- 1 -平成26年3月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成25年(行ケ)第10178号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成26年2月19日判決 原告株式会社ケイツージャパン 訴訟代理人弁護士鮫島正洋同伊藤雅浩同和田祐造同幸谷泰造 被告株式会社カーメイト 訴訟代理人弁理士澤木誠一同澤木紀一 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2012-800137号事件について平成25年5月20日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(1) 被告は,平成16年1月29日,発明の名称を「スノーボード用ビンディン- 2 -グ」とする特許出願(特願2004-21212号)をし,平成19年11月30日,設定の登録(特許第4048178号。請求項の数4)を受けた(甲1。以下,この特許を「本件特許」という。)。これは,特願2001―179623号(出願日:平成13年6月14日)を原出願とする分割出願である。 (2) 原告は,平成24年8月31日,本件特許の請求項1ないし4に係る発明に 特許」という。)。これは,特願2001―179623号(出願日:平成13年6月14日)を原出願とする分割出願である。 (2) 原告は,平成24年8月31日,本件特許の請求項1ないし4に係る発明について,特許無効審判を請求し,無効2012-800137号事件として係属した(甲25)。 (3) 被告は,平成24年11月30日,訂正請求をした(甲27。以下「本件訂正」といい,その訂正明細書(甲1,27)を「本件明細書」という。)。 (4) 特許庁は,平成25年5月20日,本件訂正を認めた上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。 (5) 原告は,平成25年6月27日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載の発明は,次のとおりである。以下,請求項1ないし4に係る発明を,請求項の番号に応じて「本件発明1」ないし「本件発明4」といい,これらを併せて「本件発明」という。 【請求項1】ベースプレート1と,このベースプレート1の一側にその一端を取り付けた一方のバンド9aと,上記ベースプレート1の他側にその一端を取り付けた他方のバンド9bと,ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなるバンド15と,バックル16とより成り,上記バンド15の一端が上記一方及び他方のバンドの一方に固定され上記バンド15の他端が上記バックルを介して上記一方及び他方のバンドの他方に固定されており,上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできることを特徴とするスノーボード用ビンディング。 - 3 -【請求項2】上記バンド15にパッドが固定されていることを特 に固定されており,上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできることを特徴とするスノーボード用ビンディング。 - 3 -【請求項2】上記バンド15にパッドが固定されていることを特徴とする請求項1記載のスノーボード用ビンディング。 【請求項3】上記バンド15に連結部材が固定されていることを特徴とする請求項1記載のスノーボード用ビンディング。 【請求項4】上記パッドが上記ブーツの爪先の上部分を締付ける部分19とブーツの爪先の先端を締付ける部分20を有することを特徴とする請求項2記載のスノーボード用ビンディング。 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,①写真撮影報告書(甲2。以下「甲2報告書」という。)に示されたスノーボード用ビンディング(商品名「DRAKEMATRIX」。以下「MTX」という。)に係る発明(以下「甲2発明」という。)は,本件の原出願前に公然と知られた状態であったものとは認められない,②本件発明は,甲2発明であるとすることはできないから,特許法29条1項1号の規定により,無効とすることはできない,というものである。 (2) 本件審決が認定した甲2発明並びに本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア甲2発明「ベースプレートと,このベースプレートの一側にその一端を取り付けた第1のバンドと,上記ベースプレートの他側にその一端を取り付けた第2のバンドと,ブーツの丸みをおびた部分の内の爪先の上部分側をとおる一方のバンドと爪先の先端側をとおる他方のバンドとよりなる第3のバンドで,一方のバントと他方のバントとは連結部材で連結されて固定されると共に,その裏面には,パッドが固定されている第3のバンドと,バックルとより成り, の先端側をとおる他方のバンドとよりなる第3のバンドで,一方のバントと他方のバントとは連結部材で連結されて固定されると共に,その裏面には,パッドが固定されている第3のバンドと,バックルとより成り,上記第3のバンドの一端が上記第1のバンドに固定され上記第3のバンドの他端が上記バックルを介して上記第2のバンドに固定されているスノーボード用ビンディング。」