令和4(わ)159 殺人未遂、道路交通法違反、傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
令和4年12月12日 札幌地方裁判所
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判決文本文9,521 文字)

令和4年12月12日宣告令和4年(わ)第159号、第192号判決上記の者に対する殺人未遂、道路交通法違反、傷害被告事件について、当裁判所は、裁判員の参加する合議体により、検察官大友隆、同下村陸博及び同花村大、並びに国選弁護人高橋健太(主任)及び同市毛智子各出席の上審理し、次のとおり判決する。 主文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 令和3年6月18日午後5時41分頃、北海道苫小牧市a町b丁目c番付近の片側2車線道路の第2車線を室蘭市方面から千歳市方面に向かい普通乗用自動車(以下「自車」又は「被告人車」ともいう。)を運転して進行するに当たり、自車の後方を同方向に向かって時速約45kmで進行するA運転の普通乗用自動車(以下「A車」という。)の通行を妨害する目的で、危険を防止するためやむを得ない場合でないのに、速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけるなどして自車を同車線上に停止させ、もってA車の道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法による運転をし、第2 同日午後5時44分頃から同日午後5時49分頃までの間、北海道苫小牧市d町e丁目f番先路上から同市g町h丁目i番j号B駐車場(以下「コインランドリー駐車場」という。)内までの間において、自車を運転し、A(当時51歳)が運転するA車の左側面部及び後部等に自車を多数回衝突させるなどの暴行を加え、よって、Aに加療約14日間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせ、 第3 同日午後5時49分頃、同市k町l丁目m番n号C駐車場(以下「コンビニ駐車場」という。)において、自車の左前方に自転車にまたがり立っていたD(当時 日間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせ、 第3 同日午後5時49分頃、同市k町l丁目m番n号C駐車場(以下「コンビニ駐車場」という。)において、自車の左前方に自転車にまたがり立っていたD(当時66歳)に対し、殺意をもって、ハンドルを左に切りながらDに向けて自車を急発進させて、Dに衝突させ、同人を自転車もろとも自車前部ないしボンネット上に跳ね上げ、そのまま自車を加速させてDを同駐車場内に転落させるなどしたが、同人に加療約2週間を要する右肘・右膝擦過傷等の傷害を負わせたにとどまり、同人を死亡させるに至らなかった。 (証拠の標目)省略(法令の適用)省略(争点に対する判断) 1 争点判示各事実の外形的事実に争いはなく、本件の争点は、①殺人未遂被告事件における殺意の有無及び②各被告事件を通じての責任能力の程度である。 2 前提事実(関係証拠から容易に認められ、おおむね争いがない。)被告人は、令和3年6月18日、母親を自車に同乗させて2件のパチンコ店を訪れた。被告人は、2件目のパチンコ店駐車場から移動するに当たり、自車で、片側2車線道路の第1車線に進入した。その後、第2車線に車線変更し、同車線を走行していたA車の前に出たが、その際、Aからクラクションを鳴らされた。 被告人は、クラクションを鳴らされた直後、自車に急ブレーキをかけ減速して、A車にも減速を余儀なくさせた。被告人は、まもなく再び急ブレーキをかけてA車の前で自車を停止し、A車を停止させた(判示第1の犯行)。その後、A車が被告人車を追い抜き、交差点付近で信号待ちのため右折専用車線で停止すると、被告人車はA車の左直近に停車した。 対面信号が青色になりA車が前進すると、被告人は、自車右側面をA車左側面に接触させながら、A車の前に出た上、自車を後退させてその後部をA車前部 線で停止すると、被告人車はA車の左直近に停車した。 対面信号が青色になりA車が前進すると、被告人は、自車右側面をA車左側面に接触させながら、A車の前に出た上、自車を後退させてその後部をA車前部に衝突させた(判示第2の犯行の開始)。さらに、被告人は、自車の向きを変えてA車の 左側に回り込み、自車前部をA車左側面に衝突させた。 