主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告ら(1) 被告は,原告Aに対し3828万1720円,原告Bに対し3718万1720円及び上記各金員に対する平成7年11月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 被告主文と同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨原告らは,被告が開設するC病院(以下「被告病院」という。)において担当医師が適切な処置を怠ったなどの過失又は債務不履行(診療契約上の不完全履行)により,原告らの子D(以下「亡D」という。)を死亡させたとして,被告に対し,不法行為の使用者責任又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき,後記各損害及びこれらに対する亡D死亡の日(不法行為の日)である平成7年11月16日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた。 これに対して,被告は,原告らが主張する過失及び債務不履行を否認するなどして争っている。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲1,15,18,乙4,5,15,20,21,証人E,同F,原告B本人)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。 (1) 当事者原告Aと原告Bは,亡D(平成2年4月29日生。平成7年11月当時5歳6か月)の両親である。 被告は,新宮市内において,被告病院を設置・運営している。 (2) 診療経過等亡Dは,平成7年10月28日(以下,月日の記載において,特に断らない限り平成7年をいう。)から咳嗽が出始め,11月4日,G医院を受診し,解熱剤・鎮咳剤・抗生剤等の処方を受けた。その後,亡Dは,一旦は軽快したものの,同月10日に悪寒・発熱を催し, いて,特に断らない限り平成7年をいう。)から咳嗽が出始め,11月4日,G医院を受診し,解熱剤・鎮咳剤・抗生剤等の処方を受けた。その後,亡Dは,一旦は軽快したものの,同月10日に悪寒・発熱を催し,翌11日,再びG医院を受診したところ,風邪との診断を受けた(このときの体温は38度であった。)。 亡Dは,同月13日,G医院を受診したところ,肺炎の疑いありとの診断を受け(このときの血圧は収縮期が134,拡張期が74であった。),同医院で,レントゲン検査・マイコプラズマ検査・血液検査を受け,坐薬アンビバ5錠を処方された。 亡Dは,翌14日の夕方から両瞼に浮腫が出現したため,翌15日,H病院を受診し,蛋白尿・気管支炎との診断を受け(このとき,両瞼は浮腫状で,咳嗽も出,血圧は収縮期が86,拡張期が50であった。),同病院では,レントゲン検査・血液検査・尿検査を受け,点滴処置後,排尿があったほか,昼過ぎには腹痛を催し,嘔吐した。 亡Dは,同日午後7時20分,被告病院において,医師Fによる診察を受けた。 亡Dには,両上瞼に浮腫が見られたものの,肝・脾・下腿には浮腫がなく,心雑音もなく,橈骨動脈拍動は良好であった。F医師は,血液検査(検査結果は,HGB《ヘモグロビン》が15.5,HCT《ヘマトクリット》が47.6であった。),尿検査(尿色は番茶様で少量。なお,同日午前の排尿後はじめての排尿であった。)を行い,気管支肺炎・脱水症状との診断をし,入院の上,ソリタT1を初期輸液とする点滴処置を行い,経過観察とするとの方針を決定した。 亡Dは,同日午後8時45分,体温37.0度,脈拍96,呼吸数36であり,眼瞼に浮腫が見られたものの,四肢には浮腫等がなかった。このとき,亡Dは,倦怠感・腹痛を訴えた。 翌16日午前0時,亡Dは,体温35.8度,脈拍100,呼吸 37.0度,脈拍96,呼吸数36であり,眼瞼に浮腫が見られたものの,四肢には浮腫等がなかった。このとき,亡Dは,倦怠感・腹痛を訴えた。 翌16日午前0時,亡Dは,体温35.8度,脈拍100,呼吸数32で,発汗があり,倦怠感・腹痛を訴えた。 