- 1 -平成29年(行コ)第102号更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件(原審大阪地方裁判所平成27年(行ウ)第461号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 処分行政庁が平成26年5月23日付け通知をもって控訴人に対してした,控訴人の平成23年分所得税の更正の請求について更正をすべき理由がないとした処分(以下「本件通知処分1」という。)を取り消す。 3 処分行政庁が同日付け通知をもって控訴人に対してした,控訴人の平成24年分所得税の更正の請求について更正をすべき理由がないとした処分(以下「本件通知処分2」という。また,本件通知処分1と2を併せて「本件各通知処分」という。)を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,原判決別紙1物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」といい,そのうち土地のみを「本件土地」,建物のみを「本件各建物」という。)の贈与を受け,本件各建物を賃貸していた控訴人の不動産所得の計算方法が争われた事案である。 控訴人は,上記贈与に伴って納付した贈与税が所得税法37条1項所定の必要経費に当たると主張し,平成23年分及び平成24年分の確定申告について更正の請求をしたが,処分行政庁は上記贈与税が同項所定の必要経費に当たらず,上記各確定申告に誤りはないと判断して本件各通知処分をしたので,控訴人がその取消しを求めて本件訴訟を提起した。 - 2 -原審は,ある費用が所得税法37条1項所定の必要経費「に該当するといえるためには,少なくとも,当該費用が不動産の賃貸業務と関連することを要するものと解される」との解釈を示し,「賃貸業 2 -原審は,ある費用が所得税法37条1項所定の必要経費「に該当するといえるためには,少なくとも,当該費用が不動産の賃貸業務と関連することを要するものと解される」との解釈を示し,「賃貸業務の用に供される不動産を贈与により取得した場合に納付する贈与税は,当該賃貸業務との関連性を欠くものというべきであ」ると判断し,本件各通知処分を適法とした。そこで,控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。 2 関係法令の定め原判決「事実及び理由」第2の2(3頁3行目から6頁13行目まで)のとおりであるから,これを引用する。 3 前提事実当事者間に争いがないか,証拠(原判決引用部分に掲記のもの)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は,原判決「事実及び理由」第2の3(6頁17行目から9頁16行目まで)のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決6頁22行目の「上記(1)のとおり」から24行目の「納付した。」までを,「価額が5520万2495円の本件土地と価額が128万9000円の本件各建物の贈与を受けたから,平成22年中の受贈財産の価額の合計が5649万1495円であり,納付すべき税額が2544万5500円(以下「本件贈与税」という。)であるとする平成22年分贈与税の確定申告をし,本件贈与税を納付した。」に改める。 4 争点の摘示控訴人の平成23年分及び平成24年分の所得金額及び納付すべき所得税額について,被控訴人は,処分行政庁の判断と同様,原判決別紙3のとおりである(すなわち,本件確定申告書1及び2のとおりである。)と主張するのに対し,控訴人は,本件贈与税が平成23年分不動産所得の計算において必要経費となるので,本件更正請求1及び2のとおりであると主張する。本件の主要な争点は,本件贈与税 2のとおりである。)と主張するのに対し,控訴人は,本件贈与税が平成23年分不動産所得の計算において必要経費となるので,本件更正請求1及び2のとおりであると主張する。本件の主要な争点は,本件贈与税が平成23年分不動産所得の計算において必要経費に算入 - 3 -することができるかどうかである(争点1)。また,本件各通知処分が行政手続法8条1項に定める理由を示してされたかどうかも争点となる(争点2)。 5 争点に関する当事者の主張後記6を加えるほか,原判決「事実及び理由」第2の5(原判決9頁26行目から17頁23行目まで)のとおりであるから,これを引用する。 6 控訴人の当審における補充主張(争点1について)(1) 所得税法第37条1項は,不動産所得の金額を計算する際に控除すべき必要経費を,①当該年分の賃料収入を得るため「直接に要した費用」(いわゆる「個別対応の費用」)と,②当該年分の不動産賃貸「業務について生じた費用」(いわゆる「一般対応の費用」)と定めている。