令和2(ワ)16755 損害賠償請求(アスベスト)事件

裁判年月日・裁判所
令和6年3月12日 東京地方裁判所
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判決文本文43,680 文字)

令和6年3月12日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第16755号損害賠償請求(アスベスト)事件口頭弁論終結日令和5年9月12日判決主文 1 被告らは、原告Aに対し、連帯して、885万5000円及びこれに対する令和3年1月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Bに対し、連帯して、885万5000円及びこれに対する令和3年1月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用はこれを5分し、その2を原告らの負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 被告らは、原告ら各自に対し、連帯して3080万円及びこれに対する平成29年12月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要承継前原告亡C(以下「亡C」という。)は、昭和32年頃、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)に入職し、その後いわゆる国鉄分割民営化に伴って 昭和62年頃から平成9年頃まで被告JR東日本で勤務し、その両方の期間において、東京都品川区のD工場(以下「本件工場」という。)で鉄道車両の修繕業務等に従事していた。 本件は、亡Cの相続人である原告らが、亡Cが本件工場において鉄道車両の修繕業務等を行った際に石綿粉じんにばく露し、これにより肺がんにり患して 死亡したと主張して、被告JR東日本及び国鉄の債務を承継した被告機構に対 し、安全配慮義務違反の共同不法行為に基づいて、亡Cの慰謝料等3080万円及びこれに対する肺がんが発症した日である平成29年12月21日から 告JR東日本及び国鉄の債務を承継した被告機構に対 し、安全配慮義務違反の共同不法行為に基づいて、亡Cの慰謝料等3080万円及びこれに対する肺がんが発症した日である平成29年12月21日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払(原告らの連帯債権)を求める事案である。 1 前提事実等(関係法令のほか、証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いが ない。その他の事実は掲記した証拠等により容易に認められる。)⑴ 当事者等(甲16、弁論の全趣旨)ア亡Cは、昭和15年▲月▲日に出生し、令和2年7月6日に本件訴えを提起したが、令和3年1月24日に死亡した。 亡Cの相続人は、妻、長男である原告A及び二男である原告Bの3名で あるところ、同人らは、令和3年6月20日、本件訴えに係る亡Cの被告らに対する損害賠償請求権を原告ら2名が取得する旨の合意をした。 イ国鉄は、昭和62年4月1日、日本国有鉄道清算事業団に移行し、その後の平成10年10月22日、日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律2条1項の規定により政府が承継する債務以外の同事業団の一 切の権利義務は、日本鉄道建設公団に承継された。さらに、同公団の一切の権利義務は、国が承継する資産を除き、平成15年10月1日、被告機構に承継された。 ウ被告JR東日本は、昭和62年4月1日、日本国有鉄道改革法の規定に基づき、国鉄の承継法人の一つとして設立された株式会社であり、国鉄の 東北及び関東における旅客鉄道事業を引き継ぎ、本件工場を含む国鉄の車両や設備を承継した。 ⑵ 鉄道車両の大まかな構造(甲44の1、弁論の全趣旨)鉄道車両は、「車体」と「走り装置」から成る。車体は、客が乗る上側の部分であり、走り装置 継ぎ、本件工場を含む国鉄の車両や設備を承継した。 ⑵ 鉄道車両の大まかな構造(甲44の1、弁論の全趣旨)鉄道車両は、「車体」と「走り装置」から成る。車体は、客が乗る上側の部分であり、走り装置は、下側の動力部分(台車、モーター及び車輪)であ る。 車体の側面の鋼板を外板や側板といい、床面の鋼板を床板という。 ⑶ 本件工場の概要(甲44の2、弁論の全趣旨)本件工場は、関東近郊を走行する鉄道車両の検査、修繕等を行う工場である。亡Cが本件工場で勤務していた間における本件工場の構造及び組織体制等は、以下のとおりである。 ア本件工場の構造本件工場の北側には線路があり、そこから修繕等が必要な鉄道車両が本件工場に入場し、車体と走り装置に分離される。その後、車体については、本件工場の中央付近に位置する車体検修場や車体改造場に運搬され、修繕等の作業が行われる。 車体検修場は、南北100m、東西300mほどの建物であり、鉄道車両を南北に3両、東西に20列程度定置することができた。 車体改造場は、鉄道車両が2列定置することができる比較的小さな建物であり、大規模な車体の改造工事等が行われていた。 イ本件工場における組織体制(甲44の1、弁論の全趣旨) (ア) 平成3年より前の組織体制本件工場においては、「組立職場」、「塗装職場」や「製缶職場」等の部署が設けられていた。製缶職場は、後に「鉄工職場」に名称が変更された。製缶職場(鉄工職場)のうち「現車」部門は、「現車鉄工」と呼ばれ、車体検修場や車体改造場において、車体の修繕、改造 等を担当していた。また、製缶職場(鉄工職場)のうち「金属加工」部門(通称「本屋」)は、車体検修場や車体改造場と別の建物である金属加工場において、鉄道車両の部品の修繕を て、車体の修繕、改造 等を担当していた。また、製缶職場(鉄工職場)のうち「金属加工」部門(通称「本屋」)は、車体検修場や車体改造場と別の建物である金属加工場において、鉄道車両の部品の修繕を担当していた。 (イ) 平成3年以降の組織体制平成3年の組織改正により8科体制になり、鉄工職場は「部品一科」 に名称を変更した。部品一科のうち、車体の修繕、改造等を行う部門 は「現車鉄工」、部品の作成等を行う部門は「金属加工」と呼ばれていた。(以下、名称変更及び組織体制変更の前後を問わず、製缶職場(鉄工職場)のうち現車部門及び部品一科のうち現車鉄工部門を「現車鉄工」といい、製缶職場(鉄工職場・部品一科)のうち金属加工部門を「金属加工」という。) ウ現車鉄工の主な業務内容現車鉄工が行う典型的な作業として、車体の外板の腐食部分を交換するという作業(以下「外板修繕作業」という。)があった。 外板修繕作業は、大要、以下の流れで行われていた。 現車鉄工には、製缶工(工具を用いて外板の切断や磨きなどの作業をす る者)、ガス溶接工(ガスバーナーを用いて外板の溶断等の作業をする者)及び電気溶接工(電気溶接機を用いて溶接等の作業をする者)の3種類の職人がおり、それらが4人ほどで1組になって、車体の外板の腐食した部分を切断し、又は溶断し、断面を研磨した上で、新たな鉄板を溶接し、溶接を行った部分を再度研磨する(弁論の全趣旨。なお、上記 の内容の作業がいつ頃まで行われていたかについては争いがある。)。 エ金属加工の主な業務内容(弁論の全趣旨)金属加工は、接触器箱、電気機器の入っている箱や電動発電機制御機器の外箱等の車両部品を製作、修理する作業を行っていた。 ⑷ 亡Cの職歴等(甲1の6・9・13・15、弁論の全趣旨) (弁論の全趣旨)金属加工は、接触器箱、電気機器の入っている箱や電動発電機制御機器の外箱等の車両部品を製作、修理する作業を行っていた。 ⑷ 亡Cの職歴等(甲1の6・9・13・15、弁論の全趣旨) 亡Cは、国鉄に入職する前の昭和31年4月17日から同年5月6日まで、神奈川県鎌倉市内において、輸出用電気スタンドの梱包作業に従事した。上記の作業において、石綿にばく露する機会はなかった。 亡Cは、昭和32年6月1日、国鉄に入職した。 亡Cは、昭和33年4月1日、本件工場の製缶職場に配属され、電気溶接 の研修を受けた後、現車鉄工の電気溶接工になった。 亡Cは、昭和62年3月31日、国鉄を退職し、同年4月1日、被告JR東日本に入社し、引き続き本件工場で勤務を続けた。 亡Cは、昭和63年頃、現車鉄工のガス溶接工になった。 亡Cは、平成8年4月頃、金属加工に異動した。 亡Cは、平成9年4月1日、E株式会社に出向した後、同社で勤務を続け、 平成12年6月30日、被告JR東日本を定年退職した。 亡Cは、平成12年7月1日、E株式会社に入社し、平成16年6月30日に退社した。同社においては、鉄工・クーラー関係部品のメンテナンス作業に従事しており、石綿にばく露することはなかった。 ⑸ 石綿と石綿関連疾患(甲10、21、50、54、乙1、11) ア石綿の意義と性質石綿(アスベスト)は、天然の繊維状珪酸塩鉱物の総称であり、クリソタイルやアクチノライト等に分類される。 石綿は、耐熱性、耐熱絶縁性、耐腐食性等に優れ、保温材や建材等として広く使用されてきたが、石綿にばく露することで石綿肺や肺がん等を 発症する危険性が有意に高まることが疫学的に明らかになっている。 石綿繊維は、数ミクロン単位の微細な繊維であり、肉 建材等として広く使用されてきたが、石綿にばく露することで石綿肺や肺がん等を 発症する危険性が有意に高まることが疫学的に明らかになっている。 石綿繊維は、数ミクロン単位の微細な繊維であり、肉眼で捉えることは困難である。また、空中に飛散した場合、空中に留まって浮遊する時間が長いという特徴がある。 イ石綿肺 肺が繊維化する肺繊維症(じん肺)の一種であり、石綿へのばく露によって起きた肺繊維症をいう。突発性間質性肺炎等との鑑別は必ずしも容易ではない。 ウ肺がん肺胞内に取り込まれた石綿繊維により肺がんが発生するとされている。 石綿に起因した肺がんと一般の肺がんの病理組織型等に違いはなく、両 者を鑑別することにはかなりの困難を伴う。 エ胸膜プラーク胸膜プラークは、壁側胸膜や横隔膜に限局性で生ずる肥厚斑であり、肺機能障害を示すものではないが、石綿ばく露によってのみ発生すると考えてよく、石綿ばく露の指標となる。 オ石綿小体石綿小体は、肺胞に達した石綿繊維に鉄蛋白等が付着して亜鈴状になったものである。石綿小体の本数は石綿ばく露量の指標となる。 ⑹ 石綿関連疾患の認定に関する基準ア石綿、石綿肺及びがんについての国際専門家の会議が平成9年(199 7年)1月20日から同月22日までフィンランド共和国のヘルシンキにおいて開催され、石綿に関する診断と原因特定に対する最新の基準をまとめた文書(以下「ヘルシンキクライテリア」という。)が作成された(甲53の1・2、乙10の1・2)。 イ日本政府の「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」は、 平成18年2月、ヘルシンキクライテリアの内容も踏まえつつ、石綿関連疾患の範囲及び当該疾患が石綿を原因とするものであるとするための医学 石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」は、 平成18年2月、ヘルシンキクライテリアの内容も踏まえつつ、石綿関連疾患の範囲及び当該疾患が石綿を原因とするものであるとするための医学的判断に関する報告書(以下「平成18年報告書」という。)を作成した(甲50、乙11)。 ウ日本政府の「石綿による疾病の認定基準に関する検討会」は、平成24 年2月、ヘルシンキクライテリアの内容に批判的な医学的文献が報告されていること等も踏まえ、石綿による疾病の認定基準に関する報告書(以下「平成24年報告書」という。)を作成した(甲51、乙12)。 ⑺ 石綿関連疾患と労災認定基準(甲52、乙4、8)労働省労働基準局長は、昭和53年10月23日付けの通達「石綿ばく露 作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」を発出し、石綿 による疾病に関する労災認定についての取扱いを定めた。その後、厚生労働省労働基準局長は、平成18年2月9日付けで石綿による疾病の業務起因性の認定基準に関する通達を発出し、上記認定基準は、平成24年報告書の内容も踏まえて作成された平成24年3月29日付けの通達「石綿による疾病の認定基準について」によって改正された。上記通達は、平成25年10月 1日付けで一部改正された(以下、改正後の認定基準を「本件労災認定基準」という。)。 本件労災認定基準には、以下の内容が記載されている。 ア石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚は、石綿との関連が明らかな疾病である(本件労災認定基準第1の1)。 イ石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業は、石綿ばく露作業に当たる(本件労災認定基準第1の2)。 