平成28(行ウ)17 懲戒免職処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年3月30日 名古屋地方裁判所 その他
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判決文本文23,546 文字)

- 1 -平成29年3月30日判決言渡平成28年(行ウ)第17号懲戒免職処分取消等請求事件主文 1 P1市上下水道局長が平成27年9月3日付けで原告に対してした退職手当支給制限処分を取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 P1市上下水道局長が平成27年9月3日付けで原告に対してした懲戒免職処分を取り消す。 2 主文第1項と同旨 3 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,P1市上下水道局長(処分行政庁)から平成27年9月3日付けで懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)及び退職手当支給制限処分(以下「本件支給制限処分」といい,本件懲戒免職処分と合わせ「本件各処分」という。)を受けた原告が,被告(以下「市」ともいう。)に対し,本件各処分はいずれも裁量権を逸脱又は濫用した違法なものであると主張して,本件各処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者原告は,昭和33年▲月▲日生まれの男性であり,昭和52年4月1日,P1市上下水道局(以下「水道局」という。)に上下水道局業務技師として - 2 -採用され,平成26年4月1日から本件懲戒免職処分までの間は,水道局P2(以下「P2」という。)で勤務していた(争いがない)。 (2) 原告による酒気帯び運転等原告は,平成27年7月24日午後11時53分頃,呼気1リットル当たり0.29ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で,P1市α×番地付近道路で自 (2) 原告による酒気帯び運転等原告は,平成27年7月24日午後11時53分頃,呼気1リットル当たり0.29ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で,P1市α×番地付近道路で自動車(自家用の普通乗用自動車。以下単に「車」という。)を運転し,酒気帯び運転(道路交通法65条1項違反)で検挙された(以下,原告によるこの運転行為を「本件酒気帯び運転」という。)。これは,飲酒検問により発覚したものであり,その際,原告の酒臭は強く,顔色は赤く,目の状態も充血していたが,言語状況は普通であり,約10メートルの正常歩行及び約10秒間の直立は可能であった。(甲1,36,弁論の全趣旨)原告は,本件酒気帯び運転により,同年9月14日,道路交通法違反(酒気帯び運転)で罰金30万円(略式命令)に処せられるとともに,同年10月15日,2年間の運転免許取消処分を受けた(甲2,3)。 (3) 本件各処分ア処分行政庁は,平成27年9月3日,原告に対し,地方公務員法29条1項1号及び3号の規定により懲戒処分として免職するとの本件懲戒免職処分をした。その処分理由は,「公務員の飲酒運転については,平成18年度に他都市で発生した凄惨な死亡事故を契機に,懲戒処分の取扱方針において厳罰化を明記し,事あるごとに飲酒に関する不祥事の防止について周知徹底するなど,その撲滅に向けて様々な取組を行ってきたところである。このような中で飲酒運転を行ったことは,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する責務を負う地方公務員にあるまじき非違行為であり,断じて許されるものではなく,本市職員及び本市全体に対する信用と名誉を著しく貶め,傷付けるものである。地方公務員法第33条に規定す - 3 -る信用失墜行為の禁止に反することは明らかであるとともに,全体の奉仕 のではなく,本市職員及び本市全体に対する信用と名誉を著しく貶め,傷付けるものである。地方公務員法第33条に規定す - 3 -る信用失墜行為の禁止に反することは明らかであるとともに,全体の奉仕者たるにふさわしくない非違行為に該当する。」というものであった。 (甲4,乙14)イまた,処分行政庁は,同日,原告に対し,市の職員退職手当条例(以下「本件退職手当条例」という。)17条1項により本件支給制限処分をした。その処分理由は,原告に対しては同日に本件懲戒免職処分としたところ,本件退職手当条例17条1項で定める事情を勘案し,「酒気を帯びた状態であることを認識しながら運転を行ったこと,飲酒運転を回避する手段が他にあったにも関わらず自家用車にて帰宅を図ったこと,職務遂行上,公用車を運転することが求められ,交通法規を当然に遵守する立場にありながら飲酒運転を行ったことなどにより,飲酒運転の撲滅に向けたこれまでの本市職員及び本市の取り組みを無に帰し,信用失墜,品位の毀損を与えたことから,これらを総合的に勘案し,一般の退職手当の全部を不支給とすることとした。」というものであった。(甲6,乙63)。 本件支給制限処分により,原告が支給を受ける一般の退職手当等(本件退職手当条例2章及び13条の規定による退職手当をいう。以下同じ。)の額は,2033万1057円(処分前)から47万1662円(処分後)となった。これは,本件退職手当条例13条1項に基づき労働基準法20条による給付(いわゆる解雇予告手当)として原告の30日分の平均賃金が支払われたものであり,本件支給制限処分は,一部支給制限処分ではあるものの,実質的には全部支給制限処分と同質のものであった。(甲6,乙33,50,弁論の全趣旨)。 (4) 本件訴訟に至る経緯原告は たものであり,本件支給制限処分は,一部支給制限処分ではあるものの,実質的には全部支給制限処分と同質のものであった。(甲6,乙33,50,弁論の全趣旨)。 (4) 本件訴訟に至る経緯原告は,平成28年2月10日,本件各処分の取消しを求め,当裁判所に本件訴訟を提起した(顕著な事実。なお,水道局の職員である原告には,地方公営企業法39条1項の趣旨を踏まえ,審査請求前置主義を定めた地方公 - 4 -務員法51条の2は適用されないものと解される。)。 (5) 関係法令等の定めア地方公務員法29条(懲戒)1項は,職員が同法若しくは同法57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基づく条例,地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合(同法29条1項1号),又は,全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(同項3号)においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができると定めている。 