令和6年1月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第10723号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年9月25日判決 原告株式会社東京精密 同訴訟代理人弁護士服部誠同岩間智女同柿本祐依 被告浜松ホトニクス株式会社同訴訟代理人弁護士東崎賢治 同松尾博憲同柿野真一 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、1億円及びこれに対する令和4年5月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は、原告が、発明の名称を「レーザ加工方法及びレーザ加工装置」とする特許第4601965号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)は、原告と被告との間で締結された業務提携準備に関する契約(以下「本件準備契約」という。)によって、原告と被告の 共有になるべきものであったにもかかわらず、被告は、単独でその設定登録を 受け、原告に対して本件特許権の侵害を理由とする特許権侵害訴訟(東京地方裁判所平成30年(ワ)第28930号。以下「別件訴訟」という。)を提起し、原告の了承を得ることなく競合他社に対して本件特許に係る発明の実施許諾をしており、このような被 する特許権侵害訴訟(東京地方裁判所平成30年(ワ)第28930号。以下「別件訴訟」という。)を提起し、原告の了承を得ることなく競合他社に対して本件特許に係る発明の実施許諾をしており、このような被告の行為は原告に対する不法行為に該当するとともに、上記実施許諾により被告が得た利益は不当利得に該当すると主張して、 被告に対し、不法行為又は不当利得に基づき(両者に基づく請求は選択的併合である。)、損害金又は不当利得金10億円の一部請求として1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年5月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特 記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者原告は、半導体製造装置及び精密計測機器の製造等を業務とする株式会社である。 被告は、光半導体、光学応用機器等の開発・製造を主たる業務とする株式 会社である。 ⑵ ステルスダイシング技術について(弁論の全趣旨)半導体の製造においては、半導体ウェハ(以下「ウェハ」という。)の上に集積回路(IC)を形成した上で、一つ一つのチップとして切り離すことが行われており、この切り離し作業をダイシングという。 従来のダイシング技術として、ブレードダイシング(冷却水をかけながら、ダイアモンド砥石を高速回転させてウェハを切断する技術)や、アブレーションダイシング(レーザ光をウェハ表面に集光し、溝を掘ってウェハを切断する技術)がある。 これに対し、ステルスダイシング技術は、対象材料に対して透過性を有す る波長のレーザ光をウェハ内部に集光し、分割するための起点(改質領域) に集光し、溝を掘ってウェハを切断する技術)がある。 これに対し、ステルスダイシング技術は、対象材料に対して透過性を有す る波長のレーザ光をウェハ内部に集光し、分割するための起点(改質領域) を形成した後、ウェハに外部応力を加えて小片化する技術である。 このようなステルスダイシング技術では、専用のレーザ及び専用光学系により、ウェハの表面付近は未改質の状態のまま、ウェハの内部のみに選択的に改質領域を形成することが可能である。そのため、ステルスダイシング技術では、ウェハ表面に形成された機能素子を傷つける粉塵を発生させること はなく、純水での洗浄を必要とせず、また、加工箇所を最小限に抑えることができる。 ⑶ 本件準備契約の締結に至る経緯及びその内容についてア平成14年8月、被告がステルスダイシング技術を開発したとの新聞記事が掲載され、当時、ダイシング装置において世界で第2位のシェアを有 していた原告は、被告に対し、業務提携を持ち掛けた。 その当時、被告は、ステルスダイシング技術の開発を進めていたものの、ダイシング装置の開発自体は行っていなかった。 イ原告が被告に対して業務提携を持ち掛けた際に提示された「「ステルスダイシング」に関する御提案」と題する書面(以下「原告提案書」とい う。)には、以下の記載が存在する(甲37。「弊社」及び「乙」は原告のことを、「御社」及び「甲」は被告のことを、それぞれ指す。)。 ・(省略)・ウ原告と被告は、平成14年9月18日、ステルスダイシング技術の事業化に向けた業務提携に関して、業務提携準備に関する契約(本件準備契約) を締結した(甲3)。 エ本件準備契約においては、以下の定めが存在する(「甲」は原告のことを、「乙」は被告のことを、それぞれ指す。)。 携に関して、業務提携準備に関する契約(本件準備契約) を締結した(甲3)。 エ本件準備契約においては、以下の定めが存在する(「甲」は原告のことを、「乙」は被告のことを、それぞれ指す。)。 「第1条(定義)本契約中の用語の定義は次の通りとする。 (1)ステルスダイシング技術: 乙が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術(2)ステルスダイシング装置:ステルスダイシング技術を用いた装置(3)SDエンジン:ステルスダイシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ軸)、 搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z軸ステージを含む)及びソフトウェア設計」「第5条(試作機の共同開発)甲及び乙は業務提携の準備の一環として、2002年12月開催のセミコンジャパンへの共同出展を目指して、ステルスダイシング装置の試 作機の共同開発(以下、試作機の共同開発という)を行う。 2.試作機の共同開発の役割分担は以下通りとする。 (1)甲:既存製品(A-WD-200T)をSDエンジン搭載可能に改造を行う(2)乙:SDエンジンを既存製品(A-WD-200T)に搭載 する。一部改造も伴う」「第6条(成果)試作機の共同開発の過程または相手方が開示した本情報に基づき、発明・考案等を確認したときは、その取扱いにつき速やかに協議するものとし、その発明・考案等及びこれらに基づく工業所有権等(以下、本成 果という)の帰属及び運用は、次のとおりとする。 (1)SDエンジンに関する本成果は乙に帰属するものとする。 (2)ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果は甲乙共有とする 果という)の帰属及び運用は、次のとおりとする。 (1)SDエンジンに関する本成果は乙に帰属するものとする。 (2)ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果は甲乙共有とする。 2.乙は、半導体ウエハダイシング分野以外の用途において、乙の提携 先または最終ユーザーが希望した場合は、前項により共有となった 本成果につき単独で使用許諾をすることができる。 3.前項の場合、乙は甲に対して、持分に応じた実施料相当分を支払うものとする。具体的金額等の詳細については別途協議する。」オ本件準備契約における「基本特許」の意義について本件準備契約第1条第1項(1)の「基本特許」とは、主として、被 告が保有する発明の名称を「切断起点領域形成方法及び加工対象物切断方法」とする特許第3408805号の特許(以下「805号特許」という。)及びそのファミリー特許のことを指す。 被告は、平成13年9月13日、805号特許に係る特許出願(特願2001-278768)をし、平成15年3月14日、特許権の設定 登録(請求項の数37)を受けた(甲39。以下、805号特許の出願の願書に添付した明細書及び図面を併せて「別件明細書」という。)。 ⑷ 本件特許について被告は、平成16年1月9日、本件特許に係る特許出願(特願2004-4312)をし、平成22年10月8日、本件特許権の設定登録(請求項の 数20)を受けた(甲2。以下、本件特許の出願の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。なお、本件明細書及び別件明細書の発明の詳細な説明中の段落番号を【0001】などと記載する。)。 ⑸ 本件特許の特許請求の範囲ア請求項13(以下、請求項13に記載された発明を「本件発明13」と いう 書及び別件明細書の発明の詳細な説明中の段落番号を【0001】などと記載する。)。 ⑸ 本件特許の特許請求の範囲ア請求項13(以下、請求項13に記載された発明を「本件発明13」と いう。)第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記第1のレーザ光及び前記加工対象物の主面の変位を測定するための 第二のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、 前記第二のレーザ光の照射に応じて前記主面で反射される反射光を検出して前記主面の変位を取得する変位取得手段と、前記加工対象物と前記レンズとを前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、 前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、を備え、前記第二のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御し、前記変位取得手段は前記切断予定ラインに沿った前記主面の変 位を取得し、前記第一のレーザ光を照射し、前記制御手段は前記変位取得手段が取得した変位に基づいて前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記改質領 域を形成し、前記制御手段は前記第二のレーザ光の集光点が前記加工対象物に対する所定の位置に合うように設定された測定初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、当該レンズを測定初期位置に保持した状態で 御手段は前記第二のレーザ光の集光点が前記加工対象物に対する所定の位置に合うように設定された測定初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、当該レンズを測定初期位置に保持した状態で前記第二のレーザ光の照射 を開始し、前記制御手段は前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御し、前記主面で反射される前記第二のレーザ光の反射光に応じて、前記レンズを前記測定初期位置に保持した状態を解除するように前記保持手段を制御し、当該解除後に、前記制御手段は前記主面で反射される前記第二のレーザ 光の反射光を検出しながら前記レンズと前記主面との距離を調整するよう に前記保持手段を制御し、前記変位取得手段は前記切段予定ラインに沿った前記主面の変位を取得する、レーザ加工装置。 イ請求項15(以下、請求項15に記載された発明を「本件発明15」という。)第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加 工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記第1のレーザ光及び前記加工対象物の主面の変位を測定するための第二のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、前記第二のレーザ光の照射に応じて前記主面で反射される反射光を検出 して前記主面の変位を取得する変位取得手段と、前記加工対象物と前記レンズとを前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、 を備え、前記第二のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に 保持する保持手段と、前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、 を備え、前記第二のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御し、前記変位取得手段は前記切断予定ラインに沿った前記主面の変位を取得し、 前記第一のレーザ光を照射し、前記制御手段は前記変位取得手段が取得した変位に基づいて前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記改質領域を形成し、 前記制御手段は前記変位取得手段が取得した前記切断予定ラインに沿っ た前記主面の変位に基づいて前記主面に対して前記レンズを保持する加工初期位置を設定し、当該設定した加工初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、当該レンズを加工初期位置に保持した状態で前記第一のレーザ光の照射を開始し、前記制御手段は前記レンズと前記加工対象物とを相対的に移動 させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において前記改質領域を形成し、当該一端部における改質領域の形成後に、前記制御手段は、前記レンズを前記加工初期位置に保持した状態を解除し、前記変位取得手段が取得した前記主面の変位に基づいて前記レンズと前記加工対象物との間隔を調整 するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記改質領域を形成する、レーザ加工装置。 