平成23(ワ)4576 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年7月17日 大阪地方裁判所
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判決文本文6,031 文字)

主文 1 被告Aは,原告に対し,110万円及びこれに対する平成22年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用のうち,被告Bとの間で生じた費用は,原告の負担とし,被告Aとの間で生じた費用は,その10分の9を原告の,10分の1を被告Aの負担とする。 4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成22年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告Aが電子掲示板への投稿により,原告の信用及び名誉を毀損し,プライバシーを侵害したとして,原告が,被告Aに対し,不法行為に基づく損害賠償及び慰謝料を,被告Bに対し,医療法68条,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づく損害賠償並びに被告らに対し,不法行為の日から完済に至るまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない事実か掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認定することのできる事実)(1) 当事者ア原告は,大阪市内において,美容外科及び形成外科である「C」を開業する医師である(甲8,乙1)。 イ被告Bは,福岡市内において,美容外科である「D」を開設する医療法人である(甲1)。被告Aは,医師であり,被告Bの代表者理事長である。 (2) 電子掲示板への投稿被告Aは,電子掲示板「2ちゃんねる」の「C」というスレッドに対し,別紙投稿一覧のとおり投稿した(甲5。以下「本件各投稿」という。)。 2 争点(1) 本件各投稿の違法性(2) 稿被告Aは,電子掲示板「2ちゃんねる」の「C」というスレッドに対し,別紙投稿一覧のとおり投稿した(甲5。以下「本件各投稿」という。)。 2 争点(1) 本件各投稿の違法性(2) 本件各投稿が被告Bの職務を行うについてなされたものか(3) 損害の額 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1) 本件各投稿の違法性【原告の主張】本件各投稿は,原告に関して虚偽の事実を記載して原告の信用及び名誉を毀損し,プライバシーを侵害するものであり,原告の評価を貶めて被告Bの利益を図るためになされた業務妨害である。本件各投稿の内容からして,意見や論評の表明とはいえず,人身攻撃に及ぶもので,目的の公益性や事実の真実性ないし真実相当性はなく,公正な論評として違法性が阻却されるものではない。また,原告の子どもの名前とクリニックの名称との関係を具体的に説明した点についてはプライバシーの侵害である。 【被告らの主張】名誉毀損に当たるか否かは,記載内容とともに,その投稿がなされた経緯,文脈等を考慮し,その電子掲示板に参加している一般の読者を基準として当該投稿が人の社会的評価を低下させる危険性があるかを検討すべきである。「2ちゃんねる」においては,真偽が入り混じり,無責任な書き込みや嫌がらせの書き込みがなされる傾向が顕著であり,閲覧する者はこの特徴を理解した上で閲覧している。現状では,「2ちゃんねる」の投稿で人の社会的評価が低下させられ損害が発生するということは一部を除いて現実にはあり得ない。本件各投稿に原告の名誉感情を害するものがあっても,名誉感情侵害が不法行為を構成するのは,その状況下における客観的意味が,相手方の人格的価値をまったく無意味なものであるとしてこれを否定するものであ 稿に原告の名誉感情を害するものがあっても,名誉感情侵害が不法行為を構成するのは,その状況下における客観的意味が,相手方の人格的価値をまったく無意味なものであるとしてこれを否定するものであるが,その程度が著しいなど違法性が強度で社会通念上到底容認し得ないものである場合であり,本件各投稿はこれに当たらない。被告Aは,医学的知見を前提に公益の目的のもと本件各投稿を記載したから,公正な論評として名誉毀損行為に当たらない。本件各投稿は,電子掲示板にすでに記載された内容,原告が公表している内容を前提にしたもので,不法行為を構成するような投稿ではないし,プライバシーの侵害となるようなものではない。 (2) 争点(2) 本件各投稿が被告Bの職務を行うについてなされたものか【原告の主張】美容整形の分野においては,評判の良い医院に遠方から患者が訪れるから,大阪と福岡であっても競合関係にある。