主文 1 三鷹労働基準監督署長が原告に対して平成16年10月7日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求の趣旨主文と同旨第2 事案の概要等本件は,株式会社P1(以下「本件会社」という。)に雇用されていたP2の妻である原告が,三鷹労働基準監督署長(処分行政庁)に対して,P2が精神障害を発病して自殺したのは過重な業務に従事したことに起因するものであると主張して,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ,平成16年10月7日付けでこれをいずれも支給しない旨の処分(以下「本件各処分」という。)を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがない事実,各所に記載した証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認めることができる事実)(1) 当事者等ア P2の経歴等(乙1の73ないし75頁,乙6,16)P2(昭和▲年▲月▲日生)は,大学卒業後,平成11年4月1日に本件会社に正社員として入社し,α店鮮魚部において勤務し,平成12年10月1日付けでサブチーフに就任し,平成14年7月1日付けでⅤ等級の資格に昇格し,平成15年3月16日付けでβ店に異動して鮮魚部サブチーフとして勤務し,同年6月1日付けでγ店に異動すると同時にチーフに就任し,死亡時まで,同店において鮮魚部チーフとして勤務していた。 P2は,平成▲年▲月▲日午前5時30分ころ,東京都調布市<以下略>前路上に駐車したP2所有の普通乗用自動車運転席にお に就任し,死亡時まで,同店において鮮魚部チーフとして勤務していた。 P2は,平成▲年▲月▲日午前5時30分ころ,東京都調布市<以下略>前路上に駐車したP2所有の普通乗用自動車運転席において,刃渡り40センチメートルの柳刃包丁で自己の左胸部を刺し,切刺傷による出血性ショックにより死亡した(死亡時27歳)。 イ P2の家族関係等(乙12,16)P2は,死亡時まで,東京都調布市δにおいて,妻である原告,原告との間の長男,実母P3,祖母P4,実姉P5,その夫及び実姉とその夫の間の長女と同居していた。 ウ本件会社の目的及び規模等(乙1の83頁,乙23)本件会社は,東京都立川市に本社を置き,スーパーマーケットチェーン「P1」を中心とした生鮮食品・一般食品・家庭用品・衣料品等の小売業等を目的とする資本金89億8100万円(平成15年3月時点)の株式会社であり,平成16年3月31日現在で,1都5県に合計127店舗を有し,従業員数は,正社員1906名,パート・アルバイト4652名である。 エ社員の身分及び等級・資格等(乙20)本件会社の社員の身分の種類は,①管理者(MⅣ・MⅢ・MⅡ・MⅠ等級),②役付者(Ⅶ等級),③専任職者(Ⅳ・Ⅲ・Ⅱ・Ⅰ等級),④一般社員(Ⅵ・Ⅴ・Ⅳ・Ⅲ等級)とされ(就業規則5条),本件会社の社員の等級にはⅠ等級からMⅣ等級までの11等級があり,一般社員の新卒採用者の初任資格は,高校卒業者がⅢ等級1号,短大卒業者がⅢ等級11号,大学卒業者がⅣ等級1号である(職能等級資格制度規程4条,9条)。 原告は,一般社員の大学卒業者に当たる。 (2) 本件訴訟に至る経緯原告は,三鷹労働基準監督署長(処分行政庁)に対して,平成16年2月25日付けで,P2の死亡は本件会社において過重な業務に従事したこと 一般社員の大学卒業者に当たる。 (2) 本件訴訟に至る経緯原告は,三鷹労働基準監督署長(処分行政庁)に対して,平成16年2月25日付けで,P2の死亡は本件会社において過重な業務に従事したことに 起因するものであるとして,労災保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料の給付を請求したが,同監督署長は,同年10月7日付けでこれらをいずれも支給しない旨の本件各処分をした(乙1の43ないし47頁)。 そこで,原告は,本件各処分を不服として,労働者災害補償保険審査官に対し,同年11月15日付けで審査請求をしたが,同審査官は,平成17年10月11日付けでこれを棄却する旨の決定をした(乙1の223,224頁,乙10)。 これに対し,原告は,上記棄却決定を不服として,労働保険審査会に対し,平成17年10月20日付けで再審査請求をしたが,同審査会は,平成19年7月30日付けでこれを棄却する旨の裁決をし,そのころ,原告に交付した(乙1の1頁,乙11)。 (3) 行政通達による判断指針厚生労働省(中央省庁等改革基本法等の実施に伴う厚生労働省設置法施行以前においては労働省をいう。以下同じ。)では,精神障害の業務起因性に関する判断基準について,平成9年12月に,精神医学,心理学及び法学の専門家によって構成された「精神障害等の労災認定に係る専門検討会」(以下「専門検討会」という。)を設置し,同検討会が平成11年7月に取りまとめた「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」(乙3)を踏まえて,同年9月14日付けで,厚生労働省労働基準局長通達である「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(基発第544号。 乙2。以下「判断指針」という。)を各都道府県労働基準局長あてに発出した。 その後,厚生労働省は,労働環境の急激な変 理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(基発第544号。 乙2。以下「判断指針」という。)を各都道府県労働基準局長あてに発出した。 その後,厚生労働省は,労働環境の急激な変化等により,業務の集中化による心理的負荷,職場でのひどいいじめによる心理的負荷など,新たな心理的負荷が生ずる出来事が認識されてきたことを受け,「職場における心理的負荷評価表の見直し等に関する検討会」を設け,同検討会における検討結果 を踏まえて,判断指針の評価表等を改正し,平成21年4月6日付けで,厚生労働省労働基準局長通達(基発第0406001号)を各都道府県労働局長あてに発出した(乙24。以下「改正判断指針」という。)。 判断指針・改正判断指針は,心理的負荷による精神障害等の発病が業務上によるものと認定されるための具体的条件を定めたものであるところ,その概要は,別紙1のとおりである。 2 争点P2の精神障害の発病及び死亡が業務に起因するものと認められるか否か。 3 争点に関する当事者の主張の要旨【原告の主張】(1) 業務起因性に関する法的判断の枠組み業務起因性を判断するに当たっては,判断指針・改正判断指針を参考にしつつも,被災者について生じた事実経過に即して具体的に心理的負荷の強さを判断すべきである。 すなわち,心理的負荷を伴う出来事は,発病前少なくとも1年間について検討すべきであり,本件では,平成15年3月のβ店への異動も出来事として考慮すべきである。また,発病後の事情も発病した精神障害を増悪させるものとして検討すべきであり,本件では,同年10月2日に上司らが辞職を願い出たP2を長時間職場に拘束して慰留したことも考慮すべきである。そして,心理的負荷の強度の評価は,同種労働者の中でその性格傾向が最 として検討すべきであり,本件では,同年10月2日に上司らが辞職を願い出たP2を長時間職場に拘束して慰留したことも考慮すべきである。そして,心理的負荷の強度の評価は,同種労働者の中でその性格傾向が最もぜい弱な者を基準とすべきである。 (2) P2の精神障害の発病P2は,遅くとも平成15年9月末ころまでに,うつ病と推定される精神障害を発病していたというべきである。 (3) P2が業務により受けた心理的負荷の強度ア P2の労働時間 P2の時間外労働時間は,別紙2「労働時間集計表」のとおりであるところ,以下(ア)ないし(カ)記載の各日時・店舗における労働時間中には,タイムカードに記録されていない日の労働及びタイムカードに記録された時間を超える労働(以下,便宜上,「タイムカード外労働」ということがある。)があるため,タイムカードに基づく労働時間の算定を以下(ア)ないし(カ)記載の内容のとおり修正すべきである(なお,タイムカード外労働の根拠とされる資料は,P2作成にかかる手帳〔以下,単に「手帳」ともいう。〕,P2の実母であるP3の日記,P2の家族の記憶,P2の死亡直後に家族が本件会社関係者から聴取した内容,P2が使用していた携帯電話の料金明細内訳書〔以下「通話記録」という。〕,P2が使用していた姉名義のガソリンスタンドのポイントカードの利用記録〔以下「給油記録」という。〕等であり,いずれも信用性が高いというべきである。)。 (ア) 平成15年3月16日から同年5月31日 β店同店においては,毎日午後7時を過ぎると店長からタイムカードを打刻するように指示されるため,P2ら従業員は,毎日約2時間のサービス残業を強いられていた。 P3の日記の記載によれば,3月21日は,8時間のタイムカード外労働があったと考えら らタイムカードを打刻するように指示されるため,P2ら従業員は,毎日約2時間のサービス残業を強いられていた。 P3の日記の記載によれば,3月21日は,8時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 4月20日は,α店における歓送迎会を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 給油記録によれば,5月14日は,午後11時5分まで業務に従事していたと考えられる。 (イ) 平成15年6月 γ店2日手帳及びP3の日記の記載並びに当時のサブチーフであるP6(以下「P6サブチーフ」という。)の供述によれば,14時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 3,7,8,10,15,17,20日P3の日記の記載には,P2が特別に早く帰宅した旨の記載がないため,平均2時間程度のタイムカード外労働があったと考えられる。 5日元同僚であるP7との通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 6日 P3の日記の記載によれば,3時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 9日店舗に飾る写真の撮撮時間を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 11日歓送迎会を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 12日 P3の日記の記載及び当時のP2の業務状況によれば,2時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 13日手帳の記載によれば,1時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 14日 P3の日記の記載によれば,3時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 22日手帳の記載及び当時のP2の業務状況によれば,2時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 23日 P3の日記の記載によれば,12時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 24日手帳の 帳の記載及び当時のP2の業務状況によれば,2時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 23日 P3の日記の記載によれば,12時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 24日手帳の記載によれば,1時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 25日 P7との通話状況によれば,2時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 26日 P3の日記の記載によれば,2時間15分のタイムカード外労 働があったと考えられる。 