平成25(ワ)5071 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年2月26日 東京地方裁判所
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平成26年2月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成25年(ワ)第5071号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成25年12月6日判決東京都新宿区<以下略>原告株式会社ジンム同訴訟代理人弁護士吉村俊信東京都港区<以下略>被告鹿島建設株式会社同訴訟代理人弁護士小林幸夫同坂田洋一同補佐人弁理士市東篤 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成25年3月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「地盤強化工法」とする特許権(以下「本件特許権」という。)の専用実施権者である原告が,被告に対し,被告が施工した「東京駅丸の内駅舎地下免震工事」(以下「本件工事」という。)が本件特許権を侵害している旨主張して,不法行為に基づく損害賠償又は不当利得に基づく利得金返還として9億7020万円の一部である1000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。 1 前提事実(後記(6)を除いて証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない ある平成25年3月7日から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。 1 前提事実(後記(6)を除いて証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 本件特許権本件特許権は,次のとおりである(本件特許権に係る特許公報〔甲2〕を末尾に添付し,これを「本件明細書」という。)。 特許番号特許第3793777号発明の名称地盤強化工法出願日平成7年8月14日出願番号特願平7-237509登録日平成18年4月21日(甲1,2)(2) 本件特許権の帰属と専用実施権本件特許権は,平成18年4月21日,原告を特許権者として登録され,アーク株式会社,株式会社ドオンファクトリー,株式会社エシックスに順次移転された後,A(原告代表者)に移転され(受付年月日・平成22年10月14日),更にAから日本知財開発株式会社に持分100分の30が移転された(受付年月日・同月19日)。この間,本件特許権の専用実施権(範囲を全部とする)が原告に対して設定された(受付年月日・同月14日)。 (甲1)(3) 特許発明本件特許権に係る請求項1の発明(以下,「本件特許発明」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)は,次のとおりである。 「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前期テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法であって,前記テーブルと地盤の中間に介在 する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法。」(注記:「前 工法であって,前記テーブルと地盤の中間に介在 する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法。」(注記:「前期テーブル」の箇所は誤記と解されるので,以下「前記テーブル」と表記する。)(4) 構成要件の分説本件特許発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。 A 鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,B 前記テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法であって,C 前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたことD を特徴とする地盤強化工法。 (5) 被告の行為被告,清水建設株式会社及び鉄建建設株式会社との共同企業体(ジョイントベンチャー)は,本件工事を含む「東京駅丸の内駅舎保存・復元工事」を受注し,平成19年4月から平成24年10月まで当該工事を施工した。 (甲3の1~3,甲4)(6) 本件工事に係る物件又は工法の特定原告は,本件工事に係る構造・構成をイ号物件として,別紙イ号物件目録記載のとおりに特定する。他方,被告は,本件工事に係る工法(以下「被告工法」という。)について,別紙被告工法目録記載のとおり特定する。 2 争点(1) イ号物件(被告工法)が本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点1) ア本件特許発明は物の発明か方法の発明か(争点1-1)イ構成要件Aの充足性(争点1-2)ウ構成要件Bの充足性(争点1-3) 的範囲に属するか(争点1) ア本件特許発明は物の発明か方法の発明か(争点1-1)イ構成要件Aの充足性(争点1-2)ウ構成要件Bの充足性(争点1-3)エ構成要件Cの充足性(争点1-4)オ構成要件Dの充足性(争点1-5)(2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)ア乙9号証に基づく新規性要件違反(争点2-1)イ乙9号証に基づく進歩性要件違反(争点2-2)ウ明確性要件違反(争点2-3)エ実施可能要件違反(争点2-4)(3) 原告の損害ないし損失の額(争点3) 3 争点に関する当事者の主張(1) イ号物件(被告工法)が本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア本件特許発明は物の発明か方法の発明か(争点1-1)(原告の主張)(ア) 本件特許発明は,建設工事により構築される構築物の構造・構成に関するものであり,経時的要素のない発明であるから「物の発明」であって,構築物の工事方法に関する「方法の発明」ではない。 (イ) 建設業界において,「工法」は,必ずしも「方法」を意味せず,構造ないし構成を意味する場合があることは,当業者の常識である。 建設業界においては,「工法」と「構造」が同義語として使用されている(甲18,19)。被告においても,「構造」に特徴を備えている装置を据付けることを「工法」と称している例があり,その典型例が「ウインカー工法」である(甲20)。 (ウ) 本件特許発明の名称は,出願時の名称「地盤強化テーブル」(甲15)を,建設業界の「工法」の用語の使用例に従って「地盤強化工法」に変更したものであって(甲1, る(甲20)。 (ウ) 本件特許発明の名称は,出願時の名称「地盤強化テーブル」(甲15)を,建設業界の「工法」の用語の使用例に従って「地盤強化工法」に変更したものであって(甲1,2),本件特許発明に係る技術の本質を変更したから,その名称を変更したのではない。 (エ) ある特許が「物の特許」か,又は「方法の特許」かは,当該特許の請求項の記載によって判断すべきである。 a 本件特許の出願時の請求項は,次のとおりである。 【請求項1】都市設計工法において,テーブルを地盤の上に造作することを特徴とする地盤強化工法。 【請求項2】請求項1記載の都市設計工法において,テーブルと地盤の中間に緩衝材を介在させることを特徴とする地盤強化工法。 上記地盤強化工法の「工法」は,同都市設計工法の「工法」と同義であって,「工程」や「方法」等における「プロセス」や「手順」の意味は含まれていない。 上記請求項1では「テーブルを造作する」,同請求項2ではテーブルと地盤の中間に「緩衝材を介在させる」とあり,「テーブル」と「緩衝材」が時系列に従う「工程」を示すものではなく,本件特許発明の構成要素である。 b 本件特許の請求項本件特許の請求項は「請求項1」のみで,出願時の請求項1・2をまとめたものであり,これを段落で分けると次のとおりとなる。 ① 鉄骨などの構造材で強化形成されたテーブルを地盤上に設置し,前記テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または人口造成地を配置する地盤強化工法であって,② 前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,③ 前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地 ,橋などの構造物,または人口造成地を配置する地盤強化工法であって,② 前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,③ 前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠 点に対応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法上記①の段落は,出願時の請求項1に「テーブル上に建築物,道路,橋などの構造物,人口造成地を配置する」と加えて記載している。