- 4 -イ一致点「ベースプレート1と,このベースプレート1の一側にその一端を取り付けた一方のバンド9aと,上記ベースプレート1の他側にその一端を取り付けた他方のバンド9bと,バンド15と,バックル16とより成り,上記バンド15の一端が上記一方及び他方のバンドの一方に固定され上記バンド15の他端が上記バックルを介して上記一方及び他方のバンドの他方に固定されているスノーボード用ビンディング。」ウ相違点バンド15に関して,本件発明1は,「ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなる」,及び「上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」のに対し,甲2発明は,「ブーツの丸みをおびた部分の内の爪先の上部分側をとおる一方のバンドと爪先の先端側をとおる他方のバンドとよりなる」が,第3のバンドが,ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなり,上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできるか否か明らかでない点。 4 取消事由(1) 甲2発明の公知性の認定の誤り(取消事由1)(2) 本件発明と甲2発明との同一性の判断の誤り(取消事由2)第3 当事者の主張 1 取消事由1(甲2発明の公知性の認定の誤り)について〔原告の主張〕(1) MTXの公知性についてア MTX 件発明と甲2発明との同一性の判断の誤り(取消事由2)第3 当事者の主張 1 取消事由1(甲2発明の公知性の認定の誤り)について〔原告の主張〕(1) MTXの公知性についてア MTXは,NorthwaveNorthAmericaInc(以下「ノースウェーブ」という。)が「DRAKE」のブランド名で販売した製品である。平成12年当時,DRAKEの製造マネジャーであったマルティノ・フマガリは,MTXの開発は平成12年7月に最終化され,試作製造は平成13年2月な- 5 -いし3月のトレードショーでの発表に向けて準備されていた旨の陳述書(甲35(枝番を含む。以下同じ。)。以下「甲35陳述書」という。)を作成している。 また,甲2報告書の写真5(別紙参照)には,撮影されているMTX(以下,MTXのうち,甲2報告書の写真の被写体であるMTXを,「甲2報告書のMTX」という。)の裏側(底側)に,時計の文字盤のように1から12の数字が配列され,その中心部分に数字の「00」が刻まれており,数字の「00」を挟むように下向きの矢印が数字の「7」を指して刻まれている(以下「本件刻印」という。)。製造物において製造年月等が記載されることは珍しくなく,1から12という数字が「月」を,「00」という数字が西暦の下二桁を示すことは自然である。甲35陳述書によれば,平成12年当時,MTXの製造元のマニュアルにおいて,本件刻印でも同様の取扱いがされており,本件刻印は,甲2報告書のMTXが平成12年7月に製造されたことを示しているということができる。 したがって,甲2報告書のMTXが平成12年7月に製造されたことは明らかである。 イカタログ(甲3。以下「甲3カタログ」という。)には,MTXが掲載されている。スノーボード用製品は,ファッションと同様 って,甲2報告書のMTXが平成12年7月に製造されたことは明らかである。 イカタログ(甲3。以下「甲3カタログ」という。)には,MTXが掲載されている。スノーボード用製品は,ファッションと同様に「シーズン」という考え方があり,各シーズンにおいて,メーカーの製造・出荷業務を平準化するために定められたスケジュールに従って,新製品が供給される。平成13年12月頃から平成14年3月頃に使用されることを目的とした新製品は,通常,①平成12年夏頃,開発開始,②同年秋頃,カタログ制作,③同年12月頃,カタログ配布・商談開始,④平成13年2,3月頃,大規模展示会,⑤平成13年2月頃,小売店からの発注,⑥同月以降,製品出荷,⑦同年夏頃,店頭販売というスケジュールで販売計画が作成される。そのため,小売店は,平成13年2月頃には,新製品の発注数量を判断するために必要な情報を把握していた。この発注時期において重要な位置を占めるのが展示会であり,多くのメーカーが出展し,小売店に対して営業活動が行われる。 大規模展示会は,一般消費者を対象とするものではないが,展示会及びウインター- 6 -スポーツのシーズンが終了する頃には,一般消費者向け雑誌に翌期向け最新モデルの広告が掲載されるようになる。 平成13年(2001年)2月4日ないし7日に開催された「スポーツの世界ワールドスポーツトレードメッセ ispo2001冬季」及び同年3月9日ないし13日に開催された「THESIASNOWSPORTSSHOW」(以下,総称して,「本件展示会」という。)は,世界的な規模を有し,多数のウインタースポーツ用具メーカー等が参加する大規模な展示会であり,来場者が製品の購入を検討するために,カタログ等の紙媒体の資料が提供される。平成13年6月当時,ノースウェーブの北米営業 有し,多数のウインタースポーツ用具メーカー等が参加する大規模な展示会であり,来場者が製品の購入を検討するために,カタログ等の紙媒体の資料が提供される。平成13年6月当時,ノースウェーブの北米営業マネジャーであった A は,平成13年3月の展示会にMTXを展示し,甲3カタログを頒布したところ,MTXは好評であった旨の陳述書(甲34。以下「甲34陳述書」という。)を作成している。 