動的な受渡しを確実に行う装置構成として具体的に記載されているのは,「縫合糸把持用穿刺針の先端が縫合糸挿入用穿刺針側に湾曲したもの」のみであるから(本件明細書の段落【0012】,図1,4,7ないし10(別紙本件明細書の図面参照)),構成要件Fの上記のような機能的記載は,発明の特徴として本件明細書で具体的に開示されている,「縫合糸把持用穿刺針の先端が縫合糸挿入用穿刺針の方に曲げられているもの」に限定して解釈されるべきである。 しかるところ,一体化機構による係止状態にある被告製品は,ホワイト針の先端がイエロー針の方に曲げられているものではないから,構成要件Fを充足しない。 イ指による重ね保持状態にある被告製品の場合(使用態様3及び5)(ア) 構成要件B,D及びFの非充足a 構成要件B及びDによれば,本件各発明においては,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針の「基端部が固定された固定部材」を有し,この固定部材によって2本の穿刺針が「ほぼ平行に設けられ」ていることが必要である。 ところが,指による重ね保持状態にある被告製品においては,人の- 25 -指によってブルーウイングとホワイトウイングを保持することによって,2本の穿刺針が平行とされているものにすぎず,2本の穿刺針の「基端部が固定された固定部材」を有するものとはいえないし,このような固定部材によって2本の穿刺針が「ほぼ平行に設けられ」ているともいえない。 し が平行とされているものにすぎず,2本の穿刺針の「基端部が固定された固定部材」を有するものとはいえないし,このような固定部材によって2本の穿刺針が「ほぼ平行に設けられ」ているともいえない。 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品は,構成要件B及びDをいずれも充足しない。 b 指による重ね保持状態にある被告製品が構成要件Fを充足しないことは,前記ア(ウ)と同様である。 (イ) 均等侵害の不成立原告は,2本の穿刺針の位置関係を「ほぼ平行」な状態に保持するために,指を併用するか,部材自体の構成のみによるかは,本件各発明の目的・効果を実現する上で本質的な相違ではないなどとして,指による重ね保持状態にある被告製品の構成について,「固定部材」が存在せず,構成要件Dの充足が認められないとしても,均等侵害が成立する旨主張する。 しかしながら,2本の穿刺針を「固定部材」によって固定することは,本件各発明の本質的部分というべきであり,このような「固定部材」を備えていない,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等なものとはいえないから,原告主張の均等侵害が成立する余地はない。 ウ使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の場合(使用態様2)(ア) 構成要件B,D及びFの非充足a 構成要件B及びDによれば,本件各発明においては,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針の「基端部が固定された固定部材」を有- 26 -し,この固定部材によって2本の穿刺針が「ほぼ平行に設けられ」ていることが必要である。 ところが,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,2本の穿刺針の基端部は何ら固定されていないから,2本の穿刺針の「基端部が固定された固定部材」を有しないことは明ら ところが,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,2本の穿刺針の基端部は何ら固定されていないから,2本の穿刺針の「基端部が固定された固定部材」を有しないことは明らかであり,このような固定部材によって2本の穿刺針が「ほぼ平行に設けられ」ているともいえない。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,構成要件B及びDをいずれも充足しない。 b 構成要件Fの非充足使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品が構成要件Fを充足しないことは,前記ア(ウ)と同様である。 (イ) 均等侵害の不成立構成要件Dの「固定部材」を備えていない,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成について,原告主張の均等侵害が成立する余地がないことは,前記イ(イ)と同様である。 2 争点2(間接侵害の成否)について(1) 原告の主張被告らは,被告秋田住友ベークが被告製品を製造し,その全部を被告オリンパスメディカルに供給し,被告オリンパスメディカルが販売店を通じて被告製品を医療機関に販売するという両者一体の事業活動を行っており,このような被告らの行為は,業として被告製品を共同で製造,販売する行為に該当する。 そして,被告らが業として被告製品を共同で製造,販売する行為は,以下のとおり,本件各発明に係る原告の本件専用実施権についての特許法101条2号所定の間接侵害を構成する。 - 27 -ア被告製品が本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる物に該当すること(ア) 被告製品は,販売の時点では,ホワイト針とイエロー針が平行な位置に固定された状態とはされていないが,医師がこれを施術に使用するに際しては,前記1(1)アの使用態様1ないし5のい 当すること(ア) 被告製品は,販売の時点では,ホワイト針とイエロー針が平行な位置に固定された状態とはされていないが,医師がこれを施術に使用するに際しては,前記1(1)アの使用態様1ないし5のいずれかの態様によって使用され,これらの使用態様に応じて,①一体化機構による係止状態,②指による重ね保持状態,③使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態に置かれることとなる。 そして,上記①ないし③の状態にある被告製品の構成がいずれも本件各発明の技術的範囲に属することは,前記1(1)イで述べたとおりであるから,被告製品を使用する医師によって,被告製品が上記①ないし③の状態に置かれることは,本件各発明の技術的範囲に属する物の「生産」に当たるというべきである。 そうすると,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いられる物であるといえるから,物の発明について「その物の生産に用いられる物」(特許法101条2号)に該当する。 (イ) 被告らは,後記のとおり,医師が被告製品を施術に使用する場合の使用態様は,使用態様2に限られ,それ以外の態様で使用することは考えられない旨主張する。 しかしながら,被告製品を使用する医師が,実際に使用態様1,3ないし5による施術を行っていることは,原告が平成19年11月ないし平成20年3月に実施した医師に対する被告製品の使用方法に関するアンケート調査(以下「原告アンケート」という。)の結果(甲8)及び本件特許の特許権者であるX1が平成22年1月ないし3月に実施した医師に対する被告製品の使用方法を含むアンケート調査(以下「X1アンケート」という。)の結果(甲37,38)のほか,裁判所が平成- 28 -22年7月23日付けで200の医療機関に対して行った被告製品の使用方法に関する調査嘱託(以下「 ート調査(以下「X1アンケート」という。)の結果(甲37,38)のほか,裁判所が平成- 28 -22年7月23日付けで200の医療機関に対して行った被告製品の使用方法に関する調査嘱託(以下「本件調査嘱託」という。)の結果から明らかである。特に,本件調査嘱託の結果によれば,被告製品の使用経験があり,かつ,その使用方法についての回答を行った58の医療機関のうち,26の医療機関が,2本の穿刺針を一体化機構による係止状態のままで同時に穿刺する態様により使用したことがある旨を回答している。 (ウ) また,被告らは,後記のとおり,被告製品の2本の穿刺針(イエロー針及びホワイト針)について,日本国内において広く流通している医療用の中空針にすぎないものであり,「日本国内において広く一般に流通しているもの」(特許法101条2号括弧書き)に該当するから,被告製品は,物の発明(本件各発明)について「その物の生産に用いる物」に該当しない旨主張する。 しかしながら,被告製品の2本の穿刺針は,相互に組み合わせられることによって,平行な位置関係において胃の中での縫合糸の受渡しをするための機構を備えているのであるから,単独で使用される硬膜外針などの医療用の中空針とは明確に異なる物である。 「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは,典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等をいい,被告製品の2本の穿刺針がこのようなものに当たらないことは明らかである。 イ被告製品が本件各発明による課題の解決に不可欠なものであること被告製品が本件各発明による「課題の解決に不可欠なものであること」(特許法101条2号)は明らかである。 ウ被告らが,被告製品の製造,販売に当たり,本件各発明が特許発明であること及び被告製品が本件各発明の実施に用いられるこ 課題の解決に不可欠なものであること」(特許法101条2号)は明らかである。 ウ被告らが,被告製品の製造,販売に当たり,本件各発明が特許発明であること及び被告製品が本件各発明の実施に用いられることを知っていたこと- 29 -(ア) 本件各発明が特許発明であることの認識被告秋田住友ベークの株式100%を保有する住友ベークライト株式会社が,平成15年2月26日付けで行った特許出願(特願2003-048883号)の願書に添付した明細書中に,本件特許の特許公報(特公平6-24533号公報)が引用されていること(甲32),本件特許の特許権者であるX1の代理人弁護士が,被告らに対し,平成18年12月22日ころ,被告製品が本件特許を侵害しているおそれがある旨を記載した通知書(以下「本件通知書」という。)を送付していること(甲27,28)からすれば,被告らは,平成19年4月に被告製品の販売を開始する当たり,本件各発明が特許発明であることを認識していたものと認められる。 (イ) 被告製品が本件各発明の実施に用いられることの認識a 被告製品の販売開始時(平成19年4月)の認識以下に述べる諸事情を総合すれば,被告らは,平成19年4月に被告製品の販売を開始する時点において,被告製品が,医師による施術に際し,一体化機構による係止状態のままでホワイト針とイエロー針を患者の胃の中に同時に穿刺するという態様(前記1(1)ア(ア)の使用態様1。以下,被告製品によるこのような態様の穿刺を「一体化同時穿刺」という場合がある。)により使用されることを認識していたというべきであるから,被告製品が本件各発明の実施に用いられることを認識していたものと認められる。 (a) 原告製品の普及原告が販売する本件各発明の実施品である原告製品は,平成5年の ていたというべきであるから,被告製品が本件各発明の実施に用いられることを認識していたものと認められる。 (a) 原告製品の普及原告が販売する本件各発明の実施品である原告製品は,平成5年の発売以降,経皮内視鏡的胃瘻造設術を行う医師らの間に普及していたところ,原告製品に慣れた医師が被告製品を使用するに当たっては,2本の穿刺針が別体とされていたとしても,一体化同時穿刺- 30 -が可能であることを直ちに理解して,そのような態様で使用するであろうことは,被告らにおいても当然に予想し得ることである。 (b) 被告製品の添付文書の記載2006年(平成18年)10月1日作成の被告製品の添付文書(甲4)には,「使用上の注意」として,「ブルーウイングをホワイトウイング側にスライドさせウイング同士を一体化させた状態で縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針とを同時に穿刺しないこと。穿刺針同士が平行に配置されず直線的な穿刺ができないため,臓器の損傷,誤穿刺や出血の危険性がある。」との記載がある。 この記載は,被告らが,被告製品が一体化同時穿刺の方法により用いられ得ることを認識していたからこそ,あえて記載したものといえる。 (c) 被告製品の設計それ自体被告製品は,一体化機構を設けて,2本の穿刺針を係止して同時に穿刺することができるような構造に設計されている。 被告製品の添付文書には,上記(b)のとおり,一体化同時穿刺の危険性を指摘する記載がみられるが,現にこのような危険性があるのであれば,そのような使い方ができないような構造にするのが,医療機器製造者としての責任ある行為であるのに,被告らは,あえて危険な使い方ができる構造で被告製品を製造,販売したこととなり,不合理である。 この点,被告製品の添付文書には,被告製品の一 のが,医療機器製造者としての責任ある行為であるのに,被告らは,あえて危険な使い方ができる構造で被告製品を製造,販売したこととなり,不合理である。 この点,被告製品の添付文書には,被告製品の一体化機構は,廃棄のための固定手段としてのみ用いられることを意図している旨の記載もあるが,2本の穿刺針を廃棄するためにまとめるという目的であれば,他に方法はいくらでもあるのであって,上記のような- 31 -危険性のある使用方法につながり得る構成をあえて設ける理由は全くない。 したがって,被告製品が一体化機構を設けて2本の穿刺針を係止して同時に穿刺することができるような構造に設計されていること自体からみて,被告らは,被告製品が一体化同時穿刺の方法により用いられることを認識していたというべきである。 (d) 被告製品発売前の研究会等での営業担当者による説明平成18年9月から11月にかけて開催された,医師等の参加する研究会等(第11回HEQ研究会,第14回日本消化器関連学会週間,第4回北海道胃瘻研究会)において,被告オリンパスメディカルは,発売前の被告製品の展示を行っていたところ,その会場において,被告オリンパスメディカルの営業担当者が,視察に赴いた原告従業員に対し,被告製品が一体化同時穿刺のできるものである旨の説明をした(甲24ないし26)。 このような事実は,被告らが,一体化同時穿刺の方法が被告製品の使用態様の一つであると認識していたことの証左である。 (e) 被告らに対する警告書の送付等本件特許の特許権者であるX1の代理人弁護士は,本件訴訟提起前の平成18年12月22日,被告秋田住友ベークに対し,被告製品は,2本の穿刺針を固定部材により固定して使用できる構造である以上,たとえ2本の穿刺針を単独で動かせる構造であっても 士は,本件訴訟提起前の平成18年12月22日,被告秋田住友ベークに対し,被告製品は,2本の穿刺針を固定部材により固定して使用できる構造である以上,たとえ2本の穿刺針を単独で動かせる構造であっても,本件各発明に抵触する旨を記載した通知書(本件通知書)を送付し,同日,被告オリンパスメディカルに対しても,本件通知書の写しを送付した(甲27,28)。 これを受けて,X1の代理人弁護士と被告秋田住友ベークとの間で面談が行われた際,被告秋田住友ベークは,腹壁モデルを用いて,- 32 -被告製品が一体化同時穿刺のできるものであることを実演している。 以上の事実からすれば,被告らは,X1の代理人弁護士からの本件通知書を受け取った時点で,被告製品が一体化同時穿刺のできるものであることを認識したものといえる。 b 平成20年2月26日時点の認識原告アンケートの結果によれば,被告製品について,「業者からのPRまたはプレゼンでは,穿刺方法について,どのような説明を受けましたか。」との質問に対し,回答をした医師10名のうち2名の者が,「2本の穿刺針を,同時に穿刺することもできる」との説明を受けた旨を回答している(甲8,29,30)。 上記2名のアンケート回答日が,平成19年11月20日と平成20年2月26日であることからすると,遅くとも平成20年2月26日の時点では,被告らは,被告製品が一体化同時穿刺の方法により用いられることを認識していたことになる。 c 訴状送達時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)の認識原告は,本件訴状において,被告製品について,一体化同時穿刺の方法により使用する医師がいること,X2医師による臨床使用により,被告製品を一体化同時穿刺の方法に ルにおいては同年7月31日)の認識原告は,本件訴状において,被告製品について,一体化同時穿刺の方法により使用する医師がいること,X2医師による臨床使用により,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することには全く問題がないことが判明したことを明記しており,被告らは,本件訴状送達の時点において,被告製品が一体化同時穿刺の方法で用いられることを改めて認識したものといえる。 d 小括以上によれば,被告らは,被告製品が本件各発明の実施に用いられることについて,被告製品の販売が開始された平成19年4月当時に- 33 -十分認識していたものであり,仮にそうでないとしても,平成20年2月26日の時点(上記b),あるいは,遅くとも本件訴状の送達の時点(上記c)で認識していたことは明らかである。 エまとめ以上によれば,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる物であって,本件各発明による課題の解決に不可欠なものに該当し,被告らにおいては,本件各発明が特許発明であること及び被告製品が本件各発明の実施に用いられることを知りながら,業として,被告製品の製造,販売を共同で行ったものであるから,被告らが被告製品を製造,販売した行為は,原告の本件専用実施権の間接侵害(特許法101条2項)を構成するというべきである。 (2) 被告らの主張以下に述べるとおり,被告製品を製造,販売する被告らの行為が,原告の本件専用実施権の間接侵害(特許法101条2号)を構成するものとはいえない。 ア被告製品は本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる物に該当しないこと原告が主張する各使用態様の下における被告製品の構成が,いずれも構成要件B,D及びFを充足せず,かつ,均等侵害も成立しないことは,前記1(2)で述べたとおり 物の生産に用いる物に該当しないこと原告が主張する各使用態様の下における被告製品の構成が,いずれも構成要件B,D及びFを充足せず,かつ,均等侵害も成立しないことは,前記1(2)で述べたとおりであるから,被告製品は本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる物に該当しない。 また,仮に原告が主張する各使用態様の下における被告製品の構成のうち,一体化機構による係止状態にある被告製品の構成については,本件各発明の技術的範囲に属することが認められるとしても,胃壁固定術を行う医師が,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することは考えられないから,被告製品が本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる- 34 -物であるとはいえない。 すなわち,被告製品の添付文書(甲4)の「操作方法又は使用方法等」に記載されたとおり,被告製品は,専ら使用態様2(別々に穿刺し,係止しない態様)によって使用されるものであり,被告製品のブルーウイング及びホワイトウイングにある一体化機構は,ホワイト針とイエロー針とを一体化して廃棄する際に用いられるものである。 したがって,胃壁固定術を行う医師が,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することは通常考えられないことであり,このことは,次のような点からも明らかである。 (ア) 被告製品で同時穿刺を行うことの危険性被告製品を用いて2本の穿刺針を同時に穿刺すること,とりわけ,一体化同時穿刺を行うことには,以下に述べるとおり,①胃のそばにある臓器や血管を損傷したり,②胃自体の裂傷を引き起こしたり,③再度の穿刺を余儀なくさせ,損傷リスクを増加させるなどの危険性がある。 a 2本の穿刺針を術者の意図した部位に,同時に,正確に穿刺することは,そもそも困難なことである。 特に,胃瘻造設術において 度の穿刺を余儀なくさせ,損傷リスクを増加させるなどの危険性がある。 a 2本の穿刺針を術者の意図した部位に,同時に,正確に穿刺することは,そもそも困難なことである。 特に,胃瘻造設術においては,カテーテルを挿入したい場所を中心とする四角形の辺(1辺がおよそ2~3cm)となるように針を穿刺する必要があるが,穿刺針の針先は,穿刺するに従って先端のカットされていない側に向かって進みやすく,また,胃の位置や形状によって,針が真っ直ぐに進まないこともある。 また,2本の穿刺針の同時穿刺は,1本ずつの穿刺に比べて,穿刺抵抗が大きいため,器具の操作が難しくなる。 しかも,被告製品においては,ホワイト針のホワイトウイングと体表ガイドを連結するように,プラスチック製のスライダーが配され,左右非対称となっている上,2本の穿刺針の径が異なり(ホワイト針- 35 -の外径が1.08mmであるのに対し,イエロー針の外径は0.90mm)であって,穿刺針ごとの穿刺抵抗も異なるので,より器具の操作が難しくなり,2本同時に穿刺を行った場合には,穿刺する力が各穿刺針に均等に伝わらず,穿刺針が曲がるなどの危険性もある。 b さらに,穿刺部位によっては,無理に2本の穿刺針を同時に穿刺することで,針先が曲がってしまう危険性もある。 すなわち,胃に対して針を穿刺しようとしても,胃の付近には肋骨があるため,針を穿刺できる部位は限られ,患者によっては完全に胃が肋骨弓の中に入っている人もいるが,肋骨に穿刺針が当たれば針先が曲がってしまうことになる。 前記1(2)ア(ア)で述べたとおり,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,イエロー針とホワイト針の間隔が,先端部にいくほど広くなっており,特に,体表ガイドの位置が基端部側に移動するほど,2本の穿刺針 ア)で述べたとおり,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,イエロー針とホワイト針の間隔が,先端部にいくほど広くなっており,特に,体表ガイドの位置が基端部側に移動するほど,2本の穿刺針の先端部の間隔がハの字に広がることになる。 そのため,一体化機構による係止状態にある被告製品を患者に穿刺した場合,2本の穿刺針の先端部の広がりは,患者の腹壁や胃壁の厚みに応じて増加していくことになり,その広がり方も一定ではないことから,2本の穿刺針がどこに,どう刺さるのかを予測することは困難となる。 しかも,胃は動いているのが通常であり,また,胃壁は粘液により滑りやすくなっているため,2本の穿刺針がハの字に広がっていると,一方の針が滑ってしまい,胃の中に挿入されないことも起こり得る。 c さらに,被告製品の一体化機構は,被告製品を廃棄するときに2本の穿刺針がばらばらにならないようにするために設けられた仮止め- 36 -にすぎないから,2本の穿刺針を同時に穿刺することによる穿刺抵抗によって外れる危険性がある。 d 被告製品を用いて2本の穿刺針を同時に穿刺する方法は,上記のとおりの種々の困難を伴うものであるため,再穿刺を余儀なくされる可能性が高いものといえるが,再穿刺は,患者の負担を増大させるほか,損傷リスクも高めるものである。 (イ) 被告製品の添付文書の記載被告製品の添付文書(甲4)には,「使用上の注意」として,「8)縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針を把持して同時に穿刺しないこと。把持ゆるみが生じ意図通りの方向に穿刺できないため,臓器の損傷,誤穿刺や出血の危険性がある。」,「9)ブルーウイングをホワイトウイング側にスライドさせウイング同士を一体化させた状態で縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針とを同 に穿刺できないため,臓器の損傷,誤穿刺や出血の危険性がある。」,「9)ブルーウイングをホワイトウイング側にスライドさせウイング同士を一体化させた状態で縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針とを同時に穿刺しないこと。穿刺針同士が平行に配置されず直線的な穿刺ができないため,臓器の損傷,誤穿刺や出血の危険性がある。」との記載がある。 (ウ) 施術を行う医師らの認識被告製品を施術に使用する医師らは,被告製品を用いて2本の穿刺針を同時に穿刺することの危険性を当然に認識するはずであり,あえてそのような使用方法を実施することは考えられない。 a もともと人に針を穿刺する場合には,1本ずつ慎重に行うのが通常であって,固定部材により平行に固定された2本の穿刺針を同時に穿刺するという本件各発明のような医療用器具は特殊なものである。 本件各発明に係る医療用器具においては,2本の穿刺針がその基端部で固定部材により固定されており,2本の穿刺針を1回で穿刺することができるので,術者にとって手技時間が短くなるというメリットはあるが,他方で,穿刺が困難な場合も多く,また,患者へのリスク- 37 -も高まるものである。 b 被告製品の2本の穿刺針を一体化機構により係止すると2本の穿刺針が平行でなくなること,被告製品が左右非対称の構造をしており,しかも,ホワイト針とイエロー針の太さが異なっていることは,被告製品の形状を見た医師らにおいて,直ちに認識し得ることである。 そして,これらのことを認識した医師らにおいては,前記(ア)のような,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することの危険性も認識するはずであるから,それにもかかわらず,あえてそのように危険な被告製品の使用方法を実施するとは考えられない。 c また,前記(イ)のとおり,被 一体化同時穿刺の方法により使用することの危険性も認識するはずであるから,それにもかかわらず,あえてそのように危険な被告製品の使用方法を実施するとは考えられない。 c また,前記(イ)のとおり,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することが危険であることは,被告製品の添付文書に明記されていることに加え,多数の医学文献等(乙6,7,24ないし26)においても,被告製品は2本の穿刺針を1本ずつ穿刺するものであることが説明されていることからしても,医師らにおいては,被告製品による同時穿刺の危険性を当然に認識し,被告製品の添付文書の記載や上記医学文献等における説明に従い,被告製品を用いた一体化同時穿刺は行わないはずである。 イ被告製品の2本の穿刺針は「日本国内において広く一般に流通しているもの」であること被告製品のイエロー針及びホワイト針は,日本国内において広く流通している医療用の中空針である。 例えば,硬膜外麻酔等に用いられる硬膜外針(乙17)は,二重管となっていて,内針を抜去した後,外針の内腔に硬膜外麻酔カテーテルを挿入するものであるが,医療用の中空針であるという点において,被告製品の2本の穿刺針も,硬膜外針と異なるものではない。 - 38 -被告製品のホワイト針も,中空針として特に変わったものではなく,糸やカテーテルの代わりに,スネアを有するスタイレットが挿入されているだけのものである。 このように,被告製品のイエロー針及びホワイト針は,それぞれ日本国内において広く流通している医療用の中空針にすぎないから,被告製品は,特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」から除外される同号括弧書きの「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当する。 したがって,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する は,特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」から除外される同号括弧書きの「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当する。 したがって,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる物に該当しない。 ウ被告らは,平成22年9月1日に本件調査嘱託の結果を見るまで,被告製品が本件各発明の実施に用いられることがあるとは知らなかったこと仮に,一体化機構による係止状態にある被告製品の構成が本件各発明の技術的範囲に属するものであり,かつ,胃壁固定術を行う医師が被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することがあるとしても,被告らは,以下に述べる事情から,平成22年9月1日に本件調査嘱託の結果を見るまでは,被告製品が一体化同時穿刺の方法により使用されることがあることを全く認識しておらず,ひいては,被告製品が本件各発明の実施に用いられることがあるとは知らなかったものである。 (ア) 被告製品の構成前記ア(ア)で述べたとおり,被告製品は,廃棄に際して2本の穿刺針を係止するための一体化機構を有するものの,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,2本の穿刺針が平行とはならず,ハの字状に先端部が広がるように構成されているため,その状態で2本の穿刺針を同時に穿刺することは危険である。 そうである以上,被告らとしても,本件調査嘱託の結果が得られるま- 39 -では,被告製品を施術に使用する医師らが,上記のような危険性のある方法による穿刺を行うとは考えられなかった。 (イ) 被告製品の添付文書の記載前記ア(イ)のとおり,被告製品の添付文書においては,「使用上の注意」として,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することを明示的に禁止している。 そして,医療器具の使用に当たっては,国家資格を ア(イ)のとおり,被告製品の添付文書においては,「使用上の注意」として,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することを明示的に禁止している。 そして,医療器具の使用に当たっては,国家資格を有する医師が添付文書を熟読の上,その使用方法に従って使用するのが当然であるから,被告らとしても,本件調査嘱託の結果が得られるまでは,被告製品が,添付文書の記載に反して,一体化同時穿刺の方法により使用されることがあることなど認識していなかった。 (ウ) 医師への説明等被告製品の使用方法に関しては,前記ア(ウ)cのとおり,多くの医学文献等において,被告製品は2本の穿刺針を1本ずつ穿刺するものであることが説明されていることに加え,被告らの営業担当者においても,各医療機関が被告製品を採用するに際して,医師らに対し,2本の穿刺針を1本ずつ穿刺するという被告製品の使用方法を説明するDVD(乙57),冊子(甲5)及びパンフレット(乙58)等を見せたり,実際に被告製品の使用方法のデモンストレーションを行うなどして,被告製品が2本の穿刺針を1本ずつ穿刺するものであることを説明してきた。 また,被告らの営業担当者は,医療機関が被告製品を採用するに際しては,実際の手術に際して,2本の穿刺針を1本ずつ穿刺していることを確認することを基本としてきた。 そのほかに,経皮内視鏡的胃瘻造設術に関する講演会等においても,被告製品は2本の穿刺針を1本ずつ穿刺するものであることがたびたび紹介されてきた(乙60,62,63,64の4ないし6)。 - 40 -これらの事情からしても,被告らは,本件調査嘱託の結果が得られるまでは,被告製品が一体化同時穿刺の方法により使用されることがあることなど認識していなかった。 (エ) 被告らとX1の代理人弁護士との面談の状況 らしても,被告らは,本件調査嘱託の結果が得られるまでは,被告製品が一体化同時穿刺の方法により使用されることがあることなど認識していなかった。 (エ) 被告らとX1の代理人弁護士との面談の状況X1の代理人弁護士が被告らに本件通知書を送付したことを受け,平成19年2月に,被告らとX1の代理人弁護士との間で面談が行われ,原告の担当者もその席に同席した。 その席上で,被告秋田住友ベークの担当者が,被告製品の使用方法や廃棄の際の一体化機構の使用方法等について説明を行ったところ,原告の担当者からは,2本の穿刺針を手で持って穿刺することについて本件特許に抵触するのではないかとの疑問が示されたものの,それ以外には何らのコメントもなく,面談の後にも何ら連絡はなかった。 このような上記面談時の状況からすれば,上記面談当時においては,被告製品が一体化同時穿刺の方法により使用されるとの認識は,原告にも,被告らにもなかったものといえる。 (オ) 本件訴訟提起時の認識原告が,本件訴訟の提起に当たり,被告製品が一体化同時穿刺の方法により使用されることを証する証拠として提出したのは,原告アンケートの結果に関する原告従業員作成の陳述書(甲8)のみであり,しかも,そのアンケート結果については,対象とされた医師らの氏名が不詳である上,当該医師らによる被告製品の使用方法の詳細も不明であった。 このように,原告は,本件訴訟の提起に当たり,被告製品が一体化同時穿刺の方法により使用されることについてほとんど立証をしなかったものである。 しかも,原告アンケートの結果において,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用している旨を回答した医師のうち,唯一氏名が明らか- 41 -にされたX3医師については,被告らにおいて同医師に直接確認した結果,同医師は 結果において,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用している旨を回答した医師のうち,唯一氏名が明らか- 41 -にされたX3医師については,被告らにおいて同医師に直接確認した結果,同医師は上記の方法による使用を行っていないことが判明しており(乙35),原告アンケートの結果は,信ぴょう性が高くないことが確認されている。 