同段落の「テーブル上に配置する建築物」について,新築する建築物に限ることや,既存の建物を除くこと,または「一体的なものである」等の記載はないから,「新築する建築物に限る」とか,「既存の建物を除く」とか,または「一体的なものであるか否かが問われること」等を解釈として導き出すことはできない。 上記①の段落の末尾に「地盤強化工法であって,」として意味的に区切る記載があり,同段落では「テーブル」が設置されること,上記②の段落では「緩衝材」を設けることが別個ものとしてあり,「テーブル」と「緩衝材」が経時的に,あるいは手順において関連するのではなく,それぞれが「構造」を構成するものとして記載されている。 c 本件特許の請求項1(本件特許発明)を解釈すれば,本件特許発明がプロセス(工程)や手順の「方法の発明」ではなく,構築物の構造,構成に特徴を備える「物の発明」であることは明白である。 (被告の主張)(ア) 本件特許発明は工法(方法)の発明であるから,原告の主張のように,本件特許発明の工法により結果として構築される「物」の構造のみを比較しても無意味であり,工法自体(方法)を比較して,技術的範囲の属否を判断しなければならない(特許法2条3項2号,3号)。 したがって,単に,東京駅丸の内駅舎の地下 「物」の構造のみを比較しても無意味であり,工法自体(方法)を比較して,技術的範囲の属否を判断しなければならない(特許法2条3項2号,3号)。 したがって,単に,東京駅丸の内駅舎の地下免震化構造を,本件特許発明により構築される構造と対比して技術的範囲に属するとしている原告の主張は根本的に誤っている。 (イ)a 本件特許発明の名称は,「地盤強化工法」である。工法の辞書的意義は,「加工・工事などにおける造り方・組立て方。」(乙12) であって,発明の名称自体から,本件特許発明が,工事の方法に関する発明であることは明らかである。 建築大辞典第2版(乙13)には,「工法建物の組立て方,造り方,施工の方法,広義には構法を含む。」とあり,「構法建築の実体の構成方法。」と説明されており,工法とは,施工の方法等の方法を指す用語であることは明らかである。 原告は,甲18~20号証を挙げて,建設業界において「工法」は,必ずしも「方法」を意味せず,構造ないし構成を意味する場合があることは,当業者の常識であると主張する。しかし,甲20号証の「工法」がそのような意味で使用されていないことは,甲20号証における「『ウインカー工法』は,積層ゴムを鋼製のウイングプレートを介して基礎に固定する据付工法で…。特殊な装置が必要ない固定方法で,…。」という記載からも明らかであるし,甲18・19号証についても,ここで記載されている「構造」とは「工法」により施工された物として記載されているにすぎない。 b 特許請求の範囲の前半部分においては「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前記テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法 請求の範囲の前半部分においては「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前記テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法」のように,「設置し」「配置する」と2つの動詞が使用され,かつ,「前記テーブルの上部に」という指示語を挟んでこれら2つの動詞が並べられることで,この2つの動詞により規定される作業がこの順番に相前後すること,すなわちテーブルを設置した後に,その上部に建物を配置するという経時的要素も明らかに記載されており,当該部分は,「物」ないし構造ではなく「方法」について記載したものであることは,一見して明白である。 これに続く特許請求の範囲の後半部分「前記テーブルと地盤の中間 に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法」との部分においても,「設け」という動詞が使用され,同様に本件特許発明が方法の発明であることを裏付けている。 c 発明の名称においても,特許請求の範囲においても,「工法」という用語を選択して本件特許権を取得し,かつ,当該「工法」という用語は,施工の方法等の方法を指す用語であることが客観的に明らかなのであるから,これに反して,原告が本件特許発明を「物の発明」であるなどと主張することは到底許容されない。 (ウ) 特許法70条2項によれば,特許発明の技術的範囲を定めるにあたって,願書に添付した明細書の記載を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとされている。 本件明細書【0008】には,「施工手順としては,地盤5を掘削して,掘削面上に緩衝材4を配置し,その上部にテーブル2を配置して, 囲に記載された用語の意義を解釈するものとされている。 本件明細書【0008】には,「施工手順としては,地盤5を掘削して,掘削面上に緩衝材4を配置し,その上部にテーブル2を配置して,テーブル2上に緩衝材3を配置し,その後に,緩衝材3上にテーブル1を配置し,しかる後に,テーブル1内に基礎6を設けて,建築物7を築造する。」との記載がある。 上記の記載によれば,地盤を掘削して,そこにまず緩衝材を配置し,その上にテーブルを配置し(テーブルを複数層設ける場合には,更に緩衝材の配置とその後のテーブルの配置を繰り返し),しかる後に,テーブル内に基礎を設けて建築物を築造する方法が記載されている。すなわち,①地盤の掘削,②緩衝材の配置,③テーブルの配置(テーブルを複数層設ける場合は②③の繰り返し),④テーブルへの基礎の構築,⑤建築物の築造といった順番で,地盤強化工法が経時的要素に従って記載されているのである。 そして,緩衝材の配置とテーブルの配置方法について,その他の方法, とりわけ,先に建築物や街区が設けられている場合において,後からいかにして建築物や街区が設置されている地盤と当該建築物や街区との間にテーブルと緩衝材を設けるかの方法については,一切記載がない。 (エ) 本件明細書には,「テーブル」及び「緩衝材」によって構成されることによる目的と,その作用,効果の記載はあるが,手順から得られる技術的利益や作用,効果の記載はない。 このような本件明細書の記載からすると,本件特許発明は,特許請求の範囲や本件明細書【0008】に記載されたような方法の発明であることは明らかである。 イ構成要件Aの充足性(争点1-2)(原告の主張)(ア) 別紙イ号物件目録記載アの「 の範囲や本件明細書【0008】に記載されたような方法の発明であることは明らかである。 イ構成要件Aの充足性(争点1-2)(原告の主張)(ア) 別紙イ号物件目録記載アの「東京駅丸の内駅舎地下の地盤に新設した地下躯体の上に鉄筋コンクリートにより強化形成された人工地盤を設置し」は,構成要件Aを充足する。 上記の東京駅丸の内駅舎地下の新設地下躯体は,構成要件Aの「地盤」に該当する。上記の人工地盤は,構成要件Aの「テーブル」に該当する。 (イ) 甲6号証の1の東京駅丸の内駅舎のデフォルメ化された東京駅丸の内駅舎の地上・地下の二つの画像のいずれにも,地下の免震装置の上の空白部分と地上の駅舎下の空白部分の間に描かれている「黒い横線」が,「テーブル」に該当する。 甲12号証の2の地下断面図の内,上から2~5番目の地下断面図に横一線に濃い青線で示されている部分が「テーブル」に該当する。甲12号証の1の2枚目に,東京駅丸の内駅舎の「1階部分に新しく構築した鉄筋コンクリートの土台」,「1階部分の地盤」と説明されている。 (ウ) 構築したテーブルの上に建築物等を築造するか,既存建物の下にテ ーブルを構築するかは,工程の相違にすぎない。本件特許発明は,方法の発明ではないから,完成後の構造がテーブルの上に建築物等が配置されていれば本件特許発明の技術的範囲に属する。 (エ) 被告主張の地下躯体(地下1・2階の躯体)(原告のいう下層構造体)は,地盤(自然地盤)ではないが,概念上地盤と同等なものと認識されるべきものである。 (被告の主張)本件特許発明の「テーブル」は,テーブルの上部に配置する建築物等を地震等から保護する目的で配置するもので,その建築物等の基礎を 等なものと認識されるべきものである。 (被告の主張)本件特許発明の「テーブル」は,テーブルの上部に配置する建築物等を地震等から保護する目的で配置するもので,その建築物等の基礎を設けるべき構造体であり,建築物等を配置する前に存在していなければならない。 そのため,本件特許発明の「テーブル」は,上部の建築物等を配置する工程(構成要件B)の前段階において,その建築物等とは別に築造しなければならないものである。 