平成31年2月6日判決言渡 平成30年(行ケ)第10100号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成30年12月20日判決 原告 コスメディ製薬株式会社 訴訟代理人弁護士 伊原友己 訴訟代理人弁理士 小林良平 村田美由紀 被告 株式会社バイオセレンタック 訴訟代理人弁護士 尾崎英男 訴訟代理人弁理士 鮫島睦 山田卓二 伊藤晃 植村昭三 加藤浩 西下正石 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2012-800073号事件について平成30年6月25日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,発明の名称を「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」とする特許第4913030号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。 (2) 原告は,平成24年5月2日,本件特許のうち請求項1に係る部分を無効にするとの無効審判を請求した(無効2012-800073号。以下「本件無効審判事件」といい,その手続を「本件審判手続」という。)。 被告は,平成25年1月22日付けで訂正請求をした(1回目)。 特許庁は,同年4月15日,訂正を認め,無効審判請求を不成立とする審決をした(以下「第1次審決」という。)。 原告は,同年5月8日,第1次審決の取消しを求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(平成25年(行ケ)第10134号)。 知的財産高等裁判所は,同年11月27日,第1次審決を取り消 という。)。 原告は,同年5月8日,第1次審決の取消しを求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(平成25年(行ケ)第10134号)。 知的財産高等裁判所は,同年11月27日,第1次審決を取り消す旨の判決をし,同判決は確定した。 (3) その後,特許庁において,本件無効審判事件の審理が再開された。 被告は,平成26年2月28日付けで訂正請求をした(2回目)。 特許庁は,同年8月12日,訂正を認め,無効審判請求を不成立とする審決をした(以下「第2次審決」という。)。 原告は,同年9月5日,第2次審決の取消しを求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(平成26年(行ケ)第10204号)。 知的財産高等裁判所は,平成27年3月11日,第2次審決を取り消す旨の判決をし,同判決は確定した。 (4) その後,特許庁において,本件無効審判事件の審理が再開された。 被告は,平成27年4月27日付け(3回目),及び平成28年2月22日付け(4回目)で各訂正請求をした。 特許庁は,同年6月29日,訂正(4回目)を認め,無効審判請求を不成立とする審決をした(以下「第3次審決」という。)。 原告は,同年7月21日,第3次審決の取消しを求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(平成28年(行ケ)第10160号)。 知的財産高等裁判所は,平成29年7月12日,第3次審決を取り消す旨の判決をし,同判決は確定した。 (5) その後,特許庁において,本件無効審判事件の審理が再開された。 被告は,平成30年4月13日付けで訂正請求をした(5回目。以下「本件訂正」という。)。 本件訂正は,訂正事項1ないし18(以下「本件訂正事項」といい,個別に特定するときは,「本件訂正事項1」などと項目番号によって特定する。)から成るものであるが,特許庁は,いずれの 正」という。)。 本件訂正は,訂正事項1ないし18(以下「本件訂正事項」といい,個別に特定するときは,「本件訂正事項1」などと項目番号によって特定する。)から成るものであるが,特許庁は,いずれの訂正事項についても,原告は過去の訂正事項との関係で既に意見を申し立てる機会を与えられているとして,原告に対して改めて弁駁の機会を与えることなく審理を進めた。 特許庁は,同年6月25日,本件訂正を認め,無効審判請求を不成立とする審決をし(以下「本件審決」という。),その謄本は同年7月6日に原告に送達された。 原告は,同月23日,本件審決の取消しを求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(本件)。 (6) 原告は,平成25年7月31日,本件無効審判事件とは別に,本件特許のうち請求項1及び19に係る部分を無効にするとの無効審判を請求した(無効2013-800146号。以下「別件第2次無効審判事件」という。)。 別件第2次無効審判事件は,本件無効審判事件と併合されたが,後に分離 され,平成26年10月28日付けで手続が中止されている。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。以下,本件訂正前の請求項1の発明を「本件発明」といい,本件訂正後の請求項1の発明を「本件訂正発明」という。また,本件訂正前の明細書及び図面を「本件明細書」といい,本件訂正後の明細書及び図面を「本件訂正明細書」という。)。 (1) 本件訂正前「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,該基剤に保持された目的物質とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキ 基剤に保持された目的物質とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質であり,尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤。」(2) 本件訂正後「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,該基剤に保持された目的物質とを有し,皮膚(但し,皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキストラン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し,デキストランのみからなる物質は除く)であり, 尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)。」 