平成13(う)1492 殺人被告

裁判年月日・裁判所
平成14年2月27日 大阪高等裁判所
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判決文本文9,371 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役6年に処する。 原審における未決勾留日数中170日を上記刑に算入する。 原審における訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 本件控訴の趣意は弁護人井上計雄(主任)及び同富阪毅共同作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は検察官岡本誠二作成の答弁書に,それぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。 第1 控訴趣意中,事実誤認の主張について論旨は,要するに,殺人罪を認定した原判決の論理は,あくまでも推論に基づくものにすぎず,その認定には合理的な疑いを容れる余地があるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。 そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討する。 1 原判決の事実認定について原判決は,被告人の自白を除く関係証拠から認められる各事実によれば,被害者は,本件マンション非常階段の7階と8階との中間にある踊り場(以下「本件踊り場」という。)の防壁を乗り越えて落下し,貯水槽上部を経て1階通路に激突し死亡するに至ったものと認められるとしたうえで,まず,被害者の転落が被告人の行為によるものか否かについて検討し,①被害者の身長は約140センチメートルであるのに対し,本件踊り場の防壁(以下「本件防壁」という。)の高さは110センチメートルであり,さらに,同女はある程度酩酊状態であったことに照らすと,同女が自力で本件防壁を乗り越えることは相当困難であったとみられること,②被害者の着用していたトレーナー及びズボンの構成繊維と同じものが本件防壁の上面及び外面に付着しており,同女のトレーナー等は,その構成繊維が付着する程度の力で本件防壁 当困難であったとみられること,②被害者の着用していたトレーナー及びズボンの構成繊維と同じものが本件防壁の上面及び外面に付着しており,同女のトレーナー等は,その構成繊維が付着する程度の力で本件防壁の上面等に当てられたものと見られること,また,被害者の腹部には皮下出血が,左右下腿前面には表皮剥脱があり,これらは同女の腹部等が本件防壁に圧迫,擦過して生じる可能性があること,これらによれば,被害者は転落前に腹部等が本件防壁に圧迫等する形で上半身が非常階段外に出るような状況になっていたとみられるが,このような状況は同女の後方で何者かが同女の体を支え持っていなければ困難であるとみられること,③被告人と被害者は,本件直前に同女方居室において口論となっており,被害者は裸足で同女方居室を出たこと,同女方玄関には硬貨が散らばり,非常階段の5階と6階の中間踊り場から1段目の階段にも100円玉1枚が落ちていたところ,被告人はズボンのポケットに小銭を入れる癖があり,当日着用していたズボンはぴっちりしていたものではなく,人と揉み合いになれば容易にポケットの中の小銭がこぼれ落ちる可能性があったこと,被害者は非常階段の最上階の8階で髪留めを落としていることによれば,本件直前に被告人と被害者は,同女方玄関付近及び非常階段8階付近で揉み合いとなったことがあったとみられること,④本件転落後,1階ラーメン店の店長が倒れている被害者を発見し110番通報しているわずかのすきに,被告人は同女のもとに駆け付けており,同女が転落した際被告人はこれを認識しうる状況下にあったとみられること,⑤本件直後に被告人の両手背部には擦過傷が存在したが,被告人の両手背部が本件防壁に触れた場合,このような傷が形成される可能性があるとみられること,の諸事情を併せ考えると,被害者が自力で本件防壁を乗 ⑤本件直後に被告人の両手背部には擦過傷が存在したが,被告人の両手背部が本件防壁に触れた場合,このような傷が形成される可能性があるとみられること,の諸事情を併せ考えると,被害者が自力で本件防壁を乗り越えて転落したとは考えられず,被告人が同女を背後から支えて,同女の腹部及び左右下腿前面が本件防壁上面及び外面に圧迫する形で,上半身が非常階段外に出るように本件防壁を乗り越えさせ,その後同女が同所から転落し死亡するに至ったものと認められる旨判断している(8頁から9頁)。 