これに対し,被告工法の「1階躯体」は,巨大な既存駅舎の荷重を松杭(既存の基礎杭)から仮受け支柱に乗せ替える目的で,既存駅舎の構造躯体を仮受け支柱につなぐ,既存駅舎の壁部と一体化する「縦梁」と「つなぎ梁」とから成る荷重伝達梁構造であり,既存駅舎の基礎とは別体に,新たに設けるべき対象物となるものではない。すなわち,地下躯体の構築中において地上の既存駅舎の基礎となるのは複数の仮受け杭であり,被告工法の「1階躯体」は,地下躯体の構築中に既存駅舎に加わる荷重(例えば巨大地震による地震荷重等)を仮受け支柱に伝えるための荷重伝達構造体である。そのため,被告工法の「1階躯体」は,既存駅舎の一部を使用しなければ構築できないものであり,既存駅舎と一体的に構築しなければならないものである。 原告は,被告工法の「地下躯体」が本件特許発明の「地盤」に該当するとも主張している。しかし,被告工法の「地下躯体」は,既存駅舎の「1 階躯体」を構築した後の工程において逆打ち工法で既存駅舎の地下に新設するものであり,「1階躯体」を構築する工程においては存在していない。 そもそも,被告工法の「地下躯体」は「地盤」中に構築するものであって文言上も「地盤」そのものではないから,この点に関する原告の主張は理由がない。 ウ を構築する工程においては存在していない。 そもそも,被告工法の「地下躯体」は「地盤」中に構築するものであって文言上も「地盤」そのものではないから,この点に関する原告の主張は理由がない。 ウ構成要件Bの充足性(争点1-3)(原告の主張)(ア) 別紙イ号物件目録記載ウの「上記人工地盤の上部に,東京駅丸の内駅舎全体の荷重を移す」は,構成要件Bを充足する。 上記の人工地盤上にその荷重が移された東京駅丸の内駅舎は,構成要件Bの「テーブルの上部に立設された建築物」に該当する。 (イ) 被告が1階に新たに構築した土台たるコンクリート躯体は,本件特許発明の「強化,形成されたテーブル」であり,同躯体上の既存駅舎は本件特許発明の「テーブルの上に配置された建築物等」に該当する。 (被告の主張)本件特許発明の「地盤強化工法」は,先ず地盤上に緩衝材を配置して安定した(免震化された)テーブルを設置したうえで,その後に,テーブル上に建築物等を配置することにより建築物等を地震等から保護するものである(本件明細書【0004】【0005】)。すなわち,テーブルを設置する段階において上部の建築物等は存在しておらず,テーブルを設置する工程(構成要件A)の後に建築物等を配置する(本件明細書【0008】)。 これに対し,被告工法は,新築建物ではなく重要文化材である既存駅舎(東京駅丸の内駅舎)の免震化を目的としたものであり,「1階躯体」を構築する段階において,免震化対象の既存駅舎は当然に存在している。被告工法では,構成要件Bの「テーブルの上部に建築物等を配置する工程」 は存在しない。 原告は,本件工事における「人工地盤の上部に,東京駅丸の内駅舎全体の荷重を移す」工程が構成要件Bを充 では,構成要件Bの「テーブルの上部に建築物等を配置する工程」 は存在しない。 原告は,本件工事における「人工地盤の上部に,東京駅丸の内駅舎全体の荷重を移す」工程が構成要件Bを充足すると主張する。しかし,被告工法は,地下躯体を新設した後に既存駅舎の1階躯体(土台)と地下躯体との間に免震装置を設置し,既存駅舎の1階躯体の下部において荷重を仮受け支柱から免震装置上に受替えする工程であって,1階躯体の上部に既設駅舎(東京駅丸の内駅舎)の荷重を移す工程ではない。構成要件Aに関して述べたように,被告工法の「1階躯体」は既存駅舎と一体的に構築されるものであり,「1階躯体」を構築した後に既存駅舎の荷重を移す工程は被告工法に存在していない。したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。 エ構成要件Cの充足性(争点1-4)(原告の主張)(ア) 別紙イ号物件目録記載イの「上記人工地盤と新設地下躯体との中間に介在する免震装置(免震ゴム支承)を設け,同人工地盤が新設地下躯体及び地盤との関連を断って地震に対応するようにしたこと」は,構成要件Cを充足する。 上記の人工地盤と新設地下躯体との中間に介在する免震装置(免震ゴム支承)は,構成要件Cの「テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材」に該当する。 本件特許発明の「緩衝材」とは,「砕石,ゴム,発泡スチロール,砂など」であって(本件明細書【0012】),砕石,ゴム,発泡スチロールおよび砂に限らず,流体の他にテーブルと既存の地盤との間に介在して地盤に起因する欠点との関連を断つことが可能なあらゆる免震材料を含む趣旨である。 (イ) 甲3号証の1・2の東京駅丸の内駅舎の地下断面図の「免震層」に 点在する「赤色」部分が甲3号証の3 起因する欠点との関連を断つことが可能なあらゆる免震材料を含む趣旨である。 (イ) 甲3号証の1・2の東京駅丸の内駅舎の地下断面図の「免震層」に 点在する「赤色」部分が甲3号証の3のアイソレーターで,「緩衝材」に該当する。 甲6号証の1の東京駅丸の内駅舎の二つの画像の地下断面図のU字型の下層構造体の内側に,左側の「地震前」の画像では「5つの黒い四角形」として描かれている部分,右側の「地震時」の画像では「5つの黒いひし形」として描かれている部分がアイソレーターで,「緩衝材」である。 甲12号証の2の東京駅丸の内駅舎の地下断面図の内「5.免震化(完成)」の地下断面図に,濃い青色で描かれている「テーブル」の下側に接して点在する空色部分(「免震装置」と説明してある)がアイソレーターで,「緩衝材」に該当する。 (ウ) 構成要件Cの「地盤」は自然地盤である。なお,本件工事では,免震装置を支えている下層構造体は,地下構造物と一体となって構築され,「地盤」に起因する欠点に対応しているから,本件特許発明の「テーブル」に該当する(本件明細書【図1】のテーブル2,【0006】【0007】を参照)。 (エ) 構成要件Cの「テーブルが既存の地盤との関連を『断って』」とは,東京駅丸の内駅舎地下の下層構造体との間に免震装置(アイソレーター)を設置し介在させた上層構造体(テーブル)が相当する。 免震装置を上層構造体と下層構造体の間に介在させることによりテーブルと地盤は,当然のことながら直接連結しておらず,両者は構造的に離れており,その状態は「断たれて」いるということができる。「連結」は,離れているもの(断たれているもの)を「つないで結び付ける」意味であるから,「両者が断たれていること」と「 らず,両者は構造的に離れており,その状態は「断たれて」いるということができる。「連結」は,離れているもの(断たれているもの)を「つないで結び付ける」意味であるから,「両者が断たれていること」と「両者が連結していること」は矛盾しない。 本件特許発明における「断つ」は,構造的な相互関係をいうのではな く,作用・効果の観点から判断される相互作用を表している。 (オ) 被告は,地下1・2階の地下躯体と既存駅舎の1階躯体との間に免震装置を設置したものであるとしている。 緩衝材の一種にゴムと記載されていれば,アイソレーター(積層ゴム)を含む免震装置を指すことは当業者の常識である(甲22)。免震装置にはダンパーが含まれる(乙7)。 (被告の主張)本件特許発明は,テーブルと地盤との関連を断つことによってテーブル上に基礎を設けた建築物等を地震等から保護するものであり(本件明細書【0004】【0005】),テーブルを配置し,テーブルと地盤との間に採石,ゴム,発砲スチロール,砂等の緩衝材を介在させることによって耐震性を得るものである(本件明細書【0012】)。 本件特許発明において「緩衝材」が如何なる原理で耐震性を得るのか不明であるが,一般に「耐震性」とは,地震時の水平力に対して抵抗する部材(耐震要素)の作用であり,バネ支承(積層ゴム等)とダンパー(オイルダンパー等)とからなる免震装置の作用とは異なるものである(乙2の2頁,乙7,乙8の2・3頁)。 本件特許発明の「緩衝材」は,建築部等の基礎を設けるテーブルと地盤との間に介在して,テーブルと地盤との関連を断つ作用と,地震時の水平力に対して抵抗する耐震性の作用と,直下型地震に対しても有効に機能する安定した地盤を得られる作用 築部等の基礎を設けるテーブルと地盤との間に介在して,テーブルと地盤との関連を断つ作用と,地震時の水平力に対して抵抗する耐震性の作用と,直下型地震に対しても有効に機能する安定した地盤を得られる作用を有している(本件明細書【0003】)。 そうであるならば,「緩衝材」は地震力が伝搬してくる媒体である地盤と直に接していなければならない。 さらに,上記のような材質による「緩衝材」には,免震装置のようにテーブル上の建築物を地震後に元の位置へ戻す作用と,地震時の建築物等の揺れを早期に減衰させる作用とを有しているとは認められない。 これに対し,被告工法は,地下1・2階の地下躯体と既存駅舎の1階躯体との間に免震装置を設置したものであり,既存駅舎の基礎と地盤との中間に免震装置を設けたものではない。 また,被告工法の「免震装置」は,積層ゴムと減衰力の大きいオイルダンパーとからなるものであり,積層ゴムによって地震後に地上駅舎を元の位置へ戻すことができ,オイルダンパーによって地震時の地上駅舎の水平変形量を小さく抑えて周辺および隣接構造物との衝突を避けることができるものである。 