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりであり,その要旨は次のとおりである。 ア本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)又は3号(明瞭でない記載の釈明)に掲げる事項を目的とするものであり,かつ, おりであり,その要旨は次のとおりである。 ア本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)又は3号(明瞭でない記載の釈明)に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,特許法134条の2第9項が準用する特許法126条5項ないし7項に規定する要件に適合する。 イ本件訂正発明は,①甲5の1(国際公開第2004/000389号),甲6(特開2005-152180号公報)又は甲7(国際公開第2005/058162号)に記載された発明ではなく,②本件訂正明細書の発明の詳細な説明は本件訂正発明について特許法36条4項1号に規定する要件(実施可能要件)を満たし,③本件訂正発明は特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)を満たすから,請求人(原告)が主張する無効理由はいずれも理由がない。 (2) 本件訂正事項は,次のとおりである(ただし,原告が主張する取消事由その他本件事案を理解する上で必要なもののみ摘記する。)。 ア特許請求の範囲の訂正(ア) 本件訂正事項1特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入され」とあるのを「皮膚(但し,皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入され」に訂正する。 (イ) 本件訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に訂正する。 (ウ) 本件訂正事項6特許請求の範囲の請求項18を削除する。 イ明細書の訂正(ア) 本件訂正事項12本件明細書の【0003】に「皮内」とあるのを「皮膚内」に訂正する。 (イ) 本件訂正事項15本件明細書の【00 の範囲の請求項18を削除する。 イ明細書の訂正(ア) 本件訂正事項12本件明細書の【0003】に「皮内」とあるのを「皮膚内」に訂正する。 (イ) 本件訂正事項15本件明細書の【0009】に「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に訂正する。 (ウ) 本件訂正事項16本件明細書の【0077】に「皮膚の表面や真皮」とあるのを「皮膚の表皮や真皮」に訂正する。 4 取消事由原告が主張する本件審決の取消事由は,次のとおりである(以下,順に「取消事由1」ないし「取消事由7」という。)。 (1) 訂正要件違反①(明瞭目的要件違反)(2) 訂正要件違反②(誤記訂正目的違反1)(3) 訂正要件違反③(誤記訂正目的違反2)(4) 訂正要件違反④(明確性要件違反1/第2次取消判決の拘束力抵触/独立特許要件違反) (5) 訂正要件違反⑤(拡張訂正違反)(6) 手続違背(7) 独立特許要件の審理不尽・理由不備第3 取消事由に関する当事者の主張 1 取消事由1-訂正要件違反①(明瞭目的要件違反)に関し(原告の主張)本件訂正事項1は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものとはなっておらず,訂正要件を欠く。 すなわち,「皮膚」がどのような組織を意味するのか,本件明細書中には定義や示唆がないので,一般的な皮膚を意味すると認められるところ,広辞苑(甲40)や化粧品辞典(甲77)によれば,皮膚は,一般的に,表皮,真皮及び皮下組織を意味するものとされており,別件第2次無効審判事件の審決予告(甲39)においても同様の解釈がなされている。この 苑(甲40)や化粧品辞典(甲77)によれば,皮膚は,一般的に,表皮,真皮及び皮下組織を意味するものとされており,別件第2次無効審判事件の審決予告(甲39)においても同様の解釈がなされている。このように一般的な意味に基づいて特許請求の範囲や明細書を読み下しても全く違和感がない以上,「皮膚」は生体を構成する組織として明確である。 本件訂正事項1は,「皮膚」を,表皮及び真皮から成り,真皮より下層の皮下組織を含まないと訂正するものであるが,当業者においてその意味は理解し難く,皮膚の深層,すなわち真皮と皮下組織とを物理的に剥離・分断するかのような表現は,かえって経皮吸収という概念を混乱させる。 元々生体を構成する組織として明確であるはずの「皮膚」から皮下組織部分を剥離することは,皮膚概念をいたずらに混乱させるものであって,許されないというべきであり,これが「明瞭でない記載の釈明」に当たらないことは明らかである。 本件訂正事項1が認められなければ,請求項1の訂正全体が認められず,新規性欠如の無効理由は依然として残るはずであるが,本件審決は,本件訂正によってそれが解消されたと誤った判断をした。 かかる判断の誤りは結論に影響を及ぼす重大な違法であるから,本件審決は取り消されるべきである。 (被告の主張)専門書(甲38,41,42)や広辞苑(甲40。「表皮と真皮のみを指す場合もある。」と明記されている。)によれば,「皮膚」には,通常の用語として,「表皮・真皮」と「表皮・真皮・皮下組織」の二通りの意味があるとされている。 本件訂正事項1は,上記のとおり,一般に二通りの意味があるとされる「皮膚」の用語について,本件発明における意味を前者(表皮・真皮)のそれとして明瞭にする目的の訂正である。 したがって,本件訂正事項1は訂正要件を は,上記のとおり,一般に二通りの意味があるとされる「皮膚」の用語について,本件発明における意味を前者(表皮・真皮)のそれとして明瞭にする目的の訂正である。 したがって,本件訂正事項1は訂正要件を満たす。 2 取消事由2-訂正要件違反②(誤記訂正目的違反1)に関し(原告の主張)本件審決は,本件訂正事項12について,誤記の訂正を目的とするものではなく,明瞭でない記載の釈明を目的とするものと職権により認定して訂正を認めたが,被告が求めてもいない訂正目的に勝手に差し替えて認定することは,原告に対する不意打ちであって適切でない。 また,本件訂正事項12は,誤記の訂正でもなければ,明瞭でない記載の釈明にも当たらないから,いずれにしても訂正要件を欠く。 