平成28年7月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第23037号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成28年5月23日判決原告ルーカスインダストリーズリミテッド同訴訟代理人弁護士山本健策同草深充彦同難波早登至同訴訟代理人弁理士長谷部真久同補佐人弁理士飯田貴敏被告株式会社アドヴィックス同訴訟代理人弁護士大野聖二同清水亘同小林英了同訴訟代理人弁理士酒谷誠一同補佐人弁理士野本裕史 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,別紙1及び別紙2-3記載の各物件を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出し,輸入し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告は,その占有にかかる前項の各物件を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,1億7000万円及びこれに対する平成27年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払 ならない。 2 被告は,その占有にかかる前項の各物件を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,1億7000万円及びこれに対する平成27年9月2 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 なお,本件の対象物件(差止請求及び廃棄請求の対象,並びに損害賠償請求の原因を構成する販売行為の対象。以下同じ。)につき,一部争いがあるが,当裁判所は,後記第4の1の理由により,上記1及び2並びに下記第2の1のとおり解したものである。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は,発明の名称を「固定装置を有する液圧式車両ブレーキとそれを作動させるための方法」とする特許第4275310号の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。)を有する原告が,被告に対し,被告が別紙1記載の各物件(すなわち,下記ア,イ及びエの各物件)を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出し,輸入し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をすること(以下「譲渡等」という。)は,本件特許権を侵害する行為であり,また,被告が別紙2-3記載の各物件(すなわち,下記ウの各物件)を譲渡等することは,本件特許権を侵害する行為であるか,特許法101条1号若しくは2号により本件特許権を侵害するものとみなされる行為であるとして,①同法100条1項及び2項に基づき上記各物件の譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,②被告が本件特許権の設定登録後である平成26年9月頃から本件訴訟の提起日(平成27年8月15日)までの間に別紙1記載の各物件(すなわち,下記ア,イ及びエの各物件)を販売したことが特許権侵害の不法行為(民法709条)であるとして,損害賠償金1億7000万円(特許法102条3項により算定される損害額1億5000万円と弁護士費用・弁理士費用2000万円の合計)及びこれに たことが特許権侵害の不法行為(民法709条)であるとして,損害賠償金1億7000万円(特許法102条3項により算定される損害額1億5000万円と弁護士費用・弁理士費用2000万円の合計)及びこれに対する不法行為後の日(訴状送達の日の翌日)である平成27年9月2日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 ア別紙2-1(物件目録1)記載1の物件(以下「イ号物件(車両右側用)」という。)「イ号物件(車両右側用)」と「イ号物件(車両左側用)」を併せて,単に「イ号物件」という。 同記載2の物件(以下「イ号物件(車両左側用)」という。)同記載3の物件(以下「ロ号物件(車両右側用)」という。)「ロ号物件(車両右側用)」と「ロ号物件(車両左側用)」を併せて,単に「ロ号物件」という。 同記載4の物件(以下「ロ号物件(車両左側用)」という。)イ別紙2-2(物件目録2)記載1の物件(以下「ハ号物件(車両右側用)」という。)「ハ号物件(車両右側用)」と「ハ号物件(車両左側用)」を併せて,単に「ハ号物件」という。 同記載2の物件(以下「ハ号物件(車両左側用)」という。)ウ別紙2-3(物件目録3)記載1の物件(以下「ニ号物件(車両右側用)」という。)「ニ号物件(車両右側用)」と「ニ号物件(車両左側用)」を併せて,単に「ニ号物件」という。 同記載2の物件(以下「ニ号物件(車両左側用)」という。)同記載3の物件(以下「ホ号物件(車両右側用)」という。)「ホ号物件(車両右側用)」と「ホ号物件(車両左側用)」を併せて,単に「ホ号物件」という。 同記載4の物件(以下「ホ号物件(車両左側用)」という。)同記載5の物件(以下「ヘ号物件(車両右側用 ホ号物件(車両右側用)」と「ホ号物件(車両左側用)」を併せて,単に「ホ号物件」という。 同記載4の物件(以下「ホ号物件(車両左側用)」という。)同記載5の物件(以下「ヘ号物件(車両右側用)」という。)「ヘ号物件(車両右側用)」と「ヘ号物件(車両左側用)」を併せて,単に「ヘ号物件」という。 同記載6の物件(以下「ヘ号物件(車両左側用)」という。)エ別紙2-4(物件目録4)記載の物件(以下「ト号物件」という。) 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠等により容易に認められる事実)(1) 当事者原告は,英国に本店を有する,自動車及び二輪自動車の部品の製造・販売等を業とする会社である。 被告は,自動車用ブレーキシステム及びそのシステムを構成する部品の開発・生産・販売を業とする株式会社である。 (2) 本件特許権ア原告は,次の内容の本件特許権の特許権者である(甲1,2)。 特許番号第4275310号発明の名称固定装置を有する液圧式車両ブレーキとそれを作動させるための方法出願日平成10年7月22日出願番号特願2000-504027優先日平成9年7月25日優先権主張番号 197 32 168.2優先権主張国ドイツ登録日平成21年3月13日イ本件特許の願書に添付された明細書(以下,図面と併せて,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲(以下,単に「特許請求の範囲」ということがある。)の請求項1(以下,単に「請求項1」ということがある。)の記載は,次のとおりである。 「液圧式車両ブレーキ(10)であって,ハウジング(12)とそのなかに配置されるブレーキピストン(18)とを有し,このブレーキ 下,単に「請求項1」ということがある。)の記載は,次のとおりである。 「液圧式車両ブレーキ(10)であって,ハウジング(12)とそのなかに配置されるブレーキピストン(18)とを有し,このブレーキピストンが摩擦材に作用し,かつブレーキピストン(18)と協動する液圧室(16)に導入可能な液圧によって作動位置に摺動可能であり,この作動位置においてブレーキピストンが摩擦材を車両ブレーキのロータに押付け,更に,電動機(42)によって駆動され,ブレーキピストン(18)の中心軸線(A)と同軸なスピンドル・ナット配置(24)を有し,このスピンドル・ナット配置がブレーキピストン(18)を作動位置で機械的に固定し,そのナット(30)が回動しないよう固定されており,かつスピンドル(26)の回転によって回転方向に依存して軸線(A)に沿って並進移動してブレーキピストン(18)に当接するかまたはブレーキピストン(18)から離れていき,200:1オーダの減速比を有する減速機構(44)が電動機(42)と スピンドル(26)との間に介装されているものにおいて,電動機(42)の出力軸(46)が軸線(A)に平行に横方向の距離を置いて延びて,ブレーキピストン(18)から離れた側で電動機(42)から進出するように,電動機(42)が車両ブレーキハウジング(12)の横に配置されており,電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として実施されており,更に,副組立体(40)がハウジング(12)の面(B)に関してあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能であることを特徴とする液圧式車両ブレーキ。」ウ本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」といい,本件特許のうち同発明に係るものを「本件発明についての特許」という。)を構成要件(以下, 可能であることを特徴とする液圧式車両ブレーキ。」ウ本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」といい,本件特許のうち同発明に係るものを「本件発明についての特許」という。)を構成要件(以下,符号に対応して「構成要件A」などという。)に分説すると,次のとおりである。 