原告は,甲5号証に記載された被告工法の「アイソレータ(絶縁器)」すなわち積層ゴムは,本件特許発明の緩衝材と同様に地震力の伝達を「断つ」という作用・効果を有しているから,被告工法の免震装置は本件特許発明の緩衝材に該当すると主張している。 しかし,被告工法の免震装置はアイソレータ(積層ゴム)だけからなるものではなく,積層ゴムと減衰力の大きいオイルダンパーとからなるものである。減衰力を有するダンパーがなければ,地震時に東京駅舎の変位を一定制限値内に制御することができず,免震建築物等と周囲の建築物との衝突を避けられないし,地震 の大きいオイルダンパーとからなるものである。減衰力を有するダンパーがなければ,地震時に東京駅舎の変位を一定制限値内に制御することができず,免震建築物等と周囲の建築物との衝突を避けられないし,地震後に免震建築物等の揺れを減衰させることもできない。すなわち,被告工法の免震装置と本件特許発明の緩衝材とは周囲の建築物と,東京駅舎との衝突を避ける作用・効果が相違しているから,原告の主張は理由がない。 オ構成要件Dの充足性(争点1-5)(原告の主張)(ア) 本件特許発明を「地盤強化工法」としたのは,地震に限定せず,地層,地形,地質,造成地による欠点からテーブル上に配置する建築物等を保護する目的で「テーブル」を構築する発明であるからである。地震に限っていえば,上記「テーブル」の目的は,テーブル上に配置する建 築物等を地震から保護することにある。 本件工事により,既存駅舎の1階に新たに鉄筋コンクリート製の躯体を構築した目的は,既存駅舎1階に強化形成した土台を構築することにより既存駅舎を免震化すること(地震から保護すること)にある。 本件工事により既存駅舎の1階に構築した土台は,本件特許発明のテーブルであり,被告のいわゆる人工地盤である。 (イ) 本件特許発明が保護の対象とする建築物等は,「テーブル」の上に配置する建築物等である。本件工事が既存駅舎の免震化を目的とし,地下躯体(地下1・2階の躯体)の免震化を目的としていない点は,本件特許発明と同じで相違はない。 (被告の主張)本件特許発明は,地層,地形,地質,人工造成地に問題がある場合に,局所的な強化だけでなく広い範囲で安定した地盤にすること,とくに直下型地震に対しても有効に機能する安定した地盤が得られる「地盤強 本件特許発明は,地層,地形,地質,人工造成地に問題がある場合に,局所的な強化だけでなく広い範囲で安定した地盤にすること,とくに直下型地震に対しても有効に機能する安定した地盤が得られる「地盤強化工法」の提供を目的としている(本件明細書【0002】【0003】)。 そして,この目的を達成するため,地盤上にテーブルを形成すると共に地盤とテーブルとの間に緩衝材を介在させ,テーブルと既存の地盤との関連を断つことにより,テーブル上に配置する建築物等を地層,地形,地質,人工造成地に起因する地震,地崩れ,局所的な液状化から保護する(本件明細書【0004】【0005】【0012】【0015】【図1】)。 施工手順としては,先ず地盤を掘削して掘削面上に緩衝材を配置し,その上部にテーブルを配置し,そのテーブル内に基礎を設けて建築物等を築造する(本件明細書【0008】)。 以上のとおり,本件特許発明は,建築物等の基礎を設ける対象の地盤を掘削して,掘削面上に緩衝材を配置し,その上にテーブルを配置して,その後に,テーブル上に配置する建築物等の全体を,地震等から保護するも のである。 これに対し,被告工法の「免震化工法」は,地下1・2階に地下躯体をつくりながら重要文化材である既存駅舎(東京駅丸の内駅舎)を免震化することを目的するものであり,既存駅舎の基礎を設ける地盤の強化を目的とするものでは全くない。 また,被告工法は,免震層より下部の階層(地下1・2階)においては,地上駅舎と同様の保護(地震からの保護)が全く得られない点でも,建築物等の全体を地震から保護する本件特許発明とは完全に相違するのである。 さらに,被告工法は,免震層より下部の階層(地下1・2階)を取り囲む地盤を強化するため )が全く得られない点でも,建築物等の全体を地震から保護する本件特許発明とは完全に相違するのである。 さらに,被告工法は,免震層より下部の階層(地下1・2階)を取り囲む地盤を強化するための工程が皆無であるため,地上駅舎と同様の保護(地震からの保護)が全く得られない点でも,建築物等の全体を地震から保護する本件特許発明とは完全に相違するのである。 (2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)ア乙9号証に基づく新規性要件違反(争点2-1)(被告の主張)(ア) 本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙9号証(特開平5-18141号公報)には,次のような発明(以下「乙9発明」という。)が記載されている。 a1.桁・大梁等の土木構造物又は建築構造物からなる人工地盤を,支持台が設置又は埋め込まれた地盤上に設置し(【0011】【0018】【0027】),b1.人工地盤の上部に各種建築構造物や土木構造物等を設置する工法であって(【0001】【0002】),c1.人工地盤と地盤との中間に介在する振動減衰体及び粘弾性ダンパーを設け(【0013】【0019】【0027】),地盤の 振動を人工地盤に直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝えると共に水平方向及び上下方向の振動を吸収するようにした(【0016】【0033】)d1.地震時の制振対策工法(発明の名称,【0001】)。 (イ) 本件特許発明と乙9発明を対比すると,乙9発明の「桁・大梁等の土木構造物又は建築構造物からなる人工地盤」は,上部に設置する各種建築構造物や土木構造物等を桁・大梁等の構造材によって支持する台(テーブル)であり,上部の構造 を対比すると,乙9発明の「桁・大梁等の土木構造物又は建築構造物からなる人工地盤」は,上部に設置する各種建築構造物や土木構造物等を桁・大梁等の構造材によって支持する台(テーブル)であり,上部の構造物を支持する強度を有するものであるから,本件特許発明の「構造材で強化,形成されたテーブル」に相当する。本件特許発明の「テーブル」は側壁において周囲の環境との干渉を解消できるものであり(本件明細書【0010】),複葉構造とすることができるものであるが(本件明細書【0007】【0013】),乙9発明の「人工地盤」も外周壁(側壁)によって周囲との干渉を避けることができ,複葉構造とすることができるものであるから,乙9発明の「人工地盤」は本件特許発明の「テーブル」と共通の作用効果を有している。乙9発明の人工地盤上に設置する「各種建築構造物や土木構造物等」は,本件特許発明のテーブル上に配置する「構造物」に相当している。すなわち,乙9発明の構成a1及びb1は,本件特許発明の構成要件A及びBと一致している。 また,乙9発明の「人工地盤と地盤との中間に介在する振動減衰体及び粘弾性ダンパー」は,積層ゴム等を用いて地盤の振動を減衰するものであるから,同じくゴム等を用いて耐震性を得る本件特許発明の「テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材」に相当する(本件明細書【0012】)。乙9発明の「振動減衰体及び粘弾性ダンパー」は,横揺れ(水平方向の振動)だけでなく縦揺れ(上下方向の振動)に対応できる点でも,本件特許発明の「緩衝材」と共通の作用効果を有している(本件明 細書【0012】)。 さらに,乙9発明の「地盤の振動を人工地盤に直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝えると共に水平方向及び上下方向の振動を吸収する」ことは,振 細書【0012】)。 さらに,乙9発明の「地盤の振動を人工地盤に直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝えると共に水平方向及び上下方向の振動を吸収する」ことは,振動減衰体及び粘弾性ダンパーによって地盤から人工地盤への直接的な振動伝達を断って,地盤の地震動に対応することであるから,地盤に起因する欠点の一例として地震(本件明細書【0003】【0005】【0015】)を含む本件特許発明の「テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応する」ことに相当する。乙9発明の「地震時の制振対策工法」は,人工地盤上に設置する構造物を地震から保護するためのものであるから,本件特許発明の「地盤強化工法」に相当する。すなわち,乙9発明の構成c1及びd1も,本件特許発明の構成要件C及びDと一致している。 しかも,乙9号証の①先ず地盤にくぼみ部を掘削し,②次に掘削したくぼみ部に振動減衰体を配置し,③その振動減衰体の上部に人工地盤を設置するという施工手順(【0001】【0018】)は,同様に①先ず地盤を掘削し,②次に掘削面上に緩衝材を配置し,③その上部にテーブルを配置する本件特許発明の施工手順(本件明細書【0008】)と一致している。 (ウ) したがって,本件特許発明と乙9発明との間に相違点はなく,本件特許発明は新規性を有しない。 (原告の主張)甲26号証記載のとおり,本件特許発明と乙9発明とは,技術分野において異なり,構成,作用,効果及び目的においても明らかに相違する。 乙9号証には,次のような発明が記載されている。 ① 「人工地盤の一軸線回りの回転を自在にする回転支持部材が地盤と人工地盤との間に取り付けられている」(請求項1) 乙9号証には,次のような発明が記載されている。 ① 「人工地盤の一軸線回りの回転を自在にする回転支持部材が地盤と人工地盤との間に取り付けられている」(請求項1) ② 「回転支持部材により,人工地盤の落下を防ぎ,人工地盤にねじれの応力が集中するのを防ぎ,人工地盤が破壊されるのを防ぐことができる。」(効果)③ 「回転支持部材により,地盤から人工地盤にかかるねじれの回転に対応することができ,人工地盤が落下されるのが防止される。」(【0033】)④「人工地盤の安全性,特にねじり回転に対する安全性を高めるとともに,人工地盤の構造上の安全性を保つことができる。」(【0035】)以上のごとく,乙9発明は,「回転支持部材」を取り付けることによって,人工地盤の「安全性を向上させ」(【0004】)るものである。 本件特許発明は,「鉄骨などの構造材で強化形成されたテーブルを地盤上に設置」(請求項1)することによって「都市や街区を保護する」(発明の効果)ものである。 上記のとおり,乙9発明と本件特許発明とは,その構成及び作用効果に顕著な相違が認められる。 イ乙9号証に基づく進歩性要件違反(争点2-2)(被告の主張)(ア) 本件特許発明と乙9発明とに相違点は見出せないが,本件明細書に記載された実施例を参酌すると次のような相違点を一応見出すこともできる。 α.本件特許発明の「テーブル」の実施例はコンクリート構造であるのに対し(本件明細書【0006】),乙9発明には「人工地盤」をコンクリート構造とすることが明示されていない点β.本件特許発明の「緩衝材」の実施例はゴム以外に耐震性を得る採石等を含むのに対し(本件明 細書【0006】),乙9発明には「人工地盤」をコンクリート構造とすることが明示されていない点β.本件特許発明の「緩衝材」の実施例はゴム以外に耐震性を得る採石等を含むのに対し(本件明細書【0012】),乙9発明には 「振動減衰体」を採石等とすることが明示されていない点(イ) しかし,本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙10号証(特開平2-232426号公報)には,次のような発明(以下「乙10発明」という。)が記載されている。 a2.鋼製構造板,繊維補強コンクリート製構造板,又はプレストレストコンクリート製構造板製の人工地盤(31,51)を,地表面より低い高さの地盤(5)上に設置し(3頁左上欄5~7行,右上欄9行~左下欄10行),b2.人工地盤の上部に一戸建て住宅,複数戸建て住宅,アパート等の一般住宅,倉庫,変電所,工場の建屋等の低荷重構造体(1,53,55,57)を建築する工法であって(1頁右下欄19行~第2頁左上欄2行,3頁左下欄11~13行,4頁右上欄16行~左下欄4行),c2.人工地盤と地盤との中間に介在する積層ゴム又はボールベアリング製の免震支持装置及び除振装置(15,37)を設け(3頁左上欄12行~右上欄8行,左下欄19行~右下欄9行,5頁左上欄1~7行),人工地盤によって戸建住宅を免震支持すると共に上下方向の微振動を減衰するようにした(3頁右下欄10行~第4頁右上欄15行)d2.免震支持方法(発明の名称)。 また,乙10号証には,次のような事項が記載されている。 (イ)(免震支持装置の構成として)免震支持装置15は……弾性支持体17と……エネルギー吸収体19とで構成する(3頁左上欄12行~右上欄 10号証には,次のような事項が記載されている。 (イ)(免震支持装置の構成として)免震支持装置15は……弾性支持体17と……エネルギー吸収体19とで構成する(3頁左上欄12行~右上欄8行)。免震支持装置は……例えば,ハイダンピング積層ゴムにより……,或いはボールベアリング……により構成してもよい(5頁左上欄1~7行)。 (ロ)(地盤沈下への対応に関して)部分的な地盤沈下が生じても,弾性支持部材17と人工地盤31の間にスペーサを介在させる等容易に対応できる(4頁左上欄20行~右上欄2行)。 (ウ) 人工地盤と地盤との間に免震装置を介在させて人工地盤上の構造物を保護する免震構造の技術分野において,人工地盤をコンクリート構造とすること(構成a2),及び免震装置として積層ゴム以外にボールベアリング等を用いること(構成c2)は,いずれも乙10号証に記載されている。本件特許発明において採石等を用いて耐震性を得る原理は不明であるが,例えばボールベアリングと同様に採石等の上でテーブルを滑らせることにより耐震性を得るものと考えられる。したがって,乙10号証に記載されたコンクリート構造の人工地盤(構成a2)及びボールベアリング製の免震装置(構成c2)を乙9発明に適用すれば,本件特許発明と乙9発明との相違点α及びβは充当される。 そこで,乙10発明の構成を乙9発明に適用することが容易であるか否かを検討するに,両者はいずれも人工地盤と地盤との間に免震装置を介在させた免震構造であって技術分野が関連する発明であるから,当業者であれば,技術分野の関連性を動機付けとして乙10発明の構成を乙9発明に適用することは容易にし得るものであり,そのような適用によって本件特許発明の構成に容易に想到し得るものである。 るから,当業者であれば,技術分野の関連性を動機付けとして乙10発明の構成を乙9発明に適用することは容易にし得るものであり,そのような適用によって本件特許発明の構成に容易に想到し得るものである。 しかも,本件特許発明により得られる「(テーブル上の)施設等を地震による危険から保護することができる」(本件明細書【0015】)という効果は,「人工地盤の安全性を高める」という乙9号証の奏する効果,及び「人工地盤によって戸建住宅を免震支持する」という乙10号証の奏する効果と同一である。すなわち,本件特許発明の効果は,乙10発明を乙9発明に適用した構成から当然に予測又は発見される範囲内のものにすぎず,予測又は発見することが困難な顕著な効果というこ とはできない。 (エ) したがって,本件特許発明は,乙9発明及び乙10発明に基づき,特許出願前に当業者が容易に発明することができたものである。 (原告の主張)甲26号証記載のとおり,本件特許発明と乙10発明とは,技術分野において異なり,構成,作用,効果及び目的においても明らかに相違する。 乙10号証には,次のような発明が記載されている。 ① 「低荷重構造体の免震方法」(1頁左下欄18行)② 「低荷重構造体を免震支持する場合,オフィスビルや橋等の高荷重構造体と同様に免震支持装置の上に低荷重構造体を載置固定したのでは,風等の外力が作用した場合,構造体の転倒を防止する上で不利であった。」(2頁右上欄4~8行)③ 「人工地盤を設けることにより免震支持装置で支持する構造体側の荷重が大きくなり,免震支持装置の設計上有利となり,また低荷重構造体の転倒防止上も有利となる。」(2頁左下欄12~15行)以上のごとく を設けることにより免震支持装置で支持する構造体側の荷重が大きくなり,免震支持装置の設計上有利となり,また低荷重構造体の転倒防止上も有利となる。」(2頁左下欄12~15行)以上のごとく,乙10発明は,「低荷重構造体」に人工地盤を設けることで「荷重」を加え,「構造体の転倒防止」をするというものである。 本件特許発明は,「テーブル」を設置して地盤の地層,地質,造成による欠点,地震,地崩れによる危険から,「都市」,「街区」などを保護するものである。 上記のとおり,乙10発明と本件特許発明とは,技術分野が異なり,また作用効果においても相違がある。 また,本件特許発明と乙10発明との相違として,「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブル」に建築物や道路,橋などの構造物を構築することで「都市」を設計する本件特許発明と,「荷重」を付加するための人工地盤を設置して「低荷重構造体」の転倒を防止するとした乙10発明 は,目的,構成において顕著な相違が認められる。 ウ明確性要件違反(争点2-3)(被告の主張)本件特許発明は,テーブルと地盤との中間に「緩衝材」を介在させることによって,「テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応する」と規定している(構成要件C)。 ここで「地盤に起因する欠点」という用語は,通常は地盤の有する物理的な欠点(例えば,地下水位の位置,透水性,地盤支持力,等),化学・生物的な欠点(例えば,重金属・揮発性物質から生ずる人体へのリスク,土壌中の微生物活動による有毒ガスの発生,等),地学的な欠点(例えば,地質,岩質,活断層の存在,等)を全て含む意義と解されるのに対し,本件特許明細書には「地層,地形,地質,人工造成地に起因する ク,土壌中の微生物活動による有毒ガスの発生,等),地学的な欠点(例えば,地質,岩質,活断層の存在,等)を全て含む意義と解されるのに対し,本件特許明細書には「地層,地形,地質,人工造成地に起因する地震,地崩れ,局所的な液状化」(本件明細書【0005】【0015】)と記載されているのみであり,地盤に起因する他の欠点は記載されていない。