本件審決は,本件展示会が開催された事実及びノースウェーブが出展していた事実を認定しながらも,甲3カタログが頒布された事実は認められないとしたが,これは経験則の適用と証拠の評価を誤ったものである。スノーボード用製品に関する上記商慣習に照らしても,遅くとも本件展示会が開催された平成13年2月4日ないし同年3月9日までには,甲3カタログが多数の来場者に配布され,MTXが公然知られていたことは明らかである。 ウ本件審決は,平成13年2月27日,小売店であるバルサーフがMTXを発注した事実を認定するものの,実際にカタログや製品を見た上で発注したかは明らかではないとするが,バルサーフは,MTXの実物ないしカタログを確認してMTXを評価し,ノースウェーブとの個別の打合せを経た上で注文しているから,本件展示会の時点においてMTXは公然知られていたということができる。 エ MTXの取扱店が製品出荷の際に作成した,梱包された内容物の一覧表(甲36。以下「甲36一覧表」という。)には,MTX720足がパレット01ないし06に格納されていたことが記載されているから,遅くとも甲36一覧表の作成日である平成13年5月30日には,MTXの出荷準備(パレットへの梱包)が行- 7 -われていたことは明らかである。この種の製品は,通常,出荷準備の2,3日後には出荷されるし,前記イのスケジュ 成日である平成13年5月30日には,MTXの出荷準備(パレットへの梱包)が行- 7 -われていたことは明らかである。この種の製品は,通常,出荷準備の2,3日後には出荷されるし,前記イのスケジュールサイクルに鑑みれば,MTXの開発から出荷前の発注までが完了し,カタログ配布・展示会での実物展示によって,MTXが本件の原出願前に公然知られた状態であったことが強く裏付けられる。 オ 「TRANSWORLDSNOWBOARDINGBUSINESS」(甲63。以下「甲63雑誌」という。)は,遅くとも平成13年1月には刊行されていた雑誌であるところ,MTXがノースウェーブの主力商品として写真付きで紹介されている。 ノースウェーブがMTXを主力製品として位置付けており,甲63雑誌にも掲載されていたこと,実際に小売店から注文を受けていたことにかんがみれば,本件展示会やその他の展示会等でもその現物が展示され,多くの来場者が目にし,手に取ってMTXの担当者と商談を行ったことを疑う余地はない。 (2) 小括以上によれば,甲2発明は本件の原出願前に公然知られた発明ではないとした本件審決の認定は誤りである。 〔被告の主張〕(1) MTXの公知性についてア甲2報告書には,本件刻印に示された数字等の意味や定義を示す記載や示唆はなく,また,これらの数字等の意味や定義を裏付ける他の証拠もないから,これらの数字等の意味や定義は明らかであるということはできない。 したがって,本件刻印に示された数字等を根拠として,MTXの製造日や頒布日を認定することはできない。 イ甲3カタログにMTXが掲載されているとしても,甲3カタログには,発行日や頒布日を示す記載や示唆はないから,MTXの製造日や頒布日は不明である。 本件展示会において,甲3カタログが頒布さ い。 イ甲3カタログにMTXが掲載されているとしても,甲3カタログには,発行日や頒布日を示す記載や示唆はないから,MTXの製造日や頒布日は不明である。 本件展示会において,甲3カタログが頒布されたことや,小売店等がMTXをみて発注したことを示す証拠や示唆はないし,これらの事実を裏付ける他の証拠もな- 8 -い。しかも,甲2報告書のMTXと,甲3カタログに掲載された製品との同一性は不明である。 また,原告は,スノーボード用製品の販売サイクルについて主張するが,本件展示会は,アメリカ及びドイツで開催された展示会であって,日本国内の業界商慣習がそのまま妥当するものではない。 なお,甲34陳述書の作成者である A は,当時の役職からすると,本件について利害関係を有していると推測されるから,その陳述は信用することができない。また,同人は,甲3カタログの作成者ではないから,その頒布時期について説明することができる立場にはないし,小売店がMTXの現物等を確認した上で発注した旨の記載は,同人の推測に基づくものにすぎない。 したがって,甲34陳述書の記載をもって,MTXの公知性を認定することはできない。 ウ甲36一覧表に記載された「DRAKEF60 LMTX」という製品が,平成13年5月30日にパレットに格納され,2,3日後に出荷されていたとしても,直ちに甲2報告書のMTXが本件の原出願前に公然知られる状態になっていたということはできない。 (2) 小括以上によれば,甲2発明は本件の原出願前に公然知られた発明ではないとした本件審決の認定に誤りはない。 2 取消事由2(本件発明と甲2発明との同一性の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 「同時に締付け」ることについてア本件発明1は,「ブーツの爪先部分の上部分及 に誤りはない。 2 取消事由2(本件発明と甲2発明との同一性の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 「同時に締付け」ることについてア本件発明1は,「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできること」を特徴とするが,特許請求の範囲の記載において,「同時に締付け」ることについて,締付け力の大小,方向等を限定する旨の記載はない。 「締付ける」とは,「強く締める。固く結びつける。」