ウ石綿ばく露作業(前記イ参照)に従事したことのある労働者に 1)。 イ石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業は、石綿ばく露作業に当たる(本件労災認定基準第1の2)。 ウ石綿ばく露作業(前記イ参照)に従事したことのある労働者に発症した原発性肺がんであって、以下のいずれかに該当するものは、最初の石綿ばく露作業を開始したときから10年未満で発症したものを除き、石綿にさ らされる業務による肺がん又は中皮腫(労働基準法施行規則別表第1の2第7号8)に該当する業務上の疾病として取り扱うこと(本件労災認定基準第2の2)。 (ア) 石綿肺の所見が得られていること(じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型(後記ア参照)以上であるものに限る。本件 労災認定基準第2の2)。 (イ) 胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラークが認められ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること(本件労災認定基準第2の2)。 (ウ) 乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体の所見が得られ、 かつ、石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること(本件労災認 定基準第2の2ア)。 ⑻ じん肺法上の管理区分制度アじん肺法は、じん肺のエックス線写真の像について、両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの(第1型)から、大陰影があると認められるもの(第4型)までの4 段階に区分している(4条1項)。 イじん肺法は、粉じん作業に従事する労働者及び粉じん作業に従事する労働者であった者について、上記アの型及び肺機能の障害の程度に応じて、管理1~4に区分して健康管理を行うものとし(4条2項)、管理2〜4の管理区分は、都道府県労働局長が、エックス線写真及びじん肺健康診断 結果証明書等を基 アの型及び肺機能の障害の程度に応じて、管理1~4に区分して健康管理を行うものとし(4条2項)、管理2〜4の管理区分は、都道府県労働局長が、エックス線写真及びじん肺健康診断 結果証明書等を基礎として、地方じん肺診査医の診断又は審査により決定する(13条1項、2項)。 ⑼ 亡Cの病歴等ア肺がん等の発症(甲1の3・4)亡Cは、平成29年11月24日、ろれつが回らなくなったことをきっ かけに独立行政法人労働者健康安全機構東京労災病院(以下「東京労災病院」という。)に入院し、軽い脳梗塞との診断を受けた。入院中の同年12月21日にCT検査を受けたところ、胸部異常影が確認され、肺がんに対する治療として、平成30年3月12日、右下葉の部分切除手術を行った。切除組織の病理組織診断の結果、扁平上皮がん(原発性) との診断がされた(発症日:平成29年12月21日)。 イ肺がんに関する労災認定(甲1の1・3・4、乙8)平成30年11月20日付けの東京労災病院の医師の診断(意見)書には、傷病名として「石綿肺がん」との記載があるほか、乾燥肺1g当たりの石綿小体の本数が2709本であること、胸膜プラーク及び石綿肺 (第2型)の所見があること、胸膜プラークについてはエックス線写真 やCT画像ではなく手術時胸腔内所見として認められたことが記載されている。 品川労働基準監督署長は、平成31年4月3日、亡Cの肺がんを業務上疾病と認定した。上記の認定に関し、東京労働局の労災医員は、石綿肺所見及び胸膜プラークが認められるほか、約40年の石綿ばく露作業が 確認されており、最初の石綿ばく露から10年以上(で発症)という条件を充たしているから、業務に起因する肺がんと判断できるとの意見書を提出している。 ウ亡Cの死亡(甲1 年の石綿ばく露作業が 確認されており、最初の石綿ばく露から10年以上(で発症)という条件を充たしているから、業務に起因する肺がんと判断できるとの意見書を提出している。 ウ亡Cの死亡(甲15)亡Cは、令和3年1月24日、新型コロナウイルス感染症へのり患を直 接の死因として死亡した。 エ死亡に関する労災認定(甲34、乙27)品川労働基準監督署長は、令和3年6月11日、亡Cの死亡を業務上死亡と認定した。上記の認定に当たり、東京労災病院の医師は、亡Cの死因に関して、基礎に慢性の間質性肺炎(石綿肺)があり、肺の手術も受 けているため、コロナ肺炎による重症化が顕著であり、呼吸不全で死亡したとの意見書を提出している。また、東京労働局の労災医員は、石綿関連肺がんに対する右肺下葉切除術及び石綿肺により著しい呼吸機能障害の状態にあったものに新型コロナウイルス感染症が併発し、共働原因となって死亡に至ったと考えられるとの意見書を提出している。 2 争点⑴ 亡Cの肺がんの原因及び死亡原因(争点1)共同不法行為の有無(争点2)損害の額(争点3) 3 争点に対する当事者の主張 ⑴ 争点1(亡Cの肺がんの原因及び死亡原因)について (原告らの主張)ア現車鉄工における石綿粉じんへのばく露亡Cは、現車鉄工において、以下のとおり、大量の石綿粉じんにばく露する作業に従事していた。 (ア) 鉄道車両の外板や床板には、断熱材として石綿が吹き付けられて いるとともに、石綿を含有したさび止め塗料である「アンダーシール」が塗布されており、その他台車等の各所にも石綿が使用されていた。 そのため、外板、床板、車両床下機器等を切断、溶接、加工する部門である現車鉄工では、常時石綿粉じんが周囲に飛散し、亡 「アンダーシール」が塗布されており、その他台車等の各所にも石綿が使用されていた。 そのため、外板、床板、車両床下機器等を切断、溶接、加工する部門である現車鉄工では、常時石綿粉じんが周囲に飛散し、亡Cはこれにばく露し続けることになった。 現車鉄工の典型的な作業である外板修繕作業についていえば、製缶工が外板等を切断したり溶断したりすれば、石綿が粉じんとなって飛び散ったり、はがれ落ちたりし、製缶工が切断面をエアサンダーと呼ばれる工具で磨くと、エアサンダーからは圧縮空気が噴出されているので、石綿を含んだ粉じんが辺りに舞い上がる。また、切断面の電気 溶接、ガス溶断によっても、石綿粉じんが発生する。そして、製缶工、ガス溶接工及び電気溶接工は、4人ほどで1組になって、2mから5mほどの範囲内で共同作業を行うため、全員が石綿粉じんを吸い込むことになる。亡Cは、電気溶接工又はガス溶接工として外板修繕作業に従事し、石綿粉じんにばく露した。 (イ) 車体の修繕作業においては、火花等で配線管や電子機器が焼損しないように養生材を用いる必要があるところ、その養生材として、石綿が含まれる石綿板が使用されていた。石綿板を折って水で濡らした上で配線管等に張り付け、作業後には乾いた石綿を手で剥がしたりする作業があったため、石綿の粉じんが発生し、亡Cは石綿粉じんにば く露した。とりわけ、大規模な改修業務では、外板や床板の相当部分 を剥がすため、外板等の内側に吹き付けられていた石綿や、剥落したアンダーシール、配線保護のために利用した石綿の粉じんが大量に発生することになり、車体改造場の狭い空間の中に大量の粉じんが滞留し、亡Cは集中的に石綿粉じんにばく露した。 (ウ) 亡Cは、昭和63年頃、電気溶接工からガス溶接工に職務が変更 粉じんが大量に発生することになり、車体改造場の狭い空間の中に大量の粉じんが滞留し、亡Cは集中的に石綿粉じんにばく露した。 (ウ) 亡Cは、昭和63年頃、電気溶接工からガス溶接工に職務が変更 になったが、ガス溶接に用いるガスバーナーの火口には糸状の石綿がパッキンとして巻かれており、これが熱にさらされてぼろぼろになるため、月に2回程度、その交換を行う必要があった。その際、ぼろぼろの石綿に触れることにより、また、新しい石綿を巻き付けて装着する作業により石綿粉じんが発生し、亡Cは石綿粉じんにばく露した。 (エ) 気吹きとは、工場内に配送されてきている圧縮空気のコックにホースをセットしてこれを吹き出し、車内の床や機器等に付着したり溜まったりした埃や粉じんを、次の作業のためにまとめて車外に吹き飛ばす作業である。気吹きは、車両が車体検修場に定置された後や、鉄工作業その他の作業がされた後に行われるものであるところ、とりわ け鉄工作業の後に気吹きが行われると、車両内のほこりはもちろん、鉄工作業で切断され、研磨されたアンダーシールや吹付け石綿、配線保護のための石綿材その他の石綿粉じんを含めて、周囲がかすむほど大量の粉じんが舞った。 イ金属加工における石綿粉じんへのばく露 亡Cは、平成8年4月から1年間、金属加工においてガス溶接を行っていたが、修理する機器や機器箱自体に断熱材として石綿が張り付けられていることがあり、その石綿を剥がしたり溶接作業を行ったりする際に石綿粉じんにばく露した。また、機器の溶接や溶断を行うために保温材や保護材として石綿板等を用いることがあり、これらによっても石綿粉 じんにばく露した。 ウ肺がんに至る機序について相対リスク(危険因子にばく露した群の疾病へのり患リスクの 保護材として石綿板等を用いることがあり、これらによっても石綿粉 じんにばく露した。 ウ肺がんに至る機序について相対リスク(危険因子にばく露した群の疾病へのり患リスクの、ばく露していない群のり患リスクに対する比)が2倍になれば、危険因子へのばく露と疾病へのり患との因果関係が優に肯定されるところ、本件労災認定基準は、石綿肺所見、胸膜プラーク所見、石綿小体数及び石綿ばく 露作業従事期間等を考慮して、肺がんの発症リスク(相対リスク)が2倍になる累積ばく露量があったといえるかを判断するものである。 亡Cは、石綿肺所見、胸膜プラーク所見及び石綿ばく露作業従事期間の点で本件労災認定基準を充たしており、しかも、本件労災認定基準に定める10年間の実に約4倍の39年間にわたって、石綿粉じんにばく露 する業務に従事していた。また、亡Cの業務は、鉄道車両の修繕に係るものであり、ヘルシンキクライテリアに例示される中程度ばく露の「工事、造船など」に類似するものであるところ、中程度ばく露においては最低5年で肺がんリスクが2倍以上増加するとされており、亡Cはその8倍近い期間石綿粉じんにばく露する作業に従事してきたのであるから、 亡Cの石綿粉じんばく露による肺がんの発症リスクは優に2倍を超えており、石綿粉じんばく露により肺がんを発症するに至ったものと認められる。 この点、被告らは、亡Cは喫煙によって肺がんを発症した旨主張するが、石綿と喫煙は相乗的に肺がんのリスクを高めるものであり、喫煙によっ て肺がんのリスクが生じていたとしても、石綿粉じんへのばく露の影響が排除されるものではない。 エ死亡に至る機序について亡Cの直接の死因は新型コロナウイルス感染症による呼吸不全であるが、主治医による意見書に「基礎 たとしても、石綿粉じんへのばく露の影響が排除されるものではない。 エ死亡に至る機序について亡Cの直接の死因は新型コロナウイルス感染症による呼吸不全であるが、主治医による意見書に「基礎に慢性の間質性肺炎(石綿肺)があり、肺 の手術も受けているため、コロナ肺炎による重症化が顕著であり、呼吸 不全で死亡された」と記載されているように、肺がん手術による切除及び石綿肺によって肺機能が低下し、酸素吸入が必要な状況であるという高度な素因が、石綿粉じんへのばく露によって生じていたのであるから、石綿粉じんへのばく露による危険が新型コロナウイルス感染症へのり患によって現実化したものといえ、石綿粉じんへのばく露により令和3年 1月24日に死亡するに至ったものと認められる。 (被告らの主張)ア現車鉄工における石綿粉じんへのばく露について以下のとおり、亡Cが現車鉄工において大量の石綿粉じんにばく露していたとはいえない。 (ア) 原告らは、外板等修繕作業により、亡Cが石綿粉じんにばく露したと主張する。 しかし、鉄道車両の修繕作業において粉じん(石綿粉じんに限らない。)が発生するのは、主に製缶工による外板の切断や磨きの作業である。亡Cはガス溶接工又は電気溶接工であったから、粉じんが発生 する作業を担当していなかった。 また、昭和53年度には201系車両(鋼鉄製)、昭和59年度には205系車両(ステンレス製)が導入されたところ、これらの車体は、腐食しにくい構造になっており、原告らが石綿粉じんの飛散があったと主張する外板等修繕作業は基本的に不要となっていたのである から、昭和53年度以降の外板等修繕作業は201系より前の車両(101系等)に限られ、その割合は減少していた。 さらに、国鉄の当時の車両 する外板等修繕作業は基本的に不要となっていたのである から、昭和53年度以降の外板等修繕作業は201系より前の車両(101系等)に限られ、その割合は減少していた。 さらに、国鉄の当時の車両には石綿が吹き付けられたものがあったものの、かなり昔に製造された車両に限られ、本件工場ではほとんど取扱いがなかった。 