すなわち,本件特許発明の「地盤に起因する欠点」という用語は,明細書において通常の意義と異なる「地震,地崩れ,局所的な液状化」に限定する記載がされており,この「地震,地崩れ,局所的な液状化」以外の欠点を含むか否かが不明であるため,本件特許発明が不明確なものとなっている。 また,本件特許発明の「緩衝材」は「テーブルが既存の地盤との関連を断つ」という技術的意義を有するところ,本件明細書には「砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などの緩衝材を介在させることによって耐震性を得る」(【0012】),「地形が変動して平衡を欠いても,流動性を有する緩衝材を使用することによって,また緩衝材を低い箇所に補うことによって平準化が容易にできる」(【0014】)と記載されているのみである。このうち「耐震性」については,既存の地盤の振動がテーブルに直接伝わらないように関連を断つという技術的意義が一応導き出せるものの, 「平準化」については,如何なる意味において「テーブルが既存の地盤との関連を断つ」という働き・役割を果たすのか不明である。本件明細書【0014】の記載を自然に解釈すれば,地形が変動して平衡(水平)を欠いた部分に,①「緩衝材」を流動させて補填することによって平準化(水平)を回復すること,あるいは②「緩衝材」を新たに補充することによって平準化(水平)を回復することを導き出せるが,これら①②は「緩衝材」だけで自 「緩衝材」を流動させて補填することによって平準化(水平)を回復すること,あるいは②「緩衝材」を新たに補充することによって平準化(水平)を回復することを導き出せるが,これら①②は「緩衝材」だけで自然に生ずる働き・役割ではなく,他の技術的手段を必要とすることは明らかであるから,本件特許発明は発明を特定するための事項が不足しているため不明確となっている。 すなわち,明細書の記載を参照しても,本件特許発明の「緩衝材」の「テーブルが既存の地盤との関連を断つ」という技術的意義を理解することができないため,本件特許発明が不明確なものとなっている。 したがって,本件特許発明の記載は,特許を受けようとする発明が明確でないから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 (原告の主張)(ア) 「地盤に起因する欠点」という用語は,通常は,地層に欠点がある場合は活断層を含み,地形の場合は結果的に不均質な造成がなされることが多く不等沈下を生じ,地質に欠点がある例としてはベンゼンなどの揮発性物質が原因となる。 本件明細書には「地盤の地層,地形,地質,造成による欠点」とあり,又「地震,地崩れによる危険」との記載がされている(【0015】)。 「地盤に起因する欠点」の具体的な例として「地層,地形,地質,造成による欠点」が示され,危険である例として「地震,地崩れ」が記されていると解するのが合理的である。 以上の記載の解釈として,「地盤に起因する欠点」及び「地震,地崩れによる危険」から都市,街区,施設を保護することが本件特許発明の 効果であるとするのが相当である。 (イ) 明細書においては,物理的な欠点,化学,生物的な欠点,地学的な欠点等について全てを解説することは求められていな 護することが本件特許発明の 効果であるとするのが相当である。 (イ) 明細書においては,物理的な欠点,化学,生物的な欠点,地学的な欠点等について全てを解説することは求められていない。 明細書は,特許請求の範囲に記載されている発明の技術的意義が明確であればよく,詳細な説明によって実施可能であるように具体的に開示されていればよいのであって,一般実用書の様に全てを網羅することは求められていない。 (ウ) 被告は「『緩衝材』だけで自然に生ずる働き・役割ではなく」と述べているが,本件明細書の「強制的に支持工事を,テーブルを対象にすることによってエリアの平準化が可能になる」(【0014】)との記載がある。 エ実施可能要件違反(争点2-4)(被告の主張)本件特許発明は,テーブルと地盤との中間に「緩衝材」を介在させて「テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応する」ものであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明は,「地盤に起因する欠点」の具体例として地震,地崩れ,局所的な液状化を記載する一方(【0005】),「緩衝材」の具体例としては地震に対応する(耐震性を得る)ための砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などを記載するのみであり(【0012】),地崩れや液状化に対応するための「緩衝材」の具体例を記載しておらず,地崩れ・液状化に対応する「緩衝材」の有する作用及び効果が生ずる技術的根拠が何ら具体的に記載していない。 本件明細書の発明の詳細な説明には,地形が変動して平衡を欠いた場合に対応するため「流動性を有する緩衝材」を使用することも一応記載されているが,抽象的・機能的に記載されているだけで具現すべき材料が不明であり,本件特許の出願時の技術常識に基づいても,本件特 いた場合に対応するため「流動性を有する緩衝材」を使用することも一応記載されているが,抽象的・機能的に記載されているだけで具現すべき材料が不明であり,本件特許の出願時の技術常識に基づいても,本件特許発明のように局所的で はなく広い範囲で安定した地盤を形成するための「流動性を有する緩衝材」とは如何なるものであるかを当業者が理解できない。 すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明は,「地盤に起因する欠点」のうち地震に対応する実施の形態は記載するものの,「地盤に起因する欠点」に含まれる地崩れや液状化に対応する実施の形態については,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に説明していない。 したがって,本件特許は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項に規定する要件を満たしていない。 (原告の主張)(ア) 被告は,「地崩れや液状化」に対応するための「緩衝材」の具体例を記載しておらず,地崩れ,液状化に対応する「緩衝材」の有する作用及び効果が生ずる技術的根拠を何ら具体的に記載していないと主張する。 しかし,本件明細書には,「緩衝材」について被告主張の上記作用及び効果があるとは記載されていない。 本件特許発明の特徴である作用効果は「テーブルが果たす」としていることは,次の段落の記載により明らかである。 ① 「テーブルが既存の地盤の関連を断って地盤に起因する欠点に対応するようにしたことを特徴とする。」(【0004】)② 「テーブルが既存の地盤の関連を絶って,用地固有の欠点を解消する」(【0005】)(イ) 被告は,局所的でなく広い範囲で安定した地盤を形成するための「流動性を有する緩衝材」とは如何なるものであるかを当業者が理解できないと主 ,用地固有の欠点を解消する」(【0005】)(イ) 被告は,局所的でなく広い範囲で安定した地盤を形成するための「流動性を有する緩衝材」とは如何なるものであるかを当業者が理解できないと主張する。 しかし,本件明細書には,上記の疑問が生ずる記載はない。被告は,「テーブル」と「緩衝材」を入れ替えて解釈しようとしているから,被告主張の上記の疑問が生ずるのである。 (3) 原告の損害ないし損失の額(争点3)(原告の主張)本件特許権の専用実施権に基づく通常実施権の実施料は,被告が請け負った東京駅丸の内駅舎の免震化工事の代金308億円(税別)の3%である9億2400万円に消費税を加算した9億7020万円が相当である。 被告は,9億7020万円の支払を免れたことによって原告に同額の損害又は損失を被らせた。 (被告の主張)原告の主張は否認し争う。 第3 当裁判所の判断 1 イ号物件(被告工法)が本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点1)について(1) 本件特許発明は物の発明か方法の発明か(争点1-1)についてア特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専有するから(特許法68条本文),第三者が業として特許発明を実施することは,特許権の侵害に当たる。そして,特許発明の実施とは,物(プログラム等を含む。)の発明にあっては,その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい,その物がプログラム等である場合には,電気通信回線を通じた提供を含む。),輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。)をする行為をいい(同法2条3項1号),方法の発明にあっては,その方法を使用する行為をいう(同法2条3項2号)。 