同日午前3時,亡Dは,脈拍96,呼吸数25で,湿性咳があり,上下肢冷感・倦怠感・腹痛を訴えた。 その後同日午前6時までの間に,亡Dは,腹痛を訴えるとともに胃液を嘔吐し,併せて倦怠感をも訴えた。このとき,亡Dには発汗,眼瞼浮腫が見られた。 同日午前6時,亡Dは,前日午後7時20分以後はじめて排尿した(100ミリリットル,色は番茶様)。このとき,亡Dは,体温35.3度,脈拍84,呼吸数24で,腹痛・倦怠感を訴えるとともに,眼瞼浮腫・空えづき・両下肢冷感が認められた。E看護婦は,F医師の指示により,点滴輸液(ソリタT1)にアタP(25ミリグラム)2分の1アンプルを混入した。 同日午前7時,亡Dは,その上半身の皮膚が湿潤した状態であった。 同日午前9時,亡Dは,レントゲン検査を受けた。 同日午前10時,亡Dは,I医師の回診,血液検査(検査結果はCPKが4694であった。)を受けた。このとき,亡Dは,口唇色が不良で,眼瞼に浮腫が見られるとともに,軽度の呼吸困難を認め,脈拍を触知せず,体温は35.3度であった。亡DはICUに転室し,医師Jの診察を受けた。J医師は,亡Dに対し,ラシックス10ミリグラムを注射するとともに,心電図モニターを装着し,酸素テントを開設するなどの処置をとったが,同日午前10時20分,亡Dは,痙攣硬直,呼吸停止,意識不明,心停止に陥り,人工呼吸,心マッサージの処置を受けたが,同日午後1時10分,心筋炎に起因する急性心不全により死亡した。 3 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 被 痙攣硬直,呼吸停止,意識不明,心停止に陥り,人工呼吸,心マッサージの処置を受けたが,同日午後1時10分,心筋炎に起因する急性心不全により死亡した。 3 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 被告病院の担当医師に過失ないし債務不履行(以下,両者を併せて「過失等」という。)があったか。 (原告らの主張)亡Dは,①感冒症状が10月13日ころから長期間遷延したこと,②H病院において11月15日に実施された血液生化学検査の結果,GOTが42,LDHが585といずれも異常高値が認められ,また,同日採取した血液を再検査した結果,CPKが500ないし600という,心筋の融解開始を疑わせる異常が認められたこと,③11月15日午後から,腹痛や嘔吐等,消化器系統のうっ血が生じたと思われる症状が認められたことなどからすると,11月15日午後にはウイルス性ないし突発性の急性心筋炎(ポンプ失調型)を発症したと考えられる。 そして,亡Dには,11月15日午後7時20分の被告病院における初診時において,①心筋炎の臨床症状である眼瞼浮腫や,その前駆症状である感冒症状(倦怠感,咳嗽)及び消化器症状(嘔吐,腹痛)が既に長期間継続していたこと,②脱水症状に顕著な症状(体重減少,水様性下痢便)が見られない上,H病院での治療において,点滴処置後,大量の排尿を見るなど,既に脱水症状の改善を示す兆候があったこと,その後も,③亡Dの体重や輸液量等に照らせば,入院時における輸液処置後,遅くとも11月15日午後11時ないし翌16日午前0時ころまでには排尿があってしかるべきところ,むしろ発汗等,脱水症状と矛盾する症状が認められたこと,④体温低下,四肢冷感,湿性咳及び呼吸苦等の感冒症状や,腹痛,嘔吐,倦怠感等の消化器症状が次第に増悪していったことからすると,被告担当医師としては,上記 等,脱水症状と矛盾する症状が認められたこと,④体温低下,四肢冷感,湿性咳及び呼吸苦等の感冒症状や,腹痛,嘔吐,倦怠感等の消化器症状が次第に増悪していったことからすると,被告担当医師としては,上記初診時である11月15日午後7時20分,あるいは遅くとも同日午後11時ないし翌16日午前0時には心筋炎等の疑いを抱くことが可能であり,心筋炎等の診断に有効な血液生化学検査,心電図検査,胸部レントゲン検査及び心エコー検査等の諸検査を実施し,その検査結果をも踏まえて心筋炎の治療をすべき義務があったにもかかわらず,上記各症状を看過して上記各検査を実施せず,その結果,11月16日午前10時ころまで,漫然,急性心筋炎の診断・治療をしなかったのであるから,被告担当医師には過失等がある。 (被告の主張)亡Dには,初診時において,①頻脈や胸痛,心音異常等の心不全症状を示す症状が認められない上,肝肥大や下腿の浮腫等の心機能障害を示す兆候もなかった。両瞼浮腫や感冒症状,消化器症状は認められるものの,これらは心疾患に特徴的な症状ではなく,上記のとおり,他に心疾患を疑わせる兆候がない以上,被告担当医師としては,これらの症状をもって心筋炎の疑いを抱かなかったとしても致し方ない。 また,②被告担当医師は,問診の際,原告Bから,H病院における血液生化学検査の結果は正常であった旨の回答を得ていたし,③血液検査の結果,亡Dには,HGB値,HCT値に異常があり,血液濃縮状態が認められる上,嘔吐や倦怠感,咳等の症状があることに照らせば,亡Dを感冒による脱水症状とした被告担当医師の判断は合理的であったといえる。 その後も,亡Dには,④11月16日午前6時まで,脈拍,体温,呼吸等のバイタルサインに異常はなかったし,⑤輸液後に排尿が認められないことや,発汗,冷感及び皮膚湿潤等の 断は合理的であったといえる。 その後も,亡Dには,④11月16日午前6時まで,脈拍,体温,呼吸等のバイタルサインに異常はなかったし,⑤輸液後に排尿が認められないことや,発汗,冷感及び皮膚湿潤等の症状も脱水症状と特に矛盾するものではなく,また,腹痛や嘔吐等の消化器症状も,小児の風邪や自家中毒の際に一般的に見られる所見であり,心筋炎を疑わせるものではないし,⑥11月16日午前9時における胸部レントゲン検査においてさえ,心拡大や肺うっ血等の所見はないが,これは心筋炎と矛盾する症状である。 以上によれば,亡Dには,初診時に急性心筋炎を疑わせる症状がなく,脱水症状に肯定的な症状が認められており,その後も,初診時における診断を変更すべき症状変化は認められなかったのであるから,担当医師に何らの過失等も認められない。 そもそも,原告らの主張の前提である,「亡Dが急性ウイルス性心筋炎(ポンプ失調型)に罹患した」こと自体が疑問である。すなわち,亡Dには,①心肥大や肝肥大,下腿の浮腫,頻脈等の症状がなく,特に11月16日午前9時実施の胸部レントゲン検査結果において,心肥大や肺うっ血がなく,同日午前10時36分実施の心電図検査においても,特徴的なT波の逆転現象が認められていないこと,②亡DのCPK値は,11月15日午前には500ないし600であったのが,翌16日午前10時には4694となっており,短期間に急激な上昇が認められること,③原告の指摘するGOT値,LDH値は,通常の範囲内であって,異常高値とはいえないこと,④10月28日ころから発症した感冒症状は,死因とは全く無関係な症状と考えられることからすると,むしろ,亡Dは,11月16日午前7時以後に劇症型心筋炎を発症したと考えられる。 (2) 上記過失等と亡Dの死亡との間に因果関係があるか。 (原告らの とは全く無関係な症状と考えられることからすると,むしろ,亡Dは,11月16日午前7時以後に劇症型心筋炎を発症したと考えられる。 (2) 上記過失等と亡Dの死亡との間に因果関係があるか。 (原告らの主張)被告担当医師が,上記(1)原告らの主張記載の義務を誠実に果たし,心筋炎の早期診断・早期治療を行っていれば,心筋炎が急性期を脱すれば予後は良好と考えられていることからみて,亡Dは救命できたはずである。 したがって,上記過失等と亡Dの死亡との間には因果関係があるというべきである。 (被告の主張)亡Dが罹患したのは,単なる急性心筋炎ではなく,劇症型心筋炎であるから,原告らの主張のうち,心筋炎が急性期を脱すれば予後は良好であるという前提自体が本件に妥当しない。劇症型心筋炎においては,心筋炎と診断されたにもかかわらず死亡に至った例が多く,また,心不全のみならず不整脈による突然死の例もかなりあるなど,劇症型心筋炎の救命可能性は極めて低い。 また,劇症型心筋炎の患者に対する救命措置としては,部分的体外補助循環(PCPS)や模型人工肺(ECHO)により血液の体外補助循環を行った上で手術を施す必要があるところ,亡Dは当時5歳であったから,部分的体外補助循環を施すことはできないし,模型人工肺による補助循環を施すには,特別な設備・熟練したスタッフが必要であるが,本件当時の被告病院にはそのような設備・スタッフは揃っておらず,それらが揃った他の病院に転院させることも不可能であった。 