本件贈与税は,本件土地建物の賃貸権原を取得するため平成23年3月に支出を要した費用であるから,平成23年分の本件土地建物に係る不動産所得との関係で,個別対応の費用に該当するというべきである。 そうでないとしても,同項は,一般対応の費用については,個別対応の費用に関する「直接に要した」という限定を付しておらず,「業務について生じた費用」であれば全てが必要経費となると定めているのであって,本件土地建物の取得のため平成23年3月に支出した本件贈与税は,平成23年分の本件土地建物に係る不動産所得との関係で,少なくとも一般対応の費用には該当する。 (2) ところが,原判決は,個別対応の費用であるある費用が所得税法37条1項所定の必要経費に ,平成23年分の本件土地建物に係る不動産所得との関係で,少なくとも一般対応の費用には該当する。 (2) ところが,原判決は,個別対応の費用であるある費用が所得税法37条1項所定の必要経費に該当するためには,少なくとも,当該費用が不動産賃貸業務と関連することを要するとの解釈を示し,「業務との関連性」という法文に記載されていない要件を加えることにより,不動産所得の必要経費となる費用の範囲を限定し,本件贈与税が必要経費となることを否定した。このような税法の解釈適用は,租税法律主義に違反している。 - 4 -(3) 仮に,一般対応の費用に該当するためには「業務との関連性」が必要であるとの解釈を採用するとしても,控訴人が本件土地建物の賃貸業務を行うためには父親(A)からその贈与を受けるしかなかったから,その贈与に伴う本件贈与税の負担が本件土地建物の賃貸業務と関連性を有することが明らかである。むしろ,関連性を否定する根拠を見付けることの方が不可能である。 原判決は,贈与税は受贈者に無償移転した経済的価値を課税対象とするものであって個々の贈与財産を課税対象とするのでないから(物税ではないから),本件贈与税は,本件土地建物の賃貸業務との具体的な関連性があるとはいえないと判断している。原判決は,要するに,贈与税が暦年課税であること,暦年で通算して課税標準(課税価格)を計算するとされていることを理由に,本件贈与税と本件土地建物の賃貸業務の関連性を否定するのである。 しかし,贈与税の納税義務は,個々の財産が贈与される都度,当該財産に関する納税義務として発生するのであって(国税通則法15条2項5号),個々の財産との関連性は明白であり,ある年分の贈与税のうちある不動産に賦課される贈与税の額を計算することは容易である。暦年課税 に関する納税義務として発生するのであって(国税通則法15条2項5号),個々の財産との関連性は明白であり,ある年分の贈与税のうちある不動産に賦課される贈与税の額を計算することは容易である。暦年課税という課税技術上の問題を根拠に,不動産賃貸業務と当該不動産取得の際の贈与税との関連性を否定することは誤りである。所得税法45条1項2号ないし5号が,贈与税につき,不動産所得の金額を計算する際に控除できない租税として列挙していないことからも,本件贈与税が所得税法37条1項所定の必要経費に該当することを否定することはできないところである。 (争点2について)(1) 控訴人は,本件贈与税が所得税法37条1項所定の必要経費に該当するとして更正の請求をしたのであるから,本件通知処分1及び2に際しては,本件贈与税が必要経費に該当しないという結論に到達する論理過程が明らかにされていなければならない。 - 5 -(2) 本件通知書1及び2の記載に照らせば,処分行政庁は,必要経費というためには,「客観的にみて」不動産収入を得るため「直接」かつ「通常」必要となる費用だけが必要経費に該当するという解釈を採用しているものと思われるが,そのような解釈を採用する根拠が何も示されていないから,結局のところ,本件通知書1及び2は,本件贈与税が必要経費に該当しないという結論を述べるだけに等しいものでしかない。 (3) したがって,本件各通知処分は,行政手続法8条1項に違法するものである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1について(1) 所得税法は,所得概念の定義規定を置いていないが,同法の規定を通覧すれば,一定期間内に自然人について生じた純資産の増加を所得とするものと解される(一般財団法人大蔵財務協会「五訂版注解所得税法」211頁 得税法は,所得概念の定義規定を置いていないが,同法の規定を通覧すれば,一定期間内に自然人について生じた純資産の増加を所得とするものと解される(一般財団法人大蔵財務協会「五訂版注解所得税法」211頁参照)。 控訴人は,平成22年4月1日,父親から5649万1495円と評価される本件土地建物の贈与(以下「本件贈与」という。)を受け,かつ,同日以降,本件各建物の賃貸業務を行って賃料を収受したから,平成22年中において,控訴人には,贈与による純資産の増加と賃貸業務による純資産の増加という二つの所得が生じる状況があったということができる。 