平成27年8月25日判決言渡同日原本交付裁判所書記官東敏美平成26年(ワ)第7548号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成27年6月23日判決 東京都千代田区<以下略>原告株式会社メンテック 同訴訟代理人弁護士関本哲也 同補佐人弁理士白崎真二 同阿部綽勝 同勝木俊晴 鹿児島県薩摩川内市<以下略>被告株式会社南日本モラブ 同訴訟代理人弁護士鈴木秀昌 同訴訟代理人弁理士金子一郎 主文 1 被告は,別紙被告製品目録記載の抄紙用汚染防止薬液を製造し,販売し,販売の申出をしてはならない。 2 被告は,前項の抄紙用汚染防止薬液を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,31万9063円及びこれに対する平成27年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求主文同旨 第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,被告による別 び第3項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求- 2 -主文同旨第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,被告による別紙被告製品目録記載の抄紙用汚染防止薬液(以下「被告製品」という。)の販売等が原告の特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき被告製品の販売等の差止め及び廃棄を,民法709条及び特許法102条2項に基づき損害賠償金31万9063円及びこれに対する最終の特許権侵害行為の日である平成27年5月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実を含む。)当事者原告は,紙用の吹き付け剤等の製造,販売を業とする株式会社である。 被告は,抄紙用汚染防止薬液等の販売を業とする株式会社である。 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者である。 特許番号第4828001号出願日平成23年3月31日優先日平成22年3月31日登録日平成23年9月22日発明の名称汚染防止剤組成物イ本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)。 「抄紙工程のドライパートにおけるピッチ汚染を防止する汚染防止剤組- 3 -成物であって,非シリコーン系オイルと,該非シリコーン系オイルを乳化させる乳化剤と,を有し,前記乳化剤が,脂肪酸とアミン化合物との中和物であ トにおけるピッチ汚染を防止する汚染防止剤組- 3 -成物であって,非シリコーン系オイルと,該非シリコーン系オイルを乳化させる乳化剤と,を有し,前記乳化剤が,脂肪酸とアミン化合物との中和物である汚染防止剤組成物。」ウ本件発明は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。 A 抄紙工程のドライパートにおけるピッチ汚染を防止する汚染防止剤組成物であって,B 非シリコーン系オイルと,該非シリコーン系オイルを乳化させる乳化剤と,を有し,C 前記乳化剤が,脂肪酸とアミン化合物との中和物であるD 汚染防止剤組成物。 被告の行為ア被告は,被告製品の販売及び販売の申出をしている。 イ被告製品の構成は,次のとおりである。(甲6,7)a 抄紙工程のドライパートにおけるピッチ汚染を防止する抄紙用汚染防止薬液として使われている。 b グリセリントリ脂肪酸エステル(なたね油)及びグリセリンモノ脂肪酸エステルと乳化剤とが含まれている。 c 炭素数8~24の脂肪酸と,エタノールアミンとのエタノールアミン塩が含まれている。 d 抄紙用汚染防止薬液である。 ウ被告は,平成25年5月13日から平成27年5月13日までの間,以下のとおり被告製品を販売し,合計31万9063円の利益を得た。 春日製紙工業株式会社に対する販売平成25年6月10日~平成27年5月13日の間に合計3308㎏- 4 -粗利合計97万8858円日本製紙株式会社に対する販売平成25年5月13日~平成27年5月13日の間に合計1831㎏粗利合計56万3971円大二製紙株式会社に対する販売平成26年1月15日に180㎏粗利2万2230円経費合計124万5996円 2 争点 13日の間に合計1831㎏粗利合計56万3971円大二製紙株式会社に対する販売平成26年1月15日に180㎏粗利2万2230円経費合計124万5996円 2 争点被告製品が本件発明の構成要件Cを充足するか(なお,被告は,被告製品が構成要件A,B及びDを充足することを争っていない。)