以上によれば,亡Dには救命可能性があったとはいえないから,上記過失等と亡Dの死亡との間に因果関係は認められないというべきである。 (3) 原告らの損害額はいくらか。 (原告らの主張)治療費 2万5760円入院雑費(2日分) 亡との間に因果関係は認められないというべきである。 (3) 原告らの損害額はいくらか。 (原告らの主張)治療費 2万5760円入院雑費(2日分) 2800円付き添い看護費(2日分) 1万0000円亡Dの逸失利益 4156万4568円亡Dは,死亡当時,5歳であり,前記不法行為ないし不完全履行がなかったら,18歳に達した後67歳までは平成7年度賃金センサスによる産業計・企業規模計女子労働者の学歴計平均年収である329万4200円を得ることが可能であったはずである。以上を基礎に,3割の生活費を控除した上,新ホフマン方式により年5分の割合の中間利息を控除して,亡Dの死亡時における逸失利益の現価を算定すると,次の算定式のとおりとなる。 3,294,200×(1-0.3)×18.025=41,564,568円亡Dの慰謝料 2000万0000円小計 6160万3128円原告らの相続分(各2分の1) 各3080万1564円原告ら固有の慰謝料各300万0000円原告Aが負担した葬祭費 100万0000円原告Aの弁護士費用 348万0156円原告Bの弁護士費用 338万0156円総計原告A 3828万1720円原告B 3718万1720円(被告の主張)治療費を除くほか,原告らの上記主張は不知ないし争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1) 3828万1720円原告B 3718万1720円(被告の主張)治療費を除くほか,原告らの上記主張は不知ないし争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(過失等の存否)について(1) 原告らの主張は,要するに,①初診時である11月15日午後7時20分に急性心筋炎(またはこれに起因する心不全)との診断をせず,その疑いすら抱かなかったこと,及び,②同日午後11時ないし翌16日午前0時ころまでに脱水症との初期診断を修正し,急性心筋炎(またはこれに起因する心不全)との診断をせず,その疑いすら抱かなかったこと,その結果,心筋炎に対する治療をしなかったことをもって過失等に該当するというものであり,いずれも上記各時点において既に急性心筋炎(またはこれに起因する心不全)を発症していたことを前提とするものであるから,まず,心筋炎の発症時期,すなわち,その時点で急性心筋炎を発症していたと認められるかについて検討する。 (2) 証拠(甲3,4,7,9,10,12ないし14,16,乙1,14,18,証人K,鑑定)によれば,以下の事実が認められる。 心筋炎の発症を疑わせる症状としては,すべての心筋炎において必発,あるいは,心筋炎以外の疾病時には認められないというわけではないものの,胸痛,動悸,呼吸困難,感冒症状,消化器症状(嘔吐ないし吐き気を含む。),倦怠感,浮腫,四肢冷感,乏尿,頻脈,徐脈,不整脈,交互脈,心音異常等が,同様に心筋炎の発症を疑わせる検査結果としては,心電図異常,CPK・LDH・GOT等の上昇,心エコー図における左心機能低下・心膜液貯留等がある。 この点に関連して,ウイルス性ないし突発性急性心筋炎の臨床診断の手引(厚生省特定疾患突発性心筋症調査研究班研究報告集,1990,要旨)には,①心症状にかぜ様 ける左心機能低下・心膜液貯留等がある。 この点に関連して,ウイルス性ないし突発性急性心筋炎の臨床診断の手引(厚生省特定疾患突発性心筋症調査研究班研究報告集,1990,要旨)には,①心症状にかぜ様症状や消化器症状,また皮疹,関節痛,筋肉痛などが前駆症状また主症状として合併することが少なくない,②身体所見に頻脈,徐脈,聴診で心音減弱,奔馬調律(第Ⅲ,Ⅳ音),心膜摩擦音,また収縮期雑音などを認めることがある,③心電図は通常なんらかの異常所見を示す。