令和6(ワ)4227 請求異議事件

裁判年月日・裁判所
令和7年5月13日 福岡地方裁判所
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判決文本文4,359 文字)

主文 1 被告から訴外Aに対する福岡簡易裁判所令和6年(ロ)第1231号事件の仮執行宣言付支払督促に基づく強制執行は、これを許さない。 2 本件につき、当裁判所が令和6年11月27日にした強制執行停止決定を認可する。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文第1項同旨 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、訴外Aの債権者である原告が、被告の訴外Aに対する福岡簡易裁判所令和6年(ロ)第1231号事件の仮執行宣言付支払督促(以下「本件債務名義」という。)は、そこに表示された請求権(以下「本件請求権」という。)が不存在であり、また、 訴外Aに対して送達されておらず適法に成立していないなどと主張して、本件債務名義に基づく強制執行の不許を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記証拠(書証番号は特記しない限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 原告の訴外Aに対する債権についてア原告は、令和6年1月から2月にかけて、氏名不詳者らから架空の投資話を持ち掛けられるなどして、誤信させられ、指定された複数の口座に合計1億2400万円を振り込み、同額の被害を被った。原告は、当該口座からの資金移転先口座の名義人である訴外Aら8名も、上記氏名不詳者らと共謀し、又は上記氏名不詳者らを幇助 したとして、訴外Aら8名を被告として、不法行為に基づき損害賠償を請求する訴え を東京地方裁判所に提起した。同裁判所は、訴外Aの住所居所が不明であるとして同人に対し訴状等を公示送達した上、令和6年10月25日、同人に対し、原告に1億 行為に基づき損害賠償を請求する訴え を東京地方裁判所に提起した。同裁判所は、訴外Aの住所居所が不明であるとして同人に対し訴状等を公示送達した上、令和6年10月25日、同人に対し、原告に1億0375万6241円及びこれに対する令和6年8月28日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払うよう命ずる旨の判決を言い渡し、同判決は確定した(甲1の2、弁論の全趣旨)。 イ前記アの判決で認容された債権額のうち、本件訴え提起時点(令和6年11月25日)で未回収の額は9281万2054円である(弁論の全趣旨)。 ⑵ 訴外Aの資力について訴外Aには、後記⑶ウの預金債権の他に見るべき財産はない(弁論の全趣旨)。 ⑶ 本件債務名義及びこれに基づく強制執行について ア被告(令和6年10月10日付け商号変更前の商号は「有限会社スタッシュキャッシュ」である。)は、福岡簡易裁判所書記官に対し、債権者を被告、債務者を訴外A、請求額を1000万円、請求の原因を金銭消費貸借契約(貸主を被告、借主を訴外Aとするもの)として支払督促の申立てをし、福岡簡易裁判所書記官は、令和6年5月1日、支払督促を発付した。当該支払督促の正本は、同月10日、被告が訴外 Aの住所として申し立てた福岡市a区bの住所地において訴外Aの同居者を名乗る者に対して交付された。福岡簡易裁判所書記官は、同年6月3日、当該支払督促に関し、仮執行の宣言をし、当該仮執行宣言付支払督促(本件債務名義)の正本も、同月5日、上記住所地において訴外Aの同居者を名乗る者に対して交付された。訴外Aからは、督促異議の申立てはされなかった(甲6の3、7の5、7の6、弁論の全趣旨)。 イ被告は、令和6年6月25日、福岡地方裁判所に対し、本件債務名義に表示された1000万円の請求債権( からは、督促異議の申立てはされなかった(甲6の3、7の5、7の6、弁論の全趣旨)。 イ被告は、令和6年6月25日、福岡地方裁判所に対し、本件債務名義に表示された1000万円の請求債権(本件請求権)の弁済に充てるためとして、本件債務名義に基づき、訴外Aが株式会社三菱UFJ銀行(船橋駅前支店扱い)に対して有する預金債権について債権差押命令の申立てをし、同裁判所は、同年7月3日、その申立てどおり、債権差押命令を発令した(甲8の3、9の2、17の3)。 ウ株式会社三菱UFJ銀行船橋駅前支店には、犯罪利用預金口座等に係る資金 による被害回復分配金の支払等に関する法律3条1項に基づく取引停止措置が執られた訴外A名義の預金口座があり、その残高は令和6年7月30日時点で1035万1436円あった(甲2の2)。 ⑷ 強制執行停止決定原告は、令和6年11月25日、本件訴えを提起すると共に、当裁判所に対し、本 件債務名義に基づく強制執行の停止の申立てをした。当裁判所は、同月27日、本件債務名義に基づく強制執行を停止する旨の決定をした(顕著な事実)。 3 争点及び当事者の主張原告は、訴外Aに代位して、本件債務名義の執行力の排除を求める旨の異議権を行使するものであるところ、前提事実⑴及び⑵によれば、債権者代位権の要件である被 保全債権の存在及び保全の必要性が認められる。本件の争点は、本件債務名義に記載された請求権(本件請求権)の存否及び本件債務名義が適法に成立したかである。 ⑴ 被告の主張被告は、令和元年12月、従業員の横領行為により損害を被り、当該従業員を告訴していたところ、偶然、当該従業員の共犯者を自称するベトナム人のBを知ることと なった。被告は、Bから損害賠償金を受け取る代わりに、同人が令和5年3 の横領行為により損害を被り、当該従業員を告訴していたところ、偶然、当該従業員の共犯者を自称するベトナム人のBを知ることと なった。被告は、Bから損害賠償金を受け取る代わりに、同人が令和5年3月1日に訴外Aに対して弁済期日を令和6年3月1日として貸し付けた1000万円に係る貸付金債権を譲り受けた。 被告は、譲り受けた債権の内容に従い、支払督促を申立て、適法に本件債務名義を取得したものである。 請求異議訴訟においては、原告自身が、強制執行が不当であることの立証責任を負担すべきである。 ⑵ 原告の主張被告は、訴外Aを含む3名のベトナム人名義の口座が犯罪利用預金口座として凍結された後に、それぞれの口座に相当額の残高があることを知ってこれを違法に得 ようと企て、上記3名に対して架空の債権があるものとして、上記3名が当時既に日 本から出国していたにもかかわらず架空の住所地や就業場所を記載して支払督促の申立てをし、本人、同居人又は使用者と称する者達に送達を受けさせて、本件債務名義を騙取したものである。 第3 当裁判所の判断 1 立証責任に関する被告の主張について 支払督促は裁判所書記官が発付するものであり、発付に当たって、請求の当否について実体的な判断が行われるものではないから、その性質上、既判力が生じるものではない。そのため、債務者は、仮執行宣言付支払督促についての請求異議の訴えにおいて、請求権の発生原因や債務名義の成立についても異議を述べることができ(民事執行法35条1項後段、同条2項参照)、その場合には、債権者が、請求 権の発生原因や債務名義の成立について立証責任を負うものと解すべきである。これに反する被告の主張は採用することができない。 2 本件請求権の存否について⑴ 被告は、① 、債権者が、請求 権の発生原因や債務名義の成立について立証責任を負うものと解すべきである。これに反する被告の主張は採用することができない。 2 本件請求権の存否について⑴ 被告は、①Bが令和5年3月1日、訴外Aに対して1000万円を貸し付けた事実、②被告はBから過去の横領行為に係る損害賠償金を受け取る代わりに上記① に係る貸金債権を譲り受けた事実を主張するが、これらの事実を直接的に裏付ける証拠はない。 ⑵ 被告は、Bから債権譲渡を受けた時点で、債権の存否、債務者の住所等につき不確実な要素が多かったので、支払督促を申し立てて債務者側に反論の機会を与えるべきだと判断した旨を主張するが、回収の可能性はもとより、債権の存否自体も不 確かな債権を、損害賠償金を受け取る代わりに受領したということ自体不自然である。また、被告は、支払督促を申し立てた時点では、その請求の原因として、貸主を被告、借主を訴外Aとする金銭消費貸借契約の締結を主張していたものであり(前提事実⑶ア)、Bの訴外Aに対する貸付けの事実や、Bから債権譲渡を受けた事実については何ら言及していなかったのであるから、被告の主張は一貫性を欠いている。以 上によれば、被告の主張自体、直ちに採用し難い。 ⑶ 支払督促の手続において、訴外Aから督促異議の申立てがされなかったという事情はあるが(前提事実⑶ア)、証拠によれば、①訴外Aは、令和5年1月より前に本邦から出国した後、少なくとも令和6年12月8日までの間、本邦に入国していないこと(甲5の1〔12枚目〕、16〔19~21枚目〕)、②支払督促の申立てにおいて訴外Aの住所とされた福岡市a区bの住所地について、住民基本台帳上、訴 外Aを住民とする記録は存在しないこと(甲3の3)、③東京出入国在留管理局の 〔19~21枚目〕)、②支払督促の申立てにおいて訴外Aの住所とされた福岡市a区bの住所地について、住民基本台帳上、訴 外Aを住民とする記録は存在しないこと(甲3の3)、③東京出入国在留管理局の保管する記録上は訴外Aの本邦在留中の住居所は名古屋市(甲5の1〔12枚目〕)や千葉県内(甲16〔20~21枚目〕)であること等からすれば、令和6年5月及び6月に支払督促正本及び仮執行宣言付支払督促正本の送達先とされた福岡市a区bの住所地が真に訴外Aの住所ないし居所であったかどうか、及び書類の交付を受け た訴外Aの同居者を名乗る者が、真に訴外Aの同居者であったかどうかは、いずれも疑わしいものといわざるを得ない。そうすると、訴外Aはそもそも被告による支払督促の申立ての事実を認識すらしていない可能性も高いから、訴外Aから督促異議の申立てがされなかったという一事をもって、本件請求権の発生原因事実が裏付けられることにはならない。 ⑷ 以上によれば、本件請求権の発生原因事実を認めるべき証拠はなく、本件請求権の存在は認められない。 第4 結論以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容し、民事執行法37条1項により強制執行停止決定の認可をすることとして、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第1民事部 裁判官溝渕章展別紙当事者目録は掲載省略

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