本件特許に以下の無効理由があり,特許法104条の3第1項の規定により権利行使が制限されるかア原告が販売又は提供した製品「ダスクリーン上質1号」(以下「ダスクリーン上質1号」という。)及びその製品安全データシート(乙11。 以下「本件MSDS」といい,これに記載された発明を「乙11発明」という。)に基づく新規性欠如イ特開2008-19525号公報(乙2。以下「乙2文献」という。)に基づく新規性又は進歩性の欠如ウサポート要件(特許法36条6項1号)違反 3 争点に関する当事者の主張構成要件Cの充足性について(原告の主張)ア構成要件Cは「前記乳化剤が,脂肪酸とアミン化合物との中和物であ- 5 -る」であるところ,被告製品には,脂肪酸と,エタノールアミンとのエタノールアミン塩が含まれており(被告製品の構成c),「エタノールアミン」は「アミン化合物」に,「エタノールアミン塩」は「中和物」に,それぞれ該当する。したがって,被告製品は,乳化剤が脂肪酸とアミン化合物との中和物であるから,構成要件Cを充足する。 イ被告は,本件特許に係る特許査定の際に審査官が作成した特許メモ(乙1。以下「本件特許メモ」という。)及び本件明細書の記載を根拠に,構成要件Cは乳化剤として脂肪酸とモルホリンとの中和物のみを含有していることである旨主張する。 しかし,特許メモに基づいて特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈 及び本件明細書の記載を根拠に,構成要件Cは乳化剤として脂肪酸とモルホリンとの中和物のみを含有していることである旨主張する。 しかし,特許メモに基づいて特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべき根拠はない上,本件特許メモが参考文献として記載する乙2文献記載の発明は,本件発明とは作用も対象物も異なるほか,本件発明の乳化剤についての記載もない。 さらに,モルホリンは実施例として示されたものであって,特許発明の技術的範囲を実施例に限定して解釈することは不当である。 (被告の主張)ア以下のような本件特許メモ及び本件明細書の記載から,構成要件Cは,乳化剤として,脂肪酸と「モルホリン」との中和物「のみ」を含有していることと解釈されるべきである。 本件特許メモは,乙2文献には,多数の化合物の中から脂肪酸とアミン化合物との中和物を選択し,単独で用いることは記載も示唆もされておらず,本件発明は乙2文献に記載も示唆もされていない上記事項により紙の色抜けを抑制できる等の効果を有するとしている。 また,乙2文献には,非シリコーン系オイルを乳化させる乳化剤として,脂肪酸とアミン化合物との中和物「を含む」汚染防止剤組成物が記載されている。 - 6 -これらに鑑みれば,審査官は,本件発明は乳化剤として脂肪酸とアミン化合物との中和物を単独で用いるものであると認定して特許査定をしたというべきである。 本件明細書に記載された実験結果からは,紙の色抜けを抑制できるという効果があるといえるアミン化合物はモルホリンのみであるところ,アミン化合物にはモルホリンとは異なる構造のものが種々あり,モルホリンを用いた場合に得られた効果がアミン化合物一般について得られるとはいえない。また,本件明細書には,モルホリンを用いた場合に得られた色抜け抑制効果がアミ リンとは異なる構造のものが種々あり,モルホリンを用いた場合に得られた効果がアミン化合物一般について得られるとはいえない。また,本件明細書には,モルホリンを用いた場合に得られた色抜け抑制効果がアミン化合物一般について得られることの理由が記載されていない。したがって,本件明細書の記載に基づいて紙の色抜けを抑制できるといえるのは,脂肪酸とモルホリンとの中和物を乳化剤として用いた汚染防止剤組成物のみである。 イしかるに,被告製品には,乳化剤として,グリセリンモノ脂肪酸エステル及びエタノールアミン塩が含まれているところ,これらはいずれも脂肪酸と「モルホリン」との中和物ではない。 また,乳化剤として脂肪酸とアミン化合物との中和物でないグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有しているから,乳化剤として脂肪酸とアミン化合物との中和物「のみ」を含むものでもない。 したがって,被告製品は構成要件Cを充足せず,本件発明の技術的範囲に属しない。 