これはⅠ~Ⅲ度房室ブロック,ST-T波の変化,心室内伝導障害,低電位差,心室性や上室性期外収縮,心室頻脈,上室性頻脈,心房細動,異常Q波などを含む,④血清中の心筋逸脱酵素(CPK・MB分画),LDH1・2型・GOT)の上昇,CRP陽性,赤沈促進,白血球増加などを認めることが多い,⑤胸部X線像で心拡大を認めることが多い,⑥心エコー図で左心機能低下や心膜液貯留を認めることがある,⑦上記第2ないし第6項目の所見は短時間に変動することが多い,⑧急性期と寛解期に採取した組血清におけるウイルス抗体価の4倍以上の変動は病因診断に有用である。咽頭ぬぐい液,尿,糞便,血液,心膜液,心筋からのウイルス分離またはウイルス抗原の確定は病因診断に有用である,⑨心内膜心筋生検所見は診断確定に有用であるが陰性所見でも心筋炎は否定されない,⑩急性心筋梗塞などとの鑑別が必要なことがある,との点が指摘されている(甲3,甲13)。 原告らは,心筋炎の発症を疑わせる上記症状等のうち,亡Dに,感冒症状,消化器症状,倦怠感があったこと,眼瞼に浮腫が認められたこと,11月15日にH病院で行われた血液生化学検査において,GOTが42,LDHが585といずれも異常高値を示し,また,その時採取した血液を再検査した結果,CPKが500ないし60 腫が認められたこと,11月15日にH病院で行われた血液生化学検査において,GOTが42,LDHが585といずれも異常高値を示し,また,その時採取した血液を再検査した結果,CPKが500ないし600という心筋の融解開始を疑わせる数値が認められたことを指摘し,これらによれば,亡Dは,11月15日午後7時20分の被告病院初診時において,あるいは遅くとも同日午後11時ないし翌16日午前0時ころには,ウイルス性ないし突発性の急性心筋炎を発症し,心不全症状が現れていたと主張する。そして,甲16(小児科医師Lの意見書)には,原告らの主張に沿う「平成7年11月16日C病院で亡くなられた本件患児の死因は,先行する感冒様症状が存在すること,11月14日以降心不全症状が進行したこと,死亡当日の朝実施された心エコー検査の結果のEF(駆出率)17%(正常値60-70%)に示される極めて重症のポンプ機能低下が存在したことにより判断し急性ウイルス性心筋による心不全死と臨床診断される。〔その発生時期について,〕G医院での受診歴より患児の前駆症状は10月末より感冒を繰り返していた時期に始まっていたと推測される。ウイルス性心筋炎の主原因となるエンテロウイルス(コクサッキーA群,B群,エコー等の感冒ウイルス)の潜伏期間は通常3-10日間である。11月10日から連続した熱発がみられておりウイルス感染のピークがここにある。潜伏期間日数の幅を考慮しても潜伏期間の後半は11月5日以後にあたる。この頃よりウイルス血症が存在し,ウイルスの心筋への直接浸潤は開始された。その後5日間経過した11月10日を過ぎる時期より第2相のリンパ球による心筋細胞破壊の病態に移行している。11月13日までは心拍出量の低下は代償性機構によりカバーされており心症状はみられない。11月14日頃より代償不全に 1月10日を過ぎる時期より第2相のリンパ球による心筋細胞破壊の病態に移行している。11月13日までは心拍出量の低下は代償性機構によりカバーされており心症状はみられない。11月14日頃より代償不全に陥り眼瞼浮腫,易疲労感などの心不全症状が顕在化している。心筋障害にて心拍出量が低下し腎への血流供給が不十分となると尿量は低下し,全身性浮腫に先立って血管抵抗の減弱しやすい顔面や,四肢末端に浮腫は出現する。本件患児に心不全症状が顕在化するのはこの日である。ウイルス学的にはウイルス血症によって心筋障害が始まる時期,すなわち11月5日頃と発症時期はされるが,臨床医学的に診断される本件患児の急性ウイルス性心筋炎の発症時期は心症状である眼瞼浮腫が出現した11月14日とするのが適当である。」との意見が記載されている。 しかしながら,亡Dは,11月16日午前6時まで脈拍数が正常値を示しており,頻脈・徐脈は認められないし(前記前提事実のとおり,11月15日午後8時45分には96,翌16日午前0時には100,午前3時には96,午前6時には84。なお,正常値は70ないし115である《乙13》。),11月15日午後7時20分の時点では心雑音も認められないなど,その他の症状は認められなかった。