確かに,公訴事実が認められるか否かの判断に当たっては,自白を除いた証拠によってどのような間接事実が認定でき,あるいはできないかを十分検討したうえで,最終的に自白の信用性を判断する手法が望ましいと考えられる。 しかしながら,①上記の被害者の身長と本件防壁の高さとの関係から推測すると,所論が指摘するとおり,その上面は同女の脇の下あたりに位置すると考えられるところ,同女が当時中等度の酩酊状態にあったことを考慮しても,本件マンション5階の自室を出て非常階段を8階まで上がり,さらに本件踊り場まで降りていること,当時非常に興奮した状態にあったとみられることなどに照らせば,同女が跳び上がるなどして自力で本件防壁によじ登った後これを乗り越えた可能性も,被告人の自白を除く関係証拠から直ちには否定できないこと,②被害者の腹部の皮下出血は,所論が指摘するとおり,同女が自力で本件防壁の上にその腹部を乗せた場合にも十分に生じ得ると考えられるうえ,その左右下腿前面の表皮剥脱についても,何者かが本件防壁から大きく身を乗り出した同女の体を支え持った後に同女が落下したという場合に生じやすいとは考えられるが,同女が単独で本件防壁から大きく身を乗り出した後に落下したという場合にそのような傷害が発生することが全 きく身を乗り出した同女の体を支え持った後に同女が落下したという場合に生じやすいとは考えられるが,同女が単独で本件防壁から大きく身を乗り出した後に落下したという場合にそのような傷害が発生することが全く考えられないではないこと,③上記の硬貨や髪留めの散乱状況からは,被害者方玄関付近で揉み合いがあったこと,非常階段の5階と6階の中間踊り場付近まで被告人が赴いたこと,8階付近まで被害者が上がったことが推認され得るとしても,同女と被告人とが8階付近で揉み合いになったことまで推認するのは困難というべきであること,④被告人は被害者の転落から約3分程の間に現場に駆け付けているところ,転落の際には本件マンション6階でテレビを見ていた住人でさえも気付くようなドスンという音がしたのであるから,被告人が5階の同女方付近などでこれを聞いてあわてて1階の通路まで駆け付けたという可能性も十分に考えられること,⑤所論指摘のとおり,被告人は本件の前日に2か所のマンションで,水銀灯のランプの球と安定器の取替え及び照明器具の調整の仕事に従事していたのであるから,その際に両手背部に擦過傷を負ったという可能性も考えられるし,被害者方玄関付近や非常階段などで同女と揉み合った際に,被告人の両手背部が周囲の壁に触れるなどして擦過傷が生じた可能性も否定できない。以上要するに,被告人の自白を除く関係証拠から,なるほど原判決が認定するような上記各事実は認められるが,これらの各事実のみに基づき,原判決が説示するような推論を重ね,被害者の転落が被告人の行為によるものであると直截に推認することには若干無理があるといわざるを得ず,原判決のこの点に関する認定説示は全面的には是認できない。 2 被告人が被害者を転落させたことについてそこで,上記の事実認定及びこれらの事実から推認される判断を踏 干無理があるといわざるを得ず,原判決のこの点に関する認定説示は全面的には是認できない。 2 被告人が被害者を転落させたことについてそこで,上記の事実認定及びこれらの事実から推認される判断を踏まえ,なおかつ被告人の供述をも総合して,被告人が被害者を転落させたか否かにつき検討すると,被告人は,本件当日の午後8時ころに通常逮捕されて以降捜査段階においては一貫して,故意に被害者を転落させた旨供述していたところ,原審の第1回公判期日における罪状認否においても,公訴事実のうち殺意の点と故意に両手を離した点とを否認する以外は,犯行に至る経緯を含め,被告人が本件踊り場で両手で被害者の下腹部付近,さらには腰部付近を抱いて持ち上げ,同女に本件防壁の外側から下方を見せた後,同女が本件マンション1階の通路まで転落した事実を認めていること,被告人の捜査段階における供述内容は,その犯行状況につき,被害者がその腹部及び左右下腿前面を本件防壁の上面ないしはこれに続く外面に接触させながら,これを乗り越えて地上に転落したと推認されることと符合していること,上記の被害者の身長と本件防壁の高さとの関係から,同女が自力で本件防壁を乗り越えたとは考えにくいと同時に,同女が単独で本件防壁から身を乗り出した後に転落した場合,その左右下腿前面に表皮剥脱が生ずる可能性は比較的低いと考えられること,被害者が身長約140センチメートル,体重43.8キログラムであったのに対し,被告人は身長約175センチメートル,体重約80キログラムであって,両者の間には相当な体格差があり,被告人は上記のような犯行を比較的容易に行い得たと考えられるうえ,上記のとおり両手背部に擦過傷を負っていたこと,何者かが被害者の転落に関与していたとした場合,それは被告人以外には考えられないこと,また,その犯行前の