加えて、アンダーシールには石綿が含有されているものもあったが、 昭和50年に石綿含有量が5%を超える製品が規制されたことを踏まえると、同年以降において使用されていたアンダーシールが石綿を含有していたとしても、その含有量は5%未満にすぎないものであり、その後の規制強化等に伴って石綿を含有するアンダーシールの使用は順次減じられているから、仮にアンダーシールが粉じん化することが あったとしても、その石綿粉じんのばく露量は少量であった。更にいえば、アンダーシールはガスバーナーや電気によって熱を加えることにより溶けて固まるため、飛散するなどということはない。 (イ) 原告らは、養生材として使用していた石綿板によって、亡Cが石綿粉じんにばく露したと主張する。 しかし、石綿板は水で濡らした上で使用していたから、石綿が粉じんとして飛散することはない。また、養生材として使用していた石綿板が作業の熱で乾いて固まったことがあったとしても、その石綿板をこそぎ落とす作業は、養生を行った配線班が中心に行うものであって、亡Cが所属していた現車鉄工が行うものではない。 (ウ) 原告らは、ガスバーナーの火口の石綿の交換作業を行う際に、亡Cが石綿粉じんにばく露したと主張する。 しかし、ガスバーナーの火口の石綿の交換は、基本的にはガスバーナーの火口自体を交換するもので、作業者が石綿に直接肌に触れることはほとんどなく を行う際に、亡Cが石綿粉じんにばく露したと主張する。 しかし、ガスバーナーの火口の石綿の交換は、基本的にはガスバーナーの火口自体を交換するもので、作業者が石綿に直接肌に触れることはほとんどなく、その交換の頻度も年に3、4回程度であり、その 交換の時間も数分で終わるものである。 (エ) 原告らは、気吹きによって石綿粉じんが飛散し、亡Cが石綿粉じんにばく露したと主張する。 しかし、気吹きとは、車両が本件工場に入場した際に、床下機器や車両の室内の汚れやほこりを吹き飛ばす作業であり、気吹きをする場 所は石綿が付着している箇所ではないから、気吹き作業によって石綿 粉じんが発生することはない。 また、気吹きが行われる時間は基本的に決まっていた上、作業前には周囲の作業員にその実施を周知し、退避させてから行うルールになっていた。 さらに、気吹きは、昭和60年頃からはPCAと呼ばれる気吹き作 業を行う専用のブースで行うようになり、車体検修場においては基本的には実施しなくなっており、やむを得ず車体検修場で気吹きを行う場合であっても、その作業時間は短く、また、ほとんどのほこりなどはPCAでの気吹きにより除去されていたのであるから、PCAの設置以降は、気吹きにより大量の粉じんが舞い上がっていたなどという ことはない。 イ金属加工における石綿粉じんへのばく露について金属加工の作業において、大量の石綿粉じんが飛散し、亡Cがこれにばく露したということはない。 ウ肺がんに至る機序について いわゆるルンバール事件判決は、「訴訟上の因果関係の立証は…特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」としているところ、かかる「高度の蓋然性」は相対リスク5倍と指摘されていると 事件判決は、「訴訟上の因果関係の立証は…特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」としているところ、かかる「高度の蓋然性」は相対リスク5倍と指摘されているところであるから、相対リスク2倍をもって因果関係を認めることは、訴訟上の因果関係の立証よりも低い基準によるもの である。 また、ヘルシンキクライテリア、平成18年報告書及び平成24年報告書のいずれにおいても、肺がん発症リスクを2倍にする累積ばく露量を示す石綿小体本数は、乾燥肺重量1g当たり5000本から1万5000本とされているところ 、亡Cの体内から検出された石綿小体本数は、 1g当たり2709本にすぎず、肺がん発症リスクを2倍以上に高める 累積ばく露量の最低値に達していないことが明らかであるから、亡Cの肺がんは石綿粉じんへのばく露によるものではない。 さらに、亡Cの胸膜プラークについて、平成18年報告書及び平成24年報告書においては、肺がん発症リスクを2倍以上に高める累積ばく露量に関する指標として、「①胸部正面エックス線写真により胸膜プラー クと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、CT画像によって当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの」又は「②胸部CT画像で胸膜プラークを認め、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の1/4以上のもの」が挙げられているところ、亡Cの胸膜プラークは、手術時に 肉眼で確認されたものにすぎないから、上記の要件を充たしていない。 なお、本件労災認定基準における「胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラークが認められ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること」の基準は、石綿ばく露労働者の幅広 ていない。 なお、本件労災認定基準における「胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラークが認められ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること」の基準は、石綿ばく露労働者の幅広い救済という観点から、肺がんのリスクを2倍に高める累積石綿ばく露量の指標 として現時点で一定の評価ができるものとされているものにすぎず、積極的に肺がん発症リスクが2倍になると認められているものではないことも指摘することができる。 さらに、亡Cの石綿肺について、じん肺法上の管理区分の決定はされていないし、亡Cの診療録には石綿肺でない可能性を指摘する記載もある から、医師による石綿肺との診断は、職業的ばく露歴があったことを理由に間質性肺炎の陰影を石綿肺と誤診したものである。 むしろ、亡Cは、1日平均20本もの喫煙を昭和35年から平成29年まで継続し、肺がんの疑いが指摘された後も喫煙をやめることなく、肺がんの手術を受ける直前の平成30年1月に禁煙の指示を受けるに至っ ていること、喫煙は肺がん発症リスクを10.85倍に高めるものであ ること、亡Cの喫煙歴をもとに肺がん発症リスクを算定する指数(ブリンクマン指数:一日の喫煙本数×喫煙年数)を計算すると1140となり、肺がんを発症する危険性が高まる400を超えるのみならず、肺がんの高度危険群となる600の2倍近い指数となっていること、亡Cの喫煙本数をもとにした男性の相対危険度は5.4倍であること、亡Cの肺が んの組織型である「扁平上皮がん」は喫煙との関連性が強いとされていること、喫煙歴から肺がんであることを疑う診断がされていること等を踏まえれば、亡Cの肺がんは喫煙によるものである。 以上より、亡Cの肺がんは、石綿粉じんへのばく露によるものとは認められない。 と、喫煙歴から肺がんであることを疑う診断がされていること等を踏まえれば、亡Cの肺がんは喫煙によるものである。 以上より、亡Cの肺がんは、石綿粉じんへのばく露によるものとは認められない。 エ死亡に至る機序について亡Cの死亡に関する労災医員の意見書は、因果関係の認定方法に関する理解を誤っていること等から信用することができない。 亡Cの直接の死因は、新型コロナウイルス感染症へのり患であることには争いがないところ、新型コロナウイルス感染症はそれのみによって人 を死に至らしめる疾病であるから、亡Cの死因は新型コロナウイルス感染症であることは明らかである。そして、喫煙は新型コロナウイルス感染症による重篤化・死亡への関与が高いことが明らかであるところ、亡Cの喫煙歴に照らせば、亡Cは、新型コロナウイルス感染症を直接の死因として、これに長期間にわたる喫煙が関与したものにより令和3年1 月24日に死亡したことは明らかであり、亡Cの同日の死亡は、石綿粉じんへのばく露によるものとは認められない。 争点2(共同不法行為の有無)について(原告らの主張)ア国鉄及び被告JR東日本の各安全配慮義務違反 昭和15年頃には、日本でも石綿に関する大規模な調査が行われており、 その頃には、石綿粉じんによって石綿肺などの呼吸器系の健康被害が生ずることが明らかになっていた。また、石綿に発がん性があることは、昭和30年のいわゆるK報告により確立していた。 したがって、遅くとも、亡Cが国鉄に入職した昭和32年頃以降には、石綿粉じんを吸入することにより呼吸器系にがんを含む重大な疾患を生 ずるという知見が確立していた。 しかるところ、国鉄及び被告JR東日本は、上記知見に加え、鉄道車両に石綿が使用されていること及び本 粉じんを吸入することにより呼吸器系にがんを含む重大な疾患を生 ずるという知見が確立していた。 しかるところ、国鉄及び被告JR東日本は、上記知見に加え、鉄道車両に石綿が使用されていること及び本件工場において石綿が使用されていることを認識していたのであるから、遅くとも昭和32年以降(被告JR東日本については亡Cが入社した昭和62年4月1日以降)、亡Cに 対し、①粉じん濃度の測定及びこれに基づいた環境改善並びに石綿粉じんの発生・飛散防止措置を講ずる義務、②防じんマスクの着用を徹底させる義務、③安全教育を行う義務、④石綿を使用しない代替品を使用する義務を負っていた。 しかるに、国鉄は上記の義務を怠り、被告JR東日本も上記の義務を怠 った。 イ国鉄及び被告JR東日本の各安全配慮義務違反が共同の不法行為に該当すること国鉄及び被告JR東日本は、本件工場という同一の場所において、国鉄の設備及び車両という同一の物品の取扱いに当たり、石綿粉じんへのば く露を適切に防止するための前記アの各種防止施策を怠ったという客観的関連共同性がある。また、国鉄は、その分割民営化の時点において、車両や工場を始めとした施設や業務が被告JR東日本に承継されることを十分に認識し、被告JR東日本も、自身が国鉄から施設等を引き継いでいることを十分に認識した上で、石綿含有車両や石綿が使用された断 熱材を使用していたのであるから、主観的関連共同性も認められる。 したがって、国鉄及び被告JR東日本の各安全配慮義務違反は、共同の不法行為に該当する。 ウ亡Cの肺がんの発症及び死亡と共同の不法行為との間の因果関係前記イの国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為がなければ、亡Cは、石綿粉じんにばく露することはなく、肺がんを る。 ウ亡Cの肺がんの発症及び死亡と共同の不法行為との間の因果関係前記イの国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為がなければ、亡Cは、石綿粉じんにばく露することはなく、肺がんを発症することも、令和3 年1月24日に死亡することもなかった。 したがって、前記イの国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為と亡Cの肺がんの発症及び令和3年1月24日の死亡との間には相当因果関係がある。 (被告らの主張) ア国鉄及び被告JR東日本に安全配慮義務違反がないこと労働省労働基準局長が昭和63年3月30日付けの通達「石綿除去作業、石綿を含有する建設用資材の加工等の作業等における石綿粉じんばく露防止対策の推進について」を発出したことによって、初めて鉄道車両の解体作業に伴う石綿ばく露の危険性が認識されるようになったのである から、それ以前においては、鉄道車両の修繕業務に関して、石綿粉じんばく露のために、労働者の生命・身体に重大な障害が発生することの危険性を予見し得たものではない。 したがって、国鉄が、昭和32年の時点で、原告ら主張の安全配慮義務を負う余地はない。そして、国鉄は、労働基準法等の関係法令及び独自 に策定した内部規程に基づき、健康診断を含む当時としては必要十分な措置を講じていた。 また、昭和62年4月に本件工場の業務を承継した被告JR東日本においては、昭和63年3月前後のいずれの時期においても、原告ら主張の安全配慮義務を尽くしていた。 イ原告ら主張の国鉄と被告JR東日本の各安全配慮義務違反が共同の不法 行為に該当しないこと国鉄と被告JR東日本は、歴史的に見て同時期に存在したことはなく、両者の間に社会通念上一個の行為と認められる程度の一体性は認められないし、主 義務違反が共同の不法 行為に該当しないこと国鉄と被告JR東日本は、歴史的に見て同時期に存在したことはなく、両者の間に社会通念上一個の行為と認められる程度の一体性は認められないし、主観的関連共同性も認められないから、原告ら主張の国鉄と被告JR東日本の各安全配慮義務違反は、共同の不法行為に該当しない。 ウ亡Cの肺がんの発症及び死亡と共同の不法行為との間の因果関係の不存在前記(被告らの主張)のとおり、亡Cの肺がんの発症及び令和3年1月24日の死亡は、石綿粉じんへのばく露によるものとは認められないから、原告ら主張の国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為と亡Cの 肺がんの発症及び令和3年1月24日の死亡との間に因果関係はない。 