A 液圧式車両ブレーキ(10)であって,B ハウジング(12)とそのなかに配置されるブレーキピストン(18)とを有し,このブレーキピストンが摩擦材に作用し,かつブレーキピストン(18)と協働する液圧室(16)に導入可能な液圧によって作動位置に摺動可能であり,この作動位置においてブレーキピストンが摩擦材を車両ブレーキのロータに押付け,C 更に,電動機(42)によって駆動され,ブレーキピストン(18)の中心軸線(A)と同軸なスピンドル・ナット配置(24)を有し,このスピンドル・ナット配置がブレーキピストン(18)を作動位置で機械的に固定し,D そのナット(30)が回動しないよう固定されており,かつスピンドル(26)の回転によって回転方向に依存して軸線(A)に沿って並進移動してブレーキピストン(18)に当接するかまたはブレーキピストン(18)から離れていき,E 200:1オーダの減速比を有する減速機構(44)が電動機(42)とスピンドル(26)との間に介装されているものにおいて,F 電動機(42)の出力軸(46)が軸線(A)に平行に横方向の距離を置いて延びて,ブレーキピストン(18)から離れた側で電動機(42)から進出する ように,電動機(42)が車両ブレーキハウジング(12)の横に配置されており,G 電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として実施されており,H 更に,副組立体(40)がハウジング(12)の面(B)に関し ジング(12)の横に配置されており,G 電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として実施されており,H 更に,副組立体(40)がハウジング(12)の面(B)に関してあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能であることI を特徴とする液圧式車両ブレーキ。 (3) 被告の行為等被告は,業として,ハ号物件,ニ号物件,ホ号物件及びヘ号物件を,平成26年9月頃から製造販売している(ただし,ハ号物件については,平成27年8月14日以降の製造販売の有無につき,争いがある。)。 なお,原告の主張に係るイ号物件及びロ号物件(その存在の有無につき,争いがあるが,原告の主張に係るこれらの物件の構成は,別紙3-1(イ号物件及びロ号物件説明書)記載のとおりである。)並びに原告の主張に係るハ号物件(その構成につき,争いがあるが,原告の主張に係る同物件の構成は,別紙3-2(ハ号物件説明書)記載のとおりである。)は,いずれも本件発明の構成要件Aないし同C及び同Fを充足するものと認められる(この点は,被告も争っていない。)。 3 争点(1) 本件の対象物件にト号物件が含まれるか(争点1)(2) 被告の行為は本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか(争点2)ア被告は,イ号物件及びロ号物件を製造販売しているか,また,これらの物件は,本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足するか(争点2-1)イハ号物件は,本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足するか(争点2-2)ウ被告によるニ号物件の製造販売は,本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか(争点2-3) エ被告によるホ号物件及びへ号物件の製造販売は,本件特許権を侵害し又は侵害する よるニ号物件の製造販売は,本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか(争点2-3) エ被告によるホ号物件及びへ号物件の製造販売は,本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか(争点2-4)(3) 本件発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点3)ア無効理由1(明確性要件違反)は認められるか(争点3-1)イ無効理由2(乙第7号証を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点3-2)(4) 原告の損害額(争点4)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件の対象物件にト号物件が含まれるか)について【原告の主張】原告は,平成27年9月30日の第1回口頭弁論期日に,被告から,対象物件を品番等によって特定すべきである旨の釈明要求を受け,別紙1(訴状添付の物件目録)記載の物件と同一の物件について,平成28年1月27日付け訴え変更の申立書添付の物件目録により,搭載車種類及び品番を明らかにすることにより,対象物件をより具体的に特定し直したものであって,別紙1(訴状添付の物件目録)記載の物件と同申立書添付の物件目録とは,同一である。したがって,原告は,同申立書に基づく訴え変更の申立てにより,請求を減縮したものではない。 【被告の主張】原告の平成28年1月27日付け訴え変更の申立書に基づく訴え変更の申立てにつき,請求の減縮として取り下げる趣旨を含むならば,被告は,当該取下げ部分については,同意しない。 また,原告の平成28年4月28日付け訴え変更の申立書に基づく訴え変更の申立ては,「キャリパ一体式EPB」につき,ハ号物件(別紙2-2(物件目録2)記載の物件)に限定しており,この点は,請求の減縮に当たるところ,被告は,当該請求の減 訴え変更の申立書に基づく訴え変更の申立ては,「キャリパ一体式EPB」につき,ハ号物件(別紙2-2(物件目録2)記載の物件)に限定しており,この点は,請求の減縮に当たるところ,被告は,当該請求の減縮については,同意しない。 被告は,シリンダ,アクチュエータ及びこれらを支持するキャリパハウジングを一体として構成した「キャリパ一体式EPB」の製造販売をしており,これは,別紙1(訴状添付の物件目録)記載の物件に含まれるとしても,平成28年1月27日付け訴え変更の申立書添付の物件目録には含まれない。そして,原告は,ハ号物件(別紙2-2(物件目録2)記載の物件)に含まれない被告の「キャリパ一体式EPB」(ト号物件)について,特許権侵害の主張立証をしないから,同物件に係る原告の請求は,当然に棄却されるべきである。 2 争点2(被告の行為は本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか)について(1) 争点2-1(被告は,イ号物件及びロ号物件を製造販売しているか,また,これらの物件は,本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足するか)について【原告の主張】ア被告は,平成26年9月頃からイ号物件及びロ号物件を製造販売している。 イイ号物件及びロ号物件は,別紙3-1(イ号物件及びロ号物件説明書)に記載された構成を有する。 ウイ号物件は,トヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」という。)が製造販売する「LEXUSNX200T」及び「LEXUS 300H」に搭載される電動パーキングブレーキであり,イ号物件(車両右側用)が車両の右側に搭載されるのに対し,イ号物件(車両左側用)が車両の左側に搭載されるという関係にある。 両者は,左右対称の関係にあり,それ以外の構成において異なるところはない。 エロ号物件は, 側用)が車両の右側に搭載されるのに対し,イ号物件(車両左側用)が車両の左側に搭載されるという関係にある。 両者は,左右対称の関係にあり,それ以外の構成において異なるところはない。 エロ号物件は,トヨタが製造販売する「ALPHARD」及び「VELLFIRE」に搭載される電動パーキングブレーキであり,ロ号物件(車両右側用)が車両の右側に搭載されるのに対し,ロ号物件(車両左側用)が車両の左側に搭載されるという関係にある。両者は,左右対称の関係にあり,それ以外の構成において異なるところはない。 オイ号物件及びロ号物件は,以下のとおり,本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足する。 (ア) イ号物件及びロ号物件は,「ナット(30)」の外側に形成された突起が「ブレーキピストン(18)」の内周面に形成された溝に入り込んでおり,これにより「ナット(30)」は「ブレーキピストン(18)」に対して回転不能となるように配置される。「スピンドル(26)」が回転すると,これに螺合する「ナット(30)」が「ブレーキピストン(18)の中心軸線(A)」に沿って別紙3-1(イ号物件及びロ号物件説明書)の図1の右方向に向けて押し出す。これにより,「ブレーキピストン(18)」がブレーキパッドを付勢し,車輪が制御される。一方,「電動機(42)」の出力軸を逆回転させ(「スピンドル(26)」を逆回転させ)ると,「ナット(30)」が「ブレーキピストン(18)の中心軸線(A)」に沿って,同図の左方向へと移動する。これにより,「ブレーキピストン(18)」によるブレーキパッドへの付勢が解除されるため,車両の制動も解除される。このように,イ号物件及びロ号物件は,「電動機(42)」の出力軸の回転により,「ナット(30)」(及び「ブレーキピストン(18)」)は「ブレ キパッドへの付勢が解除されるため,車両の制動も解除される。このように,イ号物件及びロ号物件は,「電動機(42)」の出力軸の回転により,「ナット(30)」(及び「ブレーキピストン(18)」)は「ブレーキピストン(18)の中心軸線(A)」に沿って並進移動する。 