令和4(行ウ)18等 裁決取消等請求事件、差押処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年11月24日 大阪地方裁判所
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判決文本文14,589 文字)

- 1 -令和4年11月24日判決言渡令和4年(行ウ)第18号裁決取消等請求事件令和4年(行ウ)第76号差押処分取消請求事件(追加的併合) 主文 1 本件訴えのうち、A市長が令和3年5月19日付けでした差押処分(ただし、差し押さえられた預金債権38万6800円のうち17万9700円を超える部分)の取消しを求める部分を却下する。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 A市長が令和3年5月19日付けで原告の預金債権に対してした差押処分(管理番号第50300440号)を取り消す。 2 A市長が令和4年1月28日に原告に対してした裁決(〇第〇号)を取り消 す。 3 被告は、原告に対し、17万9699円及びこれに対する令和3年5月19日から支払済みまで年5分(年365日の日割計算)の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、大阪府(住所省略)の土地及び建物(以下「本件土地等」という。)の固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)につき、A市長から、令和3年5月19日付けで原告の預金債権に対する差押処分(以下「本件差押処分」という。)を受け、これを不服として審査請求をしたが、既に取立て済みであるなどとしてこれを却下する旨の裁決(以下「本件却下裁決」 という。)を受けたため、平成23年度分から平成27年度分までの本件土地- 2 -等に係る固定資産税等(合計17万9700円。以下「本件固定資産税等」という。)は5年の時効により消滅しており、本件差押処分及び本件却下裁決は違法であると主張して、被告を相手に、①本件差押処分の取消し及び②本件却下裁決の取消しを求めるととも 以下「本件固定資産税等」という。)は5年の時効により消滅しており、本件差押処分及び本件却下裁決は違法であると主張して、被告を相手に、①本件差押処分の取消し及び②本件却下裁決の取消しを求めるとともに、被告に対し、③国家賠償法1条1項に基づき、本件固定資産税等のうち17万9699円及びこれに対する令和3年5月 19日(本件差押処分時)から支払済みまで年5分(年365日の日割計算)の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 関係法令等の定め(1) 地方税法17条の5第5項は、不動産取得税、固定資産税又は都市計画税に係る賦課決定は、同条3項及び4項の規定にかかわらず、法定納期限の翌 日から起算して5年を経過する日まですることができる旨規定する。 (2) 地方税法18条1項は、地方税の徴収権(地方団体の徴収金の徴収を目的とする地方団体の権利)は、法定納期限等の翌日から起算して5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定し、同条2項は、この場合には、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができない旨規定 し、同条3項は、地方税の徴収権の時効については、別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する旨規定する。 (3) 地方税法18条の2(ただし、平成29年法律第45号による改正前のもの。以下同じ。)第1項柱書きは、地方税の徴収権の時効は、同項各号に掲げる処分に係る部分の地方団体の徴収金につき、その処分の効力が生じた時に 中断し、当該各号に定める期間を経過した時から更に進行する旨規定し、同項1号は、「納付又は納入に関する告知その告知に指定された納付又は納入に関する期限までの期間」と規定し、同項2号は、「督促督促状又は督促のための納付若しくは納入の催告書を発した日から起算して10日を は、「納付又は納入に関する告知その告知に指定された納付又は納入に関する期限までの期間」と規定し、同項2号は、「督促督促状又は督促のための納付若しくは納入の催告書を発した日から起算して10日を経過した日(中略)までの期間」と規定する。 2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に- 3 -認められる事実。なお、証拠番号は特記なき限り枝番号を含む。)(1) 本件差押処分(甲1)A市長は、原告に本件土地等の固定資産税等とその延滞金(平成23年度分から令和2年度分までの固定資産税等とその延滞金。ただし、平成28年度分及び平成29年度分の固定資産税等を除く。)の滞納があるとして、令和 3年5月19日付けで、原告が株式会社りそな銀行(B支店扱い。以下「りそな銀行」という。)に対して有する預金の払戻請求権47万4595円のうち38万6800円(以下「本件預金債権」という。)を差し押える本件差押処分をした。 (2) 原告の審査請求 原告は、令和3年7月15日、A市長に対し、本件差押処分の取消しを求める審査請求をした。 (3) A市長による一部取立て等(乙1)A市長は、令和3年11月15日、本件預金債権のうち17万9700円を取り立て、これを本件固定資産税等に充当し、残りの20万7100円に ついて本件差押処分を解除した。 (4) 本件却下裁決(甲2)A市長は、令和4年1月28日、上記(3)の本件預金債権の一部取立て及び本件差押処分の一部解除がされたことを理由に、原告の審査請求を却下する旨の本件却下裁決をした。 (5) 本件訴えの提起等原告は、令和4年2月9日、本件却下裁決の取消し等を求める本件訴えを 一部解除がされたことを理由に、原告の審査請求を却下する旨の本件却下裁決をした。 (5) 本件訴えの提起等原告は、令和4年2月9日、本件却下裁決の取消し等を求める本件訴えを提起し、同年5月24日、本件差押処分の取消しを求める訴えを本件訴えに追加的に併合して提起した(行政事件訴訟法19条1項、20条)。 3 争点 (本案前の主張)- 4 -(1) 本件差押処分の取消しを求める訴えの利益の有無(争点1)(2) 本件却下裁決の取消しを求める訴えの利益の有無(争点2)(本案の主張)(3) 本件差押処分の適法性・本件固定資産税等の消滅時効等の成否(争点3)(4) 本件却下裁決の適法性(争点4) (5) 国家賠償法上の違法性等(争点5) 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(本件差押処分の取消しを求める訴えの利益の有無)について(被告の主張)本件差押処分に関し、A市長は、令和3年11月15日、差し押さえた本 件預金債権38万6800円のうち17万9700円を取り立て、20万7100円について本件差押処分を解除した。これにより、本件差押処分の法的効果は、取り立てた部分(以下「本件取立部分」という。)についてはその目的を達して消滅し、解除した部分(以下「本件解除部分」という。)については将来に向かってその効力を失った。したがって、原告が本件差押処分の 取消しによって回復すべき法律上の利益はなく、本件差押処分の取消しを求める訴えの利益はない。 (原告の主張)争う。 (2) 争点2(本件却下裁決の取消しを求める訴えの利益の有無)について (被告の主張)本件却下裁決の原処分たる本件差 益はない。 (原告の主張)争う。 (2) 争点2(本件却下裁決の取消しを求める訴えの利益の有無)について (被告の主張)本件却下裁決の原処分たる本件差押処分の取消しを求める訴えの利益が消滅した場合には、本件却下裁決の取消しを求める訴えについても、訴えの利益が消滅する。上記(1)(被告の主張)記載のとおり、本件差押処分の取消しを求める訴えの利益は消滅したから、本件却下裁決の取消しを求める訴えの 利益もない。 - 5 -(原告の主張)争う。 (3) 争点3(本件差押処分の適法性・本件固定資産税等の消滅時効等の成否)について(被告の主張) ア A市長は、平成28年1月28日、原告及びC(原告の弟)に対し、本件固定資産税等(平成23年度分から平成27年度分までの固定資産税等)につき賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をし、同年3月31日を納期限とする納税通知書(以下「本件納税通知書」という。)を送付した。 本件固定資産税等については、本件賦課決定時において、その賦課権に係 る5年の除斥期間(法定納期限の翌日から起算して5年。