争点3(損害の額)について(原告らの主張)ア亡Cは、長年にわたる国鉄及び被告JR東日本での勤務によって石綿粉じんにばく露して肺がんを発症し、これが原因となって令和3年1月24 日に死亡した。亡Cの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、2800万円を下回らない。 また、被告らの共同不法行為と因果関係を有する亡Cの弁護士費用相当損害金の額は、280万円である。 イ原告らは、亡Cに発生した上記損害について、被告らに対する損害賠償 請求権を、前提事実等アの合意により連帯債権として不可分的に相続した。 (被告らの主張)否認し又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実等 以下の事情は、関係法令の定めを示すもののほかは、前提事実等、証拠(甲17、18、38、43、乙22、31、証人F(以下「証人F」という。)、証人G(以下「証人G」という。)、証人H(以下「証人H」という。)及び原告B本人のほか、後掲のもの。)及び弁 実等、証拠(甲17、18、38、43、乙22、31、証人F(以下「証人F」という。)、証人G(以下「証人G」という。)、証人H(以下「証人H」という。)及び原告B本人のほか、後掲のもの。)及び弁論の全趣旨により、認めることができる。 ⑴ 石綿及び石綿粉じんに関する知見及び法規制ア国際的な知見(甲12、13の1・2、乙1)(ア) 明治39年(1906年)頃、英国において、石綿による肺疾患のために死亡した患者の症例が初めて紹介された。その後、昭和5年(1930年)頃には国際労働機関(ILO)の会議において、石綿 粉じんの吸入によって確実にじん肺が発生することが示された。 (イ) 米国のIとJは、昭和10年(1935年)頃、肺がんを併発している石綿肺患者の症例を報告した。英国のKは、昭和30年(1955年)頃、いわゆるK報告において、肺がんはアスベスト労働者に発生する職業疾患であり、20年以上雇用されている男性労働者の肺 がんリスクは、一般の人の10倍になるとして、アスベストと肺がんとの関連を明らかにした。 (ウ) 昭和47年(1972年)頃、ILO、WHOの専門家会議において、石綿自体ががん原性物質であることが認められた。 イ国内における知見及び法規制 (ア) 戦前から石綿を取り扱う事業場においては、石綿を原因とする労働災害として、じん肺の一種である石綿肺が発生しており、石綿による健康障害としての石綿肺は、戦前からその危険性が認識されていた(乙1)。 昭和22年、労働基準法(昭和22年法律第49号)が施行された。 同法は、労働安全衛生法が施行されるまで、使用者に対し、粉じんに よる危害を防止するために必要な措置を講ずべき義務(42条)、労働者の健康、風紀及び生命の保持に必要な 施行された。 同法は、労働安全衛生法が施行されるまで、使用者に対し、粉じんに よる危害を防止するために必要な措置を講ずべき義務(42条)、労働者の健康、風紀及び生命の保持に必要な措置を講ずべき義務(43条)、労働者の業務に関し必要な安全及び衛生のための教育を施すべき義務(50条)、労働者の定期健康診断を実施すべき義務(52条)を課した。 同法75条2項の委任を受けた同法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)35条7号は、粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症及びこれに伴う肺結核を業務上疾病に指定し、石綿肺が労災補償の対象となった。 (イ) 昭和24年、労働安全衛生規則(昭和22年労働省令第9号)が 施行された。同規則173条は、粉じんの発生する作業場における粉じん対策等を包括的に規定していた。 (ウ) 昭和27年から昭和31年にかけて労働省が行った研究により、石綿を取り扱う事業場において勤務年数が長くなるほど石綿肺有所見者が増加するなど、石綿肺と勤務との関係が明らかになった(乙1)。 (エ) 昭和35年4月1日、じん肺法(昭和35年法律第30号)が施行された。同法は、じん肺の適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより、労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とするものであり(1条)、同法施行規則別表第1の24は、「石綿をときほぐし、合剤し、紡績し、紡織し、吹き付けし、 積み込み、若しくは積み卸し、又は石綿製品を積層し、縫い合わせ、切断し、研まし、仕上げし、若しくは包装する場所における作業」を粉じん作業に指定した。その上で、同法は、使用者が、粉じんの発散の防止及び抑制、保護具の使用その他適切な措置を講ずるよう努めるべきこと(5条)、常時粉じん作業に 若しくは包装する場所における作業」を粉じん作業に指定した。その上で、同法は、使用者が、粉じんの発散の防止及び抑制、保護具の使用その他適切な措置を講ずるよう努めるべきこと(5条)、常時粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺 の予防及び健康管理のために必要な教育を行うべきこと(6条)等を 定めた。 (オ) 労働省労働基準局長は、昭和46年1月5日付けの通達「石綿取扱い事業場の環境改善等について」を発出した。同通達には、石綿粉じんを多量に吸入した場合には石綿肺のほか肺がんを発生することもあることが判明した旨の記載があり、石綿粉じんのがん原性について 言及している。一方、同月21日に労働基準局長に提出された労働環境技術基準委員会の報告書においては、石綿自体はがん原性のある物質に含められていなかった。(乙1)(カ) 昭和46年5月1日、特定化学物質等障害予防規則(昭和46年労働省令第11号。以下「旧特化則」という。)が施行され、石綿粉 じんが発生する屋内作業場では、原則として一定の除じん装置を有する局所排気装置を設置すること、石綿を製造し、又は取り扱う作業場に呼吸用保護具(マスク等)を備え付けること等が定められた。 (キ) 昭和47年10月頃に施行された特定化学物質等障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「新特化則」という。)は、I LO、WHOの専門家会議において石綿自体ががん原性物質であることが認められた後(前記ア(ウ)参照)の昭和50年に改正され、同年10月1日に施行された。改正後の新特化則により、石綿含有量5%を超える石綿吹き付け作業の原則禁止、特殊健康診断の実施や破砕・解体作業等における原則湿潤化等が定められた。 (ク) 労働省労働基準局長は、昭和63年3月30日付けの通達 り、石綿含有量5%を超える石綿吹き付け作業の原則禁止、特殊健康診断の実施や破砕・解体作業等における原則湿潤化等が定められた。 (ク) 労働省労働基準局長は、昭和63年3月30日付けの通達「石綿除去作業、石綿を含有する建設用資材の加工等の作業等における石綿粉じんばく露防止対策の推進について」を発出した。同通達においては、昭和30年初頭から昭和50年初頭までの間に建設された建造物には断熱材等として石綿が多量に使用されているものが多く、老朽化 等によりこれら建築物の解体等の工事件数が増加していることから、 石綿粉じんによる労働者の健康障害防止対策を一層徹底させることが望ましいなどとした上で、上記の問題に対処するための複数の対策を挙げている。そのうちの「その他の対策」の1つとして、「鉄道車両の解体等の作業」が挙げられており、「鉄道車両には多くの石綿が使用されていることから、不要となった鉄道車両の解体等において石綿 を除去する作業におけるばく露防止対策も重要である。」として、鉄道車両を取り扱う会社の所在地を管轄する労働基準局に対し、解体作業に関する情報収集を行うこと等が指示されている。(乙5)。 ⑵ 石綿粉じんへのばく露と肺がんの関連性に関する知見アヘルシンキクライテリア(甲53の1・2、乙10の1・2) ヘルシンキクライテリアには、以下の内容が記載されている。 (ア) 肺がんの4つの主要な組織学タイプ(扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん及び小細胞がん)の全てについて、石綿が原因となっている可能性があり、石綿が原因のがんと他に原因がある肺がんとの間には、臨床徴候と症状に違いはない。 (イ) 1年間の重度のばく露(石綿製品の製造、石綿散布、石綿材料による保温工事、古い建設物の破壊)又は5〜1 綿が原因のがんと他に原因がある肺がんとの間には、臨床徴候と症状に違いはない。 (イ) 1年間の重度のばく露(石綿製品の製造、石綿散布、石綿材料による保温工事、古い建設物の破壊)又は5〜10年の中度のばく露(工事、造船等)が肺がんリスクを2倍以上増加させる可能性がある。 (ウ) 肺がんの相対リスクは、石綿繊維1本/ml×年当たり0.5%から4%まで増加するよう見積もられており、この範囲の上方境界を使 うと、累積ばく露が25年の場合、肺がんのリスクが2倍に増えると見積もられている。 (エ) 乾いた肺組織1g当たり5000〜1万5000本の石綿小体がある場合には、肺がんのリスクが2倍になる。 (オ) 石綿が個々の肺がん患者の原因であるかを正確に証明することは 不可能であるが、石綿へのばく露が増加すれば、石綿ばく露が原因と なった可能性も高くなる。 (カ) 石綿肺の発症は、石綿への高度のばく露を示すインジケータである。 (キ) 胸膜プラークは、石綿繊維へのばく露のインジケータである。胸膜プラークは低度の石綿ばく露に関連している可能性があるので、石 綿ばく露をした職業歴の有無又は石綿繊維負荷量の計測による裏付けが必要である。 (ク) 肺がんの原因を特定するために、全てのばく露評価基準を満たす必要はない。 (ケ) 喫煙は肺がんのリスクに総合的に影響を与えるが、石綿ばく露が 肺がんの原因となるリスクが損なわれるものではない。 イ平成18年報告書(甲50、乙11)平成18年報告書には、以下の内容が記載されている。 (ア) 石綿ばく露の指標となる医学的所見としては、胸膜プラーク、石綿小体、石綿繊維及び石綿肺が挙げられる。 (イ) 胸膜プラークは、石綿ばく露と極めて関係の深い医学的所見で されている。 (ア) 石綿ばく露の指標となる医学的所見としては、胸膜プラーク、石綿小体、石綿繊維及び石綿肺が挙げられる。 (イ) 胸膜プラークは、石綿ばく露と極めて関係の深い医学的所見であり、石綿ばく露によってのみ発生すると考えてよい。胸膜プラークは、肉眼的には表面に光沢のある白色又は薄いクリーム色を呈し、凹凸を有する平板状の隆起として認められる。胸膜プラークは、石綿ばく露開始直後には認められず、ばく露後15年から30年で出現すること が知られている。胸膜プラークの発生は、職業的高濃度石綿ばく露者のみならず、職業的低濃度ばく露者、石綿作業労働者の家族、石綿工場周辺の住民にも見られる。 (ウ) 石綿の繊維は直径が極めて細いため、人の呼吸器官に侵入した石綿繊維は鼻腔等で捕捉されず、肺胞にまで達する。肺胞に達した石綿 繊維のうち長い石綿繊維はそのまま長期間滞留し、その一部は、その 表面に鉄蛋白などが付着して亜鈴状になった、いわゆる石綿小体を形成する。 (エ) 肺がんは、石綿に特異的な疾患である中皮腫と異なり、喫煙を始め、石綿以外に発症原因が多く存在する疾患であり、石綿よりも喫煙の影響の方が大きいといわれている。肺がんの発症における喫煙と石 綿の関係は、相加的よりも相乗的に作用すると解されており、喫煙歴も石綿ばく露歴もない人の発がん性リスクを1とすると、喫煙歴があって石綿ばく露歴がない人では10.85倍、喫煙歴がなく石綿ばく露歴がある人では5.17倍、喫煙歴も石綿ばく露歴もある人は53. 24倍になるとされている。 (オ) 石綿のばく露と肺がんの発症率との間には、累積ばく露量が増えれば発症リスクが上がるという直線的な量-反応関係があることが判明している。 (カ) 肺がんの原因は石綿以外にも いる。 (オ) 石綿のばく露と肺がんの発症率との間には、累積ばく露量が増えれば発症リスクが上がるという直線的な量-反応関係があることが判明している。 (カ) 肺がんの原因は石綿以外にも多くあるが、石綿以外の原因による肺がんを医学的に区別できない以上、肺がんの発症リスクを2倍以上 に高める石綿ばく露があった場合をもって、石綿に起因するものとみなすことが妥当である。 (キ) 肺がんの相対リスクが2倍となる石綿ばく露量については、ヘルシンキクライテリアが挙げる石綿繊維25本/ml×年の基準が妥当である(認定事実等⑵ア(ウ)参照)。 (ク) 胸膜プラークがあることだけをもって、肺がん発症リスクが2倍になる石綿ばく露があったとはいえない。 (ケ) 肺がんの発症リスクを2倍に高める石綿ばく露の指標となる乾燥肺重量1g当たりの石綿小体の本数は、5000本から1万5000本とされているが、本検討会においては最小本数である5000本を 相当とする。 (コ) 石綿ばく露作業従事歴のある者の石綿肺(じん肺法の第1型以上)は、肺がんリスクを2倍以上に高める所見であると判断して差支えがない。 (サ) おおむね10年以上のばく露期間をもって、肺がんリスクを2倍以上に高める指標とみなすことは妥当であるが、従事期間だけを判断 指標とするのではなく、胸膜プラーク等の医学的所見を併せて評価することが必要である。 ウ平成24年報告書(甲51、乙12)平成24年報告書には、以下の内容の記載がある。 (ア) 最新の文献や諸外国の動向を精査した上で、肺がん発症の原因が 石綿ばく露によるものとする考え方として、肺がん発症リスク2倍を基準とする考え方に否定的な見解を示す文献等は見当たらず、上記のような考え方は今 諸外国の動向を精査した上で、肺がん発症の原因が 石綿ばく露によるものとする考え方として、肺がん発症リスク2倍を基準とする考え方に否定的な見解を示す文献等は見当たらず、上記のような考え方は今後も維持することが妥当である。また、これまでと同様、石綿繊維25本/ml×年を肺がんの発症リスクが2倍になる累積ばく露量とみなすことが妥当である。 (イ) 石綿ばく露作業従事歴のある者の石綿肺(じん肺法上の第1型以上)は肺がん発症リスクを2倍以上に高める所見であるとする考え方は、今後も維持することが妥当である。 (ウ) ①胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、CT画像によって当該陰影が胸膜プラー クとして確認されるもの、または、②胸部CT画像で胸膜プラークを認め、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の4分の1以上のものである場合には、肺がん発症リスクが2倍になる石綿ばく露があったものとみなして差支えがない。なお、労災補償の対象と判断する ためには、労働者としての石綿ばく露作業従事歴が1年以上あるとの 要件を付加すべきであり、1年に満たないときは、職業ばく露以外の要因についても検討が必要である。 (エ) 石綿小体は、肺の各葉での分布が異なる可能性等を踏まえ、石綿小体数が乾燥肺重量1g当たり5000本未満であることをもって直ちに業務外とせず、職業ばく露が疑われるレベルである1000本以 上ある事案については、厚生労働省の検討会で個別に審査する方法を継続するのが妥当である。なお、前記(ウ)と同様に、労災補償の対象と判断するためには、労働者としての石綿ばく露作業従事歴が1年以上あるとの要件を付加すべき 、厚生労働省の検討会で個別に審査する方法を継続するのが妥当である。なお、前記(ウ)と同様に、労災補償の対象と判断するためには、労働者としての石綿ばく露作業従事歴が1年以上あるとの要件を付加すべきである。 (オ) 「石綿の吹付け作業」等に従事した者については、その期間が5 年程度あることが確実である場合には、発症リスクが2倍以上となる石綿ばく露があったとみなすことに合理性があるが、それ以外の作業の従事者については、作業内容や作業頻度により累積ばく露量が大きく異なるため、石綿ばく露作業従事期間によって累積ばく露量を推定することは適当ではない。 石綿吹付け作業が行われていた昭和50年以前の時期における石綿ばく露と、近時における石綿ばく露とを従事期間が同じというだけで同様に評価することは、著しく合理性を欠く。遅くとも平成8年以降の石綿ばく露作業従事期間については、原則としてそれ以前の時期における従事期間の半分として評価して従事期間を算定することが妥当 である。 (カ) 平成18年報告書は、胸膜プラーク等の医学的所見だけではなく、おおむね10年以上の石綿ばく露期間を併せて、肺がんの発症リスクを評価することが必要であるとしている。平成18年2月9日から平成22年11月30日までに決定した石綿による肺がん事案3030 件のうち、「胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上」の 要件を充たし、かつ、石綿小体数が明らかになっている130件を分析したところ、石綿小体数5000本以上のものが94件、5000本未満のものが36件という結果を得たため、「胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上」の要件は、おおむね肺がんリスクを2倍に高める累積石綿ばく露量の指標として、現時点では一定の評価 をすること ものが36件という結果を得たため、「胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上」の要件は、おおむね肺がんリスクを2倍に高める累積石綿ばく露量の指標として、現時点では一定の評価 をすることができるものである。 もっとも、作業環境における石綿濃度が明らかに低下していることを踏まえ、従事時期によって石綿ばく露の評価を変える手法を前記(オ)と同様に採用すべきであり、平成8年以降の石綿製品製造作業従事者の石綿ばく露作業従事期間については、原則としてそれ以前の時 期における従事期間の半分として評価し算定することが妥当と思われる。 ただし、古い建築物の解体作業や古い船舶の修理作業等が現在でも行われていることを考慮すると、当面は現行の取扱いを存続することが望まれる。 なお、「胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上」の要件における胸膜プラークについては、これまで手術時に肉眼で確認されたものも含むとされているところ、平成23年にされた報告によれば、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、胸膜プラークの範囲が胸壁内側の4分の1 以上に認められたものは、ほとんどの例で石綿小体が乾燥肺重量1g当たり1000本以上(中央値は5626本)であったのに対し、肉眼的に胸膜プラークが確認された61例のうち25例では胸部CT画像で胸膜プラークを検出できず、それらの石綿小体の中央値は乾燥肺重量1g当たり612本であったことから、今後、肉眼的にしか見え ない胸膜プラークと画像で認められる胸膜プラークを同一に扱うべき かについて更に検討する必要がある。 ⑶ 鉄道車両における石綿の使用状況等アアンダーシールや吹き付け石綿は、鉄道車両に用いられる代表的な断熱材であった。と プラークを同一に扱うべき かについて更に検討する必要がある。 ⑶ 鉄道車両における石綿の使用状況等アアンダーシールや吹き付け石綿は、鉄道車両に用いられる代表的な断熱材であった。とりわけ、国鉄が製造した車両の車体の屋根や外板の吹き付け断熱材、台枠や外板のアンダーシールには石綿が含有されている可能性 が高く、実際に、101型、103型、201型等の鋼鉄車両の外板の内側には、石綿を含有するアンダーシールが、3〜8mm程度の厚さで吹き付けてあった。また、本件工場においても、少なくとも昭和55年頃までは、石綿吹き付けのある車両を取り扱っていた。(甲22、26、30、45、49、証人F5、6頁、証人G3、6頁、証人H6、14、15、 36頁)イ石綿に関する健康管理等専門家会議マニュアル作成部会が、平成18年10月に作成した「石綿ばく露歴把握のための手引〜石綿ばく露歴調査票を使用するに当たって〜」には、以下の内容の記載がある。 (ア) 車両のブレーキには石綿が使用されており、修理、交換、解体時 に摩耗し付着した粉じんにばく露する可能性がある。また、鉄道車両には断熱材として石綿が全面に吹き付けられており、車両の解体時も注意を要する。 (イ) 機関車・鉄道車両の製造、点検、修理、解体、電気艤装、制輪子製造等は、石綿ばく露の可能性のある産業に当たる。車両内部の電気 艤装、電装機器の着脱又は検査作業時に車両内部に吹き付けられた石綿粉じんにばく露する可能性がある。客車内部に吹き付けられた石綿をグラインダーで研削する作業時に発生する粉じんにばく露する可能性がある。車両の検査・補修作業時に抵抗器等の電気系統の装置内部及び周囲に堆積した石綿粉じんにばく露する可能性がある。 (イにつき、甲21) 業時に発生する粉じんにばく露する可能性がある。車両の検査・補修作業時に抵抗器等の電気系統の装置内部及び周囲に堆積した石綿粉じんにばく露する可能性がある。 (イにつき、甲21) ⑷ 本件工場における受持車両の特徴と数ア本件工場においては、101系、103系、113系、201系や205系等の車両の修繕が行われていた。このうち、101系及び103系の車両は鋼鉄製であったが、205系は、ステンレス製であり腐食が生ずることはほぼなかった。また、201系は、鋼鉄製の車両ではあったものの、 101系や103系の車両と比較すると、外板の腐食は生じにくかった。 もっとも、201系は、床板については腐食が生ずることがあった。(甲44の1、証人F17、19、23頁、証人G9頁、証人H3〜5頁)イ本件工場における昭和48年度の受持車両数は5721両であり、そのうち3049両が101系又は103系であった。 昭和54年度からは201系、昭和60年度からは205系が受持車両に含まれるようになり、平成7年度には、受持車両数5155両のうち、201系は785両、205系は1413両となった。また、209系や211系は、外板修繕作業を必要としない車両であり、これらの車両数は併せて742両であった。一方、1316両は、101系又は10 3系であった。 (イにつき、甲44の1、弁論の全趣旨)⑸ 車体検修場と車体改造場の構造ア車体検修場車体検修場は、2階建ての建物の1階部分にあり、送風機はあったもの の、窓や換気扇はなかった。南北に大戸と呼ばれる鉄製の大きな扉があり、これを開閉することによって換気を行っていた。(証人F29頁、証人G12、13、18、20頁、証人H7、8頁)イ車体改造場車体改造場 扇はなかった。南北に大戸と呼ばれる鉄製の大きな扉があり、これを開閉することによって換気を行っていた。(証人F29頁、証人G12、13、18、20頁、証人H7、8頁)イ車体改造場車体改造場は、事故車や大がかりな改造をする際に使用される作業場で ある。車体改造場は、鉄道車両2両分の幅のある建物であり、換気扇が つけられていた。(証人F10、30頁、証人G2、24、38頁)。 ⑹ 現車鉄工の作業実態ア 101系、103系等の外板修繕作業について(甲44の1、証人F1~5頁、証人H3、4頁)101系、103系等の鋼鉄製車両に対する外板修繕作業は、おおむね 以下のような流れで行われていた。 (ア) 本件工場の北側の線路から車両が本件工場に入場し、入場検査(腐食部分等、修繕が必要な箇所に印をつけて特定する作業)が行われる。 その後、車両が車体と走り装置に分離され、車体の部分がトレーラ ー車によって車体検修場又は車体改造場に運ばれる。 車体検修場に運ばれた車体は、人の目線よりも少し上の高さにある台に載せられた状態で作業が行われる。 (イ) 車体検修場内での作業は、製缶工、ガス溶接工及び電気溶接工の職人が4人ほどで1組となり、それぞれが近くにいる状態で、以下の ような流れで行われた。 入場検査において印が付けられた腐食箇所の大きさを計測し、製缶工が、その腐食箇所の大きさに見合った新しい外板(あらかじめ決まった大きさに切られているものが4、5種類ある。)を選び出す。そして、腐食した外板を車体から取り外すため、取り外す範囲をケガキ 針(金属の表面に傷や印を付けて、寸法などを書き入れる工具)でけがいて、印を付ける。 製缶工が、チッパー又はプラズマ溶接切断兼用機(チッパーとは、高速でタガネを前 め、取り外す範囲をケガキ 針(金属の表面に傷や印を付けて、寸法などを書き入れる工具)でけがいて、印を付ける。 製缶工が、チッパー又はプラズマ溶接切断兼用機(チッパーとは、高速でタガネを前後させて鋼板を切断する工具であり、プラズマ溶接切断兼用機とは、アルゴンガスで鋼板を切断する装置をいう。昭和5 6年頃まではチッパーが、それ以降はプラズマ溶接切断兼用機が使用 された。)を用いて、けがいた箇所を切断する。 ガス溶接工が、ガスバーナーを用いて、栓溶接(車体の台枠部分に穴を開けてその穴に溶剤を流しこみ、外板や床板と台枠部分を溶接すること又はそのようにして溶接されている部分。)をはがし、切断した外板を車体から取り外す。 製缶工が、エアーサンダー又はグラインダー(研磨や切削、研削を行う工具)を用いて、車体に残っている外板の断面を研磨する。 電気溶接工が、外板と車体を溶接する。 製缶工が、溶接箇所をエアサンダー又はグラインダーで平らに仕上げる。 イ 201系の外板修繕作業について(証人H4、16、36頁、弁論の全趣旨)201系車両の外板は、101系又は103系と比較して腐食が生じにくかったため、スポット溶接、ワッペン式、パッチ当て修繕等と呼ばれる、外板を切断せずに腐食部分を修繕することも行われていた。もっと も、そのような方法によるか、前記アのような方法によるかについては、作業者の判断に任せられていた。 