主文 原判決を破棄する。被告人Aを懲役三月に、被告人B、同Cを各懲役二月に処する。但し右各被告人に対し本裁判確定の日から一年間右各刑の執行を猶予する。理由 検察官森崎猛が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の検察官栗本義親提出の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人山口伊左衛門提出の答弁書に記載のとおりであるから、これを引用する。右控訴趣意第一点(事実誤認)について。よつて本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に当裁判所における事実取調の結果を参酌して考察すると次の事実が認められる。すなわち、(一)原判示のような経緯によつてD株式会社(以下単に会社という)から退職した被告人等のD退職者同盟(以下単に同盟という)は昭和三七年六月一四日同会社とD労働組合との間に炭労のあつせんによつて締結された休戦協定中の退職者に関する条項(退職者募集に関する取扱要領)が組合本来の目的を逸脱するものであるとして、その利益擁護のために、同会社を希望退職した八五〇名余のうちの四八五名を以つて同年六月二二日に結成されたものなるところ、結成以来未払賃金、退職金の支払請求の行動を起し、会社に対し団体交渉の申入をして来たが、会社は当初同盟との団体交渉に応ぜず、同盟側から福岡地方労働委員会(以下単に地労委という)に審査申請に及び同年八月下旬労働組合の資格認可がある迄之を拒否し続け、同年八月二三日にようやく第一回の団体交渉が開始されるに至つてからも同年九月三日の第四回の団体交渉までに、同盟が無効を主張していた前記協定中の退職金のうちのまず支払わるべき総額三、〇〇〇万円(退職金の一部頭金)についても、原則として社宅の明渡を条件として支払う旨の条項を楯にとつて、退職後もなお社宅を占有し が無効を主張していた前記協定中の退職金のうちのまず支払わるべき総額三、〇〇〇万円(退職金の一部頭金)についても、原則として社宅の明渡を条件として支払う旨の条項を楯にとつて、退職後もなお社宅を占有していた被告人等同盟員に対しては絶対に退職金等の支払に応じない態度をとつた(その間に一応七月一〇日迄に退職金の頭金を支払う言明をしながら遂に履行しなかつた)ため、団体交渉は進捗を見なかつたので、同盟は会社の右不当な態度に抗議して同年九月五日から実力行使に突入し、会社E捲場付近に坐込をしたこと、(二)そして、右坐込は地労委のあつせんによつて同月八日一時中止されたものの、同月一四日地労委の示した前記退職金の頭金三、〇〇〇万円相当部分の即時無条件支払を内容とするあつせん案に対し同盟は同意したのに会社側がこれを拒絶したため、右あつせんは不調に終つたので、同盟は会社側の強硬な態度に抗議し同月二〇日から再び前記捲場付近に坐り込んだこと、(三)ところが、同年一〇月一一日会社の申請によつて福岡地方裁判所から妨害排除の仮処分命令が発せられ、会社側が同月一三日午前一〇時頃右坐込を排除すべく右仮処分の執行に着手しようとしたため、同盟は右捲場付近から退去するのやむなきに至つたこと、(四)しかして、被告人Aは同盟の副委員長、被告人B、同Cはいずれも同盟員であつたところ、被告人等は右仮処分が執行されることを予知し、これとの抵触を避けて、仮処分執行の範囲外と考えた本件坑底坐込の抗議行動の手段に訴えるの余儀ない状態に追い込まれたため、右捲場付近を退去するに当り他の同盟員二二名とともに、同日午前一〇時五〇分頃前記E新一坑エンドレス捲卸詰に立ち到り、同所の終点矢弦にクリップチエンを巻きつけ、鉄材を差し込み、エンドレスロープにクリップチェンを巻きつける等して右矢弦の上や付近に坐り は右仮処分が執行されることを予知し、これとの抵触を避けて、仮処分執行の範囲外と考えた本件坑底坐込の抗議行動の手段に訴えるの余儀ない状態に追い込まれたため、右捲場付近を退去するに当り他の同盟員二二名とともに、同日午前一〇時五〇分頃前記E新一坑エンドレス捲卸詰に立ち到り、同所の終点矢弦にクリップチエンを巻きつけ、鉄材を差し込み、エンドレスロープにクリップチェンを巻きつける等して右矢弦の上や付近に坐り 