無効理由の有無についてアダスクリーン上質1号及び乙11発明に基づく新規性欠如(被告の主張)原告は,本件特許の優先日より前である平成11年5月28日,取引先に対し,紙用のドライパート汚れ防止薬品であるダスクリーン上質1号を販売又は提供し,これに係る製品安全データシート(本件M- 7 -SDS)を交付した。 乙11発明は,次の構成を備えている。 混合品であって,植物油を含有する,乳白色の液体であり,脂肪酸とアルカノールアミンとを含有する,混合品 紙用のドライパート汚れ防止薬であるから,構成要件A及びDを備える。 いから,構成要件Bにいう「非シリコーン系オイル」である。また,ダスクリーン上質1号が乳白色の液体であるということは,安定的なエマルション(乳濁液)が形成さ るから,構成要件A及びDを備える。 いから,構成要件Bにいう「非シリコーン系オイル」である。また,ダスクリーン上質1号が乳白色の液体であるということは,安定的なエマルション(乳濁液)が形成されている,すなわち,乳化剤が配合されているということである。したがって,ダスクリーン上質1号は構成要件Bを備える。 の「アルカノールアミン」はアミンを含む化合物であり,本件明細書においてアミン化合物の例として列挙されているモノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミン等を包括的に特定する概念であるから,構成要件Cの「アミン化合物」に当たる。そして,ダスクリーン上質1号に乳化剤が含まれていることは上記のとおりであるから,ダスクリーン上質1号は,酸である脂肪酸とアルカリであるアルカノールアミンとの中和物である乳化剤を含有する。したがって,構成要件Cを備える。 以上のとおり,ダスクリーン上質1号は,本件発明の構成要件を全て備え,本件発明と同一の構成を有する。 - 8 -すなわち,乙11発明及びダスクリーン上質1号と同一の構成を有する本件発明は,優先日前に日本国内において公然知られた発明であり,優先日前に日本国内で公然実施された発明である。また,本件MSDSは優先日前に日本国内において頒布された刊行物に当たる。したがって,本件発明には,特許法29条1項各号所定の無効理由がある。 (原告の主張)原告が被告主張の時期に原告の取引先に対し本件MSDSをファクシミリ送信した事実及びダスクリーン上質1号を販売等した事実はない。原告は,製品安全データシートの原本を社内のファイルで5年間保管としており,従業員が本件MSDSの原本を持ち帰ることはあり得ず,乳化処方に関わる詳細な成分を製品安全データシートに記載して顧客に開示す 告は,製品安全データシートの原本を社内のファイルで5年間保管としており,従業員が本件MSDSの原本を持ち帰ることはあり得ず,乳化処方に関わる詳細な成分を製品安全データシートに記載して顧客に開示することもあり得ない。 本件MSDSには,構成要件Aの「抄紙工程のドライパートにおけるピッチ汚染を防止する汚染防止剤」であることが全く記載されておらず,構成要件A及びDを欠くから,本件MSDSによって本件発明の新規性は否定されない。 イ乙2文献に基づく新規性又は進歩性の欠如(被告の主張)乙2文献には,以下の発明(以下「乙2発明」という。)が開示されている。 (A) 油類(B) アルキル基及び/又はアルケニル基の炭素数が4~20である官能基を有する化合物を含有する乳化剤,及び(C) 水を含有することを特徴とするクレープ用離型剤。 - 9 -乙2発明はクレープ用離型剤に関するものであるが,紙を離れやすくする離型作用とピッチの付着を防止する汚染防止作用は同一の剤により奏されるものであるから,当業者にとって離型剤と汚染防止剤組成物は物として実質的に同一である。このことは原告代表者が執筆した論文(乙9)の記載からも明らかである。したがって,乙2発明の離型剤は本件発明の構成要件A及びDの「汚染防止剤組成物」に相当する。 乙2発明は非シリコーン系の油類及び乳化剤を有するから,構成要件Bを備える。 構成要件Cにつき,乙2文献には,「本発明に使用される(D)脂肪酸類は,(中略)などの飽和脂肪酸,(中略)などの不飽和脂肪酸を挙げることができ,これらのナトリウム,カリウムなどのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩も使用することができる。」と記載されている。ここでいう(不飽和)脂肪酸のアンモニウム塩は,本件発明の「脂肪 を挙げることができ,これらのナトリウム,カリウムなどのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩も使用することができる。」と記載されている。