ウ 201系車両の床の修繕作業について(証人G9~11頁)201系車両については、外板の腐食は生じにくかったものの、車内の腰掛やドア周辺の床下に水が侵入することで腐食が生じたため、現車鉄 工において、床を張り替える作業が行われていた。 201系車両の床は、床面の上に「キーストンプレ 生じにくかったものの、車内の腰掛やドア周辺の床下に水が侵入することで腐食が生じたため、現車鉄 工において、床を張り替える作業が行われていた。 201系車両の床は、床面の上に「キーストンプレート」と呼ばれる波状になった鉄製の板が張られ、その上に接着剤で固めた砂材が2、3cmの厚さで敷かれ、更にその上にポリウレタン樹脂等を材料とする床敷物が張り付けられるという構造になっていた。床の張り替え作業は、床 敷物、砂材を除去し、腐食したキーストンプレートをガスバーナーで切 断し、断面をエアサンダー等で研磨した後、新たなキーストンプレートを貼り、砂材と床敷物の張り付けを行うという流れで行われた。 上記のキーストンプレートには、アンダーシールが塗布されていた。 エ石綿板の使用について(証人F6~8、27頁、証人H5、6、19、20頁) 現車鉄工では、床下の機器を取り換える作業の際等に、火花や熱から配線等を保護するため、石綿板と呼ばれる板材を用いていた。石綿板は、縦横それぞれ300mm程度、厚さ10mm程度の板であり、石綿が含まれていた。濡らした石綿板を団子状にして配線管の周りに張り付けたり、折って配線管の周りに立て掛けたりすることがあった。 配線管等に張り付けた石綿板は、ガスバーナーからの熱等によって固まっていた。石綿板による配管等の保護及び固まった石綿を片付ける作業は、主に配線班の者が行ったが、現車鉄工の者が手伝うこともあった。 オ気吹き作業について(甲44の1、証人F11頁、証人G12、16~18、26頁、証人H10~12頁) 気吹きは、昭和60年にPCA(入場後に気吹きを行う専門のブース)ができた後も、車体検修場において、少なくとも、車体が同所に入場した際に1回、艤装(車内設備)に関する 証人H10~12頁) 気吹きは、昭和60年にPCA(入場後に気吹きを行う専門のブース)ができた後も、車体検修場において、少なくとも、車体が同所に入場した際に1回、艤装(車内設備)に関する作業が終わった際に1回、行われていた。入場後の気吹きは、主に車体の外側の砂やほこりを払うために行われ、車内設備に関する作業が終わった後の気吹きは、車内の粉じ んやほこりなどを外に出すために行われた。 ⑺ 本件工場における粉じん作業及び粉じん対策の状況ア移動式の吸じん機の設置(証人F10、11頁、証人H8、27、28、36、37頁)車両内のトイレの改修工事をする際は、移動式の吸じん機を使用し、窓 からダクトを車内に差し入れて、粉じん対策を行っていた。もっとも、 上記吸じん機は、他の作業においては使用されていなかった。 イ防じんマスクの支給(甲36、証人F11、12頁、証人G29頁、証人H9、10、29頁)少なくとも昭和55年頃になるまで現車鉄工の作業員に防じんマスクは配布されなかった。防じんマスクが配布された後も、眼鏡が曇ることや 息苦しいことなどを理由に、マスクを着用しないで作業をする者が一定数いた。 ⑻ 亡Cの病歴と労災申請の状況ア亡Cは、平成29年11月24日、東京労災病院に入院した。 亡Cは、平成29年12月21日、肺がんを発症し、平成30年3月1 2日、右下葉の部分切除手術を行った。 (アにつき、前提事実等⑼ア)イ前記アの入院に係る診療録には、以下の記載がある。 (ア) 平成30年2月8日付「CTプラークは、、、ないようである、、、」、「Pureな石 綿肺と考えるべきか、、」「右下肺野結節影」、「画像経過、喫煙などからはLKをうたがうことになるが、、」(LKは 2月8日付「CTプラークは、、、ないようである、、、」、「Pureな石 綿肺と考えるべきか、、」「右下肺野結節影」、「画像経過、喫煙などからはLKをうたがうことになるが、、」(LKは、肺がんを指す。)「間質性肺陰影」、「下肺野有意」、「ぷらーくはCT上なし」、「喫煙者(1月まで)」、「石綿肺?その他?」 (イ) 平成30年4月3日付「石綿肺癌(労災)として手続きする(石綿肺PR1)」(イにつき、乙21の1・2)ウ亡Cは、東京労災病院を退院後、息苦しさ等を理由に、平成30年4月25日に再度入院し、同年5月30日に退院したが、その際の退院時サマ リーには、「入院時のスクリーニングとして各種自己抗体を採取したが有 意な結果は得られず、β-dグルカンは陰性であった。以前からみられた胸部Ctでの肺の繊維化は石綿肺としママ考えられていたが、結果的に間質性肺炎であった可能性は否定できないと考えた。」との記載がある(乙21の3)。 エ亡Cは、平成30年11月頃、石綿ばく露作業により肺がんを発症した として、労災申請をした(甲1の1)。 オ東京労災病院の医師は、平成30年11月20日付の診断(意見)書において、亡Cの肺がんについて「石綿肺がん」と診断した。上記診断書には、亡Cの肺がんが原発性の扁平上皮がんであること、手術時に胸腔内に胸膜プラークの所見が認められたこと、乾燥肺重量1g当たり2709本 の石綿小体が認められること、石綿肺(2型)の所見があること、国鉄の車両修理で石綿へのばく露歴があることが記載されている。(前提事実等⑼イ、甲1の4)カ被告JR東日本は、平成30年11月21日付けの使用者報告書において、亡Cの石綿との接触可能性について、「溶接の際の養生に石綿布を使 歴があることが記載されている。(前提事実等⑼イ、甲1の4)カ被告JR東日本は、平成30年11月21日付けの使用者報告書において、亡Cの石綿との接触可能性について、「溶接の際の養生に石綿布を使 用していた際にばく露する可能性がある。」、「石綿を含有した断熱材の撤去の際にばく露する可能性がある。」と回答している(甲1の12)。 キ東京都労働局の労災医員は、平成31年1月28日付の意見書において、亡Cの肺がんについて、石綿肺所見、胸膜プラーク所見に加え、約40年の石綿ばく露作業が確認されており、最初の石綿ばく露から10年以上 (で発症)という条件を充たしていることから、業務に起因する肺がんと判断できる旨の意見を述べた(前提事実等⑼イ、甲1の3)。 ク品川労働基準監督署長は、平成31年4月3日、亡Cの肺がんを業務上疾病と認定した(前提事実等⑼イ)。 ケ亡Cは、令和3年1月21日、呼吸困難の症状があったことから、東京 労災病院に入院したところ、新型コロナウイルス感染症にり患していると 診断され、治療を受けたものの、同月24日に死亡した。医師の作成に係る死亡診断書には、直接死因はCOVID−19、直接には死因に関係しないが直接死因の傷病経過に影響を及ぼした傷病等として、①右下葉肺扁平上皮癌、②石綿肺との記載がある(前提事実等⑼ウ、甲15)。 コ亡Cの妻は、亡Cの死亡につき、労災申請をした(甲34)。 サ東京労災病院の医師の作成に係る令和3年4月16日付の意見書には、以下の記載がある。 (ア) 死亡の原因基礎に慢性の間質性肺炎(石綿肺)があり、肺の手術も受けているため、コロナ肺炎による重症化が顕著であり、呼吸不全で死亡された。 (イ) 肺がんとCOVID-19との因果関係平成3 原因基礎に慢性の間質性肺炎(石綿肺)があり、肺の手術も受けているため、コロナ肺炎による重症化が顕著であり、呼吸不全で死亡された。 (イ) 肺がんとCOVID-19との因果関係平成30年3月に肺がんに対し右下葉切除を行っており、その後再発はない。COVID-19と因果関係はないものと考える。 (ウ) 肺がんと死亡との因果関係COVID-19が重篤化した理由として慢性の間質性肺炎(石綿 肺)を基礎疾患として持っていたことが挙げられる。肺がんの手術も重篤化に関与した可能性は否定できない。 (サにつき、前提事実等⑼エ、甲34、乙27)シ東京都労働局の労災医員は、令和3年5月24日付の意見書において、死亡診断書(前記ケ)及び医師の意見書(前記サ)を引用した上で、「令 和3年1月21日に撮影された胸部CT画像において、両側肺(左優位)に広範なスリガラス影が見られ、新型コロナウイルス感染症の間質性肺炎(石綿肺)に矛盾しない所見である。」、「新型コロナウイルス感染症は、基礎疾患を有している者では重症化しやすいとされており、とりわけ間質性肺炎はその代表と言えるものである。」とし、「以上を踏まえると、石 綿関連肺癌に対する右肺下葉切除術及び石綿肺により著しい呼吸機能障害 の状態にあったものに当該疾病が併発し、共働原因となって死亡に至ったものと考えられる。」として、業務起因性を認める旨の意見を述べた(前提事実等⑼エ、甲34)。 ス品川労働基準監督署長は、令和3年6月11日、亡Cの死亡について労災認定をした(甲34)。 ⑼ 亡Cの喫煙歴(甲1の5)亡Cは、昭和35年頃から平成29年頃まで、1日20本程度の喫煙をしていた。 2 争点1(亡Cの肺がんの原因及び死亡原因)について⑴ 外板修繕 甲34)。 ⑼ 亡Cの喫煙歴(甲1の5)亡Cは、昭和35年頃から平成29年頃まで、1日20本程度の喫煙をしていた。 2 争点1(亡Cの肺がんの原因及び死亡原因)について⑴ 外板修繕作業による石綿粉じんへのばく露 ア(ア) 認定事実等⑷イのとおり、本件工場における受持車両数について、証拠から明らかになる中で最も古い昭和48年度においては5721両中3049両が、また、亡Cが金属加工に異動する前の平成7年度においては5155両中1316両が、それぞれ101系又は103系であった。検査又は修繕は古い年代に製造された車両について行わ れることの方が多いものと考えられることからすれば、亡Cは、現車鉄工として勤務していた平成8年3月までの間、多くの101系又は103系の車両について修繕作業等を行っていたと認められる。そして、認定事実等⑶アのとおり、101系又は103系の車両の外板には、アンダーシールが塗布されていたところ、これらには、石綿が含 有されていた。 また、認定事実等⑶アのとおり、本件工場においては、少なくとも昭和55年頃までは、外板の内側に石綿が吹き付けられている車両を取り扱っていた。 さらに、認定事実等⑹ウのとおり、201系車両については、床面 にキーストンプレートが使用されており、これにもアンダーシールが 塗布されていた。 (イ) 認定事実等⑹ア~ウのとおり、外板修繕作業やキーストンプレートの修繕作業に際しては、外板やキーストンプレートを切断又は溶断する工程やその断面を研磨する工程があり、その作業によって、吹き付けられた石綿又はアンダーシールが飛散したものと認められるから、 亡Cは、上記の各作業により、石綿粉じんにばく露したものと認められる。 イこれに対し、被告 程があり、その作業によって、吹き付けられた石綿又はアンダーシールが飛散したものと認められるから、 亡Cは、上記の各作業により、石綿粉じんにばく露したものと認められる。 イこれに対し、被告らは、外板修繕作業等によって亡Cが石綿にばく露したことを否定する旨の主張をするが、亡Cについて、乾燥肺重量1g当たり2709本の石綿小体が認められていること(認定事実等オ)、国鉄 及び被告JR東日本以外の職場において石綿にばく露する機会はなかったこと(前提事実等)に加え、以下に述べるところからすれば、被告らの上記主張は採用することができない。 (ア) 被告らは、外板修繕作業において粉じんにばく露する可能性があるのは、外板の切断や磨き作業を行う製缶工であり、亡Cはガス溶接 工又は電気溶接工であったから、粉じんが発生する作業を担当していなかったと指摘する。 しかし、認定事実等アのとおり、現車鉄工においては、製缶工、ガス溶接工及び電気溶接工が1つのグループとなって、それぞれが近くにいる状態で修繕作業をしていた。そうすると、亡Cが粉じんを発 生させる作業に直接関与していないことは、亡Cの粉じんへのばく露を否定する根拠にはならない。 (イ) 被告らは、外板修繕作業が必要となる車両が減少していたことを指摘するが、前記ア(ア)で説示したとおり、亡Cは多くの101系と103系車両について作業を行っていたものであるし、201系車両 についてもアンダーシール由来の石綿粉じんが発生していたことは否 定し難い。さらに、認定事実等⑹イのとおり、201系車両について、切断・研磨作業を要しない修繕を行うかそうでないかは、作業員の判断に委ねられており、従前と同様に切断・研磨を行っていた者もいたことを指摘することができる。 ( ⑹イのとおり、201系車両について、切断・研磨作業を要しない修繕を行うかそうでないかは、作業員の判断に委ねられており、従前と同様に切断・研磨を行っていた者もいたことを指摘することができる。 (ウ) 被告らは、そもそもアンダーシールに含まれている石綿の量が少 なく、旧特化則や新特化則の制定(認定事実等⑴イ(カ)、(キ))によりそれも更に減少していったことや、そもそもアンダーシールは熱を加えることにより溶けて固まるために飛散しないと指摘する。 