このように,物の発明と方 入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。)をする行為をいい(同法2条3項1号),方法の発明にあっては,その方法を使用する行為をいう(同法2条3項2号)。 このように,物の発明と方法の発明とは,明文上判然と区別され,与えられる特許権の効力も明確に異なっている。そして,当該発明がいずれの発明に該当するかは,まず,願書に添付した(明細書の)特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(平成14年法律第24号による改正前の特許法70条1項参照。同項は,「明細書の特許請求の範囲」と 規定していたが,明細書から特許請求の範囲が分離されたことに伴い,現在の特許法70条1項は「特許請求の範囲」と規定している。)。 イ方法の発明は,発明の構成中に経時的要素を含むものと解するのが相当である。 これを本件特許発明についてみると,本件特許発明の請求項1のうち「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前記テーブルの上部に立設された建築物や道路,橋などの構造物,または人工造成地を配置する地盤強化工法であって」までの記載は,地盤にテーブルを設置した後に,その上部に建築物等を配置する工法であると解されるのであって,「設置し」と「配置する」の関係は時系列的な前後関係があるといえるから,本件特許発明は方法の発明と解するのが相当である。 そして,本件明細書の発明の詳細な説明においても,「施工手順としては,…テーブル1を配置し,しかる後に,テーブル1内に基礎6を設けて,建築物を築造する」(【0008】)と記載され,上記の前後関係を裏付ける記載がある。 また,本件特許発明の請求項1の末尾には「工法」の用語が使用されており,「工法」は,①乙12号証(広辞苑第4版机上版884頁・平成5 】)と記載され,上記の前後関係を裏付ける記載がある。 また,本件特許発明の請求項1の末尾には「工法」の用語が使用されており,「工法」は,①乙12号証(広辞苑第4版机上版884頁・平成5年2月25日第1刷発行)では,「加工・工事などにおける造り方・組立て方」を,②乙13号証(建築大辞典第2版<普及版>549頁・平成5年6月10日発行)では,「constructionmethod 建物の組立て方,造り方,施工の方法,広義には構法を含む。」(「構法」は「buildingconstruction 建築の実体の構成方法。」と記載されている。)を意味するものである。 ウこれに対し,原告は,建設業界においては,「工法」と「構造」が同義語として使用されており(甲18,19),被告においても,「構造」に特徴を備えている装置を据付けることを「工法」と称している例があり, その典型例が「ウインカー工法」である(甲20)などと主張する。 しかしながら,甲18~20号証をみても,建築業界において「工法」が「構造」等と同義であるとは記載されていない。 また,仮に建築業界で使用される「工法」という表現に,経時的要素が含まれない場合があるとしても,本件特許発明についてされるべき,物の発明か方法の発明かの区別は,まず特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきであり,特許請求の範囲における発明の構成中に経時的要素を含むことは,上記イのとおりであるから,原告の主張は理由がない。 (2) 構成要件Aの充足性(争点1-2)及び構成要件Bの充足性(争点1-3)についてア被告工法の特定について原告による本件訴訟における対象の特定は,別紙イ号物件目録記載のとおりであって,物として特定した趣旨と解され 構成要件Bの充足性(争点1-3)についてア被告工法の特定について原告による本件訴訟における対象の特定は,別紙イ号物件目録記載のとおりであって,物として特定した趣旨と解される。しかし,前記(1)のとおり,本件特許発明は工法の発明と解すべきであるから,原告のように物として特定することは適切とはいえず,原告による特定を物による特定と解する限り,原告の主張するイ号物件(物)は本件特許発明(方法の発明)の構成要件を充足しない。 また,原告による特定を,本件特許発明の方法としての発明という性質に即して,工法の特定と読み替えた場合にも,原告による特定には,以下の問題がある。すなわち,①別紙イ号物件目録記載ア及びイの工程では,駅舎を何らかの手段により支持するための構成(工程)が必要であるが,それが不明であり(この点について,被告は別紙被告工法目録記載aで仮受け支柱による仮受けを特定している。),②別紙イ号物件目録記載イの工程では,人工地盤と地下躯体との間に免震装置用のスペースを作る必要があるが,どのようにしてスペースを作るか不明であり(この点について,被告は別紙被告工法目録記載aで1階躯体の構築とその仮受けを特定した 後に同記載bで逆打ち工法による地下躯体の新設を特定している。),③別紙イ号物件目録記載ウの工程では,駅舎を人工地盤上に支持する必要があるが,どのような構成(工程)により支持するか不明である(この点について,被告は別紙被告工法目録記載dで,仮受け支柱から免震装置への受替えを特定している。),という問題点がある。 これに対し,被告による被告工法の特定は,別紙被告工法目録記載のとおりであり,証拠(枝番号を含めて甲3,5,12,乙4~6,11)に沿ったものであると認められるから,これを 題点がある。 これに対し,被告による被告工法の特定は,別紙被告工法目録記載のとおりであり,証拠(枝番号を含めて甲3,5,12,乙4~6,11)に沿ったものであると認められるから,これを被告工法の特定(以下「被告方法」という。)として採用する。 したがって,以下において,上記のとおり特定された被告方法を対象として,その構成要件充足性について判断するが,念のため,原告の主張する別紙イ号物件目録を方法の発明として読み替えたもの(以下,便宜上「原告イ号方法」と表記する。)についても併せて判断する。 イ 「梁構造の鉄筋コンクリート製土台(1階躯体)」が構成要件A及びBの「テーブル」に該当するかについて構成要件Bによれば,「テーブル」は,その上に建築物,構造物を配置するものであり,本件明細書【0005】には「上記構成の地盤強化工法によれば,鉄骨などの構造材で強化され,テーブルを地盤上に形成し,前記テーブルの上部に,建築物や道路,橋,などの構造物,または,人工造成地を配置するようにしたので,」と記載され,さらに実施例の記載においても,【0008】には,「テーブル1内に基礎6を設けて,建築物7を築造する。」と記載されているから,本件特許発明の「テーブル」は,少なくとも建築物,構造物の一部ではなく独立した構造物を意味すると解される。 証拠(甲3の3,乙5,6,11)によれば,被告方法の「梁構造の鉄筋コンクリート製土台(1階躯体)」は,既存駅舎の1階部分に新たに構築 される鉄筋コンクリート製の土台であって,駅舎レンガ壁の下部に構築した「縦梁」と当該「縦梁」から仮受け支柱まで伸びる「つなぎ梁」を含むものであり,また「縦梁」は既存駅舎のレンガ壁内部の既存鉄骨とも一体化されているものであることが あって,駅舎レンガ壁の下部に構築した「縦梁」と当該「縦梁」から仮受け支柱まで伸びる「つなぎ梁」を含むものであり,また「縦梁」は既存駅舎のレンガ壁内部の既存鉄骨とも一体化されているものであることが認められる。 そうすると,被告方法の「梁構造の鉄筋コンクリート製土台(1階躯体)」は,既存駅舎に一体的に構築された構造物であると認められ,既存駅舎の一部を構成する構造物であるといえる。 上記のとおり,本件特許発明の「テーブル」は,建築物,構造物の一部ということはできないから,被告方法の「梁構造の鉄筋コンクリート製土台(1階躯体)」は,構成要件A及びBの「テーブル」に該当しない。 原告は,原告イ号方法を「東京駅丸の内駅舎地下の地盤に新設した地下躯体の上に鉄筋コンクリートにより強化形成された人工地盤を設置し」と特定する(別紙原告イ号物件目録記載ア)。原告は,上記のうちの「鉄筋コンクリートにより強化形成された人工地盤」が「テーブル」に該当すると主張し,甲12号証の2の上から2~5番目の地下断面図に横一線に濃い青線で示される部分が「テーブル」に該当すると主張するから,結局のところ,1階躯体を構成要件A及びBの「テーブル」と主張しているものと解される。 原告が「テーブル」であると主張する1階躯体は,被告方法の「梁構造の鉄筋コンクリート製土台(1階躯体)」と同一であると解されるから,上記で検討したとおり,原告の主張は理由がない。原告イ号方法の「鉄筋コンクリートにより強化形成された人工地盤」は構成要件A及びBのテーブルに該当しない。 ウ構成要件A及びBの「テーブル」の設置と建築物等の配置の時系列的な前後関係について本件特許発明は,「…テーブルを地盤上に設置し」(構成要件A),「前 に該当しない。 