以上のような本件訴訟の提起時の状況からしても,その時点で,被告らが,被告製品が一体化同時穿刺の方法により使用されることを認識することはできなかった。 3 争点3(本件専用実施権に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 被告らの主張本件各発明に係る本件特許には,以下のとおりの無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告らに対し,本件各発明に係る本件専用実施権を行使することはできない。 ア無効理由1(乙1を主引例とする進歩性の欠如)本件各発明は,以下のとおり,本件出願前に頒布された刊行物である乙1(米国特許4,779,616号明細書)及び乙2(米国特許第4,586,490号明細書)の記載に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるから,本件各発明に係る特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 (ア) 本件発明1についてa 乙1の記載事項乙1のカラム1の29行~32行,カラム2の13行~15行,16行~21行,26行~29行,30行~33行,37行~41行,45行~47行,51行~52行,カラム2の54行~カラム3の2行の各記載及びFig.1~4(別紙乙1図面参照)によれば,乙1には,「縫合糸挿入用穿刺針と,該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離- 42 -離間した 51行~52行,カラム2の54行~カラム3の2行の各記載及びFig.1~4(別紙乙1図面参照)によれば,乙1には,「縫合糸挿入用穿刺針と,該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離- 42 -離間した部位に挿入されるcannula(カニューラ)18と,cannula(カニューラ)18の内部に摺動可能に挿入されたrod(ロッド)10とからなり,rod(ロッド)10は,先端に弾性材料により形成され,cannula(カニューラ)18の内部に収納可能なloop(ループ)14を有しており,さらに,loop(ループ)14は,cannula(カニューラ)18の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,loop(ループ)14の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具」の発明(以下「乙1発明」又は「乙1記載の医療用器具」という。)が記載されている。 この点を補足すると,次のとおりである。 まず,乙1記載の医療用器具は,関節鏡手術に用いられる処置具であるところ,関節鏡手術においては,切開口が小さいため,施術者としては,何らかのガイドを用いて縫合糸の一端を切開口から挿入する必要があるが,縫合糸をループのある方向に導き,かつ,縫合糸をループの中に通すためには,ガイドを用いて縫合糸の一端を切開口から挿入することが不可欠である。 そして,本件出願当時,糸状部材を体内に挿入するためのガイドとして中空針を用いることは,周知慣用技術に属するものであった(例えば,乙3(特開昭63-23651号公報),乙4(特開昭55-54963号公報),乙5(1980年(昭和55年)発行の「ジャーナルオブペディアトリックサージェリー(15巻6号)」の掲載論文「開腹術を行わない胃瘻造設術:経皮内視鏡的技 乙4(特開昭55-54963号公報),乙5(1980年(昭和55年)発行の「ジャーナルオブペディアトリックサージェリー(15巻6号)」の掲載論文「開腹術を行わない胃瘻造設術:経皮内視鏡的技術」)。 このような乙1発明の属する技術分野の技術常識を踏まえれば,乙1に,体内にループを挿入する際にカニューラを用いることが記載されていることから,「次いで外科医は,縫合糸の一端を,外科器具挿- 43 -入用に設けられた切開口から挿入する。」(原文・カラム2の56行~59行)との記載における縫合糸の挿入についても同様に,カニューラ(穿刺用針)を用いるものであると理解するはずであり,上記記載部分は,「縫合糸挿入用穿刺針を用いて,縫合糸の一端を,外科器具挿入用に設けられた切開口から挿入する。」と理解される。 したがって,乙1には,「縫合糸挿入用穿刺針」,「該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間した部位に挿入されるcannula(カニューラ)18」が開示されているというべきである。 次に,乙1発明は,ループ内に通された縫合糸をループを縮めることで把持する施術に関するものであるから,体内で縫合糸をループに通すために縫合糸挿入用穿刺針を使用する際に,ループが縫合糸挿入用穿刺針の方向に延び,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸又はその近接した延長線がループの内部を貫通するように設計することは,当業者が通常採用する技術的手段にすぎず,乙1発明においても当然の前提とされているものと理解される。 したがって,乙1には,「loop(ループ)14は,cannula(カニューラ)18の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,loop(ループ)14の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びること」が開示されていると (カニューラ)18の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,loop(ループ)14の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びること」が開示されているというべきである。 b 本件発明1と乙1発明との対比乙1記載の医療用器具のカニューラ18は本件発明1の構成要件Bの「縫合糸把持用穿刺針」に,ロッド10は構成要件Cの「スタイレット」に,ループ14は構成要件Eの「環状部材」にそれぞれ該当する。 そうすると,本件発明1と乙1発明には,以下のとおりの一致点及- 44 -び相違点がある。 (一致点)縫合糸挿入用穿刺針と(構成要件A),該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して設けられた縫合糸把持用穿刺針と(構成要件Bの一部),該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットとからなり(構成要件C),前記スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており(構成要件E),さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具(構成要件F,G)である点。 (相違点)本件発明1は,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針がほぼ平行になるように,両針の基端部を固定する固定部材を備えているのに対し,乙1発明は,このような固定部材を備えていない点。 c 乙2の記載事項乙2には,stopmeans(固定部材)78を用いて複数のneedle(針)46の基端部を固定すること(Fig.1及びFig.6(別紙乙2図面参照)),乙2記載の医療用器具は,平行に固定された複 乙2には,stopmeans(固定部材)78を用いて複数のneedle(針)46の基端部を固定すること(Fig.1及びFig.6(別紙乙2図面参照)),乙2記載の医療用器具は,平行に固定された複数の針を同時に穿刺可能な構成とすることで,容易,正確かつ迅速な穿刺を実現するものであること(原文・カラム1の67行~カラム2の8行)が開示されている。 d 容易想到性(a) 乙1記載の医療用器具と乙2記載の医療用器具とは,複数の針を人体に穿刺するための医療用器具という点で技術分野を同一と- 45 -し,共通の作用,機能を有するものであり,また,乙1記載の医療用器具においても,容易,正確かつ迅速な穿刺の実現が望まれることは自明であるから,乙1及び乙2の記載に接した当業者であれば,乙1記載の医療用器具に乙2に記載された複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を採用する充分な動機付けが存在する。 そして,複数の針を同時に穿刺する場合には,1本の針を穿刺するときに比べて穿刺抵抗が増大することは自明であり,作業性及び安全性の観点から,穿刺抵抗の増大を極力抑えるため,これらの針の位置関係を平行に設定することが,当業者の通常の考え方である。 したがって,乙1記載の医療用器具に乙2に記載された複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を適用しようと試みることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。 (b) 本件発明1の作用効果は,「前腹壁と内臓壁,例えば,前腹壁と胃体部前壁とを容易,かつ短時間に,さらに安全かつ確実に固定することができ,この固定にともなう患者への侵襲も,穿刺針の穿刺という極めて少ないものであり,患者に与える負担も少ない」というものであるが(本件明細書の段落【0026】),縫合糸挿入用穿刺針及び することができ,この固定にともなう患者への侵襲も,穿刺針の穿刺という極めて少ないものであり,患者に与える負担も少ない」というものであるが(本件明細書の段落【0026】),縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針を固定し,これらを同時に穿刺するようにできれば,迅速な穿刺を実現できる上,穿刺回数を減らして侵襲による患者の負担を低減することができるということは,当業者にとって自明であるから,かかる作用効果は,当業者の予測を超える顕著なものとはいえない。 (c) 以上によれば,本件発明1は,乙1及び乙2の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,進歩性が欠- 46 -如している。 (イ) 本件発明2についてa 乙1には,本件発明2の構成要件Hの「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材」の構成の開示がない。 しかるところ,乙2には,Fig.4及びFig.6(別紙乙2図面参照)において,複数のneedle(針)46をその先端側において整列させるneedlealigningdevice(針整列部材)66が示されているが,この針整列部材66は,opening(孔)74を有する第1の平板状部材と,opening(孔)76を有する第2の平板状部材とが一体化した構成を有しており,これらの平板状部材は,本件発明2の構成要件Hの「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材」の構成に該当するものといえる。 b そして,乙2記載の医療用器具は,複数の針を人体に穿刺するための医療用器具に関するものであるという点で,乙1発明と技術分野を同一にするものであり,また,共通の作用・機能を有するものである。 また,本件発明2の効果も,乙1及 は,複数の針を人体に穿刺するための医療用器具に関するものであるという点で,乙1発明と技術分野を同一にするものであり,また,共通の作用・機能を有するものである。 また,本件発明2の効果も,乙1及び乙2記載のものから予測できる効果以上のものはない。 c 以上によれば,本件発明2は,乙1及び乙2の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,進歩性が欠如している。 イ無効理由2(乙27を主引例とする進歩性の欠如)本件各発明は,以下のとおり,本件出願前に頒布された刊行物である乙27(1989年(平成元年)7月発行の「臨床整形外科(24巻7号)」の掲載論文「鏡視下半月板の手術」)の記載及び周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるから,- 47 -本件各発明に係る特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 (ア) 本件発明1についてa 乙27の記載事項乙27の813頁~814頁及び図20(別紙乙27図面参照)によれば,乙27には,は,膝半月板の外周縁部縫合術において,縫合糸挿入用穿刺針を用いて縫合糸を体内に挿入し,これをループで把持する医療用器具(以下「乙27発明」又は「乙27記載の医療用器具」という。)として,①図20において,ナイロン糸を二重にして挿入し,先端から縫合糸を把持するループが突出した穿刺針②(以下「②の針」という。)が,縫合糸であるナイロン糸を挿入した穿刺針①(以下「①の針」という。)に対して,所定距離離間して,ほぼ平行に設けられていること,②②の針に挿入されたナイロン糸は摺動可能となっており,その先端には,弾性材料からなるループ(環状部材)が形成されていること,③①の針の先端部分は,穿刺針②の方向に30度 平行に設けられていること,②②の針に挿入されたナイロン糸は摺動可能となっており,その先端には,弾性材料からなるループ(環状部材)が形成されていること,③①の針の先端部分は,穿刺針②の方向に30度程度曲げられており,①の針の中心軸又はその延長線がループの内部を貫通するようになっていることが記載されている。 b 本件発明1と乙27発明との対比乙27記載の医療用器具の①の針は本件発明1の構成要件Aの「縫合糸挿入用穿刺針」に,②の針は構成要件Bの「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」に,②の針に挿入されたナイロン糸は構成要件Cの「スタイレット」に,ナイロン糸先端のループは構成要件Eの「環状部材」及び構成要件Fの「縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ものにそれぞれ該当- 48 -する。 そうすると,本件発明1と乙27発明には,以下のとおりの一致点及び相違点がある。 (一致点)縫合糸挿入用穿刺針と(構成要件A),該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と(構成要件B),該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットとからなり(構成要件C),前記スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており(構成要件E),さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具(構成要件F,G)である点。 端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具(構成要件F,G)である点。 (相違点)本件発明1は,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針がほぼ平行になるように,両針の基端部を固定する固定部材を備えているのに対し,乙27発明は,このような固定部材を備えていない点。 c 容易想到性(a) 乙27発明において,ナイロン糸(縫合糸)の受渡しを確実に行うために2本の針の位置関係を適切にする必要があること,2本の針の位置関係を正確に規定するためには,両者を固定することが最も確実かつ容易で望ましい手段であることは,当業者にとって自明のことである。 一方,位置関係を正確に規定すべき複数の針を固定部材により固定することは,本件出願当時,周知慣用技術に属するものであっ- 49 -た(例えば,乙2,乙31の4(米国特許4,669,473号明細書),乙31の5(特開平3-4845号公報),乙31の6(米国特許4,316,469号明細書))。 したがって,乙27記載の医療用器具において,縫合糸(ナイロン糸)の受渡しを確実に行うことを目的として,2本の針(①の針及び②の針)を適切な位置関係に固定する固定部材を設けることは,当業者が適宜設計できる事項にすぎないから,本件発明1は,乙27の記載及び上記周知慣用技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。 (b) 乙27記載の医療用器具と乙2記載の医療用器具とは,複数の針を人体に穿刺するための医療用器具という点で技術分野を同一とし,共通の作用,機能を有するものであり,また,乙27記載の医療用器具において,2本の穿刺針(①の針及び②の針)の位置関係を正確に 数の針を人体に穿刺するための医療用器具という点で技術分野を同一とし,共通の作用,機能を有するものであり,また,乙27記載の医療用器具において,2本の穿刺針(①の針及び②の針)の位置関係を正確に規定するために両者を固定することが望ましいことは,当業者にとって自明であるから,乙1及び乙2の記載に接した当業者であれば,乙27記載の医療用器具において,縫合糸(ナイロン糸)の受渡しを確実に行うことを目的として,乙2記載の固定部材に係る構成を組み合わせることは,容易に想到することができたものである。 (c) 以上によれば,本件発明1は,乙27の記載及び周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,進歩性が欠如している。 (イ) 本件発明2についてa 乙27には,本件発明2の構成要件Hの「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材」の構成の開示がない。 - 50 -一方で,乙2記載の「平板状部材」は,本件発明2の構成要件Hの上記構成に該当することは,前記ア(イ)aのとおりである。 しかるところ,乙27記載の医療用器具と乙2記載の医療用器具とは,複数の針を人体に穿刺するための医療用器具という点で技術分野を同一とし,共通の作用,機能を有するものであり,また,乙27記載の医療用器具においては,縫合糸の受渡しを確実に行うために2本の穿刺針の位置関係を適切にする必要があり,特に,2本の針の先端部分の位置関係を正確に規定することが必要とされることは,当業者にとって自明であるから,乙27及び乙2の記載に接した当業者であれば,乙27記載の医療用器具において,2本の針の先端部分の位置関係を正確に規定するために,乙2記載の平板状部材に係る構成を組み合わせることは 自明であるから,乙27及び乙2の記載に接した当業者であれば,乙27記載の医療用器具において,2本の針の先端部分の位置関係を正確に規定するために,乙2記載の平板状部材に係る構成を組み合わせることは,容易に想到することができたものである。 b 以上によれば,本件発明2は,乙27及び乙2の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,進歩性が欠如している。 ウ無効理由3(サポート要件違反)本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載中の「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」(構成要件F)との記載は,「環状部材」の作用・機能を特定する,いわゆる機能的記載である。 この「環状部材」の構成について,本件明細書の発明の詳細な説明には,縫合糸把持用穿刺針の先端が縫合糸挿入用穿刺針の方向に湾曲した構成(図1等)の記載があるが,この構成以外に,「環状部材」が「前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸- 51 -挿入用穿刺針方向に延びる」ようにする具体的構成が開示されていないことからすれば,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない態様のものを含んでいるというべきである。 したがって,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条5項1号の「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」(いわゆるサポート要件)に適合しないから,本件発明1に 16号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条5項1号の「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」(いわゆるサポート要件)に適合しないから,本件発明1に係る本件特許には,同号に違反する無効理由(同法123条1項4号)がある。 (2) 原告の主張ア無効理由1に対し(ア) 本件発明1と乙1発明との対比について被告らは,本件発明1と乙1発明の相違点について,本件発明1は,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針がほぼ平行になるように,両針の基端部を固定する固定部材を備えているのに対し,乙1発明は,このような固定部材を備えていないという点に限られる旨主張する。 しかしながら,乙1発明は,上記の「固定部材」を備えていないという点のみならず,本件発明1の構成要件A,B,D及びFの要素である「縫合糸挿入用穿刺針」を備えていない点においても,本件発明1と相違している。 (イ) 容易想到性についてa 本件発明1は,胃瘻造設術のための胃壁の固定という特定の目的において,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針を,所定距離離間して,ほぼ平行に固定するという手段を採用することにより,2本の穿刺針の穿刺以外に特段の手段を要することなく,患者の胃の中にお- 52 -いて,縫合糸を縫合糸挿入用穿刺針から縫合糸把持用穿刺針に自動的に受け渡し,患者への侵襲が少ない態様で,安全,確実かつ短時間での胃壁固定を実行可能としたところに,その特徴がある。 他方,乙1発明では,後に手術による切開部分を縫合するのに適する位置に2本のカニューラを差し込み,縫合糸は,手術器具挿入用に設けられた切開口から何らかの手段を用いて挿入し,縫合糸の先端とループ14の位置をカメラで観察しながら調節することによって,縫合糸の る位置に2本のカニューラを差し込み,縫合糸は,手術器具挿入用に設けられた切開口から何らかの手段を用いて挿入し,縫合糸の先端とループ14の位置をカメラで観察しながら調節することによって,縫合糸の先端をループ14に案内していくのであるから,乙1発明と本件発明1とでは,縫合糸を環状部材に通すための技術思想が全く異なる。 したがって,乙1発明から出発して,2本の穿刺針をあらかじめ平行に固定して同時に穿刺するという本件発明1の構成に想到することは不可能である。 b 乙2記載の医療用器具は,腫瘍の放射線治療のための用具に関する発明であり,乙2には,平行に設けられた複数の中空針を固定する固定部材が示されているが,乙2記載の医療用器具の目的は,腫瘍部に適切な間隔で放射性物質を送り込むことにあり,複数の針の先端位置と腫瘍の形状の関係を調整する手段が示されているだけであって,縫合糸の取扱いとは何らの関係もない。 また,乙1においては,縫合糸をループに導入する手段として中空針が使用されていることは示されていないのであるから,乙2を参照したからといって,乙1発明において,カニューラ18と平行な中空針によって縫合糸を導入するという発想を生ずるものとはいえない。 さらに,乙1発明における縫合糸の挿入は,関節の形状に応じて選択される切開口から行われるものであるから,縫合糸の挿入方向とカニューラ18の方向が平行になるべき理由はなく,この点からみて- 53 -も,乙2記載の複数の中空針を固定する固定部材に係る構成を,乙1発明に組み合わせるとの発想は生じない。 したがって,乙2記載の複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を乙1発明に適用することが,当業者において容易に想到し得たものとはいえない。 c 以上によれば,本件発明1と乙1 い。 したがって,乙2記載の複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を乙1発明に適用することが,当業者において容易に想到し得たものとはいえない。 c 以上によれば,本件発明1と乙1発明との相違点に係る構成は,乙1発明に乙2記載の複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を組み合わせることによって当業者が容易に想到することができたものとはいえないから,本件発明1について,乙1及び乙2の記載に基づく進歩性欠如の無効理由があるとする被告らの主張は理由がない。 また,このことは,上記相違点に係る構成を有する本件発明2についても同様である。 イ無効理由2に対し(ア) 本件発明1と乙27発明との対比について被告らは,本件発明1と乙27発明の相違点について,本件発明1は,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針がほぼ平行になるように,両針の基端部を固定する固定部材を備えているのに対し,乙27発明は,このような固定部材を備えていないという点に限られる旨主張する。 しかしながら,乙27発明は,上記の「固定部材」を備えていないという点のみならず,次の点においても,本件発明1と相違している。 a 乙27において,直線状の縫合糸をループ状の縫合糸に通す操作は,内視鏡で関節内部を観察しながら,①の針及び②の針を手で操作することにより実現するものであり,本件発明1のように,2本の穿刺針を所定距離離間して,ほぼ平行に設けること(構成要件B)は,- 54 -乙27発明の構成要素とはなっていない。 b また,乙27発明における2本の穿刺針は,上記のとおり,あらかじめ「所定距離離間して,ほぼ平行に設けられ」ているものではないため,②の針に挿入されたナイロン糸のループ部分について,「縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させ る2本の穿刺針は,上記のとおり,あらかじめ「所定距離離間して,ほぼ平行に設けられ」ているものではないため,②の針に挿入されたナイロン糸のループ部分について,「縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,環状部材の内部を貫通するよう」な構成(構成要件F)にもなっていない。 乙27においては,手術のための切開部位が存在し,手術部位に中空針を差し込んで,関節内で中空針の位置を調節して縫合糸の受渡しをするものであり,本件発明1のように,縫合糸の受渡しが自動的に行われるものではない。 c したがって,乙27発明は,「縫合糸挿入用穿刺針と,縫合糸把持用穿刺針とを,該縫合糸把持用穿刺糸から環状部材を突出させたときに,該縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるような位置関係になるよう,所定距離離間して平行に設け,さらに,両針を基端部にて固定部材により固定する,という構成を有しない点」において,本件発明1と相違するものといえる。 (イ) 容易想到性についてa 乙27は,膝半月板の外周縁部縫合術において,1本目の針を「半月板の位置のやや遠位側」から刺入し,次に,2本目の針を「半月板大腿部骨面と平行かそれよりやや遠位側」から刺入することを示すのみであり,上記縫合術において,縫合糸挿入用穿刺針と,縫合糸把持用穿刺針とを,該縫合糸把持用穿刺糸から環状部材を突出させたときに,該縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるような- 55 -位置関係になるよう,所定距離離間して平行に設け,さらに,両針を基端部にて固定部材により固定することを試みることについては,何ら 貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるような- 55 -位置関係になるよう,所定距離離間して平行に設け,さらに,両針を基端部にて固定部材により固定することを試みることについては,何らの示唆もない。むしろ,半月板近辺に針を挿入するときは,個々の手術部位の状態に応じた穿刺角度の微妙な調節が要求されるものといえるから,穿刺前にあらかじめ2本の穿刺針を平行に固定するという使用態様はおよそ想定されていないものといえる。 b 被告らは,乙2,31の4ないし6に記載されている「複数の針を固定部材により固定する構成」を,乙27発明に組み合わせることは,本件出願当時の当業者が容易に想到し得ることであった旨主張する。 しかし,そもそも乙31の5は,本件出願後である平成3年1月10日に公開されたものであるから先行技術たり得ず,また,その余の乙号各証の記載は,いずれも複数の針を平行に固定する構成が示されてはいるものの,胃壁固定や縫合糸の受渡しとは全く関係がない記載にすぎない。しかも,前述のとおり,乙27記載の膝半月板の外周縁部縫合術において,2本の穿刺針を平行に固定するという使用態様がおよそ想定されない以上,被告ら主張の「複数の針を固定部材により固定する構成」を乙27発明に組み合わせることは,本件出願当時の当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 c 以上によれば,本件発明1と乙27発明との相違点に係る構成は,乙27発明に,被告ら主張の周知慣用技術又は乙2記載の構成を組み合わせることによって当業者が容易に想到できたものとはいえないから,本件発明1について,乙27の記載及び被告ら主張の周知慣用技術又は乙2の記載に基づく進歩性欠如の無効理由があるとする被告らの主張は理由がない。 また,このことは,上記相違点に係る構成を有する本件発明2 明1について,乙27の記載及び被告ら主張の周知慣用技術又は乙2の記載に基づく進歩性欠如の無効理由があるとする被告らの主張は理由がない。 また,このことは,上記相違点に係る構成を有する本件発明2についても同様である。 - 56 -ウ無効理由3に対し被告らは,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載中の「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との構成(構成要件F)について,本件明細書の発明の詳細な説明に記載のない態様を含むから,サポート要件に違反する旨主張する。 しかしながら,本件明細書においては,図1(別紙本件明細書の図面参照)のとおり,環状部材が縫合糸挿入用穿刺針の方向に開き,確実に上記構成を充足する実施例が示されている。 また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】には,上記構成に関し,「さらに,後述するスタイレット4の環状部材5が,確実に縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるようにするために,縫合糸把持用穿刺針2の先端の刃面は,図1に示すように,縫合糸挿入用穿刺針3方向に向かって開口していることが好ましい。また,この縫合糸把持用穿刺針2としては,通常の直管状のものでもよい。また,図1に示すような,刃面部分を含む先端部が,湾曲したものを用いてもよい。」と記載されている。 これらの記載や図面を見た当業者は,本件発明1の構成要件Fについて,図1のように湾曲した先端部が好ましい一態様であるが,必ずしもそのとおりである必要はないことを容易に理解するはずである。 したがって,本件発明1が,構成要件Fに関し,本件明細書の発明の詳細な説明に記載のない態様を含み,サポート要件 一態様であるが,必ずしもそのとおりである必要はないことを容易に理解するはずである。 したがって,本件発明1が,構成要件Fに関し,本件明細書の発明の詳細な説明に記載のない態様を含み,サポート要件違反の無効理由があるとする被告らの主張は理由がない。 4 争点4(原告の損害額)について(1) 原告の主張ア特許法102条2項に基づく損害額- 57 -(ア) 原告は,原告製品を平成5年から,また,原告製品を含む原告キットを平成10年から,業として販売しているところ,原告製品と被告製品とは,市場において,被告製品が販売されることによって原告製品の販売が減るという競合関係にある。 したがって,被告らが被告製品の販売という本件専用実施権の間接侵害に当たる行為を行うことによって,原告に損害が生じたことは明らかである。そして,特許法102条2項によれば,被告らが被告製品の販売によって受けた利益の額が,原告の受けた損害の額と推定される。 (イ) 被告らが,平成19年4月から本件専用実施権の存続期間が満了する平成22年12月29日までに販売した,被告製品を含む胃瘻造設術キット(被告キット)の数量は●(省略)●キット,売上額は●(省略)●(1キット当たりの販売価格3万7600円)であり,その売上額の●(省略)●が,被告らの受けた利益の額である。 (ウ) したがって,特許法102条2項によって推定される原告の損害額は,●(省略)●である。 (エ) 被告らの主張に対する反論a 競合関係の存在被告らは,後記のとおり,被告製品及びこれを含む被告キットと原告製品及びこれを含む原告キットとの間に競合関係はないから,被告製品の販売によって原告に損害が生じたものとはいえない旨を主張する。 しかしながら,被告キットも,原告キットも,とも 被告キットと原告製品及びこれを含む原告キットとの間に競合関係はないから,被告製品の販売によって原告に損害が生じたものとはいえない旨を主張する。 しかしながら,被告キットも,原告キットも,ともにイントロデューサー法による経皮内視鏡的胃瘻造設術に使用される胃瘻造設のためのキットである(被告キットが使用されるダイレクト法は,イントロデューサー法の一種である。)。そして,被告キットが存在しないと仮定した場合,胃瘻造設が必要な患者がいれば,それを行わないと- 58 -いう選択肢はないから,被告キットを使用する多くの医師は,同じ方式の原告キットを選択し,購入するものと推認される。 したがって,被告製品及びこれを含む被告キットと原告製品及びこれを含む原告キットとの間に競合関係があることは明らかであり,被告製品の販売によって原告に損害が生じたことも明らかである。 