27日手帳及びP3の日記の記載並びに当時のP2の業務状況によれば,会議及び作業のため12時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 28日手帳によれば,2時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 30日手帳及びP3の日記の記載によれば,棚卸し業務等のため4時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 (ウ) 平成15年7月 γ店2日手帳及びP3の日記の記載によれば,40分のタイムカード外労働があったと考えられる。 5日 P3の日記には特別に早く帰宅した旨の記載がないため,2時間程度のタイムカード外労働があったと考えられる。 7日 P3の日記の記載及び家族の記憶によれば,12時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 9,10,23日P7との通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 11日手帳及びP3の日記の記載並びに当時の業務状況によれば,11時間10分のタイムカード外労働があったと考えられる。 12,13日手帳及びP3の日記には特別に早く帰宅した旨の記載がないため,平均2時間程度のタイムカード外労働があったと考えられる。 17日家族の記憶によれば,11時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 には特別に早く帰宅した旨の記載がないため,平均2時間程度のタイムカード外労働があったと考えられる。 17日家族の記憶によれば,11時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 20日家族の記憶によれば,2時間のタイムカード外労働があったと 考えられる。 21日手帳及びP3の日記の記載によれば,14時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 27日手帳の記載によれば,2時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 30日手帳の記載によれば,3時間30分のタイムカード外労働があったと考えられるほか,P7との通話1時間を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 31日 P3の日記の記載によれば,棚卸し業務等のため1時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 (エ) 平成15年8月 γ店6,20,21,27日P7との通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 9日手帳及びP3の日記の記載によれば,10時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 13日家族の記憶によれば,13時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。P7との通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 16,17日P3の日記には特別に早く帰宅した旨の記載がないため,平均2時間程度のタイムカード外労働があったと考えられる。 22日手帳の記載及び家族の記憶によれば,3時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 28日手帳の記載及び家族の記憶によれば,10時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 (オ) 平成15年9月 γ店 7日P3の日記の記載,家族の記憶及び当時のP2の業務状況によれば,帰宅後1時間のタイムカード外労働があったと考え カード外労働があったと考えられる。 (オ) 平成15年9月 γ店 7日P3の日記の記載,家族の記憶及び当時のP2の業務状況によれば,帰宅後1時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 8日手帳及びP3の日記の記載によれば,10時間20分のタイムカード外労働があったと考えられる。 9日サブチーフのP8(以下「P8サブチーフ」という。)との通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 10,11日家族の記憶によれば,2時間自宅でタイムカード外労働に従事したと考えられる。 12日手帳の記載によれば,12時間11分のタイムカード外労働があったと考えられる。 13日 P7との通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 14日家族の記憶によれば,8時間自宅でタイムカード外労働に従事したと考えられる。 15日 P7との通話状況によれば,2時間55分のタイムカード外労働があったと考えられる。 16日手帳の記載及び家族の記憶によれば,7時間39分のタイムカード外労働があったと考えられる。 17日 「P9」との通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 18日手帳の記載及び家族の記憶によれば,9時間30分のタイムカード外労働があったと考えられる。 19日 「ε店」との通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 20日手帳の記載,通話記録,家族の記憶及び当時のP2の業務状況 によれば,10時間15分のタイムカード外労働があったと考えられる。 22日手帳の記載,P8サブチーフとの通話状況及び家族の記憶によれば,1時間16分のタイムカード外労働があったと考えられる。 23日手帳の記載及び当時のP2の業務の状況によれば,1時間41分のタイムカード外労働があったと ーフとの通話状況及び家族の記憶によれば,1時間16分のタイムカード外労働があったと考えられる。 23日手帳の記載及び当時のP2の業務の状況によれば,1時間41分のタイムカード外労働があったと考えられる。 24日手帳の記載によれば,研修後2時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 25日手帳の記載によれば,6時間のタイムカード外労働があったと考えられる。 26日トレーナーのP10(以下「P10トレーナー」という。)との通話状況及び手帳の記載によれば,2時間10分のタイムカード外労働があったと考えられる。 27日 P10トレーナーとの通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 29日通話記録及び給油記録によれば,47分のタイムカード外労働があったと考えられる。 30日 P8サブチーフとの通話を業務とみなして労働時間を算定すべきである。 (カ) 平成15年10月 γ店1日通話状況によれば,1時間20分のタイムカード外労働があったと考えられる。 2日通話状況によれば,1時間24分のタイムカード外労働があったと考えられる。 (キ) 以上により,P2の1か月当たりの時間外労働時間は,発病前7か 月目(平成15年3月)が104時間52分,発病前6か月目(平成15年4月)が118時間31分,発病前5か月目(同年5月)が130時間33分,発病前4か月目(同年6月)が156時間11分,発病前3か月目(同年7月)が153時間35分,発病前2か月目(同年8月)が109時間56分,発病前1か月目(同年9月)が91時間58分となる。 このように,P2の時間外労働時間は,改正判断指針によっても,業務と発病との関連性が強いと評価される80時間を優に超えており,P2の業務は,長時間の過重労働であったと評 91時間58分となる。 このように,P2の時間外労働時間は,改正判断指針によっても,業務と発病との関連性が強いと評価される80時間を優に超えており,P2の業務は,長時間の過重労働であったと評価される。 (ク) 特に,γ店の新装開店の直前・直後には,生理的に必要な最小限度の睡眠時間すら確保できないほどの長時間労働に従事し,心身の極度の疲弊,消耗を来しており,それ自体が精神障害の発病原因となるおそれのある程度の過重労働であるといえる。 イ P2の業務の質的過重性(ア) β店においては,従業員がタイムカードを打刻した後も引き続き勤務するいわゆるサービス残業が常態化していた。また,P2の通勤時間は,前任地と比較して著しく長くなった。 (イ) γ店は,かつては高収益店であったが,相次ぐ競争店の出店等により,営業収益が落ち込んでいた。そこで,本件会社は,γ店に巨額の設備投資をして新装開店することにより,同店を地域一番店にしようと計画していた。また,本件会社は,γ店の新装開店に当たって,「新装開店後の計画日商131パーセント増」や「鮮魚強化」を目標として掲げるとともに,鮮魚売場を顧客から作業場の見える「シースルー方式」に改装・拡大するなどしており,鮮魚部門をγ店の業績を左右する重要な部門として位置付けていた。 P2は,平成15年6月,突然,新装開店を4か月後に控えたγ店に 異動すると同時に,P2の職務等級(Ⅴ等級)としては異例の抜てきとなるチーフに就任し,売上増の期待が大きい鮮魚部門の責任者として,設備投資に見合う業績回復の期待を集中的に背負い,部門全体に気を配りつつ,売上ノルマに責任を持たなければならないという重圧を負うに至った。 このような困難な新装開店の準備業務において,P2の仕事量は質的にも増大した上,常時行 集中的に背負い,部門全体に気を配りつつ,売上ノルマに責任を持たなければならないという重圧を負うに至った。 このような困難な新装開店の準備業務において,P2の仕事量は質的にも増大した上,常時行動を共にすることを期待されるトレーナーもおらず,本件会社からの支援は不十分であった。 ウ P2の業務による心理的負荷の強度(ア) P2は,平成15年3月16日付けでβ店に異動し,同年6月1日付けでγ店に異動しており,その都度,「配置転換があった」(心理的負荷強度「Ⅱ」)こと及び「仕事内容・仕事量の大きな変化があった」(心理的負荷強度「Ⅱ」)ことに遭遇したといえる。 そして,β店においては,サービス残業が常態化し,通勤時間も長くなったこと,γ店への異動は,先の異動からわずか2か月半後の突然のものであった上,P2の職務等級としては異例のチーフ就任を伴うものであり,多忙な通常業務に加えて神経を使う部下の管理業務等も担当しなければならなくなったことなどを考慮すれば,その業務の質的・量的変化はいずれも著しく大きいものであったといえる。 また,初めてチーフに就任したP2が,新装開店を控えたγ店において売上増の重圧が大きい鮮魚部門の責任者になったことは,「新規事業の担当になった,会社の建て直しの担当者になった」又は「達成困難なノルマを課された」(心理的負荷強度「Ⅱ」)に該当する。 さらに,P2は,発病前6か月間において,月平均100時間を超える時間外労働に従事しており,「勤務・拘束時間が長時間化」していた(心理的負荷強度「Ⅱ」)といえる。 