ウ構成要件A及びBの「テーブル」の設置と建築物等の配置の時系列的な前後関係について本件特許発明は,「…テーブルを地盤上に設置し」(構成要件A),「前 記テーブルの上部に,…構造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法…」(構成要件B)とされ,「テーブル」の設置が「テーブル」上部の構造物等の配置より先に記載されている。また,上記イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「上記構成の地盤強化工法によれば,鉄骨などの構造材で強化され,テーブルを地盤上に形成し,前記テーブルの上部に,建築物や道路,橋,などの構造物,または,人工造成地を配置するようにしたので,」(【0005】【作用】)と記載され,これも「テーブル」の設置が上部構造物の配置に先行することを示すものと解される。 実施例においても,「施工手順としては,地盤5を掘削して,掘削面上に緩衝材4を配置し,その上部にテーブル2を配置して,テーブル2上に緩衝材3を配置し,その後に,緩衝材3上にテーブル1を配置し,しかる後に,テーブル1内に基礎6を設けて,建築物7を築造する。」(【0008】)と記載され,地盤に「テーブル」を配置した後に,基礎を設けて建築物を築造することは記載されているが,建築物を築造した後に,地盤と建築物との間に「テーブル」を設置することは記載も示唆もされていない。 もっとも,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,「テーブル」の技術的意義は,地盤と建築物等の間に介在し,地層,地形,地質に問題がある地盤と建築物等との関連を断つことにあるといえる(【0001】~【0005】)。かかる意義を実現するという観点からすれば,「テーブル」を配置する順序は,地盤上に建築物等を築造した後でも可能であるともいえる。しかし,一旦建築 つことにあるといえる(【0001】~【0005】)。かかる意義を実現するという観点からすれば,「テーブル」を配置する順序は,地盤上に建築物等を築造した後でも可能であるともいえる。しかし,一旦建築物等を築造した後にその下部にテーブルを設置するということになれば,テーブル設置の際に上部構造物をどのように支持するかという技術的問題点が生じることは明らかであるが,上記のとおり,本件明細書には,この点について記載も示唆もない。また,既存の建築物等と地盤の間にそれらの関連を断つ「テーブル」を配置する工法が技術常識であると認めるに足りる証拠もない。そうすると,本件特許発明 の技術的範囲に,建築物等を配置した後に「テーブル」を設置するものも含まれると解することはできない。 以上に照らすと,本件特許発明における地盤強化工法は,地盤に「テーブル」を設置した後に建築物等を配置する工法であると解するのが相当であり,構成要件A及びBにいう「テーブル」はそのような順序で施工されるものとして解するのが相当である。 被告方法については,上記イのとおり,「テーブル」に該当するものが存在しないから,この先後関係について判断するまでもなく,構成要件A及びBを充足しない。 原告は,構築した「テーブル」の上に建築物等を築造するか,既存建物の下にテーブルを構築するかは,工程の相違にすぎない旨主張し,その趣旨は,テーブルの設置と建築物等の配置の時系列的な前後関係は存在しないと主張するものと解される。しかし,本件特許発明は,方法の発明であって,上記のとおりの前後関係をその構成要件としたものである。証拠(甲3の3,乙5,6,11)によれば,1階躯体(原告の主張する「テーブル」)は,東京駅丸の内駅舎が建築された後に設置されたものであるから 上記のとおりの前後関係をその構成要件としたものである。証拠(甲3の3,乙5,6,11)によれば,1階躯体(原告の主張する「テーブル」)は,東京駅丸の内駅舎が建築された後に設置されたものであるから,原告イ号方法における1階躯体は,建築物等の配置前に設置されるという構成要件A及びBの「テーブル」の要件を充たさない。 エ 「地下躯体」は,構成要件Aの「地盤」に該当するかについて構成要件Cは「前記テーブルが既存の地盤との関連を断って」とされ,また本件明細書の発明の詳細な説明においても,「前記テーブルが既存の地盤との関連を断って地盤に起因する欠点に対応する」(【0004】【課題を解決するための手段】)とされているから,構成要件Aの「地盤」は,「既存の地盤」を意味するものと解される。また,構成要件Aの「地盤」は,その上にテーブル,建築物,道路・橋などの構造物が配置されるから(構成要件A及びB参照),人工的に構築された構造物,例えば 鉄筋コンクリート構造物を含まないものと解される。 被告方法における「地下躯体」は,既存駅舎の地下に逆打ち工法で新設された鉄筋コンクリート構造物である(別紙被告工法目録記載b及び図面,甲3の3,甲21の19及び20,乙11)から,人工的に構築された構造物といえる。 そうすると,被告方法における「地下躯体」は,構成要件Aの「地盤」に該当しない。 原告は,原告イ号方法について,地下躯体(地下1・2階の躯体)は自然地盤ではないが,概念上地盤と同等なものと認識されるべきであると主張しているから,地下躯体を,少なくとも構成要件Aの「地盤」の一部として主張しているものと解される。また,別紙イ号物件目録記載アでは,「地盤に新設した地下躯体」とされており,ここでも地下躯体は と主張しているから,地下躯体を,少なくとも構成要件Aの「地盤」の一部として主張しているものと解される。また,別紙イ号物件目録記載アでは,「地盤に新設した地下躯体」とされており,ここでも地下躯体は地盤の一部として新設されたものとして主張するものと解される。 しかし,上記のとおり,構成要件Aの「地盤」は,人工的に構築された構造物を含まないものであるところ,原告イ号方法は,地盤の一部として人工的に構築された構造物である地下躯体を含むものであるから,構成要件Aを充足しない。 オ小括以上のとおり,被告方法(及び念のため判断した原告イ号方法)は,構成要件A及びBを充足しない。 (3) 構成要件Cの充足性(争点1-4)について原告は,免震装置(免震ゴム支承)は,構成要件Cの「緩衝材」に該当すると主張するところ,被告は,被告工法の「免震装置」は構成要件Cの「緩衝材」に該当しない旨主張する。 そこで検討するに,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明における実施例以外の記載においては,緩衝材の性質,内容等については説明 がないところ,本件明細書の実施例についての記載である【0012】には,「テーブルを設計して,砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などの緩衝材を介在させることによって耐震性を得ることができ,テーブルを複葉にして,横揺れ,縦揺れなどに対応する緩衝材3,4を分離して使用し,分担することによって機能を重点的に強化することが可能である。」と記載されている。 この記載における緩衝材の具体例は,緩衝材を設けることによって,テーブルが既存の地盤との関連を断って地盤に起因する欠点に対応するという本件特許発明の技術的意義(【0004】)に即応するものといえるから,構成要件Cの「緩衝材」は は,緩衝材を設けることによって,テーブルが既存の地盤との関連を断って地盤に起因する欠点に対応するという本件特許発明の技術的意義(【0004】)に即応するものといえるから,構成要件Cの「緩衝材」は,ゴムを含み,地震の揺れに対応する部材であるといえる。 そして,被告方法の「免震装置」は,ゴムを利用しており(別紙被告工法目録記載c),既存駅舎(建築構造物)を地震の揺れから保護するための部材ということができるから,構成要件Cの「緩衝材」に含まれる。 しかしながら,被告方法の「免震装置」が構成要件Cの「緩衝材」に該当するとしても,上記(2)のとおり,被告方法の「1階躯体」,「地下躯体」は,それぞれ本件特許発明の「テーブル」,「地盤」に該当するとはいえない。 したがって,被告方法は,構成要件Cの「前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け」を充足しない。 原告イ号方法が構成要件Cを充足しないことも同様である。 (4) 構成要件Dの充足性(争点1-5)について以上のとおり,被告方法は,構成要件A~Cを充足しないから,構成要件Dの「を特徴とする地盤強化方法」を充足しない。 原告イ号方法が構成要件Dを充足しないことも同様である。 (5) まとめ以上のとおり,被告方法(念のため判断した原告イ号方法)は,構成要件A~Dのすべてを充足しないから,本件特許発明の技術的範囲に属しない。 したがって,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。 2 結論よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 よって、主文のとおり判決する。 主文 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋 裁判官 小川雅敏 裁判官 森川さつき

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