地方税法17条の5第5項)を経過しておらず、また、本件納税通知書により、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効は、指定された納期限である平成28年3月31日まで中断し、その翌日である同年4月1日から、更に5年の消滅時効期間が進行した(地方税法18条の2第1項1号)。 イ A市長は、平成28年4月25日、原告及びCに対し、本件固定資産税等の滞納に係る同日付け督促状(以下「本件督促状」という。)を発した。 これにより、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効は、本件督促状を発した日から起算して10日を経過した平成28年5月5日 固定資産税等の滞納に係る同日付け督促状(以下「本件督促状」という。)を発した。 これにより、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効は、本件督促状を発した日から起算して10日を経過した平成28年5月5日まで中断し、その翌日である同月6日から、更に5年の消滅時効期間が進行することとなっ た(地方税法18条の2第1項2号)。 ウ被告は、令和3年4月21日、原告に対し、差押予告書(以下「本件差押予告書」という。)を簡易書留で送付して催告し、同月28日、本件差押予告書が原告に到達した。これにより、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効の完成は、民法150条の準用により、6か月間猶予された(最高裁昭 和43年6月27日第一小法廷判決・民集22巻6号1379頁)。 - 6 -エ A市長は、上記ウの時効完成の猶予期間中である令和3年5月19日、本件差押処分をし、同月20日、債権差押通知書が第三債務者に送達され、同月19日付け差押調書(謄本)が原告に送達された。 以上の経過によれば、本件固定資産税等について、賦課権の除斥期間は未経過であり、徴収権の消滅時効も未完成であるから、本件差押処分は適 法である。 (原告の主張)固定資産税は5年の経過により時効消滅する。賦課決定の通知は、単なる催告としての効力を有するにすぎない(最高裁令和2年6月26日第二小法廷判決・民集74巻4号759頁。以下「令和2年最判」という。)。そうす ると、本件固定資産税等は、本件差押処分の時点で既に時効により消滅しているから、本件差押処分は違法である。 (4) 争点4(本件却下裁決の適法性)について(被告の主張)本件却下裁決の取消訴訟において、原処分たる本件差押処分の違法は主張 し得ない。原告は、本件差押処分 である。 (4) 争点4(本件却下裁決の適法性)について(被告の主張)本件却下裁決の取消訴訟において、原処分たる本件差押処分の違法は主張 し得ない。原告は、本件差押処分に関し消滅時効を主張するのみであり、原告の主張は失当である。 なお、仮に本件差押処分の取消しを求める訴えの利益が認められるとしても、本件差押処分は適正にされたものであり、本件差押処分の取消請求は棄却されるべきであるから、原告の審査請求を却下した本件裁決について、そ の固有の瑕疵等の有無にかかわらず、本件裁決を取り消す利益はない(最高裁昭和37年12月26日第二小法廷判決・民集16巻12号2557頁参照)。 (原告の主張)上記(3)(原告の主張)に記載のとおりであって、本件却下裁決は違法であ る。 - 7 -(5) 争点5(国家賠償法上の違法性等)について(原告の主張)上記(3)(原告の主張)記載のとおり、本件固定資産税等は時効により消滅していたから、A市長が本件差押処分をしたことは国家賠償法上違法であり、被告は、原告に対し、本件固定資産税等のうち17万9699円の損害を賠 償する責任がある。 (被告の主張)上記(3)(被告の主張)に記載のとおり、本件差押処分は適法であるから、国家賠償法上も違法ではない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提となる事実に証拠(甲2のほか、掲記の各証拠)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。 (1) 原告の父の死亡等(乙5)原告の父であるD(以下「亡D」という。)は、生前、本件土地等の所有者 であり、本件土地等の固定資産税等の納税義務者であったが、平成13年▲月▲日に死亡した。 の父の死亡等(乙5)原告の父であるD(以下「亡D」という。)は、生前、本件土地等の所有者 であり、本件土地等の固定資産税等の納税義務者であったが、平成13年▲月▲日に死亡した。 