また,同法33条(信用失墜行為の禁止)は,職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならないと定めている。 イ市及び水道局では,平成18年9月,同年10月1日以後に発生した非違行為に適用される処分方針として,「飲酒運転に対する懲戒処分の取扱方針(上下水道局)」(以下「旧取扱方針」という。)を制定した。旧取扱方針では,飲酒運転とは酒酔い運転及び酒気帯び運転をいうとした上で,「飲酒運転で事故を起こした職員は,免職とする。」,「飲酒運転をした職員は,免職とする。ただし,この場合において,特段の事情がある場合は,停職とすることができる。」と定められた。(乙3の1・2,弁論の全趣旨)その後,市及び水道局は,平成19年5月1日以 をした職員は,免職とする。ただし,この場合において,特段の事情がある場合は,停職とすることができる。」と定められた。(乙3の1・2,弁論の全趣旨)その後,市及び水道局は,平成19年5月1日以後に発生した非違行為に適用される処分方針として,「懲戒処分の取扱方針」(以下「現取扱方針」という。)を制定した(なお,これにより旧取扱方針は廃止された。)。現取扱方針は,非違行為の代表的な事例を選び,それぞれにおける標準的な処分量定を掲げたものであるが,飲酒運転に対する処分については,旧取扱方針の取扱いが継承され,飲酒運転とは酒酔い運転及び酒気帯び運転をいうとした上で,「飲酒運転で事故を起こした職員は,免職と - 5 -する。」,「飲酒運転をした職員は,免職とする。ただし,この場合において,特段の事情がある場合は,停職とすることができる。」と定めている(取扱方針第3の5(1)ア,イ)。(乙4の1・2)ウ国家公務員退職手当法(平成21年4月1日施行の改正後のもの。以下同じ。)12条(懲戒免職等処分を受けた場合等の退職手当の支給制限)1項は,懲戒免職等処分を受けて退職をした者については,当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響その他の政令で定める事情を勘案して,退職手当の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができると定め,上記政令である同法施行令17条は,同法12条1項に規定する政令で定める事情につき,当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした者の勤務の状況,当該退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違に至った経緯,当該非違後における当該退職をした者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度 職の職務及び責任,当該退職をした者の勤務の状況,当該退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違に至った経緯,当該非違後における当該退職をした者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響とすると定めている。 エ本件退職手当条例では,一般の退職手当の額は,退職手当を支給する理由の生じた日における給料月額の25分の1相当額(給料日額)に勤続期間に対応する日数を乗じて得た基本額に,退職手当の調整額を加えて得た額とされており,自己都合退職の場合には,退職手当の調整額が減額されている(同条例3条の3ないし6条の3。乙33)。 また,本件退職手当条例17条(懲戒免職等処分を受けた場合等の退職手当の支給制限)1項は,懲戒免職等処分を受けて退職をした者に対し,退職手当管理機関(地方公務員法その他の法令の規定により,職員の退職の日において当該職員に対し懲戒免職等処分を行う権限を有していた機関)は,当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をし - 6 -た者の勤務の状況,当該退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違に至った経緯,当該非違後における当該退職をした者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して,当該退職に係る一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができると定めている。(甲5,乙33,42) 2 争点(1) 本件懲戒免職処分の違法性(2) 本件支給制限処分の違法性 3 争点に対する当事者の主張(1) 本件懲戒免職処分の違法性について(原告の主張)本件懲戒免職処分は,原告の公務員たる地位を失わせるという重大な結果を招来する 法性 3 争点に対する当事者の主張(1) 本件懲戒免職処分の違法性について(原告の主張)本件懲戒免職処分は,原告の公務員たる地位を失わせるという重大な結果を招来するものであるところ,以下の諸事情に照らすと,本件酒気帯び運転の悪質性は低いのに対し,本件懲戒免職処分によって56歳にして無職となった原告が受ける不利益は余りにも大きい。したがって,本件懲戒免職処分は,重きに失し,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものであるため,違法である。 ア本件酒気帯び運転が私生活上の非違行為であること本件酒気帯び運転は,原告が野球部の懇親会を終え,帰宅する途中でなされたものであり,原告の職務とは無関係な私生活上の非違行為に過ぎない。この野球部は,水道局の職員で構成されるものではあるが,加入は任意であり,活動自体も原告の職務内容とは無関係で,かつ,懇親会は勤務終了後に行われたものであるから,原告の私生活上のものであるといえる。 イ本件酒気帯び運転の偶発性 - 7 -原告は,懇親会で飲酒することを予想し,勤務先であるP2の事務所(P1市β所在。以下単に「事務所」ということもある。)の駐車場に車を置いて懇親会の会場に向かった。原告は,懇親会終了後は公共交通機関を利用して帰宅する予定であったが,自宅の鍵を車内に忘れたことに気付き,帰宅途中でバスを降りて,事務所に立ち寄った。そして,自宅の最寄りのバス停へ向かうバスの運行が終了したものと誤信し,本件酒気帯び運転に及んでしまった。 このように,本件酒気帯び運転は,原告が自宅の鍵を車内に置き忘れたことに起因する偶発的なものであって,飲酒開始当初から酒気帯び運転を企図していた場合とは異なる。 ウ本件酒気帯び運転の まった。 このように,本件酒気帯び運転は,原告が自宅の鍵を車内に置き忘れたことに起因する偶発的なものであって,飲酒開始当初から酒気帯び運転を企図していた場合とは異なる。 ウ本件酒気帯び運転の危険性原告が本件酒気帯び運転を行った時間は,深夜である午後11時50分頃であり,走行した道路の交通量や人通りも少なかった。 