平成20(し)147 強盗致傷保護事件に関し保護処分に付さない決定に対する抗告の決定に対する再抗告事件

裁判年月日・裁判所
平成20年7月11日 最高裁判所第三小法廷 決定 その他 大阪高等裁判所 平成20(く)8
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判決文本文8,818 文字)

- 1 -主文原決定を取り消す。 本件について大阪家庭裁判所がした不処分決定に対する検察官の抗告を棄却する。 理由 本件再抗告の趣意のうち,憲法違反をいう点は,実質は単なる法令違反の主張であり,その余は,事実誤認の主張であって,少年法35条の抗告理由に当たらない。 所論にかんがみ,原決定の当否について,職権で判断する。 本件送致事実の要旨は,少年(当時14歳)は,A(当時26歳),B(当時29歳),C(当時16歳,以下「C」という。)及びD(当時13歳,以下「D」という。)と共謀の上,帰宅途中の年輩のサラリーマンから金員を強取しようと企て,平成16年2月16日午後8時35分ころ,大阪市住吉区内の路上において,徒歩で帰宅途中のE(当時61歳,以下「被害者」という。)に対し,Dが被害者の後方から体当たりして被害者を路上に転倒させる暴行を加え,さらに,少年,B,D及びCが,こもごも被害者の周りを取り囲んで,「金出せ。殺すぞ。」などと脅迫して,その反抗を抑圧し,被害者から現金約6万3000円を強取し,その際,上記暴行により被害者に対し,入院加療51日間,その後通院加療約3か月間を要する骨盤骨折の傷害を負わせた,というものである。 本件再抗告に至る経緯(1)平成16年6月11日に本件の送致を受けた大阪家庭裁判所(少年第1部)は,合議決定の上,検察官関与決定をして審理し(以下「第1次審判」とい- 2 -う。),いずれも自白を内容とする少年の捜査段階供述(以下「少年の自白」という。),Cの捜査段階供述及び自己の審判における供述(以下「Cの自白」という。),並びにDの捜査段階供述及び審判証言(以下「Dの自白」という。)に信用性を認め,送致事実と同旨の事実を認定して,平成18年3月23日,少年を中等少年院送致(一般短期処遇)とする決定 白」という。),並びにDの捜査段階供述及び審判証言(以下「Dの自白」という。)に信用性を認め,送致事実と同旨の事実を認定して,平成18年3月23日,少年を中等少年院送致(一般短期処遇)とする決定をした(以下「第1次家裁決定」という。なお,同決定の執行は即日停止されている。)。 (2)これに対して,少年の付添人が抗告を申し立て,大阪高等裁判所(第1刑事部)は,検察官関与決定をし,事実の取調べを行った上,送致事実に沿う少年の自白,Cの自白及びDの自白のいずれの信用性にも疑問があり,第1次家裁決定には重大な事実の誤認の疑いがあるとして,平成19年5月14日,同決定を取り消し,本件を大阪家庭裁判所に差し戻すとの決定をした(以下「第1次抗告審決定」という。)。同決定は,その理由として,本件犯行現場付近の民家に設置された防犯ビデオカメラの映像に撮影された4名の人物は,本件の実行犯と考えられるが,同映像は,画質等の条件が良好でなく,これを基礎資料とする鑑定結果の証明力には限界があるとした上で,同映像を注視しても,撮影された4名の身長や体格に顕著な較差があるとみることは難しく,捜査官も同映像をそのように認識していたとうかがわれること,被害者も,自分より非常に大きな犯人がいたという印象がない旨述べていることから,同映像に撮影された人物の中に,Bのように明らかに大柄な人物がいるとみることには合理的な疑いが残ることを指摘するほか,Dと女友達との間で交わされた電子メールの内容や女友達の供述等によれば,本件の犯行時間帯にDが女友達と話し込んでいて,本件現場にいなかった可能性があること,いずれの自白にも重大な供述の変遷があり,警察官による誘導,示唆,暗示等に影響さ- 3 -れた疑いを払しょくできないこと,各自白の間には重要な点でそごがあることなどを指摘した た可能性があること,いずれの自白にも重大な供述の変遷があり,警察官による誘導,示唆,暗示等に影響さ- 3 -れた疑いを払しょくできないこと,各自白の間には重要な点でそごがあることなどを指摘した。 (3)同決定を受けた大阪家庭裁判所(少年第2部)の受差戻審は,合議決定の上,検察官関与決定をし,検察官は,「本件現場付近で撮影された防犯ビデオカメラに撮影された人物については,実際には身長,体格に大きな差があっても,位置関係による遠近等から,画像上,一見すると,身長,体格にほとんど差がないように見えること」を明らかにする趣旨で,B,C,D及び少年と身長体重の類似する警察官4名に本件現場付近を実際に走らせた姿を上記防犯ビデオカメラで撮影した映像を収録したDVD(以下「本件DVD」という。)の取調べの申出をし,少年らの取調べ状況を明らかにする趣旨で,取調べに当たった警察官5名の証人尋問の申出をしたが,同裁判所は,検察官が申し出た証拠調べはいずれも必要性がないとして全く証拠調べを行わず,平成19年12月17日,少年を保護処分に付さないとの決定をした(以下「第2次家裁決定」という。)。 (4)これに対して,検察官が抗告受理を申し立て,大阪高等裁判所(第3刑事部)はこれを受理したが,検察官関与の申出については,職権を発動しなかった。 そして,同裁判所は,本件DVDを取り調べることによって上記趣旨のとおりの事実が認められた場合には,第1次抗告審決定の重要な論拠の一つである本件非行の実行犯の中にBが含まれていることについて合理的な疑いが残るという判断が変更を迫られる蓋然性が高く,そうすると,必要に応じて少年らの取調べを担当した警察官の証人尋問を行うなどして,Cや少年らの自白の任意性,信用性を詳細に再検討することにより,第1次抗告審決定の結論が覆る蓋然性 られる蓋然性が高く,そうすると,必要に応じて少年らの取調べを担当した警察官の証人尋問を行うなどして,Cや少年らの自白の任意性,信用性を詳細に再検討することにより,第1次抗告審決定の結論が覆る蓋然性があることは否定することができず,受差戻審の審判手続には,決定に影響を及ぼす法令違反があるとし- 4 -て,事実誤認の論旨に対する判断を省略し,平成20年3月25日,第2次家裁決定を取り消し,本件を大阪家庭裁判所に差し戻すとの決定をした(原決定,以下「第2次抗告審決定」ともいう。)。 原決定の当否について少年の再抗告事件において,原決定に少年法35条1項所定の事由が認められない場合でも,同法32条所定の事由があって,これを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは,職権により原決定を取り消すことができると解される(最高裁昭和58年(し)第30号同年9月5日第三小法廷決定・刑集37巻7号901頁参照)。そこで検討すると,第1次抗告審決定は,第1次家裁決定が非行事実認定の主たる証拠とした少年の自白,Cの自白及びDの自白の信用性をいずれも否定し,同決定には重大な事実の誤認の疑いがあるとして,これを取り消したものであり,受差戻審に更なる証拠調べを求めたものではない。そして,第1次抗告審決定は,被害者の供述をも根拠として,実行犯の中にBのように明らかに大柄な人物がいるとみることには合理的な疑いが残るとしたものであること,同決定は,このほかにも,Dにアリバイが成立する可能性が高いことなど種々の点を指摘して上記各自白の信用性に疑問があるとしたものであること,第1次審判において,少年の取調べ警察官の証人尋問が行われ,同警察官及びCの取調べ警察官の証人尋問調書(A及びBの1審公判におけるもの)も取調べ済みであったこと,第1次抗告審においては, あること,第1次審判において,少年の取調べ警察官の証人尋問が行われ,同警察官及びCの取調べ警察官の証人尋問調書(A及びBの1審公判におけるもの)も取調べ済みであったこと,第1次抗告審においては,検察官が本件DVDの取調べを申し出たのと同一の趣旨で提出した本件DVDの映像を写真化した証拠及びこれを説明した鑑識課警察官の供述調書が取り調べられていたことなどにかんがみると,第2次抗告審決定がいうように,本件DVD等を取り調べることによって,第1次抗告審決定の結論が覆る蓋然- 5 -性があったとも認められない。