、同日午前一〇時五〇分頃前記E新一坑エンドレス捲卸詰に立ち到り、同所の終点矢弦にクリップチエンを巻きつけ、鉄材を差し込み、エンドレスロープにクリップチェンを巻きつける等して右矢弦の上や付近に坐り込んだこと、(五)そして、同日午後四時頃会社の命により退去勧告のために会社採鉱係長F外三名が同所付近に来て被告人等に対し会社はエンドレスを捲く用意があるから退去されたい旨を告知するや、被告人等は同人等を取り囲み口々に何しに来たか、退職金を払え、退職金を貰えばすぐ出る」とか「捲けるものなら捲いてみろ」「俺達はいつ死んでもよいからお前達もここにおれ」「お前達を矢弦にくくりつけて運転してやる」「後でお礼に行くぞ」等と申し向け、あるいはF係長等を背後から肘でこづいたり、折畳式鋸(但し戦り畳んだままのもの)を示して「これでひいてやらうか」との言辞を発して同人等の勧告を却け、同人等を退去ざせたこと、(六)かくして、被告人等は同月二二日午後一〇時頃までの間同所に坐り込んで同礦新一坑エンドレス捲機の運転を断念させて会社の同礦新一坑における出炭業務を妨害したことがいずれも明らかである。そして当審証人G、同Hの各証言と原審における被告人等の各供述中の右認定と異なる部分は到底信用することができない。しかして、本件公訴事実中の暴力行為等処罰に関する法律違反の訴因について、原判決は被告人等がF外三名に対し自ら暴行を加えたことは勿論、他の者と共謀して暴行、脅迫を加えた証拠がなく、かりにその際被告人等に多少の脅迫的言辞があつたとしても当時の諸事情に照せば、通常の団体行動に許される限度を超えたものとなすことはできないとして、被告人等に対しいずれも無罪の言渡をしているのである。そこで、まず右訴因についての事実誤認の有無を検討するに、なるほど会社採鉱係長F外三名が前記 れる限度を超えたものとなすことはできないとして、被告人等に対しいずれも無罪の言渡をしているのである。 証拠がなく、かりにその際被告人等に多少の脅迫的言辞があつたとしても当時の諸事情に照せば、通常の団体行動に許される限度を超えたものとなすことはできないとして、被告人等に対しいずれも無罪の言渡をしているのである。そこで、まず右訴因についての事実誤認の有無を検討するに、なるほど会社採鉱係長F外三名が前記 れる限度を超えたものとなすことはできないとして、被告人等に対しいずれも無罪の言渡をしているのである。そこで、まず右訴因についての事実誤認の有無を検討するに、なるほど会社採鉱係長F外三名が前記E新一坑エンドレス捲卸詰付近に来たとき、同人等に対し同所に坐り込んでいた被告人等同盟員がなした前示の言動についての原判決の判示は、やや具体性を欠く憾みなしとしないことまさに所論のとおりであるが、前示のような紛争の渦中において、当時被告人等同盟員二五名は会社側の不当な態度に憤懣の情やる方なくこれに抗議するために前記エンドレス捲卸詰付近に坐込を始めたところ、偶々前記F等が同所に来て退去勧告等を行なつたので、会社に対する憤懣の情から同人に対して前示のよらな不穏当な数々の暴言を浴びせあるいはF等の肩を肘でこづく等の所為に出たものであつて、証拠上も明らかなように、被告人等同盟員のうちにはF等と知合の者も多く、しかも当時の状勢からして、右F等会社職員による退去要求があつた位で簡単に坐り込みが中止される状況でなかつたことは会社側においても容易に判断できたと推測されるので、これに対して殊更に事を起すような行動に出ることは示威行動として拙劣な策であると思惟した被告人Aにおいて同盟員に対し暴力行為に出ることのないように厳に警告していたこと等の諸事情に鑑みれば、若干の押合があつたとしてもさまで険悪な状態であつたとは見られず、運搬司令室から鉱長に電話連絡をして間もなく昇抗しているので、右暴言もF等を脅迫するためのものではなく、むしろ会社の命を受けて退去を求めてきたF等に対しいやがらせをいい乃至はうつ憤をぶちまけたに過ぎないものとも見られ、この点に関する原審証人F、同I、同J、同K等の各証言は些か誇張された点も窺われないではなく、また同盟員のうちのある者がFの肩をこづ いやがらせをいい乃至はうつ憤をぶちまけたに過ぎないものとも見られ、この点に関する原審証人F、同I、同J、同K等の各証言は些か誇張された点も窺われないではなく、また同盟員のうちのある者がFの肩をこづいたことも、それがなにびとによつてなされたものとも確認し得ないし、しかもその程度もさほどひどいものとは認められないこと前示のとおりであるので、右言動は被告人等同盟員とF等との接渉中、当時右同盟員を指揮していた被告人Aの意図に反してなんらかのはずみに右同盟員のうちのなにびとかによつてなされたものというべきであり、さらに前記のような暴言も相手を危険にさらし、畏怖させる意図を含んだ脅迫的言辞とはいまだ受けとれず、単なる嫌がらせの域を出でないものと認めるのが相当であるから、右暴行及び脅迫については被告人等が数人共同してなしたものと解し難いことは勿論、不法な有形力の行使たる暴行といらに価いしないと解され、これ等を以つていまだ暴力行為等処罰に関する法律に所謂多衆の威力を示して暴行及び脅迫がなされたものとはなし難く、同法違反の所為があつたものとなすことはできない。 させる意図を含んだ脅迫的言辞とはいまだ受けとれず、単なる嫌がらせの域を出でないものと認めるのが相当であるから、右暴行及び脅迫については被告人等が数人共同してなしたものと解し難いことは勿論、不法な有形力の行使たる暴行といらに価いしないと解され、これ等を以つていまだ暴力行為等処罰に関する法律に所謂多衆の威力を示して暴行及び脅迫がなされたものとはなし難く、同法違反の所為があつたものとなすことはできない。そして所論援用の各証拠によつても右認定を覆えし得ず、記録を精査しても、右認定を左右することはできない。してみれば、被告人等は暴力行為等処罰に関する法律違反の訴因についてはいずれも犯罪の証明がなく無罪というべきであるから、原判決の前叙のごとき説示の欠陥はこれを問題とするに足りず、検察官のこの点に関する事実誤認の論旨は結局理由がないものといらのほかはない。右控訴趣意第二点(法令の解釈適用の誤)について、よつて、被告人等の前示業務妨害の所為が労働組合法第一条第二項にいうところの正当な争議行為であるか否かについて検討を加えることとする。(一) 先ず論旨のうち会社の退職金不払は違法でないとの所論 よつて、被告人等の前示業務妨害の所為が労働組合法第一条第二項にいうところの正当な争議行為であるか否かについて検討を加えることとする。(一) 先ず論旨のうち会社の退職金不払は違法でないとの所論について考察するに、前記六月一四日の協定によれば、退職金支払について、「退職時総額三、〇〇〇万円を支給し、残額については爾後一一カ月の分割支給とする、右頭金の支給については原則として社宅明渡を条件とするが、各人の就職その他の条件を勘案して個別に協議決定する」となつていた。そして会社はこの協定を根拠として社宅に居住する同盟員等に対してはその支給を拒絶し続けたものである。そして其の後の団交において同盟側から右協定の無効通告をしたのに対し、会社は一応右協定を棚上げして交渉を進めることを諒承したが、遂に交渉は進捗せず、退職金の裏付として会社の計画する第二会社(石炭販売部門)の振出に係る約束手形の振出交付方の要求をも拒否して来たことも窺われる。しかし、元来本件のよらに労働協約あるいは就業規則に基いて支給される会社従業員の退職金は従前の雇傭契約に基礎をおく後払賃金の性質もあるのであつて、労働基準法第二三条第一項前段の規定によれば退職者の請求後七日以内に支払うべきものであり、同法第一三条によつて同法が定める基準に達しない契約は無効とされており、従つてD労組と会社との間に締結された前記六月一四日協定によつて社宅明渡を条件として退職金の一部を支給する旨定められたからとて、その効力は疑問なきを得ない。 支給される会社従業員の退職金は従前の雇傭契約に基礎をおく後払賃金の性質もあるのであつて、労働基準法第二三条第一項前段の規定によれば退職者の請求後七日以内に支払うべきものであり、同法第一三条によつて同法が定める基準に達しない契約は無効とされており、従つてD労組と会社との間に締結された前記六月一四日協定によつて社宅明渡を条件として退職金の一部を支給する旨定められたからとて、その効力は疑問なきを得ない。