ことを意味することは明- 9 -らかであるから,当該語句の解釈の際に,一義的に明確に理解することができない場合や誤記等であるとして,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければならない特段の事情はない。それにもかかわらず,本件審決は,本件明細書の段落【0013】の記載(爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できる)を参酌し,本件発明において,「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」とは,実際にスノーボードを使用した際に,ブーツからバンド15に対してかかる力に抗して爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できるような締付け力で,バンド15によりブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けることと解されるとするのであるから,発明の要旨認定に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。しかも,本件明細書の発明の詳細な説明には,ブーツの爪先の上部分を締付けるベルトと,先端を締付けるベルトからなるバンドを具備することで,いかにして,実際にスノーボードを使用した際に,爪先方向に遊びを生じないようにするのかについての記載は,一切存在しない。 したがって,本件発明1の「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」と 実際にスノーボードを使用した際に,爪先方向に遊びを生じないようにするのかについての記載は,一切存在しない。 したがって,本件発明1の「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」とは,「実際にスノーボードを使用した際に」同時に締付けできるものに限定されると認定した本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明の具体的な記載に基づかないものというほかなく,この点においても誤りである。 イ本件発明における「上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」とは,その字義通り,ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできることを意味すると解すべきであって,実際にスノーボードを使用した際に,爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実に固定できるものに限定して認定することはできない。 ウ仮に,本件審決のように「実際にスノーボードを使用した際に,ブーツからバンド15に対してかかる力に抗して爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できるような締付け力で,バンド15によ- 10 -りブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けること」を意味するとしても,MTXは,実際にスノーボードを使用した際でも,確実にブーツをスノーボード用ビンディングに固定できるような締付け力で,第3のバンドによりブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けることができるものであることは,原告が行った追加実験からも明らかである(甲39~47。以下,総称して,「本件追加実験」という。)。 エ MTXの第3のベルトは,「実際にスノーボードを使用した際に,ブーツからバンド15に対してかかる力に抗して爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できるような締付け力で, 第3のベルトは,「実際にスノーボードを使用した際に,ブーツからバンド15に対してかかる力に抗して爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できるような締付け力で,バンド15によりブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付ける」ことができ,「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」ものであるから,本件発明1と甲2発明との相違点は存在しない。 (2) 小括以上のとおりであるから,本件発明1が甲2発明であるとすることはできないとした本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕(1) 「同時に締付け」ることについてア本件発明1の「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」とは,実際にスノーボードを使用した際に,ブーツからバンド15に対してかかる力に抗して爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できるような締付け力で,バンド15によりブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けることと解されるとした本件審決の認定に誤りはない。 