したがって,イ号物件及びロ号物件は,構成要件D「そのナット(30)が回動しないよう固定されており,かつスピンドル(26)の回転によって回転方向に依存して軸線(A)に沿って並進移動してブレーキピストン(18)に当接するかまたはブレーキピストン(18)から離れていき,」を充足する。 (イ) イ号物件及びロ号物件では,「電動機(42)」によって「歯車減速機構(44)」を介して「スピンドル(26)」が駆動される。すなわち,「電動機(42)」と「スピンドル(26)」との間に,「歯車減速機構(44)」が装着されている。そして,「歯車減速機構(44)」の減速比(「電動機(42)」の回転数と「歯車減速機構(44)」の出力軸の回転数の比)は,134.4:1となる。 ここで,「オーダ」とは「数値の大きさの程度」である(甲5)から,「200:1オーダ」とは「およそ200:1程度」という意味であって,イ号物件及びロ号物件における上記の134.4:1は,「およそ200:1程度」の範囲内にあるといえる。 すなわち,200:1の比率とは0.5%(=1÷200)を意味するのに対し,イ号物件及びロ号物件における上記の134.4:1の比率とは0.744%(≒1÷134.4)を意味するところ,0.744%が「およそ0.5%程度」の範囲内にあると解されることは,常識的に考えても明らかである。 しかも,本件発明の作用効果は,電動機とスピンドルとの間に介装される減速比「200:1オーダ」の減速機構を採用する よそ0.5%程度」の範囲内にあると解されることは,常識的に考えても明らかである。 しかも,本件発明の作用効果は,電動機とスピンドルとの間に介装される減速比「200:1オーダ」の減速機構を採用することにより,さらに小型省スペース電動機の利用が可能となる点にある(本件明細書の段落【0004】)から,「200:1」という数字それ自体を殊更に重要視すべきではない。およそ200:1程度の減速機構を採用すると小型省スペース電動機の利用が可能となるところ,減速比が134.4:1の減速機構を採用しても小型省スペース電動機の利用が可能となるのであるから,この点からも,イ号物件及びロ号物件における減速比「134. 4:1」は「200:1オーダ」の範囲内というべきである。 さらに,多くの公知文献(甲30ないし41)の開示に基づいて算出した減速比に関する幅の平均は,±50.3%であり,ギア比の値が本件発明と近い技術分野であっても,当業者の技術常識によると,減速比は平均値の±50%程度の幅を有するものであるから,構成要件Eの「200:1オーダの減速比」には,「100:1」から「300:1」の減速比が含まれるといえる。 したがって,「歯車減速機構(44)」は,「200:1オーダの減速比」を有することになるため,イ号物件及びロ号物件は,構成要件E「200:1オーダの減速比を有する減速機構(44)が電動機(42)とスピンドル(26)との間に介装されているものにおいて,」を充足する。 (ウ) イ号物件及びロ号物件では,「歯車減速機構(44)」と「電動機(42)」 を組み合わせた「副組立体(40)」は,「ハウジング(12)」と「ねじ」によって固定されており,「ハウジング(12)」から取り外すことができ,「ハウジング(12)」から「副組立体(40)」を取り外し を組み合わせた「副組立体(40)」は,「ハウジング(12)」と「ねじ」によって固定されており,「ハウジング(12)」から取り外すことができ,「ハウジング(12)」から「副組立体(40)」を取り外した後は,「ハウジング(12)」と「副組立体(40)」は,別々に操作をすることができる(甲3の2〔図4〕)。 したがって,イ号物件及びロ号物件は,構成要件G「電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として実施されており,」を充足する。 (エ) イ号物件及びロ号物件では,「副組立体(40)」と「ハウジング(12)」が,「ハウジング(12)の面(B)」において取り付けられるが,「副組立体(40)」はいかなる角度であっても,「ハウジング(12)」に取付けることが可能である。 したがって,イ号物件及びロ号物件は,構成要件H「更に,副組立体(40)がハウジング(12)の面(B)に関してあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能であること」を充足する。 (オ) イ号物件及びロ号物件は,構成要件Aないし同Hを充足する液圧式車両ブレーキである。したがって,イ号物件及びロ号物件は,構成要件I「を特徴とする液圧式車両ブレーキ。」を充足する。 【被告の主張】被告は,シリンダ,アクチュエータ及びこれらを支持するキャリパハウジングを一体として構成した「キャリパ一体型EPB」を製造販売しているが,原告の主張に係るイ号物件及びロ号物件を製造販売していない。 したがって,イ号物件及びロ号物件の構成要件D,同E及び同Gないし同Iの充足性については,認否の限りでない(なお,原告の主張に係るイ号物件及びロ号物件〔別紙3-1(イ号物件及びロ号物件説明書)記載の構成を有するとされる物件〕が構成要件Aないし同C及び同Fを充足することは,積極的に争う ,認否の限りでない(なお,原告の主張に係るイ号物件及びロ号物件〔別紙3-1(イ号物件及びロ号物件説明書)記載の構成を有するとされる物件〕が構成要件Aないし同C及び同Fを充足することは,積極的に争うものでな い。)。 (2) 争点2-2(ハ号物件は,本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足するか)について【原告の主張】ア被告は,平成26年9月頃からハ号物件を製造販売している。 イハ号物件は,別紙3-2(ハ号物件説明書)に記載された構成を有する。 ウハ号物件は,トヨタが製造販売する「LEXUSNX200T」及び「LEXUS 300H」並びに「ALPHARD」及び「VELLFIRE」に搭載される電動パーキングブレーキであり,ハ号物件(車両右側用)が車両の右側に搭載されるのに対し,ハ号物件(車両左側用)が車両の左側に搭載されるという関係にある。両者は,左右対称の関係にあり,それ以外の構成において異なるところはない。 エハ号物件は,争点2-1に関する主張(前記(1)の【原告の主張】)と同様の理由により,構成要件D,同E,同Gないし同Iを充足する。 【被告の主張】ア別紙3-2(ハ号物件説明書)は,多くの誤りがあり,ハ号物件の構成を正確に記載したものではない。ハ号物件の正確な構成は,別紙4(被告製品説明書)記載のとおりである。 イ被告は,ハ号物件を平成27年8月13日まで製造販売していたが,その後は,これを製造販売しておらず,今後もその製造販売は行わない。 ウハ号物件は,以下のとおり,本件発明の構成要件D,同E,同Gないし同Iを充足しない。 (ア) ハ号物件は,「ナット」が単独で移動しており,他の部材とともに移動することはないから,「『ブレーキピストン(18)の中心軸線』に沿って並進移動」する ,同E,同Gないし同Iを充足しない。 (ア) ハ号物件は,「ナット」が単独で移動しており,他の部材とともに移動することはないから,「『ブレーキピストン(18)の中心軸線』に沿って並進移動」することはなく,構成要件Dを充足しない。 (イ) ハ号物件は,その減速比「134.4:1」が「200:1オーダの減速比」 に該当しないから,構成要件Eを充足しない。 (ウ) ハ号物件は,電動機及び減速機構が一体化されており,それぞれが別々に操作可能な副組立体として実施されていないから,構成要件Gを充足しない。 (エ) ハ号物件は,副組立体がハウジングに接続できる角度位置が固定されており,あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能とされていないから,構成要件Hを充足しない。 (オ) ハ号物件は,本件発明の上記各構成要件を充足していないから,構成要件Iを充足することもない。 (3) 争点2-3(被告によるニ号物件の製造販売は,本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか)について【原告の主張】アニ号物件は,別紙5-1(ニ号物件説明書)に記載された構成を有する。 イニ号物件は,ハ号物件の補修用部品として同物件に組み込まれる以外の用途がなく,被告は,そのような製品として製造販売しているから,ニ号物件の購入者がこれをハ号物件に組み込んで同物件を完成させる行為は,実質上,被告の行為と同視することができる。 したがって,被告によるニ号物件の製造販売は,本件発明の実施に該当する。 ウ(ア) ニ号物件は,ハ号物件における「副組立体(40)」に相当する部材であり,それのみでは本件発明の構成要件の全ては充足しない。しかし,ニ号物件がハ号物件の補修用部品である以上,ニ号物件をハ号物件における「副組立体(40)」の代わりに搭 立体(40)」に相当する部材であり,それのみでは本件発明の構成要件の全ては充足しない。しかし,ニ号物件がハ号物件の補修用部品である以上,ニ号物件をハ号物件における「副組立体(40)」の代わりに搭載すると,ハ号物件と同じく,本件発明の構成要件を全て充たすものとなる。したがって,ニ号物件は,ハ号物件,すなわち,本件発明の実施品の「生産に用いるもの」である。 また,ニ号物件は,ハ号物件の補修用部品であるため,補修用部品としてハ号物件の部品に使用される以外には,経済的,商業的又は実用的なその他の用途は存在しないから,ハ号物件,すなわち,本件発明の実施品の生産「にのみ」用いられる ものである。 したがって,被告によるニ号物件の製造販売は,本件特許権について特許法101条1号に規定する間接侵害を構成する。 (イ) 仮に,上記(ア)の間接侵害が成立しないとしても,ニ号物件は,ハ号物件における「副組立体(40)」に相当する部品であって,補修部品としてニ号物件を組み込んだ電動パーキングブレーキ(ハ号物件)は,ニ号物件がなければ機能しないのであるから,ニ号物件は,ハ号物件の「生産に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」である。 また,ニ号物件は,電動パーキングブレーキの補修用部品であり,例えばネジ,電球,トランジスター等の日本国内において広く普及している一般的な汎用品ではないため,「日本国内において広く一般に流通しているもの」には該当しない。 そして,被告は,原告の親会社が平成27年5月12日に発送した侵害警告文(以下「本件侵害警告文」という。甲3の1)の受領時から又は遅くとも平成28年4月28日付け訴え変更の申立書の送達時から,本件発明が特許発明であること及びニ号物件が本件発明の実施に用いられることを知っている。 し 警告文」という。甲3の1)の受領時から又は遅くとも平成28年4月28日付け訴え変更の申立書の送達時から,本件発明が特許発明であること及びニ号物件が本件発明の実施に用いられることを知っている。 したがって,それ以降の被告によるニ号物件の製造販売は,本件特許権について特許法101条2号に規定する間接侵害を構成する。 【被告の主張】別紙5-1(ニ号物件説明書)の記載には多くの誤りがあり,ニ号物件の構成を正確に記載したものではない。ニ号物件の正確な構成については,別紙4(被告製品説明書)の対応部分を参照されたい。 争点2-2に関して主張したとおり(前記(2)の【被告の主張】),ハ号物件が本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足しない以上,ニ号物件を補修用部品として組み込んだとしても,本件発明の全ての構成要件を充足することにはならないから,被告によるニ号物件の製造販売が本件特許権の直接侵害ないし間接侵害を構成することはない。 (4) 争点2-4(被告によるホ号物件及びへ号物件の製造販売は,本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか)について【原告の主張】アホ号物件及びヘ号物件は,別紙5-2(ホ号物件及びヘ号物件説明書)に記載された構成を有する。 イホ号物件及びヘ号物件は,ハ号物件の補修用部品として同物件に組み込まれる以外の用途がなく,被告は,そのような製品として販売しているから,ホ号物件及びヘ号物件の購入者がこれらをハ号物件に組み込んで同物件を完成させる行為は,実質上,被告の行為と同視することができる。 したがって,被告によるホ号物件及びヘ号物件の製造販売は,本件発明の実施に該当する。 ウ(ア) ホ号物件及びヘ号物件は,いずれもハ号物件における「ハウジング(12)」に相当する部材 とができる。 したがって,被告によるホ号物件及びヘ号物件の製造販売は,本件発明の実施に該当する。 ウ(ア) ホ号物件及びヘ号物件は,いずれもハ号物件における「ハウジング(12)」に相当する部材であり,それのみでは本件発明の構成要件の全ては充足しない。しかし,ホ号物件及びヘ号物件がハ号物件の補修用部品である以上,ホ号物件又はヘ号物件をハ号物件における「ハウジング(12)」の代わりに搭載すると,ハ号物件と同じく,本件発明の構成要件を全て充たすものとなる。したがって,ホ号物件及びヘ号物件は,ハ号物件,すなわち,本件発明の実施品の「生産に用いるもの」である。 また,ホ号物件及びへ号物件は,ハ号物件の補修用部品であるため,補修用部品としてハ号物件の部品に使用される以外には経済的,商業的又は実用的なその他の用途は存在しないから,ハ号物件,すなわち,本件発明の実施品の生産「にのみ」用いられるものである。 したがって,被告によるホ号物件及びヘ号物件の製造販売は,本件特許権について特許法101条1号に規定する間接侵害を構成する。 (イ) 仮に,上記(ア)の間接侵害が成立しないとしても,ホ号物件及びヘ号物件は,いずれもハ号物件における「ハウジング(12)」に相当する部品であって,補修 部品としてホ号物件又はヘ号物件を組み込んだ電動パーキングブレーキ(ハ号物件)は,ホ号物件又はヘ号物件がなければ機能しないのであるから,ホ号物件及びヘ号物件は,ハ号物件の「生産に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」である。 また,ホ号物件及びヘ号物件は,電動パーキングブレーキの補修用部品であり,例えばネジ,電球,トランジスター等の日本国内において広く普及している一般的な汎用品ではないため,「日本国内において広く一般に流通しているもの」には 物件は,電動パーキングブレーキの補修用部品であり,例えばネジ,電球,トランジスター等の日本国内において広く普及している一般的な汎用品ではないため,「日本国内において広く一般に流通しているもの」には該当しない。 そして,被告は,本件侵害警告文(甲3の1)の受領時から又は遅くとも平成28年4月28日付け訴え変更の申立書の送達時から,本件発明が特許発明であること,並びにホ号物件及びヘ号物件が本件発明の実施に用いられることを知っている。 したがって,それ以降の被告によるホ号物件及びヘ号物件の製造販売は,本件特許権について特許法101条2号に規定する間接侵害を構成する。 【被告の主張】別紙5-2(ホ号物件及びヘ号物件説明書)の記載には多くの誤りがあり,ホ号物件及びヘ号物件の各構成を正確に記載したものではない。ホ号物件及びヘ号物件の正確な構成については,別紙4(被告製品説明書)の対応部分を参照されたい。 争点2-2に関して主張したとおり(前記(2)の【被告の主張】),ハ号物件が本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足しない以上,ホ号物件及びヘ号物件を補修用部品として組み込んだとしても,本件発明の全ての構成要件を充足することにはならないから,被告によるホ号物件及びヘ号物件の製造販売が本件特許権の直接侵害ないし間接侵害を構成することはない。 3 争点3(本件発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか)について(1) 争点3-1(無効理由1(明確性要件違反)は認められるか)について【被告の主張】 ア構成要件Eの「200:1オーダ」について(ア) 構成要件Eの「200:1オーダ」が具体的にどのような値であるのかは,特許請求の範囲の記載からは明らかでなく,また,本件明細書の発明の詳細な説 ア構成要件Eの「200:1オーダ」について(ア) 構成要件Eの「200:1オーダ」が具体的にどのような値であるのかは,特許請求の範囲の記載からは明らかでなく,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面にも「200:1オーダ」の範囲を定める根拠がなく,「200:1オーダ」の範囲を裏付ける本件特許の優先日当時の技術常識も示されていないから,当業者において,「200:1オーダ」が具体的にいかなる範囲を意味するかは理解できない。 (イ) この点,原告は,減速比の幅が平均して±50%であるという当業者の技術常識を斟酌すると,「200:1オーダ」の規定は100:1から300:1の範囲であることを明確に理解する旨主張する。 しかし,原告が上記主張の根拠とする文献は,いずれも自動車用電動ブレーキの技術分野に属するものではなく,当業者の本件特許の優先日当時の技術常識を示すものではない。 かえって,自動車用ブレーキに係る技術文献である特開2004-263812号公報(以下「乙6文献」という。乙6)には,減速ギヤの減速比は高々±20%であることが示されている。 このように,「オーダ」(程度)の文言について多義的な解釈がなされているのであるから,当業者において「200:1オーダ」が具体的に何を意味するのかは理解することはできない。 (ウ) したがって,本件発明についての特許は,明確性要件(特許法36条6項2号〔ただし,平成10年法律第51号による改正前の規定〕)違反の無効理由を有するから,特許無効審判により無効とされるべきものであり,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。 イ構成要件Hの「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能」について原告は,本件発明の構成要件H「更に,副組立体(40)がハウジング(12)の 対し,本件特許権を行使することができない。 イ構成要件Hの「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能」について原告は,本件発明の構成要件H「更に,副組立体(40)がハウジング(12)の面(B)に関してあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能であること」 に関し,「ハウジング(12)」との取付角度がネジ穴によって固定されている「副組立体(40)」であっても,「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能」である旨主張しているが,このような原告の主張を前提とする場合には,特許請求の範囲の記載における「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能」の文言が意味するところを理解することができない。 