それでDにおいて、その鉱員就業規則によつて退職後三〇日以内に社宅を明け渡すことが定つていたとしても、退職金の一部さえ支給しないまま社宅の明渡を求めることは不合理であり、前記協定を基礎として同盟員等の退職金債権が未だ履行期に達しておらず、その履行義務の発生は社宅明渡 渡すことが定つていたとしても、退職金の一部さえ支給しないまま社宅の明渡を求めることは不合理であり、前記協定を基礎として同盟員等の退職金債権が未だ履行期に達しておらず、その履行義務の発生は社宅明渡を条件とするものであるとは是認し難く、本件紛争発生の時点において会社の退職金不払を正当とすべき事由は発見することができない(未払賃金の不払についてはなおさらである)。却つて会社としては、企業家としての倫理をわきまえ、前記九月一四日の地労委のあつせんに従つて、退職金の頭金を無条件に支給し、会社の信用を回復したうえで同盟側からの出炭に対する協力を得て企業再建を軌道に乗せる途を選ぶべきてあつたと思料される。それ故右の所論は採用の限りでない。(二) 次に、所論によれば、被告人等の同盟は労働組合法上の組合たる資格を具備しないので、雇傭契約に基づく使用者と従業員との間に存すべき労働関係の存在を前提とする争議行為をなし得ないというにある。<要旨>しかし、会社の従業員が退職に際し、退職前の労働関係に基づいて発生した権利を行使する目的を以つて組織</要旨>した団体は、右目的を達成する限度において労働組合たる資格を保有し、其の範囲内で争議行為をする権利があるものと解すべきである。なぜなら、従業員が解雇された場合には原則として労働関係が終了することとなるが、被解雇者に対する未払賃金、退職金等の支払の問題が解決されていない場合には、従来の労働関係はいまだ完全に清算されたものとはいえないので、従前の労働関係に基因した残された問題が存する限度において依然として労使関係は継統しているものということができるから、その問題の解決を目的とするために被解雇者によつて組織された団体はその範囲内において、労働組合たる地位を享有するものとして使用者に対し団体交渉を要求し、場合によ 対する未払賃金、退職金等の支払の問題が解決されていない場合には、従来の労働関係はいまだ完全に清算されたものとはいえないので、従前の労働関係に基因した残された問題が存する限度において依然として労使関係は継統しているものということができるから、その問題の解決を目的とするために被解雇者によつて組織された団体はその範囲内において、労働組合たる地位を享有するものとして使用者に対し団体交渉を要求し、場合によ 統しているものということができるから、その問題の解決を目的とするために被解雇者によつて組織された団体はその範囲内において、労働組合たる地位を享有するものとして使用者に対し団体交渉を要求し、場合によつてはデモその他の示威行動のほか、争議行為をもすることが許されるものとしなければならない。なるほど、労働組合たる法律上の資格は、所論のように現在又は将来の使用者との間に存し、又は存すべき労働関係を前提とし、その関係における賃金、労働時間その他の労働条件並びに一般雇傭契約上の権利につき労働者に有利な経済的地位、待遇を獲得、維持、増進することを共同の目的として組織された団体にあるのが通常であること言を俟たないけれども、だからといつて従前の労働関係に基づいて発生した賃金、退職金等の支払を請求する権利の行使を目的とするものは、それが賃金その他の労働条件等の改善、向上を図ることを目的とするものでないから、労働組合としての法律上の利益を有しないとする所論には首肯すべき合理性を見出し得ない。けだし、所論のごとく解するとすれば、本件において、使用者側が従前の労働関係に基因する義務を、前示のよろな労働関係を前提とする協約(六月一四日協定)の拘束力を援用して、その履行を拒むことを認めながら、従業員側が同一の労働関係を前提とする義務の履行を要求してなす団体行動の権利を排斥することに帰着し、明らかに条理に反し、余りに公平を失するからである。もとより、労組の争議行為は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行を以て本則とするが、それは通常の争議行為についていえることであつて、一応労働関係が終了した退職者の団体のごとく、特異な労働関係にあるものにあつては、自らその態様は限定され、同盟罷業等の争議行為はあり得ないけれども、従前の労働関係に基因する労働者としての上述 つて、一応労働関係が終了した退職者の団体のごとく、特異な労働関係にあるものにあつては、自らその態様は限定され、同盟罷業等の争議行為はあり得ないけれども、従前の労働関係に基因する労働者としての上述のごとき権利を追求する目的をもつてする限り、その許された争議行為があることは是認せざるを得ないのである。 