原告と被告Aは,同じ美容整形外科医であるというだけでこれまで関わり合いがなかったのであるから,何の目的もなく原告に対する人身攻撃やプライバシー侵害を行うとは考えがたく,原告のクリニックに患者が行かないようにして被告Bのクリニックに患者が来るようにすることが目的で本件各投稿を行ったといえる。したがって,本件各投稿は,被告Bの職務と関連性がある。 【被告らの主張】本件各投稿は被告Bの職務と関連性がない。被告Bも同様の投稿をされたことがあるが,クリニックの業務にまったく影響はなかったのであり,本件各投稿も7か所にとどまるから,原告主張の目的で本件各投稿を行っていない。 (3) 争点(3) 損害の額【原告の主張】ア信用毀損による損害美容整形の分野ではインターネット上の ,原告主張の目的で本件各投稿を行っていない。 (3) 争点(3) 損害の額【原告の主張】ア信用毀損による損害美容整形の分野ではインターネット上の評判が重要である。本件各投稿によって原告に対する新たな患者の数が減少した。また,本件各投稿によって現に通院している患者にも心のケアが必要となった。この減収減益及び活動上の負担などの損害を金銭に換算すると500万円を下らない。 イ名誉毀損,プライバシー侵害による慰謝料原告は本件各投稿によって著しい苦痛を受けた。その慰謝料は500万円を下らない。 ウ弁護士費用相当額原告は,弁護士に本訴の提起を依頼することを余儀なくされた。被告らの負担すべき弁護士費用は100万円である。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認めることのできる事実は以下のとおりである。(1) 電子掲示板「2ちゃんねる」の「C」というスレッドには,本件各投稿を含め,別紙投稿一覧2のとおりの投稿がされた(甲2)。 (2) 原告は,Cのホームページにおいて,その名称が,自己の子供のイニシャルを並べたものである旨を掲載した(乙1)。 2 上記の事実(前提事実を含む。)と弁論の全趣旨によれば,次のとおり判断することができる。(1) 争点(1)(本件各投稿の違法性)についてアある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。これを本件についてみると,一般の読者の普通の注意と読み方からすれば,別紙投稿一 べきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。これを本件についてみると,一般の読者の普通の注意と読み方からすれば,別紙投稿一覧のレス番号128及び129の記事は,原告が美容整形外科の分野において効果があると通常認められていない施術を行う医師である旨の事実を示すものであり,レス番号152,170及び201の記事は,原告が技能の低い医師である旨の事実を示すものであり,レス番号175の記事は,原告が施術に失敗した顧客が自殺未遂した旨の事実を示すものであると読める。これらの事実は,原告が独自の見解を持ち,技能が低く,患者に多大な精神的ショックを与えるほどの失敗例がある医師であるという意味内容であるから,整形外科医としての原告の社会的評価を低下させるものであるといえる。 また,別紙投稿一覧のレス番号184の記事は,原告の子どもらの名前を具体的に示し,これと原告のクリニックの名称との関連性について説明するものであり,プライバシーにかかわる事項を公にするものということができる。 イしたがって,本件各投稿は,名誉毀損に該当し,プライバシーを侵害するものであるから,違法性を有するといえる。 ウ(ア) この点,被告らは,本件各投稿が公正な論評である旨主張する。 しかし,本件各投稿には,「独りよがりの考え」「悪徳医」「口ばっかりで腕が伴ってない」「早く貼ってくれよ,Cの自演スタッフさんよぅ」など,原告への誹謗中傷ともいうべき表現が用いられており,その表現自体からして,医師として医学的見地から公正な論評をしたとは到底いえるものではない。また,本件各投稿がされた当時の「C」のスレッドの状況をみると,別紙投稿一覧2のとおり,過激な表現によって原告を誹謗中傷する投稿,原告を擁 医学的見地から公正な論評をしたとは到底いえるものではない。また,本件各投稿がされた当時の「C」のスレッドの状況をみると,別紙投稿一覧2のとおり,過激な表現によって原告を誹謗中傷する投稿,原告を擁護する投稿及び同投稿が原告の親族等によるものである旨の投稿などにより,医学的知見についての議論というよりも,単なる中傷合戦がされている状況にあったといえる。このような状況下において,通常の医師が医学的見地から公正な論評目的で投稿するとは考えがたい。さらに,本件各投稿が公正な論評目的であったならば,医学的見地からの投稿のみなされるはずであるが,原告の子どもらの名前を公にするなど医学とは何ら関係のない投稿もしていることからすると,本件各投稿が公正な論評目的ではなかったと推認することができる。 したがって,本件各投稿は公正な論評ではなく,違法性が阻却されるものではない。 (イ) また,被告らは,本件各投稿がされた「2ちゃんねる」の特性を理由に名誉毀損にはならない旨主張する。 