本件明細書の発明の詳細な説明では,「独自の組立体として実施される電動機・減速機構ユニットはあらゆる任意の角度位置でブレーキハウジングへの固着を簡単に可能とし,ブレーキ取付場所が空間的に窮屈であることは副組立体の位置を適切に決定することで問題なく考慮することができる。」(段落【0005】),「面Bに関してあらゆる任意の角度位置で車両ブレーキ10のハウジング12にユニット40を取付けることを可能とする。」(段落【0025】)と記載されているが,かかる記載からは,「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能」の文言が原告の主張する意味を有しているものと解することができない。 このように,原告の主張に従えば,構成要件Hの「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能」の意義を理解することができず,当業者において発明の実施をすることができない。 したがって,本件発明についての特許は,上記の点においても,明確性要件(特許法36条6項2号〔ただし,平成10年法律第51号による改正前の規定〕)違反の無効理由を有するから,特許無効審判に ない。 したがって,本件発明についての特許は,上記の点においても,明確性要件(特許法36条6項2号〔ただし,平成10年法律第51号による改正前の規定〕)違反の無効理由を有するから,特許無効審判により無効とされるべきものであり,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。 【原告の主張】ア構成要件Eの「200:1オーダ」について「200:1オーダ」とは,「およそ200:1程度」というほどの意味合いであると解することができる(甲5)。一般に「およそ」とは幅を持つ概念であるが,ここでいう「およそ」が持つ幅とは,当業者が技術常識に基づいて,減速比について通常理解する幅に相当するものと解することができる。 そして,当業者が,技術常識に基づいて,減速比について通常理解する幅は,平均値の±50%程度であると考え,このことは,多くの公知文献(甲8ないし27,30ないし41)の開示に基づいて算出した減速比に関する幅の平均が,平均値の±49.9%であることとも符合する。 このように,当業者の技術常識によると,減速比は平均値の±50%程度の幅を有するものであり,これは電動パーキングブレーキにおいて,減速比の幅が200:1を基準として±50%とされているとの技術常識(甲46)とも整合している。 なお,被告が言及する乙6文献は,増速と減速という異なる作用にまたがるギア比の幅を示すものであり,減速ギア比に関する技術常識が開示されているわけではないから,減速ギア比に係る「200:1オーダ」の意義が多義的であることの根拠にはならない。 以上のとおり,当業者の技術常識によれば,「200:1オーダ」は,100:1ないし300:1の範囲ということが明らかであり,「200:1オーダ」が不明確であるとはいえない。 イ構成要件Hの「あ 以上のとおり,当業者の技術常識によれば,「200:1オーダ」は,100:1ないし300:1の範囲ということが明らかであり,「200:1オーダ」が不明確であるとはいえない。 イ構成要件Hの「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能」について本件発明の構成要件Hの「あらゆる任意の角度位置で取付可能」との文言は,ねじによる固定か否かを問わず,任意の方法により,任意の角度で取り付けることができるとの意味であることが明らかである。 そして,本件明細書の段落【0005】及び段落【0025】においても,ねじ固定に限定する旨の記載は一切ないことに照らしても,当業者は,「あらゆる任意の角度位置で取付可能」との文言が,ねじによる固定か否かを問わず,任意の方法により,任意の角度で取り付けることができるとの意味であることを明確に理解することができるのであって,構成要件Hの「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能」が不明確であるとはいえない。 (2) 争点3-2(無効理由2(乙第7号証を主引例とする進歩性欠如)は認め られるか)について【被告の主張】本件発明は,以下のとおり,本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特表平1-503250号公報(以下「乙7公報」という。乙7)記載の発明(以下「乙7発明」という。)及び特開平3-41233号公報(以下「乙8公報」という。乙8)記載の発明(以下「乙8発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明は進歩性を欠くものであって(特許法29条2項),本件発明についての特許は,特許無効審判により無効とされるべきものである。 ア乙7発明の構成は,次のとおりである。 1a 液圧式の車両用ディスクブレーキであって,1b キャリパハウジングとそのなか 明についての特許は,特許無効審判により無効とされるべきものである。 ア乙7発明の構成は,次のとおりである。 1a 液圧式の車両用ディスクブレーキであって,1b キャリパハウジングとそのなかに配置されるピストンとを有し,このピストンが摩擦エレメントに作用し,軸方向に配置されたボアの中に導入可能な液圧によってピストンを摺動させ,それによりピストンが摩擦エレメントを移動させてロータと係合させるように作動し,1c 更に,電動モータ装置によって駆動され,ピストンの中心軸線A’と同軸に配置されたねじ手段及びナットを有し,このねじ手段及びナットがピストンを移動させ,それによりピストンが摩擦エレメントを移動させてロータと係合させるように作動し,1d ナットがピストンに対して回転不能となるように配置されており,かつねじ手段のある方向への回転によって,中心軸線A’に沿って移動してピストンに当接し,ねじ手段の反対方向への回転によってピストンから離れていき,1e 115:1の減速比を有する減速部が電動モータ装置とねじ手段との間に介装され,1f 電動モータの駆動軸が中心軸線A’に平行に距離を置いて配置されており,ピストンから中心軸線A’に垂直な方向に離れた位置において,電動モータ装置か らの回転が伝達されるように,電動モータがキャリパハウジングの隣に配置される,1a 液圧式の車両用ディスクブレーキ。 イ本件発明と乙7発明とを対比すると,次の(ア)及び(イ)の各点で相違し,その余の点で一致する。 (ア) 本件発明では電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として構成されているのに対し,乙7発明では電動モータと減速部が別々に操作可能な副組立体として構成されているかどうかが明らかではない点(以下「相違点 速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として構成されているのに対し,乙7発明では電動モータと減速部が別々に操作可能な副組立体として構成されているかどうかが明らかではない点(以下「相違点1」という。)(イ) 本件発明は,副組立体(40)がハウジング(12)の面(9)に関してあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能であるのに対し,乙7発明では減速部と電動モータがあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能かどうかが明らかではない点(以下「相違点2」という。)ウ相違点の検討(ア) 相違点1について乙8公報には,電動モータと減速装置が,ブレーキキャリパとは別個に操作可能な小組立体として構成され,ブレーキキャリパに設けられたネジ穴にネジで小組立体が取り付けられる,車両用の電動ディスクブレーキの発明(乙8発明)が開示されている。 原告は,構成要件Gにおいて「別々に操作可能」なのはハウジングと副組立体と解される旨主張しており,かかる原告の主張を前提とすれば,乙8発明には本件発明の構成要件Gに相当する構成が開示されている。 そして,乙7発明及び乙8発明は,いずれも車両用のブレーキに関する発明であり技術分野が共通する。また,乙7発明の目的は,「高い信頼性でコスト的に有効で,かつ特別の車両のまとめの制約の範囲内で実用的で」あること(乙7〔3頁右上欄8行ないし10行〕)であり,乙8発明の目的である「量産性及びメンテナンス性を高める」ことと一部において共通しており,乙7発明において,電動モータ と減速装置をブレーキキャリパとは別個に操作可能な小組立体として構成したとしても,乙7発明の目的である「高い信頼性でコスト的に有効で,かつ特別の車両のまとめの制約の範囲内で実用的で」あることは阻害されることはない。 したがって は別個に操作可能な小組立体として構成したとしても,乙7発明の目的である「高い信頼性でコスト的に有効で,かつ特別の車両のまとめの制約の範囲内で実用的で」あることは阻害されることはない。 したがって,量産性及びメンテナンス性を高めるという観点から,乙7発明の電動モータと減速装置を,ブレーキキャリパとは別個に操作可能な小組立体として構成することは,当業者において容易に想到できたものである。 (イ) 相違点2について乙8公報には,ブレーキキャリパに設けられたネジ穴にネジで小組立体が取り付けられていることが記載されており,これは被告各製品と同様の構成である。 