また,原告が本件酒気帯び運転を行ったのは5分程度で,走行距離も事務所の駐車場から約500メートルと短く,速度超過など具体的に危険な走行をしたものではないし,原告は検挙当時の歩行能力テストでは往復10メートル程度を正常に歩行することができた。 このように,原告は,本件酒気帯び運転を行ったものの,正常な歩行能力を有した状態での運転であり,運転時間も走行距離も短く,危険性は低かったのであって,現に,原告は,本件酒気帯び運転による事故は起こしていない。 エ本件酒気帯び運転後の対応(ア) 原告は,本件酒気帯び運転による検挙後,直ちに上司に連絡をし,翌日には,上司に対し本件酒気帯び運転の事実を報告した。このことから,原告に本件酒気帯び運転を隠ぺいする意図はなく,原告が反省していたことは明らかである。 - 8 -平成27年9月29日の事情聴取の際にも,原告は,本件酒気帯び運転が短絡的であったことを認め,反省の弁を述べている。 (イ) なお,原告は,上司への報告の際に車を運転して待合せ場所へ向かい,本件酒気帯び運転で検挙された翌々日には飲酒をしているものの,いずれも法令に違反する行為ではなく,責められるべきものではない。 オ公務等に対する影響の程度(ア) 原告は,本件酒気帯び運転による事故は起こしておらず,第三者への実害を生じさせていない。 (イ) 確かに,原告は,排水管布設工 ものではない。 オ公務等に対する影響の程度(ア) 原告は,本件酒気帯び運転による事故は起こしておらず,第三者への実害を生じさせていない。 (イ) 確かに,原告は,排水管布設工事の立会業務等を主な職務とし,現場に行くため,出勤日の多くに公用車の運転を行っていた。もっとも,職務で現場に行く際には,基本的に2人から3人で1台の公用車に同乗していたから,原告が公用車を運転しなければ職務を行うことができなかったわけではない。 また,夜間及び休日の勤務の際には,1人で現場に向かわなければならない場合があり,他の職員が勤務を交代したことはあった。しかし,原告が夜間及び休日勤務に従事するのは1か月に2,3日程度しかなく,同勤務日も基本的には複数の職員で現場に臨場していたし,原告が自費でタクシーを利用するなどして公務に支障を生じさせないことは十分に可能であった。 このように,本件酒気帯び運転による公務への影響は些細なものであり,実害といえるほどの影響は生じなかった。 カ原告の勤務態度等(ア) 原告には,交通違反歴はあるものの,それ以外に前科前歴はない。 また,原告は,水道局に採用されてから本件懲戒免職処分を受けるまでの約38年5か月間,一度も懲戒処分を受けておらず,日頃の勤務態度にも特段の問題はなかった。 - 9 -(イ) 被告の主張する不適切な行為についての反論は,次のとおりである。 a 通勤手当の不正受給原告は,転居の事実を水道局に届け出ておらず,その結果,通勤手当を過分に受給することとなったが,これは,当時,原告が転居前の住所に戻る可能性があったことから,住所変更の届出をしていなかったものであり,通勤手当を過分に受給することを企図していたわけではない。また,過分に受給した額も1 ったが,これは,当時,原告が転居前の住所に戻る可能性があったことから,住所変更の届出をしていなかったものであり,通勤手当を過分に受給することを企図していたわけではない。また,過分に受給した額も1200円と少額で,既に返納している。 b 勤務時間における私的行為原告は,勤務時間内に私的な目的で銀行に立ち寄ったことはあるが,これはATMを利用するために数分間立ち寄ったに過ぎない。 また,原告は,勤務時間内に運転免許証の再発行を受けるために運転免許試験場へ赴いたことはあるが,これは,職務上自動車を運転する際に免許不携帯にならないよう,一緒に現場を回っていた先輩の許可を受けた上で行ったことである。 c 職務専念義務免除期間中の事務所訪問原告が怪我の療養のため職務専念義務を免除されていた期間中に事務所を訪れたことはあったが,これは,自身のスポーツ安全保険の保険証書を取りに行くためであり,用もなく訪れたわけではない。 d 金銭管理被告は,原告の金銭管理が甘いことを指摘するが,これは私生活上の問題であり,原告の職務とは無関係である。 (被告の主張)本件各処分は,酒気帯び運転という行為自体の悪質性のみならず,本件酒気帯び運転に至った背景や原告の職務の性質,市民への影響などを考慮した - 10 -上で総合的に判断し行ったものである。そして,以下の諸事情に照らすと,本件懲戒免職処分は,重きに失して社会通念上著しく妥当性を欠くものであるとはいえず,裁量権の範囲を逸脱,濫用したものではなく,適法である。 ア本件酒気帯び運転が職務に連続して行われたこと(ア) 本件酒気帯び運転の直前まで原告が飲酒していた懇親会は,原告が所属する部署の公務員だけで構成される野球部の懇親会であり,勤務終了後,勤務に引き続いて行われたものである 連続して行われたこと(ア) 本件酒気帯び運転の直前まで原告が飲酒していた懇親会は,原告が所属する部署の公務員だけで構成される野球部の懇親会であり,勤務終了後,勤務に引き続いて行われたものである。また,原告は,懇親会当日の朝に事務所まで乗ってきた車を,懇親会終了後バスを途中で降りて事務所まで来て運転したというものであり,起点も事務所である。このように,飲酒の時間,懇親会の出席者,運転の出発点が職務と近接しており,職務に全く無関係とはいえず,むしろ職務に連続した行為として本件酒気帯び運転がなされたと評価できる。 (イ) 仮に私生活上の非違行為と評価されるとしても,水道局は市民生活に密接な関係を有する上下水道事業を所管する公営企業であり,高い廉潔性の保持が要請されるから,民間企業の場合よりも厳しい規制をすることに合理性がある。 イ本件酒気帯び運転の計画性原告が,懇親会で飲酒する予定があるにもかかわらず,当日,車を運転して出勤したこと,事務所の最寄りのバス停からの最終バスの発車時刻を確認していないこと,事務所に到着してから5分もたたないうちに車を運転しており,運転を躊躇した様子が見られないことなどに照らすと,原告は,当初から飲酒運転をすることを意図していたと推認される。 ウ本件酒気帯び運転の危険性原告からは,基準値(呼気1リットル当たり0.15ミリグラム)の約2倍ものアルコールが検出されていること,原告が本件酒気帯び運転を行った道路は,住宅が密集し交通事故も多い場所であることを考慮すると, - 11 -原告が本件酒気帯び運転によって重大な事故を起こす危険性は十分にあった。 本件酒気帯び運転による事故を起こしていないというのは結果論に過ぎず,これをもって処分を軽減すべきではない。 エ本件酒気帯び 酒気帯び運転によって重大な事故を起こす危険性は十分にあった。 本件酒気帯び運転による事故を起こしていないというのは結果論に過ぎず,これをもって処分を軽減すべきではない。 エ本件酒気帯び運転後の対応非違行為を犯した場合に速やかに上司に報告することは公務員として当然であり,処分を軽くすべき事情とはならない。 むしろ,原告は,上司に報告する際,原告の自宅から5分程度の距離にある待合せ場所に車で赴き,本件酒気帯び運転で検挙された翌々日には飲酒を再開していることからすると,原告は本件酒気帯び運転の重大性を認識しておらず,悔悟・反省していたとはいえない。 