b 被告キット全体の販売利益をもって「本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益の額」とすることに誤りはないこと被告らは,後記のとおり,被告製品が被告キットの4種の部材のうちの一部材にすぎないことを理由に,被告キット全体の販売利益をもって,「本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益の額」とすることは誤りである旨を主張する。 しかしながら,本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益を算定するに当たって,被告製品を被告キットの他の部分と切り離して考えることは妥当ではない。すなわち,被告製品は,これを含む被告キットとして販売されており,被告キットの他の部材(イディアルボタン等)は,被告製品による胃壁固定が行われることを必須の前提として使用される関係にある。被告キットは,その全体がダイレクト法による胃瘻造設術という一つの施術を目的とする商品としての単位 ィアルボタン等)は,被告製品による胃壁固定が行われることを必須の前提として使用される関係にある。被告キットは,その全体がダイレクト法による胃瘻造設術という一つの施術を目的とする商品としての単位を構成している。したがって,被告製品と被告キットの他の部材が,物理的には分離して使用されるとしても,ダイレクト法による胃瘻造設術の要素である点において,単一の機械の一部が特許発明部分である場合と別段区別する理由はない。しかも,被告製品を使用する胃壁固定術は,ダイレクト法の実現における重要な特徴的手段である。 以上のような事情の下においては,被告製品が被告キットの一部を構成する要素であるとしても,被告キット全体の販売利益を基礎とし- 59 -て原告の損害額を推定することには合理性がある。 なお,本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益を算定するに当たって,被告キット全体の販売利益に対する被告製品の寄与率を考慮すべきであるとしても,被告製品が,被告キットの中における機能的な位置付け及び需要者による購入の動機付けの両面からみて重要性が高いものであることからすれば,上記寄与率は,50%より高く,100%に近い割合である。 イ弁護士費用被告らによる本件専用実施権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用に相当する原告の損害額は,5000万円を下らない。 ウまとめ以上によれば,原告が,被告らに対し,被告らによる本件専用実施権侵害の共同不法行為による損害賠償として請求し得る損害額は,前記ア及びイの合計額である●(省略)●を下らない。 よって,原告は,被告らに対し,本件専用実施権侵害の共同不法行為による損害賠償として,上記●(省略)●の一部である5億円及び内金1億7820万円に対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日 い。 よって,原告は,被告らに対し,本件専用実施権侵害の共同不法行為による損害賠償として,上記●(省略)●の一部である5億円及び内金1億7820万円に対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月2日,被告オリンパスメディカルにおいては同月1日)から,内金3億2180万円に対する不法行為の後である平成22年12月27日付け原告準備書面(20)(請求額の拡張に係るもの)送達の日の翌日(平成23年1月8日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。 (2) 被告らの主張ア原告の主張に対する認否(ア) 原告の主張アのうち,被告セット1セット当たりの販売価格が3万7600円であること,被告らの被告製品の販売に関わる利益率が売上金額- 60 -の●(省略)●であることは認め,その余は争う。 ただし,原告主張の被告キットの販売数量については,被告秋田住友ベークが平成19年4月から平成20年7月末までの間に被告キット●(省略)●を,同年8月から平成21年10月末までの間に被告キット●(省略)●を,同年11月から平成22年8月までの間に被告キット●(省略)●を製造販売したこと,被告秋田住友ベークが同年9月から同年12月末までの間に被告キットを製造販売すると予想される数量が●(省略)●であること(以上の合計が●(省略)●セットとなること)は認める。 被告オリンパスメディカルは,被告秋田住友ベークが製造販売したものだけを購入して販売しているので,被告オリンパスメディカルが販売したのは,これらの数量よりも少ない数量である。これらの数量には,被告オリンパスメディカルがサンプルとして無償で提供するものを含んでおり,また,平成22年9月から同年12月 リンパスメディカルが販売したのは,これらの数量よりも少ない数量である。これらの数量には,被告オリンパスメディカルがサンプルとして無償で提供するものを含んでおり,また,平成22年9月から同年12月末までの被告秋田住友ベークの予想販売数量には,同年12月末までに被告オリンパスメディカルから販売店などに販売されない在庫,販売店などに対して販売されても顧客である病院に販売されない流通在庫,顧客である病院に販売されても使用されないでいる製品の数が含まれている。 (イ) 原告の主張イは争う。 イ特許法102条2項に基づく損害額について(ア) 損害の不発生原告は,原告製品と被告製品とが市場において競合関係にあることを前提として,被告らが被告製品の販売を行うことによって,原告に損害が生じた旨を主張する。 しかしながら,以下に述べるとおり,被告製品及びこれを含む被告キットと原告製品及びこれを含む原告キットとは,医療現場及び市場において,全く異なる製品として認識されており,両者の間に競合関係は認- 61 -められないから,被告らが被告製品の販売を行うことによって,原告に損害が生じたものとはいえず,そうである以上,特許法102条2項の推定規定が適用されることもない。 a 原告キットのセット内容は,原告製品,バルーンカテーテル,PS針,シース,固定板及びタイのみであり,胃瘻造設術を行うためには,更に様々な機材が必要となる。 他方,被告キットは,①胃瘻を通じて胃の中に留置して使用するカテーテル(イディアルボタン)及びその留置のために使用するオブチューレーター等のセット品である「イディアルボタン(Aセット)」,②カテーテル(イディアルボタン)を胃の中に導入する際に穿刺針によって得られた穿刺孔を拡張又は拡大するために用いる医療器具で オブチューレーター等のセット品である「イディアルボタン(Aセット)」,②カテーテル(イディアルボタン)を胃の中に導入する際に穿刺針によって得られた穿刺孔を拡張又は拡大するために用いる医療器具である「イディアルダイレータセット」,③胃瘻造設術に用いる穿刺針,縫合糸,ガーゼ等からなる「処置セット(Iセット)」,④胃壁固定具である被告製品から構成されており,内視鏡,消毒液及び麻酔薬さえあれば胃瘻造設術が行えるように,すべての必要機材が含まれている。 胃瘻造設術の最終目的はカテーテルを留置することであって,胃壁固定は全体の手技の一部にすぎないから,医療機関が胃瘻造設術キットを選択するに当たっては,胃壁固定具の使い勝手のみに重きを置くものではなく,むしろ,キットに含まれる留置カテーテルの性能に最も重きを置き,更にキット全体の総合力を重要視しているのである。 しかるところ,原告キットと被告キットとは,上記のとおり,そのセット内容を大きく異にしているから,両者の間に代替性があるとはいえない。 また,被告製品の①ないし③の部材は,被告製品の使用の有無及び使用態様にかかわりなく用いることができるものであり,しかも,市- 62 -場において,被告キットは,①のカテーテル(イディアルボタン)及びオブチューレーターが他社製品と異なるメリットを有するものとして購入されており,被告キットにおいては,イディアルボタン及びオブチューレーターが主たる製品であって,被告製品は付属の一部材にすぎない。 そして,機器管理の面からみると,被告キットにおける留置カテーテルであるイディアルボタンは,留置期間を長くして,交換による患者の負担を軽減するため,栄養剤の注入によってボタンに目詰まりが生じないように,その外径は8mmとされている。これに対し,原告キッ ーテルであるイディアルボタンは,留置期間を長くして,交換による患者の負担を軽減するため,栄養剤の注入によってボタンに目詰まりが生じないように,その外径は8mmとされている。これに対し,原告キットにおける留置カテーテルであるバルーンカテーテルの外径は,最大でも5mmである。また,原告キットの添付文書の「効能又は効果に関連する使用上の注意」には,30日以内の留置期間中においては定期的にバルーン内の滅菌蒸留水の点検を行うことが明記されており,短期的使用で留置中のバルーン管理が必要なものとなっている。このように長期留置を目的としている被告キットのイディアルボタンと,短期的使用でバルーン管理が必要とされる原告のバルーンカテーテルとでは,機器管理の態様においても異なっている。 さらに,胃瘻造設の施術においては,まずPull/Push法,イントロデューサー法等の施術方法が決定され,その後に胃壁固定具の要否等が決定されるのであり,胃壁固定具に着目して施術方法が決定されるわけではない。 b 原告製品の販売数量は,被告製品の販売開始によって減少していないばかりか,増加している(甲38・3頁~4頁)。 c 以上によれば,被告製品又は被告キットと原告製品とは市場において競合していないから,被告キットの販売により原告製品の売上げが減少するという関係にはなく,被告キットの販売によって原告に原告- 63 -製品の販売による得べかりし利益の損害は発生していない。 (イ) 原告が主張する「本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益の額」に誤りがあることa 被告キット全体の販売利益によるべきではないこと原告は,被告キット全体の販売利益をもって,「本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益の額」であると主張するが,それは誤りである。 a 被告キット全体の販売利益によるべきではないこと原告は,被告キット全体の販売利益をもって,「本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益の額」であると主張するが,それは誤りである。 被告キットは,前記(ア)aのとおり,被告製品のほか,イディアルボタン(Aセット),イディアルダイレータセット,処置セット(Iセット)の各部材からなるものであるところ,このうち,被告製品以外の部材は,本件各発明とは無関係なものである。 そして,被告キットの上記4種の各部材は,それぞれ別の目的のための独立した製品であって,胃壁固定具である被告製品の付属品やアクセサリーではない。 したがって,被告製品以外の各部材をも含んだ被告キット全体の販売利益をもって,「本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益の額」であるということはできない。 なお,被告キットの1キット当たりの販売価格3万7600円のうち,被告製品の価格に相当する額は,9600円にすぎない。 b 本件各発明の実施可能性(実施率)を考慮すべきであること被告製品は,2本の針を別々に穿刺する商品であり,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するのは2本の針を一体化機構によって係止し,同時に穿刺して使用する場合だけであって,この使用態様以外の被告製品の使用は,本件各発明の実施に該当せず,原告に損害が発生することにならない。 したがって,原告の損害額の認定に当たっては,被告製品における- 64 -本件各発明の実施可能性(実施率)を考慮すべきである。 c 本件各発明の寄与率を考慮すべきであること被告製品の販売に関し,「本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益の額」を認定するに当たっては,被告製品の販売利益に対する本件各発明の寄与率を考慮する必要がある。 し べきであること被告製品の販売に関し,「本件専用実施権の侵害行為により被告らが受けた利益の額」を認定するに当たっては,被告製品の販売利益に対する本件各発明の寄与率を考慮する必要がある。 しかるところ,以下に述べるとおり,本件各発明は,被告製品又は被告キットの販売に寄与していない。 (a) 前記(ア)aのとおり,被告キットは,被告製品を含む四つの異なる独立した部材から構成されており,被告製品以外の部材は,本件各発明の実施の有無に関わりなく使用されるものであり,被告キットにおいては,カテーテル(イディアルボタン)及びオブチューレーターが主たる製品であり,これらが他社製品と異なるメリットを有するものとして購入されている。 そして,被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用することが危険であることは,前記2(2)ア(ア)で述べたとおりであるところ,胃瘻造設術を行う医師が,胃壁固定に当たって本件各発明を実施することを考えるのであれば,2本の穿刺針があらかじめ固定された原告製品を選択すればよく,あえて上記の危険性を伴い,かつ高価な被告製品を含む被告キットを選ぶ必要はないはずである。 被告キットの購入者がこれを選択しているのは,被告製品に着目してのことではなく,被告キットに含まれる諸部材,特に,イディアルボタン及びオブチュレータが胃瘻造設のために優れているからであって,被告製品の2本の穿刺針が一体化機構により係止され得ることは,被告キットの販売に何ら寄与していないというべきである。 胃瘻造設を望む医師らは,どのような造設方法を行うか,あるい- 65 -は,胃瘻造設のために胃の中に留置する器具をどのようなものにするかによって購入すべきキットを選択するのであり,胃壁固定のための器具が本件各発明を実施するものかどうかという点が, るい- 65 -は,胃瘻造設のために胃の中に留置する器具をどのようなものにするかによって購入すべきキットを選択するのであり,胃壁固定のための器具が本件各発明を実施するものかどうかという点が,キットの販売に寄与することはほとんどない。 (b) 被告キットのうち,本件各発明に関わりがあるのは,被告製品のみ,すなわち,胃壁と腹壁の固定という一部の手技に使用される一部材のみにすぎず,被告製品を単品で販売する場合の1本当たりの販売価格(9600円)は,被告キットの1セット当たりの販売価格(3万7600円)の4分の1程度にすぎない。 (d) 前記(ア)bのとおり,原告製品の販売数量は,被告キットの販売開始によって減少していないばかりか,増加している。 (e) 被告製品を含む被告キットには,被告らの多くの技術が寄与している。 例えば,被告製品においては下記①ないし③のとおり,被告キットのイディアルボタン(Aセット)においては下記④及び⑤のとおり,いずれも被告秋田住友ベークの親会社である住友ベークライト株式会社が特許権者の一人とされる特許発明が使用されている。 ① 特許第4364857号に係る発明は,「医療用器具」の発明であり,廃棄時に針先を収納した状態が維持されるので,廃棄後の医療従事者への誤穿刺という二次的な事故を防止できる,というものである(乙70)。 ② 特許第4038524号に係る発明は,「医療用器具および内臓固定方法」の発明であり,体表部と内部組織とを縫合糸により縫合する際に用いる医療用器具であって,穿刺作業での作業性を改善し廃棄時の安全性に優れている,というものである(乙71)。 - 66 -③ 特許第4255030号に係る発明は,「医療用器具」の発明であり,複数箇所において縫合を確実に行うことができ,また互 廃棄時の安全性に優れている,というものである(乙71)。 - 66 -③ 特許第4255030号に係る発明は,「医療用器具」の発明であり,複数箇所において縫合を確実に行うことができ,また互いに分離した複数の予定縫合部位からカテーテル挿入までの穿刺針の穿刺回数を減少させることができる,というものである(乙72)。 ④ 特許第4444209号に係る発明は,「瘻孔用カテーテルキット」の発明であり,オブチュレータの操作部を指で押す時に,ガイドワイヤが障害物とならず,オブチュレータによる作用力を体内留置部に集中させることができるため,カテーテルの体内への挿入操作が容易となり,カテーテルを胃内へ挿入する際,従来に比べて小さな力でできて患者にかかる負担を軽減でき,術者の操作性が高まり作業時間の短縮が期待される,というものである(乙73)。 ⑤ 特許第4637778号に係る発明(出願番号・特願2006-90242号)は,「瘻孔造設用拡張器」の発明であり,瘻孔造設術用拡張器の胴体部に目盛を付することにより,該瘻孔造設術用拡張器が,瘻孔長測定器を兼ねることができるので,手術時間の短縮及び処理具の部品点数の削減が可能となる,というものである(乙74)。 (f) 以上によれば,本件各発明は,被告キットの販売に寄与していないか,仮に寄与があるとしてもわずかなものである。 (ウ) 特許法102条2項による推定は覆滅されること原告は,被告製品を含む被告キットの販売がなければ,原告キットが販売されたであろうとの前提に立った上で,被告キット1セット当たりの販売利益●(省略)●(販売価格3万7600円×利益率●(省略)●)に,被告キットの販売数●(省略)●セットを乗じた●(省略)●をもっ- 67 -て,原告の損害額と推定される旨を主張する。 の販売利益●(省略)●(販売価格3万7600円×利益率●(省略)●)に,被告キットの販売数●(省略)●セットを乗じた●(省略)●をもっ- 67 -て,原告の損害額と推定される旨を主張する。 しかしながら,原告キット1セットの実際の販売価格は,1万7500円(定価は2万5000円)であり,被告キット1セット当たりの上記販売利益は,原告キット1セットの販売価格を上回るものとなっている。そして,被告キットの販売によって原告キットの販売ができなかったことによる損害額が原告キットの販売価格を上回ることはあり得ないことからすると,被告キットの販売利益をもって原告の損害額とする特許法102条2項に基づく推定は,覆滅されているというべきである。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(技術的範囲の属否)について原告は,医師によって経皮内視鏡的胃瘻造設術に使用される際における被告製品の構成には,その使用態様1ないし5に応じて,①一体化機構による係止状態(使用態様1,3及び4),②指による重ね保持状態(使用態様3及び5),③使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態の各場合が考えられ,それぞれの構成がいずれも本件各発明の技術的範囲に属するものであるとの前提に立った上で,被告製品を製造,販売する被告らの行為は,本件専用実施権の間接侵害(特許法101条2号)を構成する旨主張する。 そこで,以下においては,原告が主張する上記①ないし③の状態にある被告製品の構成が,それぞれ本件各発明の技術的範囲に属するものといえるか否かについて,充足性に争いのある本件各発明の構成要件(B,D,F,H及びI)ごとに検討することとする。 (1) 一体化機構による係止状態にある被告製品の場合ア構成要件B及びDの充足性について(ア) 構成要件Bの「ほぼ平行に設け 明の構成要件(B,D,F,H及びI)ごとに検討することとする。 (1) 一体化機構による係止状態にある被告製品の場合ア構成要件B及びDの充足性について(ア) 構成要件Bの「ほぼ平行に設けられた」及び構成要件Dの「固定部材」の意義- 68 -本件発明1においては,構成要件B及びDのとおり,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針という2本の穿刺針が,その各基端部において「固定部材」に固定され,かつ,「所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた」位置関係にあることが必要とされるところ,ここでいう「固定部材」及び「ほぼ平行に設けられた」との位置関係がそれぞれいかなるものを意味するかについては,当事者間に争いがあるので,以下検討する。 a 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある。 (a) 「【産業上の利用分野】本発明は,腹部内臓に,経皮的にカテーテルを挿入する際に,使用されれる医療用器具に関するものである。特に,栄養剤の補給,体液の排出などの目的で行われる内視鏡的胃瘻造設術などの際に,カテーテルの挿入を容易にするために行われる前腹壁と内臓壁との固定に使用される医療用器具に関するものである。」(段落【0001】)⒝ 「【従来の技術】近年では,経腸栄養剤とその投与方法の発達により,従来困難とされていた長期の経腸栄養管理が容易に行われるようになってきた。その投与形態としては,栄養チューブを経鼻にて胃または腸に挿入して行う,いわゆる経鼻胃管によるもの,また,胃瘻を形成して行う場合などがある。しかし,経鼻胃管では,長期留置による鼻腔,咽頭,食道の粘膜びらん,誤飲性肺炎などの合併症を生じることがある。そこで,長期的な栄養投与が必要な患者には,開腹的胃瘻造設術が行われる。しかし,一般的な胃瘻造設術は,過 は,長期留置による鼻腔,咽頭,食道の粘膜びらん,誤飲性肺炎などの合併症を生じることがある。そこで,長期的な栄養投与が必要な患者には,開腹的胃瘻造設術が行われる。しかし,一般的な胃瘻造設術は,過大な外科的侵襲を伴うため,患者の状態によっては,手術を行うことができないことも少なくない。」(段落【0002】),「そこで,最近では,外科的侵襲を極力低減した胃瘻造設術が考えられ- 69 -るようになってきており,そのために使用する医療用器具も提案されている。具体的には,例えば,特開昭63-23651号公報に示されるような内臓アンカーがある。この内臓アンカーは,両端を有する細長い生態適合性クロスバーと,このクロスバーの中央部分に一端が固定された第1の縫合糸と,クロスバーのいずれかの端部に一端が固定された第2の縫合糸とを有している。」(段落【0003】)⒞ 「【発明が解決しようとする課題】上記の内臓アンカーを用いた胃体部前壁と前腹壁との固定は,内臓アンカーのクロスバーを中空針を用いて,クロスバー部分を腹部皮膚より,胃内部に挿入することにより行われる。胃体部前壁と前腹壁との固定に関しては,この内臓アンカーは,ある程度の効果を有しているが,カテーテル留置作業終了後に,胃内に挿入したクロスバーの除去作業が必要であり,そのために,あらたな中空針の穿刺が必要となり,また,除去作業も容易なものではなかった。さらに,除去作業中にトラブルが生ずると,クロスバー部分が,胃内に残留することがあり,胃壁さらには,その他の消化管内壁に損傷を与える危険性があった。」(段落【0004】)⒟ 「【課題を解決するための手段】そこで,本発明の目的は,上記従来技術の問題点を解消し,前腹壁と内臓壁,例えば,前腹壁と胃体部前壁とを容易,かつ短時間に,さらに安全かつ確 (段落【0004】)⒟ 「【課題を解決するための手段】そこで,本発明の目的は,上記従来技術の問題点を解消し,前腹壁と内臓壁,例えば,前腹壁と胃体部前壁とを容易,かつ短時間に,さらに安全かつ確実に固定することができ,固定にともなう患者への侵襲が少なく,患者に与える負担も少ない医療用器具を提供するものである。」(段落【0005】),「上記目的を達成するものは,縫合糸挿入用穿刺針と,該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と,該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に- 70 -挿入されたスタイレットと,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材とからなり,前記スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており,さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる医療用器具である。」(段落【0006】)(e) 「【実施例】そこで,本発明の医療用器具を図面に示した実施例を用いて説明する。本発明の医療用器具1は,縫合糸挿入用穿刺針3と,縫合糸挿入用穿刺針3より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針2と,縫合糸把持用穿刺針2の内部に摺動可能に挿入されたスタイレット4と,縫合糸挿入用穿刺針3および縫合糸把持用穿刺針2の基端部を固定する固定部材6とからなり,スタイレット4は,先端に弾性材料により形成された環状部材5を有しており,そして,この環状部材5は,縫合糸把持用穿刺針2の先端より突出させたとき,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸またはその延長線が,環状部材5 ット4は,先端に弾性材料により形成された環状部材5を有しており,そして,この環状部材5は,縫合糸把持用穿刺針2の先端より突出させたとき,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸またはその延長線が,環状部材5の内部を貫通するように縫合糸挿入用穿刺針3方向に延びるように形成されている。この医療用器具1によれば,前腹壁と内臓壁,例えば,前腹壁と胃体部前壁とを容易,かつ短時間に,さらに,安全かつ確実に固定することができ,この固定にともなう患者への侵襲も,穿刺針の穿刺という極めて少ないものであり,患者に与える負担も少ない。」(段落【0009】)(f) 「後述するスタイレット4の環状部材5が,確実に縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるようにするために,縫合糸把持用穿刺針2の先端の刃面は,図1に示すように,縫合糸挿入用穿刺針3方向に向- 71 -かって開口していることが好ましい。また,この縫合糸把持用穿刺針2としては,通常の直管状のものでもよい。また,図1に示すような,刃面部分を含む先端部が,湾曲したものを用いてもよい。このようにすれば,より確実に,後述するスタイレット4の環状部材5が,縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるようにすることができる。 そして,縫合糸把持用穿刺針2の後端には,縫合糸把持用穿刺針ハブ7が取り付けられており,このハブ7の開口端は,後述するスタイレットハブ9と係合するように構成されている。…さらに,このハブ7は,固定部材6に固定されており,その結果,固定部材6は,縫合糸把持用穿刺針2の基端部を固定している。このため,縫合糸把持用穿刺針は,縫合糸挿入用穿刺針3より所定距離離間し,かつ,ほぼ平行となっている。両者間の距離は,縫合糸が前腹壁と内臓壁とを固定する長さとなるものであり,5mm~30mm程度が好適である。上記範囲内であれば,前腹壁と 入用穿刺針3より所定距離離間し,かつ,ほぼ平行となっている。両者間の距離は,縫合糸が前腹壁と内臓壁とを固定する長さとなるものであり,5mm~30mm程度が好適である。上記範囲内であれば,前腹壁と内臓壁との固定も十分に行え,また,2本の穿刺針を穿刺する際の抵抗もあまり大きなものとはならない。特に好ましくは,10~20mmである。」(段落【0012】),「固定部材6は,医療用器具1を穿刺する際の把持部となる部分であり,図3に示すように,指をかけることができる部分6a,6aを有することが好ましい。さらに,固定部材6は,その把持を容易なものとするために,図1および図2に示すように,平板状となっていることが好ましい。」(段落【0013】)(g) 「さらに,医療用器具1は,図1および図2に示すように,縫合糸挿入用穿刺針3および縫合糸把持用穿刺針2が,摺動可能に貫通された平板状部材10を有していることが好ましい。このような平板状部材10を設けることにより,穿刺時に縫合糸挿入用穿刺針3と縫合糸把持用穿刺針2との距離が変化すること,具体的には,- 72 -両者の距離が近くなることを防止することができる。また,摺動可能に形成すれば,穿刺時に,平板状部材10が穿刺作業を阻害することもない。平板状部材10としては,例えば,下面が皮膚に刺激などを与えないような平坦面となっている円,または多角形の板状で,2つの穿刺針を挿通する2つの孔を有するものが好適である。」(段落【0014】)(h) 「スタイレット4は,図1および図2に示すように,縫合糸把持用穿刺針2の内径より小さい外径を有する棒状部材13と,この棒状部材13の先端に固定された環状部材5と,棒状部材13の基端部に固定されたスタイレットハブ9とを有している。そして,環状部材5は,弾性材料に 針2の内径より小さい外径を有する棒状部材13と,この棒状部材13の先端に固定された環状部材5と,棒状部材13の基端部に固定されたスタイレットハブ9とを有している。そして,環状部材5は,弾性材料により形成されており,縫合糸把持用穿刺針2の先端より突出した状態では,図1および図2に示すような,環状となり,突出させない状態では,図4に示すように,変形し,ほぼ直線状となり縫合糸把持用穿刺針2の内部に収納可能である。よって,スタイレット4の棒状部材13および環状部材5部分は,縫合糸把持用穿刺針2の内部を摺動可能となっている。…そして,スタイレット4の環状部材5は,穿刺針2の先端より突出した状態において,図1および図2に示すように,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸またはその延長線が,環状部材5の内部を貫通するように縫合糸挿入用穿刺針3方向に延びるように形成されている。具体的には,図1に示すように,環状部材5は,棒状部材13の先端にある程度の角度をもって固定されており,さらに,環状部材5は,側面から見た状態にて,中央部または中央部より若干先端側部分が底部となる湾曲形状となっていることが好ましい。このように形成することにより,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸またはその延長線が,より確実に環状部材5の内部を貫通するようになる。」(段落【0- 73 -015】),「スタイレットハブ9は,棒状部材13の基端部を把持するとともに,縫合糸把持用穿刺針ハブ7と係合するように構成されている。さらに,図1および図2に示すように,スタイレットハブ9にリブ16を設け,穿刺針ハブ7にこのリブ16と係合するスリット17を設け,縫合糸把持用穿刺針2内に,完全にスタイレット4を挿入した状態が確定されるようにすることが好ましい。このようにすることにより,スタイレット4の環状 ハブ7にこのリブ16と係合するスリット17を設け,縫合糸把持用穿刺針2内に,完全にスタイレット4を挿入した状態が確定されるようにすることが好ましい。このようにすることにより,スタイレット4の環状部材5が,確実に縫合糸挿入用穿刺針3方向を向くようにすることができる。」(段落【0016】),「さらに,図1に示す実施例では,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸の延長線が,環状部材5の内部を貫通するよう構成されているが,環状部材5の縫合糸把持用穿刺針2内部からの突出作業および収納作業を阻害しないものであれば,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸,言い換えれば,縫合糸挿入用穿刺針3の先端部そのものが,環状部材5が形成する環状空間を直接貫通するように構成してもよい。」(段落【0017】)(i) 「【作用】次に,本発明の医療用器具1の作用について,図1,図4,図7ないし図13を用いて,内視鏡的胃瘻造設術を行う場合を例にとり説明する。患者の胃内に,術者の一人が内視鏡を挿入し,さらに十分に送気し,胃内に空気を充満させて,胃体部前壁を前腹壁に密着させる。そして,もう一人の術者が,腹部皮膚を消毒し,内視鏡からの透過光により胃の位置を確認し,この部位の腹壁に局所麻酔を行う。そして,図4に示すように,スタイレット4の環状部材5が,縫合糸把持用穿刺針2の内部に収納され,また,縫合糸挿入用穿刺針3の内部には,その先端より,縫合糸12の端部が突出しない状態に挿入された本発明の医療用器具1を準備し,この医療用器具1を,図7に示すように,腹壁50に穿刺し,胃体部前壁- 74 -52より,胃内に縫合糸挿入用穿刺針3および縫合糸把持用穿刺針2を突出させる。」(段落【0022】),「この状態を,内視鏡術者が確認したのち,医療用器具術者は,図8に示すように,スタイレット4を押 52より,胃内に縫合糸挿入用穿刺針3および縫合糸把持用穿刺針2を突出させる。」(段落【0022】),「この状態を,内視鏡術者が確認したのち,医療用器具術者は,図8に示すように,スタイレット4を押し込み,スタイレットハブ9と縫合糸把持用穿刺針ハブ7とを係合させ,縫合糸把持用穿刺針2の先端より,スタイレット4の環状部材5を突出させる。続いて,縫合糸12を押し込み,縫合糸挿入用穿刺針3の先端より突出させ,縫合糸12が,環状部材5の内部を通過したことを,内視鏡術者により確認する。この確認後,図9に示すように,医療用器具術者が,スタイレット4を引き,環状部材5を縫合糸把持用穿刺針2の内部に収納する。この操作により,環状部材5は,環状部材5が形成する環状空間が,徐々に狭くなるとともに,形状も徐々に長円形に変化し,縫合糸12が,環状部材5の縫合糸把持部14により把持され,最終的には,図9に示すように,環状部材5により把持された部分の縫合糸12は,環状部材5とともに,縫合糸把持用穿刺針2の内部に収納される。 この状態を内視鏡術者により確認したのち,医療用器具術者は,患者より医療用器具1を抜去する。この抜去により,図10に示すように,縫合糸挿入用穿刺針3より挿入された縫合糸12の先端部が,体外に露出する。そして,露出した縫合糸のそれぞれの端部を,図11に示すように,結紮する。この結紮により,胃体部前壁52と前腹壁50とが固定される。」