亡Dの死亡後も、本件土地等につき相続登記はされず、A市の固定資産税課への届出もされなかったことから、A市長は、平成27年度分まで、登記簿上の所有名義人である亡Dに宛てて、本件土地等の固定資産税等の納税通 知書を送付していた。 (2) 本件納税通知書の送付(乙6)本件土地等の固定資産税等は、平成21年度分までは問題なく納付されていたが、平成22年度分から納付が遅れ、同年度の第4期分から納付されなくなり、その後も滞納が続いた。そこで、被告が調査したところ、亡Dが平 成13年▲月▲日に死亡していたこと、原告及びCが亡Dの法定相続人であ- 8 -ることが判明した(なお、その後に原告の姉の存在も判明した。)。 そこで、A市長は、平成28年1月28日付けで、原告及びCに対し、本件固定資産税等(内訳は以下のとおり。)の賦課決定(本件賦課決定)をし、その頃、同年3月31日を納期限とする本件納税通知書を送付した。 年度固定資産税都市計画税合計年税額平成23年度2万6600円8700円3万5300円平成24年度2万6600円8700円3万5300円平成25年度2万6600円8700円3万5300円平成26年度2万7300円9000円3万6300円平成27年度2万8100円9400円3万7500円(3) 本件督促状(乙8) A市長は、平成28年4月25日、原告及びCに対し、本件固定資産税等の滞納に関する同日付けの本件督促状を発し 100円9400円3万7500円(3) 本件督促状(乙8) A市長は、平成28年4月25日、原告及びCに対し、本件固定資産税等の滞納に関する同日付けの本件督促状を発した。 (4) 原告による一部納付(甲1)原告は、令和2年10月13日、被告に対し、平成28年度分及び平成29年度分の本件土地等の固定資産税等を納付した。しかし、その後も、本件 固定資産税等とその延滞金、平成28年度分及び平成29年度分の延滞金、平成30年度分から令和2年度分までの固定資産税等とその延滞金については、滞納が続いた。 (5) 本件差押予告書の送付(乙9)A市長は、令和3年4月21日、原告に対し、本件固定資産税等を含む上 記(4)の滞納分に関し、本件差押予告書を簡易書留で送付し、同月28日、本件差押予告書が原告に到達した。 (6) 本件差押処分(甲1)A市長は、本件固定資産税等(17万9700円)を含む上記(4)の滞納分に関し、令和3年5月19日付けで、原告がりそな銀行に対して有する本件 - 9 -預金債権を差し押える本件差押処分をし、同月20日頃、債権差押通知書がりそな銀行に送達された。また、同年6月8日、同年5月19日付け「差押調書(謄本)」が原告に到達した。 (7) 原告による一部納付原告は、令和3年6月23日、被告に対し、平成30年度分から令和2年 度分までの本件土地等の固定資産税等を納付した。 (8) A市長による取立て等(乙1)原告は、A市長に対し、令和3年7月15日、本件差押処分の取消しを求める旨の審査請求をし、同年11月12日、本件預金債権の一部取立てと一部解除を至急行うことを要望した。A市長は、同月15日、本件預金債権の うち17万9 年7月15日、本件差押処分の取消しを求める旨の審査請求をし、同年11月12日、本件預金債権の一部取立てと一部解除を至急行うことを要望した。A市長は、同月15日、本件預金債権の うち17万9700円を取り立て、これを本件固定資産税等に充当し、その余の20万7100円について本件差押処分を解除した。 (9) 本件却下裁決(甲2)A市長は、令和4年1月28日、上記(8)の本件預金債権の一部取立て及び本件差押処分の一部解除がされたことを理由に、原告の審査請求を却下する 旨の本件却下裁決をした。 2 争点1(本件差押処分の取消しを求める訴えの利益の有無)について(1) 本件取立部分(本件差押処分のうち取り立てられた17万9700円の部分)についてア行政事件訴訟法9条1項は、処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴 えは、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる旨規定する。 地方税法373条7項は、同条1項ないし6項に定めるものその他固定 資産税に係る地方団体の徴収金の滞納処分については、国税徴収法に規定- 10 -する滞納処分の例による旨規定するところ(なお、都市計画税については同法702条の8第1項により固定資産税の規定が準用される。)