ウ請求項16(以下、請求項16に記載された発明を「本件発明16」といい、本件発明13、15及び16を総称して「本件 動させるように前記移動手段を制御して前記改質領域を形成する、レーザ加工装置。 ウ請求項16(以下、請求項16に記載された発明を「本件発明16」といい、本件発明13、15及び16を総称して「本件特許発明」という。) 前記変位取得手段が前記切断予定ラインに沿った前記主面の変位を取得する際に併せて前記第一のレーザ光を照射し、前記切断予定ラインに沿って前記改質領域を形成する、請求項10~15のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。 ⑹ 別件訴訟の提起 被告は、本件特許権の侵害を理由とする特許権侵害訴訟(東京地方裁判所平成30年(ワ)第28930号。別件訴訟)を提起した。 3 争点⑴ 本件特許権の帰属(争点1)⑵ 不法行為の成否(争点2) ⑶ 不当利得の成否(争点3) ⑷ 不法行為に係る損害並びに不当利得に係る利得及び損失の額(争点4)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件特許権の帰属)について(原告の主張)⑴ 本件準備契約第6条第1項(1)及び(2)の解釈について ア本件準備契約第6条第1項は、試作機の共同開発の過程における発明等に関する特許権の帰属について、次のとおり定めている。 (1)SDエンジンに関する本成果は乙に帰属するものとする。 (2)ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果は甲乙共有とする。 そして、同項(2)は、同項(1)と対を成す表現である「SDエンジンに関しない本成果」と、「ステルスダイシング技術」又は「ステルスダイシング技術に関する本成果」とについて、原告及び被告の共有とすることを定めたものである。 イ原告及び被告が、前記アの解釈のとおり認識していたことは、①本件準 備契約第6条第1項(2)の「ス シング技術に関する本成果」とについて、原告及び被告の共有とすることを定めたものである。 イ原告及び被告が、前記アの解釈のとおり認識していたことは、①本件準 備契約第6条第1項(2)の「ステルスダイシング技術」という記載が、ステルスダイシング技術(又はそれに関する成果)を原告と被告の共有とするために、原告の要望に基づき追記されたものであることから、裏付けられている。 また、本件準備契約締結後の事情としては、・(省略)・が挙げられ、こ れらの事情によっても前記アの解釈が裏付けられる。 ⑵ 本件特許発明は試作機の共同開発の過程で生じた発明であること原告と被告によるステルスダイシング技術を用いた装置(以下「ステルスダイシング装置」という。)の試作機の共同開発においては、ウェハの端部での集光点のずれが課題となっていたところ、原告と被告は、その課題を解 決するために、本件特許発明の構成を備える試作機を開発している。 したがって、本件特許発明は、本件準備契約第6条第1項の適用対象となる「試作機の共同開発の過程」で生じた発明に該当する。 ⑶ 「SDエンジンに関する本成果」、「ステルスダイシング技術」又は「ステルスダイシング技術に関する本成果」の意義について本件準備契約における「SDエンジン」とは、ステルスダイシング装置の 中の「筐体、ステージ(X・Y・θ軸)、搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z軸ステージを含む)」及び「ソフトウェア設計」を意味する。 そして、本件準備契約において、ステルスダイシング装置の中の特定の部分のみを「SDエンジン」と定義し、「SDエンジンに関する本成果」については、「ステルスダイシング技術」と区別して、被告に単独で帰属するこ とを定めていることからすれば ング装置の中の特定の部分のみを「SDエンジン」と定義し、「SDエンジンに関する本成果」については、「ステルスダイシング技術」と区別して、被告に単独で帰属するこ とを定めていることからすれば、「SDエンジンに関する本成果」とは、「発明・考案等」の課題解決のための必須の構成の全部を「SDエンジン」が備えているものを意味する。 他方、ステルスダイシング装置中の「SDエンジン」に該当しない部分が「発明・考案等」の課題解決のための必須の構成の全部又は一部を成すもの は、「SDエンジンに関する本成果」ではなく、「ステルスダイシング技術」又は「ステルスダイシング技術に関する本成果」に該当する。 ⑷ 本件特許発明が「ステルスダイシング技術」又は「ステルスダイシング技術に関する本成果」に該当する(「SDエンジンに関する本成果」に該当しない)こと 本件特許発明は、ウェハの端部において、形状変更による影響を極力排除することを課題とし、レンズとステージとの(水平上(X軸上)の)位置関係を認識し、レンズがステージ上のウェハの端部に来た後に、レンズを保持した状態を解除することにより課題を解決するものであるから、ステージを備え、レンズとステージ上のウェハとの相対的な(水平上(X軸上)の)位 置関係を把握し、レンズのZ軸上の動作とステージのX軸上の動作のタイミ ングを同期させることが、課題の解決には必須である。 これらの動作については、試作機の構成でいえば、「SDエンジン」ではない、ダイサ部内のCPUによって制御されている。 したがって、本件特許発明は、「SDエンジン」の定義から除かれているX軸ステージの動作とCPUによる制御を課題解決のための必須の構成とし て含むものであるから、本件準備契約第6条第1項(2)によって がって、本件特許発明は、「SDエンジン」の定義から除かれているX軸ステージの動作とCPUによる制御を課題解決のための必須の構成とし て含むものであるから、本件準備契約第6条第1項(2)によって原告及び被告の共有とすることが定められた「ステルスダイシング技術」又は「ステルスダイシング技術に関する本成果」に該当する。 ⑸ 小括よって、本件特許権は、原告と被告の共有になるべきものであった。 (被告の主張)⑴ 本件準備契約第6条第1項(1)及び(2)の解釈についてア本件準備契約第6条第1項は、「試作機の共同開発の過程または相手方が開示した本情報に基づき、発明・考案等を確認したとき」の「その発明・考案等及びこれらに基づく工業所有権等」を「本成果」と呼び、本成 果「の帰属及び運用は、次のとおりとする。」として、同項(1)において、「SDエンジンに関する本成果は乙に帰属するものとする。」と規定し、同項(2)において、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果は甲乙共有とする。」と規定するものである。すなわち、同項(1)及び(2)は、同項柱書の「…(以下、本成果という)の帰属及び 運用は、次のとおりとする。」を受けて、「本成果」の分類に応じて、それぞれその帰属を規定したものである。 このように、同項(1)の「SDエンジンに関する本成果」及び同項(2)の「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」は、いずれも「本成果」の分類を示したものであって、同項(2)につい ては、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない」が「本成 果」を修飾しているのである。 したがって、本件準備契約6条第1項(2)は、「ステルスダイシング技術(又はそれに関する本成果)」を対象にするも グ技術及びSDエンジンに関しない」が「本成 果」を修飾しているのである。 したがって、本件準備契約6条第1項(2)は、「ステルスダイシング技術(又はそれに関する本成果)」を対象にするものではなく、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」を原告及び被告の共有とするものにすぎない。 イこれに対し、原告は、「ステルスダイシング技術(又はそれに関する本成果)」は、両者の共有となると主張するが、論理的に考えて、本件準備契約第6条第1項(2)を原告の主張のように理解する余地はない。 もし、同契約において、「ステルスダイシング技術(又はそれに関する本成果)」を、両者の共有とすることが意図されていたのであれば、同項 (2)は、「ステルスダイシング技術に関する本成果及びSDエンジンに関しない本成果は甲乙共有とする」と規定されたはずである。 ⑵ 「SDエンジンに関する本成果」又は「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」の意義について原告は、本件準備契約締結前から従来の技術を用いたダイシング装置を取 り扱っていたことから、ダイシング装置の筐体、ステージ(X・Y・θ軸)及び搬送系部分については、原告が既に有している知見を活用することが期待され、ステルスダイシング装置の試作機の共同開発において、「既存製品(A-WD-200T)をSDエンジン搭載可能に改造を行う」ことが原告の役割とされていた(本件準備契約第5条第2項(1))。 これに対し、被告の役割は、「SDエンジンを既存製品(A-WD-200T)に搭載する。一部改造も伴う」とされた(本件準備契約第5条第2項(2))。これは、「SDエンジン」は原告が有している他のダイシング装置に関する経験とは無関係であり、原告がステルスダイシ -200T)に搭載する。一部改造も伴う」とされた(本件準備契約第5条第2項(2))。これは、「SDエンジン」は原告が有している他のダイシング装置に関する経験とは無関係であり、原告がステルスダイシング技術の研究開発に貢献することは全く求められていなかったためである。 本件準備契約第6条第1項は、このような役割分担を反映させたものであ る。すなわち、原告が研究開発に貢献することは全く求められていなかった「SDエンジンに関する本成果」については、被告に単独で帰属することとされ、一方で、他のダイシング装置に関する経験から原告が既に有している知見を活用することが期待されていた「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」は、原告及び被告の共有とすることとされたので ある。 このような事情からすれば、本件準備契約第6条第1項(1)の「SDエンジンに関する本成果」とは、SDエンジンが「発明・考案等」の全ての構成要件を満たす本成果をいうのではなく、「発明・考案等」の本質的部分(特徴的部分)がSDエンジンにある本成果をいうと解すべきである。 ⑶ 本件特許発明が「SDエンジンに関する本成果」に該当する(「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当しない)こと本件特許発明の主要な課題解決手段は、①加工用対物レンズの高さ(加工用対物レンズと加工用対象物の主面との間隔)を調整すること(加工用対物レンズを初期位置に保持し、又は初期位置に保持した状態を解除することを 含む。)及び②加工対象物の主面で反射される測距用レーザ光の反射光に応じて、加工用対物レンズを初期位置に保持した状態を解除すること、である。 上記の加工用対物レンズは、SDエンジンの主要な部材である。また、本件特許発明にお 主面で反射される測距用レーザ光の反射光に応じて、加工用対物レンズを初期位置に保持した状態を解除すること、である。 上記の加工用対物レンズは、SDエンジンの主要な部材である。また、本件特許発明において、加工用対物レンズの高さを調整する具体的な手段は限定されていないものの、本件明細書に記載された実施形態でいえば、ピエゾ 素子を用いたアクチュエータによって行われるところ、このアクチュエータも、SDエンジンを構成する部材である。同様に、測距用レーザ光の照射及び受光は、本件明細書に記載された実施形態でいえば、レーザダイオード、加工用対物レンズ等によって行われ、これらの各部材もSDエンジンを構成する部材である。そして、これらの部材を制御するのは、ソフトウェアであ る。 本件特許発明は、いずれも「SDエンジン」、すなわち、「ステルスダイシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ軸)、搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z軸ステージを含む)及びソフトウェア設計」を構成する部材及びソフトウェアによって実現されるものであるから、その「発明・考案等」の本質的部分(特徴的部分)が「SDエンジン」にある発明である。 