これらの出来事の心理的負荷の程度は,いずれも著しく大きいものであり,かつ,複数重なっていることからすれば,心理的負荷の強度は「Ⅲ」に修正すべきである。 さらに,仕事量が著しく増加したこと, これらの出来事の心理的負荷の程度は,いずれも著しく大きいものであり,かつ,複数重なっていることからすれば,心理的負荷の強度は「Ⅲ」に修正すべきである。 さらに,仕事量が著しく増加したこと,職場からの支援が不十分であったことなどを併せ考慮すれば,その心理的負荷は「相当程度過重」又は「特に過重」に当たるというべきである。 (イ) γ店の新装開店の直前・直後におけるP2の生活状況は,「生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働により,心身の極度の疲弊,消耗を来し,それ自体がうつ病の発病原因となるおそれのある」ものであり,心理的負荷強度の総合評価を「強」とすべきものであるといえる。 (ウ) P2が精神障害を発病した後,上司らは,P2の様子がおかしいことを認識していたにもかかわらず,退職を願い出たP2を3時間余りも拘束して慰留した。このことも,発病した精神障害を増悪させる相当強い心理的負荷をもたらした出来事として考慮すべきである。 (4) P2には,業務以外の心理的負荷,個体側要因は存在しない。 (5) 以上のとおり,判断指針・改正判断指針によったとしても,P2の業務による心理的負荷の強度は「強」と評価されるべきであり,業務起因性が優に認められるから,本件各処分は違法であり,取り消されるべきである。 【被告の主張】(1) 業務起因性に関する法的判断の枠組みア業務起因性が認められるためには,当該業務と当該疾病等との間に条件関係に加えて相当因果関係が存在することが必要である。 業務と精神障害との間の条件関係を肯定するためには,業務上の一定以上の大きさを伴う客観的に意味のあるストレスが精神障害の発病に寄与しており,当該ストレスがなければ精神障害は発病していなかったとの関係 が高度の蓋然性をもっ 肯定するためには,業務上の一定以上の大きさを伴う客観的に意味のあるストレスが精神障害の発病に寄与しており,当該ストレスがなければ精神障害は発病していなかったとの関係 が高度の蓋然性をもって認められる必要がある。 そして,業務と精神障害との間の相当因果関係を肯定するためには,当該業務に危険が内在していると認められ(危険性の要件),さらに,精神障害が当該業務に内在する危険の現実化として発病したと認められること(現実化の要件)が必要である。 イ危険性の要件・現実化の要件の判断においては,①日常業務を支障なく遂行できる労働者を基準とし(平均的労働者説),業務によるストレスが客観的に精神障害を発病させるに足りる程度の負荷であると認められること,②当該業務による危険性が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって当該精神障害を発病させたと認められることが必要である。 (2) P2の精神障害の発病P2は,遅くとも平成15年9月末ころまでに,ICD-10のF3に分類される「気分障害」又はうつ病を発病していたと推認される。 (3) P2の業務による心理的負荷の強度ア労働時間(ア) P2の時間外労働時間は,原則として,タイムカードに記録された時刻に基づいて算定すべきである。 (イ) ただし,以下のとおりの修正を行う。 a 平成15年6月27日手帳の記載に基づき,8時間のタイムカード外労働時間を算定する。 30日本件会社の人事課長のP11(以下「P11人事課長」という。)の東京労働局労災補償課地方労災補償訟務官に対する供述(乙15,18。以下「P11人事課長の供述」という。)に基づき,1時間のタイムカード外労働時間を算定する。 b 平成15年7月7日 P11人事課長の供述に基づ 償訟務官に対する供述(乙15,18。以下「P11人事課長の供述」という。)に基づき,1時間のタイムカード外労働時間を算定する。 b 平成15年7月7日 P11人事課長の供述に基づき,1時間30分のタイムカード外労働時間を算定する。 11日手帳の記載に基づき,8時間のタイムカード外労働時間を算定する。 c 平成15年8月13日 P11人事課長の供述に基づき,2時間のタイムカード外労働時間を算定する。 22日算入漏れの8時間の労働時間を算定する。 d 平成15年9月12日算入漏れの8時間の労働時間を算定する。 18日,25日手帳の記載及びP11人事課長の供述に基づき,各4時間のタイムカード外労働時間を算定する。 (ウ) 以上のとおり,P2の時間外労働時間は,別紙3「労働時間集計表」のとおりであり,精神障害発病前6か月間における1か月当たりの時間外労働時間は,発病前6か月目(平成15年4月)が76時間31分,発病前5か月目(同年5月)が82時間33分,発病前4か月目(同年6月)が94時間42分,発病前3か月目(同年7月)が90時間45分,発病前2か月目(同年8月)が71時間26分,発病前1か月目(同年9月)が30時間3分である。 このように,P2の時間外労働は,γ店の新装開店準備期間の平成15年6,7月においては1か月当たり80時間を超えているものの,その間,他の従業員も同程度の時間外労働に従事しており,事前に十分予測された範囲内での時間外労働であったというべきであるから,客観的に見て,P2にのみ,強度の心理的負荷があったとはいい難い。 (エ) なお,原告が労働時間算定の根拠とするP3の日記の記載等は,P2の労働時間を直接裏付けるものではなく,P2の帰宅の遅延や外出の有無を裏付ける 度の心理的負荷があったとはいい難い。 (エ) なお,原告が労働時間算定の根拠とするP3の日記の記載等は,P2の労働時間を直接裏付けるものではなく,P2の帰宅の遅延や外出の有無を裏付ける程度のものにすぎないから,その記載等からP2の労働時間を直ちに認めることはできない。 イ P2の業務による心理的負荷の強度P2の精神障害発病のおおむね6か月前の出来事についての検討は,以下のとおりである。 (ア) 平成15年3月のβ店への異動は,「転勤をした」(判断指針・改正判断指針。心理的負荷の強度「Ⅱ」)に当たり得るが,職種・職務の変化や転居又は単身赴任を伴うものではないこと,いわゆるサービス残業が常態化していた事実も認められないこと,同年4月及び5月の平均時間外労働時間も月80時間を超えないものであることを考慮すれば,その心理的負荷の強度は「Ⅰ」に修正されるべきである。 (イ) 同年6月のγ店へのチーフ就任を伴う異動は,判断指針・改正判断指針別表1の「役割・地位等の変化」のうち,「転勤をした」(判断指針・改正判断指針。心理的負荷の強度「Ⅱ」),「自分の昇格・昇進があった」(改正判断指針。心理的負荷の強度「Ⅰ」)に該当する。 そして,本件会社の人事異動は不定期に行われており,同期入社の従業員らに比べても,P2の異動が特別短期間で突然の異動であったとはいえないこと,チーフ就任はP2自身が希望していたものであること,チーフの業務内容や繁忙さは通常予想される範囲内のものにとどまり,時間外労働時間が90時間を超えたのも同月と同年7月の2か月間のみであって,同年8月以降の時間外労働時間は大幅に減少していることなどからすれば,心理的負荷の強度を修正すべき特段の事情があったとはいえない。 (ウ) γ店の新装開店準備業務は,判断指針・改正 のみであって,同年8月以降の時間外労働時間は大幅に減少していることなどからすれば,心理的負荷の強度を修正すべき特段の事情があったとはいえない。 (ウ) γ店の新装開店準備業務は,判断指針・改正判断指針別表1の「仕 事の失敗,過重な責任の発生等」のうち,「新規事業の担当になった,会社の建て直しの担当になった」(心理的負荷の強度「Ⅱ」)に該当するものの,γ店が特に業績の悪い店舗であるということはなく,また,γ店の新装開店事業は,本件会社グループ内で予定されていた複数の新装開店事業のうちの一つにすぎないこと,新装開店事業は本社が主導しており,P2は,本社トレーナーの指導を受けながら鮮魚売場の展開図の検討を行うなどの業務に従事していたにとどまることなどからすれば,心理的負荷の強度は「Ⅰ」に修正するのが相当である。 (エ) そして,平成15年8月以降は,時間外労働時間が80時間を超えることなく減少していることや,本件会社の本社トレーナーの指導・支援を受けていることからみて,P2の業務が「相当程度過重」又は「特に過重」であったとはいえない。 (オ) なお,原告は,P2の精神障害の発病後の事情として,退職を希望するP2を上司らが執拗に慰留したことを指摘し,かかる事情も精神障害の憎悪要因として考慮すべきであると主張するが,当該事情は何ら「トラブル」に当たるものではないし,また,業務起因性を検討するに当たり,精神障害発病後の業務上の要因による心理的負荷を考慮するのは,医学的知見に照らして相当でない。 ウしたがって,P2の精神障害発病前おおむね6か月間の業務は,平均的な労働者を基準として評価した場合,精神障害を発病させるほどの強い心理的負荷をもたらすものとはいえない。 (4) P2の自殺は,衝動的なものであり,個体側の脆弱性によるも ね6か月間の業務は,平均的な労働者を基準として評価した場合,精神障害を発病させるほどの強い心理的負荷をもたらすものとはいえない。 (4) P2の自殺は,衝動的なものであり,個体側の脆弱性によるものと考えられる。 (5) 以上のとおり,P2の業務には,平均的労働者にとって精神障害を発病させるに足りる強い心理的負荷は認められず,業務の危険性の要件を欠き,業務と精神障害発病との間に相当因果関係を認めることはできないから,P2 の死亡は業務に起因するものとは認められないというべきであって,本件各処分は適法である。 第3 争点に対する判断 1 認定事実第2の1の前提となる事実,各所に掲記した証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。なお,日付について,年の記載がない場合は,平成15年のことである。 (1) P2についてア家族の状況等(甲10,11,乙1の4ないし14頁,乙16)P2は,死亡時まで,東京都調布市δに所在するいわゆる二世帯住宅の1階部分において,妻である原告,原告との間の長男及び実母であるP3とともに居住し,2階部分には,実姉であるP5,その夫及び実姉とその夫との間の長女が居住しており,P2を含む同居の親族間の交流は緊密であり,関係も良好であった。 イ P2の性格傾向等P2の性格傾向等については,各関係者が,三鷹労働基準監督署に対して,以下のとおり述べている。 「大変仕事熱心である。人なつこく明るく優しい。穏和で,責任感が強く,忍耐力もある。」(原告,乙1の63頁),「真面目で優しく,我を張ることもなく,皆とうまくやっていた。」(γ店店長P12〔以下「P12店長」という。〕,乙1の86頁),「性格は明るくて誰隔てなく会話をしていた。」(γ店副店長P13〔以下「P13副 優しく,我を張ることもなく,皆とうまくやっていた。」(γ店店長P12〔以下「P12店長」という。〕,乙1の86頁),「性格は明るくて誰隔てなく会話をしていた。」(γ店副店長P13〔以下「P13副店長」という。〕乙1の87頁),「真面目で部下の面倒もよく見て,仕事は一生懸命にやっていました。」(エリアグループトレーナーP10〔以下「P10トレーナー」という。〕,乙1の89頁),「明るくて人の良い方だった。誰からも好感を持たれていた。真面目で仕事はできた。」(γ店鮮魚部P8サ ブチーフ。乙1の93頁)。 P2は,ビリヤードとパチンコスロットを趣味にしていたほか,読書,映画鑑賞及び音楽鑑賞も好んでいた(乙1の80頁)。 ウ健康状態等(乙9)(ア) 定期健康診断本件会社の定期健康診断(診断項目は胸部エックス線検査,検尿,血圧測定,視力測定,血液検査及び医師における問診である。)