、同法373条1項により市町村の徴税吏員(市長村長又はその委任を受けた市町村職員。同法1条1項3号)が固定資産税の滞納者の債権を差し押さえ、その後、同法373条7項が準用する国税徴収法67条1項に基づいて当 該債権を取り立てた(第三債務者による被差押債 を受けた市町村職員。同法1条1項3号)が固定資産税の滞納者の債権を差し押さえ、その後、同法373条7項が準用する国税徴収法67条1項に基づいて当 該債権を取り立てた(第三債務者による被差押債権の弁済を受領した)場合には、債権差押処分の法的効果である弁済禁止効・処分禁止効(同法62条2項)は、その目的を達して消滅するものと解され、行政事件訴訟法9条1項かっこ書の「処分…の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった」場合に該当することとなる。 もっとも、同項かっこ書によれば、「処分…の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後」においても、「なお処分…の取消しによって回復すべき法律上の利益」がある場合には、当該債権差押処分の取消しを求める訴えの利益は失われない。 そこで、以下、本件取立部分の効果が取立ての完了により消滅した後に おいてもなお原告に本件取立部分の取消しによって回復すべき法律上の利益があるといえるか、具体的には、本件取立部分の取消し(取消判決の確定)により、原告が、被告から、取り立てられた債権に係る金銭の返還を受けることが可能となるか否かにつき、検討する。 イ地方税法373条7項が準用する国税徴収法67条1項は、「徴収職員は、 差し押えた債権の取立をすることができる。」と規定しており、その文言によれば、固定資産税の滞納に係る徴税吏員による債権の取立権限(取立権限の取得と行使)は、債権差押処分が有効なものとして存在することを前提とするものと解される。 そうすると、差し押さえられた債権の取立てが完了した場合(その後の 配当処分や充当が完了した場合も含む。)であっても、その前提である債権- 11 -差押処分が取り消された場合には、徴税吏員による債権の取立ては、 えられた債権の取立てが完了した場合(その後の 配当処分や充当が完了した場合も含む。)であっても、その前提である債権- 11 -差押処分が取り消された場合には、徴税吏員による債権の取立ては、遡及的にその前提を欠くことになり、当該市町村は、取立権限(第三債務者からの弁済の受領権限)なく行われた取立てに基づいて金銭を保持していることとなるから、滞納者は、当該金銭を保持する市町村に対し、法律上の原因なく利益を受けているものとして、民法703条に基づく不当利得返 還請求をすることができると解するのが相当である(なお、吉国二郎ほか編「国税徴収法精解(第19版)」656頁は、「差押処分についての不服申立てについての決定若しくは裁決又は判決によって、差押処分の全部又は一部が取り消されたときは、差押えが解除された場合と異なり、その取消しの効果は、差押処分の当初にさかのぼる。したがって、例えば、取消 しまでに…第三債務者から給付を受けた財産等は、滞納者に返還しなければならない。」としており、上記と同様の理解によるものと解される。)。 したがって、本件においても、本件取立部分が取り消された場合には、A市長による17万9700円の取立ては、遡及的に取立権限(りそな銀行からの弁済の受領権限)なく行われたものとなり、滞納者である原告は、 被告に対し、民法703条に基づく不当利得返還請求をすることが可能になると解される。 そうすると、本件取立部分(本件差押処分のうち取り立てられた17万9700円の部分)については、その効果が消滅した後においてもなお原告にその取消しによって回復すべき法律上の利益があるというべきである から、行政事件訴訟法9条1項かっこ書により、原告は、本件取立部分の取消しを求める訴えの利益を有 消滅した後においてもなお原告にその取消しによって回復すべき法律上の利益があるというべきである から、行政事件訴訟法9条1項かっこ書により、原告は、本件取立部分の取消しを求める訴えの利益を有すると解するのが相当である。 ウこの点につき、被告は、①取立ての完了を理由として債権差押処分の取消しを求める訴えの利益を否定した大阪高裁令和元年9月26日判決・判タ1470号31頁(乙2)や、②同じく訴えの利益を否定した広島高裁 松江支部平成6年3月30日判決を是認した最高裁平成7年2月10日第- 12 -二小法廷判決・D1-Law(乙11、12)を挙げて、本件差押処分についてもその取消しを求める訴えの利益は否定される旨主張する。 