な犯行を比較的容易に行い得たと考えられるうえ,上記のとおり両手背部に擦過傷を負っていたこと,何者かが被害者の転落に関与していたとした場合,それは被告人以外には考えられないこと,また,その犯行前の状況においても,上記の硬貨や髪留めの散乱状況のほか,被害者方上階の6階の居住者が,本件が発生する20分くらい前にベランダに出た際,階下で男女が争っているような感じを受け,男の怒鳴り声も聞いていることなどとも整合していること,また,防壁から体を乗り出させるというような危険な行為がなされたとすれば,酒に酔っていたことでもあり,過って手を滑らせてしまったのではないかとの疑念が生じてもおかしくない事件といえるのに,検察官が取調べにおいてその点を一問一答式に念を押して被告人に聴取したところ,過って落としたのではなく故意に手を離した旨述べていたことなどに照らせば,被害者を故意に転落させたことを認めた捜査段階における被告人の供述の信用性は高いといえる。 これに対し,被告人の原審及び当審公判における各供述は,本件の前にスナックに行ったことまでは覚えているが,その後のことははっきり覚えておらず,気がつくと1階通路で転落した被害者を抱きかかえていたものであり,この間の経緯につき捜査段階で供述した事実は,取調官からこのままでは被害者が浮かばれないなどと言われ,その誘導に従って供述したもので自分では記憶していない事実であるというものであるところ,例えば,帰宅後被告人の方から被害者が上記スナックで言った「a区の家に帰ったら。」などという言葉について蒸し返したために口論となったこととか,同女の腹部付近を膝蹴りし手で同女の左肩あたりを小突いたこととか,同女が「死んだる。」などと言いながら自室を飛び出して行ったことなどは,被告人しか知り得ない具体的事実であって,取調官 ったこととか,同女の腹部付近を膝蹴りし手で同女の左肩あたりを小突いたこととか,同女が「死んだる。」などと言いながら自室を飛び出して行ったことなどは,被告人しか知り得ない具体的事実であって,取調官が推測して誘導し被告人に供述させることができるようなものとは考えにくいこと,被告人が上記スナックでの飲酒時から本件転落時までの言動に限って全般的にはっきり覚えていないというのはいかにも不自然であって,当時被告人がある程度酩酊していたとはいえ,スナック内での被告人の様子に格別異常な点はなかったこと,本件転落直後の被告人の言動も,取り乱してはいたものの,周囲に強く被害者の救命を求めるなど合理的なものであったうえ,警察官に対し「助けたってや。助けてくれたら話すけど,今は何もいわん。」などと述べ,被害者の転落の経緯につき知ってはいるが今は話さないとの口吻を漏らしていたこと,本件前日の飲酒により認識能力や記憶能力が低下し,後日酩酊時の断片的な事柄や日常的な出来事について思い出せないことはあり得るとしても,被害者が自室を裸足で飛び出して非常階段を上がり本件踊り場から転落するなどという,非日常的で極めて衝撃的な出来事について思い出せないというのは考えにくいことになどに照らして,被告人の各公判供述は捜査段階における供述と対比して信用性に欠けるといわざるを得ない。 以上を総合すれば,原判決が認定するとおりの状況で,被告人が故意に被害者を本件踊り場から地上まで転落させて死亡させたと認めるのが相当である。 所論は,原判決が,(罪となるべき事実)において,被告人が被害者の背後から両手でその下腹部付近を抱いて持ち上げ,同女に下方を見せた旨認定していること(2頁)につき,この認定によれば,被害者の下腹部付近は被告人の両腕によってカバーされる形となり,防壁と擦れた場合 背後から両手でその下腹部付近を抱いて持ち上げ,同女に下方を見せた旨認定していること(2頁)につき,この認定によれば,被害者の下腹部付近は被告人の両腕によってカバーされる形となり,防壁と擦れた場合,被告人の腕に擦過傷等ができることはあっても,被害者の下腹部には表皮剥脱は生じないはずであるのに,これが存在することと矛盾している旨主張する。