におけるP2の診断結果は,以下のとおりである。 平成12年いずれも異常所見なし平成13年肥満は僅かな所見を認めるが日常生活において特に支障なし,他は異常所見なし平成14年肥満は僅かな所見を認めるが日常生活において特に支障なし,他は異常所見なし平成15年受診していない(イ) 受診歴P2には,アトピー性皮膚炎等による受診歴があるが,精神科への受診歴はない。 (ウ) 飲酒,喫煙等P2には,喫煙の習慣はなく,飲酒もほとんどしなかった(乙1の80頁)。 (2) P2の本件会社における業務状況等ア本件会社における労働条件等の定め(ア) 所定労働時間,所定休日等(乙20)P2の所定始業時刻は午前9時,所定終業時刻は午後6時,所定休憩時間は正午から午後1時の1時間である。 所定休日(年間休 における労働条件等の定め(ア) 所定労働時間,所定休日等(乙20)P2の所定始業時刻は午前9時,所定終業時刻は午後6時,所定休憩時間は正午から午後1時の1時間である。 所定休日(年間休日)は,原則として法定休日52日(毎週1回), 指定休日52日,年始休日3日(1月1日~1月3日),その他8日である。 なお,本件会社は,平成15年当時,タイムカードに記録された始業終業時刻に基づく割増賃金の算定をしておらず,P2に対しては,1か月当たり一律28時間分の割増賃金を支払うにとどまっていたため,三鷹労働基準監督署の指摘を受け,平成16年2月,P2の相続人である原告に対して,割増賃金の不足分を支払った(乙28)。 (イ) 本件会社における人事等級及び人事考課の仕組みの概要(乙1の82ないし84,97,161頁,乙18ないし20,28)本件会社の正社員の人事等級にはⅠ等級からMⅣ等級までの11等級あり,一般社員の新卒採用者の初任資格は,高校卒業者がⅢ等級1号,短大卒業者がⅢ等級11号,大学卒業者がⅣ等級1号である。 そして,Ⅳ等級からⅤ等級に昇格するためには,計数試験を含む筆記,技能及び面接試験に合格しなければならないほか,利益管理の習得も昇格試験受験資格に必要な要件である。 Ⅲ等級からⅦ等級までの従業員は,能力考課及び成績考課に基づいて評価される。 能力考課の項目は,売場作り・発注等の「基本業務」,販売計画・数値管理等の「計画業務」,部下育成等の「労務管理業務」である。考課段階には,「S」(抜群),「A」(優秀),「B」(期待どおり),「C」(やや劣る),「D」(劣る)の5段階がある。 成績考課の考課要素は,貢献度,執務態度及び数値責任である。数値責任とは,主に営業部門において各人に与えられた数値予算 ,「B」(期待どおり),「C」(やや劣る),「D」(劣る)の5段階がある。 成績考課の考課要素は,貢献度,執務態度及び数値責任である。数値責任とは,主に営業部門において各人に与えられた数値予算が対象期間中にどの程度達成されたのかを評価するものであり,Ⅳ等級,Ⅴ等級の場合,成績考課全体の中での評価割合は20パーセントである。 考課段階には,「S」(抜群),「A」(優秀),「B+」(期待を上 回る成果には今一歩であり,また,上位等級の仕事にチャレンジしたが今一歩であった。),「B」(期待どおり),「B-」(期待に対して今一歩であった。),「C」(やや劣る),「D」(劣る)の7段階がある。 従業員には,入社時から,加工技術だけでなく労務管理業務も習得していくことが求められ,入社後2年間はほぼ毎月研修が行われる。 (ウ) 人事異動の発令等本件会社においては,人事異動の発令は,原則として発令日の2週間以上前に内示することとされており,異動の時期は不定期であるほか,昇格を伴うこともある。P2のβ店からγ店への異動のように,直前の異動と次の異動との間隔が2か月程度というのは,比較的まれであった。 イ P2の経歴等(乙6,16,18,21,22)(ア) 経歴P2は,大学卒業後,平成11年4月1日付けで本件会社に正社員(一般社員)として入社し(入社時人事等級Ⅳ等級),同社のα店鮮魚部において勤務し,平成12年10月1日付けでサブチーフに就任し,平成14年7月1日付けでⅤ等級に昇格し,平成15年3月16日付けでβ店に異動して鮮魚部サブチーフとして勤務し,同年6月1日付けでγ店に異動すると同時にチーフに就任し,死亡時まで,同店において鮮魚部チーフとして勤務していた。 (イ) P2の能力考課(乙21) 基本業務計 部サブチーフとして勤務し,同年6月1日付けでγ店に異動すると同時にチーフに就任し,死亡時まで,同店において鮮魚部チーフとして勤務していた。 主文 (イ) P2の能力考課(乙21) 基本業務計画業務労務管理業務平成11年1月1日から12月31日BBB平成12年1月1日から12月31日ABB平成13年1月1日から12月31日ABB平成14年1月1日から12月31日AAB (ウ) P2の成績考課(乙22) 課題達成度役割業務遂行度執務態度 成果遂行レベル遂行規律性責任性協調性 チャレンジ平成11年10月1日から平成12年3月31日まで(Ⅳ等級)B+B+B+B+BB+B+B+平成12年4月1日から同年9月30日まで(Ⅳ等級)B+B+B+B+BB+AB+平成12年10月1日から平成13年3月31日まで(Ⅳ等級)AAB+B+BAAAB+平成13年4月1日から平成14年9月30日まで(Ⅳ等級)AAAB+AAAB+平成14年10月1日から平成15年3月31日まで(Ⅴ等級)AAAB+BAAB+ ウ P2のβ店における業務内容 1日から平成15年3月31日まで(Ⅴ等級)A A A B+ B A A B+ ウ P2のβ店における業務内容(甲10,11,乙1の91,92頁)P2は,β店において,鮮魚部サブチーフとして勤務し,チーフを補佐して発注業務等を行っていた。同店の売上規模は,本件会社が当時経営していた127店舗中10位以内に入る程度であった。 P2の通勤時間は,前任地のα店に勤務していた際と比較して長時間となった。 エ γ店におけるP2の担当業務等(ア) P2のγ店への異動状況等(乙1の82ないし96,161ないし164頁,乙7,18,19,28)P2は,β店に異動した3月16日から約2か月半後の6月1日付けで,初めてチーフに就任するとともに,新装開店を控えたγ店に異動した。 本件会社において,チーフという役職は,全正社員の4分の1を占めるものであり,Ⅵ等級の正社員が就任することが多いが,中にはⅤ等級で就任する者もいる。P2と同期入社した大卒の正社員は他に10名おり,その中でチーフに就任した者は7名いるが,Ⅴ等級でチーフに就任したのはP2のみであった。また,P2と同期入社した従業員中,チーフ就任に伴って異動した者も他に1名いるが,新装開店を控えた店舗への異動ではなかった。 P2は,かねてからチーフに就任することを希望しており,上司であるβ店鮮魚部チーフP14(以下「P14チーフ」という。)にも自らの希望を伝えていたが,チーフ就任が決まった際,家族に対しては,「どうしよう。超プレッシャーだよ。」などと話すなど,不安を感じていた様子であった(甲10,11,乙1の91,92頁)。 他方,P2のγ店への異動について,本件会社関係者は,要旨 家族に対しては,「どうしよう。超プレッシャーだよ。」などと話すなど,不安を感じていた様子であった(甲10,11,乙1の91,92頁)。 他方,P2のγ店への異動について,本件会社関係者は,要旨以下のとおり述べている。 「P2は,当時売上が上位にあったβ店のサブチーフで,仕事が前向きの姿勢で成績もよく,仕事量的にもこなせるだろうと,γ店のチーフに抜てきされたと聞いた。」(P15部長,乙1の82ないし84頁),「P2の異動を聞いたときは,あと半年仕事を一緒にできればもっと加工技量も上がり,また,魚のことももう少し覚えた方が完璧に近くなるのにと少し残念だった。P2は急でびっくりしたと言っていたが,喜ん ではいたようだった。初めてチーフになって改装を控えている店舗に移ったことはかなり重圧があったと思う。」(P14チーフ。乙1の91,92頁),「γ店への異動時のP2への期待は将来に対するものである。」,「新装改造直後はレイアウト,販売計画,商品調達等のチーフが通常行っている役割を本社主導で行うため,店舗チーフが売上高を評価,期待される状況ではなかった。P2に期待されていたのは本社の応援がなくなる2か月後からである。」(P11人事課長,乙18)。 (イ) γ店の営業状況等(甲12の1及び9,乙1の82ないし90,93ないし96,189ないし195頁,乙18)本件会社は,平成15年当時,鮮魚部門強化の営業戦略を打ち出しており,また,業績改善のための経営政策の一環として,γ店を含む6店舗についての改装計画を立案し,実施に移していた。当該計画に基づくγ店への投資額実績は,6店舗中では最も低額であったとはいうものの,1億6100万円に上っていた。同店においては,かつて営業利益が毎年1億5000万円以上あったが,平成12,13年に 該計画に基づくγ店への投資額実績は,6店舗中では最も低額であったとはいうものの,1億6100万円に上っていた。同店においては,かつて営業利益が毎年1億5000万円以上あったが,平成12,13年に競合店の出店が相次いだため,業績が悪化し,平成15年当時の営業利益は高収益期の6分の1程度にまで落ち込んでいた。また,同店の売上規模は,本件会社が当時経営していた127店舗中70位程度にとどまっていた。 平成15年7月1日から同年9月30日までの間,同店においては,1階部分を約70坪増床し,鮮魚売場を5割強拡大したほか,社内報において「最大のウリ」と称する「シースルー作業場」(顧客から調理作業場が見通せる作業場)を導入するなどの改装工事が行われた。そして,同店は,当初の計画どおり,同年10月1日に新装開店した。 また,改装後の計画日商は420万円(前年度比131パーセント)であった。 (ウ) 人員配置等(乙1の54,82ないし84,217頁) 平成15年10月1日現在におけるγ店の従業員数は,正社員12名,パート・アルバイト64名の合計76名であった。 P2の上司に当たるのは,P15部長,P12店長,P13副店長であった。 P2の所属していた鮮魚部には,チーフのP2とその下にサブチーフ1名(サブチーフまでが正社員である。なお,平成15年7月までは経験が浅く技術も未熟なP6サブチーフが配置されていたが,同年8月以降は経験豊富なP8サブチーフが配置された。),その他パート・アルバイト9名(女性)が配置されていた。 (エ) 鮮魚部の基本的な業務内容等(甲10,14の1及び2,乙1の82ないし96,117,161ないし164頁,乙8,13,14,18,28)鮮魚部においては,毎朝午前7時ころから午前7時30分ころま 魚部の基本的な業務内容等(甲10,14の1及び2,乙1の82ないし96,117,161ないし164頁,乙8,13,14,18,28)鮮魚部においては,毎朝午前7時ころから午前7時30分ころまでの間に,店舗に到着したトラックから鮮魚類を店舗内に運搬し,加工用と保管用とに仕分し,保管用の商品を収納した上,加工用の鮮魚の加工(切り身と刺身のスライス),盛り付け,梱包,値付け,商品の陳列等の作業を行う。 午前10時の開店後は,売場の温度や商品の販売状況をチェックしながら,鮮魚を加工して商品を追加して陳列したり,顧客用に鮮魚を加工したりするほか,電子メールのチェック,売場展開図(特売品を選択して配置先を記載した売場レイアウト図)の見直し,これに基づくレイアウトの変更,値付け,店内アナウンス,顧客への声掛け等を行う。なお,鮮魚部の作業は,パート3名が補助している。 1日のうちで最も忙しい時間帯は,開店時と午後4時から午後6時ころまでの間であり,商品を補充するのは午後6時ころまでである。 鮮魚部門の責任者であるチーフは,午後7時ころまでに翌日の商品の 発注業務を行った上,翌日の作業割当表や作業指示書等の作成等の作業に従事し,午後9時には閉店に伴う業務を完了する。