その直後、A車はやや前進し、信号が赤色となり、交差点に進入する直前付近で停止した。被告人は、自車の向きを変えてA車後方に回り込み、自車前部をA車後部に向けて一旦停車し、通行人3名が目の前の横断歩道を横切ってから、発進して自車前部をA車後部に衝突させ、さらに、自車を後退させてから再び前進してA車に衝突させる行為を2回繰り返した。 A車は、対面信号が青色になると、発進して交差点を右折して、判示第2のコインランドリー駐車場に進入し停車した。被告人は、その間自車でA車を後方から押し続け、A車が停止するとそのすぐ後ろに停車し、自車を後退させては前進してA車に衝突させる行為を複数回繰り返した。 コインランドリー駐車場と地続きで隣接する判示第3のコンビニ駐車場内では、数名が衝突の様子を遠巻きに見ており、中には衝突の様子を携帯電話機で撮影する者もいた。この頃、自転車で通りかかったDは、自らの携帯電話機で110番通報を開始した。 被告人は、コインランドリー駐車場において、A車への衝突の衝撃で外れた眼鏡を探すために一旦降車し、助手席側ドアを開けて自車内から眼鏡を発見し、眼鏡を掛け、再び運転席に戻った。 その頃、Dは、コンビニ駐車場内で、大声で110番通報を続けながら、自転車にまたがった状態で、被告人車の後方約6.9mまで接近した。 すると、被告人は、自車を右斜め後ろに後退させ、コンビニ駐車場脇の歩道上に一旦停止させ、続 場内で、大声で110番通報を続けながら、自転車にまたがった状態で、被告人車の後方約6.9mまで接近した。 すると、被告人は、自車を右斜め後ろに後退させ、コンビニ駐車場脇の歩道上に一旦停止させ、続いて、左前方に自車を旋回、発進させ、自車の左前方で自転車にまたがって立っていたDに対し、自車前部を時速約15.3kmで衝突させた。被告人は、Dを自転車もろとも自車前部に跳ね上げつつ、自車を時速約18.6kmまで加速させ、Dを地面に転落させた(判示第3の犯行。なお、速度については、吉川丞証言から認定したところ、同人は交通事故解析の専門家であり、コンピュータの分析による位置再現に基づく本件の説明は合理的であり、信用できる。)。 被告人は、Dへの衝突後、進行方向上にいた歩行者をよけ、自車を方向転換して進行させ、再びA車の後方に移動し、更に1回、A車後部に自車前部を衝突させて停止させた(判示第2の犯行の終了)。 被告人は、自車から降車し、判示第3のコンビニ出入口付近にいたDに対し、胸倉をつかむなどし、通行人らに取り押さえられた。 なお、パチンコ店からコインランドリー駐車場に至るまで、被告人車の助手席に被告人の母親が同乗しており、被告人の運転を注意したり、110番通報をしたりしていた。 3 争点①(殺意の有無)について⑴ 検察官は、被告人はDに対し意図的に自車を衝突させたのであり、Dに対する殺意があると主張する。これに対し、弁護人は、被告人はDの存在を認識しておらず、意図的に衝突させたのではなかったとして、殺意を争う。そこで、被告人が、Dに対し、意図的に自車を衝突させたかどうかを検討する。 前記前提事実のとおり、被告人は、コインランドリー駐車場で再び自車に乗車した後、一旦右斜め後ろに後退し、そこから左前方に旋回、発進して自車の左前方に 意図的に自車を衝突させたかどうかを検討する。 前記前提事実のとおり、被告人は、コインランドリー駐車場で再び自車に乗車した後、一旦右斜め後ろに後退し、そこから左前方に旋回、発進して自車の左前方に立っていたDだけに自車を衝突させ、更にその進行方向上にいた他の歩行者は避けて進行しており、その動き方自体、Dをめがけて衝突させたことを推認させるものである。 次に、被告人車からの見通し状況に関する再現結果によれば、被告人車が後退してコンビニ駐車場の歩道に停車した地点で、被告人車の運転席からは、自転車にまたがったDの体の少なくとも腰から上が左前方に確認でき、その視界を遮るものはない。また、Dはピンク色の上衣を着て、目立つ服装をしていた。そして、被告人車が正面からDに衝突していることや、運転者は車を運転する際に進行方向に視線を向けるはずであることからすれば、被告人は、遅くとも自車を左前方に旋回、発進させた際、Dの上半身が視野に入り、Dの存在を認識していたことは動かし難いというべきである。 その上で、衝突前後の被告人車の速度について検討すると、被告人車は、衝突後、Dが被告人車から落下し、Dが乗っていた自転車に乗り上げるまで加速しており、加速の間被告人がアクセルを踏んだ状態であったことが認められる。仮にDに衝突させるつもりがなかったのであれば、衝突に気付いた時点でブレーキを踏むなどして停車しようとするはずであるから、これに反して加速したことは、被告人が当初からDに自車を衝突させる意図であったことを推認させる。 