オ公務等に対する影響の程度原告は,排水管布設工事の立会業務等を主な職務としており,現場に行くため,出勤日はほとんど毎日といえる頻度で公用車の運転を行っていた。本件酒気帯び運転後,原告は公用車の運転を禁じられ,1週間ほど内勤業務に従事したほか,その後も一人で公用車を運転する可能性が高い夜間勤務及び休日勤務に従事することができず,他の職員が交代するなど,現に公務への実害は生じていた。 カ原告の勤務態度等(ア) 原告には懲戒処分歴はないが,そもそも,大半の職員は懲戒処分歴がないことからすると,懲戒処分歴がないことを特段評価すべきではない。 (イ) 原告は,過去にも速度超過及び放置駐車違反により運転免許取消処分を受けている。また,平成24年には速度超過を犯しているほか,平成27年にも放置駐車違反を犯している。 そのほかにも,原告は,漏水修理の業務において無断で他人の私有地 - 12 -に立ち入るなどしたため住民から警察に通報されたり,転居の事実を水道局に届け出ず通勤手当を過分に受給していたことがあるほか,公用車で放置駐車違反 の業務において無断で他人の私有地 - 12 -に立ち入るなどしたため住民から警察に通報されたり,転居の事実を水道局に届け出ず通勤手当を過分に受給していたことがあるほか,公用車で放置駐車違反を犯しその事実を隠匿したり,勤務時間中に上司の許可を受けずに銀行や運転免許試験場へ行ったりするなど,不適切な行動を繰り返していた。これに対し,被告は,原告に軽率な判断や行動を行わない旨の始末書を提出させ,月1回の面接指導を行うなどしていたが,原告の態度は改善されず,その後も,公用車を私的な買い物に利用した上,駐車場ブロックにぶつけて破損させたり,怪我の療養のため職務専念義務を免除されている期間中に,特段の理由もないのに,腕にギプスを装着したまま車で事務所に赴くなどした。 (ウ) このように,原告は,水道局の再三の指導にもかかわらず,不適切な行為や道路交通法上の反則行為を繰り返しており,公務員としての自覚や遵法意識が決定的に欠如しているのであって,P2でも,原告は注意が必要な職員であるとされていた。 (エ) なお,原告は,金銭の管理意識も甘く,給料の約半分を借入金の返済に充てていたほか,給料等の差押えも受けていた。 (2) 本件支給制限処分の違法性について(原告の主張)ア上記(1)(原告の主張)のとおり,本件懲戒免職処分は違法であり,取り消されるべきであるため,本件懲戒免職処分の存在を前提としてなされた本件支給制限処分も違法である。 イ公務員の退職手当については,勤続報償的性格,賃金後払い的性格,退職後の生活保障的性格が同等に考慮されるべきである。そして,仮に本件懲戒免職処分が適法であるとしても,本件支給制限処分は,原告の退職手当受給権のほとんどを失わせるものであるところ,上記(1)(原告の主張) 活保障的性格が同等に考慮されるべきである。そして,仮に本件懲戒免職処分が適法であるとしても,本件支給制限処分は,原告の退職手当受給権のほとんどを失わせるものであるところ,上記(1)(原告の主張)で述べた諸事情を考慮すると,本件酒気帯び運転は,原告の長年の勤 - 13 -続功績のほとんどを抹消するほどの重大な非違行為ではなく,また,賃金の後払及び退職後の生活保障の性格のほとんどを否定すべき程度の悪質性はない。 そのため,本件支給制限処分は,重きに失し,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものであり,違法である。 (被告の主張)ア公務員の退職手当の性格は,勤続報償としての要素が強いものである。 この点,水道局は,市民生活に不可欠なインフラである上下水道を所管しており,原告は,水道工事現場における施工業者の監督・指導や市民から寄せられる水に関する問題への対応等,市民と接する機会が多い職務に従事していた。そのため,原告には廉潔性の保持及び法規範の遵守に対する高い意識が求められていたのであり,本件酒気帯び運転は水道局の印象及び社会的評価を貶めるものである。 また,原告は,飲酒運転が厳罰に処せられることを認識しており,バスや徒歩での帰宅など他の取り得る帰宅手段があったにもかかわらず,本件酒気帯び運転を行い,運転に当たっても,飲酒後時間を空けるなどの配慮もしていない。 これらの諸事情を考慮すると,原告の非違行為は過去の功労を抹消するほど悪質かつ重大なものであるといえるから,本件支給制限処分は社会通念上著しく妥当性を欠くものとはいえず,裁量権を濫用したものではないから,適法である。 イまた,被告では,職員の飲酒運転に対しては,事故の有無にかかわらず,その重大性を鑑みて,懲戒免職処分及 通念上著しく妥当性を欠くものとはいえず,裁量権を濫用したものではないから,適法である。 イまた,被告では,職員の飲酒運転に対しては,事故の有無にかかわらず,その重大性を鑑みて,懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分を行っており,仮に原告に対し本件支給制限処分を行わないとすると,平等取扱いの原則及び公正の原則(地方公務員法13条,27条1項)にも反することになる。 - 14 -第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,証拠(括弧内に証拠番号等を記載する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 (1) 原告の職務内容(甲13,14,乙16の1ないし3,証人P3,証人P4,原告本人,弁論の全趣旨)水道局における原告の主な職務は,業務技師として,漏水修理や排水管布設工事の立会い(現場管理)であった。現場に向かう際には,複数名の業務技師が同乗して公用車を使用して行くことが多く,その場合に誰が運転するかについて定まったルールはなかったが,原告が運転することもしばしばあった。 (2) 本件酒気帯び運転に至る経緯等(甲1,7,13,乙1,10の1・2,11ないし13,29,原告本人,弁論の全趣旨)ア原告は,平成27年7月24日,車で事務所へ出勤し,勤務終了後,P2に所属する職員で構成された野球部の懇親会に参加するため,車を事務所に置いて,バスで懇親会の会場へ向かった。 懇親会は,午後6時30分頃から午後8時30分頃まで開催され,25名程度が参加した。原告は,懇親会において,生ビールを大きめのグラスで5,6杯程度飲んだ。 イ懇親会終了後,原告を含む10名程度がタクシーで二次会へ向かった。 二次会は,午後10時頃から始まり,午後11時頃に終了したが,この二次会で,原告は,ビール きめのグラスで5,6杯程度飲んだ。 イ懇親会終了後,原告を含む10名程度がタクシーで二次会へ向かった。 二次会は,午後10時頃から始まり,午後11時頃に終了したが,この二次会で,原告は,ビールをグラスに半分程度飲んだ。 