すなわち,専門書(ステッドマン医学大辞典改訂第4版・甲69)の“intracutaneous”の項に「皮内の(特に真皮についていう)」とあるように,「皮内」は誤記でも何でもなく,明確な概念を有する医学用語であり,少なくとも,当業者であればそのように理解する。 もとより,誤記であるというためには,訂正の前後で語句の意味が変わってはいけないが,「皮内」と「皮膚内」とでは,同一概念であることが客観的に明らかとはいえない。また,本件明細書の【0003】の文脈において,「皮 内」が「皮膚内」の誤記であるとは到底理解できない。 そもそも,両者が同じ意味であるならば,「皮内に」を「皮膚内に」とあえて訂正する必要性は全くない。 本件審決は,訂正前の「目的物質を皮内に投与することができる」という記載について,皮膚と目的物質との関係が明瞭でなかったとしているが,かかる記載は不明瞭でも何でもない。また,「皮内に」を「皮膚内に」に訂正すれば,「皮膚内に」の「皮膚」は更に「表皮及び真皮から成る」ものに訂正 て,皮膚と目的物質との関係が明瞭でなかったとしているが,かかる記載は不明瞭でも何でもない。また,「皮内に」を「皮膚内に」に訂正すれば,「皮膚内に」の「皮膚」は更に「表皮及び真皮から成る」ものに訂正されることになるが,先行技術文献で「皮膚」が論じられているときに,それらの「皮膚」が全て「表皮及び真皮から成る」ものに該当するか不明である。 したがって,本件訂正事項12は,訂正要件違反であって許されるべきものではない。かかる訂正が許容されて本件特許に無効理由が存在しないと判断されたことは,本件審決の結論に影響を及ぼす間違いであって違法である。 (被告の主張)本件訂正事項12が誤記の訂正であろうと,明瞭でない記載の釈明であろうと,原告の反論内容は実質的に変わらないから,本件審決が訂正目的を職権で認定した点は,原告に対する不意打ちにはならず問題がない。 原告が指摘する甲69は,“intracutaneous”という用語が「皮内の(特に真皮についていう)」という意味であると説明しているが,“cutaneous”は「皮膚の」という意味であり,“intra”は内部を意味する接頭語であるから,甲69に記載されている「皮内の」は「皮膚内の」と同じ意味である。 本件明細書の【0003】の文脈においても,自己溶解型マイクロニードルが目的物質を投与するのは表皮ないし真皮であるから,「皮内」と表現しても「皮膚内」と表現しても同じである。同段落において,「皮膚に挿入」と「皮内に投与」は,挿入,自己溶解,投与と一連の過程を記載しているから,「皮内に投与」は,正しくは「皮膚に投与」あるいは「皮膚内に投与」であることが理解できる。 出願人が明細書の作成において,「皮膚内」と記載するつもりで「皮内」と記載した場合は誤記であるが,「皮内」に「intracu 皮膚に投与」あるいは「皮膚内に投与」であることが理解できる。 出願人が明細書の作成において,「皮膚内」と記載するつもりで「皮内」と記載した場合は誤記であるが,「皮内」に「intracutaneous 皮内の(特に真皮についていう)」という意味があることを念頭に「皮内」と記載した場合は,不明瞭な記載の釈明として「皮膚内」と訂正することが,前後の文脈から妥当である。 原告は,「皮内」が明確な概念を有する医学用語であり,「皮内に」は「intracutaneously」を意味すると主張するが,そのような主張があることからしても,前後の文脈から,それを「皮膚内に」と訂正するのは明瞭でない記載の釈明である。 本件明細書の【0003】で説明されているのは,「皮膚に刺しても痛みを感じないほどに微細化された」マイクロニードルであり,痛みを感じないのは,マイクロニードルが神経の存在する皮下組織に到達しないからである。したがって,同段落の「皮膚」は全て「皮膚は表皮及び真皮から成る」が当てはまる。 また,原告は,先行技術文献における「皮膚」が全て「皮膚は表皮及び真皮から成る」ものに該当するか不明であると主張するが,かかる訂正は本件明細書に当てはまるだけであるから,失当である。 3 取消事由3-訂正要件違反③(誤記訂正目的違反2)に関し(原告の主張)本件審決は,本件訂正事項16についても,誤記の訂正を目的とするものではなく,明瞭でない記載の釈明を目的とするものと職権により認定して訂正を認めたが,これが適切でないことは取消事由2で主張したとおりである。 また,本件訂正事項16は,誤記の訂正でもなければ,明瞭でない記載の釈明にも当たらないから,いずれにしても訂正要件を欠く。 すなわち,本件特許において吸収促進剤として使用する界面活性剤の作用 る。 また,本件訂正事項16は,誤記の訂正でもなければ,明瞭でない記載の釈明にも当たらないから,いずれにしても訂正要件を欠く。 すなわち,本件特許において吸収促進剤として使用する界面活性剤の作用について,本件明細書の【0077】には,「皮膚の表面や真皮」での溶解性が低い目的物質の溶解を促進すると記載されており,【0030】には,「皮膚 の表皮や真皮」での溶解性や透過性が低いものである場合でも,(界面活性剤の作用によって)目的物質の溶解や透過が促進されると記載されている。前者は目的物質の溶解に注目した記載であり,後者は目的物質の溶解や透過に注目した記載であるので、当業者であれば,皮膚の表面と皮膚の表皮とを区別して使い分けていると理解する。これらの段落における界面活性剤を使用する意義についての説明が全く同一ではないので,【0030】の記載に基づいて【0077】の記載が不明瞭であるとは理解できない。 したがって,本件訂正事項16は,訂正要件違反であって許されるべきものではない。かかる訂正が許容されて本件特許に無効理由が存在しないと判断されたことは,本件審決の結論に影響を及ぼす間違いであって違法である。 (被告の主張)訂正の目的がいずれであろうと,本件明細書の【0077】にある「皮膚の表面や真皮」の記載の正しい表記は何かが問題となる。 同段落には,「吸収促進剤としての界面活性剤は,皮膚の表面や真皮での溶解性が低い目的物質の溶解を促進するとともに,皮膚からの吸収率が低い目的物質の吸収を促進して,…」と記載されている。すなわち,吸収促進剤(界面活性剤)の促進機能のうち,溶解性が低い目的物質の溶解を促進する機能に関して,目的物質の溶解する皮膚の場所を記載したのが「皮膚の表面や真皮」の記載である。ところが,本件発明の経皮吸収製剤では (界面活性剤)の促進機能のうち,溶解性が低い目的物質の溶解を促進する機能に関して,目的物質の溶解する皮膚の場所を記載したのが「皮膚の表面や真皮」の記載である。ところが,本件発明の経皮吸収製剤では,基剤に保持された目的物質が,皮膚に挿入され,皮膚中の水分によって溶解するものであるが,「皮膚の表面」での溶解は起こらない。