しかし、上記①の大阪高裁判決は、訴えの利益を否定する理由として、債権差押処分の取消しを経なくとも、当該処分が差押禁止規定に反することを理由に不当利得返還請求権を行使することができる(すなわち、債権 差押処分が取り消されることは損失回復の前提条件ではない)ことを挙げるが、行政処分は無効であるか又は取り消されない限り有効なものとして取り扱われるのであるから、単に債権差押処分が違法であるというだけでは、取立権限(弁済の受領権限)が失われて法律上の原因を欠くことにはならず、不当利得返還請求権を行使することはできないのではないかとい う疑問があり、その点の疑問を払しょくすることができない。また、上記②の広島高裁松江支部判決を是認した最高裁判決については、民事訴訟法の改正により決定処理が可能となる前の例文による上告棄却判決である上、当該事件の原告(控訴人)の主張によれば、差し押さえられた預金債権は第三者に帰属するというのであって、その主張が認められる場合には債権 差押処分は無効とな 前の例文による上告棄却判決である上、当該事件の原告(控訴人)の主張によれば、差し押さえられた預金債権は第三者に帰属するというのであって、その主張が認められる場合には債権 差押処分は無効となるとされているのであるから(乙12の2)、その取消しを求めるまでもなく直ちに差押処分の無効を主張して不当利得返還請求をすることが可能な事案であったということができ、本件とは事案を異にするというべきである。被告の上記主張はいずれも採用することができない。 (2) 本件解除部分(本件差押処分のうち解除された20万7100円の部分)について認定事実(8)のとおり、A市長は、令和3年7月15日、本件預金債権のうち17万9700円を取り立て、その余の20万7100円について本件差押処分を解除したことが認められる。なお、原告は、解除された20万710 0円を含む21万4897円を、令和3年11月16日に預金口座から引き- 13 -出したことが認められる(甲5)。 そして、差押処分の解除(国税徴収法79条)は、差押処分による処分禁止等の効力を将来に向かって失わせるものであり、差押処分の効果が消滅した後においてもなおその取消しによって回復すべき法律上の利益があるとは認められないから、原告は、本件解除部分(本件差押処分のうち解除された 20万7100円の部分)につき、その取消しを求める訴えの利益を有しないと解するのが相当である。 (3) 小括以上によれば、本件差押処分のうち、本件取立部分については取消しを求める訴えの利益があるが、本件解除部分については取消しを求める訴えの利 益はないというべきである。 3 争点2(本件却下裁決の取消しを求める訴えの利益の有無)について(1) 被告は、 求める訴えの利益があるが、本件解除部分については取消しを求める訴えの利 益はないというべきである。 3 争点2(本件却下裁決の取消しを求める訴えの利益の有無)について(1) 被告は、本件却下裁決の原処分である本件差押処分の取消しを求める訴えの利益が消滅した場合には、本件却下裁決の取消しを求める訴えの利益も消滅すると主張する。 ア本件却下裁決のうち本件取立部分に係る審査請求を却下した部分本件却下裁決のうち本件取立部分に係る審査請求を却下した部分については、上記2のとおり、本件取立部分の取消しを求める訴えの利益は認められるというべきであるから、被告の主張は、その前提を欠くものであって採用することができない。 イ本件却下裁決のうち本件解除部分に係る審査請求を却下した部分審査請求が不適法であるとして審査請求を却下する裁決がされた場合において、その取消訴訟の審理の結果、審査請求は適法であったとして上記却下裁決が判決により取り消されたときは、却下裁決がされていない状態に復することにより、当初の審査請求につき改めて裁決行政庁による審査 を受けることが可能となる。そうすると、原告の審査請求が適法であるか- 14 -どうかは、本件却下裁決の適法性という正に本案の問題であるというべきであるから、原告は、本件却下裁決のうち上記部分についても、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有するというべきである。これに反する被告の主張は採用することができない。 (2) よって、本件却下裁決の取消しを求める訴えの利益はあるというべきであ る。 