なお,作業指示書等の作成には1時間程度を要することがある。閉店に伴う作業には,廃棄,収納,温度チェック等があり,アルバイトが行うことが多い。 (オ) チーフの業務内容等(甲14の1及び2,甲15の1ないし16,乙1の82ないし96,161ないし164頁,乙7,8,13,14,18,19,28)チーフとしての業務には,上記(エ)記載の業務のほか,①鮮魚部門会議及び店舗運営本部会議への出席,②売上利益(粗利益)報告,③日々の販売計画,④部下の育成教育,⑤チラシ作 ,18,19,28)チーフとしての業務には,上記(エ)記載の業務のほか,①鮮魚部門会議及び店舗運営本部会議への出席,②売上利益(粗利益)報告,③日々の販売計画,④部下の育成教育,⑤チラシ作成等がある。 すなわち,①の鮮魚部門会議においては,商品の展開方法の確認,売れ筋商品の確認,商品情報の連絡のほか,年末時には数量計画の設定及び本社からの伝達指示がある。また,店舗運営本部会議においては,鮮魚部門会議以外に,店舗クリニックと称する制度(各店舗の売場見学により,良い点と悪い点をチェックして討論し,自店の売場設営の参考にすること)がある。これらはいずれも月1回程度開催される。 ②の売上報告には,1週間単位での本社への報告及び月2回の店舗運営本部への報告がある。これらは,パソコンの売上管理システムから売上額及び仕入額を把握し,転記して報告するものである。月末の棚卸し作業は,実際に商品ごとの在庫を確認するため,2時間程度を要する。 ③の日々の販売計画については,本社が作成した基本構成を自店の売上状況によって修正し,数量等をパソコンに入力して,本社へ報告することとされている。特売商品は本社で設定し,スポット商品(準特売商品)は本社から示される数種類の商品の中から自店で選択して数量を決定し(数量の目安は本社が設定する。),パソコンに入力して本社に報告することとされている。 ④の部下の育成教育には,部下の正社員及びパート・アルバイトの教育,成績考査,勤務時間管理等の人事管理業務がある。この点,P14チーフは,自らの経験に照らして,「チーフの仕事では人の管理に一番気を使う。」,「サブチーフとチーフでは人の管理の面でかなり責任が違う。」(乙1の91頁)と述べているし,P10トレーナーも,同様に,「チーフの業務で中心となる て,「チーフの仕事では人の管理に一番気を使う。」,「サブチーフとチーフでは人の管理の面でかなり責任が違う。」(乙1の91頁)と述べているし,P10トレーナーも,同様に,「チーフの業務で中心となるのが,部下の育成,教育であり,人に仕事を教えるというのが,気を使うし難しい。」(乙1の89頁)と述べており,人事管理業務は,チーフの各種業務の中でも,困難な業務として位置付けられている。 ⑤のチラシ作成については,チーフが商品名,サイズ,希望売価等を記入して店長に提出し,店長の確認後,本社において修正・変更の決定がなされる。 (カ) γ店の新装開店準備作業a 作業スケジュール(乙1の85ないし88,93ないし96,189ないし195頁)7月店舗建物外工事開始8月店舗売場内工事開始9月1日から7日売場展開計画作成(週別),作業割当表作成(日別),オープン前日作業計画の作成,販売促進物の廃棄・発注,特売品決定,什器備品の不要物の廃棄・使用する物の保管等9月8日から14日売場展開計画作成(日別),作業割当表作成(日別),販売応援体制の人員確認,特売品・売価チェック,チラシのレイアウト確認等 9月15日閉店(午後7時)。10月1日の新装開店までの2週間は,閉店をして工事が行われた。 9月16日,17日γ店の従業員らの集合研修9月18日から28日他店における研修(店舗運営基準書の理解・習得,オペレーションの見直しとして前日作業のポイントの確認・開店前作業人員の割当て・作業導線の確認・什器備品の使用方法の確認等),売場展開図の確認,特売品数量決定,スポット商品(準特売品)決定,構成台帳の確認,通常商品の数量決定,特売計画等。チーフ以上は部門ごとの会議等9月29日什器搬入9月30日 方法の確認等),売場展開図の確認,特売品数量決定,スポット商品(準特売品)決定,構成台帳の確認,通常商品の数量決定,特売計画等。チーフ以上は部門ごとの会議等9月29日什器搬入9月30日陳列売場展開計画作成(週別),作業割当表の見直し(日別),販売応援態勢の見直し,販売促進物の準備,作業場の定位置管理,消耗品の定位置管理等b 作業状況等(甲1,乙1の82ないし85,89,93,219,222頁,乙14,18)前記aの作業スケジュールのとおり,γ店においては,通常の営業と並行して改装工事が進行しており,その間,徐々に既存の売場が縮小されていき,9月15日の閉店後は,新装開店に向けての意識付けやトレーニングを目的とした研修が連日実施されたほか,新装開店後の売場展開図作成,特売計画作成等の準備作業も併せて行われていた。 また,チーフ以上の従業員は,各部門ごとの会議等に頻繁に参加していた。 新装開店準備業務は,原則として,本社で作成した新装開店スケジュールに基づき,本社主導の下,実施されるものであるが,本社のトレーニンググループ部署(旧販売部)のトレーナーと新装改造店トレーナーが,それぞれ複数の店舗を担当し,新装開店準備業務の指示・サポートを行うものとされていた関係上,本社のトレーナーが,特定の店舗に常駐することはなかった。各店舗のチーフは,必要な都度,トレーナーの指示・サポートを受けるものの,自ら売場展開図作成,特売計画作成及びチラシ作成等の業務を遂行せざるを得なかった。なお,γ店の新装開店に当たっての鮮魚部の担当トレーナーは,エリアトレーナーのP10(P10トレーナー)と,新装改造店トレーナーのP16(以下「P16トレーナー」という。)であった(もっとも,P16トレーナーについては,P11人事課長 の担当トレーナーは,エリアトレーナーのP10(P10トレーナー)と,新装改造店トレーナーのP16(以下「P16トレーナー」という。)であった(もっとも,P16トレーナーについては,P11人事課長が「開店前及び開店直後までの準備はP16トレーナー中心にされていた。」旨は述べるものの〔乙18〕,γ店に勤務するP12店長,P13副店長及びP8サブチーフは,「P10トレーナー」について言及するのみで,「新装改造店トレーナー」についても「P16トレーナー」についても供述していないため,P16トレーナーがγ店の新装開店業務において具体的にどのような指示・サポートを行っていたのかは必ずしも明らかでない。)。 新装開店前日の9月30日と当日の10月1日には,γ店の店長及び副店長に加えて,本社店舗運営部長及びトレーナーら他店舗からの応援人員等も来ていた。 他方,P2は,閉店期間中に,10月27日に行われるⅥ等級への事前認定試験(昇格試験)の勉強会に任意で参加していた。 (キ) 労働時間少なくとも,タイムカードに打刻されている始業就業時間に基づいて 算定された労働時間に相当する労働があったことについては,当事者間に争いがない。 当事者間に争いのあるタイムカード外労働時間については,後記2で検討する。 (3) P2の精神障害の発病及び死亡に至る経緯(甲10,11,乙1の82ないし90,161頁,乙11の80頁)P2は,8月20日ころ,帰宅した際,出迎えた母親のP3に対して「出てくるな。」と怒鳴り,P3が,ふだんとは異なるP2の態度に驚いたことがあった。 P2は,9月初旬,趣味のビリヤードの道具を,通勤に使用していた自動車から降ろして自宅に片付けた。 P13副店長は,9月29日ころ,P2の顔色がふだんよりも悪いこと 度に驚いたことがあった。 P2は,9月初旬,趣味のビリヤードの道具を,通勤に使用していた自動車から降ろして自宅に片付けた。 P13副店長は,9月29日ころ,P2の顔色がふだんよりも悪いことに気付き,声を掛けたが,P2は生返事をするばかりであった。 P2は,10月1日午前4時に自宅を出発し,γ店において勤務した後,翌2日午前零時15分に帰宅した。その際,P2は,原告に対して,「やり終わらない。無理だよ。」と話し,疲れ切った様子であった。 P2は,10月2日午前4時10分に自宅を出発し,γ店において勤務した後,午後7時30分ころ,γ店の店長室において,P15部長らに対し,突如として,「接客ができないので辞めさせてください。」と申し出るに至った。P15部長,P12店長及びP10トレーナーは,P2の突然の申出に驚き,場所をミーティングルームに移動して,P2に対して,退職の理由を尋ねたり,休養して考え直すことを勧めたりしたが,P2は,「すみません,僕は目一杯です。」,「もう接客はできません。」と繰り返すばかりで,一点をじっと見つめたり,しきりと頭に手をやる仕草をしたりしていた。それでも,P2は,P15部長らの度重なる説得に対して,いったんは「もう一度やってみます。」と回答して,午後10時30分ころにγ店を退社し,午 後11時30分ころに帰宅したものの,帰宅後,原告に対しては,「会社を辞めるって言ってきた。もうできない。」,「1か月は来なくてはならないと言われたので,1か月やることになった。」,「店では応援の人やP10さんがバリバリ仕事をしているのに,自分は呆然としてしまい頭が真っ白で身体が動かなくなり,仕事が手に付かなかった。やめてもいいかな。」と話した。その際のP2は,疲れ切った様子であった。 P2は,▲月▲日午前 リ仕事をしているのに,自分は呆然としてしまい頭が真っ白で身体が動かなくなり,仕事が手に付かなかった。やめてもいいかな。」と話した。その際のP2は,疲れ切った様子であった。 P2は,▲月▲日午前3時40分に起床し,原告に対して,退職の手続を取って来ると告げ,ふだんとは異なり原告と長男の見送りを断って自宅を出発した。 その後,P2は,同日午前5時30分ころ,東京都調布市<以下略>前路上に駐車したP2所有の普通乗用自動車運転席において,刃渡り40センチメートルの柳刃包丁で自己の左胸部を刺して自殺した。 (4) 精神障害に関する一般的な医学的見解等ア精神障害とストレスについて(乙3,4)現代精神医学においては,一般に「ストレス-脆弱性」理論により精神障害の成因が理解されている。 「ストレス-脆弱性」理論とは,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性との関係で精神的破綻が生じるか否かが決まり,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じるという関係にあるとする考え方である。この場合のストレス強度は,環境由来のストレスを,多くの人々が一般的にどう受け止めるかという客観的な評価によるものとして理解されている。 イ P17大学精神医学教室P18の見解(甲17)不安・焦燥優位のうつ病では,自殺企図の危険は病態の極期にある。 (5) P2の死亡に関する医学的見解等 ア東京労働局地方労災医員協議会精神障害等専門部会の意見の概要(乙1の76,77頁)(ア) 死亡時の状況によればP2は,▲月▲日に自殺したと推定され,家族は,突発的に自殺したものと主張している。 P2は,10月1日の帰宅後,家族に対し,「終わらない。無理だ の76,77頁)(ア) 死亡時の状況によればP2は,▲月▲日に自殺したと推定され,家族は,突発的に自殺したものと主張している。 P2は,10月1日の帰宅後,家族に対し,「終わらない。無理だよ。」と述べている。翌2日には,γ店において,上司らに対しても,「退職したい。接客はできない。」と申し出ており,理由を問われても答えないまま,同じ言葉を繰り返している。 以上のことから,既にこの時期に何らかの精神状態の変調があったものと考えられ,発病が明らかになった時期は,平成15年9月下旬ころと思われる。病名は,気分障害(ICD-10のF3)と考えられる。 (イ) P2は,「平成15年4月」(実際は3月)にα店からβ店に人事異動し,その2か月後の6月に,チーフ昇格を伴いγ店に人事異動している。 