皮膚は表皮と真皮から成るものであるから,「皮膚の表面や真皮」ではなく「皮膚の表皮や真皮」が正しい表記であることが分かる。 吸収促進剤が界面活性剤である場合の促進機能については,本件明細書の【0030】にも同様の記載がある。すなわち,同段落には,「吸収促進剤が界面活性剤である好ましい様相では,目的物質が皮膚の表皮又は真皮での溶解性や 透過性が低いものである場合でも,界面活性剤の作用によって目的物質の溶解や透過が促進される」と記載されている。 このことからも,【0077】の「皮膚の表面や真皮」は,「皮膚の表皮や真皮」が正しい表記であることが分かる。 よって,原告の主張は失当である。 4 取消事由4-訂正要件違反④(明確性要件違反1/第2次取消判決の拘束力抵触/独立特許要件違反)に関し(原告の主張)本件訂正事項4は,「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に訂正するものであるが,そもそも,「医療用針」,「チャンバ」及び「縦孔」なる用語が明細書や図面に全く記載されておらず,当業者は,本件訂正事項4で除外される構成態様(上記ただし書に係る「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤 書や図面に全く記載されておらず,当業者は,本件訂正事項4で除外される構成態様(上記ただし書に係る「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」のこと。以下「除外製剤」という。)がどのようなものか,特許請求の範囲の記載,明細書,図面から全く理解することができない。 本件審決は,特定の文献(甲7・国際公開第2005/058162号)の存在を念頭に置いて理解可能と考えているのかも知れないが,一般の当業者がそのように理解できるはずもなく,失当というほかない。 結局,本件訂正事項4で除外されている技術的事項(除外製剤の構成態様)が全く理解不能である以上,除外されずに技術的範囲に残っているものが何なのかについても明確に理解できるものではないから,本件訂正事項4により訂正された請求項1(本件訂正発明)は,明確性要件を欠く。 さらに,本件審決は,第2次取消判決が,経皮吸収製剤の物としての明確性 を求めていたのに,これが欠如した訂正を認めてしまっているという意味で,取消判決の拘束力に抵触するものであるし,請求項2以下の独立特許要件において全くその点が顧慮されていない以上,独立特許要件の判断も誤っている。 加えて,特許庁の審査基準によれば,本件訂正発明が「除くクレーム」として適法であるためには,本件訂正発明が進歩性を有することが必要であるところ,本件審決はこの点について一切判断しておらず,かかる意味でも本件訂正の適否についての判断が適正に行われていない。また,本件訂正事項4は,「基剤に目的物質を保持させる方法としては特に限定はなく」とする本件明細書の【0070】の記載とも矛盾する。 以上のとおり,本件訂正事項4は,「除くクレーム」の手法を濫用するものであって 項4は,「基剤に目的物質を保持させる方法としては特に限定はなく」とする本件明細書の【0070】の記載とも矛盾する。 以上のとおり,本件訂正事項4は,「除くクレーム」の手法を濫用するものであって,かえって混乱を来すだけであるから,訂正要件を欠くものとして許容されるべきではない。また,訂正後の請求項1(本件訂正発明)は,新たな明確性要件違反の無効理由を包含することになるため,いずれの意味においても,本件審決は取消しを免れない。 (被告の主張)本件審決は,本件訂正事項4によって除外される構成態様(除外製剤)が,物として技術的に明確であるかどうかを検討した上で明確性を認めている。したがって,本件審決の認定は正当であり,本件訂正事項4により訂正された請求項1(本件訂正発明)が明確性を欠くとの原告の主張は誤りである。 また,第1次取消判決は,訂正前の本件発明が甲7記載の発明(甲7発明)と同一で新規性を欠くと判断したものであり,その判断に拘束力が生じるところ,本件訂正事項4は,上記第1次取消判決の判断を前提として,本件発明から新規性を欠くと判断された構成を除外することによって,訂正後の請求項1を甲7に対して新規性を有する発明とすることを意図したものである。 発明が広く解釈されて,出願人・特許権者の意図しない構成のものが当該発明であると評価され,そのために新規性を欠くとされた場合に,当該意図しな い構成のものを発明から除くことによって,新規性のある発明となるように訂正を行うのは,特許権者として正当な行為である。その際に,甲7発明に対して新規性を欠くと判断した第1次取消判決の内容は拘束力を有するから,本件訂正事項4の「除く」構成は,第1次取消判決の拘束力のある認定に従って記載することになる。 本件訂正事項4における「除外製剤」,すな 性を欠くと判断した第1次取消判決の内容は拘束力を有するから,本件訂正事項4の「除く」構成は,第1次取消判決の拘束力のある認定に従って記載することになる。 本件訂正事項4における「除外製剤」,すなわち,「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」は,第1次取消判決の拘束力のある認定に基づいて記載されており,第1次取消判決が認定した甲7発明と同等の構成を有しているから,明確な物の発明として特定されている。 原告は,特許庁の審査基準にも言及するが,同審査基準は,第1次無効審判事件で請求項1の新規性欠如と特許法36条違反のみが無効理由として主張されているときに,別件の第2次無効審判事件で主張されている進歩性欠如の無効理由の成否を判断しなければならない,ということを意味しない。 また,第1次取消判決では「保持」の解釈によって,本件発明が甲7発明と同一と認定されたが,技術的思想としては,本件発明と甲7に記載された技術とは顕著に異なっているから,本件訂正事項4によってチャンバや縦孔を有する構成の医療用針を本件発明から除外すれば,甲7には,本件訂正後の請求項1(本件訂正発明)と同一と評価される態様の医療用針の記載は存在しない。 原告は,本件訂正事項4と本件明細書の【0070】の記載が矛盾するとも主張するが,【0070】に記載された「保持させる方法」は,目的物質を基剤物質に混合して保持させることを念頭に置き,その前提で「特に限定はなく」と記載しているのに対し,本件訂正事項4は,第1次取消判決によって広く解釈された「保持」の態様を除外しているのであって,両者の間に矛盾はない。 5 取消事由5-訂正要件違反⑤(拡張訂正違反)に関し(原告の主張) 本件訂正 は,第1次取消判決によって広く解釈された「保持」の態様を除外しているのであって,両者の間に矛盾はない。 