(段落【0023】)(j) 「【発明の効果】本発明の医療用器具は,縫合糸挿入用穿刺針と,該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と,該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットと,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材 離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と,該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットと,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材とからな- 75 -り,前記スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており,さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるものであるので,この医療用器具を用いることにより,前腹壁と内臓壁,例えば,前腹壁と胃体部前壁とを容易,かつ短時間に,さらに安全かつ確実に固定することができ,この固定にともなう患者への侵襲も,穿刺針の穿刺という極めて少ないものであり,患者に与える負担も少ない。」(段落【0026】)b 以上のような本件明細書の記載と本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載(前記争いのない事実等(3)ア)を総合すれば,本件発明1は,腹部内臓に経皮的にカテーテルを挿入する際,特に,内視鏡的胃瘻造設術などの際に,カテーテルの挿入を容易にするために行われる前腹壁と胃体部前壁との固定に使用される医療用器具に関し,従来提案されていたクロスバー等からなる「内臓アンカー」を用いた前腹壁と胃体部前壁との固定では,カテーテル留置作業終了後に,胃内に挿入したクロスバーの除去作業が必要となり,患者への新たな侵襲やそれに伴う危険性が生じるという課題があったことから,縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成(構成要件B及びD)を採用したことにより,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把 縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成(構成要件B及びD)を採用したことにより,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造とするとともに,胃内などの内臓内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸又はその延長線が,環状部材の内部を貫通するような位置関係となるように,環状部材が縫合- 76 -糸挿入用穿刺針方向に延びる構成(構成要件F)を採用したことで,縫合糸が確実に環状部材の内部を貫通するようにし,これによって前腹壁と内臓壁の固定において,上記2本の穿刺針を穿刺しさえすれば,それ以外に格別困難な手技を要することなく,縫合糸挿入用穿刺針から挿入した縫合糸を縫合糸把持用穿刺針の先端から突出した環状部材の内部を貫通させ,同環状部材でこれを把持して体外に引き出すこと(縫合糸の受渡し)で,縫合糸による前腹壁と内臓壁との固定を容易,かつ短時間に,さらに安全かつ確実に行うことができ,しかも,この固定に伴う患者への侵襲や負担を,穿刺針の穿刺という極めて少ないものに止めることができるという効果を奏する点に,その技術的意義があるものと認められる。 c そこで,以上のような本件発明1の技術的意義を踏まえて,構成要件B及びDの意義について考察するに,まず,構成要件Bが,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針との位置関係について,「ほぼ平行に設けられた」との構成を規定する趣旨は,患者の胃内などの内臓内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針から挿入した縫合糸が環状部材の内部を貫通するように2本の穿刺針の位置関係を確保し,もって,患者の内蔵内におけ 内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針から挿入した縫合糸が環状部材の内部を貫通するように2本の穿刺針の位置関係を確保し,もって,患者の内蔵内における縫合糸の受渡しが確実に行われるようにするためであると解される。 してみると,構成要件Bの「ほぼ平行に設けられた」とは,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針との位置関係が,縫合糸挿入用穿刺針から挿入した縫合糸が縫合糸把持用穿刺針の先端から突出した環状部材の内部を貫通し得る程度に,「おおよそ平行な状態」に設けられていることを意味するものであって,厳密な意味での「平行」な位置関係とすることが求められるものではないと解される。そして,- 77 -このことは,構成要件Bが,「ほぼ平行に」という幅のある表現を用いていることからも明らかといえる。 次に,構成要件Dが,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針の「基端部が固定された固定部材」の構成を規定する趣旨は,縫合糸挿入用穿刺針から挿入した縫合糸が縫合糸把持用穿刺針の先端から突出した環状部材の内部を貫通するような2本の穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係(構成要件B)を実現するための具体的な手段として,2本の穿刺針をその基端部において「固定部材」によって固定するという構成を採用したものであり,これによって縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造としたものと解される。そして,「固定」が,「動かないようにすること。」(広辞苑第6版)を意味することに照らすならば,構成要件Dの「固定部材」とは,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をその基端部において固定する(動かないようにする)ことにより,両穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を実現する役割を果たす部材を意味するものと解 固定部材」とは,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をその基端部において固定する(動かないようにする)ことにより,両穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を実現する役割を果たす部材を意味するものと解される。 (イ) 構成要件Bの充足性a 被告らは,一体化機構による係止状態にある被告製品について,イエロー針とホワイト針とのブルーウイング及びホワイトウイングの位置における間隔が,体表ガイドの二つの穴の間隔よりも狭く,さらに,2本の穿刺針の先端部の間隔は,体表ガイドの位置が基端部側に移動するほど広がっていくものであることから,2本の穿刺針が「ほぼ平行に設けられ」ているとはいえない旨を主張する。 そこで,以下においては,一体化機構による係止状態にある被告製品を前腹壁と胃体部前壁との固定のために穿刺するとした場合(係止して同時に穿刺する,原告主張の使用態様1の場合)に考えられる通- 78 -常の使用態様を想定し,その場合におけるイエロー針とホワイト針の位置関係を前提として,両穿刺針が,上記(ア)cで述べた程度に「おおよそ平行な状態」にあるものといえるか否かについて検討することとする。 b 検乙1(被告製品2)によれば,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,イエロー針とホワイト針との基端部付近(ブルーウイング及びホワイトウイングがある位置付近)における間隔が,体表ガイドの二つの穴の間隔よりも狭くなっており,その結果,体表ガイドの位置を基端部側に移動させると,2本の穿刺針の先端部の間隔が徐々に広がるようになっていることが認められる。 より具体的に,被告製品1及び2について,体表ガイドの位置を基端部側に徐々に移動させた場合の2本の穿刺針の先端部間距離と基端部間距離の推移をみると,別紙物件目録1及び2の「2.⑦(2)」 れる。 より具体的に,被告製品1及び2について,体表ガイドの位置を基端部側に徐々に移動させた場合の2本の穿刺針の先端部間距離と基端部間距離の推移をみると,別紙物件目録1及び2の「2.⑦(2)」の各表記載のとおりとなる(争いがない。)。すなわち,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,体表ガイドの位置が2本の穿刺針のほぼ先端部にある場合(イエロー針の先端から3mmないし7mmの位置にある場合)においても,2本の穿刺針の間隔は,基端部間距離に比して先端部間距離が1.8mmないし1.9mm広くなっているため,2本の穿刺針の位置関係は,厳密な意味での「平行」にはなっていない。また,体表ガイドの位置を基端部側に徐々に移動させると,2本の穿刺針の先端部間距離と基端部間距離との差(A)は徐々に大きくなり,体表ガイドのイエロー針先端からの距離が15mmのときのAの値は2.1mmないし2.3mm,同様に50mmのときのAの値は4.2mmないし4.4mm,76mmないし80mmのときのAの値は8.5mmないし9.1mmとなって,体表ガイドを基端部側に移動させるほど,2本の穿刺針の先端部はハの字状- 79 -に広がるため,厳密な意味での「平行」からは更に遠ざかることとなる。 c このように,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,体表ガイドの位置によって,2本の穿刺針の位置関係が変動することとなるから,上記被告製品を前腹壁と胃体部前壁との固定のために穿刺する場合に想定される通常の使用態様の下における2本の穿刺針の位置関係も,当該使用態様の下において,体表ガイドがいかなる位置に置かれるものであるかによって定まるものといえる。 そこで,一体化機構による係止状態にある被告製品を前腹壁と胃体部前壁との固定のために穿刺すること 使用態様の下において,体表ガイドがいかなる位置に置かれるものであるかによって定まるものといえる。 そこで,一体化機構による係止状態にある被告製品を前腹壁と胃体部前壁との固定のために穿刺することを想定した場合に,体表ガイドがいかなる位置に置かれるのが通常であるかについて検討する。 (a) 穿刺直前に体表ガイドが置かれる位置まず,穿刺直前の時点において体表ガイドが通常置かれるべき位置について考察するに,①被告製品における「体表ガイド」という部材名からみて,体表ガイドは,患者の体表において穿刺針による穿刺をガイドする役割を果たす部材であると考えるのが自然であること,②原告製品の添付文書(甲21)の【操作方法又は使用方法等】の記載によれば,原告製品において上記「体表ガイド」に対応する部材と考えられる「スライディングプレート」の穿刺直前の時点における位置については,穿刺針の「先端から約1~2cm間」にセットするのが,一般的な使用方法とされていること(甲21の図3),③被告製品の添付文書(甲4)及びパンフレット(甲5)に記載された胃壁固定術実施中の被告製品の状態を表した図面やイラストをみても,穿刺針の抜去時を除き,いずれも体表ガイドは体表に接する位置に置かれていること,④さらに,一体化機構による係止状態にある被告製品において,体表ガイドを穿刺針の先端か- 80 -ら離れた位置に置けば,2本の穿刺針の先端部付近は,その位置を規定するものがなく不安定な状態となる上に,上記bのとおり,2本の穿刺針の先端部付近の広がりが大きくなるところ,一体化機構による係止状態にある被告製品を用いて穿刺を行おうとする医師が,あえて被告製品をこのような状態にして穿刺を開始するとは考え難いことなどの事情を総合すれば,一体化機構による係止状態にある被告製 機構による係止状態にある被告製品を用いて穿刺を行おうとする医師が,あえて被告製品をこのような状態にして穿刺を開始するとは考え難いことなどの事情を総合すれば,一体化機構による係止状態にある被告製品を前腹壁と胃体部前壁との固定のために穿刺することを想定した場合に,穿刺直前の時点において体表ガイドが置かれるであろう通常の位置は,体表ガイドがおおむね体表付近になるような位置,すなわち,2本の穿刺針の先端部に近い位置であると考えるのが合理的である。ただし,被告製品においては,体表ガイドを2本の穿刺針の針先まで移動させると,ホワイト針のホワイトウイングがスライダーの凹みに嵌合し,穿刺針が動かない状態となることからすると,穿刺直前の時点に体表ガイドが置かれるべき位置は,より正確には,2本の穿刺針の先端からやや離れた位置であって,遠くてもイエロー針の先端からの距離が15mm程度を超えない位置であるということができる。 これに対し,被告らは,被告製品の体表ガイドは,穿刺の際に体表に付着させて使用するものではなく,体表からの穿刺の深さの限界を示すものとして使用されるものであるとした上で,体表ガイドを穿刺針の先端付近に位置させた場合には,①ホワイト針のホワイトウイングがスライダーの凹みに嵌合し,穿刺ができない状態となり,また,②体表ガイドによって,施術を行う医師の穿刺部位に対する視界が遮られるといった不都合が生ずる旨を主張する。 しかしながら,被告製品の体表ガイドが体表からの穿刺の深さの限界を示すものとして使用されるとの被告らの主張は,その裏付け- 81 -となる証拠がない上に,「体表ガイド」という部材名との整合性を欠くものであって,直ちに採用し難いものである。また,上記①の点は,少なくとも体表ガイドがイエロー針の先端から15mmの位 81 -となる証拠がない上に,「体表ガイド」という部材名との整合性を欠くものであって,直ちに採用し難いものである。また,上記①の点は,少なくとも体表ガイドがイエロー針の先端から15mmの位置にある場合には当てはまるものではなく,さらに,上記②の点も,被告製品の体表ガイドが透明な素材でできており,施術を行う医師の穿刺部位に対する視界を遮ることは想定し難いことからすると,当を得た指摘とはいえない。 したがって,被告らの上記主張は,採用の限りではなく,これによって,上記認定が左右されるものではない。 (b) 穿刺後に体表ガイドが置かれる位置上記のとおり,被告製品の体表ガイドが通常体表付近に置かれる部材であることを前提にすると,穿刺後に体表ガイドが置かれる位置は,2本の穿刺針による穿刺の深さに対応することとなる。 そして,胃壁固定術における穿刺の目的からみて,穿刺の通常の深さは,2本の穿刺針の先端部が胃の中に達し,そこで縫合糸の受渡しが可能なだけの空間が確保されれば足りるものといえるから,おおむね患者の腹壁及び胃壁の通常の厚みに若干の余裕を考慮した程度のものと考えられる。 しかるところ,証拠(甲18,19)によれば,被告キットのうち,患者の胃の中に留置されるカテーテルである「イディアルボタン」においては,体外固定部(体表においてカテーテルを固定する部材)とバンパー部(胃の中においてカテーテルを固定する部材)との間の有効長(腹壁と胃壁が収まる部分)につき,2.0cmから4. 5cmまで6種類のサイズの製品があること,他方,イディアルボタンのようなボタン型のカテーテルにおいては,内部ストッパーが胃壁を圧迫しすぎることによってバンパー埋没症候群が発生する- 82 -危険性があるため,外部ストッパーと腹壁との間に1cm程 アルボタンのようなボタン型のカテーテルにおいては,内部ストッパーが胃壁を圧迫しすぎることによってバンパー埋没症候群が発生する- 82 -危険性があるため,外部ストッパーと腹壁との間に1cm程度の余裕を持たせた造設が推奨されていることが認められる。これらの事実からすれば,胃壁固定後の患者の腹壁及び胃壁の通常の厚みとして想定されるのは,厚くても3.5cm程度(イディアルボタンにおける上記有効長の最大値である4.5cmから外部ストッパーと腹壁との間に設けるべき1cmの余裕を差し引いた長さ)であると考えられる。 このように胃壁固定後の患者の腹壁及び胃壁の通常の厚みが厚くても上記3.5cm程度と考えられることなどからすれば,胃壁固定術における穿刺の通常の深さは5cm程度を超えるものではなく,したがって,被告製品による穿刺後に体表ガイドが置かれるべき位置も,イエロー針の先端からの距離が5cm(50mm)程度を超えない位置であるということができる。 d 上記cによれば,一体化機構による係止状態にある被告製品を前腹壁と胃体部前壁との固定のために穿刺する場合(使用態様1の場合)に想定される通常の使用態様の下における体表ガイドのイエロー針先端からの距離は,穿刺直前の時点における15mm程度から,穿刺後における50mm程度までの範囲で変動するものと考えられる。 そして,この中で,2本の穿刺針の先端部の間隔が最も広くなるのは,体表ガイドがイエロー針先端から50mm程度の距離にある穿刺後の状態(以下「本件穿刺後の状態」という。)であるので,この状態における2本の穿刺針の位置関係がどのようなものであるかを認定した上で,それが,上記(ア)cで述べた程度に「おおよそ平行な状態」にあるものといえるか否かを検討することとする。 (a) 被告秋田住友 における2本の穿刺針の位置関係がどのようなものであるかを認定した上で,それが,上記(ア)cで述べた程度に「おおよそ平行な状態」にあるものといえるか否かを検討することとする。 (a) 被告秋田住友ベークが,一体化機構による係止状態にある被告製品1及び2を所定の条件の下で腹壁モデルに穿刺して行った実- 83 -験(以下「被告穿刺実験」という。)に係る実験結果報告書(乙11。 以下「被告穿刺実験報告書」という。)によると,一体化機構による係止状態にある被告製品1及び2を厚さ約36mmの腹壁モデル(神谷通産株式会社Parts#60431)に穿刺するに当たり,穿刺直前の時点で体表ガイドをホワイト針の先端から15mmの位置に置き,ホワイト針の先端から50mmの深さまで(体表ガイドがホワイト針の先端から50mmの位置に来るまで)穿刺したところで,2本の穿刺針の先端部間の距離を計測したところ,被告製品1においては16.8mm,被告製品2においては20.9mmであったものとされている。 そして,上記条件の下での被告秋田住友ベークによる穿刺実験は,使用する腹壁モデルの厚さを約36mmとしている点,穿刺直前における体表ガイドの位置をホワイト針の先端から15mmとしている点,穿刺の深さを50mmとしている点において,前記cで認定した一体化機構による係止状態にある被告製品を前腹壁と胃体部前壁との固定のために穿刺する場合に想定される通常の使用態様に適合したものといえるから,被告穿刺実験の上記結果は,一体化機構による係止状態にある被告製品1及び2の本件穿刺後の状態を表すものとして一応の信頼性を置くことができる。 (b) そこで,上記被告穿刺実験の結果のうち,穿刺針先端部の広がりがより大きい被告製品2における穿刺後の状態が,一体化機構によ の状態を表すものとして一応の信頼性を置くことができる。 (b) そこで,上記被告穿刺実験の結果のうち,穿刺針先端部の広がりがより大きい被告製品2における穿刺後の状態が,一体化機構による係止状態にある被告製品における本件穿刺後の状態を表すものであることを前提として検討を進めるに,この状態における被告製品の2本の穿刺針は,その先端部間距離が20.9mm,基端部間距離が13.4mm(別紙物件目録2の2.⑦(2)の表)で,その差が7.5mmとなり,その先端部の広がり具合は,別紙「被告- 84 -穿刺実験の写真」(乙11の4頁右上の写真)のとおりであることが認められる。 しかるところ,上記状態における被告製品の2本の穿刺針の厳密な意味での「平行」に対する広がりの角度は,約4.87°(計算式:Sin-1((20.9-13.4)/88.3))にとどまるものであり,また,別紙「被告穿刺実験の写真」によれば,この状態におけるイエロー針とホワイト針との位置関係は,イエロー針から挿入した縫合糸がホワイト針の先端から突出した環状部材(スネア)の内部を貫通し得る状態にあることが明らかであるから,上記(ア)cで述べた程度に「おおよそ平行な状態」にあるものということができる。 e まとめ以上のとおり,一体化機構による係止状態にある被告製品の2本の穿刺針は,それが前腹壁と胃体部前壁との固定のための穿刺に使用される場合に想定される通常の使用態様の中で,2本の穿刺針の先端部の間隔が最も広くなった状態における位置関係,しかも,被告秋田住友ベークが行った被告穿刺実験の結果における具体的な位置関係を前提としても,前記(ア)cで述べた程度に「おおむね平行な状態」にあるものといえる。してみると,一体化機構による係止状態にある被告製品の2本の穿刺針 った被告穿刺実験の結果における具体的な位置関係を前提としても,前記(ア)cで述べた程度に「おおむね平行な状態」にあるものといえる。してみると,一体化機構による係止状態にある被告製品の2本の穿刺針は,それが前腹壁と胃体部前壁との固定のための穿刺に使用される場合に想定される通常の使用態様の下において,終始「ほぼ平行」な位置関係が維持されるものといえる。 また,構成要件Bの「所定距離離間して」との要件については,本件明細書の発明の詳細な説明における「縫合糸把持用穿刺針は,縫合糸挿入用穿刺針3より所定距離離間し,かつ,ほぼ平行となっている。 両者間の距離は,縫合糸が前腹壁と内臓壁とを固定する長さとなるものであり,5mm~30mm程度が好適である。上記範囲内であれば,- 85 -前腹壁と内臓壁との固定も十分に行え,また,2本の穿刺針を穿刺する際の抵抗もあまり大きなものとはならない。特に好ましくは,10~20mmである。」(段落【0012】)との記載に照らし,2本の穿刺針の間隔を,縫合糸が前腹壁と内臓壁とを固定する長さに応じて規定するものであり,少なくとも2本の穿刺針の間隔が本件明細書で「好適」とされる「5mmないし30mm」の範囲に収まるものであれば,構成要件Bの「所定距離離間して」との要件を充足するものといえる。 しかるところ,一体化機構による係止状態にある被告製品の2本の穿刺針の間隔は,それが前腹壁と胃体部前壁との固定のための穿刺に使用される場合に想定される通常の使用態様を前提とする限り,常に上記の範囲に収まるものであることが明らかである。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品は,そのホワイト針が,「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」に該当するものといえるから,構 ある。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品は,そのホワイト針が,「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」に該当するものといえるから,構成要件Bを充足する。 (ウ) 構成要件Dの充足性a 一体化機構による係止状態にある被告製品においては,イエロー針の基端部に設けられたブルーウイングとホワイト針の基端部に設けられたホワイトウイングとが一体化機構によって係止されることにより,2本の穿刺針の基端部は,力を加えて係止を外さない限りは,ほぼ動かない状態となる。また,上記状態にある被告製品の2本の針は,前記(イ)で認定したとおり,それが前腹壁と胃体部前壁との固定のための穿刺に使用される場合に想定される通常の使用態様の下において,終始「ほぼ平行」な位置関係が維持されることとなるが,そのような位置関係は,上記ブルーウイング及びホワイトウイングが一- 86 -体化機構によってほぼ動かない状態にされるとともに,体表ガイド上の二つの穴が2本の穿刺針をガイドしていることによって実現されることといえる。 以上によれば,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,一体化機構によって係止されたブルーウイング及びホワイトウイングが,イエロー針とホワイト針をその基端部において固定し,これによって両穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を実現する役割を果たしているものと認められるから,構成要件Dの「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」に該当するものといえる。 b これに対し,被告らは,構成要件Dにおける縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針の基端部の「固定」とは,2本の穿刺針を人体に対して安全確実に同時に穿刺し得る程度の固定を意味するとした上で,被告製品 れに対し,被告らは,構成要件Dにおける縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針の基端部の「固定」とは,2本の穿刺針を人体に対して安全確実に同時に穿刺し得る程度の固定を意味するとした上で,被告製品のブルーウイング及びホワイトウイングの一体化機構は,係止が簡単に外れるものであって,2本の穿刺針を人体に対して安全確実に同時に穿刺し得る程度に固定するものではないから,構成要件Dの「固定部材」に該当しない旨を主張する。 この点,本件発明1の特許請求の範囲の記載や本件明細書の記載をみても,2本の穿刺針の基端部が「固定部材」に固定される程度や強度については特段の明示的な記載はない。しかし,前記(ア)cのとおり,本件発明1において,2本の穿刺針の基端部を「固定部材」によって固定するという構成が採用されたのは,縫合糸挿入用穿刺針から挿入した縫合糸が縫合糸把持用穿刺針の先端から突出した環状部材の内部を貫通するような2本の穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係(構成要件B)を実現し,これによって2本の穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造としたものであることからすれば,本件発明1におけ- 87 -る「固定部材」による2本の穿刺針の基端部の固定が,上記の位置関係を実現できる程度の強度によるものであることが前提とされているというべきである。加えて,本件発明1が2本の穿刺針からなる医療用器具についての発明であることからすると,人体に対して安全に使用され得るものであることは当然の前提とされているはずであり,その意味で,少なくとも,部材によって2本の穿刺針の基端部を固定する(動かないようにする)構成が,通常の使用態様の下において機能しないものであって,2本の穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を維持することができず,ひいては,人体に対して安全に使用することができないよ る(動かないようにする)構成が,通常の使用態様の下において機能しないものであって,2本の穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を維持することができず,ひいては,人体に対して安全に使用することができないようなものであるとすれば,そのような構成が,構成要件Dの「固定部材」による固定といえないことは,首肯し得るところといえる。 そこで,かかる観点から,一体化機構による係止状態にある被告製品におけるブルーウイングとホワイトウイングとの係止の状態が具体的にどのようなものであるかにつき検討するに,検乙1(被告製品2)によれば,ブルーウイングとホワイトウイングとの係止は,ホワイトウイングの上にブルーウイングが重ね合わされた状態で,ホワイトウイングの中央部に設けられた凸状部をブルーウイングの中央部に設けられた凹状部に嵌合することによって実現するものであり,いったん嵌合が行われれば,ブルーウイングとホワイトウイングとを引き離す方向に特に力を加えない限り,上記嵌合が外れることはなく,2本の穿刺針の基端部の「ほぼ動かない状態」が維持されることになる。そして,一体化機構による係止状態にある被告製品を前腹壁と胃体部前壁との固定のための穿刺に使用する場合には,当該被告製品の構造からみて,重ね合わされたホワイトウイングとブルーウイングを上下から両手の親指と人差し指で挟んで保持するのが通常と考えら- 88 -れるところ,このような通常の使用態様の下においては,両ウイングの係止状態が指の保持力によって補強されることとなり,穿刺中に両ウイングの嵌合が外れるような事態は,通常想定し難いことといえる。しかも,後記2(1)イのとおり,本件調査嘱託の結果によれば,被告製品の使用経験がある医師のうちの相当数が,現に被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用した経験があるとい 常想定し難いことといえる。しかも,後記2(1)イのとおり,本件調査嘱託の結果によれば,被告製品の使用経験がある医師のうちの相当数が,現に被告製品を一体化同時穿刺の方法により使用した経験があるという事実が認められるのであり,このことは,一体化機構による係止状態にある被告製品を使用した穿刺手技中に,ブルーウイングとホワイトウイングとの嵌合が外れるような事態は通常生じないものであることを如実に示しているということができる。 以上を総合すれば,一体化機構による係止状態にある被告製品のブルーウイングとホワイトウイングとの係止は,被告製品を用いた穿刺手技における通常の使用態様の下において,2本の穿刺針を動かないようにして,「ほぼ平行」な位置関係を維持する機能を果たすものであり,人体に対して安全に使用することができないようなものであるともいえない。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品において,一体化機構によって係止されたブルーウイングとホワイトウイングをもって,イエロー針とホワイト針をその基端部において固定する「固定部材」ということを妨げるべき事情は認められず,被告らの上記主張は採用することができない。 c 以上の次第であるから,一体化機構による係止状態にある被告製品は,構成要件Dを充足する。 イ構成要件Fの充足性について(ア) 被告製品のホワイト針の中に収容されたスタイレットの先端側にあるスネアが,構成要件Eの「環状部材」に該当することは,前記争い- 89 -のない事実等(5)ウのとおりである。 検乙1(被告製品2)によれば,一体化機構による係止状態にある被告製品において,上記スネアは,これをホワイト針の先端から突出させると,イエロー針の中心軸又はその延長線が,当該スネアの内部を貫通するようにイエロー 品2)によれば,一体化機構による係止状態にある被告製品において,上記スネアは,これをホワイト針の先端から突出させると,イエロー針の中心軸又はその延長線が,当該スネアの内部を貫通するようにイエロー針の方向に延びるものであることが明らかである。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品は,そのスタイレットの先端側にあるスネアが,「前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ものに該当するから,構成要件Fを充足する。 (イ) これに対し被告らは,①本件各発明の特徴は,患者の胃の中において,縫合糸を縫合糸挿入用穿刺針から縫合糸把持用穿刺針に自動的に受け渡すことができる手段を提供することにあるとした上で,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)では,上記特徴に対応する構成として,構成要件Fの「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」という機能的記載による構成が示されているのみで,これを実現するための具体的な装置構成が示されていないところ,本件明細書の発明の詳細な説明において,縫合糸の自動的な受渡しを行うための装置構成として具体的に記載されているのは,縫合糸把持用穿刺針の先端が縫合糸挿入用穿刺針側に湾曲したもの(本件明細書の段落【0012】,図1,4,7ないし10)のみであるから,構成要件Fの機能的記載は,発明の特徴として本件明細書で具体的に開示されている上記構成のものに限定して解釈されるべきである,②一体化機構による係止状態にある被告製品は,ホワイト針の先端がイエロー針の方 要件Fの機能的記載は,発明の特徴として本件明細書で具体的に開示されている上記構成のものに限定して解釈されるべきである,②一体化機構による係止状態にある被告製品は,ホワイト針の先端がイエロー針の方に曲げられているもので- 90 -はないから,構成要件Fを充足しない旨主張する。 しかしながら,被告らの主張は,以下のとおり理由がない。 a まず,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,文言上,「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との構成(構成要件F)について,特に限定する記載はない。 b 次に,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,「環状部材」に関し,次のような記載がある。 (a) 「…さらに,後述するスタイレット4の環状部材5が,確実に縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるようにするために,縫合糸把持用穿刺針2の先端の刃面は,図1に示すように,縫合糸挿入用穿刺針3方向に向かって開口していることが好ましい。また,この縫合糸把持用穿刺針2としては,通常の直管状のものでもよい。また,図1に示すような,刃面部分を含む先端部が,湾曲したものを用いてもよい。このようにすれば,より確実に,後述するスタイレット4の環状部材5が,縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるようにすることができる。」