原告は,侵害論において,ハウジングに設けられたネジ穴の位置を車両に応じて様々な角度に調節することによって,任意の取付角度で副組立体を取り付けることが可能であるから,被告製品が構成要件Hを充足する旨主張しており,かかる原告の主張を前提とすれば,乙8発明は,ブレーキキャリパに設けられたネジ穴の位置を車両に応じて様々な角度に調節することによって,任意の取付角度で小組立体を取り付けることが可能であるから,乙8発明には本件発明の構成要件Hに相当する構成が開示されている。 上述のとおり,乙7発明と乙8発明は技術分野及び目的において共通しており,乙7発明に乙8発明の小組立体を適用しても乙7発明の目的が阻害されることはないから,量産性及びメンテナンス性を高めるという観点から,乙7発明に乙8発明の小組立体を適用して,ハウジングの面に関して任意の角度位置で取付可能とすることは,当業者において容易に想到できたものである。 仮に,乙8発明に本件発明の構成要件Hに相当する構成が開示されていないとしても,電動機及び減速機構を備えた小組立体を,ハウジングの面に関して任意の角度位置で取付可能とすることは,当業者に である。 仮に,乙8発明に本件発明の構成要件Hに相当する構成が開示されていないとしても,電動機及び減速機構を備えた小組立体を,ハウジングの面に関して任意の角度位置で取付可能とすることは,当業者において容易に想到できたものである。この点は,特開平8-276837号公報(以下「乙9公報」という。乙9)においても,車両用のブレーキ液圧制御装置において,ブレーキ装置内のキャリパ3に 対する直動モータ14(及びカム部材等)の取付位置を適宜変更することができる実施例が開示されている(段落【0018】,図4参照)ことからも明らかである。 エ以上のとおり,本件発明は乙7発明及び乙8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明についての特許は進歩性欠如の無効理由を有する。 【原告の主張】ア乙7発明の構成について乙7発明には,電動モータ装置340の回転によってナット390が中心軸線A’に沿って摩擦エレメントに近づく方向に移動することについての開示はあるものの,電動モータ装置340が逆回転してナット390が中心軸線A’に沿って摩擦エレメントから離れる方向へ移動させることについての開示はない。したがって,乙7発明が「電動モータ装置が逆回転してナットが中心軸線A’に沿って摩擦エレメントから離れる方向に移動することにより,ナットがピストンから離れて,ピストンの摩擦エレメントへの付勢が解除される」という構成を有するとの被告の主張は,誤りである。 イ相違点1について乙7発明には,本件発明の副組立体(40)に相当する部材がそもそも存在しないから,本件発明と乙7発明との相違点1は,次のとおりとすべきである。 本件発明では電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として構成されているのに対し がそもそも存在しないから,本件発明と乙7発明との相違点1は,次のとおりとすべきである。 本件発明では電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として構成されているのに対し,乙7発明では電動モータと減速部を有する副組立体が存在しない点ウ相違点2について乙7発明の減速部は,キャリパハウジングの内部に配置されており,かつ,その一部はキャリパハウジングに連結されているから,乙7発明では,減速部と電動モータをあらゆる任意の角度位置でハウジングに取り付けることができず,また,乙7発明には,本件発明における副組立体(40)に相当する部材が存在しないから, 本件発明と乙7発明との相違点2は,次のとおりとすべきである。 本件発明では,副組立体(40)がハウジング(12)の面(9)に関してあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能であるのに対し,乙7発明ではキャリパハウジングに取り付ける副組立体が存在せず,減速部と電動モータをあらゆる任意の角度位置でハウジングに取り付けることができない点エ相違点の検討の誤り(ア) 相違点1についてa 乙8発明の構成について乙8発明の小組立体は,キャリパハウジングと一体の部材であるから,キャリパハウジングと別々に操作可能な部材とはいえず,本件発明における副組立体(40)に相当するものとはいえない。したがって,乙8発明には本件発明における構成要件Gに相当する構成が開示されているとはいえず,乙7発明に乙8発明の小組立体を適用したとしても,当業者は本件発明に容易に想到することはできない。 b 阻害要因仮に,乙8発明に本件発明の構成要件Gに相当する構成が開示されているとしても,乙8発明における本件発明の構成要件Gに相当する構成を乙7発明に適用することについては,当業 できない。 b 阻害要因仮に,乙8発明に本件発明の構成要件Gに相当する構成が開示されているとしても,乙8発明における本件発明の構成要件Gに相当する構成を乙7発明に適用することについては,当業者にとって阻害要因がある。乙7発明は,乙7発明の目的を達成するための手段として,減速部をキャリパハウジングの内部に収容できる程小さくしたうえで,減速部をキャリパハウジングの内部に収容して一体の部材とすることで,部材全体の重量を減らす上ともに,車両の構成部品を簡単化するものであるところ,乙8発明における本件発明の構成要件Gに相当する構成を乙7発明に適用した場合,減速部がキャリパハウジングの外部に設けられることとなるのであるから,減速部をキャリパハウジングの内部に収めて一体の部材とすることで部材全体の重量を減らし,車両の構成部品を簡単化することができなくなり,乙7発明の目的を達成することができなくなる。したがって,乙8発明における本件発明の構成要件Gに相当する構成を乙7発明に適用することには阻害要因がある。 (イ) 相違点2についてそもそも乙8発明には本件発明における構成要件Gに相当する構成が開示されていない。また,仮に,乙8発明には本件発明における構成要G相当する構成が開示されているとしても,上記のとおり,乙7発明に乙8発明における本件発明の構成要件Gに相当する構成を適用することには阻害要因があるため,当業者において容易想到とはいえない。 4 争点4(原告の損害額)について【原告の主張】被告は,業として,本件特許権の設定登録(平成21年3月13日)後である平成26年9月頃から本件訴訟の提起日(平成27年8月14日)に至るまで,イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びト号物件を販売した。被告によるこれらの物件の売上額は,15億円 成21年3月13日)後である平成26年9月頃から本件訴訟の提起日(平成27年8月14日)に至るまで,イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びト号物件を販売した。被告によるこれらの物件の売上額は,15億円を下らないところ,本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,上記売上額の10%を下らないから,原告は,特許法102条3項に基づき,1億5000万円を損害の額としてその賠償を請求することができる。 また,原告は,被告による本件特許権の侵害行為のため,本件訴訟を提起せざるを得なくなり,弁護士費用及び弁理士費用の支出を余儀なくされたが,その額は,2000万円を下らない。 したがって,原告は,被告に対し,特許権侵害の不法行為(民法709条)による損害賠償金合計1億7000万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成27年9月2日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 【被告の主張】否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件の対象物件にト号物件が含まれるか)について(1) 原告が請求の減縮(訴えの一部取下げ)をしようとし,被告の異議申し立て により,請求の減縮(訴えの一部取下げ)の効果が生じなかったか否か,換言すると,本件の対象物件にト号物件が含まれるかについては,争いがあるので,検討する。 (2) 原告は,訴状において,本件の対象物件を別紙1(訴状添付の物件目録)記載のとおり,製品名「キャリパ一体式EPB」の電動パーキングブレーキとしていたが,平成28年1月27日付け訴え変更の申立書(同月29日送達)による訴え変更の申立てにより,対象物件を同申立書添付の物件目録記載の各物件に変更しようとした(当裁判所に顕著)。 ここで,製品名「キャリパ一体式EP 月27日付け訴え変更の申立書(同月29日送達)による訴え変更の申立てにより,対象物件を同申立書添付の物件目録記載の各物件に変更しようとした(当裁判所に顕著)。 ここで,製品名「キャリパ一体式EPB」の電動パーキングブレーキに該当する物件が同申立書添付の物件目録記載の各物件に限られるものではないことは,文理上,明らかであるから,上記訴え変更の申立てが請求の減縮,すなわち同申立書添付の物件目録記載の各物件以外に係る訴えの取下げを含むというべきである。 この点,原告は,別紙1(訴状添付の物件目録)記載の物件と同申立書添付の物件目録記載の各物件が同一である旨主張する。しかし,上記説示したところに加え,原告が,当初,別紙1(訴状添付の物件目録)により対象物件を特定したのは,対象物件を特定の品番のものに限定することを避けるとの意図に基づくものと解されること(平成27年10月23日付け準備書面(1)参照)に照らし,原告の上記主張は,採用することができない。 