主文 原判決中、原判決別紙物件目録記載の土地の所有権移転登記手続請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。 上告人のその余の上告を棄却する。 前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人黒田耕一の上告理由について一原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 1 本件土地の分筆及び市道としての整備(一) 原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)は、もとDが所有していた松山市a番町b丁目(表示変更前の同市c町)d番、e番合併一の土地(以下これを「合併一の土地」と表示することとし、「合併六、七の土地」もこれに準ずる)の一部であったところ、被上告人は、昭和三〇年三月、j駅前整備事業の一環として、貨物の搬出、搬入用の道路を造るため、右Dから本件土地を代金三四万一二八〇円で買い受け、同年四月三〇日その代金を完済した。 (二) 被上告人とDは、被上告人が買い受ける本件土地を合併一の土地から分筆して合併六の土地とすることにしていたが、分筆登記の手続に手違いが生じ、昭和三〇年五月一三日、実際に合併一の土地から分筆された土地は合併七の土地として表示された。その結果、登記簿や土地台帳の上では合併七の土地というものができ、しかも、合併六の土地はその後も公簿上作られなかったため、合併六の土地として登記される予定であった本件土地については、被上告人所有名義の登記が経由されないままとなっていた。 (三) 被上告人は、農地であった本件土地を公衆用道路に造成するため、昭和三〇年度の失業対策事業で盛土をして整備したが、昭和四四年六月二一日から同年- 1 -七月一〇日までの間に本件土地の北側と南側に側溝を、ほぼ中央部に市章入 た本件土地を公衆用道路に造成するため、昭和三〇年度の失業対策事業で盛土をして整備したが、昭和四四年六月二一日から同年- 1 -七月一〇日までの間に本件土地の北側と南側に側溝を、ほぼ中央部に市章入りマンホールを二箇所設置するとともに、敷地全体をアスファルトで舗装して現況に近い形態の道路として整備した。また、被上告人は、昭和五四年一一月には、本件土地内に市道金属標を設置することにより本件土地が被上告人の管理に係る道路であることを明確にした。 また、被上告人は、昭和四三年三月に、地元民の道路境界査定申請に基づき本件士地とその南に接する合併八の土地との境界を査定したが、その査定調書には本件土地は「市道fgのh号線」と記載されており、被上告人が昭和五四年に作成した松山市備付道路台帳にも本件土地は「市道fgのh号線」として掲載された。 右道路台帳には、右路線が幅員一四・四メートル、長さ三〇・四メートルである旨の記載がある。 このようにして本件土地は、遅くとも昭和四四年七月までに、被上告人所有の道路(市道)として一般市民の通行の用に供され、付近住民からも市道として認識されてきたが、道路法所定の区域の決定及び供用の開始決定などがされたことを明確に示す資料は残っていない。 (四) 被上告人は、昭和五八年一月二五日、愛媛県からの指示により、道路法一八条に基づき、本件土地及びこれに接続して西方に延びる幅員一・九メートル、長さ一八メートルの部分を合わせて「市道fg―h号線」として、区域決定及び供用開始決定をするとともにその旨の公示をした。その後昭和六二年三月に告示された市道編制により、市道fgのh号線は「fi号線」と路線の名称が変更された。 2 E産興株式会社による本件土地の取得の経緯(一) D家に出入りし同家の財産管理に関与していたFは 年三月に告示された市道編制により、市道fgのh号線は「fi号線」と路線の名称が変更された。 2 E産興株式会社による本件土地の取得の経緯(一) D家に出入りし同家の財産管理に関与していたFは、昭和五七年の夏、D夫妻から、本件土地を一例として、登記簿上Dの所有となっているため固定資産税が課されているが所在の分からない土地があるので、これを処分して五〇〇万円- 2 -を得たい旨の相談を受けた。このため、Fは、知人のGにこの話を伝え、協力を求めた。Fは、自分の調べた限りでは本件土地はj駅前付近にあると思ったが、必ずしも明らかでなかったので、その旨をGに説明した。 (二) Gは、E産興株式会社、有限会社H不動産及びI有限会社のオーナーとしてこれらの会社を実質的に経営する者であるが、Fからの話を聞き、土地登記簿謄本、野取図等に基づいて本件土地の所在場所を確認し、現地を見た上で本件土地を購入することにし、昭和五七年一〇月二五日、E産興を代理して、Dを代理するFとの間で、代金を五〇〇万円とする売買契約を締結し、同月二七日、E産興名義で所有権移転登記を経由した。なお、その際、売買契約を締結しても確実に所有権を移転できる確信がもてなかったFは、Gから万一本件土地が実在しない場合にもDに代金の返還を請求しない旨の念書をとった。