ここでいう(不飽和)脂肪酸のアンモニウム塩は,本件発明の「脂肪酸とアミン化合物の中和物」に相当する。なお,乙2文献には,脂肪酸のアンモニウム塩を乳化剤として用いることは記載されていないが,脂肪酸のアンモニウム塩を配合すると油類の乳化剤としての作用を必然的に奏するから,この点は同一性を否定する理由にならない。 以上によれば,本件発明は,乙2発明と同一であるので,新規性を欠く。 乙2文献には,乙2発明の実施例として,鉱物油を乳化させる乳化剤としてオレイン酸モノエタノールアミドが配合された例(実施例4)の記載があるところ,オレイン酸モノエタノールアミドは,脂肪酸であるオレイン酸と,アミン化合物であるモノエタノールアミンのアミド化合物である。 構成要件Cについて,「脂肪酸とアミン化合物との中和物とは,酸- 10 -とアルカリとが塩の状態で電気的に結合しているもののみをいい,化学的にアミド結合しているものは含まない。」と解した場合,本件発明と乙2発明とはこの点のみで相違することになるところ,特開2002-79074号公報(乙17。以下「乙17文献」という。)には,脂肪酸とアミン類との中和物からなる脂肪酸石けんを乳化剤として使用することによりエマルションとしての安定性及び保存性に優れた乳化物となることが記載され,乳化剤を脂肪酸とアミン化合物との中和物とする構成が示されている。したがって,乙2発明と乙17文献を組み合わせることにより,本件発明と同一の構成が得られる。 乙2発明と乙17文献記載の発明は,水を含む乳化系に関するものである点において技術分野が共通している。そして,乙2発明は,貯蔵安定性を良好 組み合わせることにより,本件発明と同一の構成が得られる。 乙2発明と乙17文献記載の発明は,水を含む乳化系に関するものである点において技術分野が共通している。そして,乙2発明は,貯蔵安定性を良好にすることが解決課題の一つであり,乙17文献にはエマルションとしての安定性及び保存性に優れたものとするために脂肪酸とアミン類との中和物からなる脂肪酸石けんを乳化剤として使用することが記載されている。したがって,乙2発明に乙17文献を組み合わせることは当業者にとって容易である。 以上によれば,本件発明は,乙2発明に基づいて容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く。 (原告の主張)乙2発明はクレープ用離型剤であるが,離型剤は,紙をドライヤー表面から離れやすくするものである。他方,本件発明は汚染防止剤組成物であり(構成要件D),ドライパートにおけるピッチの付着を十分に防止するものであって,互いに作用が異なり,また,製品である紙と汚染物であるピッチとでは効果を期待する対象物も異なる。 乙2文献には,脂肪酸類を加えることで離型剤としての離型効果が向上するとの記載があることで分かるとおり,脂肪酸のアンモニウム- 11 -塩を乳化剤として使用することは意図されておらず,乳化剤として使用する旨の記載もない。したがって,当業者であっても,乙2文献の記載から脂肪酸のアンモニウム塩を乳化剤として用いることは把握できない。 本件発明は抄紙機のドライパートにおける汚染防止剤という技術分野に属するものであり,乳化剤に特化したものではない。さらに,乙17文献に記載されている乳化剤はステアリン酸アミドを乳化させるものであるが,乙2文献にはステアリン酸アミドとはその性質を全く異にする油類しか記載がなく,当業者には,油類を乳化させる乳化剤と ,乙17文献に記載されている乳化剤はステアリン酸アミドを乳化させるものであるが,乙2文献にはステアリン酸アミドとはその性質を全く異にする油類しか記載がなく,当業者には,油類を乳化させる乳化剤として全く性質の異なるステアリン酸アミドの乳化剤を採用しようとする動機付けがない。したがって,当業者が乙2発明と乙17文献を組み合わせることは困難である。 ウサポート要件違反(被告の主張)構成要件Cにいう「アミン化合物」にはモルホリン系,ピペラジン系誘導体,アミノアルコール系等多くの化合物が含まれる。 しかし,本件明細書に記載された実験結果により「紙の色抜けを抑制できる」という効果があるといえるのはモルホリンのみである。また,モルホリンがどのような作用で色抜け抑制効果を奏するのかについて本件明細書には記載がなく,アミン化合物の全てについて色抜け抑制効果があるといえるか否かは参考例1~4からは不明である。このため,モルホリン以外を含むアミン化合物を特定する請求項1の範囲まで本件明細書中に記載された紙の色抜けを抑制できるという効果を拡張ないし一般化することはできない。 したがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に違反する。 - 12 -(原告の主張)本件明細書の発明の詳細な説明(段落【0018】,【0038】~【0040】)には,乳化剤を脂肪酸とアミン化合物との中和物とすることにより色抜けを抑制できるという効果を奏すること,当該アミン化合物としてはモルホリン以外のものも含むことが明確に記載されているから,被告主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 証拠(甲6,7)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品には,非シリコーン系オイルであるグリセリントリ脂肪酸エステル 確に記載されているから,被告主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 証拠(甲6,7)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品には,非シリコーン系オイルであるグリセリントリ脂肪酸エステル及び乳化剤であるエタノールアミン塩が含まれていること,エタノールアミン塩は炭素数8~24の脂肪酸とエタノールアミンとの中和物であり,エタノールアミンはアミン化合物であることが認められる。 したがって,被告製品は,構成要件Cを充足する。 これに対し,被告は,①構成要件Cにいう「アミン化合物」はモルホリンのみをいい,また,②乳化剤として脂肪酸とアミン化合物との中和物のみを含むと解釈すべき旨主張するので,以下,検討する。 ア ①について本件明細書(甲2)における実施例及び参考例はいずれもアミン化合物としてモルホリンを用いているが(実施例として段落【0056】~【0075】,参考例として段落【0081】〔表2〕),発明の詳細な説明中の【発明を実施するための形態】欄には,「上記アミン化合物としては,モルホリン,アンモニア,エチレンジアミン,エタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミン,ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。これらは単独で用いても,複数を混合して用いてもよい。これらの中でも,アミン化合物としては,乳化安定性の観- 13 -点から,モルホリン,ジエタノールアミン又はトリエタノールアミンであることが好ましい。」との記載があり(段落【0040】),モルホリン以外のアミン化合物が明記されている。 また,モルホリン以外のアミン化合物を用いた場合には本件発明の作用効果を奏しなくなることをうかがわせる証拠はない。 被告の主張は,特許請求の範囲にいう「アミン化合物」を実施例に限定するべき旨をいうものであり,失当というほか ン化合物を用いた場合には本件発明の作用効果を奏しなくなることをうかがわせる証拠はない。 被告の主張は,特許請求の範囲にいう「アミン化合物」を実施例に限定するべき旨をいうものであり,失当というほかない。 イ ②について本件発明の汚染防止剤組成物は,特許請求の範囲の記載上,非シリコーン系オイルと乳化剤とを含有すること(構成要件B)及び上記乳化剤が脂肪酸とアミン化合物との中和物であること(同C)を要件とするものであるが,これらを満たすものであれば,それ以外の成分(脂肪酸とアミン化合物との中和物以外の乳化剤を含む。)を含有することが構成要件充足性の妨げになるものではない。 また,特許メモがその性質上特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するための資料となるか否かはさておき,本件特許メモ(乙1)には,「乙2文献には,汚染防止剤組成物において,乳化剤としてオレイン酸モノエタノールアミド等の脂肪酸とアミン化合物との中和物やアルキレンオキサイド化合物等の多数の化合物を併用することにより,汚染防止剤組成物の貯蔵安定性が向上する旨が記載されているものの,多数の化合物の中から,脂肪酸とアミン化合物との中和物を選択し,単独で用いることは記載も示唆もされていない」旨の記載があるところ,これは,乙2文献中の実施例4(段落【0033】,【表1】)が,乳化剤としてアルキレンオキサイド化合物,ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノオレエート,オレイン酸モノエタノールアミド及びポリオキシエチレン(5)セチルエーテルを用いていることを踏まえた記載と解- 14 -される。しかし,オレイン酸モノエタノールアミドはオレイン酸(脂肪酸)のアミド化合物であり,アミン化合物との中和反応によって生じる中和物ではない(弁論の全趣旨)。