しかるところ,被告は,平成28年2月3日の第2回弁論準備手続期日に,「上記訴え変更の申立てにつき,請求の減縮として取り下げる趣旨を含むならば,当該取下げ部分については,同意しない」旨述べ,請求の減縮(訴えの一部取下げ)に異議を申し立てた(なお,原告は,同期日に同申立書を陳述することにより,平成27年10月30日付け訴え変更の申立書〔同年11月2日送達〕を陳述しないまま撤回し,被告は,この点については異議を述べず,同意した。)。 したがって,平成28年1月27日付け訴え変更の申立書に基づく訴え変更の申立てによる請求の減縮(訴えの一部取下げ)は,効力を生じておらず,本件の対象 物件は,別紙1記載の各物件,すなわち製品名「キャリパ一体式EPB」の電動パーキングブレーキのまま,変更されなか 立てによる請求の減縮(訴えの一部取下げ)は,効力を生じておらず,本件の対象 物件は,別紙1記載の各物件,すなわち製品名「キャリパ一体式EPB」の電動パーキングブレーキのまま,変更されなかったものといえる。 (3) 原告は,その後,平成28年4月28日付け訴え変更の申立書(同年5月6日送達)による訴え変更の申立てにより,再び対象物件を変更しようとした(当裁判所に顕著)。 上記訴え変更の申立ては,対象物件を従前のものから平成28年4月28日付け訴え変更の申立書添付の物件目録1記載の各物件及び別紙2-2(物件目録2)記載の各物件に変更するとともに,同申立書添付の物件目録3記載の各物件を追加することを内容とするところ,製品名「キャリパ一体式EPB」の電動パーキングブレーキに該当する物件が同申立書添付の物件目録1記載の各物件及び別紙2-2(物件目録2)記載の各物件に限られるものではないことは,文理上,明らかであるから,上記訴え変更の申立ては,請求の減縮,すなわち同申立書添付の物件目録1記載の各物件及び別紙2-2(物件目録2)記載の各物件以外の製品名「キャリパ一体式EPB」の電動パーキングブレーキに係る訴えの取下げを含むものである。 そして,被告は,同年5月23日付け被告第3準備書面(同月17日受付)により,上記訴え変更の申立てに含まれる上記請求の減縮(訴えの一部取下げ)に対し,異議を申し立てた。原告は,同年5月23日の第4回弁論準備手続期日に上記訴え変更の申立書を陳述するに際し,同申立書において特定した対象物件のうち,同申立書添付の物件目録1を別紙2-1(物件目録1)のとおり訂正し,同申立書添付の物件目録3を別紙2-3(物件目録3)のとおり訂正するとともに,被告が別紙3(物件目録3)記載の各物件を製造販売したことを理由とする損害賠償 1を別紙2-1(物件目録1)のとおり訂正し,同申立書添付の物件目録3を別紙2-3(物件目録3)のとおり訂正するとともに,被告が別紙3(物件目録3)記載の各物件を製造販売したことを理由とする損害賠償請求はしない旨述べた(すなわち,損害賠償請求を追加しなかった。)。被告は,同期日において,上記各訂正については異議がない旨述べたが,上記準備書面を陳述することにより,上記請求の減縮(訴えの一部取下げ)には,改めて異議を申し立てた(当裁判所に顕著)。 したがって,本件の対象物件は,譲渡等の差止め及び廃棄の請求については,別 紙2-1,別紙2-2及び別紙2-4(以上をまとめると別紙1と同じ。)記載の各物件(イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びト号物件)並びに別紙2-3記載の各物件(ニ号物件,ホ号物件及びヘ号物件),損害賠償の請求については,別紙2-1,別紙2-2及び別紙2-4記載の各物件(イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びト号物件)となったものと認められる。 (4) 上記検討したところによれば,原告は,被告に対し,ト号物件の譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,被告によるト号物件の販売が特許権侵害の不法行為を構成することを理由として損害賠償を求めていることになるが,原告は,ト号物件(すなわち,被告の販売に係る製品名「キャリパ一体式EPB」の電動パーキングブレーキのうち,イ号物件ないしハ号物件に含まれないもの)について,具体的な主張立証をしないから,ト号物件に係る原告の請求は,いずれも理由がない。 2 争点2(被告の行為は本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか)について(1) 争点2-1(被告は,イ号物件及びロ号物件を製造販売しているか,また,これらの物件は,本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足す するものとみなされる行為に該当し得るか)について(1) 争点2-1(被告は,イ号物件及びロ号物件を製造販売しているか,また,これらの物件は,本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足するか)について原告は,被告が平成26年9月頃から,本件発明の技術的範囲に属するイ号物件及びロ号物件を製造販売している旨主張し,被告に対し,イ号物件及びロ号物件の譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,被告によるイ号物件及びロ号物件の販売が特許権侵害の不法行為を構成することを理由として損害賠償を求めているところ,被告は,イ号物件及びロ号物件の製造販売の事実はない旨主張し,同請求を争っている。 そこで検討するに,証拠(甲6,乙5及び10)及び弁論の全趣旨によれば,製品名「キャリパ一体式EPB」の電動パーキングブレーキとは,シリンダ,アクチュエータ及びこれらを支持するキャリパハウジングを一体として構成した電動パーキングブレーキを意味すると解されるところ,シリンダとアクチュエータとが組み 合わされたにすぎないイ号物件及びロ号物件を被告が製造販売しているとの事実は,存在しないことがうかがわれるところであって,ほかに被告がイ号物件及びロ号物件を譲渡等しているとか,そのおそれがあると認めるに足りる証拠はない(なお,原告の主張に係るイ号物件及びロ号物件の構成は,原告の主張に係るハ号物件の構成と同様のものであるところ,次項で説示するとおり,ハ号物件は,少なくとも本件発明の構成要件G及び同Hを充足しないから,仮に,イ号物件及びロ号物件の製造販売があったとしても,これらの物件は,少なくとも本件発明の構成要件G及び同Hを充足しないものと考えられる。)。 したがって,イ号物件及びロ号物件に係る原告の請求は,いずれも理由がない。 (2)争点2-2(ハ号 しても,これらの物件は,少なくとも本件発明の構成要件G及び同Hを充足しないものと考えられる。)。 したがって,イ号物件及びロ号物件に係る原告の請求は,いずれも理由がない。 (2)争点2-2(ハ号物件は,本件発明の構成要件D,同E及び同Gないし同Iを充足するか)についてアハ号物件が構成要件G「電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として実施されており,」を充足するかについて(ア) 本件特許の請求項1の記載(前記前提事実)によれば,本件発明は,「電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として実施されており,」(構成要件G),文理上,「電動機(42)」と「減速機構(44)」が「別々に操作可能な」ものであると解するほかない。 これに対し,ハ号物件は,原告の主張によっても,「「副組立体(40)」を構成する「電動機(42)」と「減速機構(44)」は,「電動機(42)」の「出力軸(46)」に形成された歯車と減速機構を構成するギアとが噛み合った状態で互いに接続された状態で副組立体ハウジングに収容されており,両者は一体となって動作する」のであり,そのため,「「電動機(42)」と「減速機構(44)」を別々に操作することはできない」というのである(別紙3-2(ハ号物件説明書))。 したがって,ハ号物件が構成要件G「電動機(42)と減速機構(44)が別々に操作可能な副組立体(40)として実施されており,」を充足しないことは,明 らかである。この点,原告は,構成要件Gにおいて,「別々に操作可能な」ものとされているのが,「電動機(42)」と「減速機構(44)」ではなく,「ハウジング(12)」と「副組立体(40)」である旨主張するようである。 確かに,「電動機(42)」と「減速機構(44) 」ものとされているのが,「電動機(42)」と「減速機構(44)」ではなく,「ハウジング(12)」と「副組立体(40)」である旨主張するようである。 確かに,「電動機(42)」と「減速機構(44)」とが接続されていなければ,ブレーキシステムとして機能しないし,本件明細書の段落【0025】及び【図1】には,「電動機(42)」と「減速機構(44)」が接続されていることが示されている。 しかし,特許請求の範囲の記載からは,「別々に操作可能な」ものとされているものを「ハウジング(12)」と「副組立体(40)」と読み替えることは,文理上困難であるし,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を検討しても,「ハウジング(12)」と「副組立体(40)」が「別々に操作可能な」ものであることが明記されているとは,認められない。 したがって,原告の上記主張は,本件明細書に基づかないものであり,採用することができない。 