5 取消事由5-訂正要件違反⑤(拡張訂正違反)に関し(原告の主張) 本件訂正事項4の「除くクレーム」は,何を除いているのか不明瞭であるが,少なくとも種々の素材やタイプあるいは構成態様の医療用針が世の中に存在することに鑑みれば,本件訂正事項4によって除かれるタイプ以外の医療用針は,すべからく本件訂正発明の経皮吸収製剤に含まれてしまうことになる。 そうすると,本件訂正事項4は,実質上特許請求の範囲を拡張する訂正であって,特許法134条の2第9項で準用する同法126条6項に違反するものであるため,認められない。 (被告の主張)前記のとおり,甲7には,本件訂正事項4で除かれるタイプ以外の医療用針で,目的物質が基剤に保持される構成の医療用針は記載されていないから,特許請求の範囲の拡張は生じない。 6 取消事由6-手続違背に関し(原告の主張)本件審決は,本件訂正事項4及び15が,平成26年2月28日付け訂正請求(以下「2回目の訂正請求」という。)における訂正事項2及び7(以下,2回目の訂正請求に係る訂正事項を「旧訂正事項」という。)の「一部と同じ内容」であると自認しているが,裏返せば一部が違うということであり,その一部が違うという点を審判合議体がどのように判断したのか,原告としては全く理解することができない。従前の訂正と同じではないと判断している訂正事項であって,しかも,無効引例(公知技術)と本件発明の技術的範囲の距離感を測る上で極めて重要な訂正事項であると認識しているはずの訂正について,請求人である原告の意見を聴取しないということは,手続的な不正義以外の何物でもなく,第3次取消判決後の「差戻し審」において本件訂正 測る上で極めて重要な訂正事項であると認識しているはずの訂正について,請求人である原告の意見を聴取しないということは,手続的な不正義以外の何物でもなく,第3次取消判決後の「差戻し審」において本件訂正に対する原告の意見を確認すべきであったことについて疑問を入れる余地はない。 敷衍すれば,そもそも,2回目の訂正請求については,原告が平成26年5月28日付けで口頭審理陳述要領書(甲73)を提出して意見を述べたのに対 し,審判合議体は,口頭審理はもとより,第2次審決においても何ら判断を示しておらず,原告としては,この点について審判合議体がどのように見ているのかを質す必要性等もあるため,意見を申し述べる機会が必要であった。 また,第2次取消判決では,「除くクレーム」とする旧訂正事項3について,除かれる製剤が物として技術的に明確でないとの判断がなされ,その後のプロダクト・バイ・プロセスクレームに関する最高裁判決では,「発明が明確であること」が請求項の記載において必要であるとの重要な判断が示され,発明の明確性要件が従来にも増して重要な特許記載要件であると再認識されるところとなった。 このような経緯があった以上,仮に,審判合議体が,本件訂正事項4及び15が旧訂正事項2及び7と実質的に同じであると評価したとしても,請求人である原告が本件訂正後の特許請求の範囲の記載についていかなる意見を有しているのか,改めてその意見を聴取すべきは当然のことであり,審判合議体はその機会を原告に与えるべきであったにもかかわらず,それをしなかった。 かかる進行は,審判便覧(第16版)「51-14 P 訂正請求書提出後の審理(特,旧実)」5頁の「(3) 請求人による意見の機会訂正の請求がされたときは,請求人に副本を送付し,弁駁書,口頭審理陳述要領書等により,請求人 第16版)「51-14 P 訂正請求書提出後の審理(特,旧実)」5頁の「(3) 請求人による意見の機会訂正の請求がされたときは,請求人に副本を送付し,弁駁書,口頭審理陳述要領書等により,請求人に訂正の請求についての意見を申し立てる機会(弁駁機会)を与える。」にも違反した進行であり,許されるべきではない。 (被告の主張)本件訂正事項4及び15が旧訂正事項2及び7の一部と同じ内容であるというのは,本件訂正事項4及び15と全く同一の文言が旧訂正事項2及び7に含まれているということであって,本件審決は,全く同一の訂正事項について,既に請求人である原告に対し意見申出の機会が与えられていたことを指摘するものである。 また,原告は,第3次取消判決後の「差戻し審」において原告の意見を確認 する必要があったと主張するが,第3次取消判決は,請求項1の経皮吸収製剤の発明(本件発明)に,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様を記載する訂正事項5が技術的に明確であるとはいえないと判断したものであるのに対し,本件訂正事項4及び15は,甲7発明と重複する部分を除く訂正であり,第3次取消判決の内容とは関係しない。 平成26年5月28日付け口頭審理陳述要領書(甲73)で原告が述べている内容は,原告が本件訂正事項4及び15に関して本件訴訟で主張している内容と実質的に同じであるし,無効審判請求人には,以前に申立ての機会が与えられて申し立てた意見の内容について,審判合議体の見解を質す権利は与えられていない。 第2次取消判決の内容や,その後のプロダクト・バイ・プロセスクレームに関する最高裁判決がなされた経緯を踏まえるべきとの主張に関しても,本件審決は,本件訂正事項4の物の発明としての明確性について,第2次取消判決,第3次取消判決に言及してその必 バイ・プロセスクレームに関する最高裁判決がなされた経緯を踏まえるべきとの主張に関しても,本件審決は,本件訂正事項4の物の発明としての明確性について,第2次取消判決,第3次取消判決に言及してその必要性を述べ,本件訂正事項4の検討を行った上で,除外製剤は物として技術的に明確であると判断しているのであり,本件審判手続で特に請求人である原告の意見を聴く必要はない。 以上を要するに,本件審判手続においては,本件訂正事項4及び15に関し,全く同じ内容の訂正事項に対する意見申立ての機会が請求人である原告に与えられ,原告はこれに対し自らの意見を述べており,本件訴訟における原告の主張内容を見ても,原告に再度意見申立ての機会を与えるべきであったといえるような主張はなされていない。したがって,本件訂正に関し,原告に再度の意見申立ての機会を与えなかったとしても,本件審判手続に手続的違法はなく,本件審決の結論に影響を及ぼす違法があるとはいえない。 7 取消事由7-独立特許要件の審理不尽・理由不備に関し(原告の主張)別件第2次無効審判事件では,本件発明(請求項1)は甲5の1及び甲7を 引用例とする無効理由(進歩性欠如)により無効であるとの判断(審決予告)がなされているのに,本件審決は,それらの無効理由を全く本件無効審判事件の審理の俎上に乗せず,本件審判手続で提出されている新規性欠如の問題だけに絞って判断している。 