4 争点3(本件差押処分の適法性・本件固定資産税等の消滅時効等の成否)について(1) 賦課権の除斥期間について原告が地方税法17条の5第5項の除斥 あるというべきであ る。 4 争点3(本件差押処分の適法性・本件固定資産税等の消滅時効等の成否)について(1) 賦課権の除斥期間について原告が地方税法17条の5第5項の除斥期間の経過を主張する趣旨かどう かは判然とせず、また、これは本件賦課決定の違法事由であって本件差押処分の違法事由とはいえないが、念のため判断する。 地方税法17条の5第5項は、不動産取得税、固定資産税又は都市計画税に係る賦課決定は、同条3項及び4項の規定にかかわらず、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まですることができる旨規定する。 そして、本件固定資産税等の法定納期限は、最も古い平成23年度分につき平成23年5月31日であるが(各年5月31日。固定資産税につき地方税法362条1項及びA市市税条例73条1項、都市計画税につき同法702条の7第1項及び同条例139条1項、第1期の納期限が当該年度分の法定納期限とされることにつき同法11条の4第1項)、A市長は、原告に対 し、その翌日から起算して5年を経過する前の平成28年1月28日付けで本件賦課決定をし、その頃、本件納税通知書を送付したことが認められるから(認定事実(2))、本件固定資産税等につき、地方税法17条の5第5項の5年の除斥期間は経過していない。 したがって、本件賦課決定の時点において、地方税法17条の5第5項の 5年の除斥期間は経過していなかったと認められる。 - 15 -(2) 徴収権の消滅時効についてア地方税法18条1項は、地方税の徴収権(地方団体の徴収金の徴収を目的とする地方団体の権利)は、法定納期限等の翌日から起算して5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定する。 本件固定資産税等の法定納期限は、最も古い平成 権(地方団体の徴収金の徴収を目的とする地方団体の権利)は、法定納期限等の翌日から起算して5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定する。 本件固定資産税等の法定納期限は、最も古い平成23年度分につき平成 23年5月31日(各年5月31日)であるが(上記(1))、A市長は、原告に対し、その翌日から起算して5年を経過する前の平成28年1月28日付けで本件賦課決定をし、その頃、同年3月31日を納期限とする本件納税通知書を送付したことが認められる(認定事実(2))。そのため、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効は、本件納税通知書に指定された納期限 である同日まで中断し、同年4月1日から新たに(消滅時効期間の初日から)進行を開始したと認められる(地方税法18条の2第1項柱書き及び同項1号。なお、本件納税通知書は、同号の「納付又は納入に関する告知」に該当する。)。 さらに、A市長は、平成28年4月25日、原告に対し、本件固定資産 税等の滞納に関する本件督促状を発したことが認められるから(認定事実(3))、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効は、本件督促状を発した日から起算して10日を経過した同年5月5日まで中断し、その翌日である同月6日から新たに(消滅時効期間の初日から)進行を開始したと認められる(地方税法18条の2第1項柱書き及び同項2号)。 そして、A市長は、令和3年4月21日、原告に対し、本件固定資産税等を含む滞納分に関し、本件差押予告書を簡易書留で送付し、同月28日、本件差押予告書が原告に到達したことが認められるから(認定事実(5))、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効の完成は、催告に係る民法150条1項の準用により、本件差押予告書の到達から6か月間猶予されたものと 解される(乙10、前掲最高 れるから(認定事実(5))、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効の完成は、催告に係る民法150条1項の準用により、本件差押予告書の到達から6か月間猶予されたものと 解される(乙10、前掲最高裁昭和43年6月27日第一小法廷判決参照)。 - 16 -そうすると、A市長は、本件差押予告書の到達から約1か月後の令和3年5月19日付けで本件差押処分をし、同月20日頃、債権差押通知書がりそな銀行(第三債務者)に送達されたことが認められるから(認定事実(6))、本件差押処分の時点で、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効は完成していなかったというべきである。 したがって、本件差押処分の時点において、本件固定資産税等の徴収権の消滅時効(地方税法18条1項)は完成していなかったと認められる。 イ原告の主張についてこの点につき、原告は、令和2年最判(甲3)によれば、賦課決定の通知は単なる催告としての効力を有するにすぎないから、本件固定資産税等の 徴収権の消滅時効は完成していると主張するようである。 しかし、令和2年最判は、「(地方税法18条の2第1項1号)に基づく時効中断の効力は、最初に行われた納付又は納入の告知についてのみ生じ、その後、再度同様の通知がされたとしても、その通知は単なる催告としての効力を有するにとどまる」とした上、当該事案においては、(生前の)被 相続人に対し既に納付又は納入の告知がされているから、その納税義務を承継した相続人に対する通知は、最初に行われた納付又は納入の告知には当たらず、地方税法18条の2第1項1号に基づく消滅時効の中断の効力を有しないとしたものである。これに対し、本件は、亡Dが平成13年に死亡した(認定事実(1))後の平成23年度分から平成27年度分までの本 件固定資産税等 1項1号に基づく消滅時効の中断の効力を有しないとしたものである。これに対し、本件は、亡Dが平成13年に死亡した(認定事実(1))後の平成23年度分から平成27年度分までの本 件固定資産税等に係る事案であって、令和2年最判の事案のように原告が亡Dの納税義務を承継したものではないから、本件納税通知書は令和2年最判にいう「最初に行われた納付又は納入の告知」であって、地方税法18条の2第1項1号に基づく消滅時効の中断の効力を有するものというべきである。したがって、令和2年最判は本件と事案を異にするものであり、 原告の主張は採用することができない。 - 17 -(3) 小括以上によれば、本件差押処分に原告の主張する違法事由はないというべきであり、その他にこれを違法とすべき事情も見当たらないから、本件差押処分は適法であると認められる。 よって、本件差押処分(本件取立部分)の取消しを求める請求は、理由が ない。 5 争点4(本件却下裁決の適法性)について原告は、本件差押処分の取消しを求める理由と同様の理由により、本件却下裁決が違法である旨を主張しているものと解されるが、上記4のとおり、原告の主張は採用することができない。 なお、本件差押処分のうち本件取立部分については、その取消しを求める訴えの利益が認められるから(上記2)、本件取立部分に係る審査請求も適法というべきであって、これを却下すべきではなかったと考えられる。もっとも、原告はこの点を含め裁決固有の瑕疵につき何ら主張していない上、上記4のとおり、原処分である本件差押処分(本件取立部分)は適法であると認められ、本 判決においてその取消請求を棄却する旨の判断をする以上、本件却下裁決を一部取り消しても新たに棄却裁決がされるにすぎず、本 り、原処分である本件差押処分(本件取立部分)は適法であると認められ、本 判決においてその取消請求を棄却する旨の判断をする以上、本件却下裁決を一部取り消しても新たに棄却裁決がされるにすぎず、本件却下裁決を取り消す意味はないから、上記の点を理由として本件却下裁決を取り消すべきではないと解するのが相当である(前掲最高裁昭和37年12月26日第二小法廷判決参照)。 よって、本件却下裁決の取消しを求める請求は、理由がない。 6 争点5(国家賠償法上の違法性等)について上記4によれば、本件差押処分は適法であるから、A市長が本件差押処分をしたことにつき国家賠償法上の違法があるとは認められない。 よって、原告の国家賠償請求は、理由がない。 第4 結論- 18 -以上によれば、本件訴えのうち、本件解除部分の取消しを求める訴えは不適法であるからこれを却下し、原告のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官徳地 淳 裁判官新宮智之 裁判官太田章子

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