さらに、被告人は、自車をDとA車に衝突させて降車した後、少し離れた前記コンビニの出入口付近にしゃがみ込んでいたDのもとまで歩み寄って、暴行を加えている。出入口付近のDの周囲には他の通行人もいたことを踏まえ、前記衝突前後の経緯も考 衝突させて降車した後、少し離れた前記コンビニの出入口付近にしゃがみ込んでいたDのもとまで歩み寄って、暴行を加えている。出入口付近のDの周囲には他の通行人もいたことを踏まえ、前記衝突前後の経緯も考慮すると、被告人は、自車での衝突やその後に歩み寄っての暴行を通じて、Dだけを選んで攻撃を加えたとしか考えられない。 Dは、被告人車との衝突前に、ひとりで被告人車のすぐ後ろまで近づいていき、左手で持った携帯電話機を顔の下あたりに掲げ、スピーカーフォンの機能を用いて大声で110番通報をしていた。Dの通話内容が詳しく被告人に聞こえていたとは断定できないが、被告人車のドライブレコーダーにDの声が録音されていることからすると、その声自体は運転席にいた被告人に聞こえていたと考えられる。前記Dの服装も考慮すれば、被告人は、自車を後退させる前の段階でも、Dの存在を認識していたと考えられる。そして、被告人は、110番通報をされたことに対する怒りといえるかには疑問が残るものの、Dが大声で話しながら自車周辺に近付くなどしたことにいら立った、Dが動画撮影をしていると勘違いしたなどの何らかの理由から、Dに対して怒りを抱いたと理解することが可能である。被告人は、Dに対する衝突の前から、A車に衝突を繰り返すほど強い怒りで興奮状態にあったことから、このような理由であっても、Dに対し、意図的に自車を衝突させる動機になり得ると考えられる。 以上からすれば、被告人が、Dの存在を認識して、意図的に自車を衝突させたことを認める上で、十分な証拠や事情があるといえる。 ⑵ これに対し、被告人は、Dの存在には気付いていなかった、自車の様子を撮影している野次馬に対して威嚇するために野次馬に向かって走行した、Dに暴行を加えたのは携帯電話機を操作している様子を見て動画をアップロードして 被告人は、Dの存在には気付いていなかった、自車の様子を撮影している野次馬に対して威嚇するために野次馬に向かって走行した、Dに暴行を加えたのは携帯電話機を操作している様子を見て動画をアップロードしていると思い、やめさせようと考えたからであり、衝突した人とは気づいていなかったと供述する。 しかし、被告人自身、犯行当時、Aに対して立腹していたことを認めており、前記犯行態様からしても、興奮状態にあったことが認められ、犯行当時の供述の正確性に疑問がある。前記検討のとおり、現に衝突間際に目の前に見えていたはずのDを認識していなかったという供述は、事実に反すると考えられるし、野次馬を威嚇するために野次馬に向かって走行したとの供述は、当時の状況に整合するものとはいい難い。このように、被告人の供述はその信用性に疑問があり、前記認定に疑いを生じさせるものではない。 したがって、被告人が、Dを認識して、意図的に自車を衝突させたことは、常識に照らして間違いなく、合理的な疑いはない。 ⑶ 被告人は、時速約15.3kmの速度でDに衝突し、Dが自車の前部上に跳ね上げられ、その前方に落下しつつあるのに、更に自車を時速約18.6kmまで加速させ、Dを地面に転倒させている。このような行為は、Dに対し、その頭部を自車や地面に強打させたり、その身体を自車で轢過したりして、死亡させる危険性が高い。そして、被告人は、Dへの衝突後、他の通行人は避けていることなどからすれば、自車を生身の人間に衝突させる行為の危険性を認識していたと考えられる。 以上からすれば、被告人は、Dに対し意図的に自車を衝突させた当時、この行為によって人が死ぬ危険性が高いと認識していたというべきであり、Dに対する殺意が認められる。 ⑷ 以上のとおり、被告人は、Dに対し意図的に自車を衝突させたと認められ、D 車を衝突させた当時、この行為によって人が死ぬ危険性が高いと認識していたというべきであり、Dに対する殺意が認められる。 ⑷ 以上のとおり、被告人は、Dに対し意図的に自車を衝突させたと認められ、Dに対する殺意が認められる。 4 争点②(責任能力の程度)について⑴ 弁護人は、被告人は、精神遅滞及び広汎性発達障害の影響により、自己の行為 の善悪を判断する能力又はその判断に従って行動を制御する能力が著しく低下していたと主張し、検察官は著しくは低下していなかったと主張する。 ⑵ 起訴前に被告人の精神鑑定を行った中島公博医師(以下「中島医師」という。)