昭和五七年当時、道路でないとした場合の本件土地の価格はおよそ六〇〇〇万円であった(なお、記録によれば、後述のIと上告人の売買契約では代金は一億五〇〇〇万円とされている)。 (三) E産興は、昭和五八年一月、本件土地に関し市道の廃止を求めるため付近住民から同意書を徴するなどしたが、本件土地については、同年二月二五日付けでH不動産に、次いで昭和五九年七月一〇日付けでIに、それぞれ所有権移転登記が経由された。 3 上告人は 止を求めるため付近住民から同意書を徴するなどしたが、本件土地については、同年二月二五日付けでH不動産に、次いで昭和五九年七月一〇日付けでIに、それぞれ所有権移転登記が経由された。 3 上告人は、昭和六〇年八月一四日、Iから本件土地を買い受けてその旨の所有権移転登記を経由し、同月二八日、本件土地が市道ではない旨を主張して、本件土地上にプレハブ建物二棟及びバリケードを設置した。 二被上告人は、本件土地について所有権及び道路管理権を有すると主張して、上告人に対し、所有権に基づき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を、道路管理権に基づき本件土地が松山市道fi号線(旧同g―h号線)の敷地であることの確認を、所有権又は道路管理権に基づき本件土地上に設置されたプ- 3 -レハブ建物及びバリケード等の撤去を求め、これに対し上告人は、本件土地が上告人の所有であることを前提として被上告人に対し、被上告人が、本件土地上のプレハブ建物及びバリケード等を撤去して本件土地を執行官に保管させた上、市道としての使用に供することができる旨の仮処分決定を得てその執行をしたことは、上告人に対する不法行為に当たると主張して、損害賠償を求めている。 三被上告人の所有権移転登記手続請求について 1 原審は、(一) 昭和五七年一〇月に本件土地を取得したE産興は、本件土地の二重譲受人になるが、E産興を代理したGは、本件土地が既に被上告人に売り渡され、事実上市道となり、長年一般市民の通行の用に供されていたことを知りながら、被上告人に所有権移転登記が経由されていないことを奇貨としてこれを買い受け、道路を廃止して自己の利益を計ろうとしたものであるから、E産興は背信的悪意者ということができ、被上告人は、登記なくして本件土地の取得をE産興に対抗し得る、(二) H不動 を奇貨としてこれを買い受け、道路を廃止して自己の利益を計ろうとしたものであるから、E産興は背信的悪意者ということができ、被上告人は、登記なくして本件土地の取得をE産興に対抗し得る、(二) H不動産及びIはいずれもGが実質上の経営者であり、上告人は、Iから本件土地を買い受けたが、E産興が背信的悪意者であって所有権取得をもって被上告人に対抗できない以上、H不動産及びIを経て買い受けた上告人も本件土地の所有権に関し被上告人に対抗し得ない、と判断して、所有権に基づく真正な登記名義の回復を原因とする被上告人の所有権移転登記手続請求を認容すべきものとした。 2 しかし、原審の右(一)の判断は正当であるが、(二)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 原審の確定した前記事実関係によれば、本件土地は、遅くとも昭和四四年七月までに、土地の北側と南側に側溝が入れられ、ほぼ中央部に市章入りマンホールが二箇所設置されるとともに、全体がアスファルトで舗装された道路として整備され、一般市民の通行に供されてきており、近隣の住民からも市道として認識されて- 4 -きたところ、E産興の代理人Gは、現地を確認した上、昭和五七年当時、道路でなければおよそ六〇〇〇万円の価格であった本件土地を、万一土地が実在しない場合にも代金の返還は請求しない旨の念書まで差し入れて、五〇〇万円で購入したというのであるから、E産興は、本件土地が市道敷地として一般市民の通行の用に供されていることを知りながら、被上告人が本件土地の所有権移転登記を経由していないことを奇貨として、不当な利得を得る目的で本件土地を取得しようとしたものということができ、被上告人の登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者に当たるものというべきである。したがって、被上告人は、E産興に 不当な利得を得る目的で本件土地を取得しようとしたものということができ、被上告人の登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者に当たるものというべきである。したがって、被上告人は、E産興に対する関係では、本件土地につき登記がなくても所有権取得を対抗できる関係にあったといえる。この点に関する論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。 3 ところで、所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。