これは独立特許要件をいたずらに矮小化して解釈し,同一当事者間で別件無効審判手続や侵害訴訟にて大きく取り上げられている無効理由を意図的に無視した審理を行うものであり,紛争の一回的解決の精神に反するものであって,審理不尽の違法がある。また,かかる無効理由について,理由を示さずに「その他独立特許要件を満たさないとする理由を発見できない」な した審理を行うものであり,紛争の一回的解決の精神に反するものであって,審理不尽の違法がある。また,かかる無効理由について,理由を示さずに「その他独立特許要件を満たさないとする理由を発見できない」などと結論付けているのは,あまりに無責任であり,理由不備の違法がある。 結局,本件審決が,審判合議体として知り得た無効理由について,全く審理・判断していないことは明らかである。 (被告の主張)原告が主張する独立特許要件の審理不尽,理由不備は,原告が本件無効審判事件で請求をしていない請求項2ないし17,19(請求項18は本件訂正事項6によって削除)に関することであり,取消事由7に関する原告の主張は,そもそも本件審決の結論に影響しない主張にすぎない。 ちなみに,別件第2次無効審判事件の審決予告は,甲5の1と甲7により本件発明(請求項1)を無効(進歩性欠如)と判断している。すなわち,請求項1と甲5の1では,基剤を構成する高分子物質に相違があるが,甲7にヒアルロン酸が記載されているから本件発明に進歩性がないとの判断である。本件審判手続における審判合議体は,かかる判断を正しいとは考えなかったので,独立特許要件の判断において,「その他独立特許要件を満たさないとする理由を発見できない」と記載したものと考えるのが合理的である。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1-訂正要件違反①(明瞭目的要件違反)について 本件訂正事項1は,要するに,請求項1における「皮膚」を「皮膚(但し,皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)」に訂正するものである。 原告が指摘するとおり,「皮膚」がどのような組織を意味するのかという点について,本件明細書中に定義や示唆はない。そこで,証拠として提出されている各種辞典類(甲40・広辞苑,甲41・生化学辞典,甲77・化粧 指摘するとおり,「皮膚」がどのような組織を意味するのかという点について,本件明細書中に定義や示唆はない。そこで,証拠として提出されている各種辞典類(甲40・広辞苑,甲41・生化学辞典,甲77・化粧品辞典)の記載を総合的に検討すれば,通常,「皮膚」なる用語には,「表皮・真皮」を指す場合と,「表皮・真皮・皮下組織」を指す場合の二通りの意味があるものと認められる。 すなわち,甲40(広辞苑)には,「【皮膚】後生動物の体を包む外被。体の保護,体温・水分蒸発などの調節,各種の感覚の受容のほか,皮膚呼吸も営む。動物によりさまざまに変形適応する。高等脊椎動物では表皮・真皮・皮下組織,および各種の付属器官から成る。」の後に「表皮と真皮のみを指す場合もある。」と明記されている。 甲41(生化学辞典)には,「皮膚[cutis,skin] 表層にある上皮性の表皮とその下の結合組織性の真皮から成る.その下は皮下組織で多くの場所で脂肪組織に変わっている.…」とある。 甲77(化粧品辞典)には,「皮膚は大きく3層(表皮,真皮,皮下組織)からなる」という記載がある一方で,「皮膚の厚さ(表皮と真皮を足した厚さ)は1.0~4mmで,一般に女性よりも男性が厚く,幼児よりも成人が厚い. …たんなる物理的な壁ではなく,生体の保護を中心とする絶対不可欠な機能をもった組織である.」という記載もある。 以上のとおり,「皮膚」は,広義では,動物(高等脊椎動物)の表皮・真皮のみならず皮下組織をも含むものとして観念されるものの,その機能の多様性に照らし,表皮・真皮のみを指す場合もあるといえ,文脈を離れて一義的にその意味するところを決することはできない。 本件訂正事項1は,このうち後者の場合,すなわち,皮下組織を含まないも のと定義することによって技術的に明瞭な記載 るといえ,文脈を離れて一義的にその意味するところを決することはできない。 本件訂正事項1は,このうち後者の場合,すなわち,皮下組織を含まないも のと定義することによって技術的に明瞭な記載とすることを意図したものであり,不明瞭な記載の釈明を目的とするものに該当する。また,かかる訂正によって本件発明の解釈に支障や混乱を来すとは認められない。 以上に反して,(皮下組織をも含むものとして)皮膚概念は一義的に明確であるとする原告の主張は,一面的な見方であって,直ちに採用できないというべきである。 したがって,原告が主張する取消事由1は理由がない。 2 取消事由2-訂正要件違反②(誤記訂正目的違反1)について本件訂正事項12は,本件明細書の【0003】に「皮内」とあるのを「皮膚内」と訂正するものであるところ,当該記載箇所は,背景技術としてマイクロニードル,特に自己溶解型マイクロニードルを「皮膚」に挿入する場合について説明するものであることが,その文脈からして明らかである。 このことに,【0003】の他の箇所では,全て「皮膚」という用語が用いられていることを併せ考えれば,訂正箇所である「皮内」は,「皮膚」の「膚」を脱落させたものであって,正しくは「皮膚内」と記載されるべきものであったと理解するのが相当であるから,本件訂正事項12は,誤記の訂正として訂正要件を満たすものというべきである。これに対し,原告は,「皮内」は「皮膚内」とは別の概念を持つ医学用語であって,訂正箇所においても,その別の概念を示す「皮内」が用いられていたと主張するが,「皮内」と「皮膚内」が別の概念を持つ医学用語であると認めるに足りる証拠は存在しないし,少なくとも,【0003】の訂正箇所において,そのような別の概念としての「皮内」が用いられていたとは考えられないこと 」と「皮膚内」が別の概念を持つ医学用語であると認めるに足りる証拠は存在しないし,少なくとも,【0003】の訂正箇所において,そのような別の概念としての「皮内」が用いられていたとは考えられないことは既に説示したとおりである。 そうすると,本件訂正事項12に係る訂正を認めた本件審決は,結論において相当であり,適法というべきである(なお,原告は,本件審決が,被告が求めていた誤記の訂正ではなく,職権で不明瞭な記載の釈明としての訂正を認めたことは原告に対する不意打ちであって,その措置には手続的違法があるとい う趣旨の主張をしているが,上記のとおり,本件訂正事項12は,被告が求めていたとおり誤記の訂正として認められるべきものであり,かつ,誤記の訂正の可否については,原告にも十分に反論の機会が与えられていた以上,原告指摘の点は,本件審決の違法事由になるものとは認め難い。)