は、犯行当時の被告人の精神障害の有無並びに存在する場合に犯行に及ぼした影響の有無及び機序について、以下のとおり証言する。 被告人は、犯行当時、精神遅滞及び広汎性発達障害の精神障害(以下、併せて「各精神障害」という。)を有していたが、検査結果や相当程度自力で社会生活を営んでいたことなどからすれば、いずれもその程度は軽度である。各精神障害が被告人の状況認識に与えた影響として、軽度精神遅滞によって後先が考えづらくなることがあるとしても、被告人は、A車に衝突を始める前に赤信号で止まったり、A車及びD以外の者に衝突しないようにするなど怒りの対象を認識できていた。各精神障害が犯意形成・犯罪実行に与えた影響をみると、ストレスを受けた場面では、衝動性の制御やその場面に適した問題解決が難しくなる面があった。他方で、犯行に及んだ動機はAに対する腹いせ及びAへの怒りが自己の行為を周囲で見ていた第三者に広がったことにあると理解でき、違法性の認識に関しても、被告人は、取り押さえられた後警察官が来るまで静かに待機し、警察官の求めに応じてパトカーに移動し、現行犯逮捕に「仕方ないですね」と応じていることが指摘できる。ま ると理解でき、違法性の認識に関しても、被告人は、取り押さえられた後警察官が来るまで静かに待機し、警察官の求めに応じてパトカーに移動し、現行犯逮捕に「仕方ないですね」と応じていることが指摘できる。また、犯行前、被告人が処方されていた向精神薬等を服用していなかったということであるが、処方されていた向精神薬の量が通常量であることや、一般的にそれらの薬を飲まなかったからといって認知機能が低下したり視野狭窄になったりするようなことはないこと、現に状況に応じた判断ができていたことからすれば、不眠が続いていら立ちが強まりやすい状態であったなどの犯行に対する影響を完全に否定することはできないものの、その程度はわずかである。 中島医師は、精神科の専門医であり、刑事事件における鑑定の経験も豊富である。 また、前記説明は、被告人の問診や証拠書類を元に精神医学上の知見に基づいて述べられたものであり、その前提とする事実認定も含めて、不自然、不合理な点はな い。したがって、中島医師の前記説明は採用できる。 ⑶ そこで、中島医師の証言する精神障害及びそれが犯行に及ぼした影響を踏まえ、被告人について、自己の行為の善悪を判断する能力及びその判断に従って行動を制御する能力が著しく低下していたかについて検討する。 犯行の動機について検討すると、被告人は、Aからクラクションを鳴らされたことに立腹し、Aに対する犯行に及んだ。Dに対しては、前記検討のとおり、大声で話しながら自車後方に近付くなどしたことにいら立った、動画撮影されていると勘違いした、などの理由から、Aに対する怒りの興奮状態の中で、Dに対する怒りを抱いた。このように、些細なきっかけから生じた怒りが持続し、自車を執ようにA車に衝突させたり、生身の人間に自車を衝突させるほどに行動がエスカレートしたことに関しては 興奮状態の中で、Dに対する怒りを抱いた。このように、些細なきっかけから生じた怒りが持続し、自車を執ようにA車に衝突させたり、生身の人間に自車を衝突させるほどに行動がエスカレートしたことに関しては、怒りなどのストレスを感じたときに衝動性を制御したり適切な行動を取ったりすることが難しいという各精神障害の影響を否定できない。また、被告人が供述するとおり、本件の約1週間前から処方された薬を飲むことができておらず、これにより睡眠不足になっており、その影響でいら立ちが増したことも考えられる。しかし、Aからクラクションを鳴らされ、心外に感じて立腹し、文句を言ったり報復をしたくなることは、健常人でも起こり得る自然な感情であり、精神障害の影響を考慮する必要はない。その後のAに対する暴行をエスカレートさせたことやDに対する衝突についても、被告人は、母親から運転態度を注意されて怒りが強まったと考えられること、怒りから興奮しているときに周囲でDが大声を出したことでますます興奮、立腹したと考えられることを踏まえると、各精神障害の影響は否定できないものの、健常人でも起こり得る感情として理解できる範囲内にある。 また、被告人は、怒りを募らせてA車に衝突する最中、交差点に差し掛かると赤信号で停車したり、横断歩道上に通行者がいるときにはAへの攻撃を停止したりしている上、コインランドリー駐車場での犯行中に眼鏡が外れた際には、冷静に眼鏡を探して見つけ出している。Dへの衝突後には、歩行者をよけて自車を進行させている。このように、被告人は、周囲の状況を認識し、その状況に応じて、AとDに 対する攻撃という目的に即した行動を取れている。 