ウ二次会終了後,原告は,二次会会場の最寄駅であるP5駅から,地下鉄でP6駅に向かい,午後11時30分頃,P6駅から当時の自宅方面に向かうバスに乗車した。ところが,原告は,バスに乗車後,自宅の鍵を事務所の駐車場に置いた車内に忘れてきたことに気付いたため,事務所の最寄 - 15 -りのバス停でバスを途中下車し,事務所に向かった。事務所には,午後11時45分頃に到着した。 原告は,車内で自宅の鍵を見付けた後,バスはもうないだろうしバス停に戻るのも面倒だという思いもあり,酔いの感覚は多少あったものの大丈夫だろうと思い込み,事務所の仮眠スペースを利用して仮眠を取ることもせず,午後11時50分頃,車を発進させて,本件酒気帯び運転に及んだところ,直後の午後11時53分頃,本件酒気帯び運転で検挙された。原告が運転を開始した事務所から検挙された地点までの距離は,約500メートルであった。 エなお,当日,事務所から原告の自宅方面へと向かうバスの最終の時刻は,午後11時59分であった。 また,当日夜の天候は晴れであり,午後11時頃の気温は摂氏27.7度であった。 (3) 本件酒気帯び運転後の経過(甲13,乙10の1,20,51,原告本人,弁論の全趣旨)ア原告は,警察官が運転する車に送迎されて,翌25日午前1時頃に自宅に到着した。原告は,その前後頃にP2長のP7に電話をしたものの,その時はつながらなかったが,翌朝,P7から折り返しの電話があったため,同日午後1時頃,原告の自宅近くの喫茶店でP7と面会し,本件酒気帯 着した。原告は,その前後頃にP2長のP7に電話をしたものの,その時はつながらなかったが,翌朝,P7から折り返しの電話があったため,同日午後1時頃,原告の自宅近くの喫茶店でP7と面会し,本件酒気帯び運転について報告した。 イ同月29日,水道局から原告に対する事情聴取が行われ,原告は,本件酒気帯び運転の事実を認めて謝罪した。 また,原告は,同年8月3日,同月12日及び同月30日の夜間勤務を他の職員と交代した。 ウ原告が本件酒気帯び運転により本件懲戒免職処分を受けたことについては,処分の翌日(同年9月4日),複数の新聞紙上で報道された(乙15 - 16 -の1ないし4)。 (4) 原告の勤務態度及び交通違反歴(甲13,乙9,21,22,23の1ないし4,24,39,40,証人P4,原告本人,弁論の全趣旨)ア原告は,平成18年8月の違反行為(公用車の不適切場所への駐車と駐車違反,勤務時間中における私的な銀行利用及び無許可での運転免許証再交付手続)により,同年9月に始末書の提出を命じられ,同年10月には,P8部長から,直接,厳重注意を受けた。 しかるに,原告は,平成19年1月にも,私用で公用車を運転中,駐車場ブロックに車両前部を乗り上げて破損する物損事故を起こした。 平成27年4月のP2長の引継書においても,原告については,「公私ともに行動等に要注意。観察が必要。」と特記されている。 イ原告には,平成24年2月に速度超過(時速25キロメートル以上30キロメートル未満)の違反歴がある。 ウ原告には懲戒処分歴はない。 (5) 現取扱方針の制定経緯及び被告における処分例(乙2の1ないし4,3の1・2,4の1・2,5,6,7の1・2,9,弁論の全趣旨)ア平成18年に福岡市で発生した 戒処分歴はない。 (5) 現取扱方針の制定経緯及び被告における処分例(乙2の1ないし4,3の1・2,4の1・2,5,6,7の1・2,9,弁論の全趣旨)ア平成18年に福岡市で発生した酒気帯び運転による幼児3名の死亡事故を契機に,飲酒運転には厳しい姿勢で対処すべきであるという社会的要請が高まったことを踏まえ,市及び水道局は,職員一人一人により一層の自覚を促し公的機関として職員の飲酒運転を撲滅しようという姿勢を示すため,平成18年9月19日,旧取扱方針を制定し,厳罰化を明記した。その後,平成19年3月(市)及び5月(水道局)には,旧取扱方針に代わるものとして現取扱方針が制定され,飲酒運転を含む非違行為の代表的な事例とそれに対する標準的な処分量定が掲げられた。現取扱方針では,旧取扱方針の制定後も市の職員による2件の飲酒運転事案が発生していたことや,平成18年当時,47都道府県中で愛知県が交通事故による死者数 - 17 -ワースト1位であり,飲酒運転の取締件数についてもワースト3位という状況も背景として,飲酒運転に関する処分については旧取扱方針における取扱いを継承し,原則として免職処分とすることを定めている。 イ被告では,旧取扱方針制定後,本件各処分までの間に,飲酒運転を理由として6名が懲戒免職処分となっており,いずれも,退職手当全額が不支給とされた。なお,上記6名のうちの1名については,飲酒運転による交通事故は起こしていない。 (6) 水道局における飲酒運転の撲滅に向けての取組(乙9,30の1ないし8,原告本人,弁論の全趣旨)平成18年以降,市あるいは水道局から,職員に対して,飲酒に関する不祥事の防止について周知徹底するなど,飲酒運転の撲滅に向けて種々の取組を行ってきており,原告も,飲酒運転をすれば,交通事故を 旨)平成18年以降,市あるいは水道局から,職員に対して,飲酒に関する不祥事の防止について周知徹底するなど,飲酒運転の撲滅に向けて種々の取組を行ってきており,原告も,飲酒運転をすれば,交通事故を起こしていなくても,原則として懲戒免職処分を受けることは知っていた。 (7) その他の事情(原告本人,弁論の全趣旨)原告は,本件各処分当時,56歳,独身であったが,相当額の借金を抱え,破産手続の準備中であった。もっとも,原告は,ようやく平成29年1月下旬頃から再就職する予定であるが,原告の年収は,水道局に勤務していた当時よりもかなり減少する見込みである。 (8) 本件退職手当条例の制定経緯(甲5,乙33,42ないし49)ア不祥事を起こした国家公務員に対する退職手当の取扱いについては,平成19年10月30日の閣議決定(乙43)に基づき,総務省に「国家公務員退職手当の支給の在り方等に関する検討会」が設置され,同検討会は,平成20年6月4日付けの報告書(乙44。以下「検討会報告書」という。)を取りまとめた。 この報告書では,当時の制度の問題点の一つとして,懲戒免職処分の場合には一律に退職手当の全額を不支給としていることが取り上げられた。 - 18 -そして,退職手当の基本的な性格については「勤続報償的,生活保障的,賃金後払い的な性格をそれぞれ有し,これらの要素が不可分的に混合しているものであるが,基本的には,職員が長期間勤続して退職する場合の勤続報償としての要素が強いものとして制度設計がされてきた」ものであり,退職手当の支給制限制度については「公務に対する国民の信頼を損ねたことを非難して行う公務員法制上の制裁であると解することが適当である」,「公務員法制上の制裁には,非違行為を行った個人を非難する側面とともに,退職 制限制度については「公務に対する国民の信頼を損ねたことを非難して行う公務員法制上の制裁であると解することが適当である」,「公務員法制上の制裁には,非違行為を行った個人を非難する側面とともに,退職手当が持つ勤続報償としての性格を前提に,非違行為により公務における過去の功績が没却されて報償を与えるに値しないものと評価して,当該職員の退職手当を受け取る地位ないし権利を否定する側面もあると考えることができる」との見解の下に,「一部支給制限制度の創設」と題して,次の①ないし③を含む提言を行った。 