。 以上によれば,原告が主張する取消事由2は理由がない。 3 取消事由3-訂正要件違反③(誤記訂正目的違反2)について本件訂正事項16は,本件明細書の【0077】に,「皮膚の表面や真皮」とあるのを,「皮膚の表皮や真皮」に訂正するものである。 当該記載箇所は,吸収促進剤としての界面活性剤に関連して,目的物質の皮膚における溶解性について説明するものであるところ,そもそも,本件発明は,基剤と目的物質とを有し,表皮及び真皮から成る皮膚に挿入して使用する経皮吸収製剤であるから,目的物質の溶解性が問題になるのは,「皮膚の表面や真皮」ではなく,「皮膚の表皮や真皮」であることが明らかである。 このことに,【0077】に対応するものというべき【0030】においては,「皮膚の表皮又は真皮」という用語が用いられていること(原告は,段落【0077】と【0030】とでは,意識的に異なる用語 。 このことに,【0077】に対応するものというべき【0030】においては,「皮膚の表皮又は真皮」という用語が用いられていること(原告は,段落【0077】と【0030】とでは,意識的に異なる用語が用いられていると主張するが,そのような理解は不自然であり採用し難い。)を併せ考えると,訂正箇所である「表面」は「表皮」と記載すべきところを誤って「表面」と記載したものと理解するのが相当であるから,本件訂正事項16は,誤記の訂正として訂正要件を満たすものというべきである。 そうすると,本件訂正事項16に係る訂正を認めた本件審決は,結論において相当であり,適法というべきである(なお,原告は,この訂正についても,審決が,職権で不明瞭な記載の釈明としての訂正を認めたことは不意打ちであるという趣旨の主張をしているが,その主張が認められないことは既に説示したとおりである。)。 よって,原告が主張する取消事由3は理由がない。 4 取消事由4-訂正要件違反④(明確性要件違反1/第2次取消判決の拘束力抵触/独立特許要件違反)について本件訂正事項4は,本件訂正前の請求項1に記載された「経皮吸収製剤」から「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」(除外製剤)を除外するものであるところ,原告の主張は,要するに,この除外製剤が物として技術的に明確でないとするものである。 そこで検討するに,除外製剤における「医療用針」が,目的物質を注入するための注射針やランセット,マイクロニードルなどを意味することは,出願時の技術常識に照らして明らかであるといえる。また,「チャンバ」又は「縦穴」が当該「医療用針」内に設けられたものであること,及び「目的物質」が「チャンバに封止 クロニードルなどを意味することは,出願時の技術常識に照らして明らかであるといえる。また,「チャンバ」又は「縦穴」が当該「医療用針」内に設けられたものであること,及び「目的物質」が「チャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている」ことは,いずれも除外製剤の構造を特定するものであって,その特定に不明確な点があるとは認められない。 そうすると,上記除外製剤が,特定の構造を有する「医療用針」である「経皮吸収製剤」を意味していることは明らかであるから,上記除外製剤は物として技術的に明確であり,さらには,かかる除外製剤を除く「経皮吸収製剤」についても,発明の詳細な説明の記載,例えば,【0070】の「基剤に目的物質を保持させる方法としては特に限定はなく,種々の方法が適用可能である。 例えば,目的物質を基剤中に超分子化して含有させることにより,目的物質を基剤に保持させることができる。その他の例をしては(判決注:「その他の例としては」の誤記と認める。),溶解した基剤の中に目的物質を加えて懸濁状態とし,その後に硬化させることによっても目的物質を基剤に保持させることができる。」に接した当業者であれば,出願時の技術常識を考慮して,物として明確に理解することができるといえる。 そうである以上,本件訂正事項4によって訂正された請求項1の記載は明確 であるというべきであって,これに反する(あるいは前提を異にする)原告の主張はいずれも採用できない。 したがって,原告が主張する取消事由4は理由がない。 5 取消事由5-訂正要件違反⑤(拡張訂正違反)について原告は,本件訂正事項4の「除くクレーム」は,何を除いているのか不明瞭であるが,少なくとも種々の素材やタイプあるいは構成態様の医療用針が世の中に存在することに鑑みれば, ⑤(拡張訂正違反)について原告は,本件訂正事項4の「除くクレーム」は,何を除いているのか不明瞭であるが,少なくとも種々の素材やタイプあるいは構成態様の医療用針が世の中に存在することに鑑みれば,本件訂正事項4によって除かれるタイプ以外の医療用針は,すべからく本件訂正発明の経皮吸収製剤に含まれてしまうことになるから,実質上特許請求の範囲を拡張する訂正であって許されない,と主張する。 しかしながら,本件訂正事項4によって除外される製剤(除外製剤)が物として明確であるといえることは,取消事由4において検討したとおりであるから,原告の主張はその前提を欠く。 また,本件訂正事項4は,訂正前の特許請求の範囲から物として技術的に明確な除外製剤を除くものであるから,特許請求の範囲の減縮に該当することは明らかである。 したがって,原告が主張する取消事由5は理由がない。 6 取消事由6-手続違背について本件訂正事項4及び15は,請求項1と,これに対応する本件明細書の記載(【0009】)において,「(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」なる記載を追加するものであり,請求項1をいわゆる「除くクレ-ム」とするものである。 他方,平成26年2月28日付け訂正請求(2回目の訂正請求)における訂正事項2(旧訂正事項2)は,請求項1に「(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって 基剤に保持されている経皮吸収製剤,…を除く)」なる記載を追加するものであり(甲63),除外される製剤として本件訂正事項4及び15における除外製剤と全く同一の構成のものが特定されている。 また,旧訂正事項7は,請求 る経皮吸収製剤,…を除く)」なる記載を追加するものであり(甲63),除外される製剤として本件訂正事項4及び15における除外製剤と全く同一の構成のものが特定されている。 