(段落【0012】)(b) 「スタイレット4は,図1および図2に示すように,縫合糸把持用穿刺針2の内径より小さい外径を有する棒状部材13と,この棒状部材13の先端に固定された環状部材5と,棒状部材13の基端部に固定されたスタイレットハブ9とを有している。そして,環状部材5は,弾性材料により形成されており,縫合糸把持 る棒状部材13と,この棒状部材13の先端に固定された環状部材5と,棒状部材13の基端部に固定されたスタイレットハブ9とを有している。そして,環状部材5は,弾性材料により形成されており,縫合糸把持用穿刺針2の先端より突出した状態では,図1および図2に示すような,環状となり,突出させない状態では,図4に示すように,変形し,ほぼ直線状となり縫合糸把持用穿刺針2の内部に収納可能である。よ- 91 -って,スタイレット4の棒状部材13および環状部材5部分は,縫合糸把持用穿刺針2の内部を摺動可能となっている。この実施例のスタイレット4は,穿刺針2より抜去可能となっている。…そして,スタイレット4の環状部材5は,穿刺針2の先端より突出した状態において,図1および図2に示すように,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸またはその延長線が,環状部材5の内部を貫通するように縫合糸挿入用穿刺針3方向に延びるように形成されている。具体的には,図1に示すように,環状部材5は,棒状部材13の先端にある程度の角度をもって固定されており,さらに,環状部材5は,側面から見た状態にて,中央部または中央部より若干先端側部分が底部となる湾曲形状となっていることが好ましい。このように形成することにより,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸またはその延長線が,より確実に環状部材5の内部を貫通するようになる。さらに,環状部材5の先端部は,ほぼ先端を中心とするV字またはU字状となっており,距離が狭くなった縫合糸把持部14を形成していることが好ましい。このような,縫合糸把持部14を設けることにより,縫合糸挿入用穿刺針3より突出する縫合糸12をより確実に,把持することができる。」(段落【0015】)(c) 「…また,環状部材5の形成材料としては,ステンレス鋼線(好ましくは,バネ用高張力 ,縫合糸挿入用穿刺針3より突出する縫合糸12をより確実に,把持することができる。」(段落【0015】)(c) 「…また,環状部材5の形成材料としては,ステンレス鋼線(好ましくは,バネ用高張力ステンレス鋼),ピアノ線(好ましくは,ニッケルメッキあるいはクロムメッキが施されたピアノ線),または超弾性合金線,例えば,Ti-Ni合金,Cu-Zn合金,Cu-Zn-X合金(X=Be,Si,Sn,Al,Ga),Ni-Al合金等の弾性金線が好適に使用される。…さらに,図1および図2に示すように,スタイレットハブ9にリブ16を設け,穿刺針ハブ7にこのリブ16と係合するスリット17を設け,縫合糸把持用- 92 -穿刺針2内に,完全にスタイレット4を挿入した状態が確定されるようにすることが好ましい。このようにすることにより,スタイレット4の環状部材5が,確実に縫合糸挿入用穿刺針3方向を向くようにすることができる。」(段落【0016】)(d) 「さらに,図1に示す実施例では,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸の延長線が,環状部材5の内部を貫通するよう構成されているが,環状部材5の縫合糸把持用穿刺針2内部からの突出作業および収納作業を阻害しないものであれば,縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸,言い換えれば,縫合糸挿入用穿刺針3の先端部そのものが,環状部材5が形成する環状空間を直接貫通するように構成してもよい。」(段落【0017】)c 以上を前提に検討するに,本件明細書に接した当業者は,請求項1記載の「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との構成は,前記bの記載事項及びこれに引用された図1(別紙本件明細書の図面 き,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との構成は,前記bの記載事項及びこれに引用された図1(別紙本件明細書の図面参照)から,縫合糸挿入用穿刺針先端より突出させた縫合糸を縫合糸把持用穿刺針先端より突出した環状部材の内部を確実に通過させ,縫合糸の受渡しを行うことができるようにするための構成であると理解し,上記構成を実現するための技術的手段として図1に示すように環状部材が縫合糸把持用穿刺針2の先端の刃面に向かって開口し,刃面部分を含む先端部が湾曲している態様のものがあることを認識するとともに,これ以外の態様のものであっても,上記構成を採用すれば,縫合糸挿入用穿刺針先端より突出させた縫合糸を縫合糸把持用穿刺針先端より突出した環状部材の内部を確実に通過させ,縫合糸の受け渡しを行うことができることを理解するものと認め- 93 -られる。 そうすると,構成要件Fの「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」の構成を,被告ら主張の縫合糸把持用穿刺針の先端が縫合糸挿入用穿刺針側に湾曲したものに限定すべき理由はない。 したがって,被告製品が構成要件Fを充足しないとの被告らの主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。 ウ構成要件Hの充足性被告製品においては,スライダーの先端に,「板状の,底面が平らで略小判形状に形成されている体表ガイド」が設けられ,ホワイト針の先端側がこの体表ガイドを摺動可能に貫通するように設けられている。 また,体表ガイドは,イエロー針の先端を貫通させるイエロー針挿入口を備えているところ, ている体表ガイド」が設けられ,ホワイト針の先端側がこの体表ガイドを摺動可能に貫通するように設けられている。 また,体表ガイドは,イエロー針の先端を貫通させるイエロー針挿入口を備えているところ,一体化機構による係止状態にある被告製品においては,イエロー針がイエロー針挿入口に沿って体表ガイドを摺動可能に貫通する状態となる。 したがって,一体化機構による係止状態にある被告製品は,その体表ガイドが,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材」に該当するから,構成要件Hを充足する。 エ構成要件Iの充足以上によれば,一体化機構による係止状態にある被告製品は,構成要件AないしGをいずれも充足するものといえるから,「請求項1に記載の医療用器具」に該当し,構成要件Iを充足する。 オ小括以上の次第であるから,原告主張の使用態様1(係止して同時に穿刺す- 94 -る態様)の下における一体化機構による係止状態にある被告製品の構成は,本件発明1に係る構成要件AないしG並びに本件発明2に係る構成要件H及びIをいずれも充足するから,本件各発明の技術的範囲にいずれも属する。 なお,原告主張の使用態様3及び4は,いずれも穿刺後に被告製品において一体化機構による係止を行うものであり,穿刺時には一体化機構を利用していないので,上記の検討とは別個の考察が必要である。そして,本件各発明の技術的意義の一つが構成要件B及びDを採用したことにより2本の針をほぼ平行に同時穿刺する構造としたことにあること(前記ア(ア)b)に照らすと,まず,穿刺時の状態を基準に考察すべきであるから,使用態様3は,指による重ね保持状態にある被告製品の場合において検討し,使用態様4は,使用態様2と同様に検討することとする。 (2 )b)に照らすと,まず,穿刺時の状態を基準に考察すべきであるから,使用態様3は,指による重ね保持状態にある被告製品の場合において検討し,使用態様4は,使用態様2と同様に検討することとする。 (2) 指による重ね保持状態にある被告製品の場合ア構成要件Dの充足性について前記(1)ア(ア)cで述べたとおり,構成要件Dの「固定部材」とは,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をその基端部において固定する(動かないようにする)ことにより,両穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を実現する役割を果たす部材を意味するものといえる。 しかるところ,原告は,指による重ね保持状態にある被告製品においては,指による2枚のウイングの重ね合わせと使用時に穿刺針の先端に置かれる体表ガイドによって,2本の穿刺針は確実に「ほぼ平行」な状態に保持されることになるから,ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイドが,構成要件Dの「固定部材」に該当する旨を主張する。 そこで,検乙1(被告製品2)に基づき,指による重ね保持状態,すなわち,イエロー針を体表ガイドのイエロー針挿入口に挿入し,ホワイトウイングとブルーウイングを一体化機構による係止は行わずに,術者が指で- 95 -重ねて保持した状態にある被告製品の状況をみると,2本の穿刺針の基端部は,指による保持を続ける限り容易には動かない状態となり,また,このような基端部の状態と体表ガイドの存在によって,2本の穿刺針の位置関係は,体表ガイドが置かれる位置にかかわらず「ほぼ平行」な状態に維持されるものといえる。 しかしながら,上記のとおり2本の穿刺針の基端部が容易に動かないという状態は,専ら術者の指の保持力によって実現されるものであって,ホワイトウイングやブルーウイングそれ自体に備わる構成によって実現される しながら,上記のとおり2本の穿刺針の基端部が容易に動かないという状態は,専ら術者の指の保持力によって実現されるものであって,ホワイトウイングやブルーウイングそれ自体に備わる構成によって実現されるものではない。 一般に,「固定部材」とは,ある物とある物とを固定する(動かないようにする)役割を果たす部材を意味するものと解されるが,このような「固定部材」といえるためには,部材それ自体が上記固定の役割を果たすものであることが必要とされると解される。かかる観点から指による重ね保持状態にある被告製品のホワイトウイングとブルーウイングをみると,これらの部材それ自体が,その構成によって2本の穿刺針の基端部を固定する役割を果たすものではないから,これらの各ウイングをもって,構成要件Dの「固定部材」に当たるということはできない。 また,構成要件Dは,「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」の構成を規定するものであり,この「固定部材」は,2本の穿刺針の「基端部」を固定する構成のものであるところ,被告製品の体表ガイドは,二つの穴が2本の穿刺針の先端側をガイドすることにより,2本の穿刺針の位置関係を「ほぼ平行」な状態に維持することに寄与する部材とはいえるものの,2本の穿刺針の「基端部」の固定に寄与するものでないことは明らかであるから,上記ホワイトウイングとブルーウイングに体表ガイドを加えたとしても,これらの部材が構成要件Dの「固定部材」に当たるものということはできない。 - 96 -以上のとおり,指による重ね保持状態にある被告製品においては,原告が構成要件Dの「固定部材」に当たるものとして主張する「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」は,いずれもこれに当たるものとはいえず,また,そのほかに 持状態にある被告製品においては,原告が構成要件Dの「固定部材」に当たるものとして主張する「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」は,いずれもこれに当たるものとはいえず,また,そのほかに上記「固定部材」に当たる構成を認めることもできない。 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品は,構成要件Dを充足しない。 イ均等侵害の成否について(ア) 原告は,指による重ね保持状態にある被告製品における「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」の構成が構成要件Dの「固定部材」と相違し,構成要件Dを充足していないとしても,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する旨主張する。 特許権侵害訴訟において,特許発明に係る願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造,販売等をする製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存する場合であっても,①当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,②当該部分を対象製品におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,③上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品の製造,販売等の時点において容易に想到することができたものであり,④対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,その対象製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であ- 97 -る(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2 もないときは,その対象製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であ- 97 -る(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。 そうすると,指による重ね保持状態にある被告製品の構成が本件各発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるためには,まず,指による重ね保持状態にある被告製品において置換されている構成要件Dの「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設ける構成が,本件各発明の本質的部分ではないことが必要となる。 (イ) そこで検討するに,本件発明1は,前記(1)ア(ア)b認定のとおり,内視鏡的胃瘻造設術などの際にカテーテルの挿入を容易にするために行われる前腹壁と胃体部前壁等の内臓壁との固定に使用される医療用器具に関するものであり,縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成(構成要件B及びD)を採用したことにより,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造とするとともに,胃内などの内臓内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸又はその延長線が,環状部材の内部を貫通するような位置関係となるように,環状部材が縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる構成(構成要件F)を採用したことで,縫合糸が確実に環状部材の内部を貫通するようにし,これによって前腹壁と胃体部前壁等とを,容易かつ短時間に,安全かつ確実に固定することができ,この固定に伴う患者への侵襲も少なく,患者に与える負担も少なくする効果を奏するようにしたことに るようにし,これによって前腹壁と胃体部前壁等とを,容易かつ短時間に,安全かつ確実に固定することができ,この固定に伴う患者への侵襲も少なく,患者に与える負担も少なくする効果を奏するようにしたことに技術的意義がある。 そうすると,本件発明1の構成のうち,構成要件Dに係る「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設ける構成は,本件発明1における課題解決のための手段を基礎付け- 98 -る技術的思想の中核をなす特徴的部分であることが明らかである。 (ウ) これに対し原告は,2本の穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を維持するために,指を併用するか,部材自体の構成のみによるかは,本件発明1の目的・効果を実現する上で本質的な相違ではない旨を主張する。 しかし,本件発明1においては,2本の穿刺針を穿刺した上での縫合による前腹壁と内臓壁との固定を,「容易,かつ短時間に,さらに安全かつ確実に」行うという目的・効果を実現するべく,2本の穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を実現する具体的な手段として,専ら術者の指による保持によって実現される固定などではなく,「固定部材」を用いた固定という,より容易で,安全かつ確実な構成を採用したものであると考えられるから,原告の上記主張は失当というべきである。 (エ) 以上によれば,構成要件Dの「固定部材」の構成は,本件発明1の本質的部分というべきであり,これを欠いている指による重ね保持状態にある被告製品は,本件発明1の構成と均等なものとはいえないから,均等侵害が成立する旨の原告の上記主張は理由がない。 ウ小括以上によれば,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件発明1に係る構成要件Dを充足せず,また,原告主張の均等侵害も認められない。 そうすると,指による重ね保 由がない。 ウ小括以上によれば,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件発明1に係る構成要件Dを充足せず,また,原告主張の均等侵害も認められない。 そうすると,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,「請求項1に記載の医療用器具」にも該当せず,本件発明2の構成要件Iを充足しない。 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品の構成(原告主張の使用態様3及び5)は,その余の点につき判断するまでもなく,本件各発明の技術的範囲にいずれも属しない。 (3) 使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の場合- 99 -ア構成要件Dの充足性について原告は,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品について,イエロー針が体表ガイドのイエロー針挿入口に差し込まれ,ブルーウイングがホワイトウイングに重ね合わせられることにより,両ウイングに手を触れることなく,被告製品を軽く動かしてみても,イエロー針はホワイト針に対して動かない状態となるとした上で,このような状態にある被告製品においては,ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイドが,構成要件Dの「固定部材」に該当する旨を主張する。 そこで,検乙1(被告製品2)に基づき,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の状況をみると,2本の穿刺針は,体表ガイドの二つの穴が2本の穿刺針の先端側をガイドすることの結果として,「ほぼ平行」な位置関係となり,被告製品を軽く動かす程度では,2本の穿刺針の位置関係がほとんど動かないことが認められるものの,ブルーウイングとホワイトウイングは,前者が後者に軽く乗った状態となるだけで,両者が固定されることは全くない。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品にお るものの,ブルーウイングとホワイトウイングは,前者が後者に軽く乗った状態となるだけで,両者が固定されることは全くない。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,ホワイトウイングとブルーウイングが,2本の穿刺針の基端部を固定する役割を果たすものでないことは明らかであるから,これらの各ウイングをもって,構成要件Dの「固定部材」に当たるということはできない。また,被告製品の体表ガイドは,二つの穴が2本の穿刺針の先端側をガイドすることにより,2本の穿刺針の位置関係を「ほぼ平行」な状態に維持することに寄与する部材とはいえるものの,2本の穿刺針の「基端部」の固定に寄与するものでないことは明らかであるから,上記ホワイトウイングとブルーウイングに体表ガイドを加えたとしても,これらの部材が構成要件Dの「固定部材」に当たるものということはできない。 以上のとおり,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告- 100 -製品においては,原告が構成要件Dの「固定部材」に当たるものとして主張する「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」は,いずれもこれに当たるものとはいえず,また,そのほかに上記「固定部材」に当たる構成を認めることもできない。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品は,構成要件Dを充足しない。 イ均等侵害の成否について原告は,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品について,構成要件Dを充足していないとしても,当該状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する旨主張する。 しかしながら,構成要件Dの「固定部材」を設ける構成が本件発明1の本質的部分であって,均等侵害が成立する旨の原 の構成は,本件各発明と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する旨主張する。 しかしながら,構成要件Dの「固定部材」を設ける構成が本件発明1の本質的部分であって,均等侵害が成立する旨の原告の上記主張に理由がないことは,前記(2)イで述べたところと同様である。 ウ小括以上によれば,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,本件発明1の構成要件Dを充足せず,また,原告主張の均等侵害も認められない。 そうすると,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,「請求項1に記載の医療用器具」にも該当せず,本件発明2の構成要件Iを充足しない。 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,その余の点につき判断するまでもなく,本件各発明の技術的範囲にいずれも属しない。 これと同様に,原告主張の使用態様4の下における被告製品の構成についても,穿刺時に「固定部材」に当たるものが存在するとは認められない- 101 -から,構成要件Dを充足せず,また,原告主張の均等侵害も認められないから,本件各発明の技術的範囲にいずれも属しない。 (4) まとめ以上のとおり,原告が主張する被告製品の使用態様に応じた前記①ないし③の構成のうち,使用態様1の下における一体化機構による係止状態にある被告製品の構成は,本件各発明の技術的範囲に属するものといえるが,その余の状態にある被告製品の構成は,いずれも本件各発明の技術的範囲に属するものとはいえない。 2 争点2(間接侵害の成否)について原告は,被告らが業として被告製品を製造,販売する行為は,本件各発明に係る原告の本件専用実施権の間接侵害(特許法101条2号)を構成する旨主張する。 前記争いのない事実等( の成否)について原告は,被告らが業として被告製品を製造,販売する行為は,本件各発明に係る原告の本件専用実施権の間接侵害(特許法101条2号)を構成する旨主張する。 前記争いのない事実等(5)アと証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,①被告オリンパスメディカル作成の被告キットに関するパンフレット(甲5)の裏表紙には,「製造販売元/秋田住友ベーク株式会社」,「販売元/オリンパスメディカルシステムズ株式会社」との記載があること,②被告オリンパスメディカルにおける被告キットの仕入購入先は被告秋田住友ベークだけであり,被告キットについては,被告秋田住友ベークが製造した被告キットを,被告オリンパスメディカルが全量購入して販売店等に販売し,販売店等を通じて病院等の医療機関に販売されるという取引形態が採られていることが認められる。 そこで,以下において,原告主張の間接侵害の成立要件について,順次検討することとする。 (1) 「その物の生産に用いる物であること」についてア原告が主張する被告製品の使用態様に応じた被告製品の構成のうち,使用態様1の下における一体化機構による係止状態にある被告製品の構成が,本件各発明の技術的範囲に属することは,前記1(4)のとおりである。 - 102 -そうすると,胃瘻造設のための胃壁固定術における穿刺及び縫合糸の受渡しに使用するために,被告製品のイエロー針を体表ガイドのイエロー針挿入口に挿入し,一体化機構によってホワイトウイングとブルーウイングを係止し,これをもって一体化機構による係止状態にある被告製品を作出することは,本件各発明の技術的範囲に属する物を「生産」する行為に当たり,被告製品は特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」に該当するものと解される。 してみると,被告製品を使用した胃 出することは,本件各発明の技術的範囲に属する物を「生産」する行為に当たり,被告製品は特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」に該当するものと解される。 してみると,被告製品を使用した胃瘻造設のための胃壁固定術において,被告製品を一体化機構により係止した状態のままで胃壁固定術における穿刺及び縫合糸の受渡しに用いることが,医師らによる被告製品の使用態様として格別特異なものではなく,通常行われる被告製品の使用態様の一つであることが認められるとすれば,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる物として,特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」に該当するということができる。 イ(ア) そこで,被告製品を一体化機構により係止した状態のままで胃壁固定術における穿刺等に用いることが,被告製品を使用する医師らによって通常行われる被告製品の使用態様の一つといえるか否かにつき検討するに,この点に関しては,裁判所が平成22年7月に実施した本件調査嘱託の結果が,最も有力な証拠資料になるものというべきである。 すなわち,本件調査嘱託は,当事者双方の意見に基づいて確定した全国各地にある医療機関の名簿から,裁判所が無作為に抽出した200の医療機関に対し,①被告製品の使用経験の有無,②使用経験がある場合には,その症例数,③被告製品の使用に当たって採用した穿刺の方法(「a.2本の穿刺針を1本ずつ穿刺する」,「b.ブルーウイングとホワイトウイングを一体化機構によって一体化した上で,2本の穿刺針を同時に穿刺する」,「c.ブルーウイングとホワイトウイングを指- 103 -で重ねて持ち,一体化機構によって一体化することなく,2本の穿刺針を同時に穿刺する」のいずれであるか。)とその方法ごとの症例数にについて回答を求めたものである。 トウイングを指- 103 -で重ねて持ち,一体化機構によって一体化することなく,2本の穿刺針を同時に穿刺する」のいずれであるか。)とその方法ごとの症例数にについて回答を求めたものである。 本件調査嘱託は,対象となる医療機関の数,分布,抽出方法,質問の内容,回答数等に照らし,全国の医療機関における一般的な傾向を客観的に把握するための調査として合理性のあるものであり,本件調査嘱託の結果は,医師らによる被告製品の使用実態を示す直接的かつ客観的な証拠資料として,高い証拠価値を有するものということができる。 (イ) しかるところ,本件調査嘱託の結果は,次のとおりである。 a 裁判所に回答書を提出した183の医療機関のうち,被告製品の使用経験があると回答したのは60の医療機関であり,このうち,被告製品の使用態様まで回答したのは58の医療機関である(残り2の医療機関は,上記②の使用症例の総数のみを回答した。)。 b 上記58の医療機関のうち,「ブルーウイングとホワイトウイングを一体化機構によって一体化した上で,2本の穿刺針を同時に穿刺する」という方法(すなわち,一体化同時穿刺の方法)のみを回答したのは15の医療機関であり,一体化同時穿刺とそれ以外の方法を併せて回答したのは11の医療機関である。 c 上記58の医療機関が回答した穿刺の方法ごとの症例数をみると,被告製品が使用された症例数の合計2869のうち,一体化同時穿刺に係る症例数の合計は785である(ただし,症例数について,「80~100例」と回答したもの(1件)については,中間値である「90」として集計し,また,「数例」と回答したもの(1件)については,集計対象外とした。)。 (ウ)a 上記(イ)によると,本件調査嘱託の結果においては,被告製品の使用経験があるとし,かつ,被告製 0」として集計し,また,「数例」と回答したもの(1件)については,集計対象外とした。)。 (ウ)a 上記(イ)によると,本件調査嘱託の結果においては,被告製品の使用経験があるとし,かつ,被告製品を用いた穿刺の方法を回答した- 104 -58の医療機関のうち,一体化同時穿刺のみを採用している医療機関は,約26%(15/58)であり,それ以外の方法も併せて採用している医療機関も含めると,約45%((15+11)/58)の医療機関が一体化同時穿刺を採用した実績があること,また,上記58の医療機関における被告製品の使用症例を横断的にみると,合計2869の症例の約27%に当たる785の症例において,一体化同時穿刺が採用されていることが示されているものといえる。 そして,このような本件調査嘱託の結果からすれば,一体化同時穿刺という被告製品の使用態様が,特異なものではなく,医師らによって通常行われ得る被告製品の使用態様の一つであるものと認めることができる。 b これに対し被告らは,被告製品の一体化機構は,ホワイト針とイエロー針とを一体化して廃棄する際に用いるためのものであり,被告製品を施術に使用する医師が一体化同時穿刺を行うことは通常考えられない旨主張し,その根拠として,①一体化機構による係止状態にある被告製品の構成等(2本の穿刺針の間隔が先端に行くほどハの字状に広がっていることなど)に照らし,一体化同時穿刺には,胃やその付近の内臓等を損傷する危険性があること,②そのような危険性は,被告製品の添付文書にも記載されていること,③被告製品を使用する医師らにおいてもそのような危険性は当然認識するはずであることなどを指摘する。 しかしながら,被告らの指摘する上記①ないし③の諸点は,医師らによる被告製品の使用実態が明らかでない場合に,通 する医師らにおいてもそのような危険性は当然認識するはずであることなどを指摘する。 しかしながら,被告らの指摘する上記①ないし③の諸点は,医師らによる被告製品の使用実態が明らかでない場合に,通常考えられる使用態様を推測する根拠を述べるものとしては意味を持ち得るとしても,本件調査嘱託の結果に具体的に示された医師らによる被告製品の使用実態に基づく上記aの認定を左右する根拠となり得るものでは- 105 -ないというべきである。 したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。 ウ(ア) 以上によれば,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる物であると認められ,特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」に該当する。 (イ) この点について,被告らは,被告製品のイエロー針とホワイト針は,日本国内において広く一般に流通している医療用の中空針にすぎないから,被告製品は,特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」から除外される同号括弧書きの「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たる旨主張する。 そこで検討するに,特許法101条2号括弧書きの「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味するものと解される。 しかるところ,証拠(甲4,5,検乙1)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のイエロー針とホワイト針は,それらが組み合わされて胃瘻造設のための胃壁固定術という特定の用途に使用されるものとして特に設計されたものであり,ホワイト針においては,中空の穿刺針本体のほか,その上端のつまみ部(ハブ),スライダー,ホワイトウイング,体 瘻造設のための胃壁固定術という特定の用途に使用されるものとして特に設計されたものであり,ホワイト針においては,中空の穿刺針本体のほか,その上端のつまみ部(ハブ),スライダー,ホワイトウイング,体表ガイド,スタイレット等の各部材が組み合わされ,また,イエロー針においては,中空の穿刺針本体のほか,その上端のつまみ部(ハブ),ブルーウイング等の各部材が組み合わされ,これらがそれぞれの機能を発揮することによって,被告製品に特有の胃壁固定が行われ得るように構成されていることが認められる。 してみると,被告製品の2本の穿刺針(イエロー針とホワイト針)は,- 106 -それぞれ胃瘻造設のための胃壁固定具である被告製品に特有の構成を備えた「医療用の中空針」であって,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品に相当するような単なる「医療用の中空針」とはいえないから,特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらないことは明らかである。 したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。 (2) 「課題の解決に不可欠なもの」について前記1(1)ア(ア)bで述べたとおり,本件各発明は,腹部内臓に経皮的にカテーテルを挿入するために行われる前腹壁と内蔵壁との固定に使用される医療用器具に関し,当該固定を容易,かつ短時間に,さらに安全かつ確実に行うという課題を,縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成(構成要件B及びD)を採用したことにより,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造とするとともに,胃内などの内臓内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿 採用したことにより,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造とするとともに,胃内などの内臓内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸又はその延長線が,環状部材の内部を貫通するような位置関係となるように,環状部材が縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる構成(構成要件F)を採用したことで,縫合糸が確実に環状部材の内部を貫通するようにして,解決したものといえる。 しかるところ,前記1(1)で述べたとおり,被告製品の2本の穿刺針(イエロー針とホワイト針)は,そのホワイトウイングとブルーウイングにある一体化機構を用いて係止状態とすれば,それによって本件各発明に係る上記構成が実現されることとなるものであるから,これら2本の穿刺針が,本件各発明による課題の解決に不可欠なものであることは明らかといえる。 したがって,被告製品は,本件各発明との関係において,特許法101条2号の「課題の解決に不可欠なもの」に該当する。 - 107 -(3) 「その発明が特許発明であること及びその発明の実施に用いられることを知っていたこと」についてア本件各発明が特許発明であることの認識について証拠(甲27,28)によれば,本件特許の特許権者のX1の代理人弁護士らは,平成18年12月22日,被告秋田住友ベークに対し,被告秋田住友ベーク製造の胃壁固定具が本件特許に抵触することを警告する旨の通知書(本件通知書)を送付したこと,さらに,X1の代理人弁護士らは,同日,被告オリンパスメディカルに対し,被告秋田住友ベークに対し本件通知書を送付した旨を記載するとともに,本件通知書の写しを添付した書面を送付したことが認められる。 これらの事実によれば,被告らが,遅くとも平成19年4月 カルに対し,被告秋田住友ベークに対し本件通知書を送付した旨を記載するとともに,本件通知書の写しを添付した書面を送付したことが認められる。 これらの事実によれば,被告らが,遅くとも平成19年4月に被告製品の販売を開始する時点までに,本件各発明が特許発明に該当することを認識したことは明らかである。 イ被告製品が本件各発明の実施に用いられることの認識について(ア) 前記(1)で述べたとおり,被告製品を胃瘻造設のための胃壁固定術に使用する医師らにおいては,被告製品の通常の使用態様の一つとして,被告製品を一体化同時穿刺(ブルーウイングとホワイトウイングを一体化機構によって一体化した上で,2本の穿刺針を同時に穿刺すること)を行うことがあることが認められるところ,その際に医師らが行う行為は,本件各発明の技術的範囲に属する物に該当する「一体化機構による係止状態にある被告製品」を生産し,かつ,使用する行為であって,本件各発明を実施する行為に当たるものと認められる。 してみると,被告らにおいて,被告製品を製造,販売するに当たり,被告製品を入手した医師らがこれを用いて胃壁固定術を行う際に一体化同時穿刺を行うことがあり得ることを認識していたとすれば,被告らは,被告製品が本件各発明の実施に用いられることを知っていたものと- 108 -いうことできる。 この点,原告は,被告製品の販売が開始された平成19年4月の時点,遅くとも平成20年2月26日の時点,あるいは,更に遅くとも本件訴状送達の時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)には,被告らにおいて,医師らが被告製品を一体化同時穿刺の方法で使用することを認識していた旨主張する。これに対し,被告らは,本件調査嘱託の結果を見 告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)には,被告らにおいて,医師らが被告製品を一体化同時穿刺の方法で使用することを認識していた旨主張する。これに対し,被告らは,本件調査嘱託の結果を見た平成22年9月までは,医師らが被告製品を一体化同時穿刺の方法で使用することがあることを認識していなかった旨主張するので,検討することとする。 (イ)a 前記争いのない事実等(4)と証拠(甲4,7,8,13,27,28,38,乙12,24ないし26(いずれも枝番のあるものは枝番を含む。),本件調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば,①経皮内視鏡的胃瘻造設術の術式のうち,イントロデューサー法は,昭和58年に,それまで存在したPull/Push法とは異なる術式として開発され,その後,平成2年には,イントロデューサー法において行われる胃壁固定のための器具として原告製品が開発され,平成5年からは,原告においてその販売を開始するようになったこと,②その後,経皮内視鏡的胃瘻造設術においては,原告製品を胃壁固定具として使用したイントロデューサー法による施術が次第に普及するようになり,被告製品の販売が開始される直前の平成18年ころの時点では,経皮内視鏡的胃瘻造設術が実施された全症例中に占める原告製品の使用率が4割程度にまで達する状況であったことが認められる。 そして,上記認定事実によれば,被告製品の販売が開始された平成19年4月当時には,経皮内視鏡的胃瘻造設術を行う医師らの間で,- 109 -原告製品を胃壁固定具として使用したイントロデューサー法による施術は,一般的に普及していたものと認められる。 b 前記アのとおり,被告製品の販売が開始される前の平成18年12月22日,本件特許の特許権者のX1の代理人弁護士らが被告らに対し,本件通知書 よる施術は,一般的に普及していたものと認められる。 b 前記アのとおり,被告製品の販売が開始される前の平成18年12月22日,本件特許の特許権者のX1の代理人弁護士らが被告らに対し,本件通知書又は本件通知書の写しを添付した書面を送付しているところ,本件通知書(甲27)には,「貴社胃壁固定具は,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針を単独で動かすことができるという点を特徴とするやに見受けられます。しかし,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針とを固定部材により固定して使用できる構造であれば,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針を単独に動かせる構造であっても,貴社胃壁固定具は本特許技術に抵触すると考えます(本特許請求項1参照)。」との記載がある。 本件通知書の上記記載は,被告製品が2本の穿刺針を一体化機構を用いて固定した状態で穿刺に使用できる構造であることを指摘し,それを前提に,被告製品が本件各発明の技術的範囲に属する旨を述べるものであることが明らかである。 c 平成18年10月1日作成の被告製品の添付文書(薬事法63条の2に基づくもの。甲4)には,「操作方法又は使用方法等」として,「14.使用後はスライダーを針先保護ロックがカチッとなされるまで押し込み①,体表ガイドで針先を保護する。次いで,ブルーウイングをホワイトウイング側にスライドさせ②ウイング同士を一体化させた上で廃棄する。」との記載が,「使用上の注意」として,「9)ブルーウイングをホワイトウイング側にスライドさせウイング同士を一体化させた状態で縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針とを同時に穿刺しないこと。穿刺針同士が平行に配置されず直線的な穿刺ができないため,臓器の損傷,誤穿刺や出血の危険性がある。」との記- 110 -載がある。 このように,被告製品の 用穿刺針とを同時に穿刺しないこと。穿刺針同士が平行に配置されず直線的な穿刺ができないため,臓器の損傷,誤穿刺や出血の危険性がある。」との記- 110 -載がある。 このように,被告製品の添付文書には,被告製品の一体化機構は廃棄時に用いられるためのものであり,一体化同時穿刺の方法で被告製品を使用することには危険性があるため,そのような使用方法を禁止する旨の注意書きが記載されている。 d 前記(1)イのとおり,本件調査嘱託の結果によれば,被告製品を胃瘻造設のための胃壁固定術に使用する医師らの相当数の者が,現に被告製品を使用して一体化同時穿刺を行っているという実態があるものといえる。 そして,本件調査嘱託が,平成19年5月以降に販売された被告製品について,各医療機関における使用開始から当該嘱託を受けた時までの全ての使用実績を症例数で問うものであることからすれば,本件調査嘱託の結果に現れた被告製品の使用方法の実態は,被告製品の販売開始当時から本件調査嘱託実施時(平成22年7月)ころまでの全般的な状況を表すものであるということができるから,被告製品を使用する医師らの相当数が一体化同時穿刺を行っているという実態は,被告製品の販売開始当時から本件調査嘱託実施時まで継続的に存在していたものと考えられる。 e 本件訴状において,原告が,被告製品の使用態様として一体化同時穿刺の方法があり得ることを前提に,被告らによる被告製品の製造,販売が本件専用実施権の間接侵害に当たる旨を主張していることは明らかである。 また,原告が本件訴状とともに裁判所に提出した書証の中には,X2医師作成の鑑定意見書(甲7。以下「X2意見書」という。)及び原告アンケートの結果を説明する内容の原告従業員作成の陳述書(甲8。以下「甲8の陳述書」)が含まれている。 所に提出した書証の中には,X2医師作成の鑑定意見書(甲7。以下「X2意見書」という。)及び原告アンケートの結果を説明する内容の原告従業員作成の陳述書(甲8。以下「甲8の陳述書」)が含まれている。このうち,X2意見書- 111 -には,同医師が実際に被告製品を用いて一体化同時穿刺を行ったところ,安全上の問題はなかった旨が記載され,当該手技の状況を撮影した写真が添付されている。また,甲8の陳述書には,原告が,平成19年11月から平成20年3月にかけて,2回にわたって,原告製品の納入実績のある医療機関の医師のうち,実際に原告製品を使用した施術の経験のある医師477名を対象として,被告製品の使用方法に関するアンケート調査(原告アンケート)を行ったところ,被告製品の使用経験があると回答した21名の医師のうちの5名が,被告製品を一体化同時穿刺の方法で使用したと回答した旨が記載されている。 さらに,同陳述書には,上記アンケートに回答した医師の署名が記入された回答書の写しが合計16通添付されているところ,このうちの1通(X3医師作成の回答書)には,一体化同時穿刺の方法により被告製品を使用したことがある旨の回答結果が記載されている。 そして,本件訴状及び上記各書証の写しは,被告秋田住友ベークに対しては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルに対しては同年7月31日に送達されているから,この時点で被告らは,本件訴状及び上記各書証の内容を認識したものと認めることができる。 (ウ) 以上を前提に検討するに,一般に,医療機器に係る添付文書の記載(薬事法63条の2に基づくもの)は,医師が当該機器を使用する際の指針となるべきものであるから,添付文書の「使用上の注意」として,当該機器の特定の使用方法に危険性があるとして,その使用方法を禁止する注意書 63条の2に基づくもの)は,医師が当該機器を使用する際の指針となるべきものであるから,添付文書の「使用上の注意」として,当該機器の特定の使用方法に危険性があるとして,その使用方法を禁止する注意書きが記載されている場合には,当該機器を使用する医師があえてそのような使用方法を用いることは,通常は考え難い事態であるということができる。 この点,被告製品の添付文書に,一体化同時穿刺の方法で被告製品を使用することには危険性があるため,そのような使用方法を禁止する旨- 112 -の注意書きが記載されていることは,前記(イ)cのとおりである。 したがって,上記のような被告製品の添付文書の記載にもかかわらず,なお,医師らが被告製品を一体化同時穿刺の方法で使用することがあり得ることを,被告らにおいて認識していたものと認められるか否かという観点からの検討が必要となる。 そこで,以下では,原告が主張する各時点ごとに,上記のような事情があるか否かという観点から,被告製品の使用態様に関する被告らの認識について検討することとする。 a 被告製品の販売開始時点(平成19年4月)の被告らの認識について(a) 原告は,被告らは,被告製品の販売開始時点(平成19年4月)において,被告製品が一体化同時穿刺の方法で使用されることを認識していた旨主張し,これを根拠づける上記当時の事情として,①被告製品の販売開始当時(平成19年4月)における経皮内視鏡的胃瘻造設術を行う医師らの間における原告製品の普及状況からすれば,2本の穿刺針が一体固定された原告製品の使用に慣れた医師らが被告製品を使用する場合には,一体化同時穿刺を行うであろうことは容易に予測し得ること,②被告製品の添付文書における一体化同時穿刺の危険性に関する記載は,被告製品が一体化同時穿刺に用いら た医師らが被告製品を使用する場合には,一体化同時穿刺を行うであろうことは容易に予測し得ること,②被告製品の添付文書における一体化同時穿刺の危険性に関する記載は,被告製品が一体化同時穿刺に用いられ得るものであることを前提とした記載といえること,③被告製品においては,2本の穿刺針を廃棄するためにまとめるだけの目的であれば,一体化機構を設けなくとも他に方法はいくらでもあるのに,あえて一体化機構を設けて2本の穿刺針を係止して同時に穿刺できる設計とされていること,④被告製品発売前の研究会等における被告製品の展示の際に,被告オリンパスメディカルの営業担当者が,視察に赴いた原告従業員に対し,被告製品で一体化同時穿- 113 -刺ができる旨の説明をした事実があること,⑤X1の代理人弁護士らが,平成18年12月22日に,被告らに対し,被告製品が一体化同時穿刺のできる構造であることを指摘し,本件特許に抵触する旨を警告する内容の本件通知書を送付したことといった諸事情を挙げるので,以下,これらの諸事情が,原告の上記主張の根拠となり得るか否かについて検討する。 ① まず,上記①の点については,前記(イ)aのような経皮内視鏡的胃瘻造設術を行う医師らの間での原告製品の普及状況を前提とすれば,原告製品の使用に慣れた多くの医師らが,新たに市場に参入した被告製品に接した場合,その構成上不都合のないものであれば,原告製品と同様の穿刺方法(すなわち,一体固定された2本の穿刺針を同時に穿刺する方法)を採用しようとするであろうという,一般的に予測される傾向を述べるものとしては首肯し得るものの,上記のような被告製品の添付文書の記載があるにもかかわらず,これに反してまで一体化同時穿刺が行われるであろうことを予測させる事情とまでは直ちにはいい難いというべきである。 ては首肯し得るものの,上記のような被告製品の添付文書の記載があるにもかかわらず,これに反してまで一体化同時穿刺が行われるであろうことを予測させる事情とまでは直ちにはいい難いというべきである。 ② 上記②の点は,そもそも,被告らが,被告製品による一体化同時穿刺がその構成上可能であることを認識していたことを示す事情とはいえても,被告らが,被告製品の添付文書の前記記載にもかかわらず,医師らにおいて被告製品による一体化同時穿刺を行うであろうことを認識していたことを示す事情とはいえない。 ③ 上記③の点に係る原告の主張は,被告製品の一体化機構について,2本の穿刺針をまとめて廃棄するための構成としては特別な必要性のないものであることを前提として,それにもかかわらず,あえて一体化機構を設けて2本の穿刺針を係止して使用でき- 114 -る設計としたのは,被告らにおいて,被告製品が一体化同時穿刺の方法で使用されることを想定していたことを示す事情であるとするものである。 しかしながら,被告製品においては,スライダーの上端部の凹みにホワイト針のホワイトウイングの凹みを嵌合させるとともに,一体化機構によってホワイト針とイエロー針を一体化させることによって,2本の穿刺針が容易にまとめられ,さらに,2本の穿刺針の先端部が体表ガイドの中に収まることで穿刺事故も防止できるようになり,廃棄に適した状態を実現することができるものである。しかも,被告製品においては,上記のような状態をキャップや結束具などの余分な部材を用いることなく,使用後の被告製品の状態に簡単な動作を加えるだけで廃棄に適した状態を実現することができるものといえる。 このように,被告製品の一体化機構を含む上記のような構成は,穿刺針の容易かつ安全な廃棄を実現するための構成としても相応 な動作を加えるだけで廃棄に適した状態を実現することができるものといえる。 このように,被告製品の一体化機構を含む上記のような構成は,穿刺針の容易かつ安全な廃棄を実現するための構成としても相応の意義を認め得るものといえるから,上記③の点に係る原告の主張はその前提において採用し難いものであり,被告製品に一体化機構を設ける設計としたこと自体が,被告らにおいて,被告製品が一体化同時穿刺の方法で使用されることを想定していたことを示しているとまではいえない。 ④ 上記④の点については,当該説明を聴いたとする原告従業員の陳述書(甲24ないし26(枝番を含む。))があるものの,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はないから,そもそもそのような事実を認めることができない。 ⑤ 上記⑤の点については,結局のところ,本件特許の特許権者のX1が,被告製品について一体化同時穿刺のできる構造である旨- 115 -を主張していることが,被告らによって認識されたこと示す事情にすぎず,この時点において,X1から被告らに対して,上記主張を裏付ける具体的な証拠資料が示されていたとの事情も認められないから,本件通知書の送付を受けたことによって,直ちに被告らが,被告製品の添付文書の前記(イ)cの記載にもかかわらず,被告製品が一体化同時穿刺の方法で使用されるであろうことを具体的に認識し得たものと断ずることはできない。 (b) 以上で検討したとおり,原告が指摘する前記の諸事情は,いずれも,被告製品の添付文書の前記(イ)cの記載にもかかわらず,なお医師らが被告製品を一体化同時穿刺の方法で使用することがあり得ることを被告らにおいて認識していたことを推認させるに足りる事情とはいい難いものであり,この点は,これらの諸事情を総合してみても同様である。 このほか,被告製 時穿刺の方法で使用することがあり得ることを被告らにおいて認識していたことを推認させるに足りる事情とはいい難いものであり,この点は,これらの諸事情を総合してみても同様である。 このほか,被告製品の販売開始の時点(平成19年4月)までに,被告らに上記の認識があったことを示す事情も見当たらない。 したがって,被告製品の販売が開始された平成19年4月の時点において,被告らは被告製品が一体化同時穿刺の方法で使用されることを認識していたとする原告の主張は,これを認めることができない。 b 平成20年2月26日時点の被告らの認識について原告は,原告アンケートの結果のうち,被告製品について,「業者からのPRまたはプレゼンでは,穿刺方法について,どのような説明を受けましたか。」との質問に対し,回答をした医師10名のうち2名の者が,「2本の穿刺針を,同時に穿刺することもできる」との説明を受けた旨を回答していること(甲8,29,30)を根拠として,上記2名のアンケートの回答日のうち,より遅い平成20年2月26- 116 -日の時点では,被告らは,被告製品が一体化同時穿刺に用いられることを認識していたことになる旨主張する。 そして,原告の上記主張は,原告アンケートの結果に係る甲8の陳述書及び上記2名の医師からの回答書の写しであって,当該医師の氏名や所属病院名をマスキングしたもの(甲29,30)に基づき,被告オリンパスメディカルの営業担当者等が当該医師らに対し,被告製品の使用方法について,一体化同時穿刺を行うことができるとの説明をしたとの事実が認められることを前提とするものといえる。 しかしながら,原告が上記2名の医師が作成した回答書の写しであるとして提出する書面(甲29,30)は,当該医師らの氏名等がマスキングされたものであり, が認められることを前提とするものといえる。 しかしながら,原告が上記2名の医師が作成した回答書の写しであるとして提出する書面(甲29,30)は,当該医師らの氏名等がマスキングされたものであり,原告がその主張の根拠とする2名の医師からの回答なるものは,結局のところ,その情報源が明らかでない匿名のアンケート結果の域を出るものではない。 さらに,上記各回答書における質問と回答を見ても,「業者からのPRまたはプレゼンでは,穿刺方法について,どのような説明を受けましたか。A・B・Cのいずれかの○をつけて下さい。」との質問に対し,用意された選択肢の「B.2本の穿刺針を,同時に穿刺することもできる。」に○が付されているのみであり,具体的にどのようなやりとりの中で,どのような説明がされたのかの詳細は不明である上,そもそも上記選択肢にある「同時に穿刺」が,一体化機構による係止状態の下での同時穿刺(一体化同時穿刺)を意味するものであるかどうかも不明である。 以上に鑑みれば,原告が提出する甲8の陳述書,甲29及び30の回答書のみによっては,被告オリンパスメディカルの営業担当者等が上記医師らに対し,被告製品の使用方法につき,一体化同時穿刺を行うことができるとの説明をしたとの事実を認めることはできないと- 117 -いうべきである。 したがって,上記事実が認められることを前提として,平成20年2月26日の時点には,被告らにおいて,被告製品が一体化同時穿刺の方法で使用されることを認識していたとする原告の主張は,理由がない。 c 訴状送達時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)の被告らの認識について(a) 前記(イ)eのとおり,被告らは,本件訴状及びこれとともに提出された 秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)の被告らの認識について(a) 前記(イ)eのとおり,被告らは,本件訴状及びこれとともに提出された書証の写しの送達を受けることにより,被告製品の使用態様として一体化同時穿刺の方法があり得ることを前提に,被告らによる被告製品の製造,販売が本件専用実施権の間接侵害に当たるものとする原告の主張の詳細を認識するとともに,X2意見書(甲7)及び甲8の陳述書の記載内容を認識したものと認められる。 このうち,X2意見書(甲7)には,同医師が実際に被告製品を用いて一体化同時穿刺を行ったところ,安全上の問題はなかった旨が記載され,当該手技の状況を撮影した写真が添付されているところ,このような意見書の記載は,一方当事者の依頼に基づいて作成されたものであるという意味において,その証拠価値に限界があるとはいえるものの,少なくとも,医師の中に被告製品を用いた一体化同時穿刺の安全性を肯定する者もいることを示すものであり,しかも,現に被告製品によって一体化同時穿刺が行われたことを裏付ける写真も添付されていることからすると,被告らからみても,被告製品を用いた一体化同時穿刺が行われ得る可能性を具体的に示唆する証拠資料であることは否定できない。 また,前記(イ)eのとおり,甲8の陳述書には,原告アンケート- 118 -の結果として,被告製品の使用経験があると回答した21名の医師のうちの5名が被告製品を一体化同時穿刺の方法で使用したと回答した旨が記載され,さらに,同陳述書には,上記回答に係るX3医師作成の回答書の写しが添付され,その中には,一体化同時穿刺の方法により被告製品を使用したことがある旨の回答結果が記載されている。 しかるところ,原告アンケートは, 書には,上記回答に係るX3医師作成の回答書の写しが添付され,その中には,一体化同時穿刺の方法により被告製品を使用したことがある旨の回答結果が記載されている。 しかるところ,原告アンケートは,一方当事者である原告が,原告製品の納入実績のある医療機関の医師の中から任意に選択した医師を対象として行ったアンケート調査であることなど,その結果の信頼性に限界があることを考慮しても,甲8の陳述書においては,被告製品を一体化同時穿刺の方法で使用したと回答した医師が存在したことが具体的な数字によって示されており,かつ,そのうちの1名の医師が作成した回答書の写しが現に裏付資料として添付されていることからすれば,甲8の陳述書の記載は,被告らからみても,被告製品を用いて一体化同時穿刺を行っている医師が存在することを疑わせる一つの証拠資料であることは否定できないことといえる。なお,被告らは,X3医師作成の回答書について,被告らが同医師に直接確認した結果,同医師は被告製品を用いた一体化同時穿刺を行っていないことが判明している旨主張し,同趣旨のことを述べる同医師の陳述書(乙35)を提出するが,乙35の陳述書によれば,被告らがX3医師に被告製品の使用方法等に関する聴取を行ったのは平成22年2月18日のことであり,このような時期におけるX3医師の陳述内容は,本件訴状送達時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)における被告らの認識とは無関係であって,考慮要素とはならないというべきである。 - 119 -以上によれば,被告らは,本件訴状及びこれとともに提出された書証の写しの送達を受けることによって,少なくとも被告製品を用いて一体化同時穿刺を行っている医師が存在することを疑わせるに足りる事 -以上によれば,被告らは,本件訴状及びこれとともに提出された書証の写しの送達を受けることによって,少なくとも被告製品を用いて一体化同時穿刺を行っている医師が存在することを疑わせるに足りる事実を認識したものということができる。 (b) さらに,被告製品の使用態様に関する被告らの認識状況を検討するに当たっては,前記(イ)dのとおり,本件調査嘱託の結果から,被告製品を胃瘻造設のための胃壁固定術に使用する医師らの相当数の者が現に被告製品を使用して一体化同時穿刺を行っているという実態が認められることが重要である。 すなわち,前記(イ)dで認定したとおり,相当数の医師らが被告製品を使用して一体化同時穿刺を行っているという実態は,被告製品の販売開始当時(平成19年4月)から継続的に存在しているものと考えられ,しかも,その規模については,本件調査嘱託の結果によれば,被告製品の使用経験がある58の医療機関のうちの約45%に当たる26の医療機関で一体化同時穿刺の実績があり,また,上記58の医療機関における被告製品の使用症例数合計2869の約27%に当たる785の症例で一体化同時穿刺が行われているという,広範囲にわたるものであることが認められることは,前記(1)イ(ウ)aのとおりである。 しかるところ,このように多数の医療機関における多数の症例において,被告製品を使用した一体化同時穿刺が現に行われており,しかも,そのような実態が相当期間継続しているという事実を前提とすれば,被告製品を使用する多くの医師らと日常的に接触し,これらの医師から被告製品に関する質問や意見を聴取しているはずの被告オリンパスメディカルの営業担当者らが,このような被告製品の使用実態を認識することは,ごく自然な経過ということができ- 120 -る。むしろ,上記のよ に関する質問や意見を聴取しているはずの被告オリンパスメディカルの営業担当者らが,このような被告製品の使用実態を認識することは,ごく自然な経過ということができ- 120 -る。むしろ,上記のような被告製品の使用実態が現に存在するにもかかわらず,被告オリンパスメディカルの営業担当者らの中に,被告製品を使用して一体化同時穿刺を行っている医師が相当程度存在するとの事実を認識している者が全く存在しないなどということは,およそ考え難いことというべきである。 この点,少なくとも,被告製品の販売が開始された平成19年4月から1年数か月が経過し,上記のような被告製品の使用実態が既に相当期間継続していたものといえる本件訴状の送達時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)を基準とすれば,被告オリンパスメディカルの営業担当者らの中に,被告製品を使用して一体化同時穿刺を行っている医師が現に相当程度存在するとの事実を認識している者がいたことは,優にこれを推認することができる。 (c) 以上によれば,遅くとも本件訴状が被告らに送達された時点には,被告らにおいて,被告製品の添付文書の前記(イ)cの記載にかかわらず,医師らが被告製品を用いて胃壁固定術を行う際に一体化同時穿刺を行うことがあることを認識していたものと認めることができる。 ウ小括以上の次第であるから,被告らは,遅くとも本件訴状が被告らに送達された時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)以降は,被告製品が本件各発明の実施に用いられることを知っていたものと認められる。 (4) まとめそうすると,被告製品を業として製造,販売する被告らの行為は,本件訴状が被告ら 同年7月31日)以降は,被告製品が本件各発明の実施に用いられることを知っていたものと認められる。 (4) まとめそうすると,被告製品を業として製造,販売する被告らの行為は,本件訴状が被告らに送達された時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8- 121 -月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)以降のものに限り,特許法101条2号の間接侵害の各要件をいずれも満たすこととなるから,原告の本件専用実施権に対する間接侵害を構成するものといえる。 3 争点3(本件専用実施権に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 無効理由1(乙1を主引例とする進歩性の欠如)被告らは,本件各発明は,当業者が本件出願前に頒布された刊行物である乙1及び乙2の記載に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件各発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨主張する。 ア本件発明1について被告らは,①本件発明1と乙1記載の医療用器具(乙1発明)とを対比すると,本件発明1は,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針がほぼ平行になるように,両針の基端部を固定する固定部材を備えているのに対し,乙1記載の医療用器具は,このような固定部材を備えていない点で相違するが,乙1記載の医療用器具は,上記相違点以外の本件発明1の構成をすべて備えている点で本件発明1と一致する,②乙2には,複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を備えた医療用器具が開示されており,乙2記載の医療用器具は,この構成により平行に固定された複数の針を同時穿刺することを可能とし,容易,正確かつ迅速な穿刺を実現するものである,③乙1記載の医療用器具と乙2に記載された医療用器具とは,技術分野を同一とし 具は,この構成により平行に固定された複数の針を同時穿刺することを可能とし,容易,正確かつ迅速な穿刺を実現するものである,③乙1記載の医療用器具と乙2に記載された医療用器具とは,技術分野を同一とし,共通の作用,機能を有するものであり,また,乙1記載の医療用器具においても,容易,正確かつ迅速な穿刺の実現が望まれることは自明であるから,乙1及び乙2の記載に接した当業者であれば,乙1記載の医療用器具に乙2に記載された複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を適用して本件発明1を容易に想到することができた旨主張する。 - 122 -これに対し原告は,乙1記載の医療用器具は,上記①の「固定部材」を備えていないことのほか,乙1には乙1記載の医療用器具に縫合糸挿入用穿刺針を用いること(本件発明1の構成要件A,B,D,F)の開示がない点においても本件発明1と相違し,また,乙2記載の医療用器具は,腫瘍の放射線治療のための用具であって,その目的は,腫瘍部に適切な間隔で放射性物質を送り込むことにあり,縫合糸の取扱いとは何の関係もないことからすると,当業者が乙1及び乙2の記載に基づいて本件発明1を容易に想到することができたものとはいえない旨主張するので,以下において検討する。 (ア) 乙1の記載事項a 乙1には,次のような記載がある。 (a) 「関節鏡による手術の進歩により,多くの処置具が開発されてきた。これらは外科技術を改善するものであった。しかしながら,解剖学的にいってダイレクトにアクセスするのには限界があるため,関節鏡手術には縫合糸を扱うことに伴う問題がある。…上記処置工程において針の通過した2つの跡は,通常,平行で近接した空間関係にある。その結果,離れた部位に縫合糸が切断されていれば外科医は縫合糸を組織上で固く結紮すること 扱うことに伴う問題がある。…上記処置工程において針の通過した2つの跡は,通常,平行で近接した空間関係にある。その結果,離れた部位に縫合糸が切断されていれば外科医は縫合糸を組織上で固く結紮することができる。上記した縫合方法は,欠点を有している。即ち,プランジャーを操作する際,針の動きによる挿入通路を正確にコントロールできにくいことが大きな問題である。このコントロールができにくいことにより,神経血管系にダメージを与える場合がある。