したがって,本件特許メモを作成し される。しかし,オレイン酸モノエタノールアミドはオレイン酸(脂肪酸)のアミド化合物であり,アミン化合物との中和反応によって生じる中和物ではない(弁論の全趣旨)。したがって,本件特許メモを作成した審査官が本件発明の特徴を「脂肪酸とアミン化合物との中和物を単独で用いること」にあると認識していたとしても,これを根拠に構成要件Cの乳化剤を脂肪酸とアミン化合物との中和物のみに限定して解釈することは困難である。 さらに,本件明細書は,乳化剤について,「乳化剤は,脂肪酸とアミン化合物との中和物であることがより好ましい。」(段落【0038】),「非シリコーン系オイルに脂肪酸を溶解し,一方で,水にアミン化合物を溶解する。そして,脂肪酸を溶解した非シリコーン系オイルを,アミン化合物を溶解した水に加えて乳化させる(直接乳化法)。これにより,オイル層と水層との境界において,脂肪酸とアミン化合物との中和反応が生じると共に,オイル層と水層とが乳化する。」(段落【0044】),「上記実施形態に係る汚染防止剤組成物の製造方法の乳化工程においては,(中略)脂肪酸を溶解した非シリコーン系オイルに,アミン化合物を溶解した水を投入して乳化させる方法(反転乳化法)を用いてもよい。」(段落【0054】)と記載するのみで,被告主張のように乳化剤を脂肪酸とアミン化合物との中和物のみに限定して解釈すべき根拠となる記載は見当たらない。 以上によれば,前記②の被告主張は採用することができない。 性欠如)について被告は,原告が本件特許の優先日より前に本件MSDSを取引先に交付し,ダスクリーン上質1号を販売しており,乙11発明及びダスクリーン上質1号は本件発明と同一の構成を有するとして,本件発明には特許法2- 15 -9条1項各号所定の無効理由があると主張する。 し,ダスクリーン上質1号を販売しており,乙11発明及びダスクリーン上質1号は本件発明と同一の構成を有するとして,本件発明には特許法2- 15 -9条1項各号所定の無効理由があると主張する。 そこで判断するに,まず,被告は本件MSDSは平成11年5月28日付けのFAX送信状に添付されて原告の取引先に送信されたものであり,ダスクリーン上質1号もその頃取引先に納入された旨主張するが,これを裏付ける的確な証拠はない。 この点をおくとしても,前記争いのない事実等,証拠(甲2,乙10,11)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明と乙11発明及びダスクリーン上質1号との間には,少なくとも,本件発明が抄紙工程のドライパートにおけるピッチ汚染を防止する汚染防止剤組成物(構成要件A,D)であるのに対し,本件MSDSにはその旨の記載がないという相違点があると認められる。 この相違点につき,被告は,「ダスクリーン」がドライパート汚れ防止に使用できる旨の記載のある平成26年時点の原告のウェブサイト(乙6)の存在を指摘するが,これが直ちに本件特許の優先日(平成22年3月31日)以前の「ダスクリーン」の用途を示しているとはいい難い。さらに,証拠(乙14,15の1及び2,16)によれば,原告は,上記優先日以前から,紙粉・マシン汚れ防止薬品(抄紙機,加工機,コルゲータ用)の製造販売を業としており,その製品にはダスクリーン新聞,ダスクリーン白板,ダスクリーンライナー,ダスクリーンクラフト,ダスクリーン上質2号,ダスクリーンRP108A等の名称のものがあることが認められ,これら各製品の用途は異なることがうかがわれる。そうすると,「ダスクリーン」としか特定されていない上記ウェブサイト記載の薬品が乙11発明ないしダスクリーン上質1号と同じものか否かは不明であり, れ,これら各製品の用途は異なることがうかがわれる。そうすると,「ダスクリーン」としか特定されていない上記ウェブサイト記載の薬品が乙11発明ないしダスクリーン上質1号と同じものか否かは不明であり,ダスクリーン上質1号が抄紙工程のドライパートにおけるピッチ汚染防止に使用されるものであると認めることはできない。 以上によれば,本件の関係各証拠上,本件発明と乙11発明及びダスク- 16 -リーン上質1号が同一の構成を有すると認めるに足りないから,これらに基づく新規性欠如の主張は失当というべきである。 被告は,乙2文献に記載されたクレープ用離型剤が本件発明に係る抄紙工程のドライパートにおけるピッチ汚染を防止する汚染防止剤組成物(構成要件A,D)と実質的に同一であることを前提に,本件発明が新規性又は進歩性を欠く旨主張する。 