また,旧訂正事項7は,請求項1に対応する本件明細書の記載(【0009】)において,「(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収剤,及び経皮吸収剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収剤を除く)」なる記載を追加するものであり(甲63),やはり,除外される製剤として本件訂正事項4及び15における除外製剤と全く同一の構成のものが含まれているといえる。 ところで,2回目の訂正請求においては,旧訂正事項2における上記「…」の部分に,旧訂正事項7の「及び」以下の部分,すなわち,「及び経皮吸収剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収剤」を追加する訂正を,別途,旧訂正事項3としていることからすると,旧訂正事項7は,旧訂正事項2及び3に係る各訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図ることを目的としたものであると認められる。 そうすると,本件訂正における本件訂正事項4及び15は,2回目の訂正請求における旧訂正事項2と全く同じ内容のものであって,本件審決が「(2回目の訂正請求における)訂正事項2及び7の一部と同じ内容であ」ると説示したのは,旧訂正事項7には,旧訂正事項2に加えてこれとは異なる旧訂正事項3が含まれることを確認的に記載したにすぎ 審決が「(2回目の訂正請求における)訂正事項2及び7の一部と同じ内容であ」ると説示したのは,旧訂正事項7には,旧訂正事項2に加えてこれとは異なる旧訂正事項3が含まれることを確認的に記載したにすぎないといえる。 しかるところ,原告は,(本件訂正事項4及び15と全く同じ内容のものであると認められる)旧訂正事項2については,既に意見を申し立てる機会が与 えられており,現に平成26年5月28日付け口頭審理陳述要領書(甲73)において意見を述べているのであるから,本件訂正の審理に当たって,改めてその意見を述べる機会を与えられなかったとしても,それだけで手続保障に欠ける違法があるとはいえないし,本件訴訟における原告の主張内容に鑑みても,改めてその機会を与える必要があったとは認められない。したがって,これに反する原告の主張は採用できない。 以上によれば,原告が主張する取消事由6は理由がない。 7 取消事由7-独立特許要件の審理不尽・理由不備について原告は,本件審決が別件第2次無効審判事件における進歩性欠如の無効理由(甲5の1及び甲7を引用例とするもの)について判断をしていない点で審理不尽の違法があり,また,理由を示さずに「その他独立特許要件を満たさないとする理由を発見できない」などと結論付けている点で理由不備の違法がある,などと主張する。 しかしながら,本件審決は,独立特許要件の検討に際し,訂正後の請求項1に係る発明(本件訂正発明)について,請求人(原告)が主張する無効理由に理由があるとはいえないことから,従属項であるその他の請求項に係る発明についても,請求人が主張する理由によって独立特許要件を満たさないとすることはできないとの理由を述べた上で,「その他独立特許要件を満たさないとする理由を発見できない。」と結論付けている。 この 明についても,請求人が主張する理由によって独立特許要件を満たさないとすることはできないとの理由を述べた上で,「その他独立特許要件を満たさないとする理由を発見できない。」と結論付けている。 この「その他独立特許要件を満たさないとする理由」が,請求人が主張する無効理由以外の理由を指すことは文脈から明らかであって,ここに原告が指摘する進歩性欠如の無効理由(甲5の1及び甲7を引用例とするもの)だけが含まれないとする合理的理由は見当たらないし,本件審決があえて進歩性に関する点を除外して独立特許要件の検討をしたとみるべき根拠もないから,本件審決に審理不尽の違法はない。 また,別件第2次無効審判事件は,飽くまで本件無効審判事件とは異なる別 個の手続であって,本件無効審判手続において,その無効理由が具体的に主張されていたわけではないのであるから,本件において独立特許要件が満たされていることを説示するのに際し,別件第2次無効審判事件において主張された無効理由の存否について逐一理由を示していなかったとしても,それが理由不備になるものではないというべきである(なお,無効審判手続において行われた訂正が独立特許要件を満たしているかどうかを判断するのに際し,考え得る全ての無効理由を想定し,その検討をして無効理由が存在しないことを説示しなければ審理不尽,理由不備になるとするのは非現実的な要求というべきであるから,上記の独立特許要件の判断に当たっては,当該無効審判手続における主張立証を前提とし,そこから想定し得る無効理由について審理,判断をすれば足りるというべきである。この観点からすると,別件第2次無効審判事件において主張されていたのにすぎない無効理由は,そもそも本件無効審判手続における独立特許要件の存否判断において考慮する必要はないとの考え方もあり きである。この観点からすると,別件第2次無効審判事件において主張されていたのにすぎない無効理由は,そもそも本件無効審判手続における独立特許要件の存否判断において考慮する必要はないとの考え方もあり得ることになるが,反面,本件においては,別件第2次無効審判事件が本件無効審判事件と併合審理されていた時期があり,審判合議体も,別件第2次無効審判事件において主張されていた無効理由を十分に認識していたという特殊事情があるため,そのように十分認識していた無効理由については考慮する必要があるとの考え方もあり得るものと思われる。そこで,上記説示においては,後者の見解も考慮し,本件審判合議体は,別件第2次無効審判事件において主張された無効理由についても審理判断していたと認められるから審理不尽はなく,ただ,その無効理由が本件無効審判事件において具体的に主張されているわけではない以上,これを排斥する理由を具体的に説示していなくても理由不備には当たらないとの判断をしたものである。)。 8 結論以上の次第であるから,原告が主張する取消事由はいずれも理由がなく,本件審決に取り消されるべき違法があるとは認められない。 よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官鶴岡稔彦 裁判官寺田利彦 裁判官間明宏充 間明宏充
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