したがって、本件特許発明は、本件準備契約第6条第1項(1)の「SDエンジンに関する本成果」に当たることが明らかであり、同項(2)の「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」には該当しない。 ⑷ 小括よって、本件特許権は、被告に単独で帰属するものである。 2 争点2(不法行為の成否)について(原告の主張)前記1(原告の主張)のとおり、本件特許権は、本件準備契約によって、原告と被告の共有になるべきものであった。 しかし、被告は、単独でその設定登録を受け、原告に対して、本件特許 (原告の主張)前記1(原告の主張)のとおり、本件特許権は、本件準備契約によって、原告と被告の共有になるべきものであった。 しかし、被告は、単独でその設定登録を受け、原告に対して、本件特許権の 侵害を理由とする特許権侵害訴訟(別件訴訟)を提起し、原告の了承を得ることなく、競合他社である株式会社ディスコ(以下「ディスコ」という。)に対して本件特許に係る発明の実施許諾をしており、このような被告の行為は原告に対する不法行為に該当する。 (被告の主張) 争う。前記1(被告の主張)のとおり、本件特許権は被告に単独で帰属するものであるから、原告の主張する行為が不法行為に該当する余地はない。 3 争点3(不当利得の成否)について(原告の主張)前記1(原告の主張)のとおり、本件特許権は原告と被告の共有になるべき ものであるが、被告は、ディスコに対して本件特許に係る発明の実施許諾を行 い、本件特許権の実施料やレーザエンジンの販売代金を受領することにより、法律上の原因なく他人の財産によって利益を得ている。 他方、被告がディスコに本件特許に係る発明の実施許諾をし、ディスコがディスコ製のステルスダイシング装置を販売したことによって、原告は、その分の原告製のステルスダイシング装置を販売することができなくなったため、損 失を及ぼされている。 したがって、被告の受領した実施料や販売代金等は不当利得に該当し、被告は原告にそれを返還する義務を負う。 (被告の主張)争う。原告は、被告がディスコに本件特許に係る発明の実施許諾をしたこと によって損失を及ぼされたと主張するが、それを裏付ける具体的な主張立証は行われていない。 4 争点4(不法行為に係る損害並びに不当利得に係る利得及び損失の額 許に係る発明の実施許諾をしたこと によって損失を及ぼされたと主張するが、それを裏付ける具体的な主張立証は行われていない。 4 争点4(不法行為に係る損害並びに不当利得に係る利得及び損失の額)について(原告の主張) ⑴ 不法行為に係る損害額被告が別件訴訟を提起したため、原告はこれに対して防御せざるを得ず、また、被告がディスコに対して本件特許に係る発明の実施許諾をしているため、原告は本件特許発明の実施品を独占的に販売することができなかった。 このような事情によって原告が被った損害は10億円を下らない。 ⑵ 不当利得に係る利得及び損失の額被告は、原告に対し、レーザエンジン1台当たりの限界利益相当額に、ディスコへの販売台数を乗じた額を返還する義務を負っており、その金額は10億円を下らない。 ⑶ 小括 上記のとおり、本件において不法行為に係る損害並びに不当利得に係る利 得及び損失の額は、いずれも10億円を下らないところ、本件訴訟ではその一部である1億円を請求する。 (被告の主張)争う。原告の主張する損害や利得及び損失の額を裏付ける具体的な主張立証は行われていない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件特許権の帰属)について⑴ 本件準備契約第6条第1項(1)及び(2)の意義についてア本件準備契約第6条第1項の文言解釈本件準備契約第6条第1項は、柱書において、同契約第5条で定めた原 告及び被告によるステルスダイシング装置の試作機の共同開発の過程等で確認された「発明・考案等及びこれらに基づく工業所有権等」を「本成果」と定義した上で、「本成果」の帰属等について、それに続く(1)及び(2)という各項目により、「SDエンジンに関する本成果」は被告に帰 認された「発明・考案等及びこれらに基づく工業所有権等」を「本成果」と定義した上で、「本成果」の帰属等について、それに続く(1)及び(2)という各項目により、「SDエンジンに関する本成果」は被告に帰属し(同項(1))、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しな い本成果」は原告と被告の共有とする(同項(2))旨を定めている。 このような同項の構造からすると、同項(1)及び(2)は、柱書を受けて、それぞれ、帰属の対象である「本成果」とその帰属主体とを箇条書きにより規定するものであると理解できる。そして、同項(1)では、「SDエンジンに関する本成果」という一つの類型の「本成果」について 規定していることが明らかであるところ、同項(1)と並列的な同項(2)は、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」とされ、「ステルスダイシング技術に関する本成果及びSDエンジンに関しない本成果」などと、同項(1)と異なり、二つの類型の「本成果」が対象であることを明示するような規定とはなっていない。このような規定ぶり からすれば、同項(2)の「本成果」とは、「ステルスダイシング技術」 と「SDエンジン」の双方に関しない一つの類型の「本成果」を指すと解するのが、その文言上自然な解釈であるといえる。 イ本件準備契約締結に至る経緯及び同契約の定め本件準備契約を締結した当時、原告は、ダイシング装置の分野において世界で第2位のシェアを有していたものの、ステルスダイシング技術の開 発を行っておらず、他方、被告においては、ステルスダイシング技術の開発を行っており、既にその基本特許である805号特許を取得していたものの、ダイシング装置の開発は行っていなかった(前提事実⑶ア)。このような状況を踏まえ、原告が被告に提 、ステルスダイシング技術の開発を行っており、既にその基本特許である805号特許を取得していたものの、ダイシング装置の開発は行っていなかった(前提事実⑶ア)。このような状況を踏まえ、原告が被告に提示した提案書(原告提案書)においては、被告の開発したSDエンジンを原告のダイシング装置に搭載し、そ のダイシング装置を原告の販売ルートで販売するという提案が行われている(前提事実⑶イ)。 