しかし,関係証拠によれば,被告人は,被害者の左斜め後ろから両腕をその下腹部のあたりに回して抱きかかえて持ち上げ,その腹部を防壁の上部に乗せた後,さらにその身体をたくし上げて腰の下あたりを抱きかかえて,被害者の身体をより防壁の外に乗り出させたと認めるのが相当であるところ,被害者の左腹部に認められる上下方向に走る直線状の多数の表皮剥脱のほか,その下腹部付近に存する皮下出血等が,本件防壁と接触した際に生じたものであるとしても,上記認定の被告人と被害者の体の動きの中で被害者の下腹部付近にこのような損傷が発生することに格別不自然な点は認められない。したがって,原判決が(罪となるべき事実)において認定した被告人の行為は,その細部について若干舌足らずな点が認められるが,大筋においては相当であるから,所論は採用できない。 3 殺意について関係証拠を総合すれば,被告人は,本件マンション非常階段の7階と8階との中間にある本件踊り場から被害者を約20メートル下の地上に転落させたものであり,人がこのような高所から転落した場合死亡する可能性が高いことは当然認識していたと考えられること,本件の前にスナックで飲酒中に同女から「a区の家に帰ったら。」などと妻のことを持ち出され,お互いわだかまりと憤まんを抱いたまま帰宅したものの,帰宅後もそれが収まらず,被告人の方から話を蒸し返したことがきっかけで口論となり,立腹の余り初めて同女に 帰ったら。」などと妻のことを持ち出され,お互いわだかまりと憤まんを抱いたまま帰宅したものの,帰宅後もそれが収まらず,被告人の方から話を蒸し返したことがきっかけで口論となり,立腹の余り初めて同女に暴力をふるい,ショックを受けた同女が興奮して「死んだる。」などと口走りながら自室を飛び出して本件踊り場から飛び降りるかのような素振りを見せたことから,同女に階段の直下を見せて少し脅せば怖がっておとなしくなるだろうと思い,同女の体を抱え上げて本件防壁から体を乗り出させるという極めて危険な行為に及んだにもかかわらず,同女がなおも「死ねる。死んでやる。」などと言い張ったために憤激がその極に達して本件犯行に至ったことが認められ,このような状況下において,被告人がとっさに同女に対する殺意を抱き同女の体を支えていた両手を離したとしてもあながち不自然とはいえない。そして,被告人は捜査段階の後半には確定殺意を認める供述をしていたが,本件について原判決が認定する犯行に至る経緯及び被告人が同女に深い愛情を持っていたことによる限り,被告人が少なくとも確定殺意を抱くような動機は考え難いことなどに徴し,被告人が少なくとも未必の殺意を有していたと認めた原判決の認定はこれを是認することができる。 所論は,被告人は,本件直後に病院で警察官から被害者が死亡した事実を聞かされた際,取り乱した様子で「おれの責任や。おれが殺したんと同じや。」という発言をしており,「おれが殺した。」とは言っておらず,殺人を明確に否定している旨主張する。しかし,関係証拠によれば,その際,被告人は「おれが殺したんや。 おれが殺したんと同じや。」というようなニュアンスのことを言ったものであるところ,この言葉は,殺意を否定するかのような趣旨と解釈することができる一方で,被告人が積極的に被害者を殺害する気は たんや。 おれが殺したんと同じや。」というようなニュアンスのことを言ったものであるところ,この言葉は,殺意を否定するかのような趣旨と解釈することができる一方で,被告人が積極的に被害者を殺害する気はなかったという趣旨とも受け取れるものであって,死ぬかもしれないがそれでも構わないという気持ちで被害者を転落させたという心理状態と矛盾するものとはいえないから,被告人に未必の殺意を認めた原判決の認定の障害とはならず,所論は採用できない。 また,所論は,原判決が,「被告人の調書には,転落させる際に,「ほな,死ねや。」という言葉を言ったと記載されているが,人が憤激した際に発する言葉としては,不自然との感を否めない」と判断している点(14頁)を捉えて,このような不自然な調書が作られていることは,とりもなおさず調書全体が作り上げられたものであることを如実に物語るものである旨主張している。しかし,被告人は,本件踊り場で死ぬと言い募る被害者を抱きかかえ,本件防壁の外にその体を乗り出させて,約20メートル下の地上を見せて恐怖感を味わわせても,なお,被害者が「死ねる。死んでやる。」などと言い張ったことから,「死ねるんかい。ほんまに死ねるんかい。ほな死ねや。」と言って被害者を支えていた両手を離して転落させたという事実経過であるところ,同女に対する憤激がその極に達した被告人において,感情の赴くままとっさにそのような言葉を口走ったとしても不自然などと決め付けることはできず,この点に関する原判決の上記判断には賛同できない。