しかし,「2ちゃんねる」においては,事実を伝える投稿と虚偽を伝える投稿が混在し,スレッドによっては,別紙投稿一覧2のように,誹謗中傷の投稿が多くなる場合があるから,その読者が投稿内容を読むに当たっては投稿内容の真偽を注意深く吟味すべきであるとはいえるものの,現状,一般の読者がその旨正しく理解し,投稿を読んでも誹謗中傷された者の社会的評価が低下しないとまでいうことはできない。 したがって,本件各投稿の場所が「2ちゃんねる」であるからといって,社会的評価を低下させないとまでいうことはできない。 (ウ) 被告らは,すでに「2ちゃんねる」で明らかにされている又は原告が公表している内容であることを理由にプライバシー侵害はない旨主張する。 しかし,前 いうことはできない。 (ウ) 被告らは,すでに「2ちゃんねる」で明らかにされている又は原告が公表している内容であることを理由にプライバシー侵害はない旨主張する。 しかし,前記1(2)のとおり,原告が公表しているのは自身の子どものイニシャルにとどまり,名前を具体的に公表していないから,原告によって公表されていることはプライバシー侵害を否定する理由にはならない。また,別紙投稿一覧2のとおり,「C」のスレッドにおいて,原告の子ども4人の名前が明らかにされていることが認められるものの,原告の病院の名称と関連付けた上で重ねて投稿することでより強調され,さらなる侵害がされたといえるから,すでに電子掲示板で明らかにされていてもプライバシー侵害を否定できない。 したがって,被告らの主張はプライバシー侵害を否定する理由となるものではない。 エ以上からすると,本件各投稿の違法性を認めることができる。 (2) 争点(2)について医療法68条によって準用される一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条の「職務を行うについて」された行為とは,外形上職務に属する行為のほか,職務執行と適当な牽連関係に立つ行為をいうと解するのが相当である。これを本件についてみると,被告Bは,前記第2の1(1)イによれば,美容整形外科の施術等を業務内容とするものであり,本件各投稿は外形上被告Bの業務の範疇に入らない。また,被告Bの職務執行との牽連関係に関し,原告は,美容整形の分野においては,大阪と福岡であっても競合関係にあること,これまで原告被告A間に関係がないのに何の目的もなく原告に対する人身攻撃やプライバシー侵害を行うとは考えがたいことなどから,本件各投稿が被告Bの職務についてなされたものである旨主張する。 あること,これまで原告被告A間に関係がないのに何の目的もなく原告に対する人身攻撃やプライバシー侵害を行うとは考えがたいことなどから,本件各投稿が被告Bの職務についてなされたものである旨主張する。しかし,原告と被告Bとが競合関係にあることを認めるに足りる確たる証拠はなく,遠方の美容整形外科医の下に患者が赴くことがあるにせよ,両者の距離からして,本件各投稿と被告Bの患者が増加することとの因果関係は希薄であり,現実的ではない。さらに,別紙投稿一覧2によれば,被告Aが投稿した「C」というスレッドにおいては,無関係の者であっても,誹謗中傷などによって人格攻撃をすることが常態化していたといえ,原告と被告Aとの関係がないからといって,本件各投稿が,被告Bの利益を図るために競合関係者をおとしめる目的でなされたとはいい難い。したがって,本件各投稿と被告Bの職務執行との牽連関係を認めることはできない。 以上によれば,本件各投稿が被告Bの職務についてなされたものとは認め られない。 (3) 争点(3)について原告は信用毀損による患者数の減少など業務上の損害を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。名誉毀損・プライバシー侵害について,本件各投稿の内容に照らし,原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,100万円と解するのが相当である。本件の概要にかんがみ,被告Aの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は10万円である。 3 結論以上によれば,原告の被告Aに対する請求の一部は理由があり,被告Bに対する請求には理由がない。よって,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言の申立てについては相当でないからこれを付さないこととする。大阪地方裁判所第4民事部裁判官諸井明仁 主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言の申立てについては相当でないからこれを付さないこととする。大阪地方裁判所第4民事部裁判官諸井明仁

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