態様は限定され、同盟罷業等の争議行為はあり得ないけれども、従前の労働関係に基因する労働者としての上述 つて、一応労働関係が終了した退職者の団体のごとく、特異な労働関係にあるものにあつては、自らその態様は限定され、同盟罷業等の争議行為はあり得ないけれども、従前の労働関係に基因する労働者としての上述のごとき権利を追求する目的をもつてする限り、その許された争議行為があることは是認せざるを得ないのである。すなわち、労働関係調整法第七条の規定によつても明らかなように、争議行為には労働者がその主張を貫徹することを目的として行うところの使用者の業務の正常な運営を阻害する一切の行為が含まれるのであつて、使用者がその経済的優位を利用して労働者を圧迫することに対して、その経済的利益の擁護のために対抗手段を講ずることは許されるものと解すべきであり、所論のように現在の労働関係が存在しないこと、また労務供給義務の不履行以外には争議行為はあり得ないことを根拠として前記のような特異な争議行為があることを否定する見解には賛同し難い。(三) さらに所論は、仮に本件被告人等の同盟に労組に準じた団体行動をすることが許されるとしても、本件のような坐込行為は単なる示威行為として許容し得るものでなく、また正当な争議行為の範囲も逸脱するものであり、それが退職金の支給を請求することを目的としたものであつて、その目的が正当なものであつたとしても、その行為自体は正当化されないというにある。ところで、前段で説示したよらな経緯で、団交は進捗せず、退職金の頭金すら即時支給を受ける望みを断たれた同盟側としては、あくまで退職金支払請求の権利を行使する必要上前に説示したとおり一種の職場占拠たる徹底抗議の手段に出たものであるから、それが賃上げ或は解雇撤回などの事項を目的とする通常の労働争議と異なり、使用者側の従前の契約上の義務の不履行を原因とするものであるからとか、またそれによつて会社の生産 議の手段に出たものであるから、それが賃上げ或は解雇撤回などの事項を目的とする通常の労働争議と異なり、使用者側の従前の契約上の義務の不履行を原因とするものであるからとか、またそれによつて会社の生産阻害の結果を生じたからといつて、直ちに争議行為として逸脱したものと断ずることはできないのである。それで原判決が、本件の坐込行為自体はその団体行動として許された一種の争議行為たる性質をもつとの趣旨を説示した範囲においては、あながち誤つた見解とはいえない。 解雇撤回などの事項を目的とする通常の労働争議と異なり、使用者側の従前の契約上の義務の不履行を原因とするものであるからとか、またそれによつて会社の生産阻害の結果を生じたからといつて、直ちに争議行為として逸脱したものと断ずることはできないのである。それで原判決が、本件の坐込行為自体はその団体行動として許された一種の争議行為たる性質をもつとの趣旨を説示した範囲においては、あながち誤つた見解とはいえない。しかしながら、争議権も無制限な行使が許されるものではなく、労組法第一条第一項に規定する目的を達成するためにした正当なものでなければならないことは多言を要しないところである。そしてその正当性の判断はその行為の場所、並びに手段、方法が全法律秩序の観点からして不法なものでなく、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するものであつてはならないのであつて、この範囲を超えたものである限り、仮令その目的は正当なものであつても、これを許容することはできないのである。これを本件についてみるに、被告人等の本件行為は、前述のように会社の不当な退職金支払義務の不履行に対抗してその支払を迫る団体の主張を貫徹することを目的とした団体行動であり、且つ会社側も社宅明渡後その敷地、建物を売却して再建の資を得る必要に迫られていたとはいえ、会社から退職して困窮の状態に追い込まれ、団交の途も絶えたために敢行されたものであることは証拠上これを窺うに足りるけれども、前に説示したところから明らかなようにそれは単なる一時的な坐込による示威行動ではなく、狭い坑底に二五名の同盟員が坐り込み、会社側から退去要求に来た職員に対して種々いやがらせの言動によつてその要求を拒否して坐込を続けたらえに、矢弦にクリップチエンを巻きつけ、鉄材を差し込み、エン なく、狭い坑底に二五名の同盟員が坐り込み、会社側から退去要求に来た職員に対して種々いやがらせの言動によつてその要求を拒否して坐込を続けたらえに、矢弦にクリップチエンを巻きつけ、鉄材を差し込み、エンドレス・ロープにクリップチエンを巻きつける等積極的な工作を施していることが明らかである。