ところが,所得税法9条1項16号は,贈与による純資産の増加も所得であるとしながら,贈与により生じた所得(以下「贈与所得」という。)に対しては所得税を課さないものとしている。これは,贈与が相続税回避の手段として濫用されることを防止するため,贈与所得に対しては,所得税法所定の計算方法や税率によって課税するよりも,相続税と同様の計算方法や税率によって課税する必要がある(贈与税を相続税を補完する租税と位置付ける必要がある。)と考え,そのような租税政策が採用されたためである。その結 - 6 -果,贈与所得とそれ以外の所得とでは,法律上当然に分離され,それぞれ,異なる手法で計算された課税標準に,異なる税率を乗じて得られる額の租税が賦課されることになる。控訴人の平成22年分の贈与所得と不動産所得についてみると,贈与所得に係る課税標準は相続税法により,不動産所得に係る課税標準は所得税法により計算されるのである。 (2) 不動産取得税と登録免許税は,所有権が移転した事実又はその旨の登記がされた事実それ自体を課税原因とするのであって,所有権移転に伴って純資産が増加したかどうかを問わないで課税さ である。 (2) 不動産取得税と登録免許税は,所有権が移転した事実又はその旨の登記がされた事実それ自体を課税原因とするのであって,所有権移転に伴って純資産が増加したかどうかを問わないで課税される租税である。つまり,それら租税は,純資産増加に担税力を認めて課税されるのではない。したがって,他人の不動産の譲渡を受けて賃貸人たる地位を取得しようとする場合,どのような方法で当該不動産を取得しても(適正な対価を支払って不動産を取得しても,全額借入金で取得費用を賄ったとしても)支出を避けることができない費用となる。したがって,それら租税は,所得税法37条1項所定の「不動産所得の…総収入金額を得るため直接に要した費用」であり,かつ,同法45条1項で必要経費に算入することが禁止されていないから,控訴人の不動産所得の計算において必要経費として控除される。 (3) これに対し,贈与税は,贈与に伴う所有権移転を課税原因とするのではなく,贈与に伴う純資産の増加を課税原因とするのであって,社会経済的な観点からみれば,他人の不動産の譲渡を受けて賃貸人たる地位を取得しようとする場合に避けられない費用ではない。贈与以外の手段で当該不動産を取得すれば支払う必要がないからである。 また,本件贈与に伴う純資産の増加(贈与所得)と,不動産賃貸収入を得ることによる純資産の増加(不動産所得)とは,別個の税目の租税が賦課される所得であるから,法的な観点からみても,それぞれ別個独立に所得金額を計算する必要があり,前者に関する支出が後者の必要経費となると解することは困難である。 - 7 -さらに言えば,仮に相続税法に基づき賦課される租税が所得税法37条1項所定の必要経費に当たるとの解釈を採用した場合,所得税の減少という形で贈与税又は相続税の である。 - 7 -さらに言えば,仮に相続税法に基づき賦課される租税が所得税法37条1項所定の必要経費に当たるとの解釈を採用した場合,所得税の減少という形で贈与税又は相続税の負担を一部免れることを是認する結果となるが,そのような結果は,贈与税及び相続税の納税者間に著しい不公平をもたらすのみならず,贈与や相続による純資産の増加に対しては相続税を,それ以外の純資産の増加に対しては所得税を,それぞれ別々に計算される課税標準と税率をもって賦課しようとする我が国の租税法体系に混乱をもたらすものである。 したがって,本件贈与税は,所得税法37条1項所定の必要経費(「不動産所得の…総収入金額を得るため直接に要した費用」又は「不動産所得…を生ずべき業務について生じた費用」)に該当しないから,同法45条1項の算入禁止費用に当たるどうかを詮索するまでもなく,控訴人の平成23年分不動産所得の計算において必要経費となる余地がないというべきである。 (4) 原判決は,ある費用が,不動産所得との関係で,所得税法37条1項所定の必要経費「に該当するといえるためには,少なくとも,当該費用が不動産の賃貸業務と関連することを要するものと解される」との解釈を示しているが,これは「直接要した費用」「業務について生じた費用」を必要経費とする同項の解釈として当然の事理を述べたものであり,それ自体は何ら誤りではない。不動産所得,事業所得及び雑所得の金額の計算において,当該所得を生む業務と関連性のない費用まで必要経費として控除することを許すことは,必然的に,恣意的な所得金額の計算を容認することになって租税公平主義に反する結果を招来することが明らかである。業務との関連性を有する費用のみが同項の必要経費に該当すると解すべきは当然のことであり,我が国 に,恣意的な所得金額の計算を容認することになって租税公平主義に反する結果を招来することが明らかである。