そして、本件準備契約においては、上記の提案を前提として「ステルスダイシング技術」を、「乙が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術」と、「ステルスダイシング装置」を「ステルスダイシング技術を用 いた装置」と、それぞれ個別に定義した上で(本件準備契約第1条(1)及び(2))、業務提携の準備の一環として、「ステルスダイシング装置」の試作機の共同開発を行うこととされ、共同開発の役割分担として、原告は既存のダイシング装置を「SDエンジン」搭載可能なものに改造し、被告は「SDエンジン」を既存のダイシング装置に搭載可能なものに改造す ると、定められるに至っている(本件準備契約第5条第1項、第2項)。 以上のような本件準備契約締結に至る経緯及び同契約の定めからすれば、ステルスダイシング装置の試作機の共同開発において、被告が、既に保有していた805号特許等に係る「ステルスダイシング技術」を生かし「SDエンジン」の開発を行う一方で、原告は、そのエンジンを搭載するため の「ステルスダイシング装置」の開発を行っていくことが想定されており、 原告において「SDエンジン」や「ステルスダイシング技術」に関する開発を行っていくことは、原告と被告との間において、想定されていなかったものと解するのが相当であって、このような役割分担からすると、「ステ おいて「SDエンジン」や「ステルスダイシング技術」に関する開発を行っていくことは、原告と被告との間において、想定されていなかったものと解するのが相当であって、このような役割分担からすると、「ステルスダイシング技術」に関する「本成果」を共有とする合意がされたとは考え難い。 ウ原告の主張について原告は、本件準備契約第6条第1項(2)の「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」という記載は、「ステルスダイシング技術(又はそれに関する本成果)」と「SDエンジンに関しない本成果」の二つの類型を指していると主張し、その根拠として、①本件 準備契約第6条第1項(2)の「ステルスダイシング技術」という記載は、「ステルスダイシング技術(又はそれに関する成果)」を原告と被告の共有とするために、原告の要望に基づき追記されたものであること、・(省略)・を指摘するので、以下、検討する。 まず、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」 という表現から、原告の主張する解釈をとることは、その文言からして不自然といわざるを得ない。仮に原告の主張する解釈を採用するのであれば、本件準備契約第6条第1項(2)の文言は、誤解を避けるため、「ステルスダイシング技術に関する本成果及びSDエンジンに関しない本成果」とされるはずであり、本件において、上記の表現を採用しない 事情もうかがわれない。 また、本件準備契約において、原告が「SDエンジン」や「ステルスダイシング技術」に関する開発を行うことが想定されていなかったことは、前記イで説示したとおりであり、そのような中で被告自らが基本特許を有する「ステルスダイシング技術」やそれに関する成果を原告と共 有することに合意するとは通常考え難い。 とは、前記イで説示したとおりであり、そのような中で被告自らが基本特許を有する「ステルスダイシング技術」やそれに関する成果を原告と共 有することに合意するとは通常考え難い。 原告の指摘する前記①の根拠については、証拠(甲18、19)によれば、被告が当初の段階で原告に提示した契約書のドラフトでは、本件準備契約第6条第1項に対応する規定について、「(1)ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関する本成果は乙に帰属するものとする。」及び「(2)SDエンジンに関しない本成果は甲乙共有とする。」と記載 されていたが、原告から、本件準備契約第6条第1項の内容と同様の修正案が提示され、被告は、上記提案を了承するとともに、同条第2項及び第3項の規定を追記する修正を行ったことが認められる。 確かに、原告が提案した上記の修正案は、それのみをみれば、本件準備契約第6条第1項(1)の対象から「ステルスダイシング技術」を削 り、これを同項(2)の対象に加えたものと理解することも不可能ではないものの、前記アのとおり、同項(1)及び(2)の各「本成果」についてはいずれも一つの類型を指すものと解釈するのが自然であること、前記イのとおり、原告において「SDエンジン」や「ステルスダイシング技術」に関する開発を行っていくことは想定されていなかったと解さ れることに加え、被告が追記した同条第2項の文言が「前項により共有となった本成果」とされていることからすると、少なくとも被告の意図としては、「ステルスダイシング技術及びSDエンジン」をひとまとまりのものとして、それに関しない「本成果」が同条第1項(2)の対象とされているとの認識であったと認められる。 そうすると、原告による上記の提案がされ、それを被告が了承したと 」をひとまとまりのものとして、それに関しない「本成果」が同条第1項(2)の対象とされているとの認識であったと認められる。 そうすると、原告による上記の提案がされ、それを被告が了承したとの事実をもって、本件準備契約第6条第1項(2)の「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」という記載が「ステルスダイシング技術(又はそれに関する本成果)」と「SDエンジンに関しない本成果」の二つの類型を指していると認めることはできないという べきである。 前記②及び③については、・(省略)・しかし、・(省略)・について、いずれも直ちに「ステルスダイシング技術」に係るものを指すと解することはできないから、これらの記載の存在をもって、本件準備契約第6条第1項(2)の「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」という記載が「ステルスダ イシング技術(又はそれに関する本成果)」と「SDエンジンに関しない本成果」の二つの類型を指していると認めることはできないというべきである。 したがって、原告の前記の主張はいずれも採用することができない。 エ小括 以上によれば、本件準備契約6条第1項は、被告が中心となって開発を行う「SDエンジンに関する本成果」は被告に単独で帰属すると定めるとともに(同項(1))、それ以外の「ステルスダイシング技術及びSDエンジン」のいずれにも「関しない本成果」を原告と被告の共有にすることを定めたもの(同項(2))と解するのが相当である。 ⑵ 本件特許発明が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するかについて前記⑴の解釈を踏まえ、本件特許発明が本件準備契約6条第1項(2)の定める「ステルスダイシング技術及びS 発明が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するかについて前記⑴の解釈を踏まえ、本件特許発明が本件準備契約6条第1項(2)の定める「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するかについて、以下検討する。 ア本件発明13について本件特許の請求項13及び本件明細書(甲2)の各記載によれば、本件特許発明は、レーザ光の集光点のずれを極力少なくしつつ効率よくレーザ加工を行うことを課題としたものであるところ(【0006】)、本件発明13は、第二のレーザ光(測距用レーザ光)の集光点が加工対象物(ウェ ハ)に対する所定の位置に合うように設定された測定初期位置にレンズを 保持した状態で切断予定ラインの一端部に第二のレーザ光を照射した後、すなわちレンズと加工対象物とが相対的に移動してレンズが加工対象物に差し掛かった後に、レンズを保持した状態を解除して主面の変位を取得するように保持手段を制御する構成を備えることにより、加工対象物の端部の形状変動による影響を極力排除して変位を取得できるようになり、上記 課題を解決したものである(【0018】)と理解できる。 そして、本件明細書における本件特許発明の実施形態の説明によれば、レーザユニット(レーザ出射装置)は、主にレーザヘッドユニット、光学系本体部及び対物レンズユニットから成り(【0025】)、この対物レンズユニットの筐体の下端には、ピエゾ素子を用いたアクチュエータを介在 させて、加工用対物レンズが装着され(【0031】)、アクチュエータは、制御装置からの制御信号に基づき加工用対物レンズを保持する機能を有している(【0033】)と理解できる。そうすると、レンズの高さの保持や解除は、レーザユニット(レーザ出射装置) 、アクチュエータは、制御装置からの制御信号に基づき加工用対物レンズを保持する機能を有している(【0033】)と理解できる。そうすると、レンズの高さの保持や解除は、レーザユニット(レーザ出射装置)を構成するアクチュエータやこれに関するソフトウェアによって実現されたものといえる。 この点、前提事実⑶エのとおり、本件準備契約において、「SDエンジン」とは、「ステルスダイシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ軸)、搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z軸ステージを含む)及びソフトウェア設計」のことを指すと定義されているところ、上記のアクチュエータは、レーザユニットを構成するものであるから、「ステルスダイシ ング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ軸)、搬送系部分を除いた」ものとして、「キーコンポーネント部」に該当し、また、上記のソフトウェアは、上記のアクチュエータに関するものであるから、「ソフトウェア設計」に該当し、いずれもSDエンジンに関するものであることは明らかであって、これらが「SDエンジンに関しない本成果」であるということは できない。 また、前提事実⑵及び⑶エのとおり、本件準備契約において、「ステルスダイシング技術」とは、「レーザを用いたダイシング技術」であると定義されているところ、上記のアクチュエータ及びソフトウェアは、レーザユニットを構成するもの及びこれに関するソフトウェアであるから、これらが「ステルスダイシング技術」「に関しない本成果」であるということ はできない。 したがって、本件発明13は「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するとは認められない。 イ本件発明15について本件特許の請求項15及び本件明細書(甲2)の各記載によれば、本件 13は「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するとは認められない。 イ本件発明15について本件特許の請求項15及び本件明細書(甲2)の各記載によれば、本件 発明15は、加工初期位置にレンズを保持した状態で切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し、その後レンズを保持した状態を解除して主面の変移に追従させながら改質領域を形成するように保持手段を制御する構成を備えることにより、加工対象物の端部の形状変動による影響を極力排除して改質領域を形成できるようになり、上記課題を解決したもので ある(【0019】)と理解できる。 そして、本件発明13と同様に、レンズの高さの保持や解除は、レーザユニットを構成するアクチュエータやこれに関するソフトウェアによって実現されたものといえるから、これらは、「SDエンジンに関しない本成果」であるということはできず、また、「ステルスダイシング技術」「に関 しない本成果」ということもできない。 したがって、本件発明15は、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するとは認められない。 ウ本件発明16について本件特許の請求項16及び本件明細書(甲2)の各記載によれば、本件 発明16は、一度のスキャンで測定と加工を行うために、主面の変位の取 得に合わせて改質領域も形成することができる、本件特許の請求項10ないし15のいずれかのレーザ加工装置のことを指し(【0020】)、主面の変位を取得するための第二のレーザ光(測距用レーザ光)は、レーザユニットを構成する対物レンズユニットから照射され(【0007】、【0032】)、また、改質領域の形成を行う第一のレーザ光(加工用レーザ光) は、レーザユニットを構成するレ レーザ光)は、レーザユニットを構成する対物レンズユニットから照射され(【0007】、【0032】)、また、改質領域の形成を行う第一のレーザ光(加工用レーザ光) は、レーザユニットを構成するレーザヘッドから出射されるものである(【0025】、【0026】)と理解でき、上記のレーザユニットは、本件準備契約第6条第1項(1)の「SDエンジンに関する本成果」に該当するといえるから、これらの部分は、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するとは認められない。 