そして当時会社側としては労組の協力を得て生産再開を企図し、当日も多数従業員が作業位置について操業できるよら待機しており、水平坑道及びポケットには石炭を積んだ炭車があり、指示あり次第坑外に運び出される状態にあつたことも窺われる。 要求を拒否して坐込を続けたらえに、矢弦にクリップチエンを巻きつけ、鉄材を差し込み、エンドレス・ロープにクリップチエンを巻きつける等積極的な工作を施していることが明らかである。そして当時会社側としては労組の協力を得て生産再開を企図し、当日も多数従業員が作業位置について操業できるよら待機しており、水平坑道及びポケットには石炭を積んだ炭車があり、指示あり次第坑外に運び出される状態にあつたことも窺われる。しかも、右のごとき矢弦に対する工作は、それが破壊、損傷を伴わず、原状回復を困難にする状態ではないとしても、仮に捲揚機を運転すれば、坐り込んだ同盟員等の生命の安全に対する危険があるばかりでなく、如何なる損傷、事故を惹起するやも保し難い状態であつたのである。また会社の坑内交通の幹線である右矢弦に連なる新一坑四〇〇馬力エンドレス捲揚機の運転を中止させるべく採られた手段であるのみか、単なる一時的なものではなく、相当期間継統して会社に捲揚機の運転を断念させる意図を以て行なわれた(現に一〇月二二日午後一〇時迄継統されている)ものである。してみれば、同盟員等の右坐込の継統は、その懐中電灯の持ち込み其の他により生ずる坑内保安上の問題は別としても、長時間に亘る捲揚機の運転休止が出炭機能を痲痺させ、会社の生産を著しく阻害し、ひいて会社の業務を妨害することは甚大であり、その損害は、同盟員等の退職金受領の遅延による損害に比すべきものでないことが推測される。のみならず、同盟側にも、なお合法的な解決に努力する余地が残されていなかつたとは即断し難く、会社側の社宅入替による解決方法についてもさらに検討し、あるいは裁判所に対する緊急救済措置の申請手段に出る等の方途 らず、同盟側にも、なお合法的な解決に努力する余地が残されていなかつたとは即断し難く、会社側の社宅入替による解決方法についてもさらに検討し、あるいは裁判所に対する緊急救済措置の申請手段に出る等の方途もなかつたわけではないから、合法的な争議行為によつて、会社側の反省を促すに止め、決定的な業務妨害の手段に訴えることは避けるべきであつたとの非難を免れない。果して然らば、仮令被告人等の本件所為が労働組合法上認められた団体行動乃至争議行為としての目的に出たものであつても、その手段方法は社会通念上許容された相当性の限界を超えたものであり、これを正当な示威行為といえないことは勿論、正当な争議行為とも認め得ないので、威力を用いて会社の業務を妨害したものと解すべく、刑法第二三四条所定の構成要件を充足し、同罪の成立を否定することはできない。 たとの非難を免れない。果して然らば、仮令被告人等の本件所為が労働組合法上認められた団体行動乃至争議行為としての目的に出たものであつても、その手段方法は社会通念上許容された相当性の限界を超えたものであり、これを正当な示威行為といえないことは勿論、正当な争議行為とも認め得ないので、威力を用いて会社の業務を妨害したものと解すべく、刑法第二三四条所定の構成要件を充足し、同罪の成立を否定することはできない。それ故、原審が本件所為は労働組合法第一条第二項により刑法第三五条の適用がある場合に該当し、威力業務妨害罪を構成しないものと判断したことは法令の解釈適用を誤つたものというのほかはなく、弁護人の答弁書中の所論は採用し難い。そして右の誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は結局理由がある。そこで刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従いさらに判決をすることとする。