イハ号物件が構成要件H「更に,副組立体(40)がハウジング(12)の面(B)に関してあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能であること」を充足するかについて(ア) 本件特許の請求項1の記載(前記前提事実)によれば,本件発明は,「更に,副組立体(40)がハウジング(12)の面(B)に関してあらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能であること」(構成要件H)が,特許請求の範囲の記載から明らかであるといえる。 これに対し,ハ号物件は,原告の主張によっても,「ねじ」のそれぞれが「副組立体ハウジングに形成された2つのねじ穴と「ハウジング(12)」のキャリパハウジングに形成されたねじ穴に入り込み,これにより,「副組立体(40)」は,「ハウジング(12)」にねじ止めされる」というのである(別紙3-2(ハ号物件説明書))。 )」のキャリパハウジングに形成されたねじ穴に入り込み,これにより,「副組立体(40)」は,「ハウジング(12)」にねじ止めされる」というのである(別紙3-2(ハ号物件説明書))。 すなわち,ハ号物件では,「副組立体(40)」の「ハウジング(12)」に対する取付角度位置は,ねじ穴の位置により規定されているものというべきであり,「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能である」とはいえない。 (イ) この点,原告は,本件侵害警告文(甲3の1)の図5-aないし図5-dに示されるように「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能である」旨の主張もするが,同号証の図5-c及び図5-dは,「副組立体(40)」が「ハウジング(12)」にねじで固定されておらず,未だ取り付けられているとはいえない状態のものである。原告は,接着剤などで固定する方法も示唆するが,「副組立体(40)」が「ハウジング(12)」に確実に固定されていない場合,前者が後者に対して回転可能となることも想定されるところであって,ブレーキ製品として,正常な動作を維持することができるか,疑問である。 上記の点を措いて,ねじによらない取付を想定したとしても,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,ハ号物件の「ハウジング(12)」(乙1における「キャリパハウジング22」)にはボルト(乙1における「ボルト24」)を支持する部分が存在し,少なくともボルトと接触する部分に,「副組立体(40)」(乙1における「アクチュエータ組立体10」)を設置することは技術的に困難であるから,「あらゆる任意の角度位置でハウジングに取付可能である」といえないことは,ハ号物件の構造から,明らかである。 以上のほか,原告は,ハ号物件の構成要件H充足性につき,縷々主張するが,いずれも採用することができな 意の角度位置でハウジングに取付可能である」といえないことは,ハ号物件の構造から,明らかである。 以上のほか,原告は,ハ号物件の構成要件H充足性につき,縷々主張するが,いずれも採用することができない。 ウ小括上記ア,イで検討したところによれば,ハ号物件は,少なくとも構成要件G及びHを充足しないから,その余の構成要件について検討するまでもなく,本件発明の技術的範囲に属しない。 したがって,ハ号物件に係る原告の請求は,いずれも理由がない。 (3) 争点2-3(被告によるニ号物件の製造販売は,本件特許権を侵害し又は 侵害するものとみなされる行為に該当し得るか)について原告の主張によれば,ニ号物件は,ハ号物件における「副組立体(40)」に相当する構成を有するところ,上記(2)で説示したとおり,ハ号物件が本件発明の技術的範囲に属しない以上,被告によるニ物件の製造販売が本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当する余地はない。 したがって,ニ号物件に係る原告の請求は,いずれも理由がない。 (4) 争点2-4(被告によるホ号物件及びへ号物件の製造販売は,本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当し得るか)について原告の主張によれば,ホ号物件及びヘ号物件は,ハ号物件における「ハウジング(12)」に相当する構成を有するところ,前記(2)で説示したとおり,ハ号物件が本件発明の技術的範囲に属しない以上,被告によるホ号物件及びヘ号物件の製造販売が本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為に該当する余地はない。 したがって,ホ号物件及びヘ号物件に係る原告の請求は,いずれも理由がない。 3 争点3-1(無効理由1(明確性要件違反)は認められるか)について(1) 前記1及び上記2で説示したとおり,原告 。 したがって,ホ号物件及びヘ号物件に係る原告の請求は,いずれも理由がない。 3 争点3-1(無効理由1(明確性要件違反)は認められるか)について(1) 前記1及び上記2で説示したとおり,原告の本件請求は全て理由がないが,事案に鑑み,争点3-1についても検討するに,以下のとおり,本件発明についての特許は,明確性要件(特許法36条6項2号〔ただし,平成10年法律第51号による改正前の規定〕)違反の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができないものであり,原告の本件請求は,この点からも,全て理由がない。 (2) 本件明細書の記載によれば,本件発明の課題は,「常用ブレーキとしても固定ブレーキとしても利用することができ,EP0729871A1号により公知の車両ブレーキの構造よりもその構造が一層コンパクト」であり,「さまざまな車種に安価に適合可能で」ある「液圧式車両ブレーキを提供すること」にあり(段落【0003】参照),また,「電動機とスピンドルとの間に介装される減速比20 0:1オーダの減速機構が小型省スペース電動機の利用を可能とする」(段落【0004】)というのであるから,「減速比200:1オーダ」の意味は,本件発明の技術的意義を理解する上で,極めて重要であり,この範囲が一義的に明確であることが必要であるというべきである。 しかるところ,証拠(甲5)によれば,一般に,「オーダ」とは,「数値の大きさの程度」をいうことが認められるから,構成要件Eにいう「200:1オーダ」が「およそ200:1程度」であると理解することはできるものの,「程度」には幅があるため,その範囲が明確といえるかについて,更に検討する。 (3) 本件明細書をみるに,請求項1における :1オーダ」が「およそ200:1程度」であると理解することはできるものの,「程度」には幅があるため,その範囲が明確といえるかについて,更に検討する。 (3) 本件明細書をみるに,請求項1における「200:1オーダ」との文言について定義した記載は,特許請求の範囲の記載にも,発明の詳細な説明の記載にも,見当たらず,「200:1オーダ」の範囲に含まれるものとして,「200:1」以外の具体例の記載すらないのであり,同文言について触れている本件明細書の段落【0004】,【0005】及び【0025】の記載によっても,その範囲が一義的に明らかであるとは,到底認め難い。 (4) この点,原告は,当業者の技術常識を示す特許文献として,甲第8号証ないし甲第27号証,甲第30号証ないし甲第41号証に言及するなどした上,「200:1オーダ」とは,100:1ないし300:1の範囲であることが明確である旨主張する。 しかし,原告が技術常識を示すものとして言及する上記文献は,いずれも自動車用の制動ブレーキに関するものでない(なお,甲18は,車両の制御装置に関する発明についての公報であるが,同公報には,車両の駆動出力手段として使われる遊星歯車装置のギア比に関する記載があるだけで,本件発明の制動ブレーキの減速機構のギア比についての参考とすることはできない。)。また,上記文献を参酌したしても,いずれにも「オーダ」との文言は用いられていないばかりか,ギア比として,最小値及び最大値が明確に記載されている。 したがって,上記文献を参酌するのであれば,むしろ,数値の幅が見込まれるギ ア比については,その最小値及び最大値を示すのが技術常識であり,実際,被告が言及する乙6文献には,ギア比として±20%のものも示されているところである(なお,甲10,19,22では,± ア比については,その最小値及び最大値を示すのが技術常識であり,実際,被告が言及する乙6文献には,ギア比として±20%のものも示されているところである(なお,甲10,19,22では,±50%を超えている。)。 原告は,その親会社の従業員の作成に係る陳述書(甲46)にも言及するが,同陳述書においては,スレッドピッチと減速比が性質上比例することを前提としているところ,両者の関係については,何ら立証されていない。また,この点を措くとしても,同陳述書に記載された「『200:1オーダ』とは100:1~300:1の範囲」との結論が本件特許の優先日当時における当業者の技術常識に沿う唯一の解釈であって,他の解釈が成り立ち得ないことを裏付けるものとは,到底認め難い。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 第5 結論以上によれば,原告の請求は,全て理由がないことが明らかであるから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 鈴木千帆 裁判官 裁判官 天野研司
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