更に,切開が縫合糸の離れた部位の中でなされた場合,縫合糸自体が切断されてしまう可能性があり,その結果切れた端切れを除去し,別の代替縫合糸が必要となる。」(原文・カラム1の9行~46行,訳文・2頁3行~23行)- 123 -(b) 「上記問題点は今回の発明によって克服することができる。即ち,筒状のカニューラが患者の傷口に留置され,カニューラ先端は縫合すべき組織の隣接された部位に正確に位置決めされる。押し潰し可能なループを内抱した長尺状ハンドルが体外からカニューラを通して挿入される。カニューラ先端よりループが出ると,ループはカニューラ内で押し潰された状態から開放されて拡張する。患者の別の開口部を通して挿入された縫合糸の一方の端が,拡張されたループを通して供給される。ループがカニューラを通して引き出される際,ループは縫合糸を掴み,縫合糸を体外に引き出す。第二のカニューラを用いて,この処置を繰り返すことにより,縫合糸のもう一方の端が外科医にアクセス可能となり,二本のカニューラを橋渡しする組織内に切開をすることができる。そうすることによりカニューラが体外に取り除かれると,縫合が完成する。」(原文・カラム1の50行~68行,訳文・3頁1行~12行)(c) 「図1は,本発明の方法を実施可能とする縫合糸掴み処 きる。そうすることによりカニューラが体外に取り除かれると,縫合が完成する。」(原文・カラム1の50行~68行,訳文・3頁1行~12行)(c) 「図1は,本発明の方法を実施可能とする縫合糸掴み処置具の正面図である。」,「図4は,図1に示された器具の,円筒状針との関係を示す部分断面図である。」,「図1~3に示すように,長尺状のロッド10は一端がハンドル12に取り付けられている。ロッド10とハンドル12はステンレス鋼でできていることが好ましい。長楕円形状に形成されたループ14は,ハンドル12の反対側のロッド10の端に内抱されている。」,「ループ14は撚り合わされた細いワイヤで形成されているため,弾力性を有しており,圧縮して折りたたむことが可能であり,また圧縮から開放されると元の形状に復帰できる。」,「図4に示すように,ループ14は円筒状カニューラ18の中で圧縮されている。カニューラは従来使用されている脊髄針を用いることができる。」(以上,原文・カラム- 124 -2の6行~8行,13行~33行,訳文・3頁16行,19行~20行,22行~4頁4行,4頁6行~8行,10行~11行)(d) 「典型的な関節鏡手術において,3つの切開が実施される。それぞれ,手術部位をテレビモニターで観察できる光学システム(関節鏡)用切開,手術器具用切開,そして洗浄用切開である。治癒プロセスを促進するための縫合処置が必要な場合,例えば,半月板の修復のような場合-処置すべき組織部位に縫合糸を用いる必要がある場合のことであるが,本願発明品をもちいて,ペアのカニューラ18を皮膚を通して近接した部位に挿入する。カニューラの先端は注意深く正確に縫合部位に近接した部位に狙いを定められるため,不必要な神経血管系のダメージを減少できる。」(原文・カラム2の37行~ ラ18を皮膚を通して近接した部位に挿入する。カニューラの先端は注意深く正確に縫合部位に近接した部位に狙いを定められるため,不必要な神経血管系のダメージを減少できる。」(原文・カラム2の37行~52行,訳文4頁15行~末行)(e) 「外科医は次にハンドル12で外科器具をつかみ,一本のカニューラ18の中にループ14を通す。」,「次いで外科医は,縫合糸の一端を,外科器具挿入用に設けられた切開口から挿入する。ガイド用テレビモニターを利用しながら,縫合糸の端がループ14の中に通される。次いで,ループはカニューラ18内に引き戻される。 ループが再びカニューラの先端に入り込むと,縫合糸は掴み部16に引っ掛かる。これにより,縫合糸がループから外れることが防止される。ループが完全にカニューラの基端部から取り出されると,掴まれた縫合糸の端はループから外される。外科医は次に第2のカニューラ18にデバイスを通し,縫合糸のもう一方の端に対して上記と同様な処置を行う。」(原文・カラム2の51行~52行,54行~カラム3の2行,訳文・被告ら第2準備書面6頁)(f) 図1ないし4(Fig.1.~Fig.4.)には,先端にループ14が設けられたロッド10を,カニューラ18の中に挿入し- 125 -た処置具が図示されている。 b 上記記載事項及びFig.1.ないしFig.4.(別紙乙1図面参照)を総合すると,乙1には,①半月板修復等の関節鏡手術における縫合糸による縫合のための処置具であって,円筒状カニューラ18と,円筒状カニューラ18の内部に挿入される,ループ14を先端に設けたロッド10とを備え,ループ14は,弾力性を有し,円筒状カニューラ18の内部に圧縮して折りたたむように挿入することが可能であり,圧縮から開放されると元の形状に復帰できる構成のものが 4を先端に設けたロッド10とを備え,ループ14は,弾力性を有し,円筒状カニューラ18の内部に圧縮して折りたたむように挿入することが可能であり,圧縮から開放されると元の形状に復帰できる構成のものが記載されていること,②この処置具を2本用いた縫合の例として,ペアの円筒状カニューラ18を皮膚を通して縫合すべき組織部位に近接した位置に挿入し,1本目の円筒状カニューラ18にループ14を挿入して,円筒状カニューラ18の先端部から開放させ,ガイド用テレビモニターを利用しながら,このループ14の中に,外科器具挿入用に設けられた切開口から挿入した縫合糸の一端を通し,ループ14を円筒状カニューラ18内に引き戻すことによって縫合糸の一端を引っ掛けて掴み,ループ14を完全に円筒状カニューラ18の基端部から取り出して,掴んだ縫合糸の端を体外に引き出し,次に,2本目の円筒状カニューラ18についても,挿入した縫合糸のもう一方の端に対して上記と同様な処置を行うことにより,外科医が縫合糸の両端を治療を要する組織上で結紮することができる状態となることが記載されていることが認められる。 上記認定事実によれば,乙1に記載された「円筒状カニューラ18」,「ループ14を先端に設けたロッド10」,「ループ14」,「処置具」は,本件発明1の「縫合糸把持用穿刺針」,「スタイレット」,「弾性材料により形成され,縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材」,「医療用器具」にそれぞれ相当するものであり,乙1記載の- 126 -医療用器具と本件発明1とは,「縫合糸把持用穿刺針と,縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットとを備え,スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有する医療用器具」である点で一致 糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットとを備え,スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有する医療用器具」である点で一致するものと認められる。 c(a) この点に関し,被告らは,関節鏡手術において切開口は小さいため,外科医は何らかのガイドを用いて縫合糸を切開口を介して体内に挿入する必要があるが,縫合糸の挿入のためのガイドとして中空針を用いることは本件出願当時周知慣用技術であったことを踏まえれば,体内にループを挿入する際にカニューラを用いることが記載されている乙1においては,縫合糸の体内への挿入についても,ループと同様にカニューラ(穿刺用針)を用いるものと理解されるから,乙1の「縫合糸の一端を,外科器具挿入用に設けられた切開口から挿入する。」との記載部分(上記a(e))は,縫合糸挿入用穿刺針を用いて縫合糸の一端を切開口から挿入すると理解されるので,乙1には,乙1記載の医療用器具に縫合糸挿入用穿刺針を用いることが実質的に開示されている旨主張する。 しかし,被告ら主張の乙1記載の「縫合糸の一端を,外科器具挿入用に設けられた切開口から挿入する。」との文言は,縫合糸を挿入する場所が「外科器具挿入用に設けられた切開口」であることを規定しているだけで,縫合糸の挿入方法について規定したり,これを限定するものではない。また,乙1を全体としてみても,縫合糸を体内に挿入する際に,カニューラあるいは縫合糸挿入用穿刺針を用いることについての明示の記載や示唆はない。 もっとも,被告らが主張するように,本件出願当時,縫合糸の挿入のためのガイドとして中空針(カニューラ,ペニューラ針等)を- 127 -用いることは周知慣用技術であったことが認められるが(乙3ないし5),他方で が主張するように,本件出願当時,縫合糸の挿入のためのガイドとして中空針(カニューラ,ペニューラ針等)を- 127 -用いることは周知慣用技術であったことが認められるが(乙3ないし5),他方で,中空針以外の鉗子等の外科器具を用いて外科器具挿入用に設けられた切開口から縫合糸を体内に挿入することも可能であることからすれば,乙1に接した当業者においては,縫合糸の挿入方法の一つとしてカニューラ等の縫合糸挿入用穿刺針を用いることができることを理解するにとどまるというべきであり,乙1において,縫合糸の体内への挿入に縫合糸挿入用穿刺針を用いることを前提に,乙1記載の医療用器具による縫合を開示しているものと認めることはできない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 (b) また,被告らは,乙1において,乙1記載の医療用器具が「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して設けられた縫合糸把持用穿刺針」の構成及び「環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」構成を備えたものであることの開示があり,これらの点は本件発明1と乙1記載の医療用器具との一致点である旨主張するが,上記(a)と同様の理由により,これを採用することができない。 d そうすると,乙1には,乙1記載の医療用器具が,本件発明1の構成要件B(「該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」の構成),構成要件D(「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」の構成)及び構成要件F(「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針 (「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」の構成)及び構成要件F(「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該- 128 -縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との構成)を備えているとの開示がない点において,本件発明1と乙1発明(乙1記載の医療用器具)は相違するものと認められる。 (イ) 乙2の記載事項a 乙2には,次のような記載がある。 (a) 「同一平面内に平行配置された複数の針を穿刺困難な部位に同時に穿刺することを可能にする放射線治療用穿刺器具であって,片手で操作でき,他方の手で穿刺領域を支持できるようにして,穿刺針を体内に向かって前進させていく段階においても,両手による定位誘導を継続できるようにした穿刺器具は,非常に有用であり,容易,正確かつ迅速な穿刺を実現することができる。」(原文・カラム1の67行~カラム2の8行,訳文・3頁10行~14行)(b) 「したがって,本発明の主要な目的は,平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する,新規で改良された,従来の処置器具の欠点を解決する処置器具を提供することにある。」,「また,本発明の別の目的は,同一平面内に平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する,新規で改良された処置器具を提供することにある。」,「また,本発明の別の目的は,平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する新規で改良された処置器具であって,体内に向かって前進する穿刺針に対して後退するように動かすことができるとともに,長い針でも曲がる危険性なしに挿入可能とする処置器具を提供することにある 体に穿刺する新規で改良された処置器具であって,体内に向かって前進する穿刺針に対して後退するように動かすことができるとともに,長い針でも曲がる危険性なしに挿入可能とする処置器具を提供することにある。」,「発明の別の目的は,同一平面内に平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に片手で人体に穿刺する,新規で改良された処置器具を提供することにある。」(以上,原文・カラム2の11行~26行,35- 129 -行~38行,訳文・被告ら第2準備書面8頁~9頁)(c) 「針保持部44はユニット12に摺動可能なように固定されており,皮膚または体表面49から体の組織48へ穿刺するために複数の針46を保持する。…針保持部44はまた,長方形の針整列部材66を有する。これは細長いパーツ56の前方端58から離れた位置で垂直方向に伸びた横板68,70と,横板68,70の端部と垂直に結合する板72を持つ。横板68は横板70の穴76と協調する複数の離れた垂直穴74を有し,位置の合わさった一組の穴を介して複数の針46のそれぞれが摺動可能に保持され,同一平面に平行に位置される。」(原文・カラム4の47行~カラム5の3行,訳文・4頁15行~5頁4行)(d) 「固定部材78の一面には,平坦な垂直面85が設けられている。垂直面85が設けられることにより,複数の針46の各基端86を固定し,各針46の尖った先端88を器具12のクランプ手段28から等間隔で離すことができる。クランプ手段28を超えた針46の長さはネジ80を緩め,固定部材78を穴64に沿って望みの位置に摺動させ再びネジ80を締めることで調節される。固定部材78の垂直面85と反対側には複数の段のある垂直面90を有し,これは固定部材78がFIG.6のように位置するときにネジ80を緩めて固定部材 置に摺動させ再びネジ80を締めることで調節される。固定部材78の垂直面85と反対側には複数の段のある垂直面90を有し,これは固定部材78がFIG.6のように位置するときにネジ80を緩めて固定部材78を戻すことで針46の基端86と係合する。 このように位置したとき,針の先端88はクランプ手段28を超えて異なった距離だけ伸びる。このような配置は針46がそれぞれの先端が容易に挿入できるように集中した大きな力を必要とする皮膚や深い組織を貫通する際に望ましい。」(原文・カラム5の24行~44行,訳文・5頁19行~末行,6頁2行~9行)(e) 「針整列部材66には,対となる孔74,76が設けられてい- 130 -る。複数の針46は,各々孔74,76に通されており,基端86は固定部材78に係合している。」(原文・カラム5の46行~49行,訳文・6頁13行~15行)(f) 図1(Fig.1)及び図6(Fig.6)には,固定部材78を用いて複数の針46の基端部を固定することが,図4(Fig.4)及び図6(Fig.6)には,針整列部材66が,複数の針46の先端側において複数の針46を整列させること,孔74を有する第1の平板状部材と,孔76を有する第2の平板状部材とが一体化することがそれぞれ図示されている。 b 上記記載事項とFig.1,Fig.4及びFig.6(別紙乙2図面参照)を総合すると,乙2には,①放射性物質を人体の組織内に注入して行う放射線治療用処置器具であって,平行に設けられた複数の針46と,複数の針46の基端部を固定する固定部材78と,複数の針46の先端側に針整列部材66とを備えていること,②この処置器具は,複数の針46を人体に平行に同時穿刺できる構成であることから,容易,正確かつ迅速な穿刺が実現できることが記載されているこ 複数の針46の先端側に針整列部材66とを備えていること,②この処置器具は,複数の針46を人体に平行に同時穿刺できる構成であることから,容易,正確かつ迅速な穿刺が実現できることが記載されていることが認められる。 (ウ) 容易想到性a 本件発明1は,前記1(1)ア(ア)b認定のとおり,内視鏡的胃瘻造設術などの際にカテーテルの挿入を容易にするために行われる前腹壁と胃体部前壁等の内臓壁との固定に使用される医療用器具に関するものであり,縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成(構成要件B及びD)を採用したことにより,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造とするとともに,胃内などの内臓内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の- 131 -先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸又はその延長線が,環状部材の内部を貫通するような位置関係となるように,環状部材が縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる構成(構成要件F)を採用したことで,縫合糸が確実に環状部材の内部を貫通するようにし,これによって前腹壁と胃体部前壁等とを,容易かつ短時間に,安全かつ確実に固定することができ,この固定に伴う患者への侵襲も少なく,患者に与える負担も少なくする効果を奏するようにしたことに技術的意義がある。 このように本件発明1は,乙1記載の医療用器具との相違点に係る構成要件B,D及びFの構成を採用した点に技術的特徴がある。 b 被告らは,乙1記載の医療用器具と乙2記載の医療用器具とは,複数の針を人体に穿刺するための医療用器具という点で技術分野を同一とし,共通の作用,機能を有するものであり,また,乙1記載の医療用器具においても,容易,正確かつ迅速 器具と乙2記載の医療用器具とは,複数の針を人体に穿刺するための医療用器具という点で技術分野を同一とし,共通の作用,機能を有するものであり,また,乙1記載の医療用器具においても,容易,正確かつ迅速な穿刺の実現が望まれ,これを実現する構成を採用することの動機付けがあるから,乙1及び乙2の記載に接した当業者であれば,乙1記載の医療用器具に乙2に記載された複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を適用して本件発明1を容易に想到することができた旨主張する。 しかしながら,前述のとおり,乙1においては,縫合糸の体内への挿入に縫合糸挿入用穿刺針を用いることの明示の記載や示唆はなく,縫合糸の挿入方法の一つとしてカニューラ等の縫合糸挿入用穿刺針を用いることができることを理解できるにとどまるものであり,また,乙1記載の医療用器具は,半月板修復等の関節鏡手術における縫合糸による縫合のために用いられる処置具であって,縫合すべき部位は,治療処置を要する組織上にあり,その部位の位置,形状及び大きさには様々なものがあり得るから,縫合糸の挿入方法として縫合糸挿- 132 -入用穿刺針を用いることを選択したとしても,穿刺前に,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針を特定の間隔にあらかじめ固定し,この2本の針を体内に対して同時穿刺する必要性があるものとは認められず,このような同時穿刺をする構成とすることによって縫合すべき部位に適した位置に容易,正確かつ迅速な穿刺が実現できることになるものとも認められない。 次に,乙2記載の処置器具は,平行に配置された複数の針を固定部材により固定し,同時に穿刺する構成のものではあるが,放射性物質を人体の組織内に注入して行う放射線治療用処置器具であって,縫合糸の縫合に用いられるものではない。また,乙2には,複数 複数の針を固定部材により固定し,同時に穿刺する構成のものではあるが,放射性物質を人体の組織内に注入して行う放射線治療用処置器具であって,縫合糸の縫合に用いられるものではない。また,乙2には,複数の針を人体に平行に同時穿刺できる構成としたことにより容易,正確かつ迅速な穿刺が実現できる効果を奏することが記載されているが,このような構成とした効果が,放射線治療用処置器具の場合と同様に,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針とを備えた縫合糸による縫合に用いる医療用器具の場合にも奏することについては,記載も示唆もない。 そうすると,乙1及び乙2の記載に接した当業者が,乙1記載の医療用器具において,乙2に記載された複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針に適用する動機付けが存在するものと認めることはできないし,仮にこれを適用することを試みたとしても,乙1記載の医療用器具に相違点に係る本件発明1の構成(構成要件B,D及びF)を採用することに容易に想到することができたものとは認められないから,本件発明1が乙1及び乙2の記載に基づいて容易に想到することができたとの被告らの主張は,理由がない。 イ本件発明2について- 133 -被告らは,当業者であれば,乙1及び乙2の記載に基づいて本件発明2を容易に想到することができた旨主張する。 しかしながら,本件発明2の特許請求の範囲(請求項3)は,「前記医療用器具は,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材を有している請求項1に記載の医療用器具。」というものであって,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)を引用する形式のものであり,本件発明2は,本件発明1の構成要件の構成をすべて備えていると 状部材を有している請求項1に記載の医療用器具。」というものであって,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)を引用する形式のものであり,本件発明2は,本件発明1の構成要件の構成をすべて備えているところ,本件発明1が乙1及び乙2の記載に基づいて容易に想到することができたものと認められないことは前記アのとおりであるから,これと同様の理由により,乙1及び乙2の記載に基づいて本件発明2を容易に想到することができたものとは認められない。 したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告らの上記主張は理由がない。 ウ小括以上によれば,被告ら主張の無効理由1は理由がない。 (2) 無効理由2(乙27を主引例とする進歩性の欠如)被告らは,本件各発明は,当業者が本件出願前に頒布された刊行物である乙27の記載及び周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件各発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨主張する。 ア本件発明1について被告らは,①本件発明1と乙27記載の医療用器具(乙27発明)とを対比すると,本件発明1は,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針がほぼ平行になるように,両針の基端部を固定する固定部材を備えているのに対し,乙27記載の医療用器具は,このような固定部材を備えていない点で相違するが,乙27記載の医療用器具は,上記相違点以外の本件発- 134 -明1の構成をすべて備えている点で本件発明1と一致する,②位置関係を規定すべき複数の針を固定部材に固定することは周知慣用技術(乙2,31の4ないし6)であり,乙27記載の医療用器具において,縫合糸(ナイロン糸)の受渡しを確実に行うことを目的として,上記周知慣用技術を適用して 数の針を固定部材に固定することは周知慣用技術(乙2,31の4ないし6)であり,乙27記載の医療用器具において,縫合糸(ナイロン糸)の受渡しを確実に行うことを目的として,上記周知慣用技術を適用して2本の針を適切な位置関係に規定する固定部材を設けることは,当事者が適宜設計できる事項にすぎない,③乙2には,複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を備えた医療用器具が開示されており,乙2の医療用器具は,この構成により平行に固定された複数の針を同時穿刺することを可能とし,容易,正確かつ迅速な穿刺を実現するものである,④乙27記載の医療用器具と乙2に記載された医療用器具とは,技術分野を同一とし,共通の作用,機能を有するものであり,また,乙27記載の医療用器具においても,2本の針の位置関係を正確に規定するために両者を固定することが望ましいことは自明であるから,本件発明1は,当業者が乙27の記載及び周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて容易に想到することができた旨主張する。 これに対し原告は,乙27記載の医療用器具は,上記①の「固定部材」を備えていないことのほか,2本の針が「所定距離間離間して平行に設けられた」構成(本件発明1の構成要件A,B)を備えていない点,そのため「環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ような位置関係となる構成(構成要件F)を備えていない点においても本件発明1と相違し,しかも,当業者が,乙27の記載及び被告ら主張の周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて,「縫合糸挿入用穿刺針と,縫合糸把持用穿刺針とを,該縫合糸把持用穿刺針から環状部材を突出させたときに,該縫合糸挿入用穿刺針の中心 ,乙27の記載及び被告ら主張の周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて,「縫合糸挿入用穿刺針と,縫合糸把持用穿刺針とを,該縫合糸把持用穿刺針から環状部材を突出させたときに,該縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように- 135 -該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるような位置関係になるよう,所定距離離間して平行に設け,さらに,両針を基端部において固定部材により固定する」ことを容易に想到することができたものとはいえないから,被告らの主張は理由がない旨主張するので,以下において検討する。 (ア) 乙27の記載事項a 乙27には,次のような記載がある。 (a) 「3.外周縁部縫合術(図20)半月板制動術から発展した半月板外縁と冠靱帯の縫合術である。 外周縁部損傷に行う。鋭匙鉗子,ディスポの18ゲージ長針2本,2-0ナイロン糸数本,小コッヘルなどを使用する。まず鋭匙鉗子で損傷部の新鮮化を行う。18ゲージ長針の1本に2-0ナイロン糸を通し先端を出しておく。針の先端から約1cm位のところを約30度位に指で曲げる。鏡視下に刺入部を十分確認後,この針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し,冠靱帯のところで一度先端を出し,改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し,このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通してからループを静かに締め,最初の針をナイロン糸を残して抜去し,第2の針をループがゆるまないようおさえたまま抜去すると,半月板を貫通したナイロン糸を関節外に引き出すことができる。困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ,最初のナイロン糸をつかんで長針を抜去し,そのナイロン糸をコッヘル たまま抜去すると,半月板を貫通したナイロン糸を関節外に引き出すことができる。困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ,最初のナイロン糸をつかんで長針を抜去し,そのナイロン糸をコッヘルでつかんだまま関節外に引き出す。ついでループ状のナイロン糸も同様に関節外に出してから,初めの糸をループに関節外で通し,ループを引っぱることによって最初の糸を関節外に出すことができる。著者は先端を曲げた糸通しと小ペアンで行っ- 136 -ていたが現在はこの方法を行っている。この方法は英国のDundyが早く行い,それとは関係なく片山,木村らによって行われた。後節の縫合は同側の後穿刺部に小皮切を加え,膝窩腔でsemiclosedの術式で冠靱帯と半月板を縫合する。同様に長針を曲げて使う。市販の縫合器を使わないのは半月板と冠靱帯を縫合する意義に対する配慮が足りないと思われるからである。またそれを後節の縫合に使って関節外の重要な血管,神経を損傷した例が外国にある。 術後,膝軽度屈曲位でギプス包帯をまく。」(813頁左欄7行~814頁左欄14行)(b) 図20(「半月板外周縁部縫合術」と題する図)には,「①ナイロン糸1本を通した針」,「②ナイロン糸先端にループを作るために2本にして通した針」,半月板等が図示されている。 b 上記記載事項及び図20(別紙乙27図面参照)を総合すると,乙27に記載された「①ナイロン糸1本を通した針」(①の針),「②ナイロン糸先端にループを作るために2本にして通した針」(②の針),「②の針の中に通したナイロン糸先端のループ」は,本件発明1の「縫合糸挿入用穿刺針」,「縫合糸把持用穿刺針」,「環状部材」にそれぞれ相当するものであり,乙27記載の医療用器具と本件発明1とは,「縫合糸挿入用穿刺針と,縫合糸把持用穿刺針と プ」は,本件発明1の「縫合糸挿入用穿刺針」,「縫合糸把持用穿刺針」,「環状部材」にそれぞれ相当するものであり,乙27記載の医療用器具と本件発明1とは,「縫合糸挿入用穿刺針と,縫合糸把持用穿刺針と,該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された挿入具とからなり,前記挿入具は,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており,さらに,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より該環状部材を突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するようにした医療用器具」である点で一致するものと認められる。 c この点に関し,被告らは,乙27の図20によれば,ナイロン糸を- 137 -二重にして通し,先端から,縫合糸を把持するループの突出した②の針が,①の針に対して,所定距離離間して,ほぼ平行に設けられていることが図示されているから,乙27には,「該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」の構成(本件発明1の構成要件B)の開示があり,この点は,乙27記載の医療用器具と本件発明1の一致点である旨主張する。 しかし,乙27の図20は,手術医が手技により,①の針(縫合糸挿入用穿刺針)及び②の針(縫合糸把持用穿刺針)を体内に穿刺した結果,2本の針が「ほぼ平行となった」状態を示したものにすぎず,乙27の医療用器具そのものが,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針とが所定距離離間して「ほぼ平行に設けられた」構成を備えていることを開示したものとはいえない。また,乙27においては,穿刺前の段階から上記「ほぼ平行に設けられた」構成を備えることを示唆する記載はない。かえって,乙27には,「…鏡視下に刺入部を十分確認後,この針を半月板の位置のや いえない。また,乙27においては,穿刺前の段階から上記「ほぼ平行に設けられた」構成を備えることを示唆する記載はない。かえって,乙27には,「…鏡視下に刺入部を十分確認後,この針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し,冠靱帯のところで一度先端を出し,改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し,このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通してから…」(前記a(a))との記載があるように,手術医が鏡視下で手技により縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をそれぞれ穿刺に適した位置(上記記載部分の例では,「半月板の位置のやや遠位側」,「半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側」)から穿刺することが開示されているものと認められる。 したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。 d そうすると,乙27には,乙27記載の医療用器具が,本件発明1- 138 -の構成要件B(「該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針」の構成)及び構成要件D(「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」の構成)を備えているとの開示がない点において,本件発明1と乙27発明(乙27記載の医療用器具)は相違するものと認められる。 (イ) 容易想到性a 本件発明1は,前記1(1)ア(ア)b認定のとおり,内視鏡的胃瘻造設術などの際にカテーテルの挿入を容易にするために行われる前腹壁と胃体部前壁等の内臓壁との固定に使用される医療用器具に関するものであり,縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構 壁と胃体部前壁等の内臓壁との固定に使用される医療用器具に関するものであり,縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成(構成要件B及びD)を採用したことにより,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造とするとともに,胃内などの内臓内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸又はその延長線が,環状部材の内部を貫通するような位置関係となるように,環状部材が縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる構成(構成要件F)を採用したことで,縫合糸が確実に環状部材の内部を貫通するようにし,これによって前腹壁と胃体部前壁等とを,容易かつ短時間に,安全かつ確実に固定することができ,この固定に伴う患者への侵襲も少なく,患者に与える負担も少なくする効果を奏するようにしたことに技術的意義がある。 b 被告らは,位置関係を規定すべき複数の針を固定部材に固定することは周知慣用技術(乙2,31の4ないし6)であり,乙27記載の医療用器具において,縫合糸(ナイロン糸)の受渡しを確実に行うこ- 139 -とを目的として,上記周知慣用技術を適用して2本の針を適切な位置関係に規定する固定部材を設けることは,当事者が適宜設計できる事項にすぎないものであり,また,乙27記載の医療用器具と乙2記載の医療用器具とは,複数の針を人体に穿刺するための医療用器具という点で技術分野を同一とし,共通の作用,機能を有するものであって,乙27記載の医療用器具においても,容易,正確かつ迅速な穿刺の実現が望まれ,これを実現する構成を採用することの動機付けがあるから,本件発明1は,当業者が乙27の記載及び周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて容易 医療用器具においても,容易,正確かつ迅速な穿刺の実現が望まれ,これを実現する構成を採用することの動機付けがあるから,本件発明1は,当業者が乙27の記載及び周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて容易に想到することができた旨主張する。 (a) しかしながら,乙27記載の医療用器具は,半月板外周縁部損傷の治療のため,半月板外縁と冠靱帯の縫合術に用いる器具であるところ,乙27においては,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針を体内に対して同時穿刺することについての記載も示唆もない。かえって,乙27には,前記(ア)cのとおり,手術医が,その手技によって,半月板を貫通した長針(縫合糸挿入用穿刺針)の先端のナイロン糸を,別の箇所から刺入したもう一方の長針(縫合糸把持用穿刺針)の先端のナイロン糸のループに通してループで締めて,これを関節外に引き出して半月板外縁と冠靱帯を縫合する施術が説明されており,このような施術において,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針を穿刺前に特定の間隔にあらかじめ固定し,この2本の針を体内に対して同時穿刺する必要性があるものとは認められず,このような同時穿刺をする構成とすることによって縫合すべき部位に適した位置に容易,正確かつ迅速な穿刺が実現できることになるものとも認められない。 そうすると,仮に被告らが主張するように位置関係を規定すべき複数の針を固定部材に固定することは周知慣用技術であるとして- 140 -も,乙27記載の医療用器具において,縫合糸(ナイロン糸)の受渡しを確実に行うことを目的として,上記技術を適用すべき動機付けが存在するものと認められず,また,「縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成」(本件発明1の構成要 すべき動機付けが存在するものと認められず,また,「縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成」(本件発明1の構成要件B及びD)を採用することが当業者が適宜行う設計的事項であるということもできない。 したがって,当業者が乙27記載の医療用器具において相違点に係る本件発明1の構成(構成要件B及びD)を採用することに容易に想到することができたものとは認められない。 (b) 次に,前記(1)ア(ウ)bのとおり,乙2記載の処置器具は,放射性物質を人体の組織内に注入して行う放射線治療用処置器具であって,縫合糸の縫合に用いられるものではなく,乙2には,複数の針を人体に平行に同時穿刺できる構成としたことにより容易,正確かつ迅速な穿刺が実現できる効果を奏することが記載されているが,このような構成とした効果が,放射線治療用処置器具の場合と同様に,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針とを備えた縫合糸による縫合に用いる医療用器具の場合にも奏することについては,記載も示唆もない。 そうすると,乙27及び乙2の記載に接した当業者が,乙27記載の処置具において,乙2に記載された複数の針の基端部を平行に固定する固定部材に係る構成を縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針に適用する動機付けが存在するものと認めることはできないし,仮にこれを適用することを試みたとしても,乙27記載の医療用器具に相違点に係る本件発明1の構成(構成要件B及びD)を採用することに容易に想到することができたものとは認めら- 141 -れない。 (c) 以上によれば,本件発明1が乙27の記載及び被告ら主張の周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて容易に想到することができたとの被告らの主張は,理由が ものとは認めら- 141 -れない。 (c) 以上によれば,本件発明1が乙27の記載及び被告ら主張の周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて容易に想到することができたとの被告らの主張は,理由がない。 イ本件発明2について被告らは,当業者であれば,乙27の記載及び周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて本件発明2を容易に想到することができた旨主張する。 しかしながら,前記(1)イのとおり,本件発明2の特許請求の範囲(請求項3)は,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)を引用する形式のものであり,本件発明2は,本件発明1の構成要件の構成をすべて備えているところ,本件発明1が乙27の記載及び周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて容易に想到することができたものと認められないことは前記アのとおりであるから,これと同様の理由により,乙27の記載及び被告ら主張の周知慣用技術又は乙2の記載に基づいて本件発明2を容易に想到することができたものとは認められない。 したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告らの上記主張は理由がない。 ウ小括以上によれば,被告ら主張の無効理由2は理由がない。 (3) 無効理由3(サポート要件違反)ア被告らは,①本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載中の「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との記載は,「環状部材」の作用・機能を特定する機能的記載であること,②本件明細書の発明の詳細な説明には,「環状部材」の構成として,縫合糸把持用穿刺針の先端が- 142 -縫合糸挿入用穿刺針の方向に湾曲した構成(図1等)の記載があるが,この構成以外に, ること,②本件明細書の発明の詳細な説明には,「環状部材」の構成として,縫合糸把持用穿刺針の先端が- 142 -縫合糸挿入用穿刺針の方向に湾曲した構成(図1等)の記載があるが,この構成以外に,「環状部材」が「前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ようにする具体的構成が開示されていないことからすれば,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない態様のものを含んでいるというべきであって,旧特許法36条5項1号の「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」に適合しないから,本件発明1に係る本件特許には,同号に違反する無効理由(同法123条1項4号)がある旨主張する。 しかし,前記1(1)イ(イ)cで述べたとおり,本件明細書に接した当業者は,請求項1記載の「該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との構成は,前記1(1)イ(イ)bの記載事項及びこれに引用された図1(別紙本件明細書の図面参照)から,縫合糸挿入用穿刺針先端より突出させた縫合糸を縫合糸把持用穿刺針先端より突出した環状部材の内部を確実に通過させ,縫合糸の受渡しを行うことができるようにするための構成であると理解し,上記構成を実現するための技術的手段として図1に示すように環状部材が縫合糸把持用穿刺針2の先端の刃面に向かって開口し,刃面部分を含む先端部が湾曲している態様のものがあることを認識するとともに,これ以外の態様のものであっても,上記構成を採用す に示すように環状部材が縫合糸把持用穿刺針2の先端の刃面に向かって開口し,刃面部分を含む先端部が湾曲している態様のものがあることを認識するとともに,これ以外の態様のものであっても,上記構成を採用すれば,縫合糸挿入用穿刺針先端より突出させた縫合糸を縫合糸把持用穿刺針先端より突出した環状部材の内部を確実に通過させ,縫合糸の受渡しを行うことができることを理解するものと認められる。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,請求項1記載の「該- 143 -環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との構成について,被告らが主張する縫合糸把持用穿刺針の先端が縫合糸挿入用穿刺針の方向に湾曲した態様以外のものが開示されていないということはできないし,また,請求項1に本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない態様のものを含んでいるということもできない。 したがって,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載が旧特許法旧36条5項1号の「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」の要件(サポート要件)に適合しないとの被告らの主張は,採用することができない。 イ小括以上によれば,被告ら主張の無効理由3は理由がない。 4 争点4(原告の損害額)について(1) 特許法102条2項に基づく損害額ア(ア) 前記2認定のとおり,被告らが被告製品を製造,販売する行為は,本件訴状が被告らに送達された時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)以降のものに限り,本件専用実施権の間接侵害(特許法101条2号)を構成す 被告らに送達された時点(被告秋田住友ベークにおいては平成20年8月1日,被告オリンパスメディカルにおいては同年7月31日)以降のものに限り,本件専用実施権の間接侵害(特許法101条2号)を構成するものと認められるところ,被告製品及びこれ以外の機材をセットとした被告キットの販売は,社会的事実としてみると一つの販売行為であって,被告製品の販売の一態様と評価できるから,本件専用実施権の間接侵害に該当するというべきである。 (イ) 被告秋田住友ベークが製造した被告キットは,その全量が被告オリンパスメディカルを通して販売店等に販売され,しかも,被告オリンパスメディカルにおける被告キットの仕入購入先は被告秋田住友ベーク- 144 -だけであることは,前記2の冒頭部分で認定のとおりである。 してみると,被告秋田住友ベークによる被告キットの製造から被告オリンパスメディカルによる販売店等への販売までの被告らの各行為には関連共同性が認められるものといえるから,平成20年8月1日から平成22年12月29日(本件専用実施権の存続期間満了日)までの期間中の被告キットの販売店等に対する販売は,被告らが共同して行った原告の本件専用実施権の間接侵害行為を構成し,共同不法行為に該当するものと認めるのが相当である。 原告は,特許法102条2項に基づいて,原告が被告らの上記共同不法行為により受けた損害額を主張するので,以下において検討する。 (ウ) そこで,まず,被告らが,上記期間中に被告キットを販売することによって受けた利益の額について検討するに,被告秋田住友ベークが平成19年4月から平成22年12月29日までに製造,販売した被告キットの数量が合計●(省略)●セットであることは争いがなく,また,弁論の全趣旨によれば,そのうち,平成19年4月から平成20年 クが平成19年4月から平成22年12月29日までに製造,販売した被告キットの数量が合計●(省略)●セットであることは争いがなく,また,弁論の全趣旨によれば,そのうち,平成19年4月から平成20年7月末までの被告キットの製造販売数量は●(省略)●セットであることが認められる。 これらの事実と上記(イ)の事実(前記2の冒頭部分で認定の事実)によれば,被告秋田住友ベークは,平成20年8月1日から平成22年12月29日までの間に,被告キット合計●(省略)●セット(上記の●(省略)●セットから●(省略)●セットを差し引いた数量)を製造して被告オリンパスメディカルに販売し,これらが被告オリンパスメディカルから販売店等に販売されたことが認められる。 他方,被告セットの販売店等に対する販売価格が1セット当たり3万7600円であること及び被告らの被告キットの製造販売に係る利益率が●(省略)●であることは,いずれも争いがない。 - 145 -したがって,被告らは,平成20年8月1日から平成22年12月29日までの間に被告キットを販売することによって,合計12億7024万0800円の利益を受けたものと認められる。 (計算式・3万7600円×●(省略)●セット×●(省略)●=12億7024万0800円)(エ) これに対し被告らは,平成22年9月から同年12月末までの間の被告秋田住友ベークによる被告キットの製造販売に係る分には,同年12月末までに被告オリンパスメディカルから販売店等に販売されていない在庫等が含まれているので,この点を考慮すると,平成19年4月から平成22年12月29日までの間に被告オリンパスメディカルから販売店等に販売された被告キットの数量は●(省略)●セットに満たない旨主張する。 しかし,本件においては,上記在庫等 成19年4月から平成22年12月29日までの間に被告オリンパスメディカルから販売店等に販売された被告キットの数量は●(省略)●セットに満たない旨主張する。 しかし,本件においては,上記在庫等の存在及びその数量を客観的にうかがわせる証拠は提出されておらず,被告らの上記主張は採用することができない。 イ原告は,特許法102条2項により,被告らが被告キットの販売によって受けた利益の額の全額が,原告の受けた損害の額と推定される旨主張する。 これに対し被告らは, 被告キットは,胃瘻造設のためのイントロデューサー法の一種であるダイレクト法に適した必要機材一式を揃えたものであり,市場ではキット全体(特に「イディアルボタン(Aセット)」)に着目して選択され,被告製品は被告キットの単なる1部材にすぎず,被告製品又は被告キットと原告製品とは市場において競合していないから,被告キットの販売によって原告に原告製品の販売による得べかりし利益の損害そのものが発生していないので,本件において,特許法102条2項の推定規定は適用されない,原告の損害額の認定に当たっては,被告製- 146 -品における本件各発明の実施可能性(実施率)及び被告製品の販売における本件発明の寄与率を考慮すべきであるなどと主張して,原告主張の上記損害額を争っているので,以下において検討する。 (ア) 被告キットは,①胃瘻を通じて胃の中に留置して使用するカテーテル(イディアルボタン)及びその留置のために使用するオブチューレーター等のセット品である「イディアルボタン(Aセット)」,②カテーテル(イディアルボタン)を胃の中に導入する際に穿刺針によって得られた穿刺孔を拡張又は拡大するために用いる医療器具である「イディアルダイレータセット」,③胃瘻造設術に用いる穿刺針,縫合糸,ガー テーテル(イディアルボタン)を胃の中に導入する際に穿刺針によって得られた穿刺孔を拡張又は拡大するために用いる医療器具である「イディアルダイレータセット」,③胃瘻造設術に用いる穿刺針,縫合糸,ガーゼ等からなる「処置セット(Iセット)」,④胃壁固定具である被告製品から構成されている(前記争いのない事実等(5)イ,甲5)。 被告らは,①ないし③の部材は,④の被告製品の使用の有無及び使用態様にかかわりなく用いることができるものであり,しかも,市場において,被告キットは,①のカテーテル(イディアルボタン)及びオブチューレーターが他社製品と異なるメリットを有するものとして購入されており,被告キットにおいては,イディアルボタン及びオブチューレーターが主たる製品であって,被告製品は付属の一部材にすぎないこと,胃瘻造設の施術においては,まずPull/Push法,イントロデューサー法等の施術方法が決定され,その後に胃壁固定具の要否等が決定されるのであり,胃壁固定具に着目して施術方法が決定されるわけではないこと,原告製品の販売数量は,被告製品の販売開始によって減少していないばかりか,増加していることなどを挙げて,被告製品又は被告キットと原告製品とは市場において競合していないから,被告キットの販売により原告製品の売上げが減少するという関係にはなく,被告キットの販売によって原告に原告製品の販売による得べかりし利益の損害は発生していないので,本件において,特許法102条2項の推定- 147 -規定は適用されない旨主張する。 しかし,被告らが被告キットを販売した平成19年4月から平成22年12月29日までの間,原告は,本件専用実施権の実施品である原告製品の単品及び原告製品を含むキット製品(原告キット)を製造販売していたこと(甲40,41,検乙2) 売した平成19年4月から平成22年12月29日までの間,原告は,本件専用実施権の実施品である原告製品の単品及び原告製品を含むキット製品(原告キット)を製造販売していたこと(甲40,41,検乙2),被告キットには本件専用実施権の間接侵害品である被告製品が含まれていること,被告製品の販売は本件専用実施権の効力により禁止されていたことによれば,被告らが被告キットの販売による本件専用実施権の間接侵害を行わなければ,その間接侵害品(被告製品)の数量中に原告において原告製品を販売することができた分があったものとみるのが自然であるから,原告にその分に係る得べかりし利益の損害が発生したものと推認される。 被告らが挙げる諸点は,原告の上記損害の発生自体の推認を妨げる事情ではなく,その損害の額の算定に当たり考慮すべき事情となり得るものにすぎないというべきである。他に上記推認を妨げる証拠はない。 したがって,本件において特許法102条2項の推定規定は適用されないとの被告らの主張は,理由がない。 (イ) 次に,被告らは,被告製品は,2本の針を別々に穿刺する商品であり,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するのは2本の針を一体化機構によって係止し,同時に穿刺して使用する場合だけであって,この使用態様以外の被告製品の使用は,本件各発明の実施に該当せず,原告に損害が発生することにならないので,原告の損害額の認定に当たっては,被告製品における本件各発明の実施可能性(実施率)を考慮すべきである旨主張する。 ところで,特許法101条2号の間接侵害の対象となる「その物の生産に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」(以下「特許法101条2号の物」という。)は,同条1号の間接侵害の対- 148 -象となる「その物の生産にのみ用いる物」とは異 の生産に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」(以下「特許法101条2号の物」という。)は,同条1号の間接侵害の対- 148 -象となる「その物の生産にのみ用いる物」とは異なり,特許発明の技術的範囲に属する物(以下「特許発明の物」という。)の生産以外の用途にも用いることができる物であるところ,特許法101条2号の物が特許発明の物の生産以外の用途に用いる目的で譲渡され,実際にも特許発明の物の生産に用いられることがなかった場合には,結果的にみれば,当該物の譲渡行為がなければ特許発明の物を譲渡することができたという関係はなく,特許権者又は専用実施権者に特許発明の物の譲渡による得べかりし利益の損害は発生しないので,当該物の譲渡によって得た利益の額を特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定することはできないというべきであるから,このような場合は同法102条2項の推定を覆す事情に該当するものと解するのが相当である。 被告製品における本件各発明の実施可能性(実施率)を考慮すべきであるとの被告らの上記主張は,この趣旨をいうものと解される。 そこで検討するに,①本件調査嘱託に対して調査回答をした183の医療機関のうち,60の医療機関において,被告製品を使用した症例があったこと,②その中で,被告製品の使用態様についても回答した58の医療機関における使用症例2869のうち,本件各発明の実施に該当する2本の針を一体化機構によって係止し,同時に穿刺する使用態様のものは785症例(約27%)であり,その余の症例(約73%)における使用態様は,一体化機構によって係止をすることなく,2本の針を1本ずつ別々に穿刺し,あるいは同時に穿刺するというものであって,いずれも被告製品が本件各発明の生産に用いられたものではなく,被告製品の 使用態様は,一体化機構によって係止をすることなく,2本の針を1本ずつ別々に穿刺し,あるいは同時に穿刺するというものであって,いずれも被告製品が本件各発明の生産に用いられたものではなく,被告製品の使用は本件各発明の実施に該当しないこと,③上記①の医療機関(ただし,使用症例の総数だけを調査回答し,使用態様の調査回答のなかった2医療機関を除く。)のうち,32の医療機関(約55%)においては,2本の針を一体化機構によって係止し,同時に穿刺する使用- 149 -態様の症例はなかったこと,④被告製品の添付文書には,「使用上の注意」における「1.重要な基本的注意」として,2本の針を一体化機構によって一体化させた状態で同時に穿刺しないことの記載があること,以上の①ないし④及びその他本件に顕れた諸般の事情によれば,被告らによる被告製品の販売数量の約7割は,2本の針を一体化機構によって係止し,同時に穿刺して使用する用途以外に用いる目的で購入され,実際にそのような用途で使用されることもなかったものと認めるのが相当である。 そうすると,被告らが被告キットの販売によって受けた利益の額のうち,被告製品の販売数量の約7割に係る分については,原告の受けた損害額であるとの推定(特許法102条2項)を覆す事情があるというべきである。 以上の認定に反する原告の主張は,採用することができない。 (ウ) また,被告らは,①被告キットは,被告製品を含む四つの異なる独立した部材(前記(ア)①ないし④)から構成されており,被告製品以外の部材は,本件各発明の実施の有無に関わりなく使用されるものであること,②被告キットにおいては,カテーテル(イディアルボタン)及びオブチューレーター(前記(ア)①)が主たる製品であり,これらが他社製品と異なるメリットを有するものとして購 なく使用されるものであること,②被告キットにおいては,カテーテル(イディアルボタン)及びオブチューレーター(前記(ア)①)が主たる製品であり,これらが他社製品と異なるメリットを有するものとして購入されており,被告製品に着目して被告キットが市場で選択されているものではなく,また,本件各発明を実施することを考えるのであれば,手技者は,原告製品を選択すればよく,あえて被告製品を含む高価な被告キットを選択する必要はなく,被告製品の廃棄用の係止部材(一体化機構)により,2本の針が係止され得ることは,被告キットの販売に何ら寄与していないこと,③被告製品を単品で販売する場合の1本当たりの販売価格(9600円)は,被告キットの1セット当たりの販売価格(3万7600円)の4分- 150 -の1程度にすぎないこと,④原告製品の販売数量は,被告キットの販売開始によって減少していないばかりか,増加していること(甲38・3頁~4頁),⑤被告製品を含む被告キットには,被告らの多くの技術が寄与していることなどによれば,本件各発明は,被告キットの販売に寄与していないか,仮に寄与があるとしてもわずかなものであり,原告の損害額の認定に当たっては,このような本件各発明の寄与率を考慮すべきである旨主張する。 a 被告キットは,被告製品及びそれ以外の部材から構成されるセット製品であり,被告らが被告キットの販売によって受けた前記ア(ウ)の利益額(12億7024万0800円)には,被告製品以外の部材に係る利益分が含まれているといえるから,被告キットの販売によって受けた上記利益の全額が原告の得べかりし利益の損害と因果関係があるということはできない。 ところで,被告らが被告製品を含む被告キットを販売するほかに,被告製品を単品で販売していたことは争いがなく,また,弁論の の全額が原告の得べかりし利益の損害と因果関係があるということはできない。 ところで,被告らが被告製品を含む被告キットを販売するほかに,被告製品を単品で販売していたことは争いがなく,また,弁論の全趣旨によれば,被告製品単品の販売店等に対する販売価格が9600円であることが認められる。 そして,被告キットの1セット当たりの販売価格(3万7600円)と被告製品単品の上記販売価格とを対比すると,被告製品単品の上記販売価格の被告キットの上記販売価格に対する比率は,約25.5%となる。 一方で,被告キットは,胃瘻造設術に用いられる各種部材を単品ではなく,必要な部材一式を揃えたセット製品として販売することによって製品全体の市場価値が形成されていたとみるべきであるから,被告キットの販売によって受けた利益について,上記比率を形式的に適用して被告製品に係る利益分と被告製品以外の部材に係る利益分を- 151 -区分することはできないが,上記比率は,被告製品に係る利益分を認定する上での重要な要素となるというべきである。 b 被告らは,被告キットにおいては,カテーテル(イディアルボタン)及びオブチューレーターが主たる製品であり,これらが他社製品と異なるメリットを有するものとして購入されており,被告製品に着目して被告キットが市場で選択されているものではないから,被告製品は被告キットの販売に何ら寄与していない旨主張する。 前記争いのない事実等(4),(5)と証拠(甲5,33の1,2,35,38,39)及び弁論の全趣旨によれば,①被告オリンパスメディカルは,平成17年10月から,イディアルボタン(交換用カテーテル・バンパー型。その専用挿入補助具であるオブチューレーターを含む。 以下同じ。)の販売を開始した後,平成19年4月から,被告製品単品の ルは,平成17年10月から,イディアルボタン(交換用カテーテル・バンパー型。その専用挿入補助具であるオブチューレーターを含む。 以下同じ。)の販売を開始した後,平成19年4月から,被告製品単品の販売と,イディアルボタン及び被告製品を含む被告キットの販売を開始したが,被告キットの販売開始後も,イディアルボタン単品の販売を継続していたこと,②胃瘻造設術には,口腔・咽頭を通過してカテーテルを留置するPull/Push法と,口腔・咽頭を通過せず,腹壁外から胃内腔へ経皮的にカテーテルを留置するイントロデューサー法等があり,原告製品及び被告製品が使用される施術は,イントロデューサー法に分類されること,③原告は,平成5年6月から,原告製品単品の販売を開始し,平成10年11月から,原告製品単品の販売のほかに,原告製品及びカテーテルを含むセット製品である原告キット(「経皮的瘻用カテーテルキット(鮒田式胃壁固定具付)」)の販売を開始したものであるところ,原告製品の販売が開始された当時の胃瘻造設術の主流はPull/Push法であり,その後原告製品を用いたイントロデューサー法を採用した症例が年々増加していったが,被告製品が市場に参入した平成19年当時においてもなお,- 152 -Pull/Push法が採用された症例が6割を超えていたこと,④オリンパス株式会社のウェブページ(甲35)では,被告キットの販売開始についてニュースリリースされ,その記事の中で,被告キットの「主な特長」として,「1.Direct法に必要なすべての胃瘻造設用器具をラインアップ胃壁と腹壁を固定する胃壁固定具「イディアルリフティング」,瘻孔を鈍的に拡張する「イディアルダイレータセット」,留置する胃瘻カテーテル「イディアルボタン(Aセット)」など,「Direct法」に必要な器具を 壁を固定する胃壁固定具「イディアルリフティング」,瘻孔を鈍的に拡張する「イディアルダイレータセット」,留置する胃瘻カテーテル「イディアルボタン(Aセット)」など,「Direct法」に必要な器具をすべてラインアップすることで,より安全で簡便な手技を実現します。」,「2.患者さんに対して安全な手技を実現口腔内を通過させることなく経皮的にカテーテルを留置することにより,咽頭の常在菌などによる瘻孔の感染リスクを低減します。また,ガイドワイヤー下のダイレータ挿入による2ステップの瘻孔拡張で,出血や胃の後壁損傷のリスクを低減します。さらに,胃壁と腹壁を密着させる胃壁固定により,カテーテルを抜いた際に起こりうる腹膜炎などの合併症の併発を低減します。」,「3.患者さんの苦痛を軽減する手技を実現 1回の内視鏡挿入で胃瘻造設が行えることに加えて,従来のようにカテーテルが口腔内を通過しない造設手技のため,患者さんの苦痛が軽減されます。」などと紹介し,被告製品を用いたイントロデューサー法を採用した利点について述べていることが認められる。 上記認定事実によれば,被告らは,イントロデューサー法を採用した被告製品の利点をセールスポイントの一つとして被告キットを販売し,市場においても,イディアルボタンにのみ着目している者は,イディアルボタンの単品を購入することができたのであるから,被告キットに本件発明の間接侵害品である被告製品が含まれていることが被告キットの販売に相当程度貢献していることは明らかであり,被- 153 -告らの上記主張は採用することができない。 c 被告らは,原告製品の販売数量は,被告キットの販売開始によって減少していないばかりか,増加している旨主張する。 しかし,原告製品の販売数量が増加したからといって,被告キットの販売によって c 被告らは,原告製品の販売数量は,被告キットの販売開始によって減少していないばかりか,増加している旨主張する。 しかし,原告製品の販売数量が増加したからといって,被告キットの販売によって原告に原告製品の販売による得べかりし利益の損害が発生していないということはできないし,被告キットの販売に本件各発明の間接侵害品である被告製品が含まれていることが貢献していないことを基礎づけることにもならない。 d 被告らは,被告製品を含む被告キットには,被告らの多くの技術が寄与している旨主張する。 被告キットを構成するイディアルボタン,イディアルダイレーターセット等の各部材には,被告らが主張するように特許発明が採用されていること(乙70ないし74,弁論の全趣旨)が認められ,これらは,被告キットの販売に相当程度寄与していることがうかがわれる。 e 以上のaないしdの認定事実を総合すれば,被告らが被告キットの販売によって受けた利益についての本件各発明の寄与率は,30%と認めるのが相当である。 そして,被告らが被告キットの販売によって受けた利益の額のうち上記寄与率を超える分については,被告らが本件専用実施権の間接侵害行為により受けた利益には含まれないというべきである。 (エ) 前記(イ)及び(ウ)の事情を考慮すると,被告らの本件専用実施権の侵害行為によって原告に生じた損害額は,1億1432万1672円と認められる。 (計算式・12億7024万0800円×(1-0.7)×0.3=1億1432万1672円)(2) 弁護士費用- 154 -被告らの本件専用実施権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,本件事案の内容,審理の経過等諸般の事情を考慮し,1100万円と認めるのが相当である。 (3) まとめ以上を総合する 被告らの本件専用実施権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,本件事案の内容,審理の経過等諸般の事情を考慮し,1100万円と認めるのが相当である。 (3) まとめ以上を総合すると,原告が,被告らの本件専用実施権の侵害行為によって受けた損害額の合計は,1億2532万1672円(前記(1)イ(エ)及び(2)の合計額)と認められる。 したがって,原告は,被告らに対し,本件専用実施権侵害の共同不法行為による損害賠償として1億2532万1672円及びこれに対する不法行為の後である平成22年12月27日付け原告準備書面(20)(請求額の拡張に係るもの)送達の日の翌日(平成23年1月8日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。 5 結論以上によれば,原告の請求は,被告らに対し,1億2532万1672円及びこれに対する平成23年1月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるからその限度で認容することとし,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官大西勝滋 - 155 -裁判官石神有吾

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