のみならず,血液濃縮(前記前提事実のとおり,11月15日午後7時20分にはHGB15.5《乙18によれば,6歳児の正常値は12.8であり,証人Kによれば,正常値は11ないし12である。》,HCT47.6《乙18によれば,6歳児の正常値は40,証人Kによれば,40以上をもって濃縮状態にあると認めらる。》)が認められたこと,11月16日午前9時に行われたレントゲン検査によっても心肥大が認められず(乙14,証人K,鑑定),それ以前も心肥大が起こっていたとは考えにくいことは,いずれも ると認めらる。》)が認められたこと,11月16日午前9時に行われたレントゲン検査によっても心肥大が認められず(乙14,証人K,鑑定),それ以前も心肥大が起こっていたとは考えにくいことは,いずれも心筋炎の発症を否定する方向に働く要素である。 とりわけ,前者は,心筋炎が引き起こす心不全のメカニズムないし血液濃度との関係,すなわち,心不全が起こると,体内の水分量が増加するとともに,血液中の水分量が増加し,血液は希釈されることとなる(その水分が体内の各部位に貯留して起こるのが浮腫である。)ことを考えると,心筋炎とは矛盾するものである(証人K,鑑定)。 そして,原告らが指摘する上記症状等はいずれも心疾患に特有のものではない。また,浮腫についていえば,点滴による輸液補給にかかわらず,悪化した所見が見られなかった(眼瞼以外に浮腫はなく,眼瞼の浮腫も悪化の方向をたどっていたとは認められない。)こと,併せて,呼吸数にも着目すると,前記前提事実のとおり,11月15日午後8時45分に36であったのが,翌16日午前0時には32,同日午前3時には25,同日午前6時には24と落ち着く方向に推移している(なお,2ないし6歳児の正常値は20ないし30である《乙13》。)ことからすると,むしろ心疾患以外の原因を疑わせるものである(証人K,鑑定)。 以上からすれば,L医師の上記意見書は,血液濃縮について十分な考察を欠いているから,これを採用することはできない。 他に,原告らの上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。かえって,以上認定事実及び証拠(乙14,証人K,鑑定)によれば,亡Dは,11月16日午前0時の後に劇症型心筋炎を発症したものと推認される。 そうすると,原告が主張するとおり遅くとも11月16日午前0時ころまでに心筋炎の発症があったと認めることはできない(な ,亡Dは,11月16日午前0時の後に劇症型心筋炎を発症したものと推認される。 そうすると,原告が主張するとおり遅くとも11月16日午前0時ころまでに心筋炎の発症があったと認めることはできない(なお,原告らが指摘するとおり,眼瞼浮腫や発汗等,脱水症とは必ずしも合致しない症状が存在したことからすると,亡Dは脱水症以外の疾病にも罹患していたことが強く疑われるというべきであるが《証人K,鑑定》,脱水症に合致しない症状が存在していたからといって,直ちに心筋炎の発症が認められるわけではないから心筋炎の発症に関する上記の認定判断が左右されることはない。)。 したがって,上記時点までに心筋炎を疑い,これに対処すべく処置をしなかったことをもって原告ら主張の過失等があったということはできない(仮に,原告らが主張するとおり,被告病院担当医師が,亡Dの症状について,11月16日午前10時の急変時より前に心疾患を疑い,心エコー検査・心電図検査等を行った場合には,より詳細な情報を得られた可能性は否定できないものの,上記のとおり,11月15日午前0時ころまでに心筋炎の発症を認めることができない以上,上記各検査を行っていたとしても心筋炎であるとの診断が可能であったと認めることはできないし,また,それらの検査を行わなかったことをもって過失ということもできない《鑑定》。)。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所第二民事部裁判長裁判官礒尾正裁判官間史恵裁判官田中幸大 史恵裁判官 田中幸大
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