業務との関連性を有する費用のみが同項の必要経費に該当すると解すべきは当然のことであり,我が国の税法に関する通説判例が,必要経費該当性やその計上時期に関し,古くから「費用収益対応の原則」の考え方を採用しているのも,恣意的な所得金額の計算を抑制するためである。 したがって,租税法律主義に反するとして原判決の上記解釈を非難する控 - 8 -訴人の主張は採用できない。 (5) 控訴人は,所得税法45条1項2号ないし5号が,贈与税につき,不動産所得の金額を計算する際に控除できない租税として列挙していないことからも,本件贈与税が同法37条1項所定の必要経費に該当することを否定することはできない旨主張する。 しかし,所得税法37条1項が,所得税法第2編第2章第2節第2款「所得金額の計算の通則」中に置かれた通則的規定であり,同法45条1項が,同第4款「必要経費等の計算」第1目中に置かれた各則的規定であることに照らせば,同法45条1項の規定は,同法37条1項所定の必要経費に関する解釈指針として置かれた規定ではなく,同項の「別段の定め」として置かれた規定であると理解するのが,所得税法の素直な解釈といわなければならない。すなわち,同法45条1項は,同法37条1項所定の必要経費に該当する費用であっても,そのうち一定のものを,一定の政策的考慮から必要経費に算入するのを禁止するために置かれた規定と解されるのである。したがって,同法45条1項に列挙されているから同法37条1項の費用に当たらないとか,同法45条1項に列挙されていないから同法37条1項の費用に当たると解釈することは本末転倒となる。所得税を例にとってみると,例えば, 条1項に列挙されているから同法37条1項の費用に当たらないとか,同法45条1項に列挙されていないから同法37条1項の費用に当たると解釈することは本末転倒となる。所得税を例にとってみると,例えば,不動産所得を課税原因とする平成22年分所得税は,不動産賃貸「業務について生じた費用」であり,平成23年3月の確定申告によって金額が確定した費用であって,同法37条1項所定の必要経費に該当するが,同法45条1項2号により必要経費への算入が禁止されるという論理操作を経て必要経費への算入が禁止されるのである。 以上を要するに,本件贈与税が控訴人の平成23年分不動産所得の計算において必要経費として控除が可能かどうかは,所得税法37条1項所定の費用に該当するかどうかで決まるのであり,贈与税が同法45条1項に列挙されていないことを根拠に,本件贈与税が同法37条1項所定の必要経費に当 - 9 -たると論ずる控訴人の上記主張は採用することができない。 (6) 以上のとおりであって,本件贈与税は,平成23年分の不動産所得の計算において必要経費に算入することができないから,これと同旨の考えに基づいてされた本件各通知処分は,何ら違法ではない。 2 争点2について当裁判所も,本件各通知処分は,いずれも控訴人に対し行政手続法8条1項に定める理由を示してされたものであったということができ,本件各通知処分に手続的な瑕疵は認められないと判断するが,その理由は,原判決「事実及び理由」第3の2(25頁8行目から27頁10行目まで)のとおりであるから,これを引用する。 控訴人は,本件贈与税が所得税法37条1項の必要経費に該当しないと説明するだけでは理由を示したことにならない旨主張するが,本件通知書1及び2の理由の記載(引用に係る前提事実(6)) 用する。 控訴人は,本件贈与税が所得税法37条1項の必要経費に該当しないと説明するだけでは理由を示したことにならない旨主張するが,本件通知書1及び2の理由の記載(引用に係る前提事実(6))を読めば,処分行政庁は,不動産所得,事業所得又は雑所得の金額の計算において必要経費として控除が許されるものは,「客観的」にみて,当該所得を生む業務との間で「直接」的に関連し,かつ,「通常」必要となる費用に限られるとの同項の法解釈を採用しており,その法解釈を前提とすれば本件贈与税を同項所定の必要経費と認めることができない旨を説明していることが容易に読み取れる。本件は,課税の基礎となる事実関係に争いがなく,同項の解釈が争いとなった事案であるから,処分行政庁の依って立つ法解釈が上記の程度に明らかにされれば,行政手続法8条1項に定める理由の提示がされたものと認められる。本件通知処分に手続的な瑕疵があるとは認められない。 3 結論以上の次第で,控訴人の本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。よって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 - 10 -大阪高等裁判所第6民事部 裁判長裁判官中本敏嗣 裁判官橋詰均 裁判官細川二朗
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