(罪となるべき事実)被告人Aは同盟の副委員長、被告人B、同Cはいずれも同盟員なるところ、被告人等は他の同盟員とともに会社に対し退職金等の支払方を要求して昭和三七年九月五日から福岡県中間市大字ab番地会社E捲場付近に坐り込んだが、地方委のあつせん開始により同月八日から同月一九日まで右坐込を一時解除したものの、右あつせん不調により同月二〇日から再び前記捲場付近に坐 五日から福岡県中間市大字ab番地会社E捲場付近に坐り込んだが、地方委のあつせん開始により同月八日から同月一九日まで右坐込を一時解除したものの、右あつせん不調により同月二〇日から再び前記捲場付近に坐込を行なつた。ところが会社側が同年一〇月一三日午前一〇時頃右坐込を排除すべく仮処分の執行に着手しようとしたため、被告人等は右捲揚付近を退去するのやむなきに至つたので、右仮処分の執行着手に先立ち他の同盟員二二名と共謀のうえ、前記E新一坑内に立ち入り、同日午前一〇時五〇分頃同坑エンドレス捲卸詰に到り、同所の終点矢弦にクリップチエンを巻きつけ鉄材を差し込む等して同矢弦の上や付近に坐り込み、さらに同日午後四時頃会社採鉱係長F外三名が同所に来て会社において操業を再開しエンドレスを捲く旨を告げて退去を要求するや、同人等を取り囲み、口々に「捲けるものなら捲いてみろ」「お前達を矢弦にくくりつけて運転してやる」「後でお礼に行くぞ」「誰の命令で来たか」「俺達はいつ死んでもよいからお前達もここにおれ」等と申し向け、あるいはF等の肩をこづくなどして同人等の退去の勧告に応ぜず、以つて威力を用いて同月二二日午後一〇時頃に至るまでの間同坑四〇〇馬力エンドレス捲機の運転を不能ならしめて会社のEにおける出炭業務を妨害したものである。 を取り囲み、口々に「捲けるものなら捲いてみろ」「お前達を矢弦にくくりつけて運転してやる」「後でお礼に行くぞ」「誰の命令で来たか」「俺達はいつ死んでもよいからお前達もここにおれ」等と申し向け、あるいはF等の肩をこづくなどして同人等の退去の勧告に応ぜず、以つて威力を用いて同月二二日午後一〇時頃に至るまでの間同坑四〇〇馬力エンドレス捲機の運転を不能ならしめて会社のEにおける出炭業務を妨害したものである。(証拠の標目)一原審における検証調書一原審公判調書中、証人F、同L、同I、同M、同J、同K、同Nの各供述記載一原審公判調書中被告人Aの供述記載一被告人Cの検察官に対する昭和三七年一一月一六日付供述調書一 I、O、Fの検察官に対する各供述調書一当審証人Fの供述(法令の適用)被告人等の判示所為はいずれも刑法第二三四条、第二三三条、罰金等臨時措置法第三条に該当するところ、被告人Bは昭和三八年一月一七日折尾簡易裁判 する各供述調書一当審証人Fの供述(法令の適用)被告人等の判示所為はいずれも刑法第二三四条、第二三三条、罰金等臨時措置法第三条に該当するところ、被告人Bは昭和三八年一月一七日折尾簡易裁判所において暴行、傷害罪により罰金八、〇〇〇円に処せられ、右裁判は昭和四一年一月二七日に確定したことが記録上明らかであり、同被告人の判示罪と右確定裁判を経た罪とは刑法第四五条後段の併合罪の関係にあるので同法第五〇条によりいまだ裁判を経ていない判示罪についてさらに処断することとし、いずれも所定刑中懲役刑を選択して被告人Aを懲役三月に、被告人B、同Cを各懲役二月に処し、情状により同法第二五条第一項を適用して右被告人等に対しいずれも本裁判確定の日から一年間右各刑の執行を猶予し、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書に従い被告人等をして負担させないこととする。なお本件公訴事実中、被告人等がF外三名に対し多衆の威力を示して暴行脅迫を加えたとの点については、既に説示のとおり犯罪の証明がないので、刑事訴訟法第四〇四条、第三三六条により無罪となすべきものであるが、右は被告人等の前示威力業務妨害の罪と一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、主文において無罪の言渡をしない。よつて主文のとおり判決する。(裁判長裁判官岡林次郎裁判官山本茂裁判官生田謙二)
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