したがって,被告人の捜査段階での供述調書に所論のような不自然さはないというべきであるから,所論はその前提を欠き採用できない。 そのほかに,所論がるる述べる点については,いずれもこれを採用することができず,原判決に事実誤認は認められない。論旨は理 うな不自然さはないというべきであるから,所論はその前提を欠き採用できない。 そのほかに,所論がるる述べる点については,いずれもこれを採用することができず,原判決に事実誤認は認められない。論旨は理由がない。 第2 控訴趣意中,量刑不当の主張について論旨は,原判決の量刑不当を主張するので,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討する。 本件は,被告人が,不倫関係にあった同棲中の被害者との間で喧嘩口論となった際暴力をふるい,興奮して「死んだる。」などと言いながらマンションの自室を飛び出して行った同女を追いかけて行き,非常階段の7階と8階の間の踊り場で飛び降りるかのような素振りを見せた同女に対し,恐怖感を味わわせてそのような行為をやめさせようと考え,背後から同女を抱きかかえ防壁の外にその体を大きく乗り出させて地上を見せたが,同女がなおも死ぬと言い張ったことから憤激の余り,つい抱きかかえていた両手を離して同女を約20メートル下の地上まで転落させて殺害したという,殺人の事案である。 被告人は,被害者の飛び降りて死のうとするかのような素振りをやめさせようとしたとはいえ,小柄な同女を抱きかかえて防壁の外にその体を大きく乗り出させるという極めて危険な行為に及んだうえ,手を離せば同女が転落して死亡する危険性は高かったのに,自らの憤激の情の赴くままに,手を離して同女を殺害したものであって,犯行に至る経緯や動機に酌量の余地は乏しいこと,犯行態様は衝撃的かつ残虐であって,被害者に重篤な傷害を与え,その1時間余り後に同女を死亡させていること,被害者は37歳の若さで生命を奪われたものであり,その驚きと無念さは察するに余りあること,被害者には養護施設に預けられて成長した2人の子供を始めとする遺族がおり,同女の弟は被告人に対し厳罰 いること,被害者は37歳の若さで生命を奪われたものであり,その驚きと無念さは察するに余りあること,被害者には養護施設に預けられて成長した2人の子供を始めとする遺族がおり,同女の弟は被告人に対し厳罰を求めていること,被告人が遺族に対し具体的な慰謝の措置を講じていなかったこと,公判において本件当時の記憶がないなどと主張して自らの刑事責任を争っており,本件犯行に対する十分な反省が見られないことなどを考慮すれば,被告人の刑事責任は重大であるといえる。 したがって,本件は被害者がマンションから飛び降りるかのような素振りを見せたことが発端となって発生したものであること,一時的な激情に流された衝動的な犯行であること,当時被告人がある程度酩酊していたこと,本件犯行の直前までは被告人なりに被害者を愛していたと考えられること,被告人には交通事犯による罰金前科以外に前科がなく,若いころから電気工事の仕事に従事して働き続けてきたことなど,所論指摘の諸事情を十分に考慮しても,原判決の時点においては,被告人を懲役7年(求刑懲役12年)に処した量刑が不当に重いとはいえない。 しかしながら,被告人は,原判決後において,自己の責任の重さに対する思いを深め,被害者の遺児の1人に対し400万円を支払ったことが認められ,これに上記の被告人のために酌むべき諸事情を併せ考慮すれば,現時点においては,原判決の量刑をそのまま維持することは被告人にとって重きに過ぎるといわざるを得ず,原判決を破棄してその刑を減軽するのが相当である。 よって,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,なお同法400条ただし書に従って更に判決することとし,原判決が認定した事実に原判決挙示の法令を適用して,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官河上元康裁判官細井正弘裁判官水野智幸) 00条ただし書に従って更に判決することとし,原判決が認定した事実に原判決挙示の法令を適用して,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官河上元康裁判官細井正弘裁判官水野智幸)

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