これは,判断指針別表1に例示された出来事の類型として「役割・地位等の変化」,具体的出来事として「転勤をした」に該当し,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。 心理的負荷の強度を修正する視点として,「職種・職務の変化の程度,転居の有無,単身赴任」があるが,「4月」(実際は3月)の転勤ではこれらに類する変化のないものであることから,心理的負荷の強度を修正し,「Ⅰ」とする。6月の転勤については,昇格を伴っており職務の変化が認められるが,修正の必要が認められるほど大きなものとはいえない。したがって,心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。 職場における出来事に伴う変化等を検討する視点においては,仕事の量は労働時間から見て大きな変化とはいえない。仕事の質・責任の変化については,チーフ就任に伴う部下の育成・教育,管理の業務のほか, 発注管理,売上げの把握と報告とが挙げられるが,チーフ就任がP2の経歴からして異例なものではないことから,経験と適 任の変化については,チーフ就任に伴う部下の育成・教育,管理の業務のほか, 発注管理,売上げの把握と報告とが挙げられるが,チーフ就任がP2の経歴からして異例なものではないことから,経験と適応能力から見て通常予測される変化と比べて過大なものとはいえない。 なお,P2の死亡直前の10月1日に所属店舗の新装開店があり,これに伴う準備等で早朝から深夜までの長時間労働が生じているという事実がみられる。このことが精神障害を発病していたP2に心理的負荷を与えたことは否定できないが,準備作業は,新装開店日を含めて直前の3日間に限られ,作業時期やその間繁忙となることが予測されていたものであること,準備作業の実施前は店舗を閉鎖しており,通常時よりも軽減された労働時間であったことからすれば,判断指針における「出来事」と評価することはできない。 以上より,本件の職場における心理的負荷の総合評価は「中」である。 イ P19事務所P20の意見の概要(乙26)P2は,10月2日に職場の上司に対して会社を辞めることを告げており,理由を聞かれても同じことを繰り返して答えており,この時点では既に,うつ病と思われる精神障害を発症していたと思われる。このため,うつ病発症時期は,9月下旬と推測される。 2 争いのあるタイムカード外労働時間(1) タイムカード外労働時間タイムカード外労働時間については,証拠上,少なくとも被告主張のとおり認めることができ,P2の時間外労働時間数は,別紙3「労働時間集計表」のとおり認めるのが相当である。 そうすると,P2の時間外労働時間数は,発症前7か月目(平成15年3月1日から31日まで)が74時間52分(そのうち,α店における労働は3月1日から15日まで39時間33分,β店における労働は3月16日から31日ま 時間外労働時間数は,発症前7か月目(平成15年3月1日から31日まで)が74時間52分(そのうち,α店における労働は3月1日から15日まで39時間33分,β店における労働は3月16日から31日まで35時間19分),発症前6か月目(4月1日から30日まで) が76時間31分,発症前5か月目(5月1日から31日まで)が82時間33分,発症前4か月目(6月1日から30日まで)が94時間42分,発症前3か月目(7月1日から31日まで)が90時間45分,発症前2か月目(8月1日から31日まで)が71時間26分,発症前1か月目(9月1日から30日まで)が30時間3分,死亡直前の10月1日,2日が合計17時間56分となる。 また,新装開店日である10月1日前後の労働時間は,9月28日が午前7時30分から午後8時30分まで(労働時間12時間),9月29日が午前8時53分から午後7時39分まで(労働時間9時間46分),9月30日が午前7時51分から午後10時22分まで(労働時間13時間31分),10月1日が午前4時38分から午後11時29分まで(労働時間17時間51分),10月2日が午前4時37分から午後9時42分まで(労働時間16時間5分)である。 P2の休暇の取得状況は,発症前7か月目が9日,発症前6か月目が9日,発症前5か月目が8日,発症前4か月目が6日,発症前3か月目が6日,発症前2か月目が9日,発症前1か月目が8日である。 (2) タイムカード外労働時間に関する原告の主張についてア β店におけるサービス残業の有無及び状況について原告は,β店において,同店店長の指示によってタイムカードを打刻した後も毎日平均2時間程度のいわゆるサービス残業があったと主張し,その根拠として,家族が元アルバイト従業員のP21から聴取した内容 原告は,β店において,同店店長の指示によってタイムカードを打刻した後も毎日平均2時間程度のいわゆるサービス残業があったと主張し,その根拠として,家族が元アルバイト従業員のP21から聴取した内容(乙1の112頁)のほか,本件会社の労働組合が当時サービス残業をなくすための活動をしていたこと(甲7,13)及びβ店における施錠のセット・解除時刻(乙1の196,197頁)を挙げている。 しかしながら,P2の勤怠管理を担当していたわけではない元アルバイト従業員からの聴取内容や労働組合の活動については,いずれもP2の就 労時間を具体的に裏付けるものではない。また,P2が店舗の施錠のセット・解錠操作を担当していたことを認めるに足りる証拠もないから,施錠のセット・解錠時刻が直ちにP2のサービス残業を裏付けるわけではない。 そして,γ店P8サブチーフや青果部チーフであったP22がいずれも「タイムカードを打刻した後に作業場に戻ることはない。」と述べていること(乙13,14)に加えて,本件会社においては平成15年当時はタイムカードの打刻時刻いかんにかかわらず一律の時間外手当しか支給していなかったことからすれば,店長が従業員に対してタイムカードを業務終了よりも早く打刻するように指示する理由もなかったといえる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ原告の算定資料の信用性についてまず,P2の手帳(甲1)については,P2自身が業務に関して日々記録していたものであり,業務の有無や内容について一応の信用性があるというべきであり,前記(1)認定のタイムカード外労働時間についても,これを根拠としている部分があるが,家族の記憶(甲10,11,乙1の79ないし81,乙17,証人P3,原告本人)については,過去の長期に渡る出来事に係 (1)認定のタイムカード外労働時間についても,これを根拠としている部分があるが,家族の記憶(甲10,11,乙1の79ないし81,乙17,証人P3,原告本人)については,過去の長期に渡る出来事に係るものであるから,一般に,その信用性は,必ずしも高いとはいえないし,P3の日記(甲2の1・2)の記載及びこれと一致する家族の記憶についても,P2の外出の事実,出発・帰宅状況等の生活状況全般については一応の裏付けとなるものの,P2の具体的な労働時間の裏付けとするには足りないというべきである。また,通話記録及び家族によるP7らの聞き取り結果(甲3,5)については,P2が本件会社関係者と通話した事実及びP7がP2に電話で仕事に関する相談などをしていた事実がうかがえるが,通話記録にある時間帯にどのような内容の会話をしたか個別に特定することはできず,結局,P2の就労の事実との関連性が不明であるから, 具体的な労働時間の裏付けとするに足りないといわざるを得ない。さらに給油記録(甲4の1ないし3,甲6の1及び2,甲8)についても,P2が当該時刻に自宅付近にあるガソリンスタンドにおいて給油した事実を認めることができるが,P2の就労の事実との関連性が不明であり,具体的な労働時間の裏付けとするには足りないというべきである。 ウその他の原告主張について歓送迎会の所要時間は,労働時間として評価することができないというべきであるから,これを労働時間として算定するのは相当でない。 エ以上に照らせば,タイムカード外労働時間に関する原告の主張は,いずれも採用することができない。 3 判断前記1及び2の認定・判断を踏まえて,以下,業務起因性についての判断をする。 (1) 業務起因性に関する法的判断の枠組みについて労働基準法及び労災保険法に することができない。 3 判断前記1及び2の認定・判断を踏まえて,以下,業務起因性についての判断をする。 (1) 業務起因性に関する法的判断の枠組みについて労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の疾病について行われるところ,業務上疾病にかかった場合とは,労働者が業務に起因して疾病にかかった場合をいい,業務と疾病との間には,条件関係が存在するのみならず,相当因果関係があることが必要であると解される(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 そして,労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は,使用者が労働者を自己の支配下に置いて労務を提供させるという労働関係の特質を考慮し,業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が疾病にかかった場合には,使用者に無過失の補償責任を負担させるのが相当であるという危険責任の法理に基づくものであるから,業務と疾病との間の相当因果関係の有 無は,その疾病が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁)。 また,今日の精神医学的・心理学的知見としては,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性との関係で精神的破綻が生じるか否かが決まり,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じるとするいわゆる「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられている。 そうすると,労災保険の危険責任の法理及び「ストレス-脆弱性」理論の趣旨に照らせば,業務の危険性の判断は,当該労働 も破綻が生じるとするいわゆる「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられている。 そうすると,労災保険の危険責任の法理及び「ストレス-脆弱性」理論の趣旨に照らせば,業務の危険性の判断は,当該労働者と同種の平均的な労働者,すなわち,何らかの個体側の脆弱性を有しながらも,当該労働者と職種,職場における立場,経験等の点で同種の者であって,特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきである。このような意味での平均的労働者にとって,当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発病させ死亡に至らせる危険性を有しているといえ,特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には,業務と精神障害発病及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。 そして,判断指針・改正判断指針は,いずれも精神医学的・心理学的知見を踏まえて作成されており,かつ,労災保険制度の危険責任の法理にもかなうものであり,その作成経緯や内容に照らして不合理なものであるとはいえない。 したがって,基本的には判断指針・改正判断指針を踏まえつつ,当該労働者に関する精神障害発病に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌して,業務と精神障害発病との間の相当因果関係を判断するのが相当である。 