「① 不祥事を起こした職員に対する退職手当の支給制限は,現行の退職手当制度においては,懲戒処分と連動した取扱いとなっており,懲戒免職処分の場合には一律に全額不支給,その他の処分の場合には,仮に処分後退職をしても原則として全額支給とされている。国家公務員の退職手当の性格が,勤続報償的,生活保障的,賃金後払い的な性格をそれぞれ有する複合的なものだとすると,在職中の功績が没却されたからといって直ちに生活保障や賃金後払いを全くしなくてよいということにはならない。また,その勤続報償としての要素を重視するとしても,退職手当の不支給という制裁を非違行為を行った個人に対する非難としてみた場合には,非違の重大性との間で均衡のとれたものとする必要があり,功績が没却され,退職手当を受け取る地位ないし権利が否定されるとする立場からも,本人の過去の功績の度合いと非違行為によってそれが没却される程度とを比較衡量する必要がある。 ② 民間においては,懲戒解雇の場合であっても一律全額不支給とはせ - 19 -ずに,一部を支給する規定を設けているところがあり,裁判事例においても,懲戒解雇により退職金が全額支給されなかった事案について,懲戒解雇は認めつつも,退職金は諸般の事 支給とはせ - 19 -ずに,一部を支給する規定を設けているところがあり,裁判事例においても,懲戒解雇により退職金が全額支給されなかった事案について,懲戒解雇は認めつつも,退職金は諸般の事情を考慮し,部分的に支給するよう命じたものが少なくない。 ③ 現行の退職手当制度においては,懲戒免職処分とその他の懲戒処分(停職,減給,戒告)では,退職手当制度上の効果が大きく異なり,差が大きすぎるのではないかという疑問がある。したがって,懲戒免職処分を行う場合であっても,退職手当については,全額不支給を原則としつつ,非違の程度等に応じて,その一定割合を上限として一部支給することが可能となるような制度を創設することが適当である。」イ検討会報告書を踏まえ,国家公務員退職手当法及び同法施行令が改正されるとともに(前記第2の1(5)ウ参照),同法の運用方針も一部改正され(乙45),懲戒免職処分を受けて退職した者について,一般の退職手当等を全部不支給とするだけでなく,一部不支給とすることも可能となった。 そして,上記各改正に合わせ,総務省自治行政局公務員部長は,各都道府県知事,各指定都市市長及び各人事委員会委員長に対し,「職員の退職手当に関する条例の一部を改正する条例(案)等について(通知)」(平成21年3月31日付け総行給第45号。乙46)を発出し,上記各改正を踏まえて規定の整備を図るよう通知した。また,総務省自治財政局公営企業課長も,各都道府県及び指定都市の企業管理者等に対し,「企業職員の給与の種類及び基準に関する条例の一部を改正する条例(案)について(通知)」(平成21年5月14日付け総財公第76号。乙47)を発出し,上記改正に合わせた所要の対応を図るよう通知した。 ウ市は,上記各改正及び総務省通知を受けて,本件退職手当条例及び同 について(通知)」(平成21年5月14日付け総財公第76号。乙47)を発出し,上記改正に合わせた所要の対応を図るよう通知した。 ウ市は,上記各改正及び総務省通知を受けて,本件退職手当条例及び同条例施行規則を改正し,同条例の17条1項で,懲戒免職処分を受けて退職 - 20 -した者については,一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる旨を規定するとともに,総務局長名で「退職手当の支給制限について」(平成22年3月30日付け21総給第135号。乙48)を定め,退職金の全部不支給を原則としつつ,一部不支給とすることも可能であることを前提に,処分を加重又は軽減する際の考慮要素についても規定した。 2 争点に対する判断(1) 本件懲戒免職処分の違法性(争点(1))についてア違法性の判断基準地方公務員法29条1項は,地方公務員に同項1号ないし3号所定の非違行為があった場合,懲戒権者は,懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができると定めているところ,公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁昭和59年(行 し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁昭和59年(行ツ)第46号平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁,最高裁平成23年(行ツ)第242号,同年(行ヒ)第265号同24年1月16日第一小法廷判決・集民239号1頁,最高裁平成23年(行ツ)第263号,同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・集民239号253頁参照)。 - 21 -イ本件懲戒免職処分について上記アの判断基準を踏まえ,本件懲戒免職処分の違法性の有無について検討する。 (ア) まず,前記第2の1の前提事実及び前記1の認定事実によれば,本件酒気帯び運転は,市及び水道局が職員による飲酒運転の撲滅に向けて進めてきた様々な取組や現取扱方針の趣旨に違反することはもちろん,原告の職の信用を傷付け,水道局のみならず市の職員の職全体の不名誉となる信用失墜行為というべきであって(地方公務員法33条参照),同法29条1項1号及び3号所定の懲戒事由に該当することは明らかである。 (イ) 次に,前記第2の1の前提事実及び前記1の認定事実に基づき,原告に対して懲戒処分をすべきかどうか及びいかなる処分を選択すべきかという観点から考慮すべき事情について整理すれば,以下のaないしdのとおりいうことができる。 a まず,本件酒気帯び運転の性質,態様について見るに,原告が検挙された際,アルコール濃度は呼気1リットル当たり0.29ミリグラムで,道路交通法違反で処罰される基準値の約2倍に及び,言語状況や歩行には異常は見られなかったものの,酒臭は強く顔色は赤く目の状態も充血しており,原告自身も酔いの感 1リットル当たり0.29ミリグラムで,道路交通法違反で処罰される基準値の約2倍に及び,言語状況や歩行には異常は見られなかったものの,酒臭は強く顔色は赤く目の状態も充血しており,原告自身も酔いの感覚が多少あったことは自覚していた。しかるに,原告は,事務所や車内で仮眠を取るなど飲酒運転を回避するための行動を取ろうともせず,事務所に到着して間もなく車を発進させて本件酒気帯び運転に及んだのであるが,事務所から原告の自宅までの距離やその当時の天候等からすれば,原告が徒歩やタクシーで帰宅することも容易であったはずであって,原告が車を運転して帰宅しなければならない必要性も緊急性も全く認められない。 