けだし、(一) 丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならないのであって、また、(二) 背信的悪意者が正当な利益を有する第三者に当たらないとして民法一七七条の「第三者」から排除される所以は、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し- 5 -登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」 経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである。 4 これを本件についてみると、上告人は背信的悪意者であるE産興から、実質的にはこれと同視されるH不動産及びIを経て、本件土地を取得したものであるというのであるから、上告人は背信的悪意者からの転得者であり、したがって、E産興が背信的悪意者であるにせよ、本件において上告人目身が背信的悪意者に当たるか否かを改めて判断することなしには、本件土地の所有権取得をもって被上告人に対抗し得ないものとすることはできないというべきである。以上と異なる原審の判断には、民法一七七条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決中本件土地の所有権移転登記手続請求に関する部分は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるために右部分を原審に差し戻すのが相当である。 四被上告人のその余の請求及び上告人の請求について 1 原審は、被上告人は、本件土地につき道路法一八条に基づく区域決定及び供用開始決定をしその旨の公示をしたのであるから、本件土地につき道路管理権を有する、との理由で、被上告人の道路管理権に基づく道路敷地確認請求及びプレハブ建物等の撤去請求はいずれも認容すべきものと判断した。所論は、E産興が背信的悪意者であるとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、被上告人がE産興所有の本件土地につき供用開始の決定及び公示をしても、その決定及び公示は無効であるというものである。 2 しかしながら、E産興 とした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、被上告人がE産興所有の本件土地につき供用開始の決定及び公示をしても、その決定及び公示は無効であるというものである。 2 しかしながら、E産興が背信的悪意者であるため、被上告人はE産興に対する関係では、本件土地につき登記がなくても所有権取得を対抗できる関係にあった- 6 -ことは、前述のとおりであるから、既に一般市民の通行の用に供されてきた本件土地につき、被上告人が昭和五八年一月二五日にした道路法一八条に基づく区域決定、供用開始決定及びこれらの公示は、本件土地につき権原を取得しないでしたものということはできず、右の供用開始決定等を無効ということはできない。したがって、本件土地は市道として適法に供用の開始がされたものということができ、仮にその後上告人が本件土地を取得し、被上告人が登記を欠くため上告人に所有権取得を対抗できなくなったとしても、上告人は道路敷地として道路法所定の制限が加えられたものを取得したにすぎないものというべきであるから(最高裁昭和四一年(オ)第二一一号同四四年一二月四日第一小法廷判決・民集二三巻一二号二四〇七頁参照)、被上告人は、道路管理者としての本件土地の管理権に基づき本件土地が市道の敷地であることの確認を求めるとともに、本件土地上に上告人が設置したプレハブ建物及びバリケード等の撤去を求めることができるものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。また、以上によれば、道路管理権を有する被上告人が仮処分の決定を得てプレハブ建物等を撤去し、本件土地を市道として通行の用に供していることは、上告人が本件土地の所有権を取得しているか否かにかかわらず、不法行為を構成しないことが明らかであるから、上告人の損害賠償請求を棄却すべきものとした原審 件土地を市道として通行の用に供していることは、上告人が本件土地の所有権を取得しているか否かにかかわらず、不法行為を構成しないことが明らかであるから、上告人の損害賠償請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。 よって、原判決中所有権移転登記手続請求に関する部分を破棄して右部分を原審に差し戻すこととするが、その余の上告は棄却することとし、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官可部恒雄- 7 -裁判官園部逸夫裁判官大野正男裁判官千種秀夫裁判官尾崎行信- 8 -
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