しかし、前者の点についてみれば、石綿の含有量が低下していたとしても、石綿粉じんへのばく露それ自体がなくなるわけではないし、 前記ア(ア)のとおり、検査又は修繕は古い年代に製造された車両について行われることの方が多いものと考えられる。また、後者の点についてみれば、仮に外板を溶断する際にアンダーシールが固まるとしても、その後に断面を研磨することで固まったものが削られて粉じんになるものと考えられる。そうすると、これらの指摘も、亡Cの石綿粉 じんへのばく露を否定する根拠にはならない。 ⑵ 石綿板の使用による石綿粉じんへのばく露ア認定事実等⑹エのとおり、現車鉄工には、床下機器を取り換える作業があり、その作業に際し、配線等を保護するために、石綿板を折ってそのまま立て掛けたり、濡らして張り付けたりしていたことが認められる。そし て、仮に石綿板を濡らして取り扱っていたとしても、石綿板を折る際には石綿の粉じんが生ずるものと考えられるし、熱によって乾いた石綿板を片付ける作業を手伝う際に、粉じんにばく露することも考えられる。そうすると、亡Cは、これらの作業により、石綿粉じんにばく露したものと認められる。 イこれに対し、被告らは、平成元年以降は石綿を含有しないイビウールボ にばく露することも考えられる。そうすると、亡Cは、これらの作業により、石綿粉じんにばく露したものと認められる。 イこれに対し、被告らは、平成元年以降は石綿を含有しないイビウールボ ードという保護材を用いていたと主張するが、これを裏付ける的確な証拠はなく、これを直ちに認めることができない。 ⑶ 気吹き等による石綿粉じんへのばく露ア原告らは、気吹きにより、外板修繕作業等によって生じた粉じんが飛散し、亡Cは重ねて石綿粉じんにばく露したと主張する。 しかし、認定事実等⑹オのとおり、車体検修場で行われる気吹きは、主に、車体が車体検修場に入ってきた際に行われるものと、車内設備に関する作業が行われた後に行われるものがあり、前者は、主に砂やほこりを払うことを目的とし、後者は、車内設備の施工によって生じた粉じんを外に出すために行われていたものと認められる。そうすると、気吹き によって、砂、ほこりや粉じんが飛散したとしても、それらに石綿が含まれていたとは直ちに認め難い。 イまた、原告らは、ガスバーナーの火口にパッキンとして糸状に石綿が巻かれており、亡Cが月に2回程度これを交換する際に、ぼろぼろの石綿に触れることにより、また、新しい石綿を巻き付けて装着する作業により、 石綿粉じんにばく露したと主張するが、その交換の頻度が、原告らの指摘するように頻繁に行われたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、火口の交換による石綿粉じんへのばく露は、仮に石綿の飛散が認められたとしても、極低濃度であったと認められる。 ウさらに、原告らは、鉄道車両のブレーキ等に石綿が使用されていること (認定事実等⑶イ)から、走行中のブレーキ使用等によって、含有されている石綿が粉じん化し、これが鉄道車両の床下等に付着した上、車体検 、原告らは、鉄道車両のブレーキ等に石綿が使用されていること (認定事実等⑶イ)から、走行中のブレーキ使用等によって、含有されている石綿が粉じん化し、これが鉄道車両の床下等に付着した上、車体検修場に持ち込まれ、気吹きなどで飛散する可能性を指摘し、これに沿う供述も存在するが(証人G7、8頁)、証人の供述は抽象的な可能性を指摘するものにすぎないし、前提事実等⑶ア、イのとおり、現車鉄工は車体と走 り装置が分離された後の車体部分について修繕作業等を行うものであるか ら、ブレーキ由来の石綿粉じんにばく露した可能性が高いとはいえない。 ⑷ 金属加工における石綿粉じんばく露証拠(甲45、証人G8、9、33頁)によれば、亡Cは金属加工において車体等から取り外した機器等を修繕する作業にガス溶接工として従事していたこと、103系等の鉄道車両の機器や機器箱には断熱材として石綿が使 用されていたことが認められる。しかし、金属加工における亡Cの具体的な作業内容や、作業を行った機器等の石綿の使用状況は本件証拠上明らかではなく、金属加工において、亡Cが石綿粉じんにばく露したとは認められない。 小括以上によれば、亡Cは、現車鉄工に配属された昭和33年4月頃から、金 属加工に異動する平成8年4月頃までの間、外板修繕作業や石綿板の使用によるものの限度で、日常的に石綿粉じんにばく露していたものと認められる。 肺がんに至る機序についてア認定事実等⑵ウのとおり、平成24年報告書は、ヘルシンキクライテリアや平成18年報告書の後の研究を踏まえ、石綿と肺がんの因果関係に関 する当時における最新の医学的知見をまとめたものであって、本件労災認定基準も、平成24年報告書の内容を踏まえたものとなっている。しかるところ、平成24年報告書 え、石綿と肺がんの因果関係に関 する当時における最新の医学的知見をまとめたものであって、本件労災認定基準も、平成24年報告書の内容を踏まえたものとなっている。しかるところ、平成24年報告書は、石綿を原因とする肺がんと石綿以外を原因とする肺がんとを医学的に区別することが困難であることを理由に、石綿ばく露による肺がんの発症リスクが2倍以上ある場合に肺がんが石綿に起 因するものとみなす考え方の妥当性を否定する見解は見当たらないとした上で、石綿繊維25本/ml×年が肺がんの発症リスクを2倍とするばく露量であるとしており、このような考え方は、現在においても、石綿と肺がんの因果関係を考える上で確立した医学的知見であるということができる。 イそこで、亡Cについて平成24年報告書が示した肺がんの発症リスクを 2倍とする指標を充たしているといえるかについて検討する。 認定事実等ウ(カ)のとおり、平成24年報告書は、胸膜プラークの所見があり、石綿ばく露作業従事期間が10年以上あるものについては、肺がんリスクを2倍以上に高めるとし、その胸膜プラークは、手術時に肉眼で確認されたものも含む立場を維持している。 また、認定事実等ウ(イ)のとおり、同報告書は、石綿ばく露作業従事歴のある者の石綿肺(じん肺法上の第1型以上)は肺がん発症リスクを2倍以上に高めるとしている。 しかるところ、認定事実等⑻オのとおり、亡Cについては、手術時に肉眼で胸膜プラークの所見が認められるとともに、前記で説示したとお り、昭和33年4月頃から平成8年4月頃までの約38年にわたり、石綿にばく露する作業に従事していた。また、認定事実等⑻オのとおり、手術時に、石綿肺(2型)の所見が確認されている。そうすると、平成24年報告書の指標を充 から平成8年4月頃までの約38年にわたり、石綿にばく露する作業に従事していた。また、認定事実等⑻オのとおり、手術時に、石綿肺(2型)の所見が確認されている。そうすると、平成24年報告書の指標を充たしているといえる。 しかも、認定事実等⑻オのとおり、亡Cの乾燥肺重量1g当たりの石綿 小体の本数は2709本であり、職業的ばく露が疑われる1000本を超えていること(認定事実等⑵ウ(エ)参照)も踏まえれば、亡Cは、石綿粉じんばく露により肺がんを発症したものと認めるのが相当である。 ウこれに対し、被告らは、石綿へのばく露により肺がんを発症したとは認められないと主張するが、以下に述べるところからすれば採用することが できない。 (ア) 被告らは、相対リスク2倍のみでは、訴訟法上、石綿へのばく露により肺がんを発症したとは認めるには足りない旨指摘するが、平成24年報告書は、原因が石綿かそれ以外かを区別することが困難な肺がんに関して、その因果関係を判断する上で確立した医学的知見であ ることは既に説示したとおりである。 (イ) 被告らは、亡Cの石綿小体の本数が最低値である5000本を超えないことを指摘するが、ヘルシンキクライテリア、平成18年報告書及び平成24年報告書のいずれも、肺がんの原因を特定するために、全てのばく露評価基準を満たす必要はないとの立場を採用している上(認定事実等⑵ア(ク)参照)、平成24年報告書は、石綿小体の本数 が乾燥肺重量1g当たり5000本未満であることをもって直ちに業務外とせず、職業ばく露が疑われるレベルである1000本以上ある事案については個別に審査されるべきものとしている(認定事実等⑵ウ(エ))。そうすると、亡Cの石綿小体の本数が5000本を超えないことをもって、直ちに石綿への 疑われるレベルである1000本以上ある事案については個別に審査されるべきものとしている(認定事実等⑵ウ(エ))。そうすると、亡Cの石綿小体の本数が5000本を超えないことをもって、直ちに石綿へのばく露により肺がんを発症したこ とを否定することはできない(なお、亡Cの石綿小体の本数が、職業ばく露を疑うべき本数を超えていることは、前記イで既に説示したとおりである。)。 (ウ) 被告らは、亡Cの胸膜プラークは手術時に肉眼で確認されたものにすぎないから平成24年報告書の指標を充たしていない旨指摘する が、既に説示したとおり、平成24年報告書は肉眼で確認できた胸膜プラークについても石綿ばく露の指標とする立場を維持している。この点、認定事実等⑵ウ(カ)のとおり、平成24年報告書には、上記のような立場を今後も維持すべきか否かは検討課題であることが指摘されているものの、本件全証拠をみても、上記のような立場を変更すべ きであるとの医学的知見は認められない。 (エ) 被告らは、亡Cの石綿肺との診断が誤りである旨指摘する。しかし、認定事実等⑻ウのとおり、石綿肺との判断について疑義を入れる旨の記載はあるが、その後も石綿肺であるとの診断は覆されていない。 また、被告らは、平成30年4月3日の時点では1型(PR1)とさ れていたにもかかわらず、同年11月20日付けの診断(意見)書に おいて2型とされていること(認定事実等⑻イ、オ)も指摘するが、このような記載をもって、当初の石綿肺との診断を覆すに足りるものとはいい難い。 (オ) 被告らは、亡Cの喫煙歴を踏まえれば、亡Cの肺がんは、喫煙によるものであると主張する。 この点、認定事実等⑼のとおり、亡Cには長期にわたる喫煙歴が認められる。しかし、認定事実等⑵ア(ケ)のと 被告らは、亡Cの喫煙歴を踏まえれば、亡Cの肺がんは、喫煙によるものであると主張する。 この点、認定事実等⑼のとおり、亡Cには長期にわたる喫煙歴が認められる。しかし、認定事実等⑵ア(ケ)のとおり、喫煙と石綿は肺がんの発症リスクを相乗的に高めるものであり、喫煙によって石綿による肺がんの発症リスクが損なわれるものではない。本件においては、亡Cは平成24年報告書の指標を充たし、石綿ばく露による肺がんの 発症リスクが2倍になっていることから、石綿ばく露と肺がんの因果関係を認めることができ、亡Cが喫煙歴を有することから直ちに石綿ばく露と肺がんとの因果関係が否定されるものではない。 なお、被告らは、亡Cの診療録に喫煙が肺がんの原因であることを疑わせる旨の記載があると主張するが、認定事実等⑻イ(ア)の記載を みても、単なる生活歴を超えて具体的に肺がんの原因であるとの検討がされているものではない。 エ以上によれば、亡Cの肺がんは、石綿粉じんへのばく露によるものであると認められる。 死亡に至る機序について ア認定事実等⑻サのとおり、東京労災病院の医師は、亡Cの死亡原因に関し、新型コロナウイルス感染症が重篤化した理由として、石綿肺を有していたことを指摘した上、肺がんの手術も重篤化に関与した可能性が否定できないとしている。そして、認定事実等⑻シのとおり、労災医員は、新型コロナウイルス感染症が基礎疾患を持っている者については重篤化しやす いことを指摘し、死亡に業務起因性があるとの意見を示している。 肺に基礎疾患を持つ者が新型コロナウイルスに感染した場合に重篤化しやすいことは顕著な事実であるところ、亡Cは、石綿へのばく露によって石綿肺を発症するとともに肺がんを発症して右下葉を切除していたのであり(認定 患を持つ者が新型コロナウイルスに感染した場合に重篤化しやすいことは顕著な事実であるところ、亡Cは、石綿へのばく露によって石綿肺を発症するとともに肺がんを発症して右下葉を切除していたのであり(認定事実等ア)、上記の疾患が新型コロナウイルス感染症をその自然の経過を越えて増悪させたことによって、令和3年1月24日 に死亡したと認めるのが相当であるから、石綿へのばく露により同日に死亡するに至ったというべきである。 イこれに対し、被告らは、石綿へのばく露により亡Cが令和3年1月24日に死亡したことを否定する主張をするが、以下のとおり、採用することができない。 (ア) 被告らは、労災医員の意見書は、因果関係の判断につき共働原因の一つであれば足りるとする共働原因説をとっていることや、亡Cが著しい呼吸器障害を負っていたことを判断の理由としているところ、これらは誤りであり、労災医員の意見書は信用できないと主張する。 しかし、前記アで既に説示したとおり、東京労災病院の医師の意見書 においても、石綿肺によって新型コロナウイルス感染症の重篤化が顕著であった旨の指摘がされている。なお、亡Cが石綿肺にり患していたことを否定することができないことは、前記ウ(エ)で説示したとおりである。 (イ) 被告らは、新型コロナウイルス感染症はそれのみで死亡をもたら すものであることを指摘する。