以上に加え,本件の審理経過や早期,迅速な処理が要請される少年保護事件の特質をも考慮すると,第1次抗告審決定を受けた受差戻審が,検察官が取調べを申し出た本件DVD等を取り調べなかった措置は,合理的な裁量の範囲内のものと認められる(最高裁昭和58年(し)第77号同年10月26日第一小法廷決定・刑集37巻8号1260頁参照)。そして,受差戻審は,新たな証拠調べを行わない以上,第1次抗告審決定が示した消極的否定的判断に拘束されることとなるから(最高裁昭和41年(あ)第108号同43年10月25日第二小法廷判決・刑集22巻11号961頁参照),その旨判示し,非行なしとして少年を保護処分に付さなかった第2次家裁決定に法令違反は認められず,また,記録を調べても,同決定に事実誤認も認められない。同決定に,決定に影響を及ぼす法令違反があるとしてこれを取り消した原決定には重大な法令違反があり,これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。 よって,少年法35条2項,33条2項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。 本件は,送致事実への少年の関与 年法35条2項,33条2項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。 本件は,送致事実への少年の関与が,審判手続の当初から激しく争われた事案であり,証拠の評価に関して重要な問題点を含んでいると考えるので,以下,本件の記録に基づき事案に即してその点についての補足意見を述べる。 関係者の供述等本件送致事実における共犯5人のうち,成人のA,Bの両名は一貫して本件への関与を否認したが,強盗致傷罪で公訴を提起された。しかし,大阪地方裁判所は,両名に対して無罪の判決を言い渡し,大阪高等裁判所は,平成20年4月17日,- 6 -検察官の控訴を棄却し,両名の無罪が確定した。 残りの共犯者たる少年,C(少年の実兄),Dの3人は,いずれも捜査の早期の段階において自白し,それらの供述は概ね一致していたが,少年は,審判手続の当初から本件送致事実には一切関与していない旨主張した。 これに対し,Cは,大阪家庭裁判所における自らの審判手続において自白を維持し,平成16年7月2日には中等少年院送致の決定を受けて,少年院に入所したが,その後,否認に転じ,本件審判期日での証人尋問では,本件送致事実への関与を否認した。Cは,上記決定に対して抗告,再抗告を申し立てたが,いずれも棄却されて,同決定は確定した。また,Dは自白して,児童自立支援施設への入所措置がとられていた。そして,本件審判期日での証人尋問でも同人は自白を維持したが,その後Aらの公判の証人尋問において否認に転じた。なお,その証言においては,次項に述べるアリバイに関連する供述はしていない。 Dのアリバイに関する証拠の存在平成17年1月下旬ころになって,本件当時Dと交際していたFが,本件当日Dから受信したメールを保 証言においては,次項に述べるアリバイに関連する供述はしていない。 Dのアリバイに関する証拠の存在平成17年1月下旬ころになって,本件当時Dと交際していたFが,本件当日Dから受信したメールを保存していたことが判明し,解析された。そのメール(以下「本件メール」という。)の解析結果からは,本件当日の19時35分ころから19時55分ころまでの間,Dが自宅にいたこと,19時55分ころDがFと会い,21時59分ころDがFと別れたこと,また,その間,FはDからのメールを受信していないことが認められる。そして,Fは,Aらの公判において,上記の時間帯は,Dの自宅マンション前の廊下で2人で雑談していた旨証言した。 本件メールに関する各決定の認定第1次家裁決定は,仮にDとFとが本件メールから読みとれる各時刻ころに2人- 7 -で会っていたとしても,その間に本件非行に及ぶことは不可能なことではないとして,本件メールの存在は少年らの自白の信用性に影響を及ぼさないとした。これに対して,第1次抗告審決定が,法廷意見に記載のとおり,本件メールからDのアリバイ成立の可能性を認めたところ,第2次抗告審決定は,法廷意見記載のとおりの理由で,第1次抗告審決定の判断に従った第2次家裁決定を取り消したが,本件メールに関しては,「客観的証拠であるFの携帯電話のメールデータの内容のみからは,本件当日午後7時55分ころから午後10時ころまでの間,FがDと会っていたことがうかがわれるに過ぎず・・・Dが本件非行に及ぶことがおよそ不可能であるとまでは断定できない」と判示した。 