このように,本件酒気帯び運転の性質,態様は極めて悪質であって, - 22 -その経緯も含めて酌量の余地はない。 b また,原告は,職務上現場に向かう際には公用車を使用することが多く,その際には原告が運転を担当することもしばしばあったにもかかわらず,本件酒気帯び運転で検挙されたこと等により,夜間勤務を他の職員と交替せざるを得ない事態を招くなどもしているのであって,現に,公務の遂行に支障が生じている。さらに,近時,飲酒運転の撲滅が強く叫ばれ,市や水道局においても様々な取組を精力的に行い,原告自身も飲酒運転をすれば事故の有無にかかわらず原則として懲戒免職処分になることを知悉していたのであるが,それにもかかわらず原告が本件酒気帯び運転に及んだことは,市政や水道事業さらには市の職員に対する市民からの信用を著しく失墜させたであろうことも否定できない。 c さらに,原告は,懲戒処分歴こそないものの,公用車の駐車違反等によって始末書の提出を命じられたり,P8部長から厳重注意を受けるなどもしており,平成27年4月頃には,行動等に注意を要する人物として特に言 に,原告は,懲戒処分歴こそないものの,公用車の駐車違反等によって始末書の提出を命じられたり,P8部長から厳重注意を受けるなどもしており,平成27年4月頃には,行動等に注意を要する人物として特に言及されてもいるのであって,勤務状況が良好であったということはできない。 d 他方,本件酒気帯び運転は,原告の水道局での勤務の終了後,任意参加の野球部の懇親会(二次会)が終わってから行われたものであるから,私生活上の非違行為にとどまるというべきであって,これを職務に連続した行為であると評価することはできない。また,被告は,原告が当初から懇親会で飲酒の上で車の運転に及ぶことを意図していたとも主張するのであるが,そこまで推認することのできる証拠はない。さらに,本件酒気帯び運転は,幸いにも事故を伴うものではなかったし(なお,市及び水道局の懲戒処分に関する旧取扱方針及び現取扱方針においては,職員の飲酒運転につき,事故の有無によって一応 - 23 -区別した方針が取られている。),原告は,検挙後直ちに,勤務先の上司への報告を試みている。そして,原告は,昭和52年4月から38年間以上にわたって水道局に勤続してきたものでありながら,本件懲戒免職処分によって地方公務員としての地位を失うこととなるばかりでなく,退職手当(上記処分時点で2033万1057円)の受給権の全部又は一部を失う可能性があるなど,生活上も経済的にも多大な不利益を被ることになる。 (ウ) 地方公務員法29条1項の定める戒告,減給,停職又は免職の懲戒処分のうち,免職の処分については,被処分者の公務員の地位を失わせるという重大な不利益を及ぼすものであるから,懲戒権者が懲戒処分として免職を選択するに当たっては,他の懲戒処分に比して特に慎重な配慮を要するものというべきであるが,本件におい の公務員の地位を失わせるという重大な不利益を及ぼすものであるから,懲戒権者が懲戒処分として免職を選択するに当たっては,他の懲戒処分に比して特に慎重な配慮を要するものというべきであるが,本件においては,原告に有利に斟酌すべき事情(上記(イ)d)もあるとはいえ,原告に不利に斟酌すべき事情(上記(イ)a,b,c)も多いのであって,これら諸般の事情を総合的に考慮すれば,本件懲戒免職処分は,社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず,懲戒権者の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいうことはできない。 (エ) よって,本件懲戒免職処分の取消しを求める原告の請求は,理由がない。 (2) 本件支給制限処分の違法性(争点(2))についてア退職手当の法的性質検討会報告書は,国家公務員の退職手当について,懲戒免職処分を受けた場合には一律に退職手当の全額を不支給とすることの問題点を指摘した上で,退職手当の性格について,勤続報償的,生活保障的,賃金後払い的な性格をそれぞれ有し,これらの要素が不可分的に混合しているものの基本的には職員が長期間勤続して退職する場合の勤続報償としての要素が強 - 24 -いものであるとの見解に基づき,退職手当の支給制限を公務に対する国民の信頼を損ねたことを非難して行う公務員法上の制裁であると解した上で,非違の重大性との均衡や,退職手当が生活保障及び賃金の後払いの性格も合わせ持つことを考慮して,退職手当について,全額不支給を原則としつつ,非違の程度等に応じて一部を支給することが可能となる制度を創設することが適当であるとしている(前記1(8)ア)。 そして,上記報告書の内容に加え,国家公務員退職手当法及び同法施行令が検討会報告書を受けて改正され,これに合わせて本件退職手当条例が改正され 設することが適当であるとしている(前記1(8)ア)。 そして,上記報告書の内容に加え,国家公務員退職手当法及び同法施行令が検討会報告書を受けて改正され,これに合わせて本件退職手当条例が改正されたという経緯や(前記1(8)イ,ウ),被告の一般の退職手当の基本額が,退職手当支給理由の生じた日における給料日額を基礎とし,これに勤続期間に対応する日数を乗じて算定されること,自己都合退職の場合には退職手当の調整額が減額されること(前記第2の1(5)エ)等からすると,被告の退職手当についても,勤続報償としての性格を基本としつつ,勤続報償的,生活保障的,賃金後払い的な性格を合わせ持つものであると解するのが相当である。 イ違法性の判断基準国家公務員退職手当法12条1項は,懲戒免職等処分を受けて退職をした者については,当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響その他の政令で定める事情を勘案して,退職手当の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができると定め,上記政令である同法施行令17条並びに同法及び同政令を踏まえた本件退職手当条例17条1項は,上記勘案すべき事情につき,当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした者の勤務の状況,当該退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違に至った経緯,当該非違後における当該退職をした者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の - 25 -程度並びに当該非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響とすると定めている(前記第2の1(5)ウ,エ)。 このように,公務員に対する退職手当の支給制限処分は,広範な事情を総合的に勘案するとともに,非違行為の発生を抑止するという目的や非違行 及ぼす影響とすると定めている(前記第2の1(5)ウ,エ)。 