イ原告が本件の審判手続においてした実験(甲21~23。以下「本件実験」という。)は,実際にスノーボードを使用した際に,滑降中のプレーヤーの体の動き等によって生じるブーツから第3のバンドにかかる大きな力が付与されていない- 11 -ことから,実際にスノーボードを使用した際に,爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できる,つまりブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を締付けできることを証明するものではない。また,同実験に用いられた付箋が,第3のバンド,連結部材,及びパッドによりなるもののどの位置で固定されているのかも明らかではない。 したがって,同実 端部分を締付けできることを証明するものではない。また,同実験に用いられた付箋が,第3のバンド,連結部材,及びパッドによりなるもののどの位置で固定されているのかも明らかではない。 したがって,同実験において,いずれの付箋も第3のバンドから抜けることがなかったことをもって,第3のバンドがブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を(同時に)締付けできるとまで認定することはできない。 ウ MTXの第3のバンドの前縁部分と後縁部分とは,互いにバンドの前後方向に離間しているが,両者は2本の斜めの連絡杆によって互いに連結されている。また,両者の左右も端部のみではなく広い範囲で連結している。 MTXの使用説明書には,第3のバンドの後縁部分がブーツの爪先の上部分を,前縁部分がブーツの爪先の先端を締付ける使用方法の記載はなく,また,後縁部分と,前縁部分と,両部分の夫々中間部を互いに連絡する2本の斜めの連絡杆,及び左右の連結部は,夫々が同一の材料によって一体成型され,厚みにおいても夫々が同等の厚さで形成され,同等の剛性を有するように構成されているため,第3のバンドは1枚の板状となっている。 したがって,MTXの第3のバンドの前縁部分は本来「ブーツの爪先の先端を締付ける部分」ではないという意味で,原告の主張は失当であるが,上記第3のバンドによってブーツを締付ける際,この前縁部分をブーツの爪先の先端に当接してブーツを締付けたときは,後縁部分はブーツの爪先の上部分から上方に離れて浮いた状態になり,ブーツの上部分を締付けることはできない。逆に,第3のバンドの後縁部分をブーツの爪先の上部分に当接して上記ブーツを締付けたときは,前縁部分はブーツの爪先先端から水平方向に離れてブーツの爪先の先端から浮いた状態になり,ブーツの爪先の先端を締付けることはできない。さらに, ブーツの爪先の上部分に当接して上記ブーツを締付けたときは,前縁部分はブーツの爪先先端から水平方向に離れてブーツの爪先の先端から浮いた状態になり,ブーツの爪先の先端を締付けることはできない。さらに,第3のバンドの前後方向の中間部分を,ブーツの爪先の先端と爪先の上部分の間の丸みをおびた部分に- 12 -当接してブーツを締付けたときには,2本の斜めの連絡杆及び左右の連結部がブーツの爪先の丸みをおびた部分と当接し,後縁及び前縁部分は夫々爪先の上部分と爪先の先端部分から共に離れてしまうから,第3のバンドによってブーツの爪先の先端と上部分を同時に締付けることはできない。 エしたがって,MTXは,「ブーツの爪先の上部分を締付ける部分」と「ブーツの爪先の先端を締付ける部分」とよりなるものではなく,本件発明1とはその基本的構成が異なるものである。 (2) 小括以上のとおりであるから,本件発明1が甲2発明であるとすることはできないとした本件審決の判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断取消事由1(甲2発明の公知性の認定の誤り)について 1 MTXの公知性について(1) 認定事実証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 ア甲2報告書(甲2)の写真5によれば,別紙のとおり,甲2報告書のMTXの裏側(底側)には,時計の文字盤のように1から12の数字が配列され,その中心部分に数字の「00」が刻まれており,数字の「00」を挟むように下向きの矢印が数字の「7」を指して刻まれている(本件刻印)。 イ甲3カタログ(甲3)は,「DRAKE」ブランドの平成13年(2001年)ないし平成14年(2002年)シーズンのカタログであるが,甲3カタログにはMTXが掲載されている。 ウ平成13年2月4日ないし7日,ドイツのミュンヘンにおいて ブランドの平成13年(2001年)ないし平成14年(2002年)シーズンのカタログであるが,甲3カタログにはMTXが掲載されている。 ウ平成13年2月4日ないし7日,ドイツのミュンヘンにおいて,「スポーツの世界ワールドスポーツトレードメッセ ispo2001冬季」が,同年3月9日ないし13日,アメリカ合衆国のラスベガスにおいて,「THESIASNOWSPORTSSHOW」が,それぞれ開催された(本件展示会)。ノー- 13 -スウェーブは,本件展示会に出展し,MTXを展示した(甲5~8)。 エスポーツ用品店であるバルサーフは,平成13年2月27日,ノースウェーブに対し,MTX(Lサイズ及びMサイズ合計20個)を注文した(甲9,10)。 オ甲36一覧表には,平成13年5月30日,MTX720足が出荷のために梱包されていたことが記載されている(甲36)。 