本件メールとアリバイとしての証拠評価について本件メールからは,本件当日20時ころにDがその自宅付近でFと会ったこと及び22時ころにDがFと別れたことがそれぞれ推認されるものの,その間,両名が継続して面 ールとアリバイとしての証拠評価について本件メールからは,本件当日20時ころにDがその自宅付近でFと会ったこと及び22時ころにDがFと別れたことがそれぞれ推認されるものの,その間,両名が継続して面談していたことが当然に推認できるわけではなく,第1次家裁決定や第2次抗告審決定が述べるとおり,Dが本件非行事実を敢行することは時間的に不可能ではない。 しかし,疑わしきは被告人の利益にとの刑事裁判の原則は,少年審判における非行事実の認定にも基本的に妥当するのであり,アリバイの主張に関する上記の第1次家裁決定及び第2次抗告審決定の考え方は,アリバイの立証の負担を全面的に少年側に負わせるもので,上記原則に背馳するものと言わざるを得ないと考える。 本件メールの上記内容からは,DとFとが上記の時刻に出会い,また別れた事実と共に,Fの証言によりその間面談していたことが一応推認されるのであり,その推認に反する証拠としては,本件当日の夕刻から本件非行事実に至るまでの間,D- 8 -らと共に行動したという少年らの自白が存するのみであって,他に客観的証拠はない。他方,Dが本件非行事実を敢行したとすれば,本件非行事実の内容及びその後の行動に関するDの供述内容からして,相当の時間Fとの面談を中断せざるを得ないところ,その場合DからFに対して,面談を再開するための打合せや面談の中断を詫びる内容のメールが存してしかるべきであるが,かかるメールは一切存在しない。 そうすると,上記のDのアリバイ成立の推認は未だ破られていないものというべきである。 Dが本件当日の夕刻自宅にいた点について本件メールから,本件当日の19時35分ころから19時55分ころまでの間,Dが自宅にいたことは明らかである。その際,少年やCがDの自宅にまで行動を共にしていたことを窺わせる証拠は一切存しな について本件メールから,本件当日の19時35分ころから19時55分ころまでの間,Dが自宅にいたことは明らかである。その際,少年やCがDの自宅にまで行動を共にしていたことを窺わせる証拠は一切存しない。ところが,D,C,少年の各供述は,上記のとおり同人らが夕刻合流して以降,本件非行事実に至るまでの間共に行動していたというものであって,Dが単独行動をとって自宅に戻ったとの供述は一切存しない。 本件の前兆事件とDの関与の有無本件送致事実にかかる実行犯4人中の1人が赤色ジャンパー様の上衣を着ていたことが,防犯ビデオカメラの映像及び被害者の供述から認められ,また,被害者の供述によれば,被害者に体当たりをしたのは,赤色上衣を着た男であり,他方,Dの自白によれば,同人が体当たりをしたというのであるから,同人が本件当日赤色のジャンパー様の上衣を着ていたことになる。 ところで,記録によれば,本件当日,本件現場の周辺で,赤色の上衣を着た男1- 9 -人を含む数人の若者グループによる通行人に対する威迫及び恐喝未遂事件(前兆事件)が17時ころから19時50分ころの間に5件発生していたことが捜査機関に認知されている。また,Dは,本件送致事実に先立ち,カツアゲをするために1~2時間ウロウロしたけれども,どれもうまくいかなかったと供述し,少年も同旨の供述をしている。 上記の証拠関係,殊にDが本件当日赤色の上衣を着用していたことを前提とすれば,上記の前兆事件にDが関与していたことが窺われる。しかし,本件メールの内容から,そのうち3件は,Dが自宅にいた上記時間帯に発生したものであって,Dがそれらの前兆事件に関与したことは否定される。 そうすると,本件当日,本件現場周辺において,D以外の赤色上衣を着た若い男を含むグループが,上記前兆事件に関与していたことが認められる ものであって,Dがそれらの前兆事件に関与したことは否定される。 