そして、本件特許の請求項16においては、「請求項10~15のいずれか1項」が引用されているところ、同請求項13及び15に記載された本件発明13及び15のレーザ加工装置が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当すると認められないことは、前記ア及びイで説示したとおりであり、本件全証拠によっても、本件特許の請 求項10、11、12及び14に記載された発明のレーザ加工装置が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当すると認めることもできない。そうすると、本件特許の「請求項10~15のいずれか1項に記載のレーザ加工装置」の部分が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するとは認められない。 したがって、本件発明16が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当するとは認められない。 エ原告の主張について 原告は、①「SDエンジンに関する本成果」とは、「発明・考案等」の課題解決のための必須の構成の全部を「SDエンジン」のみが備えて いるものに限られ、他方、ステルスダイシング装置中の「SDエンジン」 に該当しない部分が、「発明・考案 明・考案等」の課題解決のための必須の構成の全部を「SDエンジン」のみが備えて いるものに限られ、他方、ステルスダイシング装置中の「SDエンジン」 に該当しない部分が、「発明・考案等」の課題解決のための必須の構成の全部又は一部を成すものは、「SDエンジンに関する本成果」ではない、すなわち、「発明・考案等」の課題解決のための必須の構成の一部でも「SDエンジン」に該当しない部分に存在すれば、「SDエンジンに関する本成果」には当たらず、その結果、「SDエンジンに関しない 本成果」に当たることになるので、当該「発明・考案等」は原告と被告との共有になり、②本件特許発明には、課題解決のための必須の構成として、「SDエンジン」の定義から除かれているX軸ステージの動作とCPUによる制御が含まれていることから、本件特許発明は「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当すると主張 する。 そこで検討すると、上記①については、原告の解釈を前提にすると、本来、原告によって開発することが想定されていなかった「ステルスダイシング技術」や「SDエンジン」に関する「発明・考案等」であったとしても、その構成の一部にX(Y)軸ステージの動作等が含まれてい れば原告と被告の共有とされることとなるが、このような解釈は、前記⑴ア及びイで説示した本件準備契約の定めやその締結に至る経緯等と整合せず、妥当ではない。 上記②について、その前提となる上記①の解釈を採用できないことは既に説示したとおりであるが、本件特許発明の内容を踏まえても、同発 明が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当すると認めることはできない。すなわち、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」 内容を踏まえても、同発 明が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当すると認めることはできない。すなわち、「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」の「ステルスダイシング技術」とは被告が805号特許を含む「基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術」を指すところ(前提事実⑶エ及びオ)、別件明細書(甲3 9)の記載によれば、805号特許に係る発明において、⒜改質領域は、 加工対象物の内部に合わされたレーザ光の集光点に対して、加工対象物を相対的に移動させることにより形成され(【0019】)、同発明では、Z軸ステージをZ軸方向に移動させることにより、加工対象物の内部にレーザ光の集光点を合わせることができ、また、集光点のX(Y)軸方向の移動は、加工対象物をX(Y)軸ステージによりX(Y)軸方向に 移動させることによって行われること(【0045】)、⒝同発明に係るレーザ加工装置は、撮像データが入力される撮像データ処理部を備えており、撮像データ処理部は、撮像データを基にして観察用光源で発生した可視光の焦点をウェハ表面に合わせるための焦点データを演算し、この焦点データを基にしてステージ制御部がZ軸ステージを移動制御する ことにより、可視光の焦点を表面に合うようにし(【0050】)、全体制御部は、レーザ光源制御部やステージ制御部等を制御することにより、レーザ加工装置全体を制御すること(【0051】)が、それぞれ開示されていると理解できる。 そうだとすれば、原告の主張するX軸ステージの動作(上記⒜)やC PUによる制御(上記⒝)は、いずれも、805号特許に係る発明に係るレーザを用いたダイシング技術、すなわち、本件準備契約第1条(1)で定義される「ステルスダイシング技 ジの動作(上記⒜)やC PUによる制御(上記⒝)は、いずれも、805号特許に係る発明に係るレーザを用いたダイシング技術、すなわち、本件準備契約第1条(1)で定義される「ステルスダイシング技術」に関するものに該当するから、本件特許発明が「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」に該当すると認めることはできない。 したがって、原告の上記主張はいずれも採用できない。 ⑶ まとめ以上のとおり、本件特許権が原告と被告の共有になるべきものとは認められない。 2 争点2(不法行為の成否)及び争点3(不当利得の成否)について 前記1のとおり、本件特許権が原告と被告の共有になるべきものとは認めら れないから、被告が原告に対して本件特許権に基づき別件訴訟を行うことや、ディスコに対して本件特許に係る発明の実施許諾を行い、その実施料やレーザエンジンの販売代金を受領することが、被告の不法行為や不当利得に該当するとの原告の主張は、その前提を欠くものであって、認められない。 3 結論 よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 木村洋一 間明宏充 裁判官 木村洋一
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