しかし、本件においては、石綿肺を有していたことや肺がんの手術をしていたことが新型コロナウイルス感染症をその自然の経過を越えて増悪させたと認められることは、前記アのとおりである。 被告らは、喫煙歴が新型コロナウイルス感染症の重症化に影響を及 ぼすことも指摘する。しかし、喫煙と石綿が肺への影響、ひいては死 亡リスクを相乗的に高めることは アのとおりである。 被告らは、喫煙歴が新型コロナウイルス感染症の重症化に影響を及 ぼすことも指摘する。しかし、喫煙と石綿が肺への影響、ひいては死 亡リスクを相乗的に高めることは、前記ウ(オ)のとおりである。したがって、喫煙歴があるからといって、石綿へのばく露によって生じた肺の基礎疾患による死亡リスクが損なわれるものではなく、上記の指摘によっても、石綿へのばく露と亡Cの死亡との因果関係を否定することはできない(もっとも、喫煙も新型コロナウイルス感染症の重 篤化に影響を及ぼしたということができ、この点は、素因として考慮されるべきである。)。 ウ以上によれば、亡Cは、石綿ばく露により、肺がんを発症し、令和3年1月24日に死亡したものと認めることができる。 3 争点2(共同不法行為の有無)について ⑴ 国鉄及び被告JR東日本の各安全配慮義務違反の有無ア安全配慮義務の前提として使用者が認識すべき予見可能性の内容は、生命、健康という被害法益の重大性に鑑みれば、労働者が作業を行う場に重大な健康被害の発生が危惧される原因が現実に存在することであれば足り、必ずしも生命、健康に対する障害の性質や健康被害が発症する機序、頻度 までを具体的に認識する必要はないというべきである。 イ認定事実等⑴のとおり、国際的には、昭和5年(1930年)頃には国際機関において石綿粉じんの吸入によってじん肺が発生することが示され、昭和30年(1955年)頃には、アスベストと肺がんとの関連性について一定の知見が示されていた。また、国内においても、昭和22年には、 労働基準法において使用者が粉じんによる危害を防止するために必要な措置を講ずべき義務が定められ、昭和35年4月1日にはじん肺法が施行され、使用者に対し、粉じんの においても、昭和22年には、 労働基準法において使用者が粉じんによる危害を防止するために必要な措置を講ずべき義務が定められ、昭和35年4月1日にはじん肺法が施行され、使用者に対し、粉じんの発散の防止及び抑制、保護具の使用その他適切な措置を講ずるよう努め、粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺の予防及び健康管理のために必要な教育を行うこと等を義務付けるに至っ た。 上記によれば、石綿粉じんが飛散する場所において業務に従事する労働者を使用する使用者は、遅くともじん肺法が施行された昭和35年4月1日時点において、石綿粉じんにばく露することによって当該労働者の生命、健康に重大な障害が生ずる危険があると認識することができ、かつ、認識すべきであったということができる。 そして、本件工場における石綿粉じんの飛散状況は、前記2~において認定したとおりであり、国鉄及び被告JR東日本は、上記の状況を認識していたものであるから、国鉄には、昭和35年4月1日以降、安全配慮義務違反の前提となる予見可能性を認めることができ、被告JR東日本には、その設立日である昭和62年4月1日以降、安全配慮義務 違反の前提となる予見可能性を認めることができる。 ウこれに対し、被告らは、昭和63年3月30日付けの通達(認定事実等⑴イ(ク))をもって初めて鉄道車両の解体等の作業により石綿にばく露する危険が明らかになったと主張する。しかし、上記通達は、老朽化した建築物の解体作業等の件数が増えていること、そのような老朽化した建築物 においては石綿が多量に使用されている場合が多く、石綿粉じんにばく露する危険性が高まることを踏まえて、その注意喚起のために発出されたものであるところ、上記通達が鉄道車両において石綿が使用されていること いては石綿が多量に使用されている場合が多く、石綿粉じんにばく露する危険性が高まることを踏まえて、その注意喚起のために発出されたものであるところ、上記通達が鉄道車両において石綿が使用されていることを当然の前提としていることからすれば、鉄道車両の解体作業に関する言及は、解体作業についてはビルだけではなく鉄道車両でも問題になり得る ことを注意的に示したものにすぎないとみるべきであり、前記の判断を左右するものではない。 エ前記イに述べたところからすれば、国鉄は昭和35年4月1日以降、被告JR東日本は昭和62年4月1日以降、亡Cに対し、安全配慮義務として、原告らの主張するとおり、石綿粉じんの発生及び飛散の防止並びに粉 じん吸入の防止について必要な措置を講じ、その生命、健康に重大な障害 が生ずることを防止する義務を負っており、具体的には、①粉じん濃度の測定及びこれに基づいた環境改善並びに石綿粉じんの発生・飛散防止措置を講ずる義務、②防じんマスクの着用を徹底させる義務、③粉じん等の危険性に関する教育を行う義務を負っていたものというべきである。 オそこで、国鉄及び被告JR東日本が上記の義務を怠ったかについて検討 する。 (ア) 粉じん濃度の測定及びこれに基づいた環境改善並びに石綿粉じんの発生・飛散防止措置を講ずる義務に関して、被告らは、亡Cの在籍中に、本件工場において、粉じん濃度の測定を行ったことについて、具体的な立証をしない。また、粉じんの発生・飛散防止措置に関して みても、認定事実等⑸ア、⑹ア~オによれば、車体検修場では車体の修繕作業によって粉じんが発生していたところ、車体検修場には換気扇はなく、南北の大戸を開閉することで換気するのみであったのであり、上記のような換気では、車体検修場の広さ(前提事実等⑶ 修場では車体の修繕作業によって粉じんが発生していたところ、車体検修場には換気扇はなく、南北の大戸を開閉することで換気するのみであったのであり、上記のような換気では、車体検修場の広さ(前提事実等⑶ア)に鑑みると、不十分なものであるというほかはない。また、認定事実等 ⑺アのとおり、吸じん装置も、車体のトイレの改修工事でのみ使用されていたのであるから、粉じんの発生・飛散防止措置として十分な対策が取られていたとはいい難く、国鉄及び被告JR東日本は、それぞれ上記義務に違反したものというべきである。 (イ) 認定事実等⑺イのとおり、本件工場においては昭和55年頃まで 防じんマスクが配布されていなかった。この点、被告らは、本件工場において「プラズマ小委員会」が設置され、マスクの着用を励行していたと主張するが、そのような組織の存在を認めるに足りる的確な証拠はない。そして、被告らは、亡Cの在籍中に、本件工場において、防じんマスクの着用を励行させる取組がされていたことにつき具体的 な立証をしないから、国鉄及び被告JR東日本は、それぞれ防じんマ スクの着用を徹底させる義務に違反したというべきである。 (ウ) 被告らは、亡Cの在籍中に、本件工場において、亡Cに対し、粉じん等の危険性に関する教育を行っていたことにつき具体的な立証をしないから、国鉄及び被告JR東日本は、それぞれ粉じん等の危険性に関する教育を行う義務に違反したというべきである。 国鉄及び被告JR東日本の各安全配慮義務違反が共同の不法行為に該当するか前提事実等⑴イ、ウのとおり、被告JR東日本は、国鉄の承継法人の一つとして、本件工場を含む国鉄の車両や設備を承継して、国鉄と同様の旅客鉄道事業を引き続き行い、同事業を行うに当たり必要な鉄道車両の修繕を本件 ⑴イ、ウのとおり、被告JR東日本は、国鉄の承継法人の一つとして、本件工場を含む国鉄の車両や設備を承継して、国鉄と同様の旅客鉄道事業を引き続き行い、同事業を行うに当たり必要な鉄道車両の修繕を本件 工場で引き続き行っていたものであり、国鉄及び被告JR東日本の安全配慮義務違反の態様は、昭和62年4月1日の前後において何ら変わりがないのであるから、国鉄及び被告JR東日本の各安全配慮義務違反は、社会通念上一個の行為とみることができる。 したがって、国鉄及び被告JR東日本の各安全配慮義務違反は、共同の不 法行為に該当するというべきである。 被告らは、国鉄と被告JR東日本が同時に存在したことがない以上、共同の不法行為には該当しない旨主張するが、上記のような国鉄と被告JR東日本の関係を前提とすれば、国鉄とJR東日本が法的に同時に存在していなかったからといって、直ちに共同の不法行為に該当しないということはできな い。 共同の不法行為と亡Cの肺がんの発症及び死亡との間の因果関係これまでに説示したところによれば、前記の国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為がなければ、亡Cは、石綿粉じんにばく露することはなく、肺がんを発症することも、令和3年1月24日に死亡することもなかったと 認められる。 したがって、前記の国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為と亡Cの肺がんの発症及び令和3年1月24日の死亡との間には相当因果関係があるというべきである。 4 争点3(損害の額)について以上に述べたとおり、亡Cは、国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為 を理由に石綿粉じんにばく露し、肺がんを発症したこと、直接の死因が新型コロナウイルス感染症であったとしても、上記の共同の不法行為がなければ、少なくと は、国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為 を理由に石綿粉じんにばく露し、肺がんを発症したこと、直接の死因が新型コロナウイルス感染症であったとしても、上記の共同の不法行為がなければ、少なくとも一定の期間の延命は可能であったと認められること、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、亡Cの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては、2300万円が相当である。もっとも、認定事実等⑼のとおり、 亡Cは長期にわたり1日20本の喫煙をしていたところ、前記2イ(イ)で説示したとおり、喫煙が新型コロナウイルス感染症の重篤化に影響を及ぼすことは否定し難く、亡Cの喫煙歴は、亡Cの死亡リスクを相乗的に高めたと評価することができる。喫煙が社会的に許容される嗜好であったことを考慮しても、亡Cの喫煙歴が長期にわたることを踏まえれば、損害の公平な分担 の見地に照らし、民法722条2項の規定を類推適用し、慰謝料の額については3割を減ずることが相当である。 したがって、亡Cの慰謝料としては、1610万円が相当である。 また、国鉄及び被告JR東日本の共同の不法行為と相当因果関係を有する亡Cの弁護士費用相当損害金としては、161万円を相当と認める。 なお、原告ら主張の「④石綿を使用しない代替品を使用する義務の違反」については、それが認められるとしても、これにより上記損害を超える損害が生じたとは認められない。 以上のとおり、亡Cは、被告らに対し、共同不法行為に基づき、損害金1771万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める権利を有すると ころ、上記の損害賠償請求権は、亡Cの死亡により、相続人間で当然分割さ れる(民法427条)。原告らは、前提事実等⑴アの合意により、亡Cの本件訴えに係る被告らに対する損害賠償請求権を連帯 ころ、上記の損害賠償請求権は、亡Cの死亡により、相続人間で当然分割さ れる(民法427条)。原告らは、前提事実等⑴アの合意により、亡Cの本件訴えに係る被告らに対する損害賠償請求権を連帯債権として不可分的に相続した旨の主張をする。しかしながら、原告らと被告らとの間で、上記請求権を連帯債権とする旨の合意がされた形跡はなく、他に、上記請求権を連帯債権と解すべき根拠を見いだすこともできない。したがって、原告らの上記 主張は採用することができず、前提事実等アの合意により、上記損害賠償請求権のうち、亡Cの妻が分割取得した分が、原告らに対して2分の1ずつ移転したものというべきである。 また、原告らは、亡Cの肺がん発症日である平成29年12月21日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の割合による 遅延損害金の支払を求めている。しかしながら、原告らは、亡Cの死亡による損害の賠償を求めているものと解されるから、遅延損害金の起算日は、亡Cの死亡日である令和3年1月24日であり、その利率は、上記の改正後の民法所定の年3%となる。 第4 結論 以上の次第で、原告らの請求は、主文第1項及び第2項の金員の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第26部 裁判長裁判官大竹敬人 裁判官宮川広臣 裁判官上田文和

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