このように,公務員に対する退職手当の支給制限処分は,広範な事情を総合的に勘案するとともに,非違行為の発生を抑止するという目的や非違行為を行った個人に対する制裁という性質を有していることも併せ考慮した上で,決定されるべきものであるから,支給制限処分をすべきか否か及びその制限の程度については,退職手当管理機関の裁量に任されているものというべきである。そして,退職手当の支給制限処分が違法となるのは,税金を財源とする公務員の退職手当制度の適正な運用を念頭に,懲戒免職処分の場合には一律当然に退職手当の全額を不支給とすることは必ずしも適当ではないという検討会報告書及び法改正の趣旨も踏まえ,非違の内容及び程度,本人の過去の功績の度合い,当該支給制限の内容及び程度(全部不支給なのか一部不支給なのか及びその金額)等の諸事情を比較衡量した上で,当該支給制限処分が社会観念上著しく妥当を欠き,退職手当管理機関の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に限られるものと解するのが相当である。 ウ本件支給制限処分について(ア) 上記イの判断基準を踏まえ,本件支給制限処分の違法性の有無について検討するに,前記第2の1の前提事実及び前記1の認定事実に基づき,原告に対する退職手当の支給を制限すべきか否か及び制限するとしてそれをどの程度とすべきかという観点から,考慮すべき事情について改めて整理すると,以下のaないしeのとおりいうことができる。 a 本件支給制限処分は,実質的には全部不支給処分であり,処分前の退職手当の額である2033万1057円から,いわゆる解雇予告手当に相当する47万1662円を控除した残額である1985万9395円を不支給とするものである。 - 26 - あり,処分前の退職手当の額である2033万1057円から,いわゆる解雇予告手当に相当する47万1662円を控除した残額である1985万9395円を不支給とするものである。 - 26 -b まず,非違行為の内容及び程度並びにその経緯という点では,本件酒気帯び運転の性質,態様が極めて悪質であってその経緯を含めて酌量の余地がないこと,また,非違行為の社会的影響という点でも,本件酒気帯び運転が市政や水道事業さらには市の職員に対する市民からの信用を著しく失墜させたであろうことは,前示(1)イ(イ)a,bのとおりであるが,本件酒気帯び運転による人的・物的被害は発生しておらず,また,非違行為後の言動という点では,原告は,検挙後直ちに勤務先の上司への報告を試みたほか,検挙の翌日には現に上司への報告を行っていることが認められる。 c 次に,非違行為が公務に及ぼした影響という点では,原告が本件酒気帯び運転により水道局における公務の遂行に支障を生じさせたことは,前示(1)イ(イ)bのとおりであるが,原告は,水道局あるいはP2において管理職的な立場にあったわけではなく,また,原告の検挙(平成27年7月24日)後の水道局での在職期間は,本件懲戒免職処分(同年9月3日)を受けるまでの1か月余りであり,この間,証拠上は,夜間勤務の交替が数日認められるにとどまるのであって,公務の遂行に及ぼした支障の程度が重大であったとまではいえない。 d また,原告の勤務状況という点では,原告が,過去にも始末書の提出を命じられたり厳重注意を受けるなどし,行動等に注意を要する人物として特に言及されてもおり,勤務状況が良好であったとはいえないことは,前示(1)イ(イ)cのとおりであるが,他方,原告に関する懲戒委員会の審査結果においては「日頃の勤務態度に関しては,可も 人物として特に言及されてもおり,勤務状況が良好であったとはいえないことは,前示(1)イ(イ)cのとおりであるが,他方,原告に関する懲戒委員会の審査結果においては「日頃の勤務態度に関しては,可もなく不可もない」とされているし(乙9の6頁目),原告には,遅刻や無断欠勤はなく,職場の人間関係でもさしたるトラブルがあったとも認められないことからすれば(証人P4・18,19頁,証人P3・4頁,原告本人11頁),勤務状況が特に劣っていたということ - 27 -もできない。 e さらに,原告には,過去に懲戒処分歴はなく,昭和52年4月から38年間以上にわたって水道局に勤務し,公務に相応の貢献をしてきたということはできる。 (イ) 被告の退職手当の法的性質については,勤続報償としての性格を基本としつつ,勤続報償,生活保障,賃金後払いの3つの性格を合わせ持つものと解すべきであることは,前記アのとおりであるところ,上記(ア)のaないしeの諸事情に加えて,本件各処分当時の原告の年齢(56歳)や退職手当の受給権を失うことによる原告の経済的不利益の程度等を併せ考慮すれば,原告の被告に対する退職手当の受給権が相当に減額されるべきであるとはいえても,その全額(上記(ア)aのとおり約1986万円)を失わせることについては,余りにも均衡を欠いて重きに失するといわなければならない。 そうすると,本件支給制限処分は,上記の趣旨の限度において,社会観念上著しく妥当を欠き,被告の退職手当管理機関の裁量権の範囲を超えるものというべきである。 (ウ) なお,被告は,原告に対して本件支給制限処分を行わないとすると,従前の同種事案との関係で,平等取扱いの原則及び公正の原則(地方公務員法13条,27条1項)に反することになる旨主張する。 確かに,被告においては,本 告に対して本件支給制限処分を行わないとすると,従前の同種事案との関係で,平等取扱いの原則及び公正の原則(地方公務員法13条,27条1項)に反することになる旨主張する。 確かに,被告においては,本件各処分よりも前の平成18年頃,清掃主事が酒気帯び運転で検挙された事案で,事故を起こしていなくても懲戒免職処分とし退職手当を不支給とした事例があることが認められる(乙5)。しかしながら,当該事例の具体的な事実関係(非違行為の内容や非違行為がなければ支給されたであろう退職手当の額などを含む。)は不明であることは措くとしても,退職手当の支給制限処分の当否については,基本的には,事案ごとに具体的な事実関係の下で本件退 - 28 -職手当条例17条1項が掲げる事情を総合的に勘案して決定されるべきものであるから,一般論として,ある処分の内容が他の処分事例との比較において異なる点があるからといって直ちに平等取扱いの原則や公正の原則に反することにはならないことは当然であるし,本件において,原告に対する本件支給制限処分の違法性に関する上記(イ)の判断が上記の各原則に抵触するおそれがあると認めることもできない。 したがって,被告の上記主張は採用できない。 (エ) よって,本件支給制限処分の取消しを求める原告の請求は,理由がある。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,本件支給制限処分の取消しを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官寺本昌広 裁判官岡大地 裁判官横井千穂 裁判官 寺本昌広 裁判官 岡大地 裁判官 横井千穂

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