なお,改正判断指針は,処分行政庁による本件処分時には存在しなかったものであるが,判断指針・改正判断指針は,いずれも裁判所による行政処分の違法性に関する判断を直接拘束する性質のものではないから,当裁判所は,判断指針のみならず,改正判断指針に示された事項をも考慮しつつ,総合的に本件処分の違法性を検討するものとする。 (2) P2の精神障害について前記1(3)記載のP2の死亡に至る経緯及び同(5)記載の医学的見解 ず,改正判断指針に示された事項をも考慮しつつ,総合的に本件処分の違法性を検討するものとする。 (2) P2の精神障害について前記1(3)記載のP2の死亡に至る経緯及び同(5)記載の医学的見解等を総合すれば,P2は,遅くとも平成15年9月下旬ころに,ICD-10のF3に該当する「気分障害」又はうつ病(以下「本件疾病」という。)を発病したと認めるのが相当である。 (3) 業務による心理的負荷の強度についてア本件疾病発病前の業務上の出来事P2が3月16日にβ店に異動したことは,「転勤をした」(心理的負荷強度「Ⅱ」)に該当し,6月1日にチーフ就任を伴ってγ店に異動したことは,「転勤をした」(心理的負荷強度「Ⅱ」)及び「自分の昇格・昇進があった」(心理的負荷強度「Ⅰ」・改正判断指針)に該当する。 そして,前記1(2)エ(イ)記載のとおり,本件会社は,平成15年当時,鮮魚部門強化の営業戦略を打ち出すとともに,全店舗を挙げての業績改善のための経営政策の一環として,特に,γ店を含む6店舗の新装開店を計画し,γ店に限っても1億6100万円もの資金を投じて1階部分を70坪増床し,鮮魚売場を5割強も拡大して「シースルー作業場」を導入するなどして(社内的には,改装の「最大のウリ」と位置付けていた。)売上増加を目指し,新装開店後のγ店全体として,前年度比131パーセント増の420万円の計画日商を目標としていた。そして,P2は,新任のチーフとして,γ店鮮魚部門の責任者として赴任して間もなく新装開店業務に従事したほか,その後の計画日商達成のために,鮮魚部門の現場の陣頭 指揮を取ることが期待されていたと認められることからすれば,P2が鮮魚部のチーフに就任してγ店において新装開店準備業務に従事したことは,「新規事業の担当になった,会社の 魚部門の現場の陣頭 指揮を取ることが期待されていたと認められることからすれば,P2が鮮魚部のチーフに就任してγ店において新装開店準備業務に従事したことは,「新規事業の担当になった,会社の建て直しの担当になった」(心理的負荷強度「Ⅱ」)に当たるといえる。 イ出来事の内容等による心理的負荷の強度の修正(ア) 3月16日から5月31日までのβ店における業務前記1(2)イ,ウ及び2記載のとおり,前任地のα店に勤務していた際と比較すると,通勤時間が長時間になった上,β店の売上規模は大きく,P2の取り扱う業務量も増大していたことが予想され,実際に,P2の5月の時間外労働時間数は80時間を超えていたことが認められる一方で,異動に転居や単身赴任は伴っていないこと,P2は,平成12年10月1日以降約2年半にわたって,α店においても鮮魚部サブチーフを経験していたことなどを総合考慮すれば,P2がβ店に異動して鮮魚部サブチーフとして勤務したことによる心理的負荷の強度については,これを「Ⅱ」から修正するには至らないというべきである。 (イ) 6月1日からのγ店における業務次に,P2がγ店にチーフ就任を伴って異動して鮮魚部チーフとして勤務したことについて検討する。 a 異動間隔P2は,β店への異動から2か月半でγ店に異動しているところ,2か月半という異動間隔は,人事異動が不定期に行われる本件会社においても,比較的まれなものであった(前記1(2)ア(ウ))。 b チーフ就任に伴う業務の質・量の増加チーフは,本件会社において,全正社員の約4分の1の割合を占める役職であり,Ⅵ等級の資格で就任する者が多数を占め,Ⅴ等級の資格で就任することは少なかったことが認められる。その証拠に,P2 を含む大卒の同期入社の正社員11名の の約4分の1の割合を占める役職であり,Ⅵ等級の資格で就任する者が多数を占め,Ⅴ等級の資格で就任することは少なかったことが認められる。その証拠に,P2 を含む大卒の同期入社の正社員11名のうち,Ⅴ等級の資格のままチーフに就任したのはP2のみであった(前記1(2)エ(ア))。 P2は,γ店への異動と同時に新任のチーフに就任したことに伴い,同店において,前記1(2)エ(エ)記載の鮮魚部の基本的な業務に加えて,チーフの業務として義務付けられている同(オ)記載の鮮魚部門会議・店舗運営本部会議(いずれも月1回程度開催)への出席,売上報告(1週間単位での本社への報告及び月2回の店舗運営本部への報告),販売計画(自店の売上状況に基づき本社の基本構成を修正・報告する作業,特売商品及び準特売商品の決定,売場展開図作成,チラシ作成等)の立案,部下の育成教育(部下の正社員及びパート・アルバイト従業員に対する教育,作業指示書作成,成績考査,勤務時間管理等)などの業務を担当することとなった。 この点,チーフ経験者であるP14チーフ及びP10トレーナーは,共にチーフ業務の中でも部下の育成教育に係る人事管理業務が最も気を遣い大変であり,チーフにはサブチーフとは異なる責任があると述べており,人事管理業務は,チーフの各種業務の中でも,困難な業務として位置付けられている(前記1(2)エ(オ))。 もっとも,P2は,かねてからチーフ就任を希望しており,サブチーフとして2店舗で合計約2年8か月の経験を有し,人事考課の成績も優秀であり,平成14年度の能力考課において,売場作り・発注等の「基本業務」及び販売計画・数値管理等の「計画業務」は「A(優秀)」と評価されていたものの,部下育成等の「労務管理業務」については,「B(期待どおり)」と評価されており,入社 て,売場作り・発注等の「基本業務」及び販売計画・数値管理等の「計画業務」は「A(優秀)」と評価されていたものの,部下育成等の「労務管理業務」については,「B(期待どおり)」と評価されており,入社時からの4期を通じて同じ評価のままであった(前記1(2)ア(イ),イ)。これによると,P2は,他の業務と比較しれば,労務管理業務を不得手にしていた事実がうかがわれる。 このように,P2の業務は,チーフ就任に伴い質・量ともに増加し,特に,P2が比較的不得手としていた部下の育成教育業務の責任が以前にも増して重くなったものと評価するのが相当である。 c 新装開店準備業務上記アでも判示したとおり,γ店は,本件会社が全社規模の業務改善政策の一環として実施した新装開店事業の重点対象6店舗のうちの1店舗として位置付けられており,P2の異動日から4か月後の10月1日には新装開店を控えていた。また,γ店においては,当時の営業利益(最盛期の約6分の1である約2500万円)の約6倍以上に当たる1億6100万円もの巨費を投じて店舗の改装等を実施し,新装開店後の店舗全体の計画日商を前年度比131パーセントとする目標を掲げていた。さらに,本件会社は,平成15年当時,特に鮮魚部門の営業環境の強化を図っており,γ店においても,上記店舗改装の一環として,「最大のウリ」と称して鮮魚部の売場面積を拡大した上,顧客から作業場を見通すことができる「シースルー作業場」を導入するなどの思い切った模様替えを計画していた(前記1(2)エ(イ))。 そして,前記1(2)エ(ア)記載の本件会社関係者の各供述によれば,P2は,上記のようなγ店を取り巻く営業環境の下,成績優秀のため,新装開店を控えたγ店鮮魚部門の責任者としてのチーフに抜てきされたことがうかがえる。また,本 )記載の本件会社関係者の各供述によれば,P2は,上記のようなγ店を取り巻く営業環境の下,成績優秀のため,新装開店を控えたγ店鮮魚部門の責任者としてのチーフに抜てきされたことがうかがえる。また,本件会社の人事考課においては,成績考課の要素として,営業部門において各人に与えられた数値予算が対象期間中にどの程度達成されたのかを評価する「数値責任」という項目があり,チーフの場合は,成績考課全体の中での数値責任の評価割合は20パーセントを占めること(前記1(2)ア(イ)),P11人事課長が「γ店への異動時のP2への期待は将来に対するものである。」,「P2に期待されていたのは本社の応援がなくなる2か月後からであ る。」と述べていること(前記1(2)エ(ア))などからすれば,P2は,本件会社の新装開店事業における数少ない重点店舗のうちの1店舗としてのγ店において,新任のチーフに就任すると直ちに新装開店準備業務に現場担当者として従事するとともに,新装開店後の営業・労務管理等に関する各種研修等への参加を義務付けられて,いやがうえにも新装開店後のチーフとしての業務や数値目標の達成等に対する意識の高揚が図られたことがうかがわれる上,それに続く新装開店後の業務においては,鮮魚部の責任者として,鮮魚部門の売上増を期待され,その結果を基に成績評価がされる立場にあったものと認めることができる。 また,P2を含む同期入社の正社員11名のうち,チーフ就任とともに新装開店事業の対象店舗に異動した者は,P2のみであった(前記1(2)エ(ア))。そして,P2は,家族に対して,チーフに就任することについて不安な様子も見せていた(前記1(2)エ(ア))。 d 心理的負荷の強度修正以上をまとめると,γ店への異動は,前回の異動から異例の短い間隔での異動であ 族に対して,チーフに就任することについて不安な様子も見せていた(前記1(2)エ(ア))。 d 心理的負荷の強度修正以上をまとめると,γ店への異動は,前回の異動から異例の短い間隔での異動であり,当該異動そのものも,人間関係を含む労働環境の変化という意味では,P2にとって負担の大きいものであったと認められる上,能力・経験の乏しいⅤ等級の資格のままで新任のチーフに就任し,直ちに新装開店を控えた店舗の一部門の責任者として異動することは,同期入社した正社員の中でも例を見ないものであったこと,チーフ就任に伴い業務の質・量ともに増加し,特に比較的不得手な部下の育成教育業務による負担が増加したと考えられること,γ店は,本件会社の新装開店事業の重点対象6店舗のうちの1店舗であり,当時の営業利益の6倍以上に当たる巨費を投じて店舗の改装等を実施し,前年比131パーセントの売上増を目標に掲げていたこと,本件 会社は,平成15年当時,特に鮮魚部門の営業環境の強化を図っており,γ店においても,上記店舗改装の一環として,「シースルー作業場」を導入するなどの思い切った模様替えを計画しており,鮮魚部門の営業強化が重視されていたといえること,P2は,そのような営業環境の下,新任のチーフに就任し,鮮魚部門の責任者として,自らの人事考課にも直結する新装開店後の売上増を期待される立場に置かれた状態で,新装開店に向けた準備業務に従事しながら,各種研修等への参加を義務付けられ,新装開店後の業務や数値目標の達成等のための意識高揚が図られることで,チーフ就任後の業務に対する不安ものぞかせていたことからすれば,γ店の新装開店後の業務の遂行等に対する強度の精神的プレッシャーを感じていたことが認められるから,その心理的負荷は相当強いものであったというべきであり,心理的 る不安ものぞかせていたことからすれば,γ店の新装開店後の業務の遂行等に対する強度の精神的プレッシャーを感じていたことが認められるから,その心理的負荷は相当強いものであったというべきであり,心理的負荷の強度を「Ⅲ」に修正するのが相当である。 ウ出来事の重複,労働時間,周囲の支援状況等による心理的負荷の評価(ア) 出来事の重複上記ア,イで検討したとおり,本件においては,β店への異動後間もないγ店への異動に加えて,新任のチーフ就任,各種研修等への参加の義務付けを含む新装開店準備業務といった複数の業務上の出来事が重なっていたと評価される。 (イ) 労働時間前記2記載のとおり,β店における時間外労働時間は,3月16日から31日までの半月間で35時間19分,4月1日から30日までが76時間31分,5月1日から31日までが82時間33分と,増加しつつあった上に,γ店に異動した後は,6月1日から30日までが94時間42分,7月1日から31日までが90時間45分とさらに増加し,5月から7月までの間の1か月当たりの時間外労働時間は80時間を超 えている。特に,γ店における6,7月の労働時間が長時間化したことについては,P2の下に配置されていたP6サブチーフが初任で経験が浅く技術も未熟であったため(前記1(2)エ(ウ)),チーフのP2がその作業等をフォローする必要もあったことによることも一因であったものと考えられる。 このように,β店異動後のP2の労働時間は,漸次長時間化する傾向にあり,その間,P2には疲労が蓄積していったものと認めるのが相当である。 そして,前記1(2)エ(カ)及び2記載のとおり,確かに,10月1日の新装開店が予定されていたγ店においては,改装工事が進むにつれて次第に売場が縮小されて営業に係る業務量も めるのが相当である。 そして,前記1(2)エ(カ)及び2記載のとおり,確かに,10月1日の新装開店が予定されていたγ店においては,改装工事が進むにつれて次第に売場が縮小されて営業に係る業務量も減少し,9月16日には,本社主導の本格的な新装開店準備のためにいったん閉店されたため,P2の業務内容としては,他店等においての研修等が主なものとなったことから,8,9月の労働時間そのものは短くなっていることが認められる。 しかしながら,前記1(2)エ(カ)記載のとおり,当該研修等は,γ店の新装開店に向けての意識の高揚や具体的な業務内容に関するトレーニング等を目的とした重要かつ実践的な内容のものであり,それ自体,精神的な緊張を伴うものであったものと認められるし,P2は,γ店の鮮魚部門を預かる新任のチーフとして,上記研修等のほかにも,新装開店後の売場展開図作成,特売計画作成等の業務に従事していたものであって,上記研修及び新装開店に向けての業務等は,いずれもいやがうえにも新装開店後の売上増に対する関係各人の役割や期待を認識させるものであり,これらの研修や業務等を通じて,新装開店が近付くにつれて精神的プレッシャーが高まっていったものと考えるのが相当である(本件会社がP2に期待していたのは,γ店が新装開店して本社の応援がなくなる2か月後からのことである旨の指摘もあるが,P2にとって直接的な期 待がかかる時期が新装開店が近付くにつれて接近してくるものであるから,前記研修や新装開店に向けての業務等がP2に対して与えた精神的プレッシャーを軽視することはできない。)。よって,単純に労働時間が短くなったことのみを捉えて,P2が,その間,心身ともに休息して疲労を回復することができる状況にあったとは認め難いというべきである。 また,前記1(2)エ(カ) ない。)。よって,単純に労働時間が短くなったことのみを捉えて,P2が,その間,心身ともに休息して疲労を回復することができる状況にあったとは認め難いというべきである。 また,前記1(2)エ(カ)記載のとおり,P2がこの期間を利用して任意にⅥ等級への昇格試験の準備のための勉強をしていたことが認められる。しかし,前記1(2)エ(エ)記載のとおり,チーフにはⅥ等級の資格の正社員が就任する例が多く,P2と同期入社した正社員のうちⅤ等級の資格のままでチーフに昇格したのがP2だけであったことからすれば,P2が昇格試験の勉強をしていたというエピソードは,P2の余裕の現れと見るべきではなく,P2が,多忙な業務の間隙の中の物理的な労働時間の減少を利用して,その間に早急にチーフに見合った能力・成績を身に付けようと努力していたものと考えるのが相当であり,かえって,その当時,P2には,チーフ就任に伴う強い精神的プレッシャーがあったことをうかがわせる行動と評価すべきである。 さらに,前記1(2)エ(カ)及び2記載のとおり,γ店の新装開店前後においては,事前に繁忙度が予測できたし,他店舗等からの応援の人員も配置されていたとはいえ,客観的に,新装開店の直前・直後の9月28日から10月2日までの間には,連続した長時間労働があったことが認められ(休憩時間各1時間を除き,9月28日が午前7時30分から午後8時30分まで12時間,9月29日が午前8時53分から午後7時39分まで9時間46分,9月30日が午前7時51分から午後10時22分まで13時間31分,10月1日が午前4時38分から午後11時29分まで17時間51分,10月2日が午前4時37分から午後9 時42分まで16時間5分),P2の当時の業務内容や精神状態にかんがみれば,事前に繁忙度が予測された 4時38分から午後11時29分まで17時間51分,10月2日が午前4時37分から午後9 時42分まで16時間5分),P2の当時の業務内容や精神状態にかんがみれば,事前に繁忙度が予測されたとしても,その事実のみから疲労の蓄積の程度が軽減することはないし,前記1(2)エ(カ)及び後記(3)で認定・判断する人的応援の規模に照らせば,短期間の過重労働によって,P2の疲労の蓄積の程度はより強まったものと認めるのが相当である。 なお,前記(2)認定のとおり,P2の本件疾病の発病時期は,一応,9月下旬ころであると認められるが,P2には,本件疾病に関する通院歴はなく,その発病時期については,一定程度の幅をもってとらえるのが相当であるから,発病時期ないしそれに近接する9月28日から10月2日まで間の長時間労働等の出来事についても,発病時期後の出来事として排除するのは相当でなく,業務による心理的負荷を評価するに当たっての考慮要素とするのが相当である。 (ウ) 周囲の支援状況前記1(2)エ(カ)記載のとおり,本件会社においては,新装開店準備業務については,現場の店舗ではなく本社が主導するため,本社のトレーニンググループ部署のトレーナーと新装改造店トレーナーが,新装開店準備業務の指示・サポートをすることとされていたところ,γ店の新装開店業務においても,エリアトレーナーのP10トレーナーと新装改造店トレーナーのP16トレーナーが担当して業務に当たっていた(前記のとおり,P16トレーナーの具体的な関わり方については,現場関係者の言及もなく,必ずしも明らかでない)。その一方で,本社所属のトレーナーらは,それぞれ複数の店舗を掛け持ちで担当するため,特定の店舗に常駐することはなく,結局,各店舗の売場部門の責任者であるチーフが,本社所属のトレーナ 明らかでない)。その一方で,本社所属のトレーナーらは,それぞれ複数の店舗を掛け持ちで担当するため,特定の店舗に常駐することはなく,結局,各店舗の売場部門の責任者であるチーフが,本社所属のトレーナーの指示に基づき,売場展開図作成,特売計画作成及びチラシ作成等の業務を担当せざるを得なかった。 このように,現場の店舗が,新装開店するに当たって,本社所属のト レーナーらの指示・サポートを受けることが可能であるとはいっても,実際には,店舗に常駐しないトレーナーが,現場作業,特に売場展開図やチラシ作成等の細かな作業を具体的に分担することまでは想定されていないため,こうした現場の細かい作業の負担については,現場のチーフの責任に負うところが大きかったと見るべきである。この点,P2の手帳やメモ(甲1,9,15)の記載内容を見ても,P2が新装開店業務に従事した期間全体を通じて,「チラシ」や「展開図」等の記載が多く認められ,これらに関わる各種現場作業が,P2の具体的な業務として比較的大きな割合を占めていたことがうかがわれる。 また,トレーナーが対象店舗に常駐しないことによって,現場で生じた問題や疑問点に対して,本社の立場から迅速に回答・助言をすることができない場合もあり得ることが当然に予想されるため,特にP2のような新任のチーフにとっては,必ずしも充分なサポート体制にあったとまでは言い難い側面もある。 結局,本件会社は,若年ながら仕事熱心で成績も良いP2に期待し,また,P2の一層の発展のための場を提供する意図も持って,P2をγ店の鮮魚部門のチーフとしたものと考えられるが,同店の新装開店準備業務における周囲の支援状況については,特に新任のチーフにとっては,必ずしも物理的・心理的に充分なものであったとまでは言い切れないと解される。 ( ーフとしたものと考えられるが,同店の新装開店準備業務における周囲の支援状況については,特に新任のチーフにとっては,必ずしも物理的・心理的に充分なものであったとまでは言い切れないと解される。 (エ) 以上のとおり,本件においては,業務上の出来事が複数重なっていること,継続的な長時間労働によって疲労が蓄積しており,労働時間がいったん減少した期間においても,それ自体で緊張を強いられる新装開店に向けた研修への参加等が義務付けられており,心身ともに休息できる状況にあったとは言い難く,新装開店直前・直後には再び1日10時間を超える長時間労働が数日間続いたこと,γ店の新装開店業務におけ る周囲の支援状況も新任のチーフにとっては必ずしも充分であったとまでは言い切れないことからすれば,P2の業務による心理的負荷の程度は,少なくとも「相当程度過重」であったと評価するのが相当である。 エ総合評価以上の検討結果を踏まえて検討する。 P2の業務について,β店への異動後短期間でのγ店への異動と同時に,新任のチーフへの就任,新装開店準備業務の担当等といった出来事の重なり,チーフ就任に伴う業務の質的・量的な増加に加えて,自身の人事考課の重要な要素ともなる新装開店後の売上増を期待される立場に置かれたことに伴う強度の精神的プレッシャー,周囲の支援状況,長時間労働による疲労の蓄積等を総合的に検討すれば,原告指摘にかかるその他の業務上の出来事について検討を加えるまでもなく,P2の本件疾病発病前の業務の心理的負荷の総合評価は,「強」であるとするのが相当である。 (4) 業務以外の心理的負荷,個体側要因証拠上,P2に精神障害が発病する原因となるべき業務以外の心理的負荷要因も,精神障害の発症につながる個体側要因も存在しない。 (5) 業務起因性 (4) 業務以外の心理的負荷,個体側要因証拠上,P2に精神障害が発病する原因となるべき業務以外の心理的負荷要因も,精神障害の発症につながる個体側要因も存在しない。 (5) 業務起因性以上のとおり,P2の本件疾病発病前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であり,その他精神障害の発病につながる業務以外の心理的負荷や個体側要因もないのであるから,判断指針・改正判断指針によっても,P2の本件疾病発病が同人の業務に起因するものであると認めることができる。 そして,本件疾病に伴う衝動的な希死念慮の他に,P2が自殺を図るような要因・動機を認めるに足りる証拠もないから,P2の自殺についても,同人が従事した業務に内在する危険が現実化したものと評価するのが相当である。 したがって,P2の本件疾病の発病及びこれによる自殺は,P2が,その 業務の中で,同種の平均的労働者にとって,一般的に精神障害を発症させる危険性を有する心理的負荷を受けたことに起因して生じたものと認めるのが相当であり,P2の業務と本件疾病発病及び自殺との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。 第4 結語以上の次第で,P2の精神障害の発病及び自殺が業務上の事由によるものとは認められないとして原告に対する遺族補償給付及び葬祭料を支給しないとした本件各処分は違法であり,取消しを免れない。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 裁判長裁判官白石 哲 裁判官菊池憲久 裁判官稲吉彩子 菊池憲久 裁判官稲吉彩子
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