【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 被告人を懲役三年六月に処する。 原審における未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。 原審並びに当審における訴訟費用は被告人の
主文原判決を破棄する。 被告人を懲役三年六月に処する。 原審における未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。 原審並びに当審における訴訟費用は被告人の負担とする。 理由弁読人米野操が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。 同控訴趣意第一点について。 よつて記録を精査するに、原審において取り調べたA家の戸籍謄本及び当審において取り調べたB家の戸籍謄本によれば被告人は昭和一五年九月一日Cとその妻Dとの間に出産した七男として戸籍に登載せられ、昭和二九年五月四日同人等夫妻の代諾によりE及びその妻Fと養子縁組をした旨八幡市長に届け出られた事実が認められる。ところが、原審において取り調べたFの司法警察員に対する供述調書、当審証人Fの証言、当審において取り調べたD作成の証明書並びに書翰によれば、被告人は真実はCとその妻Dとの間に生れた実子ではなく、同人等の長女Gの私生子として出生したものであるところ、C夫妻は世間態を憚つて被告人を自己等夫妻の間に出生した七男として虚偽の届出をした事実が認められる。従つて、C、同Dは被告人の親権者ではないから、同人等が被告人の法定代理人として被告人に代つて承諾した被告人とE、同Fとの間の養子縁組はその効力を生ずるに由ないことまことに所論のとおりである。 しかし、一五才未満の子の養子縁組に関する法定代理人の代諾は法定代理に基くもので、その代理権の欠缺は一種の無権代理と解するのを相当とするから、養子は満一五才に達した後法定代理人でないものが自己のために代諾した養子縁組を有効に追認することができるものと解するのを相当とし、しかもこの追認は明示若しくは黙示を以てすることができ、その意思表示 養子は満一五才に達した後法定代理人でないものが自己のために代諾した養子縁組を有効に追認することができるものと解するのを相当とし、しかもこの追認は明示若しくは黙示を以てすることができ、その意思表示は満一五才に達した養子から養親の双方に対してなすべきもので、適法に追認されたときは縁組はこれによつて始めから有効となるものと解すべきである(最高裁判所昭和二七年一〇月三日判決参照)。 そして、民法が追認の制度を設けた所以は本人のみならず相手方の利益をも考慮したものである趣旨に鑑みれば、苟も本人が無権代理人の代理行為により形成された法律状態を認容し自己に享受する如き積極、消極の行為に出でたときは黙示的追認をしたものと解するのが相当である。 ところが、原審において取り調べた被告人及びFの検察官並びに司法警察員に対する各供述調書、原審並びに当審における証人Fの各証言を綜合すれば次の各事実が認められる。すなわち、被告人は昭和一六年九月頃満一才のとき実母G及び戸籍上の父母C、同Dの代諾によりEとその妻Fの事実上の養子となつて同人等に引取られたが、当時同人等はHという戸籍面だけの男養子を有し、法律上更に男子を養子となし得なかつた関係上、やむなく被告人との縁組届をしないで荏苒日を過ごし昭和二九年五月四日漸くその届出をなすにいたつたものである。かくて、被告人は本件犯行当時まで約二〇年の永きに亘りE、同F夫妻より養子として実子同様養育されて成長し、昭和三四年三月福岡県立I高等学校を卒業してJ工業株式会社に入社したが、養子縁組の届出がなされてからも既に六年以上を経過している。 その間養母Fの被告人に対する強い愛情は一日として変ることなく、養父Eは時に被告人を冷遇し暴力を振うこともあつたが、それは専ら同人の短気、粗暴、独善の性格の然らしめたものであり、被告人が養子 る。 その間養母Fの被告人に対する強い愛情は一日として変ることなく、養父Eは時に被告人を冷遇し暴力を振うこともあつたが、それは専ら同人の短気、粗暴、独善の性格の然らしめたものであり、被告人が養子であることを嫌忌する態度は微塵もなく、被告人もまた常にE夫妻を「お父さん、お母さん」と呼称して仕え、昭和二九年頃自己が養子であることを察知した後も、更にまた昭和三〇年九月満一五才に達した後においても従前と変ることなく養子として只管両名に孝養をつくし来り、昭和三四年四月前記会社に入社後は給料の大部分をさいて家計費に充て失職している養父Eを扶養して来たのである。 <要旨>以上のように、右三名が二〇年の永きに亘り築き上げた養親子としての家庭生活の基盤、殊に被告人が一五</要旨>才に達して以来六年以上の間、E、同F夫妻を真の養親と仰ぎ只管孝養をつくして来た養子としての自覚と態度に徴すれば、被告人は無権代理人C、同Dがなした代諾による養子縁組を昭和三〇年九月満一五才に達した後E、同Fに対し自ら暗黙に追認したものと断ずるのが相当であり、従つて、被告人と右両名間の養子縁組は届出当時に遡つてその効力を生じたものといわねばならない。 原審がEを被告人の養父であるとして被告人に尊属殺の法条を適用処断したのは相当であり、原判決に所論の如き事実誤認、法令適用の誤は存しない。論旨は理由がない。 同控訴趣意第二点について。 しかし、記録を精査し被告人の検察官に対する供述調書、司法警察員に対する自首調書を仔細に検討し、併せて原審証人Kの証言を参酌すれば、右各調書の任意性、信用性を疑うべき事情は存しない。なるほど、右検察官調書と自首調書を比較対照すれば、犯行の動機、経緯に関する表現が両者酷似していることは所論のとおりである。しかし、最も肝要と認められる殺意の点について 用性を疑うべき事情は存しない。なるほど、右検察官調書と自首調書を比較対照すれば、犯行の動機、経緯に関する表現が両者酷似していることは所論のとおりである。しかし、最も肝要と認められる殺意の点については前者は未必的殺意の自白であるのに、後者は確定的殺意の自白であつてその熊様を考るしく異にしているから、所論の非難は当らない。 そして、右検察官調書中、私を父を殺してやろうとまでは考えていなかつた。しかしお示しの出刃庖丁で胴体を二、三度突いたのだから重傷を負つて死ぬかもしれんとは考えた。結果はどうなつてもいいと思つて夢中で刺した、どうでもなれという気持であつた旨の供述記載と被告人が判示出刃庖丁で相手の胸部、腹部を数回突刺した事実に徴すれば、所論の如く相手が柔道五段の猛者で角棒を以て殴りかかつ九たを考慮しても、被告人の未必的殺意を肯定するに十分であり、原判決に所論の如き事実誤認は存しない。論旨は理由がない。 同控訴趣意第三点について。 被告人が二〇年の永きに亘つて教育された養父を殺害したことは理由の如何を問わずその刑責極めて重大であるといわねばならない。しかし、被告人は性温厚にして頭脳明晰、孝心深くして養父母に対し常に孝養を怠らなかつたものである。ところが、養父Eは短気粗暴且つ我まま者であり、殊に数年前失職以来賭事と飲酒に耽つて正業につかず、金に困れば衣類を人質し些細のことに立腹して被告人を殴打叱責することしばしばであつたが、被告人は常々これに堪え忍んで反抗的態度を示さなかつたのである。本件犯行当日、Eは賭金を作るため養母買いたての反物を入質すると言出し被告人より諌言されるや、「何を、お前が一人前のことを言うか」と努鳴つて麻雀台を振廻して殴りかかつたのである。そこで、被告人は直ちに逃出して事なきを得たところ、数十分後自宅附近の路上でEに出遭い 出し被告人より諌言されるや、「何を、お前が一人前のことを言うか」と努鳴つて麻雀台を振廻して殴りかかつたのである。そこで、被告人は直ちに逃出して事なきを得たところ、数十分後自宅附近の路上でEに出遭い「感情を害して済みません」と謝罪したが聴いれられず剰さえ角棒を以て殴打されたので自宅に逃け帰つた際、図らずも炊事場の出刃庖丁が目につき昂憤の余りこれを以て立向わんと引返してEに出遭うや、同人が再び角棒を振上げて殴りかかつたため遂に本件犯行に及んだのである。被告人は犯行後ひどく前非を悟い直ちに自首している。素行善良にして勿論前科はない。養母Fは被告人の身を案じて日夜心痛している。記録によつて認められる以上の諸点を考察すれば、原審の被告人に対する科刑は重きに過ぎ不当であるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。 そこで、刑事訴訟法第三九七条第一項に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い更に判決する。 原判決の確定した事実に法律を適用すれば、被告人の原判示所為は刑法第二〇〇条に当るから所定刑中無期懲役を選択し、自首しているので同法第四二条第一項第六八条第二号により法律上の減軽をなし、なお論旨第三点説示の事情により犯情憫諒すべきものがあるから同法第六六条第七一条第六八条第三号により酌量減刑した上被告人を懲役三年六月に処し、同法第二一条を適用して原審における未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入し、原審並びに当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従い被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官藤井亮裁判官中村荘十郎裁判官臼杵勉) 中村荘十郎裁判官臼杵勉)
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