カ遅くとも平成13年1月頃までには刊行されていた甲63雑誌には,MTXが写真付きで紹介されている(甲63)。 (2) 検討ア MTXについて(ア) 別紙の本件刻印の態様によれば,「00」は西暦の下2桁を,「7」は月を意味する表示であって,甲2報告書のMTXが,平成12年(2000年)7月頃に製造された可能性は否定できない。 もっとも,当時,ノースウェーブの担当者であった者が作成した甲34陳述書(甲34)及び甲35陳述書(甲35)には,いずれも平成12年夏頃に製造されたMTXは販売用のサンプルであった旨の記載があり,原告も,甲2報告書のMTXは試作製造段階のものであること,スノーボード用製品製造の一般的サイクルとして,平成13年(2001年)ないし平成14年(2002年)シーズン用の新製品は,平成12年(2000年)夏頃から開発に着手するのが一般的である旨主 こと,スノーボード用製品製造の一般的サイクルとして,平成13年(2001年)ないし平成14年(2002年)シーズン用の新製品は,平成12年(2000年)夏頃から開発に着手するのが一般的である旨主張しているが,これらによって上記甲2報告書のMTXの製造日を裏付けることは困難である。 (イ) 甲3カタログには,MTXの写真が掲載されているものの,当該写真からはMTXの形状の詳細は明らかではなく,また,MTXの形状に関する具体的な記載もない。したがって,甲2報告書のMTXと,甲3カタログに掲載されているMTXとが同一の構造を有していると認めることはできない。 また,新製品の展示会において,来場者に製品カタログが配布されることは一般的な取扱であり,本件展示会において,DRAKEの製品カタログも配布された可- 14 -能性は高いものの,甲3カタログが本件展示会において配布されたことを認めるに足りる的確な証拠はない(甲34陳述書には,甲3カタログが本件展示会で配布された旨の記載があるが,甲34陳述書は,本件展示会から約12年経過後の平成25年(2013年)6月10日付けで作成されていること,作成者である A の勤務先であるスノーボード関連製品会社が本件特許の有効性に関し,利害関係を有している可能性も否定できないことなどからすると,甲34陳述書の当該記載は採用することができない。)。 (ウ) バルサーフの発注書(甲10)は,MTXの型番が記載されているにすぎないから,バルサーフが発注したMTXが,どのような形状を有していたかは不明であるというほかなく,甲2報告書のMTXとバルサーフが発注したMTXとが同一の構造を有していると認めることはできない。 (エ) 甲36一覧表には,MTXの商品名及び型番が記載されているにすぎないから,当該MTXがど ,甲2報告書のMTXとバルサーフが発注したMTXとが同一の構造を有していると認めることはできない。 (エ) 甲36一覧表には,MTXの商品名及び型番が記載されているにすぎないから,当該MTXがどのような形状を有していたかは不明であるというほかなく,甲2報告書のMTXと甲36一覧表に記載されたMTXとが同一の構造を有していると認めることはできない。 (オ) 甲63雑誌に掲載されたMTXの写真は,後側方から撮影された比較的小さな写真1枚にすぎず,その具体的構成は当該写真及び紹介記事の内容からは不明であるから,甲63雑誌に掲載された写真のMTXと甲2報告書のMTXとが同一の構造を有していると認めることはできない。 イ甲2発明の公知性について前記アによれば,本件の原出願(平成13年6月14日)前において,MTXが掲載されたカタログが配布されていた事実,MTXの試作品が業者向けの展示会において展示され,あるいは完成品が一般に市販されていた事実を推認することは可能である。 しかしながら,甲2報告書のMTXが平成12年7月頃に試作されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。また,本件展示会において展示されたり,甲3カタ- 15 -ログに掲載されたMTXや一般に市販されたMTXが,具体的にどのような形状を有していたかについては,本件全証拠をもってしても不明である。さらに,上記各MTXと,甲2報告書のMTXとが同一の構成を有していることを認めるに足りる証拠もないから,甲2報告書のMTXが公然知られた状態に至った時期も,不明である。 したがって,本件展示会(平成13年2月4日ないし7日,同年3月9日ないし13日)時点において,公知となっていたMTXの具体的形状が不明である以上,その当時,甲2発明が公然知られていたということはできない。 件展示会(平成13年2月4日ないし7日,同年3月9日ないし13日)時点において,公知となっていたMTXの具体的形状が不明である以上,その当時,甲2発明が公然知られていたということはできない。 2 小括以上のとおり,本件展示会の時点において甲2報告書のMTXが公然知られていたことに関する原告の主張はいずれも採用することができない。 したがって,甲2発明は本件の原出願前に公然知られた発明ではないとした本件審決の認定に誤りはない。 第5 結論以上の次第であるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は相当であって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官富田善範 裁判官田中芳樹 裁判官荒井章光- 16 -(別紙)
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