自己の行為の意味や違法性の認識についてみると、買ったばかりの自車が傷つくことや、助手席に座っている母親がけがをする可能性を考慮せずに犯 Dに 対する攻撃という目的に即した行動を取れている。 自己の行為の意味や違法性の認識についてみると、買ったばかりの自車が傷つくことや、助手席に座っている母親がけがをする可能性を考慮せずに犯行に及び、周りが見えなくなっていたことには、後先を考えづらいという精神遅滞の影響があると考えられなくもない。しかし、中島医師の証言で指摘された点に加え、被告人が自らの様子を撮影されることを嫌がっていたことからは、悪いことをしている場面を撮られたくないという思いがあったと考えることも可能であり、ひいては、自己の行為の違法性を認識していたと考えられる。 弁護人は、これまでに被告人が他人に攻撃的な態度を取ったり粗暴な行為に出たりしたことはなく、執ような攻撃性を示した本件が平素の人格と異質であると主張する。確かに、被告人は、大人しく、攻撃的な性格であるとは認められない。しかし、被告人は、これまで、母親から運転について注意されて言い返したり、他車の運転にいら立つ言動を示したことがあったこと、自動車学校でも運転の荒さを教官から注意されたことがあったこと、一般的にも、自動車を運転する際に、普段と異なる攻撃的な性格を示す人が珍しくないことなどを踏まえると、被告人のAやDに対する犯行が、被告人の平素の人格と比較して、全く異質であるとまではいい難い。 かえって、動機についての前記検討によれば、各精神障害の影響は否定できないものの、被告人の人格に基づく犯行として理解できる範囲内というべきである。 以上のとおり、被告人は、犯行当時、自己の行為の違法性を認識した上で、周囲の状況を把握し、その状況に即し、目的に沿った合理的な行動を取っている。精神障害の影響は否定できないものの、動機は健常人の感情として理解でき、被告人の人格に基づく犯行として理解できる範囲内にある。し の状況を把握し、その状況に即し、目的に沿った合理的な行動を取っている。精神障害の影響は否定できないものの、動機は健常人の感情として理解でき、被告人の人格に基づく犯行として理解できる範囲内にある。したがって、自己の行為の善悪を判断する能力及びその判断に従って行動を制御する能力のいずれも、著しい低下はなかったと認められる。 (量刑の理由)まず、犯行態様についてみると、殺人未遂では、生身のDに対して、急発進して 自車を衝突させ、Dが自車前方に落下しつつあるにもかかわらず加速したというもので、危険性が高く、犯行態様は悪質である。道路交通法違反、傷害では、A車に対して、激しい勢いで、繰り返し執ように自車を衝突させ、交差点においてA車を右折車線から前方に押し出そうとしており、交差点への進入車両と衝突して更なる被害を引き起こす危険性もあり、犯行態様は非常に悪質である。 これらの犯行によって被害者らが負った精神的苦痛を軽視することはできないが、その傷害結果は幸いにも比較的軽度にとどまった。 また、犯行に至る経緯・動機をみると、Aからクラクションを鳴らされて立腹したことは理解できないわけではないが、執ように自車をA車に衝突させたり、生身の人間に自車を衝突させることを正当化する余地はなく、動機は身勝手である。もっとも、本件犯行がエスカレートしたことには、怒りを感じた際に適切な行動を取ることや衝動性を制御することが困難であるという精神遅滞、広汎性発達障害が影響したことなどは否定できず、このことは、被告人の責任を考える上で考慮すべきである。 以上を踏まえ、自動車等を用いて行われた殺人未遂事案の量刑傾向の中で本件の位置づけを検討した上、被告人に前科がないこと、今後福祉的な支援が期待できること、被告人が反省の言葉を述べ、被害弁償をする意思を 上を踏まえ、自動車等を用いて行われた殺人未遂事案の量刑傾向の中で本件の位置づけを検討した上、被告人に前科がないこと、今後福祉的な支援が期待できること、被告人が反省の言葉を述べ、被害弁償をする意思を示していることなどを考慮したが、本件の犯情は悪質であって、執行猶予相当の事案ではなく、相応の期間の実刑を免れない。 よって、主文のとおり判決する。 (検察官の求刑懲役8年、弁護人の科刑意見執行猶予付き短期懲役刑)令和4年12月15日札幌地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官井下田英樹 裁判官加島一十 裁判官後藤紺

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