そこで判断するに,離型剤及び汚染防止剤がいずれも抄紙工程に用いられる薬剤であるとしても,両者が作用を異にするものであることは被告も認めるところであり,紙をドライヤー表面から離れやすくする離型作用のために汚染防止剤を用いたり,ドライパートにおけるピッチの付着を防止する汚染防止作用のために離型剤を用いたりすることを示す証拠はない。 また,被告が指摘する原告代表者執筆の論文(乙9)には,離型作用と汚染防止作用の双方を奏するダスティング防止剤について記載されているが,これは同論文の記載に沿って選定されたダスティング防止剤を所定の方法で使用する場合に関するものにとどまり,これをもって乙2文献記載の離型剤がピッチ汚染を防止する汚染防止剤に当たると認めることはできない。 したがって,上記離型剤と汚染防止剤組成物が実質的に同一であることを前提とする被告の新規性又は進歩性欠如の主張は,いずれも失当というほかない。 る汚染防止剤に当たると認めることはできない。 したがって,上記離型剤と汚染防止剤組成物が実質的に同一であることを前提とする被告の新規性又は進歩性欠如の主張は,いずれも失当というほかない。 被告は,本件明細書に記載された実験結果により紙の色抜け抑制効果があるといえるアミン化合物はモルホリンのみであり,アミン化合物の全てについて色抜け抑制効果があるといえるか否かは不明であるから,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に違反すると主張する。 - 17 - ミン化合物の好ましい例として,モルホリンのほか,ジエタノールアミン又はトリエタノールアミンが挙げられている。 また,本件明細書の【発明の詳細な説明】の欄には,本件発明の効果として,「本発明の汚染防止剤組成物は,非シリコーン系オイルを用いることにより,シリコーンオイル自体の粘着性によるドライパート部位へのピッチの付着を防止し,且つ,乾燥後にシリコーンのカスがドライパート部位に付着することを防止できる。また,乳化剤として脂肪酸とアミン化合物との中和物を用いることにより,紙の色抜けを抑制できる。」(段落【0018】),発明を実施するための形態に関して,「乳化剤は,脂肪酸とアミン化合物との中和物であることがより好ましい。この場合,有機物の塩を用いることで,色抜けをより抑制できると共にオイルの乳化安定性を向上させることができる。」(段落【0038】)との記載があり,これらの記載からは,非シリコーン系オイルを乳化させる乳化剤として,有機物の塩である脂肪酸とアミン化合物との中和物を選択した場合,有機物の塩ではない乳化剤を使用するのと比較して色抜け抑制効果が生じることを理解することができる。 そして,本件明細書には,有機物の塩ではないノニオン 脂肪酸とアミン化合物との中和物を選択した場合,有機物の塩ではない乳化剤を使用するのと比較して色抜け抑制効果が生じることを理解することができる。 そして,本件明細書には,有機物の塩ではないノニオン界面活性剤を乳化剤として使用した場合よりも,脂肪酸とアミン化合物との中和物の方が色抜け抑制効果が優れている旨の実験結果が記載されており(段落【0080】~【0083】),これらによれば,当業者は,「非シリコーン系オイルを乳化させる乳化剤」であって「脂肪酸とアミン化合物との中和物」という共通の性質を有すれば色抜け抑制効果があることを理解できると認められる。 したがって,サポート要件違反をいう被告主張は採用できない。 5 原告の請求について- 18 -以上のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属し,本件特許に無効理由があるとはいえないから,被告による被告製品の販売等は原告の特許権を侵害するものである。したがって,原告は被告に対し,特許法100条1項に基づき被告製品の製造,販売及び販売申出の差止めを,同条2項に基づき被告製品の廃棄を求めることができる。 また,被告が被告製品の販売によって31万9063円の利益を得たことは当事者間に争いがなく,特許法102条2項により原告は同額の損害を被ったと推定される。したがって,原告の損害賠償請求も理由がある。 第4 結論よって,主文のとおり判決する。なお,主文第2項についての仮執行宣言は相当でないから,これを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川 浩 二 裁判官清野正彦 裁判官藤原典子 - 19 川浩二 裁判官清野正彦 裁判官藤原典子 主文 別紙被告製品目録抄紙用汚染防止薬液製品名「ルブフォームL801」以上
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