そうすると,本件当日,本件現場周辺において,D以外の赤色上衣を着た若い男を含むグループが,上記前兆事件に関与していたことが認められるのであり,逆に,Dが本件送致事実に先立ち数件のカツアゲを行ったとの供述の信用性に疑問が生じるのである。 なお,本件記録上,Dの自宅からは赤色の上衣は押収されておらず,また,Dが本件当日に赤色の上衣を着用していたこと,あるいは,所持していたことを窺わせる関係者の供述は,一切存しないのであり,他方,上記のとおり,本件当日,本件現場周辺において,D以外に赤色の上衣を着た男を中心とするグループによる通行人に対する威迫及び恐喝未遂事件が生起しているのであって,本件送致事実にかかる犯行を同グループが敢行した可能性も存し得る。 Dの自白の信用性,少年の自白の信用性少年らは,上記のとおり本件当日の夕刻に合流して以降,本件送致事実にかかる犯行を犯すに至るまで,共に行動し,その間,Dがカツアゲを試みたがうまくいか- 10 -なかった旨それぞれ供述しているが,5に記載のとおり,Dはその間に約20分間は自宅に戻っており,また,2,4に記載したとおり,本件送致事実にかかる犯行の時間帯に,DがFと会っていた可能性が高いのであって,それらの諸点について全く言及していないDの自白の信用性には,重大な疑問があると言わざるを得ない。 このように,本件送致事実において被害者への直接の実行行為者とされるDの供述の信用性に重大な疑念が存する以上,それに符節を合わせる少年の捜査段階の供述は,第1次抗告審決定の指摘する供述の変遷の不自然,不合理性の点を措いても,その信用性を全面的に疑わざるを得ないのである。 本件メールの存在にもかかわらず,Dの自白の信用性を認めた第1次家裁決定及び は,第1次抗告審決定の指摘する供述の変遷の不自然,不合理性の点を措いても,その信用性を全面的に疑わざるを得ないのである。 本件メールの存在にもかかわらず,Dの自白の信用性を認めた第1次家裁決定及びその信用性を肯定し得る可能性があるとした第2次抗告審決定は,4に指摘したとおり,アリバイに関する証拠の評価方法を誤っていると共に,5,6で指摘した諸点について何らの検討を加えていない点においても,問題があったといわなければならない。 おわりに本件において,送致事実に沿う証拠としては,少年らの自白及び仲間の伝聞供述しか存しないところ,上記のとおり少年らの自白の信用性に重大な疑念が存する以上,本件送致事実を認めるには合理的な疑いが存するとした第1次抗告審決定,及びそれを受けた受差戻審の決定には,事実誤認はないというべきである。 補論本件送致事実に実行犯として関与したとされる少年らの自白は,捜査の初期の段階から比較的矛盾なくそろい,また,それを裏付ける仲間の供述もあり,さらに- 11 -は,共犯とされた少年の兄は,自らの審判手続でも一貫して関与を認めて中等少年院に送致されているのであって,それらの事情からすれば,本件は,少年らの犯人性に疑いを差し挟む余地はほとんどないとも言える案件である。 ところが,たまたま,共犯とされるAらの公判手続中に本件メールの存在が明らかになり,また,その結果が本件審判手続に顕出されたことによって,上記のとおり,少年らの自白の信用性が根本的に疑われるに至り,8で述べたとおりの結論に至ったのである。 本件は,事件関係者が,客観的証拠と明らかに矛盾する事実について,捜査機関の意向に迎合して,比較的安易に自白することがあり,殊に少年事件においては,そのような危険性が高いことを如実に示す一事例であり(本件では,送致事実には 観的証拠と明らかに矛盾する事実について,捜査機関の意向に迎合して,比較的安易に自白することがあり,殊に少年事件においては,そのような危険性が高いことを如実に示す一事例であり(本件では,送致事実には全く関与していないことが後に明らかとなった少年も,一旦自白している。),刑事事件,少年事件に関与する者には,証拠の評価,殊に自白と客観的証拠との関連性につき慎重な判断が求められることを示す一事例として,実務に警鐘を鳴らすものと言えよう。 (裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官那須弘平)

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